霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第四章 乞食劇(こじきげき)〔一三一九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻 篇:第1篇 霊光照魔 よみ(新仮名遣い):れいこうしょうま
章:第4章 乞食劇 よみ(新仮名遣い):こじきげき 通し章番号:1319
口述日:1923(大正12)年01月25日(旧12月9日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月29日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
松姫は封を切って手紙を読み始めた。おいおい顔色が変わり両手はふるえだし、容易ならない内容のように見えたが、読み終わるとほっと溜息をついた。
お千代は、悪魔が上のお宮の扉を開いたらきっとびっくりして逃げるだろうとエンゼルが仰ったので心配はいらないと松姫を励ました。松姫は、二人に会って高姫を説得するのにお千代がいては都合が悪いと、しばらくスマートと一緒に遊んでくるようにいいつけた。
お千代がスマートと外に出かけた後、松姫は高姫が曲津の入れ物になり、妖幻坊にたぶらかされているという事態を憂いながらも、今は自分がしっかり小北山を守らなければならないと思い直し、神に祈りを捧げていた。
そこへ酔った初と徳がやってきて、松姫がなかなかやってこないので高姫が立腹していると伝えた。そして、今日から高姫が小北山の教主で杢助が監督するのだ、と松姫に伝えた。
松姫は、たとえ高姫が教主だろうと、事務を引き継がないうちはまだ自分がここの教主であり、その間は自分の裁量で事を進めると言い返し、こちらから会うと言ったがそれはできなくなったので、向こうから挨拶に来るように、と申し渡した。
初と徳は、自分たちは斎苑の館の総務・杢助の家来になったのだ、と権威をかさに着て松姫を脅しにかかった。しかし松姫はここの教主は自分だと言ってきかず、初と徳が威張り散らす姿をからかった。
初と徳は怒り、杢助の命令だと松姫に打ってかかろうとした。初と徳は、松姫の体から光が出ているような気がして、その場に霊縛されてしまった。
松姫は泰然自若として心静かに歌を歌い、杢助の正体を暴き二人に改心を促す歌を歌っている。松姫が歌い終わると、初と徳は涙を流して改心の意を表した。松姫が霊縛を解くと、二人はぱたぱたと表へ駆け出して行ってしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-08-04 09:39:17 文字数:5115 OBC :rm5104
愛善世界社版:57頁 八幡書店版:第9輯 286頁 修補版: 校定版:59頁 普及版:27頁 初版: ページ備考:
001 松姫(まつひめ)は静(しづか)に封(ふう)を押切(おしき)り押戴(おしいただ)いて読(よ)み行(ゆ)く。002おひおひと顔色(かほいろ)変(かは)り両手(りやうて)は慄(ふる)ひ、003容易(ようい)ならざる文面(ぶんめん)の如(ごと)く思(おも)はれた。004そして松姫(まつひめ)は手紙(てがみ)を読(よ)み了(をは)りホツと溜息(ためいき)をついた。
005千代(ちよ)『お母(かあ)さま、006私(わたし)の云(い)つた事(こと)違(ちが)やしますまいがな。007高姫(たかひめ)は斎苑(いそ)の館(やかた)からの命令(めいれい)ぢやありますまい。008そしてあの杢助(もくすけ)と云(い)つてるのは化物(ばけもの)でせうがな。009此(この)犬(いぬ)は初稚姫(はつわかひめ)様(さま)の愛犬(あいけん)でスマートと書(か)いてありませう』
010松姫『あああ、011油断(ゆだん)のならぬ魔(ま)の世界(せかい)だな。012こりや斯(か)うしては居(を)られますまい。013併(しか)しながら初稚姫(はつわかひめ)様(さま)の仰(おほ)せ、014何処(どこ)までも善(ぜん)一(ひと)つで高姫(たかひめ)様(さま)を改心(かいしん)させにやならぬ。015然(しか)し初稚姫(はつわかひめ)様(さま)のお言葉(ことば)に……お前(まへ)は小北山(こぎたやま)の神司(かむつかさ)だから、016何処(どこ)までも此処(ここ)を動(うご)いてはいかぬ……と書(か)いてある。017もしも高姫(たかひめ)さまが何処(どこ)までも此処(ここ)の教主(けうしゆ)と頑張(ぐわんば)つたら、018何(ど)うしようかな。019せめて魔我彦(まがひこ)さまでも居(を)つてくれたら、020何(なん)とかいい相談(さうだん)が出来(でき)るだらうに、021困(こま)つた事(こと)だ』
022お千代『お母(かあ)さま、023決(けつ)して心配(しんぱい)要(い)りませぬ。024どうせ一度(いちど)はお宮(みや)さまを巡拝(じゆんぱい)するでせうから、025上(うへ)のお宮(みや)のお扉(とびら)を開(ひら)いたら、026屹度(きつと)ビツクリして逃(に)げるでせうよ。027エンゼルさまが私(わたし)にさう仰有(おつしや)いました』
028松姫『ああさうかな。029何卒(どうぞ)まア都合(つがふ)よくやりたいものだ。030然(しか)しお前(まへ)も此(この)スマートさまを連(つ)れて高姫(たかひめ)さまの目(め)にかからぬ処(ところ)へ暫(しばら)く遊(あそ)びに行(い)つて来(き)て下(くだ)さい。031お前(まへ)が居(を)ると都合(つがふ)が悪(わる)いからな』
032お千代『それならお母(かあ)さま、033確(しつか)りなさいませや。034何卒(どうぞ)巻(ま)き込(こ)まれぬ様(やう)になさいませ。035これ、036スマートさま、037お前(まへ)は可愛(かあい)い犬(いぬ)ね』
038と云(い)ひながら首(くび)たまに抱付(だきつ)いた。039スマートは薄(うす)い平(ひら)たい舌(した)でお千代(ちよ)の頬(ほほ)をペラツと舐(な)めた。040お千代(ちよ)はビツクリしてスマートを庭(には)に押(お)し倒(こか)した。041スマートは仰向(あふむけ)に転(こ)けたまま呑気(のんき)な風(ふう)で足(あし)で空(くう)をかいて居(ゐ)る。
042お千代『ア、043此(この)犬(いぬ)は牝(めす)だわ。044さアおスマちやま、045お千代(ちよ)と春先(はるさき)でもあり、046陽気(やうき)がいいから、047林(はやし)の中(なか)へ行(い)つて遊(あそ)んで来(き)ませう。048兎(うさぎ)でも居(を)つたら脅(おど)してやりませうね』
049と云(い)ひながら頭(あたま)を撫(な)でる。050スマートはムツクと起(お)き上(あが)り、051お千代(ちよ)の後(あと)について山林(さんりん)の中(なか)へ遊(あそ)びに行(ゆ)く。052後(あと)に松姫(まつひめ)は只(ただ)一人(ひとり)手(て)を組(く)んで思案(しあん)にくれてゐた。
053松姫『あああ、054高姫(たかひめ)さまは困(こま)つた方(かた)だな。055どうしたら本当(ほんたう)の御(ご)改心(かいしん)が出来(でき)るのだらう。056初稚姫(はつわかひめ)様(さま)の御(お)手紙(てがみ)によれば、057此(この)頃(ごろ)はスツカリ精神(せいしん)乱(みだ)れ、058金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)や蟇(がま)や蛇(へび)や狸(たぬき)、059鼬(いたち)などの無料(むれう)合宿所(がつしゆくしよ)になつてゐられるとの事(こと)、060それに又(また)杢助(もくすけ)と名告(なの)つてるのは、061初稚姫(はつわかひめ)様(さま)のお父(とう)さまでなくて大雲山(たいうんざん)の妖幻坊(えうげんばう)だとか、062ほんとにいやらしい化物(ばけもの)をつれて、063夫婦(ふうふ)気取(きど)りで、064こんな処(ところ)に出(で)て来(き)て松姫(まつひめ)を追(お)ひ出(だ)し、065自分(じぶん)が教主(けうしゆ)にならうとは、066どうした事(こと)だらう。067私(わたし)は別(べつ)に此処(ここ)の神司(かむつかさ)に執着心(しふちやくしん)はないのだけれど、068悪神(あくがみ)にみすみす此処(ここ)を開(あ)け渡(わた)して出(で)る訳(わけ)にも行(ゆ)かない。069そんな事(こと)しては神(かみ)様(さま)にも済(す)まない。070ここは何処(どこ)までも孤軍(こぐん)奮闘(ふんとう)の覚悟(かくご)でなければならない。071ああ国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)様(さま)、072豊国姫(とよくにひめの)大神(おほかみ)様(さま)、073木花姫(このはなひめの)大神(おほかみ)様(さま)、074金勝要(きんかつかねの)大神(おほかみ)様(さま)、075守(まも)り給(たま)へ幸(さきは)へ給(たま)へ、076惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
077と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に祈(いの)つてゐる。
078 そこへバラバラとやつて来(き)たのは初(はつ)、079徳(とく)の両人(りやうにん)であつた。080足許(あしもと)もヨロヨロしながら両人(りやうにん)は、
081初、徳『松姫(まつひめ)さま、082エー、083一寸(ちよつと)御(ご)報告(ほうこく)に来(き)ましたが、084三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、085ウラナイ教(けう)の元(もと)の教祖(けうそ)高姫(たかひめ)さまがお越(こ)しになつて居(を)ります。086そして松姫(まつひめ)は何故(なぜ)私(わたし)が来(き)てゐるのが分(わか)つてゐるのに挨拶(あいさつ)に来(こ)ないのか。087御用(ごよう)が済(す)んだら出(で)て来(く)ると云(い)つておきながら、088まだ出(で)て来(こ)ないと云(い)つて、089大変(たいへん)な立腹(りつぷく)で厶(ござ)ります。090そして此(この)館(やかた)は今日(けふ)から高姫(たかひめ)が教主(けうしゆ)だ。091杢助(もくすけ)様(さま)が監督(かんとく)に来(き)たのだと、092それはそれはえらい御(ご)権幕(けんまく)で厶(ござ)りますよ。093早(はや)く御(ご)挨拶(あいさつ)においで下(くだ)さいませぬと、094貴女(あなた)のお身(み)の上(うへ)に関(くわん)した一大事(いちだいじ)が出来(しゆつたい)致(いた)しますから、095ソツと御(ご)注意(ちゆうい)に参(まゐ)りました』
096松姫『仮令(たとへ)高姫(たかひめ)さまが此処(ここ)の教主(けうしゆ)になられようが、097事務(じむ)を引継(ひきつ)がぬ間(うち)は此処(ここ)は松姫(まつひめ)の管轄権(くわんかつけん)内(ない)にあるのだから、098折角(せつかく)伺(うかが)ふと云(い)つたけど、099私(わたし)の方(はう)からよう伺(うかが)はないから、100高姫(たかひめ)さまと杢助(もくすけ)さまに、101此方(こちら)へ出(で)て来(き)て貰(もら)つて下(くだ)さい。102それが至当(したう)だからな』
103初(はつ)『松姫(まつひめ)さま、104何(なん)とえらい勢(いきほひ)ですな。105泣(な)く子(こ)と地頭(ぢとう)とには勝(か)たれないと云(い)つて、106そこは貴女(あなた)の方(はう)から折(を)れてかかりなさるがお得(とく)かも知(し)れませぬよ。107きつと悪(わる)い事(こと)は申(まを)しませぬ。108貴女(あなた)も足掛(あしか)け首掛(くびか)け四年振(よねんぶり)此処(ここ)に厶(ござ)つたのだから、109今日(けふ)俄(にはか)に立退(たちの)き命令(めいれい)を下(くだ)されては面白(おもしろ)う厶(ござ)りますまい。110それは私(わたし)もお察(さつ)し申(まを)して居(を)ります。111併(しか)しながら、112これも因縁(いんねん)だと諦(あきら)めて、113素直(すなほ)に高姫(たかひめ)さまや杢助(もくすけ)さまに御(ご)面会(めんくわい)をなさるが宜(よろ)しい。114そしたら又(また)何(なん)とか貴女(あなた)の都合(つがふ)のいいやう取計(とりはか)らつて下(くだ)さるでせうからな』
115松姫『何(なん)と云(い)つても、116そんな理由(りいう)はありませぬから、117高姫(たかひめ)さまに私交(しかう)上(じやう)としては私(わたし)の師匠(ししやう)だから済(す)まないが、118公(おほやけ)の道(みち)から行(い)けば私(わたし)は此処(ここ)の神司(かむつかさ)、119何(なん)の遠慮(ゑんりよ)もありませぬから、120何卒(どうぞ)私(わたし)の職務(しよくむ)として調(しら)べたい事(こと)がある、121よつて直様(すぐさま)御(ご)両人(りやうにん)に此方(こちら)へ来(き)て下(くだ)さる様(やう)に伝達(でんたつ)して下(くだ)さい』
122初『それでも大変(たいへん)な権幕(けんまく)で、123動(うご)きさうにや厶(ござ)りませぬ。124そんな事(こと)をお伝(つた)へしようものなら、125私(わたし)は折角(せつかく)杢助(もくすけ)さまの片腕(かたうで)になつた職務(しよくむ)まで剥奪(はくだつ)されて了(しま)ひます。126のう徳(とく)よ、127さうぢやないか』
128徳(とく)『ウン』
129松姫(まつひめ)『これ、130初(はつ)さま、131お前(まへ)さまは杢助(もくすけ)さまの片腕(かたうで)になつたと今(いま)云(い)ひましたね』
132初(はつ)『ハイ、133確(たしか)に申(まを)しました。134新教主(しんけうしゆ)高姫(たかひめ)殿(どの)の夫(をつと)杢助(もくすけ)、135又(また)の御名(みな)は時置師(ときおかし)の神(かみ)、136斎苑(いそ)の館(やかた)の総務(そうむ)を遊(あそ)ばす杢助(もくすけ)様(さま)の両腕(りやううで)と両人(りやうにん)がなつたのだから、137凡(すべ)ての宣伝使(せんでんし)を頤(あご)で使(つか)ふ初(はつ)さま、138徳(とく)さまですよ。139如何(いか)に松姫(まつひめ)さまだつて、140もう斯(か)うなつた上(うへ)は此(この)初(はつ)さま、141徳(とく)さまの命令(めいれい)を聞(き)かずには居(を)られますまい。142如何(いかが)で厶(ござ)る。143返答(へんたふ)承(うけたま)はりませう』
144松姫『ホホホホホ愈(いよいよ)三助(さんすけ)人形(にんぎやう)か痩(やせ)バツタの様(やう)なスタイルをして、145よくも威張(ゐば)つたものだね。146お前(まへ)さまは杢助(もくすけ)さまの両腕(りやううで)になつたか知(し)らないが、147此処(ここ)に居(を)る間(あひだ)は此(この)松姫(まつひめ)の命令(めいれい)を聞(き)かなくちやなりますまい。148魔我彦(まがひこ)からお役目(やくめ)解除(かいぢよ)の辞令(じれい)でも受(う)けた上(うへ)、149杢助(もくすけ)さまの推薦(すいせん)によつて、150八島主(やしまぬし)さまから立派(りつぱ)な辞令(じれい)を頂(いただ)いて来(こ)なくちや駄目(だめ)ですよ。151そんな夢(ゆめ)なんか、152いい加減(かげん)にお覚(さ)ましなさるが宜(よ)からうぞや』
153初『何(なん)と云(い)つても駄目(だめ)ですよ。154現(げん)に杢助(もくすけ)様(さま)の口(くち)から仰有(おつしや)つたのですもの。155そして高姫(たかひめ)さまが証拠人(しようこにん)ですもの。156ヘン、157之(これ)が違(ちが)ひつこはありませぬわい、158のう徳公(とくこう)』
159と初公(はつこう)は、
160初『ウン ウン ウン』
161と拳(こぶし)を握(にぎ)り反身(そりみ)となり、162稍(やや)酒気(しゆき)を帯(お)びし事(こと)とて、163高慢面(かうまんづら)をして得意気(とくいげ)に雄猛(をたけ)びして見(み)せた。164松姫(まつひめ)はあまりの可笑(をか)しさに吹(ふ)き出(だ)し、
165松姫『ホホホホホ』
166と笑(わら)ひ転(こ)けた。167初公(はつこう)は大(おほ)いに怒(いか)り、
168初『こりや、169松姫(まつひめ)、170無礼(ぶれい)千万(せんばん)な、171勿体(もつたい)なくも総務(そうむ)の片腕(かたうで)と聞(きこ)えたる、172斎苑(いそ)の館(やかた)の二(に)の番頭(ばんとう)さまだ。173某(それがし)の面体(めんてい)を見(み)て笑(わら)ふと云(い)ふ事(こと)があるものか、174いや軽蔑(けいべつ)致(いた)すと云(い)ふ事(こと)があるか。175公私(こうし)本末(ほんまつ)、176自他(じた)の区別(くべつ)を知(し)らねば決(けつ)して神司(かむつかさ)たる事(こと)は出来(でき)ませぬぞ。177実(じつ)の所(ところ)は杢助(もくすけ)さまが、178お酒(さけ)の上(うへ)ではあるが、179私(わし)等(ら)に全権(ぜんけん)を任(まか)すから松姫(まつひめ)をボツ払(ぱら)へとの仰(おほ)せ、180さア初公(はつこう)の言葉(ことば)は杢助(もくすけ)の言葉(ことば)だ。181さア尻(しり)を紮(から)げてトツトと出(で)て行(ゆ)け。182猶予(いうよ)に及(およ)ばば了簡(れうけん)致(いた)さぬぞや』
183松姫『ウツフフフフあのまア、184乞食(こじき)芝居(しばゐ)が上手(じやうず)なこと。185さア一文(いちもん)あげるから帰(い)んで下(くだ)さい。186もう沢山(たくさん)拝見(はいけん)致(いた)しました』
187初『愈(いよいよ)以(もつ)て怪(け)しからぬ事(こと)を申(まを)す。188松姫(まつひめ)の阿女奴(あまつちよ)、189さア只今(ただいま)限(かぎ)り事務(じむ)を引渡(ひきわた)しトツトと出(で)て失(う)せう。190最早(もはや)其(その)方(はう)は小北山(こぎたやま)には何一(なにひと)つ用(よう)もなければ権利(けんり)もない。191おい徳公(とくこう)、192貴様(きさま)は高姫(たかひめ)さまの代理(だいり)ぢやないか。193何故(なぜ)黙(だま)つてゐるか』
194 徳公(とくこう)は高姫(たかひめ)気分(きぶん)になり、195肩(かた)を揺(ゆす)り首(くび)をふり婆声(ばばごゑ)を出(だ)して、
196徳『これ松姫(まつひめ)さま、197私(わたし)は高姫(たかひめ)の代理(だいり)ぢやぞえ。198長(なが)らく御(ご)苦労(くらう)で厶(ござ)りました。199併(しか)しながら今日(けふ)迄(まで)お前(まへ)さまは神(かみ)様(さま)の御(ご)都合(つがふ)で御用(ごよう)をさせてあつたのだ。200然(しか)し上義姫(じやうぎひめ)はもう此処(ここ)に用事(ようじ)はない。201之(これ)から義理(ぎり)天上(てんじやう)日(ひ)の出神(でのかみ)が此処(ここ)を構(かま)ふによつて、202お前(まへ)はトツトと出(で)て行(い)つて下(くだ)さい。203それとも十分(じふぶん)改悪(かいあく)して、204杢助(もくすけ)や高姫(たかひめ)の云(い)ふ事(こと)を聞(き)くなら、205炊事場(すゐじば)のおサンどんに使(つか)つて上(あ)げぬ事(こと)もない。206然(しか)しお前(まへ)も此処(ここ)に住(す)み慣(な)れて来(き)たのだから、207此処(ここ)を追(お)ひ出(だ)されるのは残念(ざんねん)だらう。208それは高姫(たかひめ)もよく分(わか)つてる。209それでお前(まへ)さまは、210どんと、211かばちを下(さ)げて炊事(すゐじ)の御用(ごよう)か雪隠(せつちん)の掃除(さうぢ)をなさいませ。212そこまで苦労(くらう)をなさらぬと、213今(いま)から偉(えら)さうに教主(けうしゆ)だなんて威張(ゐば)つて居(を)ると、214猿(さる)も木(き)からバツサリ落(お)ちる例(れい)もありますぞや。215サアサア、216返答(へんたふ)々々(へんたふ)、217如何(いかが)で厶(ござ)る。218高姫(たかひめ)の代理(だいり)が此処(ここ)でキツパリと承(うけたまは)りませう。219さてもさても残念(ざんねん)さうなお顔(かほ)だな。220他人(たにん)の俺(わし)でさへ涙(なみだ)が零(こぼ)れませぬわい。221アーン、222アーンアーンアーンアーン アハハハハハ、223泣(な)くのか笑(わら)ふのか、224いやもう訳(わけ)がわかりませぬ。225松姫(まつひめ)さまの事(こと)を思(おも)へば泣(な)きたくなり、226高姫(たかひめ)さまの事(こと)は思(おも)へば笑(わら)ひたくなる。227悲(かな)しい事(こと)と嬉(うれ)しい事(こと)と一度(いちど)になつて来(き)た。228親(おや)の死(し)んだ処(ところ)へ花嫁(はなよめ)が出(で)て来(き)た様(やう)な心持(こころもち)だ。229悲喜(ひき)交々(こもごも)相混(あひまじ)り苦楽(くらく)一度(いちど)に到来(たうらい)す。230上(のぼ)る人(ひと)と下(くだ)る人(ひと)、231ほんに浮世(うきよ)は儘(まま)ならぬものだな。232アツハハハハ「アーンアーンアーンオーンオーンオーン如何(どう)しようぞいなー如何(どう)しようぞいなー。233此(この)行先(ゆくさき)はお千代(ちよ)を連(つ)れて袖乞(そでご)ひ、234物貰(ものもら)ひに歩(ある)かにやならぬと思(おも)や、235俺(わし)は胸(むね)が引裂(ひきさ)けるやうに思(おも)ふワイのー……(義太夫)之(これ)と云(い)ふのも前(さき)の世(よ)で、236如何(いか)なる事(こと)の罪(つみ)せしか、237悲(かな)しさ辛(つら)さ、238身(み)も世(よ)もあられぬ憂(う)き思(おも)ひ、239エエヘヘヘヘンエーーーー、240如何(どう)しようぞいなー」エーエ、241到頭(たうとう)俺(わし)の体(からだ)に松姫(まつひめ)さまの副(ふく)守護神(しゆごじん)がのり憑(うつ)りやがつて、242泣(な)いたり笑(わら)つたり、243いやもううつり易(やす)い水晶魂(すいしやうみたま)は斯(こ)んなに苦(くる)しいものかなア。244のう初公(はつこう)、245俺(おれ)等(たち)もヤツパリ春(はる)が来(き)たぢやないか。246此(この)好機(かうき)を逸(いつ)して、247何時(いつ)の日(ひ)か、248出世(しゆつせ)の時(とき)を得(え)むやだ。249おい、250有力(いうりよく)なる後援者(こうゑんしや)が出来(でき)たのだから、251チツとは無理(むり)でも気(き)の毒(どく)でも、252奴隷(どれい)的(てき)道徳(だうとく)は廃(や)めにして権利(けんり)義務(ぎむ)を主張(しゆちやう)し、253自分(じぶん)の位地(ゐち)を高(たか)めるのが一等(いつとう)だぞ。254のう初公(はつこう)、255確(しつか)りやつてくれ。256俺(おれ)も今度(こんど)は大車輪(だいしやりん)だから、257イツヒヒヒヒヒ』
258松姫『ホホホホホ、259あのまアお二人(ふたり)さま、260揃(そろ)ひも揃(そろ)うて、261何時(いつ)の間(ま)に、262そんな芝居(しばゐ)を覚(おぼ)えて来(き)たの。263犬(いぬ)が笑(わら)ひますよ』
264初(はつ)『こりや、265松姫(まつひめ)、266何処(どこ)までも教主面(けうしゆづら)をさげやがつて、267俺(おれ)達(たち)二人(ふたり)を何(なん)と心得(こころえ)てる。268無礼(ぶれい)ぢやないか。269左様(さやう)な失礼(しつれい)なことを申(まを)すと、270此(この)儘(まま)には差許(さしゆる)さぬぞ』
271徳(とく)『こーりや松姫(まつひめ)、272何(なん)と心得(こころえ)てる。273今(いま)迄(まで)の徳(とく)さまや初(はつ)さまとはチツと値段(ねだん)が違(ちが)ふのだ。274エー、275俄(にはか)仕入(しい)れのバチ者(もの)とは違(ちが)つて上等(じやうとう)舶来品(はくらいひん)だ。276あまり見違(みちが)へを致(いた)して貰(もら)はうまいかい』
277松姫『ホホホホホ、278虎(とら)の威(ゐ)をかる糞喰(くそく)ひ狐(ぎつね)とはお前(まへ)達(たち)の事(こと)だよ。279もう斯(か)うなつちや松姫(まつひめ)も了簡(れうけん)なりませぬ。280さア今日(けふ)只今(ただいま)から暇(ひま)をつかはすによつてお帰(かへ)りなさい。281一(いつ)分間(ぷんかん)も此(この)聖場(せいぢやう)にはお前(まへ)の様(やう)な薄情者(はくじやうもの)置(お)く事(こと)は出来(でき)ませぬ』
282初(はつ)『ヘン、283馬鹿(ばか)にすない。284もう此(この)小北山(こぎたやま)は貴様(きさま)の権利(けんり)ぢやないぞ。285勿体(もつたい)なくも杢助(もくすけ)さまの御(ご)監督(かんとく)の許(もと)に高姫(たかひめ)さまの御(ご)管轄(くわんかつ)区域(くゐき)だ。286お前(まへ)の方(はう)から暇(ひま)を貰(もら)ふよりも、287こつちの方(はう)から暇(ひま)をくれてやるのだ。288有難(ありがた)く思(おも)へ。289さアさア出(で)て行(ゆ)かう出(で)て行(ゆ)かう。290グヅグヅして居(ゐ)ると邪魔(じやま)になるわい』
291徳(とく)『おい、292こんな分(わか)らぬ女(をんな)に何時(いつ)まで掛合(かけあ)つた所(ところ)が駄目(だめ)だ。293杢助(もくすけ)さまがやつつけて了(しま)へと仰有(おつしや)つたぢやないか。294おい、295やつつけろ やつつけろ』
296初『よし来(き)た』
297と二人(ふたり)は仁王立(にわうだち)となり、298松姫(まつひめ)を中(なか)に置(お)いて、299今(いま)や拳骨(げんこつ)を固(かた)めて飛鳥(ひてう)の如(ごと)く飛(と)びかからむとしてゐる。300松姫(まつひめ)は泰然(たいぜん)自若(じじやく)として少(すこ)しも騒(さわ)がず、301二人(ふたり)の目(め)を見(み)つめてゐる。302両人(りやうにん)は打掛(うちかか)らうとすれども、303何故(なにゆゑ)か、304松姫(まつひめ)の身体(からだ)から光(ひかり)が出(で)る様(やう)に思(おも)はれて、305目(め)が眩(くら)み飛(と)びつく事(こと)が出来(でき)ない。306松姫(まつひめ)は心(こころ)静(しづ)かに歌(うた)を歌(うた)つてゐる。
307松姫『虎(とら)の威(ゐ)をかる古狐(ふるぎつね)
308小北(こぎた)の山(やま)に現(あら)はれて
309松姫館(まつひめやかた)に侵入(しんにふ)し
310無道(ぶだう)の難題(なんだい)吹(ふ)きかけて
311卑怯(ひけふ)未練(みれん)に両人(りやうにん)が
312嚇(おど)し文句(もんく)を並(なら)べ立(た)て
313木偶坊(でくばう)の様(やう)なその姿(なり)で
314握(にぎ)り拳(こぶし)を固(かた)めつつ
315慄(ふる)ひゐるこそ可笑(をか)しけれ
316初公(はつこう)、徳公(とくこう)よく聞(き)けよ
317杢助司(もくすけつかさ)と名告(なの)りゐる
318彼(かれ)は誠(まこと)の人(ひと)でない
319大雲山(たいうんざん)に蟠(わだか)まる
320八岐(やまた)大蛇(をろち)の片腕(かたうで)と
321兇党界(きようたうかい)にて幅(はば)利(き)かす
322妖幻坊(えうげんばう)の曲津(まがつ)ぞや
323高姫司(たかひめつかさ)は恋淵(こひぶち)に
324知(し)らず知(し)らずに陥(おちい)りて
325妖怪(えうくわい)変化(へんげ)と知(し)らずして
326杢助司(もくすけつかさ)と思(おも)ひつめ
327得意(とくい)になつて今(いま)此処(ここ)に
328夫婦(ふうふ)気取(きど)りで来(き)たなれど
329決(けつ)して誠(まこと)の三五(あななひ)の
330八島(やしま)の主(ぬし)のお言葉(ことば)に
331従(したが)ひ来(きた)りしものでない
332これの館(やかた)を奪(うば)はむと
333曲津(まがつ)の神(かみ)に唆(そそ)られて
334悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の企(たく)みをば
335敢行(かんかう)せむとするものぞ
336汝(なんぢ)等(ら)二人(ふたり)は曲神(まがかみ)に
337魂(たま)をぬかれて目(め)が眩(くら)み
338名利(めいり)の欲(よく)に迷(まよ)ひつつ
339見(み)るに堪(た)へざる狂態(きやうたい)を
340演(えん)ずるものぞ、いと惜(を)しや
341早(はや)く心(こころ)を改(あらた)めて
342此(この)松姫(まつひめ)が言(こと)の葉(は)を
343完全(うまら)に委曲(つばら)に聞(き)くがよい
344早(はや)目(め)を覚(さ)ませ目(め)を覚(さ)ませ
345神(かみ)は汝(なんぢ)と倶(とも)にあり
346汝(なんぢ)も神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
347恵(めぐ)みの光(ひかり)に照(てら)されて
348正(ただ)しき神(かみ)の御子(みこ)となり
349吾(われ)に犯(おか)せし罪科(つみとが)を
350此(この)場(ば)で直(すぐ)に悔悟(くわいご)せば
351許(ゆる)してやらむ惟神(かむながら)
352神(かみ)に誓(ちか)ひて両人(りやうにん)に
353完全(うまら)に委曲(つばら)に宣(の)り伝(つた)ふ
354ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
355御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
356と歌(うた)ひ終(をは)るや、357両人(りやうにん)は両眼(りやうがん)より涙(なみだ)をハラハラと流(なが)した。358そして少(すこ)しく首(くび)を動(うご)かし改心(かいしん)の意(い)を表(へう)した。359松姫(まつひめ)は忽(たちま)ち霊縛(れいばく)を解(と)いた。360二人(ふたり)は身体(しんたい)もとの如(ごと)くになり、361パタパタと表(おもて)へ駆(か)け出(だ)した。362果(はた)して彼(かれ)等(ら)両人(りやうにん)は改心(かいしん)したであらうか。363但(ただし)は再(ふたた)び悪意(あくい)を起(おこ)して、364松姫(まつひめ)に対(たい)し如何(いか)なる危害(きがい)を与(あた)へむとするであらうか。365後節(こうせつ)に於(おい)て審(つまび)らかになるであらう。366ああ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
367(大正一二・一・二五 旧一一・一二・九 北村隆光録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→