霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
設定
|
ヘルプ
ホーム
霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第51巻(寅の巻)
序文
総説
第1篇 霊光照魔
第1章 春の菊
第2章 怪獣策
第3章 犬馬の労
第4章 乞食劇
第5章 教唆
第6章 舞踏怪
第2篇 夢幻楼閣
第7章 曲輪玉
第8章 曲輪城
第9章 鷹宮殿
第10章 女異呆醜
第3篇 鷹魅艶態
第11章 乙女の遊
第12章 初花姫
第13章 槍襖
第14章 自惚鏡
第15章 餅の皮
第4篇 夢狸野狸
第16章 暗闘
第17章 狸相撲
第18章 糞奴使
第19章 偽強心
第20章 狸姫
第21章 夢物語
余白歌
×
設定
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
文字サイズ
S
【標準】
M
L
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側だけに表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注[※]用語解説
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
【標準】
脚注マークを表示しない
脚注[*]編集用
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
脚注マークを表示しない
【標準】
外字の外周色
[?]
一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。
[×閉じる]
無色
【標準】
赤色
現在のページには外字は使われていません
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】
サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は
従来バージョン
をお使い下さい|
サブスク
のお知らせ
霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第51巻(寅の巻)
> 第2篇 夢幻楼閣 > 第7章 曲輪玉
<<< 舞踏怪
(B)
(N)
曲輪城 >>>
第七章
曲輪玉
(
まがわのたま
)
〔一三二二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻
篇:
第2篇 夢幻楼閣
よみ(新仮名遣い):
むげんろうかく
章:
第7章 曲輪玉
よみ(新仮名遣い):
まがわのたま
通し章番号:
1322
口述日:
1923(大正12)年01月25日(旧12月9日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年12月29日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
文助は階段を十二三階上がったところで妖幻坊とぶつかり、顔を引っ掻かれて引き倒されてしばらく気が遠くなっていた。気が付くと、懐に何か蜂の巣のような音がする、丸い塊が入っていた。
目の悪い文助は、てっきり妖幻坊の杢助がいたずらに蜂の巣を懐に入れたのだろうと思い、受付に戻って傍らにあった板箱に入れてしまった。箱がかたかたいって飛び上がったり唸りがひどくなっても、蜂のせいだと思っていた。
一方、妖幻坊は自分の変相術に必須の曲輪の玉を落としたことに気が付いた。妖幻坊は体の具合が悪くなってきた。この曲輪の玉は、肌を離れてから一昼夜経つと、変相が解けて本性が現れてしまう。またスマートが雷のような声で唸ったので、路傍の芝生の上に倒れてしまった。
高姫が追いついてきたので、妖幻坊は自分は斎苑の館から奪ってきた如意宝珠を小北山に落としてきたようだ、とごまかした。妖幻坊は文助と衝突したときに思い当り、初と徳がやってくると、二人に小北山に戻って玉を取ってくるように命じた。
初と徳は仕方なく小北山の受付に戻り、文助が事情を知らないのをいいことに玉を奪おうとしたが、文助は二人の態度に頑なになってしまった。徳が文助と格闘している間に、初は音をたよりに玉の入った箱を探りだし、箱ごと懐に入れた。
二人は小北山を逃れると、ようやく命からがら怪志の森の妖幻坊と高姫のところに戻ってきた。妖幻坊は二人が玉の箱を持ってきたので満足したが、高姫は如意宝珠の玉だと聞いていたので、また執着心を出して玉を欲しがった。
妖幻坊は、後で必ず見せるとその場をごまかして逃れた。妖幻坊は先を急ごうとしたが、初と徳がへばってこれ以上進むことができなかった。一同は野宿をすることにしたが、初と徳が寝込んでしまうと、高姫は妖幻坊を促し、森を抜けて浮木の里を指して走り出した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-08-08 18:35:15
OBC :
rm5107
愛善世界社版:
101頁
八幡書店版:
第9輯 302頁
修補版:
校定版:
103頁
普及版:
48頁
初版:
ページ備考:
001
階段
(
かいだん
)
を
十二三
(
じふにさん
)
階
(
かい
)
上
(
あ
)
がつた
所
(
ところ
)
で、
002
文助
(
ぶんすけ
)
は
妖幻坊
(
えうげんばう
)
に
顔
(
かほ
)
をひつかかれ、
003
突倒
(
つきたふ
)
され、
004
ウンと
呻
(
うめ
)
いて、
005
暫
(
しばら
)
くは
気
(
き
)
が
遠
(
とほ
)
くなつてゐた。
006
それ
故
(
ゆゑ
)
、
007
後
(
あと
)
から
走
(
はし
)
つた
高姫
(
たかひめ
)
や
初
(
はつ
)
、
008
徳
(
とく
)
の
事
(
こと
)
はチツとも
知
(
し
)
らなかつた。
009
依然
(
いぜん
)
として、
010
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
一同
(
いちどう
)
は
教主館
(
けうしゆやかた
)
に
休息
(
きうそく
)
し
居
(
ゐ
)
るものとのみ
考
(
かんが
)
へてゐた。
011
ヤツと
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
き
見
(
み
)
れば、
012
懐
(
ふところ
)
に
何物
(
なにもの
)
か
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
のやうな
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
013
文助
(
ぶんすけ
)
は、
014
文助
『ハテ
此奴
(
こいつ
)
ア
不思議
(
ふしぎ
)
だ。
015
杢助
(
もくすけ
)
さまに
衝突
(
しようとつ
)
して
気
(
き
)
が
遠
(
とほ
)
くなり
逆上
(
のぼ
)
せて
居
(
ゐ
)
るのかなア』
016
と
思
(
おも
)
ひながら、
017
懐
(
ふところ
)
へ
手
(
て
)
を
入
(
い
)
れると、
018
余
(
あま
)
り
重
(
おも
)
くない、
019
丸
(
まる
)
い
塊
(
かたまり
)
の
物
(
もの
)
が
懐
(
ふところ
)
に
残
(
のこ
)
つてゐた、
020
周囲
(
まはり
)
は
石綿
(
いしわた
)
のやうに
軟
(
やはら
)
かく、
021
そして
耳
(
みみ
)
へあてて
見
(
み
)
ると「ウーン、
022
ウン」と
呻
(
うな
)
つてゐる。
023
文助
(
ぶんすけ
)
は
少時
(
しばらく
)
掌
(
てのひら
)
に
載
(
の
)
せたり、
024
耳
(
みみ
)
に
当
(
あ
)
てたりして
考
(
かんが
)
へてゐた。
025
そしてハタと
片手
(
かたて
)
に
膝
(
ひざ
)
を
打
(
う
)
ち、
026
文助
『ヤ、
027
此奴
(
こいつ
)
ア、
028
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
だ。
029
うつかり
破
(
やぶ
)
らうものなら、
030
此
(
この
)
悪
(
わる
)
い
目
(
め
)
を
此
(
この
)
上
(
うへ
)
に
刺
(
さ
)
されちやたまらぬ。
031
杢助
(
もくすけ
)
さまも
随分
(
ずいぶん
)
悪戯好
(
いたづらず
)
きだな、
032
人
(
ひと
)
が
目
(
め
)
が
見
(
み
)
えぬかと
思
(
おも
)
うて、
033
懐
(
ふところ
)
へつつ
込
(
こ
)
んで
行
(
い
)
つたのだな。
034
余
(
あま
)
りエライ
勢
(
いきほひ
)
でおりて
来
(
き
)
たものだから、
035
私
(
わたし
)
と
衝突
(
しようとつ
)
して、
036
それでつき
倒
(
たふ
)
されたのだ。
037
何
(
なん
)
だか
顔
(
かほ
)
がピリピリする。
038
石
(
いし
)
で
顔
(
かほ
)
をすり
剥
(
む
)
いたと
見
(
み
)
える』
039
と
独
(
ひと
)
り
判断
(
はんだん
)
してゐる。
040
文助
『そして
握
(
にぎ
)
りつぶしちや
蜂
(
はち
)
が
可愛相
(
かあいさう
)
だ、
041
併
(
しか
)
しながら、
042
そこらに
放
(
ほ
)
つておけば
人
(
ひと
)
がいたづらすると
困
(
こま
)
る、
043
此奴
(
こいつ
)
ア
一
(
ひと
)
つ、
044
御玉筥
(
みたまばこ
)
の
中
(
なか
)
へでも
入
(
い
)
れておかうかなア。
045
ウン、
046
幸
(
さいは
)
ひ、
047
ここに
鞠
(
まり
)
の
空箱
(
あきばこ
)
がある。
048
丁度
(
ちやうど
)
具合
(
ぐあひ
)
がよささうだ』
049
と
云
(
い
)
ひながら、
050
あつい
板箱
(
いたばこ
)
に
玉
(
たま
)
を
入
(
い
)
れ、
051
荒白苧
(
あらさを
)
で
固
(
かた
)
く
結
(
むす
)
び、
052
自分
(
じぶん
)
の
座右
(
ざう
)
において、
053
又
(
また
)
もや
松
(
まつ
)
に
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
絵
(
ゑ
)
の
書
(
か
)
きさしを、
054
せつせと
彩色
(
ゑど
)
つてゐた。
055
箱
(
はこ
)
はカタカタと
自然
(
しぜん
)
に
飛上
(
とびあが
)
るのを
別
(
べつ
)
に
怪
(
あや
)
しとも
思
(
おも
)
はず、
056
蜂
(
はち
)
が
非常
(
ひじやう
)
にあばれてをるのだと
早合点
(
はやがてん
)
し、
057
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
珍石
(
ちんせき
)
の
風鎮
(
ふうちん
)
を
載
(
の
)
せておいた。
058
唸
(
うな
)
りはますます
烈
(
はげ
)
しくなつて
来
(
き
)
た。
059
文助
『ハハア、
060
蜂
(
はち
)
がたうとう
巣
(
す
)
を
破
(
やぶ
)
つて
出
(
で
)
よつたとみえる、
061
エーエー
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
を
破
(
やぶ
)
つたやうだといふが、
062
いかにも
喧
(
やかま
)
しいものだなア』
063
と
独語
(
ひとりご
)
ちつつ、
064
又
(
また
)
もや
絵筆
(
ゑふで
)
をせつせと
走
(
はし
)
らしてゐる。
065
話
(
はなし
)
変
(
かは
)
つて
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は
逃
(
に
)
げしなに、
066
自分
(
じぶん
)
の
変相術
(
へんさうじゆつ
)
に
必要
(
ひつえう
)
欠
(
か
)
く
可
(
べか
)
らざる
曲輪
(
まがわ
)
の
玉
(
たま
)
を、
067
どつかにおとし、
068
俄
(
にはか
)
に
体
(
からだ
)
の
具合
(
ぐあひ
)
が
悪
(
わる
)
くなつて
来
(
き
)
た。
069
此
(
この
)
曲輪
(
まがわ
)
は
肌
(
はだ
)
を
離
(
はな
)
れてから
一昼夜
(
いつちうや
)
経
(
た
)
てば、
070
変相
(
へんさう
)
が
現
(
あら
)
はれるのである。
071
そして
山
(
やま
)
の
上
(
うへ
)
からスマートが
雷
(
らい
)
の
如
(
ごと
)
き
声
(
こゑ
)
で
唸
(
うな
)
つたので、
072
ペタリと
路傍
(
ろばう
)
の
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
に
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
073
そこへ
高姫
(
たかひめ
)
が
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
追
(
お
)
つ
付
(
つ
)
き、
074
高姫
『コレ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
075
お
前
(
まへ
)
さまはこんな
所
(
ところ
)
に
倒
(
たふ
)
れてゐるのかいな、
076
サアサア
起
(
お
)
きなさい
起
(
お
)
きなさい、
077
どつこも
怪我
(
けが
)
はありませぬかなア』
078
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は、
079
懐
(
ふところ
)
を
探
(
さぐ
)
り、
080
曲輪
(
まがわ
)
のない
事
(
こと
)
に
気
(
き
)
がつき、
081
蒼白
(
まつさを
)
な
顔
(
かほ
)
をし、
082
妖幻坊の杢助
『ヤ、
083
失敗
(
しま
)
つた、
084
肝腎
(
かんじん
)
の
宝
(
たから
)
を
失
(
うしな
)
つて
了
(
しま
)
つた。
085
これがなければ
忽
(
たちま
)
ち
正体
(
しやうたい
)
が
現
(
あら
)
はれるがなア、
086
ああ
如何
(
どう
)
したらよからうかなア』
087
高姫
『コレ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
088
正体
(
しやうたい
)
が
現
(
あら
)
はれると
今
(
いま
)
仰有
(
おつしや
)
つたが、
089
ソラ
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
ですか。
090
そして
曲輪
(
まがわ
)
とか、
091
今
(
いま
)
云
(
い
)
はれたやうだが、
092
其
(
その
)
曲輪
(
まがわ
)
は
何
(
なに
)
をするものですか』
093
妖幻坊の杢助
『ウン、
094
これは
一名
(
いちめい
)
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
と
云
(
い
)
つて、
095
あれさへあれば、
096
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
になるのだ。
097
それをたうとう
落
(
おと
)
して
了
(
しま
)
つたのだ、
098
ああ
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
をしたわい』
099
高姫
『
何
(
なに
)
、
100
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
? それはお
前
(
まへ
)
さま、
101
何処
(
どこ
)
から
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れたのだい。
102
私
(
わたし
)
も
其
(
その
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
については
随分
(
ずいぶん
)
苦労
(
くらう
)
したものだよ。
103
一旦
(
いつたん
)
私
(
わたし
)
の
腹
(
はら
)
に
呑込
(
のみこ
)
んだ
事
(
こと
)
があるのだからな、
104
それをお
前
(
まへ
)
さまが
持
(
も
)
つてゐたとは、
105
因縁
(
いんねん
)
といふものは
怖
(
こは
)
いものだな。
106
如何
(
どう
)
して、
107
杢助
(
もくすけ
)
さま、
108
貴方
(
あなた
)
のお
手
(
て
)
に
入
(
い
)
りましたか』
109
妖幻坊の杢助
『
私
(
わし
)
が
総務
(
そうむ
)
をやつてゐたものだから、
110
始終
(
しじう
)
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
のお
宝物
(
たからもの
)
として
監督
(
かんとく
)
してゐたのだ。
111
それをば
此方
(
こちら
)
へ
来
(
き
)
がけに、
112
ソツと
物
(
もの
)
して
来
(
き
)
たのだよ』
113
高姫
『それを
何
(
ど
)
うしたと
云
(
い
)
ふのだい』
114
妖幻坊の杢助
『どうも
小北山
(
こぎたやま
)
でおとして
来
(
き
)
たやうだ。
115
確
(
たしか
)
に
階段
(
かいだん
)
を
下
(
くだ
)
る
時
(
とき
)
には
懐
(
ふところ
)
にあつたやうに
思
(
おも
)
ふが、
116
あの
文助
(
ぶんすけ
)
に
行当
(
ゆきあた
)
つた
時
(
とき
)
に、
117
彼奴
(
あいつ
)
に
取
(
と
)
られたかも
知
(
し
)
れない。
118
ああ
向
(
むか
)
ふの
手
(
て
)
に
入
(
い
)
るからは
最早
(
もはや
)
取返
(
とりかへ
)
す
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
まい。
119
反対
(
あべこべ
)
に、
120
あちらからあれを
使
(
つか
)
はれようものなら、
121
何
(
ど
)
うする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ぬからのう』
122
高姫
『
杢助
(
もくすけ
)
さま、
123
そんな
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
言
(
い
)
うてをれますか。
124
仮令
(
たとへ
)
火
(
ひ
)
の
中
(
なか
)
へ
飛込
(
とびこ
)
まうが、
125
水
(
みづ
)
の
中
(
なか
)
へ
入
(
はい
)
らうが、
126
取返
(
とりかへ
)
さなくちや、
127
思惑
(
おもわく
)
が
立
(
た
)
たぬぢやありませぬか。
128
其
(
その
)
玉
(
たま
)
さへあれば
三五教
(
あななひけう
)
を
崩壊
(
ほうくわい
)
させ、
129
ウラナイ
教
(
けう
)
の
天下
(
てんか
)
にするのは
朝飯前
(
あさめしまへ
)
の
仕事
(
しごと
)
ぢやないか、
130
何程
(
なにほど
)
吾々
(
われわれ
)
があせるよりも、
131
其
(
その
)
玉
(
たま
)
一
(
ひと
)
つがどれだけ
働
(
はたら
)
きをするか
分
(
わか
)
りますまい。
132
之
(
これ
)
から
私
(
わたし
)
が
調
(
しら
)
べて
来
(
き
)
ます。
133
もしも
文助
(
ぶんすけ
)
が
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
つたら、
134
ひつたくつて
来
(
き
)
ますから』
135
妖幻坊の杢助
『イヤ、
136
あの
玉
(
たま
)
はお
前
(
まへ
)
なんぞが、
137
いらふものぢやない、
138
人
(
ひと
)
がいらふと
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
ふからな』
139
高姫
『
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ひなさるな、
140
私
(
わたし
)
だつて
一度
(
いちど
)
は
手
(
て
)
に
持
(
も
)
つた
事
(
こと
)
もあり、
141
口
(
くち
)
に
呑
(
の
)
んだ
事
(
こと
)
もあるのだ。
142
滅多
(
めつた
)
に
消
(
き
)
える
気遣
(
きづか
)
ひはありませぬぞや。
143
サ、
144
これから
私
(
わたし
)
が
取返
(
とりかへ
)
して
来
(
き
)
ませう』
145
妖幻坊の杢助
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
146
お
前
(
まへ
)
は
此処
(
ここ
)
を
動
(
うご
)
いちや
可
(
い
)
かない、
147
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
つてくれ。
148
何時
(
いつ
)
スマートがやつて
来
(
く
)
るか、
149
分
(
わか
)
つたものぢやないから』
150
高姫
『ヘン、
151
スマートスマートて、
152
何
(
なん
)
ですか、
153
ありや
四足
(
よつあし
)
ぢやありませぬか』
154
妖幻坊の杢助
『
俺
(
おれ
)
はあの
犬
(
いぬ
)
に
限
(
かぎ
)
つて、
155
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
くつて
仕方
(
しかた
)
がないのだ』
156
と
話
(
はな
)
してゐる。
157
そこへハアハアと
息
(
いき
)
を
喘
(
はづ
)
ませながら、
158
初
(
はつ
)
、
159
徳
(
とく
)
の
両人
(
りやうにん
)
が
漸
(
やうや
)
く
追付
(
おつつ
)
いた。
160
妖幻
(
えうげん
)
『ヤ、
161
初
(
はつ
)
、
162
徳
(
とく
)
、
163
お
前
(
まへ
)
はついて
来
(
き
)
たのか、
164
ああ
偉
(
えら
)
いものだ。
165
ヤツパリ
俺
(
おれ
)
たちの
味方
(
みかた
)
だ』
166
初
(
はつ
)
『ハイ、
167
もうあなた、
168
かうなつちや、
169
私
(
わたし
)
だつて
小北山
(
こぎたやま
)
には
居
(
ゐ
)
られませぬ。
170
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
のお
世話
(
せわ
)
になるより
仕方
(
しかた
)
がないと
思
(
おも
)
つて、
171
後
(
あと
)
追
(
お
)
つかけて
参
(
まゐ
)
りました』
172
高姫
(
たかひめ
)
『ああ
徳
(
とく
)
も
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
るぢやないか』
173
徳
『ハイ、
174
何卒
(
どうぞ
)
宜
(
よろ
)
しう
願
(
ねが
)
ひます。
175
到底
(
たうてい
)
小北山
(
こぎたやま
)
へは
帰
(
かへ
)
る
顔
(
かほ
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬからな。
176
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
の
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になるより、
177
最早
(
もはや
)
活路
(
くわつろ
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ』
178
高姫
『お
前
(
まへ
)
、
179
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だが、
180
一寸
(
ちよつと
)
マ
一度
(
いちど
)
、
181
小北山
(
こぎたやま
)
まで
行
(
い
)
つて
来
(
き
)
て
貰
(
もら
)
へまいかな』
182
初
(
はつ
)
『ヘー、
183
行
(
い
)
かぬこた
厶
(
ござ
)
いませぬが、
184
何
(
なに
)
かお
忘
(
わす
)
れにでもなつたのですか』
185
高姫
『
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
が
一寸
(
ちよつと
)
した、
186
丸
(
まる
)
いものを
落
(
おと
)
して
厶
(
ござ
)
つたのだ。
187
大方
(
おほかた
)
、
188
あの
文助
(
ぶんすけ
)
が
拾
(
ひろ
)
うて
居
(
ゐ
)
るに
違
(
ちが
)
ひないから、
189
お
前
(
まへ
)
うまくチヨロまかして、
190
文助
(
ぶんすけ
)
の
手
(
て
)
から
受取
(
うけと
)
つて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい。
191
いい
子
(
こ
)
だからな』
192
初
『ヘー、
193
行
(
い
)
かぬこた
厶
(
ござ
)
いませぬが、
194
又
(
また
)
尻
(
しり
)
の
三百
(
さんびやく
)
も
叩
(
たた
)
かれちや
堪
(
たま
)
りませぬから、
195
小北山
(
こぎたやま
)
ばかりはこらへて
貰
(
もら
)
ひたいものですな。
196
約束
(
やくそく
)
を
破
(
やぶ
)
つて、
197
貴女
(
あなた
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
叩
(
たた
)
いたものですから、
198
足
(
あし
)
が
痛
(
いた
)
くつて、
199
ここまで
走
(
はし
)
つて
来
(
く
)
るのが
並大抵
(
なみたいてい
)
のこつちやなかつたですよ。
200
此
(
この
)
痛
(
いた
)
い
足
(
あし
)
で、
201
あのきつい
坂
(
さか
)
を
再
(
ふたた
)
び
登
(
のぼ
)
れとは、
202
チツと
酷
(
ひど
)
いですな。
203
徳
(
とく
)
、
204
お
前
(
まへ
)
何
(
ど
)
うだ。
205
おれとは
余程
(
よほど
)
疵
(
きず
)
が
軽
(
かる
)
いやうだから、
206
一寸
(
ちよつと
)
使
(
つかひ
)
に
行
(
い
)
つて
来
(
き
)
てくれまいかなア』
207
徳
(
とく
)
『
俺
(
おれ
)
だつて、
208
貴様
(
きさま
)
より
余程
(
よつぽど
)
きついぞ。
209
どうも
痛
(
いた
)
くつて、
210
いのこ
がさして、
211
碌
(
ろく
)
に
歩
(
ある
)
かれやしないワ。
212
足
(
あし
)
が
丸切
(
まるき
)
り
棒
(
ぼう
)
のやうになつて
了
(
しま
)
つたよ』
213
高姫
『それなら
二人
(
ふたり
)
行
(
い
)
つて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいな。
214
少々
(
せうせう
)
ばかり
遅
(
おそ
)
くなつても
構
(
かま
)
はないから、
215
私
(
わたし
)
は
向
(
むか
)
ふの
怪志
(
あやし
)
の
森
(
もり
)
で、
216
杢助
(
もくすけ
)
さまと、
217
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
祈
(
いの
)
つて
待
(
ま
)
つてゐるから……』
218
二人
(
ふたり
)
は
不承
(
ふしよう
)
々々
(
ぶしよう
)
に
踵
(
きびす
)
を
返
(
かへ
)
し、
219
足
(
あし
)
をチガチガさせながら
竹切
(
たけぎ
)
れを
拾
(
ひろ
)
つて
杖
(
つゑ
)
となし、
220
一本橋
(
いつぽんばし
)
を
危
(
あやふ
)
く
渡
(
わた
)
り、
221
小北山
(
こぎたやま
)
の
急坂
(
きふはん
)
を
登
(
のぼ
)
つて、
222
漸
(
やうや
)
く
受付
(
うけつけ
)
の
前
(
まへ
)
に
行
(
い
)
つた。
223
見
(
み
)
れば
文助
(
ぶんすけ
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
絵
(
ゑ
)
を
描
(
か
)
いてゐる。
224
初
(
はつ
)
『もし
文助
(
ぶんすけ
)
さま、
225
お
前
(
まへ
)
さま、
226
最前
(
さいぜん
)
はひどうこけましたなア、
227
どつこもお
怪我
(
けが
)
はありませなんだかなア』
228
文助
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う、
229
杢助
(
もくすけ
)
さまが、
230
余
(
あま
)
り
勢
(
いきほひ
)
よく
坂
(
さか
)
を
下
(
くだ
)
つて
厶
(
ござ
)
るのに、
231
私
(
わたし
)
は
目
(
め
)
が
悪
(
わる
)
いものだからヨボヨボして
上
(
あが
)
るのと、
232
細
(
ほそ
)
い
階段
(
かいだん
)
だから、
233
衝突
(
しようとつ
)
し、
234
はね
飛
(
と
)
ばされて、
235
チツとばかり、
236
こんな
疵
(
きず
)
をしました。
237
ピリピリして
仕方
(
しかた
)
がないのだ。
238
それでも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
で、
239
御
(
ご
)
神水
(
しんすい
)
をつけたら
余程
(
よつぽど
)
痛
(
いた
)
みが
止
(
と
)
まりましたよ。
240
今晩
(
こんばん
)
はお
土
(
つち
)
をドツサリ
頂
(
いただ
)
いて
休
(
やす
)
まして
貰
(
もら
)
はうと
思
(
おも
)
つてゐるのだ』
241
初
『ヤア、
242
何
(
なん
)
とえらい
疵
(
きず
)
だな、
243
爪形
(
つめがた
)
が
入
(
はい
)
つて
居
(
ゐ
)
るぢやないか』
244
文助
『
尖
(
とが
)
つた
石
(
いし
)
が
沢山
(
たくさん
)
に
敷
(
し
)
いてあるものだから、
245
こんなに
傷
(
きずつ
)
いたのだよ。
246
杢助
(
もくすけ
)
さまは
教主館
(
けうしゆやかた
)
にゐられるだらうな。
247
そして
高姫
(
たかひめ
)
さまも
機嫌
(
きげん
)
がよいかなア』
248
初公
(
はつこう
)
は
文助
(
ぶんすけ
)
が、
249
まだ
杢助
(
もくすけ
)
、
250
高姫
(
たかひめ
)
等
(
など
)
が
逃出
(
にげだ
)
した
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らぬものと
悟
(
さと
)
り、
251
稍
(
やや
)
安心
(
あんしん
)
の
胸
(
むね
)
をなで、
252
初
『ハイ、
253
今
(
いま
)
奥
(
おく
)
に
休
(
やす
)
んでゐられますよ。
254
そして、
255
エー、
256
文助
(
ぶんすけ
)
さまに
衝突
(
しようとつ
)
してすまなかつたから、
257
断
(
ことわ
)
りを
云
(
い
)
つて
来
(
き
)
てくれと
仰有
(
おつしや
)
るのですよ。
258
杢助
(
もくすけ
)
さまも
目
(
め
)
がまはるとか
云
(
い
)
つて
休
(
やす
)
んでゐられます、
259
高姫
(
たかひめ
)
さまも
介抱
(
かいほう
)
して
厶
(
ござ
)
るものだから、
260
貴方
(
あなた
)
にお
伺
(
うかが
)
ひにも
行
(
ゆ
)
かれないからと
云
(
い
)
つてくれと
云
(
い
)
はれました』
261
文助
『それはマア
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
有難
(
ありがた
)
いことだ。
262
何卒
(
どうぞ
)
宜
(
よろ
)
しう、
263
文助
(
ぶんすけ
)
が
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
つたと
伝
(
つた
)
へて
下
(
くだ
)
さい。
264
ああ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
の
方
(
かた
)
は、
265
何
(
なに
)
から
何
(
なに
)
までよく
気
(
き
)
の
付
(
つ
)
くものだなア』
266
初
『
時
(
とき
)
に
文助
(
ぶんすけ
)
さま、
267
お
前
(
まへ
)
さま
何
(
なに
)
か
不思議
(
ふしぎ
)
なものを
拾
(
ひろ
)
はなかつたかな』
268
文助
『
別
(
べつ
)
に
何
(
なん
)
にも
拾
(
ひろ
)
つた
覚
(
おぼえ
)
はないが、
269
杢助
(
もくすけ
)
さまと
衝突
(
しようとつ
)
した
時
(
とき
)
、
270
私
(
わたし
)
の
懐
(
ふところ
)
に
妙
(
めう
)
な
声
(
こゑ
)
がするので
探
(
さぐ
)
つて
見
(
み
)
れば、
271
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
のやうなものが
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たのだ。
272
そしてそれを
耳
(
みみ
)
にあてて
見
(
み
)
ると、
273
ブンブンブンと
唸
(
うな
)
つてゐる。
274
此奴
(
こいつ
)
ア
杢助
(
もくすけ
)
さまが
土窩蜂
(
どかばち
)
の
巣
(
す
)
を
握
(
にぎ
)
つて
来
(
き
)
て、
275
私
(
わたし
)
を
吃驚
(
びつくり
)
ささうと
思
(
おも
)
つて、
276
私
(
わたし
)
の
懐
(
ふところ
)
へ
捻込
(
ねぢこ
)
んだのだな。
277
エエ
年
(
とし
)
してテンゴする
人
(
ひと
)
だと
思
(
おも
)
つてゐる。
278
併
(
しか
)
し
何程
(
なにほど
)
年寄
(
としよ
)
つても、
279
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
へ
入
(
はい
)
ると
子供
(
こども
)
のやうになるから、
280
つい
誰
(
たれ
)
しも
悪戯
(
いたづら
)
のしたくなるものだ』
281
初
『
其
(
その
)
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
とやらを
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
せて
下
(
くだ
)
さらぬか』
282
文助
『イヤイヤそんな
物
(
もの
)
いらつて、
283
何
(
ど
)
うなるものか。
284
私
(
わたし
)
はそこらへ
蜂
(
はち
)
に
出
(
で
)
られちや
大変
(
たいへん
)
だと
思
(
おも
)
つて、
285
箱
(
はこ
)
の
中
(
なか
)
へ
入
(
い
)
れて
了
(
しま
)
つたのだ。
286
どうやら
蜂
(
はち
)
が
巣
(
す
)
を
破
(
やぶ
)
つたとみえて、
287
喧
(
やかま
)
しい
事
(
こと
)
いの。
288
こんなものをいぢつたら、
289
それこそ
一遍
(
いつぺん
)
に
目
(
め
)
を
刺
(
さ
)
されて
了
(
しま
)
ひますよ』
290
徳
(
とく
)
『
其
(
その
)
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
を
是非
(
ぜひ
)
とも
見
(
み
)
せて
頂
(
いただ
)
きたいものだな、
291
刺
(
さ
)
されたつて
構
(
かま
)
やしないぢやないか』
292
文助
『イヤ、
293
おきなさい おきなさい、
294
お
前
(
まへ
)
さまばかりの
難儀
(
なんぎ
)
ぢやない、
295
こんな
所
(
ところ
)
であばれられようものなら、
296
誰
(
たれ
)
もかれも
大変
(
たいへん
)
な
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はねばならぬ。
297
それだから
私
(
わし
)
がチヤンと
箱
(
はこ
)
に
入
(
い
)
れてしまつておいたのだ』
298
初
(
はつ
)
『
何卒
(
どうぞ
)
一遍
(
いつぺん
)
、
299
其
(
その
)
箱
(
はこ
)
なつと
見
(
み
)
せて
下
(
くだ
)
さいな。
300
中
(
なか
)
まで
開
(
あ
)
けようとは
言
(
い
)
ひませぬから……』
301
文助
『イヤイヤ、
302
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
に
渡
(
わた
)
してたまらうか、
303
之
(
これ
)
は
直接
(
ちよくせつ
)
に
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
にお
渡
(
わた
)
しするのだ。
304
お
寝
(
やす
)
みになつて
居
(
を
)
れば、
305
何
(
いづ
)
れお
目
(
め
)
が
醒
(
さ
)
めるだらう。
306
其
(
その
)
時
(
とき
)
私
(
わたし
)
が
手
(
て
)
づから
御
(
お
)
渡
(
わた
)
しする
積
(
つも
)
りだ。
307
これは
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
のやうだが、
308
よくよく
考
(
かんが
)
へると、
309
何
(
なに
)
かの
宝
(
たから
)
らしいから、
310
お
前
(
まへ
)
さまに
渡
(
わた
)
すこたア
出来
(
でき
)
ませぬワイ。
311
たつて
渡
(
わた
)
せと
云
(
い
)
ふなら、
312
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
から
何
(
なに
)
か
印
(
しるし
)
をもつて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい、
313
さうすりや
其
(
その
)
印
(
しるし
)
と
引替
(
ひきかへ
)
に
渡
(
わた
)
しませう。
314
後
(
あと
)
から
面倒
(
めんだう
)
が
起
(
おこ
)
ると
文助
(
ぶんすけ
)
も
困
(
こま
)
るからなア』
315
初
『ああ
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だなア、
316
何
(
なん
)
とかして
持
(
も
)
つて
帰
(
い
)
ななくちや
駄目
(
だめ
)
だぞ』
317
文助
『コレ、
318
お
前
(
まへ
)
は
何
(
なん
)
といふ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
る。
319
どこへ
持
(
も
)
つて
帰
(
い
)
ぬのだい』
320
初
『
杢助
(
もくすけ
)
さまのお
居間
(
ゐま
)
まで
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
つて、
321
其
(
その
)
ブンブン
玉
(
だま
)
をお
慰
(
なぐさ
)
みにするのだ。
322
さうすればお
気
(
き
)
の
慰
(
なぐさ
)
めになつて、
323
早
(
はや
)
くお
治
(
なほ
)
りになるだらうからな』
324
文助
『それ
程
(
ほど
)
必要
(
ひつえう
)
なら、
325
之
(
これ
)
から
私
(
わたし
)
が、
326
つい
五間
(
ごけん
)
許
(
ばか
)
りだから、
327
杢助
(
もくすけ
)
さまのお
居間
(
ゐま
)
へお
訪
(
たづ
)
ね
申
(
まを
)
して、
328
直接
(
ちよくせつ
)
お
手
(
て
)
に
渡
(
わた
)
しませう。
329
遠
(
とほ
)
い
所
(
ところ
)
ではなし、
330
面倒
(
めんだう
)
な
手続
(
てつづ
)
きもいらないから……』
331
徳
『オイ、
332
初公
(
はつこう
)
、
333
此奴
(
こいつ
)
ア
迚
(
とて
)
も
駄目
(
だめ
)
だぞ。
334
直接
(
ちよくせつ
)
行動
(
かうどう
)
だ。
335
此
(
この
)
文助
(
ぶんすけ
)
を
押倒
(
おしこか
)
しといて
持
(
も
)
つて
行
(
ゆ
)
かうぢやないか』
336
文助
『ヘン、
337
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
ふない、
338
私
(
わたし
)
が
隠
(
かく
)
してあるのだから、
339
口
(
くち
)
から
外
(
そと
)
へ
出
(
だ
)
さぬ
限
(
かぎ
)
り、
340
お
前
(
まへ
)
たちが
二
(
に
)
年
(
ねん
)
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
かかつて
探
(
さが
)
した
所
(
ところ
)
で、
341
其
(
その
)
所在
(
ありか
)
が
分
(
わか
)
つてたまるものか。
342
何
(
なん
)
でも、
343
あれは
結構
(
けつこう
)
な
神力
(
しんりき
)
を
持
(
も
)
つてゐる
宝
(
たから
)
に
違
(
ちが
)
ひない、
344
私
(
わたし
)
の
身
(
み
)
に
添
(
そ
)
うてゐるのかも
知
(
し
)
れない。
345
何
(
なん
)
だか
俄
(
にはか
)
に
惜
(
を
)
しくなつて
来
(
き
)
た。
346
杢助
(
もくすけ
)
さまが
私
(
わたし
)
を
突
(
つ
)
き
倒
(
たふ
)
してまで、
347
懐
(
ふところ
)
に
入
(
い
)
れてくれたのだから、
348
今
(
いま
)
になつて
返
(
かへ
)
せと
云
(
い
)
つたつて、
349
権利
(
けんり
)
が
此方
(
こちら
)
へ
移
(
うつ
)
れば
最早
(
もはや
)
文助
(
ぶんすけ
)
の
物
(
もの
)
だ。
350
滅多
(
めつた
)
に
返
(
かへ
)
しませぬぞや』
351
此
(
この
)
時
(
とき
)
側
(
そば
)
において
風呂敷
(
ふろしき
)
で
隠
(
かく
)
してあつた
玉箱
(
たまばこ
)
が、
352
ウーンウーンと
一層
(
いつそう
)
高
(
たか
)
く
唸
(
うな
)
り
出
(
だ
)
した。
353
二人
(
ふたり
)
は、
354
初、徳
『ヤ、
355
何
(
なん
)
でも
此
(
この
)
近
(
ちか
)
くにあるらしいぞ。
356
オイ、
357
此
(
この
)
盲爺
(
めくらぢい
)
を
貴様
(
きさま
)
、
358
突倒
(
つつこか
)
して
抑
(
おさ
)
へてをれ、
359
其
(
その
)
間
(
ま
)
に
俺
(
おれ
)
が
捜索
(
そうさく
)
するから……』
360
文助
『コリヤ、
361
目
(
め
)
がみえなくても、
362
まさかの
時
(
とき
)
になればコレ
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
363
細
(
こま
)
かい
絵
(
ゑ
)
を
描
(
か
)
く
俺
(
おれ
)
だぞ。
364
俺
(
おれ
)
はワザとに
盲
(
めくら
)
と
云
(
い
)
つて、
365
貴様
(
きさま
)
たちの
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
るのだ。
366
盲
(
めくら
)
でない
証拠
(
しようこ
)
は
此
(
この
)
絵
(
ゑ
)
をみい、
367
これでも
分
(
わか
)
るだろ。
368
そして
柔道
(
じうだう
)
は
百段
(
ひやくだん
)
の
免状取
(
めんじやうと
)
りだ。
369
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
が
十
(
じふ
)
人
(
にん
)
や
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
束
(
たば
)
になつて
来
(
き
)
たとて、
370
こたへるやうな
文助
(
ぶんすけ
)
ぢやないぞ。
371
此
(
この
)
玉
(
たま
)
はブンブンいふから
文助
(
ぶんすけ
)
に
授
(
さづ
)
かつた
文助玉
(
ぶんすけだま
)
だぞ。
372
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
に
渡
(
わた
)
すべき
物
(
もの
)
ぢやない、
373
秋口
(
あきぐち
)
の
蚊
(
か
)
のやうにブンブンぬかさずに、
374
すつ
込
(
こ
)
んでゐなさい。
375
それよりも
早
(
はや
)
く
炊事場
(
すゐじば
)
へ
行
(
い
)
つて、
376
御飯
(
ごはん
)
の
用意
(
ようい
)
でもしたがよからうぞや。
377
ゴテゴテ
申
(
まを
)
すと、
378
松姫
(
まつひめ
)
さまに
申上
(
まをしあ
)
げるぞえ』
379
初
(
はつ
)
『ヤア、
380
此奴
(
こいつ
)
ア、
381
一寸
(
ちよつと
)
グツが
悪
(
わる
)
いワイ。
382
柔道
(
じうだう
)
百段
(
ひやくだん
)
と
聞
(
き
)
いちやア、
383
滅多
(
めつた
)
に
手出
(
てだ
)
しは
出来
(
でき
)
ぬぞ。
384
俺
(
おれ
)
も
尻
(
しり
)
さへ
痛
(
いた
)
くなけりや、
385
こんな
爺
(
ぢい
)
さまの
一人
(
ひとり
)
や
二人
(
ふたり
)
何
(
なん
)
でもないが、
386
だんだん
腫
(
は
)
れて
来
(
き
)
て
歩
(
ある
)
けないからな』
387
徳
(
とく
)
『それでも
杢助
(
もくすけ
)
さまや
高姫
(
たかひめ
)
さまが
怪志
(
あやし
)
の
森
(
もり
)
に
待
(
ま
)
つて
厶
(
ござ
)
るぢやないか』
388
文助
『ナニ、
389
怪志
(
あやし
)
の
森
(
もり
)
に
待
(
ま
)
つて
厶
(
ござ
)
ると。
390
ハハア、
391
さうすると、
392
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
に
叱
(
しか
)
られて、
393
逃
(
に
)
げよつたのだなア、
394
フーン、
395
それで
何
(
なん
)
だか
犬
(
いぬ
)
がワンワン
吠
(
な
)
いて
居
(
を
)
つたて』
396
徳
『オイ
初公
(
はつこう
)
、
397
此奴
(
こいつ
)
、
398
目
(
め
)
が
見
(
み
)
えるなんて
嘘
(
うそ
)
だよ。
399
何
(
なん
)
でも
此
(
この
)
間中
(
まぢう
)
捜
(
さが
)
せばあるのだ。
400
貴様
(
きさま
)
、
401
此
(
この
)
爺
(
ぢい
)
と
一
(
ひと
)
つ
格闘
(
かくとう
)
してをれ、
402
其
(
その
)
間
(
ま
)
に
俺
(
おれ
)
が
捜
(
さが
)
すから』
403
初
『
俺
(
おれ
)
は
体
(
からだ
)
が
自由
(
じいう
)
にならぬから、
404
ヤツパリ
貴様
(
きさま
)
、
405
文助
(
ぶんすけ
)
と
格闘
(
かくとう
)
してをれ、
406
其
(
その
)
間
(
ま
)
にマンマと
玉
(
たま
)
を
捜
(
さが
)
し
出
(
だ
)
して
持
(
も
)
つて
行
(
ゆ
)
くから……』
407
徳
『ヨーシ』
408
と
徳
(
とく
)
は
文助
(
ぶんすけ
)
の
足
(
あし
)
をさらへ、
409
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
倒
(
たふ
)
した。
410
文助
(
ぶんすけ
)
は
実際
(
じつさい
)
目
(
め
)
が
見
(
み
)
えぬのである。
411
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
文助
(
ぶんすけ
)
は
呶鳴
(
どな
)
りながら、
412
徳
(
とく
)
と
格闘
(
かくとう
)
をしてゐる。
413
徳
(
とく
)
も
尻
(
しり
)
がはれ、
414
足
(
あし
)
が
自由
(
じいう
)
に
動
(
うご
)
かぬので、
415
盲
(
めくら
)
の
文助
(
ぶんすけ
)
に
捻
(
ね
)
ぢ
抑
(
おさ
)
へられ、
416
フーフーいつて
居
(
ゐ
)
る。
417
初公
(
はつこう
)
は
音
(
おと
)
のするのを
耳
(
みみ
)
をすまして
考
(
かんが
)
へてゐたが、
418
前
(
まへ
)
にするかと
思
(
おも
)
へば
後
(
うしろ
)
に
聞
(
きこ
)
える、
419
右
(
みぎ
)
に
聞
(
きこ
)
えたり
左
(
ひだり
)
に
聞
(
きこ
)
えたり、
420
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
に
聞
(
きこ
)
えたり
又
(
また
)
床下
(
ゆかした
)
のやうでもあり、
421
チツとも
見当
(
けんたう
)
がつかなかつた。
422
そこへ
二人
(
ふたり
)
がドタン、
423
バタンと
騒
(
さわ
)
ぐ
音
(
おと
)
、
424
喚
(
わめ
)
く
声
(
こゑ
)
がゴツチヤになつて、
425
如何
(
どう
)
しても
処在
(
ありか
)
が
分
(
わか
)
らない。
426
フト
風呂敷
(
ふろしき
)
に
躓
(
つまづ
)
いた
拍子
(
ひやうし
)
に、
427
古
(
ふる
)
い
四角
(
しかく
)
い
箱
(
はこ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た。
428
手早
(
てばや
)
く
手
(
て
)
に
取
(
と
)
つて
耳
(
みみ
)
にあてると、
429
ウンウンウンと
唸
(
うな
)
つてゐる。
430
初公
(
はつこう
)
は、
431
初
『ヤ、
432
これに
間違
(
まちが
)
ひない』
433
と
懐
(
ふところ
)
に
捻込
(
ねぢこ
)
み、
434
文助
(
ぶんすけ
)
の
頭
(
あたま
)
を
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つこついた。
435
文助
(
ぶんすけ
)
はビツクリして
手
(
て
)
を
放
(
はな
)
した、
436
トタンに
徳公
(
とくこう
)
は
漸
(
やうや
)
く
遁
(
のが
)
れ、
437
初公
(
はつこう
)
と
共
(
とも
)
に
足
(
あし
)
をチガチガさせながら、
438
坂路
(
さかみち
)
を
這
(
は
)
ふやうにして
下
(
くだ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
439
漸
(
やうや
)
くにして
命
(
いのち
)
カラガラ
怪志
(
あやし
)
の
森
(
もり
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
440
そして
手柄
(
てがら
)
さうに
妖幻坊
(
えうげんばう
)
の
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれ、
441
両人
(
りやうにん
)
『ヘー、
442
やつとの
事
(
こと
)
で、
443
只今
(
ただいま
)
帰
(
かへ
)
りました』
444
妖幻
(
えうげん
)
『ヤ、
445
それは
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だつた、
446
分
(
わか
)
つたかなア』
447
初
(
はつ
)
『ヘー、
448
中々
(
なかなか
)
分
(
わか
)
りませぬ。
449
文助
(
ぶんすけ
)
の
奴
(
やつ
)
、
450
どつかへ
隠
(
かく
)
して
了
(
しま
)
ひ、
451
すつたもんだと、
452
小理窟
(
こりくつ
)
ばかり
吐
(
ぬか
)
して、
453
そんな
物
(
もの
)
は
知
(
し
)
らぬといふのです。
454
そこで
私
(
わたし
)
と
徳公
(
とくこう
)
が、
455
何
(
なに
)
知
(
し
)
らぬ
筈
(
はず
)
があるものか、
456
其
(
その
)
ブンブン
玉
(
だま
)
を
渡
(
わた
)
せと
左右
(
さいう
)
よりつめよりますと、
457
あの
文助
(
ぶんすけ
)
、
458
柔道
(
じうだう
)
百段
(
ひやくだん
)
の
免状取
(
めんじやうとり
)
ですから、
459
はしかいの、
460
はしこないのつて、
461
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
を
右
(
みぎ
)
へ
投
(
な
)
げ
左
(
ひだり
)
へ
投
(
な
)
げ、
462
手玉
(
てだま
)
に
取
(
と
)
つて
翻弄
(
ほんろう
)
致
(
いた
)
します。
463
私
(
わたし
)
も
常
(
つね
)
なら、
464
あんな
爺
(
ぢぢ
)
位
(
くらゐ
)
指一本
(
ゆびいつぽん
)
で
押
(
おさ
)
へてやるのですが、
465
何
(
なに
)
しろお
前
(
まへ
)
さまらに
打
(
う
)
たれて
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
腫
(
は
)
れ
上
(
あが
)
つたものだから、
466
其
(
その
)
上
(
うへ
)
又
(
また
)
痛
(
いた
)
い
尻
(
しり
)
を
叩
(
たた
)
かれ、
467
イヤハヤ
苦
(
くる
)
しい
目
(
め
)
を
致
(
いた
)
しました』
468
妖幻坊の杢助
『それはさうと、
469
玉
(
たま
)
は
手
(
て
)
に
入
(
い
)
つたのか。
470
どうだ、
471
早
(
はや
)
くいはぬか』
472
初
『ヘー、
473
此
(
この
)
ブンブン
玉
(
だま
)
は、
474
ブンブンいふから
文助
(
ぶんすけ
)
に
因縁
(
いんねん
)
がある、
475
これは
杢助
(
もくすけ
)
さまが
私
(
わたし
)
にくれたのだ。
476
私
(
わたし
)
を
突飛
(
つきと
)
ばしてまで
懐
(
ふところ
)
へ
捻込
(
ねぢこ
)
んで
下
(
くだ
)
さつたのだから、
477
返
(
かへ
)
せというても、
478
何処
(
どこ
)
までも
返
(
かへ
)
さないと
頑張
(
ぐわんば
)
ります。
479
そして
此
(
この
)
玉
(
たま
)
は
始
(
はじ
)
めは
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
かと
思
(
おも
)
つてゐたが、
480
決
(
けつ
)
してさうではない、
481
結構
(
けつこう
)
な
宝
(
たから
)
だと
云
(
い
)
つて、
482
あの
爺
(
ぢい
)
、
483
執着心
(
しふちやくしん
)
が
強
(
つよ
)
く、
484
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
うても
返
(
かへ
)
さないのです』
485
高姫
(
たかひめ
)
『エーエ、
486
雉子
(
きぎす
)
の
直使
(
ひたづかひ
)
とはお
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
だ。
487
何
(
なに
)
をさしても
役
(
やく
)
にたたぬ
男
(
をとこ
)
だな、
488
お
前
(
まへ
)
さまは
睾丸
(
きんたま
)
を
何処
(
どこ
)
へ
落
(
おと
)
したのだ』
489
初
(
はつ
)
『ヘー、
490
余
(
あま
)
り
尻
(
しり
)
を
叩
(
たた
)
かれたものですから、
491
ビツクリしてどつかへ
転宅
(
てんたく
)
して
了
(
しま
)
ひました』
492
徳
(
とく
)
『
併
(
しか
)
し
両人
(
りやうにん
)
が
奮戦
(
ふんせん
)
激闘
(
げきとう
)
火花
(
ひばな
)
を
散
(
ち
)
らし、
493
戦
(
たたか
)
ひの
結果
(
けつくわ
)
、
494
戦利品
(
せんりひん
)
として、
495
其
(
その
)
ブンブン
玉
(
だま
)
をここへ
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
りました。
496
イザ、
497
改
(
あらた
)
めて、
498
お
受取
(
うけと
)
り
下
(
くだ
)
さいませう』
499
高姫
『
何
(
なん
)
だ、
500
本当
(
ほんたう
)
に
腹
(
はら
)
の
悪
(
わる
)
い、
501
肝
(
きも
)
をつぶしたぢやないか。
502
早
(
はや
)
く
此処
(
ここ
)
へお
出
(
だ
)
し、
503
コレ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
504
喜
(
よろこ
)
びなさい。
505
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
、
506
碌
(
ろく
)
でなしだと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
つたが、
507
みんごと
役
(
やく
)
に
立
(
た
)
つたやうです』
508
妖幻
(
えうげん
)
『オイ
両人
(
りやうにん
)
、
509
本当
(
ほんたう
)
に
其
(
その
)
玉
(
たま
)
を
取返
(
とりかへ
)
して
来
(
き
)
たのか』
510
初
『ヘーヘ、
511
それは
流石
(
さすが
)
初
(
はつ
)
さまですワイ』
512
徳
『
某
(
それがし
)
が
文助
(
ぶんすけ
)
爺
(
ぢい
)
と
大格闘
(
だいかくとう
)
を
演
(
えん
)
じてゐる、
513
其
(
その
)
隙
(
すき
)
に
初公
(
はつこう
)
に
命
(
めい
)
じてぼつたくらしたのですよ』
514
妖幻坊の杢助
『それは
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だつた、
515
どうぞ、
516
サ、
517
早
(
はや
)
く
俺
(
おれ
)
の
懐
(
ふところ
)
へソツと
入
(
い
)
れてくれ』
518
高姫
(
たかひめ
)
『
一寸
(
ちよつと
)
私
(
わたし
)
に
見
(
み
)
せて
下
(
くだ
)
さい、
519
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
なれば
私
(
わたし
)
も
因縁
(
いんねん
)
があるのだ、
520
真
(
しん
)
か
偽
(
ぎ
)
か
一遍
(
いつぺん
)
調
(
しら
)
べておく
必要
(
ひつえう
)
があるから、
521
サ、
522
チヤツと
見
(
み
)
せなさい』
523
妖幻坊の杢助
『イヤ
決
(
けつ
)
して
見
(
み
)
せちやならないぞ、
524
直様
(
すぐさま
)
私
(
わし
)
に
渡
(
わた
)
すのだ、
525
高姫
(
たかひめ
)
に
渡
(
わた
)
すと、
526
一寸
(
ちよつと
)
都合
(
つがふ
)
の
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
がある、
527
之
(
これ
)
は
誰
(
たれ
)
にも
渡
(
わた
)
さないといふ
玉
(
たま
)
だから』
528
高姫
『ヘン、
529
よう
仰有
(
おつしや
)
いますワイ。
530
初公
(
はつこう
)
が
今
(
いま
)
現
(
げん
)
に
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
つたぢやありませぬか。
531
女房
(
にようばう
)
の
私
(
わたし
)
が
何故
(
なぜ
)
一寸
(
ちよつと
)
位
(
くらゐ
)
見
(
み
)
られぬのです。
532
お
前
(
まへ
)
さまに
返
(
かへ
)
さぬといふぢやなし、
533
そんな
水臭
(
みづくさ
)
い
事
(
こと
)
云
(
い
)
ふものぢやありませぬぞや』
534
妖幻坊の杢助
『それでもお
前
(
まへ
)
は、
535
大変
(
たいへん
)
に
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
に
執着心
(
しふちやくしん
)
を
持
(
も
)
つてゐるから、
536
渡
(
わた
)
せないと
言
(
い
)
ふのだ。
537
此
(
この
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
はチツとも
欲
(
よく
)
のない
者
(
もの
)
が
持
(
も
)
たなくちや
汚
(
けが
)
れるからな』
538
高姫
『ヘン、
539
汚
(
けが
)
れますかな。
540
それなら、
541
よう
私
(
わたし
)
のやうな
汚
(
けが
)
れた
女
(
をんな
)
と
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
んだり、
542
一緒
(
いつしよ
)
に
寝
(
やす
)
んだりなさいますな。
543
何
(
なん
)
とマア
口
(
くち
)
といふものは
調法
(
てうはふ
)
なものだ。
544
それ
程
(
ほど
)
私
(
わたし
)
が
憎
(
にく
)
いのですか。
545
ヘン、
546
宜
(
よろ
)
しい、
547
私
(
わたし
)
も
私
(
わたし
)
で、
548
考
(
かんが
)
へがありますから』
549
妖幻坊の杢助
『さう
怒
(
おこ
)
つて
貰
(
もら
)
つちや
困
(
こま
)
るぢやないか。
550
今
(
いま
)
見
(
み
)
せなくても、
551
かうして
立派
(
りつぱ
)
に
箱
(
はこ
)
へ
入
(
はい
)
つてるのだから、
552
トツクリと
又
(
また
)
見
(
み
)
せてやるぢやないか。
553
オイ
初
(
はつ
)
、
554
徳
(
とく
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
555
中
(
なか
)
を
開
(
あ
)
けて
見
(
み
)
たか、
556
何
(
ど
)
うだ』
557
初
(
はつ
)
『エエ
滅相
(
めつさう
)
な、
558
かうブンブン
唸
(
うな
)
つてるのだから、
559
うつかり
開
(
あ
)
けて
蜂
(
はち
)
にでも
刺
(
さ
)
されたら
大変
(
たいへん
)
ですからな、
560
コハゴハ
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
たのですよ』
561
妖幻坊の杢助
『ヤア、
562
そりや
出
(
で
)
かした、
563
それで
結構
(
けつこう
)
だ。
564
オイ
高姫
(
たかひめ
)
さま、
565
又
(
また
)
今晩
(
こんばん
)
ゆつくりと、
566
お
前
(
まへ
)
だけに
見
(
み
)
せるから、
567
それまで
待
(
ま
)
つてゐてくれ。
568
ここで
開
(
あ
)
けると、
569
此
(
この
)
両人
(
りやうにん
)
が
見
(
み
)
るからなア。
570
さうすりや、
571
それだけ
神力
(
しんりき
)
がおちるのだから』
572
高姫
『
成程
(
なるほど
)
、
573
それなら
分
(
わか
)
りました。
574
キツト
見
(
み
)
せて
下
(
くだ
)
さるでせうなア』
575
妖幻坊の杢助
『ウン、
576
男
(
をとこ
)
が
一旦
(
いつたん
)
見
(
み
)
せると
云
(
い
)
つたら
見
(
み
)
せるよ』
577
高姫
『キツトですなア』
578
妖幻坊の杢助
『ウン、
579
キツトだ。
580
もし
間違
(
まちが
)
つたら、
581
俺
(
おれ
)
の
一
(
ひと
)
つよりない
首
(
くび
)
を、
582
幾
(
いく
)
つでもお
前
(
まへ
)
に
進上
(
しんじやう
)
する。
583
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
584
親
(
した
)
しい
夫婦
(
ふうふ
)
の
仲
(
なか
)
ぢやないか、
585
さう
俺
(
おれ
)
の
心
(
こころ
)
を
疑
(
うたが
)
ふものぢやないワ』
586
高姫
『
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
みませぬ。
587
サ、
588
杢
(
もく
)
ちやま、
589
モウちつと
許
(
ばか
)
り
先方
(
むかふ
)
まで
行
(
ゆ
)
きませうか』
590
初
(
はつ
)
『もし
杢助
(
もくすけ
)
さま、
591
高姫
(
たかひめ
)
さま、
592
私
(
わたし
)
は
足
(
あし
)
が
痛
(
いた
)
くつて、
593
モ
一歩
(
いつぽ
)
も
歩
(
ある
)
けぬやうになりました。
594
どうぞ
此処
(
ここ
)
で
今晩
(
こんばん
)
は
露宿
(
ろしゆく
)
して
下
(
くだ
)
さいな』
595
徳
(
とく
)
『
私
(
わたし
)
も
歩
(
ある
)
けませぬ。
596
余
(
あま
)
り
尻
(
しり
)
を
叩
(
たた
)
かれたものですから、
597
どうぞ
明日
(
あす
)
の
朝
(
あさ
)
まで、
598
ここでとまる
事
(
こと
)
にして
下
(
くだ
)
さい、
599
さうすれば
明日
(
あす
)
になつたら、
600
キツト
歩
(
ある
)
けるやうになるでせうから』
601
高姫
(
たかひめ
)
『エーエ、
602
仕方
(
しかた
)
のない
男
(
をとこ
)
だなア。
603
コレ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
604
ここに、
605
今晩
(
こんばん
)
は
泊
(
とま
)
つてやりませうか。
606
二人
(
ふたり
)
が
余
(
あま
)
り
可愛相
(
かあいさう
)
ぢやありませぬか』
607
妖幻
(
えうげん
)
『ああ
仕方
(
しかた
)
がないなア。
608
せめてモウ
一
(
いち
)
里
(
り
)
許
(
ばか
)
り、
609
何
(
ど
)
うとかして
歩
(
ある
)
くことが
出来
(
でき
)
ぬのか。
610
オイ
両人
(
りやうにん
)
、
611
チツと
気
(
き
)
をはりつめて、
612
モウ
一
(
いち
)
里
(
り
)
許
(
ばか
)
り
従
(
つ
)
いて
来
(
き
)
たら
何
(
ど
)
うだ』
613
初
(
はつ
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
つても、
614
とても
体
(
からだ
)
が
動
(
うご
)
きませぬワ』
615
妖幻坊の杢助
『ウーン、
616
そいつア
困
(
こま
)
つたのう。
617
徳
(
とく
)
は
何
(
ど
)
うだ、
618
チツと
位
(
くらゐ
)
歩
(
ある
)
けるだろ』
619
徳
『
私
(
わたし
)
だつて、
620
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
ですわ、
621
初
(
はつ
)
の
疵
(
きず
)
よりも
余程
(
よつぽど
)
ひどいのですからなア。
622
本当
(
ほんたう
)
に
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
は
甚
(
ひど
)
い
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はしましたねえ。
623
八百長
(
やほちやう
)
の
芝居
(
しばゐ
)
がこんなにならうとは
思
(
おも
)
ひませなんだ。
624
今
(
いま
)
こそ
気
(
き
)
が
張
(
は
)
つて
居
(
を
)
りますが、
625
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
痛
(
いた
)
くつて
痛
(
いた
)
くつて
仕方
(
しかた
)
がありませぬワ』
626
高姫
(
たかひめ
)
『あああ、
627
これも
係
(
かか
)
り
合
(
あは
)
せだ。
628
仕方
(
しかた
)
がない、
629
それなら
此
(
この
)
森
(
もり
)
で、
630
今晩
(
こんばん
)
は
一夜
(
いちや
)
明
(
あ
)
かす
事
(
こと
)
にしませう。
631
なア
杢助
(
もくすけ
)
さま、
632
貴方
(
あなた
)
もさうして
下
(
くだ
)
さいな』
633
妖幻坊の杢助
『ウーン、
634
それなら、
635
さうしてもよい。
636
併
(
しか
)
し、
637
高姫
(
たかひめ
)
、
638
お
前
(
まへ
)
はスマートが
来
(
こ
)
ないやうに
気
(
き
)
をつけてゐてくれよ。
639
俺
(
おれ
)
は
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが、
640
あれ
位
(
くらゐ
)
気
(
き
)
にくはぬ
奴
(
やつ
)
はないのだから』
641
高姫
『
私
(
わたし
)
だつて、
642
彼奴
(
あいつ
)
の
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
くと、
643
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
がデングリ
返
(
かへ
)
るやうに
苦
(
くる
)
しいのですよ』
644
初
(
はつ
)
『もし、
645
お
二人
(
ふたり
)
さま、
646
私
(
わたし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さつて、
647
ここでお
泊
(
とま
)
りになるのなれば、
648
私
(
わたし
)
は
犬
(
いぬ
)
の
番
(
ばん
)
を
致
(
いた
)
します。
649
犬
(
いぬ
)
なら、
650
仮令
(
たとへ
)
五十匹
(
ごじつぴき
)
や
百匹
(
ひやくぴき
)
やつて
来
(
き
)
たつて、
651
ビクとも
致
(
いた
)
しませぬ。
652
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
から
犬博労
(
いぬばくらう
)
と
綽名
(
あだな
)
を
取
(
と
)
つた
男
(
をとこ
)
です。
653
随分
(
ずいぶん
)
犬
(
いぬ
)
の
咬
(
か
)
み
合
(
あは
)
せに、
654
そこら
中
(
ぢう
)
へ
行
(
い
)
つたものですから、
655
犬
(
いぬ
)
に
対
(
たい
)
する
呼吸
(
こきふ
)
は
充分
(
じうぶん
)
呑込
(
のみこ
)
んで
居
(
を
)
りますからなア』
656
高姫
(
たかひめ
)
『ヤ、
657
それは
重宝
(
ちようほう
)
な
男
(
をとこ
)
だ。
658
さうすると、
659
お
前
(
まへ
)
は
今晩
(
こんばん
)
は
犬番
(
けんばん
)
を
勤
(
つと
)
めて
貰
(
もら
)
はうかな。
660
狐
(
きつね
)
狸
(
たぬき
)
の
集
(
あつ
)
まつてゐる
芸者屋
(
げいしやや
)
でも、
661
ヤツパリ、
662
ケン
番
(
ばん
)
がおいてあるからな』
663
初
(
はつ
)
『それなら、
664
徳
(
とく
)
と
両人
(
りやうにん
)
が
神妙
(
しんめう
)
に
御用
(
ごよう
)
致
(
いた
)
しませう、
665
ああ
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い、
666
いよいよ
星
(
ほし
)
の
蒲団
(
ふとん
)
に
草
(
くさ
)
の
褥
(
しとね
)
、
667
といふ
段取
(
だんどり
)
だ。
668
桃
(
もも
)
の
花
(
はな
)
の
香
(
かを
)
りが、
669
何
(
なん
)
とはなしに、
670
身
(
み
)
に
沁
(
し
)
みるやうだ。
671
あああ
早
(
はや
)
いものだ、
672
たうとう
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れたとみえるワイ。
673
ここは
怪志
(
あやし
)
の
森
(
もり
)
と
云
(
い
)
つて、
674
化物
(
ばけもの
)
が
出
(
で
)
るといふ
事
(
こと
)
だが、
675
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
676
時置師
(
ときおかしの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
供
(
とも
)
だから
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
677
そこへ、
678
あのブンブン
玉
(
だま
)
があるのだから、
679
何
(
なに
)
が
来
(
き
)
たつて、
680
チツとも
恐
(
おそ
)
るる
事
(
こと
)
はない、
681
なア
徳
(
とく
)
』
682
徳
『ウン、
683
さうださうだ、
684
それなら
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
685
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
、
686
お
休
(
やす
)
みなさいませ』
687
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ、
688
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
、
689
お
祝詞
(
のりと
)
をあげて
寝
(
やす
)
まぬかいな。
690
私
(
わたし
)
は
霊
(
みたま
)
が
違
(
ちが
)
ふから、
691
杢助
(
もくすけ
)
さまと
二人
(
ふたり
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
拝
(
をが
)
む
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かない。
692
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
高天原
(
たかあまはら
)
の
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
の
霊
(
みたま
)
、
693
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
だから、
694
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
八衢
(
やちまた
)
にまだうろついてをる、
695
言
(
い
)
はば
娑婆
(
しやば
)
亡者
(
まうじや
)
だから……
天国
(
てんごく
)
へやつて
下
(
くだ
)
さるやうに、
696
起
(
お
)
きた
時
(
とき
)
と
寝
(
ね
)
る
時
(
とき
)
には、
697
必
(
かなら
)
ず
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
するのだよ』
698
妖幻
(
えうげん
)
『イヤ、
699
両人
(
りやうにん
)
、
700
今晩
(
こんばん
)
は
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
は
免除
(
めんぢよ
)
しておく。
701
沢山
(
たくさん
)
の
天人
(
てんにん
)
様
(
さま
)
がお
出
(
い
)
でになると、
702
一寸
(
ちよつと
)
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
に
困
(
こま
)
るからなア、
703
ハツハハハ』
704
高姫
『コレ、
705
今日
(
けふ
)
は
杢助
(
もくすけ
)
さまの
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
で、
706
許
(
ゆる
)
して
上
(
あ
)
げるけれど、
707
明日
(
あす
)
からはキツト
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
上
(
あ
)
げるのだよ』
708
両人
(
りやうにん
)
は、
709
初、徳
『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
710
と
言
(
い
)
ひも
了
(
をは
)
らず、
711
疲労
(
くたび
)
れはてて
横
(
よこ
)
になつた
儘
(
まま
)
、
712
白河
(
しらかは
)
夜船
(
よぶね
)
を
漕
(
こ
)
いでゐる。
713
其
(
その
)
間
(
ま
)
に
高姫
(
たかひめ
)
は
杢助
(
もくすけ
)
を
促
(
うなが
)
し、
714
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
森
(
もり
)
を
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
し、
715
浮木
(
うきき
)
の
里
(
さと
)
を
指
(
さ
)
して、
716
暗
(
やみ
)
の
道
(
みち
)
を
韋駄天
(
ゐだてん
)
走
(
ばし
)
りに
駆出
(
かけだ
)
した。
717
高姫
(
たかひめ
)
及
(
およ
)
び
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は、
718
今後
(
こんご
)
如何
(
いか
)
なる
活動
(
くわつどう
)
をするであらうか。
719
(
大正一二・一・二五
旧一一・一二・九
松村真澄
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 舞踏怪
(B)
(N)
曲輪城 >>>
霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第51巻(寅の巻)
> 第2篇 夢幻楼閣 > 第7章 曲輪玉
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【第7章 曲輪玉|第51巻|真善美愛|霊界物語|/rm5107】
合言葉「みろく」を入力して下さい→