ランチと片彦は館の立派なのに感心している。高姫は侍女二人に命じて、父王に来客を告げに行かせた。初花姫を騙る高姫は、ランチと片彦を案内して奥の間に進ん出で行く。
観音開きの部屋の前に着いた。扉が開いて、さらに侍女たちが出てきて三人を迎えた。高姫は侍女にランチと片彦の案内を命じると、自分は父母に会ってくると言って姿を隠した。ランチと片彦は観音開きの扉をくぐって中の間に入り、侍女に勧められるままに椅子に腰を下ろした。これは実は高姫に与えられた狸穴であった。
二人は何ともいえない心地よい気分になり、コクリコクリと夢路に入った。ドアはいつの間にか固く閉ざされてしまった。
しばらくすると、二人の肩を叩く者がある。目を覚ますと、机の上には美しい器に盛られた酒や寿司や果物が並べられていた。見ると、美しい着物を着た妙齢の婦人が三人、二人に向かい合っている。
ランチは驚いてうたた寝をしてしまった不調法を詫びた。三人の中に中央の美人は、自分は三五教の宣伝使・初稚姫だと名乗り、両脇の二人は秋子姫、豊子姫というコーラン国の侍女だと紹介した。そして、ハルナの都を目指す宣伝の旅の途上、ここでコーラン国の如意王に出会い、しばらく足を止めることにしたのだ、と語った。
ランチと片彦は、思わぬところで高名な宣伝使・初稚姫に面会を得たと、それぞれ挨拶と自己紹介を行った。初稚姫は、秋子と豊子に命じて、さかんに両人に酒を進めさせた。二人は酒と女の美貌に酔いつぶれてしまった。
二人は秋子と豊子に手をひかれて一室に導かれ、寝に就いた。しばらくして二人が気が付くと、石に囲まれた一室に横たわっていた。一枚板を立てたような大理石で包まれていて、どこにも出入り口がない。
二人は慌てて、難事に当たって天津祝詞を奏上しようとしたが、どうしたことか一言も祝詞の言葉が出てこない。アオウエイの言霊を繰り返したが、何の効能もなかった。
しばらくすると、足許や壁からカツカツと音がして、タケノコのように鋭利な槍が石畳を通して突き出してきた。二人は槍を避けて、槍に包まれながらまっすぐに立っているのがやっとだった。
すると槍の穂先が蛇に変じて鎌首をもたげ、火を吐くやつ、水を吐くやつ、黒煙を吐くやつがいる。次第に蛇の首は伸びてきて、両人の体をがんじ絡みにしてしまった。するとどこからともなく太鼓のような声が聞こえてきて、二人に三五教を棄てるように迫った。
二人はいかに脅されても屈せずに声に言霊で言いかえし、抵抗した。槍は林のごとく立ち、火は炎々とt燃えてきた。蛇とムカデはが体一面にたかってくるが、なぜか痛くもかゆくもなかった。ランチと片彦はこれぞまったく神様のご守護と大神を念じ、一時も早く天国に上らんことのみを念じつつあった。