霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 槍襖(やりぶすま)〔一三二八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻 篇:第3篇 鷹魅艶態 よみ(新仮名遣い):ようみえんたい
章:第13章 槍襖 よみ(新仮名遣い):やりぶすま 通し章番号:1328
口述日:1923(大正12)年01月26日(旧12月10日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月29日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
ランチと片彦は館の立派なのに感心している。高姫は侍女二人に命じて、父王に来客を告げに行かせた。初花姫を騙る高姫は、ランチと片彦を案内して奥の間に進ん出で行く。
観音開きの部屋の前に着いた。扉が開いて、さらに侍女たちが出てきて三人を迎えた。高姫は侍女にランチと片彦の案内を命じると、自分は父母に会ってくると言って姿を隠した。ランチと片彦は観音開きの扉をくぐって中の間に入り、侍女に勧められるままに椅子に腰を下ろした。これは実は高姫に与えられた狸穴であった。
二人は何ともいえない心地よい気分になり、コクリコクリと夢路に入った。ドアはいつの間にか固く閉ざされてしまった。
しばらくすると、二人の肩を叩く者がある。目を覚ますと、机の上には美しい器に盛られた酒や寿司や果物が並べられていた。見ると、美しい着物を着た妙齢の婦人が三人、二人に向かい合っている。
ランチは驚いてうたた寝をしてしまった不調法を詫びた。三人の中に中央の美人は、自分は三五教の宣伝使・初稚姫だと名乗り、両脇の二人は秋子姫、豊子姫というコーラン国の侍女だと紹介した。そして、ハルナの都を目指す宣伝の旅の途上、ここでコーラン国の如意王に出会い、しばらく足を止めることにしたのだ、と語った。
ランチと片彦は、思わぬところで高名な宣伝使・初稚姫に面会を得たと、それぞれ挨拶と自己紹介を行った。初稚姫は、秋子と豊子に命じて、さかんに両人に酒を進めさせた。二人は酒と女の美貌に酔いつぶれてしまった。
二人は秋子と豊子に手をひかれて一室に導かれ、寝に就いた。しばらくして二人が気が付くと、石に囲まれた一室に横たわっていた。一枚板を立てたような大理石で包まれていて、どこにも出入り口がない。
二人は慌てて、難事に当たって天津祝詞を奏上しようとしたが、どうしたことか一言も祝詞の言葉が出てこない。アオウエイの言霊を繰り返したが、何の効能もなかった。
しばらくすると、足許や壁からカツカツと音がして、タケノコのように鋭利な槍が石畳を通して突き出してきた。二人は槍を避けて、槍に包まれながらまっすぐに立っているのがやっとだった。
すると槍の穂先が蛇に変じて鎌首をもたげ、火を吐くやつ、水を吐くやつ、黒煙を吐くやつがいる。次第に蛇の首は伸びてきて、両人の体をがんじ絡みにしてしまった。するとどこからともなく太鼓のような声が聞こえてきて、二人に三五教を棄てるように迫った。
二人はいかに脅されても屈せずに声に言霊で言いかえし、抵抗した。槍は林のごとく立ち、火は炎々とt燃えてきた。蛇とムカデはが体一面にたかってくるが、なぜか痛くもかゆくもなかった。ランチと片彦はこれぞまったく神様のご守護と大神を念じ、一時も早く天国に上らんことのみを念じつつあった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-09-07 18:53:21 文字数:4743 OBC :rm5113
愛善世界社版:188頁 八幡書店版:第9輯 333頁 修補版: 校定版:194頁 普及版:85頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)は玄関口(げんくわんぐち)につき、
002高姫『もし御(ご)両人(りやうにん)様(さま)、003何卒(どうぞ)お上(あが)り下(くだ)さいませ。004これが父(ちち)の本宅(ほんたく)で厶(ござ)います』
005ランチ『イヤ有難(ありがた)う厶(ござ)る。006何(なん)とまア、007四辺(あたり)眩(まばゆ)きばかり七宝(しつぱう)をもつて飾(かざ)られ、008恰(あだか)も天国(てんごく)浄土(じやうど)の荘厳(さうごん)を見(み)るやうで厶(ござ)る』
009片彦(かたひこ)『いかにも左様(さやう)、010某(それがし)生(うま)れてからまだ、011斯様(かやう)の館(やかた)を拝見(はいけん)した事(こと)がない。012ハルナの都(みやこ)の霊照殿(れいせうでん)でも、013このお館(やかた)に比(くら)ぶれば非常(ひじやう)な劣(おと)りを感(かん)じまする』
014高姫『お二人(ふたり)様(さま)、015お恥(はづ)かしい破家(あばらや)で厶(ござ)います、016何卒(どうぞ)奥(おく)へお通(とほ)り下(くだ)さいませ。017これ高子(たかこ)、018宮子(みやこ)、019早(はや)く奥(おく)へ往(い)つてお父(とう)さまやお母(かあ)さまにお客様(きやくさま)がみえたと云(い)つて来(く)るのだよ』
020高子、宮子『ハイ』
021と答(こた)へて二人(ふたり)の侍女(じぢよ)は衝立(ついたて)の影(かげ)に姿(すがた)を隠(かく)した。022七宝(しつばう)をもつて描(ゑが)かれたる衝立(ついたて)の絵(ゑ)は月夜(つきよ)の海面(かいめん)であつた。023如何(いか)なる画伯(ぐわはく)の手(て)になりしものか、024一目(ひとめ)見(み)るより幽玄(いうげん)壮大(さうだい)の気分(きぶん)に漂(ただよ)はさるるのであつた。025二人(ふたり)はオヅオヅ高姫(たかひめ)の後(あと)について長(なが)い廊下(らうか)を面恥(おもはづ)かしげに進(すす)みながら、026ランチは片彦(かたひこ)に向(むか)ひ、
027ランチ『片彦(かたひこ)殿(どの)、028実(じつ)に瑠璃宮(るりきう)のやうで厶(ござ)るなア』
029片彦『成程(なるほど)、030形容(けいよう)の辞(ことば)が厶(ござ)らぬ。031これは これはとばかり花(はな)の吉野山(よしのやま)、032とでも言(い)つて置(お)きませうかな。033嬋妍(せんけん)窈窕(えうてう)たる美人(びじん)に導(みちび)かれ、034金(きん)、035銀(ぎん)、036瑠璃(るり)、037珊瑚(さんご)、038瑪瑙(めなう)、039硨磲(しやこ)、040玻璃(はり)の七宝(しつぱう)をもつて飾(かざ)られたる珍(うづ)の御殿(ごてん)を進(すす)み行(ゆ)く吾々(われわれ)両人(りやうにん)は、041夢(ゆめ)でも見(み)て居(を)るので厶(ござ)るまいかなア』
042と、043こんな事(こと)を囁(ささや)きながら、044奥(おく)へ奥(おく)へと進(すす)み入(い)つた。045パツと突(つ)き当(あた)つた所(ところ)に観音開(くわんおんびら)きの庫(くら)のやうなものが立(た)つて居(ゐ)る。046其処(そこ)から花(はな)を欺(あざむ)く許(ばか)りの十二三(じふにさん)の乙女(をとめ)が七八(しちはち)人(にん)、047バラバラと現(あら)はれ、048中(なか)の最(もつと)も年(とし)かさらしき乙女(をとめ)は叮嚀(ていねい)に手(て)を仕(つか)へ、
049女『お嬢様(ぢやうさま)、050どこへ行(い)つていらしたので厶(ござ)います。051御(ご)両親(りやうしん)様(さま)が大変(たいへん)御(ご)心配(しんぱい)で厶(ござ)いました。052そこで妾(わらは)がお探(たづ)ねに往(ゆ)かうと思(おも)つて居(ゐ)た所(ところ)、053そこへ高子(たかこ)、054宮子(みやこ)様(さま)が、055お嬢様(ぢやうさま)は今(いま)お客(きやく)さまを連(つ)れてお帰(かへ)りとの事(こと)に、056お迎(むか)へに参(まゐ)りました。057ようまア帰(かへ)つて下(くだ)さいました』
058と叮嚀(ていねい)に云(い)ふ。
059高姫(たかひめ)『其方(そなた)は五月(さつき)ぢやないか、060御(ご)苦労(くらう)だつたねえ。061このお方(かた)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)様(さま)だよ。062サア奥(おく)へ御(ご)案内(あんない)して下(くだ)さい。063初稚姫(はつわかひめ)様(さま)のお居間(ゐま)へねえ』
064五月(さつき)『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。065サアお客様(きやくさま)、066妾(わらは)が案内(あんない)致(いた)しませう』
067ランチ『ヤア、068これは誠(まこと)に畏(おそ)れ入(い)ります』
069片彦(かたひこ)『左様(さやう)なれば遠慮(ゑんりよ)なく御免(ごめん)を蒙(かうむ)りませう』
070と観音開(くわんのんびら)きを潜(くぐ)らうとする時(とき)、
071高姫(たかひめ)『もしお客様(きやくさま)、072妾(わらは)は一寸(ちよつと)父母(ふぼ)に会(あ)つて参(まゐ)りますから、073何卒(どうぞ)応接(おうせつ)の間(ま)に待(ま)つて居(ゐ)て下(くだ)さい。074これ五月(さつき)や、075お客様(きやくさま)を鄭重(ていちよう)に御待遇(もてなし)なされや』
076五月『ハイ畏(かしこ)まりました』
077片彦(かたひこ)『どうぞ初花姫(はつはなひめ)様(さま)、078お構(かま)ひ下(くだ)さいますな』
079ランチ『左様(さやう)ならばお待(ま)ち申(まを)して居(を)ります、080どうぞ直(すぐ)にお顔(かほ)を見(み)せて下(くだ)さい』
081高姫『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。082一寸(ちよつと)失礼(しつれい)致(いた)します』
083と、084扉(とびら)を開(あ)けてパツと姿(すがた)を隠(かく)した。085これは高姫(たかひめ)の与(あた)へられた狸穴(まみあな)の立派(りつぱ)な部屋(へや)である。086片彦(かたひこ)、087ランチは八(はち)人(にん)の少女(おとめ)に導(みちび)かれ、088観音開(くわんのんびら)きを潜(くぐ)つて中(なか)に入(はい)つた。089室内(しつない)の諸道具(しよだうぐ)は行儀(ぎやうぎ)よく整理(せいり)され、090五脚(ごきやく)の椅子(いす)が、091円(まる)いテーブルを中央(まんなか)にして並(なら)べられてある。092二人(ふたり)は五月(さつき)に勧(すす)めらるる儘(まま)に腰(こし)を下(おろ)した。093何(なん)とも云(い)へぬよい気分(きぶん)である。094ドアは何時(いつ)の間(ま)にか固(かた)く鎖(とざ)された。095二人(ふたり)はコクリコクリと夢路(ゆめぢ)に入(い)つた。
096 暫(しばら)くすると、
097『もしもし』
098と肩(かた)を叩(たた)くものがある。099二人(ふたり)はフツと目(め)を醒(さ)ませば、100机(つくゑ)の上(うへ)に見(み)た事(こと)もない綺麗(きれい)な器(うつは)に、101酒(さけ)や寿司(すし)や果物(くだもの)が盛(も)られて居(ゐ)た。102そして何(なん)とも云(い)へない妙齢(めうれい)の婦人(ふじん)が衣服(いふく)一面(いちめん)に宝玉(はうぎよく)を鏤(ちりば)め、103其(その)光(ひかり)は灯火(とうくわ)に反射(はんしや)して一層(いつそう)麗(うるは)しく輝(かがや)いて居(ゐ)る。104赤(あか)、105紫(むらさき)、106青(あを)、107紅(くれなゐ)、108黄(き)、109白(しろ)、110橄欖色(かんらんしよく)、111紫紺色(しこんしよく)などの光(ひかり)が全身(ぜんしん)から溢(あふ)れて居(ゐ)る。112二人(ふたり)は夢(ゆめ)かとばかり驚(おどろ)いた。113さうして室内(しつない)に灯火(ともしび)のついて居(ゐ)るのを見(み)て、114余程(よほど)長(なが)く眠(ねむ)つて居(ゐ)たものだと思(おも)つた。
115ランチ『ヤア、116どうも失礼(しつれい)致(いた)しました。117結構(けつこう)なお館(やかた)へ引(ひ)き入(い)れられまして、118失礼(しつれい)千万(せんばん)にも眠(ねむ)つて仕舞(しま)ひました。119何卒(どうぞ)吾々(われわれ)が無作法(ぶさはふ)をお咎(とが)めなく、120お許(ゆる)しを願(ねが)ひます』
121 三(さん)人(にん)の女(をんな)は何(いづ)れも玉子(たまご)に目鼻(めはな)のやうな、122揃(そろ)ひも揃(そろ)うた容貌(ようばう)をして居(ゐ)る。123併(しか)し中央(ちうあう)に腰(こし)をかけて居(ゐ)る女(をんな)は、124どこともなしに気品(きひん)高(たか)く、125且(か)つ二(ふた)つばかり年(とし)かさのやうに見(み)えた、126十八(じふはち)才(さい)に十六(じふろく)才(さい)位(ぐらゐ)な姿(すがた)である。127中(なか)なる美人(びじん)は両人(りやうにん)に向(むか)ひ、
128(初稚姫)『私(わたし)は初稚姫(はつわかひめ)で厶(ござ)います。129承(うけたま)はれば貴方(あなた)等(がた)はランチ将軍(しやうぐん)、130片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)様(さま)ださうですなア、131よくまア三五(あななひ)の道(みち)に御(ご)入信(にふしん)なさいました。132妾(わらは)は大神(おほかみ)の命(めい)を受(う)けハルナの都(みやこ)を指(さ)して宣伝(せんでん)の旅(たび)に上(のぼ)る途中(とちう)、133如意王(によいわう)様(さま)に見出(みいだ)され、134暫(しばら)く此処(ここ)に足(あし)を止(とど)むる事(こと)となりました。135さうして此(この)右(みぎ)に居(を)られる方(かた)は秋子姫(あきこひめ)、136左(ひだり)の方(かた)は豊子姫(とよこひめ)と申(まを)すお方(かた)で厶(ござ)います。137まだお年(とし)は若(わか)う厶(ござ)いますが、138王(わう)様(さま)がコーラン国(ごく)から侍女(じぢよ)としてお連(つ)れ遊(あそ)ばした淑女(しゆくぢよ)で厶(ござ)います。139何卒(どうぞ)以後(いご)相共(あひとも)に宜敷(よろし)く御(ご)提携(ていけい)を願(ねが)ひます』
140ランチ『貴女(あなた)が、141名(な)に高(たか)き初稚姫(はつわかひめ)様(さま)で厶(ござ)いましたか。142これは又(また)不思議(ふしぎ)な所(ところ)でお目(め)に懸(かか)りました。143私(わたし)は仰(おほ)せの通(とほ)りランチで厶(ござ)いまする。144一度(ひとたび)は鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)の部下(ぶか)となり、145大黒主(おほくろぬし)の命(めい)を奉(ほう)じ、146勿体(もつたい)なくも斎苑(いそ)の館(やかた)に攻(せ)め寄(よ)せむとした罪人(つみびと)で厶(ござ)います。147然(しか)るに、148大神(おほかみ)様(さま)のお恵(めぐみ)によつてスツカリ改心(かいしん)を致(いた)し、149治国別(はるくにわけ)様(さま)の長(なが)らくの御(ご)教訓(けうくん)をうけ、150御(ご)添書(てんしよ)を頂(いただ)いて斎苑(いそ)の館(やかた)へ修業(しゆげふ)に参(まゐ)る途中(とちう)、151王女(わうぢよ)初花姫(はつはなひめ)様(さま)にお目(め)にかかり、152導(みちび)かれて此処(ここ)まで参上(さんじやう)致(いた)しました。153何卒(どうぞ)至(いた)らぬ吾々(われわれ)、154万事(ばんじ)御(ご)指導(しだう)を願(ねが)ひ奉(たてまつ)ります』
155片彦『拙者(せつしや)は片彦(かたひこ)で厶(ござ)います。156ランチ殿(どの)と同様(どうやう)の径路(けいろ)を辿(たど)つて、157今(いま)は治国別(はるくにわけ)様(さま)のお弟子(でし)となり、158此(この)門前(もんぜん)に於(おい)て王女(わうぢよ)様(さま)に導(みちび)かれ、159只今(ただいま)これへ参(まゐ)つた所(ところ)で厶(ござ)います。160何分(なにぶん)宜敷(よろし)く御(ご)指導(しだう)を願(ねが)ひます』
161 これより初稚姫(はつわかひめ)は、162秋子(あきこ)、163豊子(とよこ)に命(めい)じ盛(さかん)に両人(りやうにん)に酒(さけ)を勧(すす)めさせた。164両人(りやうにん)は恍惚(くわうこつ)として酒(さけ)と二人(ふたり)の美貌(びばう)に酔(よ)ひ、165吾(わが)身(み)の天(てん)にあるか、166地(ち)にあるか、167海中(かいちう)にあるか、168野(の)か山(やま)か、169殿中(でんちう)か、170殆(ほとん)ど見当(けんたう)のつかぬ所(ところ)まで酔(よ)ひつぶれて了(しま)つた。171さうして三五教(あななひけう)の教理(けうり)も、172治国別(はるくにわけ)の教訓(けうくん)も、173残(のこ)らず念頭(ねんとう)より遺失(ゐしつ)し、174今(いま)は只(ただ)ランチには豊子(とよこ)の顔(かほ)、175片彦(かたひこ)には秋子(あきこ)の顔(かほ)が、176浮(う)いたやうに目(め)にボツと映(うつ)るのみである。177ランチ、178片彦(かたひこ)両人(りやうにん)は二人(ふたり)の女(をんな)に手(て)を引(ひ)かれ、179ヒヨロリヒヨロリと廊下(らうか)を渡(わた)つて、180麗(うるは)しき一間(ひとま)に導(みちび)かれ、181二男(になん)二女(にぢよ)は枕(まくら)を並(なら)べて寝(しん)についた。
182 暫(しばら)くあつて二人(ふたり)は気(き)がつき四辺(あたり)を見(み)れば、183石(いし)と石(いし)とに畳(たた)まれた一室内(いつしつない)の石畳(いしだたみ)の上(うへ)に横(よこ)たはつて居(ゐ)た。184さうして何処(どこ)にも出口(でぐち)がない。185一枚板(いちまいいた)を立(た)てたやうな滑(なめ)らかな大理石(だいりせき)で四方(しはう)が包(つつ)んである。186二人(ふたり)は俄(にはか)に顔色(がんしよく)を変(か)へ、
187ランチ『ヤア、188こりや大変(たいへん)だ。189片彦(かたひこ)さま、190どうだらう、191美人(びじん)に手(て)を曳(ひ)かれ眠(ねむ)つたと思(おも)へば、192斯様(かやう)な石牢(いしらう)の中(なか)へ放(ほ)り込(こ)まれたぢやないか』
193片彦(かたひこ)『成程(なるほど)、194こいつは困(こま)つた。195どうしたらよからうかなア』
196ランチ『どうしようと云(い)つても手(て)のかかる所(ところ)もなければ、197押(お)しても突(つ)いても出口(でぐち)も入口(いりぐち)もないのだから、198仕方(しかた)がないぢやないか。199斯(か)ふ云(い)ふ時(とき)にこそ、200天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)するのだな』
201片彦『如何(いか)にも左様(さやう)』
202と二人(ふたり)は天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)せむと焦(あせ)れども、203どう云(い)ふものか、204一口(ひとくち)も出(で)て来(こ)ない。205外(ほか)の言葉(ことば)なら何(なん)でも出(で)るが、206天津(あまつ)祝詞(のりと)に限(かぎ)つて一言(ひとこと)も出(で)ないのは、207不思議(ふしぎ)中(ちう)の不思議(ふしぎ)であつた。
208ランチ『ヤア駄目(だめ)だ、209片彦(かたひこ)、210御(おん)身(み)も駄目(だめ)と見(み)えるのう』
211片彦(かたひこ)『誠(まこと)に残念(ざんねん)至極(しごく)で厶(ござ)る。212一(ひと)つ力(ちから)限(かぎ)り呶鳴(どな)つて見(み)ようでは厶(ござ)らぬか。213さうすれば誰(たれ)かが声(こゑ)を聞(き)きつけて救(すく)ひ出(だ)して呉(く)れるだらう』
214ランチ、片彦『宜敷(よろし)からう』
215と二人(ふたり)はアオウエイを連発(れんぱつ)的(てき)に幾度(いくど)も重(かさ)ねて唸(うな)り出(だ)した。216併(しか)し石畳(いしだたみ)に少(すこ)しの隙(すき)もなく囲(かこ)まれた十(と)坪(つぼ)許(ばか)りの此(この)室(しつ)は、217声(こゑ)の外(そと)に漏(も)れる筈(はず)もなく、218声(こゑ)は残(のこ)らず反響(はんきやう)して、219遂(つひ)には両人(りやうにん)とも喉(のど)を破(やぶ)り、220カスリ声(ごゑ)しか出(で)なくなつて仕舞(しま)つた。
221ランチ『ああ駄目(だめ)だ、222もう此処(ここ)でミイラになるより仕方(しかた)がないワイ』
223片彦(かたひこ)『これも吾々(われわれ)の罪劫(ざいごふ)が報(むく)うて来(き)たのだと諦(あきら)めて、224男同士(をとこどうし)の心中(しんぢう)でもしようぢやないか』
225ランチ『どうも仕方(しかた)がない』
226とこれもひつついたやうな声(こゑ)で呟(つぶや)いて居(ゐ)る。227忽(たちま)ち足許(あしもと)から、228カツカツカツと鋭利(えいり)な鑿(のみ)で岩(いは)を打(う)ち砕(くだ)くやうな音(おと)がしたかと思(おも)へば、229筍(たけのこ)のやうに鋭利(えいり)な槍(やり)が石畳(いしだたみ)を通(とほ)してヌツと現(あら)はれた。
230『ヤアこれは険難(けんのん)だ』
231と後(うしろ)へすざると、232又(また)もやカツと音(おと)がして槍(やり)の穂先(ほさき)が湧(わ)いて出(で)る。233瞬(またた)く中(うち)に三本(さんぼん)四本(しほん)五本(ごほん)十本(じつぽん)と石畳(いしだたみ)を通(とほ)して隙間(すきま)もなく鋭利(えいり)な槍(やり)が立(た)ち並(なら)んで来(き)た。234横壁(よこかべ)になつて居(ゐ)る石畳(いしだたみ)からも槍(やり)の穂先(ほさき)が三尺(さんじやく)許(ばか)り、235カツカツと云(い)ひながら四方(しはう)から頭(あたま)を出(だ)した。236最早(もはや)両人(りやうにん)は真直(まつすぐ)に立(た)つて居(ゐ)るより、237横(よこ)になることも何(ど)うする事(こと)も出来(でき)ないやうに槍(やり)に包(つつ)まれて了(しま)つた。238槍(やり)の穂先(ほさき)は忽(たちま)ち蛇(へび)と変(へん)じ、239ペロペロと両人(りやうにん)の身体(からだ)を舐(な)めむと一斉(いつせい)に首(くび)を擡(もた)げて舌端(ぜつたん)火(ひ)を吐(は)く奴(やつ)、240中(なか)には水(みづ)を吐(は)く奴(やつ)、241黒煙(こくえん)を吐(は)く奴(やつ)、242次第(しだい)々々(しだい)に延長(えんちやう)して両人(りやうにん)の身体(からだ)を雁字搦(がんじがら)みにして了(しま)つた。243二人(ふたり)は声(こゑ)も得上(えあ)げず、244互(たがひ)に顔(かほ)を見合(みあは)せた。245俄(にはか)に顔(かほ)はやつれ、246恨(うらみ)の顔色(がんしよく)物凄(ものすご)く、247忽(たちま)ち地獄(ぢごく)の餓鬼(がき)のやうな面相(めんさう)になつて了(しま)つた。
248 此(この)時(とき)、249何処(いづく)ともなく太鼓(たいこ)のやうな声(こゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。250二人(ふたり)は耳(みみ)を澄(す)ましてよく聞(き)けば、
251(声)『アアア悪魔(あくま)外道(げだう)の教(をしへ)をもつて世(よ)を誑(たぶ)らかす三五教(あななひけう)に迷信(めいしん)致(いた)し、
252イイイ印度(いんど)の都(みやこ)ハルナに坐(ま)します大黒主(おほくろぬし)の命令(めいれい)に背(そむ)き軍務(ぐんむ)を捨(す)てて、
253ウウウ迂濶(うくわつ)千万(せんばん)にも三五教(あななひけう)に寝返(ねがへ)りを打(う)ち迷信(めいしん)致(いた)した罪(つみ)によつて、
254エエエ閻魔(えんま)の庁(ちやう)より許(ゆる)しを受(う)け、255汝(なんぢ)両人(りやうにん)を剣(つるぎ)の山(やま)、256蛇(へび)の室(むろ)、257焔(ほのほ)の牢獄(らうごく)につつ込(こ)み、
258オオオ臆病者(おくびやうもの)の汝(なんぢ)等(ら)の霊肉(れいにく)を亡(ほろ)ぼし、259地獄(ぢごく)のどん底(ぞこ)へ落(おと)して呉(く)れむ。
260カカカ改悪(かいあく)致(いた)して片時(かたとき)も早(はや)く神(かみ)にお詫(わび)を致(いた)せばよし、261何時迄(いつまで)も頑張(ぐわんば)りて居(を)るならば、
262キキキ錐(きり)の地獄(ぢごく)へつき落(おと)し、263鋸(のこぎり)の刃(は)をもつて汝(なんぢ)が首(くび)を引(ひ)き破(やぶ)り、
264ククク苦(くる)しみの極度(きよくど)に達(たつ)せしめ、265糞(くそ)を食料(しよくれう)に与(あた)へてやるがどうだ。
266ケケケ怪(け)しからぬ其(その)方(はう)。
267コココ是(これ)より此処(ここ)で改心(かいしん)致(いた)すと申(まを)せば、268この苦痛(くつう)を許(ゆる)してやらうが、269何処(どこ)までも三五教(あななひけう)を奉(ほう)ずるとあらば、270最早(もはや)許(ゆる)さぬ百年目(ひやくねんめ)、271返答(へんたふ)はどうだ』
272と雷(らい)の如(ごと)き声(こゑ)が聞(きこ)えて来(く)る。
273ランチ『拙者(せつしや)は苟(いやし)くも三軍(さんぐん)を指揮(しき)したる武士(ぶし)で厶(ござ)る。274一(いつ)たん三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)したる上(うへ)は、275決(けつ)して所信(しよしん)はまげぬ此(この)方(はう)、276サア早(はや)く某(それがし)を如何(いか)やうとも致(いた)したがよからう。277仮令(たとへ)肉体(にくたい)は亡(ほろ)ぼさるとも、278如何(いか)なる責苦(せめく)に遇(あ)ふとも、279拙者(せつしや)の霊(みたま)は肉(にく)を離(はな)れ、280大神(おほかみ)の天国(てんごく)に上(のぼ)り、281神軍(しんぐん)を引率(いんそつ)して汝(なんぢ)等(ら)の魔軍(まぐん)を木端(こつぱ)微塵(みじん)に粉砕(ふんさい)して呉(く)れむ。282如何(いか)様(やう)なりとも致(いた)したらよからう』
283 何処(いづこ)ともなく又(また)もや大(おほ)きな声(こゑ)、
284(声)『さてもさても合点(がてん)の悪(わる)い代物(しろもの)だなア。
285シシシ強太(しぶと)う致(いた)して我(が)を張(は)りよると、286汝(なんぢ)が霊肉(れいにく)を粉砕(ふんさい)し、287高天原(たかあまはら)へ上(のぼ)る所(どころ)か、288第三(だいさん)天国(てんごく)の軍勢(ぐんぜい)をもつて、289汝(なんぢ)が悪業(あくごふ)を数(かぞ)へ立(た)て、290槍(やり)の穂先(ほさき)に亡(ほろ)ぼし呉(く)れむ。
291ススス素直(すなほ)に改悪(かいあく)致(いた)して、292此(この)方(はう)の云(い)ひ分(ぶん)についたが汝(なんぢ)の身(み)の為(ため)であらう。
293セセセ背中(せなか)に腹(はら)はかへられまい。
294ソソソ傍(そば)に立(た)ち上(のぼ)るその剣先(けんさき)、295今(いま)に焔(ほのほ)を吐(は)いて汝(なんぢ)を焼(や)き尽(つく)すだらう。296片彦(かたひこ)も同様(どうやう)だぞ。297一同(いちどう)思案(しあん)を定(さだ)めて返答(へんたふ)を致(いた)すがよからう』
298片彦(かたひこ)『タタタ叩(たた)くな叩(たた)くな、299悪魔(あくま)の計略(けいりやく)に乗(じやう)ぜられて、300仮令(たとへ)此(この)肉体(にくたい)は亡(ほろ)ぶとも、
301チチチ些(ちつ)とも怖(おそ)れは致(いた)さぬ。
302ツツツ突(つ)くなと斬(き)るなと勝手(かつて)に致(いた)せ。
303テテテテンゴを致(いた)すと、304やがて三五(あななひ)の大神(おほかみ)現(あら)はれたまひ、305汝(なんぢ)を罰(ばつ)したまふべし。
306トトトとほうに暮(く)れて、307如何(いか)に栃麺棒(とちめんぼう)を振(ふ)るとも、308決(けつ)して其(その)方(はう)は許(ゆる)されまいぞ』
309 頭(あたま)の上(うへ)から又(また)怪(あや)しの声(こゑ)、
310(声)『ナナナ何(なに)をゴテゴテと世迷言(よまひごと)を吐(ぬか)すか。
311ニニニ二(に)人(にん)とも大黒主(おほくろぬし)様(さま)に叛旗(はんき)を翻(ひるがへ)し、
312ヌヌヌヌツケリコと士節(しせつ)を破(やぶ)り三五教(あななひけう)の道(みち)に、
313ネネネ寝返(ねがへ)り打(う)つた横着物(わうちやくもの)、
314ノノノ望(のぞ)みとあらば、315此(この)槍(やり)の穂先(ほさき)を廻転(くわいてん)させ、316喉(のど)と云(い)はず、317頭(あたま)と云(い)はず、318腹(はら)と云(い)はず、319突(つ)いて突(つ)いて突(つ)き捲(まく)つてやらうか』
320ランチ『ハハハ腹(はら)なりと喉(のど)なりと、
321ヒヒヒ肱(ひぢ)なりと背(せな)なりと勝手(かつて)に、
322フフフ不足(ふそく)のないやうに、323サア突(つ)けい、324ガツプリ突(つ)けい。
325ヘヘヘ下手(へた)な事(こと)を致(いた)して地獄(ぢごく)の苦(くる)しみを受(う)けな。
326ホホホ呆(はう)け野郎(やらう)奴(め)、327このランチは、328汝(なんぢ)如(ごと)き悪神(あくがみ)に屁古垂(へこた)れるやうな弱虫(よわむし)ではない程(ほど)に、329鯉(こひ)は爼(まないた)の上(うへ)に載(の)せらるれば決(けつ)して跳(は)ねも動(うご)きも致(いた)さぬ。330武士(ぶし)の花(はな)と謡(うた)はれたるこのランチ、331片彦(かたひこ)両人(りやうにん)は一寸(ちよつと)も動(うご)かばこそ、332大(だい)磐石心(ばんじやくしん)だ、333勝手(かつて)に致(いた)したがよからう』
334と、335かすれた、336ひつついた声(こゑ)を出(だ)して抵抗(ていかう)して居(ゐ)た。
337 不思議(ふしぎ)の事(こと)には槍(やり)は林(はやし)の如(ごと)く突立(つつた)ち、338火(ひ)は炎々(えんえん)として燃(も)えて来(く)る。339蛇(へび)、340蜈蚣(むかで)は体(からだ)一面(いちめん)に集(たか)つて来(く)るが、341併(しか)し痛(いた)くも痒(かゆ)くもない。342両人(りやうにん)はこれぞ全(まつた)く神(かみ)様(さま)の御(ご)守護(しゆご)と大神(おほかみ)を念(ねん)じ、343且(かつ)一(いち)時(じ)も早(はや)く天国(てんごく)に上(のぼ)らむ事(こと)をのみ念(ねん)じつつあつた。
344 ああ此(この)両人(りやうにん)は如何(いか)にして救(すく)はるるであらうか。
345(大正一二・一・二六 旧一一・一二・一〇 加藤明子録)
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