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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第17巻(辰の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 雪山幽谷
第1章 黄金の衣
第2章 魔の窟
第3章 生死不明
第4章 羽化登仙
第5章 誘惑婆
第6章 瑞の宝座
第2篇 千態万様
第7章 枯尾花
第8章 蚯蚓の囁
第9章 大逆転
第10章 四百種病
第11章 顕幽交通
第3篇 鬼ケ城山
第12章 花と花
第13章 紫姫
第14章 空谷の足音
第15章 敵味方
第16章 城攻
第17章 有終の美
霊の礎(三)
暁山雲(謡曲)
余白歌
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> 第1篇 雪山幽谷 > 第1章 黄金の衣
<<< 総説歌
(B)
(N)
魔の窟 >>>
第一章
黄金
(
わうごん
)
の
衣
(
ころも
)
〔六一二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻
篇:
第1篇 雪山幽谷
よみ(新仮名遣い):
せつざんゆうこく
章:
第1章 黄金の衣
よみ(新仮名遣い):
おうごんのころも
通し章番号:
612
口述日:
1922(大正11)年04月21日(旧03月25日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年1月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
鬼雲彦によって岩窟に一年押し込められていたお節は、悦子姫によって救い出され、平助・お楢の祖父母の元に帰ってきた。
そして三五教の宣伝使、岩公、勘公、櫟公と共に、雪の中を真名井ケ原へとお礼参りに出かけた。爺・婆は足元に難があるため、岩公、勘公、櫟公三人は先に雪の中を発って行った。
話は戻って、鬼虎、鬼彦の両人は心の鬼に責められながらとぼとぼと雪道を行くうちに、路傍の糞壺に落ちてしまった。
厳寒の中、二人は命からがら進んで行くと、一軒のあばら家があった。着物を洗濯し、古ごもや古ござを巻いて、ようやく命をつないだ。
部屋の隅に加米彦がいて、二人に豊国姫命の命で悦子姫より衣を授かってきた、という。鬼虎と鬼彦は喜ぶが、その着物は、真名井ケ原に着いて体を清めてから出ないと渡せない、という。
そこへ岩公、勘公、櫟公が追いついてきた。
加米彦は、家の中からぼろぼろの着物を探し出して、当面の用にと鬼虎と鬼彦に着せた。
しばらく行くと、道端にこざっぱりとした家があり、女が招く。一同が中へ入ると、おコンと名乗る女は、鬼虎と鬼彦に禊をさせ、悦子姫からの立派な着物を授ける。
その着物には、鬼彦は彦安命、鬼虎は虎彦命という宣伝使名が書いてあった。おコンはもうすぐ真名井ケ原なので、ここで天津祝詞と天の数歌を唱えるように、と導師の役をする。
一同が一生懸命祝詞を唱えていると、平助、お楢、お節の三人が追いついて来て声をかけた。気づくと、おコンも加米彦もおらず、岩公、勘公、櫟公、鬼彦、鬼虎の五人は、真っ裸で雪の中に座っていたのであった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-02-13 17:57:48
OBC :
rm1701
愛善世界社版:
9頁
八幡書店版:
第3輯 527頁
修補版:
校定版:
11頁
普及版:
3頁
初版:
ページ備考:
001
見渡
(
みわた
)
す
限
(
かぎ
)
り
野
(
の
)
も
山
(
やま
)
も
002
平
(
たひら
)
一面
(
いちめん
)
の
銀世界
(
ぎんせかい
)
003
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
を
冷
(
ひや
)
やかに
004
わかやる
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
下
(
お
)
ろし
005
雪
(
ゆき
)
の
肌
(
はだへ
)
の
愛娘
(
まなむすめ
)
006
魔神
(
まがみ
)
の
深
(
ふか
)
き
計略
(
けいりやく
)
に
007
押籠
(
おしこ
)
められて
岩窟
(
いはやど
)
の
008
中
(
なか
)
にて
絞
(
しぼ
)
る
涙
(
なみだ
)
の
雨
(
あめ
)
009
何時
(
いつ
)
しか
比沼
(
ひぬ
)
の
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
に
010
一陽
(
いちやう
)
来復
(
らいふく
)
の
春
(
はる
)
待
(
ま
)
ち
兼
(
か
)
ねて
011
皇神
(
すめかみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
露
(
つゆ
)
に
綻
(
ほころ
)
びし
012
心
(
こころ
)
切
(
せつ
)
なき
節子姫
(
せつこひめ
)
013
此
(
この
)
岩窟
(
いはやど
)
に
捕
(
とら
)
はれて
014
悲
(
かな
)
しき
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
る
内
(
うち
)
015
春夏秋
(
はるなつあき
)
と
十二節
(
じふにせつ
)
016
越
(
こ
)
えて
漸
(
やうや
)
う
東雲
(
しののめ
)
の
017
空
(
そら
)
晴
(
は
)
れ
渡
(
わた
)
る
思
(
おも
)
ひなり。
018
悦子姫
(
よしこひめ
)
に
送
(
おく
)
られ、
019
祖父母
(
そふぼ
)
の
家
(
いへ
)
に
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
れる
節子姫
(
せつこひめ
)
は、
020
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
に
一夜
(
ひとや
)
を
明
(
あ
)
かし、
021
あくれば
正
(
しやう
)
月
(
ぐわつ
)
二十八
(
にじふはち
)
日
(
にち
)
、
022
平助
(
へいすけ
)
、
023
お
楢
(
なら
)
の
祖父母
(
そふぼ
)
と
共
(
とも
)
に、
024
雪
(
ゆき
)
積
(
つ
)
む
野路
(
のぢ
)
を
辿
(
たど
)
りつつ、
025
心
(
こころ
)
も
深
(
ふか
)
き
礼
(
れい
)
参
(
まゐ
)
り、
026
岩公
(
いはこう
)
、
027
勘公
(
かんこう
)
、
028
櫟公
(
いちこう
)
諸共
(
もろとも
)
に、
029
真名井
(
まなゐ
)
ケ
嶽
(
だけ
)
の
麓
(
ふもと
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
030
お
節
(
せつ
)
『お
客
(
きやく
)
さま、
031
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
032
年
(
とし
)
を
老
(
と
)
つたる
老爺
(
ぢい
)
サン
婆
(
ば
)
アサン、
033
それに
繊弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
の
妾
(
わたし
)
、
034
思
(
おも
)
ふ
様
(
やう
)
に
足許
(
あしもと
)
も
捗
(
はかど
)
りませぬ。
035
あなた
方
(
がた
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
仕
(
つか
)
へ
遊
(
あそ
)
ばす
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
036
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
が
嘸
(
さぞ
)
お
待兼
(
まちかね
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
037
何
(
いづ
)
れ
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
にて、
038
お
目
(
め
)
に
掛
(
かか
)
りませうから、
039
どうぞ
妾
(
わたし
)
等
(
ら
)
にお
構
(
かま
)
ひなく、
040
一足先
(
ひとあしさき
)
へ
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
041
岩公
(
いはこう
)
『
左様
(
さやう
)
なれば、
042
お
先
(
さき
)
へ
道開
(
みちあ
)
けの
為
(
ため
)
に
参
(
まゐ
)
りませう。
043
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
用意
(
ようい
)
を
整
(
ととの
)
へ、
044
お
待受
(
まちうけ
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります、
045
どうか
緩々
(
ゆるゆる
)
お
出
(
い
)
で
下
(
くだ
)
さいませ。
046
お
老爺
(
ぢい
)
サン、
047
お
婆
(
ば
)
アサン、
048
お
節
(
せつ
)
さま、
049
左様
(
さやう
)
なれば
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
一足先
(
ひとあしさき
)
へ
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
りませう。
050
何卒
(
どうぞ
)
ゆるりとお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
051
平助
(
へいすけ
)
『アヽそれが
宜
(
よろ
)
しい。
052
此方
(
こちら
)
は
年老
(
としと
)
つた
老爺
(
ぢぢい
)
に
婆
(
ばば
)
ア、
053
繊弱
(
かよわ
)
き
娘
(
むすめ
)
、
054
到底
(
たうてい
)
あなた
方
(
がた
)
の
様
(
やう
)
な
屈強
(
くつきやう
)
な
若
(
わか
)
いお
方
(
かた
)
と、
055
同道
(
どうだう
)
するのは
苦
(
くる
)
しう
御座
(
ござ
)
ります。
056
又
(
また
)
あなた
方
(
がた
)
もマドロしく
思
(
おも
)
はれませう。
057
それよりも
早
(
はや
)
う
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
のお
側
(
そば
)
へ
行
(
い
)
つて、
058
すべての
御用
(
ごよう
)
をお
聞
(
き
)
き
下
(
くだ
)
さいませ。
059
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はボツボツ
後
(
あと
)
から
参
(
まゐ
)
ります』
060
岩公
(
いはこう
)
『ソンナラお
老爺
(
ぢい
)
さま、
061
お
婆
(
ば
)
アさま、
062
お
節
(
せつ
)
さま、
063
一足先
(
ひとあしさき
)
へ
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
しませう。
064
……サア
勘公
(
かんこう
)
、
065
櫟公
(
いちこう
)
、
066
雪中
(
せつちゆう
)
強行軍
(
きやうかうぐん
)
だ。
067
前進
(
ぜんしん
)
々々
(
ぜんしん
)
、
068
お
一
(
いち
)
、
069
二
(
に
)
、
070
三
(
さん
)
』
071
と
掛声
(
かけごゑ
)
諸共
(
もろとも
)
、
072
バラバラと
駆出
(
かけだ
)
しける。
073
お
楢
(
なら
)
『アノ、
074
夜前
(
やぜん
)
のお
客
(
きやく
)
さまの
元気
(
げんき
)
の
良
(
よ
)
い
事
(
こと
)
、
075
……アーア、
076
年
(
とし
)
は
取
(
と
)
りたくないものだ。
077
これ
程
(
ほど
)
雪
(
ゆき
)
の
積
(
つも
)
つた
路
(
みち
)
を、
078
猪
(
しし
)
かナンゾの
様
(
やう
)
に、
079
驀地
(
まつしぐら
)
に
駆出
(
かけだ
)
して、
080
早
(
はや
)
モウ
姿
(
すがた
)
が
見
(
み
)
えなくなつて
了
(
しま
)
つた。
081
サアサアボツボツ
行
(
ゆ
)
きませう』
082
と
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
杖
(
つゑ
)
を
突
(
つ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
083
岩公
(
いはこう
)
等
(
たち
)
の
通
(
とほ
)
つた
足跡
(
あしあと
)
を
踏
(
ふ
)
んでボツボツと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
084
話
(
はなし
)
は
後
(
あと
)
へ
戻
(
もど
)
る…………………………
085
心
(
こころ
)
の
鬼
(
おに
)
に
責
(
せめ
)
られて
泊
(
とま
)
りも
得
(
え
)
せず、
086
雪
(
ゆき
)
積
(
つ
)
む
夜路
(
よみち
)
をトボトボと、
087
雪
(
ゆき
)
しばきに
向
(
むか
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
088
互
(
たがひ
)
に
肩
(
かた
)
を
組
(
く
)
み
合
(
あは
)
せ、
089
西
(
にし
)
へ
西
(
にし
)
へと
進
(
すす
)
み
行
(
い
)
つた
鬼彦
(
おにひこ
)
、
090
鬼虎
(
おにとら
)
の
両人
(
りやうにん
)
は、
091
路
(
みち
)
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ひ、
092
路傍
(
ろばう
)
の
糞壺
(
くそつぼ
)
の
中
(
なか
)
へ、
093
肩
(
かた
)
を
組
(
く
)
んだまま、
094
ドボンと
転落
(
てんらく
)
し、
095
頭
(
あたま
)
の
先
(
さき
)
から
足
(
あし
)
の
爪先
(
つまさき
)
まで、
096
忽
(
たちま
)
ち
黄金仏
(
わうごんぶつ
)
と
早替
(
はやがは
)
り、
097
二人
(
ふたり
)
は
漸
(
やうや
)
く
生命
(
いのち
)
からがら
這
(
は
)
ひ
上
(
あが
)
り、
098
身
(
み
)
を
切
(
き
)
る
如
(
ごと
)
き
寒風
(
かんぷう
)
のピユウピユウと
吹
(
ふ
)
いて
来
(
く
)
る
中
(
なか
)
を、
099
震
(
ふる
)
へ
声
(
ごゑ
)
を
搾
(
しぼ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
100
鬼彦
(
おにひこ
)
『
罰
(
ばち
)
は
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
だ、
101
コンナ
事
(
こと
)
なら、
102
頭
(
あたま
)
の
一
(
ひと
)
つや
二
(
ふた
)
つ、
103
平助
(
へいすけ
)
老爺
(
ぢい
)
に
叩
(
たた
)
かれても、
104
素直
(
すなほ
)
に
謝罪
(
あやま
)
つて、
105
泊
(
と
)
めて
貰
(
もら
)
つたが
得策
(
まし
)
だつた。
106
貴様
(
きさま
)
が、
107
テレ
臭
(
くさ
)
いとか、
108
何
(
なん
)
とか
言
(
い
)
つて、
109
痩我慢
(
やせがまん
)
を
出
(
だ
)
すものだから、
110
コンナ
目
(
め
)
に
遭
(
あ
)
つたのだよ。
111
実
(
じつ
)
に
糞慨
(
ふんがい
)
の
至
(
いた
)
りだ』
112
鬼虎
(
おにとら
)
『
過去
(
すぎさ
)
つた
事
(
こと
)
を、
113
今
(
いま
)
になつて
言
(
い
)
つた
所
(
とこ
)
で、
114
何
(
なん
)
になるか。
115
過去
(
すぎこ
)
し
苦労
(
くらう
)
は
大禁物
(
だいきんもつ
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
忘
(
わす
)
れたか。
116
刹那心
(
せつなしん
)
だよ。
117
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
118
斯
(
か
)
うして
居
(
を
)
れば、
119
着物
(
きもの
)
も
体
(
からだ
)
も
氷結
(
ひようけつ
)
して
了
(
しま
)
ふ。
120
零度
(
れいど
)
以下
(
いか
)
二十度
(
にじふど
)
と
云
(
い
)
ふ
此
(
この
)
寒空
(
さむぞら
)
に、
121
糞汁
(
くそしる
)
の
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
て
歩
(
ある
)
いて
居
(
を
)
るのも
能
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
ナものだ。
122
况
(
ま
)
して
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
神聖
(
しんせい
)
な……
清浄
(
せいじやう
)
潔白
(
けつぱく
)
をお
喜
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばす。
123
コンナ
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
て、
124
どうして
参拝
(
さんぱい
)
が
出来
(
でき
)
ようか。
125
……
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
はまだ
悪
(
あく
)
が
消
(
き
)
えないから、
126
参拝
(
さんぱい
)
の
資格
(
しかく
)
がないと
云
(
い
)
つて、
127
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
糞壺
(
くそつぼ
)
へ
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んだのかも
知
(
し
)
れぬ。
128
……アヽ
寒
(
さむ
)
い
寒
(
さむ
)
い……
寒
(
さむ
)
さが
通
(
とほ
)
り
越
(
こ
)
して、
129
体中
(
からだぢう
)
が
痛
(
いた
)
くなつて
来
(
き
)
た。
130
そこら
中
(
ぢう
)
錐
(
きり
)
で
揉
(
も
)
まるるやうだ。
131
……
冷
(
つめ
)
たい、
132
痛
(
いた
)
い。
133
……アーア
泣
(
な
)
くに
泣
(
な
)
かれぬ。
134
どうしたら
宜
(
よ
)
からうなア』
135
鬼彦
(
おにひこ
)
『
平助
(
へいすけ
)
やお
楢
(
なら
)
に
屁
(
へ
)
を
噛
(
か
)
まされ、
136
馬鹿
(
ばか
)
臭
(
くさ
)
い、
137
テレ
臭
(
くさ
)
い、
138
阿呆
(
あはう
)
臭
(
くさ
)
い……と
臭
(
くさ
)
い
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
うて、
139
其
(
その
)
上
(
うへ
)
又
(
また
)
糞壺
(
くそつぼ
)
へ
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
まれ、
140
……アーアぢぢ
臭
(
くさ
)
い、
141
ババ
臭
(
くさ
)
い……
此処
(
ここ
)
にも
平助
(
へいすけ
)
、
142
お
楢
(
なら
)
が
居
(
ゐ
)
よつた
様
(
やう
)
なものだ。
143
おセツない
思
(
おも
)
ひをして、
144
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
へ
進
(
すす
)
むにも
進
(
すす
)
まれず………エー
糞
(
くそ
)
いまいましい。
145
どつか
此処
(
ここ
)
らに
家
(
うち
)
でもあつたら、
146
今度
(
こんど
)
は
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つても
構
(
かま
)
はぬ、
147
無理
(
むり
)
に
押入
(
おしい
)
つて、
148
焚物
(
たきもの
)
でも
焚
(
た
)
いて、
149
体
(
からだ
)
を
温
(
あたたか
)
め、
150
ゆつくり
湯
(
ゆ
)
でも
沸
(
わか
)
して
浄
(
きよ
)
めなくては、
151
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ぬぢやないか。
152
グヅグヅして
居
(
を
)
ると、
153
身体
(
しんたい
)
強直
(
きやうちよく
)
、
154
石地蔵
(
いしぢざう
)
の
様
(
やう
)
になつて
了
(
しま
)
うワ、
155
サア
往
(
ゆ
)
かう
往
(
ゆ
)
かう』
156
二人
(
ふたり
)
は
生命
(
いのち
)
からがら、
157
二三丁
(
にさんちやう
)
ばかり
前進
(
ぜんしん
)
すると、
158
バタツと
行当
(
ゆきあた
)
つた
又
(
また
)
もや
一軒
(
いつけん
)
の
茅屋
(
あばらや
)
、
159
二人
『ヨー
天道
(
てんだう
)
は
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
さずだ。
160
此処
(
ここ
)
に
一軒屋
(
いつけんや
)
が
有
(
あ
)
るワイ。
161
……ハテ
此
(
こ
)
れは
物置
(
ものおき
)
小屋
(
ごや
)
と
見
(
み
)
える。
162
……マア
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
163
這入
(
はい
)
つて
体
(
からだ
)
の
処置
(
しよち
)
を
附
(
つ
)
けようかい』
164
二人
(
ふたり
)
は
戸
(
と
)
を
押
(
お
)
し
開
(
あ
)
け、
165
怖々
(
こわごわ
)
這入
(
はい
)
つて
見
(
み
)
ると、
166
暗
(
くら
)
がりに
赤
(
あか
)
い
物
(
もの
)
が
見
(
み
)
える。
167
鬼彦
(
おにひこ
)
『ハハア、
168
誰
(
たれ
)
か
火
(
ひ
)
を
焚
(
た
)
いて
行
(
ゆ
)
きやがつたなア。
169
大方
(
おほかた
)
音彦
(
おとひこ
)
、
170
加米彦
(
かめひこ
)
の
仕事
(
しごと
)
だらう』
171
と
附近
(
あたり
)
の
藁
(
わら
)
を
引摺
(
ひきず
)
り
出
(
だ
)
し、
172
火
(
ひ
)
を
吹
(
ふ
)
き
点
(
つ
)
け、
173
真裸
(
まつぱだか
)
となり、
174
鬼彦
『
一寸
(
ちよつと
)
是
(
これ
)
で
楽
(
らく
)
だ。
175
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
176
着物
(
きもの
)
を
乾
(
かわ
)
かさねばなるまい。
177
……それにしても
一度
(
いちど
)
洗濯
(
せんたく
)
をして、
178
其
(
その
)
上
(
うへ
)
にせなくては、
179
乾
(
かわ
)
いた
所
(
ところ
)
で、
180
臭
(
くさ
)
くて、
181
どうにも
斯
(
か
)
うにも
仕方
(
しかた
)
があるまい、
182
のう
鬼虎
(
おにとら
)
』
183
鬼虎
『ウン
此
(
この
)
茅屋
(
あばらや
)
も、
184
元
(
もと
)
は
誰
(
たれ
)
か
住
(
す
)
んで
居
(
を
)
つたのだらう。
185
井戸
(
ゐど
)
がある
筈
(
はず
)
ぢや。
186
一
(
ひと
)
つ
探
(
さが
)
して、
187
井戸
(
ゐど
)
でも
有
(
あ
)
つたら、
188
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
着物
(
きもの
)
を
突込
(
つつこ
)
み、
189
バサバサとやつて、
190
充分
(
じゆうぶん
)
に
圧搾
(
あつさく
)
を
加
(
くは
)
へ、
191
水気
(
みづけ
)
を
除
(
と
)
り、
192
大火
(
おほび
)
を
焚
(
た
)
いて
焙
(
あぶ
)
る
事
(
こと
)
にしやうかい。
193
……オー
有
(
あ
)
る
有
(
あ
)
る、
194
グヅグヅして
居
(
を
)
ると、
195
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
むかも
知
(
し
)
れぬぞ。
196
どうやら
水溜
(
みづたま
)
りが
有
(
あ
)
るらしい。
197
……オイ
貴様
(
きさま
)
火
(
ひ
)
を
焚
(
た
)
く
役
(
やく
)
だ、
198
俺
(
おれ
)
が
暫
(
しばら
)
く
洗濯鬼
(
せんたくおに
)
になつてやらう。
199
人鬼
(
ひとおに
)
だ。
200
婆
(
ばば
)
の
来
(
こ
)
ぬ
間
(
ま
)
に
鬼
(
おに
)
が
洗濯
(
せんたく
)
……アハヽヽヽ』
201
両人
(
りやうにん
)
は
糞
(
くそ
)
まぶれの
着物
(
きもの
)
を、
202
水溜
(
みづたま
)
りに
向
(
む
)
けて、
203
手早
(
てばや
)
く
脱
(
ぬ
)
ぎ、
204
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
み、
205
二人
『サアこれで
洗濯
(
せんたく
)
の
用意
(
ようい
)
は
出来
(
でき
)
た。
206
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
着
(
き
)
る
物
(
もの
)
がない。
207
どつか
此処
(
ここ
)
らに
薦
(
こも
)
でもないかナア』
208
と
二人
(
ふたり
)
はガサガサと、
209
小屋
(
こや
)
の
隅
(
すみ
)
クラを、
210
手探
(
てさぐ
)
り、
211
古薦
(
ふるごも
)
や、
212
古蓆
(
ふるござ
)
を
探
(
さが
)
し
索
(
もと
)
めて、
213
やうやう
身
(
み
)
に
纏
(
まと
)
ひ、
214
二人
『アヽこれで
生命
(
いのち
)
丈
(
だけ
)
は
助
(
たす
)
かつた』
215
と
大火
(
おほび
)
を
焚
(
た
)
いて、
216
両人
(
りやうにん
)
は
あた
つて
居
(
ゐ
)
る。
217
鬼彦
『オイ、
218
鬼虎
(
おにとら
)
の
大将
(
たいしやう
)
、
219
お
前
(
まへ
)
は
洗濯
(
せんたく
)
にかかるのだよ。
220
俺
(
おれ
)
は
干
(
ほ
)
す
役
(
やく
)
を
勤
(
つと
)
めるから』
221
鬼虎
『
自分
(
じぶん
)
の
着物
(
きもの
)
は
自分
(
じぶん
)
が
洗濯
(
せんたく
)
し、
222
他人
(
ひと
)
の
世話
(
せわ
)
になると
云
(
い
)
ふやうな
事
(
こと
)
は
天則
(
てんそく
)
違反
(
ゐはん
)
だぞ。
223
……ヨシ、
224
自分
(
じぶん
)
の
丈
(
だけ
)
を
洗濯
(
せんたく
)
して、
225
お
望
(
のぞ
)
みとあらば、
226
干
(
ほ
)
す
役
(
やく
)
もして
貰
(
もら
)
はうかい。
227
……ヤア
井戸
(
ゐど
)
かと
思
(
おも
)
へば、
228
又
(
また
)
糞壺
(
くそつぼ
)
だ。
229
家
(
いへ
)
の
中
(
なか
)
に
雪隠
(
せつちん
)
を
拵
(
こしら
)
へて
置
(
お
)
きやがるものだから、
230
間違
(
まちが
)
うのも
無理
(
むり
)
はない。
231
併
(
しか
)
しマア
陥
(
はま
)
らなンだ
丈
(
だけ
)
は
結構
(
けつこう
)
だ』
232
鬼彦
『オイ
鬼虎
(
おにとら
)
、
233
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
は、
234
どうやら
本物
(
ほんもの
)
らしいぞ、
235
かやく
が
浮
(
う
)
いて
居
(
を
)
らぬワイ』
236
鬼虎
『アハヽヽヽ、
237
鬼彦
(
おにひこ
)
、
238
貴様
(
きさま
)
のは
小便桶
(
せうべんたご
)
だ。
239
何
(
なん
)
とかせなくてはなるまいぞ』
240
鬼彦
『アツヽヽ、
241
火
(
ひ
)
が
点
(
つ
)
きやがつた。
242
オイ
鬼虎
(
おにとら
)
どうしやうどうしやう』
243
鬼虎
『
雪
(
ゆき
)
の
中
(
なか
)
へ
転
(
ころ
)
げ
込
(
こ
)
め』
244
鬼彦
『よし
来
(
き
)
た』
245
と
鬼彦
(
おにひこ
)
は、
246
矢庭
(
やには
)
に
外
(
そと
)
へ
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し、
247
雪
(
ゆき
)
の
上
(
うへ
)
を
転
(
ころ
)
げて
居
(
ゐ
)
る。
248
又
(
また
)
もや
鬼虎
(
おにとら
)
のお
米
(
こめ
)
の
木
(
き
)
の
着物
(
きもの
)
に
火
(
ひ
)
が
燃
(
も
)
へ
移
(
うつ
)
り
鬼虎
(
おにとら
)
は、
249
鬼虎
『
此奴
(
こいつ
)
ア
堪
(
た
)
まらぬ』
250
とザブリと
水溜
(
みづたま
)
りへ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
めば、
251
何処
(
いづく
)
よりともなく
怪
(
あや
)
しき
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
、
252
声
『アツハヽヽヽ、
253
オホヽヽヽ』
254
鬼彦
『オイ
鬼虎
(
おにとら
)
、
255
ナア
貴様
(
きさま
)
は
気楽
(
きらく
)
な
奴
(
やつ
)
だ。
256
糞責
(
くそぜ
)
め、
257
火責
(
ひぜ
)
め、
258
水責
(
みづぜ
)
めに
逢
(
あ
)
うて
苦
(
くる
)
しみて
居
(
ゐ
)
るのに、
259
何
(
なに
)
が
可笑
(
をか
)
しいのだ。
260
怪体
(
けたい
)
な
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しやがつて……』
261
鬼虎
『
鬼虎
(
おにとら
)
が
笑
(
わら
)
つたのぢやない、
262
物
(
もの
)
が
笑
(
わら
)
つたのぢやない。
263
……ソレ、
264
物
(
もの
)
が
物言
(
ものい
)
うとるぢやないか』
265
鬼彦
『ヤイヤイどこの
奴
(
やつ
)
ぢや。
266
何
(
なに
)
が
可笑
(
をか
)
しいのだ。
267
俺
(
おれ
)
は
鬼彦
(
おにひこ
)
さまだぞ』
268
又
(
また
)
もや
隅
(
すみ
)
の
方
(
はう
)
より、
269
声
『
鬼彦
(
おにひこ
)
、
270
鬼虎
(
おにとら
)
、
271
随分
(
ずゐぶん
)
苦労
(
くらう
)
をしたネー。
272
お
節
(
せつ
)
の
宿
(
やど
)
で
半殺
(
はんごろ
)
しに
会
(
あ
)
ひ、
273
今
(
いま
)
又
(
また
)
此処
(
ここ
)
で
半殺
(
はんごろ
)
しの
様
(
やう
)
な
目
(
め
)
に
遭
(
あ
)
つて、
274
牡丹餅
(
ぼたもち
)
の
様
(
やう
)
に、
275
黄金
(
わうごん
)
の
餡
(
あん
)
や、
276
雪
(
ゆき
)
の
餡
(
あん
)
を
着
(
つ
)
けて、
277
中々
(
なかなか
)
うまい
事
(
こと
)
をやるのウ。
278
サアこれから、
279
俺
(
おれ
)
が
招待
(
よば
)
れてやらう。
280
鬼
(
おに
)
の
共喰
(
ともぐひ
)
だ、
281
アハヽヽヽ』
282
鬼彦
『さう
言
(
い
)
ふ
声
(
こゑ
)
は
岩公
(
いはこう
)
ぢやないか、
283
奴跛
(
どちんば
)
の
癖
(
くせ
)
しやがつて、
284
巫山戯
(
ふざけ
)
た
態
(
ざま
)
をさらすと、
285
鬼彦
(
おにひこ
)
が
承知
(
しようち
)
をせぬぞ』
286
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
にて、
287
声
『
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
岩公
(
いはこう
)
でも
無
(
な
)
い、
288
鬼
(
おに
)
でも
無
(
な
)
い、
289
物
(
もの
)
ぢや、
290
物
(
もの
)
ぢや』
291
鬼彦
(
おにひこ
)
『
物
(
もの
)
とは
何
(
なん
)
だ、
292
化物
(
ばけもの
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
か。
293
夜
(
よ
)
がホンノリと
明
(
あ
)
けかかつて
居
(
を
)
るのに、
294
化物
(
ばけもの
)
が
出
(
で
)
るナンテ、
295
チツト
時季
(
しゆん
)
が
過
(
す
)
ぎとるぞ。
296
化
(
ば
)
け
損
(
ぞこな
)
ひの
大
(
おほ
)
馬鹿者
(
ばかもの
)
奴
(
め
)
が』
297
加米彦
(
かめひこ
)
『アハヽヽヽ、
298
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
加米彦
(
かめひこ
)
さまだ。
299
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまが
豊国姫
(
とよくにひめ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
命令
(
めいれい
)
を
受
(
う
)
けて、
300
今
(
いま
)
鬼彦
(
おにひこ
)
、
301
鬼虎
(
おにとら
)
の
両人
(
りやうにん
)
改心
(
かいしん
)
の
為
(
ため
)
、
302
糞壺
(
くそつぼ
)
へ
陥
(
は
)
めてあるから、
303
グヅグヅして
居
(
を
)
ると
凍
(
い
)
て
着
(
つ
)
いて
了
(
しま
)
ふ。
304
体
(
からだ
)
は
糞
(
くそ
)
まぶれだ。
305
早
(
はや
)
く
往
(
い
)
つて
真名井
(
まなゐ
)
の
水
(
みづ
)
で
体
(
からだ
)
を
清
(
きよ
)
め、
306
此
(
この
)
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
せてやれ…と
仰有
(
おつしや
)
つて、
307
生
(
うま
)
れてから
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
もない
様
(
やう
)
な
立派
(
りつぱ
)
な
着物
(
きもの
)
を
預
(
あづか
)
つて
来
(
き
)
たのだよ』
308
両人
(
りやうにん
)
一度
(
いちど
)
に、
309
両人
『ヤアそれは
有難
(
ありがた
)
い』
310
鬼虎
(
おにとら
)
『
流石
(
さすが
)
は
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまだ。
311
腕
(
うで
)
振
(
ふ
)
り
合
(
あ
)
ふも
多生
(
たしやう
)
の
縁
(
えん
)
、
312
夢
(
ゆめ
)
にも
文珠堂
(
もんじゆだう
)
で
此
(
この
)
鬼虎
(
おにとら
)
が、
313
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまを、
314
間違
(
まちが
)
つて
叩
(
たた
)
いたお
蔭
(
かげ
)
で、
315
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふ
結構
(
けつこう
)
な
着物
(
きもの
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
するのだ。
316
叩
(
たた
)
かれて、
317
丸
(
まる
)
う
治
(
をさ
)
まる、
318
桶
(
をけ
)
の
底
(
そこ
)
、
319
だ……オイ
鬼彦
(
おにひこ
)
、
320
俺
(
おれ
)
のお
蔭
(
かげ
)
だぞ』
321
鬼彦
(
おにひこ
)
『
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
322
あなたは
偉
(
えら
)
いものだ。
323
サア
早
(
はや
)
く
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
せて
下
(
くだ
)
さいナ』
324
加米彦
(
かめひこ
)
『
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て、
325
これから
半里
(
はんみち
)
許
(
ばか
)
り、
326
其
(
その
)
儘
(
まま
)
歩
(
ある
)
いて、
327
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
塩
(
しほ
)
の
溜
(
たま
)
りで
体
(
からだ
)
を
浄
(
きよ
)
め、
328
それから
清
(
きよ
)
の
井戸
(
ゐど
)
でマ
一遍
(
いつぺん
)
清
(
きよ
)
め、
329
三遍目
(
さんべんめ
)
に
大清
(
おほきよ
)
の
井戸
(
ゐど
)
で
浄
(
きよ
)
めた
上
(
うへ
)
で、
330
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
せて
下
(
くだ
)
さるのだ。
331
今
(
いま
)
は
持合
(
もちあは
)
せがないのだよ』
332
鬼彦
(
おにひこ
)
『ナーンだ。
333
それまで
体
(
からだ
)
が
続
(
つづ
)
くだらうか、
334
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だワイ』
335
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ、
336
岩公
(
いはこう
)
、
337
勘公
(
かんこう
)
、
338
櫟公
(
いちこう
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
339
息急
(
いきせ
)
き
切
(
き
)
つて
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
340
三人
『オイオイ
鬼彦
(
おにひこ
)
、
341
鬼虎
(
おにとら
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
342
まだコンナ
所
(
とこ
)
に
居
(
を
)
つたのか。
343
大変
(
たいへん
)
だぞ。
344
夜前
(
やぜん
)
は
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
半殺
(
はんごろ
)
しに
遇
(
あ
)
うて
来
(
き
)
たのだ。
345
貴様
(
きさま
)
も
夜前
(
やぜん
)
泊
(
とま
)
つた
位
(
くらゐ
)
なら、
346
鏖殺
(
みなごろ
)
しになる
所
(
ところ
)
だつたよ、
347
マアマア
生命
(
いのち
)
が
有
(
あ
)
つてお
芽出度
(
めでた
)
う。
348
……ナンダナンダ、
349
裸
(
はだか
)
ぢやないか。
350
一体
(
いつたい
)
着物
(
きもの
)
はどうしたのだ』
351
鬼彦
(
おにひこ
)
『
着物
(
きもの
)
かい、
352
着物
(
きもの
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
寄附
(
きふ
)
して
了
(
しま
)
つたワイ』
353
岩公
(
いはこう
)
『どこの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
寄附
(
きふ
)
したのだ』
354
鬼彦
(
おにひこ
)
『
雪隠
(
せんち
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に………。
355
これから
裸
(
はだか
)
、
356
跣足
(
はだし
)
で
参
(
まゐ
)
るより
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い。
357
貴様
(
きさま
)
も
一
(
ひと
)
つ、
358
摩利支
(
まりし
)
天
(
てん
)
さまに、
359
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
脱
(
ぬ
)
いで
寄附
(
きふ
)
致
(
いた
)
さぬかい』
360
岩公
(
いはこう
)
『ヤア
本当
(
ほんたう
)
に、
361
両人
(
りやうにん
)
とも
赤裸
(
まつぱだか
)
だなア。
362
元気
(
げんき
)
な
事
(
こと
)
だ。
363
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
着物
(
きもの
)
を
寄附
(
きふ
)
してやりたいが、
364
此方
(
こちら
)
も
着
(
き
)
の
身
(
み
)
着
(
き
)
の
儘
(
まま
)
ぢや。
365
山椒
(
さんせう
)
の
木
(
き
)
に
飯粒
(
めしつぶ
)
ぢや、
366
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い。
367
マア
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
まで
行
(
い
)
かうか』
368
鬼虎
(
おにとら
)
『それだつて、
369
裸
(
はだか
)
で
道中
(
だうちう
)
がなるものかイ』
370
岩公
(
いはこう
)
『なつてもならないでも
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いワ。
371
グヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると、
372
夜前
(
やぜん
)
のお
節
(
せつ
)
さまが、
373
おつつけ
此処
(
ここ
)
に
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るぞ。
374
コンナ
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
つけられたら
醜
(
みつと
)
もない。
375
サア
行
(
ゆ
)
かう
行
(
ゆ
)
かう』
376
鬼彦
(
おにひこ
)
、
377
鬼虎
(
おにとら
)
、
378
岩
(
いは
)
、
379
勘
(
かん
)
、
380
櫟
(
いち
)
の
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は、
381
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
けた
雪路
(
ゆきみち
)
を、
382
トボトボと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
383
家
(
いへ
)
の
内
(
うち
)
より
加米彦
(
かめひこ
)
の
声
(
こゑ
)
、
384
加米彦
『オイオイ
鬼虎
(
おにとら
)
、
385
鬼彦
(
おにひこ
)
。
386
着物
(
きもの
)
だ
着物
(
きもの
)
だ』
387
とボロボロの
継
(
つ
)
ぎ
継
(
つ
)
ぎだらけの
着物
(
きもの
)
を
引
(
ひ
)
つ
抱
(
かか
)
へ
加米彦
(
かめひこ
)
がやつて
来
(
き
)
て、
388
加米彦
『サア
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
389
当座
(
たうざ
)
凌
(
しの
)
ぎに、
390
これなと
着
(
き
)
て
行
(
ゆ
)
け』
391
鬼虎
(
おにとら
)
『ヤア、
392
全然
(
まるで
)
東海道
(
とうかいだう
)
以上
(
いじやう
)
だ、
393
百
(
ひやく
)
ツギも
二百
(
にひやく
)
ツギもやつた
着物
(
きもの
)
だ。
394
…………エヽ
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い。
395
鬼彦
(
おにひこ
)
、
396
これでも
無
(
な
)
いより
優
(
ま
)
しだ。
397
拝借
(
はいしやく
)
しようかい』
398
鬼彦
『さうださうだ、
399
寒
(
さむ
)
い
時
(
とき
)
に
穢
(
きたな
)
い
物
(
もの
)
なし』
400
と
手早
(
てばや
)
く
加米彦
(
かめひこ
)
の
手
(
て
)
よりひつたくり、
401
クルクルと
身
(
み
)
に
纏
(
まと
)
ひ、
402
鬼彦
『アヽなんだか、
403
ウヂウヂするぢやないか』
404
加米彦
(
かめひこ
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
ぢや。
405
虱
(
しらみ
)
の
本宅
(
ほんたく
)
だ。
406
サアサア
進
(
すす
)
もう
進
(
すす
)
もう』
407
と
雪路
(
ゆきみち
)
を
西
(
にし
)
へ
西
(
にし
)
へと
走
(
はし
)
りゆく。
408
道端
(
みちばた
)
に
小瀟洒
(
こざつぱり
)
とした
綺麗
(
きれい
)
な
家
(
いへ
)
が
左側
(
ひだりがは
)
に
建
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
409
一人
(
ひとり
)
の
綺麗
(
きれい
)
な
娘
(
むすめ
)
、
410
戸口
(
とぐち
)
を
開
(
あ
)
け、
411
娘
『もうしもうし、
412
あなた
方
(
がた
)
は、
413
真名井
(
まなゐ
)
ケ
嶽
(
だけ
)
へ
御
(
ご
)
参詣
(
さんけい
)
の
方
(
かた
)
と
見
(
み
)
えますが、
414
此
(
この
)
雪路
(
ゆきみち
)
に
嘸
(
さぞ
)
お
困
(
こま
)
りでせう。
415
湯
(
ゆ
)
も
沸
(
わ
)
いて
居
(
を
)
ります。
416
どうぞ
一服
(
いつぷく
)
して
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
417
別
(
べつ
)
にお
茶代
(
ちやだい
)
の
請求
(
せいきう
)
も
致
(
いた
)
しませぬ。
418
今日
(
けふ
)
は
親
(
おや
)
の
命日
(
めいにち
)
で、
419
お
茶
(
ちや
)
や
御飯
(
ごはん
)
のお
接待
(
せつたい
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります。
420
サアサアどうぞ
這入
(
はい
)
つて
往
(
い
)
て
下
(
くだ
)
さいませ』
421
鬼彦
(
おにひこ
)
『ヤア
捨
(
す
)
てる
神
(
かみ
)
もあれば
拾
(
ひろ
)
ふ
神
(
かみ
)
も
有
(
あ
)
るとは
能
(
よ
)
う
言
(
い
)
つた
事
(
こと
)
だ。
422
皆
(
みな
)
さま
一服
(
いつぷく
)
さして
貰
(
もら
)
ひませうかな』
423
と
鬼彦
(
おにひこ
)
は
早
(
はや
)
くも
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
424
屋内
(
をくない
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
みたり。
425
娘
『サアサア
皆
(
みな
)
さま、
426
お
這入
(
はい
)
りなさいませ』
427
加米彦
(
かめひこ
)
は、
428
加米彦
『アイ
御免
(
ごめん
)
よ』
429
と
尻
(
しり
)
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
ら
這入
(
はい
)
り、
430
加米彦
『ヨー、
431
此処
(
ここ
)
の
家
(
うち
)
は、
432
外
(
そと
)
から
見
(
み
)
た
割
(
わり
)
とは
広
(
ひろ
)
い
家
(
うち
)
だ。
433
……さうしてお
娘
(
むすめ
)
、
434
コンナ
小広
(
こびろ
)
い
家
(
うち
)
にお
前
(
まへ
)
一人
(
ひとり
)
居
(
を
)
るのかい、
435
随分
(
ずゐぶん
)
険呑
(
けんのん
)
なものだなア。
436
大江山
(
おほえやま
)
の
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
乾分
(
こぶん
)
、
437
鬼虎
(
おにとら
)
、
438
鬼彦
(
おにひこ
)
がやつて
来
(
き
)
て、
439
お
節
(
せつ
)
女郎
(
めらう
)
の
様
(
やう
)
に
掻攫
(
かつさら
)
へて
帰
(
い
)
ぬかも
知
(
し
)
れませぬぞ。
440
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けなさいませや』
441
娘
『ホヽヽヽ、
442
鬼虎
(
おにとら
)
も、
443
鬼彦
(
おにひこ
)
も、
444
今日
(
こんにち
)
の
様
(
やう
)
に、
445
善
(
ぜん
)
の
途
(
みち
)
に
堕落
(
だらく
)
して
仕舞
(
しま
)
へば、
446
モウ
駄目
(
だめ
)
ですよ。
447
お
節
(
せつ
)
の
家
(
うち
)
では
断
(
ことわ
)
られ、
448
糞壺
(
くそつぼ
)
へは
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
み、
449
薦
(
こも
)
を
着
(
き
)
ては
火
(
ひ
)
に
舐
(
な
)
められ、
450
虱
(
しらみ
)
だらけの
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
て、
451
ウンバラ、
452
散
(
さん
)
バラ
若布
(
わかめ
)
の
行列
(
ぎやうれつ
)
、
453
褞褸
(
しめし
)
の
親分
(
おやぶん
)
、
454
雑巾屋
(
ざふきんや
)
の
看板
(
かんばん
)
も
跣足
(
はだし
)
で
逃
(
に
)
げると
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な、
455
立派
(
りつぱ
)
な
着物
(
きもの
)
をお
召
(
め
)
しになつて、
456
真名井
(
まなゐ
)
ケ
嶽
(
だけ
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
する
様
(
やう
)
になつては、
457
モウ
駄目
(
だめ
)
ですワ、
458
ホヽヽヽ』
459
勘公
(
かんこう
)
『ヤア
此奴
(
こいつ
)
ア
妙
(
めう
)
だ。
460
優
(
やさ
)
しい
顔
(
かほ
)
をして
居乍
(
ゐなが
)
ら、
461
口
(
くち
)
の
達者
(
たつしや
)
な
女
(
をんな
)
だ』
462
娘
(
むすめ
)
『マアマア
皆
(
みな
)
さま、
463
ゆつくりなさいませ。
464
併
(
しか
)
しプンプンと
匂
(
にほ
)
ふぢやありませぬか、
465
裏
(
うら
)
に
溜池
(
ためいけ
)
が
有
(
あ
)
ります。
466
あの
池
(
いけ
)
の
外
(
そと
)
で、
467
頭
(
あたま
)
から
水
(
みづ
)
をかぶり、
468
鬼彦
(
おにひこ
)
、
469
鬼虎
(
おにとら
)
さまは、
470
洗濯
(
せんたく
)
をして
来
(
き
)
なさい。
471
モシモシ
岩
(
いは
)
さまとやら、
472
あなた、
473
此処
(
ここ
)
に
横槌
(
よこづち
)
が
御座
(
ござ
)
います。
474
二人
(
ふたり
)
の
髻
(
たぶさ
)
を
掴
(
つか
)
んで、
475
溜池
(
ためいけ
)
に
突込
(
つつこ
)
み、
476
石
(
いし
)
の
上
(
うへ
)
でキユウキユウと
踏
(
ふ
)
み
潰
(
つぶ
)
し、
477
此
(
この
)
横槌
(
よこづち
)
でコンコンとこづいて
充分
(
じゆうぶん
)
に
圧搾
(
あつさく
)
をかけ、
478
火
(
ひ
)
に
焙
(
あぶ
)
つて、
479
綺麗
(
きれい
)
サツパリと
洗濯
(
せんたく
)
をしてあげて
下
(
くだ
)
さいナ』
480
鬼彦、鬼虎
『
馬鹿
(
ばか
)
にしやがる。
481
着物
(
きもの
)
と
人間
(
にんげん
)
の
体
(
からだ
)
と
一
(
ひと
)
つにしられて
彦
(
ひこ
)
も
虎
(
とら
)
も
堪
(
た
)
まるものかい』
482
娘
(
むすめ
)
『キモノ
弱
(
よわ
)
い
人
(
ひと
)
は、
483
キモノ
弱
(
よわ
)
いのも、
484
おなじことぢや。
485
一遍
(
いつぺん
)
洗濯
(
せんたく
)
して、
486
糊
(
のり
)
でも
着
(
つ
)
けねば
腰
(
こし
)
が
立
(
た
)
つまい。
487
よつぽどよい
腰抜
(
こしぬけ
)
野郎
(
やらう
)
だからなア』
488
鬼彦
(
おにひこ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
にしやがるない。
489
貴様
(
きさま
)
は
一体
(
いつたい
)
何者
(
なにもの
)
だ』
490
女
(
をんな
)
白
(
しろ
)
き
牙
(
きば
)
をニユツと
出
(
だ
)
し、
491
目
(
め
)
をクルリと
剥
(
む
)
き、
492
腮
(
あご
)
をしやくり
乍
(
なが
)
ら、
493
娘
『あてかいな、
494
あてい……あの……おコンと
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
ですよ』
495
鬼彦
(
おにひこ
)
『エイ、
496
狐
(
きつね
)
みたいな
名
(
な
)
の
奴
(
やつ
)
だ、
497
大方
(
おほかた
)
……
狐
(
きつね
)
が
瞞
(
だま
)
しとるのぢやないかナ』
498
おコン『
雪
(
ゆき
)
に
閉
(
とざ
)
され、
499
誠
(
まこと
)
にコン
窮千万
(
きうせんばん
)
、
500
どうぞコン
夜
(
よ
)
丈
(
だけ
)
お
泊
(
と
)
め
下
(
くだ
)
されと、
501
コン
願
(
ぐわん
)
したが、
502
平助爺
(
へいすけぢい
)
に、
503
コンと
肱鉄砲
(
ひぢてつぱう
)
を
喰
(
く
)
はされ、
504
コンな
事
(
こと
)
なら、
505
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
するぢやなかつたのに、
506
エーエ
仕方
(
しかた
)
がない、
507
コン
夜
(
や
)
は
雪
(
ゆき
)
の
路
(
みち
)
を、
508
コンパスの
続
(
つづ
)
く
限
(
かぎ
)
り
歩
(
ある
)
かうかと、
509
二人
(
ふたり
)
はコン
限
(
かぎ
)
り
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
り
走
(
はし
)
つた
揚句
(
あげく
)
に
糞壺
(
くそつぼ
)
の
中
(
なか
)
へコン
倒
(
たふ
)
し、
510
コンな
因果
(
いんぐわ
)
が
古
(
こ
)
コンを
尋
(
たづ
)
ねても、
511
又
(
また
)
と
一人
(
ひとり
)
あるものか………とコン
惑
(
わく
)
の
態
(
てい
)
、
512
茅屋
(
あばらや
)
の
中
(
なか
)
へ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
513
薦
(
こも
)
を
被
(
かぶ
)
つて
火
(
ひ
)
に
焙
(
あぶ
)
り、
514
やつと
安心
(
あんしん
)
する
間
(
ま
)
もなく
体
(
からだ
)
に
火
(
ひ
)
が
燃
(
も
)
えつき、
515
雪
(
ゆき
)
の
上
(
うへ
)
に
転
(
ころ
)
げるやら
小便桶
(
せうべんたご
)
へ
陥
(
はま
)
るやら、
516
コン
難
(
なん
)
の
最中
(
さいちう
)
に
加米公
(
かめこう
)
の
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
な
御
(
お
)
志
(
こころざし
)
、
517
虱
(
しらみ
)
の
宿
(
やど
)
の
様
(
やう
)
な
襤褸
(
つづれ
)
の
錦
(
にしき
)
を
恵
(
めぐ
)
まれて、
518
此処
(
ここ
)
までやつて
来
(
き
)
たお
前
(
まへ
)
ぢやないか。
519
是
(
こ
)
れから
此
(
この
)
オコンさまが、
520
アンナ
失敗
(
しつぱい
)
を
今後
(
こんご
)
繰返
(
くりかへ
)
さぬ
様
(
やう
)
に、
521
コンコンと
説諭
(
せつゆ
)
してあげよう。
522
早
(
はや
)
く
体
(
からだ
)
を
洗
(
あら
)
つて
出
(
で
)
て
来
(
き
)
なさい。
523
炬燵
(
こたつ
)
へでも
潜
(
くぐ
)
り
込
(
こ
)
んで、
524
ゆつくりと、
525
おコンの
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
かつしやいツ』
526
岩公
(
いはこう
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も、
527
此
(
この
)
縁
(
えん
)
の
端
(
はし
)
を
貸
(
か
)
して
貰
(
もら
)
ひませう。
528
二人
(
ふたり
)
の
体
(
からだ
)
の
処置
(
しよち
)
をつけなくては、
529
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ませぬワイ』
530
鬼彦
(
おにひこ
)
、
531
鬼虎
(
おにとら
)
は、
532
裏口
(
うらぐち
)
の
溜池
(
ためいけ
)
にて、
533
薄氷
(
うすこほり
)
の
張
(
は
)
つた
池水
(
いけみづ
)
を
掬
(
すく
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
534
ザブザブと
御禊
(
みそぎ
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る。
535
二人
(
ふたり
)
は
体
(
からだ
)
を
清
(
きよ
)
め、
536
ビリビリ
震
(
ふる
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
537
鬼彦、鬼虎
『アヽ
皆
(
みな
)
さま、
538
お
待
(
ま
)
たせしました。
539
これで
気分
(
きぶん
)
がサラリとした。
540
併
(
しか
)
し
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
にはお
召物
(
めしもの
)
の
心配
(
しんぱい
)
だ。
541
どうしたら
宜
(
よ
)
からうかなア』
542
おコン『ホヽヽヽ、
543
ご
心配
(
しんぱい
)
なされますなお
二人
(
ふたり
)
様
(
さま
)
、
544
お
召物
(
めしもの
)
はチヤンと
此処
(
ここ
)
に
用意
(
ようい
)
致
(
いた
)
して
御座
(
ござ
)
います。
545
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまが
前
(
まへ
)
以
(
もつ
)
てお
預
(
あづ
)
けになりました。
546
サアサア
御
(
ご
)
遠慮
(
ゑんりよ
)
なしにお
召
(
め
)
し
遊
(
あそ
)
ばせ。
547
……これが
鬼彦
(
おにひこ
)
様
(
さま
)
のお
召物
(
めしもの
)
……
此方
(
こちら
)
が
鬼虎
(
おにとら
)
さまのお
召物
(
めしもの
)
ですよ』
548
鬼彦
(
おにひこ
)
、
549
矢庭
(
やには
)
にグルグルと
身
(
み
)
に
纏
(
まと
)
ひ、
550
鬼彦
(
おにひこ
)
『ヤア
立派
(
りつぱ
)
な
物
(
もの
)
だ。
551
これは
正
(
まさ
)
しく
宣伝使
(
せんでんし
)
の
装束
(
しやうぞく
)
だ……ヤアナンダ、
552
妙
(
めう
)
な
物
(
もの
)
が
貼
(
は
)
つてあるぞ。
553
……エ……
鬼彦
(
おにひこ
)
を
改名
(
かいめい
)
して、
554
只今
(
ただいま
)
より
彦安
(
ひこやすの
)
命
(
みこと
)
と
名
(
な
)
を
与
(
あた
)
ふ……ヤア
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い、
555
何
(
なん
)
だか
鬼
(
おに
)
の
字
(
じ
)
が
癪
(
しやく
)
に
障
(
さは
)
つて
仕方
(
しかた
)
がなかつた。
556
サア
是
(
こ
)
れから
彦安
(
ひこやすの
)
命
(
みこと
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
557
……オイ
鬼虎
(
おにとら
)
、
558
今日
(
けふ
)
から
俺
(
おれ
)
の
弟子
(
でし
)
にしてやらう。
559
オツホン』
560
鬼虎
(
おにとら
)
『アハヽヽヽ、
561
彦安
(
ひこやすの
)
命
(
みこと
)
さま、
562
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
みませぬが、
563
拙者
(
せつしや
)
も
虎彦
(
とらひこの
)
命
(
みこと
)
と
名
(
な
)
を
与
(
あた
)
ふ……としてあるのだ。
564
五分
(
ごぶ
)
五分
(
ごぶ
)
だよ。
565
サア
勘
(
かん
)
、
566
櫟
(
いち
)
、
567
岩
(
いは
)
、
568
只今
(
ただいま
)
より
天下
(
てんか
)
晴
(
は
)
れての
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
569
左様
(
さやう
)
心得
(
こころえ
)
たが
宜
(
よ
)
からうぞ』
570
岩公
(
いはこう
)
『ヘン
馬鹿
(
ばか
)
にしやがるワイ、
571
糞
(
くそ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
奴
(
め
)
が。
572
雪隠虫
(
せんちむし
)
奴
(
め
)
が。
573
平助
(
へいすけ
)
に
屁
(
へ
)
を
嗅
(
か
)
がされて、
574
お
楢
(
なら
)
に
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
され、
575
宣伝使
(
せんでんし
)
もあつたものかい、
576
アハヽヽヽ』
577
おコン『サア
皆
(
みな
)
さま
是
(
これ
)
からが
正念場
(
しやうねんば
)
だ。
578
十四五
(
じふしご
)
丁
(
ちやう
)
進
(
すす
)
めば、
579
愈
(
いよいよ
)
真奈井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
聖地
(
せいち
)
に
着
(
つ
)
く、
580
此処
(
ここ
)
で
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
581
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
をあげてお
出
(
いで
)
なさい。
582
妾
(
わたし
)
が
導師
(
だうし
)
を
致
(
いた
)
しませう』
583
と、
584
声
(
こゑ
)
も
涼
(
すず
)
しくおコンは
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
する。
585
一同
(
いちどう
)
その
後
(
あと
)
に
従
(
つ
)
いて、
586
一心
(
いつしん
)
不乱
(
ふらん
)
に
合唱
(
がつしやう
)
する。
587
平助
(
へいすけ
)
、
588
お
楢
(
なら
)
、
589
お
節
(
せつ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
590
杖
(
つゑ
)
を
突
(
つ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
591
ヒヨコヒヨコと
此処
(
ここ
)
に
現
(
あら
)
はれ、
592
平助
(
へいすけ
)
『お
前
(
まへ
)
は
昨夜
(
ゆうべ
)
の
御
(
お
)
客
(
きやく
)
ぢやないか。
593
大勢
(
おほぜい
)
の
方
(
かた
)
が、
594
コンナ
雪
(
ゆき
)
の
中
(
なか
)
に
赤裸
(
まつぱだか
)
になつて、
595
何
(
なに
)
をして
御座
(
ござ
)
るのだ。
596
皆
(
みな
)
さま、
597
サアサア
行
(
ゆ
)
きませう。
598
着物
(
きもの
)
はどうしなさつた』
599
『ハツ』と
一同
(
いちどう
)
気
(
き
)
がつけば、
600
野雪隠
(
のぜんち
)
を
中央
(
まんなか
)
に、
601
一同
(
いちどう
)
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
せ、
602
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
して
居
(
ゐ
)
た。
603
後
(
うしろ
)
の
山
(
やま
)
より
狐
(
きつね
)
の
鳴
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
二声
(
ふたこゑ
)
、
604
三声
(
みこゑ
)
、
605
鳴き声
『コンコン、
606
カイカイ』
607
(
大正一一・四・二一
旧三・二五
松村真澄
録)
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【第1章 黄金の衣|第17巻|如意宝珠|霊界物語|/rm1701】
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