霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 花(はな)と花(はな)〔六二三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻 篇:第3篇 鬼ケ城山 よみ(新仮名遣い):おにがじょうざん
章:第12章 花と花 よみ(新仮名遣い):はなとはな 通し章番号:623
口述日:1922(大正11)年04月23日(旧03月27日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年1月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
悦子姫は、音彦と加米彦を供として三嶽山に差し掛かった。そこで、谷川で血にまみれた衣をすすぐ一人の美しい女がいた。
音彦が話を聞くと、女は真名井ケ原へ参詣の途中、鬼雲彦の一味である荒鷹・鬼鷹によって、二人の僕と共にさらわれてきたのだ、という。僕の二人は、バラモン教の手下によって殺され、その供養の為に衣を洗っているのだ、と明かした。
女は紫姫と名乗った。加米彦は、心当たりがある様子を見せるが、滑稽なことを言ってごまかす。その様子に紫姫は一行に心を許して行く。
悦子姫ら一行は、荒鷹・鬼鷹らを言向け和すために、一味の隠れ家に案内するように、と提案する。ちょうど荒鷹・鬼鷹は不在で、手下たちだけが留守を守っているというので、紫姫に付いて岩窟に向かう。
加米彦は一味の掘った落とし穴に落ちてしまうが、悦子姫と紫姫が縄梯子を編んで助け出し、一行は岩窟に乗り込んでいく。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-02-14 00:42:12 文字数:5608 OBC :rm1712
愛善世界社版:185頁 八幡書店版:第3輯 592頁 修補版: 校定版:191頁 普及版:82頁 初版: ページ備考:
001メソポタミヤの瑞穂国(みづほくに)
002世界(せかい)の楽土(らくど)と聞(きこ)えたる
003顕恩郷(けんおんきやう)を振(ふ)りすてて
004自転倒(おのころ)島(じま)に逃(に)げ来(きた)り
005醜(しこ)の曲津(まがつ)の大江山(おほえやま)
006山寨(とりで)を構(かま)へて神国(かみくに)を
007蹂躙(じうりん)せむと千万(ちよろづ)に
008心(こころ)を尽(つく)す鬼雲彦(おにくもひこ)は
009神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)に
010仕(つか)へまつれる鬼武彦(おにたけひこ)に
011逐(お)ひ退(やら)はれて中空(ちうくう)を
012翔(かけ)つて伊吹(いぶき)の山(やま)の辺(へ)に
013雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ散(ち)れど
014鬼雲彦(おにくもひこ)が力(ちから)と頼(たの)む
015剛力(がうりき)無双(むさう)の曲司(まがつかさ)
016名(な)も怖(おそ)ろしき鬼熊別(おにくまわけ)は
017八岐(やまた)大蛇(をろち)の醜(しこ)の霊(みたま)に操(あやつ)られ
018荒鷹(あらたか)鬼鷹(おにたか)諸共(もろとも)に
019大江(おほえ)の山(やま)の峰(みね)つづき
020鬼(おに)ケ城(じやう)にと第二(だいに)の砦(とりで)を構(かま)へ
021時(とき)を計(はか)らひ捲土(けんど)重来(ぢうらい)の
022秘策(ひさく)を凝(こ)らし
023一挙(いつきよ)に聖地(せいち)に攻(せ)め寄(よ)せて
024神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)や
025国武彦(くにたけひこ)の大神(おほかみ)の
026神政(しんせい)成就(じやうじゆ)の経綸地(けいりんち)
027桶伏山(をけふせやま)の蓮華台(れんげだい)
028続(つづ)いて四尾(よつを)の神山(かみやま)を
029力限(ちからかぎ)りに占領(せんりやう)せむと
030心(こころ)を砕(くだ)くぞ果(はか)無(な)けれ。
031 三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、032悦子姫(よしこひめ)は音彦(おとひこ)、033加米彦(かめひこ)を伴(ともな)ひ真名井(まなゐ)ケ原(はら)を後(あと)にして三嶽山(みたけやま)に差(さし)かかる。034時(とき)しもあれや谷川(たにがは)に、035血(ち)に塗(まみ)れたる衣(ころも)を濯(すす)ぐ一人(ひとり)の美人(びじん)、036三(さん)人(にん)の姿(すがた)を眺(なが)めて呆(あき)れ顔(がほ)、
037音彦(おとひこ)『モシモシ悦子姫(よしこひめ)様(さま)、038此(この)深山(しんざん)幽谷(いうこく)に見(み)らるる如(ごと)き妙齢(めうれい)の美人(びじん)唯(ただ)一人(ひとり)、039血(ち)に塗(まみ)れたる衣(きぬ)を洗(あら)ひ、040吾々(われわれ)の姿(すがた)を眺(なが)めて何(なに)か思案顔(しあんがほ)、041これには深(ふか)き様子(やうす)のある事(こと)で御座(ござ)いませう。042一(ひと)つあの女(をんな)を引捉(ひつとら)まへて詰問(きつもん)して見(み)ませうか』
043悦子姫(よしこひめ)『何(なに)を云(い)うても人里(ひとざと)離(はな)れし此(この)谷川(たにがは)、044合点(がてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)である。045貴方(あなた)御(ご)苦労(くらう)だが柔(おと)なしくあの女(をんな)に聞(き)いて見(み)て下(くだ)さい』
046音彦(おとひこ)『承知(しようち)致(いた)しました、047加米彦(かめひこ)、048お前(まへ)は悦子姫(よしこひめ)様(さま)と此処(ここ)に待(ま)つて居(ゐ)て呉(く)れ、049俺(おれ)は此(この)谷川(たにがは)を渡(わた)つて怪(あや)しの女(をんな)に一(ひと)つ質問(しつもん)をやつて見(み)る、050大抵(たいてい)この山(やま)の様子(やうす)も分(わか)らうから』
051と云(い)ふより早(はや)く裾(すそ)をからげ谷川(たにがは)を向岸(むかう)へ渡(わた)つた。
052音彦(おとひこ)『コレヤコレヤ、053人里(ひとざと)離(はな)れしこの深山(しんざん)幽谷(いうこく)に浦若(うらわか)き女(をんな)の一人(ひとり)、054血(ち)に塗(まみ)れたる衣服(いふく)を洗濯(せんたく)致(いた)し居(を)るは如何(いか)なる理由(りいう)あつてか、055定(さだ)めて此(この)辺(へん)には悪神(あくがみ)の巣窟(さうくつ)があつて、056人(ひと)を取(と)り喰(くら)うと察(さつ)せらるる、057サアつぶさに委細(ゐさい)を物語(ものがた)れよ』
058 女(をんな)は涙(なみだ)をはらはらと流(なが)しながら、
059女(紫姫)『ハイ私(わたくし)は都(みやこ)の女(をんな)で御座(ござ)います、060大江山(おほえやま)の鬼雲彦(おにくもひこ)が一味(いちみ)の悪神(あくがみ)、061荒鷹(あらたか)、062鬼鷹(おにたか)の両人(りやうにん)が、063真名井(まなゐ)ケ原(はら)の神(かみ)様(さま)へ二人(ふたり)の僕(しもべ)を従(したが)へ参詣(さんけい)の途中(とちう)、064言葉(ことば)巧(たくみ)に計略(けいりやく)をもつて妾(わらは)主従(しゆじゆう)を連(つ)れ来(きた)り、065二人(ふたり)の下僕(しもべ)は種々(いろいろ)と苦役(くえき)を命(めい)ぜられ、066身体(しんたい)疲労(ひらう)の結果(けつくわ)、067もはや手足(てあし)も動(うご)けなくなりまして、068苦(くる)しみ悶(もだ)える所(ところ)を、069慈悲(じひ)も情(なさけ)も荒鷹(あらたか)鬼鷹(おにたか)の両人(りやうにん)の指揮(しき)の下(もと)に、070寄(よ)つて集(たか)つて二人(ふたり)の下僕(しもべ)を嬲殺(なぶりごろ)し、071手足(てあし)をもぎ取(と)り、072真裸(まつぱだか)となし土中(どちう)に埋(う)めましたさうです。073さうして妾(わらは)は情(なさけ)ない荒鷹(あらたか)、074鬼鷹(おにたか)両人(りやうにん)に虐(しいた)げられ、075あるにあられぬ悲(かな)しい月日(つきひ)を送(おく)つて居(を)ります。076今日(けふ)は幸(さいは)ひ両人(りやうにん)鬼(おに)ケ城(じやう)の鬼熊別(おにくまわけ)が大将(たいしやう)の許(もと)に召(め)されて参(まゐ)りました。077後(あと)には四五(しご)の下僕(しもべ)共(ども)、078二人(ふたり)の留守(るす)を幸(さいは)ひお酒(さけ)を呑(の)ませ酔(よ)はして置(お)いて、079下僕(しもべ)二人(ふたり)が着衣(ちやくい)を探(さが)し求(もと)め、080此(この)谷水(たにみづ)に洗(あら)ひ清(きよ)め天日(てんぴ)に乾(ほ)し、081これを夜具(やぐ)に造(つく)り替(か)へて、082せめては下僕(しもべ)の遺物(かたみ)と彼(かれ)が菩提(ぼだい)を弔(とむら)うため、083妾(わらは)が肌身(はだみ)につけ其(その)霊(れい)を慰(なぐさ)めやらむと今(いま)此処(ここ)に、084隙(すき)を窺(うかが)ひ洗濯(せんたく)に参(まゐ)りました』
085と、086ワツと許(ばか)りに泣(な)き入(い)りぬ。087音彦(おとひこ)は両手(りやうて)を組(く)み太息(ふといき)を吐(つ)きながら、
088音彦『嗚呼(ああ)飽迄(あくまで)も悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の大自在天(だいじざいてん)、089バラモン教(けう)の奴輩(やつばら)の惨虐(ざんぎやく)さ』
090と音彦(おとひこ)は涙(なみだ)を腮辺(しへん)にハラハラと流(なが)し、091黙念(もくねん)としてうつむき居(ゐ)る。
092女(をんな)(紫姫)『貴方(あなた)様(さま)は何(いづ)れの方(かた)かは存(ぞん)じませぬが、093一寸(ちよつと)お見受(みう)け申(まを)せば力(ちから)の強(つよ)さうな御(お)姿(すがた)、094美(うつく)しき御(ご)婦人(ふじん)を連(つ)れて何(いづ)れへお越(こ)し遊(あそ)ばしますか。095此(この)三嶽山(みたけやま)は、096大江山(おほえやま)の峰続(みねつづ)き、097鬼(おに)ケ城(じやう)との中心点(ちうしんてん)に聳立(そばだ)つ、098恐(おそ)ろしき魔(ま)の山(やま)で御座(ござ)います。099これから先(さき)には沢山(たくさん)の魔神(まがみ)が棲(す)みて居(を)りますれば、100これより先(さき)は剣呑(けんのん)千万(せんばん)、101どうぞ此(この)場(ば)よりお引(ひ)き返(かへ)し下(くだ)さいませ、102又(また)妾(わらは)の如(ごと)き憂目(うきめ)にお遇(あ)ひなされてはお気(き)の毒(どく)で御座(ござ)います』
103 音彦(おとひこ)は目(め)をしばたたきながら、
104音彦『オヽお女中(ぢよちう)、105御(ご)親切(しんせつ)に能(よ)く云(い)うて下(くだ)さいました。106併(しか)しながら吾々(われわれ)は、107人(ひと)を助(たす)ける神(かみ)の取次(とりつぎ)、108如何(いか)なる悪魔(あくま)も言向(ことむ)け和(やは)さねばならぬ神界(しんかい)の使命(しめい)を帯(お)びて参(まゐ)つたもの、109仮令(たとへ)如何(いか)なる鬼(おに)大蛇(をろち)、110魔神(まがみ)の襲来(しふらい)致(いた)すとも、111一歩(いつぽ)たりとも退却(たいきやく)致(いた)す事(こと)は出来(でき)ませぬ。112どうぞ荒鷹(あらたか)、113鬼鷹(おにたか)の住家(すみか)へ御(ご)案内(あんない)下(くだ)さいませ』
114女(をんな)(紫姫)『左様(さやう)では御座(ござ)いませうが貴方(あなた)等(ら)は一行(いつかう)三(さん)人(にん)、115一方(いつぱう)は数(かず)限(かぎ)りのない悪魔(あくま)の集団(しふだん)、116何程(なにほど)貴方(あなた)が英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)でも多数(たすう)と少数(せうすう)、117勝敗(しようはい)の数(すう)は戦(たたか)はずして分(わか)つて居(を)ります。118サアサアどうぞ早(はや)くお帰(かへ)り遊(あそ)ばせ』
119音彦(おとひこ)『御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う御座(ござ)います。120併(しか)しながら先刻(せんこく)承(うけたま)はれば貴方(あなた)は都(みやこ)の女(をんな)と仰(あふ)せられましたが、121何(なん)と云(い)ふお方(かた)で御座(ござ)います』
122女(をんな)(紫姫)『ハイ、123名(な)を聞(き)かれては恥(はづ)かしう御座(ござ)いますが、124妾(わらは)は紫姫(むらさきひめ)と申(まを)す不恙(ふつつか)な女(をんな)で御座(ござ)います』
125 谷川(たにがは)の向(むかう)より加米彦(かめひこ)、126大(おほ)きな声(こゑ)で、
127加米彦『オーイオーイ、128音彦(おとひこ)、129美人(びじん)を捉(とら)へて何(なに)を愚図(ぐづ)々々(ぐづ)云(い)つて居(を)るのだ。130吾々(われわれ)を待(ま)たして置(お)いて密約(みつやく)締結(ていけつ)でもやつて居(を)るのか、131ソンナ陽気(やうき)な場合(ばあひ)ぢやないぞ、132コンナ谷底(たにそこ)でいちやつく奴(やつ)があるか、133好(よ)い加減(かげん)に談判(だんぱん)を切(き)り上(あ)げて敵情(てきじやう)を大本営(だいほんえい)に報告(はうこく)しないか、134悦子姫(よしこひめ)女王(ぢよわう)様(さま)が顔色(がんしよく)を変(か)へて御(ご)機嫌斜(きげんななめ)なりだ。135アハヽヽヽ』
136 悦子姫(よしこひめ)は聞(き)き咎(とが)め、
137悦子姫『これこれ加米彦(かめひこ)さま、138悦子姫(よしこひめ)の御(ご)機嫌斜(きげんななめ)なりとは何(なに)を仰有(おつしや)る』
139加米彦(かめひこ)『アア済(す)みませぬ、140私(わたくし)の言葉(ことば)は意味(いみ)深長(しんちやう)に聞(きこ)えたでせう、141どうぞ見直(みなほ)し聞直(ききなほ)して下(くだ)さいませ、142時(とき)の興(きよう)に乗(じやう)じつい洒落気(しやれき)になつて音彦(おとひこ)に揶揄(からかつ)て見(み)たのですよ。143谷川(たにがは)の此方(こちら)には花(はな)を欺(あざむ)く悦子姫(よしこひめ)様(さま)、144そして加米彦(かめひこ)の配合(はいがふ)、145川(かは)の対岸(むこう)には妙齢(めうれい)のナイス、146音彦(おとひこ)の大丈夫(ますらを)、147谷(たに)を隔(へだ)てて一対(いつつい)の若夫婦(わかふうふ)然(ぜん)とした此(この)光景(くわうけい)、148絵(ゑ)にあるやうなスタイルぢやありませぬか。149樹木(じゆもく)の間(あひだ)に雪(ゆき)はチラチラと残(のこ)り、150淙々(そうそう)たる渓流(けいりう)は琴(こと)を弾(だん)じ、151幽邃(いうすゐ)閑雅(かんが)の深谷川(ふかたにがは)、152上手(じやうず)な画工(ぐわこう)にでも写生(しやせい)させたら随分(ずゐぶん)立派(りつぱ)なものが出来(でき)ませう、153アハヽヽヽ』
154悦子姫(よしこひめ)『加米彦(かめひこ)さま、155此処(ここ)は最(もつと)も危険(きけん)区域(くゐき)ですよ、156些(ちつ)と緊張(きんちやう)しなさらぬか』
157加米彦(かめひこ)『柔(じう)能(よ)く剛(がう)を制(せい)す、158剛(がう)中(ちう)柔(じう)あり柔(じう)中(ちう)剛(がう)あり、159敵地(てきち)に臨(のぞ)んで悠々(いういう)閑々(かんかん)綽々(しやくしやく)として余裕(よゆう)を存(ぞん)するは、160ヒーロー豪傑(がうけつ)の心事(しんじ)で御座(ござ)る、161アハヽヽヽ』
162 川向(かはむか)ふより音彦(おとひこ)、
163音彦『オーイオーイ加米彦(かめひこ)、164悦子姫(よしこひめ)様(さま)のお伴(とも)をして此地(こつち)へ渡(わた)つて来(こ)い、165耳(みみ)よりの話(はなし)がある』
166加米彦(かめひこ)『ヨシヨシ、167悦子姫(よしこひめ)さま、168サア参(まゐ)りませう、169此(この)深(ふか)い谷川(たにがは)、170貴方(あなた)は御(ご)婦人(ふじん)の身(み)、171お困(こま)りでせう、172何(なん)なら加米彦(かめひこ)の背(せ)に被負(おぶさ)つて下(くだ)さい』
173悦子姫(よしこひめ)『御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う御座(ござ)います、174併(しか)し乍(なが)ら加米彦(かめひこ)さま、175自分(じぶん)の事(こと)は自分(じぶん)で処置(しよち)をつけねばならぬぢやありませぬか、176神(かみ)様(さま)の教(をしへ)には必(かなら)ず人(ひと)を杖(つゑ)につくなと御座(ござ)います』
177加米彦(かめひこ)『其(その)お言葉(ことば)は尤(もつと)もながら何(なん)だか案(あん)じられてなりませぬ、178然(しか)らばお手(て)を取(と)つて上(あ)げませう、179サア参(まゐ)りませう』
180と裾(すそ)をからげ、181谷川(たにがは)に下(お)りたちぬ。
182悦子姫(よしこひめ)『加米彦(かめひこ)さま、183妾(わらは)が貴方(あなた)の手(て)を引(ひ)いて上(あ)げませう、184大変(たいへん)な危険(きけん)な激流(げきりう)で御座(ござ)いますから』
185と互(たがひ)に友(とも)の危難(きなん)を気遣(きづか)ふ殊勝(しゆしよう)さ。
186加米彦(かめひこ)『アア有難(ありがた)い有難(ありがた)い、187この谷川(たにがは)が無(な)くば悦子姫(よしこひめ)様(さま)と握手(あくしゆ)したり提携(ていけい)したりすると云(い)ふ事(こと)は出来(でき)ない、188南無(なむ)谷川(たにがは)大明神(だいみやうじん)』
189悦子姫(よしこひめ)『ホヽヽヽ、190冗談(ぜうだん)も好(よ)い加減(かげん)になされませ』
191加米彦(かめひこ)『冗談(ぜうだん)から暇(ひま)が出(で)る、192瓢箪(へうたん)から駒(こま)が出(で)る、193三嶽山(みたけやま)から古今(ここん)無双(むさう)のナイスが現(あら)はれる、194大江山(おほえやま)から鬼(おに)が出(で)る、195鬼(おに)ケ城(じやう)から大蛇(をろち)が出(で)る、196私(わたし)の口(くち)から涎(よだれ)が出(で)る、197余(あま)り嬉(うれ)しうて涙(なみだ)が出(で)る、198アハヽヽヽ』
199悦子姫(よしこひめ)『ホヽヽヽ、200これこれ加米彦(かめひこ)さま確(しつか)りしなさらぬか、201辷(すべ)つたら大変(たいへん)ぢやありませぬか』
202加米彦(かめひこ)『辷(すべ)つても転(ころ)げても構(かま)ひますものか、203貴女(あなた)と私(わたし)と此(この)谷川(たにがは)で悦(よろこ)びて転(ころ)こンで寝転(ねころ)ンで辷(すべ)り込(こ)ンで心中(しんぢう)したら一寸(ちよつと)乙(おつ)でせう、204美男(びなん)と美人(びじん)の心中(しんぢう)物語(ものがたり)、205いつの世(よ)にか稗田(ひえだ)の阿礼(あれい)の二代目(にだいめ)が現(あら)はれて、206霊界(れいかい)物語(ものがたり)に此(この)ローマンスを針小(しんせう)棒大(ぼうだい)に書(か)き立(た)て、207名(な)を竹帛(ちくはく)に垂(た)れ末代(まつだい)の語(かた)り草(ぐさ)にして呉(く)れるかも知(し)れませぬよ、208アハヽヽヽ』
209悦子姫(よしこひめ)『加米彦(かめひこ)さま、210何(ど)うやらお蔭(かげ)で無難(ぶなん)に渡(わた)つて来(き)ました』
211加米彦(かめひこ)『アヽ割(わ)りとは狭(せま)い川(かは)だ、212貴女(あなた)と一緒(いつしよ)に握手(あくしゆ)提携(ていけい)して歩(ある)くなら、213仮令(たとへ)河幅(かははば)が三(さん)里(り)あつても五(ご)里(り)あつても、214少(すこ)しも、215遠(とほ)いとは思(おも)ひませぬワ』
216悦子姫(よしこひめ)『ホヽヽヽ、217加米(かめ)さま、218好(よ)い加減(かげん)に惚気(のろけ)て置(お)きなさい』
219とポンと叩(たた)く。220加米(かめ)、221首(くび)をすくめ目(め)を細(ほそ)うし、222舌(した)を一寸(ちよつと)出(だ)して、
223加米彦『ヤア占(し)めた占(し)めた、224お出(いで)たな、225もつともつと叩(たた)いて下(くだ)さいな』
226悦子姫(よしこひめ)『アヽ加米(かめ)さまの好(す)かぬたらしいお方(かた)、227ホヽヽヽ』
228音彦(おとひこ)『オーイオーイ、229加米彦(かめひこ)、230何(なん)だか知(し)らぬが御(ご)機嫌斜(きげんななめ)ならずだなア、231要領(えうりやう)を得(え)たのか、232密約(みつやく)は成立(せいりつ)したか』
233悦子姫(よしこひめ)『ホヽヽヽ』
234加米彦(かめひこ)『何(なに)、235条約(でうやく)不成立(ふせいりつ)不得(ふとく)要領(えうりやう)だ』
236音彦(おとひこ)『不得(ふとく)要領(えうりやう)の中(うち)に要領(えうりやう)を得(う)るのが戦術家(せんじゆつか)の智略(ちりやく)だ、237アハヽヽヽ』
238紫姫(むらさきひめ)『ホヽヽヽ、239貴方(あなた)等(がた)は気楽(きらく)なお方(かた)ですねえ、240最前(さいぜん)からの皆様(みなさま)のお話(はなし)で私(わたくし)の心(こころ)の憂愁(いうしう)も何処(どこ)へやら煙散(えんさん)霧消(むせう)して仕舞(しま)ひましたワ』
241 悦子姫(よしこひめ)、242加米彦(かめひこ)は漸(やうや)く二人(ふたり)の前(まへ)に辿(たど)り着(つ)きぬ。
243音彦(おとひこ)『モシモシ悦子姫(よしこひめ)様(さま)、244此(この)お方(かた)は紫姫(むらさきひめ)と云(い)つて都(みやこ)の方(かた)ぢやさうです、245二人(ふたり)の下僕(しもべ)を従(したが)へ真名井(まなゐ)ケ原(はら)へ参詣(さんけい)の途中(とちう)、246荒鷹(あらたか)、247鬼鷹(おにたか)両人(りやうにん)に誘拐(かどはか)され、248二人(ふたり)の下僕(しもべ)が嬲殺(なぶりごろ)しに遇(あ)はされたさうです、249気(き)の毒(どく)ぢやありませぬか』
250悦子姫(よしこひめ)『………』
251加米彦(かめひこ)『ナニ、252二人(ふたり)の下僕(しもべ)が嬲殺(なぶりごろ)しに遇(あ)つたと、253ヨシ俺(おれ)にも考(かんが)へがある、254サア音彦(おとひこ)、255其(その)荒鷹(あらたか)鬼鷹(おにたか)と云(い)ふ奴(やつ)、256これから一(ひと)つ鬼(おに)ケ城(じやう)を征伐(せいばつ)の門出(かどで)の血祭(ちまつり)にしやうではないか、257モシモシ紫姫(むらさきひめ)様(さま)、258長(なが)らくお目(め)に懸(かか)りませぬ、259御(ご)機嫌(きげん)宜敷(よろし)う、260誠(まこと)に御(ご)無沙汰(ぶさた)を致(いた)しまして』
261紫姫(むらさきひめ)『貴方(あなた)は何方(どなた)で御座(ござ)いましたか、262記憶(きおく)に浮(う)かびませぬ』
263加米彦(かめひこ)『アヽさうでした、264初(はじ)めてお目(め)にぶら下(さが)つたのですよ、265私(わたくし)の若(わか)い時(とき)のスヰートハートしたナイスに、266何処(どこ)やら能(よ)く似(に)まして御座(ござ)るものだから、267つい考(かんが)へ違(ちが)ひを致(いた)しました、268アハヽヽヽ』
269音彦(おとひこ)『ワハヽヽヽ』
270紫姫(むらさきひめ)『ホヽヽヽヽ』
271 紫姫(むらさきひめ)、272初(はじ)めてニタリと笑(わら)ふ。
273音彦(おとひこ)『紫姫(むらさきひめ)さま、274貴女(あなた)の囚(とら)はれて居(ゐ)る巌窟(がんくつ)に案内(あんない)して下(くだ)さい、275これから行(い)つて悪神(あくがみ)の奴(やつ)、276片(かた)つ端(ぱし)から粉砕(ふんさい)して呉(く)れませう、277ヤア面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、278腕(うで)が鳴(な)つて耐(たま)らないワ、279この握(にぎ)り拳(こぶし)のやり所(どころ)が無(な)い、280サア早(はや)く案内(あんない)して下(くだ)さいナ』
281紫姫(むらさきひめ)『ヤアそれはお見合(みあは)せ遊(あそ)ばせ、282大変(たいへん)で御座(ござ)いますよ、283ならう事(こと)なら妾(わらは)も一緒(いつしよ)に連(つ)れて逃(に)げて下(くだ)さいませぬか』
284加米彦(かめひこ)『エヽ気(き)の弱(よわ)い事(こと)を仰有(おつしや)るな、285吾々(われわれ)は神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の御(ご)守護(しゆご)がある、286必(かなら)ず必(かなら)ず御(ご)心配(しんぱい)なさいますな、287サア案内(あんない)して下(くだ)さい、288悦子姫(よしこひめ)さま、289音彦(おとひこ)殿(どの)、290サア往(ゆ)きませう』
291紫姫(むらさきひめ)『左様(さやう)なら妾(わらは)が御(ご)案内(あんない)致(いた)します、292荊棘(けいきよく)茂(しげ)る難路(なんろ)で御座(ござ)います、293残(のこ)ンの雪(ゆき)も溜(たま)つて居(を)りますれば足許(あしもと)に気(き)をつけて下(くだ)さいや』
294と先(さき)に立(た)つ。295一行(いつかう)は雪(ゆき)の坂道(さかみち)辿(たど)つて紫姫(むらさきひめ)の後(あと)について行(ゆ)く。296紫姫(むらさきひめ)に導(みちび)かれ二三丁(にさんちやう)羊腸(やうちやう)の小道(こみち)を辿(たど)り行(ゆ)く。297前方(ぜんぱう)に見上(みあぐ)る許(ばか)りの大岩石(だいがんせき)広(ひろ)く左右(さいう)に二三丁(にさんちやう)許(ばか)り展開(てんかい)し居(ゐ)たり。
298 紫姫(むらさきひめ)は中央(まんなか)の岩石(がんせき)を指(さ)し、
299紫姫『皆様(みなさま)、300あの巌(いはほ)の下(した)に巨大(きよだい)なる穴(あな)が開(あ)いて居(を)ります、301今日(けふ)は荒鷹(あらたか)、302鬼鷹(おにたか)の大将株(たいしやうかぶ)は鬼(おに)ケ城(じやう)に参(まゐ)りまして不在(ふざい)で御座(ござ)います。303四五(しご)人(にん)の小鬼(こおに)共(ども)は皆(みな)酒(さけ)に酔(よ)ひ潰(つぶ)れて寝(やす)みて居(を)りますから大丈夫(だいぢやうぶ)、304御(ご)安心(あんしん)して下(くだ)さいませ』
305加米彦(かめひこ)『ヤア思惑(おもわく)とは洒落(しやれ)た事(こと)を悪神(あくがみ)の奴(やつ)やつて居(を)る哩(わい)、306山(やま)又(また)山(やま)に包(つつ)まれたこの高山(かうざん)の幽谷(いうこく)、307難攻(なんこう)不落(ふらく)の金城(きんじやう)鉄壁(てつぺき)とは此(この)事(こと)だ。308遉(さすが)は悪神(あくがみ)だけあつて好(よ)い地利(ちり)を選(えら)ンだものだ。309一卒(いつそつ)道(みち)に当(あた)れば万軍(ばんぐん)進(すす)む能(あた)はずと云(い)ふ要害(えうがい)堅固(けんご)の絶所(ぜつしよ)だなア』
310と首(くび)を傾(かたむ)け呆(あき)れて舌(した)を捲(ま)いて居(ゐ)る。
311音彦(おとひこ)『よく感心(かんしん)する男(をとこ)だなア、312加米(かめ)さま気(き)に入(い)つたかな』
313加米彦(かめひこ)『気(き)に入(い)るの入(い)らないのつて、314いやもうずつと気(き)に入(い)りました、315風景(ふうけい)と云(い)ひ要害(えうがい)と云(い)ひ天下(てんか)の珍(ちん)だ、316サアサア往(い)きませう、317巌窟(がんくつ)の探険(たんけん)も退屈(たいくつ)ざましに面白(おもしろ)からう』
318と先(さき)に立(た)つて走(はし)り出(だ)すを、319紫姫(むらさきひめ)は手(て)を挙(あ)げて、
320紫姫『モシモシ貴方(あなた)、321妾(わらは)が御(ご)案内(あんない)致(いた)しませう、322其処(そこ)には深(ふか)い深(ふか)い陥穽(おとしあな)が御座(ござ)います、323滅多(めつた)矢鱈(やたら)にお出(いで)なさつては剣呑(けんのん)で御座(ござ)いますから』
324 加米彦(かめひこ)は耳(みみ)にもかけず巌窟(がんくつ)目蒐(めが)けて一目散(いちもくさん)に駆出(かけだ)したるが、325忽(たちま)ちドサツと音(おと)して陥穽(おとしあな)に落(お)ち込(こ)みにける。
326紫姫(むらさきひめ)『アヽ大変(たいへん)大変(たいへん)、327皆様(みなさま)どうぞ助(たす)けて上(あ)げて下(くだ)さいませ』
328音彦(おとひこ)『慌者(あわてもの)だなア、329仕方(しかた)が無(な)い』
330と走(はし)り行(ゆ)かむとするを紫姫(むらさきひめ)は、
331紫姫『モシモシ慌(あわて)て下(くだ)さるな、332沢山(たくさん)の陥穽(おとしあな)、333妾(わらは)が御(ご)案内(あんない)致(いた)します、334後(あと)からついて来(き)て下(くだ)さい』
335音彦(おとひこ)『アヽさうかなア、336何処迄(どこまで)も注意(ちうい)周到(しうたう)なものだ、337ソンナラ先頭(せんとう)を頼(たの)みませう、338悦子姫(よしこひめ)様(さま)、339失礼(しつれい)ながらお先(さき)に参(まゐ)ります、340私(わたくし)の足跡(あしあと)を踏(ふ)みて来(き)て下(くだ)さい、341危険(きけん)ですから』
342悦子姫(よしこひめ)『ハイ有難(ありがた)う』
343 加米彦(かめひこ)は二三丈(にさんぢやう)もある深(ふか)い陥穽(おとしあな)に落(お)ち込(こ)みしが、344幸(さいは)ひ少(すこ)しの怪我(けが)もなく井戸(ゐど)の底(そこ)に突立(つつた)ちながら、
345加米彦『ヤア悪神(わるがみ)の奴(やつ)、346エライ事(こと)をしよつた。347紫姫(むらさきひめ)とやら、348彼奴(あいつ)は鬼熊別(おにくまわけ)一味(いちみ)の奴(やつ)に相違(さうゐ)ない、349愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(を)ると悦子姫(よしこひめ)さまも音彦(おとひこ)も同(おな)じやうに、350空中(くうちう)滑走(かつそう)井底(せいてい)着陸(ちやくりく)とやられるか知(し)れやしないぞ、351かうして井底(せいてい)に佇立(ちよりつ)して居(ゐ)る頭(あたま)の上(うへ)から岩石(がんせき)でも落(おと)されやうものなら、352それこそお耐(たま)り小坊子(こぼし)が無(な)いワイ、353嗚呼(ああ)縮尻(しくじつ)たりな縮尻(しくじつ)たりな、354三五教(あななひけう)は穴(あな)が無(な)くて安心(あんしん)だが、355今(いま)の世(よ)の中(なか)はどこもかも穴(あな)だらけだ。356穴(あな)怖(おそ)ろしの娑婆(しやば)世界(せかい)』
357と呟(つぶや)き居(ゐ)たりしが、358足許(あしもと)の水溜(みづたま)りにパツと写(うつ)つた悦子姫(よしこひめ)の顔(かほ)、
359加米彦(かめひこ)『ヤア又(また)出(で)やがつたな、360彼(あ)の谷川(たにがは)を渡(わた)る時(とき)、361悦子姫(よしこひめ)さまに揶揄(からか)つたものだから、362紫姫(むらさきひめ)の奴(やつ)、363加米彦(かめひこ)は悦子姫(よしこひめ)に現(うつつ)を抜(ぬ)かしてゐると早合点(はやがつてん)しよつて、364井(ゐ)の底(そこ)に姫(ひめ)の顔(かほ)を現(あら)はしよつたのだな、365どつこい其(その)手(て)は喰(く)はぬぞ、366総(すべ)て悪神(あくがみ)は色(いろ)をもつて、367男子(だんし)を死地(しち)に陥入(おとしい)るると聞(き)く、368オイ化物(ばけもの)、369悦子姫(よしこひめ)の姿(すがた)を見(み)せた処(ところ)で其(その)手(て)に乗(の)るものかい、370道心(だうしん)堅固(けんご)の三五教(あななひけう)の加米彦(かめひこ)だ、371馬鹿(ばか)にするない』
372 頭上(づじやう)から悦子姫(よしこひめ)は、
373悦子姫『モシモシ加米彦(かめひこ)さま大変(たいへん)なお危(あぶ)ない事(こと)で御座(ござ)いました。374お怪我(けが)は御座(ござ)いませぬか』
375加米彦(かめひこ)『ヤア悦子姫(よしこひめ)さまか、376ようマア無事(ぶじ)で陥穽(おとしあな)へもはまらないで居(ゐ)て下(くだ)さつた。377音彦(おとひこ)さまはどうなりました。378御(ご)無事(ぶじ)ですかなア』
379悦子姫(よしこひめ)『ハイ有難(ありがた)う、380此処(ここ)に紫姫(むらさきひめ)さまと来(き)て居(を)られます、381貴方(あなた)をお助(たす)けしやうと思(おも)つて綱(つな)を編(あ)みて居(を)るところで御座(ござ)います、382暫(しばら)くお待(ま)ち下(くだ)さいませ』
383加米彦(かめひこ)『ヤア有難(ありがた)う、384神(かみ)の救(すく)ひの御(お)綱(つな)、385此(この)神(かみ)は此(この)人(ひと)と思(おも)うて綱(つな)をかけたら放(はな)さぬぞよと云(い)ふ御(ご)神勅(しんちよく)の実現(じつげん)だナア。386アヽ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
387 音彦(おとひこ)、388紫姫(むらさきひめ)の二人(ふたり)は手早(てばや)く縄梯子(なはばしご)を編(あ)み、389吊(つ)り下(お)ろせば、390加米彦(かめひこ)は、
391加米彦『ヤア有難(ありがた)い』
392と手(て)を合(あは)しゐる。
393音彦(おとひこ)『サア加米彦(かめひこ)さま、394この綱(つな)に確(しつか)り掴(つか)まつた。395三(さん)人(にん)が力(ちから)を合(あは)して釣(つ)り上(あ)げませう、396一(いち)二(に)三(さん)』
397と三(さん)人(にん)一度(いちど)に手繰(たぐ)り上(あ)げたり。
398加米彦(かめひこ)『アヽ有難(ありがた)う、399お蔭(かげ)で命(いのち)が助(たす)かりました。400井戸(ゐど)い目(め)に遇(あ)うところだつた、401アヽハヽヽ』
402紫姫(むらさきひめ)『加米(かめ)様(さま)とやら、403お怪我(けが)が無(な)くてお目出度(めでた)う御座(ござ)います。404サアこれから巌窟(がんくつ)に参(まゐ)りませう』
405と先(さき)に立(た)ち細(ほそ)い穴(あな)を潜(くぐ)り入(い)る。406一行(いつかう)も続(つづ)いて巌窟(がんくつ)に姿(すがた)を隠(かく)しける。
407(大正一一・四・二三 旧三・二七 加藤明子録)
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