霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 大逆転(だいぎやくてん)〔六二〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻 篇:第2篇 千態万様 よみ(新仮名遣い):せんたいばんよう
章:第9章 大逆転 よみ(新仮名遣い):だいぎゃくてん 通し章番号:620
口述日:1922(大正11)年04月22日(旧03月26日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年1月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
(第6章から続く)平助親子は家に戻ってきたが、平助は手桶に水を汲んで運ぶ途中にこけて倒れてしまう。お節はあわてて天の数歌を歌い、平助は息を吹き返した。
平助は、美しい神界を旅していたところを、お節の声に呼び戻されたのだという。それより平助は発熱して、半月ほどして帰らぬ人となった。
それよりお節も悲しみのあまり具合が悪くなり、伏せってしまう。お楢は真名井ケ原に参詣して助けを求めようと比治山を登っていくと、黒姫が立ちはだかり、お楢の窮状につけこんで、ウラナイ教の祈祷を承諾させてしまう。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:天の数歌 データ凡例: データ最終更新日:2025-03-02 12:29:05 文字数:4314 OBC :rm1709
愛善世界社版:136頁 八幡書店版:第3輯 574頁 修補版: 校定版:143頁 普及版:59頁 初版: ページ備考:
001 比沼(ひぬ)の真名井(まなゐ)ケ原(はら)に現(あら)はれ給(たま)ふ豊国姫(とよくにひめ)の瑞(みづ)の宝座(ほうざ)に詣(まう)でたる平助(へいすけ)親子(おやこ)三(さん)人(にん)は、002珍(うづ)の聖地(せいち)を踏(ふ)みしめて心(こころ)も勇(いさ)み、003意気(いき)揚々(やうやう)と帰(かへ)り来(きた)る。004雪(ゆき)積(つ)む道(みち)を苦(く)にもせず、005杖(つゑ)を曳(ひ)きつつ漸(やうや)う荒屋(あばらや)の門口(かどぐち)に着(つ)きにけり。
006平助(へいすけ)『お蔭(かげ)で無事(ぶじ)に下向(げかう)が出来(でき)た。007サアサアお楢(なら)、008早(はや)うお湯(ゆ)を沸(わ)かしてくれ、009足(あし)でも洗(あら)つて悠(ゆつ)くり休(やす)まうぢやないか』
010お節(せつ)『イエイエ、011お爺(ぢい)さま、012妾(わたし)が湯(ゆ)を沸(わ)かします。013お婆(ば)アさま、014何卒(どうぞ)お休(やす)み下(くだ)さいませ』
015お楢(なら)『イヤイヤ、016お前(まへ)は永(なが)らく彼(あ)の様(やう)な暗(くら)い穴(あな)の中(なか)に閉(と)ぢ籠(こ)められて居(を)つたのだから、017火(ひ)を焚(た)いて目(め)が悪(わる)くなるといかぬ、018此(この)婆(ばば)が焚(た)きますから、019サアサア親爺(おやぢ)どの、020水(みづ)を汲(く)みて下(くだ)され』
021お節(せつ)『お爺(ぢい)さま、022妾(わたし)が水(みづ)を汲(く)みます、023何卒(どうぞ)お休(やす)み下(くだ)さい』
024平助(へいすけ)『イヤイヤお前(まへ)は身体(からだ)が弱(よわ)つてる、025此(この)爺(おやぢ)が汲(く)みてやるから湯(ゆ)が沸(わ)く迄(まで)、026マアマアゆつくりして居(ゐ)るがよい』
027 爺(ぢい)は撥釣瓶(はねつるべ)を覚束(おぼつか)なげに何回(なんくわい)も右左(みぎひだり)にブリンブリンと振(ふ)り廻(まは)し漸(やうや)う半分(はんぶん)ばかり汲(く)み上(あ)げ、028汲(く)み上(あ)げては手桶(てをけ)に移(うつ)し又(また)汲(く)み上(あ)げては手桶(てをけ)に移(うつ)し、
029平助『サアサアお楢(なら)、030水(みづ)が汲(く)めた、031早(はや)う沸(わ)かしてくれ、032アーア年(とし)が寄(よ)ると水(みづ)も碌(ろく)に汲(く)めはせないワ』
033お楢(なら)『老(おい)ては子(こ)に従(したが)へと云(い)ふ事(こと)がある、034何(なん)でお節(せつ)に汲(く)ましなさらぬのぢや、035それだからお前(まへ)は何時(いつ)も我(が)が強(つよ)いと言(い)ふのぢや、036若(も)し腰(こし)の骨(ほね)でも折(を)つたら如何(どう)なさる、037お前(まへ)の難儀(なんぎ)許(ばか)りぢや無(な)い、038婆(ばば)もお節(せつ)も総体(そうたい)の難儀(なんぎ)ぢやないか』
039平助(へいすけ)『エー八釜(やかま)しう云(い)ふない、040何程(なにほど)年(とし)が寄(よ)つても水(みづ)位(くらゐ)は提(さ)げえでかい』
041と手桶(てをけ)に一杯(いつぱい)盛(も)つた水(みづ)を、042ヨロヨロと提(ひつさ)げ乍(なが)ら、043庭(には)の滑石(なめらいし)に滑(すべ)つてスツテンドウと仰向(あふむけ)にひつくり覆(かへ)り、
044平助『アイタヽ、045ウンウン』
046と呻(うな)つたきり庭(には)の真中(まんなか)に打(ぶ)つ倒(たふ)れける。047お楢(なら)、048お節(せつ)は驚(おどろ)き、049気(き)も狂乱(きやうらん)し、050爺(おやぢ)の頭部(とうぶ)足部(そくぶ)に走(はし)り寄(よ)り、
051お楢(なら)『お爺(ぢい)さま、052オーイオーイ、053気(き)をつけなさいのう』
054 お節(せつ)も、
055お節『お爺(ぢい)さまお爺(ぢい)さま』
056と泣(な)き猛(たけ)る。
057お楢(なら)『アーア、058如何(どう)しても此奴(こいつ)はいかぬ、059サアサアお節(せつ)、060もう斯(こ)うなつては神(かみ)様(さま)をお願(ねがひ)するより仕方(しかた)がない、061お前(まへ)は三五教(あななひけう)とやらの歌(うた)を知(し)つてるさうぢや、062何卒(どうぞ)早(はや)く歌(うた)つて爺(おやぢ)さまの息(いき)を吹(ふ)き返(かへ)して下(くだ)され』
063お節(せつ)『ハイハイ、064承知(しようち)致(いた)しました、065お婆(ばあ)さま早(はや)くお爺(ぢい)さまに気(き)を注(つ)けて下(くだ)さい、066一(ひと)、067二(ふた)、068三(み)、069四(よ)、070五(いつ)、071六(むゆ)、072七(なな)、073八(や)、074九(ここの)、075十(たり)、076百(もも)、077千(ち)、078万(よろづ)』
079と三四回(さんしくわい)繰返(くりかへ)せば、080平助(へいすけ)は漸(やうや)く呼吸(いき)を吹(ふ)き返(かへ)し、
081平助『アーア、082えらい事(こと)ぢやつた、083天(てん)は青(あを)く山(やま)も野(の)も緑(みどり)の色(いろ)を帯(お)び、084種々(いろいろ)の美(うつく)しい花(はな)は処(ところ)狭(せ)きまで咲(さ)き匂(にほ)ひ、085何(なん)とも云(い)へぬ美(うつく)しい大鳥(おほとり)小鳥(ことり)は涼(すず)しい声(こゑ)を出(だ)して、086常世(とこよ)の春(はる)を歌(うた)ひ、087其辺処(そこら)一面(いちめん)の花莚(はなむしろ)、088何(なん)とも云(い)へぬ綺麗(きれい)な綺麗(きれい)な田圃道(たんぼみち)を進(すす)み行(ゆ)くと、089向(むか)ふの方(はう)に何(なん)とも云(い)へぬ立派(りつぱ)な三重(みへ)の塔(たふ)が見(み)えた。090其(その)塔(たふ)は上(うへ)から下(した)まで黄金作(こがねづく)り、091それに日輪(にちりん)様(さま)がキラキラと輝(かがや)いて何(なん)とも云(い)へぬ爽快(さうくわい)な思(おも)ひに充(みた)され、092一(いち)時(じ)も早(はや)く其処(そこ)へ行(ゆ)き度(た)い様(やう)な気(き)がして杖(つゑ)を力(ちから)に一生(いつしやう)懸命(けんめい)に駆出(かけだ)すと、093遠(とほ)い遠(とほ)い後(うしろ)の山(やま)より幽(かすか)に聞(きこ)ゆるお楢(なら)の声(こゑ)、094続(つづ)いて可愛(かあい)らしいお節(せつ)の声(こゑ)がフツと耳(みみ)に這入(はい)つたので、095アヽ折角(せつかく)コンナ綺麗(きれい)な処(ところ)に来(き)て居(を)るのに何故(なぜ)馬鹿娘(ばかむすめ)が俺(わし)を呼(よ)び止(と)めるのか、096アヽ情(なさけ)ない奴(やつ)ぢや、097然(しか)し乍(なが)ら久(ひさ)し振(ぶ)りで会(あ)うた娘(むすめ)、098何時(いつ)もならば頑張(ぐわんば)つて呼(よ)び止(と)めた位(くらゐ)に後戻(あともど)りする平助(へいすけ)ぢやないが、099あまり娘(むすめ)が可愛(かあい)い声(こゑ)で悲(かな)し相(さう)に呼(よ)ぶものだから、100フツと立(た)ち止(と)まり聞(き)いて居(を)れば、101誰(たれ)だか知(し)らぬが俺(わし)の年(とし)を一(ひと)つ二(ふた)つ三(みつ)と数(かぞ)へ出(だ)し、102終(しまひ)には百千万(ももちよろづ)と呼(よ)びて居(を)る。103アヽ俺(わし)は見慣(みな)れぬ結構(けつこう)な処(ところ)へ来(き)て居(ゐ)るが、104之(これ)はヒヨツとしたら神界(しんかい)を旅行(りよかう)してゐるのではあるまいか、105まだまだ七十(しちじふ)や、106そこいらで神界(しんかい)へ来(く)るのぢやない、107百千万(ももちよろづ)の年(とし)を現界(げんかい)で苦労(くらう)せなくてはコンナ結構(けつこう)な処(ところ)へは来(こ)られぬのぢやと思(おも)ふ刹那(せつな)に気(き)がつけば、108水(みづ)だらけの庭(には)に打(ぶ)つ倒(たふ)れて居(を)つたのか、109アヽ情(なさけ)ない情(なさけ)ない、110コンナ事(こと)なら後戻(あともど)りをせなかつた方(はう)が良(よ)かつたに、111又(また)娑婆(しやば)で一息(ひといき)苦労(くらう)をせにやならぬかいな』
112お楢(なら)『コレコレ親爺(おやぢ)どの、113それやお前(まへ)何(なに)を云(い)ふのだい、114二世(にせ)も三世(さんぜ)も先(さき)の世(よ)かけても誓(ちか)うた夫婦(ふうふ)の仲(なか)、115此(この)婆(ばば)一人(ひとり)を娑婆(しやば)に残(のこ)して置(お)いて、116お前(まへ)ばつかり極楽(ごくらく)へ行(い)つて済(す)むのかいなア』
117平助(へいすけ)『アヽさうだつたな、118あまり結構(けつこう)な処(ところ)でお前(まへ)の事(こと)は何時(いつ)の間(ま)にやら念頭(ねんとう)を去(さ)つて居(ゐ)たよ、119然(しか)し乍(なが)ら目(め)をまはして夢(ゆめ)を見(み)て居(を)つたのだ、120夢物語(ゆめものがたり)を捉(つかま)へてさう真剣(しんけん)に怒(おこ)つて貰(もら)うては困(こま)るぢや無(な)いか、121ア、122お節(せつ)か、123何卒(どうぞ)二人(ふたり)寄(よ)つて俺(おれ)の身体(からだ)を介抱(かいほう)して寝床(ねどこ)を敷(し)いて休(やす)まして呉(く)れ、124何(なん)だか腰(こし)の具合(ぐあひ)が変(へん)だから』
125 お楢(なら)、126お節(せつ)は涙(なみだ)乍(なが)ら寝床(ねどこ)を拵(こしら)へ足(あし)の掃除(さうぢ)もそこそこに平助(へいすけ)を抱(かか)へて床(とこ)に休(やす)ませたるが、127それより平助(へいすけ)は発熱(はつねつ)し毎日(まいにち)日(ひ)にち囈言(うさごと)を云(い)ひ半月(はんつき)ばかり経(へ)て遂(つひ)に帰幽(きいう)したりける。128お楢(なら)、129お節(せつ)は死骸(しがい)に取(と)り着(つ)き号泣(がうきふ)し漸(やうや)く野辺(のべ)の送(おく)りも済(す)ませ其(その)後(のち)二人(ふたり)は日課(につくわ)の様(やう)に朝(あさ)昼(ひる)晩(ばん)と三回(さんくわい)常磐木(ときはぎ)の枝(えだ)を折(お)つては供(そな)へ水(みづ)を持(も)ち搬(はこ)びて亡(な)き人(ひと)の霊(れい)を慰(なぐさ)めて居(ゐ)たり。130お楢(なら)婆(ば)アは爺(ぢい)に先立(さきだ)たれ、131娘(むすめ)のお節(せつ)を力(ちから)に面白(おもしろ)からぬ月日(つきひ)を送(おく)り居(ゐ)たりけり。
132 然(しか)るにお節(せつ)は平助(へいすけ)の帰幽(きいう)した頃(ころ)より身体(しんたい)益々(ますます)痩衰(やせおとろ)へ又(また)もや床(とこ)にべつたり着(つ)き囈言(うさごと)さへ言(い)ふ様(やう)になりければ、133婆(ばば)は堪(た)まり兼(か)ね一生(いつしやう)懸命(けんめい)に真名井(まなゐ)ケ原(はら)に跣参詣(はだしまゐり)を初(はじ)め彼(か)の比治山(ひぢやま)峠(たうげ)を登(のぼ)りつめると例(れい)の黒姫(くろひめ)が白壁(しらかべ)の様(やう)に皺苦茶(しわくちや)顔(がほ)をコテコテ塗(ぬ)り立(た)て花(はな)を欺(あざむ)く妙齢(めうれい)の照子(てるこ)、134清子(きよこ)の二人(ふたり)と共(とも)に前方(ぜんぱう)に立(た)ち塞(ふさ)がり、
135黒姫(くろひめ)『これこれ、136お婆(ば)さま、137お前(まへ)は此(この)間(あいだ)此処(ここ)を通(とほ)つた親子(おやこ)三人(さんにん)連(づ)れの婆(ばば)さまぢやないか。138又(また)しても又(また)しても素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の悪神(あくがみ)の教(をしへ)を迷信(めいしん)して真名井(まなゐ)山(さん)へ詣(まゐ)るのだな』
139お楢(なら)『ハイハイ左様(さやう)で御座(ござ)います、140力(ちから)と頼(たの)む親爺(おやぢ)どのは神(かみ)様(さま)に詣(まゐ)つて帰(かへ)るが早(はや)いか庭(には)で打(ぶ)ち倒(こ)けて、141それが原因(もと)となり夜昼(よるひる)苦(くる)しみた揚句(あげく)、142到頭(たうとう)あの世(よ)の人(ひと)となつて仕舞(しま)ひました、143オーン、144オンオン』
145と泣(な)き崩(くづ)れる。146黒姫(くろひめ)はニヤリと笑(わら)ひ、
147黒姫『さうぢやろさうぢやろ、148アンナ処(ところ)へ俺(わし)の親切(しんせつ)を無(む)にして詣(まゐ)るものだから、149瑞(みづ)の霊(みたま)の悪神(あくがみ)に大切(たいせつ)な生命(いのち)をとられて仕舞(しま)うたのぢや。150ようまアお前(まへ)胸(むね)に手(て)を当(あ)てて考(かんが)へて見(み)なさい、151神(かみ)様(さま)へ詣(まゐ)るのは倒(こ)けて死(し)ぬのが目的(もくてき)ぢやあるまい、152千(せん)年(ねん)も万(まん)年(ねん)も長生(ながいき)して孫(まご)から曾孫(ひまご)、153玄孫(つるまご)まで生(う)みて、154百(ひやく)年(ねん)も二百(にひやく)年(ねん)も長生(ながいき)出来(でき)る様(やう)に詣(まゐ)るのぢやないか、155それに何(なん)の事(こと)ぢや、156神(かみ)様(さま)に詣(まゐ)つて帰(かへ)るなりウンと、157畳(たたみ)の上(うへ)ならまだしもだが庭(には)の真(ま)ン中(なか)に糞蛙(くそがへる)を打(ぶ)つ付(つ)けた様(やう)にフン伸(の)びて、158おまけに水(みづ)迄(まで)被(かぶ)つて寂滅(じやくめつ)する様(やう)な信心(しんじん)が何(なん)になるかいな、159それぢやから彼(あ)れ程(ほど)俺(わし)が親切(しんせつ)に止(と)めたのぢや、160土台(どだい)お前(まへ)の親爺(おやぢ)は屁(へ)の様(やう)な名(な)でも仲々(なかなか)我(が)が強(つよ)いから罰(ばち)は覿面(てきめん)ぢや。161愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(を)るとお前(まへ)の娘(むすめ)まで生命(いのち)をとられ、162終(しまひ)にはお前(まへ)も死(し)ンで仕舞(しま)ふぞや、163メソメソと何程(なにほど)泣(な)いたつて後(あと)の後悔(こうくわい)先(さき)に立(た)たずぢや、164エーもう死(し)ンだ爺(ぢい)は仕方(しかた)が無(な)いとして、165お前(まへ)丈(だ)けなりと長生(ながいき)するやうに綺麗(きれい)薩張(さつぱり)と改心(かいしん)して、166三五教(あななひけう)の神(かみ)を河(かは)へでも流(なが)し、167結構(けつこう)な結構(けつこう)なウラナイ教(けう)の誠(まこと)の艮(うしとら)の金神(こんじん)様(さま)をお祭(まつ)りなされ、168何時迄(いつまで)も頑張(ぐわんば)つて居(を)るとド偉(えら)い事(こと)が出来(でき)ますぜ、169大方(おほかた)お前(まへ)の娘(むすめ)も青(あを)い顔(かほ)して居(を)つたが、170今頃(いまごろ)は三(み)つ児(ご)が痺疳(ひかん)を病(や)みた様(やう)にヒーヒー云(い)うて朝(あさ)から晩(ばん)まで、171ひしつて居(を)るだらう』
172お楢(なら)『ハイハイ仰(おつ)しやる通(とほ)り爺(ぢい)さまと云(い)ひ、173大切(たいせつ)の孫娘(まごむすめ)は何(なん)だか知(し)らぬが日(ひ)に日(ひ)に身体(からだ)は痩(やせ)る、174日向(ひなた)に氷(こほり)が溶(と)ける様(やう)に息(いき)の音(ね)まで細(ほそ)つて行(ゆ)きます。175私(わたし)も親爺(おやぢ)どのに先立(さきだ)たれ、176力(ちから)と思(おも)ふ孫娘(まごむすめ)は何時(いつ)死(し)ぬやら分(わか)らぬ様(やう)な大病(たいびやう)に罹(かか)り、177其(その)上(うへ)耳(みみ)は遠(とほ)くなり腰(こし)は曲(まが)り、178足(あし)は碌(ろく)に動(うご)きませぬ。179アヽコンナ事(こと)なら親爺(おやぢ)どのと一緒(いつしよ)に死(し)ンだがましぢやつたと、180昨夕(ゆうべ)も一人(ひとり)そつと墓(はか)へ参(まゐ)り「親爺(おやぢ)どの、181何卒(どうぞ)私(わたし)も早(はや)う呼(よ)びに来(き)て下(くだ)さい、182浮世(うきよ)が嫌(いや)になつた、183お前(まへ)と一緒(いつしよ)にあの世(よ)で暮(くら)したいから」と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に頼(たの)みて居(を)りましたら、184死(し)ンでも正念(しやうねん)があると見(み)えまして、185親爺(おやぢ)の姿(すがた)が墓(はか)の中(なか)からポツと現(あら)はれ「お前(まへ)は女房(にようばう)のお楢(なら)か、186能(よ)う云(い)うて呉(く)れた、187ソンナラ俺(おれ)が之(これ)から冥途(めいど)へ連(つ)れて行(い)つてやらう」と嫌(いや)らしい顔(かほ)して云(い)ひました。188私(わたし)も俄(にはか)に死(し)ぬのが嫌(いや)になり「今度(こんど)の今度(こんど)の其(その)今度(こんど)、189十(じふ)年(ねん)二十(にじふ)年(ねん)三十(さんじふ)年(ねん)、190百(ひやく)年(ねん)経(た)つた其(その)上(うへ)に迎(むか)ひに来(き)て下(くだ)され」と吃驚(びつくり)して倒(こ)けつ転(まろ)びつ吾(わが)家(や)へ帰(かへ)つて見(み)れば、191娘(むすめ)のお節(せつ)が何(なん)だか知(し)らぬが青彦(あをひこ)々々(あをひこ)と夢中(むちう)になつて嫌(いや)らしい声(こゑ)を出(だ)して居(を)ります。192親爺(おやぢ)どのの墓(はか)では青(あを)い火(ひ)に蒼(あを)い面(つら)を見(み)せられ生命(いのち)からがら逃(に)げて来(く)れば、193一人(ひとり)の娘(むすめ)は熱(ねつ)に浮(う)かされて青彦(あをひこ)々々(あをひこ)と夢中(むちう)になつて呻(うめ)いて居(ゐ)る、194如何(どう)して之(これ)が堪(たま)りませうかいな、195アーン、196アンアン、197ウーン、198ウンウン』
199と泣(な)き崩(くづ)れ居(ゐ)る。
200黒姫(くろひめ)『何(なに)、201お前(まへ)の娘(むすめ)のお節(せつ)が青彦(あをひこ)々々(あをひこ)と呼(よ)びて居(を)るか、202それは偉(えら)いものぢや、203お前(まへ)は俺(わし)の言(い)ふ事(こと)を聞(き)いてウラナイ教(けう)になりなさい、204そしたら娘(むすめ)の病気(びやうき)は千(せん)に一(いち)も助(たす)かるかも知(し)れませぬよ、205お前(まへ)も死(し)に度(た)い死(し)に度(た)いと云(い)つても、206サア今(いま)となれば矢張(やつぱり)死(し)ぬのが嫌(いや)だらう、207千(せん)年(ねん)も万(まん)年(ねん)も長生(ながいき)の出来(でき)るウラナイ教(けう)の神(かみ)様(さま)を信心(しんじん)しなさい、208之(これ)から俺(おれ)がお前(まへ)の宅(うち)へ行(い)つて、209三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)が祭(まつ)つてあれば放(ほ)り出(だ)し、210ウラナイ教(けう)の大神(おほかみ)様(さま)を祭(まつ)つて上(あ)げよう』
211お楢(なら)『イエイエ、212まだ三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)は祭(まつ)つて御座(ござ)いませぬ、213娘(むすめ)のお節(せつ)が助(たす)けられたと云(い)ふので信心(しんじん)をして居(を)るので御座(ござ)います、214恰度(ちやうど)幸(さいは)ひお前(まへ)さまが来(き)て祭(まつ)つて下(くだ)されば娘(むすめ)の病気(びやうき)は癒(なほ)るだらうし、215俺(わし)も長生(ながいき)が出来(でき)ませうから、216一(いち)時(じ)も早(はや)く頼(たの)みますわいな、217ウン、218ウン、219ウン(泣声(なきごゑ))』
220黒姫(くろひめ)『よしよし祭(まつ)つては上(あ)げるが、221さう軽々(かるがる)しう結構(けつこう)な神(かみ)様(さま)だから、222荷物(にもつ)を持(も)ち運(はこ)ぶ様(やう)にはいけませぬ、223マアお節(せつ)どのにも篤(とつく)り云(い)ひ聞(き)かし、224三五教(あななひけう)を思(おも)ひ断(き)らした其(その)上(うへ)で祭(まつ)つて上(あ)げ様(やう)かい、225サアサ之(これ)より早(はや)く比沼(ひぬ)の真名井(まなゐ)の瑞(みづ)の宝座(ほうざ)とやらを拝(をが)みて来(き)なさい、226さうして又(また)帰(かへ)つて庭(には)に大(だい)の字(じ)になつて……オホヽヽヽ』
227お楢(なら)『イエイエ如何(どう)して如何(どう)して、228貴女(あなた)のお話(はなし)を聞(き)いた上(うへ)は誰(たれ)が真名井(まなゐ)等(など)へ詣(まゐ)りませうか、229あの時(とき)にも俺(わし)はお前(まへ)さまの話(はなし)を聞(き)いて耳(みみ)を傾(かたむ)け改心(かいしん)しかけて居(を)つたのだが、230昔気質(むかしかたぎ)の親爺(おやぢ)どのなり娘(むすめ)のお節(せつ)が聞(き)かぬものだから仕方(しかた)なしに詣(まゐ)りました、231あの時(とき)貴女(あなた)の仰(おつ)しやる通(とほ)りにして置(お)けば宜(よ)かつたのに、232親爺(おやぢ)どのも取(と)り返(かへ)しのならぬ下手(へた)をしたものぢやわいな、233アーン、234アンアン』
235黒姫(くろひめ)『サア婆(ばば)さま、236決心(けつしん)がきまつたら仕方(しかた)がない、237俺(わし)が特別(とくべつ)待遇(たいぐう)で出張(しゆつちやう)してあげよう、238お前(まへ)は余程(よつぽど)型(かた)の良(よ)いお方(かた)ぢや、239俺(わし)に直接(ちよくせつ)来(き)て貰(もら)うと云(い)ふ様(やう)な事(こと)は滅多(めつた)に無(な)いぞえ』
240お楢(なら)『ハイハイ、241お勿体(もつたい)ない、242有難(ありがた)う御座(ござ)います、243お蔭様(かげさま)でお節(せつ)の病気(びやうき)も本復(ほんぷく)致(いた)しませう、244何分(なにぶん)宜(よろ)しくお頼(たの)み申(まを)します』
245黒姫(くろひめ)『アーア、246生神(いきがみ)様(さま)になると忙(いそが)しいものだ、247たつた一人(ひとり)の娘(むすめ)でも皆(みな)天地(てんち)の神(かみ)の分霊(わけみたま)に違(ちが)ひはない、248一視(いつし)同仁(どうじん)、249至仁至愛(みろく)の心(こころ)を出(だ)して助(たす)けて上(あ)げようかい、250サアサア照(てる)さま、251清(きよ)さま、252お前(まへ)も一緒(いつしよ)に跟(つ)いて来(く)るのだよ、253これこれお楢(なら)さま、254嬉(うれ)しいかい』
255お楢(なら)『ハイハイ、256有難(ありがた)う御座(ござ)います、257ソンナラ之(これ)から私(わたし)が御(ご)案内(あんない)致(いた)しませう』
258黒姫(くろひめ)『よしよし行(い)つてあげよう、259お前(まへ)は余(よ)つ程(ぽど)幸福者(しあはせもの)ぢや、260もう之(これ)で真名井(まなゐ)山(さん)を思(おも)ひ切(き)つたぢやらうな』
261お楢(なら)『ヘイヘイ、262誰(たれ)が真名井(まなゐ)山(さん)なぞへ参(まゐ)りますものか』
263と先(さき)に立(た)つて行(ゆ)く。264黒姫(くろひめ)はしすましたりと北叟笑(ほくそゑ)み乍(なが)ら二人(ふたり)の娘(むすめ)を伴(ともな)ひ丹波村(たんばむら)の婆(ばば)が伏屋(ふせや)を指(さ)して意気(いき)揚々(やうやう)と進(すす)み行(ゆ)く。
265(大正一一・四・二二 旧三・二六 北村隆光録)
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