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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第17巻(辰の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 雪山幽谷
第1章 黄金の衣
第2章 魔の窟
第3章 生死不明
第4章 羽化登仙
第5章 誘惑婆
第6章 瑞の宝座
第2篇 千態万様
第7章 枯尾花
第8章 蚯蚓の囁
第9章 大逆転
第10章 四百種病
第11章 顕幽交通
第3篇 鬼ケ城山
第12章 花と花
第13章 紫姫
第14章 空谷の足音
第15章 敵味方
第16章 城攻
第17章 有終の美
霊の礎(三)
暁山雲(謡曲)
余白歌
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霊界物語
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如意宝珠(第13~24巻)
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第17巻(辰の巻)
> 第2篇 千態万様 > 第11章 顕幽交通
<<< 四百種病
(B)
(N)
花と花 >>>
第一一章
顕幽
(
けんいう
)
交通
(
かうつう
)
〔六二二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻
篇:
第2篇 千態万様
よみ(新仮名遣い):
せんたいばんよう
章:
第11章 顕幽交通
よみ(新仮名遣い):
けんゆうこうつう
通し章番号:
622
口述日:
1922(大正11)年04月22日(旧03月26日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年1月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
お節は幽界を、三五教の宣伝歌を歌いながら旅をしていた。そこへ、岩公、勘公、櫟公、鬼彦、鬼虎の副守護神が現れて、比治山峠で動物扱いされた恨みと、お節に襲い掛かる。
お節は三五教の神号を唱えると、青彦の霊が現れて五人の副守護神に霊縛を加え、お節を助け出した。
お節は、五人を助けるようにと青彦に頼んだ。青彦は、その心がけなら現界に帰ることができると請け合い、天の数歌を歌った。
五人の副守護神は妄執が取れ、一同はみな合わせて神言を奏上した。すると五人の副守護神は牡丹のような花となり、天上に高く昇った。
青彦はお節に別れを告げて去った。お節はにわかに身体に爽快を覚え、目を覚ますと、お楢が手を握っていた。
お楢は、気を取り直して豊国姫命と素盞嗚尊に祈願をこらし始めたところ、お節が回復したのだ、と語り、豊国姫命に感謝の涙を流した。
四五日過ぎてまた黒姫が夏彦と常彦を連れてやってくるが、お楢は黒姫を非難して帰そうとするが、黒姫は屁理屈をこねて粘っている。
押し問答をしているうちに、夏彦と常彦が、黒姫に対して疑念を表明し始める。そこへ宣伝歌を歌いながら青彦がやって来て、黒姫を冷やかす。夏彦と常彦は青彦に味方し始める。
夏彦と常彦は、黒姫の言行心一致しないのに愛想をつかして、その場でウラナイ教の縁を切ってしまう。そうして青彦に、三五教に導いてくれるように頼み込んだ。
黒姫は青彦の胸倉を掴んで食い下がるが、三人はお楢の家に入って黒姫を締め出してしまう。黒姫は一人すごすごと魔窟ケ原へ帰っていく。
お楢は、お節が青彦を想う様をみて、婿になってくれと頼み込む。青彦は、鬼ケ城の言霊戦が済むまで待ってくれ、と答えると、夏彦・常彦を伴って、南を指して去って行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-02-25 19:05:16
OBC :
rm1711
愛善世界社版:
163頁
八幡書店版:
第3輯 584頁
修補版:
校定版:
170頁
普及版:
72頁
初版:
ページ備考:
001
空
(
そら
)
ドンヨリと、
002
灰色
(
はひいろ
)
の
雲
(
くも
)
に
包
(
つつ
)
まれ、
003
血腥
(
ちなまぐ
)
さき
風
(
かぜ
)
吹
(
ふ
)
き
荒
(
すさ
)
む
萱野
(
かやの
)
ケ
原
(
はら
)
を、
004
痩
(
やせ
)
た
女
(
をんな
)
の
一人旅
(
ひとりたび
)
、
005
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
幽
(
かす
)
かに
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
006
心
(
こころ
)
ほそぼそ
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
る。
007
凩
(
こがらし
)
すさぶ
辻堂
(
つじだう
)
の
側
(
そば
)
に
立寄
(
たちよ
)
り
眺
(
なが
)
むれば、
008
堂
(
だう
)
の
後
(
うしろ
)
の
戸
(
と
)
を
開
(
ひら
)
き、
009
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でたる
雲
(
くも
)
突
(
つ
)
く
許
(
ばか
)
りの
裸体
(
らたい
)
の
男
(
をとこ
)
、
010
歯
(
は
)
をガチガチ
言
(
い
)
はせ
乍
(
なが
)
ら、
011
男
『オーお
節
(
せつ
)
か、
012
能
(
よ
)
う
出
(
で
)
て
来
(
き
)
やがつた。
013
比治山
(
ひぢやま
)
峠
(
たうげ
)
で
赤裸
(
まつぱだか
)
になつた
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
附
(
つ
)
け
込
(
こ
)
み、
014
四足扱
(
よつあしあつかひ
)
をしやがつた
事
(
こと
)
を
覚
(
おぼ
)
えて
居
(
を
)
るだらう。
015
俺
(
おれ
)
は
其
(
その
)
時
(
とき
)
に
癪
(
しやく
)
に
障
(
さわ
)
り……エー
谷底
(
たにそこ
)
へ
老爺
(
ぢぢい
)
も
婆
(
ばば
)
アも
貴様
(
きさま
)
も
一緒
(
いつしよ
)
に
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
みてやらうと
思
(
おも
)
うては
見
(
み
)
たが、
016
又
(
また
)
思
(
おも
)
ひ
直
(
なほ
)
し、
017
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
怖
(
おそ
)
ろしうなつて、
018
忍耐
(
こら
)
へてやつた。
019
間
(
ま
)
もなく
肉体
(
にくたい
)
は
寒
(
さむ
)
さに
凍
(
こご
)
え、
020
血
(
ち
)
は
動
(
うご
)
かなくなつて、
021
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
022
厭
(
いや
)
な
冥土
(
めいど
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たのだ。
023
貴様
(
きさま
)
の
為
(
ため
)
に
死
(
し
)
ンだのではないが、
024
あまり
貴様
(
きさま
)
たち
親子
(
おやこ
)
が
業託
(
ごうたく
)
を
言
(
い
)
やがるので、
025
むかついた、
026
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
妄念
(
もうねん
)
が
今
(
いま
)
に
遺
(
のこ
)
つて
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
027
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
親子
(
おやこ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
生命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
つてやらうと
思
(
おも
)
ひ、
028
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
霊
(
れい
)
が
四辻
(
よつつじ
)
に
待
(
ま
)
ち
伏
(
ふ
)
せて、
029
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
親子
(
おやこ
)
の
者
(
もの
)
を
地獄
(
ぢごく
)
へ
落
(
おと
)
してやらうと
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
るのだ。
030
サア
此処
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
たのは
運
(
うん
)
の
尽
(
つ
)
き、
031
首
(
くび
)
をひき
千切
(
ちぎ
)
つて
恨
(
うら
)
みを
晴
(
は
)
らしてやらう』
032
お
節
(
せつ
)
『これはこれは
皆
(
みな
)
さま、
033
お
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つたでせう。
034
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
頑固
(
ぐわんこ
)
な
爺
(
おやぢ
)
の
申
(
まを
)
した
事
(
こと
)
、
035
決
(
けつ
)
して、
036
妾
(
わらは
)
があなた
方
(
がた
)
を
虐待
(
ぎやくたい
)
したのではありませぬ。
037
妾
(
わらは
)
は
櫟
(
いち
)
サンが
負
(
お
)
はして
呉
(
く
)
れいと
仰有
(
おつしや
)
つたので
負
(
お
)
うて
貰
(
もら
)
つた
丈
(
だけ
)
の
事
(
こと
)
、
038
どうか
勘弁
(
かんべん
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
039
岩公
(
いはこう
)
『エーソンナ
勘弁
(
かんべん
)
が
出来
(
でき
)
る
様
(
やう
)
な
霊
(
みたま
)
なら、
040
コンナ
地獄
(
ぢごく
)
の
八丁目
(
はつちやうめ
)
にブラついてるものかい、
041
此処
(
ここ
)
はどこぢやと
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
る、
042
善悪
(
ぜんあく
)
の
標準
(
へうじゆん
)
も
無
(
な
)
ければ、
043
慈悲
(
じひ
)
も
情
(
なさけ
)
も
無
(
な
)
い、
044
怨
(
うら
)
みと
嫉
(
ねた
)
みの
荒野
(
あらの
)
ケ
原
(
はら
)
ぢや。
045
エーグヅグヅ
吐
(
ぬか
)
すな。
046
オイオイ
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
、
047
此奴
(
こいつ
)
を
叩
(
たた
)
き
延
(
の
)
ばせ、
048
手足
(
てあし
)
を
引
(
ひ
)
きむしれツ』
049
お
節
(
せつ
)
は
進退
(
しんたい
)
惟
(
これ
)
谷
(
きは
)
まり、
050
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに、
051
お節
『どなたか
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいなア。
052
どうぞ
繊弱
(
かよわ
)
き
妾
(
わたし
)
をお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいませ。
053
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
054
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
念
(
ねん
)
じ
居
(
ゐ
)
る。
055
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
忽然
(
こつぜん
)
と
現
(
あら
)
はれた
一人
(
ひとり
)
の
色
(
いろ
)
の
青白
(
あをじろ
)
い
優男
(
やさをとこ
)
、
056
いきなり
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
裸男
(
はだかをとこ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
057
大麻
(
おほぬさ
)
を
左右左
(
さいうさ
)
に
打振
(
うちふ
)
れば、
058
裸男
(
はだかをとこ
)
は、
059
男
『ヤア、
060
飛
(
と
)
ンでも
無
(
な
)
い
奴
(
やつ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
やがつた。
061
オイ
勘公
(
かんこう
)
、
062
櫟公
(
いちこう
)
、
063
岩公
(
いはこう
)
、
064
鬼虎
(
おにとら
)
、
065
……
鬼彦
(
おにひこ
)
に
続
(
つづ
)
けツ』
066
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
逃
(
に
)
げ
行
(
ゆ
)
かむとする。
067
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
に
向
(
むか
)
ひ『ウン』と
霊縛
(
れいばく
)
を
加
(
くは
)
へたるに、
068
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
足
(
あし
)
を
踏
(
ふ
)
ン
張
(
ば
)
つた
儘
(
まま
)
、
069
化石
(
くわせき
)
の
様
(
やう
)
になつて
了
(
しま
)
ひ、
070
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
き、
071
舌
(
した
)
をニヨロニヨロと
出
(
だ
)
し、
072
涙
(
なみだ
)
を
滝
(
たき
)
の
如
(
ごと
)
く
流
(
なが
)
してふるえ
居
(
ゐ
)
る。
073
男
(
をとこ
)
『ホーあなたは
丹波村
(
たんばむら
)
のお
節
(
せつ
)
さまぢや
有
(
あ
)
りませぬか。
074
どうしてコンナ
所
(
ところ
)
へ
踏
(
ふ
)
ン
迷
(
まよ
)
うてお
出
(
い
)
でなさいました。
075
私
(
わたくし
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
青彦
(
あをひこ
)
と
申
(
まを
)
す
宣伝使
(
せんでんし
)
で
御座
(
ござ
)
います。
076
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
命
(
めい
)
に
依
(
よ
)
り、
077
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
の
魔神
(
まがみ
)
に
対
(
たい
)
し、
078
言霊戦
(
ことたません
)
に
出
(
で
)
かけて
居
(
を
)
る
最中
(
さいちう
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
079
あなたが、
080
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
と
仰有
(
おつしや
)
つた
声
(
こゑ
)
に
曳
(
ひ
)
かされ、
081
体
(
からだ
)
が
引
(
ひ
)
きつけられる
様
(
やう
)
に、
082
此処
(
ここ
)
へ
飛
(
と
)
ンで
来
(
き
)
ました。
083
サアサ、
084
コンナ
所
(
ところ
)
に
居
(
を
)
つては
大変
(
たいへん
)
です。
085
早
(
はや
)
く
現界
(
げんかい
)
へお
帰
(
かへ
)
りなさい』
086
お
節
(
せつ
)
『あなたは
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
いた
三五教
(
あななひけう
)
の
青彦
(
あをひこ
)
さまで
御座
(
ござ
)
いますか。
087
あなたも
亦
(
また
)
幽界
(
いうかい
)
へ
何時
(
いつ
)
お
越
(
こ
)
し
遊
(
あそ
)
ばしたの……』
088
青彦
(
あをひこ
)
『イエイエ
私
(
わたくし
)
の
肉体
(
にくたい
)
は
唯今
(
ただいま
)
、
089
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
、
090
加米彦
(
かめひこ
)
、
091
音彦
(
おとひこ
)
等
(
ら
)
と
共
(
とも
)
に
大活動
(
だいくわつどう
)
をやつて
居
(
を
)
ります。
092
一寸
(
ちよつと
)
肉体
(
にくたい
)
の
休息
(
きうそく
)
の
隙間
(
すきま
)
に、
093
和魂
(
にぎみたま
)
がやつて
来
(
き
)
たのですよ』
094
お
節
(
せつ
)
『アア
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
いますか。
095
危
(
あぶ
)
ない
所
(
ところ
)
をお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいまして
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
096
併
(
しか
)
しあの
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
裸
(
はだか
)
さまを
助
(
たす
)
けて
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいナ』
097
青彦
(
あをひこ
)
『アアお
節
(
せつ
)
さま、
098
感心
(
かんしん
)
だ、
099
あれ
丈
(
だけ
)
酷
(
えら
)
い
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
ひかけて
居
(
を
)
つた
亡者
(
まうじや
)
を、
100
助
(
たす
)
けてやつて
呉
(
く
)
れいと
仰有
(
おつしや
)
るのか。
101
その
心
(
こころ
)
なればこそ、
102
再
(
ふたた
)
び
現界
(
げんかい
)
へ
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ますよ』
103
お
節
(
せつ
)
『あの
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
方
(
かた
)
も
現界
(
げんかい
)
へ
返
(
かへ
)
して
上
(
あ
)
げる
訳
(
わけ
)
にゆけませぬか』
104
青彦
(
あをひこ
)
『あれは
駄目
(
だめ
)
ですよ。
105
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
の
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
は、
106
既
(
すで
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
天人
(
てんにん
)
となつて
昇天
(
しようてん
)
し、
107
天
(
あま
)
の
羽衣
(
はごろも
)
を
身
(
み
)
に
着
(
つ
)
けて、
108
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
豊国姫
(
とよくにひめ
)
様
(
さま
)
のお
側
(
そば
)
にご
用
(
よう
)
をして
居
(
を
)
りますよ。
109
彼奴
(
あいつ
)
はああ
見
(
み
)
えても、
110
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
の
鬼
(
おに
)
の
霊
(
れい
)
だから、
111
幽界
(
いうかい
)
でモウちつと
業
(
ごう
)
を
曝
(
さら
)
し、
112
瞋恚
(
しんい
)
の
心
(
こころ
)
を
消滅
(
せうめつ
)
させねば、
113
浮
(
う
)
かぶ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
114
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
霊縛
(
れいばく
)
は
解
(
と
)
いてやりませう』
115
青彦
(
あをひこ
)
は
五
(
ご
)
人
(
にん
)
に
向
(
むか
)
ひ、
116
声
(
こゑ
)
も
涼
(
すず
)
しく、
117
青彦
(
あをひこ
)
『
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
六
(
むゆ
)
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
』
118
と
数歌
(
かずうた
)
を
二回
(
にくわい
)
繰返
(
くりかへ
)
せば、
119
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
裸男
(
はだかをとこ
)
は
身体
(
しんたい
)
元
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
くになり、
120
青彦
(
あをひこ
)
が
前
(
まへ
)
に
犬突這
(
いぬつくばひ
)
となり、
121
五
(
ご
)
人
(
にん
)
『コレはコレは
青彦
(
あをひこ
)
様
(
さま
)
、
122
能
(
よ
)
う
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいました。
123
結構
(
けつこう
)
な
神歌
(
かみうた
)
をお
聞
(
き
)
かせ
下
(
くだ
)
さいまして
是
(
こ
)
れで
私
(
わたくし
)
の
修羅
(
しゆら
)
の
妄執
(
まうしふ
)
もサラリと
解
(
と
)
けました。
124
此
(
この
)
後
(
ご
)
は
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
してお
節
(
せつ
)
さまの
肉体
(
にくたい
)
に
祟
(
たた
)
りは
致
(
いた
)
しませぬ。
125
私
(
わたくし
)
も
是
(
こ
)
れから
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
となりて、
126
神界
(
しんかい
)
に
救
(
すく
)
はれます』
127
と
涙
(
なみだ
)
を
垂
(
た
)
らして
泣
(
な
)
き
入
(
い
)
るにぞ、
128
青彦
(
あをひこ
)
は、
129
青彦
『アヽ
結構
(
けつこう
)
だ。
130
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
私
(
わし
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
しなさい』
131
鬼
(
おに
)
『
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
132
オイオイ
皆
(
みな
)
の
連中
(
れんちう
)
、
133
青彦
(
あをひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
について、
134
祝詞
(
のりと
)
をあげませうかい』
135
茲
(
ここ
)
に
青彦
(
あをひこ
)
は
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
始
(
はじ
)
めた。
136
お
節
(
せつ
)
を
始
(
はじ
)
め
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
裸男
(
はだかをとこ
)
は、
137
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ、
138
青彦
(
あをひこ
)
と
共
(
とも
)
に
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
終
(
をは
)
るや、
139
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
麗
(
うるは
)
しき
牡丹
(
ぼたん
)
の
様
(
やう
)
な
花
(
はな
)
と
変
(
へん
)
じ、
140
暖
(
あたた
)
かき
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれて、
141
フワリフワリと、
142
天上
(
てんじやう
)
高
(
たか
)
く
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したりける。
143
青彦
(
あをひこ
)
『サアお
節
(
せつ
)
どの、
144
あなたもお
帰
(
かへ
)
りなさい。
145
又
(
また
)
現界
(
げんかい
)
でお
目
(
め
)
にかかりませう』
146
と
言葉
(
ことば
)
を
残
(
のこ
)
し、
147
青彦
(
あをひこ
)
は
麗
(
うるは
)
しき
光玉
(
くわうぎよく
)
となりて、
148
南方
(
なんぱう
)
の
天
(
てん
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
149
お
節
(
せつ
)
は
今
(
いま
)
まで
苦
(
くる
)
しかりし
身体
(
しんたい
)
俄
(
にはか
)
に
爽快
(
さうくわい
)
を
覚
(
おぼ
)
え、
150
えも
言
(
い
)
はれぬ
音楽
(
おんがく
)
の
響
(
ひびき
)
聞
(
きこ
)
ゆると
見
(
み
)
る
間
(
ま
)
に
正気
(
しやうき
)
づき、
151
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば、
152
婆
(
ばば
)
アのお
楢
(
なら
)
が
枕許
(
まくらもと
)
に
坐
(
すわ
)
つて、
153
お
節
(
せつ
)
の
手
(
て
)
をシツカと
握
(
にぎ
)
り
締
(
し
)
め、
154
泣
(
な
)
き
居
(
ゐ
)
たりける。
155
お
節
(
せつ
)
『お
婆
(
ば
)
アさまでは
御座
(
ござ
)
いませぬか』
156
お
楢
(
なら
)
『ヤアお
節
(
せつ
)
、
157
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
いたか、
158
嬉
(
うれ
)
しい
嬉
(
うれ
)
しい。
159
これと
云
(
い
)
ふも、
160
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
、
161
ウラナイ
教
(
けう
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
といふ
婆
(
ば
)
アが
遣
(
や
)
つて
来
(
き
)
て、
162
筆先
(
ふでさき
)
とやらを
読
(
よ
)
みて
聞
(
き
)
かし、
163
宣伝歌
(
せんでんか
)
とやらを
唄
(
うた
)
ふが
最後
(
さいご
)
、
164
お
前
(
まへ
)
の
病気
(
びやうき
)
は
漸々
(
だんだん
)
と
悪
(
わる
)
くなり、
165
到頭
(
たうとう
)
縡切
(
ことき
)
れて
了
(
しま
)
ひ、
166
妾
(
わし
)
も
気
(
き
)
が
気
(
き
)
でならず、
167
又
(
また
)
気
(
き
)
を
取
(
と
)
り
直
(
なほ
)
し、
168
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
豊国姫
(
とよくにひめ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
169
素盞嗚
(
すさのをの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
念
(
ねん
)
じて
居
(
ゐ
)
ました。
170
さうすると、
171
段々
(
だんだん
)
冷
(
つめ
)
たうなつて
居
(
ゐ
)
たお
前
(
まへ
)
の
体
(
からだ
)
に
温
(
ぬく
)
みが
出来
(
でき
)
て
来
(
き
)
、
172
青白
(
あをじろ
)
い
顔
(
かほ
)
は
追々
(
おひおひ
)
に
赤味
(
あかみ
)
を
増
(
ま
)
し、
173
細
(
ほそ
)
い
息
(
いき
)
をしだすかと
見
(
み
)
れば、
174
お
蔭
(
かげ
)
で
物
(
もの
)
を
言
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
になつて
呉
(
く
)
れた。
175
アヽ
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い、
176
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
に
現
(
あら
)
はれませる
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
……』
177
と
婆
(
ばば
)
アは
嬉
(
うれ
)
し
泣
(
な
)
きに
泣
(
な
)
き
入
(
い
)
りぬ。
178
お
節
(
せつ
)
は
日一日
(
ひいちにち
)
と
快方
(
くわいはう
)
に
向
(
むか
)
い、
179
四五
(
しご
)
日
(
にち
)
過
(
す
)
ぎて、
180
炊事
(
すゐじ
)
万端
(
ばんたん
)
の
手伝
(
てつだ
)
ひを
健々
(
まめまめ
)
しく
立働
(
たちはたら
)
かるる
迄
(
まで
)
になり、
181
モウ
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
経
(
た
)
てば、
182
婆
(
ば
)
アさまと
共
(
とも
)
に、
183
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
宝座
(
ほうざ
)
にお
礼
(
れい
)
参詣
(
まゐり
)
をなさむと、
184
親子
(
おやこ
)
相談
(
さうだん
)
の
最中
(
さいちう
)
、
185
門
(
もん
)
の
戸
(
と
)
を
押開
(
おしあ
)
けて、
186
中
(
なか
)
を
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
む
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
人影
(
ひとかげ
)
有
(
あ
)
り、
187
よく
見
(
み
)
れば
黒姫
(
くろひめ
)
、
188
夏彦
(
なつひこ
)
、
189
常彦
(
つねひこ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
なりける。
190
黒姫
(
くろひめ
)
『ヤアお
婆
(
ば
)
アさま、
191
何故
(
なぜ
)
、
192
娘
(
むすめ
)
が
全快
(
ぜんくわい
)
したら、
193
御
(
お
)
礼
(
れい
)
参詣
(
まゐり
)
に
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
ぬのだい』
194
お
楢
(
なら
)
『お
前
(
まへ
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
ぢやないか。
195
お
節
(
せつ
)
の
病気
(
びやうき
)
を
癒
(
なほ
)
してやるなぞと、
196
偉相
(
えらさう
)
な
頬桁
(
ほほげた
)
を
叩
(
たた
)
きよつて、
197
どうぢやつたい。
198
長
(
なが
)
たらしい
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
筆先
(
ふでさき
)
とやら
云
(
い
)
ふものを
勿体
(
もつたい
)
振
(
ぶ
)
つて
読
(
よ
)
み、
199
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
若
(
わか
)
い
娘
(
むすめ
)
の
口
(
くち
)
から
千遍歌
(
せんべんか
)
とか、
200
万遍歌
(
まんべんか
)
とかいふものを
耳
(
みみ
)
が
痛
(
いた
)
い
程
(
ほど
)
囀
(
さへづ
)
つて、
201
娘
(
むすめ
)
は
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
様子
(
やうす
)
が
悪
(
わる
)
うなるばつかり、
202
虫
(
むし
)
の
息
(
いき
)
になつて、
203
何時
(
なんどき
)
死
(
し
)
ぬか
知
(
し
)
れぬと
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
を
見済
(
みす
)
まし、
204
神界
(
しんかい
)
に
御用
(
ごよう
)
が
有
(
あ
)
るの
何
(
なん
)
のと
言
(
い
)
つてコソコソと
逃
(
に
)
げたぢやないか、
205
あまり
偉相
(
えらさう
)
な
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふものぢやないワイ。
206
矢張
(
やつぱ
)
り、
207
ウラナイ
教
(
けう
)
の
神
(
かみ
)
は、
208
ガラクタ
神
(
がみ
)
の、
209
貧乏神
(
びんばふがみ
)
の、
210
死神
(
しにがみ
)
の、
211
腰抜
(
こしぬ
)
け
神
(
がみ
)
ぢや。
212
モウモウ
死
(
し
)
ンだつて、
213
ウラナイ
教
(
けう
)
を
信仰
(
しんかう
)
するものかい。
214
……エーエ
汚
(
けが
)
らはしい、
215
病神
(
やまひがみ
)
、
216
早
(
はや
)
う、
217
帰
(
かへ
)
りて
呉
(
く
)
れ
帰
(
かへ
)
りて
呉
(
く
)
れ。
218
折角
(
せつかく
)
快
(
よ
)
うなつたお
節
(
せつ
)
が
又
(
また
)
悪
(
わる
)
なると
困
(
こま
)
る。
219
サア
早
(
はや
)
う
早
(
はや
)
う、
220
帰
(
かへ
)
りたり
帰
(
かへ
)
りたり』
221
黒姫
(
くろひめ
)
『コレコレ
婆
(
ば
)
アさま、
222
お
前
(
まへ
)
ソレヤ
大変
(
たいへん
)
な
取違
(
とりちがひ
)
ぢや。
223
妾
(
わし
)
が
御
(
ご
)
祈念
(
きねん
)
をしてやつたお
蔭
(
かげ
)
で
助
(
たす
)
かつたのぢやないか。
224
其
(
その
)
時
(
とき
)
にはチツと
悪
(
わる
)
うても……
悪
(
わる
)
うなるのが、
225
快
(
よ
)
うなる
兆
(
しるし
)
ぢや。
226
峠
(
たうげ
)
を
一
(
ひと
)
つ
越
(
こ
)
えるのにも、
227
苦
(
くる
)
しい
目
(
め
)
をして、
228
登
(
のぼ
)
り
詰
(
つ
)
めたら、
229
後
(
あと
)
は
降
(
くだ
)
り
坂
(
ざか
)
ぢや。
230
何時
(
いつ
)
までも、
231
蛇
(
くちなわ
)
の
生殺
(
なまごろし
)
の
様
(
やう
)
に、
232
お
節
(
せつ
)
ドンを
苦
(
くる
)
しめて
置
(
お
)
くのは
可哀相
(
かはいさう
)
ぢやから、
233
此
(
この
)
黒姫
(
くろひめ
)
が
神力
(
しんりき
)
で
峠
(
たうげ
)
まで
送
(
おく
)
つてやつたから、
234
其
(
その
)
お
蔭
(
かげ
)
でお
節
(
せつ
)
さまが
危
(
あぶ
)
ない
生命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
かつたのぢやないか。
235
生命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
うて
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ふと、
236
又
(
また
)
罰
(
ばつ
)
が
当
(
あた
)
らうぞい』
237
お
楢
(
なら
)
『
巧
(
うま
)
い
事
(
こと
)
言
(
い
)
ふない、
238
ソンナ
瞞
(
だま
)
しを
喰
(
く
)
ふ
様
(
やう
)
な
婆
(
ばば
)
アぢやないぞ。
239
あンまり
甘
(
あま
)
う
見
(
み
)
て
貰
(
もら
)
うまいかイ。
240
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
は
鬼娘
(
おにむすめ
)
のお
楢
(
なら
)
とまで
言
(
い
)
はれた、
241
酢
(
す
)
いも
甘
(
あま
)
いも、
242
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
の
奥底
(
おくそこ
)
まで、
243
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
たら
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
る
此
(
この
)
お
楢
(
なら
)
ぢやぞえ』
244
黒姫
(
くろひめ
)
『
婆
(
ば
)
アさま、
245
お
前
(
まへ
)
チツと
逆上
(
のぼ
)
せて
居
(
を
)
るのぢやないかいナ。
246
マア
能
(
よ
)
う
気
(
き
)
を
落
(
お
)
ち
着
(
つ
)
けて、
247
妾
(
わし
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
一通
(
ひととほ
)
り
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
されや』
248
お
楢
(
なら
)
『アア
五月蠅
(
うるさ
)
いツ、
249
聞
(
き
)
かぬ
聞
(
き
)
かぬ。
250
トツトと
帰
(
かい
)
りて
下
(
くだ
)
され。
251
…お
節
(
せつ
)
ウ、
252
箒
(
はうき
)
を
貸
(
か
)
し………あの
婆
(
ばば
)
アを
掃
(
は
)
き
出
(
だ
)
してやるのだ。
253
黒
(
くろ
)
いとも、
254
白
(
しろ
)
いとも
分
(
わか
)
らぬ
様
(
やう
)
な
面
(
つら
)
をしやがつて、
255
力
(
ちから
)
も
無
(
な
)
い
癖
(
くせ
)
に、
256
口先
(
くちさき
)
で
誤魔化
(
ごまくわ
)
さうと
思
(
おも
)
うても、
257
ソンナ
事
(
こと
)
に
誤魔化
(
ごまくわ
)
されるお
楢
(
なら
)
婆
(
ば
)
アぢやないぞや』
258
黒姫
(
くろひめ
)
『お
楢
(
なら
)
さま、
259
能
(
よ
)
う
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さいや。
260
時計
(
とけい
)
が
一
(
ひと
)
つ
潰
(
つぶ
)
れても、
261
根本
(
こつぽん
)
から
直
(
なほ
)
さうと
思
(
おも
)
へば、
262
一旦
(
いつたん
)
中
(
なか
)
の
機械
(
きかい
)
をスツパリ
解体
(
かいたい
)
して
了
(
しま
)
ひ、
263
それから
修繕
(
しうぜん
)
をせねば、
264
完全
(
くわんぜん
)
に
直
(
なほ
)
るものぢやない。
265
恰度
(
ちやうど
)
大病
(
たいびやう
)
になると
其
(
その
)
通
(
とほ
)
りぢや。
266
お
節
(
せつ
)
さまの
体
(
からだ
)
の
中
(
なか
)
の
機械
(
きかい
)
を、
267
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
一遍
(
いつぺん
)
引
(
ひ
)
き
抜
(
ぬ
)
いて、
268
更
(
さら
)
に
組立
(
くみた
)
てて
下
(
くだ
)
さつたのぢや。
269
訳
(
わけ
)
を
知
(
し
)
らぬ
素人
(
しろうと
)
は、
270
時計
(
とけい
)
の
機械
(
きかい
)
を
解体
(
かいたい
)
するとバラバラになるものだから、
271
其
(
その
)
時計
(
とけい
)
が
以前
(
まへ
)
より
悪
(
わる
)
うなつた
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
うて
怒
(
おこ
)
るものぢやが、
272
一旦
(
いつたん
)
バラバラに
為
(
し
)
なくては
完全
(
くわんぜん
)
な
修繕
(
しうぜん
)
は
出来
(
でき
)
ぬ
様
(
やう
)
なもので、
273
大病
(
たいびやう
)
になるとスツカリ
機械
(
きかい
)
の
入
(
い
)
れ
替
(
かへ
)
を、
274
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
がなさるのぢや。
275
其
(
その
)
時
(
とき
)
はチツト
容態
(
ようだい
)
が
悪
(
わる
)
うなるのは
当然
(
あたりまへ
)
ぢや。
276
そこをお
前
(
まへ
)
さまが
眺
(
なが
)
めて、
277
却
(
かへつ
)
て
悪
(
わる
)
うなつた
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
るのが
根本
(
こつぽん
)
の
間違
(
まちがひ
)
ぢや。
278
悪
(
わる
)
うなつたお
蔭
(
かげ
)
で、
279
今
(
いま
)
の
様
(
やう
)
なピンピンした
体
(
からだ
)
になつたのぢや。
280
罰
(
ばち
)
の
当
(
あた
)
つた………
何
(
なに
)
を
叱言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ふのぢやい。
281
ウラナイ
教
(
けう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に、
282
お
節
(
せつ
)
さまも
一緒
(
いつしよ
)
に
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
しなされ』
283
お
節
(
せつ
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
さまとやら、
284
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいますが、
285
妾
(
わらは
)
はどう
考
(
かんが
)
へても、
286
ウラナイ
教
(
けう
)
は
虫
(
むし
)
が
好
(
す
)
きませぬ。
287
ウの
字
(
じ
)
を
聞
(
き
)
いても、
288
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
うなります。
289
それよりも
三五教
(
あななひけう
)
の
青彦
(
あをひこ
)
さまと
云
(
い
)
ふ
宣伝使
(
せんでんし
)
に、
290
半日
(
はんにち
)
なりと
御
(
お
)
説教
(
せつけう
)
が
聴
(
き
)
かして
欲
(
ほ
)
しいワイナ』
291
黒姫
(
くろひめ
)
『
三五教
(
あななひけう
)
の
青彦
(
あをひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は、
292
妾
(
わし
)
の
弟子
(
でし
)
ぢや。
293
彼奴
(
あいつ
)
は
妾
(
わし
)
の
片腕
(
かたうで
)
ぢやが、
294
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
三五教
(
あななひけう
)
へ
間者
(
かんじや
)
となつて
妾
(
わし
)
が
入
(
い
)
れておいたのぢや。
295
青彦
(
あをひこ
)
が
偉
(
えら
)
いなら
其
(
その
)
大将
(
たいしやう
)
の
妾
(
わし
)
は
尚
(
なほ
)
の
事
(
こと
)
、
296
神徳
(
しんとく
)
が
沢山
(
たくさん
)
有
(
あ
)
る
筈
(
はず
)
ぢや。
297
サアサアま
一遍
(
いつぺん
)
拝
(
をが
)
みてあげよう』
298
お
楢
(
なら
)
、
299
お
節
(
せつ
)
、
300
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に、
301
お楢、お節
『イヤイヤ
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
う
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
302
黒姫
(
くろひめ
)
『ハヽヽヽ、
303
盲
(
めくら
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は
仕方
(
しかた
)
の
無
(
な
)
いものぢや。
304
何程
(
なにほど
)
現当
(
げんたう
)
利益
(
りやく
)
を
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
がお
見
(
み
)
せなさつても、
305
お
神徳
(
かげ
)
をお
神徳
(
かげ
)
と
思
(
おも
)
はぬ
盲
(
めくら
)
聾
(
つんぼ
)
にかけたら、
306
取
(
と
)
り
付
(
つ
)
く
島
(
しま
)
も
有
(
あ
)
つたものぢやない。
307
……コレコレ
夏彦
(
なつひこ
)
、
308
常彦
(
つねひこ
)
、
309
お
前
(
まへ
)
チツと
言
(
い
)
はぬかいなア。
310
唖
(
ごろ
)
か
何
(
なん
)
ぞの
様
(
やう
)
に、
311
此
(
この
)
黒姫
(
くろひめ
)
ばつかりに
骨
(
ほね
)
を
折
(
を
)
らして、
312
知
(
し
)
らぬ
顔
(
かほ
)
の
半兵衛
(
はんべゑ
)
をきめ
込
(
こ
)
むとは、
313
何
(
なん
)
の
態
(
ざま
)
ぢや。
314
チト
確
(
しつか
)
りしなさらぬか』
315
夏彦
(
なつひこ
)
『
誰
(
たれ
)
に
説教
(
せつけう
)
をして
宜
(
よ
)
いか、
316
サツパリ
見当
(
けんたう
)
が
取
(
と
)
れませぬワイ』
317
黒姫
(
くろひめ
)
『
見当
(
けんたう
)
が
取
(
と
)
れぬとは、
318
ソラ
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
ふのぢや。
319
折角
(
せつかく
)
お
神徳
(
かげ
)
を
貰
(
もら
)
うた
此
(
この
)
家
(
や
)
の
娘
(
むすめ
)
のお
節
(
せつ
)
や、
320
お
楢
(
なら
)
婆
(
ば
)
アさまを
捉
(
つか
)
まへて、
321
言向和
(
ことむけやは
)
せと
云
(
い
)
ふのぢやないか。
322
何
(
なに
)
をグヅグヅして
居
(
ゐ
)
なさる』
323
常彦
(
つねひこ
)
『
私
(
わたし
)
は
最前
(
さいぜん
)
から、
324
両方
(
りやうはう
)
の
話
(
はなし
)
を、
325
中立
(
ちうりつ
)
地帯
(
ちたい
)
に
身
(
み
)
を
置
(
お
)
いて、
326
観望
(
くわんばう
)
して
居
(
を
)
れば、
327
どうやら
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
方
(
はう
)
が、
328
道理
(
だうり
)
が
間違
(
まちが
)
つとる
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
が
致
(
いた
)
しますので、
329
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で、
330
あなたに
恥
(
はぢ
)
をかかす
訳
(
わけ
)
にもゆかず、
331
沈黙
(
ちんもく
)
を
守
(
まも
)
つて
居
(
ゐ
)
る
方
(
はう
)
が、
332
双方
(
さうはう
)
の
安全
(
あんぜん
)
だと
思
(
おも
)
つて
扣
(
ひか
)
へて
居
(
を
)
りました』
333
黒姫
(
くろひめ
)
『エー
二人
(
ふたり
)
共
(
とも
)
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
代物
(
しろもの
)
ぢやなア』
334
夏彦
(
なつひこ
)
『
神
(
かみ
)
の
裏
(
うら
)
には
裏
(
うら
)
があり、
335
奥
(
おく
)
には
奥
(
おく
)
が
有
(
あ
)
る
位
(
くらゐ
)
ならば、
336
耳
(
みみ
)
が
蛸
(
たこ
)
になる
程
(
ほど
)
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
りますワイ。
337
今
(
いま
)
までは
何
(
なん
)
でも
彼
(
かん
)
でも、
338
あなたの
仰有
(
おつしや
)
る
通
(
とほ
)
り
盲従
(
まうじゆう
)
して
来
(
き
)
ましたが、
339
今日
(
こんにち
)
の
様
(
やう
)
に
民衆
(
みんしう
)
運動
(
うんどう
)
が
盛
(
さか
)
ンになつて
来
(
き
)
ては、
340
今迄
(
いままで
)
の
様
(
やう
)
な
厳格
(
げんかく
)
な
階級
(
かいきふ
)
制度
(
せいど
)
は
駄目
(
だめ
)
ですよ。
341
今日
(
こんにち
)
のウラナイ
教
(
けう
)
で、
342
あなたの
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
本当
(
ほんたう
)
に
信
(
しん
)
じ、
343
本当
(
ほんたう
)
に
実行
(
じつかう
)
する
者
(
もの
)
は、
344
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまタツタ
一人
(
ひとり
)
、
345
又
(
また
)
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまの
命令
(
めいれい
)
に
服従
(
ふくじゆう
)
する
者
(
もの
)
は、
346
黒姫
(
くろひめ
)
さまタツタ
一人
(
ひとり
)
と
云
(
い
)
ふ
今日
(
こんにち
)
のウラナイ
教
(
けう
)
の
形勢
(
けいせい
)
、
347
何
(
なん
)
でも
彼
(
かん
)
でも
盲従
(
まうじゆう
)
して
居
(
ゐ
)
ると、
348
同僚
(
どうれう
)
の
奴
(
やつ
)
に
馬鹿
(
ばか
)
にしられますワイ。
349
私
(
わたし
)
も
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
りお
暇
(
ひま
)
を
頂
(
いただ
)
きます。
350
……お
前
(
まへ
)
さまと
手
(
て
)
を
切
(
き
)
つた
上
(
うへ
)
は、
351
師匠
(
ししやう
)
でもなければ
弟子
(
でし
)
でもない。
352
アカの
他人
(
たにん
)
も
同様
(
どうやう
)
ぢや。
353
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
は、
354
今
(
いま
)
のお
言葉
(
ことば
)
で、
355
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
愛想
(
あいさう
)
が
尽
(
つ
)
きました。
356
どうぞ
御免
(
ごめん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
357
黒姫
(
くろひめ
)
『ソレヤ、
358
夏彦
(
なつひこ
)
、
359
常彦
(
つねひこ
)
、
360
藪
(
やぶ
)
から
棒
(
ぼう
)
を
突出
(
つきだ
)
した
様
(
やう
)
に、
361
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
ふのだい。
362
暇
(
ひま
)
を
呉
(
く
)
れなら、
363
やらぬ
事
(
こと
)
もないが、
364
今迄
(
いままで
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
とは
違
(
ちが
)
ひますぞゑ。
365
勿体
(
もつたい
)
なくも
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
命
(
みこと
)
の
奥方
(
おくがた
)
、
366
女
(
をんな
)
と
思
(
おも
)
ひ
侮
(
あなど
)
つての
雑言
(
ざふごん
)
無礼
(
ぶれい
)
、
367
容赦
(
ようしや
)
は
致
(
いた
)
さぬぞや』
368
斯
(
か
)
く
争
(
あらそ
)
ふ
所
(
ところ
)
へ、
369
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
入
(
い
)
り
来
(
き
)
たるは、
370
青彦
(
あをひこ
)
なりける。
371
黒姫
(
くろひめ
)
は
青彦
(
あをひこ
)
を
見
(
み
)
るなり、
372
胸倉
(
むなぐら
)
をグツと
取
(
と
)
り、
373
黒姫
『コレヤお
前
(
まへ
)
は
青彦
(
あをひこ
)
ぢやないか。
374
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
ぢや。
375
結構
(
けつこう
)
なウラナイ
教
(
けう
)
を
棄
(
す
)
てて、
376
嘘
(
うそ
)
で
固
(
かた
)
めた
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
になりよつて、
377
わし
達
(
たち
)
の
邪魔
(
じやま
)
ばつかりして
居
(
を
)
るぢやないか。
378
サア
改心
(
かいしん
)
すれば
良
(
よ
)
いし、
379
グヅグヅ
言
(
い
)
ひなさると、
380
女
(
をんな
)
乍
(
なが
)
らも、
381
鍛
(
きた
)
へあげたる
此
(
この
)
腕
(
うで
)
が
承知
(
しようち
)
をしませぬぞや』
382
青彦
(
あをひこ
)
『アハヽヽヽ、
383
アヽお
前
(
まへ
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
さまか。
384
老
(
い
)
い
年
(
とし
)
して
居
(
を
)
つて、
385
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
我
(
が
)
を
折
(
を
)
りなさつたらどうぢや。
386
棺桶
(
くわんをけ
)
へ
片足
(
かたあし
)
突
(
つ
)
つ
込
(
こ
)
みて
居
(
を
)
り
乍
(
なが
)
ら、
387
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
も
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
も
活
(
いき
)
る
様
(
やう
)
に、
388
何時
(
いつ
)
まで
はしやぐ
のぢや。
389
チツと
年
(
とし
)
と
相談
(
さうだん
)
をして
見
(
み
)
たらよからうに』
390
夏
(
なつ
)
、
391
常
(
つね
)
二人
(
ふたり
)
は
拍手
(
はくしゆ
)
して、
392
夏彦、常彦
『ヒヤヒヤ、
393
青彦
(
あをひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
394
シツカリやり
給
(
たま
)
へ』
395
黒姫
(
くろひめ
)
『コラ
夏彦
(
なつひこ
)
、
396
常彦
(
つねひこ
)
、
397
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
ぢや。
398
悪人
(
あくにん
)
の
青彦
(
あをひこ
)
に
加担
(
かたん
)
すると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか、
399
お
前
(
まへ
)
は
気
(
き
)
が
狂
(
くる
)
うたか、
400
血迷
(
ちまよ
)
うたのか』
401
常彦
(
つねひこ
)
『
只今
(
ただいま
)
迄
(
まで
)
はウラナイ
教
(
けう
)
の
身内
(
みうち
)
の
者
(
もの
)
、
402
只今
(
ただいま
)
縁
(
えん
)
を
断
(
き
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
403
三五教
(
あななひけう
)
にならうと、
404
バラモン
教
(
けう
)
にならうと、
405
常彦
(
つねひこ
)
の
勝手
(
かつて
)
ぢや。
406
ナア
夏彦
(
なつひこ
)
、
407
さうぢやないか』
408
夏彦
(
なつひこ
)
『オウさうともさうとも、
409
……モシモシ
青彦
(
あをひこ
)
さま、
410
あなたも
元
(
もと
)
はウラナイ
教
(
けう
)
のお
方
(
かた
)
ぢやつたさうですなア。
411
私
(
わたくし
)
は
矢張
(
やつぱ
)
りウラナイ
教
(
けう
)
ぢや。
412
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らあまり
此
(
この
)
婆
(
ば
)
アの
言心行
(
げんしんかう
)
が
一致
(
いつち
)
せないので、
413
誰
(
たれ
)
も
彼
(
か
)
れも
愛想
(
あいさう
)
を
尽
(
つ
)
かし、
414
晨
(
あした
)
に
一人
(
ひとり
)
、
415
夕
(
ゆふべ
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
と、
416
各自
(
めいめい
)
に
後足
(
あとあし
)
で
砂
(
すな
)
をかけて、
417
脱退
(
だつたい
)
する
者
(
もの
)
ばつかり、
418
私
(
わたくし
)
も
疾
(
と
)
うから、
419
ウラナイ
教
(
けう
)
は
面白
(
おもしろ
)
くないから、
420
三五教
(
あななひけう
)
になりたいと
思
(
おも
)
つて、
421
朝夕
(
あさゆふ
)
念
(
ねん
)
じて
居
(
を
)
りましたが、
422
一旦
(
いつたん
)
黒姫
(
くろひめ
)
や
高姫
(
たかひめ
)
に
瞞
(
だま
)
されて、
423
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
悪口
(
わるくち
)
を
広告
(
ふ
)
れて
歩
(
ある
)
いたものだから、
424
今更
(
いまさら
)
閾
(
しきゐ
)
が
高
(
たか
)
うて、
425
三五教
(
あななひけう
)
に
兜
(
かぶと
)
を
脱
(
ぬ
)
ぐ
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かないし、
426
宙
(
ちう
)
ブラリで
困
(
こま
)
つて
居
(
を
)
りました。
427
どうぞ
青彦
(
あをひこ
)
さま
私
(
わたくし
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
を
御
(
ご
)
推察
(
すいさつ
)
の
上
(
うへ
)
、
428
どうぞ
宜
(
よろ
)
しく
御
(
お
)
執
(
と
)
り
成
(
な
)
しをお
願
(
ねがひ
)
申
(
まを
)
します』
429
青彦
(
あをひこ
)
『ハア
宜
(
よろ
)
しい
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
430
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なされ。
431
……オイ
黒姫
(
くろひめ
)
、
432
人
(
ひと
)
の
胸倉
(
むなぐら
)
を
取
(
と
)
りよつて
何
(
なん
)
の
態
(
ざま
)
ぢや。
433
放
(
はな
)
さぬかい』
434
黒姫
(
くろひめ
)
『
寝
(
ね
)
ても
起
(
お
)
きても、
435
お
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
ばつかり
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
るのぢや。
436
大事
(
だいじ
)
のお
前
(
まへ
)
を
三五教
(
あななひけう
)
に
取
(
と
)
られたと
思
(
おも
)
へば、
437
残念
(
ざんねん
)
で
残念
(
ざんねん
)
で
堪
(
たま
)
らぬワイ。
438
常彦
(
つねひこ
)
や
夏彦
(
なつひこ
)
のガラクタとは
違
(
ちが
)
うて、
439
お
前
(
まへ
)
はチツト
見込
(
みこみ
)
があると
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
つた。
440
今
(
いま
)
はウラナイ
教
(
けう
)
も
追々
(
おひおひ
)
改良
(
かいりやう
)
して、
441
三五教
(
あななひけう
)
以上
(
いじやう
)
の
結構
(
けつこう
)
な
教
(
をしへ
)
が
立
(
た
)
ち、
442
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
も
赫灼
(
いやちこ
)
だから、
443
どうぢや
一
(
ひと
)
つ、
444
元
(
もと
)
の
巣
(
す
)
へ
返
(
かへ
)
つて、
445
黒姫
(
くろひめ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
活動
(
くわつどう
)
する
気
(
き
)
はないか』
446
夏彦
(
なつひこ
)
『モシモシ
青彦
(
あをひこ
)
さま、
447
嘘
(
うそ
)
だ
嘘
(
うそ
)
だ。
448
改良
(
かいりやう
)
所
(
どころ
)
か、
449
日
(
ひ
)
に
日
(
ひ
)
に
改悪
(
かいあく
)
するばつかりだ。
450
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
もフサの
国
(
くに
)
から、
451
ゲホウの
様
(
やう
)
な
頭
(
あたま
)
をした
高山彦
(
たかやまひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て、
452
黒姫
(
くろひめ
)
の
婿
(
むこ
)
になり、
453
天下
(
てんか
)
を
吾物顔
(
わがものがほ
)
に
振
(
ふ
)
れ
舞
(
ま
)
ふものだから、
454
誰
(
た
)
れもかれも
愛想
(
あいさう
)
をつかし、
455
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
脱退者
(
だつたいしや
)
は
踵
(
くびす
)
を
接
(
せつ
)
すると
云
(
い
)
ふ
有様
(
ありさま
)
、
456
四天王
(
してんわう
)
の
一人
(
ひとり
)
と
呼
(
よ
)
ばれた
吾々
(
われわれ
)
でさへも、
457
愛想
(
あいさう
)
が
尽
(
つ
)
きたのだ。
458
黒姫
(
くろひめ
)
の
口車
(
くちぐるま
)
に
乗
(
の
)
らぬ
様
(
やう
)
にして
下
(
くだ
)
さい』
459
黒姫
(
くろひめ
)
『コラ
夏
(
なつ
)
、
460
常
(
つね
)
、
461
要
(
い
)
らぬ
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふない。
462
貴様
(
きさま
)
ア
厭
(
いや
)
なら
厭
(
いや
)
で、
463
勝手
(
かつて
)
に
退
(
の
)
いたら
宜
(
よ
)
い。
464
人
(
ひと
)
の
事
(
こと
)
まで
構
(
かま
)
ふ
権利
(
けんり
)
があるか。
465
……サア
青彦
(
あをひこ
)
、
466
返答
(
へんたふ
)
はどうぢやな。
467
返答
(
へんたふ
)
聞
(
き
)
くまで、
468
仮令
(
たとへ
)
死
(
し
)
ンでも、
469
此
(
この
)
腕
(
うで
)
が
むし
れても
放
(
はな
)
しやせぬぞ』
470
青彦
(
あをひこ
)
『エー
執念深
(
しふねんぶか
)
い
婆
(
ば
)
アだナア。
471
放
(
はな
)
さな
放
(
はな
)
さぬで
良
(
い
)
いワ』
472
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
473
赤裸
(
まつぱだか
)
になつた。
474
黒姫
(
くろひめ
)
は
着物
(
きもの
)
ばかりを
握
(
にぎ
)
つて、
475
黒姫
『
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
うても
放
(
はな
)
すものかい。
476
……ヤア
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら、
477
スブ
抜
(
ぬ
)
けを
喰
(
く
)
はしよつたナ、
478
エーコンナ
皮
(
かは
)
ばつかり
掴
(
つか
)
みて
居
(
を
)
つても、
479
なにもならぬ。
480
忌
(
い
)
ま
忌
(
い
)
ましい』
481
と
言
(
い
)
ひつつ
着物
(
きもの
)
を
大地
(
だいち
)
に
投
(
な
)
げつけるを
夏彦
(
なつひこ
)
は
手早
(
てばや
)
く
拾
(
ひろ
)
ひあげ、
482
常彦
(
つねひこ
)
、
483
青彦
(
あをひこ
)
諸共
(
もろとも
)
にお
節
(
せつ
)
の
家
(
いへ
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
484
中
(
なか
)
からピシヤリと
戸
(
と
)
を
閉
(
し
)
め、
485
錠
(
ぢやう
)
を
おろし
たり。
486
黒姫
(
くろひめ
)
は
唯一人
(
ただひとり
)
門口
(
かどぐち
)
に
取
(
と
)
り
残
(
のこ
)
され、
487
ブツブツつぶやき
乍
(
なが
)
ら、
488
比治山
(
ひぢやま
)
の
方
(
はう
)
を
指
(
さ
)
してスゴスゴと
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
489
お
楢
(
なら
)
『ヤアヤアお
前
(
まへ
)
さまは、
490
青彦
(
あをひこ
)
さまか。
491
能
(
よ
)
う
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
492
こないだの
晩
(
ばん
)
に
泊
(
とま
)
つて
貰
(
もら
)
はうと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
つたのに、
493
泊
(
とま
)
つて
欲
(
ほ
)
しい
人
(
ひと
)
は
泊
(
とま
)
つて
呉
(
く
)
れず、
494
厭
(
いや
)
な
奴
(
やつ
)
ばつかりノソノソと
泊
(
とま
)
り、
495
執念深
(
しふねんぶか
)
い……
死
(
し
)
ンでからも
爺
(
おやぢ
)
ドンの
生命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
りに
来
(
き
)
、
496
又
(
また
)
聞
(
き
)
けば、
497
お
節
(
せつ
)
の
生命
(
いのち
)
まで
亡霊
(
ばうれい
)
となつて
狙
(
ねら
)
ひよつたさうぢや。
498
お
前
(
まへ
)
さまが
夢
(
ゆめ
)
に
現
(
あら
)
はれて、
499
悪魔
(
あくま
)
を
改心
(
かいしん
)
させ
娘
(
むすめ
)
を
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さつた
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たら、
500
其
(
その
)
日
(
ひ
)
から
不思議
(
ふしぎ
)
にも、
501
お
節
(
せつ
)
が
段々
(
だんだん
)
と
快
(
よ
)
くなり、
502
婆
(
ばば
)
アも、
503
お
節
(
せつ
)
も、
504
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
、
505
青彦
(
あをひこ
)
さま
青彦
(
あをひこ
)
さまと
真名井
(
まなゐ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
よりも
尊敬
(
そんけい
)
して
居
(
を
)
りました。
506
能
(
よ
)
う
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
507
サアサア
むさくる
しいが、
508
ズーツと
奥
(
おく
)
へお
通
(
とほ
)
り
下
(
くだ
)
され。
509
……そこの
二人
(
ふたり
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
の
弟子
(
でし
)
ではないか、
510
エーエー
黒姫
(
くろひめ
)
の
身内
(
みうち
)
ぢやと
思
(
おも
)
へば
何
(
なん
)
だか
気持
(
きもち
)
が
悪
(
わる
)
い。
511
二人
(
ふたり
)
のお
方
(
かた
)
は
折角
(
せつかく
)
乍
(
なが
)
ら、
512
トツトと
帰
(
かへ
)
りて
下
(
くだ
)
され』
513
青彦
(
あをひこ
)
『お
婆
(
ば
)
アさま、
514
私
(
わたくし
)
も
元
(
もと
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
の
弟子
(
でし
)
になつて
居
(
を
)
りましたが、
515
あまりの
身勝手
(
みがつて
)
な
奴
(
やつ
)
だから、
516
愛想
(
あいさう
)
が
尽
(
つ
)
きて
三五教
(
あななひけう
)
に
籍
(
せき
)
を
変
(
か
)
へ、
517
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
戴
(
いただ
)
いて
今
(
いま
)
は
御覧
(
ごらん
)
の
通
(
とほ
)
り、
518
宣伝使
(
せんでんし
)
になりました。
519
此
(
この
)
二人
(
ふたり
)
は、
520
今日
(
けふ
)
只今
(
ただいま
)
迄
(
まで
)
、
521
常彦
(
つねひこ
)
、
522
夏彦
(
なつひこ
)
と
云
(
い
)
うて、
523
黒姫
(
くろひめ
)
の
四天王
(
してんわう
)
とまで
謂
(
い
)
はれて
居
(
を
)
つた
豪者
(
えらもの
)
だが、
524
此
(
この
)
二人
(
ふたり
)
も
私
(
わたくし
)
の
様
(
やう
)
に、
525
愛想
(
あいさう
)
をつかし、
526
今
(
いま
)
此家
(
ここ
)
の
門口
(
かどぐち
)
で
師弟
(
してい
)
の
縁
(
えん
)
を
断
(
き
)
り
私
(
わたくし
)
の
友達
(
ともだち
)
になつたのだから、
527
さう
気強
(
きづよ
)
い
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
はずに、
528
大事
(
だいじ
)
にしてあげて
下
(
くだ
)
さい』
529
お
楢
(
なら
)
『アアさうかいナさうかいナ。
530
それとは
知
(
し
)
らずに
偉
(
えら
)
い
失礼
(
しつれい
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
しました。
531
……コレコレお
節
(
せつ
)
、
532
何
(
なに
)
恥
(
はづ
)
かしさうにして
居
(
ゐ
)
るのぢや。
533
早
(
はや
)
うお
客
(
きやく
)
さまにお
茶
(
ちや
)
でも
汲
(
く
)
まぬかいナ』
534
お
節
(
せつ
)
は
袖
(
そで
)
に
顔
(
かほ
)
を
包
(
つつ
)
み、
535
稍
(
やや
)
俯
(
うつ
)
むき
気味
(
きみ
)
になつて、
536
お節
『これはこれは
青彦
(
あをひこ
)
様
(
さま
)
、
537
能
(
よ
)
う
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました』
538
と
言
(
い
)
つた
限
(
きり
)
、
539
俯伏
(
うつぶせ
)
になり
震
(
ふる
)
ひ
居
(
ゐ
)
る。
540
お
楢
(
なら
)
『アーア
若
(
わか
)
い
者
(
もの
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は、
541
仕方
(
しかた
)
の
無
(
な
)
いものぢや。
542
……モシモシ
青彦
(
あをひこ
)
さま、
543
婆
(
ばば
)
アの
頼
(
たの
)
みぢやが、
544
不束
(
ふつつか
)
な
娘
(
むすめ
)
で、
545
お
気
(
き
)
には
入
(
い
)
りますまいが、
546
どうぞお
節
(
せつ
)
の
婿
(
むこ
)
になつて
下
(
くだ
)
され。
547
これが
婆
(
ばば
)
アの
一生
(
いつしやう
)
の
頼
(
たの
)
みぢや。
548
……コレコレお
節
(
せつ
)
、
549
お
前
(
まへ
)
も
頼
(
たの
)
まぬかいナ』
550
お
節
(
せつ
)
『………』
551
常彦
(
つねひこ
)
『ナアーンと
偉
(
えら
)
いローマンスを
見
(
み
)
せて
頂
(
いただ
)
きました。
552
ナア
夏彦
(
なつひこ
)
、
553
此
(
こ
)
の
間
(
あひだ
)
は
高山彦
(
たかやまひこ
)
と
黒姫
(
くろひめ
)
のお
安
(
やす
)
うない
所
(
ところ
)
を
拝観
(
はいくわん
)
さして
貰
(
もら
)
ひ、
554
今日
(
けふ
)
は
又
(
また
)
一層
(
いつそう
)
濃厚
(
のうこう
)
なローマンスを
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
にブラ
下
(
さ
)
げられて、
555
……イヤもうお
芽出
(
めで
)
たい
事
(
こと
)
ぢや。
556
……
青彦
(
あをひこ
)
さま、
557
一杯
(
いつぱい
)
奢
(
おご
)
りなされや』
558
青彦
(
あをひこ
)
『お
婆
(
ば
)
アさま、
559
私
(
わたくし
)
の
様
(
やう
)
な
破
(
やぶ
)
れ
宣伝使
(
せんでんし
)
に
大事
(
だいじ
)
の
娘
(
むすめ
)
様
(
さま
)
の
婿
(
むこ
)
になつてくれいと
仰有
(
おつしや
)
るのは、
560
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
いますが、
561
私
(
わたくし
)
は
今
(
いま
)
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
によりて、
562
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
の
言霊戦
(
ことたません
)
に
出陣
(
しゆつぢん
)
せねばなりませぬ。
563
又
(
また
)
私
(
わたくし
)
一量見
(
いちりやうけん
)
ではゆきませぬから、
564
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
や、
565
音彦
(
おとひこ
)
さまのお
許
(
ゆる
)
しを
得
(
え
)
て、
566
ご
返辞
(
へんじ
)
を
致
(
いた
)
します。
567
それ
迄
(
まで
)
何卒
(
どうぞ
)
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
568
……かういふ
内
(
うち
)
にも
心
(
こころ
)
が
急
(
せ
)
けます。
569
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
が、
570
青彦
(
あをひこ
)
はどこへ
行
(
い
)
つただらうと、
571
お
尋
(
たづ
)
ね
遊
(
あそ
)
ばして
御座
(
ござ
)
るに
違
(
ちが
)
ひない。
572
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
場合
(
ばあひ
)
、
573
女
(
をんな
)
の
愛
(
あい
)
にひかされてコンナ
所
(
ところ
)
へ
舞
(
ま
)
ひ
戻
(
もど
)
つて
来
(
き
)
たと
思
(
おも
)
はれてはなりませぬから、
574
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
御
(
ご
)
返辞
(
へんじ
)
は
後
(
あと
)
に
致
(
いた
)
しませう。
575
左様
(
さやう
)
なれば……
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
よう……お
婆
(
ば
)
アさま、
576
お
節
(
せつ
)
どの』
577
と
言
(
い
)
ひすてて
門口
(
かどぐち
)
へ
急
(
いそ
)
ぎ
出
(
い
)
でむとするをお
楢
(
なら
)
は、
578
お楢
『どうぞ、
579
お
節
(
せつ
)
の
事
(
こと
)
を
忘
(
わす
)
れて
下
(
くだ
)
さるなや』
580
常彦
(
つねひこ
)
『モシモシ
青彦
(
あをひこ
)
さま、
581
どうぞ
私
(
わたくし
)
も
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
582
夏彦
(
なつひこ
)
『
私
(
わたくし
)
も、
583
どうぞ、
584
お
伴
(
とも
)
をさして
下
(
くだ
)
さい』
585
青彦
(
あをひこ
)
『
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
の
意見
(
いけん
)
を
聞
(
き
)
かねば、
586
何
(
なん
)
ともお
答
(
こたへ
)
は
出来
(
でき
)
かねますが、
587
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
が
好
(
よ
)
ければ、
588
私
(
わたくし
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
参
(
まゐ
)
りませう』
589
二人
(
ふたり
)
『どうぞ
宜
(
よろ
)
しうお
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
す。
590
……
婆
(
ば
)
アさま、
591
お
節
(
せつ
)
さま、
592
偉
(
えら
)
いお
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しました。
593
御縁
(
ごえん
)
が
有
(
あ
)
れば
又
(
また
)
お
目
(
め
)
にかかりませう』
594
お
楢
(
なら
)
『
左様
(
さやう
)
なら……』
595
お
節
(
せつ
)
『
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
よう……』
596
と
青彦
(
あをひこ
)
は
此
(
この
)
家
(
や
)
を
後
(
あと
)
に、
597
心
(
こころ
)
いそいそ
南
(
みなみ
)
を
指
(
さ
)
して
二人
(
ふたり
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
598
韋駄天
(
ゐだてん
)
走
(
ばし
)
りに
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
599
(
大正一一・四・二二
旧三・二六
松村真澄
録)
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