霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 顕幽(けんいう)交通(かうつう)〔六二二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻 篇:第2篇 千態万様 よみ(新仮名遣い):せんたいばんよう
章:第11章 顕幽交通 よみ(新仮名遣い):けんゆうこうつう 通し章番号:622
口述日:1922(大正11)年04月22日(旧03月26日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年1月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
お節は幽界を、三五教の宣伝歌を歌いながら旅をしていた。そこへ、岩公、勘公、櫟公、鬼彦、鬼虎の副守護神が現れて、比治山峠で動物扱いされた恨みと、お節に襲い掛かる。
お節は三五教の神号を唱えると、青彦の霊が現れて五人の副守護神に霊縛を加え、お節を助け出した。
お節は、五人を助けるようにと青彦に頼んだ。青彦は、その心がけなら現界に帰ることができると請け合い、天の数歌を歌った。
五人の副守護神は妄執が取れ、一同はみな合わせて神言を奏上した。すると五人の副守護神は牡丹のような花となり、天上に高く昇った。
青彦はお節に別れを告げて去った。お節はにわかに身体に爽快を覚え、目を覚ますと、お楢が手を握っていた。
お楢は、気を取り直して豊国姫命と素盞嗚尊に祈願をこらし始めたところ、お節が回復したのだ、と語り、豊国姫命に感謝の涙を流した。
四五日過ぎてまた黒姫が夏彦と常彦を連れてやってくるが、お楢は黒姫を非難して帰そうとするが、黒姫は屁理屈をこねて粘っている。
押し問答をしているうちに、夏彦と常彦が、黒姫に対して疑念を表明し始める。そこへ宣伝歌を歌いながら青彦がやって来て、黒姫を冷やかす。夏彦と常彦は青彦に味方し始める。
夏彦と常彦は、黒姫の言行心一致しないのに愛想をつかして、その場でウラナイ教の縁を切ってしまう。そうして青彦に、三五教に導いてくれるように頼み込んだ。
黒姫は青彦の胸倉を掴んで食い下がるが、三人はお楢の家に入って黒姫を締め出してしまう。黒姫は一人すごすごと魔窟ケ原へ帰っていく。
お楢は、お節が青彦を想う様をみて、婿になってくれと頼み込む。青彦は、鬼ケ城の言霊戦が済むまで待ってくれ、と答えると、夏彦・常彦を伴って、南を指して去って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-02-25 19:05:16 OBC :rm1711
愛善世界社版:163頁 八幡書店版:第3輯 584頁 修補版: 校定版:170頁 普及版:72頁 初版: ページ備考:
001 (そら)ドンヨリと、002灰色(はひいろ)(くも)(つつ)まれ、003血腥(ちなまぐ)さき(かぜ)()(すさ)萱野(かやの)(はら)を、004(やせ)(をんな)一人旅(ひとりたび)005三五教(あななひけう)宣伝歌(せんでんか)(かす)かに(うた)(なが)ら、006(こころ)ほそぼそ(すす)(きた)る。007(こがらし)すさぶ辻堂(つじだう)(そば)立寄(たちよ)(なが)むれば、008(だう)(うしろ)()(ひら)き、009(あら)はれ()でたる(くも)()(ばか)りの裸体(らたい)(をとこ)010()をガチガチ()はせ(なが)ら、
011『オーお(せつ)か、012()()()やがつた。013比治山(ひぢやま)(たうげ)赤裸(まつぱだか)になつた(おれ)(たち)()()み、014四足扱(よつあしあつかひ)をしやがつた(こと)(おぼ)えて()るだらう。015(おれ)(その)(とき)(しやく)(さわ)り……エー谷底(たにそこ)老爺(ぢぢい)(ばば)アも貴様(きさま)一緒(いつしよ)()()みてやらうと(おも)うては()たが、016(また)(おも)(なほ)し、017(かみ)(さま)(おそ)ろしうなつて、018忍耐(こら)へてやつた。019()もなく肉体(にくたい)(さむ)さに(こご)え、020()(うご)かなくなつて、021()むを()ず、022(いや)冥土(めいど)()()たのだ。023貴様(きさま)(ため)()ンだのではないが、024あまり貴様(きさま)たち親子(おやこ)業託(ごうたく)()やがるので、025むかついた、026(その)(とき)妄念(もうねん)(いま)(のこ)つて(この)(とほ)り、027貴様(きさま)()親子(おやこ)(さん)(にん)生命(いのち)()つてやらうと(おも)ひ、028()(にん)(れい)四辻(よつつじ)()()せて、029(まへ)(たち)親子(おやこ)(もの)地獄(ぢごく)(おと)してやらうと()つて()るのだ。030サア此処(ここ)()たのは(うん)()き、031(くび)をひき千切(ちぎ)つて(うら)みを()らしてやらう』
032(せつ)『これはこれは(みな)さま、033(はら)()つたでせう。034(しか)(なが)頑固(ぐわんこ)(おやぢ)(まを)した(こと)035(けつ)して、036(わらは)があなた(がた)虐待(ぎやくたい)したのではありませぬ。037(わらは)(いち)サンが()はして()れいと仰有(おつしや)つたので()うて(もら)つた(だけ)(こと)038どうか勘弁(かんべん)して(くだ)さいませ』
039岩公(いはこう)『エーソンナ勘弁(かんべん)出来(でき)(やう)(みたま)なら、040コンナ地獄(ぢごく)八丁目(はつちやうめ)にブラついてるものかい、041此処(ここ)はどこぢやと(おも)うて()る、042善悪(ぜんあく)標準(へうじゆん)()ければ、043慈悲(じひ)(なさけ)()い、044(うら)みと(ねた)みの荒野(あらの)(はら)ぢや。045エーグヅグヅ(ぬか)すな。046オイオイ(みな)(もの)047此奴(こいつ)(たた)()ばせ、048手足(てあし)()きむしれツ』
049 お(せつ)進退(しんたい)(これ)(きは)まり、050(こゑ)(かぎ)りに、
051お節『どなたか()(くだ)さいなア。052どうぞ繊弱(かよわ)(わたし)をお(たす)(くだ)さいませ。053惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
054一生(いつしやう)懸命(けんめい)(ねん)()る。055(この)()忽然(こつぜん)(あら)はれた一人(ひとり)(いろ)青白(あをじろ)優男(やさをとこ)056いきなり()(にん)裸男(はだかをとこ)(むか)ひ、057大麻(おほぬさ)左右左(さいうさ)打振(うちふ)れば、058裸男(はだかをとこ)は、
059『ヤア、060()ンでも()(やつ)()()やがつた。061オイ勘公(かんこう)062櫟公(いちこう)063岩公(いはこう)064鬼虎(おにとら)065……鬼彦(おにひこ)(つづ)けツ』
066一生(いつしやう)懸命(けんめい)()()かむとする。067一人(ひとり)(をとこ)()(にん)(むか)ひ『ウン』と霊縛(れいばく)(くは)へたるに、068()(にん)(あし)()()つた(まま)069化石(くわせき)(やう)になつて(しま)ひ、070()()き、071(した)をニヨロニヨロと()し、072(なみだ)(たき)(ごと)(なが)してふるえ()る。
073(をとこ)『ホーあなたは丹波村(たんばむら)のお(せつ)さまぢや()りませぬか。074どうしてコンナ(ところ)()(まよ)うてお()でなさいました。075(わたくし)三五教(あななひけう)青彦(あをひこ)(まを)宣伝使(せんでんし)御座(ござ)います。076大神(おほかみ)(さま)(めい)()り、077(おに)(じやう)魔神(まがみ)(たい)し、078言霊戦(ことたません)()かけて()最中(さいちう)御座(ござ)いますが、079あなたが、080惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)仰有(おつしや)つた(こゑ)()かされ、081(からだ)()きつけられる(やう)に、082此処(ここ)()ンで()ました。083サアサ、084コンナ(ところ)()つては大変(たいへん)です。085(はや)現界(げんかい)へお(かへ)りなさい』
086(せつ)『あなたは(うはさ)()いた三五教(あななひけう)青彦(あをひこ)さまで御座(ござ)いますか。087あなたも(また)幽界(いうかい)何時(いつ)()(あそ)ばしたの……』
088青彦(あをひこ)『イエイエ(わたくし)肉体(にくたい)唯今(ただいま)089悦子姫(よしこひめ)(さま)090加米彦(かめひこ)091音彦(おとひこ)()(とも)大活動(だいくわつどう)をやつて()ります。092一寸(ちよつと)肉体(にくたい)休息(きうそく)隙間(すきま)に、093和魂(にぎみたま)がやつて()たのですよ』
094(せつ)『アア左様(さやう)御座(ござ)いますか。095(あぶ)ない(ところ)をお(たす)(くだ)さいまして有難(ありがた)御座(ござ)います。096(しか)しあの()(にん)(はだか)さまを(たす)けて()げて(くだ)さいナ』
097青彦(あをひこ)『アアお(せつ)さま、098感心(かんしん)だ、099あれ(だけ)(えら)()()ひかけて()つた亡者(まうじや)を、100(たす)けてやつて()れいと仰有(おつしや)るのか。101その(こころ)なればこそ、102(ふたた)現界(げんかい)(かへ)(こと)出来(でき)ますよ』
103(せつ)『あの()(にん)(かた)現界(げんかい)(かへ)して()げる(わけ)にゆけませぬか』
104青彦(あをひこ)『あれは駄目(だめ)ですよ。105()(にん)(をとこ)(ほん)守護神(しゆごじん)は、106(すで)立派(りつぱ)天人(てんにん)となつて昇天(しようてん)し、107(あま)羽衣(はごろも)()()けて、108真名井(まなゐ)(はら)豊国姫(とよくにひめ)(さま)のお(そば)にご(よう)をして()りますよ。109彼奴(あいつ)はああ()えても、110(ふく)守護神(しゆごじん)(おに)(れい)だから、111幽界(いうかい)でモウちつと(ごう)(さら)し、112瞋恚(しんい)(こころ)消滅(せうめつ)させねば、113()かぶ(こと)出来(でき)ない。114(しか)(なが)霊縛(れいばく)()いてやりませう』
115 青彦(あをひこ)()(にん)(むか)ひ、116(こゑ)(すず)しく、
117青彦(あをひこ)(ひと)(ふた)()()(いつ)(むゆ)(なな)()(ここの)(たり)(もも)()(よろづ)
118数歌(かずうた)二回(にくわい)繰返(くりかへ)せば、119()(にん)裸男(はだかをとこ)身体(しんたい)(もと)(ごと)くになり、120青彦(あをひこ)(まへ)犬突這(いぬつくばひ)となり、
121()(にん)『コレはコレは青彦(あをひこ)(さま)122()(たす)けて(くだ)さいました。123結構(けつこう)神歌(かみうた)をお()かせ(くだ)さいまして()れで(わたくし)修羅(しゆら)妄執(まうしふ)もサラリと()けました。124(この)()(けつ)して(けつ)してお(せつ)さまの肉体(にくたい)(たた)りは(いた)しませぬ。125(わたくし)()れから結構(けつこう)(かみ)となりて、126神界(しんかい)(すく)はれます』
127(なみだ)()らして()()るにぞ、128青彦(あをひこ)は、
129青彦『アヽ結構(けつこう)だ。130(まへ)(たち)(わし)一緒(いつしよ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)しなさい』
131(おに)有難(ありがた)御座(ござ)います。132オイオイ(みな)連中(れんちう)133青彦(あをひこ)宣伝使(せんでんし)について、134祝詞(のりと)をあげませうかい』
135 (ここ)青彦(あをひこ)神言(かみごと)奏上(そうじやう)(はじ)めた。136(せつ)(はじ)()(にん)裸男(はだかをとこ)は、137両手(りやうて)(あは)せ、138青彦(あをひこ)(とも)神言(かみごと)奏上(そうじやう)(をは)るや、139()(にん)姿(すがた)()()(うるは)しき牡丹(ぼたん)(やう)(はな)(へん)じ、140(あたた)かき(かぜ)()かれて、141フワリフワリと、142天上(てんじやう)(たか)姿(すがた)(かく)したりける。
143青彦(あをひこ)『サアお(せつ)どの、144あなたもお(かへ)りなさい。145(また)現界(げんかい)でお()にかかりませう』
146言葉(ことば)(のこ)し、147青彦(あをひこ)(うるは)しき光玉(くわうぎよく)となりて、148南方(なんぱう)(てん)姿(すがた)(かく)した。149(せつ)(いま)まで(くる)しかりし身体(しんたい)(にはか)爽快(さうくわい)(おぼ)え、150えも()はれぬ音楽(おんがく)(ひびき)(きこ)ゆると()()正気(しやうき)づき、151四辺(あたり)()れば、152(ばば)アのお(なら)枕許(まくらもと)(すわ)つて、153(せつ)()をシツカと(にぎ)()め、154()()たりける。
155(せつ)『お()アさまでは御座(ござ)いませぬか』
156(なら)『ヤアお(せつ)157()()いたか、158(うれ)しい(うれ)しい。159これと()ふも、160(まつた)(かみ)(さま)のお(かげ)161ウラナイ(けう)黒姫(くろひめ)といふ()アが()つて()て、162筆先(ふでさき)とやらを()みて()かし、163宣伝歌(せんでんか)とやらを(うた)ふが最後(さいご)164(まへ)病気(びやうき)漸々(だんだん)(わる)くなり、165到頭(たうとう)縡切(ことき)れて(しま)ひ、166(わし)()()でならず、167(また)()()(なほ)し、168真名井(まなゐ)(はら)豊国姫(とよくにひめ)(かみ)(さま)169素盞嗚(すさのをの)(かみ)(さま)一生(いつしやう)懸命(けんめい)(ねん)じて()ました。170さうすると、171段々(だんだん)(つめ)たうなつて()たお(まへ)(からだ)(ぬく)みが出来(でき)()172青白(あをじろ)(かほ)追々(おひおひ)赤味(あかみ)()し、173(ほそ)(いき)をしだすかと()れば、174(かげ)(もの)()(やう)になつて()れた。175アヽ有難(ありがた)有難(ありがた)い、176真名井(まなゐ)(はら)(あら)はれませる大神(おほかみ)(さま)……』
177(ばば)アは(うれ)()きに()()りぬ。178(せつ)日一日(ひいちにち)快方(くわいはう)(むか)い、179四五(しご)(にち)()ぎて、180炊事(すゐじ)万端(ばんたん)手伝(てつだ)ひを健々(まめまめ)しく立働(たちはたら)かるる(まで)になり、181モウ二三(にさん)(にち)()てば、182()アさまと(とも)に、183真名井(まなゐ)(はら)宝座(ほうざ)にお(れい)参詣(まゐり)をなさむと、184親子(おやこ)相談(さうだん)最中(さいちう)185(もん)()押開(おしあ)けて、186(なか)(のぞ)()二三(にさん)(にん)人影(ひとかげ)()り、187よく()れば黒姫(くろひめ)188夏彦(なつひこ)189常彦(つねひこ)(さん)(にん)なりける。
190黒姫(くろひめ)『ヤアお()アさま、191何故(なぜ)192(むすめ)全快(ぜんくわい)したら、193()(れい)参詣(まゐり)()()ぬのだい』
194(なら)『お(まへ)黒姫(くろひめ)ぢやないか。195(せつ)病気(びやうき)(なほ)してやるなぞと、196偉相(えらさう)頬桁(ほほげた)(たた)きよつて、197どうぢやつたい。198(なが)たらしい(わけ)(わか)らぬ筆先(ふでさき)とやら()ふものを勿体(もつたい)()つて()み、199(その)(うへ)(わか)(むすめ)(くち)から千遍歌(せんべんか)とか、200万遍歌(まんべんか)とかいふものを(みみ)(いた)(ほど)(さへづ)つて、201(むすめ)()()様子(やうす)(わる)うなるばつかり、202(むし)(いき)になつて、203何時(なんどき)()ぬか()れぬと()(ところ)見済(みす)まし、204神界(しんかい)御用(ごよう)()るの(なん)のと()つてコソコソと()げたぢやないか、205あまり偉相(えらさう)(こと)()ふものぢやないワイ。206矢張(やつぱ)り、207ウラナイ(けう)(かみ)は、208ガラクタ(がみ)の、209貧乏神(びんばふがみ)の、210死神(しにがみ)の、211腰抜(こしぬ)(がみ)ぢや。212モウモウ()ンだつて、213ウラナイ(けう)信仰(しんかう)するものかい。214……エーエ(けが)らはしい、215病神(やまひがみ)216(はや)う、217(かへ)りて()(かへ)りて()れ。218折角(せつかく)()うなつたお(せつ)(また)(わる)なると(こま)る。219サア(はや)(はや)う、220(かへ)りたり(かへ)りたり』
221黒姫(くろひめ)『コレコレ()アさま、222(まへ)ソレヤ大変(たいへん)取違(とりちがひ)ぢや。223(わし)()祈念(きねん)をしてやつたお(かげ)(たす)かつたのぢやないか。224(その)(とき)にはチツと(わる)うても……(わる)うなるのが、225()うなる(しるし)ぢや。226(たうげ)(ひと)()えるのにも、227(くる)しい()をして、228(のぼ)()めたら、229(あと)(くだ)(ざか)ぢや。230何時(いつ)までも、231(くちなわ)生殺(なまごろし)(やう)に、232(せつ)ドンを(くる)しめて()くのは可哀相(かはいさう)ぢやから、233(この)黒姫(くろひめ)神力(しんりき)(たうげ)まで(おく)つてやつたから、234(その)(かげ)でお(せつ)さまが(あぶ)ない生命(いのち)(たす)かつたのぢやないか。235生命(いのち)(たす)けて(もら)うて小言(こごと)()ふと、236(また)(ばつ)(あた)らうぞい』
237(なら)(うま)(こと)()ふない、238ソンナ(だま)しを()(やう)(ばば)アぢやないぞ。239あンまり(あま)()(もら)うまいかイ。240(わか)(とき)鬼娘(おにむすめ)のお(なら)とまで()はれた、241()いも(あま)いも、242(ひと)(こころ)奥底(おくそこ)まで、243一目(ひとめ)()たら()つて()(この)(なら)ぢやぞえ』
244黒姫(くろひめ)()アさま、245(まへ)チツと逆上(のぼ)せて()るのぢやないかいナ。246マア()()()()けて、247(わし)()(こと)一通(ひととほ)()いて(くだ)されや』
248(なら)『アア五月蠅(うるさ)いツ、249()かぬ()かぬ。250トツトと(かい)りて(くだ)され。251…お(せつ)ウ、252(はうき)()し………あの(ばば)アを()()してやるのだ。253(くろ)いとも、254(しろ)いとも(わか)らぬ(やう)(つら)をしやがつて、255(ちから)()(くせ)に、256口先(くちさき)誤魔化(ごまくわ)さうと(おも)うても、257ソンナ(こと)誤魔化(ごまくわ)されるお(なら)()アぢやないぞや』
258黒姫(くろひめ)『お(なら)さま、259()()いて(くだ)さいや。260時計(とけい)(ひと)(つぶ)れても、261根本(こつぽん)から(なほ)さうと(おも)へば、262一旦(いつたん)(なか)機械(きかい)をスツパリ解体(かいたい)して(しま)ひ、263それから修繕(しうぜん)をせねば、264完全(くわんぜん)(なほ)るものぢやない。265恰度(ちやうど)大病(たいびやう)になると(その)(とほ)りぢや。266(せつ)さまの(からだ)(なか)機械(きかい)を、267(かみ)(さま)一遍(いつぺん)()()いて、268(さら)組立(くみた)てて(くだ)さつたのぢや。269(わけ)()らぬ素人(しろうと)は、270時計(とけい)機械(きかい)解体(かいたい)するとバラバラになるものだから、271(その)時計(とけい)以前(まへ)より(わる)うなつた(やう)(おも)うて(おこ)るものぢやが、272一旦(いつたん)バラバラに()なくては完全(くわんぜん)修繕(しうぜん)出来(でき)(やう)なもので、273大病(たいびやう)になるとスツカリ機械(きかい)()(かへ)を、274(かみ)(さま)がなさるのぢや。275(その)(とき)はチツト容態(ようだい)(わる)うなるのは当然(あたりまへ)ぢや。276そこをお(まへ)さまが(なが)めて、277(かへつ)(わる)うなつた(やう)(おも)つて()るのが根本(こつぽん)間違(まちがひ)ぢや。278(わる)うなつたお(かげ)で、279(いま)(やう)なピンピンした(からだ)になつたのぢや。280(ばち)(あた)つた………(なに)叱言(こごと)()ふのぢやい。281ウラナイ(けう)(かみ)(さま)に、282(せつ)さまも一緒(いつしよ)()(れい)(まを)しなされ』
283(せつ)黒姫(くろひめ)さまとやら、284()親切(しんせつ)仰有(おつしや)つて(くだ)さいますが、285(わらは)はどう(かんが)へても、286ウラナイ(けう)(むし)()きませぬ。287ウの()()いても、288(あたま)(いた)うなります。289それよりも三五教(あななひけう)青彦(あをひこ)さまと()宣伝使(せんでんし)に、290半日(はんにち)なりと()説教(せつけう)()かして()しいワイナ』
291黒姫(くろひめ)三五教(あななひけう)青彦(あをひこ)()(やつ)は、292(わし)弟子(でし)ぢや。293彼奴(あいつ)(わし)片腕(かたうで)ぢやが、294(この)(ごろ)三五教(あななひけう)間者(かんじや)となつて(わし)()れておいたのぢや。295青彦(あをひこ)(えら)いなら(その)大将(たいしやう)(わし)(なほ)(こと)296神徳(しんとく)沢山(たくさん)()(はず)ぢや。297サアサアま一遍(いつぺん)(をが)みてあげよう』
298 お(なら)299(せつ)300(いち)()に、
301お楢、お節『イヤイヤ一時(いつとき)(はや)(かへ)つて(くだ)さい』
302黒姫(くろひめ)『ハヽヽヽ、303(めくら)()(もの)仕方(しかた)()いものぢや。304何程(なにほど)現当(げんたう)利益(りやく)(かみ)(さま)がお()せなさつても、305神徳(かげ)をお神徳(かげ)(おも)はぬ(めくら)(つんぼ)にかけたら、306()()(しま)()つたものぢやない。307……コレコレ夏彦(なつひこ)308常彦(つねひこ)309(まへ)チツと()はぬかいなア。310(ごろ)(なん)ぞの(やう)に、311(この)黒姫(くろひめ)ばつかりに(ほね)()らして、312()らぬ(かほ)半兵衛(はんべゑ)をきめ()むとは、313(なん)(ざま)ぢや。314チト(しつか)りしなさらぬか』
315夏彦(なつひこ)(たれ)説教(せつけう)をして()いか、316サツパリ見当(けんたう)()れませぬワイ』
317黒姫(くろひめ)見当(けんたう)()れぬとは、318ソラ(なに)()ふのぢや。319折角(せつかく)神徳(かげ)(もら)うた(この)()(むすめ)のお(せつ)や、320(なら)()アさまを(つか)まへて、321言向和(ことむけやは)せと()ふのぢやないか。322(なに)をグヅグヅして()なさる』
323常彦(つねひこ)(わたし)最前(さいぜん)から、324両方(りやうはう)(はなし)を、325中立(ちうりつ)地帯(ちたい)()()いて、326観望(くわんばう)して()れば、327どうやら黒姫(くろひめ)さまの(はう)が、328道理(だうり)間違(まちが)つとる(やう)()(いた)しますので、329()(どく)で、330あなたに(はぢ)をかかす(わけ)にもゆかず、331沈黙(ちんもく)(まも)つて()(はう)が、332双方(さうはう)安全(あんぜん)だと(おも)つて(ひか)へて()りました』
333黒姫(くろひめ)『エー二人(ふたり)(とも)(わけ)(わか)らぬ代物(しろもの)ぢやなア』
334夏彦(なつひこ)(かみ)(うら)には(うら)があり、335(おく)には(おく)()(くらゐ)ならば、336(みみ)(たこ)になる(ほど)()いて()りますワイ。337(いま)までは(なん)でも(かん)でも、338あなたの仰有(おつしや)(とほ)盲従(まうじゆう)して()ましたが、339今日(こんにち)(やう)民衆(みんしう)運動(うんどう)(さか)ンになつて()ては、340今迄(いままで)(やう)厳格(げんかく)階級(かいきふ)制度(せいど)駄目(だめ)ですよ。341今日(こんにち)のウラナイ(けう)で、342あなたの()(こと)本当(ほんたう)(しん)じ、343本当(ほんたう)実行(じつかう)する(もの)は、344高山彦(たかやまひこ)さまタツタ一人(ひとり)345(また)高山彦(たかやまひこ)さまの命令(めいれい)服従(ふくじゆう)する(もの)は、346黒姫(くろひめ)さまタツタ一人(ひとり)()今日(こんにち)のウラナイ(けう)形勢(けいせい)347(なん)でも(かん)でも盲従(まうじゆう)して()ると、348同僚(どうれう)(やつ)馬鹿(ばか)にしられますワイ。349(わたし)今日(けふ)(かぎ)りお(ひま)(いただ)きます。350……お(まへ)さまと()()つた(うへ)は、351師匠(ししやう)でもなければ弟子(でし)でもない。352アカの他人(たにん)同様(どうやう)ぢや。353吾々(われわれ)二人(ふたり)は、354(いま)のお言葉(ことば)で、355(こころ)(そこ)から愛想(あいさう)()きました。356どうぞ御免(ごめん)(くだ)さいませ』
357黒姫(くろひめ)『ソレヤ、358夏彦(なつひこ)359常彦(つねひこ)360(やぶ)から(ぼう)突出(つきだ)した(やう)に、361(なに)()ふのだい。362(ひま)()れなら、363やらぬ(こと)もないが、364今迄(いままで)黒姫(くろひめ)とは(ちが)ひますぞゑ。365勿体(もつたい)なくも高山彦(たかやまひこ)(みこと)奥方(おくがた)366(をんな)(おも)(あなど)つての雑言(ざふごん)無礼(ぶれい)367容赦(ようしや)(いた)さぬぞや』
368 ()(あらそ)(ところ)へ、369宣伝歌(せんでんか)(うた)(なが)()()たるは、370青彦(あをひこ)なりける。371黒姫(くろひめ)青彦(あをひこ)()るなり、372胸倉(むなぐら)をグツと()り、
373黒姫『コレヤお(まへ)青彦(あをひこ)ぢやないか。374(なん)(こと)ぢや。375結構(けつこう)なウラナイ(けう)()てて、376(うそ)(かた)めた三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)になりよつて、377わし(たち)邪魔(じやま)ばつかりして()るぢやないか。378サア改心(かいしん)すれば()いし、379グヅグヅ()ひなさると、380(をんな)(なが)らも、381(きた)へあげたる(この)(うで)承知(しようち)をしませぬぞや』
382青彦(あをひこ)『アハヽヽヽ、383アヽお(まへ)黒姫(くろひめ)さまか。384()(とし)して()つて、385()加減(かげん)()()りなさつたらどうぢや。386棺桶(くわんをけ)片足(かたあし)()()みて()(なが)ら、387(せん)(ねん)(まん)(ねん)(いき)(やう)に、388何時(いつ)まではしやぐのぢや。389チツと(とし)相談(さうだん)をして()たらよからうに』
390 (なつ)391(つね)二人(ふたり)拍手(はくしゆ)して、
392夏彦、常彦『ヒヤヒヤ、393青彦(あをひこ)宣伝使(せんでんし)394シツカリやり(たま)へ』
395黒姫(くろひめ)『コラ夏彦(なつひこ)396常彦(つねひこ)397(なん)(こと)ぢや。398悪人(あくにん)青彦(あをひこ)加担(かたん)すると()(こと)があるものか、399(まへ)()(くる)うたか、400血迷(ちまよ)うたのか』
401常彦(つねひこ)只今(ただいま)(まで)はウラナイ(けう)身内(みうち)(もの)402只今(ただいま)(えん)()つた以上(いじやう)は、403三五教(あななひけう)にならうと、404バラモン(けう)にならうと、405常彦(つねひこ)勝手(かつて)ぢや。406ナア夏彦(なつひこ)407さうぢやないか』
408夏彦(なつひこ)『オウさうともさうとも、409……モシモシ青彦(あをひこ)さま、410あなたも(もと)はウラナイ(けう)のお(かた)ぢやつたさうですなア。411(わたくし)矢張(やつぱ)りウラナイ(けう)ぢや。412(しか)(なが)らあまり(この)()アの言心行(げんしんかう)一致(いつち)せないので、413(たれ)()れも愛想(あいさう)()かし、414(あした)一人(ひとり)415(ゆふべ)(さん)(にん)と、416各自(めいめい)後足(あとあし)(すな)をかけて、417脱退(だつたい)する(もの)ばつかり、418(わたくし)()うから、419ウラナイ(けう)面白(おもしろ)くないから、420三五教(あななひけう)になりたいと(おも)つて、421朝夕(あさゆふ)(ねん)じて()りましたが、422一旦(いつたん)黒姫(くろひめ)高姫(たかひめ)(だま)されて、423一生(いつしやう)懸命(けんめい)三五教(あななひけう)(かみ)(さま)悪口(わるくち)広告()れて(ある)いたものだから、424今更(いまさら)(しきゐ)(たか)うて、425三五教(あななひけう)(かぶと)()(わけ)にも()かないし、426(ちう)ブラリで(こま)つて()りました。427どうぞ青彦(あをひこ)さま(わたくし)()二人(ふたり)境遇(きやうぐう)()推察(すいさつ)(うへ)428どうぞ(よろ)しく()()()しをお(ねがひ)(まを)します』
429青彦(あをひこ)『ハア(よろ)しい承知(しようち)(いた)しました。430()安心(あんしん)なされ。431……オイ黒姫(くろひめ)432(ひと)胸倉(むなぐら)()りよつて(なん)(ざま)ぢや。433(はな)さぬかい』
434黒姫(くろひめ)()ても()きても、435(まへ)(こと)ばつかり(おも)うて()るのぢや。436大事(だいじ)のお(まへ)三五教(あななひけう)()られたと(おも)へば、437残念(ざんねん)残念(ざんねん)(たま)らぬワイ。438常彦(つねひこ)夏彦(なつひこ)のガラクタとは(ちが)うて、439(まへ)はチツト見込(みこみ)があると(おも)うて()つた。440(いま)はウラナイ(けう)追々(おひおひ)改良(かいりやう)して、441三五教(あななひけう)以上(いじやう)結構(けつこう)(をしへ)()ち、442()神力(しんりき)赫灼(いやちこ)だから、443どうぢや(ひと)つ、444(もと)()(かへ)つて、445黒姫(くろひめ)一緒(いつしよ)活動(くわつどう)する()はないか』
446夏彦(なつひこ)『モシモシ青彦(あをひこ)さま、447(うそ)(うそ)だ。448改良(かいりやう)(どころ)か、449()()改悪(かいあく)するばつかりだ。450(この)(あひだ)もフサの(くに)から、451ゲホウの(やう)(あたま)をした高山彦(たかやまひこ)()(をとこ)()()て、452黒姫(くろひめ)婿(むこ)になり、453天下(てんか)吾物顔(わがものがほ)()()ふものだから、454()れもかれも愛想(あいさう)をつかし、455毎日(まいにち)日日(ひにち)脱退者(だつたいしや)(くびす)(せつ)すると()有様(ありさま)456四天王(してんわう)一人(ひとり)()ばれた吾々(われわれ)でさへも、457愛想(あいさう)()きたのだ。458黒姫(くろひめ)口車(くちぐるま)()らぬ(やう)にして(くだ)さい』
459黒姫(くろひめ)『コラ(なつ)460(つね)461()らぬ(こと)()ふない。462貴様(きさま)(いや)なら(いや)で、463勝手(かつて)退()いたら()い。464(ひと)(こと)まで(かま)権利(けんり)があるか。465……サア青彦(あをひこ)466返答(へんたふ)はどうぢやな。467返答(へんたふ)()くまで、468仮令(たとへ)()ンでも、469(この)(うで)むしれても(はな)しやせぬぞ』
470青彦(あをひこ)『エー執念深(しふねんぶか)()アだナア。471(はな)さな(はな)さぬで()いワ』
472()ふより(はや)く、473赤裸(まつぱだか)になつた。474黒姫(くろひめ)着物(きもの)ばかりを(にぎ)つて、
475黒姫(たれ)(なん)()うても(はな)すものかい。476……ヤア何時(いつ)()にやら、477スブ()けを()はしよつたナ、478エーコンナ(かは)ばつかり(つか)みて()つても、479なにもならぬ。480()()ましい』
481()ひつつ着物(きもの)大地(だいち)()げつけるを夏彦(なつひこ)手早(てばや)(ひろ)ひあげ、482常彦(つねひこ)483青彦(あをひこ)諸共(もろとも)にお(せつ)(いへ)()()み、484(なか)からピシヤリと()()め、485(ぢやう)おろしたり。486黒姫(くろひめ)唯一人(ただひとり)門口(かどぐち)()(のこ)され、487ブツブツつぶやき(なが)ら、488比治山(ひぢやま)(はう)()してスゴスゴと(かへ)()く。
489(なら)『ヤアヤアお(まへ)さまは、490青彦(あをひこ)さまか。491()()(くだ)さつた。492こないだの(ばん)(とま)つて(もら)はうと(おも)つて()つたのに、493(とま)つて()しい(ひと)(とま)つて()れず、494(いや)(やつ)ばつかりノソノソと(とま)り、495執念深(しふねんぶか)い……()ンでからも(おやぢ)ドンの生命(いのち)()りに()496(また)()けば、497(せつ)生命(いのち)まで亡霊(ばうれい)となつて(ねら)ひよつたさうぢや。498(まへ)さまが(ゆめ)(あら)はれて、499悪魔(あくま)改心(かいしん)させ(むすめ)(たす)けて(くだ)さつた(ゆめ)()たら、500(その)()から不思議(ふしぎ)にも、501(せつ)段々(だんだん)()くなり、502(ばば)アも、503(せつ)も、504毎日(まいにち)日日(ひにち)505青彦(あをひこ)さま青彦(あをひこ)さまと真名井(まなゐ)(かみ)(さま)よりも尊敬(そんけい)して()りました。506()()(くだ)さつた。507サアサアむさくるしいが、508ズーツと(おく)へお(とほ)(くだ)され。509……そこの二人(ふたり)黒姫(くろひめ)弟子(でし)ではないか、510エーエー黒姫(くろひめ)身内(みうち)ぢやと(おも)へば(なん)だか気持(きもち)(わる)い。511二人(ふたり)のお(かた)折角(せつかく)(なが)ら、512トツトと(かへ)りて(くだ)され』
513青彦(あをひこ)『お()アさま、514(わたくし)(もと)黒姫(くろひめ)弟子(でし)になつて()りましたが、515あまりの身勝手(みがつて)(やつ)だから、516愛想(あいさう)()きて三五教(あななひけう)(せき)()へ、517()神徳(しんとく)(いただ)いて(いま)御覧(ごらん)(とほ)り、518宣伝使(せんでんし)になりました。519(この)二人(ふたり)は、520今日(けふ)只今(ただいま)(まで)521常彦(つねひこ)522夏彦(なつひこ)()うて、523黒姫(くろひめ)四天王(してんわう)とまで()はれて()つた豪者(えらもの)だが、524(この)二人(ふたり)(わたくし)(やう)に、525愛想(あいさう)をつかし、526(いま)此家(ここ)門口(かどぐち)師弟(してい)(えん)()(わたくし)友達(ともだち)になつたのだから、527さう気強(きづよ)(こと)()はずに、528大事(だいじ)にしてあげて(くだ)さい』
529(なら)『アアさうかいナさうかいナ。530それとは()らずに(えら)失礼(しつれい)(こと)(まを)しました。531……コレコレお(せつ)532(なに)(はづ)かしさうにして()るのぢや。533(はや)うお(きやく)さまにお(ちや)でも()まぬかいナ』
534 お(せつ)(そで)(かほ)(つつ)み、535(やや)(うつ)むき気味(きみ)になつて、
536お節『これはこれは青彦(あをひこ)(さま)537()()(くだ)さいました』
538()つた(きり)539俯伏(うつぶせ)になり(ふる)()る。
540(なら)『アーア(わか)(もの)()(もの)は、541仕方(しかた)()いものぢや。542……モシモシ青彦(あをひこ)さま、543(ばば)アの(たの)みぢやが、544不束(ふつつか)(むすめ)で、545()には()りますまいが、546どうぞお(せつ)婿(むこ)になつて(くだ)され。547これが(ばば)アの一生(いつしやう)(たの)みぢや。548……コレコレお(せつ)549(まへ)(たの)まぬかいナ』
550(せつ)『………』
551常彦(つねひこ)『ナアーンと(えら)いローマンスを()せて(いただ)きました。552ナア夏彦(なつひこ)553()(あひだ)高山彦(たかやまひこ)黒姫(くろひめ)のお(やす)うない(ところ)拝観(はいくわん)さして(もら)ひ、554今日(けふ)(また)一層(いつそう)濃厚(のうこう)なローマンスを()(まへ)にブラ()げられて、555……イヤもうお芽出(めで)たい(こと)ぢや。556……青彦(あをひこ)さま、557一杯(いつぱい)(おご)りなされや』
558青彦(あをひこ)『お()アさま、559(わたくし)(やう)(やぶ)宣伝使(せんでんし)大事(だいじ)(むすめ)(さま)婿(むこ)になつてくれいと仰有(おつしや)るのは、560有難(ありがた)御座(ござ)いますが、561(わたくし)(いま)悦子姫(よしこひめ)(さま)()命令(めいれい)によりて、562(おに)(じやう)言霊戦(ことたません)出陣(しゆつぢん)せねばなりませぬ。563(また)(わたくし)一量見(いちりやうけん)ではゆきませぬから、564悦子姫(よしこひめ)(さま)や、565音彦(おとひこ)さまのお(ゆる)しを()て、566返辞(へんじ)(いた)します。567それ(まで)何卒(どうぞ)()つて(くだ)さいませ。568……かういふ(うち)にも(こころ)()けます。569悦子姫(よしこひめ)(さま)が、570青彦(あをひこ)はどこへ()つただらうと、571(たづ)(あそ)ばして御座(ござ)るに(ちが)ひない。572肝腎要(かんじんかなめ)場合(ばあひ)573(をんな)(あい)にひかされてコンナ(ところ)()(もど)つて()たと(おも)はれてはなりませぬから、574()(かく)()返辞(へんじ)(あと)(いた)しませう。575左様(さやう)なれば……()機嫌(きげん)よう……お()アさま、576(せつ)どの』
577()ひすてて門口(かどぐち)(いそ)()でむとするをお(なら)は、
578お楢『どうぞ、579(せつ)(こと)(わす)れて(くだ)さるなや』
580常彦(つねひこ)『モシモシ青彦(あをひこ)さま、581どうぞ(わたくし)(おに)(じやう)()れて()つて(くだ)さい』
582夏彦(なつひこ)(わたくし)も、583どうぞ、584(とも)をさして(くだ)さい』
585青彦(あをひこ)悦子姫(よしこひめ)(さま)意見(いけん)()かねば、586(なん)ともお(こたへ)出来(でき)かねますが、587()都合(つがふ)()ければ、588(わたくし)一緒(いつしよ)(まゐ)りませう』
589二人(ふたり)『どうぞ(よろ)しうお(たの)(まを)す。590……()アさま、591(せつ)さま、592(えら)いお邪魔(じやま)(いた)しました。593御縁(ごえん)()れば(また)()にかかりませう』
594(なら)左様(さやう)なら……』
595(せつ)()機嫌(きげん)よう……』
596青彦(あをひこ)(この)()(あと)に、597(こころ)いそいそ(みなみ)()して二人(ふたり)(ともな)ひ、598韋駄天(ゐだてん)(ばし)りに(はし)()く。
599大正一一・四・二二 旧三・二六 松村真澄録)
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