霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 蚯蚓(みみず)の囁(ささやき)〔六一九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻 篇:第2篇 千態万様 よみ(新仮名遣い):せんたいばんよう
章:第8章 蚯蚓の囁 よみ(新仮名遣い):みみずのささやき 通し章番号:619
口述日:1922(大正11)年04月22日(旧03月26日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年1月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
正月二十七日の進撃の前、三軍の将に任命された夏彦、常彦、岩高、菊若は、出発に先立って、大将の黒姫への不平不満談に花を咲かせている。
曰く、黒姫の言行一致が最近怪しくなってきた、というのである。そこへ黒姫が現れて、四人の言行を非難し、説教を始めた。
そして出陣したが、青彦、加米彦にさんざんに敗北したのは、先に述べたとおりである。
黒姫の幹部であった夏彦、常彦、岩高、菊若は、黒姫・高山彦結婚の一件以来統一を欠き、三五教に心を移しつつあった。真名井ケ原攻撃の際も、この四人がわざと敗走したところも大いにあったのである。
人心を収攬するためには、ウラナイ教のように権謀術数・巧言令色では行かないのである。
三五教はただ至誠至実をもって神業に奉仕し、ミロクの精神を惟神的に発揮するのみである。そうすれば人心は期せずして三五教に集まり、何時とはなしに天下の大勢力となる。
黒姫は、青彦に懸想しているお節をまず篭絡し、お節を介して青彦をウラナイ教に引き戻そうと画策していた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-02-14 00:31:38 文字数:4678 OBC :rm1708
愛善世界社版:125頁 八幡書店版:第3輯 569頁 修補版: 校定版:131頁 普及版:53頁 初版: ページ備考:
001 黒姫(くろひめ)、002高山彦(たかやまひこ)の発議(はつぎ)により、003愈(いよいよ)真名井(まなゐ)ケ原(はら)の瑞(みづ)の宝座(ほうざ)を蹂躙(じうりん)し、004あはよくば占領(せんりやう)せむとの計画(けいくわく)は定(さだ)まつた。005黒姫(くろひめ)夫婦(ふうふ)は婚礼(こんれい)の後片付(あとかたづけ)に忙殺(ぼうさつ)を極(きは)めて居(ゐ)る。006三軍(さんぐん)の将(しやう)と定(きま)つた夏彦(なつひこ)、007常彦(つねひこ)、008岩高(いはたか)、009菊若(きくわか)の四(よ)人(にん)は入口(いりぐち)の間(ま)に胡坐(あぐら)をかき、010出発(しゆつぱつ)に先(さき)だち種々(いろいろ)の不平談(ふへいだん)に花(はな)を咲(さ)かし居(ゐ)たりける。
011常彦(つねひこ)『人間(にんげん)と云(い)ふものは身勝手(みがつて)のものぢやないか、012石部(いしべ)金吉(きんきち)金兜(かなかぶと)押(お)しても突(つ)いても此(この)信仰(しんかう)は動(うご)かぬ、013神政(しんせい)成就(じやうじゆ)する迄(まで)は男(をとこ)のやうなものは傍(そば)へも寄(よ)せぬ、014三十珊(さんじふサンチ)の大砲(たいはう)で男(をとこ)と云(い)ふ男(をとこ)は片端(かたつぱし)から肱鉄砲(ひぢでつぱう)を喰(く)はすのだ、015お前(まへ)達(たち)も神政(しんせい)成就(じやうじゆ)迄(まで)は若(わか)いと云(い)うても決(けつ)して女(をんな)などに目(め)を呉(く)れてはならぬぞ、016若(わか)い者(もの)が女(をんな)に目(め)を呉(く)れるやうな事(こと)では神界(しんかい)の経綸(しぐみ)が成就(じやうじゆ)せぬと、017明(あ)けても暮(く)れても口癖(くちぐせ)のやうに、018長(なが)い煙管(きせる)をポンと叩(たた)いて皺苦茶(しわくちや)面(づら)をして、019厳(きび)しいお説教(せつけう)を始(はじ)めて御座(ござ)つたが、020昨夜(ゆうべ)の態(ざま)つたら見(み)られたものぢやない、021雪達磨(ゆきだるま)がお天道(てんだう)様(さま)の光(ひかり)に解(と)けたやうに、022相好(さうがう)を崩(くづ)しよつて、023「モシ高山彦(たかやまひこ)の吾(わが)夫様(つまさま)」ナンテ、024団栗眼(どんぐりまなこ)を細(ほそ)うしよつて何(なに)を吐(ぬか)しよつたやら、025訳(わけ)の分(わか)つたものぢやない、026俺(おれ)やもう嫌(いや)になつて仕舞(しま)つたワ』
027岩高(いはたか)『定(きま)つた事(こと)ぢや、028女(をんな)に男(をとこ)はつきものだ。029茶碗(ちやわん)に箸(はし)、030鑿(のみ)に槌(つち)、031杵(きね)に臼(うす)、032何(なん)と云(い)つたつて此(この)世(よ)の中(なか)は男女(だんぢよ)が揃(そろ)はねば物事(ものごと)成就(じやうじゆ)せぬのだ、033二本(にほん)の手(て)と二本(にほん)の足(あし)とがあつて人間(にんげん)は自由(じいう)自在(じざい)に働(はたら)けるやうなものだ、034三十(さんじふ)後家(ごけ)は立(た)つても四十(しじふ)後家(ごけ)は立(た)たぬと云(い)ふ事(こと)があるぢやないか』
035常彦(つねひこ)『四十(しじふ)後家(ごけ)なら仕方(しかた)が無(な)いが彼奴(あいつ)は五十(ごじふ)後家(ごけ)ぢやないか、036コレコレ常(つね)さま、037お前(まへ)は因縁(いんねん)の身霊(みたま)ぢやによつて、038何(ど)うしても三十(さんじふ)になるまで女房(にようばう)を持(も)つてはいけませぬぞえ、039人間(にんげん)は三十(さんじふ)にして立(た)つと云(い)ふ事(こと)があるなぞと云(い)よるが、040此(この)時節(じせつ)に三十(さんじふ)にして立(た)つ奴(やつ)は碌(ろく)なものぢやない、041俺(おれ)等(ら)は既(すで)に既(すで)に十六七(じふろくしち)から立(た)つて居(ゐ)るのぢや、042今(いま)思(おも)うと立(た)つものは腹(はら)ばかりぢや』
043夏彦(なつひこ)『貴様(きさま)等(ら)は何(なに)を下(くだ)らぬ事(こと)を云(い)うて居(ゐ)るのだ、044高姫(たかひめ)さまだつて余(あま)り大(おほ)きな声(こゑ)では云(い)はれぬが、045何々(なになに)と何々(なになに)し、046又(また)○○(まるまる)と○○(まるまる)し、047夫(それ)は夫(それ)は口(くち)でこそ立派(りつぱ)に道心(だうしん)堅固(けんご)のやうに云(い)うて居(ゐ)るが、048口(くち)と心(こころ)と行(おこな)ひの揃(そろ)つた奴(やつ)はウラナイ教(けう)には一匹(いつぴき)もありやしないワ、049俺(おれ)も魔我彦(まがひこ)や、050蠑螈別(いもりわけ)や高姫(たかひめ)に限(かぎ)つてソンナ事(こと)はあるまい、051言行心(げんかうしん)一致(いつち)だと初(はじめ)の程(ほど)は信(しん)じて居(ゐ)たが、052此(こ)の頃(ごろ)は何(ど)うやら怪(あや)しくなつて来(き)たやうだ、053本当(ほんたう)に気張(きば)る精(せい)も無(な)くなつて了(しま)つた。054今迄(いままで)は二(ふた)つ目(め)には黒姫(くろひめ)の奴(やつ)、055夏彦(なつひこ)何(ど)うせう、056常彦(つねひこ)何(ど)うせう、057岩高(いはたか)、058菊若(きくわか)、059斯(か)うしたら好(よ)からうかなアと吐(ぬか)しよつて、060一(いち)から十(じふ)迄(まで)、061ピンからキリ迄(まで)相談(さうだん)をかけたものだが、062昨日(きのふ)から天候(てんこう)激変(げきへん)、063ケロリと吾々(われわれ)を念頭(ねんとう)から磨滅(まめつ)しよつて、064箸(はし)の倒(こ)けた事(こと)まで、065ナアもし高山(たかやま)さま、066これもしこちの人(ひと)、067何(ど)うしませう、068斯(か)うした方(はう)が宜敷(よろし)くは御座(ござ)いますまいかと、069皺面(しわづら)にペツタリコと白(しろ)いものをつけよつて、070田螺(たにし)のやうな歯(は)を剥(む)き出(だ)し、071酒(さけ)許(ばか)り飲(くら)ひよつて、072俺(おれ)達(たち)には一(ひと)つ飲(の)めとも云(い)ひよりやせむ、073かう天候(てんこう)が激変(げきへん)すると何時(いつ)俺(おれ)達(たち)の頭(あたま)の上(うへ)に雷鳴(らいめい)が轟(とどろ)き、074暴風(ばうふう)が襲来(しふらい)するか分(わか)つたものぢやない、075俺(おれ)はホトホトウラナイ教(けう)の真相(しんさう)が分(わか)つて愛想(あいさう)が尽(つ)きたよ。076今更(いまさら)三五教(あななひけう)へ入信(はいら)うと云(い)つた所(ところ)で、077力(ちから)一(いつ)ぱい高姫(たかひめ)や黒姫(くろひめ)の言葉(ことば)の尻(しり)について、078素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の悪口(あくこう)雑言(ざふごん)をふれ廻(まは)して来(き)たものだから、079どうせ三五教(あななひけう)の連中(れんちう)の耳(みみ)へ入(はい)つて居(ゐ)るに違(ちが)ひない、080さうすれば三五教(あななひけう)へ入信(はい)る訳(わけ)にも行(ゆ)かず、081ウラナイ教(けう)に居(ゐ)ても面白(おもしろ)くはなし、082厄介者(やつかいもの)扱(あつかひ)のやうな態度(たいど)を見(み)せられ、083苦(くる)しい方(はう)へ許(ばか)り廻(まは)されて本当(ほんたう)に珠算盤(そろばん)があはぬぢやないか、084何時迄(いつまで)もコンナ事(こと)をして居(ゐ)ると身魂(みたま)の身代限(しんだいかぎり)をしなくてはならぬやうになつて了(しま)ふ、085今(いま)の中(うち)に各自(めいめい)に身魂(みたま)の土台(どだい)を確(しつか)り固(かた)めて置(お)かうではないか。086よい程(ほど)扱(こ)き使(つか)はれて肝腎(かんじん)の時(とき)になつてから、087お前(まへ)は何(ど)うしても改心(かいしん)が出来(でき)ぬ、088身魂(みたま)の因縁(いんねん)が悪(わる)いナンテ勝手(かつて)な理屈(りくつ)を云(い)つてお払(はら)ひ箱(ばこ)にせられては約(つま)らぬぢやないか』
089常彦(つねひこ)『それやさうだ。090高姫(たかひめ)は変性(へんじやう)男子(なんし)の系統(ひつぱう)ぢやと聞(き)いた許(ばか)りに、091変性(へんじやう)女子(によし)の身魂(みたま)より余程(よほど)立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)だと思(おも)うて今迄(いままで)ついて来(き)たのだ。092併(しか)し日(ひ)の出神(でのかみ)もよい加減(かげん)なものだ。093各自(めいめい)ウラナイ教(けう)脱退(だつたい)の覚悟(かくご)をしやうではないか』
094菊若(きくわか)『オイ、095ソンナ大(おほ)きな声(こゑ)で云(い)うと奥(おく)へ聞(きこ)えるぞ、096静(しづか)にせぬかい』
097夏彦(なつひこ)『ナニ、098今日(けふ)は何程(なにほど)大(おほ)きな声(こゑ)で云(い)つたところで俺(おれ)達(たち)の声(こゑ)は黒姫(くろひめ)の耳(みみ)に入(はい)るものか、099耳(みみ)へ入(はい)るものは高山彦(たかやまひこ)の声(こゑ)許(ばか)りだ、100俺(おれ)達(たち)の声(こゑ)が耳(みみ)に入(はい)る程(ほど)注意(ちうい)を払(はら)つて呉(く)れる程(ほど)親切(しんせつ)があるなら、101もとよりコンナ問題(もんだい)は提起(ていき)しないのぢや、102乞食(こじき)の虱(しらみ)ぢやないが口(くち)の先(さき)で俺(おれ)達(たち)を旨(うま)く殺(ころ)しよつて、103今迄(いままで)旨(うま)く使(つか)つて居(ゐ)たのだ、104随分(ずゐぶん)気(き)に入(い)つたと見(み)え、105枯(か)れて松葉(まつば)の二人(ふたり)連(づれ)、106虱(しらみ)の卵(たまご)ぢやないが彼奴(あいつ)ア死(し)ンでも離(はな)れつこは無(な)いぞ、107アハヽヽヽ』
108岩高(いはたか)『併(しか)し、109そろそろ真名井(まなゐ)ケ嶽(だけ)に出発(しゆつぱつ)の時刻(じこく)が近(ちか)よつて来(き)たが、110お前(まへ)達(たち)は出陣(しゆつじん)する考(かんが)へか』
111夏彦(なつひこ)『否(いや)と云(い)つたつて仕方(しかた)が無(な)いぢやないか、112ウラナイ教(けう)に居(ゐ)る以上(いじやう)は否(いや)でも応(おう)でも出陣(しゆつじん)せねばなるまい、113併(しか)しながら根(ね)つから葉(は)つから気乗(きのり)がしなくなつて来(き)た、114仕方(しかた)が無(な)いから形式的(おじやうもく)に出陣(しゆつぢん)し、115態(わざ)と三五教(あななひけう)に負(ま)けて逃(に)げてやらうぢやないか、116さうすれば黒姫(くろひめ)は申(まを)すに及(およ)ばず、117高姫(たかひめ)もちつとは胸(むね)に手(て)を当(あ)てて考(かんが)へるだらう、118高山彦(たかやまひこ)だつて愛想(あいさう)をつかして黒姫(くろひめ)を捨(す)てて去(い)ぬかも知(し)れぬぞ。119今(いま)こそ花婿(はなむこ)が来(き)たのだと思(おも)つて上品(じやうひん)ぶつて、120大(おほ)きな鰐口(わにぐち)を無理(むり)におちよぼ口(ぐち)をしやがつて、121高尚(かうしやう)らしく見(み)せて居(ゐ)るが、122暫(しばら)くすると地金(ぢがね)を出(だ)して、123又(また)女(をんな)だてら大勢(おほぜい)の中(なか)で、124サイダーやビールの喇叭飲(らつぱの)みをやらかすやうになるのは定(きま)つてゐる。125鍍金(めつき)した金属(きんぞく)が何時迄(いつまで)も剥(は)げぬ道理(だうり)はない、126俺(おれ)達(たち)もウラナイ教(けう)の信者(しんじや)と云(い)ふ鍍金(めつき)を今迄(いままで)塗(ぬ)つて居(ゐ)たが、127もう耐(たま)らなくなつて、128そろそろ剥(は)げかけたぢやないか、129アハヽヽヽ』
130 斯(かか)る所(ところ)へ虎若(とらわか)と富彦(とみひこ)の両人(りやうにん)現(あら)はれ来(きた)り、
131虎(とら)、132富(とみ)『ヤア四天王(してんわう)の大将(たいしやう)方(がた)、133高山彦(たかやまひこ)、134黒姫(くろひめ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)で御座(ござ)る、135一(いち)時(じ)も早(はや)く真名井(まなゐ)ケ原(はら)に向(むか)つて出陣(しゆつじん)の用意(ようい)めされ』
136と云(い)ひ捨(す)てて此(この)場(ば)を急(いそ)ぎ立(た)ち去(さ)りにけり。
137夏彦(なつひこ)『エヽ何(なん)だ、138馬鹿(ばか)にしてゐる。139昨日(きのふ)来(き)た許(ばか)りの虎若(とらわか)、140富彦(とみひこ)を使(つか)つて吾々(われわれ)に命令(めいれい)を伝(つた)へるナンテ、141あまり吾々(われわれ)を軽蔑(けいべつ)し過(す)ぎて居(を)るぢやないか、142如何(いか)に気(き)に入(い)つた高山彦(たかやまひこ)の連(つ)れて来(き)た家来(けらい)ぢやと云(い)つて、143古参者(こさんしや)の吾々(われわれ)を放(ほ)つて置(お)き勝手(かつて)に新参者(しんざんもの)に命令(めいれい)を下(くだ)し、144吾々(われわれ)を一段下(いちだんした)に下(おろ)しよつたな、145これだから好(よ)い加減(かげん)に見切(みき)らねばならぬと云(い)ふのだよ』
146常彦(つねひこ)『アヽ、147仕方(しかた)がない、148兎(と)も角(かく)も形式(けいしき)なりと出陣(しゆつぢん)する事(こと)にしやうかい』
149 黒姫(くろひめ)は突然(とつぜん)此(この)場(ば)に現(あら)はれて、
150黒姫『これこれ夏彦(なつひこ)、151常彦(つねひこ)、152お前(まへ)今(いま)何(なに)を云(い)つてゐらしたの』
153常彦(つねひこ)『ハイ、154真名井(まなゐ)ケ嶽(だけ)に出陣(しゆつぢん)の用意(ようい)をしやうと申(まをし)て居(を)りました』
155黒姫(くろひめ)『それは御(ご)苦労(くらう)ぢやつたが、156其(その)次(つぎ)を聞(き)かして下(くだ)さい、157其(その)次(つぎ)は何(なん)と仰(おつしや)つた』
158常彦(つねひこ)『ハイハイ、159次(つぎ)は矢張(やはり)其(その)次(つぎ)で御座(ござ)いますナ』
160黒姫(くろひめ)『天(てん)に口(くち)あり、161壁(かべ)に耳(みみ)と云(い)ふ事(こと)をお前(まへ)達(たち)は知(し)らぬか、162最前(さいぜん)から四(よ)人(にん)の話(はなし)を初(はじ)めから終(しまひ)迄(まで)、163次(つぎ)の間(ま)に隠(かく)れて聞(き)いて居(を)りました。164随分(ずゐぶん)高山(たかやま)さまや黒姫(くろひめ)の事(こと)を褒(ほ)めて下(くだ)さつたな』
165 四(よ)人(にん)一(いち)時(じ)に頭(あたま)を掻(か)いて、
166四人『イヤ何(なに)滅相(めつさう)も御座(ござ)いませぬ、167つい酒(さけ)に酔(よ)うて口(くち)が辷(すべ)りました、168どうぞ神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞(き)き直(なほ)して下(くだ)さいませ』
169黒姫『お前(まへ)酔(よ)うたと云(い)ふが、170何時(いつ)酒(さけ)を飲(の)みたのだい』
171夏彦(なつひこ)『ハイ、172酒(さけ)を飲(の)みたのは貴女(あなた)と高山(たかやま)さまと祝言(しうげん)の杯(さかづき)をなされました時(とき)……ぢやから其(その)為(ため)に酔(ゑい)が廻(まは)つてつい脱線(だつせん)致(いた)しました』
173黒姫(くろひめ)『馬鹿(ばか)な事(こと)を云(い)ひなさるな、174酒(さけ)も飲(の)まぬに酔(ゑい)が廻(まは)り、175管捲(くだま)く奴(やつ)が何処(どこ)にあるものか、176それやお前(まへ)達(たち)、177本真剣(ほんしんけん)で云(い)つたのだらう、178サアサアウラナイ教(けう)はお前(まへ)さま達(たち)のやうな没分暁漢(わからずや)に居(ゐ)て貰(もら)へば邪魔(じやま)になる、179サアサア今日(けふ)限(かぎ)り何処(どこ)へなりと行(い)つて下(くだ)さい。180エイエイ、181お前(まへ)達(たち)のしやつ面(つら)を見(み)るのも汚(けが)らはしい』
182夏彦(なつひこ)『そらさうでせう、183好(す)きな顔(かほ)が目(め)の前(まへ)にちらついて来(き)たものだから、184吾々(われわれ)のしやつ面(つら)は見(み)るのも嫌(いや)になりましただらう』
185黒姫(くろひめ)『エヽ入(い)らぬ事(こと)を云(い)ひなさるな、186サアとつとと去(い)んだり去(い)んだり、187ウラナイ教(けう)では暇(ひま)を出(だ)され、188三五教(あななひけう)では肱鉄(ひぢてつ)を食(く)はされ、189野良犬(のらいぬ)のやうに彼方(あつち)にうろうろ、190此方(こつち)にうろうろ、191終(しまひ)には棍棒(こんぼう)で頭(あたま)の一(ひと)つも撲(くら)はされて、192キヤンキヤンと云(い)うて又(また)元(もと)のウラナイ教(けう)に尾(を)を振(ふ)つて帰(かへ)つて来(こ)ねばならぬやうにならねばならぬ事(こと)は見(み)え透(す)いて居(ゐ)るわ、193ウラナイ教(けう)の太元(おほもと)の大橋(おほはし)越(こ)えてまだ先(さき)に行方(ゆくへ)分(わか)らず後戻(あともど)り、194慢心(まんしん)すると其(その)通(とほ)り、195白米(しらが)に籾(もみ)の混(まじ)つたやうに、196謝罪(あやま)つて帰(かへ)つて来(き)ても隅(すみ)の方(はう)に小(ちひ)さくなつて居(ゐ)るのを見(み)るのが気(き)の毒(どく)ぢや、197今(いま)の中(うち)に改心(かいしん)をしてこの黒姫(くろひめ)の云(い)ふ事(こと)を聞(き)きなされ、198黒姫(くろひめ)は口(くち)でかう厳(きび)しく云(い)つても、199心(こころ)の中(なか)は、200花(はな)も実(み)もある誠一途(まこといちづ)の情深(なさけぶか)い性来(しやうらい)ぢや、201誠(まこと)生粋(きつすゐ)の水晶玉(すいしやうだま)の選(え)り抜(ぬ)きの日本(やまと)魂(だましひ)の持主(もちぬし)ぢやぞえ、202サアどうぢや、203確(しつか)り返答(へんたふ)しなさい、204夏彦(なつひこ)の昨夜(ゆうべ)の歌(うた)は何(なん)ぢや、205目出度(めでた)い時(とき)だと思(おも)うて辛抱(しんばう)して居(を)れば好(よ)い気(き)になつて悪口(わるくち)たらだら、206大抵(たいてい)の者(もの)だつたらあの時(とき)に摘(つま)み出(だ)して仕舞(しま)ふのぢやけれど、207神(かみ)様(さま)のお道(みち)の誠(まこと)の奥(おく)を悟(さと)つた此(この)黒姫(くろひめ)は、208心(こころ)が広(ひろ)いから松(まつ)吹(ふ)く風(かぜ)と聞(き)き流(なが)して許(ゆる)して居(ゐ)たのだ、209それに又(また)もや四(よ)人(にん)の大将株(たいしやうかぶ)が燕(つばめ)の親方(おやかた)のやうに知(し)らぬ者(もの)の半分(はんぶん)も知(し)らぬ癖(くせ)に何(なに)を云(い)ふのだい。210お前(まへ)達(たち)に誠(まこと)の神(かみ)の大御心(おほみこころ)が分(わか)つて耐(たま)るものか、211知(し)らにや知(し)らぬで黙言(だま)つて居(ゐ)なさい』
212夏彦(なつひこ)『ハイハイ、213誠(まこと)に申訳(まをしわけ)がありませぬ、214何卒(どうぞ)今度(こんど)に限(かぎ)り見直(みなほ)し聞(き)き直(なほ)して下(くだ)さいませ』
215黒姫(くろひめ)『此(この)度(たび)に限(かぎ)つて許(ゆる)して置(お)く、216此(この)後(ご)に於(おい)て、217一口(ひとくち)でも半口(はんくち)でも、218高山(たかやま)さまや黒姫(くろひめ)の事(こと)を云(い)はうものなら、219夫(それ)こそ叩(たた)き払(ばらひ)にするからさう思(おも)ひなさい、220サアサア常彦(つねひこ)、221菊若(きくわか)、222岩高(いはたか)愈(いよいよ)出陣(しゆつぢん)の用意(ようい)だ、223高山彦(たかやまひこ)の御(おん)大将(たいしやう)はもはや出陣(しゆつぢん)の準備(じゆんび)が整(ととの)うたぞへ』
224 四(よ)人(にん)一度(いちど)に、
225四人『ハイ確(たしか)に承知(しようち)仕(つかまつ)りました』
226 茲(ここ)に黒姫(くろひめ)、227高山彦(たかやまひこ)は一族(いちぞく)郎党(らうたう)を集(あつ)め、228旗鼓(きこ)堂々(だうだう)と真名井(まなゐ)ケ原(はら)に向(むか)つて進撃(しんげき)したが、229加米彦(かめひこ)、230青彦(あをひこ)の言霊(ことたま)に脆(もろ)くも打(う)ち破(やぶ)られ、231蜘蛛(くも)の子(こ)を散(ち)らすが如(ごと)く四方(しはう)に散乱(さんらん)したりけり。
232 ウラナイ教(けう)の鍵鑰(けんやく)を握(にぎ)つて居(ゐ)た黒姫(くろひめ)の部下(ぶか)四天王(してんわう)と頼(たの)みたる夏彦(なつひこ)、233岩高(いはたか)、234菊若(きくわか)、235常彦(つねひこ)の閣僚(かくれう)は黒姫(くろひめ)結婚(けつこん)以来(いらい)上下(じやうげ)の統一(とういつ)を欠(か)ぎ、236自然(しぜん)三五教(あななひけう)に向(むか)つて其(その)思想(しさう)は暗遷(あんせん)黙移(もくい)しつつありき。237其(そ)の為(た)め、238折角(せつかく)の真名井(まなゐ)ケ原(はら)の攻撃(こうげき)も味方(みかた)の四天王(してんわう)より故意(わざ)と崩解(ほうかい)し、239黒姫(くろひめ)が神力(しんりき)を籠(こ)めたる神算(しんさん)鬼謀(きぼう)の作戦(さくせん)計画(けいくわく)も殆(ほとん)ど画餅(ぐわべい)に帰(き)し終(をは)りたるなりき。240嗚呼(ああ)人心(じんしん)を収攪(しうらん)せむとするの難(かた)き、241到底(たうてい)巧言(こうげん)令色(れいしよく)権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)等(とう)の虚偽(きよぎ)行動(かうどう)をもつて左右(さいう)すべからざるを知(し)るに足(た)る。242之(これ)に反(はん)して三五教(あななひけう)は一(ひと)つの包蔵(はうざう)もなく手段(しゆだん)もなく、243唯々(ただただ)至誠(しせい)至実(しじつ)をもつて神業(しんげふ)に奉仕(ほうし)し、244ミロクの精神(せいしん)を惟神(かむながら)的(てき)に発揮(はつき)するのみ。245されば人心(じんしん)は期(き)せずして三五教(あななひけう)に集(あつ)まり、246日(ひ)に夜(よ)に其(その)数(かず)を増加(ぞうか)し、247何時(いつ)とはなしに天下(てんか)の大勢力(だいせいりよく)となりぬ。248ウラナイ教(けう)は広(ひろ)い大八洲(おほやしま)国(くに)に於(おい)て直接(ちよくせつ)に信徒(しんと)を集(あつ)めたるもの唯(ただ)一人(ひとり)もなく、249唯々(ただただ)三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)したる未熟(みじゆく)の信者(しんじや)に対(たい)し、250巧言(こうげん)令色(れいしよく)をもつて誘引(いういん)し、251且(か)つ変性(へんじやう)男子(なんし)の系統(けいとう)より出(い)でたる高姫(たかひめ)を唯一(ゆゐいつ)の看板(かんばん)となし世(よ)を欺(あざむ)くのみにして、252根底(こんてい)の弱(よわ)き事(こと)、253砂上(さじやう)に建(た)てたる楼閣(ろうかく)の如(ごと)く、254其(その)剥脱(はくだつ)し易(やす)き事(こと)炭団(たどん)に着(き)せたる金箔(きんぱく)の如(ごと)く、255豆腐(とうふ)の如(ごと)く、256一(ひと)つの要(かなめ)もなく唯(ただ)弁(べん)に任(まか)し表面(へうめん)を糊塗(こと)するのみ、257其(その)説(と)く所(ところ)恰(あたか)も売薬屋(ばいやくや)の効能書(かうのうがき)の如(ごと)く、258名(な)のみあつて其(その)実(じつ)なく、259有名(いうめい)無実(むじつ)、260有害(いうがい)無益(むえき)の贅物(ぜいぶつ)とは、261所謂(いはゆる)ウラナイ教(けう)の代名詞(だいめいし)であらうと迄(まで)取沙汰(とりざた)されけり。262されど執拗(しつえう)なる高姫(たかひめ)、263黒姫(くろひめ)は少(すこ)しも屈(くつ)せず……女(をんな)の一心(いつしん)岩(いは)でも突貫(つきぬ)く、264非(ひ)が邪(じや)でも邪(じや)が非(ひ)でも仮令(たとへ)太陽(たいやう)西天(せいてん)より昇(のぼ)る世(よ)ありとも、265一旦(いつたん)思(おも)ひ詰(つ)めたる心(こころ)の中(うち)の決心(けつしん)は、266幾千万(いくせんまん)度(たび)生(うま)れ代(かは)り死代(しにかは)り生死(せいし)往来(わうらい)の旅(たび)を重(かさ)ぬるとも、267いつかないつかな摧(くぢ)けてならうか……との大(だい)磐石心(ばんじやくしん)、268固(かた)まりきつた女(をんな)の片意地(かたいぢ)、269張合(はりあひ)もなき次第(しだい)なり。
270 黒姫(くろひめ)は力(ちから)と頼(たの)む青彦(あをひこ)の三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)せし事(こと)を日夜(にちや)に惜(をし)み、271如何(いか)にもして再(ふたた)びウラナイ教(けう)の謀主(ぼうしゆ)たらしめむと、272千思(せんし)万慮(ばんりよ)の結果(けつくわ)、273フサの国(くに)より高山彦(たかやまひこ)に従(したが)ひ来(きた)れる虎若(とらわか)、274富彦(とみひこ)に命(めい)じ、275青彦(あをひこ)が日夜(にちや)に念頭(ねんとう)を離(はな)れざるお節(せつ)を説(と)きつけ、276お節(せつ)より青彦(あをひこ)が信仰(しんかう)を落(おと)させむものと肝胆(かんたん)を砕(くだ)きつつありける。
277(大正一一・四・二二 旧三・二六 加藤明子録)
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