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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第17巻(辰の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 雪山幽谷
第1章 黄金の衣
第2章 魔の窟
第3章 生死不明
第4章 羽化登仙
第5章 誘惑婆
第6章 瑞の宝座
第2篇 千態万様
第7章 枯尾花
第8章 蚯蚓の囁
第9章 大逆転
第10章 四百種病
第11章 顕幽交通
第3篇 鬼ケ城山
第12章 花と花
第13章 紫姫
第14章 空谷の足音
第15章 敵味方
第16章 城攻
第17章 有終の美
霊の礎(三)
暁山雲(謡曲)
余白歌
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霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
>
第17巻(辰の巻)
> 第2篇 千態万様 > 第8章 蚯蚓の囁
<<< 枯尾花
(B)
(N)
大逆転 >>>
第八章
蚯蚓
(
みみず
)
の
囁
(
ささやき
)
〔六一九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻
篇:
第2篇 千態万様
よみ(新仮名遣い):
せんたいばんよう
章:
第8章 蚯蚓の囁
よみ(新仮名遣い):
みみずのささやき
通し章番号:
619
口述日:
1922(大正11)年04月22日(旧03月26日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年1月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
正月二十七日の進撃の前、三軍の将に任命された夏彦、常彦、岩高、菊若は、出発に先立って、大将の黒姫への不平不満談に花を咲かせている。
曰く、黒姫の言行一致が最近怪しくなってきた、というのである。そこへ黒姫が現れて、四人の言行を非難し、説教を始めた。
そして出陣したが、青彦、加米彦にさんざんに敗北したのは、先に述べたとおりである。
黒姫の幹部であった夏彦、常彦、岩高、菊若は、黒姫・高山彦結婚の一件以来統一を欠き、三五教に心を移しつつあった。真名井ケ原攻撃の際も、この四人がわざと敗走したところも大いにあったのである。
人心を収攬するためには、ウラナイ教のように権謀術数・巧言令色では行かないのである。
三五教はただ至誠至実をもって神業に奉仕し、ミロクの精神を惟神的に発揮するのみである。そうすれば人心は期せずして三五教に集まり、何時とはなしに天下の大勢力となる。
黒姫は、青彦に懸想しているお節をまず篭絡し、お節を介して青彦をウラナイ教に引き戻そうと画策していた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-02-14 00:31:38
OBC :
rm1708
愛善世界社版:
125頁
八幡書店版:
第3輯 569頁
修補版:
校定版:
131頁
普及版:
53頁
初版:
ページ備考:
001
黒姫
(
くろひめ
)
、
002
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
発議
(
はつぎ
)
により、
003
愈
(
いよいよ
)
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
瑞
(
みづ
)
の
宝座
(
ほうざ
)
を
蹂躙
(
じうりん
)
し、
004
あはよくば
占領
(
せんりやう
)
せむとの
計画
(
けいくわく
)
は
定
(
さだ
)
まつた。
005
黒姫
(
くろひめ
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
婚礼
(
こんれい
)
の
後片付
(
あとかたづけ
)
に
忙殺
(
ぼうさつ
)
を
極
(
きは
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
006
三軍
(
さんぐん
)
の
将
(
しやう
)
と
定
(
きま
)
つた
夏彦
(
なつひこ
)
、
007
常彦
(
つねひこ
)
、
008
岩高
(
いはたか
)
、
009
菊若
(
きくわか
)
の
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
入口
(
いりぐち
)
の
間
(
ま
)
に
胡坐
(
あぐら
)
をかき、
010
出発
(
しゆつぱつ
)
に
先
(
さき
)
だち
種々
(
いろいろ
)
の
不平談
(
ふへいだん
)
に
花
(
はな
)
を
咲
(
さ
)
かし
居
(
ゐ
)
たりける。
011
常彦
(
つねひこ
)
『
人間
(
にんげん
)
と
云
(
い
)
ふものは
身勝手
(
みがつて
)
のものぢやないか、
012
石部
(
いしべ
)
金吉
(
きんきち
)
金兜
(
かなかぶと
)
押
(
お
)
しても
突
(
つ
)
いても
此
(
この
)
信仰
(
しんかう
)
は
動
(
うご
)
かぬ、
013
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
する
迄
(
まで
)
は
男
(
をとこ
)
のやうなものは
傍
(
そば
)
へも
寄
(
よ
)
せぬ、
014
三十珊
(
さんじふサンチ
)
の
大砲
(
たいはう
)
で
男
(
をとこ
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
は
片端
(
かたつぱし
)
から
肱鉄砲
(
ひぢでつぱう
)
を
喰
(
く
)
はすのだ、
015
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
も
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
迄
(
まで
)
は
若
(
わか
)
いと
云
(
い
)
うても
決
(
けつ
)
して
女
(
をんな
)
などに
目
(
め
)
を
呉
(
く
)
れてはならぬぞ、
016
若
(
わか
)
い
者
(
もの
)
が
女
(
をんな
)
に
目
(
め
)
を
呉
(
く
)
れるやうな
事
(
こと
)
では
神界
(
しんかい
)
の
経綸
(
しぐみ
)
が
成就
(
じやうじゆ
)
せぬと、
017
明
(
あ
)
けても
暮
(
く
)
れても
口癖
(
くちぐせ
)
のやうに、
018
長
(
なが
)
い
煙管
(
きせる
)
をポンと
叩
(
たた
)
いて
皺苦茶
(
しわくちや
)
面
(
づら
)
をして、
019
厳
(
きび
)
しいお
説教
(
せつけう
)
を
始
(
はじ
)
めて
御座
(
ござ
)
つたが、
020
昨夜
(
ゆうべ
)
の
態
(
ざま
)
つたら
見
(
み
)
られたものぢやない、
021
雪達磨
(
ゆきだるま
)
がお
天道
(
てんだう
)
様
(
さま
)
の
光
(
ひかり
)
に
解
(
と
)
けたやうに、
022
相好
(
さうがう
)
を
崩
(
くづ
)
しよつて、
023
「モシ
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
吾
(
わが
)
夫様
(
つまさま
)
」ナンテ、
024
団栗眼
(
どんぐりまなこ
)
を
細
(
ほそ
)
うしよつて
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しよつたやら、
025
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
つたものぢやない、
026
俺
(
おれ
)
やもう
嫌
(
いや
)
になつて
仕舞
(
しま
)
つたワ』
027
岩高
(
いはたか
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
ぢや、
028
女
(
をんな
)
に
男
(
をとこ
)
はつきものだ。
029
茶碗
(
ちやわん
)
に
箸
(
はし
)
、
030
鑿
(
のみ
)
に
槌
(
つち
)
、
031
杵
(
きね
)
に
臼
(
うす
)
、
032
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つたつて
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
男女
(
だんぢよ
)
が
揃
(
そろ
)
はねば
物事
(
ものごと
)
成就
(
じやうじゆ
)
せぬのだ、
033
二本
(
にほん
)
の
手
(
て
)
と
二本
(
にほん
)
の
足
(
あし
)
とがあつて
人間
(
にんげん
)
は
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
働
(
はたら
)
けるやうなものだ、
034
三十
(
さんじふ
)
後家
(
ごけ
)
は
立
(
た
)
つても
四十
(
しじふ
)
後家
(
ごけ
)
は
立
(
た
)
たぬと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるぢやないか』
035
常彦
(
つねひこ
)
『
四十
(
しじふ
)
後家
(
ごけ
)
なら
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いが
彼奴
(
あいつ
)
は
五十
(
ごじふ
)
後家
(
ごけ
)
ぢやないか、
036
コレコレ
常
(
つね
)
さま、
037
お
前
(
まへ
)
は
因縁
(
いんねん
)
の
身霊
(
みたま
)
ぢやによつて、
038
何
(
ど
)
うしても
三十
(
さんじふ
)
になるまで
女房
(
にようばう
)
を
持
(
も
)
つてはいけませぬぞえ、
039
人間
(
にんげん
)
は
三十
(
さんじふ
)
にして
立
(
た
)
つと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるなぞと
云
(
い
)
よるが、
040
此
(
この
)
時節
(
じせつ
)
に
三十
(
さんじふ
)
にして
立
(
た
)
つ
奴
(
やつ
)
は
碌
(
ろく
)
なものぢやない、
041
俺
(
おれ
)
等
(
ら
)
は
既
(
すで
)
に
既
(
すで
)
に
十六七
(
じふろくしち
)
から
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
るのぢや、
042
今
(
いま
)
思
(
おも
)
うと
立
(
た
)
つものは
腹
(
はら
)
ばかりぢや』
043
夏彦
(
なつひこ
)
『
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
は
何
(
なに
)
を
下
(
くだ
)
らぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
るのだ、
044
高姫
(
たかひめ
)
さまだつて
余
(
あま
)
り
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
では
云
(
い
)
はれぬが、
045
何々
(
なになに
)
と
何々
(
なになに
)
し、
046
又
(
また
)
○○
(
まるまる
)
と
○○
(
まるまる
)
し、
047
夫
(
それ
)
は
夫
(
それ
)
は
口
(
くち
)
でこそ
立派
(
りつぱ
)
に
道心
(
だうしん
)
堅固
(
けんご
)
のやうに
云
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
るが、
048
口
(
くち
)
と
心
(
こころ
)
と
行
(
おこな
)
ひの
揃
(
そろ
)
つた
奴
(
やつ
)
はウラナイ
教
(
けう
)
には
一匹
(
いつぴき
)
もありやしないワ、
049
俺
(
おれ
)
も
魔我彦
(
まがひこ
)
や、
050
蠑螈別
(
いもりわけ
)
や
高姫
(
たかひめ
)
に
限
(
かぎ
)
つてソンナ
事
(
こと
)
はあるまい、
051
言行心
(
げんかうしん
)
一致
(
いつち
)
だと
初
(
はじめ
)
の
程
(
ほど
)
は
信
(
しん
)
じて
居
(
ゐ
)
たが、
052
此
(
こ
)
の
頃
(
ごろ
)
は
何
(
ど
)
うやら
怪
(
あや
)
しくなつて
来
(
き
)
たやうだ、
053
本当
(
ほんたう
)
に
気張
(
きば
)
る
精
(
せい
)
も
無
(
な
)
くなつて
了
(
しま
)
つた。
054
今迄
(
いままで
)
は
二
(
ふた
)
つ
目
(
め
)
には
黒姫
(
くろひめ
)
の
奴
(
やつ
)
、
055
夏彦
(
なつひこ
)
何
(
ど
)
うせう、
056
常彦
(
つねひこ
)
何
(
ど
)
うせう、
057
岩高
(
いはたか
)
、
058
菊若
(
きくわか
)
、
059
斯
(
か
)
うしたら
好
(
よ
)
からうかなアと
吐
(
ぬか
)
しよつて、
060
一
(
いち
)
から
十
(
じふ
)
迄
(
まで
)
、
061
ピンからキリ
迄
(
まで
)
相談
(
さうだん
)
をかけたものだが、
062
昨日
(
きのふ
)
から
天候
(
てんこう
)
激変
(
げきへん
)
、
063
ケロリと
吾々
(
われわれ
)
を
念頭
(
ねんとう
)
から
磨滅
(
まめつ
)
しよつて、
064
箸
(
はし
)
の
倒
(
こ
)
けた
事
(
こと
)
まで、
065
ナアもし
高山
(
たかやま
)
さま、
066
これもしこちの
人
(
ひと
)
、
067
何
(
ど
)
うしませう、
068
斯
(
か
)
うした
方
(
はう
)
が
宜敷
(
よろし
)
くは
御座
(
ござ
)
いますまいかと、
069
皺面
(
しわづら
)
にペツタリコと
白
(
しろ
)
いものをつけよつて、
070
田螺
(
たにし
)
のやうな
歯
(
は
)
を
剥
(
む
)
き
出
(
だ
)
し、
071
酒
(
さけ
)
許
(
ばか
)
り
飲
(
くら
)
ひよつて、
072
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
には
一
(
ひと
)
つ
飲
(
の
)
めとも
云
(
い
)
ひよりやせむ、
073
かう
天候
(
てんこう
)
が
激変
(
げきへん
)
すると
何時
(
いつ
)
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
に
雷鳴
(
らいめい
)
が
轟
(
とどろ
)
き、
074
暴風
(
ばうふう
)
が
襲来
(
しふらい
)
するか
分
(
わか
)
つたものぢやない、
075
俺
(
おれ
)
はホトホトウラナイ
教
(
けう
)
の
真相
(
しんさう
)
が
分
(
わか
)
つて
愛想
(
あいさう
)
が
尽
(
つ
)
きたよ。
076
今更
(
いまさら
)
三五教
(
あななひけう
)
へ
入信
(
はいら
)
うと
云
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で、
077
力
(
ちから
)
一
(
いつ
)
ぱい
高姫
(
たかひめ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
の
尻
(
しり
)
について、
078
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
の
悪口
(
あくこう
)
雑言
(
ざふごん
)
をふれ
廻
(
まは
)
して
来
(
き
)
たものだから、
079
どうせ
三五教
(
あななひけう
)
の
連中
(
れんちう
)
の
耳
(
みみ
)
へ
入
(
はい
)
つて
居
(
ゐ
)
るに
違
(
ちが
)
ひない、
080
さうすれば
三五教
(
あななひけう
)
へ
入信
(
はい
)
る
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
081
ウラナイ
教
(
けう
)
に
居
(
ゐ
)
ても
面白
(
おもしろ
)
くはなし、
082
厄介者
(
やつかいもの
)
扱
(
あつかひ
)
のやうな
態度
(
たいど
)
を
見
(
み
)
せられ、
083
苦
(
くる
)
しい
方
(
はう
)
へ
許
(
ばか
)
り
廻
(
まは
)
されて
本当
(
ほんたう
)
に
珠算盤
(
そろばん
)
があはぬぢやないか、
084
何時迄
(
いつまで
)
もコンナ
事
(
こと
)
をして
居
(
ゐ
)
ると
身魂
(
みたま
)
の
身代限
(
しんだいかぎり
)
をしなくてはならぬやうになつて
了
(
しま
)
ふ、
085
今
(
いま
)
の
中
(
うち
)
に
各自
(
めいめい
)
に
身魂
(
みたま
)
の
土台
(
どだい
)
を
確
(
しつか
)
り
固
(
かた
)
めて
置
(
お
)
かうではないか。
086
よい
程
(
ほど
)
扱
(
こ
)
き
使
(
つか
)
はれて
肝腎
(
かんじん
)
の
時
(
とき
)
になつてから、
087
お
前
(
まへ
)
は
何
(
ど
)
うしても
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
ぬ、
088
身魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
が
悪
(
わる
)
いナンテ
勝手
(
かつて
)
な
理屈
(
りくつ
)
を
云
(
い
)
つてお
払
(
はら
)
ひ
箱
(
ばこ
)
にせられては
約
(
つま
)
らぬぢやないか』
089
常彦
(
つねひこ
)
『それやさうだ。
090
高姫
(
たかひめ
)
は
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
の
系統
(
ひつぱう
)
ぢやと
聞
(
き
)
いた
許
(
ばか
)
りに、
091
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
の
身魂
(
みたま
)
より
余程
(
よほど
)
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
だと
思
(
おも
)
うて
今迄
(
いままで
)
ついて
来
(
き
)
たのだ。
092
併
(
しか
)
し
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
もよい
加減
(
かげん
)
なものだ。
093
各自
(
めいめい
)
ウラナイ
教
(
けう
)
脱退
(
だつたい
)
の
覚悟
(
かくご
)
をしやうではないか』
094
菊若
(
きくわか
)
『オイ、
095
ソンナ
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
云
(
い
)
うと
奥
(
おく
)
へ
聞
(
きこ
)
えるぞ、
096
静
(
しづか
)
にせぬかい』
097
夏彦
(
なつひこ
)
『ナニ、
098
今日
(
けふ
)
は
何程
(
なにほど
)
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
云
(
い
)
つたところで
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
声
(
こゑ
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
の
耳
(
みみ
)
に
入
(
はい
)
るものか、
099
耳
(
みみ
)
へ
入
(
はい
)
るものは
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
声
(
こゑ
)
許
(
ばか
)
りだ、
100
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
声
(
こゑ
)
が
耳
(
みみ
)
に
入
(
はい
)
る
程
(
ほど
)
注意
(
ちうい
)
を
払
(
はら
)
つて
呉
(
く
)
れる
程
(
ほど
)
親切
(
しんせつ
)
があるなら、
101
もとよりコンナ
問題
(
もんだい
)
は
提起
(
ていき
)
しないのぢや、
102
乞食
(
こじき
)
の
虱
(
しらみ
)
ぢやないが
口
(
くち
)
の
先
(
さき
)
で
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
旨
(
うま
)
く
殺
(
ころ
)
しよつて、
103
今迄
(
いままで
)
旨
(
うま
)
く
使
(
つか
)
つて
居
(
ゐ
)
たのだ、
104
随分
(
ずゐぶん
)
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つたと
見
(
み
)
え、
105
枯
(
か
)
れて
松葉
(
まつば
)
の
二人
(
ふたり
)
連
(
づれ
)
、
106
虱
(
しらみ
)
の
卵
(
たまご
)
ぢやないが
彼奴
(
あいつ
)
ア
死
(
し
)
ンでも
離
(
はな
)
れつこは
無
(
な
)
いぞ、
107
アハヽヽヽ』
108
岩高
(
いはたか
)
『
併
(
しか
)
し、
109
そろそろ
真名井
(
まなゐ
)
ケ
嶽
(
だけ
)
に
出発
(
しゆつぱつ
)
の
時刻
(
じこく
)
が
近
(
ちか
)
よつて
来
(
き
)
たが、
110
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
出陣
(
しゆつじん
)
する
考
(
かんが
)
へか』
111
夏彦
(
なつひこ
)
『
否
(
いや
)
と
云
(
い
)
つたつて
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いぢやないか、
112
ウラナイ
教
(
けう
)
に
居
(
ゐ
)
る
以上
(
いじやう
)
は
否
(
いや
)
でも
応
(
おう
)
でも
出陣
(
しゆつじん
)
せねばなるまい、
113
併
(
しか
)
しながら
根
(
ね
)
つから
葉
(
は
)
つから
気乗
(
きのり
)
がしなくなつて
来
(
き
)
た、
114
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いから
形式的
(
おじやうもく
)
に
出陣
(
しゆつぢん
)
し、
115
態
(
わざ
)
と
三五教
(
あななひけう
)
に
負
(
ま
)
けて
逃
(
に
)
げてやらうぢやないか、
116
さうすれば
黒姫
(
くろひめ
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
117
高姫
(
たかひめ
)
もちつとは
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
を
当
(
あ
)
てて
考
(
かんが
)
へるだらう、
118
高山彦
(
たかやまひこ
)
だつて
愛想
(
あいさう
)
をつかして
黒姫
(
くろひめ
)
を
捨
(
す
)
てて
去
(
い
)
ぬかも
知
(
し
)
れぬぞ。
119
今
(
いま
)
こそ
花婿
(
はなむこ
)
が
来
(
き
)
たのだと
思
(
おも
)
つて
上品
(
じやうひん
)
ぶつて、
120
大
(
おほ
)
きな
鰐口
(
わにぐち
)
を
無理
(
むり
)
におちよぼ
口
(
ぐち
)
をしやがつて、
121
高尚
(
かうしやう
)
らしく
見
(
み
)
せて
居
(
ゐ
)
るが、
122
暫
(
しばら
)
くすると
地金
(
ぢがね
)
を
出
(
だ
)
して、
123
又
(
また
)
女
(
をんな
)
だてら
大勢
(
おほぜい
)
の
中
(
なか
)
で、
124
サイダーやビールの
喇叭飲
(
らつぱの
)
みをやらかすやうになるのは
定
(
きま
)
つてゐる。
125
鍍金
(
めつき
)
した
金属
(
きんぞく
)
が
何時迄
(
いつまで
)
も
剥
(
は
)
げぬ
道理
(
だうり
)
はない、
126
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
もウラナイ
教
(
けう
)
の
信者
(
しんじや
)
と
云
(
い
)
ふ
鍍金
(
めつき
)
を
今迄
(
いままで
)
塗
(
ぬ
)
つて
居
(
ゐ
)
たが、
127
もう
耐
(
たま
)
らなくなつて、
128
そろそろ
剥
(
は
)
げかけたぢやないか、
129
アハヽヽヽ』
130
斯
(
かか
)
る
所
(
ところ
)
へ
虎若
(
とらわか
)
と
富彦
(
とみひこ
)
の
両人
(
りやうにん
)
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
131
虎
(
とら
)
、
132
富
(
とみ
)
『ヤア
四天王
(
してんわう
)
の
大将
(
たいしやう
)
方
(
がた
)
、
133
高山彦
(
たかやまひこ
)
、
134
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
で
御座
(
ござ
)
る、
135
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
に
向
(
むか
)
つて
出陣
(
しゆつじん
)
の
用意
(
ようい
)
めされ』
136
と
云
(
い
)
ひ
捨
(
す
)
てて
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
急
(
いそ
)
ぎ
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
りにけり。
137
夏彦
(
なつひこ
)
『エヽ
何
(
なん
)
だ、
138
馬鹿
(
ばか
)
にしてゐる。
139
昨日
(
きのふ
)
来
(
き
)
た
許
(
ばか
)
りの
虎若
(
とらわか
)
、
140
富彦
(
とみひこ
)
を
使
(
つか
)
つて
吾々
(
われわれ
)
に
命令
(
めいれい
)
を
伝
(
つた
)
へるナンテ、
141
あまり
吾々
(
われわれ
)
を
軽蔑
(
けいべつ
)
し
過
(
す
)
ぎて
居
(
を
)
るぢやないか、
142
如何
(
いか
)
に
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つた
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
た
家来
(
けらい
)
ぢやと
云
(
い
)
つて、
143
古参者
(
こさんしや
)
の
吾々
(
われわれ
)
を
放
(
ほ
)
つて
置
(
お
)
き
勝手
(
かつて
)
に
新参者
(
しんざんもの
)
に
命令
(
めいれい
)
を
下
(
くだ
)
し、
144
吾々
(
われわれ
)
を
一段下
(
いちだんした
)
に
下
(
おろ
)
しよつたな、
145
これだから
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
見切
(
みき
)
らねばならぬと
云
(
い
)
ふのだよ』
146
常彦
(
つねひこ
)
『アヽ、
147
仕方
(
しかた
)
がない、
148
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
形式
(
けいしき
)
なりと
出陣
(
しゆつぢん
)
する
事
(
こと
)
にしやうかい』
149
黒姫
(
くろひめ
)
は
突然
(
とつぜん
)
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれて、
150
黒姫
『これこれ
夏彦
(
なつひこ
)
、
151
常彦
(
つねひこ
)
、
152
お
前
(
まへ
)
今
(
いま
)
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つてゐらしたの』
153
常彦
(
つねひこ
)
『ハイ、
154
真名井
(
まなゐ
)
ケ
嶽
(
だけ
)
に
出陣
(
しゆつぢん
)
の
用意
(
ようい
)
をしやうと
申
(
まをし
)
て
居
(
を
)
りました』
155
黒姫
(
くろひめ
)
『それは
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
ぢやつたが、
156
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
を
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さい、
157
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
は
何
(
なん
)
と
仰
(
おつしや
)
つた』
158
常彦
(
つねひこ
)
『ハイハイ、
159
次
(
つぎ
)
は
矢張
(
やはり
)
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
で
御座
(
ござ
)
いますナ』
160
黒姫
(
くろひめ
)
『
天
(
てん
)
に
口
(
くち
)
あり、
161
壁
(
かべ
)
に
耳
(
みみ
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
をお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
知
(
し
)
らぬか、
162
最前
(
さいぜん
)
から
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
話
(
はなし
)
を
初
(
はじ
)
めから
終
(
しまひ
)
迄
(
まで
)
、
163
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
隠
(
かく
)
れて
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
りました。
164
随分
(
ずゐぶん
)
高山
(
たかやま
)
さまや
黒姫
(
くろひめ
)
の
事
(
こと
)
を
褒
(
ほ
)
めて
下
(
くだ
)
さつたな』
165
四
(
よ
)
人
(
にん
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
いて、
166
四人
『イヤ
何
(
なに
)
滅相
(
めつさう
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬ、
167
つい
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
うて
口
(
くち
)
が
辷
(
すべ
)
りました、
168
どうぞ
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
169
黒姫
『お
前
(
まへ
)
酔
(
よ
)
うたと
云
(
い
)
ふが、
170
何時
(
いつ
)
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
みたのだい』
171
夏彦
(
なつひこ
)
『ハイ、
172
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
みたのは
貴女
(
あなた
)
と
高山
(
たかやま
)
さまと
祝言
(
しうげん
)
の
杯
(
さかづき
)
をなされました
時
(
とき
)
……ぢやから
其
(
その
)
為
(
ため
)
に
酔
(
ゑい
)
が
廻
(
まは
)
つてつい
脱線
(
だつせん
)
致
(
いた
)
しました』
173
黒姫
(
くろひめ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ひなさるな、
174
酒
(
さけ
)
も
飲
(
の
)
まぬに
酔
(
ゑい
)
が
廻
(
まは
)
り、
175
管捲
(
くだま
)
く
奴
(
やつ
)
が
何処
(
どこ
)
にあるものか、
176
それやお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
、
177
本真剣
(
ほんしんけん
)
で
云
(
い
)
つたのだらう、
178
サアサアウラナイ
教
(
けう
)
はお
前
(
まへ
)
さま
達
(
たち
)
のやうな
没分暁漢
(
わからずや
)
に
居
(
ゐ
)
て
貰
(
もら
)
へば
邪魔
(
じやま
)
になる、
179
サアサア
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
何処
(
どこ
)
へなりと
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
180
エイエイ、
181
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
しやつ
面
(
つら
)
を
見
(
み
)
るのも
汚
(
けが
)
らはしい』
182
夏彦
(
なつひこ
)
『そらさうでせう、
183
好
(
す
)
きな
顔
(
かほ
)
が
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
にちらついて
来
(
き
)
たものだから、
184
吾々
(
われわれ
)
の
しやつ
面
(
つら
)
は
見
(
み
)
るのも
嫌
(
いや
)
になりましただらう』
185
黒姫
(
くろひめ
)
『エヽ
入
(
い
)
らぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ひなさるな、
186
サアとつとと
去
(
い
)
んだり
去
(
い
)
んだり、
187
ウラナイ
教
(
けう
)
では
暇
(
ひま
)
を
出
(
だ
)
され、
188
三五教
(
あななひけう
)
では
肱鉄
(
ひぢてつ
)
を
食
(
く
)
はされ、
189
野良犬
(
のらいぬ
)
のやうに
彼方
(
あつち
)
にうろうろ、
190
此方
(
こつち
)
にうろうろ、
191
終
(
しまひ
)
には
棍棒
(
こんぼう
)
で
頭
(
あたま
)
の
一
(
ひと
)
つも
撲
(
くら
)
はされて、
192
キヤンキヤンと
云
(
い
)
うて
又
(
また
)
元
(
もと
)
のウラナイ
教
(
けう
)
に
尾
(
を
)
を
振
(
ふ
)
つて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
ねばならぬやうにならねばならぬ
事
(
こと
)
は
見
(
み
)
え
透
(
す
)
いて
居
(
ゐ
)
るわ、
193
ウラナイ
教
(
けう
)
の
太元
(
おほもと
)
の
大橋
(
おほはし
)
越
(
こ
)
えてまだ
先
(
さき
)
に
行方
(
ゆくへ
)
分
(
わか
)
らず
後戻
(
あともど
)
り、
194
慢心
(
まんしん
)
すると
其
(
その
)
通
(
とほ
)
り、
195
白米
(
しらが
)
に
籾
(
もみ
)
の
混
(
まじ
)
つたやうに、
196
謝罪
(
あやま
)
つて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ても
隅
(
すみ
)
の
方
(
はう
)
に
小
(
ちひ
)
さくなつて
居
(
ゐ
)
るのを
見
(
み
)
るのが
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ぢや、
197
今
(
いま
)
の
中
(
うち
)
に
改心
(
かいしん
)
をしてこの
黒姫
(
くろひめ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
きなされ、
198
黒姫
(
くろひめ
)
は
口
(
くち
)
でかう
厳
(
きび
)
しく
云
(
い
)
つても、
199
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
は、
200
花
(
はな
)
も
実
(
み
)
もある
誠一途
(
まこといちづ
)
の
情深
(
なさけぶか
)
い
性来
(
しやうらい
)
ぢや、
201
誠
(
まこと
)
生粋
(
きつすゐ
)
の
水晶玉
(
すいしやうだま
)
の
選
(
え
)
り
抜
(
ぬ
)
きの
日本
(
やまと
)
魂
(
だましひ
)
の
持主
(
もちぬし
)
ぢやぞえ、
202
サアどうぢや、
203
確
(
しつか
)
り
返答
(
へんたふ
)
しなさい、
204
夏彦
(
なつひこ
)
の
昨夜
(
ゆうべ
)
の
歌
(
うた
)
は
何
(
なん
)
ぢや、
205
目出度
(
めでた
)
い
時
(
とき
)
だと
思
(
おも
)
うて
辛抱
(
しんばう
)
して
居
(
を
)
れば
好
(
よ
)
い
気
(
き
)
になつて
悪口
(
わるくち
)
たらだら、
206
大抵
(
たいてい
)
の
者
(
もの
)
だつたらあの
時
(
とき
)
に
摘
(
つま
)
み
出
(
だ
)
して
仕舞
(
しま
)
ふのぢやけれど、
207
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
の
誠
(
まこと
)
の
奥
(
おく
)
を
悟
(
さと
)
つた
此
(
この
)
黒姫
(
くろひめ
)
は、
208
心
(
こころ
)
が
広
(
ひろ
)
いから
松
(
まつ
)
吹
(
ふ
)
く
風
(
かぜ
)
と
聞
(
き
)
き
流
(
なが
)
して
許
(
ゆる
)
して
居
(
ゐ
)
たのだ、
209
それに
又
(
また
)
もや
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
大将株
(
たいしやうかぶ
)
が
燕
(
つばめ
)
の
親方
(
おやかた
)
のやうに
知
(
し
)
らぬ
者
(
もの
)
の
半分
(
はんぶん
)
も
知
(
し
)
らぬ
癖
(
くせ
)
に
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだい。
210
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
に
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
大御心
(
おほみこころ
)
が
分
(
わか
)
つて
耐
(
たま
)
るものか、
211
知
(
し
)
らにや
知
(
し
)
らぬで
黙言
(
だま
)
つて
居
(
ゐ
)
なさい』
212
夏彦
(
なつひこ
)
『ハイハイ、
213
誠
(
まこと
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
がありませぬ、
214
何卒
(
どうぞ
)
今度
(
こんど
)
に
限
(
かぎ
)
り
見直
(
みなほ
)
し
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
215
黒姫
(
くろひめ
)
『
此
(
この
)
度
(
たび
)
に
限
(
かぎ
)
つて
許
(
ゆる
)
して
置
(
お
)
く、
216
此
(
この
)
後
(
ご
)
に
於
(
おい
)
て、
217
一口
(
ひとくち
)
でも
半口
(
はんくち
)
でも、
218
高山
(
たかやま
)
さまや
黒姫
(
くろひめ
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
はうものなら、
219
夫
(
それ
)
こそ
叩
(
たた
)
き
払
(
ばらひ
)
にするからさう
思
(
おも
)
ひなさい、
220
サアサア
常彦
(
つねひこ
)
、
221
菊若
(
きくわか
)
、
222
岩高
(
いはたか
)
愈
(
いよいよ
)
出陣
(
しゆつぢん
)
の
用意
(
ようい
)
だ、
223
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
はもはや
出陣
(
しゆつぢん
)
の
準備
(
じゆんび
)
が
整
(
ととの
)
うたぞへ』
224
四
(
よ
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に、
225
四人
『ハイ
確
(
たしか
)
に
承知
(
しようち
)
仕
(
つかまつ
)
りました』
226
茲
(
ここ
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
、
227
高山彦
(
たかやまひこ
)
は
一族
(
いちぞく
)
郎党
(
らうたう
)
を
集
(
あつ
)
め、
228
旗鼓
(
きこ
)
堂々
(
だうだう
)
と
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
に
向
(
むか
)
つて
進撃
(
しんげき
)
したが、
229
加米彦
(
かめひこ
)
、
230
青彦
(
あをひこ
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
脆
(
もろ
)
くも
打
(
う
)
ち
破
(
やぶ
)
られ、
231
蜘蛛
(
くも
)
の
子
(
こ
)
を
散
(
ち
)
らすが
如
(
ごと
)
く
四方
(
しはう
)
に
散乱
(
さんらん
)
したりけり。
232
ウラナイ
教
(
けう
)
の
鍵鑰
(
けんやく
)
を
握
(
にぎ
)
つて
居
(
ゐ
)
た
黒姫
(
くろひめ
)
の
部下
(
ぶか
)
四天王
(
してんわう
)
と
頼
(
たの
)
みたる
夏彦
(
なつひこ
)
、
233
岩高
(
いはたか
)
、
234
菊若
(
きくわか
)
、
235
常彦
(
つねひこ
)
の
閣僚
(
かくれう
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
結婚
(
けつこん
)
以来
(
いらい
)
上下
(
じやうげ
)
の
統一
(
とういつ
)
を
欠
(
か
)
ぎ、
236
自然
(
しぜん
)
三五教
(
あななひけう
)
に
向
(
むか
)
つて
其
(
その
)
思想
(
しさう
)
は
暗遷
(
あんせん
)
黙移
(
もくい
)
しつつありき。
237
其
(
そ
)
の
為
(
た
)
め、
238
折角
(
せつかく
)
の
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
攻撃
(
こうげき
)
も
味方
(
みかた
)
の
四天王
(
してんわう
)
より
故意
(
わざ
)
と
崩解
(
ほうかい
)
し、
239
黒姫
(
くろひめ
)
が
神力
(
しんりき
)
を
籠
(
こ
)
めたる
神算
(
しんさん
)
鬼謀
(
きぼう
)
の
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
も
殆
(
ほとん
)
ど
画餅
(
ぐわべい
)
に
帰
(
き
)
し
終
(
をは
)
りたるなりき。
240
嗚呼
(
ああ
)
人心
(
じんしん
)
を
収攪
(
しうらん
)
せむとするの
難
(
かた
)
き、
241
到底
(
たうてい
)
巧言
(
こうげん
)
令色
(
れいしよく
)
権謀
(
けんぼう
)
術数
(
じゆつすう
)
等
(
とう
)
の
虚偽
(
きよぎ
)
行動
(
かうどう
)
をもつて
左右
(
さいう
)
すべからざるを
知
(
し
)
るに
足
(
た
)
る。
242
之
(
これ
)
に
反
(
はん
)
して
三五教
(
あななひけう
)
は
一
(
ひと
)
つの
包蔵
(
はうざう
)
もなく
手段
(
しゆだん
)
もなく、
243
唯々
(
ただただ
)
至誠
(
しせい
)
至実
(
しじつ
)
をもつて
神業
(
しんげふ
)
に
奉仕
(
ほうし
)
し、
244
ミロクの
精神
(
せいしん
)
を
惟神
(
かむながら
)
的
(
てき
)
に
発揮
(
はつき
)
するのみ。
245
されば
人心
(
じんしん
)
は
期
(
き
)
せずして
三五教
(
あななひけう
)
に
集
(
あつ
)
まり、
246
日
(
ひ
)
に
夜
(
よ
)
に
其
(
その
)
数
(
かず
)
を
増加
(
ぞうか
)
し、
247
何時
(
いつ
)
とはなしに
天下
(
てんか
)
の
大勢力
(
だいせいりよく
)
となりぬ。
248
ウラナイ
教
(
けう
)
は
広
(
ひろ
)
い
大八洲
(
おほやしま
)
国
(
くに
)
に
於
(
おい
)
て
直接
(
ちよくせつ
)
に
信徒
(
しんと
)
を
集
(
あつ
)
めたるもの
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
もなく、
249
唯々
(
ただただ
)
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
したる
未熟
(
みじゆく
)
の
信者
(
しんじや
)
に
対
(
たい
)
し、
250
巧言
(
こうげん
)
令色
(
れいしよく
)
をもつて
誘引
(
いういん
)
し、
251
且
(
か
)
つ
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
の
系統
(
けいとう
)
より
出
(
い
)
でたる
高姫
(
たかひめ
)
を
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
看板
(
かんばん
)
となし
世
(
よ
)
を
欺
(
あざむ
)
くのみにして、
252
根底
(
こんてい
)
の
弱
(
よわ
)
き
事
(
こと
)
、
253
砂上
(
さじやう
)
に
建
(
た
)
てたる
楼閣
(
ろうかく
)
の
如
(
ごと
)
く、
254
其
(
その
)
剥脱
(
はくだつ
)
し
易
(
やす
)
き
事
(
こと
)
炭団
(
たどん
)
に
着
(
き
)
せたる
金箔
(
きんぱく
)
の
如
(
ごと
)
く、
255
豆腐
(
とうふ
)
の
如
(
ごと
)
く、
256
一
(
ひと
)
つの
要
(
かなめ
)
もなく
唯
(
ただ
)
弁
(
べん
)
に
任
(
まか
)
し
表面
(
へうめん
)
を
糊塗
(
こと
)
するのみ、
257
其
(
その
)
説
(
と
)
く
所
(
ところ
)
恰
(
あたか
)
も
売薬屋
(
ばいやくや
)
の
効能書
(
かうのうがき
)
の
如
(
ごと
)
く、
258
名
(
な
)
のみあつて
其
(
その
)
実
(
じつ
)
なく、
259
有名
(
いうめい
)
無実
(
むじつ
)
、
260
有害
(
いうがい
)
無益
(
むえき
)
の
贅物
(
ぜいぶつ
)
とは、
261
所謂
(
いはゆる
)
ウラナイ
教
(
けう
)
の
代名詞
(
だいめいし
)
であらうと
迄
(
まで
)
取沙汰
(
とりざた
)
されけり。
262
されど
執拗
(
しつえう
)
なる
高姫
(
たかひめ
)
、
263
黒姫
(
くろひめ
)
は
少
(
すこ
)
しも
屈
(
くつ
)
せず……
女
(
をんな
)
の
一心
(
いつしん
)
岩
(
いは
)
でも
突貫
(
つきぬ
)
く、
264
非
(
ひ
)
が
邪
(
じや
)
でも
邪
(
じや
)
が
非
(
ひ
)
でも
仮令
(
たとへ
)
太陽
(
たいやう
)
西天
(
せいてん
)
より
昇
(
のぼ
)
る
世
(
よ
)
ありとも、
265
一旦
(
いつたん
)
思
(
おも
)
ひ
詰
(
つ
)
めたる
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
の
決心
(
けつしん
)
は、
266
幾千万
(
いくせんまん
)
度
(
たび
)
生
(
うま
)
れ
代
(
かは
)
り
死代
(
しにかは
)
り
生死
(
せいし
)
往来
(
わうらい
)
の
旅
(
たび
)
を
重
(
かさ
)
ぬるとも、
267
いつかないつかな
摧
(
くぢ
)
けてならうか……との
大
(
だい
)
磐石心
(
ばんじやくしん
)
、
268
固
(
かた
)
まりきつた
女
(
をんな
)
の
片意地
(
かたいぢ
)
、
269
張合
(
はりあひ
)
もなき
次第
(
しだい
)
なり。
270
黒姫
(
くろひめ
)
は
力
(
ちから
)
と
頼
(
たの
)
む
青彦
(
あをひこ
)
の
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
せし
事
(
こと
)
を
日夜
(
にちや
)
に
惜
(
をし
)
み、
271
如何
(
いか
)
にもして
再
(
ふたた
)
びウラナイ
教
(
けう
)
の
謀主
(
ぼうしゆ
)
たらしめむと、
272
千思
(
せんし
)
万慮
(
ばんりよ
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
273
フサの
国
(
くに
)
より
高山彦
(
たかやまひこ
)
に
従
(
したが
)
ひ
来
(
きた
)
れる
虎若
(
とらわか
)
、
274
富彦
(
とみひこ
)
に
命
(
めい
)
じ、
275
青彦
(
あをひこ
)
が
日夜
(
にちや
)
に
念頭
(
ねんとう
)
を
離
(
はな
)
れざるお
節
(
せつ
)
を
説
(
と
)
きつけ、
276
お
節
(
せつ
)
より
青彦
(
あをひこ
)
が
信仰
(
しんかう
)
を
落
(
おと
)
させむものと
肝胆
(
かんたん
)
を
砕
(
くだ
)
きつつありける。
277
(
大正一一・四・二二
旧三・二六
加藤明子
録)
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