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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第17巻(辰の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 雪山幽谷
第1章 黄金の衣
第2章 魔の窟
第3章 生死不明
第4章 羽化登仙
第5章 誘惑婆
第6章 瑞の宝座
第2篇 千態万様
第7章 枯尾花
第8章 蚯蚓の囁
第9章 大逆転
第10章 四百種病
第11章 顕幽交通
第3篇 鬼ケ城山
第12章 花と花
第13章 紫姫
第14章 空谷の足音
第15章 敵味方
第16章 城攻
第17章 有終の美
霊の礎(三)
暁山雲(謡曲)
余白歌
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霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
>
第17巻(辰の巻)
> 第2篇 千態万様 > 第7章 枯尾花
<<< 瑞の宝座
(B)
(N)
蚯蚓の囁 >>>
第七章
枯尾花
(
かれをばな
)
〔六一八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻
篇:
第2篇 千態万様
よみ(新仮名遣い):
せんたいばんよう
章:
第7章 枯尾花
よみ(新仮名遣い):
かれおばな
通し章番号:
618
口述日:
1922(大正11)年04月22日(旧03月26日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年1月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
話は戻って、黒姫は高姫の肝いりで、フサの国の高山彦を婿に取る事になった。黒姫は魔窟ケ原の隠れ家で、手下に婚礼の用意をさせながら、婿が来るのを今や遅しと待っている。
高山彦一行がフサの国から天の磐船に乗って到着し、黒姫の手下の夏彦と常彦が迎えに出た。
婚礼が始まり、黒姫と高山彦を祝歌を歌いながら舞い踊った。夏彦も余興に滑稽な歌を歌って、宴は乱痴気騒ぎのうちに夜を明かした。
明けて正月二十七日、黒姫は真名井ケ原の瑞の宝座を占領しようと図り、高山彦が連れて来た軍勢を合わせて聖地に進撃した。
正月二十八日の大攻撃を開始したが、青彦、加米彦の言霊にさんざんに散らされて敗走し、魔窟ケ原に逃げ帰って次の計略に着手していた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-02-14 00:30:17
OBC :
rm1707
愛善世界社版:
95頁
八幡書店版:
第3輯 559頁
修補版:
校定版:
99頁
普及版:
42頁
初版:
ページ備考:
001
味方
(
みかた
)
の
人数
(
にんずう
)
も
大江山
(
おほえやま
)
002
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
に
穿
(
うが
)
ちたる
003
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
は
004
五十路
(
いそぢ
)
の
坂
(
さか
)
を
越
(
こ
)
え
乍
(
なが
)
ら
005
歯
(
は
)
さへ
落
(
お
)
ちたる
秋
(
あき
)
の
野
(
の
)
の
006
梢
(
こずゑ
)
淋
(
さび
)
しき
返
(
かへ
)
り
咲
(
ざ
)
き
007
此
(
この
)
世
(
よ
)
にアキの
霜
(
しも
)
の
髪
(
かみ
)
008
コテコテ
塗
(
ぬ
)
つた
黒漆
(
くろうるし
)
009
俄作
(
にはかづく
)
りの
夕鴉
(
ゆふがらす
)
010
カワイカワイと
皺枯
(
しはが
)
れた
011
声
(
こゑ
)
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げてウラナイの
012
道
(
みち
)
を
伝
(
つた
)
ふる
空元気
(
からげんき
)
013
天狗
(
てんぐ
)
の
鼻
(
はな
)
の
高山彦
(
たかやまひこ
)
を
014
三世
(
さんぜ
)
の
夫
(
つま
)
と
定
(
さだ
)
めてゆ
015
流石
(
さすが
)
女
(
をんな
)
の
恥
(
はづ
)
かしげに
016
顔
(
かほ
)
に
紅葉
(
もみぢ
)
を
散
(
ち
)
らしつつ
017
黒地
(
くろぢ
)
に
白粉
(
おしろい
)
ペツタリと
018
生地
(
きぢ
)
を
秘
(
かく
)
した
曲津面
(
まがつづら
)
019
口
(
くち
)
喧
(
やかま
)
しき
燕
(
つばくろ
)
や
020
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なにチユウチユウと
021
雀
(
すずめ
)
百
(
ひやく
)
まで
牡鳥
(
をんどり
)
を
022
忘
(
わす
)
れかねてか
婿
(
むこ
)
欲
(
ほ
)
しと
023
あこがれ
居
(
ゐ
)
たる
片相手
(
かたあひて
)
024
星
(
ほし
)
を
頂
(
いただき
)
月
(
つき
)
を
踏
(
ふ
)
み
025
日
(
ひ
)
にち
毎日
(
まいにち
)
山坂
(
やまさか
)
を
026
駆
(
か
)
け
廻
(
まは
)
りつつ
通
(
かよ
)
ひ
来
(
く
)
る
027
男
(
をとこ
)
の
数
(
かず
)
は
限
(
かぎ
)
りなく
028
蓼
(
たで
)
喰
(
く
)
ふ
虫
(
むし
)
も
好
(
す
)
き
好
(
ず
)
きと
029
酷
(
えぐ
)
い
婆
(
ばば
)
アの
皺面
(
しわづら
)
に
030
惚
(
のろ
)
けて
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
浅間
(
あさま
)
しさ
031
広
(
ひろ
)
い
様
(
やう
)
でも
狭
(
せま
)
いは
世間
(
せけん
)
032
色
(
いろ
)
は
真黒
(
まつくろ
)
黒姫
(
くろひめ
)
の
033
心
(
こころ
)
に
叶
(
かな
)
うた
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
034
タカか
鳶
(
とんび
)
か
知
(
し
)
らね
共
(
ども
)
035
烏
(
からす
)
の
婿
(
むこ
)
と
選
(
えら
)
まれて
036
怪
(
け
)
しき
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふ
大江山
(
おほえやま
)
037
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
の
穴
(
あな
)
覗
(
のぞ
)
き
038
奥
(
おく
)
へ
奥
(
おく
)
へと
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る
039
一
(
いつ
)
コク
二
(
に
)
コクと
迫
(
せま
)
り
来
(
く
)
る
040
三国一
(
さんごくいち
)
の
花婿
(
はなむこ
)
を
041
取
(
と
)
つた
祝
(
いは
)
ひの
黒姫
(
くろひめ
)
が
042
嬉
(
うれ
)
しき
便
(
たよ
)
りを
菊若
(
きくわか
)
や
043
心
(
こころ
)
頑固
(
ぐわんこ
)
な
岩高
(
いはたか
)
や
044
人
(
ひと
)
の
爺
(
おやぢ
)
を
寅若
(
とらわか
)
の
045
情
(
なさけ
)
容赦
(
ようしや
)
も
夏彦
(
なつひこ
)
や
046
富彦
(
とみひこ
)
、
常彦
(
つねひこ
)
諸共
(
もろとも
)
に
047
飲
(
の
)
めよ
騒
(
さわ
)
げの
大酒宴
(
だいしゆえん
)
048
岩屋
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
は
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
の
049
一度
(
いちど
)
に
破
(
やぶ
)
れし
如
(
ごと
)
くなり。
050
黒姫
(
くろひめ
)
は
皺苦茶
(
しわくちや
)
だらけの
垢黒
(
あかぐろ
)
い
顔
(
かほ
)
に、
051
白
(
しろ
)
い
物
(
もの
)
をコテコテに
塗
(
ぬ
)
り、
052
鉄倉
(
かなぐら
)
の
上塗
(
うはぬり
)
みた
様
(
やう
)
な、
053
真白
(
まつしろ
)
な
厚化粧
(
あつげしやう
)
、
054
白髪
(
しらが
)
は
烏
(
からす
)
の
濡羽色
(
ぬればいろ
)
に
染
(
そ
)
め、
055
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
を
散
(
ち
)
らした
派手
(
はで
)
な
襠衣
(
うちかけ
)
を
羽織
(
はお
)
り、
056
三国一
(
さんごくいち
)
の
婿
(
むこ
)
の
来
(
きた
)
るを、
057
今
(
いま
)
や
遅
(
おそ
)
しと、
058
太
(
ふと
)
い
短
(
みじか
)
い
首筋
(
くびすぢ
)
を
細長
(
ほそなが
)
く
延
(
の
)
ばして、
059
蜥蜴
(
とかげ
)
が
天井
(
てんじやう
)
を
覗
(
のぞ
)
いた
様
(
やう
)
なスタイルで、
060
入口
(
いりぐち
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
を
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
み、
061
年
(
とし
)
の
寄
(
よ
)
つた
嗄
(
しはが
)
れ
声
(
ごゑ
)
に
色
(
いろ
)
を
附
(
つ
)
け、
062
ワザと
音曲
(
おんぎよく
)
に
慣
(
な
)
れた
若
(
わか
)
い
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
し、
063
黒姫
『コレコレ
夏彦
(
なつひこ
)
、
064
常彦
(
つねひこ
)
、
065
まだお
客
(
きやく
)
さまは
見
(
み
)
えぬかな。
066
お
前
(
まへ
)
は
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だが、
067
一寸
(
ちよつと
)
そこまで
迎
(
むか
)
へに
往
(
い
)
つて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さらぬか。
068
由良
(
ゆら
)
の
湊
(
みなと
)
までは、
069
フサの
国
(
くに
)
から、
070
天
(
あま
)
の
鳥船
(
とりふね
)
に
乗
(
の
)
つてお
越
(
こ
)
しなのだから、
071
轟々
(
ぐわうぐわう
)
と
音
(
おと
)
が
聞
(
きこ
)
えたら、
072
それが
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまの
一行
(
いつかう
)
だ。
073
空
(
そら
)
に
気
(
き
)
をつけ
足許
(
あしもと
)
にも
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けて
往
(
い
)
て
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
074
夏彦
(
なつひこ
)
『ハイハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
075
遠方
(
ゑんぱう
)
の
事
(
こと
)
とは
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
076
随分
(
ずゐぶん
)
暇
(
ひま
)
の
要
(
い
)
る
事
(
こと
)
ですなア。
077
サア
常彦
(
つねひこ
)
、
078
お
迎
(
むか
)
へに
行
(
い
)
つて
来
(
こ
)
うぢやないか』
079
常彦
(
つねひこ
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
080
今日
(
けふ
)
はお
芽出度
(
めでた
)
う。
081
ソンナラ
往
(
い
)
て
来
(
き
)
ませうか』
082
黒姫
(
くろひめ
)
『
何
(
なん
)
ぢや
常彦
(
つねひこ
)
、
083
改
(
あらた
)
まつて、
084
お
芽出度
(
めでた
)
うもあつたものか。
085
あまり
年寄
(
としよ
)
りが
婿
(
むこ
)
を
貰
(
もら
)
うと
思
(
おも
)
うて
冷
(
ひや
)
やかすものぢやない。
086
サアサア トツトと
往
(
い
)
て
来
(
き
)
なさい』
087
常彦
(
つねひこ
)
『ソンナラ、
088
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つて
挨拶
(
あいさつ
)
をしたら
好
(
よ
)
いのですか。
089
今日
(
けふ
)
は
芽出
(
めで
)
たいのぢやありませぬか』
090
黒姫
(
くろひめ
)
『
芽出
(
めで
)
たいと
云
(
い
)
へば
芽出
(
めで
)
たいのぢやが、
091
ナニもう
妾
(
わし
)
は、
092
五十
(
ごじふ
)
の
坂
(
さか
)
を
越
(
こ
)
えて、
093
誰
(
たれ
)
が
好
(
この
)
みて
婿
(
むこ
)
を
貰
(
もら
)
うたりするものか。
094
これと
云
(
い
)
ふのも、
095
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
を
拡
(
ひろ
)
げる
為
(
ため
)
に、
096
此
(
この
)
黒姫
(
くろひめ
)
の
体
(
からだ
)
を
犠牲
(
ぎせい
)
にして、
097
天下
(
てんか
)
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
尽
(
つく
)
すのだよ。
098
お
芽出
(
めで
)
たうと
云
(
い
)
ふ
代
(
かは
)
りに
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
様
(
さま
)
と
言
(
い
)
ひなされ』
099
常彦
(
つねひこ
)
『これはこれは
五苦労
(
ごくらう
)
の
四苦労
(
しくらう
)
、
100
真黒
(
まつくろ
)
々助
(
くろすけ
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
101
十苦労
(
とくらう
)
さまで
御座
(
ござ
)
います』
102
黒姫
(
くろひめ
)
『エーエーお
前
(
まへ
)
は
此
(
この
)
黒姫
(
くろひめ
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするのかい。
103
十苦労
(
とくらう
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか。
104
あまりヒヨトくりなさるな』
105
常彦
(
つねひこ
)
『イエ
滅相
(
めつさう
)
な、
106
あなたも
天下
(
てんか
)
の
為
(
ため
)
に
犠牲
(
ぎせい
)
に
御
(
お
)
成
(
な
)
りなさるのは
五苦労
(
ごくらう
)
さまぢや。
107
又
(
また
)
此
(
この
)
常彦
(
つねひこ
)
が
三国一
(
さんごくいち
)
の
婿
(
むこ
)
さまを、
108
斯
(
か
)
う
日
(
ひ
)
の
暮
(
くれ
)
になつてから、
109
細
(
ほそ
)
い
山路
(
やまぢ
)
を
迎
(
むか
)
ひに
行
(
ゆ
)
くのも、
110
ヤツパリ
五苦労
(
ごくらう
)
さまぢや。
111
お
前
(
まへ
)
さまの
五苦労
(
ごくらう
)
と
私
(
わたくし
)
の
五苦労
(
ごくらう
)
と、
112
日韓
(
にちかん
)
併合
(
へいがふ
)
して
十苦労
(
とくらう
)
様
(
さま
)
と
云
(
い
)
うたのですよ。
113
アハヽヽヽ』
114
夏彦
(
なつひこ
)
『
常彦
(
つねひこ
)
、
115
行
(
い
)
かうかい』
116
と、
117
岩穴
(
いはあな
)
をニユツと
覗
(
のぞ
)
き、
118
夏彦
『ヤア
占
(
しめ
)
た
占
(
しめ
)
た、
119
モウ
行
(
い
)
かいでも
可
(
よ
)
い』
120
常彦
(
つねひこ
)
『
行
(
い
)
かでも
良
(
よ
)
いとは、
121
ソラ
何
(
なん
)
だい、
122
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまが
見
(
み
)
えたのかい』
123
夏彦
(
なつひこ
)
『きまつた
事
(
こと
)
だ。
124
モシモシ
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
125
お
喜
(
よろこ
)
びなさいませ。
126
偉
(
えら
)
い
勢
(
いきほひ
)
で
沢山
(
たくさん
)
な
家来
(
けらい
)
を
伴
(
つ
)
れて
見
(
み
)
えましたよ』
127
黒姫
(
くろひめ
)
『それはそれは
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
な
事
(
こと
)
ぢや。
128
どうぞ
穴
(
あな
)
の
口
(
くち
)
まで
迎
(
むか
)
ひに
行
(
い
)
て
下
(
くだ
)
され。
129
あまり
這入
(
はい
)
り
口
(
ぐち
)
が
小
(
ちひ
)
さいので、
130
行過
(
ゆきすご
)
されてはお
困
(
こま
)
りだからなア』
131
夏彦
(
なつひこ
)
は
肩
(
かた
)
から
上
(
うへ
)
をニユツと
出
(
だ
)
し、
132
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
一行
(
いつかう
)
の
近付
(
ちかづ
)
き
来
(
きた
)
るを
待
(
ま
)
ち
居
(
ゐ
)
たる。
133
高山彦
(
たかやまひこ
)
『
此処
(
ここ
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
の
住家
(
すみか
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
ぢやないか。
134
モウ
誰
(
たれ
)
か
迎
(
むか
)
ひに
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
さうなものだに、
135
何
(
なに
)
をして
居
(
ゐ
)
るのだらうな』
136
虎若
(
とらわか
)
『ヤア
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
様
(
さま
)
、
137
此
(
この
)
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
広
(
ひろ
)
い
所
(
ところ
)
と
聞
(
き
)
きました。
138
何
(
いづ
)
れ
先方
(
むかう
)
から
遣
(
や
)
つて
来
(
こ
)
られませうが、
139
何分
(
なにぶん
)
予定
(
よてい
)
とは
早
(
はや
)
く
着
(
つ
)
いたものですから、
140
先方
(
むかう
)
も
如才
(
じよさい
)
なく
準備
(
じゆんび
)
はやつて
居
(
を
)
られませうが、
141
つい
遅
(
おそ
)
くなつたのでせう。
142
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
一
(
ひと
)
つ
拵
(
こしら
)
へるにも
斯
(
こ
)
う
云
(
い
)
ふ
不便
(
ふべん
)
な
土地
(
とち
)
、
143
何事
(
なにごと
)
も
三五教
(
あななひけう
)
ぢやないが、
144
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
145
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
直
(
なほ
)
してモウ
一息
(
ひといき
)
お
進
(
すす
)
み
下
(
くだ
)
さいませ』
146
高山彦
(
たかやまひこ
)
『それはさうだが、
147
如何
(
いか
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
、
148
部下
(
ぶか
)
が
無
(
な
)
いと
云
(
い
)
つても、
149
二十
(
にじふ
)
人
(
にん
)
や
三十
(
さんじふ
)
人
(
にん
)
は
有
(
あ
)
りさうなものだ。
150
三
(
さん
)
人
(
にん
)
や
五
(
ご
)
人
(
にん
)
迎
(
むか
)
ひに
来
(
よこ
)
したつて
良
(
い
)
いぢやないか。
151
縁談
(
えんだん
)
は
飯
(
めし
)
炊
(
た
)
く
間
(
ま
)
にも
冷
(
ひえ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
有
(
あ
)
る。
152
あまり
寒
(
さむ
)
いので、
153
冷
(
ひえ
)
たのぢやあるまいか、
154
ナア
虎若
(
とらわか
)
』
155
虎若
(
とらわか
)
『トラ、
156
ワカりませぬ。
157
何分
(
なにぶん
)
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
158
あちらにも
此方
(
こちら
)
にも
雪
(
ゆき
)
が
溜
(
たま
)
つて
居
(
を
)
りますから
随分
(
ずゐぶん
)
冷
(
ひえ
)
る
事
(
こと
)
でせう。
159
私
(
わたくし
)
も
何
(
なん
)
だか
体
(
からだ
)
が
寒
(
さむ
)
くなつて
来
(
き
)
た。
160
フサの
国
(
くに
)
を
出
(
で
)
た
時
(
とき
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
暖
(
あたた
)
かであつたが、
161
空中
(
くうちう
)
を
航行
(
かうかう
)
した
時
(
とき
)
の
寒
(
さむ
)
さ、
162
それに
又
(
また
)
此
(
この
)
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
へ
着
(
つ
)
いてからの
寒
(
さむ
)
さと
云
(
い
)
つたら、
163
骨身
(
ほねみ
)
に
徹
(
こた
)
えますワ』
164
高山彦
(
たかやまひこ
)
は
苦虫
(
にがむし
)
を
喰
(
く
)
つた
様
(
やう
)
な
不機嫌
(
ふきげん
)
な
顔
(
かほ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
165
爪先
(
つまさき
)
上
(
あが
)
りの
雪路
(
ゆきみち
)
を
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る。
166
雪
(
ゆき
)
の
一面
(
いちめん
)
に
積
(
つも
)
つた
地
(
ち
)
の
中
(
なか
)
から、
167
夏彦
(
なつひこ
)
は
首
(
くび
)
丈
(
だけ
)
を
出
(
だ
)
して、
168
夏彦
『コレハコレハ
高山彦
(
たかやまひこ
)
のお
出
(
い
)
で、
169
サアサアお
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
170
黒姫
(
くろひめ
)
さまが
大変
(
たいへん
)
にお
待兼
(
まちかね
)
で
御座
(
ござ
)
います。
171
あなたも
遥々
(
はるばる
)
と
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
犠牲
(
ぎせい
)
になつて
下
(
くだ
)
さいまして
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います』
172
虎若
(
とらわか
)
『ヤア
何
(
なん
)
だ、
173
コンナ
所
(
ところ
)
に
首
(
くび
)
が
一
(
ひと
)
つ
落
(
お
)
ちて、
174
物
(
もの
)
言
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
やがる。
175
……ハヽア
此奴
(
こいつ
)
ア、
176
大江山
(
おほえやま
)
の
化州
(
ばけしう
)
だな……オイ
化州
(
ばけしう
)
、
177
這入
(
はい
)
れと
言
(
い
)
つても、
178
蚯蚓
(
みみづ
)
ぢやあるまいし、
179
何処
(
どこ
)
から
這入
(
はい
)
るのぢやい。
180
入口
(
いりぐち
)
が
無
(
な
)
いぢやないか。
181
貴様
(
きさま
)
の
体
(
からだ
)
は
如何
(
どう
)
したのぢや。
182
松露
(
しようろ
)
か
何
(
なん
)
ぞの
様
(
やう
)
に
頭
(
あたま
)
ばつかりで
活
(
いき
)
てる
筈
(
はず
)
もあるまいし、
183
怪体
(
けつたい
)
な
代物
(
しろもの
)
ぢやなア』
184
夏彦
(
なつひこ
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
さまは
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまに、
185
お
惚
(
のろ
)
け
遊
(
あそ
)
ばして
首
(
くび
)
つ
丈
(
たけ
)
陥
(
はま
)
つて
御座
(
ござ
)
るが、
186
此
(
この
)
夏彦
(
なつひこ
)
は
首
(
くび
)
は
外
(
そと
)
へ
出
(
だ
)
して、
187
体
(
からだ
)
丈
(
だけ
)
はまつて
御座
(
ござ
)
るのだ。
188
サアサア
不都合
(
ふつがふ
)
な
這入口
(
はいりぐち
)
の
様
(
やう
)
だが、
189
中
(
なか
)
は
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
お
)
座敷
(
ざしき
)
、
190
用心
(
ようじん
)
の
為
(
ため
)
にワザと
入口
(
いりぐち
)
が
細
(
ほそ
)
うしてある。
191
高山彦
(
たかやまひこ
)
さま、
192
どうぞお
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
193
一人
(
ひとり
)
づつ
這入
(
はい
)
つて
貰
(
もら
)
へば、
194
何程
(
なにほど
)
大
(
おほ
)
きな
男
(
をとこ
)
でも
引
(
ひ
)
つ
掛
(
かか
)
らずに
這入
(
はい
)
れます』
195
と
言
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
夏彦
(
なつひこ
)
は
窟内
(
くつない
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しける。
196
虎若
(
とらわか
)
『ヤア
妙
(
めう
)
だ。
197
見
(
み
)
た
割
(
わり
)
とは
大
(
おほ
)
きな
洞
(
ほら
)
が
開
(
あ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
198
ヤア
階段
(
きざはし
)
もついて
居
(
ゐ
)
る。
199
サア
高山彦
(
たかやまひこ
)
さま、
200
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
致
(
いた
)
しませう』
201
虎若
(
とらわか
)
を
先頭
(
せんとう
)
に、
202
高山彦
(
たかやまひこ
)
は
数多
(
あまた
)
の
従者
(
じゆうしや
)
と
共
(
とも
)
に、
203
ゾロゾロと
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
に
潜
(
くぐ
)
り
入
(
い
)
る。
204
黒姫
(
くろひめ
)
は
此
(
この
)
時
(
とき
)
既
(
すで
)
に
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
み、
205
鏡
(
かがみ
)
の
前
(
まへ
)
で
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
けたり、
206
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いたり、
207
鼻
(
はな
)
を
摘
(
つま
)
ンで
見
(
み
)
たり、
208
顔
(
かほ
)
の
整理
(
せいり
)
に
余念
(
よねん
)
なかりける。
209
夏彦
(
なつひこ
)
は
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
210
夏彦
『モシモシ、
211
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
が
見
(
み
)
えました。
212
どうぞ
早
(
はや
)
く
此方
(
こちら
)
へお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
213
黒姫
(
くろひめ
)
『エー
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
事
(
こと
)
ぢやなア。
214
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
つて、
215
お
茶
(
ちや
)
でも
出
(
だ
)
して、
216
口
(
くち
)
の
間
(
ま
)
で
休
(
やす
)
まして
置
(
お
)
くのだよ。
217
それまでに
化粧
(
けしやう
)
をチヤンと
整
(
ととの
)
へて、
218
型
(
かた
)
ばかりの
祝言
(
しうげん
)
をせなくてはならぬ。
219
菊若
(
きくわか
)
、
220
岩高
(
いはたか
)
は
何
(
なに
)
をして
居
(
を
)
るのだ。
221
料理
(
れうり
)
の
用意
(
ようい
)
は
出来
(
でき
)
たか。
222
お
茶
(
ちや
)
でも
献
(
あ
)
げて
世間話
(
せけんばなし
)
でもして
待
(
ま
)
つて
貰
(
もら
)
ふのだよ』
223
夏彦
(
なつひこ
)
『
今日
(
けふ
)
は
芽出度
(
めでた
)
い
婚礼
(
こんれい
)
、
224
それにお
茶
(
ちや
)
をあげては、
225
茶々
(
ちやちや
)
無茶苦
(
むちやく
)
になりやしませぬか。
226
今日
(
けふ
)
はお
水
(
みづ
)
を
進
(
あ
)
げたらどうでせう』
227
黒姫
(
くろひめ
)
『エー
茶
(
ちや
)
ア
茶
(
ちや
)
ア
言
(
い
)
ひなさるな。
228
茶
(
ちや
)
が
良
(
い
)
いのだ。
229
水
(
みづ
)
をあげると
水臭
(
みづくさ
)
くなると
可
(
い
)
かぬから……』
230
夏彦
(
なつひこ
)
『ハヽア、
231
茶
(
ちや
)
ア
茶
(
ちや
)
アと
茶
(
ちや
)
ツつく
積
(
つも
)
りで、
232
茶
(
ちや
)
を
呑
(
の
)
ませと
仰有
(
おつしや
)
るのかなア……
茶
(
ちや
)
、
233
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
234
黒姫
(
くろひめ
)
『エーグヅグヅ
言
(
い
)
はずに、
235
あちらへ
行
(
い
)
つて、
236
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
のお
相手
(
あひて
)
になるのだよ。
237
こつちの
準備
(
じゆんび
)
が
出来
(
でき
)
たら、
238
祝言
(
しうげん
)
の
盃
(
さかづき
)
にかかる
様
(
やう
)
にして
置
(
お
)
きなさい。
239
……アーア
人
(
ひと
)
を
使
(
つか
)
へば
苦
(
く
)
を
使
(
つか
)
ふとは、
240
能
(
よ
)
う
言
(
い
)
つたものだ。
241
男
(
をとこ
)
ばつかりで、
242
女手
(
をんなで
)
の
無
(
な
)
いのも……ア
困
(
こま
)
つたものだ。
243
清
(
きよ
)
サン、
244
照
(
てる
)
サンと
云
(
い
)
ふ
二人
(
ふたり
)
の
若
(
わか
)
い
女
(
をんな
)
は
有
(
あ
)
つたけれども、
245
これは
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
隠
(
かく
)
れ
家
(
が
)
に
置
(
お
)
いてあるなり、
246
斯
(
こ
)
う
云
(
い
)
ふ
時
(
とき
)
に
女
(
をんな
)
が
居
(
を
)
らぬと
便利
(
べんり
)
が
悪
(
わる
)
い。
247
お
酒
(
さけ
)
の
酌
(
しやく
)
一
(
ひと
)
つするにも、
248
男
(
をとこ
)
ばつかりでは
角
(
かど
)
ばつて
面白
(
おもしろ
)
くない。
249
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
清
(
きよ
)
サン、
250
照
(
てる
)
サンは
十
(
じふ
)
人
(
にん
)
並
(
なみ
)
優
(
すぐ
)
れた
美
(
うつく
)
しい
女
(
をんな
)
、
251
折角
(
せつかく
)
貰
(
もら
)
うた
婿
(
むこ
)
どのを
横取
(
よこどり
)
しられちや
大変
(
たいへん
)
だと
思
(
おも
)
つて、
252
伴
(
つ
)
れて
来
(
こ
)
なかつたが、
253
安心
(
あんしん
)
な
代
(
かは
)
りには
便利
(
べんり
)
が
悪
(
わる
)
いワイ。
254
サアサアこれで
若
(
わか
)
うなつて
来
(
き
)
た。
255
化粧
(
けしやう
)
と
云
(
い
)
ふものは
偉
(
えら
)
いものだナア。
256
昔
(
むかし
)
から
女
(
をんな
)
は
化物
(
ばけもの
)
だと
云
(
い
)
ふが……われと
吾
(
わが
)
手
(
て
)
に
見惚
(
みと
)
れる
様
(
やう
)
になつた。
257
如何
(
いか
)
に
色男
(
いろをとこ
)
の
高山彦
(
たかやまひこ
)
でも、
258
此
(
この
)
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
たら
飛
(
と
)
び
付
(
つ
)
くであらう。
259
現在
(
げんざい
)
女
(
をんな
)
の
自分
(
じぶん
)
でさへも、
260
自分
(
じぶん
)
の
姿
(
すがた
)
に
見惚
(
みと
)
れるのだもの……ヤツパリ
霊魂
(
みたま
)
が
良
(
よ
)
いと
見
(
み
)
える。
261
アーア
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
、
262
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
263
………コレコレ
常彦
(
つねひこ
)
……オツトドツコイ、
264
コンナ
年
(
とし
)
の
寄
(
よ
)
つた
婆声
(
ばばごゑ
)
を
出
(
だ
)
しては
愛想
(
あいさう
)
を
尽
(
つ
)
かされてはならぬ。
265
端唄
(
はうた
)
や
浄瑠璃
(
じやうるり
)
で
鍛
(
きた
)
へて
置
(
お
)
いた
十七八
(
じふしちはち
)
の
娘
(
むすめ
)
の
声
(
こゑ
)
を
使
(
つか
)
はねばなるまい、
266
……コレコレ
夏彦
(
なつひこ
)
、
267
用意
(
ようい
)
が
出来
(
でき
)
たよ。
268
これ
夏彦
(
なつひこ
)
、
269
一寸
(
ちよつと
)
此方
(
こちら
)
へお
越
(
こ
)
し』
270
夏彦
(
なつひこ
)
『エツ、
271
何
(
なん
)
だ、
272
妙
(
めう
)
な
声
(
こゑ
)
がするぞ。
273
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
274
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
若
(
わか
)
い
照
(
てる
)
サン、
275
清
(
きよ
)
サンを
引
(
ひつ
)
ぱつて
来
(
き
)
たと
見
(
み
)
える。
276
アンナ
別嬪
(
べつぴん
)
を
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
たら、
277
婿
(
むこ
)
を
横取
(
よこど
)
りに
仕
(
し
)
られて
了
(
しま
)
うがな……』
278
黒姫
(
くろひめ
)
『コレコレ
夏彦
(
なつひこ
)
サン、
279
早
(
はや
)
う
来
(
き
)
なさらぬかいな』
280
夏彦
(
なつひこ
)
『
婆
(
ばば
)
アと
違
(
ちが
)
うて、
281
娘
(
むすめ
)
の
声
(
こゑ
)
は
何処
(
どこ
)
ともなしに
気分
(
きぶん
)
が
好
(
よ
)
いワイ。
282
今晩
(
こんばん
)
黒姫
(
くろひめ
)
と
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
婆組
(
ばばぐみ
)
が
婚礼
(
こんれい
)
をする。
283
後
(
あと
)
は
照
(
てる
)
サンと
夏彦
(
なつひこ
)
サンの
婚礼
(
こんれい
)
だ。
284
これ
丈
(
だけ
)
沢山
(
たくさん
)
に
男
(
をとこ
)
も
居
(
を
)
るのに、
285
あの
優
(
やさ
)
しい
声
(
こゑ
)
で
夏彦
(
なつひこ
)
サンと
言
(
い
)
ひやがるのは、
286
余
(
よ
)
つ
程
(
ぽど
)
思召
(
おぼしめし
)
が
有
(
あ
)
ると
見
(
み
)
えるワイ。
287
どうれ、
288
一
(
ひと
)
つ、
289
襟
(
えり
)
でも
直
(
なほ
)
して、
290
お
目
(
め
)
に
掛
(
かか
)
らうかい』
291
目
(
め
)
を
擦
(
こす
)
り、
292
鼻
(
はな
)
をほぜくり、
293
唇
(
くちびる
)
を
舐
(
な
)
め、
294
襟
(
えり
)
の
合
(
あは
)
せ
目
(
め
)
をキチンとし、
295
帯
(
おび
)
から
袴
(
はかま
)
まで
検
(
あらた
)
め、
296
夏彦
『ヤアこれで
天晴
(
あつぱ
)
れ
色男
(
いろをとこ
)
だ……エツヘン』
297
足音
(
あしおと
)
を
変
(
か
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
298
稍
(
やや
)
反
(
そ
)
り
返
(
かへ
)
りて、
299
色男然
(
いろをとこぜん
)
と
澄
(
す
)
まし
顔
(
がほ
)
、
300
一間
(
ひとま
)
の
障子
(
しやうじ
)
をガラリと
開
(
あ
)
け、
301
夏彦
『
今
(
いま
)
お
呼
(
よ
)
びとめになつたのは、
302
照
(
てる
)
サンで
御座
(
ござ
)
いますか、
303
何用
(
なによう
)
で
御座
(
ござ
)
います……』
304
黒姫
(
くろひめ
)
『お
前
(
まへ
)
は
夏彦
(
なつひこ
)
ぢやないか。
305
何
(
なん
)
ぢや
其
(
その
)
済
(
す
)
ました
顔
(
かほ
)
は……
照
(
てる
)
サンぢやないかテ…
夜
(
よ
)
も
昼
(
ひる
)
も
照
(
てる
)
サンに……
照
(
てる
)
の
女
(
あま
)
に
現
(
うつつ
)
を
抜
(
ぬ
)
かしよつて、
306
わしの
云
(
い
)
うた
事
(
こと
)
が
耳
(
みみ
)
へ
這入
(
はい
)
らぬのか』
307
夏彦
(
なつひこ
)
『それでも
若
(
わか
)
い
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
がしましたもの、
308
若
(
わか
)
い
女
(
をんな
)
と
言
(
い
)
へば、
309
今
(
いま
)
の
所
(
ところ
)
では
照
(
てる
)
サン、
310
清
(
きよ
)
サンより
無
(
な
)
いぢやありませぬか』
311
黒姫
(
くろひめ
)
『
照
(
てる
)
や
清
(
きよ
)
は
真名井
(
まなゐ
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
隠
(
かく
)
れ
家
(
が
)
に
置
(
お
)
いてあるぢやないか。
312
何
(
なに
)
をとぼけて
居
(
ゐ
)
るのぢや。
313
黒姫
(
くろひめ
)
が
呼
(
よ
)
びたのですよ』
314
夏彦
(
なつひこ
)
『ヘエー、
315
何
(
なん
)
と
若
(
わか
)
い
声
(
こゑ
)
が
出
(
で
)
るものですな』
316
黒姫
(
くろひめ
)
『きまつた
事
(
こと
)
ぢや。
317
言霊
(
ことたま
)
の
練習
(
れんしふ
)
がしてあるから、
318
老爺
(
ぢい
)
の
声
(
こゑ
)
でも、
319
婆
(
ばば
)
の
声
(
こゑ
)
でも、
320
十七八
(
じふしちはち
)
の
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
でも、
321
赤児
(
あかご
)
の
声
(
こゑ
)
でも、
322
鳶
(
とび
)
でも、
323
烏
(
からす
)
でも、
324
猫
(
ねこ
)
でも、
325
鼠
(
ねずみ
)
でも、
326
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
の
言霊
(
ことたま
)
が
使
(
つか
)
へるのですよ』
327
夏彦
(
なつひこ
)
『ア、
328
ハハー、
329
さうですか、
330
さうすると
今晩
(
こんばん
)
は、
331
鼠
(
ねずみ
)
の
鳴声
(
なきごゑ
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はうと
儘
(
まま
)
ですな、
332
アハヽヽヽ』
333
黒姫
(
くろひめ
)
『エーエー
喧
(
やかま
)
しいワイ。
334
早
(
はや
)
うお
客
(
きやく
)
さまのお
相手
(
あひて
)
をして、
335
それからソレ……レイの
用意
(
ようい
)
をするのよ』
336
夏彦
(
なつひこ
)
『レイの
用意
(
ようい
)
だつて……
何
(
ど
)
の
事
(
こと
)
だか
分
(
わか
)
りませぬがなア』
337
黒姫
(
くろひめ
)
『レイの
上
(
うへ
)
にコンが
付
(
つ
)
くのぢや。
338
アタ
恥
(
はづか
)
しい。
339
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かしたらどうぢや』
340
夏彦
(
なつひこ
)
『
霜
(
しも
)
降
(
ふ
)
り
頭
(
あたま
)
に
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
を
着
(
つ
)
けて、
341
鍋墨
(
なべずみ
)
の
様
(
やう
)
な
顔
(
かほ
)
に
白粉
(
おしろい
)
を
附
(
つ
)
けて、
342
華美
(
はで
)
な
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
ると、
343
ヤツパリ
浦若
(
うらわか
)
い
娘
(
むすめ
)
の
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
になつて、
344
恥
(
はづ
)
かしうなるものかいなア。
345
恥
(
はづ
)
かしい
事
(
こと
)
と
言
(
い
)
つたら
知
(
し
)
らぬ
黒姫
(
くろひめ
)
ぢやと
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
つたのに、
346
流石
(
さすが
)
は
女
(
をんな
)
だ。
347
恥
(
はづ
)
かしいと
仰有
(
おつしや
)
る、
348
アツハヽヽヽ』
349
其処
(
そこ
)
へ
常彦
(
つねひこ
)
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
350
常彦
『
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
351
万事
(
ばんじ
)
万端
(
ばんたん
)
用意
(
ようい
)
が
整
(
ととの
)
ひました。
352
サアどうぞお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
353
黒姫
(
くろひめ
)
はつと
立
(
た
)
ちあがり、
354
姿見鏡
(
すがたみ
)
の
前
(
まへ
)
に、
355
腰
(
こし
)
を
揺
(
ゆす
)
り、
356
尻
(
しり
)
を
叩
(
たた
)
き、
357
羽
(
は
)
ばたきし
乍
(
なが
)
ら、
358
稍
(
やや
)
空向
(
そらむき
)
気味
(
ぎみ
)
になり、
359
すまし
込
(
こ
)
み、
360
仕舞
(
しまひ
)
でも
舞
(
ま
)
う
様
(
やう
)
な
足附
(
あしつき
)
で、
361
ソロリソロリと
婚礼
(
こんれい
)
の
間
(
ま
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
362
黒姫
(
くろひめ
)
、
363
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
結婚式
(
けつこんしき
)
は
無事
(
ぶじ
)
に
終結
(
しうけつ
)
した。
364
三々
(
さんさん
)
九度
(
くど
)
の
盃
(
さかづき
)
、
365
神前
(
しんぜん
)
結婚
(
けつこん
)
の
模様
(
もやう
)
等
(
とう
)
は
略
(
りやく
)
しておきます。
366
黒姫
(
くろひめ
)
は
結婚
(
けつこん
)
を
祝
(
しゆく
)
する
為
(
ため
)
、
367
長袖
(
ちやうしう
)
淑
(
しと
)
やかに、
368
自
(
みづか
)
ら
歌
(
うた
)
ひ
自
(
みづか
)
ら
舞
(
ま
)
ふ。
369
日頃
(
ひごろ
)
鍛
(
きた
)
へし
腕前
(
うでまへ
)
、
370
声調
(
せいてう
)
と
云
(
い
)
ひ、
371
身振
(
みぶ
)
りと
云
(
い
)
ひ、
372
足
(
あし
)
の
辷
(
すべ
)
り
方
(
かた
)
、
373
手
(
て
)
の
操
(
あやつ
)
り
方
(
かた
)
、
374
実
(
じつ
)
に
巧妙
(
かうめう
)
を
極
(
きは
)
め、
375
出色
(
しゆつしよく
)
のものなりける。
376
黒姫
(
くろひめ
)
『
色
(
いろ
)
は
匂
(
にほ
)
へど
散
(
ち
)
りぬるを
377
吾
(
わ
)
が
世
(
よ
)
誰
(
たれ
)
ぞ
常
(
つね
)
ならむ
378
有為
(
うゐ
)
の
奥山
(
おくやま
)
今日
(
けふ
)
越
(
こ
)
えて
379
浅
(
あさ
)
き
夢見
(
ゆめみ
)
しゑひもせず
380
昨日
(
きのふ
)
や
きやう
(
京
(
きやう
)
)の
飛鳥川
(
あすかがは
)
381
清
(
きよ
)
く
流
(
なが
)
れて
行末
(
ゆくすゑ
)
は
382
善
(
よし
)
も
悪
(
あし
)
きも
浪速江
(
なにはえ
)
の
383
綿帽子
(
わたばうし
)
隠
(
かく
)
したツノ
国
(
くに
)
の
384
春
(
はる
)
の
景色
(
けしき
)
に
紛
(
まが
)
ふなる
385
花
(
はな
)
の
容顔
(
かんばせ
)
月
(
つき
)
の
眉
(
まゆ
)
386
年
(
とし
)
は
幾
(
いく
)
つか
白雲
(
しらくも
)
の
387
二八
(
にはち
)
の
春
(
はる
)
の
優姿
(
やさすがた
)
388
皺
(
しわ
)
は
寄
(
よ
)
つても
村肝
(
むらきも
)
の
389
心
(
こころ
)
の
色
(
いろ
)
は
稚桜姫
(
わかざくらひめ
)
390
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
391
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
畏
(
かしこ
)
みて
392
仕
(
つか
)
へ
奉
(
まつ
)
りし
甲斐
(
かひ
)
ありて
393
色香
(
いろか
)
つつしむ
一昔
(
ひとむかし
)
394
花
(
はな
)
は
紅
(
くれなゐ
)
、
葉
(
は
)
は
緑
(
みどり
)
395
手折
(
たを
)
り
難
(
がた
)
きは
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
396
空
(
そら
)
に
咲
(
さ
)
きたる
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
397
時節
(
じせつ
)
は
待
(
ま
)
たにやならぬもの
398
天
(
てん
)
は
変
(
かは
)
りて
地
(
つち
)
となり
399
地
(
つち
)
は
上
(
のぼ
)
りて
天
(
てん
)
となる
400
さしもに
高
(
たか
)
き
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
401
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
命
(
みこと
)
の
遅
(
おそ
)
ざくら
402
手折
(
たを
)
る
今日
(
けふ
)
こそ
芽出度
(
めでた
)
けれ
403
疳声
(
かんごゑ
)
高
(
たか
)
き
高姫
(
たかひめ
)
の
404
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
口角
(
こうかく
)
を
405
磨
(
みが
)
きすまして
泡
(
あわ
)
飛
(
と
)
ばし
406
宣
(
の
)
る
言霊
(
ことたま
)
も
水
(
みづ
)
の
泡
(
あわ
)
407
アワぬ
昔
(
むかし
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
408
会
(
あ
)
うた
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
嬉
(
うれ
)
しさは
409
仮令
(
たとへ
)
天地
(
てんち
)
が
変
(
かは
)
るとも
410
替
(
か
)
へてはならぬ
妹
(
いも
)
と
背
(
せ
)
の
411
嬉
(
うれ
)
しき
道
(
みち
)
の
此
(
この
)
旅出
(
たびで
)
412
旅
(
たび
)
は
憂
(
う
)
いもの
辛
(
つら
)
いもの
413
辛
(
つら
)
いと
言
(
い
)
つても
夫婦
(
ふうふ
)
連
(
づれ
)
414
凩
(
こがらし
)
荒
(
すさ
)
ぶ
山路
(
やまみち
)
も
415
霜
(
しも
)
の
剣
(
つるぎ
)
を
抜
(
ぬ
)
きかざす
416
浅茅
(
あさぢ
)
ケ
原
(
はら
)
も
何
(
なん
)
のその
417
夫婦
(
ふうふ
)
手
(
て
)
に
手
(
て
)
を
取
(
と
)
りかわし
418
互
(
たがひ
)
に
睦
(
むつ
)
ぶ
二人仲
(
ふたりなか
)
419
二世
(
にせ
)
の
夫
(
つま
)
とは
誰
(
た
)
が
言
(
い
)
うた
420
五百世
(
いほせ
)
までも
夫婦
(
ふうふ
)
ぞと
421
世
(
よ
)
の
諺
(
ことわざ
)
に
言
(
い
)
ふものを
422
坊
(
ぼ
)
ツチヤン
育
(
そだ
)
ちの
緯役
(
よこやく
)
が
423
世間
(
せけん
)
をミヅの
御霊
(
みたま
)
とて
424
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふ
425
表
(
おもて
)
は
表
(
おもて
)
、
裏
(
うら
)
は
裏
(
うら
)
426
仮令
(
たとへ
)
雪隠
(
せんち
)
の
水
(
みづ
)
つきと
427
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
が
吐
(
ほざ
)
くとも
428
斯
(
こ
)
うなる
上
(
うへ
)
は
是非
(
ぜひ
)
もない
429
雪隠
(
せんち
)
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
も
430
浮世
(
うきよ
)
に
浮
(
う
)
いて
瓢箪
(
へうたん
)
の
431
胸
(
むね
)
の
辺
(
あた
)
りに
締
(
し
)
めくくり
432
縁
(
えにし
)
の
糸
(
いと
)
をしつかりと
433
呼吸
(
いき
)
を
合
(
あは
)
して
結
(
むす
)
び
昆布
(
こぶ
)
434
骨
(
ほね
)
も
砕
(
くだ
)
けし
蛸入道
(
たこにふだう
)
435
烏賊
(
いか
)
に
世人
(
よびと
)
は
騒
(
さわ
)
ぐとも
436
登
(
のぼ
)
り
詰
(
つ
)
めたは
吾
(
わが
)
恋路
(
こひぢ
)
437
成就
(
じやうじゆ
)
鯣
(
するめ
)
の
今日
(
けふ
)
の
宵
(
よひ
)
438
善
(
よ
)
いも
悪
(
わる
)
いも
門外漢
(
もんぐわいかん
)
の
439
容喙
(
ようかい
)
すべき
事
(
こと
)
でない
440
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
吾
(
わが
)
夫
(
つま
)
よ
441
千軍
(
せんぐん
)
万馬
(
ばんば
)
の
功
(
こう
)
を
経
(
へ
)
し
442
苦労
(
くらう
)
に
苦労
(
くらう
)
を
重
(
かさ
)
ねたる
443
すべての
道
(
みち
)
にクロトなる
444
此
(
この
)
黒姫
(
くろひめ
)
と
末永
(
すえなが
)
く
445
世帯
(
しよたい
)
駿河
(
するが
)
の
富士
(
ふじ
)
の
山
(
やま
)
446
解
(
と
)
けて
嬉
(
うれ
)
しき
夏
(
なつ
)
の
雪
(
ゆき
)
447
白
(
しろ
)
き
肌
(
はだへ
)
を
露
(
あら
)
はして
448
薫
(
かほ
)
り
初
(
そ
)
めたる
兄
(
こ
)
の
花
(
はな
)
の
449
一度
(
いちど
)
に
開
(
ひら
)
く
楽
(
たの
)
しみは
450
神
(
かむ
)
伊弉諾
(
いざなぎ
)
の
大神
(
おほかみ
)
が
451
妹
(
いも
)
の
命
(
みこと
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
452
天
(
あま
)
の
瓊矛
(
ぬぼこ
)
をかき
下
(
おろ
)
し
453
コヲロコヲロに
掻
(
か
)
き
鳴
(
な
)
して
454
山河
(
やまかは
)
草木
(
くさき
)
百
(
もも
)
の
神
(
かみ
)
455
生
(
う
)
み
出
(
い
)
でませし
其
(
その
)
如
(
ごと
)
く
456
汝
(
なれ
)
は
左
(
ひだり
)
へ
妾
(
わし
)
は
右
(
みぎ
)
457
右
(
みぎ
)
と
左
(
ひだり
)
の
呼吸
(
いき
)
合
(
あは
)
せ
458
明
(
あ
)
かす
誠
(
まこと
)
に
裏
(
うら
)
は
無
(
な
)
い
459
ウラナイ
教
(
けう
)
の
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
460
国治立
(
くにはるたち
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
461
開
(
ひら
)
き
給
(
たま
)
ひし
三五
(
あななひ
)
の
462
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
も
今
(
いま
)
は
早
(
はや
)
463
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
混
(
ま
)
ぜ
返
(
かへ
)
し
464
穴有
(
あなあ
)
り
教
(
けう
)
となりにける
465
愈
(
いよいよ
)
是
(
こ
)
れから
比治山
(
ひぢやま
)
の
466
峰
(
みね
)
の
続
(
つづ
)
きの
比沼
(
ひぬ
)
真名井
(
まなゐ
)
467
豊国姫
(
とよくにひめ
)
の
現
(
あら
)
はれし
468
珍
(
うづ
)
の
宝座
(
はうざ
)
を
蹂躙
(
じうりん
)
し
469
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つのウラナイの
470
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
永久
(
とことは
)
に
471
夫婦
(
ふうふ
)
の
呼吸
(
いき
)
を
合
(
あは
)
せつつ
472
立
(
た
)
てねば
置
(
お
)
かぬ
経
(
たて
)
の
教
(
のり
)
473
稚桜姫
(
わかざくらひめ
)
の
神
(
かみ
)
さへも
474
花
(
はな
)
の
色香
(
いろか
)
に
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ひ
475
心
(
こころ
)
を
紊
(
みだ
)
して
散
(
ち
)
り
給
(
たま
)
ふ
476
其
(
その
)
古事
(
ふるごと
)
に
神習
(
かむなら
)
ひ
477
此
(
この
)
黒姫
(
くろひめ
)
も
慎
(
つつし
)
みて
478
神
(
かみ
)
の
御跡
(
みあと
)
を
追
(
お
)
ひまつる
479
五十路
(
いそぢ
)
の
坂
(
さか
)
を
越
(
こ
)
え
乍
(
なが
)
ら
480
浮
(
う
)
いた
婆
(
ばば
)
アと
笑
(
わら
)
ふ
奴
(
やつ
)
481
世間
(
せけん
)
知
(
し
)
らずの
間抜者
(
まぬけもの
)
482
さはさり
乍
(
なが
)
ら
夏彦
(
なつひこ
)
よ
483
岩高彦
(
いはたかひこ
)
よ
常彦
(
つねひこ
)
よ
484
色々
(
いろいろ
)
話
(
はなし
)
を
菊若
(
きくわか
)
よ
485
妾
(
わらは
)
に
習
(
なら
)
つて
過
(
あやま
)
つな
486
年
(
とし
)
を
老
(
と
)
つての
夫
(
をつと
)
持
(
も
)
つ
487
妾
(
わたし
)
は
深
(
ふか
)
い
因縁
(
いんねん
)
の
488
綱
(
つな
)
にからまれ
是非
(
ぜひ
)
もなく
489
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
国
(
くに
)
の
為
(
ため
)
490
ウラナイ
教
(
けう
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
に
491
心
(
こころ
)
にもなき
夫
(
つま
)
を
持
(
も
)
つ
492
陽気
(
やうき
)
浮気
(
うはき
)
で
黒姫
(
くろひめ
)
が
493
コンナ
騒
(
さわ
)
ぎをするものか
494
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し
495
善言
(
ぜんげん
)
美詞
(
びし
)
に
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
し
496
必
(
かなら
)
ず
悪口
(
わるくち
)
言
(
い
)
ふでない
497
後
(
あと
)
になつたら
皆
(
みな
)
判明
(
わか
)
る
498
神
(
かみ
)
の
奥
(
おく
)
には
奥
(
おく
)
が
有
(
あ
)
る
499
其
(
その
)
又
(
また
)
奥
(
おく
)
には
奥
(
おく
)
がある
500
昔
(
むかし
)
の
昔
(
むかし
)
のさる
昔
(
むかし
)
501
マ
一
(
ひと
)
つ
昔
(
むかし
)
のまだ
昔
(
むかし
)
502
まだも
昔
(
むかし
)
の
大昔
(
おほむかし
)
503
神
(
かみ
)
の
定
(
さだ
)
めた
因縁
(
いんねん
)
の
504
魂
(
たま
)
と
魂
(
たま
)
との
真釣
(
まつ
)
り
合
(
あ
)
ひ
505
晴
(
は
)
れて
扇
(
あふぎ
)
の
末
(
すゑ
)
広
(
ひろ
)
く
506
仰
(
あふ
)
げよ
仰
(
あふ
)
げ
神心
(
かみごころ
)
507
心
(
こころ
)
一
(
ひと
)
つの
持
(
も
)
ちやうで
508
此
(
この
)
黒姫
(
くろひめ
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
509
善
(
ぜん
)
に
見
(
み
)
えたり
又
(
また
)
悪
(
あく
)
に
510
見
(
み
)
えて
居
(
を
)
るかも
知
(
し
)
れないが
511
身魂
(
みたま
)
の
曇
(
くも
)
つた
人間
(
にんげん
)
が
512
心
(
こころ
)
驕
(
たか
)
ぶりツベコベと
513
構
(
かま
)
ひ
立
(
だ
)
てをばするでない
514
総
(
すべ
)
て
細工
(
さいく
)
は
流々
(
りうりう
)
ぢや
515
仕上
(
しあ
)
げた
所
(
ところ
)
を
見
(
み
)
てお
呉
(
く
)
れ
516
身魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
性来
(
しやうらい
)
の
517
大根本
(
だいこつぽん
)
の
根本
(
こつぽん
)
を
518
知
(
し
)
つたる
神
(
かみ
)
は
外
(
ほか
)
に
無
(
な
)
い
519
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
と
520
定
(
さだ
)
まりきつた
高姫
(
たかひめ
)
や
521
永
(
なが
)
らく
海
(
うみ
)
の
底
(
そこ
)
の
国
(
くに
)
522
お
住居
(
すまゐ
)
なされた
竜宮
(
りうぐう
)
の
523
乙姫
(
おとひめ
)
さまの
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
524
此
(
この
)
黒姫
(
くろひめ
)
と
唯
(
ただ
)
二人
(
ふたり
)
525
要
(
い
)
らぬ
屁理屈
(
へりくつ
)
言
(
い
)
はぬもの
526
心
(
こころ
)
も
清
(
きよ
)
きモチヅキの
527
音
(
おと
)
に
耳
(
みみ
)
をば
澄
(
す
)
ましつつ
528
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
の
清
(
きよ
)
らかな
529
心
(
こころ
)
の
鏡
(
かがみ
)
をみがきあげ
530
ウラナイ
教
(
けう
)
の
御
(
おん
)
仕組
(
しぐみ
)
531
何
(
なに
)
も
言
(
い
)
はずに
見
(
み
)
て
御座
(
ござ
)
れ
532
今
(
いま
)
は
言
(
い
)
ふべき
時
(
とき
)
でない
533
言
(
い
)
はぬは
云
(
い
)
ふに
弥
(
いや
)
勝
(
まさ
)
る
534
高山彦
(
たかやまひこ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
の
535
婚礼
(
こんれい
)
したのも
理由
(
わけ
)
がある
536
人間心
(
にんげんごころ
)
で
因縁
(
いんねん
)
が
537
どうして
分
(
わか
)
らう
筈
(
はず
)
はない
538
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
539
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
540
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
541
此
(
この
)
因縁
(
いんねん
)
は
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
の
542
窺
(
うかが
)
ひ
知
(
し
)
らるる
事
(
こと
)
でない
543
今
(
いま
)
に
五六七
(
みろく
)
の
世
(
よ
)
が
来
(
く
)
れば
544
唯
(
ただ
)
一厘
(
いちりん
)
の
神界
(
しんかい
)
の
545
仕組
(
しぐみ
)
をあけて
見
(
み
)
せてやる
546
それ
迄
(
まで
)
喧
(
やかま
)
しう
言
(
い
)
ふでない
547
口
(
くち
)
を
慎
(
つつし
)
み、ギユツと
締
(
し
)
め
548
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
にとぼけたる
549
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
人民
(
じんみん
)
は
550
高山彦
(
たかやまひこ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
の
551
此
(
この
)
結婚
(
けつこん
)
を
彼此
(
かれこれ
)
と
552
口
(
くち
)
を
極
(
きは
)
めて
誹
(
そし
)
るだらう
553
譏
(
そし
)
らば
誹
(
そし
)
れ、
言
(
い
)
はば
言
(
い
)
へ
554
妾
(
わたし
)
の
心
(
こころ
)
は
神
(
かみ
)
ぞ
知
(
し
)
る
555
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
国
(
くに
)
の
為
(
ため
)
556
お
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
が
557
尽
(
つく
)
す
誠
(
まこと
)
を
逸早
(
いちはや
)
く
558
世界
(
せかい
)
の
者
(
もの
)
に
知
(
し
)
らせたい
559
吁
(
あゝ
)
、
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
560
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましませよ
561
アヽ、
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
562
そろうて
酒
(
さけ
)
をば
飲
(
の
)
むがヨイ
563
ヨイヨイヨイトサア
564
ヨイトサノサツサ』
565
黒姫
(
くろひめ
)
は
調子
(
てうし
)
に
乗
(
の
)
つて
踊
(
をど
)
り
狂
(
くる
)
ひ、
566
汗
(
あせ
)
をタラタラ
流
(
なが
)
し、
567
白粉
(
おしろい
)
をはがし、
568
顔一面
(
かほいちめん
)
縄暖簾
(
なはのれん
)
を
下
(
さ
)
げたる
如
(
ごと
)
くなりにける。
569
高山彦
(
たかやまひこ
)
は
立
(
た
)
ちあがり、
570
祝歌
(
しゆくか
)
を
唄
(
うた
)
ふ。
571
高山彦
『フサの
都
(
みやこ
)
に
生
(
うま
)
れ
出
(
い
)
で
572
浮世
(
うきよ
)
の
風
(
かぜ
)
に
揉
(
も
)
まれつつ
573
妻子
(
つまこ
)
を
捨
(
す
)
てて
遥々
(
はるばる
)
と
574
ウラナイ
教
(
けう
)
の
大元
(
おほもと
)
の
575
北山村
(
きたやまむら
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
576
鼻高々
(
はなたかだか
)
と
高姫
(
たかひめ
)
が
577
天地
(
てんち
)
の
道理
(
だうり
)
を
説
(
と
)
き
聞
(
き
)
かす
578
支離
(
しり
)
滅裂
(
めつれつ
)
の
繰言
(
くりごと
)
を
579
厭
(
いや
)
な
事
(
こと
)
ぢやと
耳
(
みみ
)
押
(
おさ
)
へ
580
三日
(
みつか
)
四日
(
よつか
)
と
経
(
た
)
つ
内
(
うち
)
に
581
腹
(
はら
)
の
虫
(
むし
)
奴
(
め
)
が
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
か
582
グレツと
変
(
かは
)
つてウラナイの
583
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
が
面白
(
おもしろ
)
く
584
聞
(
き
)
けば
聴
(
き
)
く
程
(
ほど
)
味
(
あぢ
)
が
出
(
で
)
る
585
牛
(
うし
)
に
牽
(
ひ
)
かれて
善光寺
(
ぜんくわうじ
)
586
爺
(
ぢ
)
サン
婆
(
ば
)
サンが
参
(
まゐ
)
る
様
(
やう
)
に
587
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやらウラナイの
588
教
(
をしへ
)
の
擒
(
とりこ
)
と
成
(
な
)
り
果
(
は
)
てて
589
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なの
水垢離
(
みづごうり
)
590
蛙
(
かはづ
)
の
様
(
やう
)
な
行
(
ぎやう
)
をして
591
嬉
(
うれ
)
し
嬉
(
うれ
)
しの
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
る
592
盲
(
めくら
)
聾
(
つんぼ
)
の
集
(
あつ
)
まりし
593
ウラナイ
教
(
けう
)
の
大元
(
おほもと
)
は
594
目
(
め
)
あき
一人
(
ひとり
)
の
高山彦
(
たかやまひこ
)
が
595
天津空
(
あまつそら
)
より
降
(
くだ
)
り
来
(
き
)
し
596
天女
(
てんによ
)
の
様
(
やう
)
に
敬
(
うやま
)
はれ
597
持
(
も
)
て
囃
(
はや
)
されて
高姫
(
たかひめ
)
の
598
鋭
(
するど
)
き
眼鏡
(
めがね
)
に
叶
(
かな
)
うたか
599
抜擢
(
ばつてき
)
されて
黒姫
(
くろひめ
)
が
600
夫
(
つま
)
となれとの
御
(
ご
)
託宣
(
たくせん
)
601
断
(
ことわ
)
りするも
何
(
なん
)
とやら
602
枯木
(
かれき
)
に
花
(
はな
)
も
咲
(
さ
)
くためし
603
地獄
(
ぢごく
)
の
上
(
うへ
)
を
飛
(
と
)
ぶ
様
(
やう
)
に
604
胆力
(
たんりよく
)
据
(
す
)
ゑて
高姫
(
たかひめ
)
に
605
承知
(
しようち
)
の
旨
(
むね
)
を
答
(
こた
)
ふれば
606
高姫
(
たかひめ
)
さまも
雀躍
(
こをど
)
りし
607
これで
妾
(
わたし
)
も
安心
(
あんしん
)
と
608
数多
(
あまた
)
の
家来
(
けらい
)
を
差
(
さ
)
しまわし
609
み
空
(
そら
)
を
翔
(
か
)
ける
磐船
(
いはふね
)
を
610
数多
(
あまた
)
準備
(
しつら
)
ひフサの
国
(
くに
)
ゆ
611
唸
(
うな
)
りを
立
(
た
)
てて
中空
(
ちうくう
)
に
612
思
(
おも
)
ひがけなき
高上
(
たかあが
)
り
613
高山彦
(
たかやまひこ
)
や
低山
(
ひきやま
)
の
614
空
(
そら
)
を
掠
(
かす
)
めて
渡
(
わた
)
り
来
(
く
)
る
615
大海原
(
おほうなばら
)
の
島々
(
しまじま
)
も
616
数多
(
あまた
)
越
(
こ
)
えつつ
悠々
(
いういう
)
と
617
風
(
かぜ
)
に
揺
(
ゆ
)
られて
下
(
お
)
り
来
(
きた
)
る
618
由良
(
ゆら
)
の
湊
(
みなと
)
の
広野原
(
ひろのはら
)
619
イヨイヨ
無事
(
ぶじ
)
に
着陸
(
ちやくりく
)
し
620
虎若
(
とらわか
)
富彦
(
とみひこ
)
伴
(
ともな
)
ひて
621
大江
(
おほえ
)
の
山
(
やま
)
を
探
(
さぐ
)
りつつ
622
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
623
見渡
(
みわた
)
す
限
(
かぎ
)
り
銀世界
(
ぎんせかい
)
624
妻
(
つま
)
の
住家
(
すみか
)
は
何処
(
いづく
)
ぞと
625
眼
(
まなこ
)
白黒
(
しろくろ
)
黒姫
(
くろひめ
)
の
626
岩戸
(
いはと
)
を
守
(
まも
)
る
夏彦
(
なつひこ
)
が
627
首
(
くび
)
から
先
(
さき
)
を
突出
(
つきだ
)
して
628
ヤア
婿
(
むこ
)
さまか
婿
(
むこ
)
さまか
629
黒姫
(
くろひめ
)
さまのお
待兼
(
まちか
)
ね
630
遠慮
(
ゑんりよ
)
は
要
(
い
)
らぬサア
早
(
はや
)
く
631
お
這入
(
はい
)
りなされと
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち
632
頭
(
あたま
)
を
隠
(
かく
)
して
段階
(
だんばしご
)
633
ヒヨコリヒヨコリと
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く
634
虎若
(
とらわか
)
、
富彦
(
とみひこ
)
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち
635
高山彦
(
たかやまひこ
)
を
伴
(
とも
)
なひて
636
内
(
うち
)
はホラホラ
岩窟
(
いはやど
)
に
637
潜
(
くぐ
)
りて
見
(
み
)
れば
此
(
こ
)
は
如何
(
いか
)
に
638
名
(
な
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
と
聞
(
き
)
きつれど
639
聞
(
き
)
きしに
違
(
たが
)
ふ
白
(
しろ
)
い
顔
(
かほ
)
640
夢
(
ゆめ
)
に
牡丹餅
(
ぼたもち
)
食
(
く
)
た
様
(
やう
)
な
641
嬉
(
うれ
)
しき
契
(
ちぎり
)
の
今日
(
けふ
)
の
宵
(
よひ
)
642
年
(
とし
)
は
二八
(
にはち
)
か
二九
(
にく
)
からぬ
643
姿
(
すがた
)
優
(
やさ
)
しき
此
(
この
)
ナイス
644
幾久
(
いくひさ
)
しくも
末永
(
すゑなが
)
く
645
鴛鴦
(
をし
)
の
衾
(
ふすま
)
の
睦
(
むつ
)
び
合
(
あ
)
ひ
646
浮
(
う
)
きつ
沈
(
しづ
)
みつ
世
(
よ
)
を
渡
(
わた
)
る
647
今日
(
けふ
)
の
結縁
(
かため
)
ぞ
楽
(
たの
)
しけれ
648
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
649
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
650
高山彦
(
たかやまひこ
)
と
黒姫
(
くろひめ
)
の
651
妹背
(
いもせ
)
の
中
(
なか
)
は
何時
(
いつ
)
までも
652
いや
常永
(
とこしへ
)
に
変
(
かは
)
らざれ
653
八洲
(
やしま
)
の
国
(
くに
)
は
広
(
ひろ
)
くとも
654
女
(
をんな
)
の
数
(
かず
)
は
多
(
おほ
)
くとも
655
女房
(
にようばう
)
にするは
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
656
神
(
かみ
)
の
結
(
むす
)
びし
此
(
この
)
縁
(
えにし
)
657
睦
(
むつ
)
び
親
(
した
)
しむ
玉椿
(
たまつばき
)
658
八千代
(
やちよ
)
の
春
(
はる
)
を
迎
(
むか
)
へつつ
659
ウラナイ
教
(
けう
)
の
神
(
かみ
)
の
憲
(
のり
)
660
四方
(
よも
)
の
国々
(
くにぐに
)
宣
(
の
)
り
伝
(
つた
)
へ
661
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
神業
(
かむわざ
)
に
662
仕
(
つか
)
へ
奉
(
まつ
)
りて
麗
(
うるは
)
しき
663
尊
(
たふと
)
き
御代
(
みよ
)
を
弥勒
(
みろく
)
の
世
(
よ
)
664
弥勒
(
みろく
)
三会
(
さんゑ
)
の
暁
(
あかつき
)
の
665
鐘
(
かね
)
は
鳴
(
な
)
るとも
破
(
わ
)
れるとも
666
二人
(
ふたり
)
の
中
(
なか
)
は
変
(
かは
)
らまじ
667
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
668
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
669
と
謡
(
うた
)
つて、
670
大
(
おほ
)
きな
図体
(
づうたい
)
をドスンとおろした
其
(
その
)
機会
(
はづみ
)
に、
671
盃
(
さかづき
)
も、
672
徳利
(
とくり
)
も、
673
一二
(
いちに
)
尺
(
しやく
)
飛
(
と
)
び
上
(
あが
)
り、
674
俄
(
にはか
)
に
舞踏
(
ぶたふ
)
を
演
(
えん
)
じ、
675
思
(
おも
)
はぬ
余興
(
よきよう
)
を
添
(
そ
)
へにける。
676
夏彦
(
なつひこ
)
は、
677
くの
字
(
じ
)
に
曲
(
まが
)
つた
腰
(
こし
)
を、
678
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
握
(
にぎ
)
り
拳
(
こぶし
)
にて
打
(
う
)
ち
乍
(
なが
)
ら、
679
土盃
(
かはらけ
)
を
右手
(
めて
)
に
捧
(
ささ
)
げ、
680
オツチヨコチヨイのチヨイ
腰
(
ごし
)
になつて、
681
自
(
みづか
)
ら
謡
(
うた
)
ひ、
682
自
(
みづか
)
ら
踊
(
をど
)
り
始
(
はじ
)
めける。
683
夏彦
『アヽ
芽出
(
めで
)
たい
芽出
(
めで
)
たいお
芽出
(
めで
)
たい
684
年
(
とし
)
は
老
(
と
)
つても
色
(
いろ
)
の
道
(
みち
)
685
忘
(
わす
)
れられぬと
見
(
み
)
えまする
686
娘
(
むすめ
)
や
孫
(
まご
)
のある
中
(
なか
)
に
687
田舎
(
いなか
)
の
雪隠
(
せんち
)
の
水漬
(
みづつき
)
か
688
ババアが
浮
(
う
)
いてうき
散
(
ち
)
らし
689
顔
(
かほ
)
に
白粉
(
おしろい
)
コテコテと
690
雀
(
すずめ
)
のお
宿
(
やど
)
のお
婆
(
ば
)
アさま
691
高
(
たか
)
い
山
(
やま
)
から
雄
(
を
)
ン
鳥
(
どり
)
を
692
言葉
(
ことば
)
巧
(
たくみ
)
に
誘
(
さそ
)
て
来
(
き
)
て
693
言
(
い
)
ふな
言
(
い
)
ふなと
吾々
(
われわれ
)
の
694
舌切雀
(
したきりすずめ
)
のお
芽出
(
めで
)
たさ
695
夜
(
よ
)
さりも
昼
(
ひる
)
もチヨンチヨンと
696
皺
(
しわ
)
のよつたる
機
(
はた
)
を
織
(
お
)
る
697
ハタの
見
(
み
)
る
目
(
め
)
は
堪
(
たま
)
らない
698
雀
(
すずめ
)
百
(
ひやく
)
までをンどりを
699
忘
(
わす
)
れぬ
例
(
ためし
)
は
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
る
700
私
(
わし
)
も
男
(
をとこ
)
のはしぢやもの
701
相手
(
あひて
)
が
欲
(
ほ
)
しい
欲
(
ほ
)
しいわいナ
702
恋路
(
こひぢ
)
に
迷
(
まよ
)
うと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
703
可愛
(
かわ
)
い
男
(
をとこ
)
に
米
(
おほやしま
)
704
辵
(
しんにう
)
かけた
事
(
こと
)
ぢやげな
705
図蟹
(
づがに
)
が
泡
(
あわ
)
を
福
(
ふく
)
の
神
(
かみ
)
706
恵比須
(
ゑべす
)
大黒
(
だいこく
)
ニコニコと
707
腹
(
はら
)
を
抱
(
かか
)
へて
踊
(
をど
)
り
出
(
だ
)
す
708
弁天
(
べんてん
)
さまの
真似
(
まね
)
をして
709
顔
(
かほ
)
コテコテと
撫塗
(
なづ
)
り
立
(
た
)
て
710
月
(
つき
)
が
重
(
かさ
)
なりや
布袋腹
(
ほていばら
)
711
膨
(
ふく
)
れて
困
(
こま
)
るは
目
(
ま
)
のあたり
712
それでも
私
(
わし
)
は
黙
(
だま
)
つてる
713
長
(
なが
)
い
頭
(
あたま
)
の
寿老人
(
げほう
)
さま
714
高山彦
(
たかやまひこ
)
を
婿
(
むこ
)
に
持
(
も
)
ち
715
まるビシヤモンを
叩
(
たた
)
き
付
(
つ
)
け
716
上
(
うへ
)
を
下
(
した
)
への
大戦
(
おほいくさ
)
717
大洪水
(
だいこうずゐ
)
に
流
(
なが
)
されて
718
天変
(
てんぺん
)
地妖
(
ちえう
)
の
大騒動
(
おほさうどう
)
719
黒白
(
あやめ
)
も
分
(
わ
)
かぬ
暗
(
やみ
)
の
夜
(
よ
)
に
720
思
(
おも
)
はぬ
地震
(
ぢしん
)
が
揺
(
ゆ
)
るであろ
721
地震
(
ぢしん
)
雷
(
かみなり
)
火
(
ひ
)
の
車
(
くるま
)
722
変
(
かは
)
れば
変
(
かは
)
る
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
ぢや
723
娘
(
むすめ
)
や
孫
(
まご
)
のある
人
(
ひと
)
が
724
烏
(
からす
)
の
婿
(
むこ
)
に
鷹
(
たか
)
を
取
(
と
)
り
725
目
(
め
)
を
光
(
ひか
)
らして
是
(
これ
)
からは
726
天
(
あめ
)
が
下
(
した
)
なる
有象
(
うぞ
)
無象
(
むぞ
)
を
727
何
(
なん
)
の
容赦
(
ようしや
)
も
荒鷹
(
あらたか
)
の
728
勢
(
いきほひ
)
猛
(
たけ
)
き
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
729
苦労
(
くらう
)
重
(
かさ
)
なる
黒姫
(
くろひめ
)
の
730
行末
(
ゆくすゑ
)
こそはお
芽出
(
めで
)
たい
731
あゝなつかしや
夏彦
(
なつひこ
)
の
732
夢寐
(
むび
)
にも
忘
(
わす
)
れぬ
照
(
てる
)
さまは
733
どうして
御座
(
ござ
)
るか
比治山
(
ひぢやま
)
の
734
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
隠家
(
かくれが
)
に
735
肱
(
ひぢ
)
を
枕
(
まくら
)
に
寝
(
ね
)
て
御座
(
ござ
)
ろ
736
アヽなつかしやなつかしや
737
高山彦
(
たかやまひこ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
の
738
今日
(
けふ
)
の
慶事
(
けいじ
)
を
見
(
み
)
るにつけ
739
心
(
こころ
)
にかかるは
照
(
てる
)
さまの
740
比治山
(
ひぢやま
)
峠
(
たうげ
)
の
独寝
(
ひとりね
)
ぢや
741
コンナ
所
(
ところ
)
を
見
(
み
)
せられて
742
羨
(
け
)
なり
涙
(
なみだ
)
がポロポロと
743
私
(
わし
)
は
零
(
こぼ
)
れて
来
(
き
)
たわいナ
744
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
745
ホンに
叶
(
かな
)
はぬ
事
(
こと
)
ぢやわい
746
叶
(
かな
)
はぬ
時
(
とき
)
の
神頼
(
かみだの
)
み
747
比沼
(
ひぬ
)
の
真名井
(
まなゐ
)
の
神
(
かみ
)
さまに
748
一
(
ひと
)
つ
願
(
ねが
)
ひを
掛
(
か
)
けて
見
(
み
)
よう
749
ウラナイ
教
(
けう
)
に
入
(
い
)
つてより
750
早
(
はや
)
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
になるけれど
751
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
信徒
(
まめひと
)
は
752
女
(
をんな
)
に
眼
(
まなこ
)
呉
(
く
)
れなよと
753
高姫
(
たかひめ
)
さまや
黒姫
(
くろひめ
)
の
754
何時
(
いつ
)
も
厳
(
きび
)
しきお
警告
(
いましめ
)
755
それに
何
(
なん
)
ぞや
今日
(
けふ
)
は
又
(
また
)
756
黒姫
(
くろひめ
)
さまが
身
(
み
)
を
扮装
(
やつ
)
し
757
天女
(
てんによ
)
の
様
(
やう
)
に
化
(
ば
)
けかはり
758
返
(
かへ
)
り
咲
(
ざ
)
きとは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
759
黒姫
(
くろひめ
)
さまが
口癖
(
くちぐせ
)
に
760
裏
(
うら
)
と
表
(
おもて
)
がある
教
(
をしへ
)
761
奥
(
おく
)
の
奥
(
おく
)
には
奥
(
おく
)
があると
762
言
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
たのは
此
(
この
)
事
(
こと
)
か
763
俺
(
おれ
)
はあンまり
神
(
かみ
)
さまに
764
呆
(
はう
)
けて
居
(
を
)
つて
馬鹿
(
ばか
)
を
見
(
み
)
た
765
馬鹿
(
ばか
)
正直
(
しやうぢき
)
の
夏彦
(
なつひこ
)
も
766
これから
心
(
こころ
)
を
改悪
(
かいあく
)
し
767
今
(
いま
)
まで
堪
(
こら
)
へた
恋
(
こひ
)
の
道
(
みち
)
768
土手
(
どて
)
を
切
(
き
)
らしてやつて
見
(
み
)
る
769
サア
常彦
(
つねひこ
)
よ
岩高
(
いはたか
)
よ
770
何時
(
いつ
)
も
話
(
はなし
)
を
菊若
(
きくわか
)
の
771
若
(
わか
)
い
奴
(
やつ
)
等
(
ら
)
は
俺
(
おれ
)
の
後
(
あと
)
を
772
慕
(
した
)
うて
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
ひ
比治山
(
ひぢやま
)
の
773
照
(
てる
)
さま、
清
(
きよ
)
さま
潜
(
ひそ
)
む
家
(
や
)
に
774
肱鉄砲
(
ひぢてつぱう
)
を
覚悟
(
かくご
)
して
775
訪
(
たづ
)
ねて
行
(
ゆ
)
かうサア
行
(
ゆ
)
かう
776
高山彦
(
たかやまひこ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
の
777
今日
(
けふ
)
の
結婚
(
けつこん
)
済
(
す
)
みたなら
778
私
(
わし
)
はお
暇
(
ひま
)
を
頂
(
いただ
)
かう
779
グヅグヅしてると
年
(
とし
)
が
老
(
よ
)
る
780
若
(
わか
)
い
盛
(
さか
)
りは
二度
(
にど
)
とない
781
皺苦茶
(
しわくちや
)
爺
(
ぢぢ
)
イになつてから
782
如何
(
いか
)
に
女房
(
にようばう
)
を
探
(
さが
)
しても
783
適当
(
てきたう
)
な
奴
(
やつ
)
は
有
(
あ
)
りはせぬ
784
時
(
とき
)
遅
(
おく
)
れては
一大事
(
いちだいじ
)
785
花
(
はな
)
の
盛
(
さか
)
りの
吾々
(
われわれ
)
は
786
今
(
いま
)
から
心
(
こころ
)
を
取直
(
とりなほ
)
し
787
女房
(
にようばう
)
持
(
も
)
つて
潔
(
いさぎよ
)
く
788
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじう
)
の
有丈
(
ありたけ
)
を
789
尽
(
つく
)
して
暮
(
くら
)
すが
一生
(
いつしやう
)
の
790
各自
(
めいめい
)
の
得
(
とく
)
ぢやトツクリと
791
思案
(
しあん
)
定
(
さだ
)
めて
行
(
い
)
かうかいの
792
サアサ
往
(
い
)
かうではないかいナ
793
ドツコイシヨウ ドツコイシヨウ
794
ウントコドツコイ
黒姫
(
くろひめ
)
さま
795
ヤツトコドツコイ
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
796
長
(
なが
)
い
頭
(
あたま
)
のゲホウさま
797
ドツコイシヨのドツコイシヨ』
798
と
自暴自棄
(
やけくそ
)
になつて、
799
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
不平
(
ふへい
)
を
漏
(
も
)
らし
躍
(
をど
)
り
狂
(
くる
)
ふ。
800
常彦
(
つねひこ
)
、
801
岩高
(
いはたか
)
、
802
菊若
(
きくわか
)
も、
803
夏彦
(
なつひこ
)
の
唄
(
うた
)
に
同意
(
どうい
)
を
表
(
へう
)
し、
804
杯
(
さかづき
)
を
投
(
な
)
げ、
805
燗徳利
(
かんどくり
)
を
破
(
わ
)
り、
806
什器
(
じふき
)
を
踏
(
ふ
)
み
砕
(
くだ
)
き、
807
酔
(
ゑひ
)
にまぎらし
乱痴気
(
らんちき
)
騒
(
さわ
)
ぎに
其
(
その
)
夜
(
よ
)
を
徹
(
あ
)
かしけるが、
808
流石
(
さすが
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
も
結婚
(
けつこん
)
の
祝
(
いは
)
ひの
夜
(
よる
)
とて
一言
(
ひとこと
)
もツブやかず、
809
夏彦
(
なつひこ
)
等
(
ら
)
が
乱暴
(
らんばう
)
をなす
儘
(
まま
)
に
任
(
まか
)
せ
居
(
ゐ
)
たりける。
810
明
(
あ
)
くれば
正
(
しやう
)
月
(
ぐわつ
)
二十七
(
にじふしち
)
日
(
にち
)
、
811
黒姫
(
くろひめ
)
は、
812
高山彦
(
たかやまひこ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
面々
(
めんめん
)
を
一間
(
ひとま
)
に
招
(
まね
)
き、
813
比沼
(
ひぬ
)
の
真名井
(
まなゐ
)
の
豊国姫
(
とよくにひめ
)
が
出現場
(
しゆつげんば
)
なる、
814
瑞
(
みづ
)
の
宝座
(
ほうざ
)
を
占領
(
せんりやう
)
せむことを
提議
(
ていぎ
)
し、
815
満場
(
まんぢやう
)
一致
(
いつち
)
可決
(
かけつ
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
816
猫
(
ねこ
)
も
杓子
(
しやくし
)
も
脛腰
(
すねこし
)
の
立
(
た
)
つ
者
(
もの
)
全部
(
ぜんぶ
)
を
引連
(
ひきつ
)
れ、
817
高山彦
(
たかやまひこ
)
は
駒
(
こま
)
に
跨
(
またが
)
り、
818
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
指
(
さ
)
して
驀地
(
まつしぐら
)
に
進撃
(
しんげき
)
し、
819
茲
(
ここ
)
に
正
(
しやう
)
月
(
ぐわつ
)
二十八
(
にじふはち
)
日
(
にち
)
の
大攻撃
(
だいこうげき
)
を
開始
(
かいし
)
し、
820
青彦
(
あをひこ
)
、
821
加米彦
(
かめひこ
)
が
言霊
(
ことたま
)
に、
822
散々
(
さんざん
)
な
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
ひ
散
(
ち
)
り
散
(
ぢ
)
りバラバラに、
823
再
(
ふたた
)
び
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
引返
(
ひきかへ
)
し、
824
第二
(
だいに
)
の
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
に
着手
(
ちやくしゆ
)
したりける。
825
嗚呼
(
ああ
)
、
826
黒姫
(
くろひめ
)
一派
(
いつぱ
)
は
如何
(
いか
)
なる
手段
(
しゆだん
)
を
以
(
もつ
)
て、
827
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
を
占領
(
せんりやう
)
せむとするにや。
828
(
大正一一・四・二二
旧三・二六
松村真澄
録)
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