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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第17巻(辰の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 雪山幽谷
第1章 黄金の衣
第2章 魔の窟
第3章 生死不明
第4章 羽化登仙
第5章 誘惑婆
第6章 瑞の宝座
第2篇 千態万様
第7章 枯尾花
第8章 蚯蚓の囁
第9章 大逆転
第10章 四百種病
第11章 顕幽交通
第3篇 鬼ケ城山
第12章 花と花
第13章 紫姫
第14章 空谷の足音
第15章 敵味方
第16章 城攻
第17章 有終の美
霊の礎(三)
暁山雲(謡曲)
余白歌
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> 第1篇 雪山幽谷 > 第5章 誘惑婆
<<< 羽化登仙
(B)
(N)
瑞の宝座 >>>
第五章
誘惑婆
(
いうわくばば
)
〔六一六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻
篇:
第1篇 雪山幽谷
よみ(新仮名遣い):
せつざんゆうこく
章:
第5章 誘惑婆
よみ(新仮名遣い):
ゆうわくばば
通し章番号:
616
口述日:
1922(大正11)年04月21日(旧03月25日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年1月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
平助、お楢、お節は三人連れになって山道を進んで行く。すると、行く手をさえぎる婆があった。
婆は真名井ケ原の豊国姫は悪神だと罵り、自分の話を聞くようにと一行を引き止める。そして素盞嗚尊の悪口を言い出す。これはウラナイ教の黒姫であった。
そこへ向こうから宣伝歌を歌いながら音彦と青彦がやって来た。お節も声を合わせて宣伝歌を歌うと、黒姫は傍らの茂みの中へ逃げてしまった。
二人は黒姫が出現したことをお節から聞いてあきれている。二人は、悦子姫の命で、平助一行を迎えにやってきたのであった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-02-13 21:24:01
OBC :
rm1705
愛善世界社版:
70頁
八幡書店版:
第3輯 549頁
修補版:
校定版:
72頁
普及版:
31頁
初版:
ページ備考:
001
平助
(
へいすけ
)
は、
002
お
楢
(
なら
)
、
003
お
節
(
せつ
)
と
共
(
とも
)
に
崎嶇
(
きく
)
たる
山路
(
やまみち
)
を
心細
(
こころぼそ
)
げにとぼとぼと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
004
春日
(
はるひ
)
に
照
(
て
)
らされて
日向辺
(
ひなたべり
)
の
坂道
(
さかみち
)
は
雪
(
ゆき
)
解
(
と
)
け、
005
山
(
やま
)
の
肌
(
はだ
)
を
現
(
あら
)
はして
居
(
ゐ
)
る。
006
斯
(
か
)
かる
処
(
ところ
)
へ
蓑笠
(
みのかさ
)
着
(
き
)
た
一人
(
ひとり
)
の
婆
(
ばば
)
、
007
若
(
わか
)
い
娘
(
むすめ
)
を
二人
(
ふたり
)
伴
(
ともな
)
ひ、
008
行手
(
ゆくて
)
に
立
(
た
)
ち
塞
(
ふさ
)
がり、
009
婆
(
ばば
)
『これはこれは、
010
お
爺
(
ぢい
)
さま、
011
お
婆
(
ば
)
アさま、
012
青白
(
あをじろ
)
い
痩
(
や
)
せた
娘
(
むすめ
)
を
連
(
つ
)
れて
何処
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
くのぢや』
013
平助
(
へいすけ
)
『ハイハイ、
014
お
前
(
まへ
)
さまは
何処
(
どこ
)
のお
方
(
かた
)
か
知
(
し
)
らぬが、
015
私
(
わたくし
)
は
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の、
016
今度
(
こんど
)
現
(
あら
)
はれなさつた
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に、
017
お
礼
(
れい
)
詣
(
まゐ
)
りに
行
(
ゆ
)
くのぢや、
018
どうぞ
其処
(
そこ
)
を
退
(
の
)
いて
下
(
くだ
)
され』
019
婆
(
ばば
)
『お
前
(
まへ
)
さま、
020
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
へ
御
(
お
)
礼
(
れい
)
詣
(
まゐ
)
りに
行
(
ゆ
)
くのぢやと
云
(
い
)
うたな、
021
アンナ
処
(
ところ
)
へ
行
(
い
)
つて
一体
(
いつたい
)
何
(
なに
)
をするのぢや、
022
あの
神
(
かみ
)
は
悪神
(
あくがみ
)
ぢやぞ』
023
平助
(
へいすけ
)
『
悪神
(
あくがみ
)
でも
何
(
なん
)
でも
構
(
かま
)
うて
下
(
くだ
)
さるな、
024
信仰
(
しんかう
)
は
自由
(
じいう
)
だ、
025
私
(
わたくし
)
の
心
(
こころ
)
で
私
(
わたくし
)
が
拝
(
をが
)
むのぢや、
026
何処
(
どこ
)
の
婆
(
ばば
)
アか
知
(
し
)
らぬけれど、
027
人
(
ひと
)
の
信仰
(
しんかう
)
を
落
(
おと
)
ささうと
思
(
おも
)
うて、
028
コンナ
山
(
やま
)
の
中
(
なか
)
へ
出
(
で
)
しや
張
(
ば
)
つて、
029
よい
物好
(
ものず
)
きもあればあるものぢやワイ』
030
婆
(
ばば
)
『はてさて
困
(
こま
)
つた
人
(
ひと
)
達
(
たち
)
だ、
031
可憐
(
かわい
)
さうなものだナア。
032
良薬
(
りやうやく
)
は
口
(
くち
)
に
苦
(
にが
)
し、
033
利益
(
りえき
)
になる
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
へば
嫌
(
きら
)
はれる
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ、
034
お
前
(
まへ
)
さま、
035
これから
先
(
さき
)
に
行
(
ゆ
)
かうものなら
命
(
いのち
)
がないぞへ、
036
命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
てても
信神
(
しんじん
)
をするのかい』
037
平助
(
へいすけ
)
『
誰人
(
だれ
)
が
命
(
いのち
)
まで
放
(
ほ
)
かして
信神
(
しんじん
)
する
物好
(
ものずき
)
があるものか、
038
長命
(
ながいき
)
がしたさにお
参詣
(
まゐり
)
するのぢや。
039
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
豊国姫
(
とよくにひめ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
と
云
(
い
)
つたら、
040
それはそれは
結構
(
けつこう
)
な、
041
命
(
いのち
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
ぢや。
042
お
前
(
まへ
)
も
一
(
ひと
)
つ
詣
(
まゐ
)
つてお
蔭
(
かげ
)
を
頂
(
いただ
)
いてはどうだい、
043
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
生
(
いき
)
て
居
(
ゐ
)
ても
生満足
(
いきたんのう
)
せぬ
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
044
サアサア
往
(
ゆ
)
かう
往
(
ゆ
)
かう』
045
婆
(
ばば
)
『マアマアお
爺
(
ぢ
)
イさま、
046
一服
(
いつぷく
)
しなさい、
047
此処
(
ここ
)
を
少
(
すこ
)
し
横
(
よこ
)
へ
寄
(
よ
)
ると
小
(
ちひ
)
さい
家
(
いへ
)
がある、
048
其処
(
そこ
)
が
私
(
わたし
)
の
修業場
(
しうげふば
)
ぢや、
049
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
のやうな
瑞
(
みづ
)
の
霊
(
みたま
)
に
呆
(
とぼ
)
けて
出
(
で
)
てくる
亡者
(
まうじや
)
を
済度
(
さいど
)
しやうと
思
(
おも
)
うて、
050
俄
(
にはか
)
に
修行場
(
しうぎやうば
)
を
拵
(
こしら
)
へたのだ、
051
喰
(
く
)
はず
嫌
(
ぎら
)
ひは
信用
(
あて
)
にならぬものぢや、
052
マア
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
この
婆
(
ばあ
)
さまに
随
(
つ
)
いて
御
(
お
)
出
(
いで
)
なさい』
053
平助
(
へいすけ
)
『オイお
楢
(
なら
)
、
054
何
(
ど
)
うせう、
055
この
婆
(
ばあ
)
さまの
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
056
大分
(
だいぶん
)
足
(
あし
)
も
疲
(
つか
)
れた。
057
一寸
(
ちよつと
)
一服
(
いつぷく
)
して
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
くだけ
聞
(
き
)
いて
見
(
み
)
ようかなア』
058
お
楢
(
なら
)
『お
爺
(
ぢ
)
イさま、
059
お
前
(
まへ
)
はそれだから
困
(
こま
)
ると
云
(
い
)
ふのぢや、
060
直
(
ぢき
)
に
人
(
ひと
)
の
口車
(
くちぐるま
)
に
乗
(
の
)
つて、
061
ソンナ
事
(
こと
)
で
信神
(
しんじん
)
が
出来
(
でき
)
るものか、
062
私
(
わたし
)
が
何時
(
いつ
)
も
意見
(
いけん
)
すると、
063
仕様
(
しやう
)
のない
婆
(
ばば
)
アの
老婆心
(
らうばしん
)
で
吐
(
ぬか
)
す
事
(
こと
)
は
聞
(
き
)
く
耳
(
みみ
)
持
(
も
)
たぬと、
064
二
(
ふた
)
つ
目
(
め
)
には
頑張
(
ぐわんば
)
りなさるが、
065
些
(
ちつ
)
とは
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
アの
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
も
聞
(
き
)
きなさい、
066
お
前
(
まへ
)
も
余
(
あんま
)
り
老爺心
(
らうやしん
)
が
勝過
(
かちす
)
ぎて
居
(
を
)
る。
067
何処
(
どこ
)
の
婆
(
ば
)
アさまか
知
(
し
)
らぬけれど、
068
私
(
わたし
)
より
些
(
ちつ
)
と
若
(
わか
)
いと
思
(
おも
)
うて
早
(
はや
)
乗
(
の
)
り
気
(
き
)
になつて
御座
(
ござ
)
るが、
069
嫌
(
いや
)
ぢや
嫌
(
いや
)
ぢや、
070
私
(
わたし
)
はどうしても、
071
ソンナ
処
(
ところ
)
へは
行
(
ゆ
)
かぬ、
072
それよりも
早
(
はや
)
く
真名井
(
まなゐ
)
さまに
参詣
(
さんけい
)
して
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
さねばなるまい、
073
サアサアお
節
(
せつ
)
行
(
ゆ
)
かう
行
(
ゆ
)
かう』
074
平助
(
へいすけ
)
『
婆
(
ばば
)
アがさう
云
(
い
)
うても、
075
お
節
(
せつ
)
お
前
(
まへ
)
はどうだ、
076
一寸
(
ちよつと
)
寄
(
よ
)
つて
見
(
み
)
る
気
(
き
)
はないか』
077
お
節
(
せつ
)
『お
爺
(
ぢ
)
イさま、
078
道草
(
みちぐさ
)
を
喰
(
く
)
はずにトツトと
参
(
まゐ
)
りませうよ』
079
婆
(
ばば
)
『これはこれはお
婆
(
ば
)
アさまと
云
(
い
)
ひ、
080
娘
(
むすめ
)
さまと
云
(
い
)
ひ、
081
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
不心得
(
ふこころえ
)
な
事
(
こと
)
だい、
082
夫
(
をつと
)
や
親
(
おや
)
の
言葉
(
ことば
)
を
背
(
そむ
)
くと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか、
083
大方
(
おほかた
)
お
前
(
まへ
)
さまは
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
であらう』
084
お
節
(
せつ
)
『
尤
(
もつと
)
も
妾
(
わたし
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
で
御座
(
ござ
)
います、
085
お
爺
(
ぢ
)
イさまお
婆
(
ば
)
アさまは
無宗教
(
むしうけう
)
者
(
しや
)
、
086
妾
(
わらは
)
は
大江山
(
おほえやま
)
のバラモン
教
(
けう
)
の
大将
(
たいしやう
)
に
誘拐
(
かどはか
)
され、
087
巌窟
(
がんくつ
)
の
中
(
なか
)
に
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
められ
苦
(
くる
)
しみ
悶
(
もだ
)
えて
居
(
を
)
りました。
088
其処
(
そこ
)
へ
有難
(
ありがた
)
い
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
夢枕
(
ゆめまくら
)
に
立
(
た
)
つて
下
(
くだ
)
さいまして、
089
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
教
(
をし
)
へて
下
(
くだ
)
さつた、
090
其
(
その
)
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
唱
(
とな
)
へて
居
(
ゐ
)
ると、
091
間
(
ま
)
もなく
悪者
(
わるもの
)
が
改心
(
かいしん
)
を
致
(
いた
)
しまして、
092
助
(
たす
)
けに
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れました。
093
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
何
(
ど
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
尊
(
たふと
)
いと
云
(
い
)
うても、
094
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
位
(
くらゐ
)
有難
(
ありがた
)
い
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
はありませぬ、
095
私
(
わたし
)
は
三五教
(
あななひけう
)
を
守護
(
しゆご
)
遊
(
あそ
)
ばす
豊国姫
(
とよくにひめ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が、
096
今度
(
こんど
)
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
に
御
(
ご
)
出現
(
しゆつげん
)
になつたので、
097
お
礼
(
れい
)
詣
(
まゐ
)
りに
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
で
御座
(
ござ
)
います、
098
どうぞ
神詣
(
かみまゐ
)
りの
途中
(
とちう
)
で
邪魔
(
じやま
)
して
下
(
くだ
)
さいますな、
099
お
話
(
はなし
)
があれば
下向
(
げかう
)
の
途中
(
とちう
)
に
寛
(
ゆ
)
る
寛
(
ゆ
)
ると
承
(
うけたま
)
はりませう』
100
婆
(
ばば
)
『サアそれがいかぬのだよ、
101
三五教
(
あななひけう
)
は
今
(
いま
)
は
高天原
(
たかあまはら
)
をおつ
放
(
ぽ
)
り
出
(
だ
)
された
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
が
大将
(
たいしやう
)
をして
居
(
を
)
るのだ、
102
悪
(
わる
)
けれやこそ
結構
(
けつこう
)
な
処
(
ところ
)
を
逐出
(
おひだ
)
されたのぢやないか、
103
お
前
(
まへ
)
さま
達
(
たち
)
もさうぢやらう、
104
柔順
(
おとな
)
しい
自分
(
じぶん
)
の
兄弟
(
きやうだい
)
を
誰
(
たれ
)
が
逐出
(
おひだ
)
すものか、
105
親
(
おや
)
を
泣
(
な
)
かし、
106
兄弟
(
きやうだい
)
を
泣
(
な
)
かし、
107
ヤンチヤ
の
有
(
あ
)
り
切
(
き
)
りを
尽
(
つく
)
し、
108
近所
(
きんじよ
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
109
其辺中
(
そこらぢう
)
に
迷惑
(
めいわく
)
をかける
極道
(
ごくだう
)
息子
(
むすこ
)
は
何程
(
なにほど
)
可愛
(
かあい
)
いと
云
(
い
)
うても、
110
世間
(
せけん
)
の
手前
(
てまへ
)
家
(
うち
)
に
置
(
お
)
いておくと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
まいがな。
111
それと
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
に、
112
伊邪諾
(
いざなぎ
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
や、
113
姉
(
あね
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
愛想
(
あいさう
)
をつかし、
114
世間
(
せけん
)
に
済
(
す
)
まぬと
云
(
い
)
うて
切
(
き
)
つても
切
(
き
)
れぬ
姉弟
(
きやうだい
)
の
中
(
なか
)
を
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
された
位
(
くらゐ
)
だもの、
115
酢
(
す
)
でも
蒟蒻
(
こんにやく
)
でも
行
(
い
)
く
代物
(
しろもの
)
ぢやない、
116
その
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
が
采配
(
さいはい
)
を
振
(
ふ
)
つて
居
(
を
)
る
三五教
(
あななひけう
)
へ
迷
(
まよ
)
ひ
込
(
こ
)
むとは
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
没分暁漢
(
わからずや
)
ぢやいナア、
117
三五教
(
あななひけう
)
の
真実
(
ほんと
)
の
事
(
こと
)
が
聞
(
き
)
きたけれや、
118
この
婆
(
ばば
)
が
篤
(
とつく
)
りと
説明
(
せつめい
)
して
上
(
あ
)
げる、
119
サアサア
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
く、
120
来
(
き
)
なされ
来
(
き
)
なされ』
121
お
節
(
せつ
)
『
仮令
(
たとへ
)
お
爺
(
ぢ
)
イさま、
122
お
婆
(
ば
)
アさまが
行
(
ゆ
)
くと
仰有
(
おつしや
)
つても
妾
(
わたし
)
だけはよう
参
(
まゐ
)
りませぬ』
123
婆
(
ばば
)
『エヽ
分
(
わか
)
らぬ
娘
(
こ
)
じやなア、
124
これこの
通
(
とほ
)
り
綺麗
(
きれい
)
な
二人
(
ふたり
)
の
娘
(
むすめ
)
が、
125
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
心
(
こころ
)
から
納得
(
なつとく
)
して、
126
朝夕
(
あさゆふ
)
忠実
(
ちうじつ
)
に
仕
(
つか
)
へて
居
(
を
)
るのぢや、
127
新
(
あたら
)
しい
女
(
をんな
)
の
流行
(
はや
)
る
時節
(
じせつ
)
にお
前
(
まへ
)
さまは
又
(
また
)
何
(
なん
)
とした
旧
(
ふる
)
い
頭脳
(
あたま
)
ぢや、
128
それもその
筈
(
はず
)
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
許
(
ばか
)
りも
世間
(
せけん
)
見
(
み
)
ずに、
129
岩
(
いは
)
の
穴
(
あな
)
へ
押込
(
おしこ
)
められて
居
(
ゐ
)
たのだから
世間
(
せけん
)
の
様子
(
やうす
)
も
分
(
わか
)
るまい、
130
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
進
(
すす
)
みて
居
(
を
)
るぞえ、
131
些
(
ちつ
)
と
確
(
しつか
)
りして
此
(
この
)
お
婆
(
ば
)
アさまの
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
きなされ、
132
斯
(
か
)
う
見
(
み
)
えてもこの
婆
(
ばば
)
は、
133
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
からドンナ
事
(
こと
)
にも
経験
(
けいけん
)
を
積
(
つ
)
みて
来
(
き
)
た
苦労人
(
くらうにん
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
ぢや、
134
苦労
(
くらう
)
なしに
誠
(
まこと
)
の
花
(
はな
)
は
咲
(
さ
)
かぬぞえ』
135
お
節
(
せつ
)
『お
説
(
せつ
)
は
御尤
(
ごもつと
)
もで
御座
(
ござ
)
いませうが、
136
入
(
い
)
らぬ
御
(
お
)
節介
(
せつかい
)
、
137
何
(
なん
)
と
仰
(
あふ
)
せつ
けられましても、
138
折角
(
せつかく
)
ながら
応
(
おう
)
じ
兼
(
か
)
ねます、
139
入
(
い
)
らぬ
御
(
お
)
節介
(
せつかい
)
止
(
や
)
めて
下
(
くだ
)
さいませ』
140
黒姫
(
くろひめ
)
『エイ
我
(
が
)
の
強
(
つよ
)
い
女
(
をんな
)
ぢやなア。
141
青瓢箪
(
あをべうたん
)
に
屁
(
へ
)
吸
(
す
)
はしたやうな
顔
(
かほ
)
をしやがつて、
142
ようまあツベコベと
理屈
(
りくつ
)
を
囀
(
さへづ
)
る
小娘
(
こむすめ
)
だ、
143
イヤ
我羅苦多
(
がらくた
)
娘
(
むすめ
)
ぢや、
144
もしもしお
爺
(
ぢ
)
イさま、
145
お
前
(
まへ
)
も
年
(
とし
)
が
寄
(
よ
)
つてコンナ
やんちや
娘
(
むすめ
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
ては
末
(
すゑ
)
が
案
(
あん
)
じられる、
146
もつと
真面目
(
まじめ
)
な
真実
(
ほんと
)
の
身魂
(
みたま
)
になつて、
147
お
前
(
まへ
)
さま
夫婦
(
ふうふ
)
の
安心
(
あんしん
)
の
出来
(
でき
)
るやうに
教育
(
けういく
)
して
上
(
あ
)
げるから、
148
サアサアあそこ
迄
(
まで
)
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい、
149
この
通
(
とほ
)
り
二人
(
ふたり
)
の
娘
(
むすめ
)
さまは
淑
(
しと
)
やかなものだ、
150
これも
全
(
まつた
)
く
私
(
わたし
)
の
教育
(
けういく
)
がよいからぢやぞゑ』
151
平助
(
へいすけ
)
『エヽ
喧
(
やかま
)
しいワイ、
152
娘
(
むすめ
)
がお
転婆
(
てんば
)
にならうと、
153
何
(
ど
)
うならうと
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
のお
世話
(
せわ
)
にならぬ
哩
(
わい
)
、
154
サアサアお
節
(
せつ
)
、
155
コンナ
糞婆
(
くそばば
)
に
係
(
かか
)
り
合
(
あ
)
つて
居
(
を
)
つたら
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れる、
156
サアサア
行
(
ゆ
)
かう
行
(
ゆ
)
かう』
157
お
楢
(
なら
)
『モシモシお
爺
(
ぢ
)
イさま、
158
さう
云
(
い
)
つたものぢやない、
159
一
(
ひと
)
つお
前
(
まへ
)
聞
(
き
)
いたらどうぢや、
160
後生
(
ごしやう
)
のためになるかも
知
(
し
)
れぬぞえ』
161
此
(
この
)
時
(
とき
)
前方
(
ぜんぱう
)
より
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひながら
遣
(
や
)
つて
来
(
く
)
る
二人
(
ふたり
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
があつた。
162
お
節
(
せつ
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
力
(
ちから
)
を
得
(
え
)
、
163
宣伝歌
(
せんでんか
)
に
合
(
あは
)
して、
164
お節
『
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
165
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
166
誠
(
まこと
)
の
力
(
ちから
)
は
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ』
167
と
手
(
て
)
を
打
(
う
)
ち
踊
(
をど
)
り
出
(
だ
)
したれば、
168
黒姫
(
くろひめ
)
は
前後
(
ぜんご
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
板挟
(
いたばさ
)
みとなり、
169
黒姫
(
くろひめ
)
『エイエイ、
170
折
(
をり
)
も
折
(
をり
)
肝腎
(
かんじん
)
の
所
(
ところ
)
へ
又
(
また
)
もや
我羅苦多
(
がらくた
)
宣伝使
(
せんでんし
)
奴
(
め
)
が
来
(
き
)
よつて
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
い
哩
(
わい
)
。
171
亡国
(
ばうこく
)
的
(
てき
)
の
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しよつて、
172
アヽ
胸
(
むね
)
が
苦
(
くる
)
しい、
173
サアサアお
爺
(
ぢ
)
イさまにお
婆
(
ば
)
アさま、
174
アンナ
奴
(
やつ
)
に
見付
(
みつ
)
かつたら
大変
(
たいへん
)
だ、
175
其
(
その
)
ヤンチヤ
娘
(
むすめ
)
も
早
(
はや
)
く
私
(
わたし
)
の
後
(
あと
)
へついて
来
(
く
)
るのだよ』
176
お
楢
(
なら
)
『サアサア
平助
(
へいすけ
)
さま、
177
お
前
(
まへ
)
この
方
(
かた
)
の
後
(
あと
)
に
随
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
かう、
178
怖
(
こわ
)
い
者
(
もの
)
が
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るさうな』
179
平助
(
へいすけ
)
『お
節
(
せつ
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて、
180
三五教
(
あななひけう
)
と
云
(
い
)
ふのがある
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いたが、
181
何
(
なん
)
だか
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のやうな
声
(
こゑ
)
だ、
182
俺
(
おれ
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
くと
益々
(
ますます
)
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
有難
(
ありがた
)
くなつて
来
(
き
)
たワイ』
183
黒姫
(
くろひめ
)
『エイエイ
仕方
(
しかた
)
のない
耄碌
(
まうろく
)
許
(
ばか
)
りぢやなア、
184
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つで
助
(
たす
)
けてやらうと
思
(
おも
)
へば、
185
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
嫌
(
いや
)
がつて
滅亡
(
ほろび
)
の
道
(
みち
)
に
飛
(
と
)
んで
行
(
ゆ
)
かうとする。
186
嗚呼
(
ああ
)
、
187
縁
(
えん
)
なき
衆生
(
しうじやう
)
は
済度
(
さいど
)
し
難
(
がた
)
しとは、
188
能
(
よ
)
く
云
(
い
)
うたものだ。
189
エヽ
気分
(
きぶん
)
の
悪
(
わる
)
い、
190
宣伝歌
(
せんでんか
)
が
段々
(
だんだん
)
近
(
ちか
)
づいて
来
(
く
)
る、
191
これこれ
清
(
きよ
)
さま、
192
照
(
てる
)
さま、
193
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く』
194
と
急
(
せ
)
き
立
(
た
)
て、
195
傍
(
かたはら
)
の
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みに
手早
(
てばや
)
く
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したり。
196
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれたる
二人
(
ふたり
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
音彦
(
おとひこ
)
と
青彦
(
あをひこ
)
なりける。
197
音彦、青彦
『ヤアお
前
(
まへ
)
さまは
丹波村
(
たんばむら
)
のお
爺
(
ぢ
)
イさま、
198
お
婆
(
ば
)
アさまに
娘
(
むすめ
)
さまぢやな、
199
夜前
(
やぜん
)
は
岩公
(
いはこう
)
や、
200
勘公
(
かんこう
)
、
201
櫟公
(
いちこう
)
が
豪
(
えら
)
い
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になつたさうですナア。
202
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
が
大変
(
たいへん
)
に
御
(
お
)
待兼
(
まちかね
)
です、
203
サアサア
行
(
ゆ
)
きませう』
204
平助
(
へいすけ
)
『イヽエ、
205
何
(
ど
)
う
致
(
いた
)
しまして、
206
誠
(
まこと
)
に
不都合
(
ふつがふ
)
な
家
(
うち
)
でお
礼
(
れい
)
を
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
うと
却
(
かへつ
)
て
心苦
(
こころぐる
)
しう
御座
(
ござ
)
います、
207
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
蔭
(
かげ
)
で
一年振
(
いちねんぶり
)
に、
208
大事
(
だいじ
)
な
大事
(
だいじ
)
なお
節
(
せつ
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ました。
209
これこれお
楢
(
なら
)
、
210
お
節
(
せつ
)
、
211
此
(
この
)
方
(
かた
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
使
(
つかひ
)
様
(
さま
)
だ、
212
サアサアちやつと
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
さぬか』
213
お
楢
(
なら
)
『
貴方
(
あなた
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
使
(
つかひ
)
、
214
何
(
なに
)
も
申
(
まをし
)
ませぬ、
215
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います』
216
と
涙
(
なみだ
)
ぐむ。
217
お
節
(
せつ
)
『
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
蔭
(
かげ
)
で
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
ひました、
218
何分
(
なにぶん
)
宜敷
(
よろし
)
く
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します』
219
音彦
(
おとひこ
)
『
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に
何
(
なん
)
だか
人影
(
ひとかげ
)
が
現
(
あら
)
はれて、
220
クサクサと
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
たやうですが、
221
何処
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
きましたか』
222
お
節
(
せつ
)
『ハイ
黒姫
(
くろひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
婆
(
ば
)
アさまが
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て、
223
二人
(
ふたり
)
の
綺麗
(
きれい
)
な
娘
(
むすめ
)
さまと
共
(
とも
)
に
私
(
わたくし
)
等
(
ら
)
親子
(
おやこ
)
の
者
(
もの
)
に
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
に
詣
(
まゐ
)
るな、
224
此方
(
こつち
)
へ
来
(
こ
)
いと
云
(
い
)
つて
道
(
みち
)
を
塞
(
ふさ
)
ぎ
困
(
こま
)
つて
居
(
ゐ
)
ました、
225
其処
(
そこ
)
へ
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
が
聞
(
きこ
)
えましたので、
226
……とうとう
何処
(
どこ
)
かへ
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しました、
227
アヽ
良
(
い
)
い
所
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいまして
親子
(
おやこ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
助
(
たす
)
かりました。
228
これと
云
(
い
)
ふのも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
引合
(
ひきあは
)
せで
御座
(
ござ
)
いませう』
229
音彦
(
おとひこ
)
『ヤア
何
(
なん
)
と
仰
(
あふ
)
せられます、
230
黒姫
(
くろひめ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
ましたか、
231
どこまでも
執拗
(
しつえう
)
な
奴
(
やつ
)
ぢやナア、
232
ハテ
何処
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
きよつたか
知
(
し
)
らぬ』
233
お
節
(
せつ
)
『
今
(
いま
)
此
(
この
)
林
(
はやし
)
の
中
(
なか
)
をコソコソと
下
(
くだ
)
つて
行
(
ゆ
)
きましたよ』
234
音彦
(
おとひこ
)
『
何
(
ど
)
うも
仕方
(
しかた
)
のない
奴
(
やつ
)
ぢやなア、
235
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
早
(
はや
)
く
御
(
お
)
参詣
(
まゐり
)
致
(
いた
)
しませう、
236
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
が
貴方
(
あなた
)
のお
出
(
いで
)
を
大変
(
たいへん
)
お
待
(
ま
)
ち
兼
(
か
)
ねで、
237
吾々
(
われわれ
)
はお
迎
(
むか
)
ひに
参
(
まゐ
)
つたのです、
238
サア
行
(
ゆ
)
きませう』
239
と
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
勢
(
いきほひ
)
よく
西
(
にし
)
へ
西
(
にし
)
へと
辿
(
たど
)
り
行
(
ゆ
)
く。
240
(
大正一一・四・二一
旧三・二五
加藤明子
録)
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