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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第17巻(辰の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 雪山幽谷
第1章 黄金の衣
第2章 魔の窟
第3章 生死不明
第4章 羽化登仙
第5章 誘惑婆
第6章 瑞の宝座
第2篇 千態万様
第7章 枯尾花
第8章 蚯蚓の囁
第9章 大逆転
第10章 四百種病
第11章 顕幽交通
第3篇 鬼ケ城山
第12章 花と花
第13章 紫姫
第14章 空谷の足音
第15章 敵味方
第16章 城攻
第17章 有終の美
霊の礎(三)
暁山雲(謡曲)
余白歌
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霊界物語
>
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第17巻(辰の巻)
> 第1篇 雪山幽谷 > 第4章 羽化登仙
<<< 生死不明
(B)
(N)
誘惑婆 >>>
第四章
羽化
(
うくわ
)
登仙
(
とうせん
)
〔六一五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻
篇:
第1篇 雪山幽谷
よみ(新仮名遣い):
せつざんゆうこく
章:
第4章 羽化登仙
よみ(新仮名遣い):
うかとうせん
通し章番号:
615
口述日:
1922(大正11)年04月21日(旧03月25日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年1月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
魔の岩窟から本物のお節を救い出した一行は、真名井ケ原に進んで行く。五人の男は裸のまま、比治山颪に吹かれながら坂を登っていく。
岩公、勘公、櫟公は寒さしのぎに、平助、お楢、お節を背負って登っていくことにした。
平助は鬼虎・鬼彦の一年前の仕業をまだ根に持っていて、意地の悪いことを言い続ける。鬼虎と鬼彦が相撲をしたはずみに谷へ落ち込んだのを見ても、愉快気に笑って悪態をついている。また平助とお楢は、一同の心を疑って、泥棒扱いをする。
そのうちに鬼彦と鬼虎は自力で谷から上がってきた。すると天から微妙の音楽が聞こえて空中に声がし、岩公、勘公、櫟公に宣伝使服が降された。
宣伝使服は三人に自然に密着すると、三人は天女の姿になって空中を翔けて真名井ケ原に飛んでいった。
この様を見て、お節は泣いて非を詫び、平助とお楢に改心を促した。
次に鬼虎と鬼彦にも宣伝使服が降され、二人も霊地に向かって空中を翔けて行った。
平助はあんな者どもが天女になるなんて、と愚痴をこぼしている。お楢は、自分たち夫婦が若い頃から金に強欲で、人の心を殺してきた罪から、去年お節をさらわれた凶事が出てきたのではないか、と省みた。そして、これは神様が善と悪の鑑を見せてくださったのだ、と平助に改心を促した。
五人の男が羽化登仙したのは、実は肉体では徹底的な改心ができず、神業に参加する資格がないために、神界の慈悲によって凍死せしめたのであった。そうして、天国に救って神業に参加させたのである。
五人の遺体は平助親子の知らぬ間に土中に深く埋められた。
そして真の悦子姫、音彦、青彦、加米彦はすでに真名井ケ原に到着していた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-02-17 17:06:22
OBC :
rm1704
愛善世界社版:
54頁
八幡書店版:
第3輯 543頁
修補版:
校定版:
56頁
普及版:
23頁
初版:
ページ備考:
001
名
(
な
)
さへ
恐
(
おそ
)
ろしき
魔
(
ま
)
の
岩窟
(
いはや
)
よりお
節
(
せつ
)
を
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
し、
002
鬼彦
(
おにひこ
)
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
裸
(
はだか
)
のまま、
003
比治山
(
ひぢやま
)
颪
(
おろし
)
に
吹
(
ふ
)
かれ、
004
震
(
ふる
)
ひ
震
(
ふる
)
ひ
平助
(
へいすけ
)
親子
(
おやこ
)
を
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
て、
005
雪解
(
ゆきどけ
)
の
山坂
(
やまさか
)
を
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
006
岩公
(
いはこう
)
『アヽ
平助
(
へいすけ
)
さま、
007
お
楢
(
なら
)
さま、
008
年寄
(
としよ
)
りの
身
(
み
)
で、
009
此
(
この
)
山坂
(
やまさか
)
をお
上
(
のぼ
)
りになるのは、
010
大抵
(
たいてい
)
の
事
(
こと
)
ぢや
有
(
あ
)
りますまい。
011
お
節
(
せつ
)
さまも
永
(
なが
)
い
間
(
あひだ
)
、
012
岩
(
いは
)
の
中
(
なか
)
に
押
(
お
)
し
込
(
こ
)
められ、
013
足
(
あし
)
も
弱
(
よわ
)
つたでせう。
014
どうぞ、
015
吾々
(
われわれ
)
は
若
(
わか
)
い
者
(
もの
)
、
016
あなた
方
(
がた
)
を
負
(
お
)
はして
下
(
くだ
)
さいませぬかナア』
017
平助
(
へいすけ
)
『イエイエ
滅相
(
めつさう
)
な、
018
ソンナ
事
(
こと
)
をすると、
019
参詣
(
まゐ
)
つたが
参詣
(
まゐ
)
つたになりませぬ。
020
人様
(
ひとさま
)
のお
世話
(
せわ
)
になつて
行
(
ゆ
)
く
位
(
くらゐ
)
なら、
021
婆
(
ばば
)
アと
二人
(
ふたり
)
が
炬燵
(
こたつ
)
の
中
(
なか
)
から
拝
(
をが
)
みて
居
(
を
)
りますわ』
022
岩公
(
いはこう
)
『これはしたり
平助
(
へいすけ
)
さま、
023
それもさうだが、
024
吾々
(
われわれ
)
を
助
(
たす
)
けると
思
(
おも
)
つて、
025
負
(
お
)
はれて
下
(
くだ
)
さい。
026
実
(
じつ
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
へば、
027
赤裸
(
まるはだか
)
で
風
(
かぜ
)
に
当
(
あて
)
られ、
028
何程
(
なにほど
)
元気
(
げんき
)
な
私
(
わたし
)
達
(
たち
)
でも、
029
辛抱
(
しんばう
)
が
出来
(
でき
)
ませぬ、
030
負
(
お
)
はして
下
(
くだ
)
さらば、
031
体
(
からだ
)
も
暖
(
あたたか
)
くなり、
032
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
さま
等
(
ら
)
も
楽
(
らく
)
に
参
(
まゐ
)
れると
云
(
い
)
ふものだ。
033
此
(
こ
)
れが
一挙
(
いつきよ
)
両得
(
りやうとく
)
、
034
私
(
わたし
)
も
喜
(
よろこ
)
び、
035
あなた
方
(
がた
)
も
楽
(
らく
)
に
参
(
まゐ
)
れると
云
(
い
)
ふものぢや。
036
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
好
(
この
)
んで
苦労
(
くらう
)
をせよとは
仰有
(
おつしや
)
らぬ。
037
チツとでも
楽
(
らく
)
に
信神
(
しんじん
)
が
出来
(
でき
)
るのを、
038
お
喜
(
よろこ
)
びなさるのだから、
039
どうぞ
痩馬
(
やせうま
)
に
乗
(
の
)
ると
思
(
おも
)
つて、
040
私
(
わたし
)
の
背中
(
せなか
)
にとまつて
下
(
くだ
)
さいな』
041
平助
(
へいすけ
)
『お
前
(
まへ
)
の
背中
(
せなか
)
は
宿屋
(
やどや
)
ぢやあるまいし、
042
………
鳥
(
とり
)
かなぞの
様
(
やう
)
にトマル
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るかい。
043
あまり
人
(
ひと
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするものぢやない』
044
岩公
(
いはこう
)
『ヤア
是
(
こ
)
れは
是
(
こ
)
れは
失言
(
しつげん
)
致
(
いた
)
しました。
045
どうぞ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
さま
共
(
とも
)
、
046
御
(
お
)
馬
(
うま
)
の
御用
(
ごよう
)
を
仰
(
あふ
)
せ
付
(
つ
)
け
下
(
くだ
)
さいますれば、
047
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます』
048
平助
(
へいすけ
)
『コレコレお
楢
(
なら
)
、
049
お
節
(
せつ
)
、
050
大分
(
だいぶ
)
キツイ
坂
(
さか
)
ぢや。
051
裸馬
(
はだかうま
)
に
乗
(
の
)
ると
思
(
おも
)
うて、
052
乗
(
の
)
つてやらうかい』
053
お
楢
(
なら
)
『アハヽヽヽ、
054
二本足
(
にほんあし
)
の
馬
(
うま
)
に
乗
(
の
)
るのはお
爺
(
ぢい
)
サン、
055
ちつと
剣呑
(
けんのん
)
ぢやないかい』
056
平助
(
へいすけ
)
『ナアニ、
057
此奴
(
こいつ
)
ア
六本足
(
ろつぽんあし
)
だ。
058
本当
(
ほんたう
)
の
馬
(
うま
)
より
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
かも
知
(
し
)
れぬ』
059
岩公
(
いはこう
)
『おぢいさま、
060
六本足
(
ろつぽんあし
)
とはソラどう
言
(
い
)
ふものだ。
061
三
(
さん
)
人
(
にん
)
一緒
(
いつしよ
)
に
勘定
(
かんぢやう
)
しられては、
062
チツと
困
(
こま
)
るデ……』
063
平助
(
へいすけ
)
『ナニお
前
(
まへ
)
、
064
三
(
さん
)
人
(
にん
)
寄
(
よ
)
れば
十八本
(
じふはちほん
)
だ。
065
お
前
(
まへ
)
一人
(
ひとり
)
で
六本
(
ろつぽん
)
ぢや。
066
肉体
(
にくたい
)
の
足
(
あし
)
が
二本
(
にほん
)
と、
067
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
の
四足
(
よつあし
)
と
合
(
あ
)
はしたら、
068
六本
(
ろつぽん
)
になるぢやないかい』
069
鬼彦
(
おにひこ
)
『アハヽヽヽ、
070
馬鹿
(
ばか
)
にしよる。
071
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
獣類
(
けもの
)
扱
(
あつかひ
)
にするのだなア』
072
平助
(
へいすけ
)
『
定
(
き
)
まつた
事
(
こと
)
だよ。
073
狐
(
きつね
)
とも、
074
狸
(
たぬき
)
とも、
075
鬼
(
おに
)
とも
分
(
わか
)
らぬ
代物
(
しろもの
)
だ。
076
六本足
(
ろつぽんあし
)
と
言
(
い
)
うて
貰
(
もら
)
うのはまだ
結構
(
けつこう
)
ぢや』
077
鬼彦
(
おにひこ
)
『エツ、
078
寒
(
さむ
)
いのに
仕様
(
せう
)
もない
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて、
079
冷
(
ひや
)
かして
呉
(
く
)
れないツ………ナア
鬼虎
(
おにとら
)
、
080
寒
(
さむ
)
いぢやないか』
081
鬼虎
(
おにとら
)
『ウン、
082
大分
(
だいぶ
)
に
能
(
よ
)
く
感
(
かん
)
じますなア、
083
………もしもしおぢいさま、
084
お
婆
(
ば
)
アさま、
085
どうぞ
吾々
(
われわれ
)
を
助
(
たす
)
けると
思
(
おも
)
うて、
086
背中
(
せなか
)
に
乗
(
の
)
つて
下
(
くだ
)
さい………アヽ
寒
(
さむ
)
いさむい、
087
お
助
(
たす
)
けだ』
088
平助
(
へいすけ
)
『アヽそれならば、
089
お
楢
(
なら
)
や、
090
お
節
(
せつ
)
、
091
乗
(
の
)
つてやらうかい。
092
大分
(
だいぶ
)
寒
(
さむ
)
さうぢや。
093
チツと
汗
(
あせ
)
を
掻
(
か
)
かしてやつたら、
094
温
(
ぬく
)
もつてよからう。
095
これも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
参
(
まゐ
)
りの
善根
(
ぜんこん
)
ぢやと
思
(
おも
)
うて、
096
少々
(
せうせう
)
苦
(
くる
)
しいても
辛抱
(
しんばう
)
してやらう。
097
其
(
その
)
代
(
かは
)
りにお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
、
098
落
(
おと
)
す
事
(
こと
)
はならぬぞ、
099
落
(
おと
)
したが
最後
(
さいご
)
神罰
(
しんばつ
)
が
当
(
あた
)
るから、
100
鄭重
(
ていちよう
)
にお
伴
(
とも
)
するが
良
(
よ
)
いワ』
101
鬼彦、鬼虎
『ヤア
早速
(
さつそく
)
のお
聞
(
きき
)
届
(
とど
)
け、
102
鬼彦
(
おにひこ
)
、
103
鬼虎
(
おにとら
)
、
104
身
(
み
)
に
取
(
と
)
り、
105
歓喜
(
くわんき
)
雀躍
(
じやくやく
)
の
至
(
いた
)
りで
御座
(
ござ
)
います』
106
平助
(
へいすけ
)
『コレ、
107
彦
(
ひこ
)
に、
108
虎
(
とら
)
、
109
誰
(
たれ
)
がお
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
な、
110
意地癖
(
いぢくせ
)
の
悪
(
わる
)
いジヤジヤ
馬
(
うま
)
に
乗
(
の
)
るものか、
111
わしの
乗
(
の
)
るのは
岩馬
(
いはうま
)
ぢや。
112
婆
(
ばば
)
アは
勘馬
(
かんうま
)
の
背中
(
せなか
)
に、
113
お
節
(
せつ
)
は
櫟馬
(
いちうま
)
の
背中
(
せなか
)
に
乗
(
の
)
つて
往
(
い
)
くのだよ。
114
大
(
おほ
)
きに、
115
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
有難
(
ありがた
)
う』
116
鬼虎、鬼彦
『どうしても
吾々
(
われわれ
)
には、
117
御
(
お
)
思召
(
ぼしめし
)
が
御座
(
ござ
)
いませぬか』
118
平助
(
へいすけ
)
『エー、
119
何程
(
なにほど
)
金
(
かね
)
を
呉
(
く
)
れたつて、
120
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
の
様
(
やう
)
な
者
(
もの
)
に
乗
(
の
)
つて
堪
(
たま
)
るかい。
121
体
(
からだ
)
が
汚
(
けが
)
れますワイ。
122
一寸
(
いつすん
)
の
虫
(
むし
)
も
五分
(
ごぶ
)
の
魂
(
たましひ
)
だ。
123
酷
(
えら
)
い
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はされて、
124
負
(
お
)
うて
貰
(
もら
)
つた
位
(
くらゐ
)
で、
125
恨
(
うら
)
みを
晴
(
は
)
らす
様
(
やう
)
な
腰抜
(
こしぬけ
)
があつてたまるものか。
126
何処
(
どこ
)
までも、
127
お
前
(
まへ
)
の
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
にやなりませぬワイナ』
128
鬼虎
(
おにとら
)
『アーア、
129
執心
(
しつしん
)
の
深
(
ふか
)
いお
老爺
(
ぢい
)
さまだ。
130
併
(
しか
)
しこれも
身
(
み
)
から
出
(
で
)
た
錆
(
さび
)
だ。
131
………エー
仕方
(
しかた
)
がない、
132
寒
(
さぶ
)
い
寒
(
さぶ
)
い、
133
体
(
からだ
)
も
何
(
なに
)
も
氷結
(
ひようけつ
)
しさうだ。
134
比治山
(
ひぢやま
)
峠
(
たうげ
)
に
於
(
おい
)
て、
135
首尾
(
しゆび
)
能
(
よ
)
く
凍死
(
とうし
)
するのかなア……オイ
鬼彦
(
おにひこ
)
、
136
一
(
ひと
)
つ……モウ
仕方
(
しかた
)
がないから、
137
裸
(
はだか
)
を
幸
(
さいは
)
ひ、
138
相撲
(
すまう
)
でも
取
(
と
)
つて、
139
体
(
からだ
)
でも
温
(
ぬく
)
めやうぢやないか』
140
鬼彦
『オウさうぢや。
141
良
(
い
)
い
所
(
ところ
)
へ
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
いた』
142
と
二人
(
ふたり
)
は
少
(
すこ
)
し
広
(
ひろ
)
い
所
(
ところ
)
に
佇
(
たたず
)
み、
143
両方
(
りやうはう
)
から
力
(
ちから
)
を
籠
(
こ
)
めて、
144
押合
(
おしあ
)
ひを
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
145
あまり
力
(
ちから
)
を
入
(
い
)
れすぎ、
146
ヨロヨロと、
147
鬼彦
(
おにひこ
)
が
蹌跟
(
よろめ
)
く
途端
(
とたん
)
に、
148
二人
(
ふたり
)
は
真裸
(
まつぱだか
)
の
儘
(
まま
)
、
149
雑木
(
ざふき
)
茂
(
しげ
)
れる
急坂
(
きふはん
)
をかすり
乍
(
なが
)
ら、
150
谷底
(
たにそこ
)
へ
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
みにける。
151
平助
(
へいすけ
)
は
背中
(
せなか
)
に
負
(
お
)
はれ
乍
(
なが
)
ら、
152
平助
(
へいすけ
)
『アーア
罰
(
ばち
)
は
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
じや。
153
あまり
悪党
(
あくたう
)
な
事
(
こと
)
をすると、
154
アンナものぢや。
155
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
正直
(
しやうぢき
)
ぢやなア。
156
……オイ
岩公
(
いはこう
)
、
157
貴様
(
きさま
)
も
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
の……もとは
乾児
(
こぶん
)
ぢやつたらう。
158
今日
(
けふ
)
は
俺
(
おれ
)
のお
蔭
(
かげ
)
で
温
(
ぬく
)
い
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はして
貰
(
もら
)
うて、
159
さぞ
満足
(
まんぞく
)
ぢやらう。
160
アハヽヽヽ』
161
岩公
(
いはこう
)
『コレコレぢいさま、
162
お
前
(
まへ
)
さまも
好
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
打解
(
うちと
)
けたらどうだイ。
163
あれ
丈
(
だけ
)
鬼彦
(
おにひこ
)
や、
164
鬼虎
(
おにとら
)
の
哥兄
(
あにい
)
が
改心
(
かいしん
)
して、
165
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
謝罪
(
あやま
)
つて
居
(
を
)
るのに、
166
お
前
(
まへ
)
さまはどこまでも
好
(
い
)
い
気
(
き
)
になつて、
167
苦
(
くるし
)
めようとするのか……イヤ
恥
(
はぢ
)
をかかすのか。
168
斯
(
か
)
うなると、
169
此
(
この
)
岩公
(
いはこう
)
も
却
(
かへつ
)
て
二人
(
ふたり
)
の
方
(
はう
)
に
同情
(
どうじやう
)
したくなつて
来
(
き
)
た。
170
エー
平助
(
へいすけ
)
ヂイ
奴
(
め
)
がツ……
谷底
(
たにそこ
)
へ
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
みてやらうか。
171
好
(
よ
)
い
気
(
き
)
になりよつて、
172
あまりだ。
173
傲慢
(
ごうまん
)
不遜
(
ふそん
)
な
糞老爺
(
くそぢぢ
)
奴
(
め
)
が……』
174
平助
(
へいすけ
)
『コラコラ
岩公
(
いはこう
)
、
175
滅多
(
めつた
)
な
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
すまいぞ。
176
コンナ
所
(
ところ
)
へ
放
(
はう
)
られようものなら、
177
それこそ
一
(
ひと
)
たまりもない、
178
俺
(
おれ
)
の
生命
(
いのち
)
は
風前
(
ふうぜん
)
の
灯火
(
ともしび
)
だ。
179
気
(
き
)
を
附
(
つ
)
けて
行
(
ゆ
)
かぬかい。
180
……
第一
(
だいいち
)
貴様
(
きさま
)
の
足
(
あし
)
は
長短
(
ながみじか
)
があつて、
181
乗心地
(
のりごこち
)
が
悪
(
わる
)
い。
182
其
(
その
)
跛馬
(
びつこうま
)
に
乗
(
の
)
つてやつて
居
(
を
)
るのに、
183
何
(
なん
)
ぢや、
184
其
(
その
)
恩
(
おん
)
を
忘
(
わす
)
れよつて、
185
御託
(
ごうたく
)
吐
(
ぬか
)
すと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
有
(
あ
)
るものか。
186
グヅグヅ
云
(
い
)
うと、
187
鬢
(
びん
)
の
毛
(
け
)
をひつぱつてやらうか』
188
岩公
(
いはこう
)
『アイタヽヽ、
189
コラぢいさま、
190
ソンナ
所
(
とこ
)
を
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱ
)
られると、
191
痛
(
いた
)
いワイ』
192
平助
(
へいすけ
)
『
痛
(
いた
)
い
様
(
やう
)
に
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱ
)
るのだ。
193
サアしつかりと
上
(
のぼ
)
らぬか、
194
………モツとひつぱらうか』
195
岩公
(
いはこう
)
『オイ
勘公
(
かんこう
)
、
196
櫟公
(
いちこう
)
、
197
どうぢや、
198
大変
(
たいへん
)
都合
(
つがふ
)
が
好
(
い
)
い
所
(
とこ
)
が
有
(
あ
)
る。
199
三
(
さん
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に
此処
(
ここ
)
から
転
(
ころ
)
げたろか。
200
あまり
劫腹
(
ごうはら
)
ぢやないか、
201
此
(
この
)
糞老爺
(
くそぢぢ
)
奴
(
め
)
、
202
馬鹿
(
ばか
)
にしやがる。
203
裸一貫
(
はだかいつくわん
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
を
掴
(
つか
)
まへて、
204
爺
(
ぢぢ
)
、
205
婆
(
ばば
)
アや
阿魔女
(
あまつちよ
)
に、
206
コミワラれて
堪
(
た
)
まるものかい。
207
此処
(
ここ
)
まで、
208
吾々
(
われわれ
)
も
善
(
ぜん
)
を
尽
(
つく
)
し、
209
親切
(
しんせつ
)
を
尽
(
つく
)
して
来
(
き
)
たのだ。
210
最早
(
もはや
)
勘忍袋
(
かんにんぶくろ
)
の
緒
(
を
)
が
切
(
き
)
れた。
211
鬼彦
(
おにひこ
)
、
212
鬼虎
(
おにとら
)
の
哥兄
(
あにい
)
は
今頃
(
いまごろ
)
は
谷底
(
たにそこ
)
に
落
(
お
)
ちて、
213
ドンナ
目
(
め
)
に
遭
(
あ
)
つてるか
知
(
し
)
れやしないぞ。
214
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
一緒
(
いつしよ
)
こたに
谷底
(
たにそこ
)
へ
放
(
はう
)
り
込
(
こ
)
んで、
215
俺
(
おい
)
等
(
ら
)
も
一緒
(
いつしよ
)
に、
216
哥兄
(
あにい
)
と
心中
(
しんぢう
)
しやうぢやないか』
217
勘公
(
かんこう
)
『オウさうぢや、
218
俺
(
おれ
)
もモウむかついて
来
(
き
)
た。
219
此
(
この
)
坂
(
さか
)
を
婆
(
ばば
)
アを
背中
(
せなか
)
に
乗
(
の
)
せて、
220
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
さまとも
言
(
い
)
うて
貰
(
もら
)
はずに、
221
恩
(
おん
)
に
着
(
き
)
せられ、
222
おまけに
悪口
(
あくこう
)
までつかれて
堪
(
たま
)
つたものぢや
無
(
な
)
い、
223
いつその
事
(
こと
)
、
224
一
(
ひ
)
イ
二
(
ふ
)
ウ
三
(
みつ
)
ツでやつたろかい………アイタヽヽ……コラコラ
婆
(
ば
)
アさま、
225
酷
(
ひど
)
い
事
(
こと
)
をするない。
226
鬢
(
びん
)
の
毛
(
け
)
を
無茶
(
むちや
)
苦茶
(
くちや
)
にひつぱりよつて……』
227
お
楢
(
なら
)
『
曳
(
ひ
)
かいでかい
曳
(
ひ
)
かいでかい、
228
此
(
この
)
馬
(
うま
)
は
手綱
(
たづな
)
が
無
(
な
)
いから、
229
手綱
(
たづな
)
の
代
(
かは
)
りに、
230
鬢
(
びん
)
なと
引
(
ひ
)
かねば、
231
どうして
馬
(
うま
)
が
動
(
うご
)
くものか。
232
シイ、
233
シーツ……ドード……ハイハイ』
234
勘公
(
かんこう
)
『エーツ、
235
怪体
(
けたい
)
の
悪
(
わる
)
い……
愈
(
いよいよ
)
四足
(
よつあし
)
扱
(
あつか
)
ひにしられて
了
(
しま
)
つた。
236
……オイ
櫟公
(
いちこう
)
、
237
貴様
(
きさま
)
はどうだ。
238
一
(
ひ
)
イ
二
(
ふ
)
ウ
三
(
みつ
)
ツで、
239
谷底
(
たにそこ
)
へゴロンとやらうぢやないか。
240
貴様
(
きさま
)
も
賛成
(
さんせい
)
ぢやらう』
241
櫟公
(
いちこう
)
『どうしてどうして、
242
是
(
こ
)
れが
放
(
ほか
)
されるものか。
243
寒
(
さむ
)
うて
堪
(
たま
)
らない
所
(
ところ
)
を
温
(
あたた
)
かうして
貰
(
もら
)
つて、
244
汗
(
あせ
)
の
出
(
で
)
るのも
三
(
さん
)
人
(
にん
)
のお
蔭
(
かげ
)
だ。
245
ソンナ
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
うと
冥加
(
みやうが
)
に
尽
(
つ
)
きるぞ。
246
罰
(
ばち
)
が
当
(
あた
)
らうぞい……』
247
勘公
(
かんこう
)
『アヽ
貴様
(
きさま
)
はよつ
程
(
ぽど
)
目カ一
(
めかいち
)
ヽヽ
(
ちよんちよん
)
の
十
(
じふ
)
ぢやな。
248
お
節
(
せつ
)
の
若
(
わか
)
い
娘
(
むすめ
)
に
跨
(
またが
)
つて
貰
(
もら
)
ひ、
249
気分
(
きぶん
)
が
良
(
よ
)
からうが、
250
俺
(
おれ
)
は
皺苦茶
(
しわくちや
)
だらけの、
251
骨
(
ほね
)
の
堅
(
かた
)
い
婆
(
ば
)
アを
背中
(
せなか
)
に
負
(
お
)
うて、
252
温
(
ぬく
)
い
事
(
こと
)
も、
253
なんにも
有
(
あ
)
りやしないワ。
254
喃
(
のう
)
、
255
岩公
(
いはこう
)
……』
256
岩公
(
いはこう
)
『オウさうぢや、
257
まだ
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
は
婆
(
ばば
)
アでも
女
(
をんな
)
だから
好
(
い
)
いが、
258
俺
(
おれ
)
の
身
(
み
)
になつて
見
(
み
)
い、
259
堅
(
かた
)
い
堅
(
かた
)
いコンパスを、
260
ニユウと
前
(
まへ
)
の
方
(
はう
)
へ
突出
(
つきだ
)
しよつて、
261
前高
(
まへだか
)
の
山路
(
やまみち
)
、
262
歩
(
ある
)
けたものぢやないワ。
263
エー、
264
大分
(
だいぶ
)
に
体
(
からだ
)
も
温
(
ぬく
)
うなつた。
265
……オイ
老爺
(
ぢい
)
に、
266
婆
(
ば
)
ア、
267
モウ
下
(
お
)
りて
貰
(
もら
)
ひませうかイ』
268
平助
(
へいすけ
)
『アヽもう
下
(
おろ
)
して
下
(
くだ
)
さるか。
269
それは
有難
(
ありがた
)
い。
270
酷
(
きつ
)
い
所
(
ところ
)
はモウ
済
(
す
)
みたし、
271
此
(
これ
)
からは
平地
(
ひらち
)
なり、
272
前下
(
まへさ
)
がり
路
(
みち
)
だ。
273
目
(
め
)
を
塞
(
ふさ
)
いどつても、
274
モウ
往
(
ゆ
)
ける……アー
苦
(
くる
)
しい
事
(
こと
)
ぢやつた。
275
其
(
その
)
代
(
かは
)
りお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
又
(
また
)
寒
(
さむ
)
いぞ。
276
昔
(
むかし
)
の
地金
(
ぢがね
)
を
出
(
だ
)
して、
277
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
着物
(
きもの
)
を
追剥
(
おひはぎ
)
でもしやせぬかな』
278
岩公
(
いはこう
)
『アヽ
老爺
(
ぢい
)
さま、
279
情
(
なさけ
)
無
(
な
)
い
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れな。
280
改心
(
かいしん
)
した
以上
(
いじやう
)
は、
281
塵片
(
ちりぎれ
)
一本
(
いつぽん
)
だつて、
282
他人
(
ひと
)
の
物
(
もの
)
を
盗
(
と
)
る
様
(
やう
)
な
根性
(
こんじやう
)
が
出
(
で
)
るものかいナ』
283
平助
(
へいすけ
)
『それでもなア、
284
婆
(
ば
)
ア、
285
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
の
改心
(
かいしん
)
と
云
(
い
)
ふものは、
286
当
(
あて
)
にならぬものぢや。
287
婆
(
ば
)
ア、
288
しつかりして
居
(
を
)
れよ』
289
お
楢
(
なら
)
『さうともさうとも、
290
老爺
(
ぢい
)
さまお
前
(
まへ
)
も
確
(
しつか
)
りしなさい、
291
コレコレお
節
(
せつ
)
や、
292
お
前
(
まへ
)
も
気
(
き
)
を
附
(
つ
)
けぬと
云
(
い
)
うと、
293
何時
(
なんどき
)
追剥
(
おひはぎ
)
に
早変
(
はやがは
)
りするかも
知
(
し
)
れたものぢやない。
294
背
(
せ
)
に
腹
(
はら
)
は
替
(
か
)
へられぬと
云
(
い
)
つて、
295
年寄
(
としよ
)
りや、
296
女子
(
をなご
)
を
幸
(
さいは
)
ひに、
297
追剥
(
おひはぎ
)
をするかも
分
(
わか
)
つたものぢやないワ』
298
此
(
この
)
時
(
とき
)
、
299
鬼虎
(
おにとら
)
、
300
鬼彦
(
おにひこ
)
は、
301
谷
(
たに
)
の
底
(
そこ
)
からガサガサと
這
(
は
)
ひ
上
(
あ
)
がり
来
(
き
)
たり、
302
岩公
(
いはこう
)
『ヤア
彦
(
ひこ
)
に
虎
(
とら
)
か、
303
貴様
(
きさま
)
は
谷底
(
たにそこ
)
で、
304
今頃
(
いまごろ
)
は
五体
(
ごたい
)
ズタズタに
破壊
(
はくわい
)
して
了
(
しま
)
つたぢやらうと
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
たのに、
305
まだ
死
(
し
)
なずに
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たか、
306
マア
結構
(
けつこう
)
々々
(
けつこう
)
、
307
サア
祝
(
いは
)
ひに
此処
(
ここ
)
で
一服
(
いつぷく
)
でもしやうかい』
308
鬼彦、鬼虎
『
一服
(
いつぷく
)
も
可
(
い
)
いが、
309
斯
(
か
)
う
風
(
かぜ
)
のある
所
(
ところ
)
では、
310
寒
(
さむ
)
うて
休
(
やす
)
む
気
(
き
)
にもならぬ。
311
体
(
からだ
)
さへ
動
(
うご
)
かして
居
(
を
)
れば
暖
(
あたた
)
かいから、
312
ボツボツ
行
(
い
)
くことにしやうかい』
313
此
(
この
)
時
(
とき
)
何処
(
いづく
)
ともなく
微妙
(
びめう
)
の
音楽
(
おんがく
)
聞
(
きこ
)
え
来
(
き
)
たり。
314
一行
(
いつかう
)
八
(
はち
)
人
(
にん
)
は
思
(
おも
)
はず
耳
(
みみ
)
を
倚
(
そばだ
)
て
聞
(
き
)
き
入
(
い
)
る。
315
忽
(
たちま
)
ち
空中
(
くうちう
)
に
声
(
こゑ
)
あり、
316
声
『
岩公
(
いはこう
)
、
317
勘公
(
かんこう
)
、
318
櫟公
(
いちこう
)
、
319
真裸
(
まつぱだか
)
で
嘸
(
さぞ
)
寒
(
さむ
)
いであらう、
320
今
(
いま
)
天
(
てん
)
より
暖
(
あたた
)
かき
衣裳
(
いしやう
)
を
与
(
あた
)
へてやらう。
321
之
(
これ
)
を
身
(
み
)
に
着
(
つ
)
けて、
322
潔
(
いさぎよ
)
く
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
奥
(
おく
)
に
進
(
すす
)
むが
宜
(
よ
)
からう』
323
鬼彦
(
おにひこ
)
、
324
鬼虎
(
おにとら
)
一度
(
いちど
)
に、
325
鬼彦、鬼虎
『モシモシ、
326
空中
(
くうちう
)
の
声
(
こゑ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
327
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
も
真裸
(
まつぱだか
)
で
御座
(
ござ
)
います。
328
どうぞお
見落
(
みおと
)
しなさらぬ
様
(
やう
)
に……
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
なら、
329
モウ
二人分
(
ふたりぶん
)
与
(
あた
)
へて
下
(
くだ
)
さいませ』
330
空中
(
くうちう
)
の
声
(
こゑ
)
『
鬼虎
(
おにとら
)
、
331
鬼彦
(
おにひこ
)
の
衣裳
(
いしやう
)
は、
332
追
(
お
)
つて
詮議
(
せんぎ
)
の
上
(
うへ
)
、
333
………
与
(
あた
)
へるとも、
334
与
(
あた
)
へぬとも、
335
決定
(
けつてい
)
せない。
336
今
(
いま
)
暫
(
しばら
)
く
辛抱
(
しんばう
)
致
(
いた
)
すが
良
(
よ
)
からう』
337
何処
(
どこ
)
ともなく、
338
立派
(
りつぱ
)
なる
宣伝使
(
せんでんし
)
の
服
(
ふく
)
三着
(
さんちやく
)
、
339
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
風
(
かぜ
)
に
揺
(
ゆ
)
られて
下
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
り、
340
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
身体
(
からだ
)
に
惟神
(
かむながら
)
的
(
てき
)
に
密着
(
みつちやく
)
した。
341
岩公
(
いはこう
)
『ヤア
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い、
342
時節
(
じせつ
)
は
待
(
ま
)
たねばならぬものぢや。
343
……オイ
勘
(
かん
)
に、
344
櫟
(
いち
)
よ、
345
立派
(
りつぱ
)
な
服
(
ふく
)
ぢやないか。
346
これさへ
有
(
あ
)
れば、
347
宙
(
ちう
)
でも
翔
(
た
)
てる
様
(
やう
)
になるだらう、
348
天
(
てん
)
から
降
(
くだ
)
つた
天
(
あま
)
の
羽衣
(
はごろも
)
では
有
(
あ
)
るまいかなア。
349
……もしもし
平助
(
へいすけ
)
さま、
350
お
婆
(
ば
)
アさま、
351
お
節
(
せつ
)
さま、
352
偉
(
えら
)
う
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
をかけました。
353
お
蔭様
(
かげさま
)
で、
354
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
立派
(
りつぱ
)
な
天
(
あま
)
の
羽衣
(
はごろも
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しました』
355
平助
(
へいすけ
)
『お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
は、
356
悪人
(
あくにん
)
ぢや
悪人
(
あくにん
)
ぢやと
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
つたが、
357
……ホンに
立派
(
りつぱ
)
な
衣裳
(
いしやう
)
を
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
貰
(
もら
)
ひなさつた。
358
モウこれから、
359
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
してお
前
(
まへ
)
さまに
口応
(
くちごた
)
へは
致
(
いた
)
さぬ。
360
どうぞ
赦
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
され』
361
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
着
(
つ
)
けたる
装束
(
しやうぞく
)
は、
362
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
羽衣
(
はごろも
)
の
如
(
ごと
)
くに
変化
(
へんくわ
)
し、
363
岩
(
いは
)
、
364
勘
(
かん
)
、
365
櫟
(
いち
)
の
顔
(
かほ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
天女
(
てんによ
)
の
姿
(
すがた
)
となり、
366
空中
(
くうちう
)
を
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
飛
(
と
)
びまわり
乍
(
なが
)
ら、
367
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
奥
(
おく
)
を
目蒐
(
めが
)
けて、
368
悠々
(
いういう
)
と
翔
(
かけ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
369
鬼彦
(
おにひこ
)
、
370
鬼虎
(
おにとら
)
、
371
平助
(
へいすけ
)
、
372
お
楢
(
なら
)
、
373
お
節
(
せつ
)
の
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は、
374
此
(
この
)
光景
(
くわうけい
)
を
打仰
(
うちあふ
)
ぎ、
375
呆然
(
ばうぜん
)
として
控
(
ひか
)
へ
居
(
ゐ
)
る。
376
暫
(
しばら
)
くあつて、
377
お
節
(
せつ
)
は
声
(
こゑ
)
を
揚
(
あ
)
げて
泣
(
な
)
き
出
(
だ
)
したれば、
378
平助
(
へいすけ
)
、
379
お
楢
(
なら
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
380
平助、お楢
『コレヤコレヤお
節
(
せつ
)
、
381
どうしたどうした、
382
腹
(
はら
)
でも
痛
(
いた
)
いのか。
383
何
(
なに
)
を
泣
(
な
)
く……』
384
と
左右
(
さいう
)
より、
385
老爺
(
ぢい
)
と
婆
(
ば
)
アとは
獅噛
(
しが
)
み
付
(
つ
)
き、
386
顔色
(
かほいろ
)
変
(
か
)
へて
問
(
と
)
ひかける。
387
お
節
(
せつ
)
は
涙
(
なみだ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
388
お節
『お
祖父
(
ぢい
)
さま、
389
お
祖母
(
ばあ
)
さま、
390
どうぞ
改心
(
かいしん
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
391
あの
様
(
やう
)
な
荒
(
あら
)
くれ
男
(
をとこ
)
の
岩
(
いは
)
さま、
392
勘
(
かん
)
さま、
393
櫟
(
いち
)
さまは
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御心
(
みこころ
)
に
叶
(
かな
)
ひ、
394
あの
立派
(
りつぱ
)
な
平和
(
へいわ
)
の
女神
(
めがみ
)
となつて、
395
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
にお
立
(
た
)
ちなさつた。
396
妾
(
わたし
)
は
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
であり
乍
(
なが
)
ら、
397
改心
(
かいしん
)
が
足
(
た
)
らぬと
見
(
み
)
えて、
398
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
に
立
(
た
)
てて
下
(
くだ
)
さらぬ。
399
どうぞ、
400
あなた
二人
(
ふたり
)
は、
401
今迄
(
いままで
)
の
執拗
(
しつえう
)
な
心
(
こころ
)
をサラリと
払
(
はら
)
ひ
捨
(
す
)
て
惟神
(
かむながら
)
の
心
(
こころ
)
になつて
下
(
くだ
)
さい。
402
さうでなければ、
403
妾
(
わたし
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
仕
(
つか
)
へする
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませぬ』
404
と
又
(
また
)
もや『ワツ』と
許
(
ばか
)
りに
泣
(
な
)
き
沈
(
しづ
)
む。
405
此
(
この
)
時
(
とき
)
天上
(
てんじやう
)
に
声
(
こゑ
)
あり、
406
声
『
鬼彦
(
おにひこ
)
、
407
鬼虎
(
おにとら
)
、
408
今
(
いま
)
天
(
てん
)
より
下
(
くだ
)
す
羽衣
(
はごろも
)
を
汝
(
なんぢ
)
に
与
(
あた
)
ふ。
409
汝
(
なんぢ
)
が
改心
(
かいしん
)
の
誠
(
まこと
)
は、
410
愈
(
いよいよ
)
天
(
てん
)
に
通
(
つう
)
じたり』
411
鬼彦
(
おにひこ
)
、
412
鬼虎
(
おにとら
)
は
飛
(
と
)
び
立
(
た
)
つ
許
(
ばか
)
り
打喜
(
うちよろこ
)
び、
413
両人
(
りやうにん
)
大地
(
だいち
)
に
平伏
(
へいふく
)
し、
414
鬼彦、鬼虎
『ハハア、
415
ハツ』
416
と
言
(
い
)
つた
限
(
き
)
り、
417
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
に
掻
(
か
)
き
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
418
二人
(
ふたり
)
は
不図
(
ふと
)
顔
(
かほ
)
をあぐれば、
419
えも
謂
(
ゐ
)
はれぬ
麗
(
うるは
)
しき
羽衣
(
はごろも
)
、
420
地上
(
ちじやう
)
一二
(
いちに
)
尺
(
しやく
)
離
(
はな
)
れた
所
(
ところ
)
に
浮游
(
ふいう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
421
手早
(
てばや
)
く
拾
(
ひろ
)
ひ
上
(
あ
)
げむとする
刹那
(
せつな
)
、
422
ピタリと
二人
(
ふたり
)
の
体
(
からだ
)
に
密着
(
みつちやく
)
した。
423
追々
(
おひおひ
)
羽衣
(
はごろも
)
は
拡大
(
くわくだい
)
し、
424
自然
(
しぜん
)
に
身体
(
からだ
)
は
浮上
(
うきあが
)
り、
425
二人
(
ふたり
)
は
空中
(
くうちう
)
を
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
飛揚
(
ひやう
)
しながら、
426
鬼彦、鬼虎
『
平助
(
へいすけ
)
さま、
427
お
楢
(
なら
)
さま、
428
お
節
(
せつ
)
さま、
429
左様
(
さやう
)
ならお
先
(
さき
)
へ
参
(
まゐ
)
ります』
430
と
空中
(
くうちう
)
を
悠々
(
いういう
)
として、
431
真名井
(
まなゐ
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
霊地
(
れいち
)
に
向
(
むか
)
つて
翔
(
かけ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
432
後
(
あと
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
呆然
(
ばうぜん
)
として、
433
此
(
この
)
光景
(
くわうけい
)
を
物
(
もの
)
をも
言
(
い
)
はずに
見詰
(
みつ
)
め
居
(
ゐ
)
たりけり。
434
平助
(
へいすけ
)
『アーア
人間
(
にんげん
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は、
435
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬものぢやなア、
436
俺
(
わし
)
の
様
(
やう
)
な
善人
(
ぜんにん
)
は、
437
斯
(
か
)
うして
山
(
やま
)
の
上
(
うへ
)
で
寒
(
さむ
)
い
風
(
かぜ
)
に
曝
(
さら
)
され、
438
娘
(
むすめ
)
は
痩衰
(
やせおとろ
)
へ、
439
親子
(
おやこ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
やうやう
此処
(
ここ
)
まで
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
事
(
こと
)
は
来
(
き
)
たが、
440
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
大江山
(
おほえやま
)
の
眷属共
(
けんぞくども
)
は
又
(
また
)
、
441
どうしたものぢや。
442
アンナ
立派
(
りつぱ
)
な
衣裳
(
いしやう
)
を
天
(
てん
)
から
頂
(
いただ
)
きよつて、
443
羽化
(
うくわ
)
登仙
(
とうせん
)
、
444
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
の
身
(
み
)
となりよつた。
445
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
もあまりぢや あまりぢや、
446
アンナ
男
(
をとこ
)
が
天人
(
てんにん
)
に
成
(
な
)
れるのなら、
447
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
親子
(
おやこ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
も、
448
立派
(
りつぱ
)
な
天人
(
てんにん
)
にして
下
(
くだ
)
さつたら
良
(
よ
)
かりさうなものぢやないか。
449
アーア
此
(
こ
)
れもヤツパリ、
450
身魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
性来
(
しやうらい
)
で、
451
何時
(
いつ
)
までも
出世
(
しゆつせ
)
が
出来
(
でき
)
ぬのかなア』
452
お
楢
(
なら
)
『おやぢドン
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
通
(
どほ
)
りより
行
(
い
)
くものぢやない。
453
人間
(
にんげん
)
の
目
(
め
)
から
悪
(
あく
)
に
見
(
み
)
えても
善
(
ぜん
)
の
身魂
(
みたま
)
もあり、
454
人間
(
にんげん
)
が
勝手
(
かつて
)
に
善
(
ぜん
)
ぢや
善
(
ぜん
)
ぢやと
思
(
おも
)
うて、
455
自惚
(
うぬぼれ
)
て
居
(
ゐ
)
ると、
456
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
邪道
(
じやだう
)
に
落
(
お
)
ちて
苦
(
くる
)
しむと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
ぢや、
457
去年
(
きよねん
)
お
節
(
せつ
)
を
奪
(
と
)
られてから、
458
二人
(
ふたり
)
が
泣
(
な
)
きの
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
らしたのも、
459
若
(
わか
)
い
間
(
あひだ
)
から
欲
(
よく
)
ばつかりして、
460
金
(
かね
)
を
蓄
(
た
)
め、
461
人
(
ひと
)
を
泣
(
な
)
かして
来
(
き
)
た
報
(
むく
)
いで、
462
金
(
かね
)
はぼつたくられ、
463
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
の
間
(
あひだ
)
も
泣
(
な
)
いて
暮
(
くら
)
したのぢや。
464
今迄
(
いままで
)
の
事
(
こと
)
を、
465
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
を
当
(
あ
)
てて
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
れば、
466
人
(
ひと
)
こそ、
467
形
(
かたち
)
の
上
(
うへ
)
で
殺
(
ころ
)
さぬが、
468
藪医者
(
やぶいしや
)
の
様
(
やう
)
に、
469
無慈悲
(
むじひ
)
な
事
(
こと
)
をして、
470
何程
(
なにほど
)
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
を
殺
(
ころ
)
して
来
(
き
)
たか、
471
分
(
わか
)
つたものぢやない、
472
おやぢどの、
473
お
前
(
まへ
)
も
若
(
わか
)
い
中
(
うち
)
から、
474
鬼
(
おに
)
の
平助
(
へいすけ
)
、
475
渋柿
(
しぶがき
)
の
平助
(
へいすけ
)
と
言
(
い
)
はれて
来
(
き
)
たのぢやから、
476
コンナ
憂目
(
うきめ
)
に
遭
(
あ
)
うのは
当然
(
あたりまへ
)
だよ。
477
親
(
おや
)
の
罰
(
ばち
)
が
子
(
こ
)
に
報
(
むく
)
うて、
478
可愛
(
かあい
)
いお
節
(
せつ
)
が、
479
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
が
間
(
あひだ
)
、
480
コンナ
目
(
め
)
に
遭
(
あ
)
うたのぢや。
481
誰
(
たれ
)
を
恨
(
うら
)
める
事
(
こと
)
も
無
(
な
)
い。
482
みな
自分
(
じぶん
)
の
罪障
(
ざいしやう
)
が
報
(
むく
)
うて
来
(
き
)
たのじや、
483
アンアンアン』
484
平助
(
へいすけ
)
『
俺
(
おれ
)
が
常平生
(
つねへいぜい
)
、
485
食
(
く
)
ふ
物
(
もの
)
も
食
(
く
)
はず、
486
欲
(
よく
)
に
金
(
かね
)
を
蓄
(
た
)
めたのも、
487
みなお
節
(
せつ
)
が
可愛
(
かあい
)
いばつかりぢや、
488
どうぞしてお
節
(
せつ
)
を
一生
(
いつしやう
)
楽
(
らく
)
に
暮
(
くら
)
さしてやりたいと
思
(
おも
)
うた
為
(
ため
)
に、
489
チツとは
無慈悲
(
むじひ
)
な
事
(
こと
)
も
行
(
や
)
つて
来
(
き
)
たが、
490
それぢやと
云
(
い
)
うて、
491
別
(
べつ
)
に
俺
(
おれ
)
が
美味
(
うま
)
い
物
(
もの
)
一遍
(
いつぺん
)
食
(
く
)
つたのでもなし、
492
身欲
(
みよく
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
一
(
ひと
)
つもして
居
(
を
)
らぬぢやないか』
493
お
楢
(
なら
)
『それでも、
494
おやぢドン、
495
ヤツパリ
身欲
(
みよく
)
になるのぢや。
496
他人
(
ひと
)
の
子
(
こ
)
には
辛
(
つら
)
く
当
(
あた
)
り、
497
団子
(
だんご
)
一片
(
ひときれ
)
与
(
や
)
るでもなし、
498
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も、
499
お
節
(
せつ
)
お
節
(
せつ
)
と、
500
身贔屓
(
みびいき
)
ばつかりしとつて、
501
天罰
(
てんばつ
)
で
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
の
苦
(
くる
)
しみを
受
(
う
)
けたのぢや。
502
そこで
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
503
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
との
鑑
(
かがみ
)
を
見
(
み
)
せて
下
(
くだ
)
さつたのぢや。
504
これから
綺麗
(
きれい
)
サツパリと
心
(
こころ
)
を
容
(
い
)
れ
替
(
か
)
へて
下
(
くだ
)
されや、
505
婆
(
ばば
)
アも
唯今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
改心
(
かいしん
)
をする。
506
親
(
おや
)
の
甘茶
(
あまちや
)
が
毒
(
どく
)
になつて、
507
お
節
(
せつ
)
の
体
(
からだ
)
もあまり
丈夫
(
ぢやうぶ
)
ではない。
508
コンナ
繊弱
(
かよわ
)
い
体
(
からだ
)
を
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
遺
(
のこ
)
して、
509
年
(
とし
)
取
(
と
)
つて
夫婦
(
めをと
)
が
幽界
(
あのよ
)
とやらへ
行
(
ゆ
)
く
時
(
とき
)
に、
510
後
(
あと
)
に
心
(
こころ
)
が
残
(
のこ
)
る
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
では
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
へも
行
(
ゆ
)
けない。
511
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
に
改心
(
かいしん
)
し、
512
お
節
(
せつ
)
の
身体
(
からだ
)
が
丈夫
(
ぢやうぶ
)
になる
様
(
やう
)
に、
513
真名井
(
まなゐ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
へ、
514
心
(
こころ
)
から
誓
(
ちか
)
ひをして
来
(
き
)
ませう』
515
と
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
516
雪
(
ゆき
)
積
(
つ
)
む
路
(
みち
)
をボツボツと、
517
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
豊国姫
(
とよくにひめの
)
命
(
みこと
)
が
出現場
(
しゆつげんば
)
指
(
さ
)
して、
518
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
519
因
(
ちなみ
)
に、
520
鬼彦
(
おにひこ
)
、
521
鬼虎
(
おにとら
)
、
522
其
(
その
)
他
(
た
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
羽化
(
うくわ
)
登仙
(
とうせん
)
せしは、
523
其
(
その
)
実
(
じつ
)
肉体
(
にくたい
)
にては、
524
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
改心
(
かいしん
)
も
出来
(
でき
)
ず、
525
且
(
かつ
)
又
(
また
)
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
する
資格
(
しかく
)
無
(
な
)
ければ、
526
神界
(
しんかい
)
の
御
(
お
)
慈悲
(
じひ
)
に
依
(
よ
)
り、
527
国替
(
くにがへ
)
(
凍死
(
とうし
)
)せしめ、
528
天国
(
てんごく
)
に
救
(
すく
)
ひ
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
せしめ
給
(
たま
)
ひたるなり。
529
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
は、
530
神
(
かみ
)
の
御
(
お
)
慈悲
(
じひ
)
に
依
(
よ
)
つて、
531
平助
(
へいすけ
)
親子
(
おやこ
)
の
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に、
532
或
(
ある
)
土中
(
ちちう
)
へ
深
(
ふか
)
く
埋
(
うづ
)
められ、
533
雪崩
(
なだれ
)
に
圧
(
あつ
)
せられ、
534
鬼彦
(
おにひこ
)
、
535
鬼虎
(
おにとら
)
に
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
されたお
節
(
せつ
)
は、
536
其
(
その
)
実
(
じつ
)
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
の
眷属
(
けんぞく
)
の
白狐
(
びやくこ
)
が
所為
(
しよゐ
)
なりき。
537
又
(
また
)
夜中
(
やちう
)
お
節
(
せつ
)
を
送
(
おく
)
つて
来
(
き
)
た
悦子姫
(
よしこひめ
)
は
其
(
その
)
実
(
じつ
)
は、
538
白狐
(
びやくこ
)
旭
(
あさひ
)
明神
(
みやうじん
)
の
化身
(
けしん
)
なりき。
539
お
節
(
せつ
)
を
隠
(
かく
)
したる
岩窟
(
がんくつ
)
は、
540
鬼彦
(
おにひこ
)
、
541
鬼虎
(
おにとら
)
の
両人
(
りやうにん
)
ならでは、
542
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
す
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なかつたのである。
543
それは
岩窟
(
がんくつ
)
を
開
(
ひら
)
くに
就
(
つい
)
て、
544
一
(
ひと
)
つの
目標
(
もくへう
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
る
者
(
もの
)
は、
545
此
(
この
)
両人
(
りやうにん
)
と
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
より
外
(
ほか
)
になかつたから、
546
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
の
計
(
はか
)
らひに
依
(
よ
)
つて、
547
此処
(
ここ
)
まで
両人
(
りやうにん
)
を
引寄
(
ひきよ
)
せ、
548
お
節
(
せつ
)
を
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
さしめ
給
(
たま
)
うたのである。
549
又
(
また
)
途中
(
とちう
)
に
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
を
裸
(
はだか
)
にした
娘
(
むすめ
)
のおコンは、
550
白狐
(
びやくこ
)
旭
(
あさひ
)
の
眷属神
(
けんぞくしん
)
の
化身
(
けしん
)
であつた。
551
曩
(
さき
)
に
文珠堂
(
もんじゆだう
)
にて
別
(
わか
)
れたる
悦子姫
(
よしこひめ
)
、
552
及
(
およ
)
び
平助
(
へいすけ
)
の
門口
(
かどぐち
)
にて
別
(
わか
)
れたる
音彦
(
おとひこ
)
、
553
青彦
(
あをひこ
)
、
554
加米彦
(
かめひこ
)
は
真名井
(
まなゐ
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
聖地
(
せいち
)
に
既
(
すで
)
に
到着
(
たうちやく
)
し
居
(
ゐ
)
たりしなり。
555
(
大正一一・四・二一
旧三・二五
松村真澄
録)
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