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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第22巻(酉の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 暗雲低迷
第1章 玉騒疑
第2章 探り合ひ
第3章 不知火
第4章 玉探志
第2篇 心猿意馬
第5章 壇の浦
第6章 見舞客
第7章 囈語
第8章 鬼の解脱
第3篇 黄金化神
第9章 清泉
第10章 美と醜
第11章 黄金像
第12章 銀公着瀑
第4篇 改心の幕
第13章 寂光土
第14章 初稚姫
第15章 情の鞭
第16章 千万無量
第5篇 神界経綸
第17章 生田の森
第18章 布引の滝
第19章 山と海
第20章 三の魂
余白歌
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霊界物語
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第22巻(酉の巻)
> 第1篇 暗雲低迷 > 第2章 探り合ひ
<<< 玉騒疑
(B)
(N)
不知火 >>>
第二章
探
(
さぐ
)
り
合
(
あ
)
ひ〔六九四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻
篇:
第1篇 暗雲低迷
よみ(新仮名遣い):
あんうんていめい
章:
第2章 探り合ひ
よみ(新仮名遣い):
さぐりあい
通し章番号:
694
口述日:
1922(大正11)年05月24日(旧04月28日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年7月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
黒姫は二人を自分の館に連れて帰った。テーリスタンとカーリンスが黄金の玉を盗んだと疑ってきかない黒姫は、二人に滔々と心を入れ替えて玉を差し出すようにと説教をしている。
テーリスタンとカーリンスは自分たちではないと抗弁するが、黒姫は一向に信用しない。そのうちに、テーリスタンとカーリンスが、お互いに相棒が玉を盗んだのではないかと疑い出して、喧嘩を始めた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-05-26 10:31:37
OBC :
rm2202
愛善世界社版:
24頁
八幡書店版:
第4輯 388頁
修補版:
校定版:
25頁
普及版:
11頁
初版:
ページ備考:
001
言依別
(
ことよりわけ
)
に
託
(
たく
)
されし、
002
黄金
(
わうごん
)
の
玉
(
たま
)
の
行方
(
ゆくへ
)
をば、
003
見失
(
みうしな
)
ひたる
黒姫
(
くろひめ
)
は、
004
テーリスタンやカーリンス、
005
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
に
疑
(
うたが
)
ひを、
006
抱
(
いだ
)
きながらにトボトボと、
007
己
(
おの
)
が
館
(
やかた
)
に
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
り、
008
二人
(
ふたり
)
を
前
(
まへ
)
に
坐
(
すわ
)
らせつ、
009
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
を
進
(
すす
)
め
機嫌
(
きげん
)
をとり、
010
威
(
おど
)
しつ
慊
(
すか
)
しつ
訊
(
たづ
)
ぬれば、
011
素
(
もと
)
より
二人
(
ふたり
)
は
白紙
(
しらかみ
)
の、
012
疚
(
やま
)
しき
所
(
ところ
)
なく
涙
(
なみだ
)
、
013
声
(
こゑ
)
を
絞
(
しぼ
)
つて
弁解
(
べんかい
)
すれど、
014
容易
(
ようい
)
に
晴
(
は
)
れぬ
黒姫
(
くろひめ
)
の、
015
胸
(
むね
)
に
心
(
こころ
)
を
悩
(
なや
)
ませつ、
016
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せて、
017
如何
(
いかが
)
はせむと
腕
(
うで
)
を
組
(
く
)
み、
018
差俯向
(
さしうつむ
)
いて
黙然
(
もくねん
)
たるぞ
憐
(
いぢ
)
らしき。
019
黒姫
(
くろひめ
)
『
人間
(
にんげん
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
生宮
(
いきみや
)
だから、
020
何処
(
どこ
)
までも
正直
(
しやうぢき
)
にせなくてはなりませぬぞや。
021
如何
(
いか
)
なる
罪科
(
つみとが
)
があつても、
022
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めたならば
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
は、
023
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し、
024
聞直
(
ききなほ
)
し、
025
宣直
(
のりなほ
)
して
下
(
くだ
)
さるのだ。
026
此
(
こ
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は、
027
隅
(
すみ
)
から
隅
(
すみ
)
まで
日月
(
じつげつ
)
の
如
(
ごと
)
く
明
(
あきら
)
かなる
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
支配
(
しはい
)
であるから、
028
どんな
小
(
ちひ
)
さいことでも
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
眼
(
め
)
を
眩
(
くら
)
ますことは
出来
(
でき
)
ない。
029
わづか
の
此
(
こ
)
の
世
(
よ
)
で
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
しても、
030
永遠
(
ゑいゑん
)
無窮
(
むきう
)
の
神界
(
しんかい
)
で
苦
(
くる
)
しみを
受
(
う
)
けるやうなことが
出来
(
でき
)
ては
大変
(
たいへん
)
な
不利益
(
ふりえき
)
だから、
031
私
(
わし
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のため、
032
世人
(
よびと
)
のため、
033
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
両人
(
りやうにん
)
の
身魂
(
みたま
)
の
幸福
(
かうふく
)
のために
云
(
い
)
ふのだから、
034
綺麗
(
きれい
)
薩張
(
さつぱり
)
と
玉
(
たま
)
の
在処
(
ありか
)
を
知
(
し
)
らしておくれ。
035
何時
(
いつ
)
まで
腕組
(
うでぐみ
)
思案
(
しあん
)
してゐた
処
(
ところ
)
で、
036
悪
(
あく
)
が
善
(
ぜん
)
に
復
(
かへ
)
る
筈
(
はず
)
はない。
037
盗
(
ぬす
)
むと
云
(
い
)
ふ
一事
(
いちじ
)
は
何処迄
(
どこまで
)
も
万劫
(
まんがふ
)
末代
(
まつだい
)
消
(
き
)
えませぬぞえ。
038
サ、
039
あまり
世間
(
せけん
)
にパツとせない
間
(
うち
)
、
040
私
(
わし
)
に
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
を
白状
(
はくじやう
)
して
下
(
くだ
)
さい。
041
私
(
わし
)
の
落度
(
おちど
)
にもなり、
042
お
前
(
まへ
)
さまの
罪
(
つみ
)
にもなるのだから、
043
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
に
私
(
わし
)
に
白状
(
はくじやう
)
しさへすれば、
044
此
(
この
)
場
(
ば
)
限
(
かぎ
)
りで
何処
(
どこ
)
も
彼
(
か
)
も
天下
(
てんか
)
泰平
(
たいへい
)
無事
(
ぶじ
)
安穏
(
あんのん
)
に
治
(
をさ
)
まる
訳
(
わけ
)
だから。
045
サア、
046
テーリスタン、
047
カーリンス、
048
早
(
はや
)
く
素直
(
すなほ
)
に
言
(
い
)
つておくれ』
049
テーリスタン『これは
又
(
また
)
してもお
訊
(
たづ
)
ねですが、
050
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
知
(
し
)
らぬ
事
(
こと
)
は
知
(
し
)
らぬと
答
(
こた
)
へるより
外
(
ほか
)
に
途
(
みち
)
が
無
(
な
)
いぢやありませぬか』
051
黒姫
『エー
又
(
また
)
しても
白
(
しら
)
ツぱくれなさるのか。
052
さてもさても
分
(
わか
)
らぬ
人
(
ひと
)
だなア。
053
これこれカーリンス、
054
お
前
(
まへ
)
は
正直者
(
しやうぢきもの
)
だ。
055
私
(
わし
)
を
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れただけあつて、
056
何処
(
どこ
)
ともなしに
徳
(
とく
)
のある
顔
(
かほ
)
をして
居
(
ゐ
)
る。
057
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
姿
(
すがた
)
みたやうだ。
058
屹度
(
きつと
)
お
前
(
まへ
)
は
霊肉
(
れいにく
)
共
(
とも
)
に
清浄
(
せいじやう
)
潔白
(
けつぱく
)
だから、
059
テーリスタンに
対
(
たい
)
し
堅
(
かた
)
い
約束
(
やくそく
)
を
破
(
やぶ
)
つてはならないと
隠
(
かく
)
してゐるのだらうが、
060
そんな
心遣
(
こころづかひ
)
は
要
(
い
)
らぬ
事
(
こと
)
だ。
061
事
(
こと
)
の
軽重
(
けいちよう
)
大小
(
だいせう
)
により
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
なさい。
062
お
前
(
まへ
)
が
私
(
わし
)
に
全然
(
すつかり
)
白状
(
はくじやう
)
をしたと
云
(
い
)
つても、
063
決
(
けつ
)
してテーリスタンを
苦
(
くる
)
しめるのでも
責
(
せ
)
めるのでもない。
064
畢竟
(
つまり
)
テーリスタンも、
065
私
(
わし
)
も、
066
お
前
(
まへ
)
も
大慶
(
たいけい
)
だし、
067
ツイ
当座
(
たうざ
)
の
出来
(
でき
)
心
(
ごころ
)
だから。
068
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
には
誰
(
たれ
)
しもある
事
(
こと
)
だから、
069
屹度
(
きつと
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
070
宣直
(
のりなほ
)
して
下
(
くだ
)
さる。
071
私
(
わし
)
も
何程
(
なにほど
)
お
前
(
まへ
)
が
悪
(
わる
)
うても、
072
見直
(
みなほ
)
し、
073
聞直
(
ききなほ
)
し、
074
初
(
うぶ
)
の
心
(
こころ
)
で
今
(
いま
)
までの
事
(
こと
)
は
川
(
かは
)
へサラリと
流
(
なが
)
し、
075
心
(
こころ
)
許
(
ゆる
)
して
交際
(
かうさい
)
をさして
貰
(
もら
)
ふから、
076
さア、
077
チヤツとカーリンス、
078
言
(
い
)
はつしやいよ』
079
カーリンスは
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
きながら、
080
カーリンス
『ヘイ
貴女
(
あなた
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
はよく
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
ります』
081
黒姫
『さうだらう、
082
分
(
わか
)
つたぢやらう。
083
矢張
(
やつぱ
)
りお
前
(
まへ
)
はテーリスタンとは、
084
一寸
(
ちよつと
)
兄貴
(
あにき
)
だけあつて
賢
(
かしこ
)
い、
085
偉
(
えら
)
いものだ。
086
正直
(
しやうぢき
)
は
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
宝
(
たから
)
だ。
087
なア、
088
カーリンス』
089
カーリンス
『モシ
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
090
知
(
し
)
らぬことを
知
(
し
)
つたやうに
云
(
い
)
つたら、
091
それでも
誠
(
まこと
)
になりますか』
092
黒姫
『
知
(
し
)
つたことを
知
(
し
)
らぬと
云
(
い
)
ふのが
悪
(
わる
)
いのだ。
093
知
(
し
)
つたことを「
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
ります、
094
斯様
(
かやう
)
々々
(
かやう
)
致
(
いた
)
しました」と
言
(
い
)
ひさへすれば、
095
途方
(
とはう
)
もない
玉盗人
(
たまぬすと
)
をしたお
前
(
まへ
)
も、
096
罪
(
つみ
)
が
消
(
き
)
えて
却
(
かへつ
)
て
素直
(
すなほ
)
な
奴
(
やつ
)
だと
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
が
誉
(
ほ
)
めて
下
(
くだ
)
さるぞえ』
097
カーリンス
『オイ、
098
テーリスタン、
099
斯
(
こ
)
んな
婆
(
ばあ
)
さまに
掛
(
かか
)
り
合
(
あ
)
つたら、
100
とりもち
桶
(
をけ
)
へ
脚
(
あし
)
を
突込
(
つつこ
)
んだやうなものだなア。
101
何
(
ど
)
うしたらよからうか』
102
テーリスタン『それだと
云
(
い
)
つて
第一
(
だいいち
)
吾々
(
われわれ
)
を
日頃
(
ひごろ
)
から
大切
(
たいせつ
)
にして
下
(
くだ
)
さる
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
難儀
(
なんぎ
)
になるのだから、
103
あゝして
厳
(
きび
)
しう
執拗
(
しつこ
)
くお
訊
(
たづ
)
ねなさるのも
仕方
(
しかた
)
がない。
104
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
のお
立場
(
たちば
)
になれば
無理
(
むり
)
もないよ。
105
ぢやと
云
(
い
)
つて
吾々
(
われわれ
)
両人
(
ふたり
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
迷惑
(
めいわく
)
だなア』
106
黒姫
『お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
其処
(
そこ
)
迄
(
まで
)
物
(
もの
)
が
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
りながら、
107
何故
(
なぜ
)
私
(
わし
)
を
焦
(
じ
)
らすのだい。
108
盗人
(
ぬすびと
)
猛々
(
たけだけ
)
しいとはお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
のことだよ。
109
他
(
ひと
)
が
温順
(
おとな
)
しく
出
(
で
)
れば
つけ
上
(
あが
)
り、
110
歯抜
(
はぬ
)
けが
蛸
(
たこ
)
を
噛
(
か
)
むやうにグヂヤグヂヤと
歯切
(
はぎ
)
れのせぬ
返事
(
へんじ
)
ばつかりして………エー
辛気臭
(
しんきくさ
)
い。
111
困
(
こま
)
つた
泥坊
(
どろばう
)
だなア』
112
と
長煙管
(
ながぎせる
)
で
丸火鉢
(
まるひばち
)
をクワンクワンとはたき、
113
眼
(
め
)
をキリツと
釣
(
つ
)
り
上
(
あ
)
げ、
114
片膝
(
かたひざ
)
を
立
(
た
)
てて
斜
(
しや
)
に
構
(
かま
)
へ
息
(
いき
)
を
喘
(
はづ
)
ませて
見
(
み
)
せた。
115
折柄
(
をりから
)
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
の
高楼
(
たかどの
)
に
夜明
(
よあけ
)
と
見
(
み
)
えて、
116
祝詞
(
のりと
)
奏上
(
そうじやう
)
の
始
(
はじ
)
まる
五六七
(
みろく
)
の
太鼓
(
たいこ
)
が
響
(
ひび
)
いて
来
(
き
)
た。
117
テーリスタン
『オイ、
118
カーリンス、
119
あれは
五六七
(
みろく
)
の
太鼓
(
たいこ
)
の
音
(
おと
)
、
120
モー
御
(
お
)
礼
(
れい
)
だ。
121
一先
(
ひとま
)
づ
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
つて
参拝
(
さんぱい
)
をして
来
(
こ
)
うかい』
122
カーリンス
『オーそうだ、
123
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
124
ゆつくり
心
(
こころ
)
を
落着
(
おちつ
)
けて
吾々
(
われわれ
)
の
無実
(
むじつ
)
を
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へ
下
(
くだ
)
さいませ。
125
これからお
詣
(
まゐ
)
りして
来
(
き
)
ます』
126
黒姫
『オホヽヽ、
127
五六七
(
みろく
)
の
太鼓
(
たいこ
)
は、
128
お
前
(
まへ
)
さまの
為
(
ため
)
には
結構
(
けつこう
)
な
助
(
たす
)
け
舟
(
ぶね
)
だ。
129
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
五六七
(
みろく
)
でも
七五三
(
しちごさん
)
でもお
詣
(
まゐ
)
りは
出来
(
でき
)
ませぬよ。
130
此
(
こ
)
の
話
(
はなし
)
の
解決
(
かいけつ
)
がつくまで
参拝
(
さんぱい
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
が
許
(
ゆる
)
しませぬ。
131
そんな
盗人
(
ぬすと
)
根性
(
こんじやう
)
で
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
へ
詣
(
まゐ
)
つて、
132
結構
(
けつこう
)
な
御
(
お
)
宮
(
みや
)
様
(
さま
)
を
汚
(
けが
)
すと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか、
133
罰当
(
ばちあた
)
り
奴
(
め
)
が、
134
アルプス
教
(
けう
)
の
教
(
をしへ
)
とはチツト
違
(
ちが
)
ふぞえ』
135
と
又
(
また
)
もや
声
(
こゑ
)
を
尖
(
とが
)
らせ、
136
火鉢
(
ひばち
)
を
叩
(
たた
)
く。
137
テーリスタン『オイ、
138
兄弟
(
きやうだい
)
、
139
何
(
ど
)
うしようかな。
140
エライことに
取
(
と
)
ツつかまつたものだワイ』
141
黒姫
『
取
(
と
)
ツつかまるも
取
(
と
)
ツつかまらぬも、
142
お
前
(
まへ
)
の
自業
(
じごう
)
自得
(
じとく
)
だよ。
143
心
(
こころ
)
の
鬼
(
おに
)
が
身
(
み
)
を
責
(
せ
)
めるのだ。
144
お
前
(
まへ
)
は
結構
(
けつこう
)
な
身魂
(
みたま
)
だが、
145
其
(
そ
)
の
心
(
こころ
)
の
鬼
(
おに
)
が
矢張
(
やつぱ
)
り
邪魔
(
じやま
)
をするのだらう。
146
サア
早
(
はや
)
く
鬼
(
おに
)
を
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
して
美
(
うつく
)
しい
身魂
(
みたま
)
になつて
玉
(
たま
)
の
在処
(
ありか
)
を
知
(
し
)
らすのだよ。
147
大方
(
おほかた
)
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
の
指図
(
さしづ
)
でお
前
(
まへ
)
が
隠
(
かく
)
しとるのぢやないかなア。
148
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
を
気好
(
きよ
)
う
献上
(
けんじやう
)
するなんて
言
(
い
)
ひよつて、
149
麦飯
(
むぎめし
)
で
鯉
(
こひ
)
を
釣
(
つ
)
るやうな
企
(
たく
)
みをしたのだらう。
150
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
が
何程
(
なにほど
)
立派
(
りつぱ
)
でも
黄金
(
わうごん
)
の
玉
(
たま
)
に
比
(
くら
)
ぶれば
何
(
なん
)
でもない。
151
却々
(
なかなか
)
アルプス
教
(
けう
)
に
居
(
を
)
つた
奴
(
やつ
)
は
油断
(
ゆだん
)
がならぬ。
152
アヽさうぢや、
153
お
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
ばかり
責
(
せ
)
めて
居
(
を
)
つても
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬ。
154
大方
(
おほかた
)
陰
(
かげ
)
から
操
(
あやつ
)
つて
居
(
を
)
るのであらう。
155
此
(
こ
)
の
聖地
(
せいち
)
へ
来
(
き
)
てから
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
は、
156
始終
(
しじう
)
使
(
つか
)
ひ
馴
(
な
)
れたお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
を
私
(
わし
)
の
部下
(
ぶか
)
にして
呉
(
く
)
れと
云
(
い
)
つた
点
(
てん
)
からが
抑
(
そもそ
)
も
疑
(
うたが
)
はしい。
157
私
(
わし
)
が
黄金
(
わうごん
)
の
玉
(
たま
)
の
監督者
(
かんとくしや
)
と
云
(
い
)
ふことは、
158
よく
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
るのだから、
159
屹度
(
きつと
)
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
の
指図
(
さしづ
)
であらうがな。
160
ホヽヽヽ、
161
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
忠実
(
ちうじつ
)
なものだ。
162
善
(
ぜん
)
にも
強
(
つよ
)
ければ
悪
(
あく
)
にも
強
(
つよ
)
い。
163
一旦
(
いつたん
)
主人
(
しゆじん
)
と
仰
(
あふ
)
いだ
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
へ、
164
其処
(
そこ
)
まで
尽
(
つく
)
す
親切
(
しんせつ
)
は
見上
(
みあ
)
げたものだ。
165
俄主人
(
にはかしゆじん
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
に
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さらぬのも
無理
(
むり
)
はない。
166
アーア
私
(
わし
)
の
了簡
(
りやうけん
)
が
間違
(
まちが
)
つて
居
(
を
)
つた。
167
ドレ
是
(
これ
)
から
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
を
呼
(
よ
)
んで
訊問
(
じんもん
)
してみよう』
168
テーリスタン『
滅相
(
めつさう
)
なこと
仰有
(
おつしや
)
いますな。
169
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
さまは、
170
そんなお
方
(
かた
)
ぢやございませぬ。
171
苟
(
いやし
)
くも
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
竜国別
(
たつくにわけ
)
さまの
母上
(
ははうへ
)
ではありませぬか。
172
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
神徳
(
かげ
)
で
親子
(
おやこ
)
の
対面
(
たいめん
)
が
出来
(
でき
)
たと
云
(
い
)
つて、
173
それはそれは
温順
(
おとな
)
しく
誠
(
まこと
)
の
信仰
(
しんかう
)
に
入
(
はい
)
つてゐられます。
174
あんまり
御
(
お
)
疑
(
うたが
)
ひなさるのは
殺生
(
せつしやう
)
でございますよ』
175
黒姫
『アヽ
無理
(
むり
)
もない、
176
さうでなければ
人間
(
にんげん
)
ぢやない、
177
感心
(
かんしん
)
感心
(
かんしん
)
。
178
私
(
わし
)
もそんな
家来
(
けらい
)
をたとへ
半時
(
はんとき
)
でも
欲
(
ほ
)
しいものだ。
179
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
180
よく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
なさい。
181
お
前
(
まへ
)
は
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
背
(
そむ
)
いても、
182
一人
(
ひとり
)
の
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
が
大切
(
だいじ
)
か』
183
テーリスタン
『これは
聊
(
いささ
)
か
迷惑
(
めいわく
)
千万
(
せんばん
)
。
184
こんなことを
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
様
(
さま
)
がお
聞
(
き
)
きにならうものなら、
185
ビツクリして
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
されます』
186
黒姫
『ソリヤ
当然
(
あたりまへ
)
だよ。
187
余
(
あま
)
り
肝玉
(
きもだま
)
の
太
(
ふと
)
い
事
(
こと
)
をすると
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
睨
(
にら
)
まれ、
188
肝
(
きも
)
が
玉
(
たま
)
なしになつて
了
(
しま
)
ふのは
天地
(
てんち
)
の
許
(
ゆる
)
さぬ
道理
(
だうり
)
、
189
オホヽヽヽ、
190
さてもさても
しぶとい
代物
(
しろもの
)
だなア。
191
ドレドレ
五六七
(
みろく
)
の
太鼓
(
たいこ
)
が
鳴
(
な
)
つた。
192
朝
(
あさ
)
のお
勤
(
つと
)
めに
行
(
い
)
つて
来
(
く
)
るから、
193
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
何処
(
どこ
)
にも
逃
(
に
)
げることはならぬぞえ。
194
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
に
とつく
と
言
(
い
)
ひ
聞
(
き
)
かし、
195
私
(
わし
)
が
帰
(
かへ
)
る
迄
(
まで
)
に
そつ
と
黄金
(
わうごん
)
の
玉
(
たま
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
て
置
(
お
)
くのだよ』
196
テーリスタン、カーリンス
『アー
何
(
ど
)
うしたらよからうなア』
197
と
二人
(
ふたり
)
は
吐息
(
といき
)
をつく。
198
黒姫
(
くろひめ
)
は
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
に
参拝
(
さんぱい
)
せむと
衣紋
(
えもん
)
をつくろひ、
199
紋付
(
もんつき
)
羽織
(
はおり
)
を
着
(
ちやく
)
し、
200
稍
(
やや
)
悄気
(
せうげ
)
気分
(
きぶん
)
になつて
道路
(
みち
)
の
石
(
いし
)
を
一
(
ひと
)
つ
一
(
ひと
)
つ
数
(
かぞ
)
へるやうな
調子
(
てうし
)
で
なめくぢり
の
旅行式
(
りよかうしき
)
に、
201
力
(
ちから
)
なげに
参拝
(
さんぱい
)
に
出掛
(
でか
)
けた
後
(
あと
)
に
二人
(
ふたり
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
の
残
(
のこ
)
して
置
(
お
)
いた
長煙管
(
ながぎせる
)
を
握
(
と
)
り、
202
テーリスタンは
黒姫
(
くろひめ
)
の
座席
(
ざせき
)
に
坐
(
すわ
)
り、
203
テーリスタン
『これこれカーリンス、
204
お
前
(
まへ
)
は
余程
(
よつぽど
)
好
(
い
)
い
児
(
こ
)
ぢや、
205
さあチヤツと
玉
(
たま
)
の
在処
(
ありか
)
を
云
(
い
)
ふのだよ。
206
何処
(
どこ
)
へ
隠
(
かく
)
したか、
207
黒姫
(
くろひめ
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
208
このテーリスタンまでが
側杖
(
そばづゑ
)
を
食
(
く
)
つて、
209
終
(
つひ
)
に
累
(
るゐ
)
を
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
様
(
さま
)
に
及
(
およ
)
ぼさむとして
居
(
を
)
る
大切
(
たいせつ
)
な
危急
(
ききふ
)
な
場合
(
ばあひ
)
だよ。
210
黒姫
(
くろひめ
)
の
居
(
を
)
る
処
(
ところ
)
では
云
(
い
)
ひ
憎
(
にく
)
からうが、
211
黒姫
(
くろひめ
)
代理
(
だいり
)
のテーリスタンは
今
(
いま
)
まで
兄弟
(
きやうだい
)
同様
(
どうやう
)
に
交際
(
つきあ
)
つて
来
(
き
)
たのだから、
212
何一
(
なにひと
)
つ
心遣
(
こころづか
)
ひは
要
(
い
)
らない。
213
サア、
214
言
(
い
)
つて
御覧
(
ごらん
)
』
215
カーリンス『オイオイ
兄貴
(
あにき
)
、
216
お
前
(
まへ
)
までが
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
ふのだい。
217
矢張
(
やつぱ
)
り
俺
(
おれ
)
を
疑
(
うたが
)
つて
居
(
を
)
るのか』
218
テーリスタン
『
疑
(
うたが
)
はずに
居
(
を
)
れぬぢやないか。
219
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
俺
(
おれ
)
が
一緒
(
いつしよ
)
に
往
(
ゆ
)
かうと
言
(
い
)
つた
時
(
とき
)
、
220
貴様
(
きさま
)
は
親切
(
しんせつ
)
さうに「テーリスタン、
221
お
前
(
まへ
)
は
風邪
(
かぜ
)
をひいて
居
(
ゐ
)
るから
今日
(
けふ
)
は
休
(
やす
)
め、
222
俺
(
おれ
)
が
代
(
かは
)
りに
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
保護
(
ほご
)
を
見
(
み
)
え
隠
(
かく
)
れにして
来
(
く
)
る」と
言
(
い
)
つただらう。
223
親切
(
しんせつ
)
な
正直
(
しやうぢき
)
な
貴様
(
きさま
)
のことだから、
224
よもや
とは
思
(
おも
)
へども
前後
(
ぜんご
)
の
事情
(
じじやう
)
から
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
れば、
225
何
(
ど
)
うしても
貴様
(
きさま
)
を
疑
(
うたが
)
はねばならぬのだ。
226
お
前
(
まへ
)
が
盗
(
と
)
つたとより
考
(
かんが
)
へられないワ』
227
カーリンス
『アーア、
228
情
(
なさけ
)
ないことになつて
来
(
き
)
たワイ。
229
間違
(
まちが
)
へば
斯
(
か
)
うも
間違
(
まちが
)
ふものかなア。
230
なんとした
私
(
わし
)
は
因果
(
いんぐわ
)
な
生
(
うま
)
れつきだらう。
231
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
見放
(
みはな
)
されてゐるのか』
232
テーリスタン
『
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
見放
(
みはな
)
されようと
見放
(
みはな
)
されまいと、
233
貴様
(
きさま
)
の
心
(
こころ
)
の
持
(
も
)
ちやう
一
(
ひと
)
つだ。
234
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
してゐると
黒姫
(
くろひめ
)
さまが
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るぞ。
235
早
(
はや
)
く
俺
(
おれ
)
に
云
(
い
)
つて
了
(
しま
)
へ。
236
さうすれば
俺
(
おれ
)
も
責任
(
せきにん
)
を
分担
(
ぶんたん
)
して「
隠
(
かく
)
してゐましたが
実
(
じつ
)
はこれです」と
つき
出
(
だ
)
して、
237
怺
(
こら
)
へて
貰
(
もら
)
ふのだから』
238
カーリンス
『オイ
兄貴
(
あにき
)
、
239
一寸
(
ちよつと
)
お
前
(
まへ
)
下
(
した
)
へ
降
(
お
)
りて
呉
(
く
)
れ。
240
俺
(
おれ
)
が
其処
(
そこ
)
へ
行
(
ゆ
)
かぬと
話
(
はなし
)
が
出来
(
でき
)
ぬ』
241
テーリスタン
『ヨシヨシ
言
(
い
)
ひさへすれば
好
(
い
)
いのだ。
242
如何
(
どう
)
でもしてやらう。
243
サア、
244
煙草
(
たばこ
)
でも
燻
(
くす
)
べもつてすつかり
言
(
い
)
つて
了
(
しま
)
へ。
245
俺
(
おれ
)
は
下
(
した
)
へ
降
(
お
)
りて
聞
(
き
)
き
役
(
やく
)
だから』
246
と
茲
(
ここ
)
に
二人
(
ふたり
)
は
位置
(
ゐち
)
を
変
(
へん
)
じ、
247
カーリンスは
長煙管
(
ながぎせる
)
で
火鉢
(
ひばち
)
を
叩
(
たた
)
きながら
眼尻
(
めじり
)
を
釣
(
つ
)
り
上
(
あ
)
げ、
248
カーリンス
『コリヤ、
249
テーリスタン、
250
盗人
(
ぬすびと
)
猛々
(
たけだけ
)
しいとは
貴様
(
きさま
)
のことだ。
251
覚
(
おぼ
)
えのない
俺
(
おれ
)
に
自分
(
じぶん
)
の
悪
(
あく
)
を
塗
(
ぬ
)
りつけようとするのは
怪
(
け
)
しからぬぢやないか。
252
俺
(
おれ
)
が
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
貴様
(
きさま
)
の
病気
(
びやうき
)
を
苦
(
く
)
にして
親切
(
しんせつ
)
に
云
(
い
)
つてやつたら、
253
それを
逆
(
さか
)
に
取
(
と
)
つて
俺
(
おれ
)
を
盗人
(
ぬすびと
)
と
誣
(
しゆ
)
るのか。
254
さう
云
(
い
)
ふ
貴様
(
きさま
)
こそ
怪
(
あや
)
しい
点
(
てん
)
がある。
255
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
の
晩
(
ばん
)
だつた、
256
昨夜
(
ゆうべ
)
のやうに
月
(
つき
)
は
出
(
で
)
てない、
257
鼻
(
はな
)
を
撮
(
つま
)
まれても
分
(
わか
)
らぬやうな
時
(
とき
)
、
258
貴様
(
きさま
)
は
倒
(
こ
)
けたとか、
259
道路
(
みち
)
が
分
(
わか
)
らぬとか
云
(
い
)
つて
大変
(
たいへん
)
に
時間
(
ひま
)
をとつた
事
(
こと
)
があるだらう。
260
サア
何処
(
どこ
)
へ
隠
(
かく
)
した、
261
有体
(
ありてい
)
に
白状
(
はくじやう
)
せ。
262
もう
斯
(
か
)
うなる
以上
(
いじやう
)
は
兄弟
(
きやうだい
)
の
縁切
(
えんぎ
)
れだ。
263
併
(
しか
)
しさうは
云
(
い
)
ふものの、
264
事実
(
じじつ
)
さへ
白状
(
はくじやう
)
すれば、
265
矢張
(
やつぱ
)
り
元
(
もと
)
の
兄弟
(
きやうだい
)
だ、
266
親友
(
しんいう
)
だ。
267
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
様
(
さま
)
は
既
(
すで
)
に
改心
(
かいしん
)
なさつたのだから、
268
玉
(
たま
)
を
欲
(
ほ
)
しがる
道理
(
だうり
)
はない。
269
さすれば
貴様
(
きさま
)
は
其
(
そ
)
の
玉
(
たま
)
をもつて、
270
三国
(
みくに
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
に
献上
(
けんじやう
)
し、
271
バラモン
教
(
けう
)
で
羽振
(
はぶ
)
りを
利
(
き
)
かさうとする
野心
(
やしん
)
があるのだらう。
272
サアサ、
273
早
(
はや
)
く
申
(
まを
)
さぬか、
274
今迄
(
いままで
)
のカーリンスとは
訳
(
わけ
)
が
違
(
ちが
)
ふぞ。
275
閻魔
(
えんま
)
が
浄玻璃
(
じやうはり
)
の
鏡
(
かがみ
)
にかけて
善悪
(
ぜんあく
)
を
今
(
いま
)
に
立別
(
たてわ
)
けて
見
(
み
)
せる。
276
さア、
277
如何
(
どう
)
ぢや』
278
と
力任
(
ちからまか
)
せに
火鉢
(
ひばち
)
を
殴
(
なぐ
)
つた
途端
(
とたん
)
、
279
細
(
ほそ
)
い
竹
(
たけ
)
の
羅宇
(
らお
)
はポクリと
折
(
を
)
れて、
280
雁首
(
がんくび
)
はテーリスタンの
額口
(
ひたひぐち
)
に
喰
(
く
)
ひついた。
281
テーリスタンはムツと
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
て、
282
テーリスタン
『なに
貴様
(
きさま
)
、
283
他
(
ひと
)
に
己
(
おのれ
)
の
罪
(
つみ
)
を
塗
(
ぬ
)
りつけようとする
大悪人
(
だいあくにん
)
奴
(
め
)
』
284
と
両手
(
りやうて
)
をひろげて
武者
(
むしや
)
振
(
ぶ
)
りついた。
285
カーリンスは、
286
カーリンス
『
何
(
なに
)
ツ、
287
猪口才
(
ちよこざい
)
な』
288
と
握
(
にぎ
)
り
拳
(
こぶし
)
を
固
(
かた
)
めて、
289
無性
(
むしやう
)
矢鱈
(
やたら
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
の
留守中
(
るすちう
)
に
大格闘
(
だいかくとう
)
の
幕
(
まく
)
が
下
(
お
)
りた。
290
(
大正一一・五・二四
旧四・二八
外山豊二
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