霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 探(さぐ)り合(あ)ひ〔六九四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻 篇:第1篇 暗雲低迷 よみ(新仮名遣い):あんうんていめい
章:第2章 探り合ひ よみ(新仮名遣い):さぐりあい 通し章番号:694
口述日:1922(大正11)年05月24日(旧04月28日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年7月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
黒姫は二人を自分の館に連れて帰った。テーリスタンとカーリンスが黄金の玉を盗んだと疑ってきかない黒姫は、二人に滔々と心を入れ替えて玉を差し出すようにと説教をしている。
テーリスタンとカーリンスは自分たちではないと抗弁するが、黒姫は一向に信用しない。そのうちに、テーリスタンとカーリンスが、お互いに相棒が玉を盗んだのではないかと疑い出して、喧嘩を始めた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-26 10:31:37 文字数:4235 OBC :rm2202
愛善世界社版:24頁 八幡書店版:第4輯 388頁 修補版: 校定版:25頁 普及版:11頁 初版: ページ備考:
001 言依別(ことよりわけ)に託(たく)されし、002黄金(わうごん)の玉(たま)の行方(ゆくへ)をば、003見失(みうしな)ひたる黒姫(くろひめ)は、004テーリスタンやカーリンス、005二人(ふたり)の男(をとこ)に疑(うたが)ひを、006抱(いだ)きながらにトボトボと、007己(おの)が館(やかた)に立(た)ち帰(かへ)り、008二人(ふたり)を前(まへ)に坐(すわ)らせつ、009茶(ちや)の湯(ゆ)を進(すす)め機嫌(きげん)をとり、010威(おど)しつ慊(すか)しつ訊(たづ)ぬれば、011素(もと)より二人(ふたり)は白紙(しらかみ)の、012疚(やま)しき所(ところ)なく涙(なみだ)、013声(こゑ)を絞(しぼ)つて弁解(べんかい)すれど、014容易(ようい)に晴(は)れぬ黒姫(くろひめ)の、015胸(むね)に心(こころ)を悩(なや)ませつ、016互(たがひ)に顔(かほ)を見合(みあは)せて、017如何(いかが)はせむと腕(うで)を組(く)み、018差俯向(さしうつむ)いて黙然(もくねん)たるぞ憐(いぢ)らしき。
019黒姫(くろひめ)『人間(にんげん)は神(かみ)様(さま)の生宮(いきみや)だから、020何処(どこ)までも正直(しやうぢき)にせなくてはなりませぬぞや。021如何(いか)なる罪科(つみとが)があつても、022悔(く)い改(あらた)めたならば大神(おほかみ)様(さま)は、023神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し、024聞直(ききなほ)し、025宣直(のりなほ)して下(くだ)さるのだ。026此(こ)の世(よ)の中(なか)は、027隅(すみ)から隅(すみ)まで日月(じつげつ)の如(ごと)く明(あきら)かなる神(かみ)様(さま)の御(ご)支配(しはい)であるから、028どんな小(ちひ)さいことでも神(かみ)の御(おん)眼(め)を眩(くら)ますことは出来(でき)ない。029わづかの此(こ)の世(よ)で目的(もくてき)を達(たつ)しても、030永遠(ゑいゑん)無窮(むきう)の神界(しんかい)で苦(くる)しみを受(う)けるやうなことが出来(でき)ては大変(たいへん)な不利益(ふりえき)だから、031私(わし)は神(かみ)様(さま)のため、032世人(よびと)のため、033又(また)お前(まへ)達(たち)両人(りやうにん)の身魂(みたま)の幸福(かうふく)のために云(い)ふのだから、034綺麗(きれい)薩張(さつぱり)と玉(たま)の在処(ありか)を知(し)らしておくれ。035何時(いつ)まで腕組(うでぐみ)思案(しあん)してゐた処(ところ)で、036悪(あく)が善(ぜん)に復(かへ)る筈(はず)はない。037盗(ぬす)むと云(い)ふ一事(いちじ)は何処迄(どこまで)も万劫(まんがふ)末代(まつだい)消(き)えませぬぞえ。038サ、039あまり世間(せけん)にパツとせない間(うち)、040私(わし)に一伍(いちぶ)一什(しじふ)を白状(はくじやう)して下(くだ)さい。041私(わし)の落度(おちど)にもなり、042お前(まへ)さまの罪(つみ)にもなるのだから、043今(いま)の間(うち)に私(わし)に白状(はくじやう)しさへすれば、044此(この)場(ば)限(かぎ)りで何処(どこ)も彼(か)も天下(てんか)泰平(たいへい)無事(ぶじ)安穏(あんのん)に治(をさ)まる訳(わけ)だから。045サア、046テーリスタン、047カーリンス、048早(はや)く素直(すなほ)に言(い)つておくれ』
049テーリスタン『これは又(また)してもお訊(たづ)ねですが、050何(なん)と仰有(おつしや)つても知(し)らぬ事(こと)は知(し)らぬと答(こた)へるより外(ほか)に途(みち)が無(な)いぢやありませぬか』
051黒姫『エー又(また)しても白(しら)ツぱくれなさるのか。052さてもさても分(わか)らぬ人(ひと)だなア。053これこれカーリンス、054お前(まへ)は正直者(しやうぢきもの)だ。055私(わし)を助(たす)けて呉(く)れただけあつて、056何処(どこ)ともなしに徳(とく)のある顔(かほ)をして居(ゐ)る。057神(かみ)様(さま)のお姿(すがた)みたやうだ。058屹度(きつと)お前(まへ)は霊肉(れいにく)共(とも)に清浄(せいじやう)潔白(けつぱく)だから、059テーリスタンに対(たい)し堅(かた)い約束(やくそく)を破(やぶ)つてはならないと隠(かく)してゐるのだらうが、060そんな心遣(こころづかひ)は要(い)らぬ事(こと)だ。061事(こと)の軽重(けいちよう)大小(だいせう)により考(かんが)へて見(み)なさい。062お前(まへ)が私(わし)に全然(すつかり)白状(はくじやう)をしたと云(い)つても、063決(けつ)してテーリスタンを苦(くる)しめるのでも責(せ)めるのでもない。064畢竟(つまり)テーリスタンも、065私(わし)も、066お前(まへ)も大慶(たいけい)だし、067ツイ当座(たうざ)の出来(でき)心(ごころ)だから。068若(わか)い時(とき)には誰(たれ)しもある事(こと)だから、069屹度(きつと)神(かみ)様(さま)は見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し、070宣直(のりなほ)して下(くだ)さる。071私(わし)も何程(なにほど)お前(まへ)が悪(わる)うても、072見直(みなほ)し、073聞直(ききなほ)し、074初(うぶ)の心(こころ)で今(いま)までの事(こと)は川(かは)へサラリと流(なが)し、075心(こころ)許(ゆる)して交際(かうさい)をさして貰(もら)ふから、076さア、077チヤツとカーリンス、078言(い)はつしやいよ』
079 カーリンスは頭(あたま)を掻(か)きながら、
080カーリンス『ヘイ貴女(あなた)の御(お)言葉(ことば)はよく分(わか)つて居(を)ります』
081黒姫『さうだらう、082分(わか)つたぢやらう。083矢張(やつぱ)りお前(まへ)はテーリスタンとは、084一寸(ちよつと)兄貴(あにき)だけあつて賢(かしこ)い、085偉(えら)いものだ。086正直(しやうぢき)は此(この)世(よ)の宝(たから)だ。087なア、088カーリンス』
089カーリンス『モシ黒姫(くろひめ)様(さま)、090知(し)らぬことを知(し)つたやうに云(い)つたら、091それでも誠(まこと)になりますか』
092黒姫『知(し)つたことを知(し)らぬと云(い)ふのが悪(わる)いのだ。093知(し)つたことを「知(し)つて居(を)ります、094斯様(かやう)々々(かやう)致(いた)しました」と言(い)ひさへすれば、095途方(とはう)もない玉盗人(たまぬすと)をしたお前(まへ)も、096罪(つみ)が消(き)えて却(かへつ)て素直(すなほ)な奴(やつ)だと大神(おほかみ)様(さま)が誉(ほ)めて下(くだ)さるぞえ』
097カーリンス『オイ、098テーリスタン、099斯(こ)んな婆(ばあ)さまに掛(かか)り合(あ)つたら、100とりもち桶(をけ)へ脚(あし)を突込(つつこ)んだやうなものだなア。101何(ど)うしたらよからうか』
102テーリスタン『それだと云(い)つて第一(だいいち)吾々(われわれ)を日頃(ひごろ)から大切(たいせつ)にして下(くだ)さる黒姫(くろひめ)様(さま)の御(ご)難儀(なんぎ)になるのだから、103あゝして厳(きび)しう執拗(しつこ)くお訊(たづ)ねなさるのも仕方(しかた)がない。104黒姫(くろひめ)様(さま)のお立場(たちば)になれば無理(むり)もないよ。105ぢやと云(い)つて吾々(われわれ)両人(ふたり)は本当(ほんたう)に迷惑(めいわく)だなア』
106黒姫『お前(まへ)達(たち)其処(そこ)迄(まで)物(もの)が分(わか)つて居(を)りながら、107何故(なぜ)私(わし)を焦(じ)らすのだい。108盗人(ぬすびと)猛々(たけだけ)しいとはお前(まへ)達(たち)のことだよ。109他(ひと)が温順(おとな)しく出(で)ればつけ上(あが)り、110歯抜(はぬ)けが蛸(たこ)を噛(か)むやうにグヂヤグヂヤと歯切(はぎ)れのせぬ返事(へんじ)ばつかりして………エー辛気臭(しんきくさ)い。111困(こま)つた泥坊(どろばう)だなア』
112と長煙管(ながぎせる)で丸火鉢(まるひばち)をクワンクワンとはたき、113眼(め)をキリツと釣(つ)り上(あ)げ、114片膝(かたひざ)を立(た)てて斜(しや)に構(かま)へ息(いき)を喘(はづ)ませて見(み)せた。115折柄(をりから)錦(にしき)の宮(みや)の高楼(たかどの)に夜明(よあけ)と見(み)えて、116祝詞(のりと)奏上(そうじやう)の始(はじ)まる五六七(みろく)の太鼓(たいこ)が響(ひび)いて来(き)た。
117テーリスタン『オイ、118カーリンス、119あれは五六七(みろく)の太鼓(たいこ)の音(おと)、120モー御(お)礼(れい)だ。121一先(ひとま)づ御免(ごめん)を蒙(かうむ)つて参拝(さんぱい)をして来(こ)うかい』
122カーリンス『オーそうだ、123黒姫(くろひめ)様(さま)、124ゆつくり心(こころ)を落着(おちつ)けて吾々(われわれ)の無実(むじつ)を御(お)考(かんが)へ下(くだ)さいませ。125これからお詣(まゐ)りして来(き)ます』
126黒姫『オホヽヽ、127五六七(みろく)の太鼓(たいこ)は、128お前(まへ)さまの為(ため)には結構(けつこう)な助(たす)け舟(ぶね)だ。129併(しか)し乍(なが)ら五六七(みろく)でも七五三(しちごさん)でもお詣(まゐ)りは出来(でき)ませぬよ。130此(こ)の話(はなし)の解決(かいけつ)がつくまで参拝(さんぱい)は黒姫(くろひめ)が許(ゆる)しませぬ。131そんな盗人(ぬすと)根性(こんじやう)で神(かみ)様(さま)へ詣(まゐ)つて、132結構(けつこう)な御(お)宮(みや)様(さま)を汚(けが)すと云(い)ふ事(こと)があるものか、133罰当(ばちあた)り奴(め)が、134アルプス教(けう)の教(をしへ)とはチツト違(ちが)ふぞえ』
135と又(また)もや声(こゑ)を尖(とが)らせ、136火鉢(ひばち)を叩(たた)く。
137テーリスタン『オイ、138兄弟(きやうだい)、139何(ど)うしようかな。140エライことに取(と)ツつかまつたものだワイ』
141黒姫『取(と)ツつかまるも取(と)ツつかまらぬも、142お前(まへ)の自業(じごう)自得(じとく)だよ。143心(こころ)の鬼(おに)が身(み)を責(せ)めるのだ。144お前(まへ)は結構(けつこう)な身魂(みたま)だが、145其(そ)の心(こころ)の鬼(おに)が矢張(やつぱ)り邪魔(じやま)をするのだらう。146サア早(はや)く鬼(おに)を突(つ)き出(だ)して美(うつく)しい身魂(みたま)になつて玉(たま)の在処(ありか)を知(し)らすのだよ。147大方(おほかた)鷹依姫(たかよりひめ)の指図(さしづ)でお前(まへ)が隠(かく)しとるのぢやないかなア。148紫(むらさき)の玉(たま)を気好(きよ)う献上(けんじやう)するなんて言(い)ひよつて、149麦飯(むぎめし)で鯉(こひ)を釣(つ)るやうな企(たく)みをしたのだらう。150紫(むらさき)の玉(たま)が何程(なにほど)立派(りつぱ)でも黄金(わうごん)の玉(たま)に比(くら)ぶれば何(なん)でもない。151却々(なかなか)アルプス教(けう)に居(を)つた奴(やつ)は油断(ゆだん)がならぬ。152アヽさうぢや、153お前(まへ)の事(こと)ばかり責(せ)めて居(を)つても訳(わけ)が分(わか)らぬ。154大方(おほかた)陰(かげ)から操(あやつ)つて居(を)るのであらう。155此(こ)の聖地(せいち)へ来(き)てから鷹依姫(たかよりひめ)は、156始終(しじう)使(つか)ひ馴(な)れたお前(まへ)達(たち)二人(ふたり)を私(わし)の部下(ぶか)にして呉(く)れと云(い)つた点(てん)からが抑(そもそ)も疑(うたが)はしい。157私(わし)が黄金(わうごん)の玉(たま)の監督者(かんとくしや)と云(い)ふことは、158よく分(わか)つて居(を)るのだから、159屹度(きつと)鷹依姫(たかよりひめ)の指図(さしづ)であらうがな。160ホヽヽヽ、161お前(まへ)達(たち)は忠実(ちうじつ)なものだ。162善(ぜん)にも強(つよ)ければ悪(あく)にも強(つよ)い。163一旦(いつたん)主人(しゆじん)と仰(あふ)いだ鷹依姫(たかよりひめ)へ、164其処(そこ)まで尽(つく)す親切(しんせつ)は見上(みあ)げたものだ。165俄主人(にはかしゆじん)の黒姫(くろひめ)に云(い)つて下(くだ)さらぬのも無理(むり)はない。166アーア私(わし)の了簡(りやうけん)が間違(まちが)つて居(を)つた。167ドレ是(これ)から鷹依姫(たかよりひめ)を呼(よ)んで訊問(じんもん)してみよう』
168テーリスタン『滅相(めつさう)なこと仰有(おつしや)いますな。169鷹依姫(たかよりひめ)さまは、170そんなお方(かた)ぢやございませぬ。171苟(いやし)くも三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)竜国別(たつくにわけ)さまの母上(ははうへ)ではありませぬか。172大神(おほかみ)様(さま)の御(お)神徳(かげ)で親子(おやこ)の対面(たいめん)が出来(でき)たと云(い)つて、173それはそれは温順(おとな)しく誠(まこと)の信仰(しんかう)に入(はい)つてゐられます。174あんまり御(お)疑(うたが)ひなさるのは殺生(せつしやう)でございますよ』
175黒姫『アヽ無理(むり)もない、176さうでなければ人間(にんげん)ぢやない、177感心(かんしん)感心(かんしん)。178私(わし)もそんな家来(けらい)をたとへ半時(はんとき)でも欲(ほ)しいものだ。179併(しか)し乍(なが)ら、180よく考(かんが)へて見(み)なさい。181お前(まへ)は大神(おほかみ)様(さま)の誠(まこと)の道(みち)に背(そむ)いても、182一人(ひとり)の鷹依姫(たかよりひめ)が大切(だいじ)か』
183テーリスタン『これは聊(いささ)か迷惑(めいわく)千万(せんばん)。184こんなことを鷹依姫(たかよりひめ)様(さま)がお聞(き)きにならうものなら、185ビツクリして肝(きも)を潰(つぶ)されます』
186黒姫『ソリヤ当然(あたりまへ)だよ。187余(あま)り肝玉(きもだま)の太(ふと)い事(こと)をすると神(かみ)様(さま)に睨(にら)まれ、188肝(きも)が玉(たま)なしになつて了(しま)ふのは天地(てんち)の許(ゆる)さぬ道理(だうり)、189オホヽヽヽ、190さてもさてもしぶとい代物(しろもの)だなア。191ドレドレ五六七(みろく)の太鼓(たいこ)が鳴(な)つた。192朝(あさ)のお勤(つと)めに行(い)つて来(く)るから、193お前(まへ)達(たち)は何処(どこ)にも逃(に)げることはならぬぞえ。194鷹依姫(たかよりひめ)にとつくと言(い)ひ聞(き)かし、195私(わし)が帰(かへ)る迄(まで)にそつと黄金(わうごん)の玉(たま)を持(も)つて来(き)て置(お)くのだよ』
196テーリスタン、カーリンス『アー何(ど)うしたらよからうなア』
197と二人(ふたり)は吐息(といき)をつく。
198 黒姫(くろひめ)は錦(にしき)の宮(みや)に参拝(さんぱい)せむと衣紋(えもん)をつくろひ、199紋付(もんつき)羽織(はおり)を着(ちやく)し、200稍(やや)悄気(せうげ)気分(きぶん)になつて道路(みち)の石(いし)を一(ひと)つ一(ひと)つ数(かぞ)へるやうな調子(てうし)でなめくぢりの旅行式(りよかうしき)に、201力(ちから)なげに参拝(さんぱい)に出掛(でか)けた後(あと)に二人(ふたり)は黒姫(くろひめ)の残(のこ)して置(お)いた長煙管(ながぎせる)を握(と)り、202テーリスタンは黒姫(くろひめ)の座席(ざせき)に坐(すわ)り、
203テーリスタン『これこれカーリンス、204お前(まへ)は余程(よつぽど)好(い)い児(こ)ぢや、205さあチヤツと玉(たま)の在処(ありか)を云(い)ふのだよ。206何処(どこ)へ隠(かく)したか、207黒姫(くろひめ)は申(まを)すに及(およ)ばず、208このテーリスタンまでが側杖(そばづゑ)を食(く)つて、209終(つひ)に累(るゐ)を鷹依姫(たかよりひめ)様(さま)に及(およ)ぼさむとして居(を)る大切(たいせつ)な危急(ききふ)な場合(ばあひ)だよ。210黒姫(くろひめ)の居(を)る処(ところ)では云(い)ひ憎(にく)からうが、211黒姫(くろひめ)代理(だいり)のテーリスタンは今(いま)まで兄弟(きやうだい)同様(どうやう)に交際(つきあ)つて来(き)たのだから、212何一(なにひと)つ心遣(こころづか)ひは要(い)らない。213サア、214言(い)つて御覧(ごらん)』
215カーリンス『オイオイ兄貴(あにき)、216お前(まへ)までが何(なに)を言(い)ふのだい。217矢張(やつぱ)り俺(おれ)を疑(うたが)つて居(を)るのか』
218テーリスタン『疑(うたが)はずに居(を)れぬぢやないか。219此(この)間(あひだ)俺(おれ)が一緒(いつしよ)に往(ゆ)かうと言(い)つた時(とき)、220貴様(きさま)は親切(しんせつ)さうに「テーリスタン、221お前(まへ)は風邪(かぜ)をひいて居(ゐ)るから今日(けふ)は休(やす)め、222俺(おれ)が代(かは)りに黒姫(くろひめ)様(さま)の御(ご)保護(ほご)を見(み)え隠(かく)れにして来(く)る」と言(い)つただらう。223親切(しんせつ)な正直(しやうぢき)な貴様(きさま)のことだから、224よもやとは思(おも)へども前後(ぜんご)の事情(じじやう)から考(かんが)へて見(み)れば、225何(ど)うしても貴様(きさま)を疑(うたが)はねばならぬのだ。226お前(まへ)が盗(と)つたとより考(かんが)へられないワ』
227カーリンス『アーア、228情(なさけ)ないことになつて来(き)たワイ。229間違(まちが)へば斯(か)うも間違(まちが)ふものかなア。230なんとした私(わし)は因果(いんぐわ)な生(うま)れつきだらう。231天地(てんち)の神(かみ)様(さま)に見放(みはな)されてゐるのか』
232テーリスタン『天地(てんち)の神(かみ)様(さま)に見放(みはな)されようと見放(みはな)されまいと、233貴様(きさま)の心(こころ)の持(も)ちやう一(ひと)つだ。234愚図(ぐづ)々々(ぐづ)してゐると黒姫(くろひめ)さまが帰(かへ)つて来(く)るぞ。235早(はや)く俺(おれ)に云(い)つて了(しま)へ。236さうすれば俺(おれ)も責任(せきにん)を分担(ぶんたん)して「隠(かく)してゐましたが実(じつ)はこれです」とつき出(だ)して、237怺(こら)へて貰(もら)ふのだから』
238カーリンス『オイ兄貴(あにき)、239一寸(ちよつと)お前(まへ)下(した)へ降(お)りて呉(く)れ。240俺(おれ)が其処(そこ)へ行(ゆ)かぬと話(はなし)が出来(でき)ぬ』
241テーリスタン『ヨシヨシ言(い)ひさへすれば好(い)いのだ。242如何(どう)でもしてやらう。243サア、244煙草(たばこ)でも燻(くす)べもつてすつかり言(い)つて了(しま)へ。245俺(おれ)は下(した)へ降(お)りて聞(き)き役(やく)だから』
246と茲(ここ)に二人(ふたり)は位置(ゐち)を変(へん)じ、247カーリンスは長煙管(ながぎせる)で火鉢(ひばち)を叩(たた)きながら眼尻(めじり)を釣(つ)り上(あ)げ、
248カーリンス『コリヤ、249テーリスタン、250盗人(ぬすびと)猛々(たけだけ)しいとは貴様(きさま)のことだ。251覚(おぼ)えのない俺(おれ)に自分(じぶん)の悪(あく)を塗(ぬ)りつけようとするのは怪(け)しからぬぢやないか。252俺(おれ)が此(この)間(あひだ)貴様(きさま)の病気(びやうき)を苦(く)にして親切(しんせつ)に云(い)つてやつたら、253それを逆(さか)に取(と)つて俺(おれ)を盗人(ぬすびと)と誣(しゆ)るのか。254さう云(い)ふ貴様(きさま)こそ怪(あや)しい点(てん)がある。255此(この)間(あひだ)の晩(ばん)だつた、256昨夜(ゆうべ)のやうに月(つき)は出(で)てない、257鼻(はな)を撮(つま)まれても分(わか)らぬやうな時(とき)、258貴様(きさま)は倒(こ)けたとか、259道路(みち)が分(わか)らぬとか云(い)つて大変(たいへん)に時間(ひま)をとつた事(こと)があるだらう。260サア何処(どこ)へ隠(かく)した、261有体(ありてい)に白状(はくじやう)せ。262もう斯(か)うなる以上(いじやう)は兄弟(きやうだい)の縁切(えんぎ)れだ。263併(しか)しさうは云(い)ふものの、264事実(じじつ)さへ白状(はくじやう)すれば、265矢張(やつぱ)り元(もと)の兄弟(きやうだい)だ、266親友(しんいう)だ。267鷹依姫(たかよりひめ)様(さま)は既(すで)に改心(かいしん)なさつたのだから、268玉(たま)を欲(ほ)しがる道理(だうり)はない。269さすれば貴様(きさま)は其(そ)の玉(たま)をもつて、270三国(みくに)ケ岳(だけ)の蜈蚣姫(むかでひめ)様(さま)に献上(けんじやう)し、271バラモン教(けう)で羽振(はぶ)りを利(き)かさうとする野心(やしん)があるのだらう。272サアサ、273早(はや)く申(まを)さぬか、274今迄(いままで)のカーリンスとは訳(わけ)が違(ちが)ふぞ。275閻魔(えんま)が浄玻璃(じやうはり)の鏡(かがみ)にかけて善悪(ぜんあく)を今(いま)に立別(たてわ)けて見(み)せる。276さア、277如何(どう)ぢや』
278と力任(ちからまか)せに火鉢(ひばち)を殴(なぐ)つた途端(とたん)、279細(ほそ)い竹(たけ)の羅宇(らお)はポクリと折(を)れて、280雁首(がんくび)はテーリスタンの額口(ひたひぐち)に喰(く)ひついた。
281 テーリスタンはムツと腹(はら)を立(た)て、
282テーリスタン『なに貴様(きさま)、283他(ひと)に己(おのれ)の罪(つみ)を塗(ぬ)りつけようとする大悪人(だいあくにん)奴(め)』
284と両手(りやうて)をひろげて武者(むしや)振(ぶ)りついた。285カーリンスは、
286カーリンス『何(なに)ツ、287猪口才(ちよこざい)な』
288と握(にぎ)り拳(こぶし)を固(かた)めて、289無性(むしやう)矢鱈(やたら)に黒姫(くろひめ)の留守中(るすちう)に大格闘(だいかくとう)の幕(まく)が下(お)りた。
290(大正一一・五・二四 旧四・二八 外山豊二録)
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