霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 銀公(ぎんこう)着瀑(ちやくばく)〔七〇四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻 篇:第3篇 黄金化神 よみ(新仮名遣い):おうごんけしん
章:第12章 銀公着瀑 よみ(新仮名遣い):ぎんこうちゃくばく 通し章番号:704
口述日:1922(大正11)年05月26日(旧04月30日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年7月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
鷹鳥山中腹には、高姫、若彦、玉能姫の三人が籠もっていた。三人は谷川に降り立って禊を修していると、中空から二十四五の男が落ちてきて滝壺に落ち込んだ。
若彦は男を救いあげた。天の数歌を唱えて魂呼びをすると、男は息を吹き返した。男は三五教に助けられたことを知ると、銀とだけ名乗った。玉能姫に素性を尋ねられて、銀公は自分は無住所如来だ、と出任せを言う。
しかし玉能姫は、以前にバラモン教徒に襲われそうになったことがあり、銀公の顔を覚えていた。若彦も銀公の顔を認め、三五教の言霊で清めてやろう、という。
三五教の言霊に恐れをなした銀公は、金助が黄金仏像になった一件を明かした。若彦が外に出て山頂を見ると、確かに光が煌煌と輝いている。若彦は驚いて鷹鳥姫を呼んだ。
若彦を留守に残して、鷹鳥姫と玉能姫は山頂に向かった。金の仏像は二人を見ると、鷹鳥姫を掴んで、自分のところに来るにはまだ早い、と言って山の中腹に投げ返した。
仏像は玉能姫は東に行け、と言って東の方向に投げてしまった。すると仏像はたちまち爆音とともに消えてしまった。後には肉体に戻った金助が、山を降って鷹鳥姫の庵を尋ね、銀公と共に三五教に帰順した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-30 02:11:15 文字数:4331 OBC :rm2212
愛善世界社版:153頁 八幡書店版:第4輯 436頁 修補版: 校定版:157頁 普及版:71頁 初版: ページ備考:
001 鷹鳥山(たかとりやま)の中腹(ちうふく)の岩(いは)の根(ね)に庵(いほり)を結(むす)び、002三五教(あななひけう)の教(をしへ)の御柱(みはしら)を築(きづ)かむと立籠(たてこも)りたる鷹鳥姫(たかとりひめ)、003若彦(わかひこ)、004玉能姫(たまのひめ)の三人(みたり)は、005何(なに)か心(こころ)に期(き)する所(ところ)あるものの如(ごと)く、006谷川(たにがは)に下(お)り立(た)ち、007禊身(みそぎ)を修(しう)して居(を)る時(とき)しも、008中空(ちうくう)を掠(かす)めて鳩(はと)の如(ごと)く降(くだ)り来(きた)れる一人(ひとり)の男(をとこ)、009滝壺(たきつぼ)にザンブとばかり落(お)ち込(こ)んだ。010三(さん)人(にん)は俄(にはか)の出来事(できごと)に驚(おどろ)いて目(め)を瞠(みは)り、011滝壺(たきつぼ)を熟視(じゆくし)すれば、012水面(すゐめん)の蜒(うね)りに揺(ゆ)られて浮(う)き上(あが)り来(きた)る男(をとこ)の姿(すがた)、
013若彦『こは大変(たいへん)』
014と若彦(わかひこ)は身(み)を躍(をど)らし滝壺(たきつぼ)に飛(と)び入(い)り、015小脇(こわき)に引抱(ひつかか)へ漸(やうや)くにして救(すく)ひ上(あ)げた。016これは二十四(にじふし)五(ご)歳(さい)の元気(げんき)盛(ざか)りの男(をとこ)の姿(すがた)。017種々(いろいろ)と耳(みみ)近(ちか)くに口(くち)を寄(よ)せ、
018若彦『オーイ オーイ』
019と魂呼(たまよ)びの神術(かむわざ)をなし、020天(あま)の数歌(かずうた)を力限(ちからかぎ)りに唱(とな)ふれば、021漸(やうや)くにして息(いき)吹(ふ)き返(かへ)し、022四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)しながら、023三(さん)人(にん)を見(み)て、
024男(銀公)『此処(ここ)は何処(いづこ)で御座(ござ)います。025私(わたくし)は何時(いつ)の間(ま)に此様(こん)な所(ところ)へ来(き)たのでせうか、026見知(みし)らぬお方(かた)ばかり………貴方(あなた)様(さま)は何(なん)と言(い)ふお方(かた)で御座(ござ)います』
027若彦(わかひこ)『此処(ここ)は鷹鳥山(たかとりやま)の中腹(ちうふく)、028三五教(あななひけう)の教(をしへ)の射場(いば)(教場(けうぢやう))、029鷹鳥姫(たかとりひめ)の御(おん)住家(すみか)だ』
030男(銀公)『何卒(どうぞ)怺(こら)へて下(くだ)さいませ。031生命(いのち)ばかりはお助(たす)けを願(ねが)ひます』
032若彦『生命(いのち)を助(たす)けてやつたお前(まへ)さまを、033誰(たれ)が又(また)生命(いのち)をとるものか。034ちと気(き)を落(お)ち着(つ)けなさい。035お前(まへ)さまは何(なん)と言(い)ふ名(な)だ』
036男(銀公)『ハイ、037私(わたくし)は名(な)は確(たし)か……銀(ぎん)と言(い)つた様(やう)に覚(おぼ)えて居(ゐ)ます』
038若彦『アハヽヽヽ自分(じぶん)の名(な)を、039銀(ぎん)といつた様(やう)に覚(おぼ)えて居(ゐ)るとは、040ちつと可笑(をか)しいぢやないか。041今(いま)見(み)て居(を)れば天(てん)から降(ふ)つて来(き)た様(やう)だが、042一体(いつたい)何処(どこ)の国(くに)から来(き)たのだ』
043男(銀公)『ハイ、044一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さい。045さう短兵急(たんぺいきふ)にお尋(たづ)ねになつても、046魂(たましひ)が何処(どこ)か宿替(やどがへ)したと見(み)えて、047はつきりとお答(こた)へが出来(でき)ませぬ』
048若彦『ア、049さうだらう、050無理(むり)もない。051大空(おほぞら)から降(ふ)つて来(き)たのだもの。052まアゆつくり着物(きもの)を着替(きか)へさして上(あ)げるから、053此処(ここ)で休(やす)んで気(き)を落着(おちつ)け、054其(その)上(うへ)で物語(ものがたり)をしたが宜(よ)からう。055鷹鳥姫(たかとりひめ)さま、056どうも妙(めう)な事(こと)があるものですなア』
057鷹鳥姫(たかとりひめ)『何(いづ)れ日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)の御(お)子(こ)さまが沢山(たくさん)あると言(い)ふ事(こと)だから、058妾(わたし)等(ら)が誠(まこと)を憐(あはれ)み給(たま)うて天(てん)から応援(おうゑん)に来(き)て下(くだ)さつたのかも知(し)れませぬぜ。059兎(と)も角(かく)大切(たいせつ)に扱(あつか)はねばなりますまい。060さアさア玉能姫(たまのひめ)さま、061貴方(あなた)は衣服(きもの)を着替(きか)へさして上(あ)げなさい』
062 玉能姫(たまのひめ)は、
063玉能姫『アイ』
064と答(こた)へて若彦(わかひこ)の着替(きがへ)を持(も)ち出(だ)し、065男(をとこ)に着替(きか)へさせ、066手(て)を引(ひ)きながら一室(ひとま)に連(つ)れ込(こ)み静(しづ)かに寝(ね)させ、067男(をとこ)の濡(ぬ)れた衣(きぬ)を絞(しぼ)り木(き)の枝(えだ)に懸(か)けて乾(かわ)かさうとして居(ゐ)る。
068若彦(わかひこ)『コレ、069玉能姫(たまのひめ)、070其(その)着物(きもの)の裏(うら)に何(なに)か標(しるし)はついて居(ゐ)ないか。071よく調(しら)べてお呉(く)れ』
072と言(い)ひすて再(ふたた)び鷹鳥姫(たかとりひめ)と共(とも)に以前(いぜん)の滝壺(たきつぼ)の傍(かたはら)に至(いた)り、073天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し頻(しき)りに水垢離(みづごり)にかかり始(はじ)めた。
074 玉能姫(たまのひめ)は衣(きぬ)を干(ほ)しながら詳細(しやうさい)に何(なに)か標(しるし)は無(な)きやと探(さが)す中(うち)、075「銀(ぎん)」と言(い)ふ印(しるし)に目(め)が付(つ)いた。
076玉能姫『ハア……最前(さいぜん)銀(ぎん)と言(い)ふ様(やう)に思(おも)ひますがと彼(あ)の方(かた)が言(い)つたのは、077矢張(やつぱ)り現(うつつ)でもなかつたらしい。078それにしても天上(てんじやう)から彼(あ)の淵(ふち)へ天降(あまくだ)つて来(く)るのは何(なに)か理由(わけ)がなくてはなるまい。079一(ひと)つお気(き)の鎮(しづ)まつた折(をり)を考(かんが)へて詳(くは)しく尋(たづ)ねて見(み)よう』
080と独語(ひとりご)ちつつ男(をとこ)の横臥(わうぐわ)せる枕許(まくらもと)に進(すす)み寄(よ)り見(み)れば、081以前(いぜん)の男(をとこ)は床上(しやうじやう)に起上(おきあが)り、082不思議(ふしぎ)さうに四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)して居(ゐ)る。
083玉能姫『モシモシ貴方(あなた)、084お気分(きぶん)は如何(どう)です』
085男(銀公)『ハイ、086大変(たいへん)に気分(きぶん)が良(よ)くなりました。087然(しか)し此処(ここ)は何(なん)と云(い)ふ所(ところ)で御座(ござ)いますか』
088玉能姫『此処(ここ)は鷹鳥山(たかとりやま)の三五教(あななひけう)の射場(いば)です。089貴方(あなた)は天(てん)から真逆(まつさか)様(さま)に滝壺(たきつぼ)へ降(ふ)つて御座(ござ)つたが、090一体(いつたい)何処(どこ)から御(お)出(い)でになつたのです』
091銀公(ぎんこう)は三五教(あななひけう)の射場(いば)と聞(き)いて心(こころ)に打驚(うちおどろ)き、
092銀公『ヤア、093大変(たいへん)だ。094知(し)らず識(し)らずに黄金像(わうごんざう)に撥(は)ね飛(と)ばされて、095敵(てき)の中(なか)へ落(お)ち込(こ)み敵(てき)に救(すく)はれたのか。096こりや迂濶(うつかり)バラモン教(けう)だなどと言(い)はうものなら大変(たいへん)だ。097何(なん)とかよい考(かんが)へはあるまいか』
098と腕(うで)を組(く)んで思案(しあん)に暮(く)れて居(ゐ)る。
099玉能姫『何卒(どうぞ)仰有(おつしや)つて下(くだ)さいませ。100今(いま)貴方(あなた)のお召物(めしもの)を絞(しぼ)つて干(ほ)します時(とき)に、101銀(ぎん)と云(い)ふ標(しるし)が付(つ)いて居(ゐ)ました』
102と聞(き)いて銀公(ぎんこう)は一層(いつそう)心(こころ)に打驚(うちおどろ)きしが、103さあらぬ態(てい)にて、
104銀公『私(わたくし)は無住所(むぢうしよ)如来(によらい)と言(い)つて、105天(てん)にも住(す)み、106地(ち)にも住(す)み、107時(とき)としては地中(ちちう)にも住(す)む者(もの)で御座(ござ)います。108銀(ぎん)の字(じ)の印(しるし)のついたのは銀河(ぎんが)を渡(わた)る時(とき)、109棚機姫(たなばたひめ)様(さま)に余(あま)り着物(きもの)が古(ふる)くなつたので替(か)へて貰(もら)つたのです。110此処(ここ)は矢張(やつぱ)り地上(ちじやう)ですか。111天上(てんじやう)の国(くに)から見(み)れば、112お話(はなし)にならない穢(むさくる)しい所(ところ)ですな』
113玉能姫『天上(てんじやう)の国(くに)はそれ程(ほど)綺麗(きれい)ですか』
114銀公『ヘエヘエ、115それはそれは比較(ひかく)になりませぬ』
116玉能姫『貴方(あなた)は何(なに)か、117天(てん)からお降(くだ)りになつたと言(い)ふお証(しるし)を持(も)つて居(ゐ)られますか』
118銀公『ハイ持(も)つて居(ゐ)ましたが、119中空(ちうくう)に於(おい)て悪魔(あくま)の群(むれ)に出会(でつくわ)し盗(と)られて了(しま)ひ、120その為(た)めに通力(つうりき)を失(うしな)つて不覚(ふかく)をとり、121此処(ここ)に顛落(てんらく)したのです。122然(しか)し無住所(むぢうしよ)如来(によらい)の私(わたくし)、123無(む)は即(すなは)ち有(いう)、124有(いう)即(すなは)ち無(む)、125何処(どこ)も彼処(かしこ)も吾々(われわれ)の自由(じいう)自在(じざい)の遊楽地(いうらくち)ではありますが、126余(あま)り地上(ちじやう)は穢(けが)れて居(を)るので住(す)むべき所(ところ)がなく、127本当(ほんたう)の……今(いま)は無住所(むぢうしよ)如来(によらい)になりました。128アハヽヽヽ』
129と空惚(そらとぼ)ける。130玉能姫(たまのひめ)は怪訝(けげん)な顔(かほ)してマジマジと銀公(ぎんこう)の顔(かほ)を凝視(みつ)め、
131玉能姫『ヤア、132お前(まへ)は………』
133と頓狂(とんきやう)な声(こゑ)を出(だ)し倒(たふ)れむばかりに驚(おどろ)いた。134男(をとこ)は此(この)声(こゑ)に、
135銀公『発見(はつけん)されたか、136一大事(いちだいじ)』
137と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に駆(か)け出(だ)さうとする。138玉能姫(たまのひめ)はグツと襟首(えりくび)を後(うしろ)より掴(つか)んで其(その)場(ば)に引(ひ)き据(す)ゑ、
139玉能姫『汝(なんぢ)はバラモン教(けう)のカナンボールが部下(てした)の者(もの)、140銀公(ぎんこう)と言(い)ふ悪者(わるもの)だらう。141いつやら妾(わたし)が清泉(きよいづみ)へ霊水(れいすゐ)を汲(く)みに行(い)つた時(とき)、142四五(しご)の同類(どうるゐ)と共(とも)に妾(わたし)に向(むか)つて無理(むり)難題(なんだい)を吹(ふ)き掛(か)け、143手籠(てごめ)に致(いた)した奴(やつ)であらうがな』
144銀公『ソヽヽヽヽ、145そんな事(こと)があつたか存(ぞん)じませぬが、146余(あま)り事件(じけん)が多(おほ)いので、147ねつから記憶(きおく)に浮(うか)びませぬワ』
148玉能姫『事件(じけん)が多(おほ)いとは悪事(あくじ)の数々(かずかず)を重(かさ)ねたと云(い)ふ事(こと)だらう。149サア、150もう斯(か)うなる上(うへ)は此(この)儘(まま)では帰(かへ)さぬ。151飽(あく)までも言霊(ことたま)を以(もつ)て責悩(せめなや)めて上(あ)げねばなりませぬ。152マア気(き)を落着(おちつ)けてお坐(すわ)り下(くだ)さい』
153 銀公(ぎんこう)は口(くち)の中(なか)で、
154銀公『此奴(こいつ)一人(ひとり)なら……どうなつとして逃(に)げてやるのだが、155まだ外(ほか)に大将(たいしやう)が二人(ふたり)、156信者(しんじや)の奴(やつ)が沢山(たくさん)にウロウロと出入(ではい)りをして居(を)るから、157逃(に)げる事(こと)も出来(でき)ず、158ハテ、159困(こま)つた事(こと)だなア』
160と終(しま)ひの一句(いつく)を思(おも)はず高(たか)く叫(さけ)んだ。161玉能姫(たまのひめ)は之(これ)を聞(き)き、
162玉能姫『困(こま)つた事(こと)だとは、163そりや何(なに)をおつしやる。164善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)を手向(たむ)けてやらうと云(い)ふのだよ』
165銀公『そんなら血(ち)を出(だ)すのだけは堪(こら)へて下(くだ)さいませ。166言霊(ことたま)には誠(まこと)に困(こま)ります』
167玉能姫『バラモン教(けう)で言霊(ことたま)と云(い)へば、168如何(どん)なものだなア』
169銀公『ハイ、170バラモン教(けう)の言霊(ことたま)は、171例(たと)へば此処(ここ)に一(いち)人(にん)の道(みち)を破(やぶ)つた者(もの)が現(あら)はれたとすれば、172其処(そこ)に居(を)る全部(ぜんぶ)の人(ひと)が、173五十(ごじふ)人(にん)あらうが千(せん)人(にん)あらうが、174一人(ひとり)々々(ひとり)悉(ことごと)く手頃(てごろ)の石(いし)を以(もつ)て頭(あたま)を小突(こづ)いて血(ち)を出(だ)します。175それを贖罪(とくざい)の証(しるし)とするのです。176此処(ここ)にも余程(よほど)沢山(たくさん)のお人(ひと)が居(ゐ)られますが、177一(ひと)つ宛(づつ)やられても大変(たいへん)だから、178之(これ)だけは特別(とくべつ)を以(もつ)て御(ご)免除(めんぢよ)を願(ねが)ひます』
179玉能姫『ホヽヽヽ、180三五教(あななひけう)の言霊(ことたま)は善言(ぜんげん)美詞(びし)の祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)して、181神界(しんかい)へお詫(わび)する事(こと)です』
182銀公『お蔭(かげ)で私(わたくし)の頭(あたま)も助(たす)かりました』
183とやつと安心(あんしん)の態(てい)にて額(ひたひ)を撫(な)でて見(み)て居(ゐ)る。
184 鷹鳥姫(たかとりひめ)、185若彦(わかひこ)二人(ふたり)は禊身(みそぎ)を終(をは)り、186数多(あまた)の信徒(しんと)と共(とも)に悠々(いういう)として此(この)場(ば)に入(い)り来(きた)り、
187鷹鳥姫(たかとりひめ)『アヽお前(まへ)さま、188気分(きぶん)は如何(どう)だなア』
189銀公(ぎんこう)『ハイ、190思(おも)ひも寄(よ)らぬ御(ご)厄介(やくかい)をかけまして、191其(その)上(うへ)着物(きもの)まで拝借(はいしやく)致(いた)しまして、192又(また)言霊(ことたま)までお許(ゆる)し下(くだ)さいまして、193こんな有難(ありがた)い事(こと)は御座(ござ)いませぬ』
194若彦(わかひこ)『三五教(あななひけう)の言霊(ことたま)はバラモン教(けう)とは些(ち)つと違(ちが)ふのだよ。195さう御(ご)遠慮(ゑんりよ)には及(およ)びませぬ』
196銀公『ハイ有難(ありがた)う御座(ござ)います。197然(しか)し三五教(あななひけう)の言霊(ことたま)を聞(き)きますと、198矢張(やつぱ)り石(いし)で小突(こづ)かれた様(やう)に頭(あたま)が痛(いた)くなり、199胸(むね)が苦(くる)しくなりますから………御(ご)厄介(やくかい)になつた上(うへ)に御(ご)厄介(やくかい)になるのも済(す)みませぬから、200之(これ)ばかりは御(ご)辞退(じたい)申(まを)します』
201 若彦(わかひこ)は一寸(ちよつと)見(み)て、
202若彦『ヤア、203お前(まへ)はバラモン教(けう)の銀公(ぎんこう)ぢやないか。204随分(ずゐぶん)玉能姫(たまのひめ)を苦(くる)しめた者(もの)だねえ。205玉能姫(たまのひめ)を苦(くる)しめて呉(く)れたお礼(れい)に、206善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)で御(お)礼(れい)を申(まを)し上(あ)げようか』
207銀公『さう現銀(げんぎん)に仰有(おつしや)らないでも宜(い)いぢやありませぬか。208金(きん)…金(きん)…金公(きんこう)がそれはそれは偉(えら)い事(こと)ですぜ』
209鷹鳥姫(たかとりひめ)『あの金公(きんこう)が、210何(なん)ぞ又(また)悪(わる)い事(こと)を企(たく)らんで居(を)ると云(い)ふのかい』
211銀公『いいえ、212悪(わる)い事(こと)を企(たく)らむ様(やう)な奴(やつ)なら、213ちつとは気(き)が利(き)いて居(を)るのだが、214薩張(さつぱ)り此(この)頃(ごろ)は呆気(はうけ)て仕舞(しま)つてカンカンになりました。215終(しまひ)には私(わたくし)を中天(ちうてん)に捲(ま)き上(あ)げて斯(こ)んな目(め)に遇(あ)はしたのですよ』
216鷹鳥姫『これ若彦(わかひこ)さま、217此(この)男(をとこ)は妙(めう)な事(こと)を云(い)ひますな』
218銀公『そりや、219あんな妙(めう)な事(こと)があるのだもの』
220若彦(わかひこ)『どんな事(こと)があるのだ。221さつさと云(い)つて見(み)なさい』
222銀公『金(きん)の奴(やつ)、223俄(にはか)に黄金仏(わうごんぶつ)になつて仕舞(しま)ひ、224訳(わけ)の分(わか)らぬお経(きやう)を百万(ひやくまん)陀羅囀(だらさへづ)るのです。225あいつの身体(からだ)から光(ひかり)が現(あら)はれて、226空(そら)の雲(くも)まで色(いろ)が変(かは)つて居(ゐ)ませうがな。227一寸(ちよつと)外(そと)へ出(で)て、228空(そら)を見(み)て御覧(ごらん)』
229 若彦(わかひこ)は妙(めう)な事(こと)を云(い)ふ奴(やつ)だと呟(つぶや)きながら戸外(こぐわい)に飛(と)び出(だ)し眺(なが)むれば、230鷹鳥山(たかとりやま)の山頂(さんちやう)に光(ひかり)煌々(くわうくわう)として輝(かがや)き、231空(そら)の色(いろ)まで金色(きんいろ)に照(てら)して居(ゐ)る。232若彦(わかひこ)は慌(あわただ)しく入(い)り来(きた)り、
233若彦『鷹鳥姫(たかとりひめ)さま、234大変(たいへん)です。235金色(きんしよく)燦然(さんぜん)として四辺(あたり)眩(まば)ゆきまで照(て)り輝(かがや)く、236異様(いやう)の神人(しんじん)が現(あら)はれたと見(み)えます。237而(しか)も鷹鳥山(たかとりやま)の山頂(さんちやう)に………こりや屹度(きつと)三五教(あななひけう)の為(た)めには大吉瑞(だいきちずゐ)でせう。238オイ銀公(ぎんこう)さま、239お前(まへ)さまも行(ゆ)かないか』
240銀公(ぎんこう)『又(また)空中(くうちう)滑走(くわつそう)をやらねばなりませぬから、241近寄(ちかよ)つてはいけませぬ。242然(しか)し貴方(あなた)等(がた)はお出(い)でなさいませ。243そして肩(かた)や背中(せなか)を撫(な)でておやりなさいませ。244金像(きんざう)がプリツと肩(かた)を動(うご)かしたが最後(さいご)、245中天(ちうてん)の空(そら)まで……飛行機(ひかうき)ぢやないが……上(のぼ)りつめ、246又(また)滝壺(たきつぼ)へ真逆(まつさか)様(さま)に陥(お)ち込(こ)むと云(い)ふ芸当(げいたう)が演(えん)ぜられます。247私(わたくし)はもう懲(こ)りこりしました。248金像(きんざう)の金(きん)の字(じ)を聞(き)いても胆(きも)が潰(つぶ)れます』
249若彦(わかひこ)『お前(まへ)は金銀(きんぎん)を得(え)むが為(た)めに今迄(いままで)利己主義(われよし)の行動(かうどう)を続(つづ)けて来(き)た男(をとこ)だから、250閻魔(えんま)さまでも忽(たちま)ち地蔵顔(ぢざうがほ)になると云(い)ふ金(きん)の顔(かほ)を見(み)るのは余(あま)り悪(わる)くはあるまい。251サアサア行(ゆ)かう、252お前(まへ)のやうな者(もの)を留守(るす)させて置(お)けば、253如何(どん)な事(こと)するか分(わか)つたものぢやない。254留守(るす)の間(ま)に赤鼬(あかいたち)でも這(は)はされたら大変(たいへん)ですよ』
255銀公『滅相(めつさう)な、256生命(いのち)を助(たす)けて貰(もら)つた恩人(おんじん)の館(やかた)に、257赤鼬(あかいたち)を這(は)はして済(す)みますか。258いたちて神妙(しんめう)にお留守(るす)をいたちます。259何卒(どうぞ)早(はや)く貴方(あなた)等(がた)、260探険(たんけん)にお出(い)でなさいませ』
261鷹鳥姫(たかとりひめ)『如何(どう)しても銀公(ぎんこう)さまが動(うご)かぬと云(い)ふのだから、262若彦(わかひこ)さま、263お前(まへ)さまは此処(ここ)に銀公(ぎんこう)さまの監督(かんとく)がてら留守(るす)して居(ゐ)て下(くだ)さい。264玉能姫(たまのひめ)さまと二人(ふたり)、265探険(たんけん)に行(い)つて参(まゐ)ります』
266と欣々(いそいそ)として山頂(さんちやう)の光(ひかり)を目標(めあて)に登(のぼ)り行(ゆ)く。267鷹鳥姫(たかとりひめ)、268玉能姫(たまのひめ)の二人(ふたり)は鷹鳥山(たかとりやま)の光(ひかり)目標(めあて)に登(のぼ)り見(み)れば、269銀公(ぎんこう)の云(い)うた金像(きんざう)は背(せ)の高(たか)さ五丈(ごぢやう)六(ろく)尺(しやく)七寸(ななすん)もあらうかと思(おも)はるる許(ばか)りに伸長(しんちやう)して突立(つつた)ち、270二人(ふたり)の姿(すがた)を見(み)るより、271鷹鳥姫(たかとりひめ)を左手(ゆんで)に引掴(ひつつか)み、
272金助の像『オイ、273まだ俺(おれ)の所(ところ)へ来(く)るのは早(はや)い、274もとへ帰(かへ)れ』
275と猫(ねこ)の首筋(くびすぢ)を掴(つか)んだ様(やう)に鷹鳥山(たかとりやま)の中腹(ちうふく)目蒐(めが)けてポイと放(はふ)つた。276右(みぎ)の手(て)に玉能姫(たまのひめ)を同(おな)じく提(ひつさ)げノソリノソリと五歩(いつあし)六歩(むあし)東(ひがし)に向(むか)つて歩(あゆ)み出(だ)し、
277金助の像『お前(まへ)は彼辺(あちら)へ行(ゆ)け』
278と又(また)ポイと投(な)げた。279忽(たちま)ち金像(きんざう)は煙(けむり)となつて、280巨大(きよだい)な爆音(ばくおん)と共(とも)に消(き)えて了(しま)つた。281後(あと)に金助(きんすけ)の肉体(にくたい)は、
282金助『アヽア、283偉(えら)い神(かみ)さまになつたと思(おも)へば、284矢張(やつぱ)り元(もと)の金助(きんすけ)か。285こりや、286マア、287如何(どう)した訳(わけ)だらう。288何(なに)は兎(と)もあれ、289もう斯(か)うなる以上(いじやう)は三五教(あななひけう)の信者(しんじや)だから、290鷹鳥姫(たかとりひめ)さまの庵(いほり)を訪(たづ)ねて帰順(きじゆん)の意(い)を表(へう)し、291使(つか)つて貰(もら)はうか』
292と独語(どくご)しつつ山頂(さんちやう)を降(くだ)り行(ゆ)く。
293 茲(ここ)に金助(きんすけ)は鷹鳥姫(たかとりひめ)の庵(いほり)に来(きた)り、294銀公(ぎんこう)と共(とも)に改心(かいしん)の意(い)を表(へう)し、295若彦(わかひこ)の股肱(ここう)となつて神業(しんげふ)に参加(さんか)する事(こと)となつた。296あゝ此(この)金助(きんすけ)を包(つつ)み居(ゐ)たる黄金(わうごん)の立像(りつざう)は何神(なにがみ)の化身(けしん)であらうか。
297(大正一一・五・二六 旧四・三〇 北村隆光録)
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