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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第22巻(酉の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 暗雲低迷
第1章 玉騒疑
第2章 探り合ひ
第3章 不知火
第4章 玉探志
第2篇 心猿意馬
第5章 壇の浦
第6章 見舞客
第7章 囈語
第8章 鬼の解脱
第3篇 黄金化神
第9章 清泉
第10章 美と醜
第11章 黄金像
第12章 銀公着瀑
第4篇 改心の幕
第13章 寂光土
第14章 初稚姫
第15章 情の鞭
第16章 千万無量
第5篇 神界経綸
第17章 生田の森
第18章 布引の滝
第19章 山と海
第20章 三の魂
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>
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第22巻(酉の巻)
> 第5篇 神界経綸 > 第17章 生田の森
<<< 千万無量
(B)
(N)
布引の滝 >>>
第一七章
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
〔七〇九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻
篇:
第5篇 神界経綸
よみ(新仮名遣い):
しんかいけいりん
章:
第17章 生田の森
よみ(新仮名遣い):
いくたのもり
通し章番号:
709
口述日:
1922(大正11)年05月28日(旧05月02日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年7月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
初稚姫と玉能姫は神の御告げによって、再度山の山頂に上っていった。その間、留守を守る杢助のところへ、国依別が訪ねて来た。
国依別は、杢助が太元教という一派を立てたと聞いて、そのことを詰問しにきたのであった。杢助は、三五教の支部を構えていたら三五教の信者がやって来てたかるので、愛想をつかして別派を立てたのだ、と四足の身魂を引き合いに出して、逆に国依別を諭しにかかった。
国依別は実は若彦が杢助の庵を訪ねた後から心機一転して無言の行を営んでいることから、その経緯を聞きだしに来たのであった。国依別は杢助が若彦を厳しく戒めたことを悟り、自戒の念を口にして杢助と笑いあった。
そこへ鷹鳥姫(高姫)がやってきた。杢助は、鷹鳥姫の相手を国依別に任せて自分は奥に引っ込んでしまう。鷹鳥姫はやはり、杢助が太元教を立てたと聞いて、戒めにやってきたのであった。
国依別は薄暗くなってきたのを幸い、杢助の振りをして鷹鳥姫に応対し、鷹鳥姫の失敗をあげつらってからかう。国依別は逆立ちして歩き、転んで鷹鳥姫の上にのしかかる。
そこへ本物の杢助が現れる。杢助は、鷹鳥姫が実は玉の探索に行き詰って杢助に知恵を借りにやってきたことを見透かしてしまう。
思案顔になる鷹鳥姫に対して、国依別は、実は自分が玉を発見しておいたのだと言ってからかう。鷹鳥姫は国依別の言葉を真に受けて、とうとう取っ組み合いの喧嘩を始める。
杢助が尋ねると、国依別は本当のことを明かし、鷹鳥姫はがっかりする。その様を見て杢助は大笑いする。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-06-14 17:44:07
OBC :
rm2217
愛善世界社版:
217頁
八幡書店版:
第4輯 460頁
修補版:
校定版:
225頁
普及版:
99頁
初版:
ページ備考:
001
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
002
薫
(
かを
)
りゆかしく
実
(
み
)
を
結
(
むす
)
び
003
四方
(
よも
)
の
春野
(
はるの
)
を
飾
(
かざ
)
りたる
004
桜
(
さくら
)
も
散
(
ち
)
りてむらむらと
005
咲
(
さ
)
き
乱
(
みだ
)
れたる
卯
(
う
)
の
花
(
はな
)
の
006
白
(
しろ
)
きを
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
にて
007
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
の
片
(
かた
)
ほとり
008
花
(
はな
)
を
欺
(
あざむ
)
く
玉能姫
(
たまのひめ
)
009
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
連
(
づれ
)
010
初夏
(
しよか
)
の
景色
(
けしき
)
を
眺
(
なが
)
めつつ
011
再度山
(
ふたたびやま
)
の
山頂
(
さんちやう
)
に
012
神
(
かみ
)
の
御告
(
みつげ
)
を
蒙
(
かうむ
)
りて
013
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
くこそ
床
(
ゆか
)
しけれ。
014
杢助
(
もくすけ
)
は
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
神前
(
しんぜん
)
に
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
する
折
(
をり
)
しも、
015
門戸
(
もんこ
)
を
叩
(
たた
)
き、
016
国依別
『
頼
(
たの
)
まう
頼
(
たの
)
まう』
017
と
訪
(
おとづ
)
るる
一人
(
ひとり
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
があつた。
018
杢助
(
もくすけ
)
は
神前
(
しんぜん
)
の
礼拝
(
れいはい
)
を
終
(
をは
)
り、
019
門
(
もん
)
の
戸
(
と
)
を
開
(
ひら
)
き、
020
杢助
『ヤア、
021
其方
(
そなた
)
は
国依別
(
くによりわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
022
何用
(
なによう
)
あつて
杢助
(
もくすけ
)
が
館
(
やかた
)
を
御
(
お
)
訪
(
たづ
)
ねなさつたか』
023
国依別
(
くによりわけ
)
はツと
門
(
もん
)
の
敷居
(
しきゐ
)
を
跨
(
また
)
げ、
024
杢助
(
もくすけ
)
と
共
(
とも
)
に
座敷
(
ざしき
)
に
通
(
とほ
)
り、
025
煙草盆
(
たばこぼん
)
を
前
(
まへ
)
に
置
(
お
)
きながら
二人
(
ふたり
)
向
(
むか
)
ひ
合
(
あは
)
せ、
026
国依別
『
今日
(
けふ
)
参
(
まゐ
)
つたのは
余
(
よ
)
の
儀
(
ぎ
)
では
御座
(
ござ
)
らぬ。
027
あなたは
折角
(
せつかく
)
三五教
(
あななひけう
)
に
入
(
い
)
りながら
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
怪
(
け
)
しからぬ
事
(
こと
)
を
承
(
うけたま
)
はる。
028
事
(
こと
)
の
実否
(
じつぴ
)
を
探
(
さぐ
)
らむ
為
(
ため
)
、
029
国依別
(
くによりわけ
)
宣伝
(
せんでん
)
の
途中
(
とちう
)
、
030
紀
(
き
)
の
国
(
くに
)
より
取
(
と
)
る
物
(
もの
)
も
取
(
と
)
り
敢
(
あ
)
へず
引返
(
ひきかへ
)
し、
031
ここに
参
(
まゐ
)
りました。
032
あなたは
太元教
(
おほもてけう
)
とかを
立
(
た
)
てて
居
(
を
)
られるさうだ。
033
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
し
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬか』
034
杢助
(
もくすけ
)
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
あ
)
けて
高笑
(
たかわら
)
ひ、
035
杢助
『
何事
(
なにごと
)
ならむかと
思
(
おも
)
へば、
036
左様
(
さやう
)
な
御
(
お
)
尋
(
たづ
)
ねで
御座
(
ござ
)
るか。
037
杢助
(
もくすけ
)
が
折角
(
せつかく
)
の
信仰
(
しんかう
)
を
翻
(
ひるがへ
)
し、
038
太元教
(
おほもてけう
)
を
新
(
あらた
)
に
開
(
ひら
)
いたのは
余
(
よ
)
の
儀
(
ぎ
)
では
御座
(
ござ
)
らぬ。
039
其
(
その
)
理由
(
りいう
)
と
致
(
いた
)
す
所
(
ところ
)
は、
040
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
を
標榜
(
へうぼう
)
し
居
(
を
)
ると、
041
腰抜
(
こしぬけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
や
信者
(
しんじや
)
が、
042
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
だとか
何
(
なん
)
だとか
言
(
い
)
つて、
043
旅費
(
りよひ
)
を
貸
(
か
)
せとか、
044
履物
(
はきもの
)
を
出
(
だ
)
せとか、
045
いろいろ
雑多
(
ざつた
)
の
厄介
(
やくかい
)
をかけ、
046
小便
(
せうべん
)
や
糞
(
ばば
)
をひりかけ
後
(
あと
)
は
知
(
し
)
らぬ
顔
(
かほ
)
の
半兵衛
(
はんべゑ
)
さん。
047
それも
一人
(
ひとり
)
二人
(
ふたり
)
なれば
辛抱
(
しんばう
)
致
(
いた
)
すが、
048
絡繹
(
らくえき
)
として
蟻
(
あり
)
の
甘
(
あま
)
きに
集
(
つど
)
ふが
如
(
ごと
)
く、
049
イナもう
煩雑
(
うるさ
)
くて
堪
(
たま
)
り
申
(
まを
)
さぬ。
050
杢助
(
もくすけ
)
の
家
(
いへ
)
でさへも
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りだから、
051
其
(
その
)
他
(
た
)
の
信徒
(
しんと
)
の
迷惑
(
めいわく
)
は
思
(
おも
)
ひやらるる。
052
それ
故
(
ゆゑ
)
心
(
こころ
)
の
内
(
うち
)
にて
三五教
(
あななひけう
)
を
信
(
しん
)
ずれども、
053
表面
(
へうめん
)
は
太元教
(
おほもてけう
)
と、
054
見
(
み
)
らるる
如
(
ごと
)
く
大看板
(
だいかんばん
)
を
掲
(
かか
)
げたので
御座
(
ござ
)
る。
055
国依別
(
くによりわけ
)
殿
(
どの
)
、
056
其方
(
そなた
)
も
其
(
その
)
亜流
(
ありう
)
では
御座
(
ござ
)
らぬか』
057
国依別
『そんな
奴
(
やつ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
には
一人
(
ひとり
)
もない
筈
(
はず
)
です。
058
大方
(
おほかた
)
バラモン
教
(
けう
)
の
奴
(
やつ
)
が、
059
三五教
(
あななひけう
)
の
仮面
(
かめん
)
を
被
(
かぶ
)
つて
居
(
を
)
るのでせう』
060
杢助
『バラモン
教
(
けう
)
もチヨコチヨコやつて
来
(
く
)
る。
061
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
教
(
をしへ
)
の
建
(
た
)
て
方
(
かた
)
が
違
(
ちが
)
ふものだから、
062
先方
(
むかふ
)
も
遠慮
(
ゑんりよ
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ると
見
(
み
)
えて、
063
唯
(
ただ
)
杢助
(
もくすけ
)
が
忙
(
せは
)
しきタイムを
奪
(
うば
)
つて
帰
(
かへ
)
る
位
(
くらゐ
)
なものだ。
064
金銭
(
きんせん
)
物品
(
ぶつぴん
)
まで
借用
(
しやくよう
)
しようとは
申
(
まを
)
さぬ。
065
宣伝使
(
せんでんし
)
たる
者
(
もの
)
は
未
(
いま
)
だ
教
(
をしへ
)
の
及
(
およ
)
ばざる
地方
(
ちはう
)
又
(
また
)
は
人
(
ひと
)
に
対
(
たい
)
してこそ
宣伝
(
せんでん
)
の
必要
(
ひつえう
)
あれ、
066
一旦
(
いつたん
)
入信
(
にふしん
)
したる
者
(
もの
)
の
宅
(
たく
)
に
何時
(
なんどき
)
となく
訪問
(
はうもん
)
致
(
いた
)
し、
067
厄介
(
やくかい
)
を
掛
(
か
)
け、
068
安
(
あん
)
を
求
(
もと
)
むる
如
(
ごと
)
きは、
069
宣伝使
(
せんでんし
)
の
薄志
(
はくし
)
弱行
(
じやくかう
)
を
自
(
みづか
)
ら
表白
(
へうはく
)
するものだ。
070
そなたも
杢助館
(
もくすけやかた
)
に
訪問
(
はうもん
)
する
時間
(
じかん
)
があらば、
071
なぜ
其
(
その
)
光陰
(
くわういん
)
を
善用
(
ぜんよう
)
して、
072
未信者
(
みしんじや
)
の
宅
(
たく
)
を
訪問
(
はうもん
)
なさらぬか。
073
半時
(
はんとき
)
の
間
(
ま
)
も
粗末
(
そまつ
)
に
空費
(
くうひ
)
する
事
(
こと
)
は、
074
宣伝使
(
せんでんし
)
として
慎
(
つつし
)
むべき
事
(
こと
)
でせう。
075
サア
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
され。
076
お
茶
(
ちや
)
を
進
(
しん
)
ぜたいが、
077
茶
(
ちや
)
を
飲
(
の
)
ませては、
078
信者
(
しんじや
)
の
吾々
(
われわれ
)
忽
(
たちま
)
ち
貧乏神
(
びんばふがみ
)
に
襲
(
おそ
)
はれねばならない。
079
仮令
(
たとへ
)
番茶
(
ばんちや
)
の
一杯
(
いつぱい
)
でも
小判
(
こばん
)
の
端
(
はし
)
だ。
080
それを
進
(
しん
)
ぜた
所
(
ところ
)
で……
何
(
なん
)
だ
杢助
(
もくすけ
)
は、
081
折角
(
せつかく
)
訪問
(
はうもん
)
してやつたのに
番茶
(
ばんちや
)
を
飲
(
の
)
まして
追
(
お
)
ひ
返
(
かへ
)
した……と
云
(
い
)
はれては
一向
(
いつかう
)
算盤
(
そろばん
)
が
合
(
あ
)
ひ
申
(
まを
)
さぬ。
082
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
御座
(
ござ
)
ると、
083
第一
(
だいいち
)
タイムの
損害
(
そんがい
)
、
084
畳
(
たたみ
)
が
汚
(
よご
)
れる。
085
さすれば
又
(
また
)
もや
表替
(
おもてがへ
)
をそれ
丈
(
だけ
)
早
(
はや
)
く
致
(
いた
)
さねばならぬ
道理
(
だうり
)
だ。
086
最早
(
もはや
)
杢助
(
もくすけ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
に
食
(
く
)
はれ、
087
飲
(
の
)
まれ、
088
借
(
か
)
り
倒
(
たふ
)
され、
089
逆様
(
さかさま
)
になつても
血
(
ち
)
も
出
(
で
)
ない
様
(
やう
)
な
貧乏
(
びんばふ
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
090
斯
(
こ
)
んな
貧乏神
(
びんばふがみ
)
の
館
(
やかた
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るよりも、
091
巨万
(
きよまん
)
の
富
(
とみ
)
を
積
(
つ
)
みながら、
092
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
行末
(
ゆくすゑ
)
を
案
(
あん
)
じ、
093
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
無常
(
むじやう
)
を
託
(
かこ
)
ちつつある
憐
(
あは
)
れな
精神
(
せいしん
)
上
(
じやう
)
の
極貧者
(
ごくひんしや
)
は、
094
世界
(
せかい
)
に
幾
(
いく
)
らあるか
分
(
わか
)
らない。
095
物質
(
ぶつしつ
)
に
富
(
と
)
み、
096
無形
(
むけい
)
の
宝
(
たから
)
に
飢
(
う
)
ゑたる
人
(
ひと
)
を
求
(
もと
)
めて
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
し、
097
錆
(
さ
)
びず
朽
(
く
)
ちず、
098
火
(
ひ
)
に
焼
(
や
)
けず、
099
水
(
みづ
)
に
流
(
なが
)
れぬ
尊
(
たふと
)
き
宝
(
たから
)
を
与
(
あた
)
へて、
100
物質
(
ぶつしつ
)
上
(
じやう
)
の
宝
(
たから
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
気楽
(
きらく
)
に
使用
(
しよう
)
したが
宜
(
よ
)
からう。
101
精神
(
せいしん
)
上
(
じやう
)
の
宝
(
たから
)
に
充
(
み
)
たされ、
102
物質
(
ぶつしつ
)
上
(
じやう
)
の
宝
(
たから
)
に
欠乏
(
けつぼう
)
を
告
(
つ
)
げたる
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
の
館
(
やかた
)
に、
103
宣伝使
(
せんでんし
)
の
必要
(
ひつえう
)
は
少
(
すこ
)
しも
御座
(
ござ
)
らぬ』
104
国依別
『あなたは
此
(
この
)
春
(
はる
)
頃
(
ごろ
)
から
心機
(
しんき
)
一転
(
いつてん
)
、
105
余程
(
よほど
)
吝
(
けち
)
臭
(
くさ
)
くなられましたなア』
106
杢助
『
何
(
なん
)
だかお
前
(
まへ
)
さまの
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
くと
直
(
すぐ
)
に、
107
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
吝
(
けち
)
臭
(
くさ
)
くなつたのだ。
108
心
(
こころ
)
貧
(
まづ
)
しき
力弱
(
ちからよわ
)
き
其方
(
そなた
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
が、
109
杢助
(
もくすけ
)
の
体内
(
たいない
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで、
110
斯様
(
かやう
)
な
事
(
こと
)
を
吐
(
ほ
)
ざいて
居
(
を
)
るのだ。
111
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
は
何
(
なん
)
にも
知
(
し
)
らぬ、
112
早
(
はや
)
く
国依別
(
くによりわけ
)
さま、
113
心
(
こころ
)
の
貧乏神
(
びんばふがみ
)
、
114
柔弱神
(
にうじやくがみ
)
を
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
して、
115
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
116
杢助
(
もくすけ
)
真
(
まこと
)
に
迷惑
(
めいわく
)
千万
(
せんばん
)
で
御座
(
ござ
)
る。
117
アハヽヽヽヽ』
118
と
腹
(
はら
)
を
抱
(
かか
)
へ、
119
体
(
からだ
)
を
大
(
おほ
)
きく
揺
(
ゆす
)
つて、
120
ゴロンと
笑
(
わら
)
ひ
転
(
こ
)
けて
了
(
しま
)
つた。
121
国依別
(
くによりわけ
)
『さうして
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
、
122
玉能姫
(
たまのひめ
)
様
(
さま
)
はどこへお
出
(
い
)
でになりましたか』
123
杢助
(
もくすけ
)
仰向
(
あふむけ
)
になつた
儘
(
まま
)
、
124
足
(
あし
)
をニユーと
天井
(
てんじやう
)
の
方
(
はう
)
に
直立
(
ちよくりつ
)
させ、
125
杢助
『
初稚姫
(
はつわかひめ
)
、
126
玉能姫
(
たまのひめ
)
は「
国
(
くに
)
」とか
云
(
い
)
ふ
貧乏神
(
びんばふがみ
)
がやつて
来
(
く
)
るから、
127
憑依
(
ひようい
)
されてはならないと
云
(
い
)
つて
一時
(
ひととき
)
許
(
ばか
)
り
前
(
まへ
)
に
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
しました。
128
折角
(
せつかく
)
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
杢助
(
もくすけ
)
の
館
(
やかた
)
にお
鎮
(
しづ
)
まり
遊
(
あそ
)
ばすのに、
129
腰抜神
(
こしぬけがみ
)
の
貧乏神
(
びんばふがみ
)
がやつて
来
(
く
)
るものだから、
130
肝腎
(
かんじん
)
の
玉能姫
(
たまのひめ
)
……オツトドツコイ
魂
(
たま
)
までが
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
して
了
(
しま
)
つた。
131
オイ
魂抜
(
たまぬ
)
けの
国依別
(
くによりわけ
)
、
132
どうぞ
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つて
呉
(
く
)
れ。
133
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
もそなたの
霊
(
みたま
)
が
憑
(
かか
)
つて、
134
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
135
其
(
その
)
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
もまだ
俯向
(
うつむ
)
いて
居
(
を
)
れば
歩
(
ある
)
く
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
るが、
136
この
通
(
とほ
)
り
腹
(
はら
)
と
背中
(
せなか
)
を
換
(
か
)
へて
了
(
しま
)
つては、
137
何程
(
なにほど
)
藻掻
(
もが
)
いて
見
(
み
)
ても
空
(
くう
)
を
掻
(
か
)
くばかり、
138
畳
(
たたみ
)
に
平張
(
へばり
)
付
(
つ
)
いて
動
(
うご
)
きが
取
(
と
)
れない。
139
アヽ
国依別
(
くによりわけ
)
、
140
たまたま
訪
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
て、
141
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
のお
土産
(
みやげ
)
は
真平
(
まつぴら
)
御免
(
ごめん
)
だ。
142
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
がやつて
来
(
く
)
ると、
143
手足
(
てあし
)
を
藻掻
(
もが
)
いても、
144
如何
(
どう
)
しても、
145
動
(
うご
)
きの
取
(
と
)
れないことになつて
了
(
しま
)
ふ。
146
馬
(
うま
)
に
灸
(
やいと
)
で
貧窮
(
ひんきう
)
だ。
147
狐
(
きつね
)
に
灸
(
やいと
)
で
困窮
(
コンきう
)
だ。
148
其方
(
そなた
)
は
牛
(
うし
)
に
灸
(
やいと
)
で
何
(
なん
)
ぞモウギウな
事
(
こと
)
がないかと
思
(
おも
)
つて
来
(
き
)
たのであらうが、
149
最早
(
もう
)
灸
(
きう
)
も
茲
(
ここ
)
まで
据
(
す
)
ゑられては、
150
艾
(
もぐさ
)
もあるまい。
151
モグサモグサ
致
(
いた
)
さずトツトと
帰
(
かへ
)
つたがよからう』
152
国依別
『
杢助
(
もくすけ
)
さま、
153
火
(
ひ
)
の
付
(
つ
)
いた
様
(
やう
)
な
火急
(
くわきふ
)
なお
言葉
(
ことば
)
、
154
あなたは
杢助
(
もくすけ
)
さまではなくて、
155
ヤイトをすゑる
艾助
(
もぐさすけ
)
さまになつて
了
(
しま
)
ひましたなア。
156
これはこれは
真
(
まこと
)
にアツイ
御
(
お
)
志
(
こころざし
)
……
否
(
いな
)
御
(
ご
)
教訓
(
けうくん
)
、
157
どつさり
此
(
この
)
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
もヤイトを
据
(
す
)
ゑられました。
158
それなら
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
は
唯今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
帰
(
かへ
)
ります。
159
あなたもどうぞ
元
(
もと
)
の
杢阿弥
(
もくあみ
)
……オツトドツコイ
杢助
(
もくすけ
)
さまに
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
160
杢助
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う。
161
それなら
改
(
あらた
)
めて
国依別
(
くによりわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
162
三五教
(
あななひけう
)
の
杢助
(
もくすけ
)
改
(
あらた
)
めて
対面
(
たいめん
)
仕
(
つかまつ
)
らう、
163
今迄
(
いままで
)
は
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
同志
(
どうし
)
の
掛合
(
かけあひ
)
で
御座
(
ござ
)
つた。
164
アツハヽヽヽヽ』
165
と
笑
(
わら
)
ひながら
起
(
お
)
き
直
(
なほ
)
り、
166
庭
(
には
)
の
泉
(
いづみ
)
に
手
(
て
)
を
洗
(
あら
)
ひ、
167
口
(
くち
)
を
漱
(
そそ
)
ぎ、
168
礼装
(
れいさう
)
を
着
(
ちやく
)
し、
169
杢助
『サア、
170
国依別
(
くによりわけ
)
様
(
さま
)
、
171
神前
(
しんぜん
)
に
拝礼
(
はいれい
)
致
(
いた
)
しませう』
172
と
促
(
うなが
)
しながら、
173
拍手
(
はくしゆ
)
再拝
(
さいはい
)
、
174
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
始
(
はじ
)
めた。
175
国依別
(
くによりわけ
)
も
杢助
(
もくすけ
)
の
背後
(
はいご
)
に
端坐
(
たんざ
)
し、
176
恭
(
うやうや
)
しく
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
終
(
をは
)
つた。
177
杢助
(
もくすけ
)
『
国依別
(
くによりわけ
)
様
(
さま
)
、
178
あなたは
是
(
こ
)
れから
何処
(
どこ
)
へお
出
(
い
)
でになる
心組
(
つもり
)
ですか』
179
国依別
(
くによりわけ
)
『ハイ
私
(
わたくし
)
の
今迄
(
いままで
)
の
教
(
をしへ
)
[
※
「教」では意味が通じないためか、校定版・八幡版では「心」に直している。
]
は、
180
実
(
じつ
)
を
申
(
まを
)
せば
貴方
(
あなた
)
の
御
(
お
)
宅
(
たく
)
に
参
(
まゐ
)
り、
181
一
(
ひと
)
つお
尋
(
たづ
)
ねをせなくてはならない
事
(
こと
)
があつたものですから、
182
ワザワザやつて
来
(
き
)
たのですが、
183
モウ
申
(
まを
)
しますまい。
184
これで
貴方
(
あなた
)
の
深
(
ふか
)
き
御
(
ご
)
精神
(
せいしん
)
も
了解
(
れうかい
)
致
(
いた
)
しましたから……』
185
杢助
『アツハヽヽヽ、
186
若彦
(
わかひこ
)
一件
(
いつけん
)
でお
出
(
いで
)
になつたのですな。
187
若彦
(
わかひこ
)
は
今
(
いま
)
紀州
(
きしう
)
に
居
(
を
)
りますか』
188
国依別
『ハイ、
189
紀州
(
きしう
)
の
熊野
(
くまの
)
の
滝
(
たき
)
で
大変
(
たいへん
)
に
荒行
(
あらぎやう
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
る
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
きました。
190
それで
私
(
わたくし
)
は
熊野
(
くまの
)
の
滝
(
たき
)
へ
参
(
まゐ
)
つた
所
(
ところ
)
、
191
若彦
(
わかひこ
)
は
唯
(
ただ
)
一言
(
ひとこと
)
も
申
(
まを
)
さず、
192
無言
(
むごん
)
の
行
(
ぎやう
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
ゐ
)
る。
193
手真似
(
てまね
)
で
尋
(
たづ
)
ねても
文字
(
もじ
)
を
地
(
ち
)
に
書
(
か
)
いて
糺
(
ただ
)
して
見
(
み
)
ても、
194
何
(
なん
)
の
答
(
こたへ
)
も
致
(
いた
)
さず、
195
石仏
(
いしぼとけ
)
同様
(
どうやう
)
、
196
取
(
と
)
り
付
(
つ
)
く
島
(
しま
)
もなく、
197
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
に
於
(
おい
)
て
何
(
なに
)
か
感
(
かん
)
じた
事
(
こと
)
があるのだらう、
198
其
(
その
)
峰続
(
みねつづ
)
きに
御
(
お
)
住
(
すま
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばす
貴方
(
あなた
)
にお
尋
(
たづ
)
ねすれば、
199
様子
(
やうす
)
は
分
(
わか
)
らうかと
存
(
ぞん
)
じまして
参
(
まゐ
)
りました。
200
併
(
しか
)
し
唯
(
ただ
)
一言
(
ひとこと
)
……
杢助
(
もくすけ
)
さま
有難
(
ありがた
)
う………と
若彦
(
わかひこ
)
の
言
(
い
)
つた
言葉
(
ことば
)
幽
(
かすか
)
に
聞
(
きこ
)
えたので、
201
何
(
なに
)
もかも
様子
(
やうす
)
を
御存
(
ごぞん
)
じだらう。
202
あの
喧
(
やかま
)
しやの
若彦
(
わかひこ
)
が、
203
あの
通
(
とほ
)
り
神妙
(
しんめう
)
になつて
了
(
しま
)
つたのは、
204
貴方
(
あなた
)
の
感化
(
かんくわ
)
に
依
(
よ
)
るのだと
信
(
しん
)
じます。
205
過去
(
くわこ
)
を
繰返
(
くりかへ
)
すは
御
(
ご
)
神慮
(
しんりよ
)
に
反
(
はん
)
するでせうが、
206
御
(
お
)
差支
(
さしつかへ
)
なくば
少
(
すこ
)
しなりと
御
(
お
)
漏
(
も
)
らし
下
(
くだ
)
さらば
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
します』
207
杢助
『
若彦
(
わかひこ
)
は
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
に
立籠
(
たてこも
)
り、
208
悪魔
(
あくま
)
に
憑依
(
ひようい
)
され、
209
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
となつて
門口
(
かどぐち
)
まで
参
(
まゐ
)
りました。
210
私
(
わたくし
)
は「モウ
一
(
ひと
)
つ
修業
(
しうげふ
)
をして
来
(
こ
)
い、
211
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
に
用
(
よう
)
はない………」と
云
(
い
)
つて、
212
杓
(
しやく
)
に
水
(
みづ
)
を
汲
(
く
)
んで
犬
(
いぬ
)
の
様
(
やう
)
にぶつかけてやつたら、
213
尾
(
を
)
を
掉
(
ふ
)
つて
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
したきりですよ。
214
ヤツパリ
若彦
(
わかひこ
)
は
人間
(
にんげん
)
らしう
立
(
た
)
つて
歩
(
ある
)
いて
居
(
ゐ
)
ましたかなア。
215
イヤもう
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
の
容物
(
いれもの
)
ばかりで
困
(
こま
)
つて
了
(
しま
)
ひますワイ。
216
アツハヽヽヽヽ』
217
国依別
『さうすると
私
(
わたくし
)
もチヨボチヨボですな』
218
杢助
『チヨボチヨボなら
結構
(
けつこう
)
だが、
219
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
すると、
220
コンマ
以下
(
いか
)
のチヨボチヨボに
落
(
お
)
ちて
了
(
しま
)
ふから、
221
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けねばなりますまい。
222
お
前
(
まへ
)
さまも
折角
(
せつかく
)
今
(
いま
)
、
223
宣伝使
(
せんでんし
)
に
始
(
はじ
)
めてなつたのだから、
224
どうぞチヨボチヨボにならぬ
様
(
やう
)
に
願
(
ねが
)
ひますよ。
225
貴方
(
あなた
)
がさうなると、
226
私
(
わたくし
)
までも
感染
(
かんせん
)
しては、
227
最前
(
さいぜん
)
のやうに
二進
(
につち
)
も
三進
(
さつち
)
も
行
(
ゆ
)
かぬ
苦境
(
くきやう
)
に
陥
(
おちい
)
り、
228
キウ
窮
(
きう
)
言
(
い
)
はねばなりませぬからな、
229
アツハヽヽヽヽ』
230
国依別
『アツハヽヽヽヽ』
231
と
笑
(
わら
)
ひ
合
(
あ
)
ふ。
232
門口
(
かどぐち
)
へ
又
(
また
)
もや
婆
(
ばば
)
の
声
(
こゑ
)
、
233
鷹鳥姫(高姫)
『
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
の
杢助
(
もくすけ
)
さまのお
宅
(
たく
)
は
此処
(
ここ
)
で
御座
(
ござ
)
いますか。
234
チヨツト
開
(
あ
)
けて
下
(
くだ
)
され』
235
杢助
(
もくすけ
)
『
国
(
くに
)
さま、
236
又
(
また
)
もやチヨボチヨボがやつて
来
(
き
)
たやうです。
237
お
前
(
まへ
)
さま
一
(
ひと
)
つ
私
(
わたし
)
に
代
(
かは
)
つて
応対
(
おうたい
)
をして
下
(
くだ
)
さい。
238
私
(
わたくし
)
は
奥
(
おく
)
へ
行
(
い
)
つて
少
(
すこ
)
しく
神
(
かみ
)
さまに
承
(
うけたま
)
はらねばならぬ
事
(
こと
)
が
御座
(
ござ
)
いますから』
239
と
云
(
い
)
ひ
棄
(
す
)
て、
240
慌
(
あわただ
)
しく
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
241
国依別
(
くによりわけ
)
はツと
立
(
た
)
ち、
242
門口
(
かどぐち
)
の
戸
(
と
)
をガラリと
引開
(
ひきあ
)
け、
243
国依別
『
此処
(
ここ
)
は
太元教
(
おほもてけう
)
の
御
(
ご
)
本山
(
ほんざん
)
だ。
244
何処
(
どこ
)
の
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
か
知
(
し
)
らぬが、
245
トツトと
帰
(
かへ
)
つて
呉
(
く
)
れ』
246
鷹鳥姫
『
何
(
なに
)
ツ、
247
杢助
(
もくすけ
)
が
太元教
(
おほもてけう
)
を
樹
(
た
)
てたとは、
248
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
いたが、
249
ヤハリ
事実
(
じじつ
)
だなア。
250
なぜ
左様
(
さやう
)
な
二心
(
ふたごころ
)
をお
出
(
だ
)
しなさるか』
251
国依別
(
くによりわけ
)
は
黄昏
(
たそがれ
)
を
幸
(
さいは
)
ひ、
252
ワザと
杢助
(
もくすけ
)
の
声色
(
こわいろ
)
を
使
(
つか
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
253
鷹鳥姫
『わしは
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
だが、
254
お
前
(
まへ
)
さまに
一
(
ひと
)
つ
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
さねばならぬ
事
(
こと
)
もあり、
255
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
をせなくてはならぬ
事
(
こと
)
があるからお
訪
(
たづ
)
ねしたのだ』
256
国依別
『
何
(
なん
)
とか
彼
(
か
)
とか
口実
(
こうじつ
)
を
設
(
まう
)
けて、
257
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
や
信者
(
しんじや
)
が、
258
金
(
かね
)
を
貸
(
か
)
せの、
259
履物
(
はきもの
)
を
貸
(
か
)
せ、
260
飯
(
めし
)
を
食
(
く
)
はせ、
261
茶
(
ちや
)
を
飲
(
の
)
ませ、
262
小遣銭
(
こづかひ
)
を
渡
(
わた
)
せと、
263
まるで
雲助
(
くもすけ
)
の
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
を
吐
(
ぬか
)
し、
264
小便
(
せうべん
)
、
265
糞
(
ばば
)
を
垂
(
た
)
れながして
帰
(
かへ
)
る
奴
(
やつ
)
ばかりだから、
266
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
も
愛想
(
あいさう
)
をつかし、
267
心
(
こころ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
でも
表
(
おもて
)
は
太元教
(
おほもてけう
)
と
標榜
(
へうぼう
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ。
268
最早
(
もはや
)
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
に
浴
(
よく
)
し、
269
神徳
(
しんとく
)
充実
(
じうじつ
)
した
杢助
(
もくすけ
)
には
意見
(
いけん
)
は
御
(
ご
)
無用
(
むよう
)
だ。
270
掛
(
かか
)
り
合
(
あ
)
つて
居
(
を
)
れば
大切
(
たいせつ
)
なタイムまでも
盗
(
ぬす
)
まれて
了
(
しま
)
ふ。
271
番茶
(
ばんちや
)
一杯
(
いつぱい
)
飲
(
の
)
まれてもそれ
丈
(
だけ
)
欠損
(
けつそん
)
がゆく。
272
身代
(
しんだい
)
限
(
かぎ
)
り、
273
家資
(
かし
)
分散
(
ぶんさん
)
の
憂目
(
うきめ
)
に
遭
(
あ
)
はねばならぬから、
274
一足
(
ひとあし
)
なりとも
這入
(
はい
)
つて
呉
(
く
)
れな。
275
お
前
(
まへ
)
に
礼
(
れい
)
を
言
(
い
)
はれる
道理
(
だうり
)
はない。
276
トツトと
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つたが
宜
(
よ
)
からう』
277
鷹鳥姫
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
278
そんな
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
く
以上
(
いじやう
)
は、
279
ますます
動
(
うご
)
く
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ。
280
コレ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
281
心機
(
しんき
)
一転
(
いつてん
)
もあまりぢやないか』
282
国依別
『オイ、
283
其
(
その
)
心機
(
しんき
)
一転
(
いつてん
)
だ。
284
暫
(
しばら
)
くの
間
(
あひだ
)
現
(
あら
)
はれて
消
(
き
)
える
蜃気楼
(
しんきろう
)
、
285
名
(
な
)
あつて
実
(
じつ
)
なき
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
286
それなら
這入
(
はい
)
る
丈
(
だけ
)
は
許
(
ゆる
)
してやらう。
287
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
番茶
(
ばんちや
)
一杯
(
いつぱい
)
飲
(
の
)
ます
事
(
こと
)
もせぬ。
288
何程
(
なにほど
)
無料
(
ただ
)
で
湧
(
わ
)
いた
水
(
みづ
)
でも、
289
飲
(
の
)
ましちやそれ
丈
(
だけ
)
減
(
へ
)
るのだから、
290
其
(
その
)
覚悟
(
かくご
)
で
這入
(
はい
)
つたが
宜
(
よ
)
からう』
291
鷹鳥姫
『
大変
(
たいへん
)
貴方
(
あなた
)
は
吝坊
(
けちんぼう
)
になつたものだなア。
292
執着心
(
しふちやくしん
)
の
大変
(
たいへん
)
に
甚
(
きつ
)
い
方
(
かた
)
だ。
293
御免
(
ごめん
)
なさい』
294
と
蓑笠
(
みのかさ
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ
棄
(
す
)
て、
295
ツカツカと
座敷
(
ざしき
)
にあがる。
296
国依別
(
くによりわけ
)
は
又
(
また
)
もや
煙草盆
(
たばこぼん
)
を
前
(
まへ
)
に
据
(
す
)
ゑ、
297
杢助
(
もくすけ
)
気取
(
きど
)
りになつて
坐
(
すわ
)
り
込
(
こ
)
んだ。
298
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
『コレ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
299
お
前
(
まへ
)
さまは
俄
(
にはか
)
に
小
(
ちひ
)
さい
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
ると
思
(
おも
)
へば、
300
体
(
からだ
)
まで
小
(
ちひ
)
さくなつたぢやないか』
301
国依別
(
くによりわけ
)
はゴロンと
仰向
(
あふむ
)
けになり、
302
尻
(
しり
)
を
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
の
方
(
はう
)
に
向
(
む
)
け、
303
手足
(
てあし
)
をヌツと
天井
(
てんじやう
)
の
方
(
はう
)
に
伸
(
の
)
ばして
見
(
み
)
せ、
304
国依別
『
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
や
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
が
喉
(
のど
)
から
出
(
で
)
て
了
(
しま
)
つたものだから、
305
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
瘠
(
や
)
せて
人間
(
にんげん
)
が
小
(
ちひ
)
さくなり、
306
元
(
もと
)
の
杢助
(
もくすけ
)
ではなうて
杢阿弥
(
もくあみ
)
。
307
神徳
(
しんとく
)
も
何
(
なに
)
もなくなつて
了
(
しま
)
ひ、
308
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
で
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
若彦
(
わかひこ
)
、
309
玉能姫
(
たまのひめ
)
を
召
(
め
)
し
連
(
つ
)
れ、
310
バラモン
教
(
けう
)
の
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
が
てつきり
隠
(
かく
)
して
居
(
を
)
るのに
相違
(
さうゐ
)
ないから、
311
何
(
なん
)
とかして
取返
(
とりかへ
)
さねば
聖地
(
せいち
)
の
役員
(
やくゐん
)
信徒
(
しんと
)
に
対
(
たい
)
し
合
(
あ
)
はす
顔
(
かほ
)
がないと、
312
執着心
(
しふちやくしん
)
に
駆
(
か
)
られ
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
の
篤
(
あつ
)
き
心
(
こころ
)
を
無
(
む
)
にして
行
(
や
)
つて
居
(
を
)
つた
所
(
ところ
)
、
313
俄
(
にはか
)
に
山
(
やま
)
の
頂
(
いただき
)
に
黄金
(
わうごん
)
の
像
(
ざう
)
現
(
あら
)
はれ、
314
身
(
み
)
の
丈
(
たけ
)
五丈
(
ごぢやう
)
六
(
ろく
)
尺
(
しやく
)
七寸
(
ななすん
)
、
315
てつきり
弥勒
(
みろく
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
出現
(
しゆつげん
)
、
316
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
の
信心
(
しんじん
)
の
力
(
ちから
)
に
依
(
よ
)
りて
愈
(
いよいよ
)
五六七
(
みろく
)
神政
(
しんせい
)
の
太柱
(
ふとはしら
)
を
握
(
にぎ
)
つた。
317
誠
(
まこと
)
の
霊地
(
れいち
)
は
四尾山
(
よつをさん
)
麓
(
ろく
)
ではない、
318
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
にきはまつたりと、
319
鼻
(
はな
)
の
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
が
得意顔
(
したりがほ
)
に
雀躍
(
こをど
)
りしながら、
320
チヨツと
薄気味
(
うすぎみ
)
悪
(
わる
)
さうに
近付
(
ちかづ
)
き
見
(
み
)
れば、
321
黄金像
(
わうごんざう
)
は
高姫
(
たかひめ
)
の
素首
(
そつくび
)
をグツと
鷲掴
(
わしづか
)
み、
322
猫
(
ねこ
)
でも
放
(
ほ
)
る
様
(
やう
)
にプリンプリンと、
323
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
の
教
(
をしへ
)
の
庭
(
には
)
にドスンと
落下
(
らくか
)
し、
324
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
となり、
325
ピリピリピリと
蛙
(
かはづ
)
をぶつつけた
様
(
やう
)
になつて
了
(
しま
)
ひ、
326
其処
(
そこ
)
へ
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
がやつて
往
(
い
)
つて、
327
生命
(
いのち
)
丈
(
だけ
)
は
助
(
たす
)
けてやつた。
328
其
(
その
)
為
(
ため
)
に
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
は……コレ
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
足
(
あし
)
が
上
(
うへ
)
を
向
(
む
)
き
背中
(
せなか
)
が
下
(
した
)
を
向
(
む
)
いて、
329
サツパリ
自由
(
じいう
)
の
利
(
き
)
かぬ
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
になつて
了
(
しま
)
つたのだ。
330
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
は
信神
(
しんじん
)
堅固
(
けんご
)
の
勇士
(
ゆうし
)
……
斯
(
こ
)
んな
事
(
こと
)
になる
筈
(
はず
)
はない。
331
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
の
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
が
憑依
(
ひようい
)
したのだから、
332
どうぞ
早
(
はや
)
う、
333
こんな……
土産
(
みやげ
)
はスツ
込
(
こ
)
めて
下
(
くだ
)
さい。
334
なア
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
さま、
335
お
前
(
まへ
)
も
却々
(
なかなか
)
執着心
(
しふちやくしん
)
が
酷
(
ひど
)
いと
見
(
み
)
える。
336
同
(
おな
)
じ
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
でも
下向
(
したむ
)
いて
歩
(
ある
)
けるものならまだしもだが、
337
斯
(
か
)
うなつては
天地
(
てんち
)
顛倒
(
てんたふ
)
、
338
背中
(
せなか
)
に
腹
(
はら
)
を
換
(
か
)
へられて、
339
どうして
此
(
この
)
世
(
よ
)
が
渡
(
わた
)
られうか。
340
……アツハヽヽヽヽ……。
341
オイ
笑
(
わら
)
ふ
所
(
どころ
)
か、
342
高姫
(
たかひめ
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
此
(
この
)
国
(
くに
)
……オツトドツコイ
神
(
かみ
)
の
国
(
くに
)
に
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て、
343
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
建
(
た
)
てるなんて、
344
あんまり
精神
(
せいしん
)
が
顛倒
(
てんたふ
)
して
居
(
ゐ
)
るではないか。
345
元
(
もと
)
の
杢阿弥
(
もくあみ
)
の
杢助
(
もくすけ
)
の
真心
(
まごころ
)
に
立返
(
たちかへ
)
り、
346
早
(
はや
)
く
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
を
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
つて
呉
(
く
)
れ。
347
杢助
(
もくすけ
)
誠
(
まこと
)
に
迷惑
(
めいわく
)
だ。
348
国
(
くに
)
、
349
クニ、
350
苦
(
く
)
に
なつて
仕方
(
しかた
)
がない。
351
依
(
よ
)
りにヨツて、
352
別
(
わけ
)
のわからぬ
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
を
連
(
つ
)
れて
来
(
く
)
るものだから、
353
玉能姫
(
たまのひめ
)
さまも
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さまも、
354
チヤンと
御存
(
ごぞん
)
じ、
355
どつかへ
蒙塵
(
もうぢん
)
遊
(
あそ
)
ばしたぞ。
356
杢助
(
もくすけ
)
の
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
も
愛想
(
あいさう
)
を
尽
(
つ
)
かして
隠
(
かく
)
れて
了
(
しま
)
つたぞ。
357
ウンウンウン』
358
鷹鳥姫
『コレコレ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
359
お
前
(
まへ
)
さまは
何
(
なん
)
とした
情
(
なさけ
)
ない
事
(
こと
)
になつたのだい。
360
結構
(
けつこう
)
な
三五教
(
あななひけう
)
を
見限
(
みかぎ
)
つて
太元教
(
おほもてけう
)
なんて、
361
そんな
謀叛
(
むほん
)
を
起
(
おこ
)
すものだから、
362
天罰
(
てんばつ
)
で
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
になつて
了
(
しま
)
ひ、
363
肩身
(
かたみ
)
が
狭
(
せま
)
う
小
(
ちひ
)
さくなつたのだよ。
364
それだから
油断
(
ゆだん
)
は
大敵
(
たいてき
)
、
365
改心
(
かいしん
)
なされと
云
(
い
)
ふのだ。
366
何程
(
なにほど
)
大持
(
おほも
)
てにモテる
積
(
つも
)
りでも、
367
大
(
おほ
)
モテン
教
(
けう
)
だ。
368
早
(
はや
)
く
改心
(
かいしん
)
なされ、
369
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
人間
(
にんげん
)
が
子
(
こ
)
を
思
(
おも
)
ふと
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
、
370
片輪
(
かたわ
)
の
子
(
こ
)
や
悪人
(
あくにん
)
程
(
ほど
)
可愛
(
かあい
)
がらつしやるのだから、
371
わしも
斯
(
こ
)
んな
悲惨
(
みじめ
)
な
態
(
ざま
)
を
見
(
み
)
て、
372
此
(
この
)
儘
(
まま
)
帰
(
かへ
)
る
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かぬ。
373
サアこれから
鎮魂
(
ちんこん
)
をして
誠
(
まこと
)
の
教
(
をしへ
)
を
聞
(
き
)
かしてあげよう。
374
エーエー
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
た。
375
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
が
憑
(
うつ
)
つたのだなどと、
376
よう
言
(
い
)
へたものだ。
377
悪神
(
あくがみ
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は、
378
どこどこまでも
抜目
(
ぬけめ
)
のない
奴
(
やつ
)
だ。
379
到頭
(
たうとう
)
守護神
(
しゆごじん
)
の
悪
(
あく
)
の
性来
(
しやうらい
)
を
現
(
あら
)
はしよつたか。
380
アーア
杢助
(
もくすけ
)
さまの
肉体
(
にくたい
)
が
可哀相
(
かあいさう
)
だ。
381
オイ
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
、
382
杢助
(
もくすけ
)
さまの
肉体
(
にくたい
)
を
残
(
のこ
)
してトツトと
魔谷
(
まや
)
ケ
岳
(
だけ
)
へ
帰
(
かへ
)
つてお
呉
(
く
)
れ。
383
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
吐
(
ぬか
)
すと、
384
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が
承知
(
しようち
)
を
致
(
いた
)
さぬぞや』
385
国依別
『
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
は
最早
(
もはや
)
お
前
(
まへ
)
さまの
副守
(
ふくしゆ
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
386
お
前
(
まへ
)
さまは
何時
(
いつ
)
も
口
(
くち
)
からものを
言
(
い
)
はず、
387
ものを
尻
(
しり
)
で
聞
(
き
)
いたり
人
(
ひと
)
の
言葉尻
(
ことばじり
)
を
取
(
と
)
り、
388
尻
(
しり
)
でもの
言
(
い
)
ふから、
389
屁理屈
(
へりくつ
)
ばつかりだ。
390
鼻持
(
はなもち
)
ならぬ
匂
(
にほひ
)
がする。
391
何程
(
なにほど
)
三五教
(
あななひけう
)
でも
尻
(
しり
)
の
締
(
しま
)
りがなければヤツパリ
穴有
(
あなあ
)
り
教
(
けう
)
ぢや。
392
終局
(
しまひ
)
には
気張
(
きば
)
り
糞
(
ぐそ
)
を
放
(
ひ
)
つて、
393
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
に
還元
(
くわんげん
)
して
了
(
しま
)
ふ。
394
早
(
はや
)
く
杢助
(
もくすけ
)
の
肉体
(
にくたい
)
から
退
(
の
)
かぬかいなア。
395
杢助
(
もくすけ
)
は
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
様
(
さま
)
だ。
396
アツハヽヽヽヽ』
397
と
自
(
みづか
)
ら
可笑
(
をか
)
しさを
耐
(
こら
)
へ、
398
忍
(
しの
)
び
笑
(
わら
)
ひに
笑
(
わら
)
ひ、
399
体中
(
からだぢう
)
に
波
(
なみ
)
を
打
(
う
)
たせて
居
(
ゐ
)
る。
400
鷹鳥姫
『なんだ。
401
低
(
ひく
)
い
所
(
ところ
)
から
声
(
こゑ
)
が
出
(
で
)
ると
思
(
おも
)
へば、
402
暗
(
くら
)
がりで
分
(
わか
)
らなかつたが、
403
お
前
(
まへ
)
さま
失礼
(
しつれい
)
な
寝
(
ね
)
て
話
(
はなし
)
をすると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか、
404
チト
失敬
(
しつけい
)
ぢやないか』
405
国依別
『
霊界
(
れいかい
)
物語
(
ものがたり
)
でさへも、
406
寝
(
ね
)
て
足
(
あし
)
を
上
(
あ
)
げたり、
407
下
(
おろ
)
したりして
言
(
い
)
ふぢやないか。
408
お
前
(
まへ
)
さま
位
(
ぐらゐ
)
な
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
に
話
(
はな
)
すのは
寝
(
ね
)
とつて
結構
(
けつこう
)
だよ』
409
鷹鳥姫
『
到頭
(
たうとう
)
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
の
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
が
現
(
あら
)
はれましたなア。
410
早
(
はや
)
く
改心
(
かいしん
)
をなさらぬと、
411
頭
(
あたま
)
を
下
(
した
)
にし
足
(
あし
)
を
上
(
うへ
)
にして、
412
ノタクラねばならぬ
事
(
こと
)
が
出来
(
しゆつたい
)
致
(
いた
)
すぞよと、
413
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
のお
筆
(
ふで
)
にチヤンと
誡
(
いまし
)
めてあります。
414
鼻
(
はな
)
を
撮
(
つま
)
まれても
分
(
わか
)
らぬ
程
(
ほど
)
身魂
(
みたま
)
が
曇
(
くも
)
つて
居
(
ゐ
)
るものだから、
415
お
前
(
まへ
)
さまは
天
(
てん
)
と
地
(
ち
)
と
間違
(
まちが
)
へて
居
(
を
)
るのではなからうか。
416
どうやら
足
(
あし
)
が
天井
(
てんじやう
)
の
方
(
はう
)
を
向
(
む
)
いて
居
(
を
)
るぢやないか』
417
国依別
(
くによりわけ
)
は、
418
国依別
『アーア、
419
悪性
(
あくしやう
)
な
守護神
(
しゆごじん
)
を
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
て
私
(
わたし
)
に
憑
(
うつ
)
すものだから、
420
段々
(
だんだん
)
足
(
あし
)
が
上
(
うへ
)
へあがり
頭
(
あたま
)
が
下
(
した
)
になつて
了
(
しま
)
ひ、
421
手
(
て
)
で
歩
(
ある
)
かねばならぬ
様
(
やう
)
になつて
来
(
き
)
たぞよ』
422
と
云
(
い
)
ひながら
逆立
(
さかだち
)
になり、
423
両
(
りやう
)
の
手
(
て
)
で
座敷
(
ざしき
)
を
歩
(
ある
)
いて
見
(
み
)
せた。
424
七手
(
ななて
)
許
(
ばか
)
り
歩
(
ある
)
いた
途端
(
とたん
)
に、
425
体
(
からだ
)
の
中心
(
ちうしん
)
を
失
(
うしな
)
つて、
426
高姫
(
たかひめ
)
の
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
へドスンと
倒
(
たふ
)
れた。
427
鷹鳥姫
『コレコレ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
428
妾
(
わたし
)
にはそんな
守護神
(
しゆごじん
)
は
居
(
を
)
りませぬぞえ。
429
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
に、
430
何時
(
いつ
)
までもそんな
巫山戯
(
ふざけ
)
た
態
(
ざま
)
をなさると
承知
(
しようち
)
なさらぬぞ。
431
あゝモウ
駄目
(
だめ
)
だな。
432
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さまも
玉能姫
(
たまのひめ
)
さまも
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
かつしやる
筈
(
はず
)
だワイ。
433
わしも
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
を
断念
(
だんねん
)
し、
434
此処迄
(
ここまで
)
来
(
く
)
るは
来
(
き
)
たものの、
435
こんな
悲惨
(
ひさん
)
な
幕
(
まく
)
を
目撃
(
もくげき
)
しては、
436
帰
(
かへ
)
りもならず、
437
居
(
を
)
る
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ず、
438
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だ。
439
ドレこれから
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
して
助
(
たす
)
けてやつて
貰
(
もら
)
はう。
440
仕方
(
しかた
)
がない』
441
国依別
(
くによりわけ
)
は、
442
国依別
『
不言
(
ふげん
)
実行
(
じつかう
)
だよ。
443
高姫
(
たかひめ
)
さま』
444
とからかふ
所
(
ところ
)
へ、
445
手燭
(
てしよく
)
を
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
に
持
(
も
)
ち、
446
ノソリノソリとやつて
来
(
き
)
た
真正
(
しんせい
)
の
杢助
(
もくすけ
)
、
447
杢助
『ヤアお
前
(
まへ
)
は
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
に
能
(
よ
)
く
似
(
に
)
た
化物
(
ばけもの
)
だなア。
448
此処
(
ここ
)
にも
一人
(
ひとり
)
、
449
お
前
(
まへ
)
の
分霊
(
わけみたま
)
が
倒
(
たふ
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
450
ヤアもう
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
沢山
(
たくさん
)
の
狐
(
きつね
)
が
人間
(
にんげん
)
の
皮
(
かは
)
を
被
(
かぶ
)
つて、
451
杢助
(
もくすけ
)
を
誤魔化
(
ごまくわ
)
しに
出
(
で
)
て
来
(
き
)
よるので
油断
(
ゆだん
)
も
隙
(
すき
)
もあつたものでない』
452
鷹鳥姫
『ヤアお
前
(
まへ
)
さまは
本当
(
ほんたう
)
の
杢助
(
もくすけ
)
さま。
453
どうして
御座
(
ござ
)
つた』
454
杢助
『
何
(
ど
)
うしても
御座
(
ござ
)
らぬ。
455
最前
(
さいぜん
)
から
闇
(
やみ
)
に
紛
(
まぎ
)
れて、
456
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
同志
(
どうし
)
の
珍妙
(
ちんめう
)
な
芸当
(
げいたう
)
を
拝見
(
はいけん
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
つたのだ。
457
何
(
なん
)
でもタカとか
鳶
(
とんび
)
とか、
458
クモとか
国
(
くに
)
とか
云
(
い
)
ふ
怪体
(
けつたい
)
な
代物
(
しろもの
)
が、
459
断
(
ことわ
)
りもなく
杢助
(
もくすけ
)
の
身魂
(
みたま
)
や
住家
(
すみか
)
を
蹂躙
(
じうりん
)
し、
460
エライ
曲芸
(
きよくげい
)
を
演
(
えん
)
じて
居
(
を
)
つた。
461
まるで
此
(
この
)
化物
(
ばけもの
)
は
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
の
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
に
似
(
に
)
た
様
(
やう
)
な
脱線振
(
だつせんぶ
)
りを、
462
遺憾
(
ゐかん
)
なく
発揮
(
はつき
)
しよるワイ。
463
アツハヽヽヽヽ』
464
国依別
(
くによりわけ
)
は、
465
国依別
『ワツハヽヽヽ、
466
オツホヽヽヽ』
467
と
笑
(
わら
)
ひながらムツクと
起
(
お
)
き、
468
ワザとカンテラの
前
(
まへ
)
に
顔
(
かほ
)
を
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
し、
469
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
に
俺
(
おれ
)
の
首実験
(
くびじつけん
)
せよと
言
(
い
)
はぬ
許
(
ばか
)
りにさらけ
出
(
だ
)
した。
470
鷹鳥姫
『
何
(
なん
)
ぢや。
471
お
前
(
まへ
)
は
国依別
(
くによりわけ
)
の
理屈
(
りくつ
)
言
(
い
)
ひの
宣伝使
(
せんでんし
)
ぢやないか。
472
みつともない、
473
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
の
真似
(
まね
)
をしたり………チツト
慎
(
つつし
)
みなさい。
474
モシモシ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
475
これでも
分
(
わか
)
りませうがなア。
476
サツパリ
正体
(
しやうたい
)
が
現
(
あら
)
はれて、
477
御覧
(
ごらん
)
の
通
(
とほ
)
り
本当
(
ほんたう
)
に
悲惨
(
みじめ
)
なもので
御座
(
ござ
)
いますワイ。
478
こんな
精神
(
せいしん
)
病者
(
びやうしや
)
を、
479
お
前
(
まへ
)
さまもお
預
(
あづか
)
りなさつて、
480
大抵
(
たいてい
)
のこつちや
御座
(
ござ
)
いますまい』
481
杢助
(
もくすけ
)
『
今
(
いま
)
の
今迄
(
いままで
)
何
(
なん
)
ともなかつたのですが、
482
お
前
(
まへ
)
さまが
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
た……
否
(
いや
)
お
前
(
まへ
)
さまの
執着
(
しふちやく
)
とか
名
(
な
)
のついた
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
が
憑
(
うつ
)
つたのですよ。
483
アヽ、
484
どうやら、
485
私
(
わし
)
も
変
(
へん
)
になつて
来
(
き
)
た。
486
体中
(
からだぢう
)
にウザウザと
毛
(
け
)
が
生
(
は
)
える
様
(
やう
)
な
気分
(
きぶん
)
が
致
(
いた
)
しますワイ』
487
国依別
(
くによりわけ
)
『
杢助
(
もくすけ
)
さま、
488
国
(
くに
)
もどうやら
茶色
(
ちやいろ
)
の
毛
(
け
)
が
生
(
は
)
え
出
(
だ
)
して
来
(
き
)
ました。
489
風邪
(
かぜ
)
を
引
(
ひ
)
いたのか、
490
俄
(
にはか
)
に
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
でコンコンと
咳
(
せき
)
をして
居
(
ゐ
)
ます。
491
今晩
(
こんばん
)
と
云
(
い
)
ふ
今晩
(
こんばん
)
は
実
(
じつ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
な
宵
(
よひ
)
ですな』
492
鷹鳥姫
『なんとお
前
(
まへ
)
さま
達
(
たち
)
は、
493
これ
程
(
ほど
)
神界
(
しんかい
)
が
御
(
ご
)
多忙
(
たばう
)
なのに、
494
気楽
(
きらく
)
な
洒落
(
しやれ
)
をなさつて
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
りなさるのは、
495
チツト
了簡
(
りやうけん
)
が
違
(
ちが
)
やしませぬか。
496
利己主義
(
われよし
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
が
極端
(
きよくたん
)
に
発動
(
はつどう
)
して
居
(
を
)
りますなア、
497
妾
(
わたし
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
が
憑依
(
ひようい
)
したなんて、
498
ヘンよう
仰有
(
おつしや
)
りますワイ。
499
これから
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
を
現
(
あら
)
はして
見
(
み
)
せませうか。
500
そこらが
眩
(
まばゆ
)
うて
目
(
め
)
もあけて
居
(
を
)
られぬ
様
(
やう
)
になりますぜ』
501
杢助
(
もくすけ
)
は
笑
(
わら
)
ひながら、
502
杢助
『「
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
つても、
503
私
(
わたくし
)
は
折角
(
せつかく
)
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んだ
二
(
ふた
)
つの
玉
(
たま
)
を、
504
杢助
(
もくすけ
)
の
娘
(
むすめ
)
のお
初
(
はつ
)
に
叩
(
たた
)
き
出
(
だ
)
されて
了
(
しま
)
つたものだから、
505
サツパリ
腰
(
こし
)
は
抜
(
ぬ
)
け、
506
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
もサツパリ
駄目
(
だめ
)
になり、
507
これから
何処
(
どこ
)
へ
迂路
(
うろ
)
ついて
行
(
ゆ
)
かうか。
508
若彦
(
わかひこ
)
は
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
すなり、
509
せめて
杢助
(
もくすけ
)
さま
宅
(
とこ
)
へでも
往
(
い
)
つて……
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
はエライ
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になりました……と
御
(
お
)
礼
(
れい
)
をきつかけに、
510
何
(
なん
)
とかよい
智慧
(
ちゑ
)
を
借
(
か
)
りたいものぢやと、
511
ノコノコやつて
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
杢助
(
もくすけ
)
さまは
御座
(
ござ
)
らつしやらず、
512
理屈
(
りくつ
)
言
(
い
)
ひの
捏廻
(
こねまは
)
し
上手
(
じやうず
)
の
国依別
(
くによりわけ
)
が
人
(
ひと
)
を
嘲弄
(
てうろう
)
しやがる。
513
エー
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
如何
(
どう
)
したら
宜
(
よ
)
からうかなア。
514
アンアンアン」……
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふ
声
(
こゑ
)
は
杢助
(
もくすけ
)
の
言葉
(
ことば
)
では
御座
(
ござ
)
らぬ。
515
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
の
薄志
(
はくし
)
弱行
(
じやくかう
)
と
名
(
な
)
の
付
(
つ
)
いた
守護神
(
しゆごじん
)
が、
516
私
(
わし
)
にこんな
事
(
こと
)
を
囁
(
ささや
)
かすのだ。
517
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
守護神
(
しゆごじん
)
を
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
し、
518
自分
(
じぶん
)
も
此
(
この
)
館
(
やかた
)
を
放
(
ほ
)
り
出
(
で
)
て、
519
どこかへお
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
に
行
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
ひたいものだ。
520
杢助
(
もくすけ
)
も
大変
(
たいへん
)
に
迷惑
(
めいわく
)
だ。
521
アツハヽヽヽ』
522
高姫
(
たかひめ
)
は
暫
(
しばら
)
く
腕
(
うで
)
を
組
(
く
)
み、
523
首
(
くび
)
を
頻
(
しき
)
りに
振
(
ふ
)
り、
524
思案
(
しあん
)
に
沈
(
しづ
)
む。
525
国依別
(
くによりわけ
)
は、
526
国依別
『あの
高姫
(
たかひめ
)
さまの
心配
(
しんぱい
)
さうな
顔
(
かほ
)
、
527
どうしたら
元
(
もと
)
の
通
(
とほ
)
りになるだらう。
528
………オウ
分
(
わか
)
つた、
529
あの
玉
(
たま
)
の
在処
(
ありか
)
を
知
(
し
)
らしてやりさへすれば、
530
元
(
もと
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
で
威張
(
ゐば
)
れるだらう、
531
さうすりやキツト
全快
(
ぜんくわい
)
するに
定
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
532
ヤツパリ
言
(
い
)
ふまいかなア。
533
又
(
また
)
呑
(
の
)
まれ、
534
今迄
(
いままで
)
の
様
(
やう
)
に
噪
(
はしや
)
がれると
困
(
こま
)
る、
535
当
(
あた
)
る
可
(
べ
)
からざる
万丈
(
ばんぢやう
)
の
気焔
(
きえん
)
を
吐
(
は
)
かれると、
536
側
(
そば
)
へも
寄
(
よ
)
りつけないやうになるから……』
537
高姫
『
何
(
なに
)
、
538
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を、
539
お
前
(
まへ
)
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るのかい』
540
国依別
『
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
らいでかい、
541
国
(
くに
)
さまだもの』
542
高姫
『そんならお
前
(
まへ
)
が
妾
(
わし
)
を
困
(
こま
)
らさうと
思
(
おも
)
つて
隠
(
かく
)
したのだなア。
543
油断
(
ゆだん
)
のならぬ
男
(
をとこ
)
だ。
544
サア
杢助
(
もくすけ
)
さま、
545
蛙
(
かはづ
)
は
口
(
くち
)
からわれと
吾
(
わが
)
手
(
て
)
に
白状
(
はくじやう
)
しました。
546
締木
(
しめぎ
)
に
懸
(
か
)
けても
言
(
い
)
はしめて、
547
玉
(
たま
)
の
在処
(
ありか
)
を
探
(
さが
)
して
見
(
み
)
ませうかい』
548
杢助
(
もくすけ
)
『サア
如何
(
どう
)
だかなア。
549
大方
(
おほかた
)
蒟蒻玉
(
こんにやくだま
)
か
何
(
なん
)
ぞと
間違
(
まちが
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだらう。
550
それが
違
(
ちが
)
うたら
瓢六玉
(
へうろくだま
)
か、
551
狸
(
たぬき
)
の
睾玉
(
きんたま
)
位
(
くらゐ
)
なものだ。
552
アツハヽヽヽ』
553
国依別
(
くによりわけ
)
『ナアニ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
554
本当
(
ほんたう
)
に
玉
(
たま
)
の
在処
(
ありか
)
を
発見
(
はつけん
)
したのですよ。
555
これから
私
(
わたし
)
がコツソリと
其
(
その
)
玉
(
たま
)
を
拾
(
ひろ
)
ひあげ、
556
高姫
(
たかひめ
)
さまぢやないが、
557
腹
(
はら
)
へ
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んで、
558
一
(
ひと
)
つ
大日
(
おほひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
となる
心算
(
つもり
)
だ………オツト
失敗
(
しま
)
つた。
559
高姫
(
たかひめ
)
さまの
居
(
を
)
る
所
(
とこ
)
で
言
(
い
)
ふぢやなかつたに………
秘密
(
ひみつ
)
が
暴露
(
ばくろ
)
したワイ、
560
アハヽヽヽ』
561
高姫
『
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
御
(
お
)
宝
(
たから
)
、
562
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
現
(
あら
)
はして
御用
(
ごよう
)
に
立
(
た
)
てねばなりますまい。
563
三五教
(
あななひけう
)
は
日
(
ひ
)
に
日
(
ひ
)
に
衰
(
おとろ
)
へて
行
(
ゆ
)
くぢやありませぬか』
564
国依別
『ヤツパリ
国
(
くに
)
の
夢
(
ゆめ
)
やつたかいな………イヤイヤ
夢
(
ゆめ
)
ではない、
565
現実
(
げんじつ
)
だ。
566
併
(
しか
)
し
高姫
(
たかひめ
)
さまの
前
(
まへ
)
では
夢
(
ゆめ
)
にしとかうかい。
567
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
が
忽
(
たちま
)
ち
玉取姫
(
たまとりひめ
)
に
早変
(
はやがは
)
りすると、
568
折角
(
せつかく
)
発見
(
はつけん
)
した
私
(
わし
)
の
功績
(
てがら
)
が
無
(
む
)
になる。
569
言依別
(
ことよりわけ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
褒
(
ほ
)
めの
言葉
(
ことば
)
を
戴
(
いただ
)
き、
570
それから
三五教
(
あななひけう
)
の
総務
(
そうむ
)
になつて、
571
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
を
腮
(
あご
)
で
使
(
つか
)
ふと
云
(
い
)
ふ
段取
(
だんどり
)
だ。
572
高姫
(
たかひめ
)
さま、
573
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ながら
時世
(
ときよ
)
時節
(
じせつ
)
と
諦
(
あきら
)
めて
下
(
くだ
)
さい。
574
あゝこんな
愉快
(
ゆくわい
)
な
事
(
こと
)
があらうか』
575
高姫
『
本当
(
ほんたう
)
にあるのなら、
576
二
(
ふた
)
つの
玉
(
たま
)
を、
577
一
(
ひと
)
つお
前
(
まへ
)
に
上
(
あ
)
げるから、
578
一
(
ひと
)
つは
妾
(
わし
)
に
手柄
(
てがら
)
を
譲
(
ゆづ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
579
別
(
べつ
)
に
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
ふのぢやないから………』
580
国依別
『
何
(
なん
)
でも
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
みのよいお
前
(
まへ
)
さまだから
剣呑
(
けんのん
)
なものだ。
581
それなら
一
(
ひと
)
つ
相談
(
さうだん
)
をしよう。
582
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
はお
前
(
まへ
)
さまが
預
(
あづか
)
るとして、
583
私
(
わし
)
は
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
を
預
(
あづ
)
かる
事
(
こと
)
にしよう。
584
それさへ
決定
(
きま
)
れば、
585
何時
(
なんどき
)
でも
知
(
し
)
らしてあげる』
586
高姫
『そりやチツト
虫
(
むし
)
がよすぎる。
587
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
は、
588
永
(
なが
)
らく
妾
(
わたし
)
の
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
に
鎮座
(
ちんざ
)
ましました
宝玉
(
ほうぎよく
)
だ。
589
謂
(
い
)
はば
妾
(
わたし
)
の
生御魂
(
いくみたま
)
も
同然
(
どうぜん
)
だ。
590
お
前
(
まへ
)
さまは
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
で
辛抱
(
しんばう
)
しなさい』
591
国依別
『
滅相
(
めつさう
)
な、
592
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
がアルプス
教
(
けう
)
の
御
(
ご
)
本尊
(
ほんぞん
)
として
居
(
ゐ
)
た
位
(
くらゐ
)
な
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
は、
593
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
に
比
(
くら
)
べては
余程
(
よほど
)
劣
(
おと
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
594
身魂
(
みたま
)
相応
(
さうおう
)
だから、
595
お
前
(
まへ
)
さまが
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
だ。
596
私
(
わたし
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
を
取
(
と
)
るのだから、
597
さう
覚悟
(
かくご
)
しなさい』
598
高姫
『エー
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
からぬ
男
(
をとこ
)
だなア。
599
モウ
斯
(
か
)
うなる
以上
(
いじやう
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
承知
(
しようち
)
せぬ。
600
奴盗人
(
どぬすびと
)
奴
(
め
)
が、
601
サア
引摺
(
ひきず
)
つて
往
(
い
)
つてでも
在処
(
ありか
)
を
白状
(
はくじやう
)
させる』
602
国依別
『
世界
(
せかい
)
見
(
み
)
え
透
(
す
)
く
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまの
生宮
(
いきみや
)
が、
603
私
(
わし
)
の
様
(
やう
)
な
人間
(
にんげん
)
を
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
かねば、
604
玉
(
たま
)
の
在処
(
ありか
)
が
知
(
し
)
れぬとは、
605
実
(
じつ
)
に
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
なものだなア』
606
高姫
『
妾
(
わし
)
の
悪口
(
わるくち
)
を
言
(
い
)
ふのなら
辛抱
(
しんばう
)
もするが、
607
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
い、
608
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
の
悪口
(
わるくち
)
まで
言
(
い
)
ひよつたなア、
609
サアもう
了簡
(
りやうけん
)
ならぬ』
610
といきなり
胸倉
(
むなぐら
)
をグツと
取
(
と
)
つて
締
(
し
)
めつける。
611
国依別
(
くによりわけ
)
は、
612
国依別
『
何
(
なに
)
ツ、
613
猪口才
(
ちよこざい
)
な
高姫
(
たかひめ
)
の
奴
(
やつ
)
』
614
と
又
(
また
)
胸倉
(
むなぐら
)
を
取
(
と
)
り、
615
両方
(
りやうはう
)
から
睨
(
にら
)
み
合
(
あ
)
つて、
616
真赤
(
まつか
)
な
顔
(
かほ
)
を
膨
(
ふく
)
らして
居
(
ゐ
)
る。
617
杢助
(
もくすけ
)
は、
618
杢助
『コレ
高姫
(
たかひめ
)
さま、
619
国依別
(
くによりわけ
)
さま、
620
お
鎮
(
しづ
)
まりなさい。
621
同
(
おな
)
じ
三五教
(
あななひけう
)
の
宝
(
たから
)
、
622
誰
(
たれ
)
が
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れても
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
ぢやないか』
623
高姫
(
たかひめ
)
『イエ、
624
斯
(
こ
)
んな
奴
(
やつ
)
に
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
を
弄
(
なぶ
)
らさうものなら、
625
それこそ
穢
(
けが
)
れて
了
(
しま
)
ひます。
626
如何
(
どう
)
しても
斯
(
か
)
うしても、
627
一歩
(
いつぽ
)
譲
(
ゆづ
)
つて
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
だけは
発見
(
はつけん
)
した
褒美
(
ほうび
)
としてなぶらしてやるが、
628
仮令
(
たとへ
)
天
(
てん
)
が
地
(
ち
)
になり
地
(
ち
)
が
天
(
てん
)
となつても、
629
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
ばかりは、
630
こんな
奴
(
やつ
)
に
持
(
も
)
たして
堪
(
たま
)
らうか……』
631
国依別
(
くによりわけ
)
『ナアニ
発見主
(
はつけんぬし
)
は
俺
(
おれ
)
だ。
632
先取権
(
せんしゆけん
)
があるのだから、
633
グヅグヅ
云
(
い
)
ふと、
634
二
(
ふた
)
つながら
俺
(
おれ
)
が
預
(
あづか
)
るのだ』
635
高姫
『
何
(
なに
)
ツ、
636
玉盗人
(
たまぬすびと
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
広言
(
くわうげん
)
を
吐
(
は
)
くか』
637
と
高姫
(
たかひめ
)
は
組
(
く
)
んづ
組
(
く
)
まれつ、
638
座敷中
(
ざしきちう
)
をのたうち
廻
(
まは
)
り、
639
終局
(
しまひ
)
には
金切声
(
かなきりごゑ
)
を
張上
(
はりあ
)
げて、
640
汗
(
あせ
)
みどろになつて
大活動
(
だいくわつどう
)
を
始
(
はじ
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
641
杢助
(
もくすけ
)
は、
642
杢助
『コラコラ
国依別
(
くによりわけ
)
さま、
643
お
前
(
まへ
)
、
644
本当
(
ほんたう
)
に
其
(
その
)
玉
(
たま
)
の
在処
(
ありか
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るのか』
645
国依別
『ナアニ
発見
(
はつけん
)
したら……と
云
(
い
)
ふ
話
(
はなし
)
です。
646
夢
(
ゆめ
)
にでも
見
(
み
)
たら
俺
(
おれ
)
が
見
(
み
)
つけたのぢやから、
647
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
を
俺
(
わし
)
が
預
(
あづか
)
ると
云
(
い
)
つたばかりです。
648
まだ
皆目
(
かいもく
)
在処
(
ありか
)
は
分
(
わか
)
らぬのです、
649
アツハヽヽヽ、
650
あまり
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
で
嘘
(
うそ
)
が
真実
(
ほんま
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
651
アツハヽヽヽ』
652
高姫
『
何
(
なに
)
ツ、
653
お
前
(
まへ
)
嘘
(
うそ
)
を
云
(
い
)
つたのか。
654
なアんの
事
(
こと
)
だいな。
655
あーア、
656
要
(
い
)
らぬ
苦労
(
くらう
)
をやらされて
了
(
しま
)
つた。
657
そこらが
茨掻
(
いばらかき
)
だらけだがな』
658
杢助
(
もくすけ
)
『アツハヽヽヽ、
659
又
(
また
)
執着
(
しふちやく
)
と
云
(
い
)
ふ
魔
(
ま
)
が
憑
(
つ
)
いて、
660
面白
(
おもしろ
)
い
演芸
(
えんげい
)
を
無料
(
むれう
)
観覧
(
くわんらん
)
させて
呉
(
く
)
れたものだな、
661
アツハヽヽヽヽ』
662
と
腹
(
はら
)
を
抱
(
かか
)
へて
笑
(
わら
)
ふ。
663
(
大正一一・五・二八
旧五・二
松村真澄
録)
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