霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】サブスク完了しました。どうもありがとうございます。サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は従来バージョンをお使い下さい

第一七章 生田(いくた)(もり)〔七〇九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻 篇:第5篇 神界経綸 よみ(新仮名遣い):しんかいけいりん
章:第17章 生田の森 よみ(新仮名遣い):いくたのもり 通し章番号:709
口述日:1922(大正11)年05月28日(旧05月02日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年7月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
初稚姫と玉能姫は神の御告げによって、再度山の山頂に上っていった。その間、留守を守る杢助のところへ、国依別が訪ねて来た。
国依別は、杢助が太元教という一派を立てたと聞いて、そのことを詰問しにきたのであった。杢助は、三五教の支部を構えていたら三五教の信者がやって来てたかるので、愛想をつかして別派を立てたのだ、と四足の身魂を引き合いに出して、逆に国依別を諭しにかかった。
国依別は実は若彦が杢助の庵を訪ねた後から心機一転して無言の行を営んでいることから、その経緯を聞きだしに来たのであった。国依別は杢助が若彦を厳しく戒めたことを悟り、自戒の念を口にして杢助と笑いあった。
そこへ鷹鳥姫(高姫)がやってきた。杢助は、鷹鳥姫の相手を国依別に任せて自分は奥に引っ込んでしまう。鷹鳥姫はやはり、杢助が太元教を立てたと聞いて、戒めにやってきたのであった。
国依別は薄暗くなってきたのを幸い、杢助の振りをして鷹鳥姫に応対し、鷹鳥姫の失敗をあげつらってからかう。国依別は逆立ちして歩き、転んで鷹鳥姫の上にのしかかる。
そこへ本物の杢助が現れる。杢助は、鷹鳥姫が実は玉の探索に行き詰って杢助に知恵を借りにやってきたことを見透かしてしまう。
思案顔になる鷹鳥姫に対して、国依別は、実は自分が玉を発見しておいたのだと言ってからかう。鷹鳥姫は国依別の言葉を真に受けて、とうとう取っ組み合いの喧嘩を始める。
杢助が尋ねると、国依別は本当のことを明かし、鷹鳥姫はがっかりする。その様を見て杢助は大笑いする。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-06-14 17:44:07 OBC :rm2217
愛善世界社版:217頁 八幡書店版:第4輯 460頁 修補版: 校定版:225頁 普及版:99頁 初版: ページ備考:
001三千(さんぜん)世界(せかい)(うめ)(はな)
002(かを)りゆかしく()(むす)
003四方(よも)春野(はるの)(かざ)りたる
004(さくら)()りてむらむらと
005()(みだ)れたる()(はな)
006(しろ)きを(かみ)(こころ)にて
007生田(いくた)(もり)(かた)ほとり
008(はな)(あざむ)玉能姫(たまのひめ)
009初稚姫(はつわかひめ)二人(ふたり)(づれ)
010初夏(しよか)景色(けしき)(なが)めつつ
011再度山(ふたたびやま)山頂(さんちやう)
012(かみ)御告(みつげ)(かうむ)りて
013(のぼ)()くこそ(ゆか)しけれ。
014 杢助(もくすけ)(ただ)一人(ひとり)神前(しんぜん)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)する(をり)しも、015門戸(もんこ)(たた)き、
016国依別(たの)まう (たの)まう』
017(おとづ)るる一人(ひとり)宣伝使(せんでんし)があつた。018杢助(もくすけ)神前(しんぜん)礼拝(れいはい)(をは)り、019(もん)()(ひら)き、
020杢助『ヤア、021其方(そなた)国依別(くによりわけ)宣伝使(せんでんし)022何用(なによう)あつて杢助(もくすけ)(やかた)()(たづ)ねなさつたか』
023 国依別(くによりわけ)はツと(もん)敷居(しきゐ)(また)げ、024杢助(もくすけ)(とも)座敷(ざしき)(とほ)り、025煙草盆(たばこぼん)(まへ)()きながら二人(ふたり)(むか)(あは)せ、
026国依別今日(けふ)(まゐ)つたのは()()では御座(ござ)らぬ。027あなたは折角(せつかく)三五教(あななひけう)()りながら(この)(ごろ)()様子(やうす)()しからぬ(こと)(うけたま)はる。028(こと)実否(じつぴ)(さぐ)らむ(ため)029国依別(くによりわけ)宣伝(せんでん)途中(とちう)030()(くに)より()(もの)()()へず引返(ひきかへ)し、031ここに(まゐ)りました。032あなたは太元教(おほもてけう)とかを()てて()られるさうだ。033(かみ)(さま)(たい)()無礼(ぶれい)では御座(ござ)いませぬか』
034 杢助(もくすけ)大口(おほぐち)()けて高笑(たかわら)ひ、
035杢助何事(なにごと)ならむかと(おも)へば、036左様(さやう)()(たづ)ねで御座(ござ)るか。037杢助(もくすけ)折角(せつかく)信仰(しんかう)(ひるがへ)し、038太元教(おほもてけう)(あらた)(ひら)いたのは()()では御座(ござ)らぬ。039(その)理由(りいう)(いた)(ところ)は、040(この)杢助(もくすけ)三五教(あななひけう)信者(しんじや)標榜(へうぼう)()ると、041腰抜(こしぬけ)宣伝使(せんでんし)信者(しんじや)が、042言依別(ことよりわけ)(さま)()命令(めいれい)だとか(なん)だとか()つて、043旅費(りよひ)()せとか、044履物(はきもの)()せとか、045いろいろ雑多(ざつた)厄介(やくかい)をかけ、046小便(せうべん)(ばば)をひりかけ(あと)()らぬ(かほ)半兵衛(はんべゑ)さん。047それも一人(ひとり)二人(ふたり)なれば辛抱(しんばう)(いた)すが、048絡繹(らくえき)として(あり)(あま)きに(つど)ふが(ごと)く、049イナもう煩雑(うるさ)くて(たま)(まを)さぬ。050杢助(もくすけ)(いへ)でさへも(この)(とほ)りだから、051(その)()信徒(しんと)迷惑(めいわく)(おも)ひやらるる。052それ(ゆゑ)(こころ)(うち)にて三五教(あななひけう)(しん)ずれども、053表面(へうめん)太元教(おほもてけう)と、054()らるる(ごと)大看板(だいかんばん)(かか)げたので御座(ござ)る。055国依別(くによりわけ)殿(どの)056其方(そなた)(その)亜流(ありう)では御座(ござ)らぬか』
057国依別『そんな(やつ)三五教(あななひけう)には一人(ひとり)もない(はず)です。058大方(おほかた)バラモン(けう)(やつ)が、059三五教(あななひけう)仮面(かめん)(かぶ)つて()るのでせう』
060杢助『バラモン(けう)もチヨコチヨコやつて()る。061(しか)(なが)(をしへ)()(かた)(ちが)ふものだから、062先方(むかふ)遠慮(ゑんりよ)(いた)して()ると()えて、063(ただ)杢助(もくすけ)(せは)しきタイムを(うば)つて(かへ)(くらゐ)なものだ。064金銭(きんせん)物品(ぶつぴん)まで借用(しやくよう)しようとは(まを)さぬ。065宣伝使(せんでんし)たる(もの)(いま)(をしへ)(およ)ばざる地方(ちはう)(また)(ひと)(たい)してこそ宣伝(せんでん)必要(ひつえう)あれ、066一旦(いつたん)入信(にふしん)したる(もの)(たく)何時(なんどき)となく訪問(はうもん)(いた)し、067厄介(やくかい)()け、068(あん)(もと)むる(ごと)きは、069宣伝使(せんでんし)薄志(はくし)弱行(じやくかう)(みづか)表白(へうはく)するものだ。070そなたも杢助館(もくすけやかた)訪問(はうもん)する時間(じかん)があらば、071なぜ(その)光陰(くわういん)善用(ぜんよう)して、072未信者(みしんじや)(たく)訪問(はうもん)なさらぬか。073半時(はんとき)()粗末(そまつ)空費(くうひ)する(こと)は、074宣伝使(せんでんし)として(つつし)むべき(こと)でせう。075サア(いち)()(はや)(かへ)つて(くだ)され。076(ちや)(しん)ぜたいが、077(ちや)()ませては、078信者(しんじや)吾々(われわれ)(たちま)貧乏神(びんばふがみ)(おそ)はれねばならない。079仮令(たとへ)番茶(ばんちや)一杯(いつぱい)でも小判(こばん)(はし)だ。080それを(しん)ぜた(ところ)で……(なん)杢助(もくすけ)は、081折角(せつかく)訪問(はうもん)してやつたのに番茶(ばんちや)()まして()(かへ)した……と()はれては一向(いつかう)算盤(そろばん)()(まを)さぬ。082愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して御座(ござ)ると、083第一(だいいち)タイムの損害(そんがい)084(たたみ)(よご)れる。085さすれば(また)もや表替(おもてがへ)をそれ(だけ)(はや)(いた)さねばならぬ道理(だうり)だ。086最早(もはや)杢助(もくすけ)三五教(あななひけう)()はれ、087()まれ、088()(たふ)され、089逆様(さかさま)になつても()()ない(やう)貧乏(びんばふ)になつて(しま)つた。090()んな貧乏神(びんばふがみ)(やかた)()()るよりも、091巨万(きよまん)(とみ)()みながら、092(この)()行末(ゆくすゑ)(あん)じ、093(わが)()無常(むじやう)(かこ)ちつつある(あは)れな精神(せいしん)(じやう)極貧者(ごくひんしや)は、094世界(せかい)(いく)らあるか(わか)らない。095物質(ぶつしつ)()み、096無形(むけい)(たから)()ゑたる(ひと)(もと)めて(かみ)(をしへ)()(さと)し、097()びず()ちず、098()()けず、099(みづ)(なが)れぬ(たふと)(たから)(あた)へて、100物質(ぶつしつ)(じやう)(たから)自由(じいう)自在(じざい)気楽(きらく)使用(しよう)したが()からう。101精神(せいしん)(じやう)(たから)()たされ、102物質(ぶつしつ)(じやう)(たから)欠乏(けつぼう)()げたる(この)杢助(もくすけ)(やかた)に、103宣伝使(せんでんし)必要(ひつえう)(すこ)しも御座(ござ)らぬ』
104国依別『あなたは(この)(はる)(ごろ)から心機(しんき)一転(いつてん)105余程(よほど)(けち)(くさ)くなられましたなア』
106杢助(なん)だかお(まへ)さまの(こゑ)()くと(すぐ)に、107(この)(とほ)(けち)(くさ)くなつたのだ。108(こころ)(まづ)しき力弱(ちからよわ)其方(そなた)守護神(しゆごじん)が、109杢助(もくすけ)体内(たいない)()()んで、110斯様(かやう)(こと)()ざいて()るのだ。111(この)杢助(もくすけ)(なん)にも()らぬ、112(はや)国依別(くによりわけ)さま、113(こころ)貧乏神(びんばふがみ)114柔弱神(にうじやくがみ)()()して、115()れて(かへ)つて(くだ)さい。116杢助(もくすけ)(まこと)迷惑(めいわく)千万(せんばん)御座(ござ)る。117アハヽヽヽヽ』
118(はら)(かか)へ、119(からだ)(おほ)きく(ゆす)つて、120ゴロンと(わら)()けて(しま)つた。
121国依別(くによりわけ)『さうして初稚姫(はつわかひめ)(さま)122玉能姫(たまのひめ)(さま)はどこへお()でになりましたか』
123 杢助(もくすけ)仰向(あふむけ)になつた(まま)124(あし)をニユーと天井(てんじやう)(はう)直立(ちよくりつ)させ、
125杢助初稚姫(はつわかひめ)126玉能姫(たまのひめ)は「(くに)」とか()貧乏神(びんばふがみ)がやつて()るから、127憑依(ひようい)されてはならないと()つて一時(ひととき)(ばか)(まへ)()()しました。128折角(せつかく)結構(けつこう)(かみ)(さま)杢助(もくすけ)(やかた)にお(しづ)まり(あそ)ばすのに、129腰抜神(こしぬけがみ)貧乏神(びんばふがみ)がやつて()るものだから、130肝腎(かんじん)玉能姫(たまのひめ)……オツトドツコイ(たま)までが()()して(しま)つた。131オイ魂抜(たまぬ)けの国依別(くによりわけ)132どうぞ(はや)(かへ)つて()れ。133(この)杢助(もくすけ)もそなたの(みたま)(かか)つて、134(この)(とほ)()(あし)になつて(しま)つた。135(その)()(あし)もまだ俯向(うつむ)いて()れば(ある)(こと)出来(でき)るが、136この(とほ)(はら)背中(せなか)()へて(しま)つては、137何程(なにほど)藻掻(もが)いて()ても(くう)()くばかり、138(たたみ)平張(へばり)()いて(うご)きが()れない。139アヽ国依別(くによりわけ)140たまたま(たづ)ねて()て、141()(あし)のお土産(みやげ)真平(まつぴら)御免(ごめん)だ。142三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)がやつて()ると、143手足(てあし)藻掻(もが)いても、144如何(どう)しても、145(うご)きの()れないことになつて(しま)ふ。146(うま)(やいと)貧窮(ひんきう)だ。147(きつね)(やいと)困窮(コンきう)だ。148其方(そなた)(うし)(やいと)(なん)ぞモウギウな(こと)がないかと(おも)つて()たのであらうが、149最早(もう)(きう)(ここ)まで()ゑられては、150(もぐさ)もあるまい。151モグサモグサ(いた)さずトツトと(かへ)つたがよからう』
152国依別杢助(もくすけ)さま、153()()いた(やう)火急(くわきふ)なお言葉(ことば)154あなたは杢助(もくすけ)さまではなくて、155ヤイトをすゑる艾助(もぐさすけ)さまになつて(しま)ひましたなア。156これはこれは(まこと)にアツイ()(こころざし)……(いな)()教訓(けうくん)157どつさり(この)()(あし)守護神(しゆごじん)もヤイトを()ゑられました。158それなら()(あし)唯今(ただいま)(かぎ)(かへ)ります。159あなたもどうぞ(もと)杢阿弥(もくあみ)……オツトドツコイ杢助(もくすけ)さまに(かへ)つて(くだ)さい』
160杢助『ハイ有難(ありがた)う。161それなら(あらた)めて国依別(くによりわけ)宣伝使(せんでんし)(さま)162三五教(あななひけう)杢助(もくすけ)(あらた)めて対面(たいめん)(つかまつ)らう、163今迄(いままで)()(あし)同志(どうし)掛合(かけあひ)御座(ござ)つた。164アツハヽヽヽヽ』
165(わら)ひながら()(なほ)り、166(には)(いづみ)()(あら)ひ、167(くち)(そそ)ぎ、168礼装(れいさう)(ちやく)し、
169杢助『サア、170国依別(くによりわけ)(さま)171神前(しんぜん)拝礼(はいれい)(いた)しませう』
172(うなが)しながら、173拍手(はくしゆ)再拝(さいはい)174天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)(はじ)めた。175国依別(くによりわけ)杢助(もくすけ)背後(はいご)端坐(たんざ)し、176(うやうや)しく祝詞(のりと)奏上(そうじやう)(をは)つた。
177杢助(もくすけ)国依別(くによりわけ)(さま)178あなたは()れから何処(どこ)へお()でになる心組(つもり)ですか』
179国依別(くによりわけ)『ハイ(わたくし)今迄(いままで)(をしへ)「教」では意味が通じないためか、校定版・八幡版では「心」に直している。は、180(じつ)(まを)せば貴方(あなた)()(たく)(まゐ)り、181(ひと)つお(たづ)ねをせなくてはならない(こと)があつたものですから、182ワザワザやつて()たのですが、183モウ(まを)しますまい。184これで貴方(あなた)(ふか)()精神(せいしん)了解(れうかい)(いた)しましたから……』
185杢助『アツハヽヽヽ、186若彦(わかひこ)一件(いつけん)でお(いで)になつたのですな。187若彦(わかひこ)(いま)紀州(きしう)()りますか』
188国依別『ハイ、189紀州(きしう)熊野(くまの)(たき)大変(たいへん)荒行(あらぎやう)(いた)して()(こと)()きました。190それで(わたくし)熊野(くまの)(たき)(まゐ)つた(ところ)191若彦(わかひこ)(ただ)一言(ひとこと)(まを)さず、192無言(むごん)(ぎやう)(いた)して()る。193手真似(てまね)(たづ)ねても文字(もじ)()()いて(ただ)して()ても、194(なん)(こたへ)(いた)さず、195石仏(いしぼとけ)同様(どうやう)196()()(しま)もなく、197鷹鳥山(たかとりやま)(おい)(なに)(かん)じた(こと)があるのだらう、198(その)峰続(みねつづ)きに()(すま)(あそ)ばす貴方(あなた)にお(たづ)ねすれば、199様子(やうす)(わか)らうかと(ぞん)じまして(まゐ)りました。200(しか)(ただ)一言(ひとこと)……杢助(もくすけ)さま有難(ありがた)う………と若彦(わかひこ)()つた言葉(ことば)(かすか)(きこ)えたので、201(なに)もかも様子(やうす)御存(ごぞん)じだらう。202あの(やかま)しやの若彦(わかひこ)が、203あの(とほ)神妙(しんめう)になつて(しま)つたのは、204貴方(あなた)感化(かんくわ)()るのだと(しん)じます。205過去(くわこ)繰返(くりかへ)すは()神慮(しんりよ)(はん)するでせうが、206()差支(さしつかへ)なくば(すこ)しなりと()()らし(くだ)さらば安心(あんしん)(いた)します』
207杢助若彦(わかひこ)鷹鳥山(たかとりやま)立籠(たてこも)り、208悪魔(あくま)憑依(ひようい)され、209()(あし)となつて門口(かどぐち)まで(まゐ)りました。210(わたくし)は「モウ(ひと)修業(しうげふ)をして()い、211()(あし)(よう)はない………」と()つて、212(しやく)(みづ)()んで(いぬ)(やう)にぶつかけてやつたら、213()()つて()()したきりですよ。214ヤツパリ若彦(わかひこ)人間(にんげん)らしう()つて(ある)いて()ましたかなア。215イヤもう()(あし)容物(いれもの)ばかりで(こま)つて(しま)ひますワイ。216アツハヽヽヽヽ』
217国依別『さうすると(わたくし)もチヨボチヨボですな』
218杢助『チヨボチヨボなら結構(けつこう)だが、219愚図(ぐづ)々々(ぐづ)すると、220コンマ以下(いか)のチヨボチヨボに()ちて(しま)ふから、221()()けねばなりますまい。222(まへ)さまも折角(せつかく)(いま)223宣伝使(せんでんし)(はじ)めてなつたのだから、224どうぞチヨボチヨボにならぬ(やう)(ねが)ひますよ。225貴方(あなた)がさうなると、226(わたくし)までも感染(かんせん)しては、227最前(さいぜん)のやうに二進(につち)三進(さつち)()かぬ苦境(くきやう)(おちい)り、228キウ(きう)()はねばなりませぬからな、229アツハヽヽヽヽ』
230国依別『アツハヽヽヽヽ』
231(わら)()ふ。232門口(かどぐち)(また)もや(ばば)(こゑ)
233鷹鳥姫(高姫)生田(いくた)(もり)杢助(もくすけ)さまのお(たく)此処(ここ)御座(ござ)いますか。234チヨツト()けて(くだ)され』
235杢助(もくすけ)(くに)さま、236(また)もやチヨボチヨボがやつて()たやうです。237(まへ)さま(ひと)(わたし)(かは)つて応対(おうたい)をして(くだ)さい。238(わたくし)(おく)()つて(すこ)しく(かみ)さまに(うけたま)はらねばならぬ(こと)御座(ござ)いますから』
239()()て、240(あわただ)しく姿(すがた)(かく)した。241国依別(くによりわけ)はツと()ち、242門口(かどぐち)()をガラリと引開(ひきあ)け、
243国依別此処(ここ)太元教(おほもてけう)()本山(ほんざん)だ。244何処(どこ)()(あし)()らぬが、245トツトと(かへ)つて()れ』
246鷹鳥姫(なに)ツ、247杢助(もくすけ)太元教(おほもてけう)()てたとは、248(うはさ)()いたが、249ヤハリ事実(じじつ)だなア。250なぜ左様(さやう)二心(ふたごころ)をお()しなさるか』
251 国依別(くによりわけ)黄昏(たそがれ)(さいは)ひ、252ワザと杢助(もくすけ)声色(こわいろ)使(つか)つて()る。
253鷹鳥姫『わしは鷹鳥姫(たかとりひめ)だが、254(まへ)さまに(ひと)()(れい)(まを)さねばならぬ(こと)もあり、255()意見(いけん)をせなくてはならぬ(こと)があるからお(たづ)ねしたのだ』
256国依別(なん)とか()とか口実(こうじつ)(まう)けて、257三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)信者(しんじや)が、258(かね)()せの、259履物(はきもの)()せ、260(めし)()はせ、261(ちや)()ませ、262小遣銭(こづかひ)(わた)せと、263まるで雲助(くもすけ)(やう)(こと)(ぬか)し、264小便(せうべん)265(ばば)()れながして(かへ)(やつ)ばかりだから、266(この)杢助(もくすけ)愛想(あいさう)をつかし、267(こころ)三五教(あななひけう)でも(おもて)太元教(おほもてけう)標榜(へうぼう)して()るのだ。268最早(もはや)(かみ)(めぐみ)(よく)し、269神徳(しんとく)充実(じうじつ)した杢助(もくすけ)には意見(いけん)()無用(むよう)だ。270(かか)()つて()れば大切(たいせつ)なタイムまでも(ぬす)まれて(しま)ふ。271番茶(ばんちや)一杯(いつぱい)()まれてもそれ(だけ)欠損(けつそん)がゆく。272身代(しんだい)(かぎ)り、273家資(かし)分散(ぶんさん)憂目(うきめ)()はねばならぬから、274一足(ひとあし)なりとも這入(はい)つて()れな。275(まへ)(れい)()はれる道理(だうり)はない。276トツトと(はや)(かへ)つたが()からう』
277鷹鳥姫(なん)()つても、278そんな(こと)()以上(いじやう)は、279ますます(うご)(こと)出来(でき)ぬ。280コレ杢助(もくすけ)さま、281心機(しんき)一転(いつてん)もあまりぢやないか』
282国依別『オイ、283(その)心機(しんき)一転(いつてん)だ。284(しばら)くの(あひだ)(あら)はれて()える蜃気楼(しんきろう)285()あつて(じつ)なき鷹鳥姫(たかとりひめ)宣伝使(せんでんし)286それなら這入(はい)(だけ)(ゆる)してやらう。287(その)(かは)番茶(ばんちや)一杯(いつぱい)()ます(こと)もせぬ。288何程(なにほど)無料(ただ)()いた(みづ)でも、289()ましちやそれ(だけ)()るのだから、290(その)覚悟(かくご)這入(はい)つたが()からう』
291鷹鳥姫大変(たいへん)貴方(あなた)吝坊(けちんぼう)になつたものだなア。292執着心(しふちやくしん)大変(たいへん)(きつ)(かた)だ。293御免(ごめん)なさい』
294蓑笠(みのかさ)()()て、295ツカツカと座敷(ざしき)にあがる。296国依別(くによりわけ)(また)もや煙草盆(たばこぼん)(まへ)()ゑ、297杢助(もくすけ)気取(きど)りになつて(すわ)()んだ。
298鷹鳥姫(たかとりひめ)『コレ杢助(もくすけ)さま、299(まへ)さまは(にはか)(ちひ)さい(こと)仰有(おつしや)ると(おも)へば、300(からだ)まで(ちひ)さくなつたぢやないか』
301 国依別(くによりわけ)はゴロンと仰向(あふむ)けになり、302(しり)鷹鳥姫(たかとりひめ)(はう)()け、303手足(てあし)をヌツと天井(てんじやう)(はう)()ばして()せ、
304国依別金剛(こんがう)不壊(ふゑ)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)(むらさき)(たま)(のど)から()(しま)つたものだから、305(この)(とほ)()せて人間(にんげん)(ちひ)さくなり、306(もと)杢助(もくすけ)ではなうて杢阿弥(もくあみ)307神徳(しんとく)(なに)もなくなつて(しま)ひ、308鷹鳥山(たかとりやま)()むを()若彦(わかひこ)309玉能姫(たまのひめ)()()れ、310バラモン(けう)蜈蚣姫(むかでひめ)てつきり(かく)して()るのに相違(さうゐ)ないから、311(なん)とかして取返(とりかへ)さねば聖地(せいち)役員(やくゐん)信徒(しんと)(たい)()はす(かほ)がないと、312執着心(しふちやくしん)()られ言依別(ことよりわけ)教主(けうしゆ)(あつ)(こころ)()にして()つて()つた(ところ)313(にはか)(やま)(いただき)黄金(わうごん)(ざう)(あら)はれ、314()(たけ)五丈(ごぢやう)(ろく)(しやく)七寸(ななすん)315てつきり弥勒(みろく)(さま)()出現(しゆつげん)316鷹鳥姫(たかとりひめ)信心(しんじん)(ちから)()りて(いよいよ)五六七(みろく)神政(しんせい)太柱(ふとはしら)(にぎ)つた。317(まこと)霊地(れいち)四尾山(よつをさん)(ろく)ではない、318鷹鳥山(たかとりやま)にきはまつたりと、319(はな)鷹鳥姫(たかとりひめ)得意顔(したりがほ)雀躍(こをど)りしながら、320チヨツと薄気味(うすぎみ)(わる)さうに近付(ちかづ)()れば、321黄金像(わうごんざう)高姫(たかひめ)素首(そつくび)をグツと鷲掴(わしづか)み、322(ねこ)でも()(やう)にプリンプリンと、323鷹鳥山(たかとりやま)(をしへ)(には)にドスンと落下(らくか)し、324人事(じんじ)不省(ふせい)となり、325ピリピリピリと(かはづ)をぶつつけた(やう)になつて(しま)ひ、326其処(そこ)(この)杢助(もくすけ)がやつて()つて、327生命(いのち)(だけ)(たす)けてやつた。328(その)(ため)(この)杢助(もくすけ)は……コレ(この)(とほ)(あし)(うへ)()背中(せなか)(した)()いて、329サツパリ自由(じいう)()かぬ()(あし)になつて(しま)つたのだ。330(しか)(なが)(この)杢助(もくすけ)信神(しんじん)堅固(けんご)勇士(ゆうし)……()んな(こと)になる(はず)はない。331鷹鳥姫(たかとりひめ)(ふく)守護神(しゆごじん)憑依(ひようい)したのだから、332どうぞ(はや)う、333こんな……土産(みやげ)はスツ()めて(くだ)さい。334なア鷹鳥姫(たかとりひめ)さま、335(まへ)却々(なかなか)執着心(しふちやくしん)(ひど)いと()える。336(おな)()(あし)でも下向(したむ)いて(ある)けるものならまだしもだが、337()うなつては天地(てんち)顛倒(てんたふ)338背中(せなか)(はら)()へられて、339どうして(この)()(わた)られうか。340……アツハヽヽヽヽ……。341オイ(わら)(どころ)か、342高姫(たかひめ)守護神(しゆごじん)(この)(くに)……オツトドツコイ(かみ)(くに)()()て、343(かみ)(をしへ)()てるなんて、344あんまり精神(せいしん)顛倒(てんたふ)して()るではないか。345(もと)杢阿弥(もくあみ)杢助(もくすけ)真心(まごころ)立返(たちかへ)り、346(はや)(ふく)守護神(しゆごじん)()れて(かへ)つて()れ。347杢助(もくすけ)(まこと)迷惑(めいわく)だ。348(くに)349クニ、350()なつて仕方(しかた)がない。351()りにヨツて、352(わけ)のわからぬ(ふく)守護神(しゆごじん)()れて()るものだから、353玉能姫(たまのひめ)さまも初稚姫(はつわかひめ)さまも、354チヤンと御存(ごぞん)じ、355どつかへ蒙塵(もうぢん)(あそ)ばしたぞ。356杢助(もくすけ)(ほん)守護神(しゆごじん)愛想(あいさう)()かして(かく)れて(しま)つたぞ。357ウンウンウン』
358鷹鳥姫『コレコレ杢助(もくすけ)さま、359(まへ)さまは(なん)とした(なさけ)ない(こと)になつたのだい。360結構(けつこう)三五教(あななひけう)見限(みかぎ)つて太元教(おほもてけう)なんて、361そんな謀叛(むほん)(おこ)すものだから、362天罰(てんばつ)()(あし)になつて(しま)ひ、363肩身(かたみ)(せま)(ちひ)さくなつたのだよ。364それだから油断(ゆだん)大敵(たいてき)365改心(かいしん)なされと()ふのだ。366何程(なにほど)大持(おほも)てにモテる(つも)りでも、367(おほ)モテン(けう)だ。368(はや)改心(かいしん)なされ、369(かみ)(さま)人間(にんげん)()(おも)ふと(おな)(こと)370片輪(かたわ)()悪人(あくにん)(ほど)可愛(かあい)がらつしやるのだから、371わしも()んな悲惨(みじめ)(ざま)()て、372(この)(まま)(かへ)(わけ)にも()かぬ。373サアこれから鎮魂(ちんこん)をして(まこと)(をしへ)()かしてあげよう。374エーエー(こま)つた(こと)出来(でき)た。375(この)高姫(たかひめ)守護神(しゆごじん)(うつ)つたのだなどと、376よう()へたものだ。377悪神(あくがみ)()(もの)は、378どこどこまでも抜目(ぬけめ)のない(やつ)だ。379到頭(たうとう)守護神(しゆごじん)(あく)性来(しやうらい)(あら)はしよつたか。380アーア杢助(もくすけ)さまの肉体(にくたい)可哀相(かあいさう)だ。381オイ()(あし)382杢助(もくすけ)さまの肉体(にくたい)(のこ)してトツトと魔谷(まや)(だけ)(かへ)つてお()れ。383愚図(ぐづ)々々(ぐづ)(ぬか)すと、384()出神(でのかみ)生宮(いきみや)承知(しようち)(いた)さぬぞや』
385国依別(この)杢助(もくすけ)最早(もはや)(まへ)さまの副守(ふくしゆ)になつて(しま)つた。386(まへ)さまは何時(いつ)(くち)からものを()はず、387ものを(しり)()いたり(ひと)言葉尻(ことばじり)()り、388(しり)でもの()ふから、389屁理屈(へりくつ)ばつかりだ。390鼻持(はなもち)ならぬ(にほひ)がする。391何程(なにほど)三五教(あななひけう)でも(しり)(しま)りがなければヤツパリ穴有(あなあ)(けう)ぢや。392終局(しまひ)には気張(きば)(ぐそ)()つて、393(この)(とほ)()(あし)還元(くわんげん)して(しま)ふ。394(はや)杢助(もくすけ)肉体(にくたい)から退()かぬかいなア。395杢助(もくすけ)大変(たいへん)()迷惑(めいわく)(さま)だ。396アツハヽヽヽヽ』
397(みづか)可笑(をか)しさを(こら)へ、398(しの)(わら)ひに(わら)ひ、399体中(からだぢう)(なみ)()たせて()る。
400鷹鳥姫『なんだ。401(ひく)(ところ)から(こゑ)()ると(おも)へば、402(くら)がりで(わか)らなかつたが、403(まへ)さま失礼(しつれい)()(はなし)をすると()(こと)があるものか、404チト失敬(しつけい)ぢやないか』
405国依別霊界(れいかい)物語(ものがたり)でさへも、406()(あし)()げたり、407(おろ)したりして()ふぢやないか。408(まへ)さま(ぐらゐ)()(あし)(はな)すのは()とつて結構(けつこう)だよ』
409鷹鳥姫到頭(たうとう)変性(へんじやう)女子(によし)()(あし)守護神(しゆごじん)(あら)はれましたなア。410(はや)改心(かいしん)をなさらぬと、411(あたま)(した)にし(あし)(うへ)にして、412ノタクラねばならぬ(こと)出来(しゆつたい)(いた)すぞよと、413大神(おほかみ)(さま)のお(ふで)にチヤンと(いまし)めてあります。414(はな)(つま)まれても(わか)らぬ(ほど)身魂(みたま)(くも)つて()るものだから、415(まへ)さまは(てん)()間違(まちが)へて()るのではなからうか。416どうやら(あし)天井(てんじやう)(はう)()いて()るぢやないか』
417 国依別(くによりわけ)は、
418国依別『アーア、419悪性(あくしやう)守護神(しゆごじん)()れて()(わたし)(うつ)すものだから、420段々(だんだん)(あし)(うへ)へあがり(あたま)(した)になつて(しま)ひ、421()(ある)かねばならぬ(やう)になつて()たぞよ』
422()ひながら逆立(さかだち)になり、423(りやう)()座敷(ざしき)(ある)いて()せた。424七手(ななて)(ばか)(ある)いた途端(とたん)に、425(からだ)中心(ちうしん)(うしな)つて、426高姫(たかひめ)(あたま)(うへ)へドスンと(たふ)れた。
427鷹鳥姫『コレコレ杢助(もくすけ)さま、428(わたし)にはそんな守護神(しゆごじん)()りませぬぞえ。429()出神(でのかみ)(さま)に、430何時(いつ)までもそんな巫山戯(ふざけ)(ざま)をなさると承知(しようち)なさらぬぞ。431あゝモウ駄目(だめ)だな。432初稚姫(はつわかひめ)さまも玉能姫(たまのひめ)さまも()げて()かつしやる(はず)だワイ。433わしも鷹鳥山(たかとりやま)断念(だんねん)し、434此処迄(ここまで)()るは()たものの、435こんな悲惨(ひさん)(まく)目撃(もくげき)しては、436(かへ)りもならず、437()(こと)出来(でき)ず、438(こま)つた(こと)だ。439ドレこれから(かみ)(さま)()(ねがひ)して(たす)けてやつて(もら)はう。440仕方(しかた)がない』
441 国依別(くによりわけ)は、
442国依別不言(ふげん)実行(じつかう)だよ。443高姫(たかひめ)さま』
444とからかふ(ところ)へ、445手燭(てしよく)(ひだり)()()ち、446ノソリノソリとやつて()真正(しんせい)杢助(もくすけ)
447杢助『ヤアお(まへ)鷹鳥姫(たかとりひめ)()()化物(ばけもの)だなア。448此処(ここ)にも一人(ひとり)449(まへ)分霊(わけみたま)(たふ)れて()る。450ヤアもう(この)(ごろ)沢山(たくさん)(きつね)人間(にんげん)(かは)(かぶ)つて、451杢助(もくすけ)誤魔化(ごまくわ)しに()()よるので油断(ゆだん)(すき)もあつたものでない』
452鷹鳥姫『ヤアお(まへ)さまは本当(ほんたう)杢助(もくすけ)さま。453どうして御座(ござ)つた』
454杢助()うしても御座(ござ)らぬ。455最前(さいぜん)から(やみ)(まぎ)れて、456()(あし)同志(どうし)珍妙(ちんめう)芸当(げいたう)拝見(はいけん)(いた)して()つたのだ。457(なん)でもタカとか(とんび)とか、458クモとか(くに)とか()怪体(けつたい)代物(しろもの)が、459(ことわ)りもなく杢助(もくすけ)身魂(みたま)住家(すみか)蹂躙(じうりん)し、460エライ曲芸(きよくげい)(えん)じて()つた。461まるで(この)化物(ばけもの)鷹鳥山(たかとりやま)鷹鳥姫(たかとりひめ)()(やう)脱線振(だつせんぶ)りを、462遺憾(ゐかん)なく発揮(はつき)しよるワイ。463アツハヽヽヽヽ』
464 国依別(くによりわけ)は、
465国依別『ワツハヽヽヽ、466オツホヽヽヽ』
467(わら)ひながらムツクと()き、468ワザとカンテラの(まへ)(かほ)()()し、469鷹鳥姫(たかとりひめ)(おれ)首実験(くびじつけん)せよと()はぬ(ばか)りにさらけ()した。
470鷹鳥姫(なん)ぢや。471(まへ)国依別(くによりわけ)理屈(りくつ)()ひの宣伝使(せんでんし)ぢやないか。472みつともない、473()(あし)真似(まね)をしたり………チツト(つつし)みなさい。474モシモシ杢助(もくすけ)さま、475これでも(わか)りませうがなア。476サツパリ正体(しやうたい)(あら)はれて、477御覧(ごらん)(とほ)本当(ほんたう)悲惨(みじめ)なもので御座(ござ)いますワイ。478こんな精神(せいしん)病者(びやうしや)を、479(まへ)さまもお(あづか)りなさつて、480大抵(たいてい)のこつちや御座(ござ)いますまい』
481杢助(もくすけ)(いま)今迄(いままで)(なん)ともなかつたのですが、482(まへ)さまが()つて()た……(いや)(まへ)さまの執着(しふちやく)とか()のついた(ふく)守護神(しゆごじん)(うつ)つたのですよ。483アヽ、484どうやら、485(わし)(へん)になつて()た。486体中(からだぢう)にウザウザと()()える(やう)気分(きぶん)(いた)しますワイ』
487国依別(くによりわけ)杢助(もくすけ)さま、488(くに)もどうやら茶色(ちやいろ)()()()して()ました。489風邪(かぜ)()いたのか、490(にはか)(はら)(なか)でコンコンと(せき)をして()ます。491今晩(こんばん)()今晩(こんばん)(じつ)不思議(ふしぎ)(よひ)ですな』
492鷹鳥姫『なんとお(まへ)さま(たち)は、493これ(ほど)神界(しんかい)()多忙(たばう)なのに、494気楽(きらく)洒落(しやれ)をなさつて()(おく)りなさるのは、495チツト了簡(りやうけん)(ちが)やしませぬか。496利己主義(われよし)守護神(しゆごじん)極端(きよくたん)発動(はつどう)して()りますなア、497(わたし)守護神(しゆごじん)憑依(ひようい)したなんて、498ヘンよう仰有(おつしや)りますワイ。499これから()出神(でのかみ)(さま)()神力(しんりき)(あら)はして()せませうか。500そこらが(まばゆ)うて()もあけて()られぬ(やう)になりますぜ』
501 杢助(もくすけ)(わら)ひながら、
502杢助『「(なに)()つても、503(わたくし)折角(せつかく)()()んだ(ふた)つの(たま)を、504杢助(もくすけ)(むすめ)のお(はつ)(たた)()されて(しま)つたものだから、505サツパリ(こし)()け、506鷹鳥山(たかとりやま)もサツパリ駄目(だめ)になり、507これから何処(どこ)迂路(うろ)ついて()かうか。508若彦(わかひこ)姿(すがた)(かく)すなり、509せめて杢助(もくすけ)さま(とこ)へでも()つて……(この)(あひだ)はエライ()世話(せわ)になりました……と()(れい)をきつかけに、510(なん)とかよい智慧(ちゑ)()りたいものぢやと、511ノコノコやつて()()れば杢助(もくすけ)さまは御座(ござ)らつしやらず、512理屈(りくつ)()ひの捏廻(こねまは)上手(じやうず)国依別(くによりわけ)(ひと)嘲弄(てうろう)しやがる。513エー(この)(うへ)如何(どう)したら()からうかなア。514アンアンアン」……()()(こゑ)杢助(もくすけ)言葉(ことば)では御座(ござ)らぬ。515鷹鳥姫(たかとりひめ)薄志(はくし)弱行(じやくかう)()()いた守護神(しゆごじん)が、516(わし)にこんな(こと)(ささや)かすのだ。517(はや)(この)守護神(しゆごじん)()()し、518自分(じぶん)(この)(やかた)()()て、519どこかへお(みち)(ため)()つて(もら)ひたいものだ。520杢助(もくすけ)大変(たいへん)迷惑(めいわく)だ。521アツハヽヽヽ』
522 高姫(たかひめ)(しばら)(うで)()み、523(くび)(しき)りに()り、524思案(しあん)(しづ)む。525国依別(くによりわけ)は、
526国依別『あの高姫(たかひめ)さまの心配(しんぱい)さうな(かほ)527どうしたら(もと)(とほ)りになるだらう。528………オウ(わか)つた、529あの(たま)在処(ありか)()らしてやりさへすれば、530(もと)()出神(でのかみ)生宮(いきみや)威張(ゐば)れるだらう、531さうすりやキツト全快(ぜんくわい)するに(きま)つて()る。532ヤツパリ()ふまいかなア。533(また)()まれ、534今迄(いままで)(やう)(はしや)がれると(こま)る、535(あた)()からざる万丈(ばんぢやう)気焔(きえん)()かれると、536(そば)へも()りつけないやうになるから……』
537高姫(なに)538宝珠(ほつしゆ)行方(ゆくへ)を、539(まへ)()つて()るのかい』
540国依別()つて()らいでかい、541(くに)さまだもの』
542高姫『そんならお(まへ)(わし)(こま)らさうと(おも)つて(かく)したのだなア。543油断(ゆだん)のならぬ(をとこ)だ。544サア杢助(もくすけ)さま、545(かはづ)(くち)からわれと(わが)()白状(はくじやう)しました。546締木(しめぎ)()けても()はしめて、547(たま)在処(ありか)(さが)して()ませうかい』
548杢助(もくすけ)『サア如何(どう)だかなア。549大方(おほかた)蒟蒻玉(こんにやくだま)(なん)ぞと間違(まちが)つて()るのだらう。550それが(ちが)うたら瓢六玉(へうろくだま)か、551(たぬき)睾玉(きんたま)(くらゐ)なものだ。552アツハヽヽヽ』
553国依別(くによりわけ)『ナアニ杢助(もくすけ)さま、554本当(ほんたう)(たま)在処(ありか)発見(はつけん)したのですよ。555これから(わたし)がコツソリと(その)(たま)(ひろ)ひあげ、556高姫(たかひめ)さまぢやないが、557(はら)()()んで、558(ひと)大日(おほひ)出神(でのかみ)となる心算(つもり)だ………オツト失敗(しま)つた。559高姫(たかひめ)さまの()(とこ)()ふぢやなかつたに………秘密(ひみつ)暴露(ばくろ)したワイ、560アハヽヽヽ』
561高姫神政(しんせい)成就(じやうじゆ)()(たから)562一日(ひとひ)(はや)(あら)はして御用(ごよう)()てねばなりますまい。563三五教(あななひけう)()()(おとろ)へて()くぢやありませぬか』
564国依別『ヤツパリ(くに)(ゆめ)やつたかいな………イヤイヤ(ゆめ)ではない、565現実(げんじつ)だ。566(しか)高姫(たかひめ)さまの(まへ)では(ゆめ)にしとかうかい。567鷹鳥姫(たかとりひめ)(たちま)玉取姫(たまとりひめ)早変(はやがは)りすると、568折角(せつかく)発見(はつけん)した(わし)功績(てがら)()になる。569言依別(ことよりわけ)(かみ)(さま)()()めの言葉(ことば)(いただ)き、570それから三五教(あななひけう)総務(そうむ)になつて、571()出神(でのかみ)生宮(いきみや)(あご)使(つか)ふと()段取(だんどり)だ。572高姫(たかひめ)さま、573()(どく)ながら時世(ときよ)時節(じせつ)(あきら)めて(くだ)さい。574あゝこんな愉快(ゆくわい)(こと)があらうか』
575高姫本当(ほんたう)にあるのなら、576(ふた)つの(たま)を、577(ひと)つお(まへ)()げるから、578(ひと)つは(わし)手柄(てがら)(ゆづ)つて(くだ)さい。579(べつ)()()んで(しま)ふのぢやないから………』
580国依別(なん)でも()()みのよいお(まへ)さまだから剣呑(けんのん)なものだ。581それなら(ひと)相談(さうだん)をしよう。582(むらさき)(たま)はお(まへ)さまが(あづか)るとして、583(わし)金剛(こんがう)不壊(ふゑ)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(あづ)かる(こと)にしよう。584それさへ決定(きま)れば、585何時(なんどき)でも()らしてあげる』
586高姫『そりやチツト(むし)がよすぎる。587金剛(こんがう)不壊(ふゑ)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)は、588(なが)らく(わたし)(はら)(なか)鎮座(ちんざ)ましました宝玉(ほうぎよく)だ。589()はば(わたし)生御魂(いくみたま)同然(どうぜん)だ。590(まへ)さまは(むらさき)(たま)辛抱(しんばう)しなさい』
591国依別滅相(めつさう)な、592鷹鳥姫(たかとりひめ)がアルプス(けう)()本尊(ほんぞん)として()(くらゐ)(むらさき)(たま)は、593如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(くら)べては余程(よほど)(おと)つて()る。594身魂(みたま)相応(さうおう)だから、595(まへ)さまが(むらさき)(たま)だ。596(わたし)(なん)()つても如意(によい)宝珠(ほつしゆ)()るのだから、597さう覚悟(かくご)しなさい』
598高姫『エー(わけ)(わか)からぬ(をとこ)だなア。599モウ()うなる以上(いじやう)(なん)()つても承知(しようち)せぬ。600奴盗人(どぬすびと)()が、601サア引摺(ひきず)つて()つてでも在処(ありか)白状(はくじやう)させる』
602国依別世界(せかい)()()()出神(でのかみ)さまの生宮(いきみや)が、603(わし)(やう)人間(にんげん)()れて()かねば、604(たま)在処(ありか)()れぬとは、605(じつ)()(どく)なものだなア』
606高姫(わし)悪口(わるくち)()ふのなら辛抱(しんばう)もするが、607(おそ)(おほ)い、608()出神(でのかみ)(さま)悪口(わるくち)まで()ひよつたなア、609サアもう了簡(りやうけん)ならぬ』
610といきなり胸倉(むなぐら)をグツと()つて()めつける。611国依別(くによりわけ)は、
612国依別(なに)ツ、613猪口才(ちよこざい)高姫(たかひめ)(やつ)
614(また)胸倉(むなぐら)()り、615両方(りやうはう)から(にら)()つて、616真赤(まつか)(かほ)(ふく)らして()る。617杢助(もくすけ)は、
618杢助『コレ高姫(たかひめ)さま、619国依別(くによりわけ)さま、620(しづ)まりなさい。621(おな)三五教(あななひけう)(たから)622(たれ)()()れても(おな)(こと)ぢやないか』
623高姫(たかひめ)『イエ、624()んな(やつ)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)(なぶ)らさうものなら、625それこそ(けが)れて(しま)ひます。626如何(どう)しても()うしても、627一歩(いつぽ)(ゆづ)つて(むらさき)(たま)だけは発見(はつけん)した褒美(ほうび)としてなぶらしてやるが、628仮令(たとへ)(てん)()になり()(てん)となつても、629如意(によい)宝珠(ほつしゆ)ばかりは、630こんな(やつ)()たして(たま)らうか……』
631国依別(くによりわけ)『ナアニ発見主(はつけんぬし)(おれ)だ。632先取権(せんしゆけん)があるのだから、633グヅグヅ()ふと、634(ふた)つながら(おれ)(あづか)るのだ』
635高姫(なに)ツ、636玉盗人(たまぬすびと)分際(ぶんざい)として広言(くわうげん)()くか』
637高姫(たかひめ)()んづ()まれつ、638座敷中(ざしきちう)をのたうち(まは)り、639終局(しまひ)には金切声(かなきりごゑ)張上(はりあ)げて、640(あせ)みどろになつて大活動(だいくわつどう)(はじ)めて()る。641杢助(もくすけ)は、
642杢助『コラコラ国依別(くによりわけ)さま、643(まへ)644本当(ほんたう)(その)(たま)在処(ありか)()つて()るのか』
645国依別『ナアニ発見(はつけん)したら……と()(はなし)です。646(ゆめ)にでも()たら(おれ)()つけたのぢやから、647如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)(わし)(あづか)ると()つたばかりです。648まだ皆目(かいもく)在処(ありか)(わか)らぬのです、649アツハヽヽヽ、650あまり一生(いつしやう)懸命(けんめい)(うそ)真実(ほんま)になつて(しま)つた。651アツハヽヽヽ』
652高姫(なに)ツ、653(まへ)(うそ)()つたのか。654なアんの(こと)だいな。655あーア、656()らぬ苦労(くらう)をやらされて(しま)つた。657そこらが茨掻(いばらかき)だらけだがな』
658杢助(もくすけ)『アツハヽヽヽ、659(また)執着(しふちやく)()()()いて、660面白(おもしろ)演芸(えんげい)無料(むれう)観覧(くわんらん)させて()れたものだな、661アツハヽヽヽヽ』
662(はら)(かか)へて(わら)ふ。
663大正一一・五・二八 旧五・二 松村真澄録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス
合言葉「みろく」を入力して下さい→