霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 壇(だん)の浦(うら)〔六九七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻 篇:第2篇 心猿意馬 よみ(新仮名遣い):しんえんいば
章:第5章 壇の浦 よみ(新仮名遣い):だんのうら 通し章番号:697
口述日:1922(大正11)年05月25日(旧04月29日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年7月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
三つの玉が揃って一時は活気が出た聖地も、五人が黄金の玉紛失の責を取って探索に出かけたことが神人の間に喧伝されると、物寂しい感じが聖地の空に漂った。
三五教の幹部も信徒もこの話題でもちきりであったが、高姫がこのことについて演説会を開くという。三五教徒たちは高姫が何を言い出すのかと先を争って演説会につめかけた。
高姫は壇上で前口上を述べた後、黄金の玉紛失という一大事の際に誰も高姫のところにこの件で相談に来た者がないことを憤慨し、聴衆に八つ当たりをした。
国依別は壇上に上がり、逆に高姫が五人を追放同然にして玉探索の旅に立たせたことを詰問した。高姫は追い出したのではなく、理屈を説いて聞かせた結果、五人が自発的に探索の旅に出ることになったのだ、と反論する。
聴衆の中から、しきりに高姫を野次り、国依別の方を持つ者がいる。高姫は怒って怒鳴りつけるが、満座の聴衆は手を打って笑いさざめく。高姫は、自分の言が気に入らない者はすべて退場しろ、と言い渡す。
それに対してまた聴衆の中から高姫に対して野次が飛び、場内は騒然となった。そこへ言依別命は若彦、紫姫、玉治別を連れて壇上に現れた。聴衆は拍手で迎え、散りつつあった者たちも席に戻ってきた。
言依別命は悠然として何事があったかを問いかけると、聴衆の中から、黄金の玉紛失事件について高姫の論がまったく要領を得ないと、不服の申し立てがあった。言依別命は、何事も神様の御経綸であってこの件も心配するに及ばない、と答えた。
高姫は言依別命の態度がこの一大事に対して軟弱だと責め立てる。言依別命は、自転倒島の中心点に玉照彦・玉照姫の神人が守る三五教に心配はない、あまり黒姫を責めると高姫自身が玉を探しに行かなければならなくなる、と忠告する。
絶対にそんなことはない、という高姫に対して、言依別命は、人心が不安になっているから如意宝珠の玉を今皆に拝ませてもらいたい、と要求する。
高姫は売り言葉に買い言葉で、自分は厳重に秘密を守って保管していたと自信満々で、八尋殿の畳をめくって下から桐の箱を取り出した。そして得意顔に蓋を開けたが、中を見てさっと顔色が変わった。
国依別が中を見ると、ただ石が入っているのみであった。高姫は、一同の身魂が悪いので玉が石に見えるのだ、と強弁するが、聴衆から野次の嵐を受ける。
言依別命は、これも神界の都合だろうが、責任はすべて自分が取ると言ってその場をなだめた。一同は教主の言葉に免じてその場を退散した。高姫は石の入った箱を抱えて寒風の中、夜叉のような顔をして自宅に走って帰り行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-26 10:51:05 文字数:5595 OBC :rm2205
愛善世界社版:61頁 八幡書店版:第4輯 402頁 修補版: 校定版:63頁 普及版:28頁 初版: ページ備考:
001 金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を始(はじ)め、002紫(むらさき)の玉(たま)の改(あらた)めて納(をさ)まりたる錦(にしき)の宮(みや)を背景(はいけい)とせる聖地(せいち)は何(なん)となく活気(くわつき)加(くは)はり、003神人(しんじん)喜悦(きえつ)の色(いろ)に満(み)ち、004神徳(しんとく)日(ひ)に日(ひ)にあがりつつあつた。005端(はし)なくも黒姫(くろひめ)が保管(ほくわん)せる黄金(わうごん)の玉(たま)の何者(なにもの)にか奪取(だつしゆ)され、006黒姫(くろひめ)は責任(せきにん)を帯(お)びて、007夜(よる)窃(ひそか)に鷹依姫(たかよりひめ)、008竜国別(たつくにわけ)、009テー、010カーの五(ご)人(にん)、011思(おも)ひ思(おも)ひに聖地(せいち)を後(あと)に、012玉(たま)の行方(ゆくへ)を捜索(そうさく)に出(い)でたる事(こと)、013忽(たちま)ち神人(しんじん)の間(あひだ)に喧伝(けんでん)され、014又(また)もや不安(ふあん)の念(ねん)に駆(か)られ、015何(なん)となく物(もの)淋(さび)しき感(かん)じが聖地(せいち)の空(そら)に漂(ただよ)うた。016三五教(あななひけう)の幹部(かんぶ)を始(はじ)め、017信徒(しんと)は此処(ここ)彼処(かしこ)に頭(かしら)を鳩(あつ)め、018此(この)話(はなし)にて持切(もちき)りであつた。019高姫(たかひめ)は錦(にしき)の宮(みや)の傍(かたはら)なる高楼(たかどの)に付属(ふぞく)せる八尋殿(やひろどの)に宣伝使(せんでんし)及(およ)び信者(しんじや)を集(あつ)め、020一場(いちぢやう)の注意(ちゆうい)を与(あた)へむと演説会(えんぜつくわい)を開(ひら)いた。
021 能弁家(のうべんか)の高姫(たかひめ)が此(この)突発(とつぱつ)事件(じけん)に対(たい)し如何(いか)なる事(こと)を言(い)ひ出(だ)すやと、022先(さき)を争(あらそ)うて立錐(りつすゐ)の余地(よち)なき迄(まで)集(あつ)まつた。023高姫(たかひめ)は忽(たちま)ち壇上(だんじやう)に立上(たちあが)り、024稍(やや)怒気(どき)を含(ふく)み目(め)を釣(つ)り上(あ)げながら、025諄々(じゆんじゆん)と語(かた)り始(はじ)めた。
026 高姫(たかひめ)は満座(まんざ)を睥睨(へいげい)しながら、
027高姫『皆(みな)さま、028今日(こんにち)は能(よ)くこそ御(ご)出場(しゆつぢやう)下(くだ)さいました。029三五教(あななひけう)に取(と)つて一大事(いちだいじ)が突発(とつぱつ)致(いた)しましたに就(つい)ては、030今後(こんご)の注意(ちゆうい)は申(まを)すまでもなく、031此(この)処置(しよち)に就(つい)て如何(いかが)致(いた)したら宜(よろ)しいか。032神(かみ)様(さま)の為(ため)、033国(くに)の為(ため)、034世界(せかい)人類(じんるゐ)の為(ため)に由々(ゆゆ)しき大問題(だいもんだい)で御座(ござ)います。035と云(い)ふのは、036御存(ごぞん)じの通(とほ)り、037広大(くわうだい)無辺(むへん)な御(ご)神徳(しんとく)に依(よ)りまして、038一旦(いつたん)妾(わたし)が神界(しんかい)の経綸(けいりん)上(じやう)、039腹(はら)に呑(の)み込(こ)んだ顕国(うつしくに)の御玉(みたま)の一(ひと)つ玉(だま)、040金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の宝玉(ほうぎよく)は、041木(こ)の花姫(はなひめ)様(さま)の御霊(みたま)の懸(かか)らせ給(たま)ふお初(はつ)さまの執成(とりな)しに依(よ)つて、042再(ふたた)び御(ご)神宝(しんぱう)として此(この)お宮(みや)に納(をさ)まる事(こと)となり、043モ一(ひと)つの紫(むらさき)の玉(たま)は鷹依姫(たかよりひめ)の改心(かいしん)帰順(きじゆん)と共(とも)に、044是(これ)亦(また)錦(にしき)の宮(みや)の宝物(ほうもつ)と相(あひ)成(な)り、045曩(さき)に青雲山(せいうんざん)より運(はこ)び来(きた)りし黄金(こがね)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)と共(とも)に、046霊力体(れいりよくたい)相揃(あひそろ)ひ、047いよいよ神政(しんせい)成就(じやうじゆ)の機運(きうん)到来(たうらい)疑(うたがひ)なしと喜(よろこ)ぶ折(をり)しも、048不注意(ふちゆうい)なる黒姫(くろひめ)がために、049大切(たいせつ)なる黄金(わうごん)の玉(たま)を紛失(ふんしつ)致(いた)しました事(こと)は、050返(かへ)す返(がへ)すも残念(ざんねん)で御座(ござ)います。051斯(かく)の如(ごと)き大事変(だいじへん)が突発(とつぱつ)して居(ゐ)るのに、052皆(みな)さまは何(なん)ともないのですか。053此(この)噂(うはさ)は最早(もはや)あなた方(がた)の耳(みみ)には幾度(いくたび)も這入(はい)つて居(ゐ)る筈(はず)です。054然(しか)るに今日(こんにち)まで妾(わたし)の許(もと)に膿(う)んだ鼻(はな)が潰(つぶ)れたとも云(い)つて来(き)た人(ひと)がないのは、055何(なん)たる冷淡(れいたん)な事(こと)で御座(ござ)いませう。056さぞ神(かみ)様(さま)も諸君(あなたがた)の至誠(しせい)を御(ご)満足(まんぞく)に思(お)ぼ召(しめ)すで御座(ござ)いませう』
057と棄鉢(すてばち)口調(くてう)で八(や)つ当(あた)りに当(あた)つて見(み)せた。058国依別(くによりわけ)は高姫(たかひめ)の立(た)てる壇上(だんじやう)に立現(たちあら)はれ、
059国依別『高姫(たかひめ)さまに御(お)尋(たづ)ね致(いた)します。060吾々(われわれ)は此(こ)の件(けん)に就(つい)て、061寄(よ)り寄(よ)り幹部(かんぶ)と協議(けふぎ)を凝(こ)らして居(を)るのですが、062何分(なにぶん)肝腎(かんじん)の黒姫(くろひめ)様(さま)の行方(ゆくへ)が分(わか)らないので、063如何(どう)してよいのか調(しら)べる事(こと)も出来(でき)ない。064承(うけたま)はれば貴方(あなた)は専横(せんわう)にも、065独断(どくだん)的(てき)に黒姫(くろひめ)以下(いか)四(よ)人(にん)を放逐(はうちく)されたと云(い)ふ事(こと)だが、066そりや又(また)誰(たれ)の聴許(ゆるし)を受(う)けてなされましたか。067一応(いちおう)吾々(われわれ)幹部(かんぶ)に対(たい)し御(ご)相談(さうだん)がありさうなものです。068これに就(つい)ては何(なに)か裏面(りめん)に伏在(ふくざい)するのではありますまいか。069どうぞ此(この)席上(せきじやう)に於(おい)て、070吾々(われわれ)の疑惑(ぎわく)を晴(は)らす為(ため)に、071詳細(しやうさい)なる御(ご)報告(はうこく)を願(ねが)ひます』
072高姫『国依別(くによりわけ)さま、073お黙(だま)りなさい。074神界(しんかい)の事(こと)は俄(にはか)宣伝使(せんでんし)の巡礼(じゆんれい)上(あが)りのお前(まへ)さまに、075何(ど)うして分(わか)りますか。076何事(なにごと)も神界(しんかい)の御(お)経綸(しぐみ)ですから、077出(で)る杭(くひ)は打(う)たれるとやら、078チツトつつしみなされ』
079国依別『これは怪(け)しからぬ。080これが如何(どう)して黙(だま)つてをれますか。081又(また)あなたが黒姫(くろひめ)以下(いか)を勝手(かつて)に処置(しよち)する権能(けんのう)は何処(どこ)にあります。082玉照彦(たまてるひこ)、083玉照姫(たまてるひめ)様(さま)の御(ご)神慮(しんりよ)も伺(うかが)はず、084又(また)教主(けうしゆ)の御(ご)意見(いけん)も無視(むし)して、085勝手(かつて)気儘(きまま)にそんな事(こと)をしても良(よ)いのですか。086左様(さやう)な事(こと)が貴方(あなた)に出来(でき)るのならば、087お二人(ふたり)の宮司(みやつかさ)も、088教主(けうしゆ)も、089幹部(かんぶ)も必要(ひつえう)はないぢやありませぬか』
090高姫『妾(わたし)はそんな肉体(にくたい)の云(い)ふ事(こと)は聞(き)きませぬよ。091日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)の御(お)指図(さしづ)に依(よ)つて申上(まをしあ)げたのだ。092知慧(ちゑ)や学(がく)で神界(しんかい)の御(お)経綸(しぐみ)が分(わか)るものですかい』
093国依別『貴方(あなた)は二(ふた)つ目(め)に神界(しんかい)々々(しんかい)と仰(あふ)せられますが、094大変(たいへん)に都合(つがふ)のよい隠(かく)れ場所(ばしよ)を御(お)持(も)ちで御座(ござ)いますなア。095吾々(われわれ)に相談(さうだん)する必要(ひつえう)がなければ、096何故(なぜ)御(お)招(まね)きになりました?』
097 満座(まんざ)の中(なか)より、
098(聴衆)『国依別(くによりわけ)さま頼(たの)んますぜ。099確(しつか)り確(しつか)り』
100などと野次(やじ)る者(もの)がある。
101高姫(たかひめ)『黒姫(くろひめ)さまを決(けつ)して逐出(おひだ)したのではない。102妾(わたし)が道理(だうり)を説(と)いて聞(き)かし責任(せきにん)のある所(ところ)を明(あきら)かに示(しめ)したのだ。103そこで黒姫(くろひめ)さまは自発(じはつ)的(てき)に尻(しり)をからげて玉(たま)の探索(たんさく)に行(ゆ)かれたのです。104お前(まへ)さま達(たち)もさうキヨロキヨロとして居(ゐ)る時(とき)ではありますまい。105此(この)広(ひろ)い世(よ)の中(なか)三(さん)人(にん)や五(ご)人(にん)探(さが)しに出(で)た所(ところ)で大海(たいかい)へ落(おと)した真珠(しんじゆ)の玉(たま)を探(さが)す様(やう)なものだ。106何時(いつ)も御(お)道(みち)の為(ため)には生命(いのち)も何(なに)も捧(ささ)げると誓(ちか)つて居(ゐ)るあなた方(がた)、107此(この)高姫(たかひめ)が言(い)はなくとも何故(なぜ)不言(ふげん)実行(じつかう)が出来(でき)ませぬか。108まさかの時(とき)になつたら逃(に)げる奴(やつ)ばかりぢやと神(かみ)さまが何時(いつ)も仰有(おつしや)る。109本当(ほんたう)に神(かみ)さまの御(お)言葉(ことば)は毛筋(けすぢ)も違(ちが)ひませぬ。110サア皆(みな)さま如何(どう)なさる。111決(けつ)して黒姫(くろひめ)さま許(ばか)りの責任(せきにん)ぢやありますまい。112国依別(くによりわけ)さま、113あなたはまだ神界(しんかい)の事(こと)がテンで分(わか)つて居(を)らぬ。114自分(じぶん)の席(せき)にトツトとお下(さが)りなされ』
115国依別(くによりわけ)『貴方(あなた)は金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の玉(たま)の保管役(ほくわんやく)と承(うけたま)はつて居(を)りますが、116大丈夫(だいぢやうぶ)ですかな。117余(あま)り他(ひと)の事(こと)を云(い)ふものぢやありませぬぞ。118今日(けふ)の非(ひ)は他人(ひと)の事(こと)、119明日(あす)の非(ひ)は吾(わが)事(こと)と云(い)ふ事(こと)をちツとは御(お)考(かんが)へなさい』
120高姫『何(なに)をツベコベと云(い)ふのだい。121此(この)高姫(たかひめ)が保管(ほくわん)する以上(いじやう)は、122どんな偉(えら)い者(もの)が来(き)ても、123指一本(ゆびいつぽん)触(さ)へさすものではありませぬ。124万一(まんいち)其(その)玉(たま)が損失(そんしつ)する様(やう)な事(こと)があるとしたら、125二度(にど)とお目(め)に掛(かか)りませぬワ』
126と肩(かた)を四角(しかく)にし、127少(すこ)し腮(あご)を前(まへ)へ突出(つきだ)し、128憎々(にくにく)しげに言(い)ひ放(はな)つた。129満座(まんざ)の中(なか)より、
130(聴衆)『まさか違(ちが)うたら呑(の)み込(こ)むのだから大丈夫(だいぢやうぶ)だよ。131大方(おほかた)黄金(わうごん)の玉(たま)も呑(の)んだのかも知(し)れないぞ。132国依別(くによりわけ)さま、133シツカリ頼(たの)む』
134と野次(やじ)る。135高姫(たかひめ)益々(ますます)語気(ごき)を荒(あら)らげ、
136高姫『千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)、137芝居(しばゐ)見物(けんぶつ)か二十(にじつ)世紀(せいき)の議会(ぎくわい)の様(やう)に、138野次(やじ)ると云(い)ふ不心得(ふこころえ)者(もの)は誰(たれ)だ。139顔(かほ)を隠(かく)して作(つく)り声(ごゑ)をして、140卑怯(ひけふ)未練(みれん)な。141何故(なぜ)堂々(だうだう)と、142意見(いけん)があるなら高姫(たかひめ)の面前(めんぜん)へ現(あら)はれて仰有(おつしや)れ。143卑怯(ひけふ)ぢやありませぬか。144たかが女(をんな)の一人(ひとり)、145一人前(いちにんまへ)の男(をとこ)が其(その)態(ざま)は何(なん)の事(こと)だい』
146と呶鳴(どな)りつける。147満座(まんざ)の一同(いちどう)は手(て)を拍(う)つて、
148(聴衆)『ワアイ ワアイ』
149と笑(わら)ひさざめく。
150高姫(たかひめ)『皆(みな)さまは此席(ここ)を何(なん)と心得(こころえ)て御座(ござ)る。151斯(か)かる神聖(しんせい)な八尋殿(やひろどの)に集(あつ)まりながら、152不届(ふとどき)千万(せんばん)ではありますまいか。153此(この)高姫(たかひめ)の云(い)ふ事(こと)が気(き)に入(い)らねば、154トツトと出(で)て貰(もら)ひませう。155沢山(たくさん)に頭数(あたまかず)はごまめの様(やう)にあつても、156どれ一(ひと)つ間(ま)に合(あ)ふ者(もの)はない。157なんと人民(じんみん)と云(い)ふ者(もの)は情(なさけ)ないものだなア』
158国依別(くによりわけ)『皆(みな)さま、159高姫(たかひめ)さまのお言葉(ことば)が気(き)に入(い)らぬ方(かた)は、160御(ご)註文(ちゆうもん)通(どほ)り御(ご)退場(たいぢやう)を願(ねが)ひます』
161 大勢(おほぜい)の中(なか)より、
162(聴衆)『国依別(くによりわけ)さまの仰(あふ)せの通(とほ)り、163気(き)に入(い)らぬ者(もの)に退場(たいぢやう)せよなら、164残(のこ)る者(もの)は高姫(たかひめ)一人(ひとり)よりないぞ、165それでも良(よ)いか』
166と怒鳴(どな)りたてる。167高姫(たかひめ)は躍気(やつき)となり、
168高姫『神界(しんかい)の帳(ちやう)を切(き)られても好(よ)ければ、169トツトと出(で)たが宜(よろ)しい』
170 大勢(おほぜい)の中(なか)より、
171(聴衆)『お前(まへ)さまに帳(ちやう)を切(き)られても、172神界(しんかい)から切(き)られなければ宜(よろ)しい』
173と叫(さけ)ぶ者(もの)がある。174場内(ぢやうない)は忽(たちま)ち喧々(けんけん)囂々(がうがう)、175鼎(かなへ)の沸(わ)く如(ごと)く、176雀蜂(すずめばち)の巣(す)を突(つ)き破(やぶ)つた如(ごと)くであつた。
177 此(この)時(とき)言依別(ことよりわけの)命(みこと)は若彦(わかひこ)、178紫姫(むらさきひめ)、179玉治別(たまはるわけ)と共(とも)に壇上(だんじやう)に悠然(いうぜん)として現(あら)はれた。
180 一同(いちどう)は拍手(はくしゆ)して言依別(ことよりわけの)命(みこと)を迎(むか)へた。181今(いま)や散乱(さんらん)せむとしつつあつた数多(あまた)の信者(しんじや)は、182再(ふたた)び腰(こし)を下(おろ)し、183花形(はながた)役者(やくしや)の言依別(ことよりわけの)命(みこと)が高姫(たかひめ)に対(たい)する論戦(ろんせん)の矢(や)は如何(いか)にと固唾(かたづ)を呑(の)んで待(ま)つ事(こと)となつた。184言依別(ことよりわけの)命(みこと)は満座(まんざ)に向(むか)ひ、185声(こゑ)も淑(しとや)かに、
186言依別命『皆(みな)さま、187今日(こんにち)は高姫(たかひめ)さまの招(まね)きに依(よ)つて御(お)集合(あつまり)になつたさうですが、188何(なに)か纏(まと)まつた御(お)話(はなし)でも御座(ござ)いましたか』
189と極(きは)めて平静(へいせい)の態度(たいど)で、190微笑(びせう)を浮(うか)べながら、191満座(まんざ)に問(と)うた。192座中(ざちう)より一人(ひとり)の男(をとこ)がスツクと立上(たちあが)り、
193男『不得(ふとく)要領(えうりやう)、194何(なに)が何(なん)だか訳(わけ)が分(わか)りませぬ。195何(なん)だか黒姫(くろひめ)さまが玉(たま)を奪(と)られたとか云(い)つて、196ブウブウと私(わたし)達(たち)一同(いちどう)に熱(ねつ)を吹(ふ)かれるのですから、197堪(たま)りませぬ』
198言依別(ことよりわけの)命(みこと)『如何(いか)なる事(こと)かと思(おも)へば、199黄金(わうごん)の玉(たま)の紛失(ふんしつ)事件(じけん)ですか。200それは少(すこ)しも御(ご)心配(しんぱい)はいりませぬ。201何事(なにごと)も神(かみ)さまの御(ご)経綸(けいりん)ですから、202誰一人(たれひとり)として神(かみ)さまに対(たい)し不都合(ふつがふ)は御座(ござ)いませぬから、203御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
204 高姫(たかひめ)は口(くち)を尖(とが)らし、
205高姫『コレコレ教主(けうしゆ)さま、206あなたは何(なん)と云(い)ふ事(こと)を仰有(おつしや)るのですか。207三千(さんぜん)世界(せかい)を水晶(すゐしやう)にする誠(まこと)の生粋(きつすゐ)の御(おん)玉(たま)を紛失(ふんしつ)しながら、208肝腎(かんじん)の御(お)方(かた)からそんな気楽(きらく)な無責任(むせきにん)なことを云(い)つて如何(どう)なりますか。209それだからあなたは変性(へんじやう)女子(によし)の野良久羅(のらくら)者(もの)だと人(ひと)が云(い)ふのですよ。210チツとは責任(せきにん)観念(くわんねん)をお持(も)ちなされ』
211言依別(ことよりわけの)命(みこと)『世界(せかい)を自由(じいう)に遊(あそ)ばす大神(おほかみ)様(さま)が御(ご)守護(しゆご)の錦(にしき)の宮(みや)、212加(くは)ふるに玉照彦(たまてるひこ)、213玉照姫(たまてるひめ)の神人(しんじん)が御(ご)守護(しゆご)遊(あそ)ばし、214且(か)つ地(ち)は自転倒(おのころ)島(じま)の中心点(ちうしんてん)、215地(ち)の高天原(たかあまはら)の宮屋敷(みややしき)ではありませぬか。216何(なに)事(ごと)も皆(みな)神界(しんかい)のご経綸(けいりん)です。217御(ご)心配(しんぱい)は要(い)りますまい。218余(あま)り黒姫(くろひめ)さまを御(お)責(せめ)になると、219あなたも亦(また)お困(こま)りになる事(こと)が出来(でき)ますぞ』
220高姫『エー奴灰殻(どはひから)の柔弱(にうじやく)な言依別(ことよりわけ)、221モウ愛想(あいさう)が尽(つ)きました。222これから妾(わたし)が此(この)高天原(たかあまはら)を背負(せお)うて立(た)つ考(かんが)へだ。223お前(まへ)さまにも一(ひと)つの責任(せきにん)がある。224黄金(わうごん)の玉(たま)が再(ふたた)び手(て)に入(い)るまで教主(けうしゆ)の席(せき)をお辷(すべ)りなさい。225日(ひ)の出神(でのかみ)が高姫(たかひめ)の口(くち)を藉(か)りて申(まを)し付(つ)けるツ』
226言依別命『私(わたし)は教主(けうしゆ)の地位(ちゐ)に恋々(れんれん)として居(ゐ)る者(もの)ではありませぬ。227併(しか)し乍(なが)ら此(この)聖地(せいち)は貴女(あなた)が教主(けうしゆ)になつて治(をさ)まる所(ところ)ではありませぬ。228やがて貴女(あなた)は黒姫(くろひめ)さま同様(どうやう)、229玉(たま)を探(さが)しに行(ゆ)かねばなりますまい』
230高姫『エー何(なに)を仰有(おつしや)る。231妾(わたし)が今(いま)聖地(せいち)を出(で)ようものなら、232サツパリ暗雲(やみくも)だ。233終局(しまひ)には金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の宝珠(ほつしゆ)も、234紫(むらさき)の玉(たま)も、235亦(また)紛失(ふんしつ)するかも知(し)れませぬぞ』
236言依別命『万一(まんいち)其(その)玉(たま)が紛失(ふんしつ)して居(ゐ)たら、237貴女(あなた)は如何(どう)なさいますか』
238高姫『そんな事(こと)仰有(おつしや)るまでもなく、239此(この)高姫(たかひめ)が一(ひと)つよりない首(くび)を十(とを)でも二十(にじふ)でも進上(しんじやう)致(いた)しますワイな。240そんな間抜(まぬけ)と思(おも)つて御座(ござ)るのですか。241チツト黒姫(くろひめ)とは品物(しなもの)が違(ちが)ひます。242あんまり見違(みちが)ひして下(くだ)さいますな。243お前(まへ)さまは教主(けうしゆ)と云(い)つても、244ホンの看板(かんばん)も同然(どうぜん)、245斯(こ)んな所(ところ)へ出(で)て来(く)る場合(ばあひ)ぢやありませぬ。246スツ込(こ)んで居(ゐ)なさい、247空気抜(くうきぬ)けさま』
248言依別命『あなたの保管(ほくわん)して居(を)られる玉(たま)を一寸(ちよつと)此処(ここ)で皆(みな)さまに拝(をが)ましてあげて貰(もら)ひたい。249斯(か)う云(い)ふ人心(じんしん)不安(ふあん)な時(とき)は噂(うはさ)は噂(うはさ)を生(う)み、250金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の玉(たま)も、251紫(むらさき)の玉(たま)も紛失(ふんしつ)したげな……と大変(たいへん)な評判(ひやうばん)が立(た)つて居(ゐ)ますから………』
252高姫『エー人間(にんげん)と云(い)ふ者(もの)は仕方(しかた)のないものだナ。253天眼通(てんがんつう)でチヤンと見(み)えて居(を)る、254決(けつ)して紛失(ふんしつ)なんかして居(ゐ)ませぬ。255直(すぐ)にお目(め)に掛(か)けます。256折角(せつかく)妾(わたし)が保管(ほくわん)して置(お)いた秘密(ひみつ)場所(ばしよ)を見(み)せた以上(いじやう)は又(また)場所(ばしよ)を替(か)へねばならぬ。257どんな奴(やつ)が信者(しんじや)に化(ば)けて這入(はい)り込(こ)んで居(を)るか分(わか)つたものぢやない。258妾(わたし)は黒姫(くろひめ)の様(やう)に松(まつ)の木(き)の根元(ねもと)へ隠(かく)し、259毎晩(まいばん)々々(まいばん)、260降(ふ)つても照(て)つてもお百度(ひやくど)参(まゐ)りをして終局(しまひ)に人(ひと)に嗅(か)ぎつけられる様(やう)な拙劣(へた)な事(こと)はやりませぬワイなア、261ヘン』
262と稍(やや)軽侮(けいぶ)の色(いろ)を大勢(おほぜい)の前(まへ)に曝(さら)しながら、
263高姫『皆(みな)さま玉(たま)を拝(をが)ましてあげる。264目(め)が潰(つぶ)れぬ様(やう)にシツカリとしなされ』
265と云(い)ひながら、266八尋殿(やひろどの)の畳(たたみ)を一(いち)枚(まい)剥(はぐ)り、267中(なか)より恭(うやうや)しく桐(きり)の箱(はこ)を取(と)り出(だ)し、
268高姫『皆(みな)さま如何(どう)です。269斯(か)う云(い)ふ近(ちか)い所(ところ)に隠(かく)してあつても分(わか)りますまいがな。270それだから灯台下(とうだいもと)は真暗(まつくら)がりと云(い)ふのですよ。271チツト身魂(みたま)を研(みが)きなされ。272言依別(ことよりわけ)様(さま)、273お前(まへ)さまの命令(めいれい)した所(ところ)とは違(ちが)ひませうがな。274お前(まへ)さまの命令(めいれい)通(どほ)り行(や)つて居(を)らうものなら、275黒姫(くろひめ)の様(やう)にサツパリな目(め)に遇(あ)うて居(を)るのぢや。276サア蓋(ふた)を開(あ)けて検(あらた)めて御覧(ごらん)』
277言依別命『どうぞ貴女(あなた)開(あ)けて下(くだ)さい』
278高姫『さうだらう さうだらう。279此(この)玉(たま)は実地(じつち)誠(まこと)の御(ご)神徳(しんとく)がないと、280何程(なにほど)教主(けうしゆ)でも、281身魂(みたま)の曇(くも)りが現(あら)はれて、282恥(はづか)しうて、283面(おもて)を向(む)ける事(こと)も出来(でき)ませぬワイ。284サア皆(みな)さま、285目(め)のお正(しやう)月(ぐわつ)を為(さ)してあげるから、286心(こころ)の饑饉(ききん)を起(おこ)してはなりませぬぞや』
287と得意気(とくいげ)に、
288高姫『サア此処(ここ)に金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の御(おん)宝(たから)、289一(ひと)つは紫(むらさき)の御玉(みたま)、290身魂(みたま)が研(みが)けて居(を)らぬと、291玉石(ぎよくせき)混同(こんどう)と云(い)つて、292石塊(いしくれ)に見(み)える人(ひと)もありますよ。293千(せん)里(り)の馬(うま)も伯楽(はくらう)を得(え)ざれば駑馬(どば)で終(をは)るとやら、294皆(みな)さま、295シツカリ眼(め)を据(す)ゑ、296身魂(みたま)を光(ひか)らして御覧(ごらん)……否(いや)拝観(はいくわん)なされ』
297と口(くち)を一(いち)の字(じ)に結(むす)び、298横柄(わうへい)な面付(つらつき)しながら、299二三回(にさんくわい)玉箱(たまばこ)を頭上(づじやう)に捧(ささ)げ、300静(しづ)かに被覆(おほひ)を外(はづ)し唐櫃(からうど)の蓋(ふた)を開(あ)けるや否(いな)や、301顔色(がんしよく)サツと蒼白色(さうはくしよく)に変(へん)じ、302舌(した)を捲(ま)き、303目(め)を梟(ふくらふ)の如(ごと)く円(まる)くし、304肩(かた)を細(ほそ)く高(たか)くこぢあげ、305首(くび)を半分(はんぶん)ばかり肩(かた)に埋(うづ)め、306無言(むごん)の儘(まま)立(た)つて居(ゐ)る。
307言依別(ことよりわけの)命(みこと)『高姫(たかひめ)さま、308立派(りつぱ)な霊光(れいくわう)が輝(かがや)き給(たま)ふでせうなア』
309 国依別(くによりわけ)はツカツカと進(すす)み寄(よ)り、310玉箱(たまばこ)の中(なか)を覗(のぞ)いて見(み)て、
311国依別『ヤアこりや何(なん)だ。312皆(みな)さま、313玉(たま)と思(おも)ひの外(ほか)、314何時(いつ)の間(ま)にか石(いし)に変(かは)つて居(を)りますよ。315これは誰(だれ)の責任(せきにん)でせう。316一(ひと)つよりない首(くび)を沢山(たくさん)に渡(わた)さねばならぬ手品(てじな)が見(み)られようかも知(し)れませぬ。317とは云(い)ふものの大変(たいへん)な事(こと)が出来(しゆつたい)致(いた)しました』
318 一同(いちどう)はアフンとして呆(あき)れ返(かへ)るばかりであつた。319紫姫(むらさきひめ)は、
320紫姫『モシ高姫(たかひめ)さま、321こりや又(また)何(ど)うした訳(わけ)ですか』
322高姫『何(ど)うでもありませぬ。323斯(か)うして石(いし)に見(み)えてもヤツパリ正真(しやうしん)正銘(しやうめい)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)、324お前(まへ)さま達(たち)一同(いちどう)の身魂(みたま)が悪(わる)いから、325宝珠(ほつしゆ)様(さま)が石(いし)に化(ば)けちやつたのだ。326神(かみ)さまは鏡(かがみ)も同様(どうやう)だから、327皆(みな)さまの心(こころ)が石瓦(いしかはら)同然(どうぜん)だから、328皆(みな)さまの意(い)の如(ごと)く変化(へんげ)遊(あそ)ばすのだ。329それで如意(によい)宝珠(ほつしゆ)と申(まを)します。330……コレコレ如意(によい)宝珠(ほつしゆ)様(さま)、331さぞあなたは御(ご)無念(むねん)でせう。332せめて二三(にさん)日(にち)か一(いつ)週間(しうかん)、333皆(みな)さま水行(すゐぎやう)をしてお出(い)でなされ。334さうしたら本当(ほんたう)の宝珠(ほつしゆ)の御(ご)神体(しんたい)が拝(をが)めますよ』
335 大勢(おほぜい)の中(なか)より、
336(聴衆)『オイ、337高姫(たかひめ)さま、338何程(なにほど)研(みが)いても、339見直(みなほ)しても、340石(いし)はヤツパリ石(いし)ぢやないか。341此(この)中(なか)に一人(ひとり)や半分(はんぶん)、342魂(たま)の研(みが)けた者(もの)がないとはいへまい。343それに誰(たれ)も玉(たま)ぢやと言(い)ふ者(もの)がないぢやないか。344お前(まへ)さまはあんまり慢心(まんしん)が強(つよ)いから奪(と)られたのだよ。345さうでなくばウラナイ教(けう)を再設(さいせつ)する積(つも)りで、346黒姫(くろひめ)と申合(まをしあは)せ、347黒姫(くろひめ)に黄金(わうごん)の玉(たま)を持(も)つてフサの都(みやこ)へ先(さき)へ帰(かへ)らせ、348自分(じぶん)は残(のこ)りの二(ふた)つの玉(たま)を何々(なになに)して謀叛(むほん)を企(たく)むのだらう』
349 高姫(たかひめ)クワツとなり、
350高姫『誠(まこと)一(ひと)つの大和(やまと)魂(だましひ)の日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)に向(むか)つて、351何(なん)と云(い)ふ事(こと)を仰有(おつしや)る。352サア此処(ここ)へ出(で)て来(き)なさい。353黒白(こくびやく)を分(わ)けてあげるから』
354 大勢(おほぜい)一度(いちど)に、
355(聴衆)『ウラナイ教(けう)、356ウラナイ教(けう)の再設(さいせつ)。357……悪(あく)の道(みち)へ逆転(ぎやくてん)旅行(りよかう)の張本人(ちやうほんにん)……』
358と口々(くちぐち)に呶鳴(どな)り立(た)てる。359高姫(たかひめ)は烈火(れつくわ)の様(やう)になつて、
360高姫『エー残念(ざんねん)々々(ざんねん)、361此(この)腹(はら)を切(き)つて見(み)せてやりたいやうだ』
362と壇上(だんじやう)に地団駄(ぢだんだ)を踏(ふ)む。
363言依別(ことよりわけの)命(みこと)『高姫(たかひめ)さま、364何事(なにごと)も神界(しんかい)の御(ご)都合(つがふ)でせう。365先(ま)づ御(ご)安心(あんしん)なさいませ。366御(ご)一同(いちどう)さま、367此(こ)れには何(なに)か神界(しんかい)の御(ご)都合(つがふ)のある事(こと)と私(わたし)は確(かた)く信(しん)じます。368どうぞ鎮(しづ)まつて下(くだ)さい。369責任(せきにん)は私(わたし)が負(お)ひますから……』
370と淑(しとや)かに宥(なだ)める。371一同(いちどう)は教主(けうしゆ)の挨拶(あいさつ)に是非(ぜひ)なく、372ブツブツ呟(つぶや)き乍(なが)ら錦(にしき)の宮(みや)に拝礼(はいれい)し、373各(おのおの)家路(いへぢ)に帰(かへ)つて行(ゆ)く。
374 高姫(たかひめ)は面(つら)を膨(ふく)らし、375石(いし)の玉箱(たまばこ)を小脇(こわき)に抱(かか)へ、376夜叉(やしや)の如(ごと)き相好(さうがう)を寒風(かんぷう)に曝(さら)し乍(なが)ら、377己(おの)が居宅(きよたく)へ一散走(いちさんばし)りに帰(かへ)り行(ゆ)く。378傍(かたはら)の榎(えのき)の枝(えだ)に烏(からす)が二三羽(にさんば)、379寒風(かんぷう)に揺(ゆら)れ乍(なが)ら、380枝(えだ)の先(さき)にタワタワと波(なみ)を打(う)ち、381空中(くうちう)に浮(うき)つ沈(しづ)みつ『阿呆(あはう)々々(あはう)』と鳴(な)き立(た)てて居(ゐ)る。
382(大正一一・五・二五 旧四・二九 松村真澄録)
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