霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第一〇章 美(び)と醜(しう)〔七〇二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻 篇:第3篇 黄金化神 よみ(新仮名遣い):おうごんけしん
章:第10章 美と醜 よみ(新仮名遣い):びとしゅう 通し章番号:702
口述日:1922(大正11)年05月26日(旧04月30日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年7月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
三人の女は上枝姫、中枝姫、下枝姫と言った。金助は上枝姫と夫婦気取りで話しかけたが、あたりの様子が鷹鳥山と少し違うことに気がついた。上枝姫は、鷹鳥山からすでに三百里離れたところに来たのだ、と答えた。
上枝姫は、自分とここに楽しく暮らすことができたのも、金助が泉に落ちた玉能姫を助け出そうとした一心が凝ったのだ、と答えた。しかしその後、玉能姫に恩を着せて蜈蚣姫のところに連れて行き、手柄を立てようとしたことを指摘した。
上枝姫によると、玉能姫を救おうという金助の好意が造った世界は短くして終わりを告げ、その後には修羅道が展開するのだ、という。そう言い残して上枝姫は消えてしまった。
金助は暗夜の道を前後左右に狂いまわると、たちまち千尋の谷に落ち込んでしまった。谷底の川に落ち込んだ金助は、鬼婆に救われた。鬼婆は、自分は金助の玉能姫への執着が生み出した存在だから、自分の夫になるようにと言い渡した。
鬼婆は蠑螈姫と名乗り、金助の色欲と金銭欲が凝って出現した存在だと明かした。蠑螈姫は金助に夫になるように迫る。そのおぞましさに金助ははっと気が付けば、泉に飛び込んだ拍子に気絶していたことに気が付いた。
ようやく夜が明けると、スマートボール、カナンボールと五人のバラモン教の部下たちは、あちこちの叢の中に傷だらけになって苦悶していた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-06-08 08:10:36 文字数:3402 OBC :rm2210
愛善世界社版:136頁 八幡書店版:第4輯 430頁 修補版: 校定版:140頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 玉能姫(たまのひめ)と現(あら)はれたる三(さん)人(にん)の女(をんな)は、002甲(かふ)を上枝姫(ほづえひめ)と云(い)ひ、003乙(おつ)を中枝姫(なかえひめ)と云(い)ひ、004丙(へい)を下枝姫(しづえひめ)と云(い)ふ。005金(きん)、006銀(ぎん)、007鉄(てつ)の三(さん)人(にん)は漸(やうや)く美人(びじん)に導(みちび)かれ、008名(な)も知(し)らぬ山(やま)の頂(いただき)に辿(たど)り着(つ)いて居(ゐ)た。
009金(きん)『上枝(ほづえ)さま、010不思議(ふしぎ)の縁(えん)で貴女(あなた)と斯(か)う云(い)ふ仲(なか)になつたのも何(なに)かの因縁(いんねん)でせうなア。011一寸先(いつすんさき)も分(わか)らないやうなあの山道(やまみち)を、012貴女(あなた)のお蔭(かげ)で漸(やうや)く此処(ここ)に登(のぼ)つて来(き)ましたが、013どうも此(この)辺(へん)は鷹鳥山(たかとりやま)とは趣(おもむき)が違(ちが)ふぢやありませぬか』
014上枝姫(ほづえひめ)『違(ちが)ひますとも。015鷹鳥山(たかとりやま)を距(さ)る事(こと)、016殆(ほとん)ど三百(さんびやく)里(り)ですよ』
017金助『何時(いつ)の間(ま)に、018そんなに遠(とほ)く来(き)たのでせう』
019上枝姫『ホヽヽヽヽ、020貴方(あなた)は御存(ごぞん)じありますまいが、021私(わたし)は天人(てんにん)ですよ。022貴方(あなた)の体(からだ)を翼(はがひ)の中(なか)に入(い)れて来(き)たのですから、023殆(ほとん)ど半時(はんとき)許(ばか)りの間(ま)より経(た)つて居(ゐ)ませぬ』
024金助『それにしても余(あま)り早(はや)いぢやありませぬか。025併(しか)し今迄(いままで)銀(ぎん)、026鉄(てつ)、027外(ほか)二人(ふたり)の姫(ひめ)さまは此所(ここ)へ一緒(いつしよ)に来(き)た筈(はず)だのに、028何処(どこ)へ往(い)つて仕舞(しま)つたのでせう』
029上枝姫『神界(しんかい)では、030タイムもなければ遠近(ゑんきん)もありませぬ。031さう御(ご)心配(しんぱい)なさらずとも今(いま)に会(あ)ふ事(こと)が出来(でき)ます。032今(いま)と云(い)つても現界(げんかい)で云(い)へば五十万(ごじふまん)年(ねん)の未来(みらい)です』
033金助『何(なん)と合点(がてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)を仰有(おつしや)いますなア。034此処(ここ)は現界(げんかい)ではありませぬか』
035上枝姫『現界(げんかい)と云(い)へば現界(げんかい)、036神界(しんかい)と云(い)へば神界(しんかい)で、037顕神幽(けんしんいう)一致(いつち)の大宇宙(だいうちう)の世界(せかい)を逍遥(せうえう)して居(を)るのですからなア』
038金助『何(なん)だか私(わたし)は狐(きつね)に誑(つま)まれたやうな気(き)が致(いた)します。039性来(うまれつき)の黒(くろ)ン坊(ばう)の私(わたくし)、040何時(いつ)の間(ま)にやら艶々(つやつや)した皮膚(ひふ)になり、041色(いろ)迄(まで)白(しろ)くなつて来(き)ました。042さうして貴女(あなた)の様(やう)な立派(りつぱ)なネースに手(て)を曳(ひ)かれ、043見(み)も知(し)らぬ麗(うるは)しき山(やま)の頂(いただき)に導(みちび)かれたと云(い)ふのは、044どうしても合点(がてん)が往(ゆ)きませぬ。045夢(ゆめ)ぢやありますまいか』
046上枝姫『夢(ゆめ)は現界(げんかい)の人間(にんげん)の見(み)るものです。047聖人(せいじん)に夢(ゆめ)なしと云(い)うて、048清浄(せいじやう)潔白(けつぱく)の人間(にんげん)に夢(ゆめ)があつて耐(たま)りますか。049畢竟(つまり)貴方(あなた)が玉能姫(たまのひめ)さまが清泉(きよいづみ)に陥(おちい)り溺死(できし)をしようとして居(ゐ)たのを助(たす)けて上(あ)げたいと云(い)ふ其(その)真心(まごころ)が凝(こ)つて、050此処(ここ)に私(わたくし)と斯(か)う楽(たのし)く暮(くら)す事(こと)が出来(でき)る様(やう)になつたのです。051要(えう)するに其(その)心(こころ)より玉能姫(たまのひめ)さま同様(どうやう)の妾(わらは)を生出(うみだ)し救(すく)ひの国(くに)を開(ひら)かれたのです。052併(しか)し其(その)次(つぎ)に貴方(あなた)は玉能姫(たまのひめ)を救(すく)ひ上(あ)げ、053それを恩(おん)に着(き)せて自分(じぶん)の物(もの)にしようと思(おも)ひ且(かつ)其(その)言霊(ことたま)を使(つか)つたでせう。054それで其(その)心(こころ)と言葉(ことば)が凝(こ)つて又(また)一(ひと)つの迷(まよ)ひの国(くに)が展開(てんかい)して居(ゐ)ます。055其処(そこ)へ貴方(あなた)は是(これ)から旅行(りよかう)せねばなりますまい。056も一(ひと)つ奥(おく)の国(くに)は蜈蚣姫(むかでひめ)に褒(ほ)められて手柄(てがら)をしようと云(い)ふ修羅道(しゆらだう)が展開(てんかい)して居(ゐ)ます、057これも一度(いちど)踏(ふ)まねばなりますまい。058私(わたくし)と斯(か)うして楽(たのし)く、059麗(うるは)しき山(やま)の頂(いただき)に、060百花(ひやくくわ)爛漫(らんまん)たる種々(さまざま)の花(はな)を褒(ほ)めながら楽(たのし)むのも束(つか)の間(ま)ですよ。061唯(ただ)貴方(あなた)の初一念(しよいちねん)の玉能姫(たまのひめ)を救(すく)ふと云(い)ふ好意(かうい)が造(つく)つた世界(せかい)は極短(ごくみじか)いものです。062左様(さやう)なら』
063と云(い)ふかと見(み)れば姿(すがた)は煙(けむり)となつて消(き)えて仕舞(しま)つた。064四面(しめん)暗澹(あんたん)として咫尺(しせき)を弁(べん)ぜざるに至(いた)つた。065金(きん)は、
066金助『モシモシ上枝(ほづえ)様(さま)、067何処(どこ)へお出(いで)になりました。068も一度(いちど)お顔(かほ)を見(み)せて下(くだ)さいませ。069アヽもう姿(すがた)がなくなつたか、070仮令(たとへ)妖怪(えうくわい)変化(へんげ)でも、071唯(ただ)の一(いち)時(じ)でもこんな愉快(ゆくわい)な気分(きぶん)になる事(こと)を得(え)ば死(し)んでも満足(まんぞく)だ。072アヽどうしたら良(よ)からう』
073と暗夜(あんや)の道(みち)を前後(ぜんご)左右(さいう)に狂(くる)ひ廻(まは)る途端(とたん)に、074千仭(せんじん)の谷(たに)に真逆(まつさか)様(さま)に顛落(てんらく)し、075谷川(たにがは)の青淵(あをふち)にざんぶとばかり落(お)ち込(こ)んで仕舞(しま)つた。
076 何処(いづこ)ともなく現(あら)はれ来(きた)る一人(ひとり)の鬼婆(おにばば)、077矢庭(やには)に真裸(まつぱだか)となり、078金助(きんすけ)を小脇(こわき)に引(ひ)き抱(かか)へ救(すく)ひ上(あ)げた。079金(きん)助(すけ)は今(いま)や溺死(できし)せむと苦(くるし)み悶(もだ)えたる矢先(やさき)、080何人(なんぴと)かに救(すく)はれ、081嬉(うれ)しさの余(あま)り、
082金助『何(いづ)れの方(かた)かは存(ぞん)じませぬが、083よくマア助(たす)けて下(くだ)さいました。084有難(ありがた)う存(ぞん)じます』
085と面(おもて)を上(あ)げよくよく見(み)れば、086いつしか夜(よ)は明(あ)け放(はな)れ、087山奥(やまおく)の谷川(たにがは)の辺(ほとり)に見(み)るも恐(おそ)ろしい鬼婆(おにばば)に救(すく)はれて居(ゐ)た。088金助(きんすけ)は吃驚(びつくり)仰天(ぎやうてん)、089此(この)場(ば)を逃(に)げ去(さ)らむとする時(とき)、090鬼婆(おにばば)はグツと素首(そつくび)を握(にぎ)り、
091鬼婆(蠑螈姫)『これこれ金助(きんすけ)さま、092お前(まへ)さまを助(たす)けたのは此(この)婆(ばば)だよ。093さアこれから私(わたし)のハズバンドになつて下(くだ)さい』
094金助『やア此奴(こいつ)は大変(たいへん)ぢや。095上枝(ほづえ)様(さま)のやうな美人(びじん)なら、096仮令(たとへ)化衆(ばけしう)でも恐(おそ)ろしくはないが、097お前(まへ)のやうな皺苦茶(しわくちや)だらけの、098口(くち)が耳(みみ)まで裂(さ)けた鬼婆(おにば)アさまの亭主(おやぢ)になるのは許(ゆる)して貰(もら)ひたいなア』
099鬼婆(蠑螈姫)『私(わたし)はいもり姫(ひめ)と云(い)ふ腹(はら)に真赤(まつか)な痣(あざ)があり、100南無(なむ)妙法(めうはふ)蓮華経(れんげきやう)と御(お)題目(だいもく)を天然(てんねん)に表(あら)はした、101いもりの様(やう)な婆(ばばあ)だ。102これもお前(まへ)の心(こころ)から造(つく)つて生(う)んだ鬼婆(おにばば)だから、103お前(まへ)の世話(せわ)にならいで誰人(だれ)の世話(せわ)にならう。104お前(まへ)は玉能姫(たまのひめ)を助(たす)け、105それを恩(おん)に着(き)せて、106恋(こひ)の欲望(よくばう)を遂(と)げようとしたではないか。107いもりの黒焼(くろやき)振(ふ)りかけて、108女(をんな)を思(おも)ひつかさうとするやうな虫(むし)の好(よ)い考(かんが)へを起(おこ)すものだから、109たうとう其(その)心(こころ)の鬼(おに)が私(わたし)を生(う)んだのだから、110何(なん)と云(い)つても離(はな)れやせぬぞえ』
111金助『「惚薬(ほれぐすり)、112他(ほか)にないかと蠑螈(いもり)に問(と)へば、113指(ゆび)を輪(わ)にして見(み)せたげな」指(ゆび)を輪(わ)にすると云(い)ふ意味(いみ)は、114世(よ)の中(なか)の仇敵(きうてき)として喜(よろこ)ばれて居(ゐ)る妙(めう)な運命(うんめい)を辿(たど)る金助(きんすけ)の事(こと)だよ。115金(きん)ちやんには美人(びじん)が惚(ほ)れる可能性(かのうせい)が備(そな)はつて居(ゐ)る。116併(しか)し乍(なが)ら蠑螈姫(いもりひめ)では駄目(だめ)だよ。117なんぼ金(きん)さまが色男(いろをとこ)でも、118お前(まへ)のやうな悪(あく)垂(た)れ婆(ばば)には聊(いささ)か御(ご)迷惑(めいわく)千万(せんばん)、119ナンノホウレンゲキヨウだ。120今度(こんど)ばかりは何(ど)うか許(ゆる)して呉(く)れ。121又(また)逢(あ)ふ時(とき)もあらうからなア』
122 鬼婆(おにばば)の蠑螈姫(いもりひめ)は、123涙(なみだ)をハラハラと流(なが)し、
124蠑螈姫(鬼婆)『そりや聞(きこ)えませぬ金助(きんすけ)さま。125お前(まへ)と私(わたし)の其(その)仲(なか)は、126金助(きんすけ)や経惟子(きやうかたびら)の事(こと)かいな。127初(はじ)めて逢(あ)うた其(その)日(ひ)から……』
128金助『コラコラ、129何(なに)吐(ぬか)すのだ。130昨日(きのふ)や今日(けふ)の事(こと)ぢやない、131と云(い)ひやがるが、132現(げん)に今(いま)逢(あ)うた許(ばか)りぢやないか』
133蠑螈姫(鬼婆)『そりや違(ちが)ひます金助(きんすけ)さま。134お言葉(ことば)無理(むり)とは思(おも)はねど、135お前(まへ)は元来(ぐわんらい)ずるい人(ひと)、136女(をんな)の尻(しり)を付(つ)け狙(ねら)ひ、137狙(ねら)ひ狙(ねら)うた魂(たましひ)が、138凝(こ)り固(かた)まつて七八年(ななやとせ)、139ここにいもりの姫(ひめ)となり、140お前(まへ)の心(こころ)の黒幕(くろまく)を、141開(あ)けて生(うま)れた此(この)妾(わたし)、142今更(いまさら)捨(す)てようとはそりや聞(きこ)えませぬ、143胴欲(どうよく)ぢや。144仮令(たとへ)此(この)身(み)は閻魔(えんま)の庁(ちやう)で、145如何(いか)なる酷(きつ)い成敗(せいばい)に遭(あ)はされうとも、146私(わたし)の夫(をつと)とも親(おや)とも頼(たの)む金助(きんすけ)さま、147どうしてこれが思(おも)ひ切(き)られようか。148思(おも)へば思(おも)へば前(さき)の世(よ)の、149まだ前(さき)の世(よ)の前(さき)の世(よ)の、150昔(むかし)の昔(むかし)のさる昔(むかし)、151去(さ)つた女房(にようばう)の怨霊(をんりやう)や、152泣(な)かした女(をんな)の魂(たましひ)が、153凝(こ)り固(かた)まつて今(いま)此処(ここ)に、154お前(まへ)に逢(あ)うた嬉(うれ)しさは、155千代(ちよ)も八千代(やちよ)も万代(よろづよ)も、156忘(わす)れてならうかいもり姫(ひめ)、157逢(あ)ひたかつた、158見(み)たかつた、159明(あ)けても暮(く)れてもお前(まへ)の事(こと)、160夢寐(むび)にも忘(わす)れぬ女房(にようばう)が、161心(こころ)を推量(すゐりやう)して下(くだ)さんせいなア』
162金助『こりやこりや、163いもり姫(ひめ)とやら、164切(せつ)なる心(こころ)は察(さつ)すれど、165某(それがし)は鷹鳥山(たかとりやま)の岩窟(いはや)に立(た)ち向(むか)ひ華々(はなばな)しく言霊戦(ことたません)を開始(かいし)して、166当(たう)の敵(てき)たる鷹鳥姫(たかとりひめ)を虜(とりこ)に致(いた)し、167如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の宝玉(ほうぎよく)を手(て)に入(い)れねばならぬ大切(たいせつ)な身(み)の上(うへ)、168夫婦(ふうふ)になれなら、169事(こと)と品(しな)によつてはならぬ事(こと)もない。170何(なに)は兎(と)もあれ凱旋(がいせん)の後(のち)、171否(いな)やの返事(へんじ)を仕(つかまつ)らむ。172サア早(はや)う其処(そこ)を放(はな)しや。173時(とき)延(の)びる程(ほど)不覚(ふかく)の基(もとゐ)、174エヽ聞(き)き分(わ)けのない鬼婆(おにばば)め』
175蠑螈姫(鬼婆)『愛憐(いとし)き夫(をつと)が討死(うちじに)の、176門出(かどで)を見(み)かけて女房(にようばう)が、177これが黙(だま)つて居(を)られうか、178泣(な)く泣(な)く取(と)り出(だ)す拳骨(げんこつ)の痛(いた)さ、179耐(こら)へて往(ゆ)かしやんせ』
180金助『こりや鬼婆(おにばば)、181洒落(しやれ)ない。182貴様(きさま)等(ら)に拳骨(げんこつ)を喰(く)はされて耐(たま)るか、183あた縁起糞(げんくそ)の悪(わる)い、184討死(うちじに)の門出(かどで)なんて何(なに)を云(い)ふのだ』
185蠑螈姫(鬼婆)『これ金(きん)さま、186妾(わたし)の素性(すじやう)を知(し)つて居(を)るかい。187お前(まへ)は女(をんな)にかけては随分(ずゐぶん)ずるい人(ひと)だが、188金(かね)にかけては雪隠(せつちん)のはたの猿食柿(さるくはず)、189一名(いちめい)身不知(みしらず)と云(い)ふ、190柿(かき)のやうな男(をとこ)だ。191渋(しぶ)うて、192汚(きたな)うて、193細(こま)かうて、194喰(く)へぬ男(をとこ)だと云(い)はれて来(き)ただらう。195そして鬼金(おにきん)だ鬼金(おにきん)だと人(ひと)に持(も)て囃(はや)された悪党者(あくたうもの)だ。196金(かね)が敵(かたき)の世(よ)の中(なか)だよ。197大勢(おほぜい)の恨(うらみ)とお前(まへ)の鬼心(おにごころ)が混淆(ごつちや)になつて、198こんないもり姫(ひめ)の鬼婆(おにばば)が出現(しゆつげん)したのだ。199云(い)はば色(いろ)と金(かね)との権現(ごんげん)様(さま)だ。200お前(まへ)は豪(えら)さうに人間面(にんげんづら)を提(さ)げて歩(ある)いて居(を)るが、201決(けつ)してそんな資格(しかく)はありませぬぞえ』
202金助『エヽ困(こま)つた口(くち)の悪(わる)い婆(ばば)が現(あら)はれたものだなア、203人間(にんげん)でなければ三(さん)げんか、204四(し)けんか、205五(ご)んげんさまか』
206蠑螈姫(鬼婆)『良(い)い加減(かげん)にお前(まへ)さまも改心(かいしん)して、207解脱(げだつ)さして呉(く)れたら何(ど)うだいな。208それが出来(でき)ねば何処迄(どこまで)もお前(まへ)さまにくつ着(つ)いて行(ゆ)かねばならぬ。209磁石(じしやく)が鉄(てつ)に吸着(すひつ)くやうなものだ。210スヰートハートした病(やまひ)は、211お医者(いしや)さまでも有馬(ありま)の湯(ゆ)でも、212根(ね)つから葉(は)つから何処迄(どこまで)も癒(なほ)りやせぬワイなア。213アヽ味気(あぢき)なき闇(やみ)の浮世(うきよ)だ。214誰(たれ)がすき好(この)んでこんな鬼婆(おにばば)になりたいものか、215お前(まへ)と云(い)ふ男(をとこ)は殺生(せつしやう)な男(をとこ)だ。216サア何(ど)うして下(くだ)さる』
217と堅(かた)い冷(つめ)たい皺(しわ)だらけの手(て)で、218金助(きんすけ)の両腕(りやううで)を左手(ゆんで)に一掴(ひとつか)みとなし、219右(みぎ)の腕(うで)に蠑螺(さざえ)の壺焼(つぼやき)を固(かた)めて、
220蠑螈姫(鬼婆)『これ金(きん)さま、221お前(まへ)は本当(ほんたう)に情(つれ)ない人(ひと)だ。222イヤイヤ喰(く)へない人(ひと)だ。223サア此(この)婆(ばば)の身(み)を何(ど)うして下(くだ)さる』
224と耳(みみ)迄(まで)引(ひ)き裂(さ)けた口(くち)をパクパクさせながら口説(くど)きたてるその嫌(いや)らしさ、225身(み)の毛(け)もよだち首筋元(くびすぢもと)のぞわぞわと寒(さむ)さにハツと気(き)が付(つ)けば、226以前(いぜん)の清泉(きよいづみ)の中(なか)に飛(と)び込(こ)んだ途端(とたん)、227向脛(むかふづね)を打(う)ち、228気絶(きぜつ)して居(ゐ)た事(こと)が分(わか)つた。229傍(かたはら)を見(み)れば人(ひと)の呻声(うめきごゑ)、230咫尺(しせき)を弁(べん)ぜぬ闇(やみ)の中(なか)から次々(つぎつぎ)に聞(きこ)えて来(く)る。
231 斯(か)くして漸(やうや)く夜(よる)は烏(からす)の声(こゑ)にカアと明(あ)け放(はな)れ、232四辺(あたり)を見(み)れば、233銀(ぎん)、234鉄(てつ)、235熊(くま)、236蜂(はち)、237カナンボール、238スマートボールの六(ろく)人(にん)は、239彼方(あなた)此方(こなた)の草(くさ)の中(なか)に、240荊蕀掻(いばらか)きの血(ち)だらけの顔(かほ)を曝(さら)して苦悶(くもん)して居(ゐ)た。
241(大正一一・五・二六 旧四・三〇 加藤明子録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→