霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 不知火(しらぬひ)〔六九五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻 篇:第1篇 暗雲低迷 よみ(新仮名遣い):あんうんていめい
章:第3章 不知火 よみ(新仮名遣い):しらぬい 通し章番号:695
口述日:1922(大正11)年05月24日(旧04月28日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年7月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
黒姫は今度は、テーリスタンとカーリンスの主人だった鷹依姫に疑いをかける。朝参の後に竜国別の家に立ち寄り、鷹依姫に対して、テーリスタンとカーリンスに盗み出させた黄金の玉を返せ、と詰め寄る。
鷹依姫は必死に抗弁するが、黒姫はあくまで鷹依姫を疑って聞かない。鷹依姫は居丈高に尋問する黒姫の態度に、腹立たしくなり泣いている。そこへ竜国別が帰ってきた。
そこへテーリスタンとカーリンスが入ってきた。カーリンスは竜国別らに、黒姫が黄金の玉を紛失し、自分たちが池に身投げした黒姫を助けたのがあべこべに、玉盗人の疑いをかけられてしまっている顛末を語った。
竜国別は黄金の玉が紛失したこと、黒姫がその疑いをテーリスタン、カーリンス、鷹依姫にかけていることを知ると、ご神前にお伺いを立てに行った。戻ってきた竜国別は、「時節を待て」という神示があったことを告げた。
黒姫はあくまで鷹依姫を疑い、憎まれ口を叩いた後、懐剣を抜いて自害しようとする。するとテーリスタンとカーリンスは突然、玉を盗んだのは自分たち二人であり、玉はすでにバラモン教の蜈蚣姫に渡したのだ、と狂言を始めた。
黒姫、鷹依姫、竜国別は、てっきり真犯人が自白したと思い、二人を相手に大喧嘩を始める。そこへ言依別命が館の前を通りかかり、騒ぎを聞きつけた。
言依別命が訳を尋ねると、黒姫はテーリスタンとカーリンスが黄金の玉を盗んだことを白状したのだ、と説明した。
言依別命はテーリスタンとカーリンスが、黒姫の疑いが鷹依姫や竜国別に飛び火するのを防ぐために、自ら濡れ衣を着たことを悟って二人を褒めた。
言依別命は一同に対して、玉が紛失した責任はすべて自分が負うので、もうこれ限りこのことは水に流してくれ、と言ってその場を祓い清めた。黒姫は言依別命が玉の紛失を追及しないので肝を抜かれて唖然としている。
この後、黒姫、鷹依姫、竜国別、テーリスタン、カーリンスの五人は、神界の仕組の糸に操られて、黄金の玉探索という名目で四方の国々を訪ね、悪魔退治の旅を行うことになるのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-26 10:36:39 文字数:4940 OBC :rm2203
愛善世界社版:35頁 八幡書店版:第4輯 392頁 修補版: 校定版:36頁 普及版:17頁 初版: ページ備考:
001 黒姫(くろひめ)は錦(にしき)の宮(みや)の朝参(てうさん)を済(す)ませ、002帰途(きと)竜国別(たつくにわけ)の家(いへ)に立(た)ち寄(よ)り、003奥(おく)の一室(ひとま)に入(い)り鷹依姫(たかよりひめ)と、004ひそひそ話(はなし)を始(はじ)めかけた。
005黒姫(くろひめ)『鷹依姫(たかよりひめ)さま、006世(よ)の中(なか)に宝(たから)と云(い)うたら何(なに)が一番(いちばん)だと思(おも)ひますか』
007鷹依姫(たかよりひめ)『私(わたくし)は如意(によい)宝珠(ほつしゆ)よりも、008黄金(わうごん)の玉(たま)よりも、009紫(むらさき)の玉(たま)よりも、010天地(てんち)の誠(まこと)が一番(いちばん)の宝(たから)だと考(かんが)へて居(を)ります』
011黒姫『ア左様(さやう)か、012それは御尤(ごもつと)も。013併(しか)し貴女(あなた)はその宝(たから)を如何(どう)しました』
014鷹依姫『何分(なにぶん)にも曇(くも)つた身魂(みたま)で御座(ござ)いますから、015誠(まこと)の宝(たから)が手(て)に入(はい)らいで、016神(かみ)様(さま)に対(たい)しはづかしいことで御座(ござ)います。017神(かみ)様(さま)は誠(まこと)の玉(たま)を早(はや)く取(と)れよと突(つ)き出(だ)して御座(ござ)るのですが、018何(ど)うも人間(にんげん)は身魂(みたま)の曇(くも)りが甚(ひど)いのでお貰(もら)ひ申(まを)す事(こと)が出来(でき)ませぬ。019何(なん)とかして早(はや)く誠(まこと)と云(い)ふ宝(たから)を手(て)に入(い)れたいと朝夕(あさゆふ)祈(いの)つて居(を)ります』
020黒姫『お前(まへ)さまはさうぢやありますまい。021誠(まこと)の玉(たま)よりも、022黄金(わうごん)の玉(たま)が結構(けつこう)なのでせう。023三五教(あななひけう)の唯一(ゆいつ)の宝(たから)、024黄金(わうごん)の玉(たま)を、025貴女(あなた)こつそりと何処(どこ)へ隠(かく)しましたか』
026鷹依姫『エ、027何(なん)とおつしやいます。028合点(がてん)の行(ゆ)かぬお言葉(ことば)、029黄金(わうごん)の玉(たま)が何(ど)うなつたと仰有(おつしや)るのですか』
030黒姫『白々(しらじら)しい、031呆(とぼ)けなさいますな。032心(こころ)に覚(おぼ)えが御座(ござ)いませう。033何(なん)とお隠(かく)しなさつても、034此(この)黒姫(くろひめ)の目(め)でちやんと睨(にら)んだら外(はづ)れつこはありませぬ。035既(すで)にテーリスタンや、036カーリンスがお前(まへ)さまの命令(めいれい)で、037黄金(わうごん)の玉(たま)を盗(ぬす)んだと云(い)はぬばかりの口吻(くちぶり)をして居(ゐ)ますよ』
038鷹依姫『あの、039テー、040カーの二人(ふたり)がそんな事(こと)を云(い)ひましたか。041何(なに)を証拠(しようこ)にそんな大(だい)それた嘘(うそ)を云(い)ふのでせうか』
042黒姫『ヘン、043貴女(あなた)よく呆(とぼ)けますねえ。044松(まつ)の根元(ねもと)から掘(ほ)り出(だ)しなさつた、045あの黄金(わうごん)の玉(たま)ですよ。046貴女(あなた)が高春山(たかはるやま)でアルプス教(けう)の教主(けうしゆ)と云(い)うて威張(ゐば)つて居(を)られた時(とき)、047徳公(とくこう)を聖地(せいち)に入(い)り込(こ)ませ、048玉(たま)の在処(ありか)を考(かんが)へさして居(を)つたぢやありませぬか。049あの徳(とく)と云(い)ふ奴(やつ)は蜈蚣姫(むかでひめ)に在処(ありか)を知(し)らした奴(やつ)だ。050それが又(また)お前(まへ)さまの三五教(あななひけう)へ偽帰順(にせきじゆん)と共(とも)に、051素知(そし)らぬ顔(かほ)をして入(はい)つて来(き)て居(ゐ)ませうがな。052真実(ほんと)は彼奴(あいつ)の手引(てび)きで、053テー、054カーの両人(りやうにん)が私(わたし)の保管(ほくわん)して居(を)る黄金(わうごん)の玉(たま)を、055お前(まへ)さまの指図(さしづ)で盗(と)つたに違(ちが)ひありませぬ。056私(わたし)も、057もう命(いのち)がけだ。058お前(まへ)さまの生首(なまくび)を引(ひ)き抜(ぬ)いて、059私(わたし)も潔(いさぎよ)く死(し)んで仕舞(しま)ふのだ、060さあ何(ど)うだ』
061と藪(やぶ)から棒(ぼう)の詰問(きつもん)に、062鷹依姫(たかよりひめ)は呆(あき)れ果(は)て、063茫然(ばうぜん)として顔(かほ)を真蒼(まつさを)にし、064黒姫(くろひめ)を凝視(みつ)めて居(ゐ)る。
065黒姫『悪事(あくじ)千(せん)里(り)と云(い)うて、066悪(わる)い事(こと)は出来(でき)ますまいがな。067併(しか)し神(かみ)様(さま)は屹度(きつと)赦(ゆる)して下(くだ)さいますから綺麗(きれい)薩張(さつぱり)と白状(はくじやう)なさいませ。068お前(まへ)さまは可愛(かあい)い一人(ひとり)の息子(むすこ)の竜国別(たつくにわけ)さまに毒茶(どくちや)を呑(の)ませ、069熱湯(ねつたう)を浴(あ)びせるやうなものだ。070私(わたし)も仮令(たとへ)一(いち)日(にち)でも大切(たいせつ)な玉(たま)が紛失(ふんしつ)して居(を)つたと云(い)ふことが、071皆(みな)さまに知(し)れては大変(たいへん)だから、072何処迄(どこまで)も秘密(ひみつ)を守(まも)つて、073お前(まへ)さまが盗(ぬす)んだとは云(い)はないから、074サア、075ちやつと出(だ)して下(くだ)さい。076お前(まへ)さまの身(み)のため、077竜国別(たつくにわけ)さまのためだ。078随分(ずゐぶん)温順(おとなし)さうな顔(かほ)をして居(を)つて、079貴女(あなた)も敏腕家(やりて)ぢやなア。080黒姫(くろひめ)も其(その)腕前(うでまへ)には感心(かんしん)致(いた)しましたよ。081ホヽヽヽヽ』
082と嫌(いや)らしく笑(わら)ふ。083鷹依姫(たかよりひめ)は当惑顔(たうわくがほ)、084涙(なみだ)をぼろぼろと流(なが)し、
085鷹依姫『あゝ神(かみ)様(さま)、086何卒(どうぞ)此(この)黒白(こくびやく)を分(わ)けて下(くだ)さいませ。087私(わたくし)は今(いま)、088大変(たいへん)の難題(なんだい)を蒙(かうむ)つて居(を)ります』
089と手(て)を合(あは)す。090黒姫(くろひめ)は声(こゑ)を尖(とが)らして、
091黒姫『鷹依姫(たかよりひめ)さま、092馬鹿(ばか)な真似(まね)をなさいますな。093そんな嘘(うそ)を喰(く)ふ黒姫(くろひめ)とは、094ヘン、095些(ちつ)と種(たね)が違(ちが)ひますぞや』
096鷹依姫『黒姫(くろひめ)さま、097そりや貴女(あなた)本気(ほんき)で仰有(おつしや)るのですか。098夢(ゆめ)にも思(おも)はぬ難題(なんだい)を私(わたくし)に持(も)ちかけ、099自分(じぶん)が監督(かんとく)不行届(ふゆきとどき)の罪(つみ)を塗(ぬ)りつけようと遊(あそ)ばすのか。100私(わたくし)もかう見(み)えても一度(いちど)は一教派(いちけうは)の教主(けうしゆ)をして来(き)たものだ。101滅多(めつた)な事(こと)を仰有(おつしや)ると了簡(りやうけん)なりませぬぞや』
102黒姫『了簡(りやうけん)ならぬとは、103そりや誰(たれ)に云(い)ふのだえ。104此方(こちら)からこそ了簡(りやうけん)ならぬ。105何(なん)と図太(づぶと)い胆玉(きもだま)だなア』
106鷹依姫『黒姫(くろひめ)様(さま)、107貴女(あなた)は何(なに)か私(わたし)に恨(うらみ)があつてそんな難題(なんだい)を吹(ふ)きかけるのでせう。108それならそれで宜敷(よろし)い、109私(わたし)にも考(かんが)へがある。110お前(まへ)さまの様(やう)に子(こ)のないものならそれで宜(よ)いが、111私(わたし)には天(てん)にも地(ち)にも一人(ひとり)の可愛(かあい)い伜(せがれ)がある。112そんな難題(なんだい)を吹(ふ)つかけられて何(ど)うして伜(せがれ)が世(よ)の中(なか)に立(た)つて行(い)けませう。113竜国別(たつくにわけ)の母親(ははおや)は聖地(せいち)に於(おい)て宝(たから)を盗(ぬす)んだと云(い)はれては、114伜(せがれ)どころか先祖(せんぞ)の名(な)迄(まで)汚(けが)すぢやありませぬか。115何(なに)を証拠(しようこ)にそんな無茶(むちや)な事(こと)を仰有(おつしや)るのだ。116私(わたし)は高姫(たかひめ)様(さま)のやうに、117呑(の)んだり吐(は)いたり、118そんな芸当(げいたう)はよう致(いた)しませぬ。119お前(まへ)さまは私(わたし)が腹(はら)にでも呑(の)んで居(を)るやうに思(おも)うて居(ゐ)るのでせう』
120黒姫『そりや貴女(あなた)の腹(はら)にありませう。121人(ひと)の腹(はら)は外(そと)からは分(わか)りませぬからなア』
122鷹依姫『そんなら私(わたし)は潔白(けつぱく)を示(しめ)すために腹(はら)を切(き)つてお目(め)にかける。123その代(かは)り、124もし呑(の)んで居(ゐ)なかつたら何(ど)うして下(くだ)さる』
125黒姫『玉(たま)を隠(かく)すのは腹(はら)ばつかりぢやありませぬ。126土(つち)の中(なか)でも、127倉(くら)の中(なか)でも、128川(かは)の中(なか)でも、129どつこへでも隠(かく)せるぢやありませぬか。130そんなあざとい事(こと)を云(い)うて、131黒姫(くろひめ)をちよろまかさうと思(おも)つても、132いつかな いつかな、133此(この)黒姫(くろひめ)は些(ちつ)と違(ちが)ひますから、134お前(まへ)さまの口車(くちぐるま)には乗(の)りませぬぞい。135オホヽヽヽ』
136と頤(あご)をしやくり、137肩(かた)を四角(しかく)にし、138舌端(ぜつたん)を唇(くちびる)の所(ところ)へ少(すこ)し出(だ)して、139目(め)までしばづかせて見(み)せた。140鷹依姫(たかよりひめ)は無念(むねん)さ、141口惜(くや)しさに声(こゑ)をあげて泣(な)き立(た)てる。
142黒姫『泣(な)いて事(こと)が済(す)むと思(おも)うて居(ゐ)なさるか、143なぜ堂々(だうだう)と仰有(おつしや)らぬのだ。144泣(な)いて威(おど)さうと思(おも)つたつて、145女郎(おやま)の涙(なみだ)も同然(どうぜん)、146そんな手(て)を喰(く)ふ私(わし)かいな』
147と又(また)頤(あご)をしやくつて馬鹿(ばか)にする。148鷹依姫(たかよりひめ)は腹立(はらだ)たしさに益々(ますます)泣(な)き入(い)る。149声(こゑ)を聞(き)きつけて今(いま)門口(かどぐち)に帰(かへ)つて来(き)たばかりの竜国別(たつくにわけ)は走(はし)り来(きた)り、
150竜国別『お母(かあ)さま、151何処(どこ)ぞ悪(わる)う御座(ござ)いますか、152何(ど)うなさいました。153ヤア黒姫(くろひめ)さま、154お早(はや)う御座(ござ)います。155母(はは)は何処(どこ)か悪(わる)いのですか』
156 黒姫(くろひめ)は憎々(にくにく)しげに、
157黒姫『よう、158お前(まへ)は竜国別(たつくにわけ)、159悪(わる)けりやこそ泣(な)くのぢやないか。160息(いき)が詰(つま)つて、161ものの答(こたへ)が出来(でき)なくなつたものだから泣(な)き入(い)るのだよ。162お前(まへ)の親(おや)で云(い)ふぢやないが、163ほんとに、164驚(おどろ)いた悪党(あくたう)だ』
165竜国別『黒姫(くろひめ)さま、166私(わたくし)の母(はは)が悪党(あくたう)だとは、167そりや又(また)何(ど)うした訳(わけ)で』
168 黒姫(くろひめ)はにつこと笑(わら)ひ、
169黒姫『同(おな)じ穴(あな)の狐(きつね)、170ようここまで信頼(しんらい)したものだナア。171お前(まへ)と云(い)ひ、172テーリスタンと云(い)ひ、173カーリンスと云(い)ひ、174これだけマア悪(あく)の四魂(しこん)が揃(そろ)へば、175どんな悪事(あくじ)でも出来(でき)ますワイ。176油断(ゆだん)も隙(すき)もあつたものぢや御座(ござ)いませぬワイなア。177オホヽヽヽヽ』
178と腰(こし)から上(うへ)を揺(ゆす)つて見(み)せる。
179 斯(か)かる処(ところ)へテーリスタン、180カーリンスの両人(りやうにん)はバラバラと入(い)り来(きた)る。181竜国別(たつくにわけ)はこれを見(み)て、
182竜国別『オイ、183テー、184カーの二人(ふたり)、185何(なん)だ其(その)顔(かほ)は、186貴様(きさま)、187喧嘩(けんくわ)でもしたのか』
188カーリンス『イヤもう大変(たいへん)な事(こと)です。189黒姫(くろひめ)の奴(やつ)、190玉(たま)を盗(と)られ、191せう事(こと)なしに池(いけ)へ身(み)を投(な)げ、192それを吾々(われわれ)が助(たす)けてやつたら、193あべこべに鷹依姫(たかよりひめ)さまと共謀(きようぼう)して黄金(わうごん)の玉(たま)を盗(ぬす)んだと云(い)ふのです。194黒姫(くろひめ)さまも大切(たいせつ)な玉(たま)の監督(かんとく)の役目(やくめ)を仕損(しそん)じたのだから、195何(なに)どころぢやありますまい。196お察(さつ)しはするが、197併(しか)し吾々(われわれ)二人(ふたり)を始(はじ)め、198鷹依姫(たかよりひめ)さままでを泥坊(どろばう)にするとは余(あんま)りぢやありませぬか。199私(わたし)も終(しまひ)にはテーリスタンを疑(うたが)ひ出(だ)し、200テーリスタンは私(わたし)を疑(うたが)ふと云(い)ふので、201暫(しばら)く大喧嘩(おほげんくわ)をやつてこんな態(ざま)になつたのです。202併(しか)し何(ど)うしても吾々(われわれ)二人(ふたり)を始(はじ)め、203鷹依姫(たかよりひめ)さまは潔白(けつぱく)です。204何(なん)とかして黒姫(くろひめ)さまの疑(うたがひ)を解(と)きたいものです』
205竜国別(たつくにわけ)『そりや大変(たいへん)だ。206何(なに)は兎(と)もあれ大切(たいせつ)な御(ご)神宝(しんぽう)、207こりや此(この)儘(まま)にしては置(お)かれぬ。208神(かみ)様(さま)に伺(うかが)つて来(く)るから、209それ迄(まで)待(ま)つて居(ゐ)て下(くだ)さい。210お母(かあ)さま、211御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。212貴女(あなた)の潔白(けつぱく)は私(わたくし)が承知(しようち)して居(ゐ)ます』
213黒姫(くろひめ)『何(なん)と云(い)つてもお前(まへ)達(たち)三(さん)人(にん)を共謀者(きようぼうしや)と認(みと)めます。214竜国別(たつくにわけ)はあんな事(こと)を云(い)つて尻(しり)こそばゆくなつて逃(に)げたのだらう。215オホヽヽヽ、216どれもこれも、217心(こころ)に覚(おぼ)えがあると見(み)えて、218あの詮(つま)らなささうな顔(かほ)ワイな。219思(おも)ひ内(うち)にあれば色(いろ)外(そと)に現(あら)はる、220神(かみ)様(さま)は正直(しやうぢき)だ。221余(あま)り可笑(をか)しさを通(とほ)り越(こ)して阿呆(あはう)らしいワイのう。222オホヽヽヽ』
223と身体(からだ)を揺(ゆす)り嘲弄(てうろう)する。224暫(しばら)くあつて竜国別(たつくにわけ)は宙(ちう)を飛(と)んで帰(かへ)つて来(き)た。
225黒姫(くろひめ)『竜国別(たつくにわけ)、226何(ど)うだつたかナ』
227竜国別『神(かみ)様(さま)に御(お)神籤(みくじ)を伺(うかが)ひましたら、228時節(じせつ)を待(ま)てと仰有(おつしや)いました』
229黒姫『あゝさうだらう、230神(かみ)様(さま)が何(なに)そんな事(こと)を仰有(おつしや)るものか。231お前(まへ)の心(こころ)に覚(おぼ)えのある事(こと)を…誰人(たれ)が阿呆(あはう)らしい。232神(かみ)様(さま)だつて返答(へんたふ)なさるものかい。233テツキリお前(まへ)達(たち)が私(わし)を失策(しくじ)らさうと思(おも)つて隠(かく)したのか、234但(ただ)しは蜈蚣姫(むかでひめ)と気脈(きみやく)を通(つう)じて御(ご)神宝(しんぱう)を盗(ぬす)み出(だ)す考(かんが)へだらう。235そんなあざとい事(こと)をしたつて、236その悪(あく)が何処迄(どこまで)やり貫(ぬ)けるものぢやありませぬワイ。237併(しか)し乍(なが)ら何(ど)うでも此(この)玉(たま)の在処(ありか)が知(し)れぬと云(い)へば、238私(わし)は死(し)なねばならぬ。239私(わし)許(ばか)りぢやあるまい、240鷹依姫(たかよりひめ)さま、241竜国別(たつくにわけ)さま、242お前(まへ)も腹(はら)でも切(き)つて言(い)ひ訳(わけ)をなさらにやなるまい。243さあ私(わし)から自害(じがい)をするから、244お前(まへ)達(たち)も冥途(めいど)の伴(とも)をなさいませ』
245と懐剣(くわいけん)を引(ひ)き抜(ぬ)き吾(わが)喉(のど)に当(あ)てむとする時(とき)しも、246テーリスタン、247カーリンスの二人(ふたり)は肩(かた)を揺(ゆす)り、
248テーリスタン、カーリンス『オイ黒姫(くろひめ)、249態(ざま)見(み)やがれ、250其(その)実(じつ)は鷹依姫(たかよりひめ)さま、251竜国別(たつくにわけ)さまも知(し)つた事(こと)ぢやないワ。252このテーリスタン、253カーリンスの御(ご)両人(りやうにん)様(さま)が盗(ぬす)み出(だ)して、254とうの昔(むかし)に蜈蚣姫(むかでひめ)の手(て)に秘蔵(ひざう)されてあるのだよ。255欲(ほ)しけりや蜈蚣姫(むかでひめ)に頼(たの)んで返(かへ)して貰(もら)へ。256アハヽヽヽ、257小気味(こぎみ)のよい事(こと)だ』
258と大声(おほごゑ)に罵(ののし)り出(だ)した。259黒姫(くろひめ)はかつとなり、
260黒姫『こりやテー、261カーの両人(りやうにん)、262この黒姫(くろひめ)の目(め)は間違(まちが)ひなからう、263大(だい)それた奴(やつ)だ。264さあ早(はや)く其(その)玉(たま)を蜈蚣姫(むかでひめ)の手(て)から取(と)り還(かへ)して来(こ)い。265神罰(しんばつ)が恐(おそ)ろしいぞや』
266テ、267カ『神罰(しんばつ)が恐(おそ)ろしいやうな事(こと)で、268誰(たれ)がそんな玉盗人(たまぬすびと)をするものか。269馬鹿(ばか)々々(ばか)』
270と連発(れんぱつ)する。271黒姫(くろひめ)、272竜国別(たつくにわけ)、273鷹依姫(たかよりひめ)の三(さん)人(にん)は一斉(いつせい)に立(た)ち上(あが)り、
274三人(黒姫、竜国別、鷹依姫)『極悪(ごくあく)無道(ぶだう)の蜈蚣姫(むかでひめ)に款(くわん)を通(つう)ずる両人(りやうにん)、275もはや了簡(りやうけん)ならぬぞ』
276と茲(ここ)に五(ご)人(にん)は入(い)り乱(みだ)れて大喧嘩(おほげんくわ)をおつ始(はじ)めた。
277 言依別(ことよりわけの)命(みこと)は錦(にしき)の宮(みや)の拝礼(はいれい)を終(をは)り、278静々(しづしづ)と此(この)前(まへ)を通(とほ)り、279騒々(さうざう)しき物音(ものおと)に何事(なにごと)ならむと奥(おく)へ入(い)り来(きた)り見(み)れば、280此(こ)の騒(さわ)ぎ。
281言依別(ことよりわけの)命(みこと)『これこれ皆(みな)さま、282宣伝使(せんでんし)や信者(しんじや)の身(み)を以(もつ)て何(なに)喧嘩(けんくわ)をなさるのか』
283黒姫(くろひめ)『言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)、284此奴(こいつ)両人(りやうにん)、285私(わたくし)が保管(ほくわん)して居(ゐ)る玉(たま)を盗(ぬす)んだのはテー、286カーだ。287蜈蚣姫(むかでひめ)に渡(わた)してやつたのだ。288馬鹿者(ばかもの)よと云(い)うて、289私(わたくし)等(ら)を嘲弄(てうろう)する不届(ふとど)きな奴(やつ)で御座(ござ)います』
290言依別(ことよりわけの)命(みこと)『テーリスタン、291カーリンス、292お前(まへ)は実(じつ)に感心(かんしん)な奴(やつ)だ。293さうなくてはならぬ、294三五教(あななひけう)の信者(しんじや)の亀鑑(きかん)だ。295誠(まこと)の玉(たま)を能(よ)くも手(て)に入(い)れたなア』
296 テー、297カーの二人(ふたり)は嬉(うれ)し涙(なみだ)に暮(く)れて、
298テーリスタン、カーリンス『ハイハイ』
299と云(い)つたきり畳(たたみ)に食(く)ひついて泣(な)いて居(ゐ)る。
300黒姫(くろひめ)『モシモシ言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)、301お前様(まへさま)は何(なん)と云(い)ふ事(こと)を仰有(おつしや)る。302こんなドラ盗人(ぬすびと)を褒(ほ)めると云(い)ふ事(こと)がありますか。303何(ど)うかして居(ゐ)ますなア』
304言依別(ことよりわけの)命(みこと)『アヽ、305黒姫(くろひめ)、306鷹依姫(たかよりひめ)、307竜国別(たつくにわけ)、308テーリスタン、309カーリンス殿(どの)、310何事(なにごと)も神(かみ)様(さま)の御(お)計(はか)らひだ。311御(ご)心配(しんぱい)なさいますな、312神(かみ)様(さま)に深(ふか)き思召(おぼしめし)のある事(こと)でせう。313只今(ただいま)限(かぎ)り玉(たま)の事(こと)は云(い)はないがよい。314互(たがひ)に迷惑(めいわく)ですから、315何事(なにごと)も私(わたくし)に任(まか)して置(お)いて下(くだ)さい』
316黒姫(くろひめ)『玉(たま)がなくてもかまひませぬのか』
317言依別(ことよりわけの)命(みこと)『責任(せきにん)は私(わたくし)が負(お)ひます。318皆(みな)さま、319これきり忘(わす)れて下(くだ)さい』
320と懐(ふところ)より幣(ぬさ)を取(と)り出(だ)し、
321言依別命『祓(はら)ひ給(たま)へ清(きよ)め給(たま)へ』
322と云(い)ひながら左右左(さいうさ)に打(う)ち振(ふ)り、
323言依別命『さあ皆(みな)さま、324これですつかり解決(かいけつ)がつきましたよ』
325 黒姫(くろひめ)は坐(すわ)つたまま左(ひだり)の腕(うで)を突(つ)つ張(ぱ)り、326体(からだ)を斜(ななめ)にして言依別(ことよりわけの)命(みこと)の顔(かほ)を穴(あな)のあくほど凝視(みつ)め、327鼈(すつぽん)に尻(しり)を抜(ぬ)かれたやうなスタイルで、
328黒姫『ヘー』
329と長返事(ながへんじ)しながら落着(おちつ)かぬ面色(おももち)である。
330言依別(ことよりわけの)命(みこと)『サア皆(みな)さま、331お宮(みや)へ参拝(さんぱい)しませう』
332と先(さき)に立(た)つ。333一同(いちどう)は漸(やうや)く胸(むね)を撫(な)で下(おろ)し、334錦(にしき)の宮(みや)に参拝(さんぱい)せむと竜国別(たつくにわけ)の家(いへ)を立(た)ち出(い)でた。
335 初春(はつはる)の太陽(たいやう)は六(ろく)人(にん)の頭(あたま)を煌々(くわうくわう)と眩(まばゆ)きまでに照(てら)し給(たま)うた。
336黄金(わうごん)の玉(たま)も如意(によい)宝珠(ほつしゆ)
337紫玉(むらさきだま)も又(また)宝珠(ほつしゆ)
338金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の神玉(しんぎよく)も
339如意(によい)の宝珠(ほつしゆ)と称(とな)ふなり
340中(なか)にも別(わ)けて高姫(たかひめ)が
341腹(はら)に呑(の)み居(ゐ)し神玉(しんぎよく)は
342神宝(たから)の中(なか)の神宝(たから)なり
343言依別(ことよりわけの)命(みこと)より
344委託(ゐたく)されたる黄金(わうごん)の
345玉(たま)の在処(ありか)を失(うしな)ひし
346黒姫(くろひめ)心(こころ)も落着(おちつ)かず
347テーリスタンやカーリンス
348鷹依姫(たかよりひめ)まで疑(うたが)ひて
349色々(いろいろ)雑多(ざつた)と気(き)を焦(いら)ち
350ヤツサモツサの最中(さいちう)へ
351言依別(ことよりわけ)が現(あら)はれて
352一先(ひとま)づその場(ば)は事(こと)もなく
353治(をさ)まりつれど治(をさ)まらぬ
354心(こころ)の空(そら)の雲霧(くもきり)を
355払(はら)ふ術(すべ)なき折柄(をりから)に
356十字(じふじ)街頭(がいとう)に高姫(たかひめ)が
357錦(にしき)の宮(みや)に参詣(さんけい)の
358折(をり)も折(をり)とて出会(しゆつくわい)し
359黒姫(くろひめ)始(はじ)め外(ほか)四(よ)人(にん)
360高姫宅(たかひめたく)に招(せう)ぜられ
361尊(たふと)き神(かみ)の御宝(みたから)を
362紛失(ふんしつ)したる責任(せきにん)を
363問(と)ひ詰(つ)められて黒姫(くろひめ)は
364いよいよ爰(ここ)に決心(けつしん)の
365臍(ほぞ)を固(かた)めて聖域(せいゐき)を
366あとに眺(なが)めつ黄金(わうごん)の
367玉(たま)の在処(ありか)を探(さぐ)らむと
368鷹依姫(たかよりひめ)や竜国別(たつくにわけ)
369テーリスタンやカーリンス
370五(ご)人(にん)は各自(かくじ)に天(あめ)の下(した)
371四方(よも)の国々(くにぐに)隈(くま)もなく
372探(たづ)ね行(ゆ)くこそ神界(しんかい)の
373深(ふか)き経綸(しぐみ)と白雲(しらくも)の
374余所(よそ)に求(もと)むるあはれさよ
375さはさりながら此(この)度(たび)の
376玉(たま)の在処(ありか)は言依別(ことよりわけ)の
377神(かみ)の命(みこと)の胸(むね)の内(うち)
378神(かみ)の命令(みこと)を畏(かしこ)みて
379心(こころ)に深(ふか)く秘(ひ)めおきし
380此(この)神策(しんさく)は神(かみ)ならぬ
381人(ひと)の身(み)として知(し)るよしも
382泣々(なくなく)出(で)て行(ゆ)くあさましさ
383これより五(ご)人(にん)は神界(しんかい)の
384仕組(しぐみ)の糸(いと)に操(あやつ)られ
385悪魔(あくま)退治(たいぢ)の神業(かむわざ)に
386知(し)らず識(し)らずに奉仕(ほうし)する
387奇(くし)き神代(かみよ)の物語(ものがたり)
388口述(こうじゆつ)進(すす)むに従(したが)ひて
389次第(しだい)々々(しだい)に面白(おもしろ)く
390深(ふか)き神慮(しんりよ)を覚(さと)り得(え)む
391あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
392御霊(みたま)幸(さち)はへましませよ。
393(大正一一・五・二四 旧四・二八 加藤明子録)
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