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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第22巻(酉の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 暗雲低迷
第1章 玉騒疑
第2章 探り合ひ
第3章 不知火
第4章 玉探志
第2篇 心猿意馬
第5章 壇の浦
第6章 見舞客
第7章 囈語
第8章 鬼の解脱
第3篇 黄金化神
第9章 清泉
第10章 美と醜
第11章 黄金像
第12章 銀公着瀑
第4篇 改心の幕
第13章 寂光土
第14章 初稚姫
第15章 情の鞭
第16章 千万無量
第5篇 神界経綸
第17章 生田の森
第18章 布引の滝
第19章 山と海
第20章 三の魂
余白歌
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霊界物語
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第22巻(酉の巻)
> 第5篇 神界経綸 > 第19章 山と海
<<< 布引の滝
(B)
(N)
三の魂 >>>
第一九章
山
(
やま
)
と
海
(
うみ
)
〔七一一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻
篇:
第5篇 神界経綸
よみ(新仮名遣い):
しんかいけいりん
章:
第19章 山と海
よみ(新仮名遣い):
やまとうみ
通し章番号:
711
口述日:
1922(大正11)年05月28日(旧05月02日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年7月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
佐田彦は玉を入れた箱をかつぎ、玉能姫はバラモン教徒の目をくらますために、気違いの真似をして駆けて行った。
バラモン教徒たちは途中で玉を奪おうと待ち構えていたが、玉能姫の演技に気づかずに見過ごしてしまった。一行は高砂の浜辺で漁師から舟を買うと、神島さして漕ぎ出した。
浜辺にいたときは暴風により海が荒れていたが、一行が漕ぎ出すと不思議にも暴風は止んでしまい、みるみる島に着いた。初稚姫と玉能姫が神島の山頂に着くと、五人の童子と三人の童女が現れて、黄金の鍬で固い岩石を掘ってしまった。
初稚姫は、童子・童女たちに向かって厳の大神様・瑞の大神様と呼びかけ、言依別命の命によって神玉を無事に持って来たことを伝えた。
童子と童女は玉箱を受け取ると、掘った穴の中に消えてしまった。二人が穴をのぞくと、二つの玉箱が微妙の音声と鮮光を放っていた。二人は童子・童女が残した黄金の鍬で穴を埋め、あたりの小松をその上に植えて祝詞を奏上し、山を下った。
佐田彦と波留彦は帰ってきた二人に、せめて埋めた後を拝ませて欲しいと願い出た。初稚姫と玉能姫は黙って首を横に振るだけだった。すると雷のような声が、すぐに立ち去れ、と佐田彦・波留彦を戒めた。
一行は神島を後にして去っていった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-06-16 18:46:40
OBC :
rm2219
愛善世界社版:
263頁
八幡書店版:
第4輯 477頁
修補版:
校定版:
271頁
普及版:
121頁
初版:
ページ備考:
001
佐田彦
(
さだひこ
)
は
腰帯
(
こしおび
)
を
解
(
と
)
き、
002
幾重
(
いくへ
)
にも
包
(
つつ
)
みたる
玉函
(
たまばこ
)
をクルクルと
両端
(
りやうはし
)
に
包
(
つつ
)
み、
003
肩
(
かた
)
に
ふわり
と
引掛
(
ひつか
)
け
得
(
う
)
るやうに
荷造
(
にづく
)
りした。
004
波留彦
(
はるひこ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
005
波留彦
『コリヤ
佐田彦
(
さだひこ
)
、
006
大切
(
たいせつ
)
な
御
(
ご
)
神宝
(
しんぱう
)
を、
007
何
(
なん
)
だ、
008
貴様
(
きさま
)
の
肌
(
はだ
)
につけた
穢苦
(
むさくるし
)
き
三尺帯
(
さんしやくおび
)
に
包
(
つつ
)
むと
云
(
い
)
ふことがあるか、
009
玉
(
たま
)
の
威徳
(
ゐとく
)
を
涜
(
けが
)
すと
云
(
い
)
ふことを
心得
(
こころえ
)
ぬか。
010
さうして
其
(
そ
)
の
態
(
ざま
)
は
何
(
なん
)
だ。
011
帯除
(
おびと
)
け
裸体
(
はだか
)
になつて、
012
みつともないぞ』
013
佐田彦
(
さだひこ
)
『お
前
(
まへ
)
の
帯
(
おび
)
を
縦
(
たて
)
に
引裂
(
ひつさ
)
いて、
014
半分
(
はんぶん
)
呉
(
く
)
れなければ
仕方
(
しかた
)
がない。
015
藤蔓
(
ふぢづる
)
でも
ちぎ
つて
帯
(
おび
)
にしよう』
016
波留彦
『エー、
017
そんなことして
道中
(
だうちう
)
が
出来
(
でき
)
るか、
018
みつともない。
019
自分
(
じぶん
)
の
帯
(
おび
)
は
自分
(
じぶん
)
がして
行
(
ゆ
)
け。
020
神玉
(
しんぎよく
)
の
御
(
ご
)
威徳
(
ゐとく
)
を
涜
(
けが
)
すぞよ』
021
佐田彦
『イヤ
波留彦
(
はるひこ
)
、
022
さうでないよ。
023
此
(
この
)
山
(
やま
)
続
(
つづ
)
きは
随分
(
ずゐぶん
)
バラモンの
連中
(
れんちう
)
が
徘徊
(
はいくわい
)
してゐるから、
024
貴重品
(
きちようひん
)
と
見
(
み
)
せかけて
狙
(
ねら
)
はれてはならぬ。
025
幾重
(
いくへ
)
にも
包
(
つつ
)
んだ
宝玉
(
ほうぎよく
)
、
026
滅多
(
めつた
)
に
穢
(
けが
)
れる
気遣
(
きづか
)
ひはない。
027
斯
(
か
)
うして
往
(
ゆ
)
かねば
剣呑
(
けんのん
)
だから』
028
波留彦
『
如何
(
いか
)
に
剣呑
(
けんのん
)
だと
云
(
い
)
つて、
029
そりや
余
(
あま
)
りぢやないか』
030
佐田彦
『
万劫
(
まんがふ
)
末代
(
まつだい
)
に
一度
(
いちど
)
の
大切
(
たいせつ
)
な
御用
(
ごよう
)
だ。
031
二度目
(
にどめ
)
の
岩戸
(
いはと
)
開
(
びら
)
きの
瑞祥
(
ずゐしやう
)
を
祝
(
しゆく
)
するため、
032
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
が
此
(
この
)
再度山
(
ふたたびやま
)
の
山頂
(
さんちやう
)
で、
033
二度
(
にど
)
とない
結構
(
けつこう
)
な
御用
(
ごよう
)
を
仰
(
あふ
)
せつけられたのだ。
034
失策
(
しくじ
)
つては
大変
(
たいへん
)
だから、
035
斯
(
か
)
うして
往
(
ゆ
)
くが
安全
(
あんぜん
)
だよ』
036
波留彦
(
はるひこ
)
は、
037
波留彦
『なんだか
勿体
(
もつたい
)
ないやうな
心持
(
こころもち
)
がするのだ。
038
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
肝腎
(
かんじん
)
の
宝
(
たから
)
を
敵
(
てき
)
に
奪
(
と
)
られては
一大事
(
いちだいじ
)
だから、
039
そんならお
前
(
まへ
)
の
言
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
りにして
行
(
ゆ
)
かう。
040
サア、
041
俺
(
おれ
)
の
帯
(
おび
)
を
半分
(
はんぶん
)
やらう』
042
と
縦
(
たて
)
に
真中
(
まんなか
)
からバリバリと
引裂
(
ひきさ
)
いて
佐田彦
(
さだひこ
)
に
渡
(
わた
)
した。
043
佐田彦
(
さだひこ
)
は、
044
佐田彦
『イヤ、
045
有難
(
ありがた
)
う。
046
これで
確
(
しつ
)
かり
腹帯
(
はらおび
)
が
締
(
しま
)
つて
来
(
き
)
た。
047
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま、
048
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さま、
049
貴女
(
あなた
)
等
(
がた
)
はそんな
綺麗
(
きれい
)
な
服装
(
ふくさう
)
で
御
(
お
)
出
(
いで
)
になつては、
050
悪漢
(
わるもの
)
に
後
(
あと
)
をつけられては
詮
(
つま
)
りませぬよ、
051
何
(
なん
)
とか
工夫
(
くふう
)
をなさいませ』
052
玉能姫
(
たまのひめ
)
『ハイ、
053
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
は
着物
(
きもの
)
を
裏向
(
うらむ
)
けに
着
(
き
)
て、
054
気違
(
きちが
)
ひの
真似
(
まね
)
をして
参
(
まゐ
)
りませう』
055
佐田彦
(
さだひこ
)
『ヤー、
056
それは
妙案
(
めうあん
)
だ。
057
流石
(
さすが
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
様
(
さま
)
だ。
058
サアサア、
059
佐田彦
(
さだひこ
)
が
着替
(
きか
)
へさして
上
(
あ
)
げませう』
060
と
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
らむとするを
玉能姫
(
たまのひめ
)
、
061
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
掉
(
ふ
)
り、
062
玉能姫
(
たまのひめ
)
『イエイエ、
063
滅相
(
めつさう
)
な、
064
妾
(
わたし
)
も
玉能姫
(
たまのひめ
)
、
065
自分
(
じぶん
)
のことは
自分
(
じぶん
)
で
処置
(
しよち
)
をつけねばなりませぬ』
066
と
云
(
い
)
ひつつ、
067
クルクルと
帯
(
おび
)
を
解
(
と
)
き、
068
裏向
(
うらむ
)
けに
着物
(
きもの
)
を
着替
(
きか
)
へて
了
(
しま
)
つた。
069
初稚姫
(
はつわかひめ
)
も
亦
(
また
)
着物
(
きもの
)
を
脱
(
ぬ
)
がうとするを、
070
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
少
(
すこ
)
し
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け、
071
玉能姫
『
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
072
気違
(
きちが
)
ひが
二人
(
ふたり
)
もあつては
却
(
かへ
)
つて
疑
(
うたが
)
はれるかも
知
(
し
)
れませぬから、
073
貴方
(
あなた
)
は
気違
(
きちが
)
ひの
娘
(
むすめ
)
になつて
下
(
くだ
)
さい』
074
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『そんなら
気違
(
きちが
)
ひのお
母
(
かあ
)
さま。
075
サア、
076
何処
(
どこ
)
なつと
参
(
まゐ
)
りませう』
077
玉能姫
(
たまのひめ
)
『オイ
佐田公
(
さだこう
)
、
078
波留公
(
はるこう
)
、
079
貴様
(
きさま
)
は
何処
(
どこ
)
の
奴
(
やつ
)
だ。
080
余程
(
よつぽど
)
好
(
い
)
いヒヨツトコ
野郎
(
やらう
)
だな』
081
佐田彦
(
さだひこ
)
『これはしたり、
082
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま、
083
姫御前
(
ひめごぜ
)
のあられもない、
084
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
荒
(
あら
)
いことを
仰有
(
おつしや
)
りますか』
085
玉能姫
『
知
(
し
)
らぬ
知
(
し
)
らぬ、
086
アーア、
087
斯
(
こ
)
んなヒヨツトコ
野郎
(
やらう
)
の
莫迦者
(
ばかもの
)
と
道伴
(
みちづ
)
れになるかと
思
(
おも
)
へば
残念
(
ざんねん
)
だ。
088
気
(
き
)
が
狂
(
くる
)
ひさうだ』
089
波留彦
『
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま、
090
今
(
いま
)
から
気違
(
きちが
)
ひになつて
貰
(
もら
)
つては
波留彦
(
はるひこ
)
も
堪
(
たま
)
りませぬで』
091
玉能姫
『
伊勢
(
いせ
)
は
津
(
つ
)
で
持
(
も
)
つ、
092
津
(
つ
)
は
伊勢
(
いせ
)
で
持
(
も
)
つ。
093
大根
(
だいこん
)
役者
(
やくしや
)
が
玉
(
たま
)
を
持
(
も
)
つ、
094
コリヤコリヤコリヤ』
095
佐田彦
(
さだひこ
)
『
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま、
096
洒落
(
しやれ
)
も
可
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
になさいませな。
097
これから
未
(
ま
)
だ
沢山
(
たくさん
)
な
道程
(
みちのり
)
、
098
今
(
いま
)
から
気違
(
きちが
)
ひの
真似
(
まね
)
して
居
(
を
)
つては
怺
(
たま
)
りませぬで』
099
玉能姫
『なに、
100
妾
(
わらは
)
を
気違
(
きちが
)
ひとな。
101
エー
残念
(
ざんねん
)
だ。
102
バラモン
教
(
けう
)
に
於
(
おい
)
て
其
(
そ
)
の
人
(
ひと
)
ありと
聞
(
きこ
)
えたる
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
妻
(
つま
)
、
103
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
とはわが
事
(
こと
)
なるぞ。
104
汝
(
なんぢ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
腰抜
(
こしぬけ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
、
105
この
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
が
尻
(
しり
)
でも
喰
(
くら
)
へ。
106
残念
(
ざんねん
)
なか、
107
口惜
(
くや
)
しいか。
108
あの
詮
(
つま
)
らぬさうな
顔付
(
かほつき
)
ワイの。
109
オホヽヽヽ』
110
と
臍
(
へそ
)
を
抱
(
かか
)
へて
笑
(
わら
)
ひ
倒
(
こ
)
ける。
111
佐田彦
(
さだひこ
)
『アー、
112
仕方
(
しかた
)
がないなア、
113
あんまり
嬉
(
うれ
)
しうて
玉能姫
(
たまのひめ
)
さまは
本当
(
ほんたう
)
に
逆上
(
のぼ
)
せて
了
(
しま
)
つたのだらうかなア、
114
波留公
(
はるこう
)
』
115
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
定
(
さだ
)
めて
逆上
(
のぼ
)
せたのであらう。
116
逆上
(
のぼ
)
せ
切
(
き
)
つた
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
再来
(
さいらい
)
が、
117
お
前
(
まへ
)
の
頭
(
あたま
)
をポカンと
波留彦
(
はるひこ
)
だ』
118
と
言
(
い
)
ひながら
波留彦
(
はるひこ
)
の
横面
(
よこづら
)
をピシヤピシヤと
撲
(
なぐ
)
り、
119
玉能姫
『アハヽヽヽ』
120
と
腹
(
はら
)
を
抱
(
かか
)
へて
笑
(
わら
)
ひ
倒
(
こ
)
ける。
121
波留彦
(
はるひこ
)
『なんぼ
女
(
をんな
)
にはられて
気分
(
きぶん
)
が
好
(
よ
)
いと
言
(
い
)
つても、
122
キ
印
(
じるし
)
に
撲
(
なぐ
)
られて
怺
(
たま
)
るものか。
123
さア
行
(
ゆ
)
きませう、
124
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま、
125
確
(
しつ
)
かりなさいませ』
126
玉能姫
(
たまのひめ
)
『ホヽヽ、
127
私
(
わし
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
ぢやないよ、
128
狸姫
(
たぬきひめ
)
だよ』
129
波留彦
(
はるひこ
)
『エー、
130
怪体
(
けたい
)
の
悪
(
わる
)
い、
131
肝腎
(
かんじん
)
の
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
の
最中
(
さいちう
)
に
やくたい
だなア。
132
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さま、
133
ちつと
確
(
しつ
)
かり
言
(
い
)
つて
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さいな。
134
コリヤ
本当
(
ほんたう
)
に
逆上
(
のぼ
)
せて
居
(
ゐ
)
ますで』
135
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『お
母
(
かあ
)
さま、
136
往
(
ゆ
)
きませう』
137
とすがり
付
(
つ
)
く
其
(
そ
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り
放
(
はな
)
し、
138
玉能姫
『エー、
139
お
前
(
まへ
)
迄
(
まで
)
が
私
(
わし
)
を
気違
(
きちが
)
ひと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
るのかい。
140
アヽ
穢
(
けが
)
らはしい。
141
斯
(
こ
)
んな
所
(
ところ
)
には
一時
(
いつとき
)
も
居
(
を
)
れない』
142
と
二
(
ふた
)
つの
玉
(
たま
)
を
包
(
つつ
)
んだ
帯
(
おび
)
を
肩
(
かた
)
に
引
(
ひ
)
つかけ、
143
山伝
(
やまづた
)
ひに
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
144
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
負
(
ま
)
けず
劣
(
おと
)
らず、
145
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
後
(
あと
)
に
随
(
したが
)
ひ
矢
(
や
)
の
如
(
ごと
)
く
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
146
佐田彦
(
さだひこ
)
、
147
波留彦
(
はるひこ
)
は
遁
(
に
)
げられては
大変
(
たいへん
)
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ふ。
148
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
玉能姫
(
たまのひめ
)
、
149
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
えなくなつた。
150
佐田彦
(
さだひこ
)
『オイ、
151
波留彦
(
はるひこ
)
、
152
大変
(
たいへん
)
なことが
起
(
おこ
)
つたものぢやないか』
153
波留彦
『
貴様
(
きさま
)
が
確
(
しつか
)
り
握
(
にぎ
)
つて
居
(
を
)
らぬから、
154
到頭
(
たうとう
)
狸
(
たぬき
)
が
憑
(
うつ
)
りやがつて
持
(
も
)
つて
去
(
い
)
んで
了
(
しま
)
つたのだい。
155
アヽもう
仕方
(
しかた
)
がない、
156
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
がない。
157
此
(
この
)
絶壁
(
ぜつぺき
)
から
言
(
い
)
ひ
訳
(
わけ
)
のために
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
死
(
し
)
んで
了
(
しま
)
はうかい』
158
佐田彦
『さうだと
言
(
い
)
つて、
159
そんな
事
(
こと
)
をすれば
益々
(
ますます
)
神界
(
しんかい
)
の
罪
(
つみ
)
だよ』
160
と
心配
(
しんぱい
)
さうに
悔
(
くや
)
んでゐる。
161
向
(
むか
)
ふの
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みから、
162
玉能姫
『オーイ、
163
波留彦
(
はるひこ
)
さま、
164
佐田彦
(
さだひこ
)
さま、
165
此処
(
ここ
)
だよ
此処
(
ここ
)
だよ』
166
と
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
呼
(
よ
)
んでゐる。
167
波留彦
(
はるひこ
)
『ヤア、
168
在処
(
ありか
)
が
分
(
わか
)
つた。
169
気違
(
きちが
)
ひ
奴
(
め
)
、
170
あの
禿
(
は
)
げた
山
(
やま
)
の
横
(
よこ
)
の
小松
(
こまつ
)
の
下
(
した
)
に
顔
(
かほ
)
だけ
出
(
だ
)
してゐよる、
171
表
(
おもて
)
から
行
(
ゆ
)
くと
又
(
また
)
逃
(
に
)
げられては
大変
(
たいへん
)
だ。
172
廻
(
まは
)
り
道
(
みち
)
をしてそつと
捉
(
つか
)
まへようかい』
173
と
二人
(
ふたり
)
は
山路
(
やまみち
)
を
外
(
はづ
)
し、
174
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みの
中
(
なか
)
を
蜘蛛
(
くも
)
の
巣
(
す
)
に
引
(
ひ
)
つかかりながら、
175
漸
(
やうや
)
く
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
間近
(
まぢか
)
に
寄
(
よ
)
つた。
176
玉能姫
(
たまのひめ
)
『あの
二人
(
ふたり
)
の
御
(
お
)
方
(
かた
)
、
177
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さんした。
178
たま
たま
御用
(
ごよう
)
を
仰
(
あふ
)
せつけられながら、
179
玉能姫
(
たまのひめ
)
に
玉
(
たま
)
を
奪
(
と
)
られて
玉
(
たま
)
らぬだらう。
180
さアさア
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さま、
181
あんなヒヨツトコ
野郎
(
やらう
)
に
構
(
かま
)
はず
行
(
ゆ
)
きませうよ。
182
ホヽヽヽ』
183
と
嘲笑
(
あざわら
)
ひと
共
(
とも
)
に
掻
(
か
)
き
消
(
け
)
す
如
(
ごと
)
く、
184
又
(
また
)
もや
一目散
(
いちもくさん
)
に
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みを
脱
(
ぬ
)
けて、
185
何処
(
どこ
)
へか
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
186
二人
(
ふたり
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
追
(
お
)
ひかける。
187
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
計
(
はか
)
らひで
処々
(
ところどころ
)
に
小柴
(
こしば
)
が
折
(
を
)
つて
標
(
しるし
)
がしてある。
188
佐田彦
(
さだひこ
)
『ヤア、
189
流石
(
さすが
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さまだ。
190
子供
(
こども
)
に
似合
(
にあ
)
はぬ
好
(
い
)
い
智慧
(
ちゑ
)
が
出
(
で
)
たものだ。
191
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
に
之
(
これ
)
を
合図
(
あひづ
)
に
来
(
こ
)
いと
云
(
い
)
つて、
192
小柴
(
こしば
)
を
所々
(
ところどころ
)
折
(
を
)
つて
標
(
しるし
)
をつけて
於
(
おい
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
193
オイ、
194
之
(
これ
)
を
探
(
たづ
)
ねて
走
(
はし
)
らうぢやないか、
195
のう
波留彦
(
はるひこ
)
』
196
波留彦
『オーさうだ』
197
と
二人
(
ふたり
)
は
捩鉢巻
(
ねぢはちまき
)
しながら、
198
小柴
(
こしば
)
の
折
(
を
)
れを
目標
(
めあて
)
に
追
(
お
)
ひかけて
行
(
ゆ
)
く。
199
鷹鳥
(
たかとり
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
山麓
(
さんろく
)
の
松林
(
まつばやし
)
に
七八
(
しちはち
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
200
胡床
(
あぐら
)
を
掻
(
か
)
き
車座
(
くるまざ
)
になつて、
201
ひそびそ
話
(
ばなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる。
202
甲
(
かふ
)
『オイ、
203
大変
(
たいへん
)
に
強
(
つよ
)
い
女
(
をんな
)
もあればあるものぢやないか。
204
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
兄分
(
あにぶん
)
のスマートボールやカナンボールを
苦
(
く
)
もなく
滝壺
(
たきつぼ
)
へ
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
み、
205
剰
(
あま
)
つさへ
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
谷底
(
たにそこ
)
へ
投
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
みやがつて、
206
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
痛
(
いた
)
い
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はせ、
207
終局
(
しまひ
)
の
果
(
はて
)
には
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
様
(
さま
)
まで、
208
あんな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はせよつた。
209
彼奴
(
あいつ
)
は
何
(
なん
)
でも
偉
(
えら
)
い
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
再来
(
さいらい
)
かも
知
(
し
)
れないよ』
210
乙
(
おつ
)
『なアに、
211
彼奴
(
あいつ
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
と
云
(
い
)
つて
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
の
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
の
婢
(
はした
)
奴
(
め
)
となり、
212
清泉
(
きよいづみ
)
の
水汲
(
みづくみ
)
をやつて
居
(
を
)
つた
奴
(
やつ
)
だ。
213
あの
時
(
とき
)
は
此方
(
こちら
)
は
女
(
をんな
)
や
子供
(
こども
)
と
思
(
おも
)
つて
油断
(
ゆだん
)
をして
居
(
ゐ
)
たから、
214
あんな
不覚
(
ふかく
)
を
取
(
と
)
つたのだ。
215
何
(
いづ
)
れ
此辺
(
ここら
)
へ
迂路
(
うろ
)
ついて
来
(
く
)
るかも
知
(
し
)
れない。
216
なんでも
彼奴
(
あいつ
)
を
捉
(
つか
)
まへて
三五教
(
あななひけう
)
の
宝
(
たから
)
の
在処
(
ありか
)
を
白状
(
はくじやう
)
させ、
217
バラモン
教
(
けう
)
へ
占領
(
せんりやう
)
せねば、
218
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
に
於
(
おい
)
ては
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
教派
(
けうは
)
は
拡
(
ひろ
)
まらない、
219
なんとかして、
220
まア
一度
(
いちど
)
彼奴
(
あいつ
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を
探
(
たづ
)
ね、
221
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
したいものだ』
222
丙
(
へい
)
『そんな
危
(
あぶ
)
ないことは
止
(
よ
)
しにせエ。
223
生命
(
いのち
)
あつての
物種
(
ものだね
)
だ。
224
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
さまでさへも
彼奴
(
あいつ
)
の
乾児
(
こぶん
)
がやつて
来
(
き
)
て、
225
谷底
(
たにそこ
)
へ
放
(
ほ
)
り
投
(
な
)
げたやうな
強力
(
がうりき
)
が
随
(
つ
)
いてゐるから、
226
うつかり
手出
(
てだ
)
しは
出来
(
でき
)
ないよ』
227
甲
(
かふ
)
『ちよろ
臭
(
くさ
)
いことを
云
(
い
)
ふな。
228
計略
(
けいりやく
)
を
以
(
もつ
)
て
旨
(
うま
)
く
引張
(
ひつぱ
)
り
込
(
こ
)
めば
何
(
なん
)
でもない。
229
俺
(
おれ
)
が
一
(
ひと
)
つ
智慧
(
ちゑ
)
を
貸
(
か
)
してやらう』
230
丙
(
へい
)
『どうすると
云
(
い
)
ふのだい』
231
甲
(
かふ
)
『
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
が
俺
(
おれ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
女
(
をんな
)
に
化
(
ば
)
けて
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
に
乗
(
の
)
り
込
(
こ
)
み、
232
三五教
(
あななひけう
)
の
求道者
(
きうだうしや
)
となつて
誤魔化
(
ごまくわ
)
すのだ』
233
乙
(
おつ
)
『
貴様
(
きさま
)
の
面
(
つら
)
では
女
(
をんな
)
に
変装
(
へんさう
)
したつて
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
だよ。
234
貴様
(
きさま
)
が
変装
(
へんさう
)
したら、
235
それこそ
鬼婆
(
おにばば
)
に
見
(
み
)
えて
仕舞
(
しま
)
ふぞ』
236
甲
(
かふ
)
『
鬼婆
(
おにばば
)
でも、
237
鬼爺
(
おにぢぢ
)
に
見
(
み
)
えなければ
宜
(
い
)
いぢやないか。
238
それで
完全
(
くわんぜん
)
な
女
(
をんな
)
になつたのだ。
239
善悪
(
ぜんあく
)
美醜
(
びしう
)
は
問
(
と
)
ふところに
非
(
あら
)
ず。
240
俺
(
おれ
)
は
皺苦茶
(
しわくちや
)
婆
(
ばあ
)
さまになつて
入
(
い
)
り
込
(
こ
)
むから、
241
貴様
(
きさま
)
は
皺苦茶
(
しわくちや
)
爺
(
ぢぢ
)
になつて、
242
杖
(
つゑ
)
でもついて
腰
(
こし
)
を
屈
(
かが
)
め、
243
俺
(
おれ
)
の
後
(
あと
)
に
踵
(
つ
)
いて
来
(
こ
)
い』
244
乙
(
おつ
)
『いつその
事
(
こと
)
、
245
堂々
(
だうだう
)
と
男
(
をとこ
)
の
求道者
(
きうだうしや
)
になつて
行
(
い
)
つたらどうだ』
246
丙
(
へい
)
『そんな
悪相
(
あくさう
)
な
面
(
つら
)
をして
行
(
ゆ
)
かうものなら、
247
忽
(
たちま
)
ち
看破
(
かんぱ
)
されて
了
(
しま
)
ふぜ』
248
斯
(
か
)
く
雑談
(
ざつだん
)
に
耽
(
ふけ
)
る
折
(
をり
)
しも、
249
向
(
むか
)
ふの
方
(
はう
)
より
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
、
250
何
(
なに
)
か
肩
(
かた
)
に
引
(
ひ
)
つかけ、
251
髪
(
かみ
)
を
振
(
ふ
)
り
乱
(
みだ
)
し、
252
衣服
(
きもの
)
を
裏向
(
うらむ
)
けに
着
(
き
)
ながら、
253
女
(
をんな
)
に
似合
(
にあ
)
はず
大股
(
おほまた
)
にトントンと
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
来
(
く
)
る。
254
七
(
しち
)
歳
(
さい
)
ばかりの
少女
(
せうぢよ
)
は、
255
少女(初稚姫)
『お
母
(
かあ
)
さま お
母
(
かあ
)
さま』
256
と
連呼
(
れんこ
)
しながら
後
(
あと
)
追
(
お
)
ひかけ
来
(
きた
)
る。
257
又
(
また
)
もや
続
(
つづ
)
いて
二人
(
ふたり
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
、
258
二人の男(佐田彦、波留彦)
『オーイオーイ。
259
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた』
260
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
息
(
いき
)
を
喘
(
はづ
)
ませ
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
る。
261
甲
(
かふ
)
『アリヤ
何
(
なん
)
だ、
262
あた
嫌
(
いや
)
らしい。
263
髪
(
かみ
)
を
振
(
ふ
)
り
乱
(
みだ
)
し
着物
(
きもの
)
を
裏向
(
うらむ
)
けに
着
(
き
)
やがつて、
264
褌
(
ふんどし
)
に
何
(
なん
)
だか
石
(
いし
)
のやうなものを
包
(
つつ
)
んで
走
(
はし
)
つて
来
(
く
)
るぢやないか。
265
彼奴
(
あいつ
)
は
てつきり
気違
(
きちが
)
ひだよ。
266
気違
(
きちが
)
ひに
噛
(
か
)
ぶりつかれでもしたら、
267
まるで
犬
(
いぬ
)
に
喰
(
く
)
はれたやうなものだ。
268
オイ、
269
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
、
270
すつこめ すつこめ』
271
一同
『よし
来
(
き
)
た』
272
と
林
(
はやし
)
の
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
に
小
(
ちひ
)
さくなつて
横
(
よこ
)
たはる。
273
その
前
(
まへ
)
を
踏
(
ふ
)
まむ
許
(
ばか
)
りに
玉能姫
(
たまのひめ
)
、
274
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は、
275
玉能姫、初稚姫
『キヤア キヤア』
276
と
金切声
(
かなきりごゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げながら
通
(
とほ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
277
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
汗
(
あせ
)
を
垂
(
た
)
らし、
278
二人の男(佐田彦、波留彦)
『オーイ、
279
気違
(
きちが
)
ひ
待
(
ま
)
つた』
280
と
又
(
また
)
もや
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
西方
(
せいはう
)
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
281
一同
(
いちどう
)
はやうやう
頭
(
あたま
)
を
上
(
あ
)
げ、
282
甲
(
かふ
)
『ヤー
何処
(
どこ
)
の
奴
(
やつ
)
か
知
(
し
)
らぬが、
283
女房
(
にようばう
)
が
気
(
き
)
が
狂
(
くる
)
つたと
見
(
み
)
えて、
284
偉
(
えら
)
い
勢
(
いきほひ
)
で
追
(
お
)
ひかけて
行
(
ゆ
)
きよつた。
285
可愛相
(
かはいさう
)
に、
286
あんな
娘
(
むすめ
)
がある
仲
(
なか
)
で、
287
女房
(
にようばう
)
に
発狂
(
はつきやう
)
されては
怺
(
たま
)
つたものぢやない。
288
併
(
しか
)
しなかなか
別嬪
(
べつぴん
)
らしかつたぢやないか』
289
乙
(
おつ
)
『さうだなア、
290
可愛相
(
かはいさう
)
なものだ。
291
先
(
さき
)
へ
行
(
い
)
つたのはあれの
爺
(
おやじ
)
だらう。
292
後
(
あと
)
から
行
(
ゆ
)
く
奴
(
やつ
)
はヒヨツとしたら
下男
(
げなん
)
かなんかだらうよ。
293
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
294
どえらい
勢
(
いきほひ
)
だつた。
295
まるきり
夜叉
(
やしや
)
明王
(
みやうわう
)
が
荒
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
うたやうな
勢
(
いきほひ
)
だ。
296
マアマア
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
無事
(
ぶじ
)
に
御
(
ご
)
通過
(
つうくわ
)
を
願
(
ねが
)
うて
幸
(
さいは
)
ひだつた』
297
と
話
(
はな
)
してゐる。
298
暫
(
しば
)
らくすると
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
は、
299
スマートボール、
300
カナンボール
其
(
その
)
他
(
た
)
拾数
(
じふすう
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
を
引連
(
ひきつ
)
れ、
301
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
駆
(
か
)
け
来
(
きた
)
り、
302
五六
(
ごろく
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
303
蜈蚣姫
『オイ、
304
お
前
(
まへ
)
は
信州
(
しんしう
)
、
305
播州
(
ばんしう
)
、
306
芸州
(
げいしう
)
の
連中
(
れんちう
)
ぢやないか。
307
なにして
居
(
ゐ
)
る。
308
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
へ
玉能姫
(
たまのひめ
)
が
通
(
とほ
)
つた
筈
(
はず
)
だがお
前
(
まへ
)
は
知
(
し
)
らぬか』
309
信州
(
しんしう
)
『
最前
(
さいぜん
)
から
此処
(
ここ
)
で
一服
(
いつぷく
)
して
居
(
ゐ
)
ましたが、
310
玉能姫
(
たまのひめ
)
のやうな
奴
(
やつ
)
は
根
(
ね
)
つから
通
(
とほ
)
りませぬで。
311
髪
(
かみ
)
振
(
ふ
)
り
乱
(
みだ
)
した
気違
(
きちがひ
)
がキヤアキヤア
云
(
い
)
つて
通
(
とほ
)
つたばかり、
312
後
(
あと
)
から
爺
(
おやじ
)
が
可愛相
(
かはいさう
)
に
汗
(
あせ
)
をブルブルに
掻
(
か
)
いて
追
(
お
)
つかけて
行
(
ゆ
)
きました』
313
蜈蚣姫
『どうしても
此処
(
ここ
)
を
通
(
とほ
)
らにやならぬ
筈
(
はず
)
だが、
314
ハテ
不思議
(
ふしぎ
)
だなア。
315
それなら
大方
(
おほかた
)
杢助館
(
もくすけやかた
)
へでも
廻
(
まは
)
つたのだらう。
316
一体
(
いつたい
)
何処
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
きよるのか。
317
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
、
318
斯
(
か
)
うしては
居
(
を
)
られない。
319
再度山
(
ふたたびやま
)
の
山麓
(
さんろく
)
、
320
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
に
引返
(
ひきかへ
)
せ』
321
と
慌
(
あわただ
)
しく
呼
(
よ
)
ばはつた。
322
スマートボールを
先頭
(
せんとう
)
に
全隊
(
ぜんたい
)
引率
(
ひきつ
)
れて、
323
東
(
ひがし
)
を
指
(
さ
)
して
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
バラバラと
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
324
梢
(
こずゑ
)
を
渡
(
わた
)
る
松風
(
まつかぜ
)
の
音
(
おと
)
、
325
刻々
(
こくこく
)
に
烈
(
はげ
)
しくなり、
326
瀬戸
(
せと
)
の
海
(
うみ
)
の
浪
(
なみ
)
は
山嶽
(
さんがく
)
の
如
(
ごと
)
く
吼
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
うてゐる。
327
玉能姫
(
たまのひめ
)
、
328
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
漸々
(
やうやう
)
にして
高砂
(
たかさご
)
の
森
(
もり
)
に
着
(
つ
)
いた。
329
四辺
(
あたり
)
に
人
(
ひと
)
なきを
幸
(
さいは
)
ひ、
330
乱
(
みだ
)
れ
髪
(
がみ
)
を
掻
(
か
)
き
上
(
あ
)
げ、
331
顔
(
かほ
)
を
立派
(
りつぱ
)
に
繕
(
つくろ
)
ひ、
332
着物
(
きもの
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ
替
(
か
)
へ、
333
元
(
もと
)
の
玉能姫
(
たまのひめ
)
となつて
了
(
しま
)
つた。
334
息
(
いき
)
急
(
せ
)
き
切
(
き
)
つて
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
つた
佐田彦
(
さだひこ
)
、
335
波留彦
(
はるひこ
)
は
此
(
こ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
336
佐田彦
(
さだひこ
)
『ヤー、
337
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま、
338
気
(
き
)
がつきましたか。
339
大変
(
たいへん
)
心配
(
しんぱい
)
でしたよ』
340
玉能姫
(
たまのひめ
)
『オホヽヽヽ、
341
お
約束
(
やくそく
)
通
(
どほ
)
り
上手
(
じやうず
)
に
気違
(
きちがひ
)
に
化
(
ば
)
けたでせう。
342
須磨
(
すま
)
の
浜辺
(
はまべ
)
の
難関
(
なんくわん
)
を、
343
あゝせなくては
通過
(
つうくわ
)
が
出来
(
でき
)
ませぬからなア』
344
佐田彦
(
さだひこ
)
『イヤもう
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました。
345
流石
(
さすが
)
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
が
御
(
お
)
見出
(
みいだ
)
し
遊
(
あそ
)
ばしただけあつて、
346
佐田彦
(
さだひこ
)
如
(
ごと
)
き
凡夫
(
ぼんぶ
)
の
到底
(
たうてい
)
及
(
およ
)
ばぬ
智慧
(
ちゑ
)
を
持
(
も
)
つてゐなさるなア』
347
波留彦
(
はるひこ
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
七
(
しち
)
尺
(
しやく
)
の
男子
(
だんし
)
波留彦
(
はるひこ
)
も
睾丸
(
きんたま
)
を
放
(
ほ
)
かしたくなつて
来
(
き
)
ました。
348
アハヽヽヽ』
349
佐田彦
(
さだひこ
)
『それにしても
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さま、
350
小
(
ちひ
)
さいのによく
踵
(
つ
)
いてお
出
(
い
)
でなさいましたなア。
351
何時
(
いつ
)
もお
父
(
とう
)
さまに
甘
(
あま
)
へて
負
(
お
)
はれ
通
(
どほ
)
しだのに、
352
今日
(
けふ
)
は
又
(
また
)
どうしてそんな
勢
(
いきほひ
)
が
出
(
で
)
たのでせう』
353
初稚姫
『
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
私
(
わたくし
)
を
引
(
ひ
)
つ
抱
(
かか
)
へて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
354
あの
大
(
おほ
)
きな
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
御
(
お
)
目
(
め
)
に
止
(
と
)
まりませ
何
(
なん
)
だか』
355
佐田彦
『さう
聞
(
き
)
くと
何
(
なん
)
だか
大
(
おほ
)
きな
影
(
かげ
)
の
様
(
やう
)
なものが、
356
始終
(
しじう
)
踵
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
たやうに
思
(
おも
)
ひました』
357
初稚姫
『
かげ
が
見
(
み
)
えましたか。
358
それが
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
かげ
ですよ。
359
オホヽヽヽ』
360
佐田彦
『
子供
(
こども
)
の
癖
(
くせ
)
によく
洒落
(
しやれ
)
ますなア。
361
シヤレ シヤレ
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りましたもので
御座
(
ござ
)
るワイ』
362
玉能姫
『サア、
363
これから
高砂
(
たかさご
)
の
浜辺
(
はまべ
)
へボツボツ
参
(
まゐ
)
りませう。
364
幸
(
さいは
)
ひに
日
(
ひ
)
も
暮
(
く
)
れました』
365
と
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つ。
366
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
欣々
(
いそいそ
)
と
後
(
あと
)
に
随
(
したが
)
ひ、
367
浜
(
はま
)
に
立
(
た
)
ち
向
(
むか
)
ふ。
368
五月
(
ごぐわつ
)
五日
(
いつか
)
の
月
(
つき
)
は
西天
(
せいてん
)
に
輝
(
かがや
)
き、
369
薄雲
(
はくうん
)
の
布
(
きぬ
)
を
或
(
あるひ
)
は
被
(
かぶ
)
り
或
(
あるひ
)
は
脱
(
ぬ
)
ぎ、
370
月光
(
げつくわう
)
明滅
(
めいめつ
)
、
371
四
(
よ
)
人
(
にん
)
が
秘密
(
ひみつ
)
の
神業
(
しんげふ
)
を
見
(
み
)
え
隠
(
かく
)
れに、
372
窺
(
うかが
)
ふものの
如
(
ごと
)
くであつた。
373
鳴門嵐
(
なるとあらし
)
の
暴風
(
ばうふう
)
は
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなく
海面
(
かいめん
)
を
撫
(
な
)
で、
374
山嶽
(
さんがく
)
の
如
(
ごと
)
き
荒浪
(
あらなみ
)
は
立
(
た
)
ち
狂
(
くる
)
ひ、
375
高砂
(
たかさご
)
の
浜辺
(
はまべ
)
に
押寄
(
おしよ
)
せ、
376
駻馬
(
かんば
)
の
鬣
(
たてがみ
)
を
振
(
ふ
)
つて
噛
(
か
)
みついて
居
(
ゐ
)
る。
377
佐田彦
(
さだひこ
)
は、
378
猿田彦
(
さるたひこ
)
気取
(
きど
)
りで
先
(
さき
)
に
進
(
すす
)
み、
379
船頭
(
せんどう
)
の
家
(
いへ
)
を
叩
(
たた
)
き、
380
佐田彦
『モシモシ、
381
船頭
(
せんどう
)
さま、
382
これから
家島
(
えじま
)
へ
往
(
ゆ
)
くのだから、
383
船
(
ふね
)
を
出
(
だ
)
して
下
(
くだ
)
さいな。
384
賃銀
(
ちんぎん
)
は
幾何
(
いくら
)
でも
出
(
だ
)
しますから』
385
船頭
(
せんどう
)
は
家
(
いへ
)
の
中
(
なか
)
より、
386
船頭
『
何処
(
どこ
)
の
方
(
かた
)
か
知
(
し
)
らぬが、
387
何
(
なに
)
を
呆
(
ほう
)
けてゐるのだ。
388
レコード
破
(
やぶ
)
りの
荒浪
(
あらなみ
)
に、
389
如何
(
どう
)
して
船
(
ふね
)
が
出
(
だ
)
せるものかい。
390
こんな
日
(
ひ
)
に
沖
(
おき
)
に
出
(
で
)
ようものなら、
391
生命
(
いのち
)
が
いくつ
あつても
堪
(
たま
)
るものでない。
392
マア、
393
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
風
(
かぜ
)
の
凪
(
な
)
ぐ
迄
(
まで
)
待
(
ま
)
つたらよからう』
394
佐田彦
(
さだひこ
)
は
小声
(
こごゑ
)
で、
395
佐田彦
『ハテ、
396
困
(
こま
)
つたなア。
397
吾々
(
われわれ
)
はどうしても
家島
(
えじま
)
へ
渡
(
わた
)
らねばならないのだ。
398
せめて
中途
(
ちうと
)
の
神島
(
かみじま
)
までなつと
送
(
おく
)
つて
呉
(
く
)
れないか』
399
船頭
『なんと
言
(
い
)
つても
此
(
こ
)
の
時化
(
しけ
)
には
船
(
ふね
)
は
出
(
だ
)
せないよ。
400
桑名
(
くはな
)
の
徳蔵
(
とくぞう
)
ならばイザ
知
(
し
)
らず、
401
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
のやうな
普通
(
ふつう
)
の
船頭
(
せんどう
)
では、
402
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
だよ。
403
こんな
日
(
ひ
)
に
船
(
ふね
)
を
出
(
だ
)
す
位
(
くらゐ
)
なら、
404
家
(
いへ
)
もなんにも
要
(
い
)
つたものぢやない。
405
そんな
分
(
わか
)
らぬことを
言
(
い
)
はずと、
406
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
待
(
ま
)
つたがよからうに』
407
佐田彦
『どうしても
出
(
だ
)
して
呉
(
く
)
れませぬか、
408
仕方
(
しかた
)
がない。
409
それなら
船
(
ふね
)
を
貸
(
か
)
して
下
(
くだ
)
さいな』
410
船頭
『
滅相
(
めつさう
)
もないこと
仰有
(
おつしや
)
るな。
411
船
(
ふね
)
でも
貸
(
か
)
さうものなら
商売
(
しやうばい
)
道具
(
だうぐ
)
を
忽
(
たちま
)
ち
滅茶
(
めちや
)
々々
(
めちや
)
にされて
了
(
しま
)
うて、
412
女房
(
にようばう
)
や
子
(
こ
)
の
鼻
(
はな
)
の
下
(
した
)
が
乾上
(
ひあ
)
がつて
了
(
しま
)
ふ。
413
一
(
ひと
)
つの
船
(
ふね
)
を
慥
(
こしら
)
へるにも
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
の
金子
(
かね
)
が
要
(
い
)
るのだ。
414
自家
(
うち
)
の
身代
(
しんだい
)
は
此
(
こ
)
の
船
(
ふね
)
一
(
ひと
)
つだ。
415
マア、
416
そんなことは
絶対
(
ぜつたい
)
に
御
(
お
)
断
(
ことわ
)
り
申
(
まを
)
さうかい』
417
佐田彦
『
未
(
ま
)
だ
外
(
ほか
)
に
船頭衆
(
せんどうしう
)
はあらうな』
418
船頭
『
此
(
こ
)
の
浜辺
(
はまべ
)
には
二三十
(
にさんじふ
)
人
(
にん
)
の
船頭
(
せんどう
)
が
居
(
を
)
る。
419
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
開闢
(
かいびやく
)
以来
(
いらい
)
、
420
この
荒浪
(
あらなみ
)
に
船
(
ふね
)
を
出
(
だ
)
すやうな
莫迦者
(
ばかもの
)
は
一
(
いち
)
人
(
にん
)
も
居
(
を
)
りませぬワイ。
421
今日
(
けふ
)
は
五月
(
ごぐわつ
)
五日
(
いつか
)
、
422
菖蒲
(
しやうぶ
)
の
節句
(
せつく
)
、
423
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
神島
(
かみじま
)
から
高砂
(
たかさご
)
へ
御
(
お
)
出
(
い
)
で
遊
(
あそ
)
ばす
日
(
ひ
)
だから、
424
尚々
(
なほなほ
)
船
(
ふね
)
は
出
(
だ
)
せないのだ。
425
仮令
(
たとへ
)
浪
(
なみ
)
はなくとも
今日
(
けふ
)
一
(
いち
)
日
(
にち
)
は、
426
此
(
こ
)
の
海
(
うみ
)
の
渡海
(
とかい
)
は
出来
(
でき
)
ないのだ。
427
暮
(
くれ
)
六
(
む
)
つから
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
高砂
(
たかさご
)
の
森
(
もり
)
へお
越
(
こ
)
しになるのだ。
428
モー
今頃
(
いまごろ
)
は
神島
(
かみじま
)
を
御
(
ご
)
出立
(
しゆつたつ
)
遊
(
あそ
)
ばして
御座
(
ござ
)
る
時分
(
じぶん
)
だよ。
429
何
(
なん
)
としてそんな
処
(
とこ
)
へ
行
(
ゆ
)
くのだい』
430
佐田彦
『
俺
(
おれ
)
は
家島
(
えじま
)
へ
行
(
ゆ
)
くのだ。
431
浪
(
なみ
)
の
都合
(
つがふ
)
で
一寸
(
ちよつと
)
御
(
お
)
水
(
みづ
)
を
頂
(
いただ
)
きに
神島
(
かみじま
)
へ
寄
(
よ
)
りたいと
思
(
おも
)
ふのだよ』
432
船頭
(
せんどう
)
は
不思議
(
ふしぎ
)
な
奴
(
やつ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たものだと
呟
(
つぶや
)
きながら
表
(
おもて
)
に
立出
(
たちい
)
で、
433
船頭
『ヤー、
434
見
(
み
)
れば
若
(
わか
)
い
御
(
お
)
女中
(
ぢよちう
)
に
娘
(
むすめ
)
さま。
435
お
前
(
まへ
)
さま
等
(
ら
)
も
御
(
ご
)
一行
(
いつかう
)
かな』
436
玉能姫
(
たまのひめ
)
『ハイ、
437
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
438
どうぞ
船
(
ふね
)
を
御
(
お
)
出
(
だ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
439
船頭
(
せんどう
)
頻
(
しきり
)
に
首
(
くび
)
を
振
(
ふ
)
り、
440
船頭
『アーいかぬいかぬ、
441
途方
(
とはう
)
もないこと
云
(
い
)
ひなさるな。
442
男
(
をとこ
)
でさへも
行
(
ゆ
)
かれぬ
処
(
ところ
)
へ、
443
妙齢
(
としごろ
)
の
女
(
をんな
)
が
渡
(
わた
)
ると
云
(
い
)
ふことは
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ない。
444
平常
(
つね
)
の
日
(
ひ
)
でも
女
(
をんな
)
は
絶対
(
ぜつたい
)
に
乗
(
の
)
せることは
出来
(
でき
)
ませぬワイ』
445
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『
小父
(
をぢ
)
さま、
446
そんなら
其
(
そ
)
の
船
(
ふね
)
を
売
(
う
)
つて
御
(
お
)
呉
(
く
)
れぬか』
447
船頭
『
売
(
う
)
つて
呉
(
く
)
れと
云
(
い
)
つたつて、
448
中々
(
なかなか
)
安
(
やす
)
うはないぞ。
449
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
もかかるのだから』
450
初稚姫
『それなら
小父
(
をぢ
)
さま、
451
二百
(
にひやく
)
両
(
りやう
)
上
(
あ
)
げるから、
452
お
前
(
まへ
)
の
船
(
ふね
)
を
売
(
う
)
つてお
呉
(
く
)
れ』
453
船頭
『
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
の
船
(
ふね
)
を
二百
(
にひやく
)
両
(
りやう
)
に
買
(
か
)
つて
貰
(
もら
)
へば、
454
船
(
ふね
)
が
二隻
(
にせき
)
新調
(
しんてう
)
出来
(
でき
)
るやうなものだ。
455
それは
誠
(
まこと
)
に
有難
(
ありがた
)
いが、
456
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らみすみすお
前
(
まへ
)
さま
達
(
たち
)
を
海
(
うみ
)
の
藻屑
(
もくづ
)
となし、
457
鱶
(
ふか
)
の
餌食
(
ゑじき
)
にして
了
(
しま
)
ふのは
何程
(
なにほど
)
欲
(
よく
)
な
船頭
(
せんどう
)
でも
忍
(
しの
)
びない。
458
そんなことは
言
(
い
)
はずに
諦
(
あきら
)
めて
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
459
男
(
をとこ
)
の
方
(
かた
)
なら
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
したら
船
(
ふね
)
を
出
(
だ
)
して
上
(
あ
)
げよう』
460
初稚姫
『
女
(
をんな
)
は
何
(
ど
)
うしていけないのですか』
461
船頭
『アヽ、
462
いけないいけない。
463
理屈
(
りくつ
)
は
知
(
し
)
らぬが、
464
昔
(
むかし
)
から
行
(
い
)
つたことがない
島
(
しま
)
だから』
465
佐田彦
(
さだひこ
)
『
船頭
(
せんどう
)
さま、
466
そんなら
時化
(
しけ
)
が
止
(
や
)
んでから
明日
(
あす
)
でも
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
勝手
(
かつて
)
に
漕
(
こ
)
いで
行
(
ゆ
)
くから、
467
二百
(
にひやく
)
両
(
りやう
)
で
売
(
う
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
468
船頭
『
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
のものを
二百
(
にひやく
)
両
(
りやう
)
に
売
(
う
)
ると
云
(
い
)
ふことは、
469
大変
(
たいへん
)
に
欲張
(
よくば
)
つたやうで
気
(
き
)
が
済
(
す
)
まぬが、
470
併
(
しか
)
し
船
(
ふね
)
を
売
(
う
)
つて
了
(
しま
)
へば、
471
次
(
つぎ
)
の
船
(
ふね
)
が
出来
(
でき
)
るまで
徒食
(
としよく
)
をせねばならぬから、
472
貯蓄
(
たくはへ
)
の
無
(
な
)
い
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
、
473
そんなら
二百
(
にひやく
)
両
(
りやう
)
で
売
(
う
)
りませう』
474
佐田彦
『
有難
(
ありがた
)
い、
475
そんなら
手
(
て
)
を
打
(
う
)
ちます。
476
一
(
いち
)
、
477
二
(
に
)
、
478
三
(
さん
)
』
479
と
船頭
(
せんどう
)
と
佐田彦
(
さだひこ
)
は
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せ、
480
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて
了
(
しま
)
つた。
481
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
懐
(
ふところ
)
より
山吹色
(
やまぶきいろ
)
の
小判
(
こばん
)
を
取出
(
とりだ
)
し、
482
初稚姫
『サア、
483
小父
(
をぢ
)
さま、
484
改
(
あらた
)
めて
受取
(
うけと
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
485
と
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
す。
486
船頭
(
せんどう
)
は
検
(
あらた
)
めて
見
(
み
)
て、
487
船頭
『ヤー、
488
有難
(
ありがた
)
う、
489
左様
(
さやう
)
なら。
490
モウ
一旦
(
いつたん
)
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つたのだから、
491
変換
(
へんが
)
へは
利
(
き
)
きませぬよ』
492
と
言
(
い
)
ひ
捨
(
す
)
て、
493
恐
(
こは
)
さうに
家
(
いへ
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
494
中
(
なか
)
よりピシヤンと
戸
(
と
)
を
閉
(
し
)
め、
495
丁寧
(
ていねい
)
に
突張
(
つつぱ
)
りを
こう
てゐる。
496
波
(
なみ
)
は
益々
(
ますます
)
猛
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ふ。
497
佐田彦
『アヽ
此
(
こ
)
の
船
(
ふね
)
だ。
498
サア
皆
(
みな
)
さま、
499
乗
(
の
)
りませう。
500
ちつと
荒
(
あ
)
れた
方
(
はう
)
が
面白
(
おもしろ
)
からう』
501
と
佐田彦
(
さだひこ
)
は
先
(
さき
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ。
502
三
(
さん
)
人
(
にん
)
も
喜
(
よろこ
)
んで
船中
(
せんちう
)
の
人
(
ひと
)
となつて
了
(
しま
)
つた。
503
佐田彦
(
さだひこ
)
『サア、
504
波留彦
(
はるひこ
)
、
505
櫂
(
かい
)
を
使
(
つか
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
506
俺
(
おれ
)
は
船頭
(
せんどう
)
だ。
507
艪
(
ろ
)
を
漕
(
こ
)
いで
行
(
ゆ
)
く。
508
随分
(
ずゐぶん
)
高
(
たか
)
い
浪
(
なみ
)
だよ』
509
とそろそろ
捩鉢巻
(
ねぢはちまき
)
になつて、
510
艪
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
り
始
(
はじ
)
めた。
511
月
(
つき
)
は
雲
(
くも
)
押
(
お
)
し
開
(
ひら
)
きて
利鎌
(
とがま
)
のやうな
光
(
ひかり
)
を
投
(
な
)
げ、
512
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
乗
(
の
)
つた
神島丸
(
かみじままる
)
を
照
(
てら
)
して
居
(
ゐ
)
る。
513
不思議
(
ふしぎ
)
や
暴風
(
ばうふう
)
は
忽
(
たちま
)
ち
止
(
と
)
まり、
514
浪
(
なみ
)
は
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
畳
(
たたみ
)
の
如
(
ごと
)
く
凪
(
な
)
ぎ
渡
(
わた
)
つた。
515
二人
(
ふたり
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
櫂
(
かい
)
を
操
(
あやつ
)
りながら、
516
沖
(
おき
)
に
浮
(
うか
)
べる
神島
(
かみじま
)
目標
(
めあて
)
に
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
だ
)
した。
517
漸
(
やうや
)
くにしてミロク
岩
(
いは
)
の
磯端
(
いそばた
)
に
横付
(
よこづ
)
けになつた。
518
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
皆
(
みな
)
さま、
519
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
でした。
520
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
二人
(
ふたり
)
は
此処
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい』
521
佐田彦
(
さだひこ
)
『イエ
私
(
わたくし
)
も
御
(
お
)
供
(
とも
)
を
致
(
いた
)
しませう。
522
これ
丈
(
だけ
)
篠竹
(
しのたけ
)
の
茂
(
しげ
)
つた
山
(
やま
)
、
523
大蛇
(
をろち
)
が
沢山
(
たくさん
)
に
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふことですから、
524
保護
(
ほご
)
のために
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
が
御
(
お
)
供
(
とも
)
致
(
いた
)
しませう。
525
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
様
(
さま
)
より「
両人
(
りやうにん
)
の
保護
(
ほご
)
を
頼
(
たの
)
む」と
云
(
い
)
はれたのだから、
526
もし
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
様
(
さま
)
が
大蛇
(
をろち
)
にでも
呑
(
の
)
まれて
了
(
しま
)
ふやうなことが
出来
(
しゆつたい
)
したら、
527
それこそ
申訳
(
まをしわけ
)
がありませぬ。
528
是非
(
ぜひ
)
御
(
お
)
供
(
とも
)
を
致
(
いた
)
します』
529
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『その
大蛇
(
をろち
)
に
用
(
よう
)
があるのだから、
530
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さるな。
531
大蛇
(
をろち
)
は
男
(
をとこ
)
が
行
(
ゆ
)
くと
大変
(
たいへん
)
に
腹
(
はら
)
立
(
た
)
てて
怒
(
おこ
)
るさうですから』
532
波留彦
(
はるひこ
)
『
大蛇
(
をろち
)
でも
矢張
(
やつぱ
)
り
女
(
をんな
)
が
好
(
い
)
いのかなア。
533
斯
(
こ
)
うなると
男
(
をとこ
)
に
生
(
うま
)
れたのも
詮
(
つま
)
らぬものだ』
534
玉能姫
(
たまのひめ
)
『さア、
535
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さま、
536
参
(
まゐ
)
りませう。
537
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
の
御
(
お
)
方
(
かた
)
、
538
決
(
けつ
)
して、
539
後
(
あと
)
から
来
(
き
)
てはなりませぬよ。
540
用
(
よう
)
が
済
(
す
)
んだら
呼
(
よ
)
びますから、
541
それまで
此処
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
つてゐて
下
(
くだ
)
さい』
542
二人
(
ふたり
)
は
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
き
乍
(
なが
)
ら、
543
佐田彦
(
さだひこ
)
『エー
仕方
(
しかた
)
がない。
544
役目
(
やくめ
)
が
違
(
ちが
)
ふのだから、
545
そんなら
神妙
(
しんめう
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
ます。
546
御用
(
ごよう
)
が
済
(
す
)
んだら
呼
(
よ
)
んで
下
(
くだ
)
さい』
547
玉能姫
(
たまのひめ
)
『ハイ、
548
承知
(
しようち
)
しました。
549
何
(
ど
)
うぞ
機嫌
(
きげん
)
よう
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいませ』
550
と
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
手
(
て
)
を
把
(
と
)
り、
551
篠竹
(
しのたけ
)
を
押分
(
おしわ
)
け
山上
(
さんじやう
)
目蒐
(
めが
)
けて
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
552
辛
(
から
)
うじて
二人
(
ふたり
)
は
山
(
やま
)
の
頂
(
いただき
)
に
到着
(
たうちやく
)
した。
553
五六
(
ごろく
)
歳
(
さい
)
の
童子
(
どうじ
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
と
童女
(
どうぢよ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
554
黄金
(
こがね
)
の
鍬
(
くは
)
を
持
(
も
)
つて
何処
(
いづこ
)
よりともなく
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
555
さしもに
堅
(
かた
)
き
岩石
(
がんせき
)
を
瞬
(
またた
)
く
間
(
ま
)
に
掘
(
ほ
)
つて
了
(
しま
)
つた。
556
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『アー、
557
貴女
(
あなた
)
は
厳
(
いづ
)
の
身魂
(
みたま
)
、
558
瑞
(
みづ
)
の
身魂
(
みたま
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
、
559
只今
(
ただいま
)
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
に
依
(
よ
)
つて、
560
無事
(
ぶじ
)
に
此処
(
ここ
)
まで
玉
(
たま
)
の
御
(
お
)
供
(
とも
)
をして
参
(
まゐ
)
りました。
561
さア、
562
何
(
ど
)
うぞ
納
(
をさ
)
めて
下
(
くだ
)
さい』
563
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
童子
(
どうじ
)
は
にこ
にこ
笑
(
わら
)
ひながら、
564
ものをも
言
(
い
)
はず
一度
(
いちど
)
に
小
(
ちひ
)
さき
手
(
て
)
を
差出
(
さしだ
)
す。
565
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉函
(
たまばこ
)
を
取
(
と
)
り、
566
恭
(
うやうや
)
しく
頭上
(
づじやう
)
に
捧
(
ささ
)
げながら
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
手
(
て
)
の
上
(
うへ
)
に
載
(
の
)
せた。
567
十本
(
じつぽん
)
の
掌
(
てのひら
)
の
上
(
うへ
)
に
一個
(
いつこ
)
の
玉函
(
たまばこ
)
、
568
忽
(
たちま
)
ち
五瓣
(
ごべん
)
の
梅花
(
ばいくわ
)
が
開
(
ひら
)
いた。
569
童子
(
どうじ
)
は
玉函
(
たまばこ
)
と
共
(
とも
)
に、
570
今
(
いま
)
掘
(
ほ
)
つたばかりの
岩
(
いは
)
の
穴
(
あな
)
に
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
つた。
571
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
童女
(
どうぢよ
)
は
又
(
また
)
もや
手
(
て
)
を
拡
(
ひろ
)
げて、
572
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
る。
573
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
紫
(
むらさき
)
の
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
函
(
はこ
)
を
取
(
と
)
り
上
(
あ
)
げ、
574
恭
(
うやうや
)
しく
頭上
(
づじやう
)
に
捧
(
ささ
)
げ、
575
次
(
つい
)
で
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
童女
(
どうぢよ
)
の
手
(
て
)
に
渡
(
わた
)
した。
576
童女
(
どうぢよ
)
はものをも
言
(
い
)
はず
微笑
(
びせう
)
を
浮
(
うか
)
べたまま、
577
玉函
(
たまばこ
)
と
共
(
とも
)
に
同
(
おな
)
じ
岩穴
(
いはあな
)
に
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
つた。
578
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
怪
(
あや
)
しんで
穴
(
あな
)
を
覗
(
のぞ
)
き
見
(
み
)
れば、
579
童男
(
どうなん
)
、
580
童女
(
どうぢよ
)
の
姿
(
すがた
)
は
影
(
かげ
)
もなく、
581
只
(
ただ
)
二
(
ふた
)
つの
玉函
(
たまばこ
)
、
582
微妙
(
びめう
)
の
音声
(
おんせい
)
を
発
(
はつ
)
し、
583
鮮光
(
せんくわう
)
孔内
(
こうない
)
を
照
(
て
)
らして
居
(
ゐ
)
る。
584
二人
(
ふたり
)
は
恭
(
うやうや
)
しく
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
585
次
(
つい
)
で
神言
(
かみごと
)
を
唱
(
とな
)
へ、
586
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
歌
(
うた
)
ひ、
587
岩蓋
(
いはふた
)
をなし、
588
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
今
(
いま
)
童女
(
どうぢよ
)
が
捨
(
す
)
て
置
(
お
)
きし、
589
黄金
(
こがね
)
の
鍬
(
くは
)
を
各自
(
てんで
)
に
取
(
と
)
り
上
(
あ
)
げ、
590
土
(
つち
)
を
厚
(
あつ
)
く
衣
(
き
)
せ、
591
四辺
(
あたり
)
の
小松
(
こまつ
)
を
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
植
(
う
)
ゑて、
592
又
(
また
)
もや
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
593
悠々
(
いういう
)
として
山
(
やま
)
を
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
594
玉能姫
(
たまのひめ
)
は、
595
玉能姫
『お
二人
(
ふたり
)
さま、
596
えらう
御
(
お
)
待
(
ま
)
たせしました。
597
さア、
598
もう
御用
(
ごよう
)
が
済
(
す
)
みました。
599
帰
(
かへ
)
りませう』
600
佐田彦
(
さだひこ
)
、
601
波留彦
(
はるひこ
)
両人
(
りやうにん
)
は
口
(
くち
)
を
揃
(
そろ
)
へて、
602
佐田彦、波留彦
『それは
結構
(
けつこう
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
603
御
(
お
)
目出度
(
めでた
)
う。
604
これから
私
(
わたくし
)
等
(
ら
)
が
一度
(
いちど
)
登
(
のぼ
)
つて
来
(
き
)
ますから、
605
暫
(
しば
)
らく
此処
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいませ』
606
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『モー
御用
(
ごよう
)
が
済
(
す
)
みましたのですから、
607
一歩
(
ひとあし
)
も
上
(
あが
)
つてはなりませぬ。
608
さア
帰
(
かへ
)
りませうよ』
609
佐田彦
(
さだひこ
)
『
折角
(
せつかく
)
此処迄
(
ここまで
)
苦労
(
くらう
)
して
御
(
お
)
供
(
とも
)
をして
来
(
き
)
たのだから、
610
埋
(
うづ
)
めた
跡
(
あと
)
なりと
拝
(
をが
)
まして
下
(
くだ
)
さいな』
611
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
つてゐる。
612
玉能姫
(
たまのひめ
)
を
見
(
み
)
れば、
613
是
(
これ
)
亦
(
また
)
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
つてゐる。
614
何処
(
どこ
)
ともなく
雷
(
らい
)
の
如
(
ごと
)
き
声
(
こゑ
)
、
615
声
『
一刻
(
いつこく
)
も
猶予
(
いうよ
)
はならぬ。
616
これより
高砂
(
たかさご
)
へは
寄
(
よ
)
らず、
617
淡路島
(
あはぢしま
)
を
目標
(
めあて
)
に
再度山
(
ふたたびやま
)
の
麓
(
ふもと
)
に
船
(
ふね
)
をつけよ。
618
サア、
619
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く』
620
と
呶鳴
(
どな
)
るものがある。
621
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
に
佐田彦
(
さだひこ
)
、
622
波留彦
(
はるひこ
)
は、
623
佐田彦、波留彦
『ハイ、
624
畏
(
かしこ
)
まりました』
625
と
玉能姫
(
たまのひめ
)
、
626
初稚姫
(
はつわかひめ
)
を
迎
(
むか
)
へ
入
(
い
)
れ
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
艪櫂
(
ろかい
)
を
操
(
あやつ
)
りつつ、
627
再度山
(
ふたたびやま
)
の
方面
(
はうめん
)
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
628
(
大正一一・五・二八
旧五・二
外山豊二
録)
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【第19章 山と海|第22巻|如意宝珠|霊界物語|/rm2219】
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