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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第22巻(酉の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 暗雲低迷
第1章 玉騒疑
第2章 探り合ひ
第3章 不知火
第4章 玉探志
第2篇 心猿意馬
第5章 壇の浦
第6章 見舞客
第7章 囈語
第8章 鬼の解脱
第3篇 黄金化神
第9章 清泉
第10章 美と醜
第11章 黄金像
第12章 銀公着瀑
第4篇 改心の幕
第13章 寂光土
第14章 初稚姫
第15章 情の鞭
第16章 千万無量
第5篇 神界経綸
第17章 生田の森
第18章 布引の滝
第19章 山と海
第20章 三の魂
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霊界物語
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如意宝珠(第13~24巻)
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第22巻(酉の巻)
> 第3篇 黄金化神 > 第9章 清泉
<<< 鬼の解脱
(B)
(N)
美と醜 >>>
第九章
清泉
(
きよいづみ
)
〔七〇一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻
篇:
第3篇 黄金化神
よみ(新仮名遣い):
おうごんけしん
章:
第9章 清泉
よみ(新仮名遣い):
きよいずみ
通し章番号:
701
口述日:
1922(大正11)年05月26日(旧04月30日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年7月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫は相変わらず玉を取ったのは曲津神の仕業だと思い込んでいた。そして夜に出立すると、鷹鳥山に小さな庵を結んで二三の供人と共に潜んで時を待っていた。
高姫は鷹鳥山の庵で三五教を楯に教えを説いていたが、それを聞きに近隣の老若男女が集まってきて、栄えていた。
バラモン教のカナンボールとスマートボールは、鷹鳥山に現れて鷹鳥姫と名乗るこの婆が、如意宝珠の玉と紫の玉を飲み込んでいると噂に聞いた。そこで二人は、蜈蚣姫に献上するために鷹鳥姫を襲って玉を奪おうと画策した。
二人は鷹鳥姫の侍女・玉能姫が清泉に水を汲みに来るところを狙うが、逆に白狐につままれて気絶してしまう。スマートとカナンは気が付くが、お互いを化け物と勘違いして喧嘩を始め、清泉に落ちてしまう。泉は真っ黒になってしまった。
スマートとカナンの首尾を確かめに来た部下たちは、清泉に人が落ちた音を聞いて、てっきり玉能姫と思い込み、蜈蚣姫のところへ連れて行こうとして泉にやってきた。泉ではスマートとカナンが取っ組み合いの喧嘩をしている。
薄暗がりの中、バラモン教の部下の金助、銀公、鉄はスマートとカナンを水に落ちた玉能姫ら鷹鳥山の侍女だと思って助けようと、水に飛びこんだ。しかしスマートとカナンの喧嘩に巻き込まれてますます混乱してしまう。
そこへ先ほどの三人の女神が現れて、金助、銀公、鉄を恩人だと言って真っ白な肌に変えてしまった。また美しい着物を着せられて三人は喜び、女神たちと手を取って踊っている。
スマートとカナンはそれを羨ましそうに眺めている。また残りの二人のバラモン教の部下、熊と蜂も三人を呼び止めるが、金、銀、鉄の三人は、鷹鳥姫のお目にかかってくる、と言い残して、女神たちと山を登って行ってしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
金公(金助)
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-06-05 22:32:19
OBC :
rm2209
愛善世界社版:
115頁
八幡書店版:
第4輯 422頁
修補版:
校定版:
119頁
普及版:
53頁
初版:
ページ備考:
001
天津
(
あまつ
)
御神
(
みかみ
)
の
賜
(
たま
)
ひてし
002
生言霊
(
いくことたま
)
の
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
みつ
)
003
四尾
(
よつを
)
の
峰
(
みね
)
の
山麓
(
さんろく
)
に
004
厳
(
いづ
)
の
御霊
(
みたま
)
と
現
(
あら
)
はれて
005
五六七
(
みろく
)
の
神世
(
みよ
)
を
造
(
つく
)
らむと
006
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
が
007
生
(
うみ
)
の
御
(
おん
)
子
(
こ
)
と
現
(
あ
)
れませる
008
八人
(
やたり
)
乙女
(
おとめ
)
の
其
(
その
)
中
(
なか
)
に
009
秀
(
ひい
)
でて
貴
(
たか
)
き
英子姫
(
ひでこひめ
)
010
悦子
(
よしこ
)
の
姫
(
ひめ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
011
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
の
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
012
百千万
(
ももちよろづ
)
の
神策
(
しんさく
)
を
013
幾億
(
いくおく
)
年
(
ねん
)
の
末
(
すゑ
)
までも
014
堅磐
(
かきは
)
常磐
(
ときは
)
に
固
(
かた
)
めむと
015
天津
(
あまつ
)
御神
(
みかみ
)
の
神言
(
みこと
)
もて
016
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
017
黄金
(
わうごん
)
の
玉
(
たま
)
や
紫
(
むらさき
)
の
018
貴
(
うづ
)
の
宝
(
たから
)
を
永久
(
とこしへ
)
に
019
秘
(
ひ
)
め
隠
(
かく
)
したる
桶伏
(
をけぶせ
)
の
020
山
(
やま
)
の
岩戸
(
いはと
)
を
何時
(
いつ
)
しかに
021
開
(
ひら
)
きて
茲
(
ここ
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
や
022
胸
(
むね
)
の
動悸
(
どうき
)
も
高姫
(
たかひめ
)
が
023
玉
(
たま
)
失
(
うしな
)
ひし
苦
(
くる
)
しさに
024
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
に
言解
(
こととき
)
の
025
言葉
(
ことば
)
もなくなく
高姫
(
たかひめ
)
は
026
千々
(
ちぢ
)
に
心
(
こころ
)
を
砕
(
くだ
)
きつつ
027
夜
(
よる
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
四尾
(
よつをう
)
の
028
山
(
やま
)
の
麓
(
ふもと
)
を
出立
(
しゆつたつ
)
し
029
六甲山
(
ろくかふざん
)
の
峰続
(
みねつづ
)
き
030
蜈蚣
(
むかで
)
の
姫
(
ひめ
)
の
一族
(
いちぞく
)
が
031
立籠
(
たてこも
)
りたる
魔谷
(
まや
)
ケ
岳
(
だけ
)
032
玉
(
たま
)
の
行方
(
ゆくへ
)
は
分
(
わか
)
らねど
033
執念
(
しふねん
)
深
(
ぶか
)
き
曲神
(
まがかみ
)
の
034
八岐
(
やまた
)
大蛇
(
をろち
)
の
計画
(
けいくわく
)
と
035
早合点
(
はやがつてん
)
の
高姫
(
たかひめ
)
は
036
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
に
小
(
ささ
)
やけき
037
庵
(
いほり
)
を
結
(
むす
)
び
夜
(
よ
)
も
昼
(
ひる
)
も
038
鷹鳥
(
たかとり
)
ならぬ
隼
(
はやぶさ
)
や
039
鵜
(
う
)
の
目
(
め
)
に
隙
(
すき
)
を
窺
(
うかが
)
ひつ
040
水
(
みづ
)
も
洩
(
も
)
らさぬ
三五
(
あななひ
)
の
041
教
(
をしへ
)
をここに
経
(
たて
)
となし
042
緯
(
ぬき
)
さしならぬ
身
(
み
)
の
破目
(
はめ
)
を
043
押開
(
おしひら
)
かむと
村肝
(
むらきも
)
の
044
心
(
こころ
)
に
包
(
つつ
)
み
岩
(
いは
)
が
根
(
ね
)
に
045
二三
(
にさん
)
の
信徒
(
まめひと
)
伴
(
ともな
)
ひて
046
時
(
とき
)
を
待
(
ま
)
つこそ
忌々
(
ゆゆ
)
しけれ。
047
春
(
はる
)
の
陽気
(
やうき
)
も
漂
(
ただよ
)
うて、
048
山桜
(
やまざくら
)
の
此処
(
ここ
)
彼処
(
かしこ
)
、
049
お
多福
(
たふく
)
面
(
づら
)
ではなけれども、
050
花
(
はな
)
より
葉
(
は
)
が
前
(
まへ
)
に
出
(
で
)
る、
051
谷路
(
たにみち
)
伝
(
つた
)
うてスタスタと
登
(
のぼ
)
り
来
(
きた
)
る
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
、
052
山桜
(
やまざくら
)
の
古木
(
こぼく
)
の
根元
(
ねもと
)
に
腰
(
こし
)
打
(
う
)
ち
掛
(
か
)
け、
053
竹
(
たけ
)
の
子笠
(
こがさ
)
を
大地
(
だいち
)
に
投
(
な
)
げ
棄
(
す
)
てヒソビソ
話
(
ばなし
)
に
耽
(
ふけ
)
る。
054
甲
(
かふ
)
『
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
四方
(
よも
)
の
山々
(
やまやま
)
新装
(
しんさう
)
をこらし、
055
春
(
はる
)
の
英気
(
えいき
)
を
含
(
ふく
)
んで、
056
木々
(
きぎ
)
の
木
(
こ
)
の
芽
(
め
)
は
時々
(
じじ
)
刻々
(
こくこく
)
に
際限
(
さいげん
)
もなく
新芽
(
しんめ
)
を
吹
(
ふ
)
き
出
(
いだ
)
し、
057
常世
(
とこよ
)
の
春
(
はる
)
を
寿
(
ことほ
)
ぎ、
058
花
(
はな
)
は
笑
(
わら
)
ひ、
059
鳥
(
とり
)
は
歌
(
うた
)
ひ、
060
実
(
じつ
)
に
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
気分
(
きぶん
)
になつて
来
(
き
)
た。
061
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
吾々
(
われわれ
)
の
奉
(
ほう
)
ずるバラモン
教
(
けう
)
も、
062
一
(
いち
)
時
(
じ
)
は
大江山
(
おほえやま
)
の
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
さまが
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
山
(
ざん
)
の
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
と
南北
(
なんぼく
)
相呼応
(
あひこおう
)
して、
063
遠近
(
ゑんきん
)
を
風靡
(
ふうび
)
さした
隆盛
(
りうせい
)
に
引
(
ひ
)
き
替
(
か
)
へ、
064
今日
(
こんにち
)
のバラモン
教
(
けう
)
は
恰度
(
ちやうど
)
冬
(
ふゆ
)
が
来
(
き
)
たやうなものだなア。
065
吾々
(
われわれ
)
は
三国
(
みくに
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
砦
(
とりで
)
を
三五教
(
あななひけう
)
の
為
(
ため
)
に
取
(
と
)
り
毀
(
こぼ
)
たれてより、
066
一旦
(
いつたん
)
本国
(
ほんごく
)
へ
帰
(
かへ
)
り、
067
時
(
とき
)
を
待
(
ま
)
つて
捲土
(
けんど
)
重来
(
ぢうらい
)
せむものと、
068
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
に
幾度
(
いくたび
)
諫言
(
かんげん
)
を
試
(
こころ
)
みたか
知
(
し
)
れなかつたが、
069
どうしてもお
聞
(
き
)
きなさらず、
070
又
(
また
)
もやアルプス
教
(
けう
)
の
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
と
共
(
とも
)
に、
071
大自在天
(
だいじざいてん
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
威徳
(
ゐとく
)
を
発揮
(
はつき
)
せむと
主張
(
しゆちやう
)
し、
072
此
(
この
)
魔谷
(
まや
)
ケ
岳
(
だけ
)
にお
越
(
こ
)
しになつてから
早三月
(
はやみつき
)
も
経
(
た
)
つた。
073
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
高春山
(
たかはるやま
)
の
没落
(
ぼつらく
)
以来
(
いらい
)
影響
(
えいきやう
)
を
受
(
う
)
け、
074
折角
(
せつかく
)
集
(
あつ
)
まつて
来
(
き
)
た
信者
(
しんじや
)
も、
075
日向
(
ひなた
)
の
氷
(
こほり
)
の
如
(
ごと
)
く、
076
日
(
ひ
)
に
日
(
ひ
)
に
消滅
(
せうめつ
)
の
運命
(
うんめい
)
を
繰返
(
くりかへ
)
し、
077
吾々
(
われわれ
)
の
知
(
し
)
つた
事
(
こと
)
か
何
(
なん
)
ぞの
様
(
やう
)
に
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
の
不機嫌
(
ふきげん
)
、
078
日夜
(
にちや
)
の
八当
(
やつあた
)
り、
079
実
(
じつ
)
に
困
(
こま
)
つたものぢやないか。
080
今日
(
けふ
)
は
何
(
なん
)
とか
一
(
ひと
)
つお
土産
(
みやげ
)
を
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
らねば、
081
あの
難
(
むづ
)
かしい
顔
(
かほ
)
が
元
(
もと
)
の
鞘
(
さや
)
に
納
(
をさ
)
まらない、
082
何
(
なん
)
とか
良
(
い
)
い
名案
(
めいあん
)
はあるまいかなア』
083
乙
(
おつ
)
『
名案
(
めいあん
)
と
云
(
い
)
つて、
084
吾々
(
われわれ
)
の
智嚢
(
ちなう
)
の
底
(
そこ
)
を
搾
(
しぼ
)
り
切
(
き
)
つた
上
(
うへ
)
の
事
(
こと
)
だから、
085
モウ
此
(
この
)
上
(
うへ
)
逆様
(
さかさま
)
に
振
(
ふ
)
つても
虱
(
しらみ
)
一匹
(
いつぴき
)
産出
(
さんしゆつ
)
……
否
(
いや
)
落
(
お
)
ちて
来
(
く
)
る
気遣
(
きづか
)
ひがない。
086
要
(
えう
)
するに
非常
(
ひじやう
)
手段
(
しゆだん
)
を
用
(
もち
)
ゐるより
方法
(
はうはふ
)
はあるまいよ。
087
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
の
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
は
相当
(
さうたう
)
な
年増
(
としま
)
で、
088
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
と
同
(
おな
)
じ
様
(
やう
)
な
年輩
(
ねんぱい
)
だが、
089
まだ
此方
(
こちら
)
へ
現
(
あら
)
はれてから
幾
(
いく
)
らにもならぬのに
大変
(
たいへん
)
な
勢
(
いきほひ
)
だ。
090
何時
(
いつ
)
も
四
(
よ
)
つ
時
(
どき
)
からかけて
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
の
岩
(
いは
)
の
根
(
ね
)
に
道
(
みち
)
を
説
(
と
)
く
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
の
庵
(
いほり
)
に
通
(
かよ
)
ふ
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
は
非常
(
ひじやう
)
なものだ。
091
何
(
なん
)
でも
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
は
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
、
092
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
宝珠
(
ほつしゆ
)
を
腹
(
はら
)
に
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んで
居
(
を
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だから、
093
一
(
ひと
)
つ
彼奴
(
あいつ
)
を
直接
(
ちよくせつ
)
行動
(
かうどう
)
で
何々
(
なになに
)
して
了
(
しま
)
へば、
094
後
(
あと
)
はバラモン
教
(
けう
)
の
天下
(
てんか
)
だ。
095
それに
就
(
つい
)
て、
096
彼
(
かれ
)
が
股肱
(
ここう
)
と
頼
(
たの
)
む
玉能姫
(
たまのひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
頗
(
すこぶ
)
る
美人
(
びじん
)
が
居
(
ゐ
)
る。
097
先
(
ま
)
づ
其
(
その
)
女
(
をんな
)
から
巧妙
(
うま
)
く
説
(
と
)
きつけて、
098
此方
(
こちら
)
のものにしさへすれば、
099
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
に
接近
(
せつきん
)
の
機会
(
きくわい
)
を
得
(
う
)
ると
云
(
い
)
ふものだ。
100
大樹
(
たいじゆ
)
を
伐
(
き
)
る
者
(
もの
)
は
先
(
ま
)
ず
其
(
その
)
枝
(
えだ
)
を
伐
(
き
)
る……』
101
甲
『
将
(
しやう
)
を
射
(
い
)
むとする
者
(
もの
)
は
先
(
ま
)
づ
其
(
その
)
馬
(
うま
)
を
射
(
い
)
ると
云
(
い
)
ふ
筆法
(
ひつぱふ
)
だな。
102
併
(
しか
)
しさうウマく
計画
(
けいくわく
)
通
(
どほ
)
りに
行
(
ゆ
)
くだらうか。
103
当事
(
あてごと
)
と
牛
(
うし
)
の
おもがひ
は
向
(
むか
)
ふから
外
(
はづ
)
れると
云
(
い
)
つて、
104
実
(
じつ
)
に
不安心
(
ふあんしん
)
なものだ』
105
乙
『その
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
何時
(
いつ
)
も
谷川
(
たにがは
)
に
水
(
みづ
)
を
汲
(
く
)
みにやつて
来
(
く
)
るさうだ。
106
表口
(
おもてぐち
)
へ
廻
(
まは
)
れば
沢山
(
たくさん
)
の
参詣者
(
さんけいしや
)
だから、
107
到底
(
たうてい
)
目的
(
もくてき
)
は
達
(
たつ
)
し
得
(
え
)
なからうが、
108
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
裏坂
(
うらさか
)
の
椿谷
(
つばきだに
)
の
清泉
(
きよいづみ
)
に
何時
(
いつ
)
も
下
(
お
)
り
立
(
た
)
ち、
109
霊泉
(
れいせん
)
を
汲
(
く
)
みに
来
(
く
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
探知
(
たんち
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ。
110
あの
水
(
みづ
)
は
何
(
なん
)
でも
非常
(
ひじやう
)
な
薬品
(
やくひん
)
を
含
(
ふく
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
111
それを
御
(
ご
)
神水
(
しんすゐ
)
だと
云
(
い
)
つて、
112
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
が
数多
(
あまた
)
の
者
(
もの
)
に
与
(
あた
)
へるので、
113
凡
(
すべ
)
ての
病気
(
びやうき
)
は
奇妙
(
きめう
)
に
全快
(
ぜんくわい
)
するさうだ。
114
之
(
これ
)
を
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
の
奴
(
やつ
)
、
115
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
だと
称
(
しよう
)
し、
116
股肱
(
ここう
)
の
臣
(
しん
)
たる
玉能姫
(
たまのひめ
)
にソツと
汲
(
く
)
ませ、
117
神前
(
しんぜん
)
に
供
(
そな
)
へさせて
置
(
お
)
くさうだ。
118
第一
(
だいいち
)
玉能姫
(
たまのひめ
)
を
巧妙
(
うま
)
く
此方
(
こちら
)
の
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れて、
119
其
(
その
)
上
(
うへ
)
で
本城
(
ほんじやう
)
へ
駆
(
か
)
け
向
(
むか
)
へば、
120
成功
(
せいこう
)
疑
(
うたがひ
)
なしだよ。
121
サア
清泉
(
きよいづみ
)
まで
僅
(
わづ
)
か
二三丁
(
にさんちやう
)
だ。
122
早
(
はや
)
く
行
(
ゆ
)
かう』
123
とカナンボール、
124
スマートボールの
両人
(
りやうにん
)
は、
125
崎嶇
(
きく
)
たる
谷道
(
たにみち
)
を
笠
(
かさ
)
を
手
(
て
)
にしながら、
126
チクチクと
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
127
カナン、
128
スマートの
両人
(
りやうにん
)
は
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
の
清泉
(
せいせん
)
に
漸
(
やうや
)
く
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いた。
129
急坂
(
きふはん
)
を
太
(
ふと
)
き
竹製
(
たけせい
)
の
手桶
(
てをけ
)
を
両手
(
りやうて
)
に
提
(
ひつさ
)
げ、
130
背恰好
(
せかつかう
)
、
131
容貌
(
ようばう
)
、
132
寸分
(
すんぶん
)
違
(
たが
)
はぬ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
、
133
ニコニコしながら
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
134
甲女
(
かふぢよ
)
『あなたは、
135
バラモン
教
(
けう
)
のカナンさまでせう』
136
カナン『
御
(
お
)
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
りカナンです。
137
此奴
(
こいつ
)
ア、
138
スマートと
云
(
い
)
つて、
139
私
(
わたくし
)
の
乾児
(
こぶん
)
です。
140
どうぞ
此
(
この
)
面
(
つら
)
を
能
(
よ
)
くお
目
(
め
)
に
止
(
と
)
められまして、
141
お
忘
(
わす
)
れなき
様
(
やう
)
に……』
142
甲女
『ホツホヽヽヽ、
143
忘
(
わす
)
れようと
云
(
い
)
つたつて、
144
其
(
その
)
お
顔
(
かほ
)
が
如何
(
どう
)
して
忘
(
わす
)
れられませう』
145
スマート『オイ、
146
カナン、
147
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
てさへ、
148
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふ
美人
(
びじん
)
が
忘
(
わす
)
れられぬと
云
(
い
)
ふのだから、
149
大
(
たい
)
した
者
(
もの
)
だらう』
150
甲女
『ホヽヽヽヽ』
151
と
腹
(
はら
)
を
抱
(
かか
)
へて
女
(
をんな
)
は
蹲
(
しやが
)
む。
152
スマ『コレコレお
女中
(
ぢよちう
)
さま、
153
何
(
なに
)
をお
笑
(
わら
)
ひなさる。
154
どつか
私
(
わたくし
)
の
顔
(
かほ
)
に
特徴
(
とくちやう
)
がありますか……どつかお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
が
御座
(
ござ
)
いますかなア』
155
カナン『オイ、
156
スマート、
157
貴様
(
きさま
)
は
余程
(
よつぽど
)
良
(
い
)
い
馬鹿
(
ばか
)
だなア。
158
一寸
(
ちよつと
)
水鏡
(
みづかがみ
)
に
照
(
て
)
らして
見
(
み
)
よ。
159
随分
(
ずゐぶん
)
立派
(
りつぱ
)
な
顔
(
かほ
)
だぞ』
160
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
は、
161
一度
(
いちど
)
に
臍
(
へそ
)
を
抱
(
かか
)
へて
笑
(
わら
)
ひ
倒
(
こ
)
ける。
162
スマート
『ハテナ』
163
と
不審
(
ふしん
)
そうにスマートは
清泉
(
せいせん
)
に
顔
(
かほ
)
を
照
(
て
)
らし
眺
(
なが
)
めようとする。
164
見
(
み
)
られては
大変
(
たいへん
)
と
言
(
い
)
はぬ
許
(
ばか
)
りに、
165
カナンは
手頃
(
てごろ
)
の
石
(
いし
)
を
拾
(
ひろ
)
ふより
早
(
はや
)
く
泉
(
いづみ
)
の
中
(
なか
)
へ
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んだ。
166
忽
(
たちま
)
ち
波立
(
なみた
)
ち、
167
スマートの
顔
(
かほ
)
は
細
(
ほそ
)
く
長
(
なが
)
く
横
(
よこ
)
に
平
(
ひら
)
たく、
168
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
随意
(
ずゐい
)
活動
(
くわつどう
)
、
169
伸縮
(
しんしゆく
)
自在
(
じざい
)
、
170
真黒
(
まつくろ
)
けの
姿
(
すがた
)
が
映
(
うつ
)
る。
171
スマート『
何
(
なん
)
だかチツとも
見
(
み
)
えないワ。
172
此
(
この
)
泉
(
いづみ
)
には
黒
(
くろ
)
ん
坊
(
ばう
)
の
霊
(
れい
)
が
浮
(
う
)
いて
居
(
ゐ
)
るぢやないか』
173
カナン『アハヽヽヽ、
174
俺
(
おれ
)
も
可笑
(
をか
)
しうてカナンワイ、
175
のうスマート』
176
と
又
(
また
)
笑
(
わら
)
ふ。
177
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
は
益々
(
ますます
)
笑
(
わら
)
ひ
倒
(
こ
)
ける。
178
スマートは
合点
(
がてん
)
行
(
ゆ
)
かず、
179
波
(
なみ
)
の
静
(
しづ
)
まつたのを
見定
(
みさだ
)
め、
180
又
(
また
)
もや
覗
(
のぞ
)
きかける。
181
カナンは
石
(
いし
)
を
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
む。
182
スマートは、
183
スマート
『
馬鹿
(
ばか
)
にするない。
184
何故
(
なぜ
)
水鏡
(
みづかがみ
)
を
見
(
み
)
ようと
思
(
おも
)
ふのに、
185
邪魔
(
じやま
)
をするのだ』
186
カナン
『
貴様
(
きさま
)
の
顔
(
かほ
)
を
貴様
(
きさま
)
が
見
(
み
)
ると、
187
俺
(
おれ
)
も
一寸
(
ちよつと
)
カナン
事
(
こと
)
があるのだよ。
188
アハヽヽヽ、
189
随分
(
ずゐぶん
)
黒
(
くろ
)
う
人
(
と
)
だなア』
190
スマート
『
何
(
なん
)
だか
俺
(
おれ
)
の
顔
(
かほ
)
は
今朝
(
けさ
)
から
鬱陶敷
(
うつたうしく
)
て
仕方
(
しかた
)
がない。
191
スマートな
気
(
き
)
がせないよ。
192
実際
(
じつさい
)
は
如何
(
どう
)
なつたのか』
193
カナン
『お
目出度
(
めでた
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
194
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
さまが
何方
(
どちら
)
へ
向
(
む
)
いとるか
分
(
わか
)
らぬ
様
(
やう
)
にと、
195
墨
(
すみ
)
を
塗
(
ぬ
)
つて
置
(
お
)
かしやつたのだ。
196
貴様
(
きさま
)
の
顔
(
かほ
)
一面
(
いちめん
)
墨
(
すみ
)
だらけだよ。
197
俺
(
おれ
)
は
面黒
(
おもくろ
)
くてカナンボールだ』
198
スマート
『そりや
大変
(
たいへん
)
だ。
199
スマートも
一
(
ひと
)
つ
此処
(
ここ
)
で
手水
(
てうづ
)
を
使
(
つか
)
はうかなア』
200
カナン
『イヤイヤそんな
事
(
こと
)
しようものなら
大変
(
たいへん
)
だぞ。
201
貴様
(
きさま
)
は
注意
(
ちゆうい
)
が
足
(
た
)
らぬので、
202
三国
(
みくに
)
ケ
岳
(
だけ
)
で
玉
(
たま
)
の
在処
(
ありか
)
をお
玉
(
たま
)
の
方
(
かた
)
に
知
(
し
)
らした
奴
(
やつ
)
だと
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
さまに
睨
(
にら
)
まれて
居
(
を
)
るのだ。
203
大変
(
たいへん
)
な
恥辱
(
ちじよく
)
を
与
(
あた
)
へよつた……
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
顔
(
かほ
)
に
墨
(
すみ
)
を
塗
(
ぬ
)
りやがつたから、
204
あの
玉
(
たま
)
を
奪
(
と
)
り
返
(
かへ
)
す
迄
(
まで
)
はスマートの
顔
(
かほ
)
に
墨
(
すみ
)
を
塗
(
ぬ
)
つて
置
(
お
)
くのだから……と
云
(
い
)
つてな、
205
貴様
(
きさま
)
が
酒
(
さけ
)
に
喰
(
くら
)
ひ
酔
(
よ
)
うて
寝
(
ね
)
てる
間
(
ま
)
に、
206
ペツタリコと
左官屋
(
さくわんや
)
を
遊
(
あそ
)
ばしたのだ』
207
スマート
『そりや
余
(
あんま
)
り
殺生
(
せつしやう
)
ぢやないか。
208
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふナイスにそんな
面
(
つら
)
を
見
(
み
)
られては
堪
(
たま
)
らない。
209
スマートはあんな
黒
(
くろ
)
い
奴
(
やつ
)
だと、
210
三人
(
さんにん
)
女
(
をんな
)
の
印象
(
いんしやう
)
に
何時
(
いつ
)
までも
残
(
のこ
)
つちや
堪
(
たま
)
らない。
211
一
(
ひと
)
つ
墨
(
すみ
)
を
洗
(
あら
)
ひ
落
(
おと
)
して、
212
好男子
(
かうだんし
)
振
(
ぶ
)
りを
認
(
みと
)
めて
置
(
お
)
いて
貰
(
もら
)
はぬと
詮
(
つま
)
らぬからなア』
213
と
無理
(
むり
)
矢理
(
やり
)
に
水
(
みづ
)
を
掬
(
すく
)
ひ、
214
顔
(
かほ
)
の
垢
(
あか
)
を
落
(
おと
)
す。
215
如何
(
どう
)
したものか、
216
さしもに
清冽
(
せいれつ
)
なる
泉
(
いづみ
)
は
墨
(
すみ
)
を
流
(
なが
)
した
如
(
ごと
)
く
真黒
(
まつくろ
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
217
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
は、
218
三人
『あれ、
219
マア
何
(
ど
)
うしませう』
220
と
顔
(
かほ
)
をかくす。
221
スマートはスツカリと
墨
(
すみ
)
を
落
(
おと
)
した。
222
生
(
うま
)
れ
付
(
つ
)
きの
好男子
(
かうだんし
)
である。
223
スマート『オイ、
224
カナン、
225
俺
(
おれ
)
の
顔
(
かほ
)
を
塗
(
ぬ
)
りよつたのは、
226
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
さまぢやなからう。
227
貴様
(
きさま
)
は
怪体
(
けつたい
)
な
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
だから、
228
俺
(
おれ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
歩
(
ある
)
くと
目立
(
めだ
)
つと
思
(
おも
)
つて
悪戯
(
いたづら
)
をしたのだらう』
229
カナン『マア
何
(
ど
)
うでも
好
(
い
)
いワ。
230
すべて
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
に
在
(
あ
)
る
者
(
もの
)
は、
231
犠牲
(
ぎせい
)
的
(
てき
)
精神
(
せいしん
)
が
肝腎
(
かんじん
)
だから、
232
誰
(
たれ
)
がしたにもせよ、
233
俺
(
おれ
)
がした
事
(
こと
)
にして
置
(
お
)
けば
良
(
い
)
いのだよ』
234
スマート
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
235
三
(
さん
)
人
(
にん
)
のお
方
(
かた
)
、
236
貴女
(
あなた
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
さまとか
云
(
い
)
ふ
方
(
かた
)
ぢやありませぬか。
237
どうぞスマートを
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
へ
連
(
つ
)
れて
往
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいますまいかな』
238
甲女
(
かふぢよ
)
『ホヽヽヽヽ、
239
あなたの
様
(
やう
)
な
瓜実顔
(
うりざねがほ
)
を
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
らうものなら、
240
青物屋
(
あをものや
)
と
間違
(
まちが
)
へられますわ。
241
カナンさまの
南瓜顔
(
かぼちやがほ
)
、
242
どうぞそれ
計
(
ばか
)
りは
勘忍
(
こら
)
へて
頂戴
(
ちやうだい
)
な』
243
カナン『オイ
女
(
をんな
)
、
244
南瓜
(
かぼちや
)
とは
何
(
なん
)
だ。
245
瓜実顔
(
うりざねがほ
)
とは
何
(
なん
)
ぢや。
246
馬鹿
(
ばか
)
にするない。
247
八百屋
(
やほや
)
ぢやあるまいし、
248
サアもう
斯
(
か
)
うなつた
以上
(
いじやう
)
は、
249
否
(
いや
)
でも
応
(
おう
)
でも、
250
魔谷
(
まや
)
ケ
岳
(
だけ
)
へ
担
(
かた
)
げて
帰
(
かへ
)
る。
251
覚悟
(
かくご
)
をせい』
252
乙女
(
をとめ
)
『
誰
(
たれ
)
が
汚
(
けが
)
らはしい。
253
お
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
なヒヨツトコに
担
(
かつ
)
がれて
行
(
ゆ
)
く
者
(
もの
)
がありますかい』
254
スマート『ますます
貴様
(
きさま
)
は
七
(
しち
)
尺
(
しやく
)
の
男子
(
だんし
)
を、
255
馬鹿
(
ばか
)
にするのだな。
256
こりや、
257
俺
(
おれ
)
を
誰様
(
どなた
)
と
心得
(
こころえ
)
て
居
(
を
)
る。
258
バラモン
教
(
けう
)
の
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
が
左守
(
さもり
)
の
神
(
かみ
)
と
聞
(
きこ
)
えたる、
259
スマートさまぢやぞ。
260
斯
(
か
)
う
見
(
み
)
えても
何
(
なに
)
から
何
(
なに
)
まで、
261
知
(
し
)
らぬ
事
(
こと
)
のないチヤアチヤアだ。
262
玉能姫
(
たまのひめ
)
、
263
覚悟
(
かくご
)
をせい』
264
甲女
(
かふぢよ
)
『
本当
(
ほんたう
)
の
玉能姫
(
たまのひめ
)
が……それ
丈
(
だけ
)
能
(
よ
)
く
分
(
わか
)
るお
前
(
まへ
)
さまなら……
何
(
ど
)
れだか
当
(
あ
)
てて
御覧
(
ごらん
)
……』
265
スマート『
一人
(
ひとり
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
、
266
二人
(
ふたり
)
はお
化
(
ば
)
けだよ』
267
甲女
(
かふぢよ
)
『どれがお
化
(
ば
)
けで、
268
どれが
本物
(
ほんもの
)
ですか』
269
スマート
『オイ、
270
カナン、
271
此奴
(
こいつ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
引括
(
ひつくく
)
つて
伴
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
らう。
272
何
(
ど
)
れがどうだか
余
(
あんま
)
り
能
(
よ
)
う
化
(
ば
)
けて
居
(
ゐ
)
よつて、
273
見当
(
けんたう
)
が
取
(
と
)
れぬぢやないか』
274
カナン
『さうだなア。
275
併
(
しか
)
し
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふ
美人
(
びじん
)
を
担
(
かつ
)
いで
帰
(
い
)
ぬと、
276
途中
(
とちう
)
で
又
(
また
)
魔
(
ま
)
がさし、
277
中途
(
ちうと
)
でボツたくられると
困
(
こま
)
るから、
278
幸
(
さいは
)
ひ
此
(
この
)
泉
(
いづみ
)
の
水
(
みづ
)
を
塗
(
ぬ
)
り
付
(
つ
)
け、
279
真黒
(
まつくろ
)
けにして
帰
(
かへ
)
らうかい。
280
宅
(
うち
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
軽石
(
かるいし
)
や
曹達
(
そうだ
)
で
擦
(
こす
)
れば、
281
現在
(
いま
)
の
様
(
やう
)
な
綺麗
(
きれい
)
な
面
(
つら
)
になるのだからのう……オイ
女
(
をんな
)
、
282
此処
(
ここ
)
へ
来
(
こ
)
い。
283
一
(
ひと
)
つお
黒
(
くろ
)
いを
塗
(
ぬ
)
つてやらう』
284
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
一度
(
いちど
)
に、
285
三人
『ホツホヽヽヽ』
286
と
笑
(
わら
)
ひこける
途端
(
とたん
)
に、
287
シユウシユウと
立
(
た
)
ち
昇
(
のぼ
)
る
白煙
(
はくえん
)
、
288
忽
(
たちま
)
ち
四辺
(
あたり
)
を
包
(
つつ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
289
二人
(
ふたり
)
は
息
(
いき
)
も
詰
(
つま
)
るやうな
苦
(
くる
)
しさに
其
(
その
)
場
(
ば
)
にパタリと
倒
(
たふ
)
れた。
290
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
は
真黒
(
まつくろ
)
の
水
(
みづ
)
を
手桶
(
てをけ
)
に
掬
(
すく
)
ひ、
291
二人
(
ふたり
)
の
顔
(
かほ
)
から
手足
(
てあし
)
一面
(
いちめん
)
に
注
(
そそ
)
いだ。
292
両人
(
りやうにん
)
は
焼木杭
(
やけぼつくひ
)
の
様
(
やう
)
な
色
(
いろ
)
になつて、
293
其
(
その
)
側
(
そば
)
に
倒
(
たふ
)
れた
儘
(
まま
)
気絶
(
きぜつ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
294
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
は、
295
三人
『
旭
(
あさひ
)
さま……
月日
(
つきひ
)
さま……ヤア
高倉
(
たかくら
)
さま……さア
帰
(
かへ
)
りませう』
296
と
互
(
たがひ
)
に
白狐
(
びやくこ
)
と
還元
(
くわんげん
)
し、
297
魔谷
(
まや
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
が
館
(
やかた
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
298
此処
(
ここ
)
へ
上
(
あが
)
つて
来
(
き
)
たバラモン
教
(
けう
)
の
部下
(
ぶか
)
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
、
299
甲
(
かふ
)
『オイ、
300
スマートにカナンの
大将
(
たいしやう
)
は、
301
此
(
この
)
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
の
庵
(
いほり
)
へ
進
(
すす
)
むべく、
302
教主
(
けうしゆ
)
の
命
(
めい
)
を
奉
(
ほう
)
じて
登
(
のぼ
)
つた
筈
(
はず
)
だが、
303
どうなつただらう。
304
最早
(
もはや
)
日
(
ひ
)
も
暮
(
く
)
れかかつて
居
(
を
)
る。
305
何
(
なん
)
とか
便
(
たよ
)
りがありさうなものだなア』
306
乙
(
おつ
)
『
折角
(
せつかく
)
働
(
はたら
)
いて、
307
是
(
これ
)
から
休
(
やす
)
まして
貰
(
もら
)
はうと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
るのに、
308
大将
(
たいしやう
)
が
帰
(
かへ
)
りが
遅
(
おそ
)
いものだから、
309
こんな
危険
(
きけん
)
区域
(
くゐき
)
へ
派遣
(
はけん
)
されて、
310
堪
(
たま
)
つたものぢやない。
311
此
(
この
)
山
(
やま
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
恐
(
おそ
)
ろしい
化物
(
ばけもの
)
の
出
(
で
)
る
所
(
とこ
)
ぢやから、
312
迂濶
(
うつかり
)
して
居
(
ゐ
)
ると、
313
又
(
また
)
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
の
様
(
やう
)
に
真黒
(
まつくろ
)
黒助
(
くろすけ
)
の
怪物
(
ばけもの
)
が
出
(
で
)
て、
314
目玉
(
めだま
)
を
剔
(
く
)
り
抜
(
ぬ
)
かれるか
知
(
し
)
れやしないぞ。
315
転公
(
てんこう
)
は
目玉
(
めだま
)
を
抜
(
ぬ
)
かれたきり、
316
たうとうあの
通
(
とほ
)
り
不自由
(
ふじゆう
)
な
盲目
(
めくら
)
となつて
了
(
しま
)
つた』
317
甲
(
かふ
)
『なアに、
318
あれは
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
の
化
(
ばけ
)
もん
ぢやない。
319
此
(
この
)
森林
(
しんりん
)
を
暗
(
くら
)
がり
紛
(
まぎ
)
れに
歩
(
ある
)
きやがつて、
320
松
(
まつ
)
の
枯枝
(
かれえだ
)
に
目玉
(
めだま
)
を
突当
(
つきあ
)
て
飛
(
と
)
び
出
(
で
)
たのだ。
321
目
(
め
)
を
突
(
つ
)
くが
最後
(
さいご
)
其辺
(
そこら
)
が
見
(
み
)
えなくなつたものだから、
322
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
の
化物
(
ばけもの
)
が
目
(
め
)
を
剔
(
と
)
つたなどと
云
(
い
)
つてるのだ。
323
用心
(
ようじん
)
せないと、
324
どんな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
ふかも
知
(
し
)
れないぞ』
325
乙
(
おつ
)
『イヤイヤ、
326
松
(
まつ
)
の
木
(
き
)
ぢやない。
327
本当
(
ほんたう
)
に
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
が
出
(
で
)
たさうだ。
328
用心
(
ようじん
)
せよ。
329
そろそろ
暮
(
く
)
れかかつたからなア』
330
と
云
(
い
)
ひながら
登
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
る。
331
カナンはフト
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
き
見
(
み
)
れば、
332
赤裸
(
まつぱだか
)
にしられた
真黒
(
まつくろ
)
の
男
(
をとこ
)
が
傍
(
かたはら
)
に
横
(
よこ
)
たはつて
居
(
ゐ
)
る。
333
カナン
『オイ、
334
スマート、
335
何処
(
どこ
)
へ
往
(
い
)
つた。
336
早
(
はや
)
く
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れ。
337
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
転公
(
てんこう
)
の
目
(
め
)
を
抜
(
ぬ
)
きよつた
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
の
化物
(
ばけもの
)
が、
338
茲
(
ここ
)
に
一匹
(
いつぴき
)
横
(
よこ
)
たはつて
居
(
ゐ
)
よるワイ。
339
オーイ、
340
早
(
は
)
よ
来
(
こ
)
ぬかい』
341
スマートは
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
にムクムクと
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
した。
342
スマート
『ヤア、
343
お
前
(
まへ
)
の
声
(
こゑ
)
はカナンぢやないか』
344
カナン
『オウさうだ。
345
貴様
(
きさま
)
は
化物
(
ばけもの
)
だらう。
346
又
(
また
)
目
(
め
)
をとらうと
思
(
おも
)
つて
出
(
で
)
よつたのだらう。
347
其
(
その
)
手
(
て
)
は
喰
(
く
)
はぬぞ』
348
スマート
『
貴様
(
きさま
)
こそカナンに
化
(
ば
)
けた
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
だ。
349
俺
(
おれ
)
が
了簡
(
りやうけん
)
せぬのだ。
350
覚悟
(
かくご
)
せい』
351
と
足許
(
あしもと
)
のガラガラした
石
(
いし
)
を
拾
(
ひろ
)
つて
投
(
な
)
げつける。
352
カナンも
亦
(
また
)
石
(
いし
)
を
拾
(
ひろ
)
つて
投
(
な
)
げつける。
353
双方
(
さうはう
)
より
石合戦
(
いしがつせん
)
の
真最中
(
まつさいちう
)
、
354
『アイタヽヽ』
355
『アイタヽヽ』
356
と
云
(
い
)
ひながら
大格闘
(
だいかくとう
)
を
始
(
はじ
)
め、
357
真黒
(
まつくろ
)
けに
濁
(
にご
)
つた
清泉
(
きよいづみ
)
の
中
(
なか
)
へ
組
(
く
)
んづ
組
(
く
)
まれつ、
358
ドブンと
落込
(
おちこ
)
んだ。
359
薄暗
(
うすくら
)
がりに
上
(
あが
)
つて
来
(
き
)
た
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
360
甲
(
かふ
)
『オイ、
361
何
(
なん
)
だか
妙
(
めう
)
な
音
(
おと
)
がしたぢやないか』
362
乙
(
おつ
)
『さうだなア。
363
一
(
ひと
)
つ
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
ようか。
364
何
(
なん
)
でも
此
(
この
)
辺
(
へん
)
には
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
の
庵
(
いほり
)
に
仕
(
つか
)
へて
居
(
ゐ
)
る、
365
玉能姫
(
たまのひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
美人
(
びじん
)
が、
366
チヨコチヨコ
現
(
あら
)
はれるさうだから、
367
ヒヨツとしたら、
368
水汲
(
みづく
)
みに
来
(
き
)
やがつて
薄暗
(
うすぐら
)
がりに
過
(
あやま
)
つて、
369
ドンブリコとやつたのかも
知
(
し
)
れないぞ。
370
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
さまが
彼奴
(
あいつ
)
さへ
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れば、
371
後
(
あと
)
はどうでもなると
仰有
(
おつしや
)
つて、
372
カナン、
373
スマートの
大将
(
たいしやう
)
に
言
(
い
)
ひつけて
御座
(
ござ
)
る
位
(
くらゐ
)
だから、
374
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
手柄
(
てがら
)
をして
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
の
上役
(
うはやく
)
にならうぢやないか。
375
此
(
この
)
清泉
(
きよいづみ
)
へ
今頃
(
いまごろ
)
に
水汲
(
みづく
)
みに
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
は、
376
玉能姫
(
たまのひめ
)
より
外
(
ほか
)
にありやせぬぞ』
377
丙
(
へい
)
『オイ、
378
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
ると、
379
水
(
みづ
)
を
呑
(
の
)
んで
死
(
し
)
んで
了
(
しま
)
つたら
何
(
なん
)
にもならぬぢやないか。
380
サア
早
(
はや
)
く
助
(
たす
)
けてやらう』
381
と
清泉
(
きよいづみ
)
の
傍
(
そば
)
に
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
探
(
さぐ
)
り
探
(
さぐ
)
り
立
(
た
)
ち
寄
(
よ
)
つた。
382
余
(
あま
)
り
深
(
ふか
)
くない
泉
(
いづみ
)
の
中
(
なか
)
、
383
二人
(
ふたり
)
の
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
は
組
(
く
)
んづ
組
(
く
)
まれつ
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
掴
(
つか
)
み
合
(
あ
)
うて
居
(
ゐ
)
る。
384
黒
(
くろ
)
さは
益々
(
ますます
)
黒
(
くろ
)
く、
385
腸
(
はらわた
)
まで
浸
(
し
)
み
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
386
甲
(
かふ
)
『コレコレ、
387
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま、
388
お
危
(
あぶ
)
ないこつて
御座
(
ござ
)
いました。
389
サア
私
(
わたくし
)
が
助
(
たす
)
けてあげませう。
390
余
(
あんま
)
り
暗
(
くら
)
くつて
一寸
(
ちよつと
)
も
分
(
わか
)
らぬ。
391
それにお
前
(
まへ
)
さま
黒
(
くろ
)
い
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
るものだからサツパリ
見当
(
けんたう
)
が
付
(
つ
)
かぬ。
392
私
(
わたくし
)
の
声
(
こゑ
)
のする
方
(
はう
)
へお
出
(
い
)
でなさい』
393
横幅
(
よこはば
)
三間
(
さんげん
)
縦
(
たて
)
五六間
(
ごろくけん
)
の
泉
(
いづみ
)
の
中
(
なか
)
で、
394
バサバサと
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
格闘
(
かくとう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
395
黒
(
くろ
)
い
水
(
みづ
)
は
両人
(
りやうにん
)
の
耳
(
みみ
)
の
穴
(
あな
)
に
吸収
(
きふしう
)
され、
396
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
聾
(
つんぼ
)
になつて
居
(
ゐ
)
る。
397
目玉
(
めだま
)
まで
真黒
(
まつくろ
)
け、
398
一寸先
(
いつすんさき
)
も
見
(
み
)
えなくなつて
了
(
しま
)
つた。
399
乙
(
おつ
)
『オイ、
400
玉能姫
(
たまのひめ
)
にしてはチツと
様子
(
やうす
)
が
違
(
ちが
)
ふぢやないか』
401
甲
(
かふ
)
『
何
(
なに
)
、
402
何時
(
いつ
)
も
三
(
さん
)
人
(
にん
)
同
(
おな
)
じ
様
(
やう
)
な
別嬪
(
べつぴん
)
が
此泉
(
ここ
)
へ
現
(
あら
)
はれると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
403
大方
(
おほかた
)
一人
(
ひとり
)
陥
(
はま
)
つたので
二人
(
ふたり
)
が
助
(
たす
)
ける
積
(
つも
)
りで
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
居
(
ゐ
)
るのだらう。
404
同
(
おな
)
じ
人
(
ひと
)
を
助
(
たす
)
けるのにも、
405
あゝ
云
(
い
)
ふ
美人
(
びじん
)
を
助
(
たす
)
けるのは
気分
(
きぶん
)
が
良
(
い
)
い。
406
……「どこのお
方
(
かた
)
か
知
(
し
)
りませぬが、
407
大切
(
たいせつ
)
な
生命
(
いのち
)
をお
拾
(
ひろ
)
ひ
下
(
くだ
)
さいまして、
408
此
(
この
)
御恩
(
ごおん
)
は
忘
(
わす
)
れませぬ」……とかなんとか
言
(
い
)
つて、
409
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
に
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
るのは
請合
(
うけあひ
)
だ。
410
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
を
三
(
さん
)
人
(
にん
)
寄
(
よ
)
つて
助
(
たす
)
ける
事
(
こと
)
にしよう。
411
皆
(
みんな
)
同
(
おな
)
じ
別嬪
(
べつぴん
)
だから、
412
甲乙
(
かふおつ
)
がなくて
後
(
あと
)
の
争論
(
いさかひ
)
も
起
(
おこ
)
らず、
413
大変
(
たいへん
)
都合
(
つがふ
)
が
好
(
い
)
い。
414
……オイ、
415
熊
(
くま
)
、
416
蜂
(
はち
)
、
417
貴様
(
きさま
)
は
其処
(
そこ
)
に
番
(
ばん
)
ついて
居
(
を
)
れ。
418
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
功名
(
こうみやう
)
手柄
(
てがら
)
をするのだから……』
419
と
囁
(
ささや
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
420
黒
(
くろ
)
い
影
(
かげ
)
はビシヤン、
421
バシヤンと
相変
(
あひかは
)
らず
向
(
むか
)
ふの
方
(
はう
)
で
水煙
(
みづけむり
)
を
立
(
た
)
てながら
格闘
(
かくとう
)
を
続
(
つづ
)
けて
居
(
ゐ
)
る。
422
清泉
(
きよいづみ
)
の
真黒
(
まつくろ
)
けになつた
事
(
こと
)
は、
423
薄暗
(
うすぐら
)
がりで
少
(
すこ
)
しも
五
(
ご
)
人
(
にん
)
には
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
かなかつた。
424
甲
(
かふ
)
は
真裸
(
まつぱだか
)
となつて
救
(
すく
)
い
出
(
だ
)
さむと
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ。
425
乙
(
おつ
)
丙
(
へい
)
も
吾
(
われ
)
劣
(
おと
)
らじと
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
426
乙、丙
『コレコレお
女中
(
ぢよちう
)
、
427
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま、
428
私
(
わたくし
)
が
助
(
たす
)
けてあげませう』
429
と
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
430
此奴
(
こいつ
)
も
真黒
(
まつくろ
)
けになり、
431
三
(
さん
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
盲
(
めくら
)
聾
(
つんぼ
)
の
真黒
(
まつくろ
)
けの
体
(
からだ
)
に
変
(
へん
)
じ、
432
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
互
(
たがひ
)
に
同志打
(
どうしうち
)
を
始
(
はじ
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
433
夜
(
よ
)
は
追々
(
おひおひ
)
と
暗
(
やみ
)
の
帳
(
とばり
)
が
深
(
ふか
)
く
下
(
お
)
りて
来
(
き
)
た。
434
熊公
(
くまこう
)
は、
435
熊
『オイ
蜂
(
はち
)
、
436
コラ
一体
(
いつたい
)
どうなるのだらうなア。
437
オイ、
438
金公
(
きんこう
)
、
439
銀公
(
ぎんこう
)
、
440
鉄
(
てつ
)
、
441
何
(
なに
)
してるのだ。
442
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
如何
(
どう
)
なつたのだ。
443
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
上
(
あが
)
つて
来
(
こ
)
ぬか。
444
温泉
(
をんせん
)
か
何
(
なん
)
ぞへ
這入
(
はい
)
つたやうに
気楽
(
きらく
)
さうに
泉
(
いづみ
)
の
中
(
なか
)
で
意茶
(
いちや
)
付
(
つ
)
いとるのだな。
445
……オイ
早
(
はや
)
くあがらぬかい』
446
と
呼
(
よ
)
べど
叫
(
さけ
)
べど、
447
盲
(
めくら
)
聾
(
つんぼ
)
の
真黒
(
まつくろ
)
黒助
(
くろすけ
)
には
少
(
すこ
)
しも
分
(
わか
)
らず、
448
遂
(
つひ
)
には
甲
(
かふ
)
乙
(
おつ
)
丙
(
へい
)
の
区別
(
くべつ
)
を
取違
(
とりちが
)
へ、
449
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
格闘
(
かくとう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
450
此
(
この
)
時
(
とき
)
以前
(
いぜん
)
の
女神
(
めがみ
)
又
(
また
)
もやパツと
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれた。
451
さうしてアークライトの
様
(
やう
)
な
光
(
ひかり
)
は
頭上
(
づじやう
)
に
輝
(
かがや
)
いて
来
(
き
)
た。
452
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
目
(
め
)
は、
453
始
(
はじ
)
めてボーツと
明
(
あか
)
りが
見
(
み
)
えて
来出
(
きだ
)
した。
454
カナン『ヤア
此奴
(
こいつ
)
あ
失策
(
しくじ
)
つた。
455
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
美人
(
びじん
)
が
又
(
また
)
やつて
来
(
き
)
よつた。
456
オイ、
457
スマート、
458
斯
(
こ
)
んな
所
(
ところ
)
で
喧嘩
(
けんくわ
)
をして
居
(
を
)
る
時
(
とき
)
ぢやない。
459
何
(
なん
)
だ、
460
貴様
(
きさま
)
の
姿
(
すがた
)
は
真黒
(
まつくろ
)
けぢやないか。
461
矢張
(
やつぱ
)
りスマートぢやなからう。
462
化衆
(
ばけしう
)
ぢやなア』
463
スマート『
貴様
(
きさま
)
はカナンの
声
(
こゑ
)
を
使
(
つか
)
つて、
464
馬鹿
(
ばか
)
にするな。
465
……コリヤ
女
(
をんな
)
、
466
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
をこんな
所
(
ところ
)
へ
落
(
おと
)
しよつて、
467
高所
(
たかみ
)
で
見物
(
けんぶつ
)
すると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるかい』
468
金
(
きん
)
、
469
銀
(
ぎん
)
、
470
鉄
(
てつ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
も
女神
(
めがみ
)
の
姿
(
すがた
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
俄
(
にはか
)
に
這
(
は
)
ひあがつた。
471
甲女
(
かふぢよ
)
『
危
(
あやふ
)
い
所
(
ところ
)
をお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいまして、
472
お
蔭
(
かげ
)
で
助
(
たす
)
かりました。
473
此
(
この
)
御恩
(
ごおん
)
は
決
(
けつ
)
して
忘
(
わす
)
れませぬ』
474
金
(
きん
)
『ハイハイ、
475
滅相
(
めつさう
)
もない。
476
併
(
しか
)
し
何時
(
いつ
)
お
上
(
あが
)
りになりました。
477
私
(
わたくし
)
は
貴女
(
あなた
)
をお
助
(
たす
)
けしたいと
思
(
おも
)
うて、
478
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み
大活動
(
だいくわつどう
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りました。
479
……それはまア
結構
(
けつこう
)
でした。
480
併
(
しか
)
し
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
言
(
い
)
はれるのはチツと
不思議
(
ふしぎ
)
だ。
481
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げた
覚
(
おぼ
)
えがないのだから』
482
乙女
(
をつぢよ
)
『
銀
(
ぎん
)
さまとやら、
483
あなたは
妾
(
わたし
)
を
救
(
すく
)
うて
下
(
くだ
)
さつた
御
(
ご
)
恩人
(
おんじん
)
ですよ』
484
丙女
(
へいぢよ
)
『
鉄
(
てつ
)
さま、
485
能
(
よ
)
う
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さつた』
486
鉄
(
てつ
)
『へー、
487
有難
(
ありがた
)
う……ナニ、
488
滅相
(
めつさう
)
な、
489
何方
(
どちら
)
を
言
(
い
)
つて
良
(
い
)
いか
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬやうになつて
来
(
き
)
たワイ、
490
助
(
たす
)
けてあげたやうにも
思
(
おも
)
ふし、
491
助
(
たす
)
けてあげない
様
(
やう
)
にも
思
(
おも
)
ふし、
492
……こりやマア、
493
如何
(
どう
)
なつたのだらう』
494
甲女
(
かふぢよ
)
『
金
(
きん
)
さま、
495
お
前
(
まへ
)
さまは、
496
何
(
なん
)
とした
黒
(
くろ
)
い
姿
(
すがた
)
にならしやつたのだ。
497
妾
(
わたし
)
、
498
残念
(
ざんねん
)
で
御座
(
ござ
)
います』
499
金公
(
きんこう
)
始
(
はじ
)
めて
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
き
体
(
からだ
)
を
見
(
み
)
れば、
500
空地
(
あきち
)
なきまで
墨
(
すみ
)
の
化物
(
ばけもの
)
の
様
(
やう
)
になつて
居
(
ゐ
)
る。
501
銀
(
ぎん
)
、
502
鉄
(
てつ
)
はと
見
(
み
)
れば、
503
これも
真黒
(
まつくろ
)
黒助
(
くろすけ
)
。
504
金
(
きん
)
『ヤア、
505
此
(
この
)
光
(
ひかり
)
に
照
(
て
)
らし
見
(
み
)
れば、
506
誰
(
たれ
)
も
彼
(
かれ
)
も
何故
(
なぜ
)
斯
(
か
)
う
黒
(
くろ
)
くなつたのだらう』
507
甲女
(
かふぢよ
)
『
妾
(
わたし
)
の
生命
(
いのち
)
の
御
(
ご
)
恩人
(
おんじん
)
、
508
金
(
きん
)
さま、
509
銀
(
ぎん
)
さま、
510
鉄
(
てつ
)
さま、
511
どうぞ
此方
(
こちら
)
へ
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい。
512
妾
(
わたし
)
が
拭
(
ふ
)
き
取
(
と
)
つてあげませう』
513
と
雪
(
ゆき
)
の
様
(
やう
)
な
手
(
て
)
を
延
(
の
)
べ、
514
四辺
(
あたり
)
の
草
(
くさ
)
をむしつて
牛馬
(
ぎうば
)
の
行水
(
ぎやうずゐ
)
でもさせる
様
(
やう
)
に、
515
カサカサと
擦
(
こす
)
り
始
(
はじ
)
めた。
516
金
(
きん
)
、
517
銀
(
ぎん
)
、
518
鉄
(
てつ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
519
元
(
もと
)
の
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
が
黄疸
(
わうだん
)
を
病
(
や
)
んだ
様
(
やう
)
な
肌
(
はだへ
)
、
520
忽
(
たちま
)
ち
純白色
(
じゆんぱくしよく
)
となつて
了
(
しま
)
つた。
521
乙女
(
をつぢよ
)
『ホツホヽヽヽ、
522
綺麗
(
きれい
)
だこと。
523
三
(
さん
)
人
(
にん
)
さま、
524
一寸
(
ちよつと
)
御覧
(
ごらん
)
なさいませ。
525
玉子
(
たまご
)
の
様
(
やう
)
な
綺麗
(
きれい
)
な
肌付
(
はだつき
)
におなりなさいました』
526
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はフト
自分
(
じぶん
)
の
体
(
からだ
)
を
見
(
み
)
て、
527
純白色
(
じゆんぱくしよく
)
に
変
(
へん
)
じて
居
(
を
)
るのに
且
(
かつ
)
驚
(
おどろ
)
き
且
(
かつ
)
喜
(
よろこ
)
び、
528
天
(
てん
)
にも
昇
(
のぼ
)
る
心地
(
ここち
)
して、
529
思
(
おも
)
はず
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
ち
飛
(
と
)
び
上
(
あが
)
つた。
530
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
は
美
(
うる
)
はしき
衣
(
きぬ
)
を
各々
(
めいめい
)
取
(
と
)
り
出
(
いだ
)
し、
531
金
(
きん
)
、
532
銀
(
ぎん
)
、
533
鉄
(
てつ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
に
着
(
き
)
せた。
534
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
立派
(
りつぱ
)
な
好男子
(
かうだんし
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
535
カナン、
536
スマートは
真黒
(
まつくろ
)
けに
染
(
そま
)
つた
儘
(
まま
)
恨
(
うら
)
めしさうに
眺
(
なが
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
537
甲女
(
かふぢよ
)
『スマートさま、
538
カナンさま、
539
随分
(
ずゐぶん
)
お
黒
(
くろ
)
うおなりやしたネー。
540
妾
(
わたし
)
は
斯
(
か
)
うして
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
美
(
うつく
)
しき
殿御
(
とのご
)
を
持
(
も
)
ちました。
541
羨
(
けな
)
りい
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬか』
542
と
嬉
(
うれ
)
しさうに
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて、
543
甲女
『サア、
544
金
(
きん
)
さま、
545
銀
(
ぎん
)
さま、
546
鉄
(
てつ
)
さま、
547
斯
(
か
)
う
舞
(
ま
)
ふのだよ。
548
妾
(
わたし
)
とダンスを
致
(
いた
)
しませう』
549
と
三男
(
さんなん
)
三女
(
さんによ
)
は
手
(
て
)
を
握
(
と
)
つてキリキリと
舞
(
ま
)
うて
見
(
み
)
せる。
550
二人
(
ふたり
)
は
這
(
は
)
ひあがり、
551
指
(
ゆび
)
を
啣
(
くは
)
へて、
552
カナン『アーア、
553
夢
(
ゆめ
)
かいな。
554
夢
(
ゆめ
)
なれば
結構
(
けつこう
)
だが、
555
斯
(
こ
)
んな
真黒
(
まつくろ
)
けになつて
了
(
しま
)
つては、
556
宅
(
うち
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
嬶
(
かか
)
アにだつて
追払
(
おつぱら
)
はれて
了
(
しま
)
ふワ』
557
熊
(
くま
)
、
558
蜂
(
はち
)
『オイ
金
(
きん
)
、
559
銀
(
ぎん
)
、
560
鉄
(
てつ
)
、
561
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
美人
(
びじん
)
を
助
(
たす
)
けて、
562
そんな
陽気
(
やうき
)
な
事
(
こと
)
をしやがつて
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするのか。
563
チツと
俺
(
おれ
)
にも
分配
(
ぶんぱい
)
したらどうだ』
564
金
(
きん
)
『
生憎
(
あひにく
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
美人
(
びじん
)
だから、
565
パンか
何
(
なに
)
かの
様
(
やう
)
に
割
(
わ
)
つて
与
(
あた
)
へる
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
566
まあ
時節
(
じせつ
)
を
待
(
ま
)
つのだなア。
567
カナンにスマートの
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
でさへも、
568
あの
通
(
とほ
)
り
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
になつて
了
(
しま
)
つたのだから、
569
其
(
その
)
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
へば
貴様
(
きさま
)
はまだ
元
(
もと
)
の
生地
(
きぢ
)
の
儘
(
まま
)
保留
(
ほりう
)
されて
居
(
を
)
るのだから、
570
せめてもの
喜悦
(
よろこび
)
として、
571
グヅグヅ
言
(
い
)
はぬが
得
(
とく
)
だらう。
572
俺
(
おれ
)
はこれから
此
(
この
)
ナイスと
共
(
とも
)
に
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
に
立向
(
たちむか
)
ひ、
573
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
様
(
さま
)
にお
目
(
め
)
にかかつて、
574
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
に
預
(
あづ
)
かつて
来
(
く
)
る。
575
まアゆつくり
黒
(
くろ
)
い
水
(
みづ
)
でも
飲
(
の
)
んで、
576
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
凱旋祝
(
がいせんいはひ
)
の
準備
(
じゆんび
)
でもして
居
(
ゐ
)
て
呉
(
く
)
れ。
577
カナン、
578
スマートの
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
、
579
アリヨース。
580
サアサア
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
御
(
お
)
姫
(
ひめ
)
さま、
581
こんな
所
(
ところ
)
で
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
を
眺
(
なが
)
めてゐても
殺風景
(
さつぷうけい
)
です。
582
どつかへ
転地
(
てんち
)
療養
(
れうやう
)
と
出
(
で
)
かけませうか』
583
甲女
(
かふぢよ
)
『
新婚
(
しんこん
)
旅行
(
りよかう
)
と
洒落
(
しやれ
)
て、
584
これから
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
、
585
再度山
(
ふたたびやま
)
、
586
魔谷
(
まや
)
ケ
岳
(
だけ
)
、
587
六甲山
(
ろくかふざん
)
と、
588
天然
(
てんねん
)
都会
(
とくわい
)
を
漫遊
(
まんいう
)
致
(
いた
)
しませう』
589
カナン『オイ、
590
金公
(
きんこう
)
、
591
待
(
ま
)
たぬかい』
592
と
呶鳴
(
どな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
593
忽
(
たちま
)
ちアーク
灯
(
とう
)
の
様
(
やう
)
な
光
(
ひかり
)
はブスツと
消
(
き
)
えた。
594
六
(
む
)
つの
白
(
しろ
)
い
姿
(
すがた
)
は
闇
(
やみ
)
に
浮
(
う
)
いた
様
(
やう
)
に
山上
(
さんじやう
)
目蒐
(
めが
)
けて
薄
(
うす
)
れ
行
(
ゆ
)
く。
595
(
大正一一・五・二六
旧四・三〇
松村真澄
録)
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