霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 見舞客(みまひきやく)〔六九八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻 篇:第2篇 心猿意馬 よみ(新仮名遣い):しんえんいば
章:第6章 見舞客 よみ(新仮名遣い):みまいきゃく 通し章番号:698
口述日:1922(大正11)年05月25日(旧04月29日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年7月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高姫は自宅に帰ると発熱して寝込んでしまった。遠州と武州が看病に立ち働いている。そこへ玉治別夫婦が見舞いにやってきた。
玉治別とお勝が病床に来ると、高姫は自分は病気なんかじゃない、演説会で癇癪玉が詰めて熱が出ただけだ、と強がりを言う。
高姫は玉治別に、この件でどんな噂が立っているか聞いた。玉治別は、いろんな意見があってまとまっていないが、高姫に責任があるから聖地を出て玉探索にでるべきだ、という者もいることを伝えた。
高姫は日の出神の生き宮である自分は絶対に聖地を離れない、と言う。玉治別は、玉を現に紛失した責任を高姫自身はどう考えているか、と問いかけた。
高姫は青二才が心配することではない、と返して言依別命や杢助、お初にも八つ当たりをはじめた。玉治別は抗議するが、高姫は自分は生き宮だと権威を嵩にかけ、逆上して吠え立てる。
玉治別はなだめようとするが、高姫は荒れ狂って人に責任をなすりつけようとするのみである。玉治別は仕方なくお勝の手を取って高姫の館から逃げ出した。すると、見舞いにやってきた杢助・お初と門のところでばったり出くわした。
玉治別は杢助に、高姫が杢助・お初にも当り散らしていると忠告すると、帰って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:宇都山郷(宇津山郷) データ凡例: データ最終更新日:2021-06-02 17:42:28 文字数:3892 OBC :rm2206
愛善世界社版:76頁 八幡書店版:第4輯 408頁 修補版: 校定版:79頁 普及版:35頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)はすごすごと我(わが)家(や)に帰(かへ)り頭痛(づつう)がするとて臥床(ふしど)に入(い)り捩鉢巻(ねぢはちまき)の大発熱(だいはつねつ)、002大苦悶(だいくもん)。003遠州(ゑんしう)、004武州(ぶしう)は種々(いろいろ)と介抱(かいほう)に全力(ぜんりよく)を尽(つく)して居(ゐ)る。005玉治別(たまはるわけ)は妻(つま)のお勝(かつ)と共(とも)に高姫(たかひめ)の病気(びやうき)と聞(き)き、006見舞(みまひ)のために訪(たづ)ねて来(き)た。007玉治別(たまはるわけ)は庭(には)の表(おもて)に立(た)ち働(はたら)いて居(ゐ)る遠州(ゑんしう)に向(むか)ひ、
008玉治別『遠州(ゑんしう)さま、009承(うけたま)はれば高姫(たかひめ)さまには少(すこ)しお塩梅(あんばい)が悪(わる)いと聞(き)きましたが、010御(ご)様子(やうす)はどうですかナ』
011遠州『ハイ、012この間(あひだ)八尋殿(やひろどの)で演説(えんぜつ)をなさつてから肝腎(かんじん)のお宝(たから)が石(いし)に化(ば)けて居(を)つたとか云(い)つて、013怒(おこ)つて溜池(ためいけ)の中(なか)に放(はう)り込(こ)まれました。014それから気分(きぶん)が悪(わる)いと云(い)うてお寝(やす)みになつたきり、015毎日(まいにち)日日(ひにち)玉々(たまたま)と、016囈語(うはごと)ばつかり云(い)うて居(ゐ)らつしやいます。017誠(まこと)に困(こま)りものですよ』
018玉治別『何(ど)うか差支(さしつかへ)なくば、019玉治別(たまはるわけ)夫婦(ふうふ)がお見舞(みまひ)に参(まゐ)つたと、020伝(つた)へて下(くだ)さい』
021遠州『承知(しようち)致(いた)しました』
022と奥(おく)に入(い)り耳許(みみもと)に口(くち)を寄(よ)せて、
023遠州『高姫(たかひめ)様(さま)、024玉治別(たまはるわけ)の宣伝使(せんでんし)がお見舞(みまひ)に見(み)えました』
025 高姫(たかひめ)は人事(じんじ)不省(ふせい)に陥(おちい)りながらも、026玉(たま)の一声(ひとこゑ)にふつと気(き)がつき、
027高姫『何(なに)、028玉(たま)が出(で)て来(き)たと、029そりや結構(けつこう)だ。030早(はや)く見(み)せてお呉(く)れ』
031と起(お)き上(あが)つた。032遠州(ゑんしう)は玉(たま)ではない、033玉治別(たまはるわけ)が来(き)たのだと実(じつ)を明(あ)かせば、034又(また)もや高姫(たかひめ)が落胆(らくたん)して重態(ぢゆうたい)に陥(おちい)る事(こと)を案(あん)じ、035何気(なにげ)なう、
036遠州『ハイ、037玉(たま)がお出(いで)になりました』
038と皆(みな)まで云(い)はさず、039高姫(たかひめ)は、
040高姫『早(はや)く此処(ここ)へ持(も)つてお出(い)で』
041 遠州(ゑんしう)は、
042遠州『ハイ』
043と答(こた)へて表(おもて)に出(い)で、
044遠州『玉治別(たまはるわけ)さま、045お勝(かつ)さま、046どうぞ奥(おく)へお通(とほ)り下(くだ)さいませ。047高姫(たかひめ)様(さま)が大変(たいへん)お待(ま)ち兼(か)ねで御座(ござ)います』
048 玉治別(たまはるわけ)はお勝(かつ)と共(とも)につと奥(おく)に進(すす)み入(い)り、049見(み)れば高姫(たかひめ)は真赤(まつか)な顔(かほ)をしながら捩鉢巻(ねぢはちまき)の儘(まま)病床(びやうしやう)に坐(すわ)つて居(ゐ)る。
050玉治別(たまはるわけ)『高姫(たかひめ)様(さま)、051承(うけたま)はりますれば御(ご)病気(びやうき)との事(こと)、052何(ど)うかとお案(あん)じ申(まを)しましてお訪(たづ)ねに上(あが)りました』
053高姫(たかひめ)『別(べつ)に私(わたくし)は、054病気(びやうき)なんかありませぬが、055つい癇癪玉(かんしやくだま)がつき詰(つ)めて熱(ねつ)が出(で)たのです。056常(つね)に健康(たつしや)なものが偶(たま)に寝(ね)ると、057大変(たいへん)な噂(うはさ)が立(た)つと見(み)えます。058ヤアもう大丈夫(だいぢやうぶ)です』
059お勝(かつ)『毎度(まいど)夫(をつと)がお世話(せわ)になりまして、060一度(いちど)お訪(たづ)ね致(いた)さねばならないのですが、061つい御(ご)無礼(ぶれい)を致(いた)しました』
062高姫『お前(まへ)さまが玉(たま)さまの奥(おく)さまかい。063ほんに可愛(かあい)らしい御(ご)器量(きりやう)のよいお方(かた)だこと、064玉治別(たまはるわけ)さまもお仕合(しあは)せな事(こと)ですワイ。065時(とき)に玉治別(たまはるわけ)さま、066皆(みな)さまは如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)の紛失(ふんしつ)に就(つい)て、067どう云(い)うて居(ゐ)られますかな』
068玉治別『いやもう種々(いろいろ)の噂(うはさ)で御座(ござ)います。069高姫(たかひめ)さまが独断(どくだん)で黒姫(くろひめ)さまを追(お)ひ出(だ)し遊(あそ)ばしたが、070人(ひと)を呪(のろ)はば穴(あな)二(ふた)つ、071自分(じぶん)も亦(また)玉(たま)で失敗(しつぱい)して何処(どこ)かへ逃(に)げ出(だ)さねばなるまい、072と云(い)つて居(を)る人(ひと)もあり、073中(なか)には如意(によい)宝珠(ほつしゆ)は決(けつ)して紛失(ふんしつ)して居(ゐ)ない、074吾々(われわれ)の身魂(みたま)が曇(くも)つて居(ゐ)るから石(いし)に見(み)えたのだと云(い)ふ人(ひと)もあり、075一方(いつぱう)には何(ど)うも言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)の御(ご)処置(しよち)が手(て)ぬるいと云(い)つて居(を)る方(かた)もあります。076つまり百(ひやく)人(にん)が百(ひやく)人(にん)、077種々(いろいろ)の意見(いけん)を立(た)てて騒(さわ)いで居(ゐ)ますよ』
078高姫『私(わたくし)は誰(たれ)が何(なん)と云(い)うても此処(ここ)は動(うご)きませぬよ。079三千(さんぜん)世界(せかい)の救(すく)ひ主(ぬし)の日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)が離(はな)れて、080どうして御(お)経綸(しぐみ)が成就(じやうじゆ)致(いた)しますか。081大神(おほかみ)さまは日(ひ)の出神(でのかみ)の生魂(いきだま)を地(ぢ)と致(いた)して三千(さんぜん)世界(せかい)を助(たす)けると、082お筆先(ふでさき)にまで書(か)いて示(しめ)して御座(ござ)るのだから』
083玉治別『大変(たいへん)な御(ご)決心(けつしん)で結構(けつこう)ですが、084併(しか)しあの玉(たま)が若(も)し紛失(ふんしつ)して居(ゐ)たら、085貴女(あなた)の責任(せきにん)上(じやう)どうするお考(かんが)へですか』
086高姫『青二才(あをにさい)の分際(ぶんざい)で、087そんな事(こと)までお構(かま)ひなさるには及(およ)びますまい』
088玉治別『何程(なにほど)青二才(あをにさい)だつて、089やつぱり私(わたくし)も宣伝使(せんでんし)の一人(ひとり)、090参考(さんかう)までに聞(き)いて置(お)かねばなりませぬ』
091高姫『若(わか)い人(ひと)達(たち)の聞(き)く事(こと)ぢやない。092お前(まへ)達(たち)は兎(と)に角(かく)神(かみ)様(さま)のお話(はなし)さへして居(を)ればよいのだ。093私(わし)等(ら)とはお顔(かほ)の段(だん)が違(ちが)ふのだから。094それについても言依別(ことよりわけ)も何(なん)とかして大勢(おほぜい)の者(もの)に云(い)ひつけて、095宝(たから)の在処(ありか)を探(さが)して下(くだ)さりさうなものぢやに、096エヽ辛気(しんき)臭(くさ)い事(こと)だ。097玉照彦(たまてるひこ)さまも、098玉照姫(たまてるひめ)さまも何程(なにほど)立派(りつぱ)な神(かみ)様(さま)だとか云(い)うても、099何分(なにぶん)年(とし)が若(わか)いものだから、100こんな時(とき)には仕方(しかた)がない。101アヽ頭(あたま)が痛(いた)くなつて来(き)た。102もう玉治別(たまはるわけ)御(ご)夫婦(ふうふ)帰(かへ)つて下(くだ)さい。103私(わし)が本復(ほんぷく)の後(のち)、104篤(とく)と皆(みな)さまに分(わか)るやう、105千騎(せんき)一騎(いつき)の活動(くわつどう)を遊(あそ)ばすやうに一伍(いちぶ)一什(しじふ)の因縁(いんねん)を説(と)いて聞(き)かして上(あ)げます。106此(この)頃(ごろ)の聖地(せいち)の方々(かたがた)は薩張(さつぱ)り桶(をけ)のたががゆるんでしまつて、107誰(たれ)も彼(かれ)も蒟蒻(こんにやく)の幽霊(いうれい)見(み)たやうな空気抜(くうきぬ)けばかりぢや、108さうだから結構(けつこう)な玉(たま)を全部(ぜんぶ)盗(と)られて仕舞(しま)ひ、109平気(へいき)の平左(へいざ)でポカンとして為(な)す所(ところ)を知(し)らずと云(い)ふ腑甲斐(ふがひ)ない為体(ていたらく)、110私(わし)は思(おも)うても腹(はら)が立(た)ちますワイな。111玉治別(たまはるわけ)さま、112お前(まへ)さまも、113ちつと此(この)玉(たま)の事(こと)に就(つい)て御(ご)心配(しんぱい)なさつては何(ど)うだい。114宇津山(うづやま)郷(がう)の蛙飛(かはづと)ばしの蚯蚓切(みみづき)り、115薯(いも)の赤子(あかご)を育(そだ)てるのとは、116ちと宣伝使(せんでんし)は六ケ敷(むつかし)いですよ。117貴方(あんた)第一(だいいち)チヨカ[※「チョカ」とは行動が軽いこと。]だから此(この)玉(たま)探(さが)しに率先(そつせん)して、118もう今頃(いまごろ)にや何処(どこ)かに飛(と)んでいつてゐらつしやると思(おも)うて居(ゐ)たのに、119気楽(きらく)さうに夫婦(ふうふ)連(づ)れで、120ぞろぞろと昼(ひる)の真最中(まつさいちう)に何(なん)の事(こと)だいな、121ちと確(しつか)りなさらぬか。122人間(にんげん)の家(うち)は女房(にようばう)が肝腎(かんじん)ぢやぞえ。123これお勝(かつ)さまとやら、124お前(まへ)さまがこの玉治別(たまはるわけ)さまを、125ちつと鞭撻(べんたつ)せなければならぬぞえ。126千騎(せんき)一騎(いつき)の此(こ)の場合(ばあひ)に、127何(なに)を迂路(うろ)々々(うろ)と間誤(まご)ついて御座(ござ)るのぢやい』
128玉治別『高姫(たかひめ)さま、129貴女(あなた)は人(ひと)を責(せ)むるに急(きふ)にして己(おのれ)を責(せ)むると云(い)ふ事(こと)は知(し)らないのですか』
130高姫『そんな事(こと)は疾(と)うの昔(むかし)に知(し)つて居(を)りますワイな。131よう考(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。132金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)や紫(むらさき)の玉(たま)は、133謂(い)はば一旦(いつたん)私(わし)の身(み)の内(うち)のもので、134私(わし)の御魂(みたま)同然(どうぜん)だ。135腹(はら)の中(なか)から吐(は)きだしたのと、136吐(は)き出(だ)さぬだけの相違(さうゐ)ぢやないか。137アヽこんな事(こと)なら腹(はら)に呑(の)んでさへ居(を)れば、138こんな不調法(ぶてうはふ)は出来(でき)やしまいのに、139お前(まへ)さまが仕様(しやう)ない木挽(こびき)の杢助(もくすけ)やらお初(はつ)のやうな阿魔(あま)つちよを引張(ひつぱ)つて来(き)て高姫(たかひめ)の腹(はら)から吐(は)き出(だ)さしたりするものだから、140こんな事(こと)になつたのだ。141この大責任(だいせきにん)は元(もと)を糺(ただ)せば、142玉(たま)さま、143お前(まへ)が負(お)はねばならぬのだ。144その次(つぎ)に杢助(もくすけ)の娘(むすめ)のお初(はつ)、145是(これ)でも口答(くちごた)へをするならして見(み)なさい』
146玉治別『高姫(たかひめ)さま、147怪(け)しからぬ事(こと)を仰有(おつしや)います。148玉(たま)を吐(は)き出(だ)したのと此(この)度(たび)の紛失(ふんしつ)とは別問題(べつもんだい)ぢやありませぬか。149さう混淆(ごちやまぜ)にせられては聊(いささ)か私(わたくし)も迷惑(めいわく)致(いた)します』
150高姫『其(その)理屈(りくつ)が悪(わる)いのだよ。151お前(まへ)さまは謂(い)はば新米者(しんまいもの)の端役人(はしたやくにん)ぢや。152私(わし)は日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)ぢや、153同(おな)じ宣伝使(せんでんし)にしても天(てん)と地(ち)との懸隔(けんかく)がある。154私(わし)を失敗(しくじ)らしてお前(まへ)さまは平気(へいき)で見(み)て居(を)る気(き)か。155私(わし)の失敗(しくじり)は謂(い)はば三五教(あななひけう)の自滅(じめつ)も同然(どうぜん)ぢや。156お前(まへ)さまが一人(ひとり)や二人(ふたり)失敗(しくじ)つたつて、157決(けつ)して三五教(あななひけう)に影響(えいきやう)を及(およ)ぼすものでない。158兎(と)も角(かく)大責任(だいせきにん)を自覚(じかく)し私(わし)が盗(と)りましたと云(い)うて責任(せきにん)を帯(お)び、159一先(ひとま)ず此(この)場(ば)のごみを濁(にご)しなさい。160その間(あひだ)にこの高姫(たかひめ)が天眼通(てんがんつう)で在処(ありか)を探(さが)し、161お前(まへ)さまの無実(むじつ)を晴(は)らし、162さうして玉治別(たまはるわけ)さまは立派(りつぱ)な人(ひと)だと云(い)はれて信用(しんよう)が益々(ますます)あがつて来(く)る。163神(かみ)さまに仕(つか)へるものは、164これ位(くらゐ)な犠牲(ぎせい)的(てき)精神(せいしん)がなくては駄目(だめ)ぢや、165それが出来(でき)ないやうな事(こと)なら宣伝使(せんでんし)を返上(へんじやう)なさいませ。166なアお勝(かつ)さま、167私(わし)の云(い)ふ事(こと)が無理(むり)ですか、168無理(むり)なら無理(むり)とハツキリ云(い)うて下(くだ)さい』
169と稍(やや)精神(せいしん)に異状(いじやう)を帯(お)びたせいか、170勝手(かつて)気儘(きまま)な理屈(りくつ)を吹(ふ)き出(いだ)す。
171玉治別(たまはるわけ)『まアまア高姫(たかひめ)さま、172お鎮(しづ)まりなさいませ。173貴女(あなた)は少(すこ)し許(ばか)り逆上(ぎやくじやう)して居(ゐ)ますから、174病気(びやうき)の害(がい)になると済(す)まぬによつて、175今日(けふ)は一先(ひとま)づお暇(いとま)致(いた)します』
176高姫『これこれ、177此(この)重大(ぢうだい)なる責任(せきにん)を此(この)高姫(たかひめ)に塗(ぬ)りつけようとするのか。178大方(おほかた)お前(まへ)さまがそつと何々(なになに)したのぢやなからうかな。179何(ど)うも素振(そぶり)が怪(あや)しいぞえ』
180玉治別『病人(びやうにん)だと思(おも)うてあしらつて居(を)れば余(あま)りの事(こと)を云(い)ひなさる。181これから私(わたくし)も言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)さまにお届(とど)けして来(き)ます』
182高姫『言依別(ことよりわけ)が何(なん)ぢやいな、183あれは言依姫(ことよりひめ)の婿(むこ)ぢやないか。184謂(い)はば私(わし)の妹(いもうと)の婿(むこ)で私(わし)の弟(おとうと)も同然(どうぜん)だ。185真(しん)の日(ひ)の出神(でのかみ)の憑(かか)つた高姫(たかひめ)を措(お)いて、186あんな者(もの)に何(なに)を云(い)つたつて埒(らち)が開(あ)くものかい。187あれは知慧(ちゑ)と学(がく)とで、188人間界(にんげんかい)では一寸(ちよつと)豪(えら)さうに見(み)えるが、189神(かみ)の方(はう)から云(い)へば赤坊(あかんぼ)みたやうなものぢや。190なぜ高姫(たかひめ)の云(い)ふ事(こと)を聞(き)きなさらぬのかい』
191と目(め)を三角(さんかく)にして睨(にら)みつける。192お勝(かつ)は悔(くや)し涙(なみだ)に堪(た)へ兼(か)ねて其(その)場(ば)に泣(な)き倒(たふ)れる。
193高姫(たかひめ)『泣(な)いて事(こと)が済(す)むなら易(やす)い事(こと)だ。194私(わし)でも泣(な)きたいけれども神政(しんせい)成就(じやうじゆ)の御(おん)宝(たから)の行方(ゆくへ)を探(さが)す迄(まで)は、195そんな気楽(きらく)な、196泣(な)いてをれますか。197大(おほ)きな口(くち)を開(あ)けて、198わあわあと泣(な)くお前(まへ)さまより、199ぢいつと耐(こら)へて気張(きば)つて居(を)る高姫(たかひめ)の方(はう)が何程(なにほど)苦(くる)しいか分(わか)りませぬぞえ』
200玉治別(たまはるわけ)『兎(と)も角(かく)今日(けふ)はお暇(いとま)を致(いた)します。201ゆつくりと思案(しあん)して御(ご)返事(へんじ)に参(まゐ)ります』
202高姫『どつこい、203夫婦(ふうふ)の者(もの)、204此(この)解決(かいけつ)がつく迄(まで)一寸(いつすん)も動(うご)いてはなりませぬぞや』
205玉治別『はて迷惑(めいわく)の事(こと)だ。206お勝(かつ)、207どうしようかなア』
208 お勝(かつ)は又(また)もや大声(おほごゑ)を上(あ)げてオイオイ泣(な)き出(だ)した。209高姫(たかひめ)は枕(まくら)許(もと)の金盥(かなだらひ)を爪(つめ)でガシガシと掻(か)き鳴(な)らし乍(なが)ら、210もどかしさうに、
211高姫『あゝ玉(たま)が欲(ほ)しい。212玉(たま)が欲(ほ)しい。213玉(たま)はやつとあつてもがらくた人間(にんげん)のどたま計(ばか)りで仕方(しかた)がない。214よう是(これ)だけ蒟蒻玉(こんにやくだま)が集(あつ)まつたものだ、215これ確(しつか)り……玉(たま)さま……せぬかいな』
216と金盥(かなだらひ)をもつて玉治別(たまはるわけ)の頭(あたま)をガンとやつた。217玉治別(たまはるわけ)は、
218玉治別『困(こま)つた事(こと)になつたものぢや、219云(い)ふ事(こと)が薩張(さつぱり)支離(しり)滅裂(めつれつ)、220到頭(たうとう)魂(たま)が抜(ぬ)けて発狂(はつきやう)して了(しま)つた』
221と呟(つぶや)くを聞(き)き咎(とが)めて、222高姫(たかひめ)は口(くち)を尖(とが)らし、
223高姫『何(なに)、224私(わし)が発狂(はつきやう)したと見(み)えますか』
225玉治別『八(はつ)(発(はつ))狂(きやう)と嘲弄(からか)ふ貴女(あなた)は、226非常(ひじやう)に九(く)(苦(く))境(きやう)に陥(おちい)つて居(ゐ)るやうに見(み)えますワイ。227アハヽヽヽ』
228と焼糞(やけくそ)になつて高笑(たかわら)ひをする。229高姫(たかひめ)はムツと腹(はら)を立(た)て、
230高姫『長上(めうへ)に対(たい)して無礼(ぶれい)千万(せんばん)なその振舞(ふるまひ)』
231とあべこべに、232頭(あたま)をこづいた方(はう)から無礼(ぶれい)呼(よば)はりを浴(あ)びせかけられ、233玉治別(たまはるわけ)はお勝(かつ)の手(て)を取(と)り、
234玉治別『サアお勝(かつ)、235長坐(ながゐ)は畏(おそ)れぢや、236気(き)の鎮(しづ)まる迄(まで)家(いへ)に帰(かへ)らう』
237と此(この)場(ば)を見捨(みす)てて表(おもて)へ駆出(かけだ)した。238高姫(たかひめ)は狂気(きやうき)の如(ごと)く奥(おく)の間(ま)で怒鳴(どな)つて居(ゐ)る。
239 高姫(たかひめ)の病気(びやうき)と聞(き)いて見舞(みまひ)にやつて来(き)た杢助(もくすけ)は、240お初(はつ)の手(て)を引(ひ)き、241門口(かどぐち)で玉治別(たまはるわけ)夫婦(ふうふ)にベツタリ出会(でつくは)し、
242杢助『ヤア、243先生(せんせい)か』
244玉治別『杢助(もくすけ)さまか、245お初(はつ)さま、246ようお出(いで)なさいました』
247杢助『高姫(たかひめ)さまの様子(やうす)は何(ど)うですか』
248玉治別『いやもう大変(たいへん)です。249カンと叩(や)られて来(き)ました。250大変(たいへん)に、251私(わたし)やお初(はつ)さま始(はじ)め、252杢助(もくすけ)さまを恨(うら)んで居(ゐ)ますよ。253用心(ようじん)なさい、254又(また)カンとやられちや耐(たま)りませぬからなア』
255杢助『テンと訳(わけ)が分(わか)りませぬなア』
256玉治別『別(べつ)に勘考(かんかう)せいでも奥(おく)へお出(いで)になれば分(わか)ります。257一寸(ちよつと)私(わたし)は急(いそ)ぎますから、258お先(さき)へ御免(ごめん)蒙(かうむ)ります』
259と云(い)ひながら女房(にようばう)のお勝(かつ)と共(とも)に、260慌(あわただ)しく吾(わが)家(や)をさして帰(かへ)つて行(ゆ)く。
261(大正一一・五・二五 旧四・二九 加藤明子録)
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