霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 猛獣(まうじう)会議(くわいぎ)〔八九三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第32巻 海洋万里 未の巻 篇:第1篇 森林の都 よみ(新仮名遣い):しんりんのみやこ
章:第2章 猛獣会議 よみ(新仮名遣い):もうじゅうかいぎ 通し章番号:893
口述日:1922(大正11)年08月22日(旧06月30日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年10月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
宣伝歌を歌いながらアマゾンの大森林に進み入った鷹依姫一行の前に、大きな兎の一族が現れた。兎の長老は、月の大神のお示しにより、宣伝使たちがやってくることを知り、自分たちを助けてくれるように懇願しに迎え出たのだという。
この時雨の森は、太古に月の大神から兎一族に与えられた楽園であったが、アダムとエバの霊魂から発生した八岐大蛇とその眷属が跋扈し、モールバンドやエルバンドのような怪物となって兎一族を餌食とし暴威を振るっているという。
竜国別は兎の長老の請いを容れて、兎一族の都に向かうこととなった。兎たちは怪物や猛獣を避けて、広い湖をめぐらした、四方を丘に囲まれた安全地帯に住んでいた。兎一族は、湖のほとりに棲む数多の鰐族と同盟を結び、互いに怪物や猛獣に対する守りを固めていた。
モールバンドとエルバンドは、兎たちがここに居を定めてから、兎を食べることができなくなってしまった。そのため、代わりに獅子、虎、狼、熊などの猛獣を食らっていた。
あるとき、モールバンドはエルバンドを使者として、猛獣の集まる森林の都の獅子王に遣わした。モールバンドとエルバンドは、獅子王に、猛獣の軍隊を引き連れて兎の都を襲い、兎を食料として提供することを要求した。
この要求を飲まなければ、モールバンドとエルバンドは猛獣を手当たり次第に取り食らうという脅迫も含んでいた。獅子王は、熊、狼、虎、大蛇、鷲などの猛獣の頭を集めて協議をなした。
モールバンド・エルバンドに従うか抗戦するかで議論は紛糾したが、獅子王は結局、強敵に立ち向かうよりも、弱い兎を攻めて自分たちの命をつなぐ方を選択した。猛獣たちの軍はただちに兎の都に向かって進撃した。
兎の王はそうとは知らず、鷹依姫、竜国別、テーリスタン、カーリンスの宣伝使たちを饗応していた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-12-16 04:29:12 文字数:4560 OBC :rm3202
愛善世界社版:18頁 八幡書店版:第6輯 157頁 修補版: 校定版:18頁 普及版:7頁 初版: ページ備考:
001 鷹依姫(たかよりひめ)、002竜国別(たつくにわけ)の一行(いつかう)は宣伝歌(せんでんか)をうたひ乍(なが)ら、003数百万(すうひやくまん)年(ねん)の秘密(ひみつ)の籠(こも)りたる南岸(なんがん)の森林(しんりん)に進(すす)み入(い)る。004併(しか)し乍(なが)ら人跡(じんせき)なき此(この)森林(しんりん)も、005思(おも)ひの外(ほか)雑草(ざつさう)少(すくな)く、006空(そら)はあらゆる大木(たいぼく)に蔽(おほ)はれて、007日月(じつげつ)の光(ひかり)を見(み)る事(こと)甚(はなは)だ稀(まれ)であつた。
008 一本(いつぽん)の大木(たいぼく)と云(い)へば周囲(しうゐ)百丈(ひやくぢやう)余(あま)りもあり、009高(たか)さ数百丈(すうひやくぢやう)に及(およ)び、010樹上(じゆじやう)には猩々(しやうじやう)、011猅々(ひひ)、012野猿(やえん)の類(るゐ)群(むれ)をなし、013果物(くだもの)を常食(じやうしよく)として可(か)なりに安心(あんしん)な生活(せいくわつ)をつづけ、014其(その)種族(しゆぞく)を益々(ますます)繁殖(はんしよく)させ、015至(いた)る所(ところ)に猿(さる)の叫(さけ)び声(ごゑ)は耳(みみ)をつんざく許(ばか)り怪(あや)しく聞(きこ)えて居(ゐ)る。
016 二三尺(にさんじやく)許(ばか)りの大蜥蜴(おほとかげ)は時々(ときどき)一行(いつかう)が路(みち)を遮(さへぎ)り、017開闢(かいびやく)以来(いらい)見(み)た事(こと)もなき人(ひと)の姿(すがた)を見(み)て、018驚(おどろ)いて逃(に)げ隠(かく)るるもあり、019中(なか)には飛付(とびつ)き来(く)るもあり、020其(その)他(た)異様(いやう)の爬虫族(はちうぞく)、021先(さき)を争(あらそ)うて逃(に)げ隠(かく)るる音(おと)、022ザワザワと谷川(たにがは)の水流(すゐりう)の如(ごと)くに聞(きこ)え来(きた)る。023此(この)時(とき)白毛(はくまう)の兎(うさぎ)の一群(ひとむれ)、024大(だい)なるは現代(げんだい)の牛(うし)の如(ごと)きもの、025ノソノソと一行(いつかう)の前(まえ)に宣伝歌(せんでんか)を尋(たづ)ねて来(きた)り、026両足(りやうあし)を前(まへ)に行儀(ぎやうぎ)よく並(なら)べて涙(なみだ)を流(なが)し乍(なが)ら、
027兎(うさぎ)『私(わたくし)は此(この)森林(しんりん)に神代(かみよ)の昔(むかし)より永住(えいぢゆう)致(いた)しまする兎(うさぎ)の長(をさ)で厶(ござ)います。028此(この)通(とほ)り数多(あまた)の種族(しゆぞく)を引連(ひきつ)れ、029あなた様(さま)一行(いつかう)の御(お)降(くだ)りを月(つき)の大神(おほかみ)様(さま)より御(お)示(しめ)しに預(あづか)り、030ここに謹(つつし)んでお迎(むか)へに参(まゐ)りました。031あなたは三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)鷹依姫(たかよりひめ)様(さま)、032竜国別(たつくにわけ)様(さま)の御(ご)一行(いつかう)で厶(ござ)いませう。033何卒(なにとぞ)この森林(しんりん)を御(ご)踏査(たうさ)下(くだ)さいまして、034吾々(われわれ)の安逸(あんいつ)に一生(いつしやう)を送(おく)り得(え)らるる様(やう)、035御(お)守(まも)りの程(ほど)偏(ひとへ)に願(ねが)ひ上(あ)げ奉(たてまつ)ります』
036と慇懃(いんぎん)に頼(たの)み入(い)るにぞ、037竜国別(たつくにわけ)は、
038竜国別『ヤア始(はじ)めて御(お)目(め)にかかります。039あなたは此(この)森林(しんりん)に長(なが)らく御(お)住居(すまゐ)なさると聞(き)きましたが、040大変(たいへん)に険呑(けんのん)な所(ところ)で厶(ござ)いますなア』
041兎『ハイ御存(ごぞん)じの通(とほ)り、042此(この)時雨(しぐれ)の森(もり)は、043其(その)昔(むかし)吾々共(われわれども)の種族(しゆぞく)が月(つき)の大神(おほかみ)様(さま)より千代(ちよ)の棲処(すみか)として与(あた)へられたもので厶(ござ)いますが、044アダム、045エバの霊(みたま)より発生(はつせい)したる八岐(やまた)の大蛇(をろち)の一族(いちぞく)を始(はじ)め悪鬼(あくき)悪狐(あくこ)の子孫(しそん)益々(ますます)跋扈(ばつこ)して、046遂(つひ)にはモールバンドやエルバンドの如(ごと)き怪獣(くわいじう)と成(な)り変(かは)り、047吾々(われわれ)一同(いちどう)のものを餌食(ゑじき)と致(いた)し、048今(いま)は殆(ほとん)ど亡(ほろ)ぼされて了(しま)ひ、049此(この)数百(すうひやく)里(り)の大森林(だいしんりん)の棲処(すみか)に於(おい)て、050実(じつ)に数千頭(すうせんとう)の影(かげ)を止(とど)むるのみ、051実(じつ)に吾々(われわれ)は悲惨(ひさん)な生活(せいくわつ)をつづけ、052戦々(せんせん)兢々(きようきよう)として、053一時(いつとき)の間(ま)も安楽(あんらく)に生活(せいくわつ)を送(おく)る事(こと)が出来(でき)ないので厶(ござ)います。054加(くは)ふるに、055虎(とら)、056狼(おほかみ)、057獅子(しし)、058熊(くま)、059大蛇(をろち)、060鷲(わし)などの連中(れんぢう)が、061常世(とこよ)の国(くに)のロツキー山(ざん)方面(はうめん)より、062常世(とこよ)会議(くわいぎ)のありし後(のち)、063此(この)森林(しんりん)に逃(に)げ来(きた)り、064吾(われ)等(ら)が種族(しゆぞく)を餌食(ゑじき)と致(いた)し、065暴虐(ばうぎやく)無道(ぶだう)の其(その)振舞(ふるまひ)、066実(じつ)に名状(めいじやう)す可(べか)らざる惨状(さんじやう)で厶(ござ)います。067何卒(なにとぞ)あなた方(がた)の御(ご)神力(しんりき)を以(もつ)て此(この)森林(しんりん)の悪獣(あくじう)、068悪蛇(あくだ)、069悪鳥(あくてう)を言向和(ことむけやは)し、070動物(どうぶつ)一切(いつさい)相和(あひわ)し相親(あひした)しみ、071天与(てんよ)の恩恵(おんけい)を永遠(えいゑん)に楽(たの)しむ様(やう)、072お執(と)りなしを偏(ひとへ)に希(こひねが)ひ奉(たてまつ)ります』0721=兎は月神を祭る民族の意=
073竜国別『委細(ゐさい)承知(しようち)致(いた)した。074然(しか)らば、075是(これ)より其(その)方(はう)は吾々(われわれ)の先導(せんだう)になつて、076第一(だいいち)に猛獣(まうじう)の棲処(すみか)へ案内(あんない)致(いた)せ。077惟神(かむながら)の神法(しんぱふ)を以(もつ)て、078彼(かれ)等(ら)を善(ぜん)に導(みちび)き、079悪(あく)を悔(く)い改(あらた)めしめ、080此(この)森林(しんりん)をして忽(たちま)ち天国(てんごく)の楽園(らくゑん)と化(くわ)せしめむ。081あゝ面白(おもしろ)し面白(おもしろ)し……母上(ははうへ)様(さま)、082妙(めう)なことになつて参(まゐ)りました。083サア兎殿(うさぎどの)、084案内(あんない)召(め)されよ』
085兎『ハイ、086早速(さつそく)の御(ご)承知(しようち)、087吾々(われわれ)一族(いちぞく)は実(じつ)に蘇生(そせい)の思(おも)ひを致(いた)します』
088と云(い)ひ乍(なが)ら、089大兎(おほうさぎ)は数多(あまた)の団体(だんたい)を率(ひき)ゐ、090鷹依姫(たかよりひめ)一行(いつかう)の前後(ぜんご)を警護(けいご)しつつ森林(しんりん)深(ふか)く進(すす)み行(ゆ)く。
091 数多(あまた)の兎(うさぎ)に送(おく)られて、092鷹依姫(たかよりひめ)一行(いつかう)は天(てん)を封(ふう)じて樹(た)てる森林(しんりん)の中(なか)を、093意気(いき)揚々(やうやう)と半日(はんにち)許(ばか)り進(すす)み行(ゆ)く。094此処(ここ)には稍(やや)展開(てんかい)された樹木(じゆもく)のなき空地(あきち)がある。095殆(ほとん)ど十(じふ)里(り)四方(しはう)の間(あいだ)は余(あま)り太(ふと)き樹木(じゆもく)もなく、096針葉樹(しんえうじゆ)の小高(こだか)き丘(をか)四方(しはう)を包(つつ)み、097恰(あだか)も青垣山(あをがきやま)の屏風(びやうぶ)を引廻(ひきまは)せし如(ごと)き安全(あんぜん)地帯(ちたい)である。
098 兎(うさぎ)の一族(いちぞく)は僅(わづか)に此(この)地帯(ちたい)を永住処(えいぢうしよ)となして生活(せいくわつ)を続(つづ)けてゐる。099謂(い)はば兎(うさぎ)の都(みやこ)である。100其(その)殆(ほとん)ど中心(ちうしん)に、101聖地(せいち)に於(お)ける桶伏山(をけぶせやま)の如(ごと)き美(うる)はしき岩石(がんせき)を以(もつ)て自然(しぜん)に造(つく)られたる霊場(れいぢやう)があり、102そこには兎(うさぎ)の最(もつと)も尊敬(そんけい)する月(つき)の大神(おほかみ)の宮(みや)が儼然(げんぜん)として建(た)てられてある。
103 此(この)清(きよ)き宮山(みややま)を繞(めぐ)る清鮮(せいせん)の水(みづ)を湛(たた)へた広(ひろ)き湖(うみ)の辺(ほとり)には、104大小(だいせう)無数(むすう)の鰐(わに)=鰐は武人の群=が棲息(せいそく)し、105鰐(わに)と兎(うさぎ)の両族(りやうぞく)は互(たがひ)に相提携(あひていけい)して天与(てんよ)の恩恵(おんけい)を楽(たのし)んでゐる。106つまり此(この)鰐(わに)は森林(しんりん)の持主(もちぬし)たる兎(うさぎ)の眷属(けんぞく)とも云(い)ふべきものにして、107兎(うさぎ)の国(くに)の軍隊(ぐんたい)の如(ごと)き用務(ようむ)に従事(じうじ)してゐるのである。
108 モールバンド、109エルバンドの怪獣(くわいじう)は兎(うさぎ)を食(しよく)する事(こと)を最(もつと)も好(この)み、110日夜(にちや)其(その)事(こと)のみに精神(せいしん)を傾注(けいちゆう)して居(ゐ)る。111されど兎(うさぎ)は最早(もはや)此(この)安全(あんぜん)地帯(ちたい)に集(あつ)まりし事(こと)とて、112巨大(きよだい)なる肉体(にくたい)を有(いう)するモールバンドは、113数多(あまた)の密生(みつせい)したる樹木(じゆもく)に遮(さへぎ)られて、114ここに侵入(しんにふ)するを得(え)なくなつて了(しま)つた。115如何(いか)にエルバンドと雖(いへど)も、116アマゾン河(がは)の岸(きし)より首(くび)を伸(の)ばし、117ここ迄(まで)届(とど)かす事(こと)は到底(たうてい)出来(でき)ない。118それ故(ゆゑ)止(や)むを得(え)ず、119余(あま)り好(この)まざる肉(にく)ながら虎(とら)、120狼(おほかみ)、121熊(くま)、122獅子(しし)等(など)を捕喰(とりくら)ひ、123僅(わづ)かに其(その)餓(うゑ)を凌(しの)ぎつつあるのである。
124 或時(あるとき)モールバンドはエルバンドを使者(ししや)として、125猛獣(まうじう)の集(あつ)まる森林(しんりん)の都(みやこ)、126獅子(しし)の巣窟(さうくつ)に向(むか)つて使(つか)ひせしめ、127ここに談判(だんぱん)を開始(かいし)する事(こと)となつた。128其(その)談判(だんぱん)の要領(えうりやう)は左(さ)の通(とほ)りである。
129獅子王(ししわう)『あなたはモールバンド様(さま)の御(ご)使者(ししや)エルバンド様(さま)、130能(よ)くこそ御(ご)入来(じゆらい)下(くだ)さいました。131就(つ)いては今日(こんにち)の御用(ごよう)の趣(おもむき)、132何卒(なにとぞ)詳(つぶ)さに御(お)話(はな)し下(くだ)さいませ』
133エルバンド『吾々(われわれ)今日(こんにち)使者(ししや)として獅子王(ししわう)の都(みやこ)へ参(まゐ)りしは、134余(よ)の儀(ぎ)では御座(ござ)らぬ。135吾(わが)統領(とうりやう)のモールバンド様(さま)、136アマゾン河(がは)に数多(あまた)の眷族(けんぞく)を御(お)連(つ)れ遊(あそ)ばし、137兎(うさぎ)を捉(とら)へて常食(じやうしよく)となし給(たま)ふ。138吾々(われわれ)も亦(また)、139兎(うさぎ)を以(もつ)て最上(さいじやう)の美味(びみ)と致(いた)して居(ゐ)るもの、140然(しか)るに此(この)頃(ごろ)は兎(うさぎ)の影(かげ)も見(み)せ申(まを)さず、141甚(はなはだ)以(もつ)て吾々(われわれ)一族(いちぞく)は困窮(こんきう)致(いた)して居(を)る次第(しだい)で御座(ござ)います。142就(つ)いては獅子王(ししわう)殿(どの)に一(ひと)つの談判(だんぱん)があつて、143ワザワザここに使者(ししや)として、144エルバンド出張(しゆつちやう)仕(つかまつ)りました。145其(その)理由(りいう)とする所(ところ)は、146獅子王(ししわう)の手(て)を以(もつ)て、147熊(くま)、148虎(とら)、149狼(おほかみ)を使(つか)ひ、150兎(うさぎ)の都(みやこ)に侵入(しんにふ)し、151彼(かれ)等(ら)を生捕(いけどり)にし、152日(ひ)に数百(すうひやく)の兎(うさぎ)をモールバンド様(さま)に御(ご)献上(けんじやう)ありたし。153然(しか)らざれば熊(くま)、154鹿(しか)、155虎(とら)、156狼(おほかみ)、157止(や)むを得(え)ざれば、158獅子(しし)の一族(いちぞく)をも、159手当(てあた)り次第(しだい)捕喰(とりくら)ふべしとの厳命(げんめい)で御座(ござ)いますれば、160速(すみや)かに否(いな)やの御(ご)返答(へんたふ)を承(うけたま)はりたう御座(ござ)います』
161獅子王『これはこれは、162何事(なにごと)かと思(おも)へば、163思(おも)ひもよらぬ御(おん)仰(あふ)せ、164吾々(われわれ)一族(いちぞく)は虎(とら)、165狼(おほかみ)、166熊(くま)、167獅子(しし)の区別(くべつ)なく、168日夜(にちや)モールバンド様(さま)の部下(ぶか)に捉(とら)へられ、169日(ひ)に幾百(いくひやく)となく生命(せいめい)を断(た)たれ、170捕喰(とりくら)はれ、171実(じつ)に困憊(こんぱい)の極(きよく)に達(たつ)して居(を)りまする。172就(つい)ては吾々(われわれ)四足(よつあし)一族(いちぞく)は茲(ここ)に大軍隊(だいぐんたい)を組織(そしき)し、173北岸(ほくがん)の森林(しんりん)の同志(どうし)と相謀(あひはか)り、174川(かは)を差挟(さしはさ)んでモールバンド、175エルバンドの軍隊(ぐんたい)を一匹(いつぴき)も残(のこ)らず殲滅(せんめつ)し呉(く)れむと日夜(にちや)肝胆(かんたん)を砕(くだ)き、176今(いま)や協議(けふぎ)の真最中(まつさいちう)で御座(ござ)れば、177早速(さつそく)に此(この)返答(へんたふ)は致(いた)し難(がた)し。178御(ご)返事(へんじ)は、179追(お)つてアマゾン河(がは)の岸(きし)に使者(ししや)を遣(つか)はし、180御(お)答(こた)へ申(まを)さむ。181此(この)場(ば)は一先(ひとま)づ御(お)帰(かへ)りあらむ事(こと)を希望(きばう)致(いた)します』
182エルバンド『然(しか)らば是非(ぜひ)に及(およ)ばぬ。183一(いち)時(じ)も早(はや)く協議(けふぎ)を遂(と)げ、184御(ご)返事(へんじ)あらむことを希望(きばう)致(いた)します』
185と云(い)ひ捨(す)て、186長大(ちやうだい)なる巨躯(きよく)を蛭(ひる)の如(ごと)く伸縮(しんしゆく)させ、187のそりのそりと獅子王(ししわう)の都(みやこ)を後(あと)に、188アマゾン河(がは)のモールバンドの本陣(ほんぢん)と聞(きこ)えたる寝覚(ねざめ)の淵(ふち)を指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
189 あとに獅子王(ししわう)は数多(あまた)の四(よ)つ足族(あしぞく)を獅子(しし)の都(みやこ)に召集(せうしふ)し、190一大(いちだい)会議(くわいぎ)を開催(かいさい)する事(こと)となりぬ。
191 獅子王(ししわう)はエルバンドの使者(ししや)の帰(かへ)つた後(のち)、192直(ただ)ちに使獅子(つかひじし)を森林(しんりん)の各処(かくしよ)に派遣(はけん)し、193熊王(くまわう)、194狼王(おほかみわう)、195虎(とら)の王(わう)、196大蛇(をろち)の頭(かしら)、197鷲(わし)の王(わう)などを代表者(だいへうしや)として召集(せうしふ)し、198獅子王(ししわう)の館(やかた)に於(おい)て大会議(だいくわいぎ)を開(ひら)く事(こと)となつた。199日(ひ)ならずして各獣(かくじう)の代表者(だいへうしや)は集(あつ)まり来(きた)る。
200 山桃(やまもも)の林(はやし)の下(もと)に大会議(だいくわいぎ)は開(ひら)かれた。201獅子王(ししわう)は先(ま)づ開会(かいくわい)の挨拶(あいさつ)をなし終(をは)つて、
202獅子王『モールバンドの使者(ししや)の齎(もたら)した申込(まをしこ)みに対(たい)し、203各自(かくじ)の意見(いけん)を吐露(とろ)し、204最善(さいぜん)の方法(はうはふ)を協議(けふぎ)されむ事(こと)を望(のぞ)む』
205と云(い)ひ乍(なが)ら、206諄々(じゆんじゆん)として一伍(いちぶ)一什(しじふ)の経緯(いきさつ)を物語(ものがた)れば、207茲(ここ)に熊王(くまわう)は進(すす)み出(で)て、208手(て)に唾(つばき)し憤然(ふんぜん)として雄猛(をたけ)びし、209巨大(きよだい)なる目(め)を瞠(みは)りつつ、
210熊王『皆様(みなさま)、211如何(いかが)で御座(ござ)いませう。212吾々(われわれ)四(よ)つ足族(あしぞく)は、213今日迄(こんにちまで)互(たがひ)に反噬(はんぜい)を逞(たくま)しうし、214優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)、215弱肉(じやくにく)強食(きやうしよく)の戦闘(せんとう)を続(つづ)けて参(まゐ)りました。216処(ところ)が仁愛(じんあい)深(ふか)き獅子王(ししわう)様(さま)の御(ご)威勢(ゐせい)と御(ご)尽力(じんりよく)に依(よ)り、217互(たがひ)に其(その)範囲(はんゐ)を犯(をか)さず、218熊(くま)は熊(くま)の団体(だんたい)、219狼(おほかみ)は狼(おほかみ)、220豹(へう)は豹(へう)、221大蛇(をろち)は大蛇(をろち)、222虎(とら)は虎(とら)と各(おのおの)部落(ぶらく)を作(つく)り、223此(この)森林(しんりん)は漸(やうや)く無事(ぶじ)太平(たいへい)に治(をさ)まり、224辛(から)うじて猿(さる)を捕(と)り、225兎(うさぎ)を捕獲(ほくわく)し、226吾々(われわれ)獣族(じうぞく)は漸(やうや)く其(その)生命(せいめい)を保(たも)つて来(き)たのである。227然(しか)るに此(この)頃(ごろ)モールバンド、228エルバンドの一族(いちぞく)、229アマゾン河(がは)より這(は)ひ上(あが)り来(きた)り、230吾(われ)等(ら)が部落(ぶらく)を犯(をか)す事(こと)一再(いつさい)ならず、231吾(わが)種族(しゆぞく)は夜(よ)も枕(まくら)を高(たか)くし安眠(あんみん)する事(こと)も出来(でき)ない惨状(さんじやう)で御座(ござ)います。232然(しか)るに何(なん)ぞや、233悪虐(あくぎやく)益々(ますます)甚(はなは)だしく、234日(ひ)に数百頭(すうひやくとう)の兎(うさぎ)を貢(みつぎ)せざれば、235吾々(われわれ)が種族(しゆぞく)を捕(と)り喰(くら)ふべしとの酷烈(こくれつ)なる要求(えうきう)、236どうして是(これ)が吾々(われわれ)として応(おう)じられませうか。237吾々(われわれ)は仮令(たとへ)種族(しゆぞく)全滅(ぜんめつ)の厄(やく)に遭(あ)ふとも、238撓(たゆ)まず屈(くつ)せず一戦(いつせん)を試(こころ)み、239勝敗(しようはい)を決(けつ)せむ覚悟(かくご)で御座(ござ)る。240皆様(みなさま)の御(お)考(かんが)へは如何(いかが)で御座(ござ)いますか』
241と息(いき)も荒々(あらあら)しく述(の)べ立(た)つる。242狼王(おほかみわう)は直(ただ)ちに口(くち)を開(ひら)き、
243狼王『熊王(くまわう)様(さま)の御(ご)意見(いけん)、244実(じつ)に御尤(ごもつと)も至極(しごく)では御座(ござ)いまするが、245どう考(かんが)へても強者(きやうしや)に対(たい)する吾々(われわれ)の如(ごと)き弱者(じやくしや)として、246戦(たたか)ふなどとは思(おも)ひも寄(よ)らぬ拙劣(せつれつ)なる策(さく)では御座(ござ)いますまいか。247常世(とこよ)会議(くわいぎ)に於(おい)て吾(わが)祖先(そせん)は翼(つばさ)をそがれ、248最早(もはや)空中(くうちう)飛行(ひかう)の自由(じいう)を失(うしな)ひし吾々(われわれ)四(よ)つ足族(あしぞく)、249如何(いか)に獅子(しし)奮迅(ふんじん)の勢(いきほひ)にて攻撃(こうげき)致(いた)すとも、250暴虎(ぼうこ)馮河(ひようが)の勇(ゆう)あるとも、251豺狼(さいらう)の奸策(かんさく)を弄(ろう)するとも、252到底(たうてい)及(およ)び難(がた)き議論(ぎろん)だと考(かんが)へます。253若(し)かず彼(かれ)が要求(えうきう)を容(い)れ部下(ぶか)を駆使(くし)して兎(うさぎ)を捕獲(ほくわく)し、254モールバンドに日々(にちにち)これを貢(みつ)ぎ、255吾(われ)等(ら)一族(いちぞく)の大難(だいなん)を免(まぬが)れるが、256第一(だいいち)の策(さく)かと考(かんが)へます。257勝敗(しようはい)の数(すう)分(わ)かり切(き)つたる此(この)戦闘(せんとう)に従事(じゆうじ)するは策(さく)の得(え)たるものではありますまい。258皆様(みなさま)如何(いかが)で御座(ござ)いませうか』
259と首(くび)を傾(かたむ)け、260前足(まへあし)を腕(うで)の如(ごと)くに組(く)みながら、261心配(しんぱい)げに述(の)べ立てる。
262 虎王(とらわう)は腕(うで)を組(く)み、263髭(ひげ)に露(つゆ)をもたせ、264巨眼(きよがん)をクワツと見開(みひら)き、265言葉(ことば)も重々(おもおも)しく、
266虎王『吾々(われわれ)の考(かんが)ふる所(ところ)に依(よ)れば、267如何(いか)に弱肉(じやくにく)強食(きやうしよく)を恣(ほしいまま)にするモールバンドなればとて、268吾々(われわれ)の種族(しゆぞく)を殲滅(せんめつ)することは出来(でき)ますまい。269吾々(われわれ)も天地(てんち)の神(かみ)の水火(いき)を以(もつ)て生(うま)れ、270神(かみ)の精霊(せいれい)の宿(やど)りしものなれば、271如何(いか)に悪虐(あくぎやく)無道(むだう)のモールバンドなればとて、272妄(みだ)りに暴威(ばうゐ)を逞(たくま)しうし、273此(この)森林(しんりん)を吾物顔(わがものがほ)に占領(せんりやう)する事(こと)は到底(たうてい)不可能(ふかのう)でせう。274要(えう)するに彼(かれ)等(ら)が如何(いか)なる事(こと)を申込(まをしこ)み来(きた)るとも虎耳(こじ)狼風(らうふう)と聞流(ききなが)し、275相手(あひて)にならず、276打棄(うちす)ておく方(はう)が獅子(しし)(志士(しし))の本分(ほんぶん)で御座(ござ)らう。277……熊王殿(くまわうどの)、278豹王殿(へうわうどの)、279大蛇(をろち)の頭殿(かしらどの)、280諸君(しよくん)の御(ご)意見(いけん)は如何(いかが)で御座(ござ)りますか』
281大蛇(をろち)の頭(かしら)『吾々(われわれ)如何(いか)に剽悍(へうかん)決死(けつし)の勇(ゆう)ありとも、282モールバンドの一族(いちぞく)、283完全(くわんぜん)無欠(むけつ)の武器(ぶき)を備(そな)へ攻来(せめきた)るに於(おい)ては到底(たうてい)敵(てき)する事(こと)は出来(でき)ますまい。284飽(あ)く迄(まで)も豺狼(さいらう)の欲(よく)を逞(たくま)しうし、285獅子(しし)奮迅(ふんじん)の勢(いきほひ)を以(もつ)て猛虎(まうこ)の如(ごと)く攻(せ)め来(きた)る敵軍(てきぐん)、286何程(なにほど)準備(じゆんび)は熊(くま)なく整(ととの)ふとも、287到底(たうてい)防戦(ばうせん)する豺(さい)も覚束(おぼつか)なき吾々(われわれ)の境遇(きやうぐう)、288なまじひに強者(きやうしや)に向(むか)つて弓(ゆみ)を引(ひ)くよりは、289モールバンドの命(めい)に従(したが)ひ、290兎(うさぎ)の都(みやこ)に攻(せ)めのぼり、291残(のこ)らずこれを捕獲(ほくわく)し、292モールバンドの前(まへ)に貢物(みつぎもの)として捧(ささ)げなば、293彼(かれ)が歓心(くわんしん)を買(か)ひ且(か)つ同情(どうじやう)を得(え)、294吾(われ)等(ら)の種族(しゆぞく)を捕喰(とりくら)ふことを免(めん)じて呉(く)れるでせう。295弱(じやく)を以(もつ)て強(きやう)に当(あた)るは吾々(われわれ)の虎(とら)ざる所(ところ)、296一刻(いつこく)も早(はや)く兎(うさぎ)の都(みやこ)に進撃(しんげき)し、297彼(かれ)等(ら)を悉(ことごと)く捕獲(ほくわく)して貢物(みつぎもの)となし、298吾(われ)等(ら)種族(しゆぞく)の安全(あんぜん)を保(たも)つに鹿(しか)ず、299議長(ぎちやう)獅子王(ししわう)殿(どの)、300御(ご)意見(いけん)如何(いか)がで御座(ござ)るか』
301と詰(つ)めよる。302獅子王(ししわう)は暫(しば)し首(かうべ)を傾(かたむ)け獅(し)案(あん)にくれてゐたが、303やがて頭(かしら)を擡(もた)げ、304大(おほ)きく唸(うな)り乍(なが)ら、
305獅子王『左様(さやう)で御座(ござ)る。306到底(たうてい)勝算(しようさん)なき敵(てき)に向(むか)つて戦(たたかひ)を挑(いど)み、307部下(ぶか)の者共(ものども)を亡(ほろぼ)されむよりは、308弱小(じやくせう)なる兎(うさぎ)の都(みやこ)に攻(せ)め入(い)り彼(かれ)等(ら)を引(ひき)虎(とら)へ、309戦(たたかひ)の危害(きがい)を除(のぞ)くに若(し)かず。310鹿(しか)らば諸(しよ)窘(くん)と共(とも)に時(とき)を移(うつ)さず一族(いちぞく)を引率(いんそつ)し、311兎(うさぎ)の都(みやこ)を繞(めぐ)る四辺(しへん)の山(やま)より一斉(いつせい)に攻(せ)め入(い)り、312鬼虎(きこ)堂々(だうだう)として湖(みづうみ)を渡(わた)り、313兎(うさぎ)の王(わう)を降服(かうふく)せしめ、314一族(いちぞく)が犠牲(ぎせい)に供(きよう)さむ』
315と憤然(ふんぜん)として宣示(せんじ)する。316一同(いちどう)は獅子王(ししわう)の宣示(せんじ)に返(かへ)す言葉(ことば)もなく、317直(ただち)に軍備(ぐんび)を整(ととの)へ数多(あまた)の部下(ぶか)を引率(いんそつ)し、318兎(うさぎ)の都(みやこ)を指(さ)して進撃(しんげき)することとなりぬ。
319 兎王(うさぎわう)は斯(か)かる敵軍(てきぐん)の襲来(しふらい)せむとは神(かみ)ならぬ身(み)の知(し)る由(よし)もなく、320鷹依姫(たかよりひめ)、321竜国別(たつくにわけ)、322テー、323カーの四(よ)人(にん)の賓客(ひんきやく)に珍(めづら)しき物(もの)を饗応(きやうおう)し、324数多(あまた)の部下(ぶか)を集(あつ)めて舞(ま)ひ踊(をど)り狂(くる)ひつつ四(よ)人(にん)の旅情(りよじやう)を慰(なぐさ)めむと全力(ぜんりよく)を尽(つく)し居(ゐ)たりき。
325(大正一一・八・二二 旧六・三〇 松村真澄録)
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