霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 鰐(わに)の橋(はし)〔九〇三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第32巻 海洋万里 未の巻 篇:第2篇 北の森林 よみ(新仮名遣い):きたのしんりん
章:第12章 鰐の橋 よみ(新仮名遣い):わにのはし 通し章番号:903
口述日:1922(大正11)年08月23日(旧07月01日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年10月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高姫を助けに森林に入った春彦とヨブは、呼ばわっても高姫の居場所がわからない。春彦は探しながら宣伝歌を歌い始めた。これまでの経緯を歌いながら、高姫の改心を願う内容であった。
春彦とヨブが奥へ奥へと進むと、ようやく高姫が避難している大樹のところまでやってきた。見れば小山のようなモールバンドが目を怒らせて高姫を狙っている。春彦は恐ろしさに震えて、言霊がうまく発射できなくなってしまった。
モールバンドは春彦とヨブが近づいてきたことに気づき、今度は春彦とヨブを狙い始めた。二人は大木に登って避難し、互いに境遇を嘆きながら誰か助けに来てくれる者がないかと待つのみであった。
すると、そこへ安彦、宗彦、秋山別、モリスの四人が、宣伝歌を歌いながらやってきた。高姫や春彦らは樹上からその歌を聞いて、三五教徒であることがわかり、勇気づけられて力いっぱい天津祝詞を奏上した。
安彦ら四人も、高姫たちがいることがわかって喜び、呼応して元気を出して天津祝詞を奏上した。モールバンドはなおもひるまず樹上の一行を狙っていたが、そこへ琉と球の大火光が帽子ケ岳から落ちてきた。モールバンドはこれに驚き、こそこそと森林を逃げ出してアマゾン河に去ってしまった。
ここに高姫一行と安彦一行合わせて八人は合流した。安彦たちは高姫に、アマゾン河の南の大森林に、鷹依姫が猛獣たちを従えていると消息を伝えた。一行の発した天津祝詞の声を聴きつけて、北の大森林の猛獣たちが慕い集まり、八人の後に続いた。
アマゾン河を前にして高姫は、南岸に無事に渡ることを一生懸命に祈願した。すると幾千万もの鰐が川底から現れ、鰐橋をかけた。高姫は、大神の神徳と鰐の好意に感謝した。
こうして、何里もの広いアマゾン河の川幅も、無事に渡りきることができた。また、集まってきた北の森の猛獣たちも一緒に南岸に渡り、高姫一行を兎の都まで送った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-05-14 18:31:05 文字数:4006 OBC :rm3212
愛善世界社版:134頁 八幡書店版:第6輯 197頁 修補版: 校定版:140頁 普及版:56頁 初版: ページ備考:
001 春彦(はるひこ)はヨブと共(とも)に高姫(たかひめ)の危難(きなん)を救(すく)はむと、002大声(おほごゑ)に叫(さけ)びながら密林(みつりん)の中(なか)に駆(か)け入(い)り、003呼(よ)べど叫(さけ)べど、004森(もり)の木霊(こだま)に吾(わが)声(こゑ)の反響(はんきやう)するのみ、005何(なん)の見当(けんたう)もつかず、006已(や)むを得(え)ず大声(おほごゑ)に歌(うた)ひながら、007森林(しんりん)を何処(どこ)彼処(かしこ)となく循(めぐ)り始(はじ)めたり。
008春彦(はるひこ)『吾(われ)等(ら)の師匠(ししやう)と頼(たの)みたる
009高姫(たかひめ)さまが又(また)しても
010金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)
011其(その)他(た)の玉(たま)に魂(たま)ぬかれ
012アタ恥(はづ)かしや森林(しんりん)の
013此(この)正中(まんなか)で高倉(たかくら)や
014月日(つきひ)、旭(あさひ)の明神(みやうじん)に
015心(こころ)の底(そこ)を査(しら)べられ
016散々(さんざん)脂(あぶら)を搾(しぼ)られて
017体(からだ)は泥(どろ)にまみれつつ
018尚(なほ)も取(と)れない負惜(まけをし)み
019へらず口(ぐち)のみ言(い)ひながら
020吾(われ)等(ら)二人(ふたり)を振棄(ふりす)てて
021元来(もとき)し路(みち)へ引返(ひきかへ)し
022鷹依姫(たかよりひめ)の在処(ありか)をば
023捜(さが)さむものと出(い)でましぬ
024吾々(われわれ)二人(ふたり)は是非(ぜひ)もなく
025西北(せいほく)指(さ)して進(すす)み行(ゆ)けば
026道(みち)の片方(かたへ)の石地蔵(いしぢざう)
027耳(みみ)が取(と)れたり手(て)が千切(ちぎ)れ
028頭(あたま)の欠(か)けた立(た)ちすくみ
029黒(くろ)い顔(かほ)して道(みち)の辺(べ)に
030罷(まか)り立(た)つたる其(その)前(まへ)に
031暫(しばら)く息(いき)を休(やす)めつつ
032高姫(たかひめ)さまの噂(うはさ)のみ
033為(な)せる折(をり)しも石地蔵(いしぢざう)
034ソロソロ立(た)つて吾(わが)前(まへ)に
035胡坐(あぐら)をかいてすわり込(こ)み
036不思議(ふしぎ)や物(もの)をベラベラと
037喋(しやべ)り出(だ)したる可笑(をか)しさよ
038化(ば)けた地蔵(ぢざう)の言(い)ふことにや
039高姫(たかひめ)さまや常彦(つねひこ)は
040モールバンドに取巻(とりま)かれ
041大木(おほき)の枝(えだ)にかけ登(のぼ)り
042避難(ひなん)してゐる最中(さいちう)に
043猅々(ひひ)の群(むれ)奴(め)がやつて来(き)て
044無性(むしやう)矢鱈(やたら)にせめかける
045モールバンドは木(き)の下(した)に
046目(め)を怒(いか)らして控(ひか)へ居(を)る
047進退(しんたい)茲(ここ)に谷(きは)まりて
048流石(さすが)剛毅(がうき)の高姫(たかひめ)も
049常彦(つねひこ)諸共(もろとも)抱(いだ)き合(あ)ひ
050アヽアヽどうせう斯(か)うせうと
051吐息(といき)もらして居(ゐ)るだらう
052春彦(はるひこ)、ヨブの両人(りやうにん)は
053こんな話(はなし)を耳(みみ)にして
054如何(どう)して見捨(みす)てておかれうか
055仮令(たとへ)大蛇(をろち)の巣窟(さうくつ)も
056モールバンドの棲処(すみか)をも
057恐(おそ)れず撓(たゆ)まず進撃(しんげき)し
058救(すく)ひ出(だ)さねばおかれない
059あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
060皇(すめ)大神(おほかみ)の御光(みひかり)に
061高姫(たかひめ)さまの在処(ありか)をば
062てらして吾(われ)に見(み)せ給(たま)へ
063高姫(たかひめ)さまも是(これ)からは
064心(こころ)の底(そこ)より改良(かいりやう)し
065三五教(あななひけう)の神柱(かむばしら)
066神(かみ)の使(つかひ)と申(まを)しても
067恥(はづ)かしからぬ魂(たま)となり
068キツト手柄(てがら)を為(な)さるだらう
069一(いち)時(じ)も早(はや)く胸(むね)の戸(と)を
070開(ひら)いて在処(ありか)を明(あきら)かに
071春彦(はるひこ)、ヨブの両人(りやうにん)に
072知(し)らさせ給(たま)へ天津(あまつ)神(かみ)
073国津(くにつ)神(かみ)等(たち)国魂(くにたま)の
074竜世(たつよ)の姫(ひめ)の御(おん)前(まへ)に
075心(こころ)清(きよ)めて祈(ね)ぎまつる
076あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
077御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
078と歌(うた)ひながら、079大樹(たいじゆ)の根元(ねもと)を一々(いちいち)巡視(じゆんし)し、080且(か)つ空(そら)を仰(あふ)ぎなどしつつ、081奥(おく)へ奥(おく)へと捜(さが)し行(ゆ)く。
082 春彦(はるひこ)、083ヨブの二人(ふたり)は漸(やうや)くにして、084高姫(たかひめ)の避難(ひなん)せる大樹(たいじゆ)の間近(まぢか)に辿(たど)りつけば、085石地蔵(いしぢざう)のお化(ば)けの云(い)つた通(とほ)り、086小山(こやま)のやうな胴体(どうたい)をしたモールバンドが、087森(もり)の樹立(こだち)のマバラなる所(ところ)を選(えら)み、088目(め)を怒(いか)らして高姫(たかひめ)を睨(ね)めつけ、089何(なん)とかして一打(ひとう)ちに打(う)ちころさむと息(いき)まいてる其(その)物凄(ものすご)さ。090春彦(はるひこ)は真蒼(まつさを)になり、091ソロソロ慄(ふる)ひ出(だ)し『惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』も天(あま)の数歌(かずうた)も千切(ちぎ)れ千切(ちぎ)れになり、092一向(いつかう)美(うる)はしき言霊(ことたま)を発射(はつしや)することが出来(でき)なくなつて来(き)た。
093 モールバンドは春彦(はるひこ)、094ヨブの間近(まぢか)に来(きた)りしに気付(きづ)きしものと見(み)え、095小山(こやま)のやうな胴体(どうたい)を徐(おもむ)ろに二人(ふたり)の方(はう)に向(む)け直(なほ)し、096長大(ちやうだい)なる尾(を)に撚(よ)りをかけ、097今(いま)や一打(ひとう)ちに両人(りやうにん)を打(う)たむとする形勢(けいせい)を示(しめ)して居(ゐ)る。098二人(ふたり)は命(いのち)カラガラ傍(かたはら)の大木(たいぼく)目蒐(めが)けて漸(やうや)く登(のぼ)りつめ、099後(あと)は兎(と)も角(かく)、100暫時(ざんじ)の避難所(ひなんじよ)と常磐樹(ときはぎ)の頂上(ちやうじやう)にしがみついて、101誰(たれ)か助(たす)けに来(き)てくれる者(もの)はなからうかと期待(きたい)して居(ゐ)る。102樹(き)の上(うへ)にて春彦(はるひこ)は声(こゑ)を慄(ふる)はせながら、
103春彦『コレコレ、104ヨブさま、105大変(たいへん)な事(こと)ぢや御座(ござ)いませぬか。106私(わたし)も獅子(しし)、107虎(とら)、108熊(くま)、109狼(おほかみ)、110大蛇(をろち)位(くらゐ)は、111さうも恐(おそ)れないのだが、112どれ丈(だけ)肝(きも)を放(はう)り出(だ)して見(み)ても、113あのモールバンド丈(だけ)は如何(どう)することも出来(でき)ない。114腹(はら)の底(そこ)から自然(しぜん)に戦(おのの)いて来(き)て、115自分(じぶん)の体(からだ)がどこにあるやら、116分(わか)らなくなつて来(き)ました。117お前(まへ)さまは如何(どう)ですかな?』
118ヨブ『私(わたし)だとて同(おな)じ事(こと)ですよ。119併(しか)しながら、120何時迄(いつまで)もああしてモールバンドに狙(ねら)はれて居(を)らうものなら、121何時(いつ)ここを下(くだ)つて逃(に)げ帰(かへ)ると云(い)ふことも出来(でき)ず、122困(こま)つたものですなア。123幸(さいはひ)に此(この)樹(き)に固(かた)い果物(くだもの)がなつて居(を)りますが、124これさへ食(た)べて居(を)れば、125仮令(たとへ)十日(とをか)や二十日(はつか)、126此(この)樹(き)の上(うへ)に籠城(ろうじやう)したつて、127別(べつ)に困(こま)りもしませぬが、128大風(おほかぜ)が吹(ふ)いたり、129大雨(おほあめ)の時(とき)には実(じつ)に困(こま)るぢやありませぬか。130此(この)頃(ごろ)の様(やう)に毎日(まいにち)日日(ひにち)二三回(にさんくわい)づつ大(おほ)きな雨(あめ)が降(ふ)つて来(く)ると、131第一(だいいち)身体(からだ)が持(も)てませぬワイ。132モウ斯(か)うなる上(うへ)からは神(かみ)様(さま)におすがりして、133運(うん)を天(てん)に任(まか)すより方法(はうはふ)はないから、134一(ひと)つ此処(ここ)で一生(いつしやう)懸命(けんめい)に、135モールバンドが退却(たいきやく)する様(やう)に御(ご)祈念(きねん)を致(いた)しませうかい』
136春彦『ソリヤ結構(けつこう)です……併(しか)し、137何(なん)だか、138腹(はら)の底(そこ)がワナワナして……声(こゑ)が円満(ゑんまん)に出(で)て来(き)ませぬ……』
139と千切(ちぎ)れ千切(ちぎ)れに話(はな)して居(ゐ)る。140斯(か)かる所(ところ)へ、141又(また)もや宣伝歌(せんでんか)が聞(きこ)え来(きた)る。
142(安彦)『国依別(くによりわけ)の神司(かむづかさ)
143御供(みとも)をなしてはるばると
144ヒルの国原(くにはら)立出(たちい)でて
145ブラジル峠(たうげ)を打(う)ちわたり
146果(は)てしも知(し)れぬ谷道(たにみち)を
147辿(たど)り辿(たど)りてシーズンの
148川(かは)の片方(かたへ)に来(き)て見(み)れば
149恋(こひ)の虜(とりこ)となりはてし
150秋山別(あきやまわけ)やモリスの司(つかさ)
151二人(ふたり)の男(をとこ)が激流(げきりう)に
152浮(う)きつ沈(しづ)みつ流(なが)れ来(く)る
153コリヤ大変(たいへん)と吾々(われわれ)は
154国依別(くによりわけ)の命(めい)を受(う)け
155衣類(いるゐ)をすぐに脱(ぬ)ぎすてて
156ザンブと計(ばか)り飛込(とびこ)めば
157流石(さすが)に名(な)に負(お)ふシーズンの
158速瀬(はやせ)の波(なみ)に漂(ただよ)ひて
159溺(おぼ)れ死(し)せむとせし所(ところ)
160思(おも)はぬ河中(かちう)の岩石(がんせき)に
161二人(ふたり)の身体(からだ)は引(ひ)つかかり
162ヤツと息(いき)をば休(やす)めつつ
163岩(いは)の真下(ました)を眺(なが)むれば
164秋山別(あきやまわけ)やモリスの司(つかさ)
165二人(ふたり)の身体(からだ)は渦巻(うづまき)に
166巻(ま)かれて浮(う)きつ沈(しづ)みつつ
167人事(じんじ)不省(ふせい)の有様(ありさま)に
168又(また)もや身(み)をば跳(をど)らして
169安彦(やすひこ)、宗彦(むねひこ)両人(りやうにん)は
170二人(ふたり)の身体(からだ)をひつ抱(かか)へ
171弱(よわ)き川瀬(かはせ)を選(えら)みつつ
172彼方(かなた)の岸(きし)に救(すく)ひ上(あ)げ
173介抱(かいほう)すればやうやうに
174息吹返(いきふきかへ)し両人(りやうにん)は
175恋(こひ)の虜(とりこ)の夢(ゆめ)もさめ
176国依別(くによりわけ)に従(したが)ひて
177アマゾン河(がは)の森林(しんりん)に
178潜(ひそ)みて世間(せけん)に災(わざはひ)の
179霊(みたま)を送(おく)る曲津見(まがつみ)を
180言向(ことむ)け和(やは)し世(よ)の中(なか)の
181なやみを払(はら)ひ清(きよ)めむと
182茲(ここ)に五(ご)人(にん)の一行(いつかう)は
183帽子(ぼうし)ケ岳(だけ)の頂上(ちやうじやう)を
184目当(めあて)に進(すす)み登(のぼ)り行(ゆ)く
185遠(とほ)く彼方(かなた)を見(み)わたせば
186アマゾン河(がは)の急流(きふりう)は
187天津(あまつ)日影(ひかげ)にてらされて
188長蛇(ちやうだ)の如(ごと)く光(ひか)り居(ゐ)る
189南(みなみ)と北(きた)の森林(しんりん)は
190緑紅(みどりくれなゐ)こき交(ま)ぜて
191果(は)てしも知(し)らず茂(しげ)り生(お)ふ
192此(この)光景(くわうけい)を眺(なが)めつつ
193言依別(ことよりわけ)の神司(かむつかさ)
194国依別(くによりわけ)と諸共(もろとも)に
195琉(りう)と球(きう)との神力(しんりき)を
196遠(とほ)く此方(こなた)に照(て)らしつつ
197吾(われ)等(ら)一行(いつかう)が言霊(ことたま)の
198戦(いくさ)の勝(かち)を守(まも)らむと
199幽玄(いうげん)微妙(びめう)の神策(しんさく)を
200立(た)てさせ給(たま)ふ有難(ありがた)さ
201此(この)森林(しんりん)は名(な)にし負(お)ふ
202妖怪窟(えうくわいくつ)と聞(きこ)ゆれば
203八岐(やまた)大蛇(をろち)は云(い)ふも更(さら)
204虎(とら)狼(おほかみ)に獅子(しし)や熊(くま)
205其(その)外(ほか)百(もも)の怪物(くわいぶつ)が
206いろいろ雑多(ざつた)と身(み)を変(へん)じ
207吾(われ)等(ら)を誑(たば)かる事(こと)あらむ
208あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
209神(かみ)の御霊(みたま)を身(み)に受(う)けて
210如何(いか)なる曲(まが)も恐(おそ)れなく
211誠一(まことひと)つの神(かみ)の道(みち)
212撓(たゆ)まず屈(くつ)せず進(すす)み行(ゆ)く
213モールバンドやエルバンド
214仮令(たとへ)幾千(いくせん)来(きた)るとも
215吾(わが)言霊(ことたま)の神力(しんりき)に
216言向(ことむ)け和(やは)し今(いま)よりは
217アマゾン河(がは)の底(そこ)深(ふか)く
218潜(ひそ)みて百(もも)の災(わざはひ)を
219思(おも)ひとまらせくれむぞと
220言依別(ことよりわけ)の御言(みこと)もて
221やうやう此処(ここ)に来(きた)りけり
222高姫(たかひめ)さまを初(はじ)めとし
223常彦(つねひこ)、春彦(はるひこ)、今(いま)いづこ
224果(は)てしも知(し)らぬ此(この)森(もり)の
225いづこに彷徨(さまよ)ひ給(たま)ふらむ
226神(かみ)の御霊(みたま)の幸(さち)はひて
227一日(ひとひ)も早(はや)く高姫(たかひめ)が
228在処(ありか)を教(をし)へ給(たま)へかし
229朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
230月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
231モールバンドは攻(せ)め来(く)とも
232虎(とら)狼(おほかみ)や獅子(しし)熊(くま)の
233勢(いきほひ)いかに猛(たけ)くとも
234なにか恐(おそ)れむ敷島(しきしま)の
235大和心(やまとごころ)の益良夫(ますらを)が
236神(かみ)の光(ひか)りを楯(たて)となし
237神(かみ)の恵(めぐみ)を矛(ほこ)として
238進(すす)みに進(すす)む森(もり)の中(なか)
239実(げ)に勇(いさ)ましき次第(しだい)なり
240あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
241御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
242と歌(うた)ひつつ、243安彦(やすひこ)を先頭(せんとう)に、244宗彦(むねひこ)、245秋山別(あきやまわけ)、246モリスの四(よ)人(にん)は、247神(かみ)の引合(ひきあは)せか、248期(き)せずして、249高姫(たかひめ)、250春彦(はるひこ)等(ら)が避難(ひなん)せる樹蔭(こかげ)近(ちか)く進(すす)み来(きた)れり。
251 春彦(はるひこ)、252高姫(たかひめ)の二組(ふたくみ)の避難者(ひなんしや)は樹上(じゆじやう)より此(この)宣伝歌(せんでんか)を聞(き)き、253未(いま)だ一度(いちど)も聞(き)きしことなき声(こゑ)なれども、254必(かなら)ず途中(とちう)にて、255言依別(ことよりわけ)、256国依別(くによりわけ)の教(をしへ)に感(かん)じ入信(にふしん)せし者(もの)ならむ、257あゝ有難(ありがた)し辱(かたじけ)なし、258神(かみ)の救(すく)ひの御手(みて)……と忽(たちま)ち元気(げんき)恢復(くわいふく)し、259拍手(はくしゆ)し終(をは)り、260樹上(じゆじやう)より声(こゑ)高(たか)らかに、261天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し始(はじ)めた。262春彦(はるひこ)の祝詞(のりと)の声(こゑ)に、263はるか離(はな)れた樹(き)の上(うへ)に避難(ひなん)して居(ゐ)た高姫(たかひめ)、264常彦(つねひこ)は、265始(はじ)めて春彦(はるひこ)の所在(しよざい)を知(し)り、266非常(ひじやう)に心強(こころづよ)さを感(かん)じ、267ますます元気(げんき)を出(だ)して天津(あまつ)祝詞(のりと)を力(ちから)一杯(いつぱい)、268天地(てんち)も震撼(しんかん)せよと許(ばか)りに宣(の)り上(あ)げた。
269 安彦(やすひこ)、270宗彦(むねひこ)の一行(いつかう)は双方(さうはう)より聞(きこ)え来(きた)る樹上(じゆじやう)の祝詞(のりと)の声(こゑ)に、271始(はじ)めて高姫(たかひめ)一行(いつかう)のここに居(ゐ)ることを悟(さと)り、272歓喜(くわんき)斜(ななめ)ならず、273尚(なほ)も元気(げんき)を出(だ)して天津(あまつ)祝詞(のりと)を宣(の)り始(はじ)めた。274モールバンドは少(すこ)しも屈(くつ)せず、275目(め)を怒(いか)らし、276尾(を)を振(ふ)りしごき、277縦横(じうわう)無尽(むじん)に四(よ)人(にん)に向(むか)つて突進(とつしん)し来(きた)る。278四(よ)人(にん)は忽(たちま)ち傍(かたはら)の大木(たいぼく)に辛(から)うじて避難(ひなん)し、279樹上(じゆじやう)より祝詞(のりと)を頻(しき)りに奏上(そうじやう)し、280早(はや)く此(この)怪獣(くわいじう)の遁走(とんさう)して、281吾(われ)等(ら)一行(いつかう)を救(すく)ひ給(たま)へと念(ねん)じつつありぬ。
282 忽(たちま)ち西北(せいほく)の空(そら)をこがして輝(かがや)き来(きた)る琉(りう)、283球(きう)の大火光(だいくわくわう)、284あたりは忽(たちま)ち火(ひ)の如(ごと)く赤(あか)くなりぬ。285これ言依別(ことよりわけ)、286国依別(くによりわけ)の神司(かむづかさ)が、287帽子(ぼうし)ケ岳(だけ)より救援(きうゑん)の為(た)め発射(はつしや)する所(ところ)の霊光(れいくわう)なりき。288モールバンドは驚(おどろ)いて、289尾(を)を縮(ちぢ)め、290首(くび)をすくめ、291コソコソと森林(しんりん)を駆(か)け出(いだ)し、292数十(すうじふ)里(り)の林(はやし)を潜(くぐ)つて、293アマゾン河(がは)に逃(に)げ去(さ)りにけり。
294 安彦(やすひこ)一行(いつかう)四(よ)人(にん)はヤツと胸(むね)をなでおろし、295枝振(えだぶり)のよい大木(たいぼく)を下(くだ)り来(きた)り、
296安彦(やすひこ)『高姫(たかひめ)様(さま)々々々(たかひめさま)』
297と呼(よ)ばはりながら、298樹下(じゆか)を巡(めぐ)り、299空(そら)を仰(あふ)いで高姫(たかひめ)の居所(ゐどころ)を捜(さが)して居(ゐ)る。
300 高姫(たかひめ)は常彦(つねひこ)と共(とも)にヤツと安心(あんしん)し乍(なが)ら下(くだ)つて来(き)た。301春彦(はるひこ)もヨブも亦(また)一(ひと)つの大木(たいぼく)の空(そら)より此処(ここ)に漸(やうや)く下(くだ)り来(きた)り、302互(たがひ)に顔(かほ)を見合(みあは)せ、303嬉(うれ)し泣(な)きに抱(だ)き合(あ)ひて泣(な)く。
304 是(これ)より八(はち)人(にん)は互(たがひ)に手(て)を取(と)り、305無事(ぶじ)を祝(しゆく)し、306且(か)つ高姫(たかひめ)一行(いつかう)は安彦(やすひこ)一行(いつかう)に向(むか)ひ厚(あつ)く感謝(かんしや)の詞(ことば)を述(の)べながら、307アマゾン河(がは)の沿岸(えんがん)に向(むか)つて引返(ひきかへ)し、308南岸(なんがん)の森林中(しんりんちう)に鷹依姫(たかよりひめ)一行(いつかう)が猛獣(まうじう)の王(わう)として住(すま)ひ居(ゐ)ることを、309安彦(やすひこ)を以(もつ)て国依別(くによりわけ)より伝達(でんたつ)したれば、310取(と)る物(もの)も取(と)り敢(あへ)ず、311河端(かはばた)に向(むか)つて進(すす)む。312一行(いつかう)が一心(いつしん)をこめて奏上(そうじやう)したる天津(あまつ)祝詞(のりと)の声(こゑ)に、313北(きた)の森林(しんりん)の猛獣共(まうじうども)は争(あらそ)つて此処(ここ)に集(あつ)まり来(きた)り、314八(はち)人(にん)の後(あと)に従(したが)ひ、315これ亦(また)アマゾン河(がは)の岸(きし)迄(まで)、316幾百千(いくひやくせん)とも知(し)れず、317列(れつ)を作(つく)つて従(したが)ひ来(きた)る。
318 これより高姫(たかひめ)は、319アマゾン河(がは)の急流(きふりう)を眺(なが)め、320一生(いつしやう)懸命(けんめい)に、321南岸(なんがん)に無事(ぶじ)渡(わた)らせ給(たま)へ……と祈念(きねん)した。322忽(たちま)ち川底(かはぞこ)より八尋鰐(やひろわに)、323幾千万(いくせんまん)とも限(かぎ)りなく現(あら)はれ重(かさ)なり合(あ)うて、324忽(たちま)ち鰐橋(わにばし)を架(か)けたり。325高姫(たかひめ)は大神(おほかみ)の神徳(しんとく)と鰐(わに)の好意(かうい)を一々(いちいち)感謝(かんしや)し、326七(しち)人(にん)と共(とも)に南岸(なんがん)に辛(から)うじて渡(わた)ることを得(え)たり。327此(この)間(あひだ)何里(なんり)とも分(わか)らぬ位(くらゐ)、328広(ひろ)き河幅(かははば)なりけり。
329 北(きた)の森林(しんりん)に棲(す)める猛獣(まうじう)は此処(ここ)まで送(おく)り来(きた)り、330此(この)激流(げきりう)を眺(なが)めて稍(やや)躊躇(ちゆうちよ)の色(いろ)ありしが、331忽(たちま)ち鰐橋(わにばし)の架(かか)りたるに力(ちから)を得(え)、332一匹(いつぴき)も残(のこ)らず、333南森林(みなみしんりん)に打渡(うちわた)り、334高姫(たかひめ)一行(いつかう)を送(おく)りて兎(うさぎ)の都(みやこ)に向(むか)ひ進(すす)み行(ゆ)く。
335(大正一一・八・二三 旧七・一 松村真澄録)
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