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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第32巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 森林の都
第1章 万物同言
第2章 猛獣会議
第3章 兎の言霊
第4章 鰐の言霊
第5章 琉球の光
第6章 獅子粉塵
第2篇 北の森林
第7章 試金玉
第8章 三人娘
第9章 岩窟女
第10章 暗黒殿
第11章 人の裘
第12章 鰐の橋
第13章 平等愛
第14章 山上の祝
第3篇 瑞雲靉靆
第15章 万歳楽
第16章 回顧の歌
第17章 悔悟の歌
第18章 竜国別
第19章 軽石車
第20章 瑞の言霊
第21章 奉答歌
第4篇 天祥地瑞
第22章 橋架
第23章 老婆心切
第24章 冷氷
余白歌
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霊界物語
>
海洋万里(第25~36巻)
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第32巻(未の巻)
> 第4篇 天祥地瑞 > 第22章 橋架
<<< 奉答歌
(B)
(N)
老婆心切 >>>
第二二章
橋架
(
はしかけ
)
〔九一三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第32巻 海洋万里 未の巻
篇:
第4篇 天祥地瑞
よみ(新仮名遣い):
てんしょうちずい
章:
第22章 橋架
よみ(新仮名遣い):
はしかけ
通し章番号:
913
口述日:
1922(大正11)年08月24日(旧07月02日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年10月15日
概要:
舞台:
ウヅの館
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
神司たちは各々眠りにつき、体を休めた。あくる朝早々、松若彦は国依別の一室にやってきた。改まってやってきた松若彦が切り出したのは、末子姫との婚姻話であった。
神素盞嗚大神から相談された末子姫の結婚相手について、言依別命と松若彦は、そろって国依別を推薦したというのである。また神素盞嗚大神も、国依別の名前を聞いて大いにお喜びになったという。
それを聞いて国依別は涙を流してうつむいている。訳を尋ねる松若彦に対して国依別は、自分は若いころから極道をなしたので、改心してからは女と一切関係を絶ち、生涯独身を覚悟しているのだと告げた。
松若彦は、大神様は国依別の素性は知ったうえで縁談に前向きなのだと伝えた。松若彦と国依別は押し問答を繰り返したが、最後に国依別は覚悟を決め、何事も大神様のおおせと松若彦に任せると答えた。
松若彦は喜んで部屋を後にした。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-06-08 18:44:54
OBC :
rm3222
愛善世界社版:
261頁
八幡書店版:
第6輯 236頁
修補版:
校定版:
265頁
普及版:
95頁
初版:
ページ備考:
001
国依別
(
くによりわけ
)
、
002
高姫
(
たかひめ
)
、
003
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
、
004
竜国別
(
たつくにわけ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
各
(
かく
)
休息室
(
きうそくしつ
)
を
与
(
あた
)
へられ、
005
夜
(
よる
)
は
其処
(
そこ
)
に
眠
(
ねむ
)
り、
006
筋骨
(
きんこつ
)
を
休
(
やす
)
ませて
居
(
ゐ
)
た。
007
翌朝
(
よくあさ
)
早々
(
さうさう
)
国依別
(
くによりわけ
)
の
一室
(
いつしつ
)
に
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
訪
(
たづ
)
ね
来
(
きた
)
り、
008
松若彦
『
国依別
(
くによりわけ
)
様
(
さま
)
、
009
御
(
お
)
早
(
はや
)
う
御座
(
ござ
)
います。
010
就
(
つ
)
いてはあなたに
折入
(
をりい
)
つて
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
が
御座
(
ござ
)
いまして、
011
早
(
はや
)
くから
御
(
お
)
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しました』
012
と
心
(
こころ
)
ありげに
笑
(
ゑみ
)
を
含
(
ふく
)
んでゐる。
013
国依別
(
くによりわけ
)
は、
014
国依別
『これは
又
(
また
)
改
(
あらた
)
まつた
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
、
015
私
(
わたくし
)
に
対
(
たい
)
し、
016
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
とはどんな
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いますか。
017
明智
(
あけち
)
の
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
が
居
(
ゐ
)
らせられる
以上
(
いじやう
)
は、
018
どうぞ
命様
(
みことさま
)
に
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
下
(
くだ
)
さつたら、
019
如何
(
いかが
)
でせうかなア』
020
松若彦
『
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
夜前
(
やぜん
)
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
召
(
め
)
しに
依
(
よ
)
り、
021
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
及
(
およ
)
び
私
(
わたし
)
と
三
(
さん
)
人
(
にん
)
三
(
み
)
つ
巴
(
どもゑ
)
になつて、
022
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
あつた
結果
(
けつくわ
)
、
023
私
(
わたし
)
が
特命
(
とくめい
)
全権
(
ぜんけん
)
公使
(
こうし
)
に
選
(
えら
)
まれて
参
(
まゐ
)
りましたので
御座
(
ござ
)
います。
024
万一
(
まんいち
)
此
(
この
)
使
(
つかひ
)
が、
025
不成功
(
ふせいこう
)
に
終
(
をは
)
るやうな
事
(
こと
)
があれば、
026
此
(
この
)
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
海外
(
かいぐわい
)
旅行券
(
りよかうけん
)
を
交附
(
かうふ
)
された
手前
(
てまへ
)
、
027
腹
(
はら
)
を
切
(
き
)
らねばならないのです』
028
国依別
『そりやマア
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
使命
(
しめい
)
と
見
(
み
)
えますが、
029
どうぞ
早
(
はや
)
く
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
030
私
(
わたくし
)
の
力
(
ちから
)
の
及
(
およ
)
ぶ
事
(
こと
)
ならば、
031
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
捧
(
ささ
)
げた
此
(
この
)
体
(
からだ
)
、
032
如何
(
いか
)
なる
御用
(
ごよう
)
も
承
(
うけたま
)
はるで
御座
(
ござ
)
いませう』
033
松若彦
『
実
(
じつ
)
は
私
(
わたし
)
の
父
(
ちち
)
国彦
(
くにひこ
)
は、
034
正鹿
(
まさか
)
山津見
(
やまづみの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
五月姫
(
さつきひめ
)
様
(
さま
)
と
共
(
とも
)
に
黄泉
(
よもつ
)
比良坂
(
ひらさか
)
の
戦
(
たたか
)
ひに
御
(
ご
)
出陣
(
しゆつぢん
)
の
砌
(
みぎり
)
、
035
ウヅの
国
(
くに
)
の
人民
(
じんみん
)
は
申
(
まを
)
すも
更
(
さら
)
なり、
036
此
(
この
)
神館
(
かむやかた
)
を
御
(
お
)
預
(
あづ
)
け
遊
(
あそ
)
ばし、
037
やがて
時
(
とき
)
来
(
きた
)
らば、
038
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
貴
(
うづ
)
の
御子
(
みこ
)
、
039
此
(
この
)
国
(
くに
)
に
降
(
くだ
)
り
給
(
たま
)
ふことあるべし。
040
それ
迄
(
まで
)
汝
(
なんぢ
)
は
我命
(
わがめい
)
を
守
(
まも
)
つて、
041
此
(
この
)
国
(
くに
)
及
(
およ
)
び
神館
(
かむやかた
)
を
預
(
あづか
)
り
呉
(
く
)
れよとの
厳命
(
げんめい
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
042
父
(
ちち
)
は
幸
(
かう
)
か
不幸
(
ふかう
)
か、
043
最早
(
もはや
)
幽界
(
いうかい
)
に
参
(
まゐ
)
りましたが、
044
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
つた
私
(
わたし
)
が
父
(
ちち
)
の
後
(
あと
)
を
継
(
つ
)
ぎ、
045
此
(
この
)
館
(
やかた
)
を
守
(
まも
)
つて
居
(
を
)
ります
所
(
ところ
)
へ、
046
正鹿山津見
(
まさかやまづみ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
仰
(
あふ
)
せの
如
(
ごと
)
く、
047
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
娘子
(
むすめご
)
、
048
末子姫
(
すゑこひめ
)
様
(
さま
)
が
御
(
お
)
越
(
こ
)
し
遊
(
あそ
)
ばしたので、
049
直
(
ただ
)
ちに
御
(
お
)
館
(
やかた
)
を
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
渡
(
わた
)
し
申
(
まを
)
し、
050
此
(
この
)
国
(
くに
)
をも
御
(
お
)
渡
(
わた
)
しをして、
051
私
(
わたし
)
は
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り
総司
(
そうし
)
として
仕
(
つか
)
へて
参
(
まゐ
)
りました。
052
然
(
しか
)
るに
此
(
この
)
度
(
たび
)
、
053
御
(
おん
)
父君
(
ちちぎみ
)
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
、
054
突然
(
とつぜん
)
天降
(
あまくだ
)
り
給
(
たま
)
ひ、
055
大変
(
たいへん
)
に
御
(
お
)
悦
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばし、
056
且
(
か
)
つ
末子姫
(
すゑこひめ
)
も
最早
(
もはや
)
良
(
よ
)
い
年頃
(
としごろ
)
であるから、
057
適当
(
てきたう
)
な
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
たせたいのだが……との
御
(
お
)
尋
(
たづ
)
ね、
058
招
(
まね
)
かれた
吾々
(
われわれ
)
始
(
はじ
)
め
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
は、
059
言下
(
げんか
)
に
国依別
(
くによりわけ
)
様
(
さま
)
を
御
(
お
)
婿
(
むこ
)
様
(
さま
)
になされましたら
如何
(
どう
)
でせうと
申上
(
まをしあ
)
げし
処
(
ところ
)
、
060
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
は
大変
(
たいへん
)
に
御
(
お
)
悦
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばされ、
061
実
(
じつ
)
は
其
(
その
)
事
(
こと
)
に
就
(
つい
)
て、
062
はるばるとここまで
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たのだ。
063
どうぞ
神徳
(
しんとく
)
の
強
(
つよ
)
き
国依別
(
くによりわけ
)
を
末子姫
(
すゑこひめ
)
の
夫
(
をつと
)
になつて
呉
(
く
)
れる
様
(
やう
)
、
064
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
取
(
と
)
り
持
(
も
)
てよ……との
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
取
(
と
)
る
物
(
もの
)
も
取
(
と
)
り
敢
(
あへ
)
ず、
065
あなたに
於
(
おい
)
ても
御
(
ご
)
異存
(
いぞん
)
は
御座
(
ござ
)
いますまいと
思
(
おも
)
ひまして……ヘヽヽヽ、
066
一寸
(
ちよつと
)
全権
(
ぜんけん
)
公使
(
こうし
)
の
役
(
やく
)
を
拝命
(
はいめい
)
し、
067
御
(
お
)
伺
(
うかが
)
ひに
参
(
まゐ
)
つた
次第
(
しだい
)
で
御座
(
ござ
)
います。
068
どうぞ
善
(
ぜん
)
は
急
(
いそ
)
げですから、
069
早
(
はや
)
く
善
(
よ
)
き
御
(
ご
)
返事
(
へんじ
)
を
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
070
国依別
(
くによりわけ
)
は
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
の
面持
(
おももち
)
にて
首
(
かうべ
)
を
傾
(
かたむ
)
け、
071
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み、
072
太
(
ふと
)
き
息
(
いき
)
をつきながら、
073
ものをも
言
(
い
)
はず
両眼
(
りやうがん
)
より
涙
(
なみだ
)
さへ
滴
(
したた
)
らしつつ
居
(
ゐ
)
る。
074
松若彦
『モシ
国依別
(
くによりわけ
)
さま、
075
あなたは
何
(
なに
)
それ
程
(
ほど
)
御
(
ご
)
思案
(
しあん
)
なされますか、
076
見
(
み
)
れば
涙
(
なみだ
)
を
御
(
お
)
垂
(
た
)
らしになつてゐるやうですなア。
077
如何
(
どう
)
しても
御
(
お
)
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らないのですか?』
078
国依別
『イエイエどうしてどうして
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らぬ
所
(
どころ
)
か、
079
余
(
あま
)
りの
事
(
こと
)
で、
080
勿体
(
もつたい
)
なくて、
081
申上
(
まをしあ
)
げる
言葉
(
ことば
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬ。
082
私
(
わたし
)
は
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
より
道楽
(
だうらく
)
の
有丈
(
ありたけ
)
を
尽
(
つく
)
し、
083
沢山
(
たくさん
)
の
女殺
(
をんなごろ
)
し、
084
御家
(
ごけ
)
倒
(
だほ
)
し、
085
家潰
(
いへつぶ
)
しをやつてきた
罪
(
つみ
)
の
塊
(
かたまり
)
で
御座
(
ござ
)
います。
086
今日
(
こんにち
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
として、
087
女
(
をんな
)
と
一切
(
いつさい
)
の
関係
(
くわんけい
)
を
絶
(
た
)
ち、
088
生涯
(
しやうがい
)
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
を
続
(
つづ
)
ける
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
るので
御座
(
ござ
)
います。
089
如何
(
いか
)
に
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめ
)
しなればとて、
090
私
(
わたし
)
の
様
(
やう
)
な
横着者
(
わうちやくもの
)
の
成
(
な
)
れの
果
(
は
)
て、
091
何程
(
なにほど
)
魂
(
みたま
)
が
研
(
みが
)
けたと
申
(
まを
)
しても、
092
白
(
しろ
)
い
布
(
きれ
)
に
墨
(
すみ
)
が
浸
(
し
)
んだのと
同様
(
どうやう
)
に、
093
いくら
洗
(
あら
)
つても
元
(
もと
)
の
白
(
しろ
)
い
生地
(
きぢ
)
にはなりませぬ。
094
つまり
霊魂
(
れいこん
)
上
(
じやう
)
の
疵者
(
きずもの
)
で
御座
(
ござ
)
います。
095
斯様
(
かやう
)
な
疵者
(
きずもの
)
が
水晶
(
すいしやう
)
身魂
(
みたま
)
の
生
(
うぶ
)
の
処女
(
しよぢよ
)
なる
末子姫
(
すゑこひめ
)
様
(
さま
)
の
夫
(
をつと
)
になるなぞと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
096
どうしても
良心
(
りやうしん
)
が
咎
(
とが
)
めてなりませぬ。
097
冥加
(
みやうが
)
の
程
(
ほど
)
が
恐
(
おそ
)
ろしうなつて
参
(
まゐ
)
りました。
098
どうぞ
右様
(
みぎやう
)
の
次第
(
しだい
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
099
悪
(
あ
)
しからず、
100
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
私
(
わたし
)
の
素性
(
すじやう
)
を
素破
(
すつぱ
)
ぬいた
上
(
うへ
)
、
101
宜
(
よろ
)
しく
御
(
お
)
断
(
ことわ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
102
松若彦
『
左様
(
さやう
)
な
御
(
ご
)
遠慮
(
ゑんりよ
)
はチツとも
要
(
い
)
りませぬ。
103
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
は、
104
あなたがバラモン
教
(
けう
)
の
信者
(
しんじや
)
であつた
事
(
こと
)
も、
105
女
(
をんな
)
泣
(
な
)
かしの
御家
(
ごけ
)
倒
(
たふ
)
し、
106
家潰
(
いへつぶ
)
しをなさつた
事
(
こと
)
も、
107
大
(
だい
)
の
悪戯者
(
いたづらもの
)
で
居
(
ゐ
)
らつしやつた
事
(
こと
)
も、
108
松鷹彦
(
まつたかひこ
)
様
(
さま
)
のお
宿
(
やど
)
を
知
(
し
)
らず
識
(
し
)
らずに
訪
(
たづ
)
ね、
109
お
勝
(
かつ
)
殿
(
どの
)
といろいろのローマンスのあつた
事
(
こと
)
、
110
それから
真浦
(
まうら
)
様
(
さま
)
の
弟
(
おとうと
)
なる
事
(
こと
)
、
111
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
御
(
お
)
取調
(
とりしらべ
)
の
上
(
うへ
)
の
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
112
決
(
けつ
)
してそんな
御
(
ご
)
遠慮
(
ゑんりよ
)
は
要
(
い
)
りませぬ。
113
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
も
口
(
くち
)
を
極
(
きは
)
めてあなたの
美点
(
びてん
)
をあげ、
114
又
(
また
)
悪
(
わる
)
い
癖
(
くせ
)
を
一
(
ひと
)
つも
残
(
のこ
)
らず、
115
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあ
)
げられました。
116
所
(
ところ
)
が
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
は
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
で……あゝ
其奴
(
そいつ
)
は
益々
(
ますます
)
面白
(
おもしろ
)
い
男
(
をとこ
)
だ、
117
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つた、
118
どうぞ
早
(
はや
)
く
末子姫
(
すゑこひめ
)
の
夫
(
をつと
)
にしたいものだ……との
思召
(
おぼしめ
)
しで
御座
(
ござ
)
いましたよ……
国依別
(
くによりわけ
)
様
(
さま
)
、
119
あなたは
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
から
承
(
うけたまは
)
れば、
120
随分
(
ずゐぶん
)
からかひの
上手
(
じやうず
)
な
御
(
お
)
方
(
かた
)
ぢやさうですから、
121
私
(
わたし
)
がこんな
事
(
こと
)
をいつて、
122
あなたをからかつてゐると
思
(
おも
)
はれるか
知
(
し
)
りませぬが、
123
今日
(
けふ
)
は
真剣
(
しんけん
)
ですから、
124
どうぞ
真面目
(
まじめ
)
に
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さい』
125
国依別
『から
買
(
か
)
ひも
豆腐買
(
とうふかひ
)
も、
126
厄介
(
やくかい
)
も
喧嘩買
(
けんくわかひ
)
も、
127
法螺貝
(
ほらがひ
)
もドブ
貝
(
がひ
)
も
心霊
(
しんれい
)
研究会
(
けんきうくわい
)
も、
128
大日本
(
だいにほん
)
修斎会
(
しうさいくわい
)
も、
129
議会
(
ぎくわい
)
も
日本海
(
にほんかい
)
も
皆目
(
かいもく
)
ありませぬワイ。
130
正真
(
しやうしん
)
正銘
(
しやうめい
)
の
偽
(
いつは
)
りなきあなたの
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
、
131
国依別
(
くによりわけ
)
、
132
実
(
じつ
)
に
光栄
(
くわうえい
)
に
存
(
ぞん
)
じます。
133
併
(
しか
)
しながら
貴族
(
きぞく
)
と
卑族
(
ひぞく
)
との
結婚
(
けつこん
)
は
提灯
(
ちやうちん
)
に
釣鐘
(
つりがね
)
、
134
釣合
(
つりあ
)
はぬは
不縁
(
ふえん
)
の
元
(
もと
)
ですから、
135
要
(
い
)
らぬ
苦労
(
くらう
)
をさせずに、
136
どうぞ
体
(
てい
)
よく
断
(
ことわ
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
137
松若彦
『エヽ
国依別
(
くによりわけ
)
さま、
138
真剣
(
しんけん
)
ですよ。
139
又
(
また
)
例
(
れい
)
の
癖
(
くせ
)
を
出
(
だ
)
して、
140
正直
(
しやうぢき
)
な
私
(
わたし
)
をじらしなさるのですか。
141
あなたの
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
はキツト
契約済
(
けいやくずみ
)
の
実印
(
じついん
)
を
押捺
(
あふなつ
)
して
御座
(
ござ
)
るに
間違
(
まちがひ
)
ありませぬよ。
142
又
(
また
)
世
(
よ
)
の
諺
(
ことわざ
)
にも、
143
恋
(
こひ
)
に
上下
(
じやうげ
)
の
隔
(
へだ
)
てなしと
云
(
い
)
ふぢやありませぬか。
144
隔
(
へだて
)
のないのが
所謂
(
いはゆる
)
恋
(
こひ
)
の
神聖
(
しんせい
)
なる
所以
(
ゆゑん
)
です』
145
国依別
『
私
(
わたし
)
は
一旦
(
いつたん
)
婦人
(
ふじん
)
との
関係
(
くわんけい
)
を
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
断念
(
だんねん
)
して
居
(
ゐ
)
ますから、
146
恋
(
こひ
)
なんか
心
(
こころ
)
に
起
(
おこ
)
した
事
(
こと
)
はありませぬ。
147
鯉
(
こひ
)
が
滝上
(
たきのぼ
)
りをし、
148
夕立
(
ゆふだち
)
に
乗
(
の
)
つて
天上
(
てんぢやう
)
する
様
(
やう
)
な
険呑
(
けんのん
)
な
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
は、
149
どうぞ
御
(
お
)
頼
(
たの
)
みですから、
150
早
(
はや
)
く
撤廃
(
てつぱい
)
して
下
(
くだ
)
さい』
151
松若彦
『
又
(
また
)
しても
鮒
(
ふな
)
々
(
ふな
)
と
埒
(
らち
)
のあかぬ、
152
あなたの
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
、
153
末子姫
(
すゑこひめ
)
様
(
さま
)
があの
飯鞘
(
いひだこ
)
、
154
尻目
(
しじめ
)
で、
155
お
前
(
まへ
)
さまの
後姿
(
うしろすがた
)
を
睨
(
にら
)
んで、
156
あの
男
(
をとこ
)
を
鰌
(
どぜう
)
なとして、
157
私
(
わたくし
)
の
オツトセイ
に
持
(
も
)
ちたいものだと、
158
明
(
あ
)
けても
暮
(
く
)
れても、
159
つばす
を
呑
(
の
)
みこんで、
160
あかえ
年
(
とし
)
だから、
161
鯉
(
こひ
)
の
炎
(
ほのほ
)
をもやして
御座
(
ござ
)
るのだから、
162
どうぞ
色
(
いろ
)
よい
あぢ
のよい
返事
(
へんじ
)
をして
下
(
くだ
)
さい。
163
あなたも
鱒
(
ます
)
々
(
ます
)
鯖
(
さば
)
けた
人間
(
にんげん
)
だと
云
(
い
)
つて、
164
鱶
(
ふか
)
はまりしてゐられるのだ。
165
それにお
前
(
まへ
)
さまが
尾
(
を
)
をふり、
166
鰭
(
ひれ
)
をピンとはねるやうな
事
(
こと
)
をなさつたら……あゝ
私
(
わたし
)
も
折角
(
せつかく
)
の
鯉
(
こひ
)
が
叶
(
かな
)
はねば、
167
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
168
ちぬ
鯛
(
だひ
)
、
169
小
(
こ
)
鮒
(
ふな
)
な
浮世
(
うきよ
)
に
生鰕
(
なまえび
)
したかて、
170
サヨリ
がないからと
云
(
い
)
つて
淵川
(
ふちかは
)
へ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
了
(
しま
)
はれたら、
171
お
前
(
まへ
)
さま
何程
(
なにほど
)
魚
(
うを
)
々
(
うを
)
とうろついて
悔
(
くや
)
んでもあとの
祭
(
まつ
)
り、
172
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
からは、
173
是程
(
これほど
)
事
(
こと
)
を
分
(
わ
)
けて
言
(
い
)
ふのに、
174
鯉
(
こひ
)
の
様
(
やう
)
にはねつけるとは、
175
ギギシイラ
ぬ
奴
(
やつ
)
だと
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
遊
(
あそ
)
ばすかも
知
(
し
)
れませぬ。
176
私
(
わたし
)
はこれ
程
(
ほど
)
白魚
(
しらうを
)
もやさして、
177
お
前
(
まへ
)
さまはそれでも
気
(
き
)
が
済
(
す
)
むの
貝
(
かひ
)
な。
178
マア
厭
(
いや
)
でも
添
(
そ
)
うて
見
(
み
)
なさい。
179
仕舞
(
しまひ
)
にや
すすき
になりますぞや、
180
ヤマメ
で
暮
(
くら
)
すより
鮎
(
あゆ
)
らしい
奥
(
おく
)
さまと
ガザミ
に
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
いて、
181
山野
(
やまの
)
を
時々
(
ときどき
)
跋渉
(
ばつせふ
)
なさるのも
乙
(
おつ
)
ですよ。
182
これ
程
(
ほど
)
私
(
わたし
)
に
八
(
や
)
カマス
鰯
(
いわし
)
ておいて、
183
だまつてゐるとは、
184
余
(
あんま
)
りぢやありませぬか。
185
今日
(
けふ
)
は
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
思
(
おぼ
)
し
召
(
めし
)
だから、
186
瓢箪
(
へうたん
)
鯰
(
なまづ
)
では
通
(
とほ
)
りませぬぞや』
187
国依別
『
エエハモ
鰈
(
かれい
)
ヤガラ
腥
(
なまぐさ
)
い
厄介
(
やくかい
)
坊主
(
ばうず
)
の
自堕落
(
じだらく
)
上人
(
しやうにん
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
188
どうぞ
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
りそんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さるな。
189
女
(
をんな
)
の
スキ
身
(
み
)
も
刺身
(
さしみ
)
もモウ
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
から
食
(
く
)
ひあいて
来
(
き
)
ました。
190
夜
(
よ
)
も
昼
(
ひる
)
も
レコ
貝
(
がひ
)
に
蛤
(
はまぐり
)
だつたものだから、
191
どうぞ、
192
カマス
において
下
(
くだ
)
さい。
193
此
(
この
)
事
(
こと
)
に
付
(
つい
)
ては、
194
イカナゴ
とも
飯蛸
(
いひだこ
)
致
(
いた
)
す
訳
(
わけ
)
には
参
(
まゐ
)
りませぬ。
195
アハヽヽヽ』
196
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
国依別
(
くによりわけ
)
の
背中
(
せなか
)
を、
197
後
(
うしろ
)
へまはつてポンと
叩
(
たた
)
き、
198
松若彦
『コレ
国依別
(
くによりわけ
)
さま!
又
(
また
)
しても、
199
あなたは、
200
からかひ
病
(
びやう
)
が
起
(
おこ
)
りましたね』
201
国依別
『
カラカギ
でも、
202
鯰
(
なまづ
)
でも
フンゾクラヒ
でもありませぬよ。
203
小雲川
(
こくもがは
)
で
石
(
いし
)
の
魚
(
な
)
を
釣
(
つ
)
つて
フンゾクラヒ
だと
云
(
い
)
つて、
204
高姫
(
たかひめ
)
さまに
贈
(
おく
)
つた
事
(
こと
)
があります。
205
随分
(
ずゐぶん
)
固
(
かた
)
い
魚
(
うを
)
でした。
206
其
(
その
)
通
(
とほ
)
り
私
(
わたし
)
は
今
(
いま
)
は
鯉
(
こひ
)
の
欲
(
よく
)
が
化石
(
くわせき
)
して
了
(
しま
)
ひ、
207
石地蔵
(
いしぢざう
)
の
様
(
やう
)
な
冷酷
(
れいこく
)
な
人間
(
にんげん
)
ですから、
208
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
縁談
(
えんだん
)
は
温
(
あたた
)
まりますまい。
209
鯉
(
こひ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
水
(
みづ
)
の
中
(
なか
)
に
常住
(
じやうぢゆう
)
してゐますから、
210
随分
(
ずゐぶん
)
体
(
からだ
)
が
冷
(
ひ
)
えてゐますからね、
211
アハヽヽヽ』
212
松若彦
『コレ
国依別
(
くによりわけ
)
さま、
213
大国主
(
おほくにぬし
)
の
神
(
かみ
)
さまの
妻呼
(
つまよ
)
びの
歌
(
うた
)
を
知
(
し
)
つてますだらう、
214
男子
(
だんし
)
たる
者
(
もの
)
はさうなくては
到底
(
たうてい
)
世
(
よ
)
に
立
(
た
)
つことは
出来
(
でき
)
ますまい。
215
情
(
なさけ
)
を
知
(
し
)
らずして、
216
どうして
宣伝使
(
せんでんし
)
が
完全
(
くわんぜん
)
に
勤
(
つと
)
まりますか。
217
八千矛
(
やちほこ
)
の
神
(
かみ
)
さまを
御覧
(
ごらん
)
なさい。
218
はるばると
出雲
(
いづも
)
の
国
(
くに
)
から
越
(
こし
)
の
国
(
くに
)
まで、
219
腰弁当
(
こしべんたう
)
でお
出
(
い
)
でになつたぢやありませぬか。
220
其
(
その
)
時
(
とき
)
のお
歌
(
うた
)
に、
221
八千矛
(
やちほこ
)
の
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
は
八洲国
(
やしまぐに
)
妻求
(
つまま
)
ぎかねて
222
遠々
(
とほとほ
)
し
越
(
こし
)
の
国
(
くに
)
に
賢
(
さか
)
し
女
(
め
)
を ありと
聞
(
き
)
かして
223
麗
(
くは
)
し
女
(
め
)
を ありと
聞
(
き
)
こして さよばひに ありたたし
224
結婚
(
よきひ
)
にあり
通
(
かよ
)
はせ
太刀
(
たち
)
が
緒
(
を
)
も
未
(
いま
)
だ
解
(
と
)
かずて
225
襲
(
おす
)
ひをも
未
(
いま
)
だ
解
(
と
)
かねば
乙女
(
をとめ
)
の
鳴
(
な
)
すや
板戸
(
いたど
)
を
226
押
(
お
)
そぶらひ
吾
(
わ
)
が
立
(
た
)
たせれば
引
(
ひ
)
こずらひ
吾
(
わ
)
が
立
(
た
)
たせれば
227
青山
(
あをやま
)
に
鵺
(
ぬえ
)
は
鳴
(
な
)
き
野鳥
(
さぬつどり
)
雉子
(
きぎす
)
は
響
(
どよ
)
む
228
庭
(
には
)
つ
鳥
(
とり
)
鶏
(
かけ
)
は
鳴
(
な
)
く
慨
(
うれ
)
たくも
鳴
(
な
)
くなる
鳥
(
とり
)
か
229
此
(
こ
)
の
鳥
(
とり
)
も
打
(
う
)
ち
悩
(
や
)
めこせね いしたふや
天
(
あま
)
はせづかひ
230
ことの
語
(
かた
)
り
言
(
ごと
)
も こをば
231
と
歌
(
うた
)
はしやつて、
232
越
(
こし
)
の
国
(
くに
)
の
沼河姫
(
ぬながはひめ
)
様
(
さま
)
の
板
(
いた
)
の
戸
(
と
)
を、
233
夜
(
よる
)
の
夜中
(
よなか
)
に
押開
(
おしあ
)
け
這入
(
はい
)
らうと
遊
(
あそ
)
ばす、
234
沼河姫
(
ぬながはひめ
)
さまは
這入
(
はい
)
られては
大変
(
たいへん
)
と、
235
男
(
をとこ
)
と
女
(
をんな
)
が
押
(
お
)
そぶらひ、
236
引
(
ひ
)
こづらひを
永
(
なが
)
らく
遊
(
あそ
)
ばした
末
(
すゑ
)
、
237
遂
(
つひ
)
に
大国主
(
おほくにぬしの
)
命
(
みこと
)
さまの
熱心
(
ねつしん
)
なる
恋
(
こひ
)
に
感
(
かん
)
じ、
238
沼河姫
(
ぬながはひめ
)
さまは
戸
(
と
)
の
中
(
なか
)
から、
239
八千矛
(
やちほこ
)
の
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
軟
(
ぬ
)
え
草
(
ぐさ
)
の
女
(
め
)
にしあれば
240
吾
(
わ
)
が
心
(
こころ
)
浦渚
(
うらす
)
の
鳥
(
とり
)
ぞ
今
(
いま
)
こそは
千鳥
(
ちどり
)
にあらめ
241
のちわ
和鳥
(
などり
)
にあらむを いのちは な
死
(
し
)
せ
給
(
たま
)
ひそ
242
いしたふや
天
(
あま
)
はせづかひ
243
ことの
語
(
かた
)
り
言
(
ごと
)
も こをば
244
青山
(
あをやま
)
に
日
(
ひ
)
が
隠
(
かく
)
らば
烏羽玉
(
ぬばたま
)
の
夜
(
よ
)
は
出
(
い
)
でなむ
245
旭
(
あさひ
)
の
笑
(
ゑ
)
み
栄
(
さか
)
え
来
(
き
)
て
栲綱
(
たくづぬ
)
の
白
(
しろ
)
き
腕
(
ただむき
)
246
沫雪
(
あはゆき
)
の
弱
(
わ
)
かやる
胸
(
むね
)
を そ
叩
(
だた
)
き
叩
(
たた
)
き
拱
(
まな
)
がり
247
真玉手
(
またまで
)
玉手
(
たまで
)
さしまき
股長
(
ももなが
)
に
寝
(
い
)
はなさむを
248
あやに
勿
(
な
)
恋聞
(
こひき
)
こし
八千矛
(
やちほこ
)
の
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
249
ことの
語
(
かた
)
り
言
(
ごと
)
も こをば
250
と
歌
(
うた
)
つて
沼河姫
(
ぬながはひめ
)
がたうとう
降参
(
まゐ
)
つて
了
(
しま
)
ひ、
251
実
(
じつ
)
に
神聖
(
しんせい
)
なローマンスが
行
(
おこな
)
はれたぢやありませぬか。
252
それに
何
(
なん
)
ぞや、
253
お
前
(
まへ
)
さまは、
254
八千矛
(
やちほこ
)
の
神
(
かみ
)
一名
(
いちめい
)
大国主
(
おほくにぬし
)
の
神
(
かみ
)
さまとは
反対
(
はんたい
)
で
沼河姫
(
ぬながはひめ
)
様
(
さま
)
よりズツと
綺麗
(
きれい
)
な
賢女
(
さかしめ
)
麗女
(
くはしめ
)
にラバーされて、
255
それを
何
(
なん
)
とも
思
(
おも
)
はず、
256
すげなくもエツパツパを
喰
(
く
)
はす
考
(
かんが
)
へですか。
257
本当
(
ほんたう
)
に
人
(
ひと
)
の
悪
(
わる
)
い
唐変木
(
たうへんぼく
)
だなア……オツトドツコイ、
258
余
(
あま
)
り
一心
(
いつしん
)
になつて、
259
ツイ
言霊
(
ことたま
)
が
濁
(
にご
)
りました。
260
どうぞ
早
(
はや
)
く、
261
綾垣
(
あやがき
)
の ふはやが
下
(
した
)
に
虫衾
(
むしぶすま
)
柔
(
にこ
)
やが
下
(
した
)
に
262
栲衾
(
たくぶすま
)
亮
(
さや
)
ぐが
下
(
した
)
に
沫雪
(
あはゆき
)
の
弱
(
わ
)
かやる
胸
(
むね
)
を
263
栲綱
(
たくづぬ
)
の
白
(
しろ
)
き
腕
(
ただむき
)
そ
叩
(
だた
)
き
叩
(
たた
)
き
拱
(
まな
)
がり
264
真玉手
(
またまで
)
玉手
(
たまで
)
差纏
(
さしま
)
き
股長
(
ももなが
)
に
寝
(
い
)
をし
宿
(
な
)
せ
265
豊御酒
(
とよみき
)
献
(
たてまつ
)
らせ
266
と
云
(
い
)
ふやうに
御
(
ご
)
返事
(
へんじ
)
をして
下
(
くだ
)
さい。
267
外
(
ほか
)
の
方
(
かた
)
の
御
(
お
)
使
(
つかひ
)
と
違
(
ちが
)
ひ、
268
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
だから、
269
これ
計
(
ばか
)
りは
邪
(
じや
)
が
非
(
ひ
)
でも
聞
(
き
)
いて
貰
(
もら
)
はなくちや、
270
松若彦
(
まつわかひこ
)
の
男
(
をとこ
)
が
立
(
た
)
ちませぬ』
271
国依別
『
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
を
始
(
はじ
)
め
末子姫
(
すゑこひめ
)
様
(
さま
)
に
於
(
おい
)
て、
272
御
(
ご
)
異存
(
いぞん
)
なければ
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になりませう。
273
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
古疵
(
ふるきず
)
だらけの
国依別
(
くによりわけ
)
ですから、
274
何時
(
なんどき
)
持病
(
ぢびやう
)
が
再発
(
さいはつ
)
して、
275
御
(
お
)
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
に
眉気
(
まゆげ
)
を
逆立
(
さかだ
)
てさしたり、
276
牙
(
きば
)
をむかせたり、
277
死
(
し
)
ぬの
走
(
はし
)
るの、
278
ひまをくれのと
乱痴気
(
らんちき
)
騒
(
さわ
)
ぎをさすかも
知
(
し
)
れませぬから、
279
それが
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
なら、
280
宜
(
よろ
)
しく
御
(
お
)
取持
(
とりもち
)
願
(
ねが
)
ひます』
281
松若彦
『アハヽヽヽ、
282
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い、
283
私
(
わたし
)
もそれがズンと
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つた……
国依別
(
くによりわけ
)
さま、
284
いよいよ
御
(
ご
)
結婚
(
けつこん
)
が
整
(
ととの
)
へば、
285
あなたはウヅの
国
(
くに
)
の
司
(
つかさ
)
、
286
私
(
わたし
)
は
御
(
ご
)
家来
(
けらい
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
287
どうぞ
末永
(
すえなが
)
くお
召
(
めし
)
使
(
つか
)
ひ
下
(
くだ
)
さいませ。
288
今迄
(
いままで
)
の
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
な
申
(
まを
)
し
様
(
やう
)
、
289
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
御
(
お
)
忘
(
わす
)
れの
程
(
ほど
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
290
国依別
『サア
忽
(
たちま
)
ちさうなるから、
291
窮屈
(
きうくつ
)
でたまらぬ。
292
それだから
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
がしたいのだよ。
293
あんたはん(
阿弥陀
(
あみだ
)
はん)、
294
ぶつたはん(
仏陀
(
ぶつた
)
はん)、
295
大将
(
たいしやう
)
さんと
皆
(
みな
)
の
連中
(
れんぢう
)
にピヨコピヨコ
頭
(
あたま
)
を
下
(
さ
)
げられ、
296
敬遠
(
けいゑん
)
主義
(
しゆぎ
)
を
取
(
と
)
られるやうになつて
了
(
しま
)
つちや、
297
根
(
ね
)
つから
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
無味
(
むみ
)
乾燥
(
かんさう
)
で、
298
面白
(
おもしろ
)
くも
何
(
なん
)
ともなくなつて
了
(
しま
)
ふ。
299
あゝ
折角
(
せつかく
)
自由
(
じいう
)
の
世界
(
せかい
)
へ
解放
(
かいはう
)
されたと
思
(
おも
)
つたら、
300
又
(
また
)
もや
窮屈
(
きうくつ
)
な、
301
お
慈悲
(
じひ
)
の
獄屋
(
ごくや
)
に
繋
(
つな
)
がれねばならぬのかいなア。
302
エヽこんな
事
(
こと
)
なら
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
でも
伴
(
つ
)
らつて
来
(
き
)
て、
303
自分
(
じぶん
)
の
女房
(
にようばう
)
のやうに
見
(
み
)
せて
居
(
を
)
つたら、
304
こんな
問題
(
もんだい
)
は
起
(
おこ
)
らなかつただらうに、
305
エヽ
有難
(
ありがた
)
迷惑
(
めいわく
)
とは
此
(
この
)
事
(
こと
)
だ。
306
女
(
をんな
)
が
男
(
をとこ
)
にお
膳
(
ぜん
)
を
末子姫
(
すゑこひめ
)
と
来
(
き
)
てゐるのだから、
307
さう
無下
(
むげ
)
に
無愛想
(
ぶあいさう
)
に
捨子姫
(
すてこひめ
)
する
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
こまい、
308
アハヽヽヽ』
309
松若彦
『なるべく、
310
お
気楽
(
きらく
)
な
様
(
やう
)
に
持
(
も
)
ちかけますから、
311
どうぞ
取越
(
とりこし
)
苦労
(
ぐらう
)
をなさらずに、
312
決心
(
けつしん
)
をして
下
(
くだ
)
さいませ』
313
国依別
『ハイ、
314
是非
(
ぜひ
)
に
及
(
およ
)
びませぬ。
315
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
、
316
あなたの
御
(
お
)
取持
(
とりもち
)
、
317
謹
(
つつし
)
んで
御
(
お
)
受
(
う
)
け
致
(
いた
)
します』
318
とキツパリ
答
(
こた
)
ふれば、
319
松若彦
(
まつわかひこ
)
はニコニコしながら
軽
(
かる
)
く
一礼
(
いちれい
)
し、
320
急
(
いそ
)
ぎ
奥殿
(
おくでん
)
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
321
(
大正一一・八・二四
旧七・二
松村真澄
録)
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