霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二二章 橋架(はしかけ)〔九一三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第32巻 海洋万里 未の巻 篇:第4篇 天祥地瑞 よみ(新仮名遣い):てんしょうちずい
章:第22章 橋架 よみ(新仮名遣い):はしかけ 通し章番号:913
口述日:1922(大正11)年08月24日(旧07月02日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年10月15日
概要: 舞台:ウヅの館 あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
神司たちは各々眠りにつき、体を休めた。あくる朝早々、松若彦は国依別の一室にやってきた。改まってやってきた松若彦が切り出したのは、末子姫との婚姻話であった。
神素盞嗚大神から相談された末子姫の結婚相手について、言依別命と松若彦は、そろって国依別を推薦したというのである。また神素盞嗚大神も、国依別の名前を聞いて大いにお喜びになったという。
それを聞いて国依別は涙を流してうつむいている。訳を尋ねる松若彦に対して国依別は、自分は若いころから極道をなしたので、改心してからは女と一切関係を絶ち、生涯独身を覚悟しているのだと告げた。
松若彦は、大神様は国依別の素性は知ったうえで縁談に前向きなのだと伝えた。松若彦と国依別は押し問答を繰り返したが、最後に国依別は覚悟を決め、何事も大神様のおおせと松若彦に任せると答えた。
松若彦は喜んで部屋を後にした。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-06-08 18:44:54 OBC :rm3222
愛善世界社版:261頁 八幡書店版:第6輯 236頁 修補版: 校定版:265頁 普及版:95頁 初版: ページ備考:
001 国依別(くによりわけ)002高姫(たかひめ)003鷹依姫(たかよりひめ)004竜国別(たつくにわけ)(その)()宣伝使(せんでんし)(かく)休息室(きうそくしつ)(あた)へられ、005(よる)其処(そこ)(ねむ)り、006筋骨(きんこつ)(やす)ませて()た。007翌朝(よくあさ)早々(さうさう)国依別(くによりわけ)一室(いつしつ)松若彦(まつわかひこ)(たづ)(きた)り、
008松若彦国依別(くによりわけ)(さま)009()(はや)御座(ござ)います。010()いてはあなたに折入(をりい)つて()相談(さうだん)御座(ござ)いまして、011(はや)くから()邪魔(じやま)(いた)しました』
012(こころ)ありげに(ゑみ)(ふく)んでゐる。013国依別(くによりわけ)は、
014国依別『これは(また)(あらた)まつた()言葉(ことば)015(わたくし)(たい)し、016()相談(さうだん)とはどんな(こと)御座(ござ)いますか。017明智(あけち)言依別(ことよりわけ)(さま)()らせられる以上(いじやう)は、018どうぞ命様(みことさま)()相談(さうだん)(くだ)さつたら、019如何(いかが)でせうかなア』
020松若彦(じつ)(ところ)夜前(やぜん)(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)(さま)()()しに()り、021言依別(ことよりわけ)(さま)(およ)(わたし)(さん)(にん)()(どもゑ)になつて、022()相談(さうだん)あつた結果(けつくわ)023(わたし)特命(とくめい)全権(ぜんけん)公使(こうし)(えら)まれて(まゐ)りましたので御座(ござ)います。024万一(まんいち)(この)使(つかひ)が、025不成功(ふせいこう)(をは)るやうな(こと)があれば、026(この)松若彦(まつわかひこ)海外(かいぐわい)旅行券(りよかうけん)交附(かうふ)された手前(てまへ)027(はら)()らねばならないのです』
028国依別『そりやマア大変(たいへん)()使命(しめい)()えますが、029どうぞ(はや)仰有(おつしや)つて(くだ)さいませ。030(わたくし)(ちから)(およ)(こと)ならば、031(かみ)(さま)(ささ)げた(この)(からだ)032如何(いか)なる御用(ごよう)(うけたま)はるで御座(ござ)いませう』
033松若彦(じつ)(わたし)(ちち)国彦(くにひこ)は、034正鹿(まさか)山津見(やまづみの)(かみ)(さま)五月姫(さつきひめ)(さま)(とも)黄泉(よもつ)比良坂(ひらさか)(たたか)ひに()出陣(しゆつぢん)(みぎり)035ウヅの(くに)人民(じんみん)(まを)すも(さら)なり、036(この)神館(かむやかた)()(あづ)(あそ)ばし、037やがて(とき)(きた)らば、038(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)(さま)(みづ)御霊(みたま)(うづ)御子(みこ)039(この)(くに)(くだ)(たま)ふことあるべし。040それ(まで)(なんぢ)我命(わがめい)(まも)つて、041(この)(くに)(およ)神館(かむやかた)(あづか)()れよとの厳命(げんめい)御座(ござ)いました。042(ちち)(かう)不幸(ふかう)か、043最早(もはや)幽界(いうかい)(まゐ)りましたが、044(あと)(のこ)つた(わたし)(ちち)(あと)()ぎ、045(この)(やかた)(まも)つて()ります(ところ)へ、046正鹿山津見(まさかやまづみ)(かみ)(さま)(おん)(あふ)せの(ごと)く、047(みづ)御霊(みたま)大神(おほかみ)(さま)(おん)娘子(むすめご)048末子姫(すゑこひめ)(さま)()()(あそ)ばしたので、049(ただ)ちに()(やかた)(ひめ)(さま)()(わた)(まを)し、050(この)(くに)をも()(わた)しをして、051(わたし)御存(ごぞん)じの(とほ)総司(そうし)として(つか)へて(まゐ)りました。052(しか)るに(この)(たび)053(おん)父君(ちちぎみ)(かむ)素盞嗚(すさのをの)(みこと)054突然(とつぜん)天降(あまくだ)(たま)ひ、055大変(たいへん)()(よろこ)(あそ)ばし、056()末子姫(すゑこひめ)最早(もはや)()年頃(としごろ)であるから、057適当(てきたう)(をつと)()たせたいのだが……との()(たづ)ね、058(まね)かれた吾々(われわれ)(はじ)言依別(ことよりわけの)(みこと)(さま)は、059言下(げんか)国依別(くによりわけ)(さま)()婿(むこ)(さま)になされましたら如何(どう)でせうと申上(まをしあ)げし(ところ)060大神(おほかみ)(さま)大変(たいへん)()(よろこ)(あそ)ばされ、061(じつ)(その)(こと)(つい)て、062はるばるとここまで()()たのだ。063どうぞ神徳(しんとく)(つよ)国依別(くによりわけ)末子姫(すゑこひめ)(をつと)になつて()れる(やう)064(その)(はう)()()てよ……との()命令(めいれい)()(もの)()(あへ)ず、065あなたに(おい)ても()異存(いぞん)御座(ござ)いますまいと(おも)ひまして……ヘヽヽヽ、066一寸(ちよつと)全権(ぜんけん)公使(こうし)(やく)拝命(はいめい)し、067()(うかが)ひに(まゐ)つた次第(しだい)御座(ござ)います。068どうぞ(ぜん)(いそ)げですから、069(はや)()()返事(へんじ)()(ねが)(まを)します』
070 国依別(くによりわけ)(あん)相違(さうゐ)面持(おももち)にて(かうべ)(かたむ)け、071双手(もろて)()み、072(ふと)(いき)をつきながら、073ものをも()はず両眼(りやうがん)より(なみだ)さへ(したた)らしつつ()る。
074松若彦『モシ国依別(くによりわけ)さま、075あなたは(なに)それ(ほど)()思案(しあん)なされますか、076()れば(なみだ)()()らしになつてゐるやうですなア。077如何(どう)しても()()()らないのですか?』
078国依別『イエイエどうしてどうして()()らぬ(どころ)か、079(あま)りの(こと)で、080勿体(もつたい)なくて、081申上(まをしあ)げる言葉(ことば)御座(ござ)いませぬ。082(わたし)(わか)(とき)より道楽(だうらく)有丈(ありたけ)(つく)し、083沢山(たくさん)女殺(をんなごろ)し、084御家(ごけ)(だほ)し、085家潰(いへつぶ)しをやつてきた(つみ)(かたまり)御座(ござ)います。086今日(こんにち)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)として、087(をんな)一切(いつさい)関係(くわんけい)()ち、088生涯(しやうがい)独身(どくしん)生活(せいくわつ)(つづ)ける覚悟(かくご)(いた)して()るので御座(ござ)います。089如何(いか)大神(おほかみ)(さま)思召(おぼしめ)しなればとて、090(わたし)(やう)横着者(わうちやくもの)()れの()て、091何程(なにほど)(みたま)(みが)けたと(まを)しても、092(しろ)(きれ)(すみ)()んだのと同様(どうやう)に、093いくら(あら)つても(もと)(しろ)生地(きぢ)にはなりませぬ。094つまり霊魂(れいこん)(じやう)疵者(きずもの)御座(ござ)います。095斯様(かやう)疵者(きずもの)水晶(すいしやう)身魂(みたま)(うぶ)処女(しよぢよ)なる末子姫(すゑこひめ)(さま)(をつと)になるなぞと()(こと)は、096どうしても良心(りやうしん)(とが)めてなりませぬ。097冥加(みやうが)(ほど)(おそ)ろしうなつて(まゐ)りました。098どうぞ右様(みぎやう)次第(しだい)御座(ござ)いますから、099()しからず、100大神(おほかみ)(さま)(わたし)素性(すじやう)素破(すつぱ)ぬいた(うへ)101(よろ)しく()(ことわ)(くだ)さいませ』
102松若彦左様(さやう)()遠慮(ゑんりよ)はチツとも()りませぬ。103(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)(さま)は、104あなたがバラモン(けう)信者(しんじや)であつた(こと)も、105(をんな)()かしの御家(ごけ)(たふ)し、106家潰(いへつぶ)しをなさつた(こと)も、107(だい)悪戯者(いたづらもの)()らつしやつた(こと)も、108松鷹彦(まつたかひこ)(さま)のお宿(やど)()らず()らずに(たづ)ね、109(かつ)殿(どの)といろいろのローマンスのあつた(こと)110それから真浦(まうら)(さま)(おとうと)なる(こと)111一切(いつさい)万事(ばんじ)()取調(とりしらべ)(うへ)(こと)御座(ござ)いますから、112(けつ)してそんな()遠慮(ゑんりよ)()りませぬ。113言依別(ことよりわけ)(さま)(くち)(きは)めてあなたの美点(びてん)をあげ、114(また)(わる)(くせ)(ひと)つも(のこ)らず、115大神(おほかみ)(さま)申上(まをしあ)げられました。116(ところ)大神(おほかみ)(さま)大変(たいへん)()機嫌(きげん)で……あゝ其奴(そいつ)益々(ますます)面白(おもしろ)(をとこ)だ、117()()つた、118どうぞ(はや)末子姫(すゑこひめ)(をつと)にしたいものだ……との思召(おぼしめ)しで御座(ござ)いましたよ……国依別(くによりわけ)(さま)119あなたは言依別(ことよりわけ)(さま)から(うけたまは)れば、120随分(ずゐぶん)からかひの上手(じやうず)()(かた)ぢやさうですから、121(わたし)がこんな(こと)をいつて、122あなたをからかつてゐると(おも)はれるか()りませぬが、123今日(けふ)真剣(しんけん)ですから、124どうぞ真面目(まじめ)()いて(くだ)さい』
125国依別『から()ひも豆腐買(とうふかひ)も、126厄介(やくかい)喧嘩買(けんくわかひ)も、127法螺貝(ほらがひ)もドブ(がひ)心霊(しんれい)研究会(けんきうくわい)も、128大日本(だいにほん)修斎会(しうさいくわい)も、129議会(ぎくわい)日本海(にほんかい)皆目(かいもく)ありませぬワイ。130正真(しやうしん)正銘(しやうめい)(いつは)りなきあなたの()言葉(ことば)131国依別(くによりわけ)132(じつ)光栄(くわうえい)(ぞん)じます。133(しか)しながら貴族(きぞく)卑族(ひぞく)との結婚(けつこん)提灯(ちやうちん)釣鐘(つりがね)134釣合(つりあ)はぬは不縁(ふえん)(もと)ですから、135()らぬ苦労(くらう)をさせずに、136どうぞ(てい)よく(ことわ)つて(くだ)さい』
137松若彦『エヽ国依別(くによりわけ)さま、138真剣(しんけん)ですよ。139(また)(れい)(くせ)()して、140正直(しやうぢき)(わたし)をじらしなさるのですか。141あなたの(ほん)守護神(しゆごじん)はキツト契約済(けいやくずみ)実印(じついん)押捺(あふなつ)して御座(ござ)るに間違(まちがひ)ありませぬよ。142(また)()(ことわざ)にも、143(こひ)上下(じやうげ)(へだ)てなしと()ふぢやありませぬか。144(へだて)のないのが所謂(いはゆる)(こひ)神聖(しんせい)なる所以(ゆゑん)です』
145国依別(わたし)一旦(いつたん)婦人(ふじん)との関係(くわんけい)(こころ)(そこ)より断念(だんねん)して()ますから、146(こひ)なんか(こころ)(おこ)した(こと)はありませぬ。147(こひ)滝上(たきのぼ)りをし、148夕立(ゆふだち)()つて天上(てんぢやう)する(やう)険呑(けんのん)結婚(けつこん)問題(もんだい)は、149どうぞ()(たの)みですから、150(はや)撤廃(てつぱい)して(くだ)さい』
151松若彦(また)しても(ふな)(ふな)(らち)のあかぬ、152あなたの()言葉(ことば)153末子姫(すゑこひめ)(さま)があの飯鞘(いひだこ)154尻目(しじめ)で、155(まへ)さまの後姿(うしろすがた)(にら)んで、156あの(をとこ)(どぜう)なとして、157(わたくし)オツトセイ()ちたいものだと、158()けても()れても、159つばす()みこんで、160あかえ(とし)だから、161(こひ)(ほのほ)をもやして御座(ござ)るのだから、162どうぞ(いろ)よいあぢのよい返事(へんじ)をして(くだ)さい。163あなたも(ます)(ます)(さば)けた人間(にんげん)だと()つて、164(ふか)はまりしてゐられるのだ。165それにお(まへ)さまが()をふり、166(ひれ)をピンとはねるやうな(こと)をなさつたら……あゝ(わたし)折角(せつかく)(こひ)(かな)はねば、167一層(いつそう)(こと)168ちぬ(だひ)169()(ふな)浮世(うきよ)生鰕(なまえび)したかて、170サヨリがないからと()つて淵川(ふちかは)()()げて(しま)はれたら、171(まへ)さま何程(なにほど)(うを)(うを)とうろついて(くや)んでもあとの(まつ)り、172大神(おほかみ)(さま)からは、173是程(これほど)(こと)()けて()ふのに、174(こひ)(やう)にはねつけるとは、175ギギシイラ(やつ)だと()立腹(りつぷく)(あそ)ばすかも()れませぬ。176(わたし)はこれ(ほど)白魚(しらうを)もやさして、177(まへ)さまはそれでも()()むの(かひ)な。178マア(いや)でも()うて()なさい。179仕舞(しまひ)にやすすきになりますぞや、180ヤマメ(くら)すより(あゆ)らしい(おく)さまとガザミ()()いて、181山野(やまの)時々(ときどき)跋渉(ばつせふ)なさるのも(おつ)ですよ。182これ(ほど)(わたし)()カマス(いわし)ておいて、183だまつてゐるとは、184(あんま)りぢやありませぬか。185今日(けふ)大神(おほかみ)(さま)(おぼ)(めし)だから、186瓢箪(へうたん)(なまづ)では(とほ)りませぬぞや』
187国依別エエハモ(かれい)ヤガラ(なまぐさ)厄介(やくかい)坊主(ばうず)自堕落(じだらく)上人(しやうにん)御座(ござ)いますから、188どうぞ今日(けふ)(かぎ)りそんな(こと)()つて(くだ)さるな。189(をんな)スキ()刺身(さしみ)もモウ(わか)(とき)から()ひあいて()ました。190()(ひる)レコ(がひ)(はまぐり)だつたものだから、191どうぞ、192カマスにおいて(くだ)さい。193(この)(こと)(つい)ては、194イカナゴとも飯蛸(いひだこ)(いた)(わけ)には(まゐ)りませぬ。195アハヽヽヽ』
196 松若彦(まつわかひこ)国依別(くによりわけ)背中(せなか)を、197(うしろ)へまはつてポンと(たた)き、
198松若彦『コレ国依別(くによりわけ)さま! (また)しても、199あなたは、200からかひ(びやう)(おこ)りましたね』
201国依別カラカギでも、202(なまづ)でもフンゾクラヒでもありませぬよ。203小雲川(こくもがは)(いし)()()つてフンゾクラヒだと()つて、204高姫(たかひめ)さまに(おく)つた(こと)があります。205随分(ずゐぶん)(かた)(うを)でした。206(その)(とほ)(わたし)(いま)(こひ)(よく)化石(くわせき)して(しま)ひ、207石地蔵(いしぢざう)(やう)冷酷(れいこく)人間(にんげん)ですから、208到底(たうてい)(この)縁談(えんだん)(あたた)まりますまい。209(こひ)()(やつ)(みづ)(なか)常住(じやうぢゆう)してゐますから、210随分(ずゐぶん)(からだ)()えてゐますからね、211アハヽヽヽ』
212松若彦『コレ国依別(くによりわけ)さま、213大国主(おほくにぬし)(かみ)さまの妻呼(つまよ)びの(うた)()つてますだらう、214男子(だんし)たる(もの)はさうなくては到底(たうてい)()()つことは出来(でき)ますまい。215(なさけ)()らずして、216どうして宣伝使(せんでんし)完全(くわんぜん)(つと)まりますか。217八千矛(やちほこ)(かみ)さまを御覧(ごらん)なさい。218はるばると出雲(いづも)(くに)から(こし)(くに)まで、219腰弁当(こしべんたう)でお()でになつたぢやありませぬか。220(その)(とき)のお(うた)に、
 
221 八千矛(やちほこ)の (かみ)(みこと)は 八洲国(やしまぐに) 妻求(つまま)ぎかねて
222 遠々(とほとほ)し (こし)(くに)に (さか)()を ありと()かして
223 (くは)()を ありと()こして さよばひに ありたたし
224 結婚(よきひ)にあり(かよ)はせ 太刀(たち)()も (いま)()かずて
225 (おす)ひをも (いま)()かねば 乙女(をとめ)の ()すや板戸(いたど)
226 ()そぶらひ ()()たせれば ()こずらひ ()()たせれば
227 青山(あをやま)に (ぬえ)()き 野鳥(さぬつどり) 雉子(きぎす)(どよ)
228 (には)(とり) (かけ)()く (うれ)たくも ()くなる(とり)
229 ()(とり)も ()()めこせね いしたふや (あま)はせづかひ
230 ことの(かた)(ごと)も こをば
 
231(うた)はしやつて、232(こし)(くに)沼河姫(ぬながはひめ)(さま)(いた)()を、233(よる)夜中(よなか)押開(おしあ)這入(はい)らうと(あそ)ばす、234沼河姫(ぬながはひめ)さまは這入(はい)られては大変(たいへん)と、235(をとこ)(をんな)()そぶらひ、236()こづらひを(なが)らく(あそ)ばした(すゑ)237(つひ)大国主(おほくにぬしの)(みこと)さまの熱心(ねつしん)なる(こひ)(かん)じ、238沼河姫(ぬながはひめ)さまは()(なか)から、
 
239 八千矛(やちほこ)の (かみ)(みこと) ()(ぐさ)の ()にしあれば
240 ()(こころ) 浦渚(うらす)(とり)ぞ (いま)こそは 千鳥(ちどり)にあらめ
241 のちわ 和鳥(などり)にあらむを いのちは な()(たま)ひそ
242 いしたふや (あま)はせづかひ
243 ことの(かた)(ごと)も こをば
244 青山(あをやま)に ()(かく)らば 烏羽玉(ぬばたま)の ()()でなむ
245 (あさひ)の ()(さか)()て 栲綱(たくづぬ)の (しろ)(ただむき)
246 沫雪(あはゆき)の ()かやる(むね)を そ(だた)き (たた)(まな)がり
247 真玉手(またまで) 玉手(たまで)さしまき 股長(ももなが)に ()はなさむを
248 あやに ()恋聞(こひき)こし 八千矛(やちほこ)の (かみ)(みこと)
249 ことの(かた)(ごと)も こをば
 
250(うた)つて沼河姫(ぬながはひめ)がたうとう降参(まゐ)つて(しま)ひ、251(じつ)神聖(しんせい)なローマンスが(おこな)はれたぢやありませぬか。252それに(なん)ぞや、253(まへ)さまは、254八千矛(やちほこ)(かみ)一名(いちめい)大国主(おほくにぬし)(かみ)さまとは反対(はんたい)沼河姫(ぬながはひめ)(さま)よりズツと綺麗(きれい)賢女(さかしめ)麗女(くはしめ)にラバーされて、255それを(なん)とも(おも)はず、256すげなくもエツパツパを()はす(かんが)へですか。257本当(ほんたう)(ひと)(わる)唐変木(たうへんぼく)だなア……オツトドツコイ、258(あま)一心(いつしん)になつて、259ツイ言霊(ことたま)(にご)りました。260どうぞ(はや)く、
 
261 綾垣(あやがき)の ふはやが(した)に 虫衾(むしぶすま) (にこ)やが(した)
262 栲衾(たくぶすま) (さや)ぐが(した)に 沫雪(あはゆき)の ()かやる(むね)
263 栲綱(たくづぬ)の (しろ)(ただむき) そ(だた)き (たた)(まな)がり
264 真玉手(またまで) 玉手(たまで)差纏(さしま)き 股長(ももなが)に ()をし宿()
265 豊御酒(とよみき) (たてまつ)らせ
 
266()ふやうに()返事(へんじ)をして(くだ)さい。267(ほか)(かた)()使(つかひ)(ちが)ひ、268大神(おほかみ)(さま)思召(おぼしめし)だから、269これ(ばか)りは(じや)()でも()いて(もら)はなくちや、270松若彦(まつわかひこ)(をとこ)()ちませぬ』
271国依別大神(おほかみ)(さま)(はじ)末子姫(すゑこひめ)(さま)(おい)て、272()異存(いぞん)なければ()世話(せわ)になりませう。273(その)(かは)りに古疵(ふるきず)だらけの国依別(くによりわけ)ですから、274何時(なんどき)持病(ぢびやう)再発(さいはつ)して、275()(ひめ)(さま)眉気(まゆげ)逆立(さかだ)てさしたり、276(きば)をむかせたり、277()ぬの(はし)るの、278ひまをくれのと乱痴気(らんちき)(さわ)ぎをさすかも()れませぬから、279それが()承知(しようち)なら、280(よろ)しく()取持(とりもち)(ねが)ひます』
281松若彦『アハヽヽヽ、282面白(おもしろ)面白(おもしろ)い、283(わたし)もそれがズンと()()つた……国依別(くによりわけ)さま、284いよいよ()結婚(けつこん)(ととの)へば、285あなたはウヅの(くに)(つかさ)286(わたし)()家来(けらい)御座(ござ)いますから、287どうぞ末永(すえなが)くお(めし)使(つか)(くだ)さいませ。288今迄(いままで)()無礼(ぶれい)(まを)(やう)289只今(ただいま)(かぎ)()(わす)れの(ほど)(ねが)ひます』
290国依別『サア(たちま)ちさうなるから、291窮屈(きうくつ)でたまらぬ。292それだから独身(どくしん)生活(せいくわつ)がしたいのだよ。293あんたはん(阿弥陀(あみだ)はん)、294ぶつたはん(仏陀(ぶつた)はん)、295大将(たいしやう)さんと(みな)連中(れんぢう)にピヨコピヨコ(あたま)()げられ、296敬遠(けいゑん)主義(しゆぎ)()られるやうになつて(しま)つちや、297()つから()(なか)無味(むみ)乾燥(かんさう)で、298面白(おもしろ)くも(なん)ともなくなつて(しま)ふ。299あゝ折角(せつかく)自由(じいう)世界(せかい)解放(かいはう)されたと(おも)つたら、300(また)もや窮屈(きうくつ)な、301慈悲(じひ)獄屋(ごくや)(つな)がれねばならぬのかいなア。302エヽこんな(こと)なら紅井姫(くれなゐひめ)でも()らつて()て、303自分(じぶん)女房(にようばう)のやうに()せて()つたら、304こんな問題(もんだい)(おこ)らなかつただらうに、305エヽ有難(ありがた)迷惑(めいわく)とは(この)(こと)だ。306(をんな)(をとこ)にお(ぜん)末子姫(すゑこひめ)()てゐるのだから、307さう無下(むげ)無愛想(ぶあいさう)捨子姫(すてこひめ)する(わけ)にも()こまい、308アハヽヽヽ』
309松若彦『なるべく、310気楽(きらく)(やう)()ちかけますから、311どうぞ取越(とりこし)苦労(ぐらう)をなさらずに、312決心(けつしん)をして(くだ)さいませ』
313国依別『ハイ、314是非(ぜひ)(およ)びませぬ。315大神(おほかみ)()言葉(ことば)316あなたの()取持(とりもち)317(つつし)んで()()(いた)します』
318とキツパリ(こた)ふれば、319松若彦(まつわかひこ)はニコニコしながら(かる)一礼(いちれい)し、320(いそ)奥殿(おくでん)()して(すす)()る。
321大正一一・八・二四 旧七・二 松村真澄録)
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