霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 人(ひと)の裘(かはごろも)〔九〇二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第32巻 海洋万里 未の巻 篇:第2篇 北の森林 よみ(新仮名遣い):きたのしんりん
章:第11章 人の裘 よみ(新仮名遣い):ひとのかわごろも 通し章番号:902
口述日:1922(大正11)年08月23日(旧07月01日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年10月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
アマゾン河の南岸の大森林は、猛獣毒蛇が暴威をたくましくしていたが、帽子ケ岳の山頂から照らされる霊光により、すべて鷹依姫に帰順していた。
一方で北の大森林の猛獣たちは妖怪変化をなし、ひととおりでは通過することができない状態であった。ここへ入って来ようとしている高姫の執着心を去って完全な神の司として探検せしめようと、大江山の鬼武彦が白狐たちを遣わして、神の試練に遭わせたのであった。
春彦は、自分の忠告が正しかっただろうと高姫に言うと、高姫はそんなことは知っていたと強がりを言い、一人で沈思黙考するのだと森林の中へ入ってしまった。常彦は高姫の姿を見失わないようにと一目散に高姫を追って駆け出した。
春彦は、高姫とはいずれどこかでまた会うだろう、鷹依姫一行を探さなくては、とわざと高姫とは反対の方角に進んでいった。ヨブも春彦に続いた。
しばらく三人が進んで行くと、苔の生えた割れ地蔵が並んで立っている。春彦は、この地蔵も何かの化身であろうから、気を付けないと自分たちが高姫の二の舞になると気を付けた。
ヨブは、高姫の態度に愛想が尽き、三五教が嫌になったと春彦に愚痴をこぼした。春彦は、高姫を信じるのか、三五教の神を信じるのかとヨブをたしなめた。二人が問答をしている背後で、そろそろ石地蔵が歩きだし、二人の前に胡坐をかいて座った。
驚くヨブに春彦は、ここは化けものの巣窟だからと泰然と答え、今度は石地蔵にからかいながら話しかけた。石地蔵は、春彦は高姫を見捨てるのかと逆に問いかけてきた。石地蔵は、今高姫はモールバンドに狙われて、常彦とともに大木の上に難を避けているところだと言う。
春彦は自分たち二人が行ったところでどうにもならない、と答えると、石地蔵は口ばかり立派で実行力がないのは誠が無い奴だと嘲った。春彦はそれを聞いて奮起して、ヨブを促して高姫のところへ助けに走ることになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-05-11 17:27:02 文字数:4482 OBC :rm3211
愛善世界社版:122頁 八幡書店版:第6輯 193頁 修補版: 校定版:128頁 普及版:50頁 初版: ページ備考:
001 アマゾン河(がは)の南岸(なんがん)に展開(てんかい)せる大森林(だいしんりん)は、002猛獣(まうじう)毒蛇(どくじや)の公然(こうぜん)として暴威(ばうゐ)を逞(たくま)しうするのみなれば、003却(かへつ)て之(これ)が征服(せいふく)には余(あま)り骨(ほね)を折(を)らなくてもよかつた。004只(ただ)表面(へうめん)的(てき)神力(しんりき)を発揮(はつき)さへすれば獅子(しし)、005狼(おほかみ)其(その)他(た)の猛獣(まうじう)をも悦服(えつぷく)させ得(え)たのである。
006 鷹依姫(たかよりひめ)、007竜国別(たつくにわけ)は兎(うさぎ)の都(みやこ)の王(わう)となり、008暫(しばら)く此処(ここ)に止(とどま)つてゐた。009然(しか)るに屡々(しばしば)、010獅子(しし)、011熊(くま)、012虎(とら)、013狼(おほかみ)、014大蛇(をろち)、015禿鷲(はげわし)、016豺(さい)其(その)他(た)の獣(けだもの)、017群(むれ)をなして兎(うさぎ)の都(みやこ)を包囲(はうゐ)攻撃(こうげき)し、018大(おほ)いにそれが防禦(ばうぎよ)に艱(なや)みつつありし処(ところ)に、019帽子(ぼうし)ケ岳(だけ)の山頂(さんちやう)より危急(ききふ)存亡(そんばう)の場合(ばあひ)は、020不思議(ふしぎ)の霊光(れいくわう)、021猛獣(まうじう)の頭(かしら)を射照(いて)らし、022遂(つひ)に流石(さすが)の猛獣(まうじう)大蛇(をろち)も我(が)を折(を)り、023鷹依姫(たかよりひめ)、024竜国別(たつくにわけ)の許(もと)に鷲(わし)の使(つかひ)を派遣(はけん)し帰順(きじゆん)を乞(こ)ひ、025時雨(しぐれ)の森(もり)の南森林(みなみしんりん)は、026全(まつた)く鷹依姫(たかよりひめ)女王(ぢよわう)の管掌(くわんしやう)する所(ところ)となりぬ。
027 之(これ)に反(はん)し北(きた)の森林(しんりん)はすべての獣類(じうるゐ)、028奸佞(かんねい)にして妖怪(えうくわい)変化(へんげ)をなし、029容易(ようい)に其(その)行動(かうどう)、030端倪(たんげい)すべからざるものあり。031そこへ動(やや)もすれば執着心(しふちやくしん)を盛返(もりかへ)し、032心(こころ)動(うご)き易(やす)き高姫(たかひめ)を主(しゆ)として一行(いつかう)四(よ)人(にん)、033鷹依姫(たかよりひめ)を助(たす)けむと出(い)で来(きた)りたるが、034到底(たうてい)北(きた)の森林(しんりん)は、035一通(ひととほり)や二通(ふたとほり)で通過(つうくわ)する事(こと)さへ出来(でき)ない事(こと)を大江山(たいかうざん)の鬼武彦(おにたけひこ)が推知(すゐち)し、036茲(ここ)に白狐(びやくこ)の高倉(たかくら)、037月日(つきひ)、038旭(あさひ)の眷族(けんぞく)を遣(つか)はし、039先(ま)づ第一(だいいち)に高姫(たかひめ)の執着心(しふちやくしん)を根底(こんてい)より除(のぞ)き、040我(が)を折(を)らしめ、041完全(くわんぜん)無欠(むけつ)なる神(かみ)の司(つかさ)として、042森林(しんりん)の探険(たんけん)を了(を)へしめむと企画(きくわく)されたるが、043果(はた)して高姫(たかひめ)は玉(たま)と聞(き)くや、044執着心(しふちやくしん)の雲(くも)忽(たちま)ち心天(しんてん)を蔽(おほ)ひ、045斯(かく)の如(ごと)き神(かみ)の試(こころ)みに遇(あ)ひたるぞ浅(あさ)ましき。
046○
047 高姫(たかひめ)は泥田圃(どろたんぼ)の葦(あし)の中(なか)にアフンとして、048夢(ゆめ)から醒(さ)めたやうな面(つら)をさらしてゐる。049常彦(つねひこ)、050ヨブの両人(りやうにん)は、051鼈(すつぽん)に尻(しり)をぬかれた様(やう)な、052ド拍子(びやうし)の抜(ぬ)けた面(つら)をさげて、053高姫(たかひめ)の体(からだ)を不思議(ふしぎ)さうに、054頭(あたま)の先(さき)から足(あし)の先(さき)まで、055まんじりともせず眺(なが)めながら黙然(もくねん)として立(た)つて居(ゐ)る。056春彦(はるひこ)は何時(いつ)の間(ま)にやら、057身体(しんたい)自由(じいう)になつて居(ゐ)た。
058春彦(はるひこ)『高姫(たかひめ)さま、059私(わたし)の云(い)つた事(こと)は如何(どう)でした。060違(ちが)ひましたかなア』
061高姫(たかひめ)『違(ちが)はぬ事(こと)もない、062違(ちが)ふと云(い)つたら、063マア違(ちが)ふやうなものだ。064チツトお前(まへ)さま改心(かいしん)なさらぬと、065私(わたくし)迄(まで)がこんな目(め)に遇(あ)はなくちやなりませぬよ』
066春彦『アハヽヽヽ、067何(なん)とマア徹底(てつてい)的(てき)に強(つよ)いこと、068世間(せけん)へ顔出(かほだ)しがならぬ様(やう)になりて来(く)るぞよ、069われ程(ほど)の者(もの)はなき様(やう)に申(まを)して、070慢心(まんしん)致(いた)して居(を)ると、071眉毛(まゆげ)をよまれ、072尻(しり)の毛(け)が一本(いつぽん)もない所(ところ)迄(まで)抜(ぬ)かれて了(しま)うて、073アフンといたし、074そこになりてから、075何程(なにほど)神(かみ)を頼(たの)みたとて、076聞済(ききずみ)はないぞよ……と三五教(あななひけう)の御教(みをしへ)にスツカリ現(あら)はしてあるぢや御座(ござ)いませぬか……スゴスゴと姿(すがた)隠(かく)して逃(に)げていぬぞよと』
077高姫『コレコレ春彦(はるひこ)、078お前(まへ)そりや誰(たれ)に云(い)つてるのだえ。079そんなこた、080チヤンと知(し)つてゐる者(もの)計(ばか)りだ。081高姫(たかひめ)はそんな事(こと)は百(ひやく)も千(せん)も承知(しようち)の上(うへ)の事(こと)だから、082モウ何(な)にも云(い)うて下(くだ)さるな。083エヽこんな男(をとこ)の側(そば)に居(を)つて、084ひやかされて居(ゐ)るよりも、085どつかの木(き)の下(した)で一(ひと)つ沈思(ちんし)黙考(もくかう)と出掛(でか)けようか』
086と云(い)ひながら、087一生(いつしやう)懸命(けんめい)に尻(しり)ひきまくり、088森林(しんりん)の奥深(おくふか)く駆入(かけい)る。
089 常彦(つねひこ)は高姫(たかひめ)の姿(すがた)を見失(みうしな)はじと、090是亦(これまた)尻(しり)ひつからげ、091後(あと)を慕(した)うて従(つ)いて行(ゆ)く。
092 春彦(はるひこ)、093ヨブの二人(ふたり)は、094二人(ふたり)の姿(すがた)を見失(みうしな)ひ、
095春彦『又(また)何(いづ)れどつかで会(あ)ふ事(こと)があるだらう。096吾々(われわれ)は鷹依姫(たかよりひめ)一行(いつかう)を早(はや)く捜(さが)し求(もと)めて救(すく)ひ出(だ)し、097自転倒(おのころ)島(じま)へ早(はや)く帰(かへ)らねばならぬ』
098と春彦(はるひこ)は先(さき)に立(た)つて高姫(たかひめ)が走(はし)つて行(い)つた反対(はんたい)の方向(はうかう)へワザとに歩(ほ)を進(すす)めた。099半時(はんとき)許(ばか)り森林(しんりん)の中(なか)をかきわけて、100西北(せいほく)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)くと、101そこに真黒(まつくろ)けの苔(こけ)の生(は)えた、102目鼻口(めはなくち)の輪廓(りんくわく)も碌(ろく)に分(わか)らぬ様(やう)な三尺(さんじやく)許(ばか)りの石地蔵(いしぢざう)が、103耳(みみ)が欠(か)けたり、104手(て)が欠(か)けたり、105頭(あたま)半分(はんぶん)わられたりしたまま、106淋(さび)しげに横一(よこいち)の字(じ)に立(た)つてゐる。
107ヨブ『春彦(はるひこ)さま、108一寸(ちよつと)御覧(ごらん)、109此(この)石地蔵(いしぢざう)を……耳(みみ)の欠(か)けたのや、110頭(あたま)の欠(か)けたの、111手(て)の欠(か)けたのや、112而(しか)も三体(さんたい)、113能(よ)くも不具(ふぐ)がこれ丈(だけ)揃(そろ)うたものですな。114一寸(ちよつと)此(この)辺(へん)で一服(いつぷく)致(いた)しませうか』
115春彦(はるひこ)『サアもう一休(ひとやす)みしてもよい時分(じぶん)だ。116併(しか)し此(この)石地蔵(いしぢざう)は決(けつ)して正真(しやうまつ)ぢやありますまいで。117気(き)をつけないと、118又(また)高姫(たかひめ)さまの二(に)の舞(まひ)をやらされるか知(し)れませぬワイ。119神(かみ)さまに吾々(われわれ)は始終(しじう)気(き)を引(ひ)かれて修業(しうげふ)をさせられますからな』
120ヨブ『春彦(はるひこ)さま、121私(わたし)はモウ三五教(あななひけう)が厭(いや)になりましたよ。122高姫(たかひめ)さまの正直(しやうぢき)な態度(たいど)に、123船中(せんちう)に於(おい)て感歎(かんたん)し、124本当(ほんたう)に好(よ)い教(をしへ)だと思(おも)うて入信(にふしん)し、125一切(いつさい)の欲(よく)に離(はな)れて財産(ざいさん)迄(まで)人(ひと)に呉(く)れてやり、126ここ迄(まで)発起(ほつき)してワザワザついて来(き)ましたが、127どうも高姫(たかひめ)さまの執着心(しふちやくしん)の深(ふか)い事(こと)、128あの豹変振(へうへんぶ)り、129ホトホト愛想(あいさう)がつきて、130三五教(あななひけう)がサツパリ厭(いや)になつて了(しま)つたのですよ』
131春彦『あなたは神(かみ)様(さま)を信(しん)ずるのですか、132高姫(たかひめ)さまを信(しん)じてるのですか……人(ひと)を信(しん)じて居(を)ると、133大変(たいへん)な間違(まちが)ひが起(おこ)りますよ。134肝腎要(かんじんかなめ)の大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)精神(せいしん)さへ体得(たいとく)すれば、135高姫(たかひめ)さまが悪(あく)であらうが、136取違(とりちが)ひをしようが、137別(べつ)に信仰(しんかう)に影響(えいきやう)する筈(はず)はないぢやありませぬか』
138ヨブ『さう聞(き)けばさうですなア。139併(しか)し高姫(たかひめ)さまの行(おこな)ひに惚込(ほれこ)んで入信(にふしん)した私(わたし)ですから、140何(なん)だか高姫(たかひめ)さまがあんな事(こと)を言(い)つたり、141したりなさるのを実地(じつち)目撃(もくげき)しては、142坊主(ばうず)憎(にく)けら袈裟(けさ)迄(まで)憎(にく)いとか云(い)つて、143神(かみ)様(さま)迄(まで)が信用(しんよう)出来(でき)なくなつて来(き)ましたよ』
144春彦『そらそんなものです。145大抵(たいてい)の人(ひと)が百(ひやく)人(にん)が九十九(くじふく)人(にん)迄(まで)導(みちび)いて呉(く)れた人(ひと)の言行(げんかう)を標準(へうじゆん)として信仰(しんかう)に入(い)るのですから、146盲(めくら)が杖(つゑ)を取(と)られたやうに淋(さび)しみを感(かん)ずるのは当然(たうぜん)です。147どうでせう、148是(これ)から吾々(われわれ)両人(りやうにん)が高姫(たかひめ)さまに層一層(そういつそう)立派(りつぱ)な神柱(かむばしら)になつて貰(もら)ふやうに努(つと)めようぢやありませぬか。149神(かみ)様(さま)から吾々(われわれ)に対(たい)する試験(しけん)問題(もんだい)として提供(ていきよう)されたのに違(ちが)ひありませぬよ』
150ヨブ『兎(と)も角(かく)入信(にふしん)間(ま)もなき私(わたし)ですから、151先輩(せんぱい)のあなたの御(ご)意見(いけん)に従(したが)ひませう。152私(わたし)もあなたには感心(かんしん)しました。153高姫(たかひめ)さま以上(いじやう)の神通力(じんつうりき)をお持(も)ちになり、154吾々(われわれ)三(さん)人(にん)が今(いま)の今迄(いままで)神(かみ)様(さま)の試(こころ)みに会(あ)ひ、155泡(あわ)を吹(ふ)いて苦(くる)しむ事(こと)を、156先(さき)へ御存(ごぞん)じの春彦(はるひこ)さま、157高姫(たかひめ)さま以上(いじやう)ですワ』
158春彦『イエイエ、159決(けつ)して高姫(たかひめ)さまの側(そば)へも寄(よ)れませぬ。160併(しか)しながら如何(どう)したものか、161私(わたし)の体(からだ)が余程(よほど)霊感(れいかん)気分(きぶん)になり、162あんな事(こと)を言(い)つたのです。163つまり神(かみ)様(さま)から言(い)はされたのです』
164と話(はな)して居(ゐ)る。165後(うしろ)の石地蔵(いしぢざう)はソロソロ歩(ある)き出(だ)し、166二人(ふたり)の前(まへ)に胡坐(あぐら)をかき始(はじ)めた。167ヨブはビツクリして、
168ヨブ『アヽ春彦(はるひこ)さま、169大変(たいへん)ですよ。170石地蔵(いしぢざう)奴(め)、171そろそろ動(うご)き出(だ)して、172此処(ここ)に胡坐(あぐら)をかいて笑(わら)つてるぢやありませぬか』
173春彦『アハヽヽヽ是(これ)ですかいな。174コリヤオホカミ様(さま)ですよ。175獣(けだもの)としては優良品(いうりやうひん)ですよ。176一(ひと)つの奴(やつ)はアークマ大明神(だいみやうじん)と云(い)ふ奴(やつ)、177一(ひと)つの奴(やつ)はシシトラ大明神(だいみやうじん)と云(い)ふ化神(ばけがみ)さまだから、178用心(ようじん)なさいませや』
179ヨブ『何(なん)と能(よ)う化州(ばけしう)の現(あら)はれる所(とこ)ですなア』
180春彦『元(もと)より妖怪(えうくわい)の巣窟(さうくつ)だから、181いろいろの御(お)客(きやく)さまが現(あら)はれて、182面白(おもしろ)い芸当(げいたう)を見(み)せてくれますワイ……オイ熊公(くまこう)、183獅子(しし)、184虎(とら)、185狼(おほかみ)、186なんぢや猪口才(ちよこざい)な、187石地蔵(いしぢざう)や人間(にんげん)の姿(すがた)に化(ば)けやがつて、188四(よ)ツ足(あし)は四(よ)ツ足(あし)らしうしたがよからうぞ。189勿体(もつたい)ない、190人間(にんげん)様(さま)の姿(すがた)に化(ば)けると云(い)ふ事(こと)があるかい、191僣越(せんゑつ)至極(しごく)にも程(ほど)があるワ』
192石地蔵(いしぢざう)『ホツホヽヽ、193俺(おれ)達(たち)が人間(にんげん)の姿(すがた)や仏(ほとけ)の姿(すがた)をするのが、194夫程(それほど)可笑(をか)しいのかい。195又(また)夫程(それほど)罪(つみ)になるのか。196よう考(かんが)へて見(み)よ、197今(いま)の人間(にんげん)に四足(よつあし)の容器(いれもの)になつて居(を)らぬ奴(やつ)が一人(ひとり)でもあると思(おも)ふか。198虎(とら)や狼(おほかみ)、199獅子(しし)、200熊(くま)、201狐(きつね)、202狸(たぬき)、203鷲(わし)、204鳶(とび)、205大蛇(をろち)、206鬼(おに)は云(い)ふも更(さら)なり、207下級(かきふ)な器(うつは)になると、208豆狸(まめだぬき)や蛙(かはづ)までが人間(にんげん)の皮(かは)を被(かぶ)つて、209白昼(はくちう)に大都市(だいとし)のまん中(なか)を横行(わうかう)濶歩(くわつぽ)して居(ゐ)る世(よ)の中(なか)だよ。
210 これはしも人(ひと)にやあるとよく見(み)れば
211  あらぬ獣(けもの)が人(ひと)の皮(かは)着(き)る
212と云(い)ふ様(やう)な今日(こんにち)の世界(せかい)だ。213そんな野暮(やぼ)な分(わか)らぬ事(こと)を云(い)ふものでないよ。214今(いま)の人間(にんげん)は神(かみ)様(さま)の真似(まね)をしたり、215志士(しし)仁人(じんじん)、216聖人(せいじん)君子(くんし)、217学者(がくしや)、218宗教家(しうけうか)、219教育家(けういくか)などと、220洒落(しやれ)てゐやがるが、221大抵(たいてい)皆(みな)四足(よつあし)のサツクだ。222どうだ、223チツト合点(がつてん)がいつたか』
224春彦『お前(まへ)がさう云(い)ふとチツト考(かんが)へねばならぬやうな気分(きぶん)がするワイ。225全(まつた)くの悪口(わるくち)でもないやうだ。226併(しか)し、227お前(まへ)の目(め)から俺(おれ)の肉体(にくたい)を見(み)ると、228神(かみ)さまのサツクの様(やう)に見(み)えはせぬかな』
229石地蔵『見(み)えるとも見(み)えるとも、230スツカリ神(かみ)様(さま)だ』
231春彦『四足(よつあし)の容器(いれもの)のやうにはないかなア』
232石地蔵『四足(よつあし)所(どころ)かモツトモツト○○だ。233神(かみ)は神(かみ)ぢやが渋紙(しぶがみ)の様(やう)な面(つら)をし、234心(こころ)の中(なか)は貧乏神(びんばふがみ)、235弱味(よわみ)につけ込(こ)む風邪(かぜ)の神(かみ)、236疱瘡(はうさう)の神(かみ)に痳疹(はしか)の神(かみ)、237おまけに顔(かほ)はシガミ面(づら)、238人情(にんじやう)うすき紙(かみ)の如(ごと)き破(やぶ)れ神(がみ)……と云(い)ふ様(やう)な神(かみ)様(さま)のサツクだなア』
239春彦『そら、240余(あま)り酷評(こくひやう)ぢやないか』
241石地蔵『どうでも良(よ)いワ。242お前(まへ)の心(こころ)と協議(けふぎ)して考(かんが)へたが一番(いちばん)だ。243お前(まへ)は高姫(たかひめ)を見棄(みす)てる精神(せいしん)だらうがな』
244春彦『イヤア決(けつ)して決(けつ)して見(み)すてる考(かんが)へぢやない。245一(いち)日(にち)も早(はや)く改心(かいしん)をして貰(もら)つて、246立派(りつぱ)な神司(かむつかさ)になつて欲(ほ)しいのだから、247それでワザとに高姫(たかひめ)さまが苦労(くらう)をする様(やう)に、248二人(ふたり)こちらへ別(わか)れて来(き)たのだ。249此(この)春彦(はるひこ)が従(つ)いてゐると、250高姫(たかひめ)さまがツイ慢心(まんしん)をして、251折角(せつかく)の改心(かいしん)が後戻(あともど)りをすると約(つま)らないからなア』
252石地蔵『アツハヽヽヽ、253腰抜神(こしぬけがみ)の分際(ぶんざい)として、254高姫(たかひめ)さまに改心(かいしん)をして貰(もら)ひたいなどとは、255よう言(い)へたものだ。256お前(まへ)の心(こころ)の曇(くも)りが、257みんな高姫(たかひめ)さまを包(つつ)んで了(しま)ふんだから、258折角(せつかく)改心(かいしん)した高姫(たかひめ)が、259最前(さいぜん)の様(やう)な試(こころ)みに遇(あ)うたのだぞよ。260今(いま)高姫(たかひめ)はモールバンドに取囲(とりかこ)まれ、261大木(たいぼく)の幹(みき)を目(め)がけて、262常彦(つねひこ)と共(とも)に難(なん)を避(さ)けてゐるが、263上(うへ)には沢山(たくさん)な猅々猿(ひひざる)が居(を)つて、264高姫(たかひめ)に襲撃(しふげき)して来(く)る。265下(した)からはモールバンドが目(め)を怒(いか)らして、266只(ただ)一打(ひとう)ちと狙(ねら)つてゐる最中(さいちう)だ。267オイ春彦(はるひこ)、268ヨブの両人(りやうにん)、269是(これ)から高姫(たかひめ)を救(すく)ひに行(ゆ)くと云(い)ふ真心(まごころ)はないのか』
270春彦『そりやない事(こと)はないが、271此(この)春彦(はるひこ)、272ヨブの両人(りやうにん)が往(い)つた所(ところ)で、273モールバンドのやうな、274強(つよ)い奴(やつ)が目(め)を怒(いか)らして待(ま)ち構(かま)へとる以上(いじやう)は、275吾々(われわれ)二人(ふたり)が救(すく)ひに行(い)つた所(ところ)で、276駄目(だめ)だ。277否(いや)駄目(だめ)のみならず、278吾々(われわれ)の命(いのち)迄(まで)、279あの尻尾(しつぽ)で一(ひと)つやられようものなら、280台(だい)なしになつて了(しま)ふ。281人間(にんげん)の体(からだ)は神(かみ)様(さま)の大切(たいせつ)なる御(お)道具(だうぐ)だから、282さう易々(やすやす)と使(つか)ふ訳(わけ)には行(ゆ)きますまい。283何分(なにぶん)にも、284お前(まへ)の云(い)ふ通(とほ)り、285人情(にんじやう)うすき紙(かみ)の様(やう)な神(かみ)や、286腰抜神(こしぬけがみ)の容器(いれもの)だからなア』
287石地蔵『アツハヽヽヽ、288口(くち)計(ばか)り立派(りつぱ)な事(こと)を云(い)つて居(を)つても、289まさかの時(とき)になつたら尻込(しりご)みを致(いた)す、290誠(まこと)のない代物(しろもの)計(ばか)りだなア。291それでは三五教(あななひけう)も駄目(だめ)だよ』
292春彦『喧(やかま)しう云(い)ふな。293春彦(はるひこ)の精神(せいしん)が石地蔵(いしぢざう)のお化(ば)けに分(わか)つて堪(たま)らうかい。294俺(おれ)は高姫(たかひめ)さまの様(やう)に有言(いうげん)不実行(ふじつかう)ではないのだ。295不言(ふげん)実行(じつかう)だ。296どんな事(こと)をやるか見(み)て居(を)つて呉(く)れい。297モールバンドであらうがエルバンドであらうが、298誠(まこと)と云(い)ふ一(ひと)つの武器(ぶき)で言向(ことむ)け和(やは)し、299見(み)ン事(ごと)二人(ふたり)の生命(いのち)を助(たす)けて見(み)ようぞ。300サア、301ヨブさま、302春彦(はるひこ)に従(つ)いてお出(い)でなさい』
303とあわてて、304高姫(たかひめ)の走(はし)つた方(はう)へ行(ゆ)かうとする。305石地蔵(いしぢざう)は、
306石地蔵『アツハヽヽヽ、307たうとう俺(おれ)の言(げん)に励(はげ)まされて、308直日(なほひ)の霊(みたま)に省(かへり)みよつたなア。309人(ひと)に言(い)うて貰(もら)うてからの改心(かいしん)は駄目(だめ)だよ。310心(こころ)の底(そこ)から発根(ほつこん)と改心(かいしん)した誠(まこと)でないと役(やく)には立(た)たぬぞよ。311今(いま)にアフンと致(いた)して腮(あご)が外(はづ)れるやうな事(こと)がない様(やう)に気(き)をつけたがよいぞよ。312石地蔵(いしぢざう)が気(き)を付(つ)けておくぞよ。313此(この)方(はう)はアキグヒの艮(うしとら)の神(かみ)、314それに、315良(よ)き獣(けもの)の使(つか)はし女(め)を沢山(たくさん)抱(かか)へて居(ゐ)る狼(おほかみ)又(また)アークマ大明神(だいみやうじん)と云(い)ふ立派(りつぱ)な御(お)方(かた)だ。316ドレ、317是(これ)から石地蔵(いしぢざう)に化(ば)けて居(を)つても本当(ほんたう)の活動(くわつどう)は出来(でき)ない。318うしろから、319お前(まへ)の腕前(うでまへ)を、320実地(じつち)見分(けんぶん)と出(で)かけよう。321口(くち)と心(こころ)と行(おこな)ひの揃(そろ)ふやうな誠(まこと)を見(み)せて貰(もら)はうかい』
322春彦『エヽ喧(やかま)しい、323化州(ばけしう)、324俺(おれ)の御(お)手際(てぎは)を見(み)てから、325何(なん)なと吐(ほざ)け。326サア、327ヨブさま行(ゆ)かう』
328と尻(しり)ひつからげ、329以前(いぜん)の谷川(たにがは)を兎(うさぎ)の如(ごと)くポイポイポイと身軽(みがる)く打渡(うちわた)り、330転(こ)けつ輾(まろ)びつ、
331春彦『オーイオイ、332高姫(たかひめ)さまはどこぢやアどこぢやア、333モールバンドのお宿(やど)はどこぢや、334春彦(はるひこ)さまの御(お)見舞(みまひ)だ、335俺(おれ)がこれ程(ほど)ヨブのに、336何故(なぜ)春彦(はるひこ)ともヨブさまとも返答(へんたふ)をせぬのか。337高姫(たかひめ)、338お前(まへ)は聾(つんぼ)になつたのか。339オーイ、340オイ』
341と声(こゑ)を限(かぎ)りに叫(さけ)び乍(なが)ら、342ドンドンドンと地響(ぢひび)きさせつつ、343草原(くさはら)を無性(むしやう)矢鱈(やたら)に大木(たいぼく)の茂(しげ)みを指(さ)して走(はし)り行(ゆ)く。
344(大正一一・八・二三 旧七・一 松村真澄録)
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