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~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章
人
(
ひと
)
の
裘
(
かはごろも
)
〔九〇二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第32巻 海洋万里 未の巻
篇:
第2篇 北の森林
よみ(新仮名遣い):
きたのしんりん
章:
第11章 人の裘
よみ(新仮名遣い):
ひとのかわごろも
通し章番号:
902
口述日:
1922(大正11)年08月23日(旧07月01日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年10月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
アマゾン河の南岸の大森林は、猛獣毒蛇が暴威をたくましくしていたが、帽子ケ岳の山頂から照らされる霊光により、すべて鷹依姫に帰順していた。
一方で北の大森林の猛獣たちは妖怪変化をなし、ひととおりでは通過することができない状態であった。ここへ入って来ようとしている高姫の執着心を去って完全な神の司として探検せしめようと、大江山の鬼武彦が白狐たちを遣わして、神の試練に遭わせたのであった。
春彦は、自分の忠告が正しかっただろうと高姫に言うと、高姫はそんなことは知っていたと強がりを言い、一人で沈思黙考するのだと森林の中へ入ってしまった。常彦は高姫の姿を見失わないようにと一目散に高姫を追って駆け出した。
春彦は、高姫とはいずれどこかでまた会うだろう、鷹依姫一行を探さなくては、とわざと高姫とは反対の方角に進んでいった。ヨブも春彦に続いた。
しばらく三人が進んで行くと、苔の生えた割れ地蔵が並んで立っている。春彦は、この地蔵も何かの化身であろうから、気を付けないと自分たちが高姫の二の舞になると気を付けた。
ヨブは、高姫の態度に愛想が尽き、三五教が嫌になったと春彦に愚痴をこぼした。春彦は、高姫を信じるのか、三五教の神を信じるのかとヨブをたしなめた。二人が問答をしている背後で、そろそろ石地蔵が歩きだし、二人の前に胡坐をかいて座った。
驚くヨブに春彦は、ここは化けものの巣窟だからと泰然と答え、今度は石地蔵にからかいながら話しかけた。石地蔵は、春彦は高姫を見捨てるのかと逆に問いかけてきた。石地蔵は、今高姫はモールバンドに狙われて、常彦とともに大木の上に難を避けているところだと言う。
春彦は自分たち二人が行ったところでどうにもならない、と答えると、石地蔵は口ばかり立派で実行力がないのは誠が無い奴だと嘲った。春彦はそれを聞いて奮起して、ヨブを促して高姫のところへ助けに走ることになった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-05-11 17:27:02
OBC :
rm3211
愛善世界社版:
122頁
八幡書店版:
第6輯 193頁
修補版:
校定版:
128頁
普及版:
50頁
初版:
ページ備考:
001
アマゾン
河
(
がは
)
の
南岸
(
なんがん
)
に
展開
(
てんかい
)
せる
大森林
(
だいしんりん
)
は、
002
猛獣
(
まうじう
)
毒蛇
(
どくじや
)
の
公然
(
こうぜん
)
として
暴威
(
ばうゐ
)
を
逞
(
たくま
)
しうするのみなれば、
003
却
(
かへつ
)
て
之
(
これ
)
が
征服
(
せいふく
)
には
余
(
あま
)
り
骨
(
ほね
)
を
折
(
を
)
らなくてもよかつた。
004
只
(
ただ
)
表面
(
へうめん
)
的
(
てき
)
神力
(
しんりき
)
を
発揮
(
はつき
)
さへすれば
獅子
(
しし
)
、
005
狼
(
おほかみ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
猛獣
(
まうじう
)
をも
悦服
(
えつぷく
)
させ
得
(
え
)
たのである。
006
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
、
007
竜国別
(
たつくにわけ
)
は
兎
(
うさぎ
)
の
都
(
みやこ
)
の
王
(
わう
)
となり、
008
暫
(
しばら
)
く
此処
(
ここ
)
に
止
(
とどま
)
つてゐた。
009
然
(
しか
)
るに
屡々
(
しばしば
)
、
010
獅子
(
しし
)
、
011
熊
(
くま
)
、
012
虎
(
とら
)
、
013
狼
(
おほかみ
)
、
014
大蛇
(
をろち
)
、
015
禿鷲
(
はげわし
)
、
016
豺
(
さい
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
獣
(
けだもの
)
、
017
群
(
むれ
)
をなして
兎
(
うさぎ
)
の
都
(
みやこ
)
を
包囲
(
はうゐ
)
攻撃
(
こうげき
)
し、
018
大
(
おほ
)
いにそれが
防禦
(
ばうぎよ
)
に
艱
(
なや
)
みつつありし
処
(
ところ
)
に、
019
帽子
(
ぼうし
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
山頂
(
さんちやう
)
より
危急
(
ききふ
)
存亡
(
そんばう
)
の
場合
(
ばあひ
)
は、
020
不思議
(
ふしぎ
)
の
霊光
(
れいくわう
)
、
021
猛獣
(
まうじう
)
の
頭
(
かしら
)
を
射照
(
いて
)
らし、
022
遂
(
つひ
)
に
流石
(
さすが
)
の
猛獣
(
まうじう
)
大蛇
(
をろち
)
も
我
(
が
)
を
折
(
を
)
り、
023
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
、
024
竜国別
(
たつくにわけ
)
の
許
(
もと
)
に
鷲
(
わし
)
の
使
(
つかひ
)
を
派遣
(
はけん
)
し
帰順
(
きじゆん
)
を
乞
(
こ
)
ひ、
025
時雨
(
しぐれ
)
の
森
(
もり
)
の
南森林
(
みなみしんりん
)
は、
026
全
(
まつた
)
く
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
女王
(
ぢよわう
)
の
管掌
(
くわんしやう
)
する
所
(
ところ
)
となりぬ。
027
之
(
これ
)
に
反
(
はん
)
し
北
(
きた
)
の
森林
(
しんりん
)
はすべての
獣類
(
じうるゐ
)
、
028
奸佞
(
かんねい
)
にして
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
をなし、
029
容易
(
ようい
)
に
其
(
その
)
行動
(
かうどう
)
、
030
端倪
(
たんげい
)
すべからざるものあり。
031
そこへ
動
(
やや
)
もすれば
執着心
(
しふちやくしん
)
を
盛返
(
もりかへ
)
し、
032
心
(
こころ
)
動
(
うご
)
き
易
(
やす
)
き
高姫
(
たかひめ
)
を
主
(
しゆ
)
として
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
、
033
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
を
助
(
たす
)
けむと
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
りたるが、
034
到底
(
たうてい
)
北
(
きた
)
の
森林
(
しんりん
)
は、
035
一通
(
ひととほり
)
や
二通
(
ふたとほり
)
で
通過
(
つうくわ
)
する
事
(
こと
)
さへ
出来
(
でき
)
ない
事
(
こと
)
を
大江山
(
たいかうざん
)
の
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
が
推知
(
すゐち
)
し、
036
茲
(
ここ
)
に
白狐
(
びやくこ
)
の
高倉
(
たかくら
)
、
037
月日
(
つきひ
)
、
038
旭
(
あさひ
)
の
眷族
(
けんぞく
)
を
遣
(
つか
)
はし、
039
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
高姫
(
たかひめ
)
の
執着心
(
しふちやくしん
)
を
根底
(
こんてい
)
より
除
(
のぞ
)
き、
040
我
(
が
)
を
折
(
を
)
らしめ、
041
完全
(
くわんぜん
)
無欠
(
むけつ
)
なる
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
として、
042
森林
(
しんりん
)
の
探険
(
たんけん
)
を
了
(
を
)
へしめむと
企画
(
きくわく
)
されたるが、
043
果
(
はた
)
して
高姫
(
たかひめ
)
は
玉
(
たま
)
と
聞
(
き
)
くや、
044
執着心
(
しふちやくしん
)
の
雲
(
くも
)
忽
(
たちま
)
ち
心天
(
しんてん
)
を
蔽
(
おほ
)
ひ、
045
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
き
神
(
かみ
)
の
試
(
こころ
)
みに
遇
(
あ
)
ひたるぞ
浅
(
あさ
)
ましき。
046
○
047
高姫
(
たかひめ
)
は
泥田圃
(
どろたんぼ
)
の
葦
(
あし
)
の
中
(
なか
)
にアフンとして、
048
夢
(
ゆめ
)
から
醒
(
さ
)
めたやうな
面
(
つら
)
をさらしてゐる。
049
常彦
(
つねひこ
)
、
050
ヨブの
両人
(
りやうにん
)
は、
051
鼈
(
すつぽん
)
に
尻
(
しり
)
をぬかれた
様
(
やう
)
な、
052
ド
拍子
(
びやうし
)
の
抜
(
ぬ
)
けた
面
(
つら
)
をさげて、
053
高姫
(
たかひめ
)
の
体
(
からだ
)
を
不思議
(
ふしぎ
)
さうに、
054
頭
(
あたま
)
の
先
(
さき
)
から
足
(
あし
)
の
先
(
さき
)
まで、
055
まんじりともせず
眺
(
なが
)
めながら
黙然
(
もくねん
)
として
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
056
春彦
(
はるひこ
)
は
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら、
057
身体
(
しんたい
)
自由
(
じいう
)
になつて
居
(
ゐ
)
た。
058
春彦
(
はるひこ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
059
私
(
わたし
)
の
云
(
い
)
つた
事
(
こと
)
は
如何
(
どう
)
でした。
060
違
(
ちが
)
ひましたかなア』
061
高姫
(
たかひめ
)
『
違
(
ちが
)
はぬ
事
(
こと
)
もない、
062
違
(
ちが
)
ふと
云
(
い
)
つたら、
063
マア
違
(
ちが
)
ふやうなものだ。
064
チツトお
前
(
まへ
)
さま
改心
(
かいしん
)
なさらぬと、
065
私
(
わたくし
)
迄
(
まで
)
がこんな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はなくちやなりませぬよ』
066
春彦
『アハヽヽヽ、
067
何
(
なん
)
とマア
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
に
強
(
つよ
)
いこと、
068
世間
(
せけん
)
へ
顔出
(
かほだ
)
しがならぬ
様
(
やう
)
になりて
来
(
く
)
るぞよ、
069
われ
程
(
ほど
)
の
者
(
もの
)
はなき
様
(
やう
)
に
申
(
まを
)
して、
070
慢心
(
まんしん
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ると、
071
眉毛
(
まゆげ
)
をよまれ、
072
尻
(
しり
)
の
毛
(
け
)
が
一本
(
いつぽん
)
もない
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
抜
(
ぬ
)
かれて
了
(
しま
)
うて、
073
アフンといたし、
074
そこになりてから、
075
何程
(
なにほど
)
神
(
かみ
)
を
頼
(
たの
)
みたとて、
076
聞済
(
ききずみ
)
はないぞよ……と
三五教
(
あななひけう
)
の
御教
(
みをしへ
)
にスツカリ
現
(
あら
)
はしてあるぢや
御座
(
ござ
)
いませぬか……スゴスゴと
姿
(
すがた
)
隠
(
かく
)
して
逃
(
に
)
げていぬぞよと』
077
高姫
『コレコレ
春彦
(
はるひこ
)
、
078
お
前
(
まへ
)
そりや
誰
(
たれ
)
に
云
(
い
)
つてるのだえ。
079
そんなこた、
080
チヤンと
知
(
し
)
つてゐる
者
(
もの
)
計
(
ばか
)
りだ。
081
高姫
(
たかひめ
)
はそんな
事
(
こと
)
は
百
(
ひやく
)
も
千
(
せん
)
も
承知
(
しようち
)
の
上
(
うへ
)
の
事
(
こと
)
だから、
082
モウ
何
(
な
)
にも
云
(
い
)
うて
下
(
くだ
)
さるな。
083
エヽこんな
男
(
をとこ
)
の
側
(
そば
)
に
居
(
を
)
つて、
084
ひやかされて
居
(
ゐ
)
るよりも、
085
どつかの
木
(
き
)
の
下
(
した
)
で
一
(
ひと
)
つ
沈思
(
ちんし
)
黙考
(
もくかう
)
と
出掛
(
でか
)
けようか』
086
と
云
(
い
)
ひながら、
087
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
尻
(
しり
)
ひきまくり、
088
森林
(
しんりん
)
の
奥深
(
おくふか
)
く
駆入
(
かけい
)
る。
089
常彦
(
つねひこ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見失
(
みうしな
)
はじと、
090
是亦
(
これまた
)
尻
(
しり
)
ひつからげ、
091
後
(
あと
)
を
慕
(
した
)
うて
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
092
春彦
(
はるひこ
)
、
093
ヨブの
二人
(
ふたり
)
は、
094
二人
(
ふたり
)
の
姿
(
すがた
)
を
見失
(
みうしな
)
ひ、
095
春彦
『
又
(
また
)
何
(
いづ
)
れどつかで
会
(
あ
)
ふ
事
(
こと
)
があるだらう。
096
吾々
(
われわれ
)
は
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
一行
(
いつかう
)
を
早
(
はや
)
く
捜
(
さが
)
し
求
(
もと
)
めて
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
し、
097
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
へ
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
らねばならぬ』
098
と
春彦
(
はるひこ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
高姫
(
たかひめ
)
が
走
(
はし
)
つて
行
(
い
)
つた
反対
(
はんたい
)
の
方向
(
はうかう
)
へワザとに
歩
(
ほ
)
を
進
(
すす
)
めた。
099
半時
(
はんとき
)
許
(
ばか
)
り
森林
(
しんりん
)
の
中
(
なか
)
をかきわけて、
100
西北
(
せいほく
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
くと、
101
そこに
真黒
(
まつくろ
)
けの
苔
(
こけ
)
の
生
(
は
)
えた、
102
目鼻口
(
めはなくち
)
の
輪廓
(
りんくわく
)
も
碌
(
ろく
)
に
分
(
わか
)
らぬ
様
(
やう
)
な
三尺
(
さんじやく
)
許
(
ばか
)
りの
石地蔵
(
いしぢざう
)
が、
103
耳
(
みみ
)
が
欠
(
か
)
けたり、
104
手
(
て
)
が
欠
(
か
)
けたり、
105
頭
(
あたま
)
半分
(
はんぶん
)
わられたりしたまま、
106
淋
(
さび
)
しげに
横一
(
よこいち
)
の
字
(
じ
)
に
立
(
た
)
つてゐる。
107
ヨブ『
春彦
(
はるひこ
)
さま、
108
一寸
(
ちよつと
)
御覧
(
ごらん
)
、
109
此
(
この
)
石地蔵
(
いしぢざう
)
を……
耳
(
みみ
)
の
欠
(
か
)
けたのや、
110
頭
(
あたま
)
の
欠
(
か
)
けたの、
111
手
(
て
)
の
欠
(
か
)
けたのや、
112
而
(
しか
)
も
三体
(
さんたい
)
、
113
能
(
よ
)
くも
不具
(
ふぐ
)
がこれ
丈
(
だけ
)
揃
(
そろ
)
うたものですな。
114
一寸
(
ちよつと
)
此
(
この
)
辺
(
へん
)
で
一服
(
いつぷく
)
致
(
いた
)
しませうか』
115
春彦
(
はるひこ
)
『サアもう
一休
(
ひとやす
)
みしてもよい
時分
(
じぶん
)
だ。
116
併
(
しか
)
し
此
(
この
)
石地蔵
(
いしぢざう
)
は
決
(
けつ
)
して
正真
(
しやうまつ
)
ぢやありますまいで。
117
気
(
き
)
をつけないと、
118
又
(
また
)
高姫
(
たかひめ
)
さまの
二
(
に
)
の
舞
(
まひ
)
をやらされるか
知
(
し
)
れませぬワイ。
119
神
(
かみ
)
さまに
吾々
(
われわれ
)
は
始終
(
しじう
)
気
(
き
)
を
引
(
ひ
)
かれて
修業
(
しうげふ
)
をさせられますからな』
120
ヨブ
『
春彦
(
はるひこ
)
さま、
121
私
(
わたし
)
はモウ
三五教
(
あななひけう
)
が
厭
(
いや
)
になりましたよ。
122
高姫
(
たかひめ
)
さまの
正直
(
しやうぢき
)
な
態度
(
たいど
)
に、
123
船中
(
せんちう
)
に
於
(
おい
)
て
感歎
(
かんたん
)
し、
124
本当
(
ほんたう
)
に
好
(
よ
)
い
教
(
をしへ
)
だと
思
(
おも
)
うて
入信
(
にふしん
)
し、
125
一切
(
いつさい
)
の
欲
(
よく
)
に
離
(
はな
)
れて
財産
(
ざいさん
)
迄
(
まで
)
人
(
ひと
)
に
呉
(
く
)
れてやり、
126
ここ
迄
(
まで
)
発起
(
ほつき
)
してワザワザついて
来
(
き
)
ましたが、
127
どうも
高姫
(
たかひめ
)
さまの
執着心
(
しふちやくしん
)
の
深
(
ふか
)
い
事
(
こと
)
、
128
あの
豹変振
(
へうへんぶ
)
り、
129
ホトホト
愛想
(
あいさう
)
がつきて、
130
三五教
(
あななひけう
)
がサツパリ
厭
(
いや
)
になつて
了
(
しま
)
つたのですよ』
131
春彦
『あなたは
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
信
(
しん
)
ずるのですか、
132
高姫
(
たかひめ
)
さまを
信
(
しん
)
じてるのですか……
人
(
ひと
)
を
信
(
しん
)
じて
居
(
を
)
ると、
133
大変
(
たいへん
)
な
間違
(
まちが
)
ひが
起
(
おこ
)
りますよ。
134
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
精神
(
せいしん
)
さへ
体得
(
たいとく
)
すれば、
135
高姫
(
たかひめ
)
さまが
悪
(
あく
)
であらうが、
136
取違
(
とりちが
)
ひをしようが、
137
別
(
べつ
)
に
信仰
(
しんかう
)
に
影響
(
えいきやう
)
する
筈
(
はず
)
はないぢやありませぬか』
138
ヨブ
『さう
聞
(
き
)
けばさうですなア。
139
併
(
しか
)
し
高姫
(
たかひめ
)
さまの
行
(
おこな
)
ひに
惚込
(
ほれこ
)
んで
入信
(
にふしん
)
した
私
(
わたし
)
ですから、
140
何
(
なん
)
だか
高姫
(
たかひめ
)
さまがあんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つたり、
141
したりなさるのを
実地
(
じつち
)
目撃
(
もくげき
)
しては、
142
坊主
(
ばうず
)
憎
(
にく
)
けら
袈裟
(
けさ
)
迄
(
まで
)
憎
(
にく
)
いとか
云
(
い
)
つて、
143
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
迄
(
まで
)
が
信用
(
しんよう
)
出来
(
でき
)
なくなつて
来
(
き
)
ましたよ』
144
春彦
『そらそんなものです。
145
大抵
(
たいてい
)
の
人
(
ひと
)
が
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
が
九十九
(
くじふく
)
人
(
にん
)
迄
(
まで
)
導
(
みちび
)
いて
呉
(
く
)
れた
人
(
ひと
)
の
言行
(
げんかう
)
を
標準
(
へうじゆん
)
として
信仰
(
しんかう
)
に
入
(
い
)
るのですから、
146
盲
(
めくら
)
が
杖
(
つゑ
)
を
取
(
と
)
られたやうに
淋
(
さび
)
しみを
感
(
かん
)
ずるのは
当然
(
たうぜん
)
です。
147
どうでせう、
148
是
(
これ
)
から
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
が
高姫
(
たかひめ
)
さまに
層一層
(
そういつそう
)
立派
(
りつぱ
)
な
神柱
(
かむばしら
)
になつて
貰
(
もら
)
ふやうに
努
(
つと
)
めようぢやありませぬか。
149
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
吾々
(
われわれ
)
に
対
(
たい
)
する
試験
(
しけん
)
問題
(
もんだい
)
として
提供
(
ていきよう
)
されたのに
違
(
ちが
)
ひありませぬよ』
150
ヨブ
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
入信
(
にふしん
)
間
(
ま
)
もなき
私
(
わたし
)
ですから、
151
先輩
(
せんぱい
)
のあなたの
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
に
従
(
したが
)
ひませう。
152
私
(
わたし
)
もあなたには
感心
(
かんしん
)
しました。
153
高姫
(
たかひめ
)
さま
以上
(
いじやう
)
の
神通力
(
じんつうりき
)
をお
持
(
も
)
ちになり、
154
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
今
(
いま
)
の
今迄
(
いままで
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
試
(
こころ
)
みに
会
(
あ
)
ひ、
155
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
いて
苦
(
くる
)
しむ
事
(
こと
)
を、
156
先
(
さき
)
へ
御存
(
ごぞん
)
じの
春彦
(
はるひこ
)
さま、
157
高姫
(
たかひめ
)
さま
以上
(
いじやう
)
ですワ』
158
春彦
『イエイエ、
159
決
(
けつ
)
して
高姫
(
たかひめ
)
さまの
側
(
そば
)
へも
寄
(
よ
)
れませぬ。
160
併
(
しか
)
しながら
如何
(
どう
)
したものか、
161
私
(
わたし
)
の
体
(
からだ
)
が
余程
(
よほど
)
霊感
(
れいかん
)
気分
(
きぶん
)
になり、
162
あんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つたのです。
163
つまり
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
言
(
い
)
はされたのです』
164
と
話
(
はな
)
して
居
(
ゐ
)
る。
165
後
(
うしろ
)
の
石地蔵
(
いしぢざう
)
はソロソロ
歩
(
ある
)
き
出
(
だ
)
し、
166
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
に
胡坐
(
あぐら
)
をかき
始
(
はじ
)
めた。
167
ヨブはビツクリして、
168
ヨブ
『アヽ
春彦
(
はるひこ
)
さま、
169
大変
(
たいへん
)
ですよ。
170
石地蔵
(
いしぢざう
)
奴
(
め
)
、
171
そろそろ
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
して、
172
此処
(
ここ
)
に
胡坐
(
あぐら
)
をかいて
笑
(
わら
)
つてるぢやありませぬか』
173
春彦
『アハヽヽヽ
是
(
これ
)
ですかいな。
174
コリヤ
オホカミ
様
(
さま
)
ですよ。
175
獣
(
けだもの
)
としては
優良品
(
いうりやうひん
)
ですよ。
176
一
(
ひと
)
つの
奴
(
やつ
)
は
アークマ
大明神
(
だいみやうじん
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
、
177
一
(
ひと
)
つの
奴
(
やつ
)
は
シシトラ
大明神
(
だいみやうじん
)
と
云
(
い
)
ふ
化神
(
ばけがみ
)
さまだから、
178
用心
(
ようじん
)
なさいませや』
179
ヨブ
『
何
(
なん
)
と
能
(
よ
)
う
化州
(
ばけしう
)
の
現
(
あら
)
はれる
所
(
とこ
)
ですなア』
180
春彦
『
元
(
もと
)
より
妖怪
(
えうくわい
)
の
巣窟
(
さうくつ
)
だから、
181
いろいろの
御
(
お
)
客
(
きやく
)
さまが
現
(
あら
)
はれて、
182
面白
(
おもしろ
)
い
芸当
(
げいたう
)
を
見
(
み
)
せてくれますワイ……オイ
熊公
(
くまこう
)
、
183
獅子
(
しし
)
、
184
虎
(
とら
)
、
185
狼
(
おほかみ
)
、
186
なんぢや
猪口才
(
ちよこざい
)
な、
187
石地蔵
(
いしぢざう
)
や
人間
(
にんげん
)
の
姿
(
すがた
)
に
化
(
ば
)
けやがつて、
188
四
(
よ
)
ツ
足
(
あし
)
は
四
(
よ
)
ツ
足
(
あし
)
らしうしたがよからうぞ。
189
勿体
(
もつたい
)
ない、
190
人間
(
にんげん
)
様
(
さま
)
の
姿
(
すがた
)
に
化
(
ば
)
けると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるかい、
191
僣越
(
せんゑつ
)
至極
(
しごく
)
にも
程
(
ほど
)
があるワ』
192
石地蔵
(
いしぢざう
)
『ホツホヽヽ、
193
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
人間
(
にんげん
)
の
姿
(
すがた
)
や
仏
(
ほとけ
)
の
姿
(
すがた
)
をするのが、
194
夫程
(
それほど
)
可笑
(
をか
)
しいのかい。
195
又
(
また
)
夫程
(
それほど
)
罪
(
つみ
)
になるのか。
196
よう
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
よ、
197
今
(
いま
)
の
人間
(
にんげん
)
に
四足
(
よつあし
)
の
容器
(
いれもの
)
になつて
居
(
を
)
らぬ
奴
(
やつ
)
が
一人
(
ひとり
)
でもあると
思
(
おも
)
ふか。
198
虎
(
とら
)
や
狼
(
おほかみ
)
、
199
獅子
(
しし
)
、
200
熊
(
くま
)
、
201
狐
(
きつね
)
、
202
狸
(
たぬき
)
、
203
鷲
(
わし
)
、
204
鳶
(
とび
)
、
205
大蛇
(
をろち
)
、
206
鬼
(
おに
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
なり、
207
下級
(
かきふ
)
な
器
(
うつは
)
になると、
208
豆狸
(
まめだぬき
)
や
蛙
(
かはづ
)
までが
人間
(
にんげん
)
の
皮
(
かは
)
を
被
(
かぶ
)
つて、
209
白昼
(
はくちう
)
に
大都市
(
だいとし
)
のまん
中
(
なか
)
を
横行
(
わうかう
)
濶歩
(
くわつぽ
)
して
居
(
ゐ
)
る
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だよ。
210
これはしも
人
(
ひと
)
にやあるとよく
見
(
み
)
れば
211
あらぬ
獣
(
けもの
)
が
人
(
ひと
)
の
皮
(
かは
)
着
(
き
)
る
212
と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
今日
(
こんにち
)
の
世界
(
せかい
)
だ。
213
そんな
野暮
(
やぼ
)
な
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふものでないよ。
214
今
(
いま
)
の
人間
(
にんげん
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
真似
(
まね
)
をしたり、
215
志士
(
しし
)
仁人
(
じんじん
)
、
216
聖人
(
せいじん
)
君子
(
くんし
)
、
217
学者
(
がくしや
)
、
218
宗教家
(
しうけうか
)
、
219
教育家
(
けういくか
)
などと、
220
洒落
(
しやれ
)
てゐやがるが、
221
大抵
(
たいてい
)
皆
(
みな
)
四足
(
よつあし
)
のサツクだ。
222
どうだ、
223
チツト
合点
(
がつてん
)
がいつたか』
224
春彦
『お
前
(
まへ
)
がさう
云
(
い
)
ふとチツト
考
(
かんが
)
へねばならぬやうな
気分
(
きぶん
)
がするワイ。
225
全
(
まつた
)
くの
悪口
(
わるくち
)
でもないやうだ。
226
併
(
しか
)
し、
227
お
前
(
まへ
)
の
目
(
め
)
から
俺
(
おれ
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
見
(
み
)
ると、
228
神
(
かみ
)
さまのサツクの
様
(
やう
)
に
見
(
み
)
えはせぬかな』
229
石地蔵
『
見
(
み
)
えるとも
見
(
み
)
えるとも、
230
スツカリ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だ』
231
春彦
『
四足
(
よつあし
)
の
容器
(
いれもの
)
のやうにはないかなア』
232
石地蔵
『
四足
(
よつあし
)
所
(
どころ
)
かモツトモツト○○だ。
233
神
(
かみ
)
は
神
(
かみ
)
ぢやが
渋紙
(
しぶがみ
)
の
様
(
やう
)
な
面
(
つら
)
をし、
234
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
は
貧乏神
(
びんばふがみ
)
、
235
弱味
(
よわみ
)
につけ
込
(
こ
)
む
風邪
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
、
236
疱瘡
(
はうさう
)
の
神
(
かみ
)
に
痳疹
(
はしか
)
の
神
(
かみ
)
、
237
おまけに
顔
(
かほ
)
はシガミ
面
(
づら
)
、
238
人情
(
にんじやう
)
うすき
紙
(
かみ
)
の
如
(
ごと
)
き
破
(
やぶ
)
れ
神
(
がみ
)
……と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のサツクだなア』
239
春彦
『そら、
240
余
(
あま
)
り
酷評
(
こくひやう
)
ぢやないか』
241
石地蔵
『どうでも
良
(
よ
)
いワ。
242
お
前
(
まへ
)
の
心
(
こころ
)
と
協議
(
けふぎ
)
して
考
(
かんが
)
へたが
一番
(
いちばん
)
だ。
243
お
前
(
まへ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
を
見棄
(
みす
)
てる
精神
(
せいしん
)
だらうがな』
244
春彦
『イヤア
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
見
(
み
)
すてる
考
(
かんが
)
へぢやない。
245
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
改心
(
かいしん
)
をして
貰
(
もら
)
つて、
246
立派
(
りつぱ
)
な
神司
(
かむつかさ
)
になつて
欲
(
ほ
)
しいのだから、
247
それでワザとに
高姫
(
たかひめ
)
さまが
苦労
(
くらう
)
をする
様
(
やう
)
に、
248
二人
(
ふたり
)
こちらへ
別
(
わか
)
れて
来
(
き
)
たのだ。
249
此
(
この
)
春彦
(
はるひこ
)
が
従
(
つ
)
いてゐると、
250
高姫
(
たかひめ
)
さまがツイ
慢心
(
まんしん
)
をして、
251
折角
(
せつかく
)
の
改心
(
かいしん
)
が
後戻
(
あともど
)
りをすると
約
(
つま
)
らないからなア』
252
石地蔵
『アツハヽヽヽ、
253
腰抜神
(
こしぬけがみ
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として、
254
高姫
(
たかひめ
)
さまに
改心
(
かいしん
)
をして
貰
(
もら
)
ひたいなどとは、
255
よう
言
(
い
)
へたものだ。
256
お
前
(
まへ
)
の
心
(
こころ
)
の
曇
(
くも
)
りが、
257
みんな
高姫
(
たかひめ
)
さまを
包
(
つつ
)
んで
了
(
しま
)
ふんだから、
258
折角
(
せつかく
)
改心
(
かいしん
)
した
高姫
(
たかひめ
)
が、
259
最前
(
さいぜん
)
の
様
(
やう
)
な
試
(
こころ
)
みに
遇
(
あ
)
うたのだぞよ。
260
今
(
いま
)
高姫
(
たかひめ
)
はモールバンドに
取囲
(
とりかこ
)
まれ、
261
大木
(
たいぼく
)
の
幹
(
みき
)
を
目
(
め
)
がけて、
262
常彦
(
つねひこ
)
と
共
(
とも
)
に
難
(
なん
)
を
避
(
さ
)
けてゐるが、
263
上
(
うへ
)
には
沢山
(
たくさん
)
な
猅々猿
(
ひひざる
)
が
居
(
を
)
つて、
264
高姫
(
たかひめ
)
に
襲撃
(
しふげき
)
して
来
(
く
)
る。
265
下
(
した
)
からはモールバンドが
目
(
め
)
を
怒
(
いか
)
らして、
266
只
(
ただ
)
一打
(
ひとう
)
ちと
狙
(
ねら
)
つてゐる
最中
(
さいちう
)
だ。
267
オイ
春彦
(
はるひこ
)
、
268
ヨブの
両人
(
りやうにん
)
、
269
是
(
これ
)
から
高姫
(
たかひめ
)
を
救
(
すく
)
ひに
行
(
ゆ
)
くと
云
(
い
)
ふ
真心
(
まごころ
)
はないのか』
270
春彦
『そりやない
事
(
こと
)
はないが、
271
此
(
この
)
春彦
(
はるひこ
)
、
272
ヨブの
両人
(
りやうにん
)
が
往
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で、
273
モールバンドのやうな、
274
強
(
つよ
)
い
奴
(
やつ
)
が
目
(
め
)
を
怒
(
いか
)
らして
待
(
ま
)
ち
構
(
かま
)
へとる
以上
(
いじやう
)
は、
275
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
が
救
(
すく
)
ひに
行
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で、
276
駄目
(
だめ
)
だ。
277
否
(
いや
)
駄目
(
だめ
)
のみならず、
278
吾々
(
われわれ
)
の
命
(
いのち
)
迄
(
まで
)
、
279
あの
尻尾
(
しつぽ
)
で
一
(
ひと
)
つやられようものなら、
280
台
(
だい
)
なしになつて
了
(
しま
)
ふ。
281
人間
(
にんげん
)
の
体
(
からだ
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
大切
(
たいせつ
)
なる
御
(
お
)
道具
(
だうぐ
)
だから、
282
さう
易々
(
やすやす
)
と
使
(
つか
)
ふ
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きますまい。
283
何分
(
なにぶん
)
にも、
284
お
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
285
人情
(
にんじやう
)
うすき
紙
(
かみ
)
の
様
(
やう
)
な
神
(
かみ
)
や、
286
腰抜神
(
こしぬけがみ
)
の
容器
(
いれもの
)
だからなア』
287
石地蔵
『アツハヽヽヽ、
288
口
(
くち
)
計
(
ばか
)
り
立派
(
りつぱ
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
つても、
289
まさかの
時
(
とき
)
になつたら
尻込
(
しりご
)
みを
致
(
いた
)
す、
290
誠
(
まこと
)
のない
代物
(
しろもの
)
計
(
ばか
)
りだなア。
291
それでは
三五教
(
あななひけう
)
も
駄目
(
だめ
)
だよ』
292
春彦
『
喧
(
やかま
)
しう
云
(
い
)
ふな。
293
春彦
(
はるひこ
)
の
精神
(
せいしん
)
が
石地蔵
(
いしぢざう
)
のお
化
(
ば
)
けに
分
(
わか
)
つて
堪
(
たま
)
らうかい。
294
俺
(
おれ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
さまの
様
(
やう
)
に
有言
(
いうげん
)
不実行
(
ふじつかう
)
ではないのだ。
295
不言
(
ふげん
)
実行
(
じつかう
)
だ。
296
どんな
事
(
こと
)
をやるか
見
(
み
)
て
居
(
を
)
つて
呉
(
く
)
れい。
297
モールバンドであらうがエルバンドであらうが、
298
誠
(
まこと
)
と
云
(
い
)
ふ
一
(
ひと
)
つの
武器
(
ぶき
)
で
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
し、
299
見
(
み
)
ン
事
(
ごと
)
二人
(
ふたり
)
の
生命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
見
(
み
)
ようぞ。
300
サア、
301
ヨブさま、
302
春彦
(
はるひこ
)
に
従
(
つ
)
いてお
出
(
い
)
でなさい』
303
とあわてて、
304
高姫
(
たかひめ
)
の
走
(
はし
)
つた
方
(
はう
)
へ
行
(
ゆ
)
かうとする。
305
石地蔵
(
いしぢざう
)
は、
306
石地蔵
『アツハヽヽヽ、
307
たうとう
俺
(
おれ
)
の
言
(
げん
)
に
励
(
はげ
)
まされて、
308
直日
(
なほひ
)
の
霊
(
みたま
)
に
省
(
かへり
)
みよつたなア。
309
人
(
ひと
)
に
言
(
い
)
うて
貰
(
もら
)
うてからの
改心
(
かいしん
)
は
駄目
(
だめ
)
だよ。
310
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
発根
(
ほつこん
)
と
改心
(
かいしん
)
した
誠
(
まこと
)
でないと
役
(
やく
)
には
立
(
た
)
たぬぞよ。
311
今
(
いま
)
にアフンと
致
(
いた
)
して
腮
(
あご
)
が
外
(
はづ
)
れるやうな
事
(
こと
)
がない
様
(
やう
)
に
気
(
き
)
をつけたがよいぞよ。
312
石地蔵
(
いしぢざう
)
が
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けておくぞよ。
313
此
(
この
)
方
(
はう
)
はアキグヒの
艮
(
うしとら
)
の
神
(
かみ
)
、
314
それに、
315
良
(
よ
)
き
獣
(
けもの
)
の
使
(
つか
)
はし
女
(
め
)
を
沢山
(
たくさん
)
抱
(
かか
)
へて
居
(
ゐ
)
る
狼
(
おほかみ
)
又
(
また
)
アークマ
大明神
(
だいみやうじん
)
と
云
(
い
)
ふ
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
お
)
方
(
かた
)
だ。
316
ドレ、
317
是
(
これ
)
から
石地蔵
(
いしぢざう
)
に
化
(
ば
)
けて
居
(
を
)
つても
本当
(
ほんたう
)
の
活動
(
くわつどう
)
は
出来
(
でき
)
ない。
318
うしろから、
319
お
前
(
まへ
)
の
腕前
(
うでまへ
)
を、
320
実地
(
じつち
)
見分
(
けんぶん
)
と
出
(
で
)
かけよう。
321
口
(
くち
)
と
心
(
こころ
)
と
行
(
おこな
)
ひの
揃
(
そろ
)
ふやうな
誠
(
まこと
)
を
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
はうかい』
322
春彦
『エヽ
喧
(
やかま
)
しい、
323
化州
(
ばけしう
)
、
324
俺
(
おれ
)
の
御
(
お
)
手際
(
てぎは
)
を
見
(
み
)
てから、
325
何
(
なん
)
なと
吐
(
ほざ
)
け。
326
サア、
327
ヨブさま
行
(
ゆ
)
かう』
328
と
尻
(
しり
)
ひつからげ、
329
以前
(
いぜん
)
の
谷川
(
たにがは
)
を
兎
(
うさぎ
)
の
如
(
ごと
)
くポイポイポイと
身軽
(
みがる
)
く
打渡
(
うちわた
)
り、
330
転
(
こ
)
けつ
輾
(
まろ
)
びつ、
331
春彦
『オーイオイ、
332
高姫
(
たかひめ
)
さまはどこぢやアどこぢやア、
333
モールバンドのお
宿
(
やど
)
はどこぢや、
334
春彦
(
はるひこ
)
さまの
御
(
お
)
見舞
(
みまひ
)
だ、
335
俺
(
おれ
)
がこれ
程
(
ほど
)
ヨブのに、
336
何故
(
なぜ
)
春彦
(
はるひこ
)
ともヨブさまとも
返答
(
へんたふ
)
をせぬのか。
337
高姫
(
たかひめ
)
、
338
お
前
(
まへ
)
は
聾
(
つんぼ
)
になつたのか。
339
オーイ、
340
オイ』
341
と
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに
叫
(
さけ
)
び
乍
(
なが
)
ら、
342
ドンドンドンと
地響
(
ぢひび
)
きさせつつ、
343
草原
(
くさはら
)
を
無性
(
むしやう
)
矢鱈
(
やたら
)
に
大木
(
たいぼく
)
の
茂
(
しげ
)
みを
指
(
さ
)
して
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
344
(
大正一一・八・二三
旧七・一
松村真澄
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 暗黒殿
(B)
(N)
>>>
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