霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二三章 老婆(らうば)心切(しんせつ)〔九一四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第32巻 海洋万里 未の巻 篇:第4篇 天祥地瑞 よみ(新仮名遣い):てんしょうちずい
章:第23章 老婆心切 よみ(新仮名遣い):ろうばしんせつ 通し章番号:914
口述日:1922(大正11)年08月24日(旧07月02日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年10月15日
概要: 舞台:ウヅの館 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
国依別と末子姫の縁談の噂は、たちまち館の内外に喧伝された。言依別命は結婚の準備に独り心をはたらかせていた。そこへすっとふすまを開けて高姫が入ってきた。
高姫は、こともあろうに瑞の御霊の大神の御娘子を国依別とめあわせるなど飛んでもないことだと、この結婚話に反対するべく言依別命を説得に来たのであった。
言依別命は用事があるからと、逃げ向上を述べて高姫を避ける。高姫は捨て台詞でその場を離れると、国依別本人のところへやってきた。
国依別は、独身生活でのんびりできるのは今のうちだと、素っ裸で畳の上にあおむけになっていた。そこへ入ってきた高姫は目を丸くして国依別を怒鳴りつけた。
国依別は単衣をひっかぶって高姫と問答を始めたが、国依別は相変わらずの茶目ぶりで高姫の説教を煙に巻いた。高姫は馬鹿にされ、怒ってあわただしくこの場を去って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-06-10 17:19:28 文字数:5276 OBC :rm3223
愛善世界社版:273頁 八幡書店版:第6輯 241頁 修補版: 校定版:278頁 普及版:101頁 初版: ページ備考:
001 国依別(くによりわけ)、002末子姫(すゑこひめ)の結婚(けつこん)の噂(うはさ)は、003忽(たちま)ち館(やかた)の内外(ないぐわい)に雷(らい)の如(ごと)く駄賃(だちん)取(と)らずの飛脚(ひきやく)の口(くち)から喧伝(けんでん)されて了(しま)つた。004之(これ)を聞(き)いた高姫(たかひめ)はムツクと立上(たちあが)り、005言依別(ことよりわけの)命(みこと)の居間(ゐま)を訪(たづ)ねた。006言依別(ことよりわけの)命(みこと)は結婚(けつこん)の準備(じゆんび)に就(つ)いて、007いろいろと独(ひと)り心(こころ)を働(はたら)かせて居(ゐ)た所(ところ)である。008高姫(たかひめ)は襖(ふすま)をソツと引開(ひきあ)け、009叮嚀(ていねい)に頭(あたま)を下(さ)げ、
010高姫『言依別(ことよりわけ)様(さま)、011御(お)邪魔(じやま)を致(いた)しますが、012一寸(ちよつと)貴方(あなた)に御(ご)相談(さうだん)申(まを)したきこと、013否(いや)御(お)尋(たづ)ね申(まを)したき事(こと)が御座(ござ)いまして伺(うかが)ひました。014お差支(さしつかへ)は御座(ござ)いますまいかなア』
015言依別『ハイ、016別(べつ)に大(たい)した用(よう)も御座(ござ)いませぬ。017どうぞ御(お)這入(はい)り下(くだ)さいませ』
018と気乗(きの)りのせぬ様(やう)な言葉(ことば)附(つ)きである。019高姫(たかひめ)はツカツカと言依別(ことよりわけ)の前(まへ)に進(すす)み、020行儀(ぎやうぎ)よく膝(ひざ)を折(を)つてすわり、021両手(りやうて)を膝(ひざ)の上(うへ)に乗(の)せ、022極(きは)めて謹厳(きんげん)な態度(たいど)で、
023高姫『言依別(ことよりわけ)様(さま)、024承(うけたま)はりますれば、025末子姫(すゑこひめ)様(さま)に対(たい)し国依別(くによりわけ)の宣伝使(せんでんし)が養子婿(やうしむこ)になられるにきまつたとか云(い)ふ専(もつぱ)らの噂(うはさ)ですが、026それは実際(じつさい)の御(お)話(はなし)で御座(ござ)いますか?』
027言依別『ハイ、028実際(じつさい)で御座(ござ)います。029私(わたくし)と松若彦(まつわかひこ)両人(りやうにん)の肝煎(きもいり)で漸(やうや)く婚約(こんやく)が成立(せいりつ)致(いた)しました』
030高姫『それは又(また)怪(け)しからぬ事(こと)ぢや御座(ござ)いませぬか。031三千(さんぜん)世界(せかい)の救(すく)ひ主(ぬし)、032水晶玉(すいしやうだま)の神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)の御(お)娘子(むすめご)、033生粋(きつすい)の大和(やまと)魂(だましひ)の末子姫(すゑこひめ)様(さま)に娶(めあ)はすに、034人(ひと)もあらうに、035国依別(くによりわけ)の様(やう)な悪戯者(いたづらもの)を御(ご)周旋(しうせん)なさるとは、036余(あま)りぢや御座(ござ)いませぬか。037能(よ)う考(かんが)へて御覧(ごらん)なさい、038女(をんな)だましの御家(ごけ)倒(たふ)し、039家潰(いへつぶ)しの天則(てんそく)違反者(ゐはんしや)、040瓢軽者(へうきんもの)、041揶揄(からかひ)上手(じやうず)の、042至極(しごく)粗末(そまつ)に出来上(できあが)つた男(をとこ)……丸(まる)で鷺(さぎ)と烏(からす)の夫婦(ふうふ)ぢやありませぬか。043其(その)様(やう)な汚(けが)れた身魂(みたま)を水晶(すゐしやう)の生(うぶ)の末子姫(すゑこひめ)様(さま)に御(お)世話(せわ)をするなんて、044折角(せつかく)の結構(けつこう)な身魂(みたま)を又(また)紊(みだ)して了(しま)ふぢやありませぬか。045さうすれば、046折角(せつかく)ウヅの国(くに)が五六七(みろく)の世(よ)になりかけてゐるのに、047再(ふたた)び泥海(どろうみ)となり、048上(あ)げも下(おろ)しもならぬやうなことが出来(しゆつたい)致(いた)します。049私(わたし)は此(この)縁談(えんだん)ばかりは仮令(たとへ)大神(おほかみ)様(さま)が何(なん)と仰(おほ)せられようとも、050神界(しんかい)の為(ため)御(お)道(みち)の為(ため)御(お)家(いへ)の為(ため)に、051どこ迄(まで)も反対(はんたい)せなくては置(お)きませぬぞえ。052まだ幸(さいは)ひ結婚(けつこん)の式(しき)も挙(あ)げてゐらつしやらないのだから、053今(いま)の間(うち)ならば如何(どう)でもなります。054縁談(えんだん)と云(い)ふものは、055飯(まま)たく間(ま)にも冷(ひえ)ると云(い)ふ事(こと)だ。056此(この)話(はなし)を取消(とりけ)した所(ところ)で、057今(いま)ならば何(なん)のイサクサも起(おこ)りますまい。058国依別(くによりわけ)が若(も)しもゴテゴテ云(い)ふならば、059及(およ)ばずながら高姫(たかひめ)が物(もの)の道理(だうり)を説(と)き諭(さと)し、060納得(なつとく)させて見(み)せませう。061又(また)末子姫(すゑこひめ)様(さま)が如何(どう)してもお聞(き)きにならなければ、062高姫(たかひめ)の老婆心(らうばしん)と言(い)はれるか知(し)りませぬが、063此(この)道(みち)にかけたら千軍(せんぐん)万馬(ばんば)の功(こう)を経(へ)た高姫(たかひめ)、064三寸(さんずん)の舌鋒(ぜつぽう)を以(もつ)て、065どちらも得心(とくしん)の行(い)く様(やう)になだめすかし、066此(この)結婚(けつこん)問題(もんだい)を蛇尾(じやみ)にして見(み)せませう。067……言依別(ことよりわけ)さま、068此(この)事(こと)はどうぞ私(わたし)に一任(いちにん)して下(くだ)さいませ。069キツと成功(せいこう)させて見(み)せますから……』
070言依別『一旦(いつたん)男子(だんし)と男子(だんし)が契約(けいやく)した以上(いじやう)は、071今(いま)となつて動(うご)かすことは出来(でき)ませぬ。072私(わたくし)も男(をとこ)です。073一旦(いつたん)言(い)ひ出(だ)した事(こと)は後(あと)へは引(ひ)きませぬ。074第一(だいいち)大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)所望(しよまう)ですから』
075高姫『仮令(たとへ)大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)所望(しよまう)であらうとも、076なぜお前(まへ)さまは御(ご)忠言(ちうげん)申上(まをしあ)げないのだ。077お髭(ひげ)の塵(ちり)を払(はら)つて自分(じぶん)の地位(ちゐ)を安全(あんぜん)に守(まも)らうと云(い)ふ御(お)考(かんが)へだらう。078良薬(りやうやく)は口(くち)に苦(にが)し、079諫言(かんげん)は耳(みみ)に逆(さか)らふとやら、080至誠(しせい)を以(もつ)て諫(いさ)め奉(まつ)り、081もし聞(き)かなければ、082潔(いさぎよ)く死(し)を以(もつ)て決(けつ)すると云(い)ふ、083お前(まへ)さまに誠意(せいい)がありさへすれば、084こんな不都合(ふつがふ)な話(はなし)は持上(もちあ)がらない筈(はず)だ。085あんな者(もの)を末子姫(すゑこひめ)様(さま)の夫(をつと)にしようものなら、086それこそ三五教(あななひけう)の権威(けんゐ)は忽(たちま)ち地(ち)に落(お)ち、087末子姫(すゑこひめ)様(さま)の御(ご)信用(しんよう)はサツパリ、088ゼロとなつて了(しま)ひますよ』
089言依別『あんな者(もの)が斯(こ)んな者(もの)になつたと云(い)ふ仕組(しぐみ)でせうかい、090アハヽヽヽ』
091高姫『コレ笑(わら)ひごつちやありませぬぜ。092千騎(せんき)一騎(いつき)の国家(こくか)興亡(こうばう)に関(くわん)する此(この)場合(ばあひ)、093気楽(きらく)さうに面(つら)をあげてアハヽヽヽとはソリヤ何(なん)と云(い)ふ心得(こころえ)違(ちが)ひな事(こと)ですか。094それだから年(とし)の若(わか)い者(もの)は困(こま)ると云(い)ふのだ。095何程(なにほど)憎(にく)まれても、096此(この)高姫(たかひめ)が構(かま)はねば三五教(あななひけう)はサツパリ駄目(だめ)だ。097アーア、098気(き)のもめる事(こと)だ。099肩(かた)も腕(かひな)もメキメキ云(い)うて来(き)たわいのう』
100言依別『折角(せつかく)の御(ご)親切(しんせつ)な御(ご)注意(ちうい)、101実(じつ)に有難(ありがた)う御座(ござ)います。102併(しか)し乍(なが)ら此(この)問題(もんだい)に就(つ)いては、103一分(いちぶ)たりとて動(うご)かす事(こと)は出来(でき)ませぬ。104……高姫(たかひめ)様(さま)、105どうぞ貴女(あなた)もゆつくり御(お)考(かんが)へ下(くだ)さいませ。106私(わたくし)は少(すこ)し取急(とりいそ)ぐ用事(ようじ)が御座(ござ)いますから、107失礼(しつれい)を致(いた)します』
108高姫『チト煙(けぶ)たうなつて来(き)ましたかなア。109ドレドレ若(わか)い方(かた)のお側(そば)へ、110歯抜婆(はぬけばば)アが出(で)て来(き)て熱(ねつ)を吹(ふ)き、111煙(けぶ)たがられて居(ゐ)るよりも、112是(これ)から国依別(くによりわけ)の居間(ゐま)へ行(い)つて、113一(ひと)つドンナ意見(いけん)だか叩(たた)いて来(き)ませう。114将(しやう)を射(い)むと欲(ほつ)する者(もの)は先(ま)づ其(その)馬(うま)を射(い)よだ。115何(なん)と云(い)つても言依別(ことよりわけ)さまは、116年(とし)が若(わか)いから、117こんな事(こと)の談判(だんぱん)は厭(いや)だらう。118それも無理(むり)もない、119憎(にく)まれ序(ついで)に高姫(たかひめ)が、120お道(みち)の為(ため)に、121国依別(くによりわけ)の改心(かいしん)する所(ところ)まで、122居(ゐ)すわり談判(だんぱん)をやつて来(き)ませう』
123と呟(つぶや)きながら、124イソイソと此(この)場(ば)を立(た)つて出(い)でて行(ゆ)く。
125 国依別(くによりわけ)は高姫(たかひめ)の意見(いけん)に来(く)るとは夢(ゆめ)にも知(し)らず、
126国依別『あゝ是(これ)から俺(おれ)も窮屈(きうくつ)な生活(せいくわつ)に入(はい)らねばならぬか。127今(いま)の間(うち)に気楽(きらく)のしたんのうをしておかうかい』
128と窓(まど)の戸(と)をガラリとあけ、129赤裸(まつぱだか)になつて、130仰向(あふむ)けになり、131手足(てあし)をピンピンさせて、132座敷(ざしき)運動(うんどう)に余念(よねん)なかつた。133そこへ高姫(たかひめ)はあわただしくガラリと戸(と)を開(あ)け入(い)り来(きた)り、134此(この)態(さま)を見(み)て目(め)を丸(まる)くし、135口(くち)を尖(とが)らせ、
136高姫『マアマアマア国(くに)さまかいな。137其(その)態(ざま)は一体(いつたい)何(なん)の事(こと)だい! 誰(たれ)も知(し)らぬかと思(おも)つて其(その)態(ざま)は何(なん)ぢやいな。138ヤツパリ人(ひと)の居(ゐ)る所(ところ)では鹿爪(しかつめ)らしうしてゐても、139鍍金(めつき)が剥(は)げて三(み)つ児(ご)の癖(くせ)は百(ひやく)迄(まで)とやら、140お前(まへ)は若(わか)い時(とき)から、141そんな不規律(ふきりつ)な生活(せいくわつ)をして来(き)たのだらう。142エヽ困(こま)つたものだ。143時々(じじ)刻々(こくこく)に愛想(あいさう)がつきて来(き)た。144……コレ国依別(くによりわけ)どの、145高姫(たかひめ)ですよ、146起(お)きて貰(もら)ひませう』
147国依別『高姫(たかひめ)さま、148一寸(ちよつと)ここを写真(しやしん)にうつして、149大神(おほかみ)様(さま)や末子姫(すゑこひめ)様(さま)の御前(ごぜん)に御覧(ごらん)に入(い)れて下(くだ)さいな。150国依別(くによりわけ)も実(じつ)にトチ面棒(めんぼう)をふつてゐますワイ』
151高姫『エヽ又(また)しても、152四(よ)ツ足(あし)の正体(しやうたい)をあらはし、153其(その)態(ざま)は何(なん)の事(こと)だい。154大神(おほかみ)様(さま)や末子姫(すゑこひめ)様(さま)に写真(しやしん)にとつて見(み)せてくれなんて、155ヘン、156自惚(うぬぼれ)にも程(ほど)がある。157誰(たれ)だつてそんなとこを見(み)ようものなら、158三(さん)年(ねん)の恋(こひ)が一度(いちど)に醒(さ)めますぞや。159或処(あるところ)に若(わか)い娘(むすめ)が綺麗(きれい)な若(わか)い男(をとこ)を恋慕(こひした)ひ、160よい仲(なか)になつて居(を)つたが、161其(その)男(をとこ)が女(をんな)の前(まへ)で尻(しり)をまくり、162庇(へ)を一(ひと)つプンと放(ひ)つたが最後(さいご)、163其(その)女(をんな)はそれきり、164恋(こひ)しい男(をとこ)が見(み)るも厭(いや)になつて了(しま)うた例(ため)しがありますぞえ。165それにそんな態(ざま)を末子姫(すゑこひめ)様(さま)に御覧(ごらん)に入(い)れてくれとは余(あま)りぢやないか。166色男(いろをとこ)気取(きどり)で結構(けつこう)な結婚(けつこん)を申(まを)し込(こ)まれ、167余(あま)り嬉(うれ)しいので逆上(ぎやくじやう)して了(しま)ひ、168赤裸(まつぱだか)になつて、169一角(いつかど)よい姿(すがた)と思(おも)ひ……此(この)姿(すがた)を恋女(こひをんな)に見(み)せ……とはよい加減(かげん)に呆(ほう)けておきなさい。170エヽ見(み)つともない、171早(はや)く着物(きもの)を着(き)なさらぬか!』
172国依別『何分(なにぶん)お門(かど)が広(ひろ)いものだから、173こんな風(ふう)でもして撃退策(げきたいさく)でも構(かう)じなけりや、174やり切(き)れませぬワイ。175ア、176あちらからも此方(こちら)からも、177目(め)ひき袖(そで)ひき連中(れんぢう)が沢山(たくさん)で、178国依別(くによりわけ)も実(じつ)に迷惑(めいわく)致(いた)して居(を)るぞよ。179男(をとこ)は裸百貫(はだかひやくくわん)と申(まを)して、180飾(かざ)りのないのが値打(ねうち)であるぞよ。181元(もと)の生(うま)れ赤児(あかご)になりて神(かみ)の御用(ごよう)を致(いた)して下(くだ)されよ。182生(うま)れ赤児(あかご)と申(もう)せば、183みんな丸裸(まるはだか)ばかりであるぞよ。184アツハヽヽヽ』
185高姫『コレ国(くに)どの、186お前(まへ)は一国(いつこく)の大将(たいしやう)にでもならうと云(い)ふ千騎(せんき)一騎(いつき)の大峠(おほたうげ)に差掛(さしかか)つて居(を)り乍(なが)ら、187チツと謹(つつし)んだら如何(どう)だいなア。188油断(ゆだん)を致(いた)すと、189坂(さか)に車(くるま)を押(お)すが如(ごと)く後(あと)へ戻(もど)りますぞえ』
190国依別『あとへ戻(もど)るやうに逆(さか)になつて、191油断(ゆだん)でなうて冗談(じようだん)をして逆様車(さかさまぐるま)を押(お)してゐるのだ、192アツハヽヽヽ。193アーア、194早(はや)う此処(ここ)を誰(たれ)か、195一寸(ちよつと)覗(のぞ)いて愛想(あいさう)をつかして呉(く)れないかな。196高姫(たかひめ)さまに愛想(あいさう)つかされても、197根(ね)つから目的(もくてき)が達(たつ)しませぬワイ』
198高姫『コレ国(くに)どの』
199と声(こゑ)を高(たか)め、200国依別(くによりわけ)の太腿(ふともも)を三つ四つ平手(ひらて)でピシヤピシヤと擲(なぐ)りつける。201国依別(くによりわけ)は此(この)機(はず)みに、202ガバとはねおき、203慌(あわただ)しく窓際(まどぎは)にかけておいた単衣(ひとへ)をひつ被(かぶ)り、204三尺帯(さんしやくおび)を無雑作(むざふさ)にキリキリとまきつけ、205ドスンと高姫(たかひめ)の前(まへ)にすわり込(こ)んだ。
206国依別『高姫(たかひめ)様(さま)、207何(なん)の御用(ごよう)で御座(ござ)いますかな。208どうぞ実際(じつさい)の事(こと)を仰有(おつしや)つて下(くだ)さい』
209高姫『お楽(たのし)みでせうな! 此(この)頃(ごろ)は半日(はんにち)の日(ひ)も百(ひやく)日(にち)も経(た)つやうな気(き)がするでせう。210イヤもう御(ご)心配(しんぱい)御(お)察(さつ)し申(まを)しますワイ。211併(しか)し乍(なが)ら、212月(つき)にも盈(み)つる虧(か)くるがあり、213村雲(むらくも)のかくすこともあり、214綺麗(きれい)な花(はな)には虫(むし)がつき、215嵐(あらし)が夜(よ)の間(あひだ)に吹(ふ)いて来(き)て、216無残(むざん)にも散(ち)らすことがありますぞや。217モウ大丈夫(だいぢやうぶ)此方(こちら)の者(もの)だと、218笑壺(ゑつぼ)に入(い)つて居(ゐ)ると、219夜(よる)の間(ま)に天候(てんこう)忽(たちま)ち激変(げきへん)し、220女(をんな)の方(はう)から秋(あき)の空(そら)、221凩(こがらし)の冷(つめ)たい風(かぜ)が吹(ふ)いて来(こ)ぬとも限(かぎ)りませぬぞや。222さうなつてから、223梟鳥(ふくろどり)が夜食(やしよく)に外(はづ)れたやうな、224約(つま)らぬ顔(かほ)を致(いた)しても、225何程(なにほど)アフンと致(いた)しても、226後(あと)の祭(まつ)りで、227取返(とりかへ)しは出来(でき)ませぬぞや。228それよりも男(をとこ)らしく今(いま)の間(うち)に、229花(はな)の散(ち)らされぬ間(うち)に、230お前(まへ)さまの方(はう)から、231キレイサツパリと縁談(えんだん)を御(お)断(ことわ)りなさい。232国依別(くによりわけ)どののやうな、233……言(い)ふとすまぬが……ガンガラと水晶(すゐしやう)の生粋(きつすい)のお姫(ひめ)様(さま)と夫婦(ふうふ)になつても、234末子姫(すゑこひめ)が遂(と)げられますまい。235悪(わる)い事(こと)は云(い)ひませぬぞえ。236今(いま)の間(うち)に男(をとこ)らしう破談(はだん)をなさい。237さうしたら天晴(あつぱ)れ国依別(くによりわけ)の男前(をとこまへ)が上(あが)りますぞや。238此(この)広(ひろ)いウヅの国(くに)の第一(だいいち)美人(びじん)で、239而(しか)も評判(ひやうばん)のよい御(お)姫(ひめ)様(さま)を、240国依別(くによりわけ)が一(ひと)つポンと肱鉄(ひぢてつ)をかましたと云(い)ふことが世間(せけん)に拡(ひろ)がつて見(み)なさい。241それこそどれ丈(だけ)お前(まへ)さまの威徳(ゐとく)が上(あが)るか知(し)れたものぢやない。242さうして牛(うし)は牛(うし)づれ馬(うま)は馬連(うまづ)れと云(い)つて、243似合(にあ)うた女房(にようばう)を貰(もら)ひ、244誰(たれ)憚(はばか)らず天下(てんか)を横行(わうかう)濶歩(くわつぽ)する方(はう)が、245窮屈(きうくつ)な籠(かご)の鳥(とり)の様(やう)な目(め)に遇(あ)ひ、246一人(ひとり)の姫(ひめ)様(さま)に忠勤(ちうきん)振(ぶ)りを発揮(はつき)するよりも何程(なにほど)徳(とく)か分(わか)りませぬぞえ。247お前(まへ)さまが姫(ひめ)様(さま)の夫(をつと)になり、248天下(てんか)の権利(けんり)を握(にぎ)るやうな事(こと)があつたら、249それこそ天地(てんち)がひつくりかへりますぞや、250いかな高姫(たかひめ)も神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)はやめねばなりませぬワイ。251かうズケズケと私(わたし)が云(い)ふので、252お前(まへ)さまは御(お)気(き)に入(い)らぬだらうが、253チツとは私(わたし)の言(い)ふ事(こと)も、254聞(き)きなさつたがよからう。255随分(ずゐぶん)お前(まへ)さまもいたづらぢやないか。256野天狗(のてんぐ)か何(なに)か知(し)らぬが、257如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)や其(その)他(ほか)二(ふた)つの玉(たま)は、258近江(あふみ)の国(くに)の竹生島(ちくぶじま)に隠(かく)してあるなどと、259大(だい)それた嘘(うそ)を言(い)つて、260はるばると年(とし)を老(と)つた吾々(われわれ)をチヨロまかすと云(い)ふ腕前(うでまへ)だから、261私(わたし)の言葉(ことば)がチツト位(くらゐ)きつくても辛抱(しんぼう)しなさい』
262国依別『アツハヽヽヽ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、263私(わたし)も実(じつ)は今度(こんど)の結婚(けつこん)は厭(いや)でたまらないのだけれど、264余(あま)り大神(おほかみ)様(さま)や言依別(ことよりわけ)様(さま)、265其(その)外(ほか)の方々(かたがた)の御(ご)熱心(ねつしん)な御(お)取(と)りなしで断(ことわ)る訳(わけ)にも行(ゆ)かず、266義理(ぎり)にせめられ承諾(しようだく)したのだから、267さうけなりさうに法界(ほふかい)悋気(りんき)をして下(くだ)さるな。268国依別(くによりわけ)も実(じつ)に迷惑(めいわく)致(いた)しますワイ』
269高姫『オツホヽヽヽ、270厭(いや)で叶(かな)はぬなどと、271よう言(い)へたものだ。272此(この)縁談(えんだん)を蛇尾(じやみ)にされるのが、273イヤでイヤで叶(かな)はぬのだらう。274そんなテレ隠(かく)しを云(い)つたつて、275日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)……オツトドツコイ、276是(これ)は云(い)ふのぢやなかつた……高姫(たかひめ)の黒(くろ)い目(め)でチヤンと睨(にら)ンだら間違(まちが)ひつこはありませぬぞや』
277国依別『アーア、278困(こま)つた事(こと)が出来(でき)て来(き)たワイ。279どうしたらよからうな、280この国(くに)どのも』
281高姫『何程(なにほど)困(こま)つても仕方(しかた)がない。282此(この)縁談(えんだん)ばかりは言依別(ことよりわけ)が何(なん)と言(い)はうと、283仮令(たとへ)天地(てんち)がかへらうと、284金輪際(こんりんざい)水(みづ)をさして、285グチヤグチヤにして了(しま)はなくちや、286折角(せつかく)大神(おほかみ)様(さま)が艱難(かんなん)苦労(くらう)なされてお造(つく)り遊(あそ)ばしたウヅの国(くに)が総崩(そうくづ)れになつて了(しま)ひますワイ。287お前(まへ)一人(ひとり)さへ改心(かいしん)が出来(でき)たら、288国中(くにぢう)の者(もの)が喜(よろこ)ぶのだから、289女(をんな)の一人(ひとり)位(くらゐ)は男(をとこ)らしう思(おも)ひ切(き)つて数多(あまた)の人民(じんみん)を助(たす)けた方(はう)が、290何程(なにほど)立派(りつぱ)か知(し)れませぬぜ。291又(また)何程(なにほど)愉快(ゆくわい)か分(わか)りますまいがなア』
292国依別『アーア、293最早(もはや)幽界(いうかい)も神界(しんかい)もいやになつて了(しま)つた。294現界(げんかい)の悪(わる)い……高姫(たかひめ)さま、295私(わたし)の腹(はら)の底(そこ)が如何(どう)しても、296神界(しんかい)(真解(しんかい))出来(でき)ませぬのかい』
297高姫『それは何(なに)をユーカイ……皆目(かいもく)お前(まへ)さまの腹(はら)の底(そこ)を諒解(りやうかい)することが出来(でき)ぬぢやないかい』
298国依別『アーア、299仕方(しかた)がない……私(わたし)は一寸(ちよつと)急用(きふよう)がありますので、300そこ迄(まで)往(い)つて来(き)ます。301どうぞ又(また)四五(しご)日(にち)したら、302ゆつくりと遊(あそ)びにお出(い)で下(くだ)さりませ』
303高姫『最早(もはや)明日(あす)に迫(せま)つた此(この)結婚(けつこん)、304四五(しご)日(にち)してから来(き)て下(くだ)さい……なンて、305ヘン、306甘(うま)いことを仰有(おつしや)りますワイ。307どうでも斯(か)うでも、308今夜(こんや)の間(うち)にお前(まへ)の所存(しよぞん)をきめさせて、309其(その)上(うへ)末子姫(すゑこひめ)さまに御(ご)意見(いけん)をして来(こ)ねばならぬのだから、310さう逃腰(にげごし)にならずに、311ジツクリと聞(き)きなさい』
312国依別『聞(き)きなさいつても、313危機(きき)一髪(いつぱつ)でも聞(き)きませぬワイ……御免(ごめん)候(さふら)へ、314高姫(たかひめ)さま、315私(わたし)は結婚(けつこん)の用意(ようい)が急(いそ)ぎますから、316髪(かみ)を梳(す)いたり、317髯(ひげ)をそつたり、318チツクを一寸(ちよつと)つけたり、319頬紅(ほほべに)もさしたり、320口紅(くちべに)もチツとあしらはねばならず、321鏡(かがみ)も一寸(ちよつと)見(み)て来(こ)ねばなりませぬ。322そんな色(いろ)の黒(くろ)い顔(かほ)のお婆(ば)アさまに相手(あひて)になつてをると、323ますます末子姫(すゑこひめ)さまが恋(こひ)しうなつて来(く)る。324左様(さやう)なら……』
325とあわてて飛(と)び出(だ)さうとする。326高姫(たかひめ)は後(うしろ)よりグツと抱(だ)きとめ、
327高姫『コレコレ国(くに)どの、328何処(どこ)へ行(ゆ)くのだい。329マア待(ま)ちなされ、330ジツクリとすわつて、331天地(てんち)の道理(だうり)を聞(き)いて下(くだ)さい。332決(けつ)して悪(わる)いことは申(まを)しませぬぞや』
333国依別『どうぞ離(はな)して下(くだ)さい。334そんな固(かた)い手(て)で握(にぎ)られると痛(いた)くて仕方(しかた)がない。335一時(いつとき)も早(はや)う末子姫(すゑこひめ)さまのお側(そば)へ行(ゆ)かねばならぬワイなア。336岩(いは)に抱(だ)かれるか、337真綿(まわた)に抱(だ)かれるかと云(い)ふ程(ほど)懸隔(けんかく)があるのだから堪(たま)らない……高姫(たかひめ)さま、338どうぞ後生(ごしやう)だから放(はな)して頂戴(ちやうだい)な』
339高姫『エヽ是(これ)が放(はな)してなるものかい』
340国依別『高姫(たかひめ)さま、341今(いま)これが放(はな)してなるものか、342と云(い)ひましたな。343そんならヤツパリ二人(ふたり)の仲(なか)を離(はな)さぬといふ御(ご)意見(いけん)ですか?』
344高姫『そりや話(はなし)が違(ちが)ふ。345離(はな)れさすと云(い)ふ話(はなし)だ。346今(いま)がお前(まへ)の運(うん)のきめ所(どころ)、347サアさつぱりここでツンと思(おも)ひ切(き)りましたと立派(りつぱ)に言挙(ことあ)げしなさい』
348国依別『そんなら……スツカリ思(おも)ひ切(き)りました』
349高姫『ヤレヤレ嬉(うれ)しや、350お前(まへ)は本当(ほんたう)に見上(みあ)げたものだよ』
351国依別『スツカリ思(おも)ひ切(き)つたのは、352皺苦茶(しわくちや)婆(ばば)アの高姫(たかひめ)さまとの交際(かうさい)だ、353アハヽヽヽ』
354高姫『エヽ国(くに)どの、355覚(おぼ)えて居(ゐ)なさいや。356明日(あす)の晩(ばん)にはアフンとさして上(あ)げますぞや、357女(をんな)の一心(いつしん)岩(いは)でもつきぬく、358これが通(とほ)らいでなるものかい!』
359と目(め)をつり上(あ)げながら、360あわただしく此(この)場(ば)を立去(たちさ)る。
361(大正一一・八・二四 旧七・二 松村真澄録)
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