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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第35巻(戌の巻)
序文
総説歌
第1篇 向日山嵐
第1章 言の架橋
第2章 出陣
第3章 進隊詩
第4章 村の入口
第5章 案外
第6章 歌の徳
第7章 乱舞
第8章 心の綱
第9章 分担
第2篇 ナイルの水源
第10章 夢の誡
第11章 野宿
第12章 自称神司
第13章 山颪
第14章 空気焔
第15章 救の玉
第16章 浮島の花
第3篇 火の国都
第17章 霧の海
第18章 山下り
第19章 狐の出産
第20章 疑心暗狐
第21章 暗闘
第22章 当違
第23章 清交
第24章 歓喜の涙
余白歌
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霊界物語
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海洋万里(第25~36巻)
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第35巻(戌の巻)
> 第1篇 向日山嵐 > 第8章 心の綱
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(B)
(N)
分担 >>>
第八章
心
(
こころ
)
の
綱
(
つな
)
〔九七二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻
篇:
第1篇 向日山嵐
よみ(新仮名遣い):
むこうやまあらし
章:
第8章 心の綱
よみ(新仮名遣い):
こころのつな
通し章番号:
972
口述日:
1922(大正11)年09月15日(旧07月24日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ひとしきり酒宴が済み、三公は虎公、お愛、お梅、孫公、黒姫、兼公を自分の居間に誘い、四方山話をしながらくつろいで二次会を始めていた。子分たちもあちこちで思い思いにくつろいでいた。
三公の子分である六公、徳公、高公と、虎公の子分である新公、久公、八公の六人は打ち解けて話をしていた。徳公は、お愛に酒を注いでもらったことを自慢し始めた。
新公は負けずとのろけだすが、久公に実態はぜんぜん違うことを明かされて、言い合いを始めた。そのうちに殴り合いの喧嘩になってしまう。三公の子分たちは、今日はめでたい日だからと止めに入る。
新公は、虎公の古い従者であることから、お愛の方の素性を皆に話し始めた。お愛は実は、天教山から天使として火の国に降った八島別神(建日向別神)の娘・愛子姫であるという。
愛子姫は貴族生活がきらいで、両親の縁談を嫌って家を飛び出してしまった。そして夜道で悪漢に襲われかけていたところへ、新公を共に連れた虎公が出くわし、助けたのだという。
そのとき愛子姫は身分を明かし、身に着けていた宝石・宝玉をお礼にと差し出したが、虎公は頑として断り、どうしてもと愛子姫が差し出した宝を谷川に投げ捨ててしまったという。それで、愛子姫は虎公の気風に惚れこんでしまった。
愛子姫は、身分を隠しお愛と名乗って武野村で奉公して働いていた。そのときに大蛇の三公が口説きにやってきていたのだが、数年後、愛子姫は虎公に申し込んで結婚することになったのだという。
六公と高公は、新公の話から愛子姫を襲った悪漢は自分たちであったことに思い至り、悪いことはできないと悔悟し、改心の情を表した。
新公はさらに、虎公も実は火の国出身の虎転別、のちに豊の国で豊日別命となった神様の総領息子という身分で、虎若という名であることを明かした。
虎若は下女と駆け落ちする途上、病気で女を亡くしてしまった過去を持つという。新公も実は豊日別命の家来であったのが、虎若についてきて今に至っているということを自慢げに話した。
遠くに鳴り響く子の刻の鐘に、徳公はお開きして休もうと一同を促した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-09-25 12:50:38
OBC :
rm3508
愛善世界社版:
79頁
八幡書店版:
第6輯 500頁
修補版:
校定版:
85頁
普及版:
28頁
初版:
ページ備考:
001
一
(
ひと
)
しきり
酒宴
(
しゆえん
)
はすんだ。
002
大蛇
(
をろち
)
の
三公
(
さんこう
)
は
虎公
(
とらこう
)
、
003
お
愛
(
あい
)
、
004
お
梅
(
うめ
)
、
005
孫公
(
まごこう
)
、
006
黒姫
(
くろひめ
)
、
007
兼公
(
かねこう
)
を
美
(
うる
)
はしき
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
誘
(
いざな
)
ひ、
008
四方山
(
よもやま
)
の
話
(
はなし
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
009
打
(
う
)
ちくつろいで
二次会
(
にじくわい
)
を
行
(
や
)
つてゐる。
010
数多
(
あまた
)
の
乾児
(
こぶん
)
もそれぞれ
思
(
おも
)
ひ
思
(
おも
)
ひに
田圃
(
たんぼ
)
に
出
(
い
)
で、
011
相撲
(
すまう
)
をとつたり、
012
寝
(
ね
)
ころんだり、
013
下
(
くだ
)
らぬ
話
(
はなし
)
をして
上機嫌
(
じやうきげん
)
である。
014
あちら
此方
(
こちら
)
に
大勢
(
おほぜい
)
の
乾児
(
こぶん
)
のこととて、
015
小競合
(
こぜりあひ
)
は
始
(
はじ
)
まつたが、
016
何分
(
なにぶん
)
にも
今日
(
けふ
)
は
目出度
(
めでた
)
いと
云
(
い
)
ふので、
017
互
(
たがひ
)
に
慎
(
つつし
)
み
合
(
あ
)
ひ、
018
大
(
たい
)
した
喧嘩
(
けんくわ
)
もなく、
019
極
(
きは
)
めて
無事
(
ぶじ
)
である。
020
六公
(
ろくこう
)
、
021
徳公
(
とくこう
)
、
022
高公
(
たかこう
)
及
(
およ
)
び
虎公
(
とらこう
)
の
乾児
(
こぶん
)
なる
新
(
しん
)
、
023
久
(
きう
)
、
024
八
(
はち
)
の
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
は
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ひつぶれ、
025
其
(
その
)
場
(
ば
)
にドツカと
坐
(
すわ
)
つた
儘
(
まま
)
、
026
打解
(
うちと
)
けていろいろの
話
(
はなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる。
027
徳公
『オイ
新公
(
しんこう
)
、
028
貴様
(
きさま
)
んとこの
姐貴
(
あねき
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
素敵
(
すてき
)
な
代物
(
しろもの
)
ぢやねえか。
029
どこともなしに
一寸
(
ちよつと
)
あの
優
(
やさ
)
しい
目
(
め
)
で
睨
(
にら
)
まれると、
030
体
(
からだ
)
が
吸
(
す
)
ひつけられる
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がするぢやねえか。
031
それで
俺
(
おれ
)
が
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
うたのを
幸
(
さいは
)
ひ……お
愛
(
あい
)
さま、
032
一寸
(
ちよつと
)
一杯
(
いつぱい
)
ついで
下
(
くだ
)
せえ……とやつた
所
(
ところ
)
流石
(
さすが
)
は
偉
(
えら
)
いワイ……ハイ……と
云
(
い
)
つて、
033
あの
優
(
やさ
)
しい
目元
(
めもと
)
で、
034
徳公
(
とくこう
)
の
顔
(
かほ
)
を
恋
(
こひ
)
しさうに
眺
(
なが
)
めながら、
035
気
(
き
)
よく
注
(
つ
)
いで
下
(
くだ
)
さつた。
036
オイどうだ。
037
貴様
(
きさま
)
たちア、
038
気
(
き
)
が
利
(
き
)
かねえから、
039
千載
(
せんざい
)
一遇
(
いちぐう
)
の
好機
(
かうき
)
を
逸
(
いつ
)
したぢやねえか、
040
先
(
さき
)
んずれば
人
(
ひと
)
を
制
(
せい
)
すと
云
(
い
)
つてナ、
041
甘
(
うま
)
くやつただらう』
042
新公
『たつた
一遍
(
いつぺん
)
位
(
ぐらゐ
)
酒
(
さけ
)
を
義理
(
ぎり
)
で
注
(
つ
)
いで
貰
(
もら
)
つたつて、
043
さう
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
くものぢやねえワ。
044
俺
(
おれ
)
たちア、
045
何時
(
いつ
)
も
親分
(
おやぶん
)
の
留守
(
るす
)
になると、
046
お
愛
(
あい
)
さまが、
047
スーツと
色目
(
いろめ
)
を
使
(
つか
)
つて…コレコレ
新公
(
しんこう
)
や、
048
今日
(
けふ
)
は
親分
(
おやぶん
)
が
不在
(
るす
)
だから、
049
マアゆつくり
酒
(
さけ
)
でも
呑
(
の
)
んで、
050
……お
愛
(
あい
)
が
注
(
つ
)
いで
上
(
あ
)
げます……とか
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
つて、
051
あの
白
(
しろ
)
い
細
(
ほそ
)
い
手
(
て
)
で
燗徳利
(
かんどつくり
)
を
握
(
にぎ
)
り……サア
新公
(
しんこう
)
さま、
052
盃
(
さかづき
)
をお
出
(
だ
)
しよ……と
仰有
(
おつしや
)
るのだ。
053
そこでこの
新公
(
しんこう
)
が、
054
鬼
(
おに
)
の
来
(
こ
)
ぬ
間
(
ま
)
の
洗濯
(
せんたく
)
だと
一寸
(
ちよつと
)
肝玉
(
きもつたま
)
をオツ
放
(
ぽ
)
り
出
(
だ
)
し、
055
盃
(
さかづき
)
をスーツと
前
(
まへ
)
に
出
(
だ
)
す、
056
お
愛
(
あい
)
さまがあの
柔
(
やはら
)
かい
手
(
て
)
で
燗徳利
(
かんどくり
)
を
取
(
と
)
り、
057
左
(
ひだり
)
のお
手々
(
てて
)
を
徳利
(
とくり
)
の
底
(
そこ
)
へ
当
(
あ
)
てスーツと
腰
(
こし
)
を
伸
(
の
)
ばして、
058
立膝
(
たてひざ
)
のまま、
059
ドブドブドブオツトヽヽヽこぼれますこぼれます……と
云
(
い
)
ふ
調子
(
てうし
)
だ……と、
060
いいのだけれど、
061
それは
何時
(
いつ
)
やらの
俺
(
おれ
)
の
見
(
み
)
た
夢
(
ゆめ
)
だつた。
062
乍併
(
しかしながら
)
、
063
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
あの
綺麗
(
きれい
)
な
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
ると、
064
何時
(
いつ
)
とはなしに
夢
(
ゆめ
)
に
見
(
み
)
る
様
(
やう
)
になるのだからなア。
065
つまり
要
(
えう
)
するに、
066
即
(
すなは
)
ち、
067
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
なか
)
の
新公
(
しんこう
)
の
女房
(
にようばう
)
だからなア、
068
大
(
たい
)
したものだらう、
069
オツホン』
070
久公
『オイ
徳公
(
とくこう
)
、
071
こんな
奴
(
やつ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
、
072
本当
(
ほんたう
)
にしちやならねえぞ。
073
親分
(
おやぶん
)
の
居
(
を
)
られる
時
(
とき
)
には
小
(
ちひ
)
さくなつて、
074
何
(
なん
)
でもかんでもお
愛
(
あい
)
さまのいふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
きよるものだから、
075
お
愛
(
あい
)
さまも
余
(
あま
)
り
小言
(
こごと
)
を
仰有
(
おつしや
)
らぬが、
076
虎公
(
とらこう
)
の
親分
(
おやぶん
)
さまが
不在
(
るす
)
になると、
077
ソロソロサボリ
出
(
だ
)
しよるものだから、
078
お
愛
(
あい
)
さまが
柳眉
(
りうび
)
を
逆立
(
さかだ
)
て、
079
長
(
なが
)
い
煙管
(
きせる
)
をヒヨイと
持
(
も
)
ち……コレコレ
新公
(
しんこう
)
や、
080
お
前
(
まへ
)
といふ
人
(
ひと
)
は
何
(
なん
)
とした
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
男
(
をとこ
)
だえ。
081
虎
(
とら
)
さまの
前
(
まへ
)
では
平
(
ひら
)
た
蜘蛛
(
ぐも
)
の
様
(
やう
)
になつてるくせに、
082
お
不在
(
るす
)
になると
戸棚
(
とだな
)
の
鼠
(
ねずみ
)
があばれるやうに、
083
一寸
(
ちよつと
)
も
妾
(
わたし
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かぬぢやないか。
084
腰抜
(
こしぬけ
)
男
(
をとこ
)
といふのはお
前
(
まへ
)
のことだよ。
085
一寸
(
ちよつと
)
ここへお
出
(
い
)
で、
086
さうしてお
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
し……と
云
(
い
)
はれ
依
(
よ
)
つて、
087
新公
(
しんこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
088
生
(
うま
)
れついての
天保銭
(
てんぽうせん
)
だからなア……ヘエ
何
(
なん
)
ぞ
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しますのか……ナンて
吐
(
ぬか
)
しよつてな、
089
コハゴハ
手
(
て
)
をニユーツと、
090
お
愛
(
あい
)
さまの
前
(
まへ
)
へ
出
(
だ
)
しよると、
091
お
愛
(
あい
)
さまが……お
前
(
まへ
)
一寸
(
ちよつと
)
目
(
め
)
をつぶつて
御覧
(
ごらん
)
……とやられくさるのだ。
092
阿呆
(
あはう
)
が
足
(
た
)
らいで、
093
新公
(
しんこう
)
の
奴
(
やつ
)
目
(
め
)
を
塞
(
ふさ
)
ぎよると、
094
お
愛
(
あい
)
さまは
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
に
灰
(
はひ
)
をつまみ、
095
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
に
火
(
ひ
)
の
燠
(
おき
)
を
火箸
(
ひばし
)
につまんで、
096
掌
(
てのひら
)
に
火
(
ひ
)
をのせ、
097
それと
同時
(
どうじ
)
に、
098
舌
(
した
)
に
灰
(
はひ
)
をのせられよつて……アツヽヽ、
099
プープープーと
言
(
い
)
ひながら
裏
(
うら
)
の
小川
(
をがは
)
へ
走
(
はし
)
つて
行
(
ゆ
)
く……と
云
(
い
)
ふ
馬鹿者
(
ばかもの
)
だからなア。
100
到底
(
たうてい
)
お
話
(
はなし
)
にならない
代物
(
しろもの
)
だよ』
101
新公
『コリヤ
久公
(
きうこう
)
、
102
ソラ
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
ふのだ、
103
貴様
(
きさま
)
のことぢやないか。
104
何時
(
いつ
)
もお
愛
(
あい
)
さまに
灸
(
きう
)
をすゑられよつて、
105
キユーキユー
言
(
い
)
うてゐよるから、
106
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
久公
(
きうこう
)
といふあだ
名
(
な
)
がついた
位
(
くらゐ
)
だのに、
107
知
(
し
)
らぬかと
思
(
おも
)
つて、
108
そんなウソツ
八
(
ぱち
)
をこきよると、
109
承知
(
しようち
)
しねえぞ』
110
久公
『ヘン、
111
お
人
(
ひと
)
がズツと
違
(
ちが
)
ふのだから、
112
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
天道
(
てんだう
)
さまが
見
(
み
)
て
御座
(
ござ
)
るのだ。
113
グヅグヅ
吐
(
ぬか
)
すと
久々
(
きうきう
)
言
(
い
)
ふよな
目
(
め
)
にあはしたろか。
114
コラ
新公
(
しんこう
)
、
115
シン
気
(
き
)
臭
(
くさ
)
い
新公
(
しんこう
)
だと、
116
いつもお
愛
(
あい
)
さまにボヤかれてるくせに……』
117
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
118
新公
(
しんこう
)
の
横面
(
よこづら
)
をピシヤツと
擲
(
なぐ
)
る。
119
新公
『コリヤ
喧嘩
(
けんくわ
)
か、
120
喧嘩
(
けんくわ
)
なら
飯
(
めし
)
より
好
(
す
)
きだ。
121
イヤ
酒
(
さけ
)
の
次
(
つぎ
)
にや
喧嘩
(
けんくわ
)
が
好
(
す
)
きな
新公
(
しんこう
)
だぞ。
122
サア
来
(
こ
)
い』
123
と
拳骨
(
げんこつ
)
を
固
(
かた
)
める。
124
六公
(
ろくこう
)
は
慌
(
あわ
)
てて、
125
六公
『コラコラ
内裏
(
うちうら
)
から、
126
内乱
(
ないらん
)
を
起
(
おこ
)
しちや
詮
(
つま
)
らぬぢやないか、
127
マア
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て』
128
新公
『
内乱
(
ないらん
)
が
起
(
おこ
)
つたつて
仕方
(
しかた
)
がねえワ。
129
どうぞ
放
(
ほ
)
つといてくれ、
130
新公
(
しんこう
)
には
新公
(
しんこう
)
としての
新案
(
しんあん
)
がある。
131
新久
(
しんきう
)
思想
(
しさう
)
の
衝突
(
しようとつ
)
だから、
132
六
公
(
ろくこう
)
が
何程
(
なにほど
)
仲裁
(
ちうさい
)
しても、
133
六
(
ろく
)
な
解決
(
かいけつ
)
アつきやしめえ、
134
六
(
ろく
)
に
内容
(
ないよう
)
も
査
(
しら
)
べずして
仲裁
(
ちうさい
)
したつて
駄目
(
だめ
)
だぞ』
135
徳公
『
今日
(
けふ
)
は
目出度
(
めでた
)
い
日
(
ひ
)
だから、
136
親分
(
おやぶん
)
に
免
(
めん
)
じて
喧嘩
(
けんくわ
)
丈
(
だけ
)
は
止
(
や
)
めてくれ。
137
若
(
わ
)
けえ
奴
(
やつ
)
に
聞
(
き
)
かれても
外聞
(
ぐわいぶん
)
がわりいからなア。
138
時
(
とき
)
に
新公
(
しんこう
)
、
139
お
愛
(
あい
)
さまはありや
普通
(
ふつう
)
の
女
(
をんな
)
ではないやうだが、
140
一体
(
いつたい
)
どこからお
出
(
い
)
でになつたのだ。
141
あの
方
(
かた
)
は
親
(
おや
)
が
分
(
わか
)
らぬと
云
(
い
)
ふぢやないか』
142
新公
『それの
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
る
者
(
もの
)
は、
143
此
(
この
)
広
(
ひろ
)
い
熊襲
(
くまそ
)
の
国
(
くに
)
に、
144
言
(
い
)
ふと
済
(
す
)
まぬが、
145
親分
(
おやぶん
)
と
此
(
この
)
新公
(
しんこう
)
計
(
ばか
)
りだよ』
146
徳公
『
一
(
ひと
)
つこの
徳公
(
とくこう
)
にソツとお
愛
(
あい
)
さまの
素性
(
すじやう
)
を
明
(
あ
)
かしては
呉
(
く
)
れめえかなア』
147
新公
『それを
聞
(
き
)
いて
何
(
なに
)
にするのだ。
148
もしも
本当
(
ほんたう
)
のことを
聞
(
き
)
かうものなら、
149
アフンと
致
(
いた
)
して
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
がすぼまらぬやうになつて
了
(
しま
)
ふぞ。
150
腰
(
こし
)
をぬかすかも
分
(
わか
)
らぬから、
151
鯡
(
にしん
)
でも
用意
(
ようい
)
しておくがよいワ』
152
徳公
『
馬鹿
(
ばか
)
にするない、
153
猫
(
ねこ
)
ぢやあるめえし、
154
鯡
(
にしん
)
の
用意
(
ようい
)
せえとは、
155
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すのだ』
156
新公
『
鯡
(
にしん
)
(
日進
(
につしん
)
)
月歩
(
げつぽ
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ、
157
新久
(
しんきう
)
思想
(
しさう
)
の
衝突
(
しようとつ
)
する
現代
(
げんだい
)
だから、
158
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
何時
(
いつ
)
もガヤガヤ
騒
(
さわ
)
がしいのは
当然
(
たうぜん
)
だ。
159
此
(
この
)
新公
(
しんこう
)
と
徳公
(
とくこう
)
と
寄
(
よ
)
つて、
160
新徳
(
しんとく
)
を
発揮
(
はつき
)
し、
161
乱麻
(
らんま
)
の
如
(
ごと
)
き
乱
(
みだ
)
れ
果
(
は
)
てたる
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を、
162
一
(
ひと
)
つ
改造
(
かいざう
)
して
見
(
み
)
たら
如何
(
どう
)
だらうなア』
163
徳公
『
其奴
(
そいつ
)
ア
面白
(
おもしろ
)
い。
164
乍併
(
しかしながら
)
其
(
その
)
問題
(
もんだい
)
は
委員
(
ゐゐん
)
付託
(
ふたく
)
としておいて、
165
お
愛
(
あい
)
さまの
素性
(
すじやう
)
を
早
(
はや
)
くきかしてくれねえか。
166
決
(
けつ
)
してビツクリやしねえから……』
167
新公
『そんなら
一
(
ひと
)
つ、
168
今日
(
けふ
)
は
大張込
(
おほはりこ
)
みに
張込
(
はりこ
)
んで、
169
神秘
(
しんぴ
)
の
扉
(
とびら
)
を
開
(
ひら
)
いてやるから、
170
最敬礼
(
さいけいれい
)
の
上
(
うへ
)
、
171
新公
(
しんこう
)
の
言
(
い
)
ふことを
謹聴
(
きんちやう
)
せい……
抑
(
そもそ
)
も
虎公
(
とらこう
)
親分
(
おやぶん
)
の
最愛
(
さいあい
)
の
妻
(
つま
)
、
172
お
愛
(
あい
)
の
方
(
かた
)
の
素性
(
すじやう
)
と
言
(
い
)
つぱ、
173
畏
(
おそれおほ
)
くも
天教山
(
てんけうざん
)
より
天使
(
てんし
)
として、
174
火
(
ひ
)
の
神国
(
かみくに
)
に
降
(
くだ
)
らせ
玉
(
たま
)
ひし
八島別
(
やしまわけ
)
の
神
(
かみ
)
、
175
後
(
のち
)
には
建日向別
(
たけひむかわけ
)
の
神
(
かみ
)
と
申上
(
まをしあ
)
げた
神司
(
かむつかさ
)
の
御
(
ご
)
秘蔵
(
ひざう
)
の
御
(
お
)
娘子
(
むすめご
)
様
(
さま
)
だぞ』
176
徳公
『ヤア、
177
ソラ
又
(
また
)
本当
(
ほんたう
)
かい。
178
どうしてそんな
尊
(
たふと
)
い
身分
(
みぶん
)
で
居
(
ゐ
)
乍
(
なが
)
ら、
179
侠客
(
けふかく
)
風情
(
ふぜい
)
の
虎公
(
とらこう
)
の
女房
(
にようばう
)
になつたのだらうか、
180
チツと
合点
(
がてん
)
がいかぬぢやねえか。
181
なア、
182
高公
(
たかこう
)
、
183
六公
(
ろくこう
)
、
184
まるで
天地
(
てんち
)
が
覆
(
かへ
)
るやうな
話
(
はなし
)
だなア、
185
さうすると、
186
俺
(
おれ
)
だつてあまり
馬鹿
(
ばか
)
にやならぬワイ。
187
どんな
尊
(
たふと
)
い
方
(
かた
)
の
娘
(
むすめ
)
と
結婚
(
けつこん
)
するかも
知
(
し
)
れやしねえからなア』
188
新公
『モウそれ
丈
(
だけ
)
でよいのか』
189
徳公
『ヤアよい
所
(
どころ
)
か、
190
モツトモツト
聞
(
き
)
かしてもれへてえのだ。
191
それから
如何
(
どう
)
したのだ。
192
サア
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
をきかしてくれ。
193
何
(
なん
)
だか
気
(
き
)
がせいてならねえからなア』
194
新公
『
八島別
(
やしまわけ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
敷妙姫
(
しきたへひめ
)
様
(
さま
)
といふ
奥
(
おく
)
さまがあつて、
195
其
(
その
)
仲
(
なか
)
にお
生
(
うま
)
れ
遊
(
あそ
)
ばしたのが
愛子姫
(
あいこひめ
)
さま、
196
其
(
その
)
妹
(
いもうと
)
に
依子姫
(
よりこひめ
)
様
(
さま
)
といふ
綺麗
(
きれい
)
なお
嬢
(
ぢやう
)
さまがあつたのだ。
197
さうした
所
(
ところ
)
、
198
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
様
(
さま
)
が
豊
(
とよ
)
の
国
(
くに
)
の
豊日別
(
とよひわけ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
子息
(
しそく
)
豊照彦
(
とよてるひこ
)
様
(
さま
)
を
養子
(
やうし
)
に
貰
(
もら
)
つて、
199
後
(
あと
)
をつがさうと
遊
(
あそ
)
ばした
所
(
ところ
)
、
200
愛子姫
(
あいこひめ
)
さまは、
201
貴族
(
きぞく
)
生活
(
せいくわつ
)
が
生
(
うま
)
れつきの
大
(
だい
)
のお
嫌
(
きら
)
ひで、
202
平民
(
へいみん
)
主義
(
しゆぎ
)
の
御
(
お
)
方
(
かた
)
だから、
203
立派
(
りつぱ
)
な
豊照彦
(
とよてるひこ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
養子
(
やうし
)
をお
嫌
(
きら
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばし、
204
ソツと
夜陰
(
やいん
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
館
(
やかた
)
を
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し、
205
黄金
(
わうごん
)
の
腕輪
(
うでわ
)
や、
206
ダイヤモンドの
首飾
(
くびかざり
)
をかけたまんま、
207
夜道
(
よみち
)
を
辿
(
たど
)
らつしやる
其
(
その
)
時
(
とき
)
しも、
208
忽
(
たちま
)
ち
森
(
もり
)
の
木
(
こ
)
かげより
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でたる
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
209
矢庭
(
やには
)
に
姫
(
ひめ
)
の
前
(
まへ
)
に
立塞
(
たちふさ
)
がり、
210
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り
足
(
あし
)
を
取
(
と
)
り、
211
草原
(
くさはら
)
の
路傍
(
みちばた
)
に
打倒
(
うちたふ
)
し、
212
乱暴
(
らんばう
)
狼籍
(
らうぜき
)
に
及
(
およ
)
ばうとしてゐた
所
(
ところ
)
、
213
俺
(
おれ
)
所
(
とこ
)
の
親分
(
おやぶん
)
虎公
(
とらこう
)
さまが、
214
此
(
この
)
新公
(
しんこう
)
を
伴
(
つ
)
れて、
215
一杯
(
いつぱい
)
機嫌
(
きげん
)
でヒヨロリヒヨロリと
千鳥足
(
ちどりあし
)
、
216
木遣
(
きや
)
りを
唄
(
うた
)
つて
向方
(
むかふ
)
の
方
(
かた
)
よりやつて
来
(
き
)
た。
217
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
アよつて
集
(
たか
)
つて
姫
(
ひめ
)
を
押
(
おさ
)
へ、
218
キヤアキヤア
云
(
い
)
はしてゐやがる。
219
そこへ
親分
(
おやぶん
)
と
俺
(
おれ
)
とが
飛
(
と
)
んで
出
(
で
)
て、
220
大喝
(
だいかつ
)
一声
(
いつせい
)
……
悪者
(
わるもの
)
共
(
ども
)
暫
(
しばら
)
く
待
(
ま
)
てえ……と
雷
(
らい
)
の
如
(
ごと
)
き
大音声
(
だいおんじやう
)
に
呼
(
よ
)
ばはれば
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
は、
221
其
(
その
)
声
(
こゑ
)
に
打驚
(
うちおどろ
)
き
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
散
(
ち
)
つたり……
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
の
奴
(
やつこ
)
共
(
ども
)
、
222
逃
(
に
)
げる
奴
(
やつ
)
には
目
(
め
)
は
付
(
つ
)
けず……と
姫
(
ひめ
)
の
方
(
はう
)
を
月影
(
つきかげ
)
にすかし
眺
(
なが
)
むれば
雪
(
ゆき
)
を
欺
(
あざむ
)
く
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
のナイス、
223
ダイヤモンドは
月
(
つき
)
に
照
(
て
)
らされ、
224
頭
(
あたま
)
一面
(
いちめん
)
に
星
(
ほし
)
の
如
(
ごと
)
くにきらめいて
居
(
ゐ
)
る。
225
指
(
ゆび
)
にもダイヤモンド、
226
足
(
あし
)
にも
腕
(
うで
)
にも
黄金
(
わうごん
)
の
輪
(
わ
)
が
嵌
(
はま
)
つてゐる。
227
コリヤ
普通
(
ふつう
)
の
家
(
うち
)
の
嬢
(
ぢやう
)
さまであるめえと、
228
親分
(
おやぶん
)
さまが
合点
(
がてん
)
し……もしもしどこのお
女中
(
ぢよちう
)
か
知
(
し
)
りませぬが、
229
大胆
(
だいたん
)
にも
物騒
(
ぶつそう
)
な
夜
(
よる
)
の
一人旅
(
ひとりたび
)
、
230
危
(
あぶ
)
ねえ
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
えましたネー……と
云
(
い
)
ひながら
姫
(
ひめ
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り
静
(
しづか
)
に
抱
(
だ
)
き
起
(
おこ
)
し、
231
塵打払
(
ちりうちはら
)
つて
労
(
いたは
)
つた
所
(
ところ
)
、
232
姫
(
ひめ
)
さまは
漸
(
やうや
)
くに
顔
(
かほ
)
をあげ……どこの
何方
(
どなた
)
か
存
(
ぞん
)
じませぬが、
233
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
場合
(
ばあひ
)
、
234
よく
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいました、
235
途中
(
とちう
)
のこととて
御
(
お
)
礼
(
れい
)
の
仕様
(
しやう
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬから、
236
どうぞこれを
受取
(
うけと
)
つて
下
(
くだ
)
さい……と、
237
頭
(
あたま
)
に
光
(
ひか
)
るダイヤモンドを
一
(
ひと
)
つも
残
(
のこ
)
らず
取外
(
とりはづ
)
し、
238
足
(
あし
)
の
輪
(
わ
)
から
腕輪
(
うでわ
)
まで
一
(
ひと
)
つに
集
(
あつ
)
めて
親分
(
おやぶん
)
に
渡
(
わた
)
さうとする。
239
親分
(
おやぶん
)
の
虎公
(
とらこう
)
は
喜
(
よろこ
)
んで
飛付
(
とびつ
)
くかと
思
(
おも
)
つてゐたら、
240
猫
(
ねこ
)
に
小判
(
こばん
)
を
見
(
み
)
せたよな
調子
(
てうし
)
で……コレコレお
女中
(
ぢよちう
)
、
241
そんな
物
(
もの
)
を
貰
(
もら
)
ひてえ
為
(
ため
)
に
助
(
たす
)
けたのだごぜえやせぬ、
242
どうぞ
納
(
をさ
)
めて
下
(
くだ
)
せい……と
仰有
(
おつしや
)
つた
所
(
ところ
)
、
243
そのお
姫
(
ひめ
)
さまは……どうぞ
受取
(
うけと
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ、
244
あなたは
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
で
御座
(
ござ
)
います、
245
私
(
わたし
)
は
建日向別
(
たけひむかわけの
)
命
(
みこと
)
の
総領
(
そうりやう
)
娘
(
むすめ
)
、
246
貴族
(
きぞく
)
生活
(
せいくわつ
)
が
厭
(
いや
)
になり、
247
鄙
(
ひな
)
に
下
(
くだ
)
つてどこかに
水仕
(
みづし
)
奉公
(
ぼうこう
)
でもしたいから
脱
(
ぬ
)
けて
来
(
き
)
ましたのだ、
248
こんな
物
(
もの
)
は
最早
(
もはや
)
必要
(
ひつえう
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ、
249
さうして
一旦
(
いつたん
)
お
前様
(
まへさま
)
にあげようと
思
(
おも
)
つた
妾
(
わらは
)
の
心
(
こころ
)
、
250
如何
(
どう
)
しても
翻
(
ひるがへ
)
すことは
出来
(
でき
)
ませぬから、
251
何卒
(
どうぞ
)
お
慈悲
(
じひ
)
に
受取
(
うけと
)
つて
下
(
くだ
)
さい……と
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
して
頼
(
たの
)
まれる。
252
親分
(
おやぶん
)
は……わしも
武野村
(
たけのむら
)
の
侠客
(
けふかく
)
だ、
253
一旦
(
いつたん
)
要
(
い
)
らぬと
云
(
い
)
つたら、
254
如何
(
どう
)
しても
受取
(
うけと
)
らねえ……と
頑張
(
ぐわんば
)
り
出
(
だ
)
す。
255
如何
(
どう
)
しても
埒
(
らち
)
が
明
(
あ
)
かねえので、
256
此
(
この
)
新公
(
しんこう
)
が
中
(
なか
)
にわつて
入
(
い
)
り、
257
とうとう
親分
(
おやぶん
)
に
得心
(
とくしん
)
させた。
258
さうすると
親分
(
おやぶん
)
が……そんならお
姫
(
ひめ
)
さま、
259
折角
(
せつかく
)
のお
志
(
こころざし
)
、
260
有難
(
ありがた
)
う
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
します……と
受取
(
うけと
)
り……もし
姫
(
ひめ
)
さま、
261
私
(
わたし
)
が
頂戴
(
ちやうだい
)
した
以上
(
いじやう
)
は、
262
如何
(
どう
)
しても
構
(
かま
)
ひませぬかと
親分
(
おやぶん
)
が
云
(
い
)
つたのだ。
263
さうすると
姫
(
ひめ
)
さまが……あなたに
渡
(
わた
)
した
以上
(
いじやう
)
はあなたの
品物
(
しなもの
)
、
264
如何
(
どう
)
なつと
御
(
ご
)
勝手
(
かつて
)
に
遊
(
あそ
)
ばしませ……とお
出
(
い
)
でなすつた。
265
親分
(
おやぶん
)
は……それなら
私
(
わたし
)
の
勝手
(
かつて
)
に
致
(
いた
)
します……と
言
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
傍
(
かたはら
)
を
流
(
なが
)
れる
深
(
ふか
)
い
谷川
(
たにがは
)
へ、
266
惜気
(
をしげ
)
もなく
投込
(
なげこ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
267
そこで
其
(
その
)
姫
(
ひめ
)
さまが
親分
(
おやぶん
)
の
気前
(
きまへ
)
に
惚込
(
ほれこ
)
み、
268
懸想
(
けさう
)
をしてゐらつしやつたのだ。
269
乍併
(
しかしながら
)
女心
(
をんなごころ
)
の
恥
(
はづ
)
かしいと
見
(
み
)
えてそんなことはケブライにも
出
(
だ
)
さず、
270
武野
(
たけの
)
の
村
(
むら
)
の
七兵衛
(
しちべゑ
)
の
内
(
うち
)
に
水仕
(
みづし
)
奉公
(
ぼうこう
)
に、
271
素性
(
すじやう
)
を
隠
(
かく
)
して
住込
(
すみこ
)
み
二
(
に
)
年
(
ねん
)
許
(
ばか
)
りゐられたのだ。
272
サアさうすると
誰
(
たれ
)
云
(
い
)
ふとなく
別嬪
(
べつぴん
)
だ
別嬪
(
べつぴん
)
だといふ
評判
(
ひやうばん
)
が
立
(
た
)
ち、
273
大蛇
(
をろち
)
の
三公
(
さんこう
)
がやつて
来
(
き
)
て……お
愛
(
あい
)
と
名乗
(
なの
)
るお
姫
(
ひめ
)
さまを
執念深
(
しふねんぶか
)
く
口説
(
くど
)
き
立
(
た
)
てに
来
(
く
)
ると
云
(
い
)
ふ
騒
(
さわ
)
ぎだ。
274
それが
到頭
(
たうとう
)
三年前
(
さんねんまへ
)
に
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
方
(
はう
)
から
内
(
うち
)
の
親分
(
おやぶん
)
に
申込
(
まをしこ
)
んで
結婚
(
けつこん
)
の
式
(
しき
)
を
挙
(
あ
)
げられたと
云
(
い
)
ふ
始末
(
しまつ
)
だ。
275
随分
(
ずゐぶん
)
内
(
うち
)
の
親分
(
おやぶん
)
もえれえものだらう。
276
其
(
その
)
親分
(
おやぶん
)
の
一
(
いち
)
の
乾児
(
こぶん
)
だから、
277
此
(
この
)
新公
(
しんこう
)
だつて、
278
決
(
けつ
)
して
馬鹿
(
ばか
)
にはならないぞ。
279
お
愛
(
あい
)
さまと
初
(
はじめ
)
から、
280
さう
云
(
い
)
ふ
関係
(
くわんけい
)
があるのだから、
281
不在中
(
るすちう
)
に
酒
(
さけ
)
の
一杯
(
いつぱい
)
位
(
ぐらゐ
)
ついで
貰
(
もら
)
つたつて、
282
別
(
べつ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
はあるめえがなア』
283
ともつれた
舌
(
した
)
で
物語
(
ものがた
)
つてゐる。
284
六公
(
ろくこう
)
、
285
高公
(
たかこう
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
此
(
この
)
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて、
286
腕
(
うで
)
を
組
(
く
)
み、
287
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け
吐息
(
といき
)
をもらして
居
(
ゐ
)
る。
288
徳公
『ホンに
偉
(
えら
)
い
者
(
もの
)
だなア。
289
度胸
(
どきよう
)
が
据
(
す
)
わつて
居
(
ゐ
)
ると
思
(
おも
)
へば、
290
ヤツパリ
蚯蚓切
(
みみづき
)
りや
蛙
(
かはづ
)
とばしの
腹
(
はら
)
から
出
(
で
)
たのぢやねえからなア、
291
人間
(
にんげん
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は
争
(
あらそ
)
はれぬものだ……
昔
(
むかし
)
からの
胤
(
たね
)
の
吟味
(
ぎんみ
)
を
致
(
いた
)
すは
今度
(
こんど
)
のことぞよ。
292
種
(
たね
)
さへよければどんな
立派
(
りつぱ
)
な
花
(
はな
)
でも
咲
(
さ
)
くぞよ……と
云
(
い
)
ふ
三五教
(
あななひけう
)
には
教
(
をしへ
)
があるといふことだが、
293
本当
(
ほんたう
)
に
種
(
たね
)
といふものは
争
(
あらそ
)
はれぬものだなア……オイ
六公
(
ろくこう
)
、
294
高公
(
たかこう
)
、
295
貴様
(
きさま
)
何時
(
いつ
)
やら、
296
俺
(
おれ
)
に
話
(
はな
)
して
居
(
を
)
つた
失敗話
(
しつぱいばなし
)
によく
似
(
に
)
てるぢやねえか、
297
あの
時
(
とき
)
の
馬鹿者
(
ばかもの
)
は
貴様
(
きさま
)
の
連中
(
れんちう
)
だらう。
298
此
(
この
)
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
くや
否
(
いな
)
や、
299
サツパリふさぎ
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
ひよつたぢやねえか。
300
そのしよげ
方
(
かた
)
は
何
(
なん
)
だい、
301
忽
(
たちま
)
ち
様子
(
やうす
)
に
現
(
あら
)
はれて
居
(
ゐ
)
るぞよ、
302
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
つた
代物
(
しろもの
)
だなア』
303
高公
『
夜分
(
やぶん
)
のことでチツとも
分
(
わか
)
らなかつたが、
304
其
(
その
)
時
(
とき
)
のナイスがヤツパリお
愛
(
あい
)
さまらしいワイ。
305
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しよつた
奴
(
やつ
)
は、
306
虎公
(
とらこう
)
だつたのだなア。
307
世間
(
せけん
)
は
広
(
ひろ
)
いやうなものの
狭
(
せま
)
いものだなア。
308
之
(
これ
)
を
思
(
おも
)
ふと
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
はチツとも
出来
(
でき
)
やしねえワ』
309
新公
『アハヽヽヽ、
310
とうとう
蛙
(
かはづ
)
は
口
(
くち
)
から、
311
白状
(
はくじやう
)
しよつた。
312
おれも
此処
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
に、
313
どうも
貴様
(
きさま
)
のスタイルが
朧
(
おぼろ
)
げながら、
314
あの
時
(
とき
)
の
馬鹿者
(
ばかもの
)
によく
似
(
に
)
てると
思
(
おも
)
つてゐたのだ。
315
天罰
(
てんばつ
)
と
云
(
い
)
ふものは
恐
(
おそ
)
ろしいものだなア』
316
六公
『
本当
(
ほんたう
)
にさうだ。
317
おれもいよいよ
改心
(
かいしん
)
するワ。
318
こんな
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
くと、
319
折角
(
せつかく
)
酔
(
よ
)
うた
酒
(
さけ
)
迄
(
まで
)
さめて
了
(
しま
)
ひさうだ。
320
アヽアヽ
新公
(
しんこう
)
の
親分
(
おやぶん
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
仕合
(
しあは
)
せな
男
(
をとこ
)
だ。
321
そして
内
(
うち
)
の
親分
(
おやぶん
)
は
不仕合
(
ふしあは
)
せな
男
(
をとこ
)
だ。
322
俺
(
おれ
)
までヤツパリ
不仕合
(
ふしあは
)
せだ。
323
アンアンアン
悲
(
かな
)
しわいやい』
324
八公
(
やつこう
)
『ウツフヽヽヽ』
325
新公
『アツハヽヽヽ、
326
オイ
俺
(
おれ
)
所
(
とこ
)
の
親分
(
おやぶん
)
を
一通
(
ひととほ
)
りの
人間
(
にんげん
)
だと
思
(
おも
)
つてゐるかい』
327
徳公
『
徳
(
とく
)
とは
分
(
わか
)
らぬが
此奴
(
こいつ
)
も
只
(
ただ
)
の
狸
(
たぬき
)
ぢやあるめえ。
328
どこぞの
落胤
(
おとしだね
)
ぢやなからうかなア』
329
新公
『
落胤
(
おとしだね
)
所
(
どころ
)
かい、
330
昔
(
むかし
)
火
(
ひ
)
の
国
(
くに
)
に
御座
(
ござ
)
つた
虎転別
(
とらてんわけ
)
さま、
331
後
(
のち
)
に
豊
(
とよ
)
の
国
(
くに
)
へ
行
(
い
)
つて
豊日別
(
とよひわけの
)
命
(
みこと
)
とお
成
(
な
)
り
遊
(
あそ
)
ばした
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
総領
(
そうりやう
)
息子
(
むすこ
)
だ。
332
それで
虎公
(
とらこう
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
333
其
(
そ
)
の
虎公
(
とらこう
)
さまが
一寸
(
ちよつと
)
渋皮
(
しぶかは
)
の
剥
(
む
)
けた
下女
(
げぢよ
)
に
手
(
て
)
をかけ、
334
手
(
て
)
に
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて、
335
道行
(
みちゆき
)
ときめこみ、
336
熊襲
(
くまそ
)
の
国
(
くに
)
へさまようて
御座
(
ござ
)
つた
其
(
その
)
時
(
とき
)
、
337
其
(
その
)
女
(
をんな
)
は
腹
(
はら
)
がふくれてをつた。
338
それが
大
(
おほ
)
きな
山坂
(
やまさか
)
を
越
(
こ
)
えて
来
(
き
)
たものだから、
339
とうとう
病気
(
びやうき
)
になり、
340
難産
(
なんざん
)
をして
親子
(
おやこ
)
共
(
とも
)
になくなつて
了
(
しま
)
つたのだ。
341
此
(
この
)
新公
(
しんこう
)
だとて、
342
ヤツパリ
元
(
もと
)
は
豊日別
(
とよひわけ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
家来
(
けらい
)
だ。
343
若旦那
(
わかだんな
)
様
(
さま
)
の
虎若
(
とらわか
)
様
(
さま
)
が
駆落
(
かけおち
)
遊
(
あそ
)
ばす
時
(
とき
)
に、
344
お
供
(
とも
)
をして
従
(
つ
)
いて
来
(
き
)
たのだから、
345
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
此
(
この
)
新公
(
しんこう
)
が
親分
(
おやぶん
)
さまの
一
(
いち
)
の
眷族
(
けんぞく
)
だ。
346
何
(
なに
)
ほど
久公
(
きうこう
)
や
八公
(
やつこう
)
が
しやち
になつたつておれにや
叶
(
かな
)
はねえからな、
347
アツハヽヽヽ』
348
と
肩
(
かた
)
をゆすつて
笑
(
わら
)
ふ。
349
徳公
(
とくこう
)
は「フーン」と
云
(
い
)
つた
限
(
き
)
り、
350
感
(
かん
)
に
打
(
う
)
たれてゐる。
351
折
(
をり
)
しも
遠音
(
とほね
)
に
響
(
ひび
)
く
鐘
(
かね
)
の
音
(
ね
)
、
352
ゴーンゴーンと
静
(
しづ
)
かに
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
る。
353
徳公
(
とくこう
)
『ヤアもう
子
(
ね
)
の
刻
(
こく
)
だ。
354
皆
(
みな
)
さまこれから
休
(
やす
)
みませう』
355
(
大正一一・九・一五
旧七・二四
松村真澄
録)
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