霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 分担(ぶんたん)〔九七三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻 篇:第1篇 向日山嵐 よみ(新仮名遣い):むこうやまあらし
章:第9章 分担 よみ(新仮名遣い):ぶんたん 通し章番号:973
口述日:1922(大正11)年09月16日(旧07月25日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
新公、徳公、久公は酒の機嫌でなんとなく寝られなく、三公の館の庭を歩きながら、よもやま話にふけっている。新公は、お梅は実は虎公の妹ではなく拾い子で、昔黄泉比良坂の戦いで活躍した松・竹・梅の三姉妹の宣伝使の生まれ変わりだとしゃべってしまう。
三公と虎公に一喝された三人は、田圃へ酔い覚ましに行ってしまった。黒姫は、三人の話が本当かどうか、虎公とお梅に確かめる。お梅の身の上話によれば、両親はバラモン教の鬼雲彦に亡き者とされ、自分も悪者にかどわかされていたところを、虎公に助けられたのだという。
孫公は、今度は三公の身の上話に話題を変えた。三公は実はエヂプトの三五教宣伝使・春公とお常の子であったという。父母がスッポンの湖に棲むという大蛇を言向け和しに出かけたが、力及ばず湖にのまれて亡くなってしまったという。
エヂプトの酋長である夏山彦の託宣によれば、三公の両親は自分自身の執着心が凝って大蛇となり、言霊戦に敗れて亡くなったのだから、三公は両親の冥福を祈る生活を送るべきだと諭されたという。
しかし三公は両親の仇を取ろうと、夏山彦の親切な申し出も断ってスッポンの湖に出かけたが、その広大さに力不足を感じ、熊襲の国にやってきて屋方村で侠客をはじめ、密かにスッポンの湖の大蛇退治のために子分を集めていたのだという。
お愛についても素性をしっており、恋慕もあったが、大蛇退治に効験ある霊系であろうという目算もあったのだ、と明かした。そして、悪を退治するために自ら悪人となり悪人の子分を集めていたことが、三五教の教理に背いていたことを告白して懺悔した。
三公の身の上話を聞いて、虎公の発案で早速、虎公、お愛、三公、孫公の四人は、スッポンの湖の大蛇を言向け和すべく出立することになった。
黒姫は火の国へ先を行くことになり、三公と虎公の命で、道案内として徳公と久公が同道することになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2019-10-07 02:32:57 文字数:5242 OBC :rm3509
愛善世界社版:92頁 八幡書店版:第6輯 505頁 修補版: 校定版:98頁 普及版:34頁 初版: ページ備考:
001吼(ほ)え猛(たけ)る虎(とら)狼(おほかみ)や獅子(しし)大蛇(をろち)
002熊襲(くまそ)の国(くに)の高原(かうげん)に
003館(やかた)を構(かま)へて遠近(をちこち)に
004暴威(ばうゐ)を揮(ふる)ひし男達(をとこだて)
005その名(な)も大蛇(をろち)の三公(さんこう)が
006離座敷(はなれざしき)に夜(よ)もすがら
007酒(さけ)汲(く)みかはし四方山(よもやま)の
008話(はなし)に耽(ふけ)る人(ひと)の影(かげ)
009障子(しやうじ)に映(うつ)る五(いつ)つ六(む)つ
010夜(よ)は深々(しんしん)と更(ふ)け渡(わた)り
011荒野(あらの)を渡(わた)る夜嵐(よあらし)の
012声(こゑ)も何時(いつ)しか静(しづ)まりて
013幽(かす)かに聞(きこ)ゆる谷川(たにがは)の
014巌(いはほ)を咬(か)むで迸(ほとばし)る
015水(みづ)の音(おと)のみ鳴(な)り渡(わた)る。
016 酒(さけ)の機嫌(きげん)で何(なん)となく神経(しんけい)興奮(こうふん)して寝(ね)つかれぬままに、017ブラリブラリと境内(けいだい)を逍遥(せうえう)してゐた新(しん)、018久(きう)、019徳(とく)の三(さん)人(にん)、020障子(しやうじ)に映(うつ)る人影(ひとかげ)を眺(なが)め、021巻舌(まきじた)になつて呶鳴(どな)つてゐる。
022徳公『オイ新公(しんこう)、023あの障子(しやうじ)の影(かげ)を見(み)い! 貴様(きさま)が親方(おやかた)の不在(るす)になると、024チヨイチヨイと酒(さけ)を汲(く)んで貰(もら)ふと吐(ぬか)しよつたナイスの影法師(かげぼうし)がシヤントコセイのウントコセと映(うつ)つとるぢやねえか、025本当(ほんたう)に偉(えら)い奴(やつ)だなア。026お愛(あい)の姐貴(あねき)も只(ただ)の狐(きつね)ぢやないと思(おも)うて居(を)つたが、027八島別(やしまわけ)とか何(なん)とかの娘(むすめ)だと言(い)ひよつたなア。028昔(むかし)常世(とこよ)の会議(くわいぎ)で八島(やしま)とかいふ狐(きつね)が出(で)よつて、029常世姫(とこよひめの)命(みこと)をアフンと言(い)はしよつた其奴(そいつ)の系統(ひつぽう)かも知(し)れないぞ』
030新公『コリヤ徳(とく)、031そんな大(おほ)きい声(こゑ)で吐(ぬか)すと、032三公(さんこう)に聞(きこ)えるぢやねえか。033貴様(きさま)が口外(こうぐわい)せぬと吐(ぬか)したから、034この新公(しんこう)が親切(しんせつ)に神秘(しんぴ)の鍵(かぎ)を開(ひら)いて聞(き)かしてやつたぢやねえか、035これ程(ほど)夜(よ)が更(ふ)けて、036そこらあたりがシーンとして居(を)るのだから、037小(ちひ)さい囁(ささや)き声(ごゑ)でも聞(きこ)えるのだから、038小(ちひ)さい声(こゑ)で云(い)はぬかい。039お愛(あい)さまに聞(きこ)えたら大変(たいへん)だぞ』
040徳公『貴様(きさま)の其(その)声(こゑ)の方(はう)が余程(よつぽど)大(おほ)きいぢやねえか。041オイ新公(しんこう)、042あのお梅(うめ)と云(い)ふ奴(やつ)ア、043親分(おやぶん)の妹(いもうと)だといふ事(こと)だが、044妹(いもうと)迄(まで)伴(つ)れて駆落(かけおち)しよつたのか。045本当(ほんたう)に念(ねん)の入(い)つた奴(やつ)だなア』
046新公『妹(いもうと)といへばマアマア妹(いもうと)だ。047実(じつ)のとかア、048彼奴(あいつ)も拾(ひろ)ひ子(ご)だよ。049うちの虎公(とらこう)が表向(おもてむき)妹(いもうと)だと云(い)つてるのだが、050其(その)実(じつ)ア、051フサの国(くに)に生(うま)れた女(をんな)で、052姉(あね)にはお松(まつ)といふ立派(りつぱ)なナイスがあるのだ』
053徳公『其(その)お松(まつ)を如何(どう)して知(し)つとるのだ』
054新公『きまつた事(こと)だ。055松(まつ)竹(たけ)梅(うめ)と云(い)ふ事(こと)があるぢやねえか。056お梅(うめ)の姉(あね)はお竹(たけ)、057お竹(たけ)の姉(あね)はお松(まつ)だ。058黄泉(よもつ)比良坂(ひらさか)の桃(もも)の実(み)になつた松(まつ)竹(たけ)梅(うめ)の宣伝使(せんでんし)の生(うま)れ変(かは)りだからなア。059本当(ほんたう)に素敵(すてき)なものだ。060オイ徳公(とくこう)、061俺(おれ)が一(ひと)つ貴様(きさま)の改悪(かいあく)記念(きねん)にお梅(うめ)さまを女房(にようばう)に周旋(しうせん)してやらうか』
062徳公『あんな若(わけ)え代物(しろもの)と如何(どう)して夫婦(ふうふ)になれるものけえ。063世間体(せけんてい)が見(み)つともねえワ』
064新公『貴様(きさま)ア、065世間体(せけんてい)を憚(はばか)る良心(りやうしん)があるのなら、066なぜこんな無頼漢(ぶらいかん)の三公(さんこう)の乾児(こぶん)になつたのだい。067それの方(はう)が余程(よつぽど)世間体(せけんてい)が悪(わる)いぞ。068俺(おれ)のとこの親方(おやかた)はドンドンながら、069ポンポンながら、070豊(とよ)の国(くに)の豊日別(とよひわけの)命(みこと)さまの御(ご)総領(そうりやう)で、071虎若彦(とらわかひこの)命(みこと)様(さま)だ。072若(わか)い時(とき)に無分別(むふんべつ)な恋(こひ)におちて、073熊襲(くまそ)の国(くに)へお出(い)で遊(あそ)ばしたのだが、074何(なん)と云(い)つても種(たね)が種(たね)だから偉(えら)いものだ。075大蛇(をろち)の三公(さんこう)なんて云(い)ふ奴(やつ)あ、076どこの牛骨(ぎうこつ)だか馬骨(ばこつ)だか素性(すじやう)の分(わか)らねえゲス下郎(げろう)だから、077人情(にんじやう)も知(し)らねば、078誠(まこと)の道理(だうり)も悟(さと)らず、079卑怯(ひけふ)未練(みれん)な、080親分(おやぶん)の不在宅(るすたく)へ押(おし)かけて、081お愛(あい)の方(かた)を無理(むり)往生(わうじやう)させようとしよつたのだよ。082そんな奴(やつ)の提灯持(ちやうちんもち)をしてる奴(やつ)に、083碌(ろく)な奴(やつ)があるかい、084なア久公(きうこう)』
085久公『オイオイそんな声(こゑ)を出(だ)すと、086親分(おやぶん)に聞(きこ)えるぢやねえか。087聞(きこ)えたら又(また)事(こと)が面倒(めんだう)だぞ』
088新公『(浄瑠璃(じやうるり))そりや聞(きこ)えませぬ、089久公(きうこう)さま……だい、090お詞(ことば)無理(むり)とは……チンチン……ぢや、091思(おも)はねどオヽヽヽ俺(おれ)は余(あんま)り気(き)にかかる、092折角(せつかく)結構(けつこう)な親方(おやかた)を、093持(も)つて喜(よろこ)ぶひまもなう、094追(お)ひ出(だ)されては、095此(この)新公(しんこう)、096どこに如何(どう)して暮(くら)さうやら、097案(あん)じすごしてヒヤヒヤと、098轟(とどろ)く胸(むね)を押(おさ)へつ……け……悔(くや)み歎(なげ)きし其(その)顔付(かほつき)……』
099徳公『オイオイ障子(しやうじ)が開(あ)いたぞ。100親分(おやぶん)が今(いま)お目玉(めだま)だ。101逃(に)げろ逃(に)げろ』
102久公『(浄瑠璃(じやうるり))ヤレ其(その)障子(しやうじ)開(あ)けまいぞ、103此(この)蚊帳(かや)の内(うち)は黒姫婆(くろひめばば)が城廓(じやうくわく)、104其(その)腐(くさ)つた魂(たましひ)で、105此(この)城(しろ)一重(ひとへ)破(やぶ)らるるなら、106サヽヽ破(やぶ)つて見(み)……よ……と百筋(ももすぢ)千筋(ちすぢ)の理(り)をこめて、107引(ひ)つかついだる蚊帳(かや)の内(うち)、108泣(な)くねより外(ほか)応答(いらへ)なし……と云(い)ふ様(やう)な愁歎場(しうたんば)だ』
109 障子(しやうじ)をあけた男(をとこ)の影(かげ)、
110男(虎公)『オイ久公(きうこう)、111何(なに)を云(い)つてゐるか』
112 三(さん)人(にん)は一度(いちど)に両手(りやうて)で頭(あたま)を抱(かか)へ、
113三人『ヘーー』
114と云(い)つた限(き)り踞(しやが)んで了(しま)つた。
115男(虎公)『ハハー、116人間(にんげん)かと思(おも)へば、117四(よ)つ足(あし)だつたな』
118新公『イエイエ違(ちが)ひます違(ちが)ひます。119新酒(しんざけ)と久酒(きうざけ)と徳利(とくり)に入(い)れて持(も)つて来(き)やした、120三公(さんこう)……オツトドツコイ三(さん)人(にん)で御座(ござ)います。121トラまアよい味(あぢ)の酒(さけ)で御座(ござ)いますから、122味(あぢ)はおウメさんで、123中々(なかなか)素敵(すてき)な物(もの)でげす。124夜夜中(よるよなか)にこんな所(ところ)迄(まで)来(き)て、125孫公(まごこう)々々(まごこう)して居(ゐ)るものだから、126月(つき)も星(ほし)もないこれ程(ほど)曇(くも)つた黒姫(くろひめ)の晩(ばん)に、127ヲロチい目(め)に会(あ)うて困(こま)つて居(ゐ)る三公(さんこう)でげす。128親方(おやかた)如何(どう)でげせう、129第三次(だいさんじ)会(くわい)をお開(ひら)きなさつたら……モウ夜(よ)の明(あ)けるに間(ま)もあるめえから、130綺麗(きれい)なナイスをお愛手(あいて)として一杯(いつぱい)やるも乙(おつ)でげせう。131アーア、132とうとう酒(さけ)に一夜酔(いちやよひ)をして了(しま)つて、133舌(した)も碌(ろく)にまはりやしねえわ』
134虎公(とらこう)『オイ三(さん)人(にん)の奴(やつ)、135最前(さいぜん)から聞(き)いて居(を)れば、136貴様(きさま)等(ら)は怪(け)しからぬ事(こと)を囀(さへづ)つて居(を)つたではねえか』
137徳公『ヘエ、138虎公(とらこう)の親分(おやぶん)さま済(す)みませぬ。139新公(しんこう)が自慢顔(じまんがほ)をして、140親方(おやかた)さまの素性(すじやう)を明(あ)かしよつたものだから、141耳(みみ)が痛(いた)くて仕方(しかた)がねえのを辛抱(しんばう)して聞(き)いて居(を)つたのですよ。142さうして宅(たく)の親分(おやぶん)をボロ糞(くそ)にこきおろしよるものだから、143ムカつくのムカつかぬのつて、144最前(さいぜん)から三四度(さんしど)も八百屋(やほや)店(みせ)を出(だ)しましたのだ。145アーア、146こんな所(ところ)に居(を)つちや剣呑(けんのん)だ。147親方(おやかた)、148今日(けふ)はそんな事(こと)を言(い)つて、149私(わたし)を冷(ひや)つかし、150冷酒(ひやざけ)で苦(くる)しめるよりも、151燗酒(かんざけ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)して下(くだ)さいませ。152オイ皆(みな)の奴(やつ)、153あつちへ行(ゆ)かうかい』
154と云(い)ひ乍(なが)ら、155三(さん)人(にん)は暗(やみ)に紛(まぎ)れて、156田圃(たんぼ)の中(なか)へ酔醒(よひさ)ましに行(い)つて了(しま)つた。
157 あとには例(れい)の虎公(とらこう)、158黒姫(くろひめ)、159孫公(まごこう)、160兼公(かねこう)、161お愛(あい)、162お梅(うめ)に、163主人側(しゆじんがは)の三公(さんこう)七(しち)人(にん)が机(つくゑ)を中(なか)において、164ヒソヒソ話(ばなし)を続(つづ)けて居(ゐ)る。165宵(よひ)から尊(たふと)き神(かみ)様(さま)の御(ご)経綸談(けいりんだん)に魂(たま)をぬかれ、166夜(よ)の更(ふ)けるも知(し)らず、167又(また)余(あま)りの愉快(ゆくわい)さに睡気(ねむけ)もささず、168小声(こごゑ)にいろいろの経歴話(けいれきばなし)を交(ま)ぜて、169入信(にふしん)の経路(けいろ)などを物語(ものがた)つてゐる。170黒姫(くろひめ)が、
171黒姫『今(いま)窓外(まどそと)にて三(さん)人(にん)の話(はなし)を聞(き)けば、172お愛(あい)さまや虎公(とらこう)さま、173お梅(うめ)さまの身(み)の上(うへ)話(ばなし)、174実際(じつさい)あの通(とほ)りで御座(ござ)いますか』
175虎公『若(わけ)え奴(やつ)が酒(さけ)に酔(よ)つて云(い)ふのですから、176当(あて)になつたものぢや御座(ござ)いませぬ』
177黒姫『酒(さけ)の酔(よひ)本性(ほんしやう)違(たが)はず……と云(い)ひますから、178満更(まんざら)、179影(かげ)も形(かたち)もない事(こと)では御座(ござ)いますまい。180酒(さけ)に酔(よ)うた時(とき)は比較(ひかく)的(てき)正直(しやうぢき)なものですからなア虎公(とらこう)さま』
181虎公『合(あ)うたとこもあれば、182合(あ)はない所(ところ)もあり、183兎(と)も角(かく)聞(き)きはづれを云(い)つてるのですから、184困(こま)つたものですワイ』
185黒姫『お梅(うめ)さまはお松(まつ)さまの妹(いもうと)だとか云(い)つてゐましたなア。186そのお松(まつ)さまは今(いま)どこに居(を)られますか。187お差支(さしつかへ)なくば仰有(おつしや)つて下(くだ)さいませ』
188お梅『ハイ私(わたくし)には姉(あね)が御座(ござ)いました。189中(なか)の姉(ねえ)さまのお竹(たけ)さまはコーカス山(ざん)へ行(い)つたきり行方(ゆくへ)不明(ふめい)となり、190上(うへ)の姉(ねえ)さまのお松(まつ)さまはフサの国(くに)から海(うみ)を渡(わた)つてどこか遠(とほ)い国(くに)へ行(ゆ)かれたとか言(い)ふ話(はなし)で御座(ござ)います。191何分(なにぶん)私(わたくし)の小(ちひ)さい時(とき)に別(わか)れたのですから詳(くは)しい事(こと)は存(ぞん)じませぬ』
192黒姫『あなたの御(ご)両親(りやうしん)は何(なん)と云(い)ひますかな』
193お梅『私(わたし)の父母(ちちはは)は人(ひと)の噂(うはさ)に承(うけたま)はりますれば、194バラモン教(けう)の鬼雲彦(おにくもひこ)とやら云(い)ふ大将(たいしやう)に連(つ)れ帰(かへ)られ、195生命(いのち)を取(と)られたとか云(い)ふことを承(うけたま)はりました。196私(わたくし)は或(ある)悪者(わるもの)の為(ため)に拐(かど)はかされ、197筑紫(つくし)ケ岳(だけ)の頂上(ちやうじやう)へ来(きた)る折(をり)しも、198兄(にい)さまがお出(い)でになり、199悪者(わるもの)を追(お)ひ散(ち)らし、200私(わたし)を助(たす)けて連(つ)れ帰(かへ)り、201今(いま)迄(まで)世話(せわ)して下(くだ)さいました。202兄(にい)さまの計(はか)らひで、203親子(おやこ)兄弟(きやうだい)のない子(こ)だと言(い)つたら世間(せけん)の人(ひと)が軽蔑(けいべつ)するから、204お前(まへ)は俺(おれ)の国許(くにもと)から訪(たづ)ねて来(き)た妹(いもうと)だと言(い)つてをるがよい、205俺(おれ)もお前(まへ)を真(まこと)の妹(いもうと)だと思(おも)うて可愛(かあい)がつてやると仰有(おつしや)つて下(くだ)さいました』
206と涙(なみだ)を流(なが)し泣(な)き入(い)る。207虎公(とらこう)もお愛(あい)も黒姫(くろひめ)も手(て)を組(く)み首(かうべ)を垂(た)れ、208太(ふと)き息(いき)をついて居(ゐ)る。
209三公『お梅(うめ)さまの事(こと)は三公(さんこう)今(いま)始(はじ)めて承(うけたま)はりました。210ヤア虎公(とらこう)さま、211あなたは本当(ほんたう)に親切(しんせつ)な方(かた)ですなア。212ヤもう感心(かんしん)致(いた)しました』
213とこれも亦(また)涙(なみだ)含(ぐ)む。
214孫公『ヤア是(これ)で孫公(まごこう)も三(さん)人(にん)の秘密(ひみつ)が全部(ぜんぶ)分(わか)りました。215就(つ)いては三公(さんこう)の親分(おやぶん)、216お前(まへ)さまは何(なん)と云(い)ふ人(ひと)の子(こ)だい、217序(ついで)に言(い)つて下(くだ)さつたら如何(どう)です。218モウ斯(か)うなれば親身(しんみ)の兄弟(きやうだい)も同様(どうやう)だから、219何(なん)の分(わ)け隔(へだ)ても要(い)りますまい』
220三公『私(わたし)の父(ちち)はエヂプトの町(まち)に住(す)んで居(を)りまして、221春公(はるこう)と申(まを)し、222母(はは)はお常(つね)といひました。223或時(あるとき)、224三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)となつたのを幸(さいは)ひ、225初陣(うひぢん)の功名(こうみやう)をして神(かみ)様(さま)に御(お)目(め)にかけたいとか云(い)つて、226私(わたし)を家(いへ)に残(のこ)し、227白瀬川(しらせがは)の水上(みなかみ)、228スツポンの湖(みづうみ)に棲(す)む大蛇(をろち)を言向和(ことむけやは)すとか云(い)つて、229夫婦(ふうふ)が参(まゐ)りました。230さうした所(ところ)が、231私(わたし)の両親(りやうしん)はまだ神力(しんりき)が足(た)らなかつたと見(み)えまして、232湖(みづうみ)の大蛇(をろち)に苦(く)もなく呑(の)まれて了(しま)つたので御座(ござ)います。233私(わたし)はただ一人(ひとり)下男(げなん)と留守(るす)をして居(を)りましたが、234此(この)事(こと)を風(かぜ)の便(たよ)りに聞(き)き、235矢(や)も楯(たて)もたまらず、236三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)で埃及(エヂプト)の酋長(しうちやう)なる夏山彦(なつやまひこ)様(さま)の御(お)館(やかた)へ、237父(ちち)が入魂(じつこん)にして頂(いただ)いて居(を)つたのを幸(さひは)ひ馳(は)せ参(さん)じ、238神勅(しんちよく)を伺(うかが)つて貰(もら)つた所(ところ)「お前(まへ)の両親(りやうしん)は今(いま)迄(まで)余(あま)り沢山(たくさん)に財産(ざいさん)を拵(こしら)へ、239難儀(なんぎ)な者(もの)を助(たす)ける助(たす)けると云(い)つた計(ばか)りで、240米(こめ)一掴(ひとつか)み与(あた)へた事(こと)もなし、241大勢(おほぜい)の者(もの)の執着心(しふちやくしん)が重(かさ)なつて大蛇(をろち)となり、242お前(まへ)の両親(りやうしん)を亡(ほろ)ぼして了(しま)つたのだから、243モウ駄目(だめ)だ。244せめては両親(りやうしん)の冥福(めいふく)を祈(いの)り、245再(ふたた)び此(この)世(よ)へ立派(りつぱ)な人間(にんげん)として生(うま)れて来(く)るやうに祈(いの)つてやれ」……と仰有(おつしや)いました。246併(しか)し乍(なが)ら両親(りやうしん)はどこかへ生(うま)れ変(かは)るにした所(ところ)で、247私(わたし)としては最早(もはや)親(おや)を取(と)られたのだから、248安閑(あんかん)としては居(を)られない、249スツポンの湖(みづうみ)の大蛇(をろち)を片(かた)つ端(ぱし)から切(き)り屠(ほふ)り、250親(おや)の仇(かたき)を討(う)つてやらむと、251夏山彦(なつやまひこ)御(ご)夫婦(ふうふ)が親切(しんせつ)におとめ下(くだ)さるのも聞(き)かず、252夜(よる)に紛(まぎ)れて吾(わが)家(や)を飛出(とびだ)し、253湖(みづうみ)の畔(ほとり)に来(き)て見(み)れば、254際限(さいげん)もなき広(ひろ)い湖(みづうみ)、255此奴(こいつ)ア到底(たうてい)一人(ひとり)や二人(ふたり)の力(ちから)では可(い)かないと断念(だんねん)し、256それから遥々(はるばる)と熊襲(くまそ)の国(くに)の屋方村(やかたむら)、257樫(かし)の森(もり)の木(こ)かげに庵(いほり)を結(むす)び、258侠客(けふかく)となつて数多(あまた)の乾児(こぶん)を養(やしな)ひ、259サア是(これ)で大丈夫(だいぢやうぶ)と云(い)ふやうになつた所(ところ)で、260一挙(いつきよ)にして大蛇(をろち)を殲滅(せんめつ)せむと、261心(こころ)の底(そこ)より悪(あく)ではないが、262悪(あく)を装(よそほ)うて悪人原(あくにんばら)をかりあつめ、263大蛇(をろち)退治(たいぢ)の用意(ようい)をして居(を)つたのです。264三五教(あななひけう)の様(やう)な無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)の教(をしへ)を奉(ほう)ずる信者(しんじや)が幾(いく)らあつても、265到底(たうてい)大蛇(をろち)征伐(せいばつ)の様(やう)な殺生(せつしやう)な事(こと)は致(いた)しますまいから、266類(るゐ)を以(もつ)て集(あつ)まるとか云(い)つて、267悪(わる)い者(もの)の所(ところ)へは悪(わる)い者(もの)が集(あつ)まります。268其(その)悪(わる)い奴(やつ)を沢山(たくさん)集(あつ)めて悪(わる)い大蛇(をろち)を平(たひら)げるのは所謂(いはゆる)毒(どく)を以(もつ)て毒(どく)を制(せい)すると云(い)ふ筆法(ひつぱふ)ですから、269今日(けふ)迄(まで)其(その)覚悟(かくご)を持(も)つてゐたので御座(ござ)います。270さうしてお愛様(あいさま)に対(たい)し失礼(しつれい)な事(こと)を致(いた)しましたのも、271実(じつ)の所(ところ)は恋慕(れんぼ)に事寄(ことよ)せ、272お愛(あい)様(さま)を私(わたし)の手許(てもと)に引寄(ひきよ)せ、273建日向別(たけひむかわけの)命(みこと)様(さま)の霊系(れいけい)であるから、274まさかの時(とき)の用意(ようい)にと思(おも)つて、275いろいろ雑多(ざつた)と拙劣(へた)な計劃(けいくわく)をめぐらしてゐたので御座(ござ)います。276実(じつ)に幼稚(えうち)な考(かんが)へで、277只今(ただいま)となつては恥(はづか)しう御座(ござ)います』
278と物語(ものがた)りつつ、279涙(なみだ)を雨(あめ)の如(ごと)くに流(なが)し乍(なが)ら、280悄然(せうぜん)として俯(うつ)むく。
281虎公『ヤアそれで虎公(とらこう)もスツカリと様子(やうす)が分(わか)つた。282いよいよ四(よ)人(にん)の種明(たねあ)かしも無事(ぶじ)に終了(しうれう)してお目出度(めでた)い、283其(その)話(はなし)を聞(き)く以上(いじやう)は、284ジツとしちやゐられない。285サア是(これ)から三公(さんこう)さま、286吾々(われわれ)と共(とも)にスツポンの湖(みづうみ)に向(むか)つて言霊戦(ことたません)を開(ひら)きに参(まゐ)りませう。287併(しか)し乍(なが)ら、288三五(あななひ)の教(をしへ)は喜(よろこ)ばれて仇(かたき)を討(う)つといふ教(をしへ)だから、289大蛇(をろち)の命(いのち)を取(と)りに行(い)くのではない、290大蛇(をろち)の霊(みたま)を、291天津(あまつ)祝詞(のりと)の生言霊(いくことたま)に依(よ)つて解脱(げだつ)させ、292天国(てんごく)に救(すく)ひ上(あ)げ、293今後(こんご)は決(けつ)して国民(こくみん)に災(わざはひ)をなさないやうにするのだ。294一旦(いつたん)殺(ころ)された御(ご)両親(りやうしん)は気(き)の毒(どく)だが、295是(これ)も自分(じぶん)から作(つく)つた罪(つみ)が酬(むく)うて大蛇(をろち)に呑(の)まれたのだから、296吾々(われわれ)人間(にんげん)として如何(いかん)ともする事(こと)は出来(でき)ない。297又(また)三公(さんこう)さまだとて、298大蛇(をろち)を親(おや)の仇(かたき)だと恨(うら)む訳(わけ)には参(まゐ)りますまい。299要(えう)するに春公(はるこう)、300お常(つね)御(ご)両人(りやうにん)の自(みづか)ら造(つく)つた悪魔(あくま)が、301自(みづか)らを攻(せ)めたのだから、302言(い)はば自業(じごう)自得(じとく)、303何事(なにごと)も神(かみ)様(さま)の御(ご)裁断(さいだん)に任(まか)すより仕方(しかた)がない。304サア皆(みな)さま、305言霊戦(ことたません)に参(まゐ)らうぢやありませぬか』
306三公『ソリヤ結構(けつこう)ですなア。307此(この)三公(さんこう)の野郎(やらう)も時(とき)を移(うつ)さず乾児(こぶん)を引(ひき)つれて参(まゐ)る事(こと)に致(いた)しませう』
308虎公『イエイエ乾児(こぶん)なんか伴(つ)れて行(ゆ)く必要(ひつえう)はありませぬよ。309吾々(われわれ)には八百万(やほよろづ)の神(かみ)さまが守護(しゆご)して下(くだ)さるから、310人数(にんず)は余(あま)り要(い)りませぬ、311三(さん)人(にん)居(を)れば大丈夫(だいぢやうぶ)です』
312黒姫『左様(さやう)なれば虎公(とらこう)さま、313お愛(あい)さま、314三公(さんこう)さま、315あなたに御(ご)苦労(くらう)になりませう。316黒姫(くろひめ)はこれから孫公(まごこう)を伴(つ)れて火(ひ)の国都(くにみやこ)へ参(まゐ)りませう』
317三公『あゝそれは御(ご)苦労(くらう)で御座(ござ)います。318左様(さやう)なれば機嫌(きげん)よく御(お)越(こ)しなさいませ。319誰(たれ)か乾児(こぶん)を一二(いちに)人(にん)、320御(ご)案内(あんない)に立(た)てませうか』
321黒姫『ハイ有難(ありがた)う御座(ござ)います。322どなたでも宜(よろ)しいから、323道(みち)の勝手(かつて)を御存(ごぞん)じの方(かた)を、324お一人(ひとり)お貸(か)し下(くだ)さらば有難(ありがた)う御座(ござ)います』
325三公『そんなら、326徳(とく)をお供(とも)に立(た)たせますから、327宜(よろ)しう願(ねが)ひます。328元来(ぐわんらい)が気(き)の利(き)かない男(をとこ)ですから、329却(かへつ)て足手纏(あしてまと)ひになるかも知(し)れませぬが……』
330黒姫『ハイ御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う御座(ござ)います。331そんなら徳(とく)さまに御(ご)苦労(くらう)になりませう』
332虎公『黒姫(くろひめ)さま、333女房(にようばう)の命(いのち)を助(たす)けて下(くだ)さつたお前(まへ)さまを、334一人(ひとり)やる訳(わけ)にも行(ゆ)きませぬから、335久公(きうこう)を一人(ひとり)御(ご)案内(あんない)に立(た)てませう。336さうすれば三(さん)人(にん)の道伴(みちづ)れ、337大丈夫(だいぢやうぶ)ですから』
338黒姫『ハイ有難(ありがた)う御座(ござ)います。339どこへ行(い)つても神(かみ)様(さま)と道伴(みちづ)れ、340一人(ひとり)で結構(けつこう)で御座(ござ)いますが、341向(むか)ふへ参(まゐ)つた所(ところ)で、342掛合(かけあひ)が一人(ひとり)では都合(つがふ)が悪(わる)う御座(ござ)いますから、343そんならお二人(ふたり)にお世話(せわ)になりませう。344其(その)代(かは)りに孫公(まごこう)をあなた方(がた)のお伴(とも)をさせませう……コレ孫公(まごこう)さま、345お二人(ふたり)の親分(おやぶん)によく仕(つか)へ、346大蛇(をろち)を言向和(ことむけやは)せた上(うへ)、347火(ひ)の国都(くにみやこ)へ訪(たづ)ねて来(き)て下(くだ)さい』
348孫公『ハイ願(ねが)うてもなき事(こと)、349有難(ありがた)う御座(ござ)います。350そんなら行(い)つて参(まゐ)ります。351随分(ずゐぶん)御(ご)無事(ぶじ)でお出(い)で下(くだ)さいます様(やう)御(お)祈(いの)り致(いた)します』
352 茲(ここ)にお梅(うめ)は虎公(とらこう)の命(めい)に依(よ)つて、353新(しん)、354八(はち)の二人(ふたり)と共(とも)に武野村(たけのむら)の不在宅(るすたく)へ帰(かへ)る事(こと)となりぬ。355虎公(とらこう)、356お愛(あい)、357三公(さんこう)、358孫公(まごこう)の四(よ)人(にん)は、359いよいよ時(とき)を移(うつ)さず屋方(やかた)の村(むら)を立出(たちい)で、360スツポンの湖(みづうみ)の大蛇(をろち)を言向和(ことむけやは)すべく、361意気(いき)揚々(やうやう)として旅装束(たびしやうぞく)を整(ととの)へ進(すす)み行(ゆ)く。
362 兼公(かねこう)、363与三公(よさこう)、364高公(たかこう)の三(さん)人(にん)は数多(あまた)の乾児(こぶん)と共(とも)にあとに留(とど)まりて不在役(るすやく)を勤(つと)めさせらる。
365(大正一一・九・一六 旧七・二五 松村真澄録)
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