霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二四章 歓喜(くわんき)(なみだ)〔九八八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻 篇:第3篇 火の国都 よみ(新仮名遣い):ひのくにみやこ
章:第24章 歓喜の涙 よみ(新仮名遣い):かんきのなみだ 通し章番号:988
口述日:1922(大正11)年09月17日(旧07月26日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
黒姫は玄関口にて愛子姫と歌を交わした。黒姫は、高国別を自分の夫の高山彦だと勘違いしており、夫を奪ったと思い込んで愛子姫を非難し、自分の悲哀の思いを歌に託している。
愛子姫は誤解を解こうと真実を歌で聞かせるが、黒姫は容易に信じず、かえって愛子姫にきつい言葉で歌を歌いかけた。
奥の間にずかずか上がってきた黒姫は、愛子姫の居間に玉治別がいるのをみてますます嵩にかかって、夫のいない間に若い男を引っ張り込んだと愛子姫を中傷する。
玉治別は、高山彦はずっと聖地にいたのであり、それを不憫に思ってはるばる黒姫にそのことを伝えようと筑紫の島まで追って来たのだ、と真心から説き諭した。夫が自転倒島にいると聞いて、初めて黒姫は以外の念に打たれて玉治別に真偽を糾した。
玉治別は、火の国館の主人の姿を描いた絵象を指示し、筑紫の島の高山彦は、黒姫の探す夫とは別人であることを説明した。これで黒姫もようやく自らの勘違いを悟り、愛子姫と玉治別に謝罪をなした。
黒姫は自分の勘違いではるばる遠い筑紫の島までやってきて火の国館を騒がせたことを情けなく思い、神前に懺悔を始めた。その中で、自分に生き別れの息子がいることを明かした。
玉治別は黒姫の懺悔をふと聞いて、生き別れの息子の幼名や捨て子の様子を尋ねた。すると年・名前、体の特徴である痣の形、守り袋までぴったりと一致していることがわかった。
玉治別と黒姫は、お互いに親子であることがわかり、思わぬ親子対面に二人はうれし涙にかきくれた。
黒姫、玉治別、房公、芳公、孫公の五人は自転倒島へ帰ることとなり、愛子姫、久公、徳公にその場で別れを告げて聖地に向けて船出した。その後、黒姫が自転倒島の由良港に着き、秋山別の館に立ち寄り、麻邇の宝珠の御用をすることになるいきさつは、第三十三巻に述べられているとおりである。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-10-03 12:22:23 OBC :rm3524
愛善世界社版:283頁 八幡書店版:第6輯 572頁 修補版: 校定版:299頁 普及版:110頁 初版: ページ備考:
001 愛子姫(あいこひめ)黒姫(くろひめ)訪問(はうもん)()き、002(やや)(あやぶ)(なが)ら、003玄関口(げんくわんぐち)津軽(つがるの)(みこと)(とも)()(むか)へる。004玉治別(たまはるわけ)(あと)(ただ)一人(ひとり)(うで)()み、005(なに)思案(しあん)にくれてゐる。006黒姫(くろひめ)玄関口(げんくわんぐち)()ち、
007黒姫高山彦(たかやまひこ)(つま)(みこと)(あと)()うて
008黒姫司(くろひめつかさ)ここにきたれり。
009高山彦(たかやまひこ)(つま)(みこと)如何(いか)にして
010われを出迎(でむか)(あそ)ばさざるや』
011愛子姫(あいこひめ)『あらたふと黒姫司(くろひめつかさ)はるばると
012()でます(こと)(こころ)(うれ)しき。
013いざ(はや)(やかた)(おく)(のぼ)りませ
014(なれ)()ますとてわれは()ちける。
015玉治別(たまはるわけ)(かみ)(みこと)()でまして
016(なれ)入来(じゆらい)()たせ(たま)へり』
017黒姫『いざさらばお(かま)ひなくば(おく)()
018(すす)みて(つま)言問(ことと)(まを)さむ。
019高山彦(たかやまひこ)(つま)(みこと)(つれ)なさよ
020(われ)()すててかかる(くに)まで。
021年老(としお)いし()(かへり)みず若草(わかぐさ)
022(つま)()たすとは(なん)(こころ)ぞ。
023うらめしき(なれ)(みこと)姿(すがた)かな
024(わが)()(きみ)のいろと(おも)へば』
025愛子姫黒姫(くろひめ)(かみ)(つかさ)(きこ)しめせ
026(わが)()(きみ)高国別(たかくにわけ)(かみ)
027高山彦(たかやまひこ)(かみ)(みこと)名乗(なの)らせど
028活津彦根(いくつひこね)(かみ)にましける。
029()(かく)(おく)()りませ三五(あななひ)
030(かみ)(つかさ)黒姫(くろひめ)(きみ)
031黒姫『さやうならこれより(おく)駆込(かけこ)みて
032否応(いやおう)いはさず調(しら)()むかな。
033(いつは)りの(おほ)(この)()()らずして
034さまよひ(きた)りし(こころ)(かな)しも』
035愛子姫(うたが)ひの(くも)(あきら)かに()らせませ
036(わが)()(きみ)絵像(ゑざう)()まして』
037黒姫『さてもさても合点(がてん)のゆかぬ(なれ)(ことば)
038荒井(あらゐ)(だけ)(きつね)にあらぬか』
039津軽(つがるの)(みこと)『これはしたり(くち)(わる)いも(ほど)がある
040黒姫(くろひめ)さまよ(なに)証拠(しようこ)に』
041黒姫(くろひめ)自転倒(おのころ)(じま)(あと)にして
042姿(すがた)(かく)した高山彦(たかやまひこ)
043(かみ)(みこと)(わが)(つま)
044筑紫(つくし)(しま)(わた)るとて
045聖地(せいち)()すてて()でしより
046(わたし)(あと)(した)ひつつ
047(とほ)海路(うなぢ)(うち)わたり
048(けは)しき(やま)をふみ()えて
049(あめ)にさらされ荒風(あらかぜ)
050(かみ)(くしけづ)りトボトボと
051三人(みたり)(とも)(したが)へて
052此処迄(ここまで)(すす)(きた)りけり
053あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
054(まこと)(かみ)のましまさば
055愛子(あいこ)(ひめ)がすげもなく
056わが()(みこと)(おく)(ふか)
057(つつ)みかくして(しら)ばくれ
058たばかる(しこ)枉業(まがわざ)
059あらはせ(たま)惟神(かむながら)
060(すめ)大神(おほかみ)(おん)(まへ)
061三五教(あななひけう)神司(かむづかさ)
062黒姫(くろひめ)(つつし)()ぎまつる』
063愛子姫(あいこひめ)天地(てんち)(かみ)()照覧(せうらん)
064いかに(こころ)(けが)れたる
065愛子(あいこ)(ひめ)(いたづら)
066(ひと)(をとこ)をそそのかし
067宿(やど)(つま)とぞなすべきか
068黒姫(くろひめ)さまの()(きみ)
069高山彦(たかやまひこ)()くからは
070同名(どうめい)異人(いじん)のわが(つま)
071(まこと)(つま)(おも)ひつめ
072(まよ)(たま)ひしものならむ
073黒姫司(くろひめつかさ)きこしめせ
074(わらは)(かみ)大道(おほみち)
075(まも)()なれば如何(いか)にして
076(いつは)(ごと)(もち)ふべき
077(はや)くも(おく)(すす)みませ
078(なれ)(みこと)(うたが)ひも
079(あさひ)(つゆ)()()せむ
080あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
081御霊(みたま)(さち)はひましませよ』
082(うた)(をは)り、083悄然(せうぜん)として(なみだ)()む。084愛子姫(あいこひめ)黒姫(くろひめ)のキツイ(ことば)に、085きつく侮辱(ぶじよく)された(やう)(かん)じがして、086女心(をんなごころ)(かな)しくなり(きた)れるなりき。
087黒姫(くろひめ)高山彦(たかやまひこ)さまが(かつら)(たき)とやらへ修業(しうげふ)()かれたから、088不在(ふざい)だと()はれたさうだが、089そんな(あだ)とい(こと)で、090(この)黒姫(くろひめ)はあとへ()(やう)(をんな)ぢや御座(ござ)いませぬ。091(をんな)一心(いつしん)(いは)でもつきぬく、092何処(どこ)までも調(しら)()げねば承知(しようち)(いた)しませぬぞや。093大方(おほかた)(おく)にかくれて御座(ござ)るのだらう。094稲荷(いなり)(なに)かの託宣(たくせん)で、095(この)黒姫(くろひめ)此処(ここ)()るといふ(こと)前知(ぜんち)し、096大方(おほかた)(みな)(もの)(はら)をあはし、097門番(もんばん)(まで)()(ふく)(かく)して御座(ござ)るのだらう。098(なん)()つても(かく)すより(あら)はるるはなしといつて、099(しま)ひには尻尾(しつぽ)()えますぞや。100ヘエ御免(ごめん)なさいませ、101コレコレ番頭(ばんとう)どの、102(おく)案内(あんない)して(くだ)さい。103(をつと)所在(ありか)(わか)るまではビクとも(うご)かぬ(この)黒姫(くろひめ)104マア(しばら)()厄介(やくかい)になりませうかい、105オツホヽヽヽ』
106 愛子姫(あいこひめ)(さき)()(おく)()(みちび)く。107此処(ここ)には玉治別(たまはるわけ)(うで)()んで、108何事(なにごと)思案(しあん)にくれゐたり。
109黒姫『コレコレお(あい)さま、110(まへ)余程(よほど)のすれつからしと()えて、111千軍(せんぐん)万馬(ばんば)(がふ)()(この)老人(としより)をうまくチヨロまかしますなア……ヤアそこには一人(ひとり)(なん)だか見覚(みおぼ)えのあるやうな(をとこ)(すわ)つて()る。112コリヤまア(なん)(こと)ぢやいなア。113大方(おほかた)こんな(こと)だと(おも)うて()つた。114矢張(やつぱり)高山彦(たかやまひこ)さまは(かつら)(たき)()かれたのだらう。115(その)不在(るす)()にこんな(をとこ)()()んで、116イヤもうお(はなし)になりませぬワイ、117オツホヽヽヽ』
118愛子姫『モシモシ黒姫(くろひめ)さま、119(をつと)ある(わたし)(たい)して殺生(せつしやう)(こと)()つて(くだ)さるな。120外聞(ぐわいぶん)(わる)御座(ござ)います』
121黒姫外分(ぐわいぶん)初版では「外聞」だが三版以降では「外分」になっている。二版は未確認。(わる)(こと)(たれ)がしたのですか。122高山彦(たかやまひこ)(をつと)(かは)り、123間男(まをとこ)成敗(せいばい)(わたし)がする。124サアお(あい)どの、125()(どく)(なが)ら、126トツトと()(くだ)さい。127アーア高山(たかやま)さまが不在(るす)になるとサツパリワヤだ。128一辺(いつぺん)悪魔(あくま)(だい)清潔法(せいけつはふ)()らないと、129(かみ)さまだつて(この)(やかた)へは(しづ)まつて(くだ)さらないわ……コレお(あい)130(なに)をグヅグヅして()いてるのだ。131()かねばならぬやうな(こと)をなぜなさつたのかい、132オツホヽヽヽ、133さてもさても()(どく)なものだなア。134(わたし)同情(どうじやう)(なみだ)がこぼれませぬわいナ。135ウツフヽヽヽ、136あのマア(かな)しさうなないぢやくりわいのう』
137 玉治別(たまはるわけ)はフツと(かほ)をあげ、
138玉治別『ヤアあなたは黒姫(くろひめ)さま、139最前(さいぜん)から()つて()りました。140サア此方(こちら)()()(くだ)さいませ』
141黒姫(なん)だ、142(まへ)(たま)ぢやないかい、143(かど)にも(たま)()れば(なか)にも(たま)()る。144(まへ)がお(あい)情夫(いろをとこ)だなア。145(なん)抜目(ぬけめ)のない人間(にんげん)だこと。146高山(たかやま)さまの(しり)()うてこんな(ところ)(まで)やつて()て、147チヨコチヨコとお(あい)可愛(かあい)がつて(もら)つてゐるのだろ、148オホヽヽヽ。149(わか)(とき)(たれ)もある(なら)ひだ。150本当(ほんたう)敏腕家(びんわんか)だ。151ドシドシと体主(たいしゆ)霊従(れいじう)主義(しゆぎ)発揮(はつき)しなさるがよからう。152(わか)(とき)二度(にど)ないからなア。153(しか)(なが)らよう(かんが)へて御覧(ごらん)154(まへ)三十(さんじふ)(さか)()えてるぢやないか。155十九(つづ)二十(はたち)()ではなし、156チツとは心得(こころえ)たがよからうぞえ。157(しか)しお(まへ)恋愛(れんあい)(わたし)(かれ)これ()ふのぢやない。158サア(はや)(いま)(うち)にお(あい)()れて駆落(かけおち)をして(くだ)さい。159高山(たかやま)さまがお(かへ)りになると、160大騒動(おほさうどう)だから、161チヤツと(はや)()なさい。162(まへ)可哀相(かはいさう)だから、163親切(しんせつ)()ふのだよ』
164玉治別『アーア、165(なさけ)ない(こと)になつて()た。166黒姫(くろひめ)さま、167(わたし)はたつた(いま)(さき)168このお(やかた)(まゐ)つたのですよ。169(じつ)高山彦(たかやまひこ)さまが、170筑紫(つくし)(しま)(わた)ると捨台詞(すてぜりふ)使(つか)つて、171あなたにお(わか)れになりました。172(わたし)もさうだと(おも)つて()つた(ところ)173豈計(あにはか)らむや、174高山彦(たかやまひこ)さまは伊勢屋(いせや)奥座敷(おくざしき)にかくれて(しばら)御座(ござ)つたさうですが、175黒姫(くろひめ)さまがいよいよ自転倒(おのころ)(じま)()たれた時分(じぶん)から、176ヌツと(かほ)()し、177毎日(まいにち)日日(ひにち)(にしき)(みや)()出勤(しゆつきん)になつて()られますよ。178そこで言依別(ことよりわけの)(みこと)(さま)聖地(せいち)()たれる(とき)……黒姫(くろひめ)さまが可哀相(かはいさう)だから、179(まへ)()苦労(くらう)だが宣伝(せんでん)(かたがた)筑紫(つくし)(しま)()つて、180黒姫(くろひめ)さまをお(むか)(まを)して()い、181さうして夫婦(ふうふ)和合(わがふ)して()神業(しんげふ)にお(つか)へなさるやう取計(とりはか)らへ……との()命令(めいれい)で、182はるばる貴女(あなた)(あと)(した)うて此処(ここ)まで(まゐ)つたの御座(ござ)います。183愛子姫(あいこひめ)(さま)云々(うんぬん)などと()ふやうな(こと)(ゆめ)にも御座(ござ)いませぬから、184どうぞ諒解(りやうかい)して(くだ)さいませ』
185真心(まごころ)(おもて)(あら)はれ、186慨歎(がいたん)やる(かた)なき(その)顔色(かほいろ)()()つた黒姫(くろひめ)(やや)(こころ)やはらぎ、
187黒姫(なに)188高山彦(たかやまひこ)さまが聖地(せいち)御座(ござ)るとは、189そりや本当(ほんたう)かい?』
190玉治別(なに)(うそ)(まを)しませう。191万里(ばんり)波濤(はたう)(わた)つて、192こんな(ところ)まで(うそ)()ひに()(もの)御座(ござ)いませうか。193黒姫(くろひめ)さま、194よく御覧(ごらん)なさいませ。195(この)絵像(ゑざう)当家(たうけ)()主人(しゆじん)生姿(いきすがた)御座(ござ)いますから、196()()見並(みなら)べなさいませ。197本年(ほんねん)三十五(さんじふご)(さい)屈強盛(くつきやうざか)りの活津(いくつ)彦根(ひこねの)(かみ)(さま)高国別(たかくにわけ)()名乗(なの)(あそ)ばし、198表向(おもてむき)高山彦(たかやまひこ)()ばれて御座(ござ)るのですから、199あなたの()主人(しゆじん)とは(まつた)同名(どうめい)異人(いじん)ですよ』
200 黒姫(くろひめ)(その)絵像(ゑざう)をジツクリと(なが)め、
201黒姫『いかにも(ちが)つてゐる。202……ヤア愛子姫(あいこひめ)(さま)203えらい()無礼(ぶれい)(こと)申上(まをしあ)げました。204どうぞはしたない(をんな)思召(おぼしめ)さず、205神直日(かむなほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)して(くだ)さいませ』
206愛子姫『ハイ有難(ありがた)う、207()諒解(りやうかい)さへゆきましたら、208こんな(うれ)しい(こと)御座(ござ)いませぬ。209どうぞ御緩(ごゆる)りと()(とま)(あそ)ばして、210(かみ)(さま)()(はなし)()かして(くだ)さいませ』
211玉治別愛子姫(あいこひめ)(さま)212黒姫(くろひめ)(さま)(べつ)(わる)(こころ)仰有(おつしや)つたのぢや御座(ござ)いませぬ。213(あま)一心(いつしん)当家(たうけ)()主人(しゆじん)自分(じぶん)(をつと)(おも)ひつめ、214はるばるお()でになつたものですから、215逆上(ぎやくじやう)(あそ)ばすのも無理(むり)御座(ござ)いませぬから、216どうぞ(わる)(おも)はないやうにして(くだ)さいませ』
217愛子姫『ハイ有難(ありがた)御座(ござ)います』
218()つた()り、219(うたがひ)のはれた(うれ)しさに愛子姫(あいこひめ)(すす)()きの(こゑ)さへ(きこ)ゆる。
220黒姫『アヽ(わたし)(ぐらゐ)因果(いんぐわ)(もの)()にあらうか。221遥々(はるばる)(をつと)(あと)(した)うて()()れば、222人違(ひとちが)ひ、223()てた(わが)()ではあるまいかと、224はるばる建日(たけひ)(やかた)()つて()れば、225(これ)(また)人違(ひとちが)ひ、226どうしてこれ(ほど)する(こと)なす(こと)()(ちが)ふのだらうか。227(これ)もヤツパリ前生(ぜんしやう)(つみ)228否々(いやいや)(かみ)(さま)から(たま)はつた(せがれ)を、229若気(わかげ)(いきほひ)()てた天罰(てんばつ)(むく)うて()たのだらう……アヽ(かみ)さま、230どうぞ(ゆる)して(くだ)さいませ。231さうして(をつと)所在(ありか)(わか)りました以上(いじやう)(あつ)かましく御座(ござ)いますが、232どうぞ(せがれ)所在(ありか)()らして(くだ)さいませ。233一度(いちど)(せがれ)()はなくては()(こと)出来(でき)ませぬ。234あゝ惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
235神前(しんぜん)(むか)()(あは)せ、236(なみだ)(なが)らに祈願(きぐわん)する。237玉治別(たまはるわけ)(くび)(かたむ)(なが)ら、
238玉治別『モシ黒姫(くろひめ)さま、239(いま)(はじ)めて(うけたま)はりましたが、240貴女(あなた)にはお()さまがあつたのですか。241そして(その)()はいつお()てになりましたか。242(じつ)(わたし)捨子(すてご)御座(ござ)いますが、243(いま)だに両親(りやうしん)(わか)りませぬので、244日夜(にちや)(かみ)さまに(いの)り、245一目(ひとめ)なりとも両親(りやうしん)()ひたいと、246(いま)(いま)とて(うれ)ひに(しづ)んで()つた(ところ)御座(ござ)います』
247黒姫(なに)248玉治別(たまはるわけ)さま、249(まへ)捨子(すてご)ですか、250そりや初耳(はつみみ)だ。251丁度(ちやうど)(わたし)()(いま)()きて()つたならば三十五(さんじふご)(さい)になつてる(はず)だ。252(まへ)(とし)(いく)つだつたかなア』
253玉治別『ハイ、254当年(たうねん)三十五(さんじふご)(さい)になりました』
255黒姫(なに)三十五(さんじふご)(さい)! そりや(また)不思議(ふしぎ)(こと)もあるものだ。256(しか)(わたし)()てた()には、257背中(せなか)正中(まんなか)富士(ふじ)(やま)(かたち)が、258(しろ)(あざ)()()つた(はず)だ。259これは(まつた)木花(このはな)咲耶姫(さくやひめ)さまの因縁(いんねん)のある子供(こども)だからといつて富士咲(ふじさく)といふ()をつけておいたのだが、260(あま)世間(せけん)(やか)ましいので、261(まも)(ぶくろ)富士咲(ふじさく)()()きしるし四辻(よつつじ)にすてました。262(おも)へば(おも)へば可哀相(かはいさう)なことをしました』
263()(しづ)む。
264玉治別(なん)仰有(おつしや)います。265(その)捨子(すてご)富士咲(ふじさく)(まを)しましたか、266そして背中(せなか)富士(ふじ)(やま)(かたち)(しろ)(あざ)があるとは合点(がてん)のゆかぬ()言葉(ことば)267一寸(ちよつと)失礼(しつれい)ですが、268黒姫(くろひめ)さま、269(わたくし)背中(せなか)()(くだ)さいませぬか。270(わたくし)(ちひ)さい(とき)富士咲(ふじさく)(まを)しました。271そして(ひと)(はなし)によると、272(なん)だか(やま)のやうな(あざ)出来(でき)()るさうです』
273黒姫『それは(また)(みみ)よりの(はなし)だ。274一寸(ちよつと)()せて御覧(ごらん)!』
275 「ハイ」と(こた)へて玉治別(たまはるわけ)(はだ)をぬぎ(せな)をつき()す、276黒姫(くろひめ)念入(ねんい)りにすかして()て、
277黒姫『ヤアてつきり富士(ふじ)(やま)(あざ)278そしてお(まへ)幼名(えうめい)富士咲(ふじさく)()(うへ)は、279(まつた)(わたし)(せがれ)だつたか。280アヽ()らなんだ()らなんだ、281(かみ)さま、282有難(ありがた)御座(ござ)います。283因縁者(いんねんもの)寄合(よりあひ)(めづ)らしい(こと)出来(でき)るぞよと大神(おほかみ)さまが仰有(おつしや)つたが、284いかにも因縁者(いんねんもの)寄合(よりあひ)だなア』
285(うれ)(なみだ)にかきくれる。
286玉治別『そんなら貴女(あなた)(わたくし)母上(ははうへ)御座(ござ)いましたか。287(ぞん)ぜぬ(こと)とて、288何時(いつ)とても()無礼(ぶれい)(いた)しました。289どうぞお(かあ)さま()(ゆる)(くだ)さいませ。290あゝ惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
291両手(りやうて)(あは)せ、292(うれ)(なみだ)にかきくれる。
293 これより黒姫(くろひめ)愛子姫(あいこひめ)(あつ)(れい)()べ、294無礼(ぶれい)(しや)()徳公(とくこう)295久公(きうこう)にも(その)(らう)(しや)(わか)れを()げ、296いそいそとして玉治別(たまはるわけ)297孫公(まごこう)298房公(ふさこう)299芳公(よしこう)(とも)(ふたた)建日(たけひ)(みなと)より(ふね)()()し、300由良(ゆら)(みなと)秋山彦(あきやまひこ)(やかた)立寄(たちよ)り、301麻邇(まに)宝珠(ほつしゆ)神業(しんげふ)参加(さんか)し、302目出度(めでた)聖地(せいち)(かへ)(こと)となりたるは、303三十三(さんじふさん)(くわん)物語(ものがたり)(あきら)かな(ところ)であります。304惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
305
306 かく()(をは)られた(とき)しも(まさ)午後(ごご)(ろく)()307(おもて)()天空(てんくう)()れば、308ドンヨリと(くも)つた大空(おほぞら)南北(なんぽく)区劃(くくわく)した青雲(あをぐも)(はば)二三間(にさんげん)()ゆるもの、309(ひがし)(やま)()より西(にし)(そら)(とほ)く、310輪廓(りんくわく)(ただ)しく(おび)(ごと)銀河(ぎんが)(ごと)(よこ)たはりつつありました。
311大正一一・九・一七 旧七・二六 松村真澄録)
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