霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 都率天(とそつてん)〔一〇七二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻 篇:第2篇 黄金清照 よみ(新仮名遣い):おうごんせいしょう
章:第7章 都率天 よみ(新仮名遣い):とそつてん 通し章番号:1072
口述日:1922(大正11)年10月22日(旧09月3日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
イールとヨセフは、いつの間にか茫々とした大原野をさまよっていた。向こうの空から五色の雲が広がり、美しい衣装を着た二人の女神が降りてくるのが見えた。女神は一人は若く、一人は年老いていた。
よく見れば、年老いた女神は黄金姫、若い女神は清照姫であった。イールとヨセフは、女神たちを峠で襲おうとしたことを詫びた。
黄金姫は、ここは未来の夢想国で、娑婆において神様のために大活躍をすると救われる浄土だと説明した。これは神様が来るべき世界を見せてくれているのだという。
女神たちは都率天の案内をすることになった。一行は立ったまま、青空の雲の中に昇っていく。眼前には宝玉で飾られた美しい殿堂が現れた。清照姫は、これは都率天の月照彦のお宮であると説明した。
清照姫は、中に入ると一言も発してはならないと二人に気を付けた。お宮の中に入ると、四人の女神が現れて、一行四人をそれぞれ導いた。
奥殿には、紫磨黄金の肌をした神が厳然として控えていた。威厳の中になつかしみを感じる。これが月照彦命であった。月照彦命は四人を差し招いた。黄金姫が先導し、一行は殿堂の後ろにある階段を降っていく。
イールとヨセフは、いつの間にか雑草が生い茂る沼に落ち込んでいた。美しき殿堂も、女神たちの姿も見えなくなっていた。沼の岸ではタール、レーブ、ハムが現れて何か口論をしているのが見えた。
ハムは、沼の中のイールとヨセフを助けようとしたが、取り憑いている鬼が邪魔をして助けられない。どこからか宣伝歌が聞こえてくると、ハムに憑いていた鬼は消えてしまった。そしてイールとヨセフもいつの間にか沼から抜け出て、ほとりに立っていた。
二人はハムの後を追っていくと、一本の松の木に大蛇が待ち伏せているのが見えた。二人が松の木の根元を見ると、バラモン教の大黒主が首だけ出して埋められている。大黒主は、天地の神の罰を受けているのだと説明し、二人に早く三五教に改心した方がよい、と勧めた。
また宣伝歌が聞こえてきた。大黒主の体は地面から抜け出て浮き上がると、大蛇に飲まれてしまった。大蛇は雲を起こしてどこかへ去って行った。
二人が気が付くと、谷底の河原に半身が埋まっており、三五教の照国別宣伝使一行に介抱されているところであった。
イールとヨセフは、黄金姫と清照姫を襲って逆に谷底に投げ込まれた一件を物語り、宣伝使たちに付いていくことになったが、なんとなく威光に打たれて恐ろしくなり、隙を見て逃げ出してしまった。
照国別は道端の古い祠で一夜を明かすことにした。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-17 12:00:34 文字数:5533 OBC :rm3907
愛善世界社版:91頁 八幡書店版:第7輯 313頁 修補版: 校定版:95頁 普及版:38頁 初版: ページ備考:
001 紫色(むらさきいろ)の丈(たけ)の短(みじか)い芝草(しばくさ)一面(いちめん)に大地(だいち)に生(は)え茂(しげ)り、002岩(いは)もなければ高(たか)い木(き)もない茫々(ばうばう)たる大原野(だいげんや)に、003赤(あか)白(しろ)黄(き)などの小(ちひ)さき花(はな)が星(ほし)のやうに咲(さ)き満(み)ちてゐる。004空(そら)は紺碧(こんぺき)の雲(くも)漂(ただよ)ひ、005太陽(たいやう)の影(かげ)も、006太陰(たいいん)の姿(すがた)も見(み)えねども、007何(なん)とはなしに爽快(さうくわい)な気分(きぶん)の漂(ただよ)ふ、008露(つゆ)の玉(たま)光(ひか)る野原(のはら)をヒヨロリヒヨロリと通(とほ)つてゐる二人(ふたり)の男(をとこ)、009四辺(あたり)の光景(くわうけい)の現界(げんかい)とはどこともなく違(ちが)つてゐるに不審(ふしん)を起(おこ)し、010茫然(ばうぜん)として足(あし)を止(とど)め、
011イール『オイ、012ヨセフ、013何時(いつ)の間(ま)にこんな所(ところ)へ吾々(われわれ)両人(りやうにん)はやつて来(き)たのだらうか、014河鹿(かじか)峠(たうげ)の細谷路(ほそたにみち)で母娘(おやこ)二人(ふたり)の女(をんな)巡礼(じゆんれい)に出会(であ)ひ、015谷底(たにそこ)へ取(と)つて放(はう)られたと思(おも)つたが、016あとは夢現(ゆめうつつ)、017如何(どう)してこんな所(ところ)へ如何(どう)いふ手続(てつづ)きをしてやつて来(き)たのか合点(がつてん)がいかぬ。018貴様(きさま)何(なに)か記憶(きおく)に残(のこ)つてはゐはせぬかな』
019ヨセフ『俺(おれ)の記憶(きおく)に残(のこ)つてゐるのは外(ほか)でもない、020夢(ゆめ)ばかりだ。021河鹿(かじか)峠(たうげ)で母娘(おやこ)の巡礼(じゆんれい)に会(あ)うたと思(おも)つたのは、022あれこそ本当(ほんたう)の夢(ゆめ)だ、023ここが本当(ほんたう)の現実(げんじつ)世界(せかい)だ、024現界(げんかい)は夢(ゆめ)の浮世(うきよ)といふのだから、025現界(げんかい)にあつた事(こと)は皆(みな)夢(ゆめ)だよ。026愈(いよいよ)吾々(われわれ)の魂(みたま)の故郷(こきやう)現実(げんじつ)世界(せかい)へ帰(かへ)つて来(き)た、027こんな結構(けつこう)な所(ところ)へ出(で)て来(き)て極楽(ごくらく)の余(あま)り風(かぜ)をソヨソヨとうけ乍(なが)ら、028誰(たれ)に憚(はばか)る所(ところ)もなく気儘(きまま)に旅行(りよかう)してるのは愉快(ゆくわい)ぢやないか。029現界(げんかい)のやうに此処(ここ)は誰(たれ)の領分(りやうぶん)だ、030何某(なにがし)の土地(とち)だとせせつこましい区劃(くくわく)をうけてるよりも、031何(なん)の制縛(せいばく)もないこんな花園(はなぞの)に逍遥(せうえう)するのは、032到底(たうてい)現界人(げんかいじん)の夢(ゆめ)にだも知(し)らざる所(ところ)だ。033アヽ有難(ありがた)い、034仮令(たとへ)夢(ゆめ)にしても此(この)夢(ゆめ)は千(せん)年(ねん)も万(まん)年(ねん)も去(さ)らせ度(た)くないワ』
035イール『オイあれを見(み)よ、036向(むか)ふの空(そら)を、037何(なん)だか妙(めう)な雲(くも)が出(で)たぢやないか。038一(いつ)分間(ぷんかん)先(さき)にはホンの毬(まり)のやうな斑点(はんてん)が西北(せいほく)の空(そら)にパツと現(あら)はれたと思(おも)ふ間(ま)もなく、039追々(おひおひ)あの通(とほ)り膨脹(ばうちやう)し、040五色(ごしき)の雲(くも)が鮮(あざや)かになつて来(き)て、041俺(おれ)達(たち)の顔(かほ)までに五色(ごしき)の光彩(くわうさい)が輝(かがや)き初(はじ)めたぢやないか』
042 五色(ごしき)の雲(くも)は見(み)る間(ま)に満天(まんてん)に拡(ひろ)がり、043美(うる)はしき衣裳(いしやう)を着(つ)けたる二人(ふたり)の女神(めがみ)、044一人(ひとり)は年老(としお)い一人(ひとり)は若(わか)く、045五色(ごしき)の盛裳(せいしやう)をこらして、046雲(くも)に乗(の)つて此方(こちら)に向(むか)つて降(くだ)り来(きた)る様子(やうす)であつた。047二人(ふたり)の立(た)つてゐる紫野(むらさきの)の原野(げんや)はいつとはなしに天(てん)へ浮上(うきあが)つた如(ごと)く感(かん)ぜられ、048雲(くも)が下(さが)つたか地(ち)が上(あが)つたか、049区画(くくわく)のつかないやうな塩梅(あんばい)で、050いつのまにか二人(ふたり)の女神(めがみ)は二人(ふたり)の前(まへ)に立現(たちあら)はれた。051よくよく見(み)れば河鹿(かじか)峠(たうげ)で谷底(たにそこ)へ投(な)げすてて行(い)つた、052二人(ふたり)の母娘(おやこ)である。053イール、054ヨセフは不意(ふい)の対面(たいめん)に打驚(うちおどろ)き、055頭(かしら)を下(さ)げ、
056イール『これはこれは黄金姫(わうごんひめ)さま誠(まこと)に御(ご)無礼(ぶれい)を致(いた)しました。057どうぞお許(ゆる)し下(くだ)さいませ』
058ヨセフ『あなたは清照姫(きよてるひめ)さま、059こんな尊(たふと)き神(かみ)さまとは知(し)らずに御(ご)無礼(ぶれい)を致(いた)しました。060どうぞ許(ゆる)して下(くだ)さいませ』
061黄金姫(わうごんひめ)『其(その)断(ことわ)りを言(い)はれては困(こま)ります。062私(わたくし)こそ女(をんな)のくせに、063あられもない荒男(あらをとこ)を谷川(たにがは)へ放(ほ)り込(こ)んだり、064イヤもう御(ご)無礼(ぶれい)ばかり致(いた)しました』
065清照姫(きよてるひめ)『私(わたくし)も若(わか)い女(をんな)の身(み)を以(もつ)て、066荒男(あらをとこ)を放(ほ)り込(こ)むなどと乱暴(らんばう)なことを致(いた)しましたが、067どうぞ許(ゆる)して下(くだ)さい』
068イール『ハイ有難(ありがた)う御座(ござ)います。069併(しか)し乍(なが)らここは何(なん)といふ所(ところ)で御座(ござ)いますか、070一向(いつかう)合点(がつてん)が参(まゐ)りませぬが』
071黄金姫(わうごんひめ)『ここは未来(みらい)の夢想国(むさうこく)ですよ。072あなたが此処(ここ)へ来(き)たのは、073娑婆(しやば)に於(おい)て神(かみ)さまの為(ため)に大活動(だいくわつどう)をなし、074神(かみ)の恵(めぐみ)に依(よ)つてかやうな天国(てんごく)浄土(じやうど)へ救(すく)はれたのです。075お互(たがひ)にこんな結構(けつこう)なことはありませぬ、076お喜(よろこ)び申(まを)します』
077イール『吾々(われわれ)両人(りやうにん)は現界(げんかい)に於(おい)て、078ロクなことは一(ひと)つもやらず、079何一(なにひと)つ神(かみ)さまの為(ため)にお役(やく)に立(た)つた事(こと)はありませぬ。080それに斯(か)やうな所(ところ)へ救(すく)はれるとは合点(がつてん)が行(ゆ)きませぬ、081ヨモヤ人違(ひとちがひ)では御座(ござ)いますまいかな』
082黄金姫(わうごんひめ)『まだお前(まへ)さまは、083今日(こんにち)の所(ところ)では、084これといふ手柄(てがら)は一(ひと)つもしてゐない。085どちらかと云(い)へば悪(わる)い事(こと)の方(はう)が多(おほ)いので、086公平(こうへい)な神(かみ)さまのお審(さば)きに会(あ)へば、087こんな所(ところ)へ来(く)る身分(みぶん)ぢやない、088吾々(われわれ)だつて其(その)通(とほ)りです。089併(しか)し乍(なが)ら神(かみ)さまは過去(くわこ)現在(げんざい)未来(みらい)をお見透(みとう)しだから、090お前(まへ)さまがこれから現界(げんかい)にをつて、091善(ぜん)の行(おこな)ひをなし、092現界(げんかい)を去(さ)つてから後(あと)に来(きた)るべき世界(せかい)を一寸(ちよつと)のぞかして貰(もら)うてゐるのですよ』
093ヨセフ『まだこれから善(ぜん)をなす為(ため)に、094斯(か)やうな所(ところ)へよせて頂(いただ)くとは、095合点(がつてん)が往(ゆ)きませぬ。096天晴(あつぱ)れ世(よ)の中(なか)に功(こう)を立(た)てた上(うへ)のことなれば、097いざ知(し)らず、098吾々(われわれ)のやうな汚(けが)れた霊(みたま)が斯(か)やうな所(ところ)へ来(く)るとは、099如何(どう)しても合点(がつてん)がいきませぬ、100コリヤ夢(ゆめ)ではありますまいかな』
101黄金姫(わうごんひめ)『夢(ゆめ)所(どころ)か現実(げんじつ)です。102それでもお前(まへ)さまが、103これから先(さき)へ善(よ)くない事(こと)をしようものなら、104キツとこんな結構(けつこう)な所(ところ)へは来(こ)られない、105これと反対(はんたい)の所(ところ)へ行(ゆ)かねばなりませぬ。106サアこれから私(わたし)が、107都率天(とそつてん)の世界(せかい)を案内(あんない)して上(あ)げよう』
108両人(りやうにん)『ハイ有難(ありがた)う』
109とさしうつむく。110自分(じぶん)の立(た)つてゐた地上(ちじやう)は、111フワリフワリと何処(どこ)ともなく浮上(うきあが)るやうになつて来(き)た。112そして四(よ)人(にん)の一行(いつかう)は立(た)つた儘(まま)、113青雲(あをくも)の空(そら)を目(め)がけて昇(のぼ)り行(ゆ)く。
114 見(み)れば、115忽(たちま)ち眼前(がんぜん)に現(あら)はれた朱欄(しゆらん)碧瓦(へきぐわ)の美(うる)はしき殿堂(でんだう)、116まはりは紅色(べにいろ)の玉垣(たまがき)をめぐらし、117金銀(きんぎん)の砂(すな)が一面(いちめん)に敷(し)きつめられ、118ダイヤモンドの砂(すな)が所々(ところどころ)に交(まじ)つて、119銀河(ぎんが)の如(ごと)く輝(かがや)いてゐる。120二人(ふたり)は夢(ゆめ)かとばかり顔(かほ)見合(みあは)せ、121呆気(あつけ)にとられて居(ゐ)た。
122清照姫(きよてるひめ)『コレ両人(りやうにん)さま、123ここは都率天(とそつてん)の月照彦(つきてるひこ)さまのお宮(みや)で御座(ござ)います。124これからは何(なに)も云(い)ふことは出来(でき)ませぬぞえ、125吾々(われわれ)二人(ふたり)の後(あと)についてお出(い)でなさい。126神(かみ)さまが何(なん)と仰有(おつしや)つても、127お返事(へんじ)をしてはなりませぬ。128神(かみ)さまと人間(にんげん)とは階級(かいきふ)が違(ちが)ひますから、129神(かみ)さまの思召(おぼしめし)を聞(き)くばかりで一口(ひとくち)も御(ご)返事(へんじ)することはなりませぬ。130物(もの)が言(い)ひたくば此(この)門(もん)をくぐる迄(まで)に言(い)うておきなさい。131此(この)門(もん)をくぐるや否(いな)や、132仮令(たとへ)如何(いか)なる者(もの)に会(あ)うても只(ただ)俯(うつ)むいてお辞儀(じぎ)さへして居(を)れば良(よ)いのだから』
133イール『ハイ畏(かしこ)まりました。134何(なん)と思(おも)うても本当(ほんたう)にはしられませぬワ。135本当(ほんたう)に私(わたし)は斯様(かやう)な所(ところ)へ、136未来(みらい)とやらに救(すく)はれるでせうか』
137黄金姫(わうごんひめ)『只(ただ)神(かみ)さまの仰(あふ)せを承(うけたま)はり、138其(その)通(とほ)り遵奉(じゆんぽう)して居(を)りさへすれば、139未来(みらい)は斯様(かやう)な結構(けつこう)な所(ところ)へお参(まゐ)りが出来(でき)ます。140何事(なにごと)も言(い)つちやなりませぬぞえ』
141イール『ハイこれ限(かぎ)り申(まを)しませぬ。142オイ、143ヨセフお前(まへ)も今(いま)の内(うち)にお尋(たづ)ねしておくがいいぞ。144此(この)門内(もんない)へ這入(はい)れば最早(もはや)言論(げんろん)機関(きくわん)を使用(しよう)することは出来(でき)ないから』
145 ヨセフは畏(かしこ)まり、146静(しづか)に首(くび)を傾(かたむ)けたきり、147一言(ひとこと)も発(はつ)しない。148黄金姫(わうごんひめ)、149清照姫(きよてるひめ)は無言(むごん)の儘(まま)、150門番(もんばん)に目礼(もくれい)し、151静(しづか)に奥(おく)へ奥(おく)へと進(すす)み入(い)る。
152 嚠喨(りうりやう)たる音楽(おんがく)の響(ひび)き何処(いづこ)ともなく聞(きこ)え来(きた)り、153芳香(はうこう)四辺(しへん)に薫(くん)じ、154門内(もんない)の内庭(うちには)には白蓮華(しろれんげ)の花(はな)咲(さ)きほこり、155牡丹(ぼたん)白梅(しらうめ)薔薇(ばら)等(とう)の垣(かき)は其(その)艶(えん)を競(きそ)ひ、156現界(げんかい)で見(み)たこともないやうな美(うつく)しき羽(はね)の小鳥(ことり)は、157爽(さはや)かな声(こゑ)を出(だ)して、158天国(てんごく)の春(はる)を歌(うた)うてゐる。159黄金(わうごん)の玉盃(たまもひ)を手(て)にして黄金色(わうごんしよく)の衣類(いるゐ)を着(つ)けた美(うる)はしき女神(めがみ)、160白装束(しろしやうぞく)に紅(くれなゐ)の袴(はかま)にて、161四(よ)人(にん)しづしづと出(い)で迎(むか)へ玉盃(たまもひ)より紫(むらさき)の色(いろ)したる水(みづ)を指(ゆび)にぬらして、162一人(ひとり)々々(ひとり)、163唇(くちびる)にひたす。164其(その)味(あぢ)と云(い)ひ香(かほ)りと云(い)ひ、165何(なん)とも譬(たと)へやうのなきものである。166四柱(よはしら)の女神(めがみ)は四(よ)人(にん)を導(みちび)いて奥深(おくふか)く進(すす)み入(い)る。
167 奥殿(おくでん)深(ふか)く進(すす)み入(い)り、168正面(しやうめん)を眺(なが)むれば、169金銀(きんぎん)を以(もつ)てちりばめたる須弥壇(しゆみだん)の上(うへ)に、170紫磨(しま)黄金(わうごん)の肌(はだへ)をあらはし、171儼然(げんぜん)として控(ひか)へ玉(たま)ふ一柱(ひとはしら)の神(かみ)があつた。172やさしみのある内(うち)にどこともなく威厳(ゐげん)備(そな)はつて、173面(おもて)を向(む)けるもまばゆいやうな心持(こころもち)がすると共(とも)に、174何(なん)ともいへぬ懐(なつ)かしみがした。175此(この)神(かみ)は月照彦(つきてるひこの)命(みこと)であつた。176四(よ)人(にん)をゆかしげに見(み)やり、177黄金(わうごん)の御手(みて)を伸(の)べて、178膝元(ひざもと)に来(き)たれと招(まね)かれる。179左右(さいう)に控(ひか)へたる沢山(たくさん)の童子(どうじ)は手(て)に種々(いろいろ)の花(はな)を携(たづさ)へ、180無言(むごん)のまましとやかに須弥壇(しゆみだん)の前(まへ)に舞(ま)ひ狂(くる)うてゐる。181馥郁(ふくいく)たる芳香(はうかう)に美妙(びめう)の音楽(おんがく)はたえず鼻耳(びじ)をつき、182燦爛(さんらん)たる殿内(でんない)の光(ひかり)は目(め)を新(あたら)しく照(てら)すのみである。
183 黄金姫(わうごんひめ)は後振返(あとふりかへ)り、184三(さん)人(にん)を手招(てまね)きする。185三(さん)人(にん)は無言(むごん)のまま黄金姫(わうごんひめ)の後(あと)に従(したが)ひ行(ゆ)けば紫(むらさき)の色(いろ)漂(ただよ)ふ丸(まる)い穴(あな)が、186殿堂(でんだう)の裏(うら)より、187斜(ななめ)に低(ひく)く穿(うが)たれ、188紫(むらさき)の階段(かいだん)がついてゐる。189黄金姫(わうごんひめ)はつかつかと階段(かいだん)を降(くだ)り行(ゆ)く。190三(さん)人(にん)も其(その)後(あと)に従(したが)つて際限(さいげん)もなく下(くだ)り行(ゆ)けば、191そこに雑草(ざつさう)の茂(しげ)る葦(あし)の生(は)えた沼(ぬま)が横(よこ)たはつて居(ゐ)る。
192 二人(ふたり)は何時(いつ)の間(ま)にか此(この)沼(ぬま)の中(なか)におち込(こ)んでゐた。193余(あま)り深(ふか)からね共(ども)、194直立(ちよくりつ)して口(くち)のあたり迄(まで)水(みづ)がついて来(く)る。195少(すこ)しく風(かぜ)が吹(ふ)いて浪(なみ)高(たか)くなれば、196鼻(はな)をおそひ、197息苦(いきぐる)しくなつて来(く)る。198黄金姫(わうごんひめ)、199清照姫(きよてるひめ)は如何(いか)にと、200四辺(あたり)を見(み)れ共(ども)、201其(その)姿(すがた)だになく、202今迄(いままで)美(うる)はしかりし殿堂(でんだう)は煙(けむり)の如(ごと)く消(き)え失(う)せ、203只(ただ)葦(あし)の生(お)ひ茂(しげ)る沼(ぬま)の上(うへ)を秋風(あきかぜ)が吹(ふ)きわたる其(その)淋(さび)しさ。
204 斯(か)かる所(ところ)へ何処(いづこ)ともなく、205レーブ、206タールの両人(りやうにん)あわただしく走(はし)り来(きた)り、207沼(ぬま)のまはりに立(た)つて、208二人(ふたり)の名(な)を呼(よ)び、
209レーブ、タール『早(はや)く此方(こちら)に来(きた)れ』
210と差招(さしまね)く。211イール、212ヨセフの両人(りやうにん)は身(み)を踠(もが)き、213二人(ふたり)の側(そば)に泳(およ)ぎ行(ゆ)かむとすれ共(ども)、214如何(どう)したものか二人(ふたり)の足(あし)は沼底(ぬまそこ)に漆喰(しつくひ)の如(ごと)く吸(す)ひつけられ、215身動(みうご)きもならず、216風(かぜ)に煽(あふ)られて、217時々(ときどき)高(たか)き波(なみ)鼻目(びもく)のあたりをおそひ来(きた)り、218苦(くるし)さ限(かぎ)りなし。219二人(ふたり)は声(こゑ)もえ上(あ)げず、220苦(くるし)み悶(もだ)えて居(ゐ)ると、221何処(どこ)ともなく、222ハムはレーブ、223タールの前(まへ)に現(あら)はれて、224三(さん)人(にん)はここに何事(なにごと)か口論(こうろん)を始(はじ)め出(だ)した。225イール、226ヨセフの両人(りやうにん)は沼(ぬま)の中(なか)にて懶(ものう)げに三(さん)人(にん)の争(あらそ)ひを眺(なが)めてゐる。227ハムの後(うしろ)には口(くち)耳(みみ)まで裂(さ)けた赤裸(まつぱだか)の赤鬼(あかおに)がついてゐた。228暫(しばら)くすると、229レーブ、230タールの両人(りやうにん)は沼(ぬま)の堤(つつみ)を一目散(いちもくさん)に東南(とうなん)さして走(はし)りゆく。231ハムは二人(ふたり)の沼(ぬま)の中(なか)に苦(くるし)んでゐるのを見(み)て、232助(たす)けやらむと、233赤裸(まつぱだか)となり沼(ぬま)の中(なか)に飛(と)びこまむとすれ共(ども)、234後(うしろ)に立(た)つた赤鬼(あかおに)が、235グーツと首筋(くびすぢ)を掴(つか)んで離(はな)さないので、236ハムは一生(いつしやう)懸命(けんめい)に身(み)をもがいてゐる。237イール、238ヨセフの両人(りやうにん)は、239息(いき)もたえだえになつて、240早(はや)く助(たす)けてくれよ………と叫(さけ)ばむとすれ共(ども)、241如何(いか)にしけむ、242一言(ひとこと)も声(こゑ)が出(で)なかつた。243何処(どこ)ともなしに宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)が中空(ちうくう)に聞(きこ)えて居(ゐ)る。244此(この)声(こゑ)を聞(き)くと共(とも)にハムについてゐた鬼(おに)の姿(すがた)は煙(けむり)と消(き)えた。245ハムはレーブ、246タールの逃(に)げ去(さ)つた後(あと)を追(お)うて、247地響(ぢひびき)させ乍(なが)ら帰(かへ)り行(ゆ)く。
248 二人(ふたり)は此(この)宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)を聞(き)くと共(とも)に身体(しんたい)軽(かる)く浮(う)き上(あが)り、249いつの間(ま)にやら沼(ぬま)の畔(ほとり)についてゐた。250そして濡(ぬ)れた着物(きもの)は何時(いつ)の間(ま)にか乾(かわ)いてゐる。251ハテ不思議(ふしぎ)なことがあるものだなア………と両人(りやうにん)は顔(かほ)を見合(みあは)せつつ、252ハムの走(はし)つた後(あと)を追(お)うて駆出(かけだ)すと、253一本(いつぽん)の大(おほ)きな松(まつ)の木(き)が枝振(えだぶり)よく立(た)つてゐて、254沼(ぬま)の上(うへ)に枝(えだ)を垂(た)れてゐる。255其(その)松(まつ)の木(き)を見上(みあ)ぐれば、256えもいはれぬ恐(おそ)ろしき大蛇(をろち)が三間(さんげん)ばかりの首(くび)を伸(の)ばして樹下(じゆか)を眺(なが)め、257大口(おほぐち)を開(ひら)いて何者(なにもの)か呑(の)まむとしてゐる。258二人(ふたり)は初(はじ)めて口(くち)を開(ひら)き、
259イール『オイ、260ヨセフ、261大変(たいへん)ぢやないか』
262ヨセフ『如何(いか)にもイールの云(い)ふ通(とほ)り、263此(この)松(まつ)の木(き)には妙(めう)な奴(やつ)が居(ゐ)るではないか。264大方(おほかた)最前(さいぜん)の三(さん)人(にん)は此(この)大蛇(をろち)に呑(の)まれて了(しま)うたのだろ。265コリヤ、266グヅグヅしてはゐられまいぞ』
267と言(い)ひ乍(なが)ら、268松(まつ)の根元(ねもと)をよくよく見(み)れば、269土(つち)の中(なか)から首(くび)が生(は)えてゐる。270上(うへ)には大蛇(をろち)下(した)には生首(なまくび)、271ハテ厭(いや)らしやと、272逃(に)げ出(だ)さうとすれ共(ども)、273如何(どう)したものか、274身体(しんたい)強直(きやうちよく)してビクともならぬやうになつてゐる。
275 二人(ふたり)は因果腰(いんぐわごし)を定(き)め、276地中(ちちう)から生(は)えた首(くび)をよく見(み)れば、277豈計(あにはか)らむや、278バラモン教(けう)の大棟梁(だいとうりやう)大黒主(おほくろぬし)である。279二人(ふたり)はビツクリして顔色(かほいろ)をかへ乍(なが)らあわただしく、
280イール『アヽ、281あなたは大黒主(おほくろぬし)の神(かみ)さまぢや御座(ござ)いませぬか。282如何(どう)してマアこんな所(ところ)へ首(くび)ばかり出(だ)してゐられます。283あれ御覧(ごらん)なさいませ、284此(この)松(まつ)の枝(えだ)には大蛇(をろち)が蟠(わだかま)つて、285今(いま)や一口(ひとくち)に呑(の)まむとしてゐるぢや御座(ござ)いませぬか、286サア早(はや)くここを私(わたくし)と一緒(いつしよ)に逃(に)げませう』
287大黒主(おほくろぬし)『ヨウ其方(そなた)はイール、288ヨセフの両人(りやうにん)、289こんな所(ところ)へ来(く)るものではない。290今(いま)の内(うち)に後(あと)へ引返(ひつかへ)したがよからうぞ』
291ヨセフ『引返(ひつかへ)さうと申(まを)して、292何処(どこ)へ行(い)つてよいやら、293訳(わけ)が分(わか)りませぬ。294して又(また)あなたの首(くび)から血(ち)がにじんで居(を)りますが、295コリヤまあ如何(どう)した訳(わけ)ですか』
296大黒主(おほくろぬし)『私(わし)は天地(てんち)の大神(おほかみ)の罰(ばつ)をうけ、297此(この)松(まつ)の木(き)の下(もと)に於(おい)て、298手足(てあし)を縛(しば)られ、299自分(じぶん)の作(つく)つた配下(はいか)の鬼(おに)共(ども)に土中(どちう)に埋(うづ)められ、300此(この)通(とほ)り首(くび)のみ地上(ちじやう)に現(あら)はし、301鷹(たか)や烏(からす)に頭(あたま)をこつかれ、302毒虫(どくむし)に首(くび)を咬(か)まれ、303こんな苦(くる)しい目(め)に会(あ)うてゐるのだ。304お前(まへ)も早(はや)く改心(かいしん)いたして、305誠(まこと)の道(みち)に立返(たちかへ)つたがよからうぞ、306私(わし)の如(ごと)くなつて了(しま)へばモウ駄目(だめ)だ。307まだまだこれから沢山(たくさん)の苦労(くらう)をいたして罪(つみ)を赦(ゆる)して貰(もら)へるか貰(もら)へぬか分(わか)らぬ所(ところ)だ。308早(はや)く三五教(あななひけう)の神文(しんもん)を唱(とな)へて此(この)急場(きふば)をのがれよ』
309イール『コレは又(また)、310異(い)なることを承(うけたま)はります。311あなたはバラモン教(けう)の大教主(だいけうしゆ)であり乍(なが)ら、312何(なに)を以(もつ)て三五教(あななひけう)の神文(しんもん)を唱(とな)へと申(まを)されますか、313少(すこ)しも合点(がつてん)が参(まゐ)りませぬ』
314 大黒主(おほくろぬし)は苦(くる)しげに、
315大黒主『現界(げんかい)に於(おい)ては今(いま)は時(とき)めく勢(いきほひ)なれども、316未来(みらい)の吾(わが)霊魂(れいこん)は此(この)通(とほ)り、317松(まつ)の下(した)に於(おい)て無限(むげん)の責苦(せめく)をうけねばならぬことになつてゐるのだ。318三五教(あななひけう)は神(かみ)より出(い)でたる教(をしへ)、319其(その)他(た)の教(をしへ)は皆(みな)枝神(えだがみ)や人間(にんげん)の作(つく)つた教(をしへ)であるから、320御(ご)神慮(しんりよ)の程(ほど)が分(わ)からない。321否々(いやいや)神慮(しんりよ)に違反(ゐはん)した教(をしへ)を致(いた)して居(を)るから、322バラモン教(けう)の代表者(だいへうしや)たる此(この)方(はう)が斯(か)やうな責苦(せめく)に会(あ)うてゐるのだ。323とはいふものの、324吾(われ)の肉体(にくたい)は副(ふく)守護神(しゆごじん)の勢(いきほ)ひ中々(なかなか)猛烈(まうれつ)にして到底(たうてい)容易(ようい)に改心(かいしん)は致(いた)さない。325改心(かいしん)さへ致(いた)したらこんな苦悩(くなう)は免(まぬが)るるのだが、326大黒主(おほくろぬし)の肉体(にくたい)がどうしても改心(かいしん)してくれぬので、327本尊(ほんぞん)の此(この)方(はう)がこんな責苦(せめく)にあふのだ。328百年後(ひやくねんご)の大黒主(おほくろぬし)の行末(ゆくすゑ)は、329即(すなは)ち今(いま)の有様(ありさま)であるぞ。330サア、331早(はや)くここを立去(たちさ)れ』
332 斯(か)かる所(ところ)へ、333又(また)もや三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)がかすかに聞(きこ)え、334宣伝使(せんでんし)が三(さん)人(にん)の供人(ともびと)と共(とも)に沼(ぬま)の辺(ほとり)に現(あら)はれて来(き)た。335此(この)声(こゑ)を聞(き)くと共(とも)に、336大黒主(おほくろぬし)の体(からだ)は地上(ちじやう)へガワとばかりに浮上(うきあが)つた。337樹上(じゆじやう)の大蛇(をろち)は大黒主(おほくろぬし)を大口(おほぐち)開(あ)けて、338グツと一口(ひとくち)に呑(の)んだまま、339黒雲(くろくも)を呼起(よびおこ)し、340一目散(いちもくさん)に中天(ちうてん)に姿(すがた)をかくして了(しま)つた。
341 二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)の姿(すがた)を見(み)るより、342フツと気(き)が着(つ)きそこらあたりを見(み)れば、343河鹿(かじか)峠(たうげ)の谷底(たにそこ)に陥(おちい)り、344舞埃(まひごみ)の砂(すな)の中(なか)に半身(はんしん)を埋(うづ)めてゐたことが分(わか)つた。345谷(たに)の流(なが)れはゴウゴウと四辺(あたり)に響(ひび)いてゐる。346気(き)をおちつけてよくよく見(み)れば、347照国別(てるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)を始(はじ)め、348梅公(うめこう)、349照公(てるこう)、350国公(くにこう)の三(さん)人(にん)は二人(ふたり)の身体(からだ)を介抱(かいほう)し、351一生(いつしやう)懸命(けんめい)に、352魂呼(たまよ)びの神業(かむわざ)を修(しう)してゐたことに気(き)が着(つ)いた。
353 イール、354ヨセフの両人(りやうにん)は宣伝使(せんでんし)一行(いつかう)に向(むか)ひ黄金姫(わうごんひめ)一行(いつかう)に無礼(ぶれい)を加(くは)へて、355此(この)谷底(たにそこ)に投(な)げ込(こ)まれた一条(いちでう)より、356鬼熊別(おにくまわけ)に雇(やと)はれて、357蜈蚣姫(むかでひめ)、358小糸姫(こいとひめ)の所在(ありか)を尋(たづ)ね求(もと)めつつあることを詳(つまびらか)に物語(ものがた)り、359ここに翻然(ほんぜん)として悟(さと)り、360宣伝使(せんでんし)に従(したが)つて、361谷(たに)を下(くだ)り、362山路(やまぢ)に出(い)で、363トボトボと後(あと)に従(したが)ひ行(ゆ)く。364二人(ふたり)は何(なん)となく、365宣伝使(せんでんし)の威光(ゐくわう)に打(う)たれて、366恐(おそ)ろしくなり、367あたり暗(やみ)に包(つつ)まれし頃(ころ)、368隙(すき)を窺(うかが)うて逃(に)げ失(う)せて了(しま)つた。
369 照国別(てるくにわけ)は道端(みちばた)の古(ふる)き祠(ほこら)の前(まへ)に、370三(さん)人(にん)の供人(ともびと)と共(とも)に一夜(いちや)を明(あ)かすこととした。
371(大正一一・一〇・二二 旧九・三 松村真澄録)
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