霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 八(はち)の字(じ)〔一〇七五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻 篇:第3篇 宿世の山道 よみ(新仮名遣い):すぐせのやまみち
章:第10章 八の字 よみ(新仮名遣い):はちのじ 通し章番号:1075
口述日:1922(大正11)年10月27日(旧09月8日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
レーブとタールは、ハムに追われて逃げていく。二人はこれまでの経緯を歌いながら、走っていく。
タールは関節をくじいて山道に倒れてしまった。レーブは先にどんどん逃げて行ってしまう。ハムがタールに追いついたが、タールの体につまずいて倒れてしまった。二人はその場に倒れて唸っている。
そこへ宣伝歌の声が聞こえ、近づいてきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-19 11:33:35 文字数:3005 OBC :rm3910
愛善世界社版:129頁 八幡書店版:第7輯 326頁 修補版: 校定版:136頁 普及版:55頁 初版: ページ備考:
001 レーブ、002タールは、003河鹿(かじか)峠(たうげ)の谷底(たにそこ)に投(な)げ込(こ)まれたるイール、004ヨセフの両人(りやうにん)を人工(じんこう)呼吸(こきふ)を以(もつ)て助(たす)けむと丹精(たんせい)を凝(こ)らす折(をり)しも、005人事(じんじ)不省(ふせい)に陥(おちい)りしと思(おも)ひ居(ゐ)たるハムは俄(にはか)に立(た)ち上(あが)り、006怒(いか)りの声(こゑ)を放(はな)ちて二人(ふたり)を懲(こら)さむとせしより、007『こりや堪(た)まらぬ』と行歩(かうほ)艱難(かんなん)の谷間(たにま)を猿(ましら)の如(ごと)く伝(つた)ひて、008漸(やうや)く道傍(みちばた)の古(ふる)き祠(ほこら)の下(した)に身(み)を潜(ひそ)め息(いき)を休(やす)めて居(ゐ)た。009そこへハムがやつて来(き)て脛腰(すねこし)たたぬ様(やう)になり、010喞(かこ)ち嘆(なげ)くを聞(き)いて俄(には)かに元気(げんき)づき、011弱身(よわみ)につけ込(こ)む風(かぜ)の神(かみ)ならねども、012鬼婆(おにばば)鬼娘(おにむすめ)の声色(こわいろ)を使(つか)つて、013ハムを恐喝(きようかつ)しつつ得意(とくい)がつて居(ゐ)る。014折(をり)しもあれやサツト吹(ふ)き来(く)る山颪(やまおろし)に四辺(あたり)を包(つつ)みし濃霧(のうむ)は拭(ぬぐ)ふが如(ごと)く晴(は)れ渡(わた)り、015互(たがひ)に見合(みあは)す顔(かほ)と顔(かほ)、016ハムは益々(ますます)怒(いか)り、017身(み)の苦痛(くつう)を打忘(うちわす)れて立(た)ち上(あが)り、
018ハム『無礼者(ぶれいもの)、019懲(こら)して呉(く)れむ、020思(おも)ひ知(し)れや』
021と韋駄天(ゐだてん)走(ばし)りに追駆(おつか)け来(きた)る凄(すさま)じさ。022二人(ふたり)は心(こころ)も心(こころ)ならず一目散(いちもくさん)に木(こ)の葉(は)散敷(ちりし)く山道(やまみち)を地響(ぢひび)きさせて、023トントントンと下(くだ)り行(ゆ)く。
024 レーブは途々(みちみち)足拍子(あしびやうし)をとり乍(なが)ら唄(うた)ひ始(はじ)めた。
025レーブ『バラモン国(こく)に名(な)も高(たか)き
026ハルナの都(みやこ)に現(あら)はれし
027大黒主(おほくろぬし)に仕(つか)へたる
028鬼熊別(おにくまわけ)の部下(ぶか)となり
029蜈蚣(むかで)の姫(ひめ)や小糸姫(こいとひめ)
030君(きみ)の御言(みこと)を蒙(かうむ)りて
031所在(ありか)を探(たづ)ぬる折柄(をりから)に
032斎苑(いそ)の館(やかた)に程(ほど)近(ちか)き
033河鹿(かじか)峠(たうげ)に来(き)て見(み)れば
034山(やま)の小路(こみち)を伝(つた)ひ来(く)る
035母娘(おやこ)二人(ふたり)の巡礼姿(じゆんれいすがた)
036ハムの司(つかさ)は躍(をど)り立(た)ち
037今(いま)や吾々(われわれ)五人(ごにん)連(づ)れ
038手柄(てがら)現(あら)はす時(とき)来(き)ぬと
039手(て)に唾(つばき)して待(ま)ち居(ゐ)たり
040かくとは知(し)らぬ母娘(おやこ)連(づ)れ
041草鞋(わらぢ)脚絆(きやはん)に身(み)を固(かた)め
042扮装(みなり)も軽(かる)き蓑笠(みのかさ)の
043金剛杖(こんがうづゑ)にて地(ち)を叩(たた)き
044降(くだ)り来(きた)れる面白(おもしろ)さ
045母娘(おやこ)二人(ふたり)の巡礼(じゆんれい)は
046谷間(たにま)の景色(けしき)を打眺(うちなが)め
047千黄(せんくわう)万紅(ばんこう)輝(かがや)きし
048錦(にしき)の山(やま)を打眺(うちなが)め
049感賞(かんしやう)したる隙(すき)を見(み)て
050ハムの目配(めくば)せ諸共(もろとも)に
051木(こ)の葉(は)の茂(しげ)みをかき分(わ)けて
052大手(おほて)を拡(ひろ)げ衝(つ)つ立(た)てば
053母娘(おやこ)の巡礼(じゆんれい)は腹(はら)を立(た)て
054武者(むしや)振(ぶ)りついた荒男(あらをとこ)
055物(もの)をも云(い)はず鷲掴(わしづか)み
056千尋(ちひろ)の谷間(たにま)に投(な)げ棄(す)てぬ
057ヨセフ イールやハム三人(みたり)
058果敢(はか)なき姿(すがた)を見(み)るにつけ
059張(は)りきり居(ゐ)たる勇気(ゆうき)まで
060何時(いつ)の間(ま)にやら消滅(せうめつ)し
061臆病風(おくびやうかぜ)に煽(あふ)られて
062命(いのち)あつての物種(ものだね)と
063後(あと)をも見(み)ずに逃(に)げて行(ゆ)く
064足(あし)を早(はや)めて七八丁(しちはつちやう)
065下手(しもて)の方(かた)に現(あら)はれて
066激潭(げきたん)飛沫(ひまつ)の谷川(たにかは)に
067藤蔓(ふぢづる)伝(つた)ひ下(くだ)り立(た)ち
068又(また)もや川(かは)を遡(さかのぼ)り
069至(いた)りて見(み)れば此(こ)は如何(いか)に
070三人(みたり)は此処(ここ)に舞埃(まひごみ)の
071中(なか)に棄(す)てられ身(み)も魂(たま)も
072半死(はんし)半生(はんしやう)の其(そ)の刹那(せつな)
073救(すく)ひやらむと両人(りやうにん)が
074谷(たに)の清水(しみづ)を手(て)に掬(すく)ひ
075イール ヨセフに呑(の)ませつつ
076人工(じんこう)呼吸(こきふ)の介抱(かいほう)に
077暫(しば)し時(とき)をば移(うつ)しける
078死(し)んだと思(おも)うたハムの奴(やつ)
079悪運(あくうん)強(つよ)く生(いき)かへり
080二人(ふたり)を目蒐(めが)けて追(お)ひ来(きた)る
081こりや堪(たま)らぬと両人(りやうにん)は
082虎口(ここう)を逃(のが)れし心地(ここち)して
083命(いのち)からがら逃(に)げて行(ゆ)く
084「ウントコ ドツコイ アイタツタ」
085タールよ気(き)をつけ石(いし)がある
086此処(ここ)は大蛇(をろち)の棲処(すみか)ぞや
087漸(やうや)う谷川(たにかは)下(くだ)り来(き)て
088道(みち)の傍(かたへ)の古祠(ふるほこら)
089床下(ゆかした)深(ふか)く忍(しの)び込(こ)み
090慄(ふる)ひ居(ゐ)たりし折柄(をりから)に
091又(また)もやハムがやつて来(き)て
092拳固(げんこ)をかためて追(お)ひ来(きた)る
093其(その)勢(いきほ)ひに辟易(へきえき)し
094二度(にど)吃驚(びつくり)の吾々(われわれ)は
095躰(からだ)も宙(ちう)に飛(と)ぶ如(ごと)く
096此(この)坂(さか)降(くだ)る恐(おそ)ろしさ
097あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
098神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
099善(ぜん)と悪(あく)とを立(た)て別(わ)ける
100此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
101心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
102直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
103宣(の)り直(なほ)しつつ両人(りやうにん)が
104身(み)の過(あやま)ちを許(ゆる)せかし
105吾(われ)等(ら)の頭(かしら)と仰(あふ)ぎたる
106ハムに決死(けつし)の勇(ゆう)あるも
107神(かみ)の力(ちから)を現(あら)はして
108言向和(ことむけやは)せ吾々(われわれ)が
109身(み)の災(わざはひ)を払(はら)ひませ
110あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
111御霊(みたま)幸(さちは)ひましませよ』
112と歌(うた)ひ乍(なが)ら細(ほそ)き谷道(たにみち)を下(くだ)り行(ゆ)く。
113 タールは又(また)歌(うた)ひ出(だ)す。
114タール『ガランダ国(こく)から現(あら)はれた
115ガラクタ男(をとこ)のハム公(こう)が
116チヨン猪口才(ちよこざい)な吾々(われわれ)を
117追(お)ひ駆(か)けまはすは何(なん)の事(こと)
118抜山(ばつざん)蓋世(がいせ)の勇(ゆう)あるも
119バラモン教(けう)にて鍛(きた)へたる
120吾(わが)言霊(ことたま)の神力(しんりき)に
121木(こ)の葉(は)の風(かぜ)に散(ち)る如(ごと)く
122吹(ふ)き散(ち)らさむかと思(おも)へども
123やつぱり俺(おれ)は弱(よわ)い奴(やつ)
124『コラ』と一声(ひとこゑ)云(い)つたきり
125頭(あたま)の頂(てん)から足(あし)の尖(さき)
126強(つよ)き電気(でんき)に打(う)たれし如(ごと)く
127ビリビリビリと震(ふる)ひ出(だ)す
128不思議(ふしぎ)な力(ちから)を持(も)つた奴(やつ)
129強(つよ)い奴(やつ)にはドツと逃(に)げ
130弱(よわ)い奴(やつ)には攻(せ)めて行(ゆ)く
131之(これ)が孫呉(そんご)の兵法(へいはふ)だ
132抑(そもそも)軍(いくさ)の掛引(かけひき)は
133三十六(さんじふろく)計(けい)ありと云(い)へ
134命(いのち)を大事(だいじ)に逃(に)げ出(だ)すが
135一番(いちばん)利巧(りかう)なやり方(かた)だ
136何程(なにほど)神(かみ)の道(みち)ぢやとて
137命(いのち)をとられちや堪(たま)らない
138「ウントコ ドツコイ ドツコイシヨ」
139レーブの足(あし)は遅(おそ)いぞよ
140愚図(ぐづ)々々(ぐづ)してると追着(おひつ)いて
141ハムの奴(やつ)めが後(うしろ)から
142俺(おれ)の頭(あたま)をポカポカと
143鬼(おに)の蕨(わらび)をふりあげて
144打(くらは)すが最後(さいご)「ウントコシヨ」
145ウンと一声(ひとこゑ)果敢(はか)なくも
146此(この)世(よ)の別(わか)れ死出(しで)の旅(たび)
147こんなつまらぬ事(こと)はない
148こりやこりやもつと早(はや)う走(はし)れ
149俺(おれ)から先(さき)へ走(はし)らうか
150お前(まへ)の様(やう)な足遅(あしべた)が
151先(さき)へ行(ゆ)くのは物騒(ぶつそう)な
152せめて俺(おれ)だけ一人(ひとり)なと
153命(いのち)を保(たも)たにやなるまいぞ
154「ウントコ、ドツコイ辛気(しんき)やな」
155耄禄爺(まうろくおやぢ)の道連(みちづ)れは
156ほんに心(こころ)が揉(も)めるわい
157それそれ近寄(ちかよ)る足音(あしおと)が
158ドンドンドンと聞(きこ)えてる
159「ウントコ ドツコイ こら違(ちが)うた」
160谷間(たにま)を流(なが)るる水(みづ)の音(おと)
161さはさり乍(なが)ら吾々(われわれ)は
162愚図(ぐづ)々々(ぐづ)しては居(を)られない
163一方(いつぱう)は谷川(たにかは)一方(いつぱう)は
164嶮(けは)しき山(やま)に囲(かこ)まれし
165喉首(のどくび)見(み)た様(やう)な一筋道(ひとすぢみち)
166木(こ)の葉(は)の茂(しげ)みがあるならば
167一寸(ちよつと)潜(ひそ)んで見(み)たいけれど
168生憎(あいにく)此処(ここ)は禿山(はげやま)だ
169此奴(こいつ)ア堪(たま)らぬ どうしようぞ
170地獄(ぢごく)の旅(たび)をする様(やう)な
171怪態(けたい)な心(こころ)になつて来(く)る
172「アイタヽタツタ アイタツタ」
173レーブ一寸(ちよつと)待(ま)て俺(おれ)や倒(こ)けた
174擦(す)り剥(む)けよつた膝頭(ひざがしら)
175タラタラ流(なが)れる赤(あか)い血(ち)が
176こんな処(ところ)へ追(お)ひついて
177頭(あたま)をポカポカやられたら
178おたまりこぼしは無(な)い程(ほど)に
179こらこらレーブ一寸(ちよつと)待(ま)て
180友達(ともだち)甲斐(がひ)のない男(をとこ)
181友(とも)の難儀(なんぎ)をふり棄(す)てて
182後白雲(あとしらくも)と走(はし)り行(ゆ)く
183お前(まへ)の薄情(はくじやう)な其(その)仕打(しうち)
184アーアー痛(いた)い足(あし)疼(うづ)く
185こんな事(こと)だと知(し)つたなら
186早(はや)く逃(に)げたらよかつたに
187二人(ふたり)の奴(やつ)が助(たす)けたさ
188恐(おそ)ろし谷間(たにま)に下(お)り立(た)つて
189虻蜂(あぶはち)とらずの惨(むご)い目(め)に
190遭(あ)うたるタールの苦(くる)しさよ
191あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
192御霊(みたま)幸(さちは)ひましまして
193レーブの足(あし)を留(とど)めるか
194ハムの脛腰(すねこし)抜(ぬ)かすなと
195二(ふた)つに一(ひと)つの御(おん)願(ねが)ひ
196何卒(どうぞ)許(ゆる)して下(くだ)さんせ
197勝手(かつて)の事(こと)とは知(し)り乍(なが)ら
198九死(きうし)一生(いつしやう)の此(この)場合(ばあひ)
199無理(むり)かは知(し)らねど願(ねが)ひます
200アーアー怖(こは)い恐(おそ)ろしい
201こんな処(ところ)に倒(たふ)れたら
202仮令(たとへ)ハム奴(め)が来(こ)なくても
203虎(とら)狼(おほかみ)が現(あら)はれて
204生命(いのち)をとつて喰(く)うだらう
205思(おも)へば悲(かな)しき今(いま)の身(み)の
206詮術(せんすべ)もなき有様(ありさま)よ
207絶望(ぜつばう)の淵(ふち)に沈(しづ)みたる
208タールの心(こころ)を憐(あは)れみて
209バラモン教(けう)の神(かみ)様(さま)よ
210何卒(どうぞ)お助(たす)け下(くだ)さんせ
211命(いのち)からがら願(ねが)ひます
212あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
213御霊(みたま)幸(さちは)ひましませよ』
214と道傍(みちばた)に倒(たふ)れ膝頭(ひざがしら)の関節(くわんせつ)を挫(くじ)き、215泣(な)き声(ごゑ)となつて呻(ぞめ)いてゐる。216其処(そこ)へ息(いき)せききつてやつて来(き)たのはハムであつた。217レーブは如何(いかが)なりしと頭(かしら)を上(あ)げて眺(なが)むれば、218彼(かれ)は遠(とほ)くも逃(に)げ去(さ)つて三(さん)歳(さい)の童子(どうじ)の如(ごと)く其(その)姿(すがた)の小(ちひ)さく見(み)ゆる処(ところ)まで禿山道(はげやまみち)を走(はし)つて居(ゐ)る。219ハムの足音(あしおと)はドンドンと刻々(こくこく)に近寄(ちかよ)り来(きた)る。
220 ハムは一生(いつしやう)懸命(けんめい)坂道(さかみち)を降(くだ)り来(きた)る。221勢(いきほひ)づいた降(くだ)り道(みち)、222俄(にはか)に身(み)の留(とど)めやうもなく細谷道(ほそたにみち)に倒(たふ)れたるタールの躰(からだ)をグサグサと踏越(ふみこ)え、223頭(かしら)に躓(つまづ)き、224勢(いきほひ)あまつて二三間(にさんげん)ばかり坂道(さかみち)の下(した)に、225投(な)げつけられた様(やう)に打(ぶ)つ倒(たふ)れ、226これ又(また)膝頭(ひざがしら)を擦(す)り剥(む)き『アイタヽタツタ』と云(い)ひながら顔(かほ)を顰(しか)め膝頭(ひざがしら)を撫(な)でて居(ゐ)る。227怒(いか)りに乗(じやう)じて忘(わす)れて居(ゐ)た腰(こし)の痛(いた)みが又(また)もや烈(はげ)しくなつて来(き)た。228二人(ふたり)は坂道(さかみち)に八(はち)の字形(じがた)に打倒(うちたふ)れ、229『アイタツタ、230ウンウン』の言霊戦(ことたません)を惟神(かむながら)的(てき)に開始(かいし)してゐる。231岩(いは)も飛(と)べよとばかり俄(にはか)に吹(ふ)き来(く)る暴風(ばうふう)に着物(きもの)の裾(すそ)を捲(まく)られ、232ハム、233タールの両人(りやうにん)は揃(そろ)ひも揃(そろ)うて太(ふと)い黒(くろ)い臀部(でんぶ)を風(かぜ)に丸曝(まるざらし)にしてゐる。234無心(むしん)の風(かぜ)は容赦(ようしや)なく吹(ふ)き荒(すさ)み、235両人(りやうにん)の呻声(うめきごゑ)と相和(あいわ)してウーン ウーンと呻(うな)り立(た)てて居(ゐ)る。236風(かぜ)のまにまに聞(きこ)え来(く)る宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)にタール、237ハムは耳(みみ)をすませ、238『こりや堪(たま)らぬ』と両手(りやうて)を合(あは)せ一生(いつしやう)懸命(けんめい)に祈(いの)つて居(ゐ)る。
239(大正一一・一〇・二七 旧九・八 北村隆光録)
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