霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一八章 関所守(せきしよもり)〔一〇八三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻 篇:第5篇 馬蹄の反影 よみ(新仮名遣い):ばていのはんえい
章:第18章 関所守 よみ(新仮名遣い):せきしょもり 通し章番号:1083
口述日:1922(大正11)年10月29日(旧09月10日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
テームス峠の山頂には、バラモン教の関所が設けられていた。実は、大黒主の命で蜈蚣姫、小糸姫を見つけて捕えようというのがこの関所の目的であった。
五人のバラモン教徒がここを守っていたが、人通りのない関所で暇を持て余し、酒を飲んで酔っ払っている。
一同は、山奥の関所守のような閑職に回されたことを嘆いたり、都であくせくするよりはずっといいと開き直ったり、酔って馬鹿な話にふけっている。
そこへ黄金姫たち一行がやってきた。黄金姫と清照姫は馬にまたがり、レーブたちが馬を引いている。関所守たちは一行を改めるために止めた。
レーブは、馬上にいるのは蜈蚣姫と小糸姫だと関所守たちに伝えた。しかし関所守たちさっさと関を通ってくれと促した。黄金姫たち一行はゆうゆうと関所を通過した。
関所守たちは、黄金姫と小糸姫が本物に違いないと思いながらも、威厳に当てられてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-23 11:37:47 文字数:5128 OBC :rm3918
愛善世界社版:257頁 八幡書店版:第7輯 373頁 修補版: 校定版:270頁 普及版:113頁 初版: ページ備考:
001 テームス峠(たうげ)の山上(さんじやう)にはバラモン教(けう)の関所(せきしよ)が設(まう)けられ四五(しご)人(にん)の人(ひと)が往来(ゆきき)の人(ひと)の信仰(しんかう)調(しら)べをやつて居(ゐ)る。002と云(い)ふのは表面(へうめん)の理由(りいう)で其(その)実(じつ)は大黒主(おほくろぬし)の命(めい)によつて蜈蚣姫(むかでひめ)、003黄竜姫(わうりようひめ)の所在(ありか)を捜索(そうさく)し、004見付(みつ)け次第(しだい)フン縛(じば)つて大黒主(おほくろぬし)の館(やかた)へソツと連(つ)れ帰(かへ)れよとの命令(めいれい)を下(くだ)して日夜(にちや)見張(みは)りをさして居(ゐ)たのである。005此(この)関守(せきもり)は春公(はるこう)、006清公(きよこう)、007道公(みちこう)、008紅葉(もみぢ)、009雪公(ゆきこう)と云(い)ふ五(ご)人(にん)であつた。010五(ご)人(にん)は朝(あさ)から晩(ばん)まで、011日(ひ)によると一人(ひとり)も道通(みちどほ)りがない此(この)関所(せきしよ)で大(おほ)きな口(くち)をあけ、012両手(りやうて)を逆八(さかはち)の字(じ)に天井(てんじやう)へグツと伸(の)ばし『アヽヽ』と欠伸(あくび)の共進会(きやうしんくわい)を仕事(しごと)にして居(ゐ)た。013仕方(しかた)がなしにそこら中(ぢう)の果物(くだもの)をむしつて来(き)て果物(くだもの)の酒(さけ)を造(つく)り朝(あさ)から晩(ばん)まで飲(の)んで飲(の)んで飲(の)み暮(くら)しズブ六(ろく)になつてゐる。014こんな関守(せきもり)が仮令(たとへ)千(せん)人(にん)あつたとて屁(へ)の突張(つつぱ)りにもならぬのは、015もとよりである。016春公(はるこう)はソロソロ酔(よひ)がまはり出(だ)し、
017春公『オイ、018雪公(ゆきこう)、019貴様(きさま)は冷(つめた)い白(しろ)い名(な)だが、020矢張(やつぱ)り酒(さけ)を喰(くら)うと体(からだ)が熱(あつ)くなり顔(かほ)まで赤(あか)くなるのが、021俺(おれ)や不思議(ふしぎ)で堪(たま)らぬワイ。022それだから、023化物(ばけもの)の多(おほ)い世(よ)の中(なか)と云(い)ふのだよ。024ゲーガラガラガラ』
025雪公(ゆきこう)『何(なに)が化物(ばけもの)だい。026世(よ)の中(なか)は凡(すべ)てこんなものだよ。027善悪(ぜんあく)一如(いちによ)、028正邪(せいじや)不二(ふじ)、029表裏(へうり)一体(いつたい)だ。030「一羽(いちは)の鳥(とり)も鶏(にはとり)と言(い)ひ、031葵(あふひ)の花(はな)も赤(あか)に咲(さ)く、032雪(ゆき)と云(い)ふ字(じ)を墨(すみ)で書(か)く」と云(い)ふ歌(うた)を貴様(きさま)は知(し)つてるか。033貴様(きさま)の名(な)は春(はる)ぢやないか、034春公(はるこう)の癖(くせ)に此(この)秋(あき)になつて行(ゆ)くのに鼻(はな)を高(たか)うし鼻唄(はなうた)を唄(うた)ひ、035はなはなしう朝(あさ)から晩(ばん)まで浮(う)かれきつて居(ゐ)るのが一体(いつたい)全体(ぜんたい)訳(わけ)が分(わか)らぬ。036貴様(きさま)こそネツトプライスの正札(しやうふだ)の化物(ばけもの)だ。037否(いな)馬鹿者(ばかもん)だよ。038あんまり他人(ひと)の事(こと)を誹(そし)ると自分(じぶん)の事(こと)におちて来(く)るのを知(し)らぬか。039丁度(ちやうど)空(そら)を向(む)いて天(てん)に唾(つば)を吐(は)いた様(やう)なものだよ。040アーア、041酔(よ)うた酔(よ)うた、042ヨタンボばかりの中(なか)に混入(こんにふ)してゐると俺(おれ)迄(まで)ヨタンボ病(びやう)が伝染(でんせん)して、043嫌(いや)でもない酒(さけ)を飲(の)まされて喉(のど)の虫(むし)がグイグイ喜(よろこ)びよつて、044腹(はら)が立(た)つて仕方(しかた)がないワ。045本当(ほんたう)にこんな関守(せきもり)を大黒主(おほくろぬし)の大将(たいしやう)だつて飼(か)うておくのは大抵(たいてい)ぢやない。046俺(おれ)だつたら斯(こ)んな者(もの)は遠(とほ)の昔(むかし)に免職(めんしよく)するけどな、047流石(さすが)大黒主(おほくろぬし)だけあつて大舞台(おほぶたい)だワイ』
048春公(はるこう)『何(なに)、049大黒主(おほくろぬし)の神(かみ)様(さま)だつて、050こんな現状(げんじやう)を見付(みつ)けたら一遍(いつぺん)に免職(めんしよく)さすのは請合(うけあひ)だ。051何分(なにぶん)遠(とほ)い所(ところ)だから分(わか)らないので俺(おれ)達(たち)も、052かうして毎日(まいにち)睾丸(きんたま)の皺(しわ)のばしを安閑(あんかん)とやつて居(を)られるのだ。053(都々逸(どどいつ))「他処(よそ)で妻(つま)もちや遠山林(とほやまばやし)、054誰(たれ)がかるやら盗(ぬす)むやら」とか何(なん)とか云(い)つて遠距離(ゑんきより)に居所(ゐどころ)を構(かま)へて居(を)りさへすれば、055少々(せうせう)の脱線(だつせん)も矛盾(むじゆん)も無事(ぶじ)通過(つうくわ)するものだ。056それだから俺(おれ)はお膝元(ひざもと)のハルナの大都会(だいとくわい)に居(を)るよりも、057かう云(い)ふ山奥(やまおく)の関守(せきもり)となつて田園(でんえん)生活(せいくわつ)オツト簡易(かんい)生活(せいくわつ)をやつて自然(しぜん)を楽(たの)しむのだ。058人間(にんげん)は自然(しぜん)の風光(ふうくわう)に接(せつ)せなくちや嘘(うそ)だよ。059紅塵(こうぢん)万丈(ばんぢやう)雑閙(ざつたう)を極(きは)めた大都市(だいとし)に煙突(えんとつ)の煙(けむり)を吸入(きふにふ)して虚空(こくう)如来(によらい)の様(やう)に燻(くすぼ)つてブラブラしてゐるよりも何程(なにほど)愉快(ゆくわい)だか知(し)れやしない。060三百(さんびやく)年(ねん)の寿命(じゆみやう)が斯(か)う云(い)ふ所(ところ)に居(を)ると、061嘘(うそ)八百(はつぴやく)年(ねん)も延(の)びるやうだ。062うまいうまいうまいのは此(この)酒(さけ)だ。063「酒屋(さかや)へ三(さん)里(り)豆腐屋(とうふや)へ一(いち)里(り)」と十八(じふはち)世紀(せいき)の人間(にんげん)は吐(ほざ)きよるが、064至治(しぢ)至楽(しらく)の神代(しんだい)生活(せいくわつ)は自(みづか)ら田(た)を耕(たがや)して喰(く)ひ、065自(みづか)ら井(ゐ)を穿(うが)つて飲(の)み、066そこらあたり枝(えだ)もたわわに実(みの)つてゐる果物(くだもの)を手(て)づからむしり、067手(て)づから酒(さけ)を造(つく)つて賞翫(しやうぐわん)する程(ほど)結構(けつこう)なものはない。068仁(じん)ぢやとか義(ぎ)ぢやとか、069礼(れい)ぢやとか、070そんな詐偽(さぎ)的(てき)言辞(げんじ)を並(なら)べて暗黒(あんこく)世界(せかい)に住(す)むよりも山(やま)青(あを)く水(みづ)清(きよ)く、071空(そら)高(たか)き此(この)山頂(さんちやう)に四方(しはう)を見晴(みは)らし、072王者(わうじや)気(き)どりになつて簡易(かんい)生活(せいくわつ)を続(つづ)けて居(ゐ)る位(くらゐ)安楽(あんらく)なものはない。073何(なん)せよ霊主(れいしゆ)体従(たいじう)だとか、074慈悲(じひ)ぢやとか、075情(なさけ)とか、076道徳(だうとく)とか、077下(くだ)らぬ屁理屈(へりくつ)を囀(さへづ)つて居(ゐ)るよりも、078善悪(ぜんあく)を超越(てうゑつ)し、079道理(だうり)を通過(つうくわ)して、080惟神(かむながら)的(てき)風光(ふうくわう)を楽(たの)しみ、081安逸(あんいつ)に一生(いつしやう)を送(おく)る位(ぐらゐ)、082利口(りこう)なものはないワイ。083何(なん)といつても一寸先(いつすんさき)や暗(やみ)ぢや、084此(この)瞬間(しゆんかん)が吾々(われわれ)の自由(じいう)意志(いし)を遂行(すゐかう)する黄金(わうごん)時代(じだい)だ。085(唄)「飲(の)めよ喰(くら)へよ一寸先(いつすんさき)や暗(やみ)よ、086酒(さけ)を飲(の)むなら土瓶(どびん)で沸(わ)かせ」土瓶(どびん)で沸(わ)かした酒(さけ)を飲(の)んで薬鑵頭(やくわんあたま)を沸(たぎ)らすのもいいコントラストだ。087俺(おれ)やもうハルナの都(みやこ)のハムにしてやらうと云(い)つても、088斯(こ)んな自由(じいう)生活(せいくわつ)を覚(おぼ)えた以上(いじやう)は煩雑(はんざつ)な都会(とくわい)へ行(い)つて追従(つゐしやう)タラダラ虚偽(きよぎ)ばかりの生活(せいくわつ)をするよりも俺(おれ)は此(この)関守(せきもり)ばかりは何時(いつ)になつても思(おも)ひきる事(こと)は出来(でき)ないワ。
089「山(やま)に伐(き)る木(き)は沢山(たくさん)あれど
090思(おも)ひきる気(き)はないわいな」
091とけつかるワイ。092アハヽヽヽ』
093紅葉(もみぢ)『オイ春公(はるこう)、094毎日(まいにち)日日(ひにち)職務(しよくむ)を忘(わす)れて酒(さけ)ばかり喰(くら)ひ酔(よ)うて居(を)ると冥加(みやうが)が危(あぶな)いぞ。095バラモン教(けう)の大黒主(おほくろぬし)は神(かみ)様(さま)だと云(い)つても、096人間(にんげん)のサツクを被(かぶ)つてゐるから誤魔化(ごまくわ)しはチトはきくが、097梵天王(ぼんてんわう)大自在天(だいじざいてん)バラモン大神(おほかみ)、098大国彦(おほくにひこの)命(みこと)様(さま)の御(おん)目(め)を晦(くら)ます事(こと)は出来(でき)ぬぞよ。099いい加減(かげん)に心得(こころえ)ぬと、100習(なら)ひ性(せい)となり、101放埒(はうらつ)不羈(ふき)の人間(にんげん)になつて世(よ)の中(なか)の爪弾(つまはじ)きものにしられてしまふが、102それでも構(かま)はぬか。103困(こま)つた奴(やつ)だな』
104春公(はるこう)『放埒(はうらつ)不羈(ふき)の極点(きよくてん)に達(たつ)した春公(はるこう)さまは、105実際(じつさい)の事(こと)云(い)へば世間(せけん)から爪弾(つまはぢ)きされてハルナの都(みやこ)に居(を)る所(ところ)がないので、106大黒主(おほくろぬし)様(さま)が持(も)て余(あま)し、107適材(てきざい)適所(てきしよ)といつて、108あんなヤンチヤはテームス峠(たうげ)の関守(せきもり)にするのが匹適(ひつてき)だと、109あつぱれの御(ご)眼力(がんりき)で御(ご)任命(にんめい)なさつたのは、110貴様(きさま)等(ら)小人輩(せうじんはい)の了解(れうかい)すべき限(かぎ)りではないワ、111紅葉(もみぢ)は紅葉(もみぢ)らしうして地(ち)に這(は)うて沈黙(ちんもく)せぬかい。112今(いま)は何時(いつ)だと思(おも)うてゐる、113秋(あき)の末(すゑ)で紅葉(もみぢ)の葉(は)の風(かぜ)に叩(たた)かれ、114地(ち)に落(お)ちるシーズンだ。115こんな時(とき)に浮(う)き出(だ)さずにジツとして酒(さけ)でも喰(くら)つて、116秋(あき)の時雨(しぐれ)の様(やう)な涙(なみだ)の雨(あめ)でも降(ふ)らしてシーズンで居(を)る方(はう)が余程(よほど)ましだよ』
117紅葉(もみぢ)『貴様(きさま)にそんな忠告(ちうこく)を受(う)けなくとも、118俺(おれ)は故郷(こきやう)の女房(にようばう)の事(こと)を思(おも)ひ出(だ)してシーズンで居(を)るのだ。119(都々逸(どどいつ))「花(はな)と月(つき)とに間違(まちが)ふやうな女房(にようばう)もつ身(み)の気(き)はもみぢ」と云(い)つて貴様(きさま)のやうな唐変木(たうへんぼく)とはチツと選(せん)を異(こと)にして居(を)るのだ。120一(いつ)ぺんも女(をんな)に接(せつ)した事(こと)のない酒喰(さけくら)ひの貴様(きさま)に、121浮世(うきよ)の味(あぢ)が分(わか)るものかい、122浮(う)いては沈(しづ)み沈(しづ)んでは浮(うか)み、123浮沈(うきしづ)み七度(ななたび)の世(よ)の中(なか)だ。124お前(まへ)等(ら)のやうな連中(れんちう)さまは酒(さけ)より外(ほか)に慰安(ゐあん)してくれるものが無(な)いのだからな』
125春公(はるこう)『時(とき)に大黒主(おほくろぬし)の神(かみ)様(さま)に対(たい)し俺(おれ)達(たち)もチツとは義務(ぎむ)と云(い)ふ事(こと)を尽(つく)さねばならぬが、126こんな人通(ひとどほ)りの無(な)い関守(せきもり)をさされては丸(まる)で島流(しまなが)しに遭(あ)うたやうなものだから、127ツイ焼糞(やけくそ)になつて酒(さけ)をあふるやうになるのだが、128鬼熊別(おにくまわけ)の女房(にようぼう)蜈蚣姫(むかでひめ)小糸姫(こいとひめ)の両人(りやうにん)は何時(いつ)になつたら此処(ここ)を、129通(とほ)るだらうかな。130ナア雪公(ゆきこう)、131貴様(きさま)一(ひと)つ天眼通(てんがんつう)で考(かんが)へて見(み)てくれないか』
132雪公(ゆきこう)『俺(おれ)は雪(ゆき)の様(やう)に、133神(かみ)の様(やう)に身魂(みたま)の清(きよ)い執着心(しふちやくしん)のない、134白紙(はくし)主義(しゆぎ)の男(をとこ)だから、135腹(はら)の中(なか)迄(まで)水晶(すゐしやう)だ。136それが違(ちが)ふと思(おも)ふなら人込(ひとご)みの中(なか)ででも、137ステーシヨンででも構(かま)はぬ、138一(ひと)つ貴様(きさま)の短刀(あいくち)で俺(おれ)の血(ち)を調(しら)べて見(み)い………どこを切(き)つても出(で)る血(ち)は紅(あか)い、139俺(おれ)の心(こころ)もその通(とほ)り………だよ』
140春公(はるこう)『コリヤ貴様(きさま)はいつとても身魂(みたま)の自慢(じまん)ばかりしやがつて、141肝腎(かんじん)の天眼通(てんがんつう)は如何(どう)するつもりだい。142早(はや)く天眼通(てんがんつう)で調(しら)べてくれないか。143貴様(きさま)のやうな腰抜(こしぬけ)でも、144ここへ連(つ)れて来(き)たのは望遠鏡(ばうゑんきやう)の代用(だいよう)にするつもりだから、145早(はや)く親子(おやこ)の所在(ありか)を透視(とうし)せぬかい。146貴様(きさま)は都(みやこ)を出(で)る時(とき)に屹度(きつと)、147テームス峠(たうげ)を近(ちか)い内(うち)に蜈蚣姫(むかでひめ)と小糸姫(こいとひめ)が通(とほ)るに違(ちが)ひないと大黒主(おほくろぬし)様(さま)に申上(まをしあ)げよつたものだから、148こんな処(ところ)に関所(せきしよ)を拵(こしら)へて毎日(まいにち)日日(ひにち)待(ま)たされて居(ゐ)るのぢやないか』
149雪公(ゆきこう)『あの時(とき)は天眼通(てんがんつう)の持合(もちあは)せが大分(だいぶ)にあつたが、150ここへ来(き)てから貴様(きさま)等(ら)の悪身魂(あくみたま)が感染(かんせん)して、151サツパリ天眼通(てんがんつう)が利(き)かぬやうになつて了(しま)つたのよ。152俺(おれ)の考(かんが)へでは此(この)広(ひろ)い世(よ)の中(なか)、153峠(たうげ)も沢山(たくさん)あるし、154二人(ふたり)の母娘(おやこ)が此(この)峠(たうげ)を一代(いちだい)の中(うち)に通(とほ)るとも通(とほ)らぬとも、155見当(けんたう)がつかぬ様(やう)になつたワイ』
156春公(はるこう)『貴様(きさま)はさうすると大黒主(おほくろぬし)様(さま)を誑(たばか)つたのだなア。157本当(ほんたう)に太(ふと)い奴(やつ)だ。158早(はや)く本当(ほんたう)の事(こと)を吐(こ)かぬか』
159雪公(ゆきこう)『ヨシ、160こかぬ事(こと)はない、161太(ふと)い奴(やつ)だな』
162と真黒(まつくろ)の尻(けつ)をまくり上(あ)げ春公(はるこう)の前(まへ)に左巻(ひだりまき)を捻(ひね)り出(だ)した。
163春公(はるこう)『エー糞奴(くそやつこ)め、164糞(くそ)の間(ま)にもあはぬ代物(しろもの)だな』
165雪公(ゆきこう)『ひどい奴(やつ)だ。166こけと吐(ぬか)したぢやないか。167これでも俺(おれ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)だぞ』
168春公(はるこう)『エー仕方(しかた)のない、169穀潰(ごくつぶ)しの製糞器(せいふんき)だな』
170とぼやいてゐる。171そこへ黄金姫(わうごんひめ)、172清照姫(きよてるひめ)は駻馬(かんば)に跨(またが)り、173二人(ふたり)の男(をとこ)は馬(うま)の口(くち)をとり、174『ハイハイハイ』と勇(いさ)ましく登(のぼ)つて来(き)た。
175 春公(はるこう)と雪公(ゆきこう)は目(め)を怒(いか)らし、
176春公(はるこう)『オイ、177一寸(ちよつと)待(ま)つた。178其(その)馬(うま)をここへ止(と)めエ』
179レーブ『ヨシ、180止(と)めなら止(と)めもしよう。181然(しか)し乍(なが)ら吠面(ほえづら)かわかぬやうにせえよ。182此(この)方(かた)は貴様(きさま)等(ら)の朝晩(あさばん)探(たづ)ねて居(を)る鬼熊別(おにくまわけ)の奥様(おくさま)蜈蚣姫(むかでひめ)様(さま)と一人娘(ひとりむすめ)の小糸姫(こいとひめ)様(さま)だ。183よく拝(をが)んでおけ、184目(め)が潰(つぶ)れるぞよ。185光芒(くわうばう)陸離(りくり)たる懐剣(くわいけん)を呑(の)んで厶(ござ)る八岐(やまた)の大蛇(をろち)のやうな御(お)方(かた)だから生命(いのち)が惜(をし)くなければ調(しら)べたがよからう』
186春公(はるこう)『これやレーブ、187そんな嘘(うそ)を吐(ぬか)しても承知(しようち)せないぞ。188人(ひと)を盲(めくら)にするにも程(ほど)がある。189そいつア化物(ばけもの)ぢやないか。190目(め)の玉(たま)が五(いつ)つも六(む)つもあり口(くち)が又(また)四(よつ)つも五(いつ)つもある化物(ばけもの)を馬(うま)に乗(の)せよつて、191蜈蚣姫(むかでひめ)も小糸姫(こいとひめ)もあつたものかい。192早(はや)く通(とほ)れ、193貴様(きさま)が出(で)て来(く)ると此(この)関小屋(せきごや)までが頻(しき)りに廻転(くわいてん)を始(はじ)め出(だ)した。194此(この)坂道(さかみち)迄(まで)が上(うへ)になり、195下(した)になり地異(ちい)天変(てんぺん)の大騒(おほさわ)ぎだ。196早(はや)うここを通過(つうくわ)せぬかい。197気味(きび)が悪(わる)いワイ。198俺(おれ)の探(さが)して居(ゐ)るのは、199そんな化物(ばけもの)の婆(ばば)アや娘(むすめ)ぢやない。200正真(しやうしん)正銘(しやうめい)の蜈蚣姫(むかでひめ)、201小糸姫(こいとひめ)だ』
202レーブ『化物(ばけもの)だからここに下(おろ)してやらうと云(い)ふのだ。203随分(ずゐぶん)神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の芸当(げいたう)をやりよるぞ。204まあ一(ひと)つ首筋(くびすぢ)でも掴(つか)んで此(この)谷底(たにそこ)へでも「プリン プリン ドスン、205キヤーツ」とやつて貰(もら)へよ。206イヒヽヽヽ』
207春公(はるこう)『コラ、208レーブ、209可笑(おか)しさうに何(なん)だ。210妙(めう)な笑(わら)ひ声(ごゑ)を出(だ)しよつて、211俺(おれ)の頼(たの)みぢやからトツトと此処(ここ)を通過(つうくわ)してくれ、212俺(おれ)は暫(しばら)く目(め)を塞(ふさ)いでゐるから……』
213レーブ『さう吐(ぬか)しや仕方(しかた)がない、214俺(おれ)も同(おな)じ信者(しんじや)の厚誼(よしみ)で貴様(きさま)の要求(えうきう)を無下(むげ)に拒絶(きよぜつ)する訳(わけ)にも行(ゆ)かないから、215特別(とくべつ)を以(もつ)て貴様(きさま)の嘆願(たんぐわん)を許容(きよよう)してやる。216モシモシ蜈蚣姫(むかでひめ)様(さま)、217小糸姫(こいとひめ)様(さま)、218関守(せきもり)があのやうにいつて嘆願(たんぐわん)しますから、219貴女(あなた)も手荒(てあら)いことをせずに許(ゆる)してやつて下(くだ)さい。220小糸姫(こいとひめ)様(さま)の武勇(ぶゆう)を発揮(はつき)されやうものなら此奴(こいつ)等(ら)五(ご)人(にん)の笠(かさ)の台(だい)は飛(と)んで了(しま)ふのみならず、221四肢(しこ)五体(ごたい)メチヤメチヤになりますから。222人(ひと)を助(たす)けるのは宣伝使(せんでんし)の御(お)役(やく)、223今日(けふ)ばかりは見逃(みのが)し、224聞逃(ききのが)しを彼(かれ)等(ら)五(ご)人(にん)に代(かは)つて、225レーブがお願(ねが)ひ致(いた)します』
226黄金姫(わうごんひめ)『許(ゆる)し難(がた)き関守(せきもり)なれどもお前(まへ)の願(ねが)ひによつて苛(いぢ)める事(こと)だけは止(や)めてやらう。227其(その)代(かは)りにレーブ、228お前(まへ)も一杯(いつぱい)関守(せきもり)の酒(さけ)を頂戴(ちやうだい)して元気(げんき)をつけて行(い)つたらよからうぞ』
229レーブ『何(なん)と気(き)の利(き)いたお客(きやく)さまだこと。230オイ春公(はるこう)、231賄賂(わいろ)だ。232見逃(みのが)し賃(ちん)に其(その)徳利(とつくり)を一本(いつぽん)貸(か)せ、233グヅグヅ吐(ぬか)すと此(この)馬(うま)は一寸(ちよつと)も動(うご)かないぞ』
234春公(はるこう)『徳利(とくり)一本(いつぽん)で宜(よろ)しいか。235二人(ふたり)の馬方(うまかた)ならば二(ふた)つ要(い)りませう』
236レーブ『何(なん)とまあ、237気(き)の利(き)いたもの同志(どうし)の寄合(よりあひ)だ。238お客(きやく)さまもお客(きやく)さまなら関守(せきもり)も関守(せきもり)だな。239そんなら気(き)の毒(どく)なれど二本(にほん)頂戴(ちやうだい)して行(ゆ)かう。240道々(みちみち)トツクリと飲(の)んでお供(とも)をしようかい』
241と云(い)ひ乍(なが)ら春公(はるこう)の突(つ)き出(だ)す二本(にほん)の徳利(とつくり)を受取(うけと)り『ハーイハイハイハイ』『ブーブーブー』
242レーブ『エーこん畜生(ちくしやう)、243屁(へ)ばかり垂(た)れよつて、244臭(くさ)いワイ。245オイ皆(みな)の関守(せきもり)、246これでヤツト安心(あんしん)しただらう。247何事(なにごと)も羽織(はおり)の紐(ひも)だ、248皆(みな)胸(むね)にある。249以心(いしん)伝心(でんしん)教外(けうげ)別伝(べつでん)、250云(い)はぬは云(い)ふにいやまさる。251俺(おれ)の雅量(がりやう)も分(わか)つただらうな』
252春公(はるこう)『オイ、253レーブ、254春公(はるこう)さまの雅量(がりやう)も買(か)つてくれるだらうな』
255レーブ『恐怖心(きようふしん)に駆(か)られ仕様(しやう)ことなしの雅量(がりやう)だ。256チツとお粗末(そまつ)ぢやけど、257こんな処(ところ)で荒仕事(あらしごと)するのも面倒(めんだう)だから、258粗製(そせい)濫造品(らんざうひん)の雅量(がりやう)を酒(さけ)二升(にしよう)の熨斗(のし)をつけて買(か)つてやらう。259ハイハイハイ』
260と馬(うま)をいましめ乍(なが)ら坂道(さかみち)を下(くだ)り行(ゆ)く。
261 春公(はるこう)はヤツと胸(むね)を撫(な)で下(お)ろし、
262春公『アーア、263ドテライ奴(やつ)が、264やつて来(き)よつて、265ビツクリ虫(むし)が飛出(とびだ)し、266肝玉(きもたま)が洋行(やうかう)する処(ところ)だつた。267睾玉(きんたま)の奴(やつ)、268俺(おれ)にこたへもなしに何処(どこ)かへ消滅(せうめつ)して了(しま)ひよつたな』
269雪公(ゆきこう)『俺(おれ)も睾丸(きんたま)の所在(ありか)が分(わか)らなくなつて了(しま)つた。270一方(いつぱう)の睾丸(きんたま)は婆(ばば)なり、271一方(いつぱう)は娘(むすめ)だ。272何処(どこ)へ取(と)り逃(に)がしたか残念(ざんねん)な事(こと)をしたワイ。273折角(せつかく)テームス峠(たうげ)でピツタリ出会(であ)ひ乍(なが)ら、274日頃(ひごろ)の元気(げんき)は何処(どこ)へやら睾丸(きんたま)の奴(やつ)三十六(さんじふろく)計(けい)の奥(おく)の手(て)を出(だ)して、275何処(どこ)かへ姿(すがた)をかくすものだから、276此(この)雪公(ゆきこう)さまも手(て)の出(だ)しやうが無(な)く、277殆(ほとん)どゆき詰(つま)りだ。278オイ紅葉(もみぢ)、279貴様(きさま)の睾丸(きんたま)は大丈夫(だいぢやうぶ)かな』
280紅葉(もみぢ)『大丈夫(だいぢやうぶ)だ。281よつぽど俺(おれ)とは利口(りこう)なと見(み)えるワイ。282俺(おれ)の金助(きんすけ)は矢張(やつぱ)り君子(くんし)だなア。283危(あやふ)きに近(ちか)よらずと云(い)つて逸早(いちはや)く飛行船(ひかうせん)へ乗(の)つて天国(てんごく)へ避難(ひなん)しよつたらしいワイ。284アハヽヽヽ』
285雪公(ゆきこう)『あれこそ、286本当(ほんたう)の蜈蚣姫(むかでひめ)、287小糸姫(こいとひめ)に違(ちが)ひないのう。288然(しか)し乍(なが)らどこともなしに威厳(ゐげん)が備(そな)はり面(おもて)を向(む)ける事(こと)も出来(でき)ないやうな神力(しんりき)が輝(かがや)いて居(ゐ)るので、289一目(ひとめ)見(み)るなりギヨツとしたよ。290到底(たうてい)俺(おれ)等(たち)の手(て)にあふ代物(しろもの)ぢやないワ。291然(しか)し乍(なが)ら俺(おれ)の天眼通(てんがんつう)はヤツパリ的中(てきちう)しただらう』
292春公(はるこう)『コラコラ、293これ限(き)り何(なに)も云(い)うてはならないぞ。294肝腎(かんじん)の目的物(もくてきぶつ)を見(み)す見(み)す取逃(とりにが)したのだから、295こんな事(こと)が見付(みつ)かつたら忽(たちま)ち罷(ひ)の字(じ)と免(めん)の字(じ)だ。296只今(ただいま)限(かぎ)り沈黙(ちんもく)を厳命(げんめい)する』
297雪公(ゆきこう)『アハヽヽヽ、298日頃(ひごろ)の業託(ごふたく)に似(に)ず、299何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も猫(ねこ)に出会(であ)うた鼠(ねずみ)の様(やう)なスタイルで其(その)態(ざま)つたら見(み)られたものぢやないわ。300大黒主(おほくろぬし)様(さま)もこんな厄介(やくかい)な代物(しろもの)を抱(かか)へて居(ゐ)ちや本当(ほんたう)にお気(き)の毒(どく)だ。301前途(ぜんと)が思(おも)ひやられるワイ。302ウフヽヽヽ』
303 今迄(いままで)空(そら)を包(つつ)んで居(ゐ)た淡雲(たんうん)はカラリと晴(は)れて小春(こはる)の太陽(たいやう)は手厳(てきび)しく酒(さけ)に酔(よ)うた五(ご)人(にん)の頭(あたま)を金槌(かなづち)で叩(たた)く様(やう)にガンガンと照(て)らさせ給(たま)うた。304五(ご)人(にん)は頭(あたま)を抱(かか)へ、305ウンウンと呻(うめ)き乍(なが)ら其(その)場(ば)に蹲(しやが)んで了(しま)つた。
306(大正一一・一〇・二九 旧九・一〇 北村隆光録)
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