霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 玉山嵐(たまやまあらし)〔一〇八四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻 篇:第5篇 馬蹄の反影 よみ(新仮名遣い):ばていのはんえい
章:第19章 玉山嵐 よみ(新仮名遣い):たまやまあらし 通し章番号:1084
口述日:1922(大正11)年10月29日(旧09月10日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
黄金姫たち一行は、フサの国のライオン河に着いた。橋がないので、馬に乗ったまま河を泳いで渡らなければならない。二人は水馬の心得があったので騎乗のまま一里ばかりの河を渡り切った。
レーブたちも泳いで河を渡りきり、休息していたところへ、バラモン教の釘彦・片彦の騎馬隊がやってきた。騎馬隊は一行には目もくれずに河に入って向こう岸へ行ってしまった。
レーブは釘彦・片彦が蜈蚣姫と小糸姫を捜索している先遣隊であることを知っていたので、彼らが気が付かずに行ってしまったことに胸をなでおろした。しかし黄金姫はなぜか、レーブたちにここで別れようと切り出した。
レーブは仕方なく、二人と別れることにした。もう一人の馬子は物も言わずに森林に姿を隠してしまった。すると、先に河を渡った騎馬隊のうち二三が、引き返してきてレーブに二人の女について問いただした。
レーブは、騎馬武者たちを足止めして黄金姫、小糸姫を先に逃がそうと話をはぐらかし、またこの先の山道は細くて馬が詰まってしまうから、徒歩で追いかけるしかないと言って引き留めた。
武者たちは、レーブが鬼熊別の部下であることを認めた。レーブは、自分も蜈蚣姫と小糸姫を探しているのだが、先の女たちはひどい人相で、人違いだったと証言した。武者たちはあきらめて帰って行った。
レーブはそれを見届けると、黄金姫と清照姫の後を追って行った。途中、道端で休んでいた黄金姫が走っていくレーブを見かけて声をかけた。黄金姫は、もう一人の馬方がスパイだと見抜いてわざとレーブと別行動をして引き離したのであった。
そこへ、人馬・矢叫び・軍鼓の音がものすごく響いてきた。黄金姫は立ち上がり、神軍と魔軍の戦いに備えて清照姫とレーブに覚悟を呼びかけた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-23 12:41:59 文字数:6086 OBC :rm3919
愛善世界社版:270頁 八幡書店版:第7輯 378頁 修補版: 校定版:283頁 普及版:120頁 初版: ページ備考:
001三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
002秋野(あきの)を彩(いろ)どる黄金姫(わうごんひめ)の
003神(かみ)の司(つかさ)を初(はじ)めとし
004月日(つきひ)も四方(よも)に清照姫(きよてるひめ)の
005貴(うづ)の命(みこと)と只(ただ)二人(ふたり)
006雲(くも)つく山(やま)を駒(こま)に乗(の)り
007漸(やうや)く頂上(ちやうじやう)にいざり着(つ)き
008二人(ふたり)の馬子(まご)に送(おく)られて
009胸突坂(むなつきざか)を下(くだ)りつつ
010夜(よ)を日(ひ)についでフサの国(くに)
011ライオン河(がは)に着(つ)きにける。
012レーブ『モシ奥様(おくさま)、013ここが有名(いうめい)な波斯(フサ)のライオン河(がは)で厶(ござ)います。014橋梁(けうりやう)は無(な)し、015如何(どう)しても馬(うま)で越(こ)さねばなりませぬが、016私(わたし)は馬丁(べつとう)の事(こと)ですから、017向(むか)ふへ泳(およ)ぎ渡(わた)りを致(いた)します。018どうぞ此(この)馬(うま)に乗(の)つて向(むか)ふ岸(ぎし)へお渡(わた)り下(くだ)さい。019水馬(すゐば)に乗(の)るのはお心得(こころえ)でせうが、020馬(うま)の腹帯(はらおび)を緩(ゆる)め、021手綱(たづな)を一方(いつぱう)の手(て)にグツと握(にぎ)り、022一方(いつぱう)の手(て)を放(はな)して、023馬(うま)も人(ひと)も水(みづ)に浮(う)き綱(つな)と鬣(たてがみ)とを一緒(いつしよ)に握(にぎ)つて渡(わた)らねば、024河(かは)の真(ま)ん中(なか)で溺没(できぼつ)する虞(おそれ)があります、025其(その)積(つもり)で渡(わた)つて下(くだ)さい』
026黄金姫(わうごんひめ)『私(わたし)もエデンの河(かは)で水馬(すゐば)を稽古(けいこ)した覚(おぼえ)がある、027私(わたし)は大丈夫(だいぢやうぶ)だが、028清照姫(きよてるひめ)はまだ水馬(すゐば)の経験(けいけん)がないから案(あん)じられたものだ。029何(なん)とか良(よ)い工夫(くふう)はあるまいかな』
030清照姫(きよてるひめ)『決(けつ)して決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さるな、031私(わたし)も地恩城(ちおんじやう)に於(おい)て時々(ときどき)エーリス河(がは)に馬(うま)を馳(は)せ、032水馬(すゐば)の遊(あそ)びをやつた経験(けいけん)があります』
033黄金姫(わうごんひめ)『アヽそれなら安心(あんしん)だ、034サア用意(ようい)に取(とり)かからう』
035レーブ『其(その)儘(まま)にしてゐて下(くだ)さい、036腹帯(はらおび)を私(わたし)が緩(ゆる)めます』
037と河渡(かはわた)りの準備(じゆんび)を整(ととの)へ、038レーブは両馬(りやうば)の尻(しり)を鞭(むち)にて力限(ちからかぎ)りにぶちすゑた。039駻馬(かんば)は躍(をど)り上(あが)つて、040さしもの激流(げきりう)にザンブと計(ばか)り飛込(とびこ)み、041首(くび)丈(だけ)を現(あら)はして難(なん)なく横巾(よこはば)一(いち)里(り)許(ばか)りの大河(おほかは)を向(むか)ふへ渡(わた)つて了(しま)つた。042二人(ふたり)の馬子(まご)は馬(うま)の後(あと)に従(したが)つて漸(やうや)く向岸(むかふぎし)に渡(わた)りつき、043各自(かくじ)に着衣(ちやくい)を絞(しぼ)り、044馬(うま)を休養(きうやう)させてゐた。
045 其処(そこ)へ数十(すうじふ)人(にん)の部下(ぶか)を引(ひき)つれてやつて来(き)たのは大黒主(おほくろぬし)の股肱(ここう)と頼(たの)む釘彦(くぎひこ)、046久米彦(くめひこ)の両人(りやうにん)である。047采配(さいはい)を打振(うちふ)り打振(うちふ)り、048荒馬(あらうま)に跨(またが)つてライオン河(がは)の岸(きし)を目(め)がけて一目散(いちもくさん)にかけ来(きた)り、049その勢(いきほひ)に乗(じやう)じて、050ザバザバザバと数十騎(すうじつき)の騎馬隊(きばたい)は黄金姫(わうごんひめ)一行(いつかう)の姿(すがた)に目(め)もかけず、051向岸(むかふぎし)へ渡(わた)つて了(しま)つた。052レーブは之(これ)を眺(なが)めて胸(むね)なでおろし、
053レーブ『アヽ大変(たいへん)な事(こと)になる所(ところ)だつたが、054神(かみ)様(さま)のおかげで貴女(あなた)を捜索(そうさく)してゐる釘彦(くぎひこ)の一隊(いつたい)は向(むか)ふへ渡(わた)りました。055併(しか)し乍(なが)ら彼奴(あいつ)は先鋒隊(せんぽうたい)に違(ちが)ひありませぬ。056まだまだ油断(ゆだん)はなりますまい。057浮木(うきき)の森(もり)の失敗(しつぱい)を回復(くわいふく)せむと、058大軍(たいぐん)を引(ひき)つれてやつて来(き)たのでせう、059言(い)はば今(いま)渡(わた)つた奴(やつ)は斥候(せきこう)兼(けん)先鋒隊(せんぽうたい)のやうな役(やく)まはりです。060これから此処(ここ)に馬(うま)を棄(す)てて乞食(こじき)の姿(すがた)に化(ば)けて無事(ぶじ)に難関(なんくわん)を通過(つうくわ)し、061タルの港(みなと)まで参(まゐ)りませう』
062清照姫(きよてるひめ)『レーブ、063さう心配(しんぱい)するには及(およ)ばぬ。064吾々(われわれ)には尊(たふと)き神(かみ)の御(お)守(まも)りがある。065無限(むげん)絶対(ぜつたい)無始(むし)無終(むしう)の神力(しんりき)を具備(ぐび)し玉(たま)ふ国治立(くにはるたちの)命(みこと)の厚(あつ)き御(お)守(まも)りあれば如何(いか)なる敵(てき)も決(けつ)して恐(おそ)るるには及(およ)びますまい。066臆病風(おくびやうかぜ)に襲(おそ)はれ、067水禽(みづどり)の羽音(はおと)に驚(おどろ)くやうな愚(ぐ)を学(まな)んでは、068宣伝使(せんでんし)としての貫目(くわんめ)はゼロです。069ナアお母(か)アさま、070汚(けが)らはしい乞食(こじき)の風(ふう)なんかして行(ゆ)くよりも、071正々(せいせい)堂々(だうだう)と三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ、072四辺(あたり)の木魂(こだま)を響(ひび)かせ乍(なが)ら進(すす)まうぢやありませぬか』
073黄金姫(わうごんひめ)『お前(まへ)の言(い)ふ通(とほ)り、074心(こころ)が弱(よわ)くては猛獣(まうじう)の猛(たけ)び狂(くる)ふ荒野(あらの)ケ原(はら)を横断(わうだん)する事(こと)は出来(でき)ない。075レーブ、076お前(まへ)はモウこれから帰(かへ)つてくれ、077イヤ自由(じいう)行動(かうどう)を取(と)つたがよかろ、078万一(まんいち)途中(とちう)に於(おい)て、079数万(すうまん)の敵(てき)に出会(でつくは)した時(とき)は足手纏(あしてまとひ)になつて、080却(かへつ)て味方(みかた)の不利(ふり)だから……』
081レーブ『モシ奥様(おくさま)、082それは余(あんま)り惨酷(ざんこく)ぢやありませぬか、083私(わたし)をここまでお供(とも)さしておき乍(なが)ら、084見限(みかぎ)り遊(あそ)ばしたのぢや御座(ござ)いませぬか。085何(なん)と仰有(おつしや)つても足(あし)の続(つづ)く丈(だけ)はお供(とも)を致(いた)します』
086黄金姫(わうごんひめ)『凡(すべ)て戦(いくさ)といふものは大多数(だいたすう)の味方(みかた)を以(もつ)て敵(てき)に向(むか)ふか、087さなくば只(ただ)一人(ひとり)敵(てき)に向(むか)つて突(つ)き入(い)る方(はう)が大変(たいへん)な利益(りえき)だ。088獅子(しし)奮迅(ふんじん)の勇気(ゆうき)を揮(ふる)ふには一人(ひとり)に限(かぎ)る、089手当(てあた)り次第(しだい)、090斬(き)つた奴(やつ)は皆(みな)敵(てき)だ。091余(あま)り慌(あわ)てて味方(みかた)を斬(き)りはせぬかといふやうな気遣(きづか)ひがあつては、092到底(たうてい)充分(じうぶん)の活動(くわつどう)は出来(でき)ない、093ここの道理(だうり)を聞分(ききわ)けて、094どうぞ別(わか)れて下(くだ)さい。095ハルナの都(みやこ)でお目(め)にかからうから……』
096レーブ『あなたは一人(ひとり)の方(はう)が良(よ)いと仰有(おつしや)つたが清照姫(きよてるひめ)様(さま)は如何(どう)なさるのですか』
097黄金姫(わうごんひめ)『清照姫(きよてるひめ)は女(をんな)だから、098何程(なにほど)戦(いくさ)の中(なか)でも目(め)につき易(やす)い、099メツタに同士討(どうしうち)をする気遣(きづか)ひはないが、100お前(まへ)等(ら)二人(ふたり)は男(をとこ)だから、101モシ間違(まちが)つてお前(まへ)を斃(たふ)しでもしやうものなら大変(たいへん)だ。102喧嘩(けんくわ)は一人(ひとり)が最(もつと)も利益(りえき)だ。103鬼熊別(おにくまわけ)の女房(にようぼう)蜈蚣姫(むかでひめ)や、104娘(むすめ)の小糸姫(こいとひめ)はバラモン教(けう)の寄手(よせて)に対(たい)し、105馬丁(べつとう)に加勢(かせい)をさしたといはれては、106末代(まつだい)まで武勇(ぶゆう)の汚(けが)れになる。107どうぞ頼(たの)みぢやから別(わか)れて下(くだ)さい』
108レーブ『さやうならば是非(ぜひ)に及(およ)びませぬ、109お別(わか)れ致(いた)しませう。110併(しか)し主従(しゆじゆう)の縁(えん)は切(き)らぬやうに願(ねが)ひます』
111黄金姫(わうごんひめ)『互(たがひ)に了解(れうかい)した上(うへ)の別(わか)れだから安心(あんしん)して下(くだ)さい、112決(けつ)してお前(まへ)は捨(す)てませぬから……』
113レーブ『ハイ有難(ありがた)う、114左様(さやう)なれば、115ここでお別(わか)れ致(いた)します。116随分(ずゐぶん)道々(みちみち)気(き)をつけてお出(い)でなさいませ。117お姫(ひめ)様(さま)左様(さやう)なれば、118奥様(おくさま)のお身(み)の上(うへ)をどうぞ御(ご)注意(ちうい)下(くだ)さいますやうに』
119清照姫(きよてるひめ)『ハア宜(よろ)しい、120気遣(きづか)ひしてくれな、121私(わたし)が附(つ)いて居(を)れば大丈夫(だいぢやうぶ)だ、122否々(いないな)神(かみ)様(さま)がついて御座(ござ)るから、123大磐石(だいばんじやく)だよ。124サアお母(か)アさま参(まゐ)りませう』
125と先(さき)に立(た)つて進(すす)み行(ゆ)く。126後(あと)にレーブは二人(ふたり)の姿(すがた)のかくるるまで見送(みおく)つてゐた。127一人(ひとり)の馬子(まご)は物(もの)をも言(い)はず、128何(なん)に感(かん)じてか、129傍(かたはら)の森林(しんりん)に手早(てばや)く姿(すがた)をかくした。130レーブは双手(もろて)を組(く)んで、131独言(ひとりごと)を言(い)つてゐる。
132レーブ『アヽ又(また)私(わたし)は一人(ひとり)になつて了(しま)つた。133よくよく連(つれ)に縁(えん)の無(な)い男(をとこ)だなア、134併(しか)し乍(なが)らどうも奥様(おくさま)や姫(ひめ)様(さま)の事(こと)が気(き)に掛(かか)つて仕方(しかた)がないワ。135ハテ如何(どう)したらよからうかなア』
136と双手(もろて)を組(く)み大地(だいち)に胡坐(あぐら)をかいて、137俯(うつ)むいたまま首(くび)を左右(さいう)に振(ふ)つてゐる。
138 かくする所(ところ)へ以前(いぜん)向(むか)ふへ渡(わた)つた騎馬隊(きばたい)の内(うち)二三(にさん)人(にん)の男(をとこ)、139一鞭(ひとむち)あてて再(ふたた)び河(かは)に飛込(とびこ)み此方(こなた)を指(さ)して渡(わた)り来(く)る。140レーブは……『ハテ不思議(ふしぎ)だ、141無事(ぶじ)に此処(ここ)を渡(わた)りよつたと思(おも)つたら、142釘彦(くぎひこ)の奴(やつ)、143奥様(おくさま)や嬢様(ぢやうさま)の姿(すがた)を見(み)つけ、144召捕(めしと)らむと引返(ひきかへ)して来(き)よつたのだらう。145逃(に)げた所(ところ)で仕方(しかた)がない、146此方(こちら)は徒歩(とほ)だ、147向(むか)ふは馬上(ばじやう)、148到底(たうてい)追(お)つつかれずには居(を)られない。149それよりも自分(じぶん)がここに頑張(ぐわんば)つて、150彼(かれ)等(ら)の行進(かうしん)を妨(さまた)げ、151お二人(ふたり)様(さま)が一足(ひとあし)でも敵(てき)に遠(とほ)ざかり遊(あそ)ばすやうに、152暇(ひま)取(と)らせるのが俺(おれ)の務(つとめ)だ。153こんな事(こと)があらうとて、154奥様(おくさま)は別(わか)れてくれと仰有(おつしや)つたのだなア、155なんと偉(えら)いものだなア。156矢張(やつぱり)凡人(ぼんじん)とはどことはなしに変(かは)つてゐるワイ………』
157と感心(かんしん)し乍(なが)ら一人(ひとり)呟(つぶや)いてゐる。158そこへ三(さん)人(にん)の騎馬(きば)武者(むしや)、159蹄(ひづめ)の音(おと)をカツカツと響(ひび)かせ乍(なが)ら進(すす)み来(きた)り、160レーブの姿(すがた)を見(み)て、
161武士『オイ、162其(その)方(はう)が今(いま)ここで話(はな)して居(を)つた女(をんな)は何者(なにもの)であつたか、163逐一(ちくいち)陳述(ちんじゆつ)致(いた)せ』
164 レーブは何(なん)とか言(い)つて暇(ひま)を取(と)らせようと思(おも)ひ、165ワザと空呆(そらとぼ)けて、
166レーブ『ハイ、167何(なん)でも人間(にんげん)の様(やう)で厶(ござ)いました』
168武士(ぶし)『馬鹿(ばか)、169そんな事(こと)を尋(たづ)ねてゐるのぢやない、170何(なん)といふ女(をんな)だかそれを聞(き)かせといふのだ』
171 レーブは暫(しばら)く思案(しあん)をして漸(やうや)くに顔(かほ)をあげ、172ポカンとした阿呆面(あはうづら)をさらして、
173レーブ『ハーイ、174婆(ば)アといふ女(をんな)と娘(むすめ)といふ女(をんな)と二人(ふたり)通(とほ)りました』
175武士(ぶし)『馬鹿(ばか)な奴(やつ)だなア、176姓名(せいめい)は何(なん)と申(まを)すか』
177レーブ『ハイ、178姓名(せいめい)ですか、179姓名(せいめい)は生命(いのち)と申(まを)します。180命(いのち)あつての物種(ものだね)、181お前(まへ)さまも一(ひと)つここで一服(いつぷく)しなさい、182長(なが)い月日(つきひ)に短(みじか)い命(いのち)だ、183生命(せいめい)が肝腎(かんじん)だよ。184清明(せいめい)無垢(むく)の尊(たふと)き神(かみ)のお道(みち)に仕(つか)へ玉(たま)ふバラモン教(けう)の神司(かむづかさ)ぢやありませぬか』
185武士(ぶし)『エヽ辛気(しんき)臭(くさ)い、186貴様(きさま)は天下(てんか)一品(いつぴん)の馬鹿者(ばかもの)だな』
187レーブ『ハイ、188馬(うま)の上(うへ)に鹿(しか)が乗(の)つて居(を)ります、189それは鹿馬者(かばもの)と申(まを)します。190鹿(しか)の上(うへ)に馬(うま)が乗(の)つた奴(やつ)が馬鹿者(ばかもの)です』
191武士(ぶし)『エヽグヅグヅしてゐると、192時(とき)が遅(おく)れては一大事(いちだいじ)だ』
193と駒(こま)に鞭(むちう)ち駆(か)け出(だ)さうとするを、194レーブは先頭(せんとう)に立(た)つた馬(うま)の轡(くつわ)をグツと握(にぎ)り、
195レーブ『一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さい、196こんな細(ほそ)い道(みち)、197さうあわてると危(あぶ)なう厶(ござ)いますで、198何(なん)なら馬(うま)を此処(ここ)に乗(の)り棄(す)ててお上(のぼ)りなさつたらどうですか、199此(こ)の山(やま)は中々(なかなか)キツイ山(やま)で馬(うま)が辷(すべ)りこけた途端(とたん)に、200あなたも一緒(いつしよ)に谷底(たにぞこ)へでも落(お)ちようものなら、201それこそ大変(たいへん)です。202最前(さいぜん)の婆(ば)アといふ女(をんな)も、203ここに馬(うま)を乗(の)り棄(す)てて上(のぼ)つた位(くらゐ)ですから……』
204武士(ぶし)『何(なん)と言(い)つても人間(にんげん)が歩(ある)くより馬(うま)の方(はう)が早(はや)い、205グヅグヅしてると、206女(をんな)を見失(みうしな)つちや大変(たいへん)だ。207ヤアお二方(ふたかた)、208私(わたし)に構(かま)はず、209さきへ馬(うま)で行(い)つて下(くだ)さい、210二人(ふたり)の姿(すがた)を見失(みうしな)はぬ内(うち)に……』
211レーブ『ハヽヽヽ、212先(さき)へ行(ゆ)かうと言(い)つたつて、213こんな羊腸(やうちやう)の小路(こみち)、214而(しか)も胸突坂(むなつきざか)と来(き)てゐるのだから、215先(さき)の馬(うま)が止(とま)つた以上(いじやう)には乗越(のりこ)す訳(わけ)には行(ゆ)きますまい。216此(この)馬(うま)はレーブさまが轡(くつは)を握(にぎ)つた以上(いじやう)は、217一時(ひととき)計(ばか)りは微躯(びく)とも動(うご)かさぬのだ。218其(その)間(あひだ)に逃(に)げて下(くだ)さると良(よ)いのだけれどなア』
219と小声(こごゑ)に呟(つぶや)く。
220武士(ぶし)『エヽ仕方(しかた)のない奴(やつ)だ、221各(おのおの)方(がた)、222ここに馬(うま)をつないで一走(ひとはし)り、223追(お)つかけませうか』
224レーブ『アヽさうなされませ、225それの方(はう)が余程(よほど)安全(あんぜん)で宜(よろ)しい。226併(しか)しあんな婆(ば)アや娘(むすめ)を追(お)つかけて如何(どう)なさる御(お)考(かんが)へですか、227大方(おほかた)あなたはあの婆(ばば)アや娘(むすめ)を蜈蚣姫(むかでひめ)、228小糸姫(こいとひめ)様(さま)だと思(おも)つて、229追(お)つかけてお出(い)でなさるでせう。230それならばお止(や)めになさつた方(はう)がよかろ、231実(じつ)は私(わたし)も鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)の家来(けらい)で、232母子(おやこ)の顔(かほ)を見覚(みおぼ)えてゐるのを幸(さひは)ひ、233旦那(だんな)様(さま)から女房(にようばう)や娘(むすめ)を捜(さが)して来(き)たならば、234褒美(ほうび)は望(のぞ)み次第(しだい)と仰有(おつしや)つたので、235ここ迄(まで)捜(さが)しに参(まゐ)りました。236所(ところ)がよう似(に)た婆(ばば)、237娘(むすめ)だと思(おも)ひ、238出世(しゆつせ)をする時節(じせつ)が来(き)たのだと、239雀躍(こをど)りし乍(なが)ら、240河(かは)を横切(よこぎ)り渡(わた)つて来(き)て見(み)れば、241豈(あに)計(はか)らむや、242妹(いもうと)計(はか)らむや、243一目(ひとめ)見(み)てもゾツとするやうな、244人品(じんぴん)骨柄(こつがら)の卑(いや)しい菊石(あばた)だらけの虱(しらみ)の這(は)うた糞婆(くそばば)に乞食(こじき)娘(むすめ)、245イヤもう私(わたし)もガツカリして了(しま)ひました。246こんな約(つま)らぬ事(こと)は厶(ござ)いませぬ。247あの母子(おやこ)が果(はた)して蜈蚣姫(むかでひめ)、248小糸姫(こいとひめ)さまならば、249私(わたし)は手柄(てがら)になるのだから、250あなた方(がた)のお力(ちから)を借(か)つて一緒(いつしよ)に捉(とら)へたいのだが、251余(あま)りの事(こと)に呆(あき)れて、252婆(ばば)アの頭(あたま)を三(み)つ四(よ)つくらはし、253乞食(こじき)娘(むすめ)の尻(しり)を擲(なぐ)りつけて、254オイオイメソメソと吠面(ほえづら)かわかせおき、255ここに呆然(ばうぜん)として失望(しつばう)落胆(らくたん)の淵(ふち)に沈(しづ)んでる所(ところ)で厶(ござ)います』
256武士(ぶし)『お前(まへ)は鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)の部下(ぶか)の者(もの)だなア、257矢張(やつぱり)鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)も女房(にようばう)子(こ)の行方(ゆくへ)を尋(たづ)ねてゐられるのかなア』
258レーブ『そらさうでせうかい、259天(てん)にも地(ち)にも一人(ひとり)よりない女房(にようばう)や娘(むすめ)が居(を)らなくては、260何程(なにほど)御(ご)出世(しゆつせ)をなさつても世(よ)の中(なか)が淋(さび)しい、261妻子(つまこ)に憧憬(あこが)れ遊(あそ)ばすのは尤(もつと)もでせう』
262武士(ぶし)『如何(いか)にもさうだ、263お前(まへ)の言(い)ふ通(とほり)ならば、264彼(かれ)等(ら)母子(おやこ)は鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)の女房(にようばう)子(こ)ではあるまい、265エーエ、266要(い)らぬ苦労(くらう)をして河(かは)を渡(わた)つたものだ、267ヤアお邪魔(じやま)をした。268お二方(ふたかた)、269コレから元(もと)へ引返(ひきかへ)しませう』
270と馬背(ばはい)に鞭(むち)打(う)ち、271勢(いきほひ)に乗(じやう)じて、272ライオン河(がは)を驀地(まつしぐら)に三騎(さんき)首(くび)を並(なら)べて渡(わた)り行(ゆ)く。
273 後(あと)見送(みおく)つてレーブは大口(おほぐち)をあけ、
274レーブ『アツハヽヽヽイヒヽヽヽウフヽヽヽ何(なん)とマア、275神(かみ)様(さま)の御(お)仕組(しぐみ)は大(たい)したものだナ。276結構(けつこう)な手柄(てがら)をさして下(くだ)さつた。277何事(なにごと)も悧巧(りかう)出(だ)しては失敗(しくじ)るぞよ、278阿呆(あはう)になつてゐて下(くだ)されよといふ、279三五教(あななひけう)の神諭(みさとし)が今更(いまさら)の如(ごと)く思(おも)ひ出(だ)されて有難(ありがた)いワイ。280世(よ)の中(なか)は阿呆(あはう)になつてゐるに限(かぎ)る、281大賢(たいけん)は愚(ぐ)なるが如(ごと)し、282愚者(ぐしや)は賢人(けんじん)の如(ごと)しとは此処(ここ)のことだ。283俺(おれ)も天下(てんか)一品(いつぴん)の極端(きよくたん)な阿呆(あはう)になつて、284真(しん)の智恵(ちゑ)を働(はたら)かすことが出来(でき)た。285ヤア辱(かたじけ)ない此(この)役目(やくめ)が済(す)んだ以上(いじやう)は、286これより後(あと)追(お)つかけて、287奥様(おくさま)や嬢様(ぢやうさま)について行(い)つても、288何(なん)とも仰有(おつしや)るまい、289ヤア大分(だいぶ)に時(とき)も経(た)つた、290モウ余程(よほど)行(ゆ)かれただらう。291サア急(いそ)がう』
292と独言(ひとりごと)いひ乍(なが)ら一目散(いちもくさん)に峻坂(しゆんぱん)をかけ登(のぼ)り、293峠(たうげ)に佇(たたず)み、294ハーハースースーと息(いき)を休(やす)め、
295レーブ『あれ丈(だけ)の敵(てき)を甘(うま)く撒散(まきち)らし、296抜群(ばつぐん)の功名(こうみやう)手柄(てがら)を現(あら)はして此(この)山頂(さんちやう)に登(のぼ)りつめ、297四方(よも)の景色(けしき)を見下(みお)ろす時(とき)の心持(こころもち)は又(また)格別(かくべつ)だ。298サアもうこれから下(くだ)り坂(ざか)、299走(はし)ろまいと思(おも)つても走(はし)れるワイ、300併(しか)し乍(なが)ら余(あま)り屈曲(くつきよく)があるから勢(いきほひ)に任(まか)して谷底(たにそこ)へでも飛込(とびこ)んぢや堪(たま)らない。301一(ひと)つ足拍子(あしびやうし)を取(と)つておりてやらうかな』
302と帯(おび)を締(し)め直(なほ)し鉢巻(はちまき)をグツと固(かた)め、303両手(りやうて)の拳(こぶし)をグツと握(にぎ)り爪先(つまさき)まで力(ちから)を入(い)れ、304ボツボツと下(くだ)り出(だ)した。305レーブは道々(みちみち)歌(うた)ふ。
306レーブ『ウントコドツコイ玉山(たまやま)は
307小(ちひ)さい峠(たうげ)といひ乍(なが)ら
308意外(いぐわい)にキツイ坂路(さかみち)だ
309男(をとこ)でさへも此(この)通(とほ)り
310歩(あゆ)みに困(こま)る坂路(さかみち)を
311さぞや奥(おく)さまお嬢(ぢやう)さま
312困難(こんなん)遊(あそ)ばしましたらう
313お道(みち)の為(ため)とは云(い)ひ乍(なが)ら
314鬼熊別(おにくまわけ)の奥様(おくさま)と
315ならせ玉(たま)ひし身(み)を以(もつ)て
316荒野(あらの)を渡(わた)り川(かは)を越(こ)え
317いろいろ雑多(ざつた)と御(ご)艱難(かんなん)
318御(ご)苦労(くらう)なさるも神(かみ)の為(ため)
319世人(よびと)の為(ため)と聞(き)くからは
320感謝(かんしや)の涙(なみだ)が湧(わ)いて来(く)る
321鬼熊別(おにくまわけ)の神(かみ)様(さま)に
322大事(だいじ)に大事(だいじ)にされた俺(おれ)
323御(ご)恩返(おんがへ)しの万分一(まんぶいち)
324何時(いつ)しか報(むく)はななるまいと
325思(おも)ひつめたる真心(まごころ)が
326いよいよ現(あら)はれ出(い)づる時(とき)
327あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
328神(かみ)の守(まも)りの深(ふか)くして
329お二方(ふたかた)をば初(はじ)めとし
330レーブの奴(やつ)も諸共(もろとも)に
331何卒(なにとぞ)無事(ぶじ)に月(つき)の国(くに)
332ハルナの都(みやこ)へ易々(やすやす)と
333「ウントコドツコイきつい坂(さか)」
334勢(いきほひ)余(あま)つて谷川(たにがは)へ
335スツテンコロリと落(お)ちかけた
336帰(かへ)らせ玉(たま)へバラモンの
337梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
338大国彦(おほくにひこ)の御(おん)前(まへ)に
339慎(つつし)み敬(ゐやま)ひ願(ね)ぎ奉(まつ)る
340ライオン河(がは)を横(よこ)わたり
341奥様(おくさま)嬢様(ぢやうさま)お二人(ふたり)に
342暇(ひま)を貰(もら)つた怪訝顔(けげんがほ)
343面(つら)ふくらした時(とき)もあれ
344大黒主(おほくろぬし)に仕(つか)へてる
345釘彦(くぎひこ)久米彦(くめひこ)両人(りやうにん)が
346手下(てした)の奴(やつ)ばら只(ただ)三人(みたり)
347駻馬(かんば)に鞭(むちう)ち荒河(あらかは)を
348渡(わた)り来(きた)れる恐(おそ)ろしさ
349此奴(こいつ)あテツキリお二人(ふたり)の
350姿(すがた)をみとめて捉(とら)へむと
351やつてうせたに違(ちがひ)ない
352一時(ひととき)なりと暇取(ひまと)らせ
353お二人(ふたり)様(さま)を安全(あんぜん)に
354守(まも)らむものと真心(まごころ)の
355限(かぎ)りを尽(つく)して阿呆(あはう)と化(ば)け
356スツタ揉(も)んだと馬鹿口(ばかぐち)を
357叩(たた)いた揚句(あげく)に村肝(むらきも)の
358心(こころ)にもなき詐(いつは)りを
359ベラベラ喋(しやべ)つた其(その)おかげ
360追手(おつて)の奴(やつ)らは忽(たちま)ちに
361レーブの弁(べん)に欺(あざむ)かれ
362失望(しつばう)落胆(らくたん)し乍(なが)らも
363河(かは)を渡(わた)つて帰(かへ)り行(ゆ)く
364其(その)可笑(おか)しさに堪(た)へかねて
365思(おも)はず知(し)らずアハヽヽヽ
366イヒヽヽヽヽヽヒウフヽヽヽ
367笑(わら)ひ溢(あふ)れて面白(おもしろ)い
368あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
369これ丈(だけ)賢(かしこ)い智慧(ちゑ)あれば
370これから何事(なにごと)あらう共(とも)
371決(けつ)して恐(おそ)るる事(こと)はない
372「ウントコ ドツコイ ドツコイシヨ
373コラマアきつい坂(さか)ぢやなア」
374これ丈(だけ)急(いそ)いで下(くだ)るなら
375キツと二人(ふたり)のお姿(すがた)を
376時(とき)を移(うつ)さず拝(をが)むだろ
377あゝ有難(ありがた)い有難(ありがた)い
378お二人(ふたり)様(さま)は今頃(いまごろ)は
379悠々然(いういうぜん)と鼻唄(はなうた)を
380唄(うた)うてレーブの事(こと)を言(い)ひ
381勇(いさ)み進(すす)んで厶(ござ)るだろ
382あゝ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い
383一伍(いちぶ)一什(しじふ)の有様(ありさま)を
384お二人(ふたり)様(さま)にこまごまと
385報告(はうこく)申(まを)し上(あ)げたなら
386キツと喜(よろこ)びなさるだろ
387これが第一(だいいち)楽(たのし)みだ
388あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
389御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
390と歌(うた)ひつつ、391ドンドンドンと地響(ぢひびき)うたせ、392さしもの峻坂(しゆんばん)を矢(や)を射(い)る如(ごと)く下(くだ)つて行(ゆ)く。393道端(みちばた)の岩(いは)に母子(おやこ)二人(ふたり)が腰打(こしうち)かけ、394息(いき)を休(やす)めてゐるのも気(き)がつかず、395大声(おほごゑ)に呶鳴(どな)り乍(なが)ら下(くだ)り行(ゆ)くのを、396黄金姫(わうごんひめ)は、
397黄金姫『オーイオーイ レーブ暫(しばら)く待(ま)て』
398と大音声(だいおんじやう)に呼(よ)び止(と)めた。399此(この)声(こゑ)を聞(き)くよりレーブは驚(おどろ)いて止(と)まらうとすれども、400急坂(きふはん)を下(くだ)り切(き)つた速力(そくりよく)の惰力(だりよく)は容易(ようい)に止(と)まらず、401十間(じつけん)許(ばか)りズルズルと石道(いしみち)に体(からだ)を止(と)めようとして倒(たふ)れ、402転(ころ)げ落(お)ち『アイタタ』と顔(かほ)をしかめ、403腰(こし)のあたりを撫(な)で乍(なが)ら、404エチエチと二人(ふたり)の前(まへ)に引返(ひきかへ)し来(きた)り、
405レーブ『奥様(おくさま)嬢様(ぢやうさま)、406有難(ありがた)う厶(ござ)いました』
407黄金姫(わうごんひめ)『アヽ御(ご)苦労(くらう)であつたなア、408私(わたし)もお前(まへ)がキツと追返(おひかへ)しただろと思(おも)うて、409ここに悠(ゆつ)くりとお前(まへ)の来(く)るのを待(ま)つてゐたのだ。410一人(ひとり)の馬方(うまかた)は甘(うま)くまいただらうなア』
411レーブ『ハイ自分(じぶん)の方(はう)から勝手(かつて)に森林(しんりん)の中(なか)へ沈没(ちんぼつ)して了(しま)ひました。412三(さん)人(にん)の騎馬(きば)の士(さむらひ)が奥様(おくさま)嬢様(ぢやうさま)を捉(とら)へむと、413再(ふたた)び河(かは)を渡(わた)つてやつて来(き)ましたが、414俄(にはか)に私(わたし)は馬鹿(ばか)となつて甘(うま)く追(お)つ返(かへ)してやりました』
415黄金姫(わうごんひめ)『アヽさうだろ、416お前(まへ)の身魂(みたま)を見込(みこ)んであゝ言(い)つたのだ。417本当(ほんたう)の事(こと)を云(い)つてやりたかつたが、418怪(あや)しい奴(やつ)がついてゐたので、419あんなスゲない事(こと)を言(い)つたのだから、420気(き)を悪(わる)うせないでおいて下(くだ)さい』
421レーブ『どうしてどうして御(ご)勿体(もつたい)ない、422気(き)を悪(わる)う致(いた)しませうかい、423サア是(これ)から参(まゐ)りませう』
424と話(はな)す折(をり)しも、425吹来(ふきく)る風(かぜ)につれて聞(きこ)え来(く)る人馬(じんば)の物音(ものおと)、426金鼓(きんこ)の響(ひびき)、427矢叫(やさけ)びの声(こゑ)、428物凄(ものすご)くも此方(こなた)に向(むか)つて進(すす)み来(く)る。429黄金姫(わうごんひめ)は立上(たちあが)り、
430黄金姫『サアこれからが本当(ほんたう)の神軍(しんぐん)と魔軍(まぐん)との戦争(せんそう)だ。431清照姫(きよてるひめ)用意(ようい)をなされ。432レーブ、433覚悟(かくご)はよいか………』
434(大正一一・一〇・二九 旧九・一〇 松村真澄録)
435(昭和一〇・六・一〇 王仁校正)
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