霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 テームス峠(たうげ)〔一〇八二〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm3917
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 黄金姫(わうごんひめ)、002清照姫(きよてるひめ)の母娘(おやこ)は巡礼姿(じゆんれいすがた)に身(み)をやつし、003金剛杖(こんがうづゑ)にて地(ち)を叩(たた)きつつ、004霧(きり)こむ野辺(のべ)を西南(せいなん)指(さ)して宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら浮木(うきき)ケ原(はら)をさして進(すす)み行(ゆ)く。005道(みち)につき当(あた)つた可(か)なり高(たか)き山(やま)がある。006此(この)山(やま)を何(ど)うしても越(こ)えねば道(みち)がない。007日(ひ)は已(すで)に山(やま)の端(は)に没(ぼつ)して四面(しめん)暗黒(あんこく)に包(つつ)まれた。008此(この)山(やま)の名(な)はテームス山(ざん)といふ。009登(のぼ)りが三(さん)里(り)下(くだ)りが三(さん)里(り)、010可(か)なり大(おほ)きな峠(たうげ)でフサの国(くに)より月(つき)の国(くに)へ渉(わた)る境域(きやういき)である。011母娘(おやこ)二人(ふたり)は山麓(さんろく)の路傍(みちばた)の岩(いは)の上(うへ)に腰打掛(こしうちか)け息(いき)を休(やす)めてゐた。012そこへ二人(ふたり)の馬方(うまかた)駻馬(かんば)を引(ひき)つれ、013ハイハイと言(い)ひ乍(なが)ら、014現(あら)はれ来(きた)り、
015馬方『モシモシ旅(たび)のお方(かた)、016此(この)テームス山(ざん)はアフガニスタンで有名(いうめい)な峻坂(しゆんぱん)で厶(ござ)います。017女(をんな)の足(あし)では到底(たうてい)跋渉(ばつせふ)する事(こと)は出来(でき)ますまい。018私(わたし)はこれから此(この)峠(たうげ)を渉(わた)りて月(つき)の国(くに)へ帰(かへ)る者(もの)、019どうぞ此(この)馬(うま)に乗(の)つて下(くだ)さい。020帰(かへ)りがけだから何時(いつ)もとは半分(はんぶん)の賃金(ちんぎん)に致(いた)しておきます』
021黄金姫(わうごんひめ)『折角(せつかく)なれど吾々(われわれ)は達者(たつしや)な足(あし)を持(も)つてゐるから馬(うま)の世話(せわ)になるのは止(や)めておきませう』
022馬方(うまかた)『エヽ馬鹿(ばか)にすない。023足(あし)があるなんて、024分(わか)り切(き)つた事(こと)をいやがつて、025足(あし)のない奴(やつ)が旅(たび)する筈(はず)があるかい。026いやなら厭(いや)でいいワ。027乗(の)らぬと吐(ぬか)しやがるが、028此方(こちら)の方(はう)から乗(の)せてやらぬワイ』
029黄金姫(わうごんひめ)『オホヽヽこれ馬方(うまかた)さま、030お前(まへ)さまは本当(ほんたう)の馬方(うまかた)ぢやあるまいがな。031お前(まへ)のひいてゐる馬(うま)はそこらに居(を)つた野馬(やば)を臨時(りんじ)引(ひつ)つかんで来(き)た証拠(しようこ)には轡(くつは)も無(な)し、032馬(うま)の爪(つめ)が大変(たいへん)に伸(の)びてゐる、033そしてお前(まへ)の言葉(ことば)は馬方(うまかた)言葉(ことば)ぢやない。034バラモン教(けう)の宣伝使(せんでんし)の供(とも)でもしてゐた代物(しろもの)だろ。035そんな事(こと)をして吾々(われわれ)母娘(おやこ)を馬(うま)に乗(の)せ、036急坂(きふはん)になつた所(ところ)で、037馬(うま)の足(あし)を叩(たた)き、038馬(うま)を転倒(てんたう)させて、039吾々(われわれ)母娘(おやこ)を○○しようといふ悪(わる)い了見(れうけん)だろ、040お前(まへ)の顔(かほ)にチヤンと書(か)いてある。041そんなウソツパチを喰(く)ふやうな婆(ばば)アぢやありませぬぞ。042又(また)河鹿(かじか)峠(たうげ)のやうに谷底(たにそこ)へつまんで放(ほ)つて上(あ)げようか、043お前(まへ)は五(ご)人(にん)の中(なか)の一人(ひとり)、044運(うん)よく助(たす)かつて逃(に)げた男(をとこ)だらう、045どこともなしに面(おもて)に見覚(みおぼ)えがあるから騙(だま)したつて駄目(だめ)だよ』
046馬方(うまかた)『イヤもうそこ迄(まで)看破(かんぱ)されては仕方(しかた)がありませぬ。047実(じつ)の所(ところ)はあの時(とき)五(ご)人(にん)の中(うち)に加(くは)はつてゐたレーブといふ、048余(あま)りよくない代物(しろもの)です。049お前(まへ)さまが大変(たいへん)な神力(しんりき)を現(あら)はして自分(じぶん)の同僚(どうれう)を三(さん)人(にん)迄(まで)谷底(たにそこ)へ投込(なげこ)んだ時(とき)の恐(おそ)ろしさ。050何(なん)とかしてお前(まへ)さま母娘(おやこ)を亡(な)き者(もの)に致(いた)さねば、051吾々(われわれ)の思惑(おもわく)は何時(いつ)になつても立(た)たない。052又(また)可哀(かあい)さうに俺(おれ)達(たち)の友達(ともだち)二人(ふたり)まで、053冥途(めいど)の旅(たび)をしたのだから、054友(とも)の仇敵(かたき)を討(う)つてやらねばならぬ、055何(いづ)れ此(この)峠(たうげ)を越(こ)すに違(ちがひ)ないと思(おも)うて、056野馬(やば)を引捉(ひつとら)へ、057道(みち)に会(あ)うた一人(ひとり)の友達(ともだち)と、058一目散(いちもくさん)にここ迄(まで)走(はし)つて来(き)て、059待(ま)つてゐました。060併(しか)しながらお前(まへ)さまが私(わし)の計略(けいりやく)を看破(かんぱ)した上(うへ)は、061手(て)も足(あし)も出(だ)すことは出来(でき)ない。062そんなら馬(うま)に乗(の)るのは止(や)めて貰(もら)ひませう。063油断(ゆだん)をせない旅人(たびびと)を乗(の)せて行(い)つたところで、064思惑(おもわく)は立(た)ちませぬからな』
065と怖(こは)さうに逃(に)げ腰(ごし)になつて喋(しやべ)つて居(ゐ)る。
066黄金姫(わうごんひめ)『コレ、067レーブとやら、068お前(まへ)は鬼熊別(おにくまわけ)さまの部下(ぶか)ではないか。069但(ただし)は臨時雇(りんじやとひ)で働(はたら)いてゐるのか』
070レーブ『ハイ、071三(さん)年(ねん)ばかり前(まへ)から結構(けつこう)なお手当(てあて)を頂戴(ちやうだい)して、072鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)の奥様(おくさま)の蜈蚣姫(むかでひめ)や小糸姫(こいとひめ)さまの所在(ありか)が分(わか)らないので、073鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)も今(いま)は立派(りつぱ)な身(み)の上(うへ)にお成(な)り遊(あそ)ばし、074大黒主(おほくろぬし)様(さま)と肩(かた)を並(なら)べられ、075世間(せけん)の信用(しんよう)は大黒主(おほくろぬし)様(さま)よりもズツと宜(よろ)しい。076それ故(ゆゑ)鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)に従(したが)ふ者(もの)が日(ひ)に月(つき)に増(ふ)えて来(き)まして、077私(わたし)も御(ご)恩顧(おんこ)を蒙(かうむ)つてゐる者(もの)、078奥様(おくさま)や娘子(むすめご)の所在(ありか)を尋(たづ)ねむ為(ため)に、079ハムを初(はじ)め吾々(われわれ)四(よ)人(にん)が一隊(いつたい)となつて、080其(その)所在(ありか)を尋(たづ)ねてゐました。081併(しか)し乍(なが)らいくら尋(たづ)ねても此(この)広(ひろ)い世(よ)の中(なか)自転倒(おのころ)島(じま)へはそれぞれ手分(てわ)けをして捜(さが)しに行(い)つて居(を)りますが、082今(いま)にお行方(ゆくへ)は分(わか)りませぬ。083噂(うはさ)に聞(き)けば三五教(あななひけう)に入信(はい)られたとの事(こと)、084ウブスナ山(やま)の斎苑(いそ)館(やかた)には三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が集(あつ)まつてゐられるといふ話(はなし)なので、085河鹿(かじか)峠(たうげ)を越(こ)えて参(まゐ)る途中(とちう)、086あなた様(さま)に出会(でつくは)し、087仮令(たとへ)蜈蚣姫(むかでひめ)でなくても小糸姫(こいとひめ)でなくても、088丁度(ちやうど)都合(つがふ)のよい婆(ば)アさまと娘(むすめ)、089有無(うむ)をいはせず伴(つ)れ帰(かへ)り、090鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)にお目(め)にかけたならば、091コリヤ人違(ひとちがひ)だ、092併(しか)し乍(なが)らそれも無理(むり)はない、093人相書(にんさうがき)位(くらゐ)では分(わか)るものではないから、094併(しか)しよくマアここ迄(まで)骨(ほね)を折(を)つたと、095お賞(ほ)めの言(ことば)を頂(いただ)かねば、096三(さん)年(ねん)も手当(てあて)を貰(もら)うて居(を)つた印(しるし)がないと思(おも)ひ、097一寸(ちよつと)失礼(しつれい)をも省(かへり)みず、098一狂言(ひときやうげん)をやつて見(み)ました。099右様(みぎやう)の次第(しだい)で厶(ござ)いますから、100決(けつ)して泥棒(どろばう)でも何(なん)でも厶(ござ)いませぬ。101只(ただ)お手当(てあて)に対(たい)する義務(ぎむ)上(じやう)、102あなた様(さま)を犠牲(ぎせい)にしようとズルイ考(かんが)へを起(おこ)したので厶(ござ)います。103併(しか)し乍(なが)ら私(わたし)はホンの端(はし)くれ役人(やくにん)、104これにはハムといふ発頭人(ほつとうにん)が厶(ござ)います。105到底(たうてい)あなた母娘(おやこ)に睨(にら)まれては堪(たま)りませぬから、106どうぞ三五教(あななひけう)ならば神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し、107これも神(かみ)の御(ご)都合(つがふ)だと宣(の)り直(なほ)して助(たす)けて下(くだ)さいませ。108心(こころ)の底(そこ)から改心(かいしん)して此(この)通(とほ)り手(て)を合(あは)してお詫(わび)致(いた)します。109コリヤ、110テク、111貴様(きさま)もお詫(わび)の加勢(かせい)をしてくれぬか。112御(ご)立腹(りつぷく)がひどいと見(み)えて、113容易(ようい)にお気色(きしよく)が直(なほ)らぬぢやないか』
114黄金姫(わうごんひめ)『お前(まへ)のいふ事(こと)は寸分(すんぶん)間違(まちがひ)はないか』
115レーブ『ヘーヘー、116どうして嘘(うそ)を申(まを)しませう』
117清照姫(きよてるひめ)『コレ、118レーブとやら、119鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)は本当(ほんたう)に御(ご)壮健(さうけん)でゐらせられますかなア。120綺麗(きれい)な奥様(おくさま)を迎(むか)へてゐられる様(やう)な事(こと)はないかな』
121レーブ『どうしてどうして、122品行(ひんかう)方正(はうせい)な慈悲(じひ)深(ぶか)いそれはそれは、123ハルナの都(みやこ)でも名(な)の高(たか)い、124聖人(せいじん)君子(くんし)と、125バラモン国(こく)一体(いつたい)に仰(あふ)がれて厶(ござ)るお方(かた)で厶(ござ)います』
126清照姫(きよてるひめ)『大黒主(おほくろぬし)様(さま)は壮健(さうけん)でゐらせられますか』
127レーブ『ヘーヘー、128壮健(さうけん)も壮健(さうけん)、129先(さき)の奥様(おくさま)が古(ふる)くなつたというて、130小(ち)つぽけな家(いへ)を建(た)てて隠居(いんきよ)をさせ、131其(その)後(あと)へ天人(てんにん)のやうな若(わか)い女房(にようばう)を据(す)ゑ、132沢山(たくさん)な妾(めかけ)を囲(かこ)つて、133朝(あさ)から晩(ばん)まで酒池(しゆち)肉林(にくりん)の乱痴気(らんちき)騒(さわ)ぎ、134誰(たれ)も彼(かれ)も眉(まゆ)を顰(ひそ)めて居(を)りますけれど、135何(なに)を云(い)うても沢山(たくさん)の軍隊(ぐんたい)を抱(かか)へてゐる英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)、136そして梵天王(ぼんてんわう)の御(ご)子孫(しそん)といふので、137何事(なにごと)をなさつても御(ご)意見(いけん)申上(まをしあ)げる者(もの)も無(な)し、138鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)に比(くら)ぶれば、139其(その)信用(しんよう)の点(てん)に於(おい)ても、140品行(ひんかう)の点(てん)に於(おい)ても天地(てんち)黒白(こくびやく)の相違(さうゐ)で厶(ござ)います。141大黒主(おほくろぬし)様(さま)は余(あま)り鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)の御(ご)信用(しんよう)が高(たか)うなつたので、142少(すこ)しく猜疑心(さいぎしん)が起(おこ)り、143何(なに)かにつけて御(ご)主人(しゆじん)様(さま)のなさる事(こと)を、144ゴテゴテとケチをつけ、145無理(むり)難題(なんだい)を吹(ふつ)かけ、146種々(しゆじゆ)雑多(ざつた)の圧迫(あつぱく)を加(くは)へられますが、147御(ご)忍耐(にんたい)の強(つよ)い私(わたし)の御(ご)主人(しゆじん)は、148大黒主(おほくろぬし)様(さま)が何(なん)と仰有(おつしや)つても、149平気(へいき)な顔(かほ)で唯々(ゐゐ)諾々(だくだく)として従(したが)うていらつしやいます。150家来(けらい)の私(わたし)でさへも気(き)の毒(どく)でなりませぬ』
151と差俯(さしうつ)むいて涙(なみだ)をハラハラと流(なが)す、152其(その)涙(なみだ)に真実(しんじつ)が現(あら)はれてゐた。
153黄金姫(わうごんひめ)『それを聞(き)いて私(わたし)も安心(あんしん)した。154実(じつ)は鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)の女房(にようばう)蜈蚣姫(むかでひめ)は私(わし)だよ』
155 レーブは此(この)言(げん)に驚(おどろ)いて大地(だいち)に平伏(ひれふ)し、
156レーブ『コレハコレハ奥様(おくさま)で御座(ござ)いましたか。157存(ぞん)ぜぬこととて重々(ぢうぢう)の御(ご)無礼(ぶれい)、158何卒(どうぞ)お赦(ゆる)し下(くだ)さいませ。159そんなら此(この)娘(むすめ)様(さま)は小糸姫(こいとひめ)様(さま)で厶(ござ)いますか』
160と又(また)サメザメと嬉(うれ)し泣(な)きに泣(な)く。
161清照姫(きよてるひめ)『私(わたし)は鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)の娘(むすめ)小糸姫(こいとひめ)だ。162十五(じふご)の時(とき)に心(こころ)の曇(くも)りから家(いへ)を飛出(とびだ)し、163両親(りやうしん)に御(ご)心配(しんぱい)をかけた者(もの)だ。164お前(まへ)は私(わたし)の来歴(らいれき)を聞(き)いて居(ゐ)るだらうな』
165レーブ『ハイ詳(くは)しい事(こと)は存(ぞん)じませぬが、166チヨイチヨイ、167同僚間(どうれうかん)の話頭(わとう)に上(のぼ)りますので、168ウスウス承(うけたま)はつて居(を)りました。169それを聞(き)きます上(うへ)は奥様(おくさま)お娘子(むすめご)に違(ちがひ)は厶(ござ)いませぬ。170どうぞ御(ご)安心(あんしん)の上(うへ)此(この)馬(うま)に乗(の)つて、171私(わたし)にハルナの都(みやこ)まで送(おく)らせて下(くだ)さいませ。172さうしますれば御(ご)主人(しゆじん)様(さま)に対(たい)しても忠義(ちうぎ)が立(た)つといふもの、173お願(ねがひ)で厶(ござ)います』
174黄金姫(わうごんひめ)『アヽ何(なん)と神(かみ)様(さま)は水(みづ)も洩(も)らさぬ深(ふか)いお仕組(しぐみ)、175到底(たうてい)凡人(ただびと)の窺(うかが)ひ知(し)る所(ところ)でない。176併(しか)し乍(なが)ら吾(わが)夫(をつと)鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)は其(その)様(やう)な立派(りつぱ)な御(お)方(かた)になつてゐられるか、177ホンに嬉(うれ)しいことだ。178それ丈(だけ)御(ご)忍耐(にんたい)の深(ふか)い神司(かむづかさ)とお成(な)り遊(あそ)ばした以上(いじやう)は、179キツと三五教(あななひけう)の教(をしへ)をお説(と)き申(まを)したならば、180三五教(あななひけう)になつて下(くだ)さるだらう。181アヽ有難(ありがた)い有難(ありがた)い……。182コレ清照姫(きよてるひめ)、183モウ大丈夫(だいぢやうぶ)だ御(ご)安心(あんしん)なさい』
184清照姫(きよてるひめ)『お母(か)アさま、185本当(ほんたう)に嬉(うれ)しう厶(ござ)いますなア』
186レーブ『モシモシ奥様(おくさま)、187私(わたし)の前(まへ)だから、188そんなことを仰有(おつしや)つても宜(よろ)しいが、189モウこれきり三五教(あななひけう)の事(こと)は仰有(おつしや)らぬが宜(よろ)しい、190鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)の御(ご)迷惑(めいわく)になります。191それでなくても奥様(おくさま)や娘(むすめ)様(さま)が、192三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)に成(な)つてゐられるといふ噂(うはさ)が、193大黒主(おほくろぬし)様(さま)の耳(みみ)に入(はい)つてからといふものは、194大変(たいへん)な、195旦那(だんな)様(さま)に対(たい)し、196圧迫(あつぱく)が加(くは)はつて来(き)てゐます。197旦那(だんな)様(さま)は聖人(せいじん)君子(くんし)、198兵馬(へいば)の権(けん)は少(すこ)しもお握(にぎ)り遊(あそ)ばさず、199大黒主(おほくろぬし)に睨(にら)まれたが最後(さいご)御(おん)身(み)の破滅(はめつ)、200それ故(ゆゑ)一切(いつさい)を神(かみ)様(さま)に任(まか)して御(ご)隠忍(いんにん)遊(あそ)ばして厶(ござ)る其(その)矢先(やさき)、201旦那(だんな)様(さま)が三五教(あななひけう)のお話(はなし)をお聞(き)きになつたといふことが大黒主(おほくろぬし)に聞(き)かれたが最後(さいご)、202亡(ほろ)ぼされて了(しま)ひます。203どうぞ今日(けふ)限(かぎ)り言(い)はない様(やう)にして下(くだ)さる方(はう)が、204旦那(だんな)様(さま)初(はじ)め御(ご)両人(りやうにん)様(さま)のお為(ため)で厶(ござ)いませう』
205 黄金姫(わうごんひめ)は心(こころ)の裡(うち)に………ナーニ、206大黒主(おほくろぬし)何者(なにもの)ぞ、207何程(なにほど)兵馬(へいば)の権(けん)を握(にぎ)るとはいへ、208仁慈(じんじ)無限(むげん)の三五(あななひ)の言霊(ことたま)の伊吹(いぶき)に依(よ)つて言向和(ことむけやは)すは朝飯前(あさめしまへ)だ。209併(しか)し乍(なが)らこんな奴(やつこ)にそんな事(こと)を云(い)つて気(き)を揉(も)ますも可哀相(かあいさう)だ………と胸(むね)を定(き)めて、
210黄金姫『お前(まへ)のいふ通(とほ)り、211旦那(だんな)様(さま)の御(ご)難儀(なんぎ)になることだから、212モウ三五教(あななひけう)のことは云(い)ひますまい………ナア清照姫(きよてるひめ)、213お前(まへ)もこれきり言(い)はない様(やう)にして下(くだ)さいや』
214レーブ『アヽそれを聞(き)いて此(この)奴(やつこ)も安心(あんしん)致(いた)しました。215併(しか)し乍(なが)らここに一(ひと)つの大心配(だいしんぱい)が厶(ござ)います。216都(みやこ)の入口(いりぐち)に大黒主(おほくろぬし)の軍隊(ぐんたい)が警護(けいご)し、217一々(いちいち)人物(じんぶつ)検(あらた)めを致(いた)し、218信仰(しんかう)の試験(しけん)をして居(を)りますから、219其(その)時(とき)にどうぞ三五教(あななひけう)の教(をしへ)じみたことは一(ひと)つも言(い)はないやうにして下(くだ)さらぬと、220九分(くぶ)九厘(くりん)で失敗(しつぱい)してはなりませぬから……』
221黄金姫(わうごんひめ)『あゝヨシヨシ、222安心(あんしん)しておくれ、223私(わたし)も元(もと)はバラモン教(けう)の宣伝使(せんでんし)だから、224そこは如才(じよさい)なうやつてのけるから………』
225レーブ『誠(まこと)に済(す)まないことで厶(ござ)いますが、226旦那(だんな)様(さま)にお会(あ)ひなさる迄(まで)、227蜈蚣姫(むかでひめ)であつたとか、228小糸姫(こいとひめ)であつたとか云(い)ふやうなことを仰有(おつしや)つてはなりませぬぞや。229旦那(だんな)様(さま)は旦那(だんな)様(さま)で、230あなた方(がた)を恋慕(こひした)うて私(ひそ)かに呼(よ)び寄(よ)せたいと思召(おぼしめ)し、231吾々(われわれ)を四方(よも)の国(くに)にお遣(つか)はしになり、232御(おん)行方(ゆくへ)を探(さが)させてゐられますなり、233又(また)一方(いつぱう)の大黒主(おほくろぬし)の方(はう)では……鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)の奥様(おくさま)娘子(むすめご)が三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)になつてゐるさうだから、234何時(いつ)かは帰(かへ)つて来(く)るだらう、235其(その)時(とき)に鬼熊別(おにくまわけ)が三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)しようものなら、236バラモン教(けう)は根底(こんてい)から覆(かへ)つて了(しま)ふ。237鬼熊別(おにくまわけ)に親子(おやこ)の対面(たいめん)致(いた)させては大変(たいへん)だ、238それ以前(いぜん)に取(と)つ捉(つか)まへて命(いのち)を取(と)り、239鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)にソツと内証(ないしよう)で居(を)らうといふ大将(たいしやう)のズルイお考(かんが)へ、240かういふ具合(ぐあひ)で、241大黒主(おほくろぬし)様(さま)と鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)とは始終(しじう)暗闘(あんとう)が続(つづ)けられて居(を)りますから、242中々(なかなか)都(みやこ)の関門(くわんもん)をくぐることは容易(ようい)なことでは厶(ござ)いませぬ。243甚(はなは)だ申(まをし)にくいこと乍(なが)ら、244あなた様(さま)母娘(おやこ)を科人(とがにん)として縛(しば)り上(あ)げ、245馬(うま)の背(せ)に括(くく)りつけて関門(くわんもん)をくぐりお館(やかた)まで送(おく)るより手段(しゆだん)はないので厶(ござ)います』
246 黄金姫(わうごんひめ)はニタリと笑(わら)ひ、247心(こころ)の中(うち)にて………ナニそれ程(ほど)驚(おどろ)くことがあるものか、248吾々(われわれ)にはキツと神(かみ)様(さま)が守護(しゆご)して厶(ござ)る、249そんなことは心配(しんぱい)すな……と口(くち)まで出(だ)さうとしたが、250俄(にはか)に呑(の)み込(こ)み、251ワザと心配(しんぱい)さうに、
252黄金姫『何(なに)から何(なに)まで気(き)をつけて呉(く)れるお前(まへ)の親切(しんせつ)、253黄金姫(わうごんひめ)も有難(ありがた)う思(おも)ふぞや』
254レーブ『ハイ、255勿体(もつたい)ない其(その)お言葉(ことば)、256左様(さやう)ならば今夜(こんや)はここで寝(やす)むことに致(いた)しませう。257実(じつ)は此(この)テームス峠(たうげ)は剣呑(けんのん)で厶(ござ)います。258大黒主(おほくろぬし)の一派(いつぱ)の奴(やつ)が関所(せきしよ)を構(かま)へて往来(ゆきき)の人(ひと)を査(しら)べて居(を)りますから、259夜分(やぶん)は尚更(なほさら)剣呑(けんのん)なれば、260夜(よ)の明(あ)けるのを待(ま)ち、261姿(すがた)を変(か)へて此(この)峠(たうげ)を越(こ)えることと致(いた)しませう』
262清照姫(きよてるひめ)『お母(か)アさま、263昼(ひる)よりもそんな危険(きけん)な処(ところ)なら、264夜分(やぶん)の方(はう)が面白(おもしろ)いぢやありませぬか。265大黒主(おほくろぬし)の部下(ぶか)が仮令(たとへ)何万(なんまん)押寄(おしよ)せ来(きた)る共(とも)、266言霊(ことたま)の神力(しんりき)や、267生(うま)れつきの吾(わが)武勇(ぶゆう)にて、268一人(ひとり)も残(のこ)らず谷底(たにそこ)へ投(な)げやり、269懲(こら)しめてやつたら、270眠気(ねむけ)さましになつて面白(おもしろ)いぢやありませぬか。271そんなことを聞(き)くと、272如何(どう)してこんな所(ところ)に、273夜明(よあ)かしが出来(でき)ませう。274どうも肉(にく)が躍(をど)つて腕(うで)が鳴(な)り堪(た)へられなくなつて来(き)ました』
275黄金姫(わうごんひめ)『コレコレ清照姫(きよてるひめ)、276大事(だいじ)の前(まへ)の小事(せうじ)だ。277小童(こわつぱ)武者(むしや)に相手(あひて)になり、278ハルナの都(みやこ)へ入城(にふじやう)の妨害(ばうがい)になつては、279それこそ大変(たいへん)だから、280レーブの云(い)ふ通(とほ)り、281都(みやこ)へ着(つ)く迄(まで)は柔順(おとな)しうして行(ゆ)きませう。282まして無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)の三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)がそんな事(こと)をしてはなりませぬぞや、283賢(かしこ)いやうでもまだ年(とし)が若(わか)いから、284……アヽ困(こま)りますワイ、285かうなると老人(としより)も矢張(やつぱり)必要(ひつえう)だなア。286オホヽヽヽヽ』
287清照姫(きよてるひめ)『何事(なにごと)も神(かみ)様(さま)とお母(か)ア様(さま)にお任(まか)せ致(いた)しませう』
288黄金姫(わうごんひめ)『アヽそれが良(よ)い それが良(よ)い。289神(かみ)様(さま)も嘸(さぞ)お前(まへ)の其(その)お言(ことば)を御(ご)満足(まんぞく)に思召(おぼしめ)すであらう。290そんならレーブ、291今夜(こんや)はここで夜(よ)を明(あ)かすことにしよう』
292レーブ『ハイ、293さうなされませ。294私(わたし)もこれで安心(あんしん)を致(いた)しました』
295と主従(しゆじゆう)四(よ)人(にん)は岩(いは)の上(うへ)に蓑(みの)を布(し)き、296一夜(いちや)を明(あか)すこととなつた。297四辺(あたり)に聞(きこ)ゆる狼(おほかみ)の唸(うな)り声(ごゑ)、298凩(こがらし)の声(こゑ)と共(とも)に物凄(ものすご)く聞(きこ)え来(き)たる。
299(大正一一・一〇・二九 旧九・一〇 松村真澄録)
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