霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 焼糞(やけくそ)〔一〇八〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻 篇:第4篇 浮木の岩窟 よみ(新仮名遣い):うききのがんくつ
章:第15章 焼糞 よみ(新仮名遣い):やけくそ 通し章番号:1080
口述日:1922(大正11)年10月28日(旧09月9日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
清春山の岩窟では、大黒主の命により、大将の大足別が数百人の兵士を引き連れてデカタン高原に出陣した後であった。
大将がいなくなった後、二十人ばかりの留守番の者たちは朝から晩まで酒を飲んで酔いつぶれ、管を巻いていた。岩窟の奥には、照国別・菖蒲の両親が囚われていた。
留守番たちが宴会をしているところへ入り口の門番が慌てて入ってきて、門口に強そうな宣伝使三人と美しい女の一行が現れたと注進した。一同はあわてて右往左往する。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-21 10:16:53 文字数:4713 OBC :rm3915
愛善世界社版:208頁 八幡書店版:第7輯 355頁 修補版: 校定版:219頁 普及版:89頁 初版: ページ備考:
001梵天王(ぼんてんわう)の自在天(じざいてん)
002バラモン国(こく)に名(な)も高(たか)き
003ハルナの都(みやこ)に現(あら)はれし
004大黒主(おほくろぬし)の片腕(かたうで)と
005選(えら)まれゐたる神司(かむづかさ)
006大足別(おほだるわけ)はフサの国(くに)
007印度(ツキ)の御国(みくに)の国境(くにざかひ)
008清春山(きよはるやま)の岩窟(がんくつ)に
009数多(あまた)の部下(ぶか)を呼(よ)び集(つど)へ
010暴威(ばうゐ)を振(ふる)ふ其(その)内(うち)に
011三五教(あななひけう)の神司(かむづかさ)
012照国別(てるくにわけ)の妹(いもと)なる
013菖蒲(あやめ)の方(かた)に目(め)をくれて
014朝(あさ)な夕(ゆふ)なに諸人(もろびと)を
015彼(かれ)が館(やかた)に遣(つか)はしつ
016千言(せんげん)万語(ばんご)を費(つひや)して
017口説(くど)けど説(と)けど磐石(ばんじやく)の
018揺(ゆる)がぬ固(かた)き決心(けつしん)に
019流石(さすが)の魔神(まがみ)も辟易(へきえき)し
020ここに全(まつた)く手(て)を変(か)へて
021レール(四郎)セーム(清六)や
022シヤム(三六)ハール(八郎)
023ポーロ(保道)の五(ご)人(にん)を河鹿山(かじかやま)
024麓(ふもと)の道(みち)に遣(つか)はして
025菖蒲(あやめ)の方(かた)がウブスナの
026斎苑(いそ)の館(やかた)に行(ゆ)く道(みち)を
027取押(とりおさ)へむと待(ま)ちゐたる
028時(とき)しもあれや三五(あななひ)の
029教(をしへ)を慕(した)ふ梅彦(うめひこ)が
030妹(いもと)と生(うま)れし花菖蒲(はなあやめ)
031女(をんな)の繊弱(かよわ)き一人旅(ひとりたび)
032来(き)かかる前(まへ)に塞(ふさ)がりて
033有無(うむ)を云(い)はせずフン縛(じば)り
034清春山(きよはるやま)の谷間(たにあひ)に
035引(ひき)つれ来(きた)りて各自(めいめい)に
036大足別(おほだるわけ)の望(のぞ)みをば
037徹(とほ)さむものと左右(さいう)より
038嚇(おど)しつすかしつ努(つと)むれど
039信仰(しんかう)堅固(けんご)の菖蒲子(あやめこ)は
040頭(かうべ)を左右(さいう)に打(うち)ふりて
041いつかな動(うご)かぬ権幕(けんまく)に
042流石(さすが)の曲津(まがつ)も持(も)ちあぐみ
043困(こま)りぬいたる折柄(をりから)に
044遥(はるか)に聞(きこ)ゆる宣伝歌(せんでんか)
045五(ご)人(にん)は一度(いちど)に肝冷(きもひや)し
046逃(に)げ隠(かく)れむとする時(とき)に
047現(あら)はれ来(きた)りし宣伝使(せんでんし)
048照国別(てるくにわけ)の眼力(がんりき)に
049睨(にら)まれ恐(おそ)れて雲(くも)霞(かすみ)
050逃(に)げ行(ゆ)く後(あと)に菖蒲子(あやめこ)が
051涙(なみだ)ながらの物語(ものがたり)
052よくよく聞(き)けば両親(りやうしん)は
053大足別(おほだるわけ)に捕(とら)へられ
054朝(あさ)な夕(ゆふ)なの責苦(せめく)をば
055忍(しの)びゐますと聞(き)きしより
056照国別(てるくにわけ)は驚(おどろ)いて
057日頃(ひごろ)尋(たづ)ねし父母(ちちはは)は
058バラモン教(けう)の岩窟(がんくつ)に
059囚(とら)はれ給(たま)ふか いぢらしや
060日頃(ひごろ)尋(たづ)ねし妹(いもうと)は
061汝(なんぢ)なりしや嬉(うれ)しやと
062心(こころ)も勇(いさ)み身(み)も勇(いさ)み
063照公(てるこう)梅公(うめこう)諸共(もろとも)に
064清春山(きよはるやま)の岩窟(がんくつ)に
065登(のぼ)り行(ゆ)くこそ雄々(をを)しけれ。
066 清春山(きよはるやま)の岩窟(がんくつ)には大将(たいしやう)の大足別(おほだるわけ)が数百(すうひやく)人(にん)の武卒(ぶそつ)を率(ひき)ゐ、067大黒主(おほくろぬし)の命(めい)によつてデカタン高原(かうげん)に蟠居(ばんきよ)せるウラル教(けう)の集団(しふだん)を勦滅(さうめつ)せむと出陣(しゆつぢん)した後(あと)であつた。068目(め)の上(うへ)の瘤(こぶ)と嫌(いや)がつてゐた大足別(おほだるわけ)の大将(たいしやう)が出陣(しゆつぢん)した後(あと)は、069恐(こわ)い者(もの)なしの連中(れんちう)、070朝(あさ)から晩(ばん)まで酒(さけ)をとり出(だ)し、071『会(あ)ふた時(とき)に笠(かさ)ぬげ式(しき)』で、072ビールやポートワインを穴倉(あなぐら)より取(と)り出(だ)し、073朝(あさ)から晩(ばん)まで管(くだ)の巻(ま)きつづけをやつてゐた。
074 二十(にじふ)人(にん)ばかりの留守番(るすばん)は各(おのおの)八畳(はちじやう)ばかりの間(ま)に胡坐(あぐら)をかき乍(なが)ら、075遠慮(ゑんりよ)なしに秘蔵(ひざう)の酒(さけ)をとり出(だ)しウラル教(けう)式(しき)に、
076飲(の)めよ騒(さわ)げよ一寸先(いつすんさき)や暗(やみ)よ
077暗(やみ)の後(あと)には月(つき)が出(で)る
078と唄(うた)ひ乍(なが)らヘベレケに酔(よ)ひ潰(つぶ)れ、079脱線(だつせん)振(ぶ)りを盛(さか)んに発揮(はつき)してゐる。
080レール『オイ、081ポーロ、082貴様(きさま)は何時(いつ)も御(おん)大将(たいしやう)を笠(かさ)に着(き)て俺(おれ)達(たち)を腮(あご)の先(さき)でコキ使(つか)ひやがつたが、083もう今日(けふ)となつては駄目(だめ)だ。084これからレールさまが留守(るす)師団長(しだんちやう)だから其(その)命令(めいれい)を遵奉(じゆんぽう)するのだよ。085万々一(まんまんいち)レールの御(ご)命令(めいれい)に服従(ふくじゆう)せないと、086此(この)間(あひだ)のタルチン(太郎吉)の様(やう)に岩上(がんじやう)から深谷川(ふかたにがは)へ空中(くうちう)滑走(くわつそう)の曲芸(きよくげい)を演(えん)じて谷底(たにそこ)に伏艇(ふくてい)し、087其(その)まま三途(さんづ)の川(かは)へタダ走(ばし)りにならねばならぬから、088チツとは神妙(しんめう)にしたが宜(よ)からうぞ。089貴様(きさま)が何時(いつ)も飲食物(いんしよくぶつ)にケチをつけゴテゴテ吐(ぬか)すものだから、090胃(ゐ)の腑(ふ)の格納庫(かくなふこ)は空虚(くうきよ)になり、091碌(ろく)に働(はたら)きも出来(でき)やしない。092コンパスのプロペラがチツとも云(い)ふ事(こと)をきかないから、093それで是非(ぜひ)なく斯(か)うしてヘタばつて酒(さけ)を飲(の)んで居(ゐ)るのだ。094オイ、095皆(みな)の奴(やつ)、096大将(たいしやう)は印度(ツキ)の国(くに)の都(みやこ)まで行(い)つて、097それから大黒主(おほくろぬし)の軍隊(ぐんたい)と合(がつ)し、098デカタン高原(かうげん)へ行(ゆ)くのだから、099先(ま)づ一(いち)年(ねん)位(ぐらゐ)は帰(かへ)つて来(こ)ない事(こと)は請合(うけあひ)だ。100あるだけの酒(さけ)を飲(の)んでパンを喰(く)ひ尽(つく)し、101無(な)くなつたら今度(こんど)はアーメニヤに長駆(ちやうく)進撃(しんげき)してウラル彦(ひこ)の館(やかた)を襲(おそ)ひ、102ここも亦(また)蚕(かひこ)の虫(むし)が桑(くは)の葉(は)を喰(く)ふ様(やう)に喰(く)ひつぶしさへすれば吾々(われわれ)の天下(てんか)は太平(たいへい)だ。103こんな甘(うま)い酒(さけ)も飲(の)まずに河鹿(かじか)峠(たうげ)を痩馬(やせうま)追(お)ふ様(やう)に朝(あさ)から晩(ばん)までハイハイと云(い)つて居(ゐ)るのも気(き)が利(き)かねい。104こんな事(こと)が出(で)て来(く)ると思(おも)つて待(ま)つてゐたのだ。105俺(おれ)達(たち)は大将(たいしやう)から腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)の、106裏返(うらがへ)り者(もの)と認識(にんしき)されてゐるのだから、107肝腎(かんじん)の戦争(せんそう)にも連(つ)れて行(ゆ)きやがらなんだのだよ』
108ポーロ『それが却(かへつ)て此方(こち)とらの好都合(かうつがふ)だ。109俺(おれ)も今迄(いままで)は大将(たいしやう)の命令(めいれい)で威張(ゐば)つてゐたものの心(こころ)の底(そこ)をたたいたらヤツパリお前(まへ)達(たち)と同一(どういつ)だ』
110レール『さう聞(き)けば牛(うし)の爪(つめ)だ、111先(さき)からよく分(わか)つてる。112然(しか)し分(わか)らぬのは奥(おく)の岩窟(がんくつ)に隠(かく)してある老夫婦(らうふうふ)ぢやないか。113あんな柔順(おとなし)い老人(らうじん)を何故(なぜ)何時(いつ)までもあんな暗室(あんしつ)に突(つ)つ込(こ)んでおくのだらう。114第一(だいいち)それが俺(おれ)は気(き)に喰(く)はないのだ、115………ポーロ、116貴様(きさま)は凡(すべ)ての様子(やうす)を知(し)つてゐる筈(はず)だ。117キレイサツパリとここで白状(はくじやう)して了(しま)へ』
118ポーロ『もう斯(か)うなる上(うへ)は何(なに)をか包(つつ)まむやだ。119大(おほ)きな声(こゑ)では云(い)はれぬが此処(ここ)の大将(たいしやう)は天下(てんか)無類(むるゐ)のデレ助(すけ)だ。120バラモン教(けう)で居(ゐ)乍(なが)らウラル教(けう)の娘(むすめ)にゾツコン惚込(ほれこ)んで『女房(にようばう)に呉(く)れえ』と掛合(かけあ)つた所(ところ)、121宗旨(しうし)が違(ちが)ふので今(いま)幽閉(いうへい)されている夫婦(ふうふ)が容易(ようい)に首(くび)を縦(たて)にふらない。122そこで大足別(おほだるわけ)の大将(たいしやう)が手(て)を代(か)へ品(しな)をかへ、123沢山(たくさん)な贈物(おくりもの)をして夫婦(ふうふ)を説(と)きつけたけれども、124どうしても駄目(だめ)だつた。125そこで今度(こんど)は焼糞(やけくそ)になつて老夫婦(らうふうふ)がコーカス山(ざん)に参拝(さんぱい)する途中(とちう)を待(ま)ち受(う)け高手(たかて)小手(こて)に縛(いま)しめ象(ざう)の背(せ)にフン縛(じば)つて亦(また)も馬(うま)の背(せ)にのせ到頭(たうとう)此(この)岩窟(がんくつ)まで連(つ)れ帰(かへ)り、126朝(あさ)から晩(ばん)まで『姫(ひめ)を渡(わた)すか、127渡(わた)せば助(たす)けてやる、128嫌(いや)ぢや何(なん)ぞと吐(ぬか)すが最後(さいご)、129貴様(きさま)の素首(そつくび)を引(ひき)ぬいてやらう』と執念深(しふねんぶか)くも、130御(おん)大(たい)自(みづか)ら幽閉室(いうへいしつ)の前(まへ)に現(あら)はれて口説(くど)きたてるのだから堪(たま)らない。131あんな大将(たいしやう)に見込(みこ)まれたら、132丸(まる)で蛇(へび)に狙(ねら)はれた蛙(かへる)の様(やう)なものだらう』
133レール『其(その)娘(むすめ)は何処(どこ)に居(ゐ)るのだ。134肝腎(かんじん)の代物(しろもの)が無(な)いのに爺(ぢぢ)や婆(ばば)を苛(いぢ)めて居(を)つても仕方(しかた)がないぢやないか。135大足別(おほだるわけ)の大将(たいしやう)も余程(よほど)訳(わけ)の分(わか)らぬケレ又(また)人足(にんそく)だのう』
136ポーロ『オイ、137コラ、138そんな事(こと)を吐(ぬか)すと剣呑(けんのん)だぞ。139此(この)中(なか)にも矢張(やつぱり)犬(いぬ)が潜(ひそ)んで居(ゐ)るぞ。140俺(おれ)達(たち)の行動(かうどう)を密告(みつこく)する代物(しろもの)が何喰(なにく)はぬ顔(かほ)して潜入(せんにふ)してゐるのだから、141あんまりの事(こと)は言(い)はぬがよからう。142敵(てき)の中(なか)にも味方(みかた)があれば、143味方(みかた)の中(なか)にも敵(てき)がある今(いま)の世(よ)の中(なか)、144チツト気(き)をつけぬかい』
145レール『その犬(いぬ)と云(い)ふのはチヤンと俺(おれ)の天眼通(てんがんつう)で看破(かんぱ)してあるのだ。146大方(おほかた)エルマの事(こと)だらう』
147ポーロ『それさへ分(わか)つて居(を)れば俺(おれ)も安心(あんしん)だ。148此奴(こいつ)は俺(おれ)等(たち)の中(なか)に身(み)を低(ひく)うして交(まじ)つてゐるが、149実(じつ)の処(ところ)は大足別(おほだるわけ)の従弟(いとこ)に当(あた)る奴(やつ)だ。150然(しか)しながら斯(か)うなつた以上(いじやう)はエルマを許(ゆる)しておく訳(わけ)には行(ゆ)くまい。151酒(さけ)に酔(よ)うた紛(まぎ)れに、152此奴(こいつ)をフン縛(じば)つて谷川(たにがは)へドブ漬(づ)け茄子(なすび)とやつてこまさうかい』
153エルマ『コリヤコリヤ、154何(なに)を吐(ぬか)すのだ。155間違(まちが)ふにも程(ほど)があるぞ。156大将(たいしやう)の従弟(いとこ)はポーロぢやないか』
157レール『エルマとポーロと間違(まちが)つた所(ところ)でたつた一人(ひとり)の事(こと)だ。158もう斯(か)う酒(さけ)がまはつては何(ど)ちらが善(ぜん)か悪(あく)か分(わか)らない。159一層(いつそう)の事(こと)二人(ふたり)ともドブンとやつて了(しま)へばいいぢやないか、160一人(ひとり)の奴(やつ)は時(とき)の災難(さいなん)ぢやと思(おも)つて諦(あきら)めさへすれば宜(い)いのだ。161ウフヽヽヽ』
162ポーロ『コラコラ、163味方(みかた)同志(どうし)が内乱(ないらん)を起(おこ)しちやつまらないぞ。164ここは吾々(われわれ)一同(いちどう)が腹帯(はらおび)をしめ結束(けつそく)を固(かた)くして居(を)らねば、165主人(あるじ)の留守(るす)を考(かんが)へて三五教(あななひけう)の奴(やつ)が襲撃(しふげき)して来(き)たら如何(どう)する。166「兄弟(けいてい)牆(かき)に鬩(せめ)ぐとも外(そと)其(その)侮(あなどり)を防(ふせ)ぐ」と云(い)ふ金言(きんげん)を心得(こころえ)ぬかい』
167レール『金言(きんげん)も心得(こころえ)もあつたものかい。168主人(あるじ)の留守(るす)の真鍋(まなべ)焚(た)き、169毎日(まいにち)日日(ひにち)無礼講(ぶれいかう)を開(ひら)いて各自(めいめい)心(こころ)の塵芥(ごもくた)を払(はら)ひ出(だ)し水晶魂(すゐしやうだま)となりさへすればバラモン教(けう)の御(ご)神慮(しんりよ)に叶(かな)ふのだ。170酒(さけ)さへ飲(の)めば何(なん)でも彼(かん)でも腹(はら)の底(そこ)まで打明(うちあか)すものだから酒(さけ)ほど偉(えら)いものはない。171アヽ酒(さけ)なる哉(かな)酒(さけ)なる哉(かな)だ。172さけもさけも世(よ)の中(なか)に酒(さけ)ほど愛嬌(あいけう)のものあろか、173イヒヽヽヽヽ。174何(なん)とうまい酒(さけ)だのう、175こんな時(とき)に喧嘩(けんくわ)をする様(やう)な野暮(やぼ)が何処(どこ)にあるかい。176酒(さけ)さへ飲(の)めば善(ぜん)もなければ悪(あく)もない。177敵(てき)もなければ味方(みかた)もない。178喧嘩(けんくわ)の仲裁(ちうさい)する奴(やつ)はヤツパリ酒(さけ)だ。179仲裁(ちうさい)の権威(けんゐ)を保有(ほいう)する酒(さけ)を先(さき)に飲(の)んで置(お)き乍(なが)ら喧嘩(けんくわ)をすると云(い)ふ事(こと)があるものけえ、180アーン』
181エルマ『さうともさうとも一切(いつさい)万事(ばんじ)酒(さけ)で解決(かいけつ)のつく世(よ)の中(なか)だ。182(歌口調(うたくてう))「アヽ、183世(よ)の中(なか)豊年(ほうねん)ぢや、184万作(まんさく)ぢや、185万作(まんさく)々々(まんさく)万作(まんさく)ぢや」(都々逸(どどいつ))「酒(さけ)を飲(の)む人(ひと)心(しん)から可愛(かあい)い、186酔(よ)うて管巻(くだま)きやなほ可愛(かあい)い」とけつかるワイ、187ウー、188ゲツプ、189ウーン、190酒(さけ)の奴(やつ)、191不謹慎(ふきんしん)千万(せんばん)にも俺(おれ)達(たち)の密談(みつだん)を聞(き)かうと思(おも)うて喉元(のどもと)から一寸(ちよつと)覗(のぞ)きやがつた。192エー不従順(ふじうじゆん)な代物(しろもの)だなア』
193ポーロ『コラ、194レール、195ポーロ ポーロと涙(なみだ)をこぼしもつて酒(さけ)を喰(くら)ふ奴(やつ)があるかい。196酒(さけ)を飲(の)んだら飲(の)んだらしう何故(なぜ)勇(いさ)まぬのか。197貴様(きさま)は泣上戸(なきじやうご)だな』
198レール『あんまりの酒(さけ)の洪水(こうずゐ)でレールが沈没(ちんぼつ)し汽車(きしや)が方向(はうかう)を取違(とりちが)へて脱線(だつせん)したのだ。199乗客(じやうきやく)は忽(たちま)ち顛覆(てんぷく)の厄(やく)に会(あ)ひ阿鼻(あび)叫喚(けうくわん)恰(あだか)も地獄(ぢごく)の如(ごと)しだ。200其(その)惨状(さんじやう)を見(み)るに忍(しの)びず、201一掬(いつきく)同情(どうじやう)の涙(なみだ)をそそいだのだ。202貴様(きさま)の様(やう)な奴(やつ)が英雄(えいゆう)の心事(しんじ)が分(わか)つて堪(たま)るかい。203えーウーゲツプウーン、204酒(さけ)の奴(やつ)、205又(また)しても法則(はふそく)を破(やぶ)つて秘密室(ひみつしつ)を覗(のぞ)かうとしやがる。206怪(け)しからぬ奴(やつ)だな。207こらヤツコス、208貴様(きさま)、209何(なん)だ、210真面目(まじめ)腐(くさ)つた顔(かほ)しやがつて貴様(きさま)こそ剣呑(けんのん)だ。211これ丈(だ)け皆(みな)がうま酒(ざけ)に酔(よ)うて居(ゐ)るのに貴様(きさま)だけ真面目(まじめ)な顔(かほ)をしやがつて、212何(なん)の事(こと)だい、213大方(おほかた)貴様(きさま)は大将(たいしやう)が帰(かへ)つて来(き)たら俺(おれ)達(たち)の行動(かうどう)を一々(いちいち)上申(じやうしん)するつもりだらう。214アーン』
215ヤツコス『ヤイ、216レール、217そんな殺生(せつしやう)な事(こと)を云(い)つてくれるない。218俺(おれ)は貴様(きさま)等(ら)の知(し)つてる通(とほ)り極端(きよくたん)な下戸(げこ)ぢやないか。219下戸(げこ)が如何(どう)して酒(さけ)が飲(の)めるかい』
220レール『酒(さけ)好(この)む人(ひと)が奈良漬(ならづけ)食(く)はずして酒(さけ)好(す)かぬ人(ひと)が粕汁(かすじる)を喰(くら)ふ………と云(い)ふことがある。221貴様(きさま)、222粕汁(かすじる)ならチツとばかり喰(く)ふだらう。223粕汁(かすじる)でもあまり馬鹿(ばか)にならないぞ。224ドツサリ飲(の)めば酔(よ)ふぞ。225貴様(きさま)も粕汁(かすじる)でも飲(の)んで古今(ここん)独歩(どくぽ)珍無類(ちんむるゐ)の管(くだ)を巻(ま)いたら如何(どう)だ(歌口調(うたくてう))「酒(さけ)を飲(の)まぬ奴(やつ)ア心(しん)から憎(にく)い、226管(くだ)も巻(ま)かぬ奴(やつ)ア、227なほ憎(にく)い」と云(い)ふ事(こと)があるぞ、228ヤイ、229ヤツコス奴(め)一(ひと)ツ飲(の)んだら如何(どう)だい。230酒(さけ)が強(きつ)うて飲(の)めなけりや湯(ゆ)でもさして緩(ゆる)うしてやらうか』
231ヤツコス『イヤ、232もう沢山(たくさん)だ。233決(けつ)してお前(まへ)等(ら)の行動(かうどう)を上申(じやうしん)する様(やう)な不道徳(ふだうとく)な事(こと)はせぬから安心(あんしん)して呉(く)れえ』
234レール『酒(さけ)の席(せき)に酒(さけ)飲(の)まぬ奴(やつ)が坐(すわ)つてると何(なん)ともなしに気(き)がひけて、235座(ざ)が白(しら)けて仕方(しかた)がないワ。236そして女(をんな)のお給仕(きふじ)がないと云(い)ふから殺風景(さつぷうけい)な事(こと)此(この)上(うへ)なしだ。237時(とき)に此処(ここ)の大将(たいしやう)が恋着(れんちやく)してる「アヤメ」と云(い)ふナイスは何処(どこ)に居(ゐ)るだらうな。238俺(おれ)はそのナイスの事(こと)が苦(く)になつて忘(わす)れられぬわいのう。239オヽヽヽヽ(義太夫(ぎだいふ))思(おも)へば思(おも)へば いぢらしいやあ、240父(ちち)と母(はは)とは名(な)も高(たか)きコーカス山(ざん)のお宮詣(みやまう)での其(その)砌(みぎり)、241バラモン教(けう)の曲津(まがつ)神(かみ)……………』
242ポーロ『コリヤコリヤ、243曲津(まがつ)神(かみ)と云(い)ふ事(こと)があるかい』
244レール『(義太夫(ぎだいふ))バラモン教(けう)の神司(かむづかさ)、245大黒主(おほくろぬし)に捕(とら)へられ荒風(あらかぜ)すさぶ山野(さんや)を渡(わた)りやうやうに、246象(ざう)の背中(せなか)に乗(の)せられて、247ここまで来(き)たのがアヽヽヽ運(うん)の尽(つ)き、248暗(くら)き牢屋(らうや)に投(な)げ込(こ)まれ、249朝(あさ)な、250夕(ゆふ)なの御飯(ごはん)さへ、251碌々(ろくろく)味(あぢ)はふ事(こと)も得(え)ず、252苦(くる)しみ歎(なげ)く あゝゝゝり様(さま)はアヽヽ、253よその見(み)る目(め)も憐(あは)れなり、254一(いち)時(じ)も早(はや)く吾(わが)娘(むすめ)、255ここに尋(たづ)ねて来(く)るなれば、256大足別(おほだるわけ)の大将(たいしやう)も、257目(め)を細(ほそ)うして涎(よだれ)こき、258以(もつ)ての外(ほか)の御(ご)満足(まんぞく)、259とは云(い)ひ乍(なが)ら情(なさけ)なや、260三五教(あななひけう)の司(つかさ)なら、261可愛(かあい)い娘(むすめ)を女房(にようばう)に、262熨斗(のし)までつけて奉(たてまつ)らむと思(おも)へども、263悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の大黒主(おほくろぬし)がオツトドツコイヽヽヽ仁慈(じんじ)無限(むげん)の大黒主(おほくろぬし)が、264左守(さもり)の神(かみ)にも譬(たと)ふべき、265清春山(きよはるやま)の岩窟(がんくつ)に、266勢(いきほ)ひ並(なら)ぶものもなき、267大足別(おほだるわけ)と云(い)ひ乍(なが)ら、268これが女房(にようばう)にやられようか、269ほんに思(おも)へば前(さき)の世(よ)で、270如何(いか)なる事(こと)の罪(つみ)せしか、271憐(あは)れみ玉(たま)へや三五(あななひ)の、272皇(すめ)大神(おほかみ)と口説(くど)きたて、273くどき立(た)つれエヽヽばアヽヽヽレールさま、274………と云(い)ふ様(やう)な老夫婦(らうふうふ)の心情(しんじやう)だ。275オイ一(ひと)つ脱線(だつせん)つづけに婆(ばば)でも女(をんな)に違(ちが)ひないから牢屋(らうや)から引張(ひつぱ)り出(だ)してお給仕(きふじ)でもさしたらどうだ。276あまり心持(こころもち)悪(わる)くはあるめいぞ。277アーン』
278一同(いちどう)『イヒヽヽヽ』
279と歯(は)を剥(む)き出(だ)し腮(あご)をシヤクつて笑(わら)ふ折(をり)しも、280入口(いりぐち)の番(ばん)をして居(ゐ)たキルク(喜久雄)は宙(ちう)をとんで馳(は)せ来(きた)り、
281キルク『モシモシ ポーロさま、282たゝゝゝゝ大変(たいへん)だ大変(たいへん)だ。283立派(りつぱ)な美人(びじん)が来(き)ましたぜ』
284ポーロ『ナニ、285美人(びじん)が来(き)た。286そりや大変(たいへん)な面白(おもしろ)い事(こと)だ。287早(はや)く引張(ひつぱ)つて来(こ)い』
288レール『それだから時節(じせつ)は待(ま)たねばならぬものだ。289別嬪(べつぴん)と聞(き)いちや俺(おれ)も堪(たま)らないわ。290ヤツパリ目(め)が二(ふた)つあるだらうな、291アーン』
292キルク『別嬪(べつぴん)が一人(ひとり)に、293強(つよ)い怖(こは)さうな宣伝使(せんでんし)が三(さん)人(にん)です』
294一同『ヤア、295そりや大変(たいへん)だ』
296と一同(いちどう)は俄(にはか)に酒(さけ)の酔(よひ)も醒(さ)め、297徳利(とくり)を蹴飛(けと)ばし鉢(はち)を割(わ)り乍(なが)ら右往(うわう)左往(さわう)に狼狽(うろた)へまはる。
298(大正一一・一〇・二八 旧九・九 北村隆光録)
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