霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 親子(おやこ)対面(たいめん)〔一〇八一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻 篇:第4篇 浮木の岩窟 よみ(新仮名遣い):うききのがんくつ
章:第16章 親子対面 よみ(新仮名遣い):おやこたいめん 通し章番号:1081
口述日:1922(大正11)年10月28日(旧09月9日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
バラモン教のポーロは、セームとシャムに命じて宣伝使の応対をさせた。セームとシャムは慇懃に宣伝使たちを出迎え、丁重に帰ってもらおうとするが、照国別は聞かずに岩窟に入ろうとする。
シャムの注進にポーロ自らが出て宣伝使の応対をし、確かに照国別の両親・樫谷彦と樫谷姫がこの岩窟にいることを明かした。
ポーロは下手に出て照国別一行を案内し、岩窟の中の落とし穴にまんまと落とし込んでしまった。バラモン教徒たちは宣伝使たちをやっつけて気が緩み、酒を持ち出しての眼や歌えの大宴会を始めた。
一同がへべれけになって足腰が立たなくなったとき、留守役の一人・ヤッコスは突如、自分は三五教の宣伝使・岩彦であると明かし、照国別たちを助けようとした。
レールは岩彦の足にしがみついて、命乞いをする。そこへキルクがやってきて、三五教の宣伝使がやってきたと注進した。これは国彦がハム、タール、イール、ヨセフを従えてやってきたのであった。
岩彦は自ら国彦一行を迎え入れ、協力して落とし穴にはまっていた照国別たちを助け出した。捕えられていた照国別の両親は、岩彦がひそかに世話をしていたおかげで健全だった。
照国別と菖蒲は、両親と再会を果たした。宣伝使たちは岩窟のバラモン教徒たちの罪をゆるし、照国別は国彦に命じて、ハム、タール、イール、ヨセフとともに、両親と菖蒲をアーメニヤに送らせた。
自らは岩彦とともに、梅公、照公を連れて出立し、フサの国を目指した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-22 11:50:14 文字数:7734 OBC :rm3916
愛善世界社版:221頁 八幡書店版:第7輯 359頁 修補版: 校定版:232頁 普及版:96頁 初版: ページ備考:
001 セーム、002シヤムの二人(ふたり)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の尋(たづ)ね来(きた)りしと聞(き)くより、003ポーロの命(めい)に依(よ)つて岩窟(がんくつ)の入口(いりぐち)に揉手(もみて)し乍(なが)ら米(こめ)つきバツタのやうに頭(あたま)や腰(こし)をピヨコピヨコ屈(かが)め、
004セーム『エーこれはこれは宣伝使(せんでんし)様(さま)、005よくこそ御(ご)入来(じゆらい)下(くだ)さいました。006折角(せつかく)遠路(ゑんろ)の所(ところ)、007お越(こ)し下(くだ)さつて、008何(なん)とも早(はや)御(おん)礼(れい)の申上(まをしあ)げやうも厶(ござ)いませぬ。009生憎(あいにく)主人(しゆじん)は御(お)不在(るす)で、010大教主(だいけうしゆ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)を奉(ほう)じ、011デカタン高原(かうげん)まで出陣(しゆつぢん)なさいました。012其(その)不在中(るすちう)は何人(なにびと)たり共(とも)、013ここへ入(い)れてはならぬとの厳(きび)しき命令(めいれい)、014折角(せつかく)乍(なが)ら、015どうぞお帰(かへ)り下(くだ)さいませ。016なあシヤム、017俺(おれ)の言(い)ふ事(こと)は決(けつ)して嘘(うそ)ぢやあろまい。018セームが佝僂(せむし)になる所(ところ)まで頭(あたま)をピヨコピヨコ、019腰(こし)をペコペコさせて御(お)願(ねがひ)してゐるのだから、020そこはどうぞ宣伝使(せんでんし)の雅量(がりやう)を以(もつ)てお帰(かへ)り下(くだ)さらば誠(まこと)に有難(ありがた)う厶(ござ)います。021ヘヽヽヽ決(けつ)して決(けつ)して悪意(あくい)で申(まを)すのでは厶(ござ)いませぬ、022又(また)三五教(あななひけう)の老夫婦(らうふうふ)は決(けつ)して此(この)岩窟(いはや)の中(なか)に閉(と)ぢ込(こ)めては厶(ござ)いませぬから、023折角(せつかく)お査(しら)べ下(くだ)さいましても徒労(とらう)で厶(ござ)います。024トツトと御(ご)退却(たいきやく)を、025偏(ひとへ)に願(ねが)ひ奉(たてまつ)ります』
026照国別(てるくにわけ)『イヤ今日(けふ)はどうしても此(この)儘(まま)では帰(かへ)る事(こと)は出来(でき)ないのだ。027アーメニヤから樫谷彦(かしやひこ)樫谷姫(かしやひめ)といふ二人(ふたり)の夫婦(ふうふ)が捉(とら)へられて来(き)てゐる筈(はず)だ』
028セーム『滅相(めつさう)もないことを仰有(おつしや)いませ。029こんな山奥(やまおく)にアーメニヤなんぞからお出(い)でる物好(ものずき)がどこに厶(ござ)いませう、030ソリヤ何(なに)かのお間違(まちがひ)でせう』
031菖蒲(あやめ)『何(なん)と言(い)はれても、032私(わたし)は両親(りやうしん)に会(あ)はねばならぬ。033お邪魔(じやま)なさると却(かへつ)てお為(ため)になりませぬぞえ』
034セーム『ヤア此奴(こいつ)ア手(て)ごはい談判(だんぱん)だ、035到底(たうてい)俺(おれ)の一力(いちりき)では行(ゆ)きかねる。036オイ、037シヤム、038奥(おく)へ行(い)つて此(この)由(よし)をポーロさまに早(はや)く注進(ちゆうしん)せぬかい。039そして今(いま)の何々(なになに)を何々(なになに)しておくのだぞ』
040照国別(てるくにわけ)『一刻(いつこく)の間(ま)も猶予(いうよ)はならぬ、041罷(まか)り通(とほ)るから案内(あんない)を致(いた)せ』
042セーム『一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さいませ。043不在(るす)師団長(しだんちやう)のポーロの御(ご)意見(いけん)を伺(うかが)つた上(うへ)にして貰(もら)はねば岩窟(がんくつ)侵入罪(しんにふざい)になりますから』
044照国別(てるくにわけ)『ハヽヽヽヽ大変(たいへん)なうろたへ方(かた)だな。045此(この)様子(やうす)ではキツと碌(ろく)な事(こと)ではあるまい。046両親(りやうしん)の身(み)の上(うへ)が案(あん)じられる。047サア早(はや)く菖蒲殿(あやめどの)、048奥(おく)へ進(すす)みませう』
049セーム『あゝモシモシ一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さい、050御(ご)夫婦(ふうふ)は至極(しごく)御(ご)健全(けんぜん)に御(ご)安泰(あんたい)に御座(ござ)遊(あそ)ばします。051決(けつ)して虐待(ぎやくたい)なんかしてはをりませぬ』
052照国別(てるくにわけ)『アハヽヽヽ、053さうだらう。054蚋(ぶと)一疋(いつぴき)通(かよ)はないやうな要心(えうじん)堅固(けんご)な岩窟内(がんくつない)へ御(ご)保護(ほご)を申上(まをしあ)げてゐると見(み)えるワイ。055イヤ御(ご)好意(かうい)は後(あと)から御(お)礼(れい)申(まを)す』
056 話(はなし)変(かは)つて奥(おく)の一間(ひとま)では今迄(いままで)酔(よ)ひつぶれてゐた酒(さけ)も俄(にはか)にさめ、057蒼白(まつさを)な顔(かほ)をして岩窟(がんくつ)の戸(と)をあけ、058夫婦(ふうふ)を引張(ひつぱ)り出(だ)すやら丼鉢(どんぶりばち)を抱(かか)へて逃(に)げ廻(まは)るやら、059大(だい)乱痴気(らんちき)騒(さわ)ぎの真最中(まつさいちう)である。060そこへシヤムが飛(と)んで来(き)て、061息(いき)を喘(はづ)ませながら、
062シャム『タヽヽヽ大変(たいへん)々々(たいへん)、063これこれポーロの大将(たいしやう)、064レールさま、065どうしたら宜(よ)からうか、066思案(しあん)を貸(か)して下(くだ)さい』
067と頻(しき)りに地(ち)を両手(りやうて)でパタパタと叩(たた)きもがく。
068ポーロ『何(なん)だ、069あわただしい其(その)騒(さわ)ぎ方(かた)、070どうしたといふのだ』
071シヤム『何(ど)うも斯(か)うもあつたものですか、072息子(むすこ)が来(き)たのですよ。073ソレあの娘(むすめ)が、074何(ど)うしても斯(か)うしても、075強(た)つて入(はい)らうと致(いた)します』
076ポーロ『立(た)つて入(はい)らうと這(は)うて入(はい)らうと、077そんな事(こと)は頓着(とんちやく)ないが、078息子(むすこ)娘(むすめ)とは何(なん)の事(こと)だ』
079シヤム『あの奥(おく)に隠(かく)してあつた老夫婦(らうふうふ)の伜(せがれ)と娘(むすめ)がやつて来(き)たのですよ。080カヽ敵討(かたきうち)だと云(い)つて、081数十万(すうじふまん)の軍勢(ぐんぜい)を引連(ひきつ)れ、082先頭(せんとう)に立(た)つて立向(たちむか)ひました』
083ポーロ『此(こ)の細谷路(ほそたにみち)を数十万(すうじふまん)の軍勢(ぐんぜい)がどうして来(こ)られるものか』
084シヤム『何(なん)だか知(し)りませぬが、085随分(ずゐぶん)沢山(たくさん)な白衣(びやくい)の軍卒(ぐんそつ)が中空(ちうくう)からやつて来(き)ました。086モシモシ大将(たいしやう)、087グヅグヅしてゐると岩窟(いはや)退治(たいぢ)が始(はじ)まります。088何(なん)とか用意(ようい)をなされませ』
089ポーロ『エヽ仕方(しかた)がない、090俺(おれ)が一先(ひとま)づ表口(おもてぐち)に立向(たちむか)ひ、091掛合(かけあ)つて見(み)よう』
092と言(い)ひ乍(なが)ら、093レールに何(なに)か囁(ささや)きつつ、094表口(おもてぐち)に駆(か)け出(だ)し、095叮嚀(ていねい)に腰(こし)を屈(かが)めて、
096ポーロ『私(わたし)は此(この)岩窟(がんくつ)を預(あづか)つて居(を)りまするポーロと申(まを)すはした者(もの)、097何卒(なにとぞ)お見知(みし)りおかれまして今後(こんご)御(ご)贔屓(ひいき)にお願(ねがひ)いたします。098サアどうぞ、099お見(み)かけ通(どほり)の茅屋(ばうをく)なれど、100御(ご)遠慮(ゑんりよ)なく、101トツトとお入(はい)り下(くだ)さいませ』
102照国別(てるくにわけ)『当(たう)岩窟(がんくつ)内(ない)に樫谷彦(かしやひこ)樫谷姫(かしやひめ)の夫婦(ふうふ)の方(かた)はお見(み)えになつてをるか』
103ポーロ『ハイお見(み)えになつて居(を)ります。104それはそれは御(ご)機嫌(きげん)麗(うるは)しく、105あなた方(がた)のお出(い)でを、106欣喜(きんき)雀躍(じやくやく)の体(てい)でお待(ま)ちかねで厶(ござ)います。107サア早(はや)くお通(とほ)りあつて、108御(ご)対面(たいめん)の程(ほど)をお願(ねがひ)致(いた)します』
109照国別(てるくにわけ)『何(なに)を言(い)つても不案内(ふあんない)なる岩窟(がんくつ)、110如何(いか)なる計略(けいりやく)の罠(わな)に陥(おちい)らむも計(ばか)り難(がた)い、111御(ご)苦労(くらう)ながら、112其(その)夫婦(ふうふ)の方(かた)をここ迄(まで)案内(あんない)して来(き)てくれ。113吾々(われわれ)は此処(ここ)にて御(ご)対面(たいめん)申上(まをしあ)ぐるから』
114ポーロ『それも御尤(ごもつと)も乍(なが)ら、115此(この)頃(ごろ)は御(おん)大将(たいしやう)の大足別(おほだるわけ)様(さま)が、116ハルナの都(みやこ)より、117大教主(だいけうしゆ)のお召(め)しにより、118数万(すうまん)の軍卒(ぐんそつ)を引率(いんそつ)して、119デカタン高原(かうげん)へ出陣(しゆつぢん)された御(お)不在中(るすちう)故(ゆゑ)、120残(のこ)りの人間(にんげん)は僅(わづ)かに二十(にじふ)有余(いうよ)人(にん)、121朝(あさ)から晩(ばん)まで留守事(るすごと)に酒(さけ)を呑(の)み、122他愛(たあい)なく酔(よ)ひ潰(つぶ)れて居(を)りますから、123決(けつ)して計略(けいりやく)などは致(いた)して御座(ござ)いませぬ。124どうぞお入(はい)り下(くだ)さいませ』
125菖蒲(あやめ)『モシ兄上(あにうへ)様(さま)、126ウツカリ進(すす)んではなりませぬぞ。127コレコレここの番人(ばんにん)とやら、128早(はや)く妾(わらは)が父母(ふぼ)をここへお伴(つ)れ申(まを)して来(く)るがよい。129グヅグヅ致(いた)すと、130お前(まへ)さまたちの御(お)為(ため)にはなりますまいぞや』
131 ポーロは頭(あたま)をかき乍(なが)ら、
132ポーロ『エー御(お)説(せつ)御尤(ごもつと)もながら御(ご)夫婦(ふうふ)は持病(ぢびやう)が起(おこ)り、133脚気(かつけ)が起(おこ)つて、134足(あし)に頭痛(づつう)がすると仰有(おつしや)り、135チヨツとも動(うご)けませぬ。136又(また)奥(おく)さまの方(はう)は産後(さんご)の血(ち)の道(みち)とか、137尾(を)の道(みち)とかが目(め)を出(だ)して、138ウンウン キヤツキヤツ唸(うな)つてばかり、139身動(みうご)きもならぬ御(ご)不自由(ふじゆう)さ、140どうぞあなたの方(はう)から進(すす)んで御(ご)面会(めんくわい)を願(ねが)ひたう存(ぞん)じます』
141照国別(てるくにわけ)『そんなら仕方(しかた)がない、142案内(あんない)を致(いた)せ』
143ポーロ『サア斯(か)うお出(い)でなさいませ』
144と言(い)ひ乍(なが)ら先(さき)に立(た)つ。145一行(いつかう)四(よ)人(にん)は後(あと)に従(したが)ひ、146あたりに心(こころ)を配(くば)りつつ、147奥(おく)へ奥(おく)へと進(すす)み行(ゆ)く。148忽(たちま)ちカラクリ仕掛(じかけ)の板(いた)の間(ま)はクレンと引繰(ひつくり)返(かへ)り、149四(よ)人(にん)はドツと一度(いちど)に暗(くら)き陥穽(おとしあな)に落(お)ち込(こ)んで了(しま)つた。150ポーロはしすましたりと、151返(かへ)し戸(ど)に錠(ぢやう)を卸(おろ)し、152重(おも)き石(いし)を二(ふた)つ三(み)つのせて、153ホツと一息(ひといき)胸(むね)撫(な)でおろし、
154ポーロ『オイ皆(みな)の奴(やつ)、155モウ安心(あんしん)だ。156気(き)をおちつけよ。157彼奴(あいつ)は大足別(おほだるわけ)様(さま)の恋慕(れんぼ)して厶(ござ)つた菖蒲(あやめ)といふナイスだ。158そして一人(ひとり)は兄(あに)の照国別(てるくにわけ)といふ三五教(あななひけう)の有名(いうめい)な豪傑(がうけつ)宣伝使(せんでんし)だ。159彼奴(あいつ)の言霊(ことたま)にかかつたが最後(さいご)、160手足(てあし)も何(なに)もビリビリとしびれて了(しま)ふ無双(むさう)の神力(しんりき)がある。161併(しか)し乍(なが)らかうやつて奈落(ならく)の底(そこ)へおとして置(お)けば、162最早(もはや)此(この)岩窟内(がんくつない)は無事(ぶじ)安穏(あんをん)だ。163モ一(ひと)つ祝(いはひ)に二次会(にじくわい)を開(ひら)かうぢやないか』
164とニコニコとして喚(わめ)き立(た)てる。165レール、166シヤム、167ハールは嬉々(きき)として集(あつ)まり来(きた)り、
168レール『流石(さすが)はポーロさま、169留守(るす)師団長(しだんちやう)丈(だけ)の資格(しかく)は十分(じふぶん)に具備(ぐび)してゐる。170ヤア天晴(あつぱ)れ天晴(あつぱ)れかくなる上(うへ)は何(なに)をか恐(おそ)れむ、171飲(の)んで飲(の)んで、172飲(の)み倒(たふ)し、173蛇(じや)の子(こ)になるか、174虎(とら)になる所(ところ)まで、175お神酒(みき)をあがらうかい』
176と、177又(また)もや酒徳利(さけどつくり)を穴倉(あなぐら)より運(はこ)び出(だ)し、178一生(いつしやう)懸命(けんめい)に歌(うた)を唄(うた)つて、179悪事(あくじ)災難(さいなん)を逃(のが)れたる祝宴(しゆくえん)を張(は)り出(だ)した。
180 一旦(いつたん)驚(おどろ)きの余(あま)り、181さめかけてゐた酒(さけ)は再(ふたたび)まはり出(だ)した。182其(その)上(うへ)に又(また)もやガブガブとやつたものだから堪(たま)らない。183何奴(どいつ)も此奴(こいつ)もグタグタになつて無我(むが)夢中(むちう)に下(くだ)らぬ事(こと)を喋舌(しやべ)り出(だ)した。
184レール『コレコレポーロさま、185随分(ずゐぶん)ポーロい事(こと)が出来(でき)たぢやないか、186酒(さけ)は鱈腹(たらふく)呑(の)めるなり、187爺(ぢぢ)イ婆(ばば)アの仇(かたき)を討(う)ちに来(き)たと思(おも)うた息子(むすこ)娘(むすめ)は奈落(ならく)の底(そこ)へ落(おと)し込(こ)んだなり、188最早(もはや)天(あめ)が下(した)に恐(おそ)るべき者(もの)は一人(ひとり)もなくなつて了(しま)つた。189サアこれから爺(ぢぢ)イ婆(ばば)アをここへ連(つ)れ出(だ)して来(き)てお酌(しやく)をさそうかい。190オイ皆(みな)の奴(やつ)、191婆(ばば)アでも女(をんな)だぞ、192男(をとこ)ばかりの此(この)岩窟(いはや)、193滅多(めつた)に不足(ふそく)はあろまいがな、194アーン』
195シヤム『何(なん)ぼ女(をんな)だつて、196婆(ばば)アでははづまぬぢやないか。197俺(おれ)は今(いま)来(き)た菖蒲(あやめ)とかさつきとかいふナイスを引張(ひつぱ)り出(だ)して、198酌(しやく)をさしたら如何(どう)だらうかと思(おも)つてるのだ』
199レール『馬鹿(ばか)を言(い)ふな、200あんな奴(やつ)を引張(ひつぱ)り出(だ)して来(こ)ようものなら、201丸(まる)で爆裂弾(ばくれつだん)を投(な)げたやうなものだ。202恐(おそ)ろしい代物(しろもの)だぞ。203オイ、204ヤツコス、205何(なに)をグヅグヅしてるのだ。206爺(ぢぢ)イ婆(ばば)アをここへ引張(ひつぱ)つて来(こ)ぬかい』
207ヤツコス『喧(やかま)し言(い)ふない、208あんな目汁(めしる)水(みづ)ばなを垂(た)れてる汚(きたな)い爺婆(ぢぢばば)をこんな所(ところ)へ連(つ)れて来(き)ちや、209酒(さけ)の御(お)座(ざ)がさめて了(しま)うぞ。210それよりも俺(おれ)が一(ひと)つ品(しな)よう踊(をど)つて見(み)せてやるからそれで辛抱(しんばう)せい』
211と、212早(はや)くも手拭(てぬぐひ)を姐(ねえ)さんかぶりにして、213一寸(ちよつと)裾(すそ)をからげ、214手(て)や尻(しり)をふりピシヤピシヤと時々(ときどき)手(て)を叩(たた)き、
215ヤッコス『私(わたし)が在所(ざいしよ)はコーカス山(ざん)の
216麓(ふもと)の麓(ふもと)のその麓(ふもと)
217ヤツトコセー ドツコイシヨ
218樫谷(かしや)の彦(ひこ)や樫谷姫(かしやひめ)
219ウラルの神(かみ)の御(お)取次(とりつぎ)
220こんな牢屋(らうや)へ突(つ)つ込(こ)まれ
221ヨーイトサー ヨーイトサー
222朝(あさ)から晩(ばん)まで娘(むすめ)をくれいと責(せ)められる
223どうして娘(むすめ)がやられようか
224鬼雲彦(おにくもひこ)の眷族(けんぞく)に
225ドツコイシヨー ドツコイシヨー』
226レール『オイ貴様(きさま)、227人(ひと)の代理(だいり)をするのか、228しやうもない、229モツと気(き)の利(き)いた事(こと)を唄(うた)はぬかい』
230ヤツコス『老人(らうじん)夫婦(ふうふ)の守護神(しゆごじん)が憑(うつ)つて唄(うた)つてゐるのだ。231サアこれから、232又(また)一(ひと)つ憑(うつ)られてやらうかな。233今度(こんど)は大足別(おほだるわけ)ぢや、234ウツフヽヽヽ、
235鬼雲彦(おにくもひこ)の大将(たいしやう)が
236イホの都(みやこ)を追(お)ひまくられて
237ヤツトコサー ヤツトコサー
238メソポタミヤの顕恩郷(けんおんきやう)に
239ヤツとお尻(しり)をすゑた時(とき)
240ヤートサー ヤートサー
241三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
242肝太玉(きもふとだま)の神司(かむづかさ)
243家来(けらい)をつれてやつて来(き)て
244大(おほ)きな目玉(めだま)をむきよつた
245ドツコイシヨー ドツコイシヨー
246鬼雲彦(おにくもひこ)の大将(たいしやう)は
247大蛇(をろち)の姿(すがた)を現(あら)はして
248一目散(いちもくさん)に自転倒(おのころ)の
249大江(おほえ)の山(やま)へとつ走(ぱし)り
250又(また)もやここを追(お)ひまくられて
251命(いのち)カラガラ フサの国(くに)
252逃(に)げ帰(かへ)りたる弱虫(よわむし)が
253時世(ときよ)時節(じせつ)の力(ちから)にて
254再(ふたた)び大黒主(おほくろぬし)となり
255羽(は)ぶりを利(き)かしてゐた所(とこ)へ
256尾(を)をふり頭(あたま)を下(さ)げ乍(なが)ら
257追従(つゐしよう)タラダラお髯(ひげ)の塵(ちり)を
258払(はら)つてのけた利巧者(りかうもの)
259ヨーイトサー ヨーイトサー
260それが誰(たれ)やと尋(たづ)ねたら
261清春山(きよはるやま)の岩窟(がんくつ)に
262時(とき)めき玉(たま)ふ御(おん)大将(たいしやう)
263大足別(おほだるわけ)の醜神(しこがみ)だ
264オツトドツコイ コラしまうた
265大足別(おほだるわけ)の神司(かむづかさ)
266大樽(おほたる)あけて燗(かん)をして
267何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も呑(の)むがよい
268呑(の)めよ呑(の)め呑(の)め山(やま)も田(た)も
269家(いへ)倉(くら)屋敷(やしき)に至(いた)るまで
270呑(の)んで並(なら)べたフラスコの
271徳利(とつくり)トンのトントコトン
272面白(おもしろ)うなつておいでたな
273俺(おれ)は酒(さけ)は呑(の)まないが
274けたいな匂(にほ)ひで酔(よ)うて来(き)た
275レール ポーロの両人(りやうにん)が
276尋(たづ)ねてうせた神司(かむづかさ)
277照国別(てるくにわけ)といふ奴(やつ)に
278肝(きも)を潰(つぶ)して陥穽(おとしあな)
279卑怯(ひけふ)未練(みれん)と知(し)り乍(なが)ら
280甘(うま)くやつたる御(おん)手柄(てがら)
281天地(てんち)の神(かみ)も御(ご)照覧(せうらん)
282梵天王(ぼんてんわう)の自在天(じざいてん)
283大国彦(おほくにひこ)の神(かみ)様(さま)も
284さぞやさぞさぞ喜(よろこ)んで
285泣(な)いて厶(ござ)るに違(ちがひ)ない
286泣(な)いたり笑(わら)うたり怒(おこ)つたり
287お前(まへ)ら一体(いつたい)酒(さけ)食(くら)うて
288何(なに)が不足(ふそく)で怒(おこ)るのか
289泣(な)いて明石(あかし)の浜千鳥(はまちどり)
290泣(な)いた序(ついで)に可哀相(かあいさう)な
291さぞ今頃(いまごろ)は菖蒲子(あやめこ)が
292奈落(ならく)の底(そこ)でベソベソと
293泣(な)いて厶(ござ)るに違(ちがひ)ない
294それを思(おも)へば俺(おれ)だとて
295チツとは泣(な)かずにや居(を)られない
296ウントコドツコイ ドツコイシヨ
297呑(の)めよ呑(の)め呑(の)め騒(さわ)げよ騒(さわ)げ
298一寸先(いつすんさき)は真(しん)の暗(やみ)
299後(あと)から月(つき)が出(で)るけれど
300其(その)月(つき)こそは運(うん)のつき
301うろつき間誤(まご)つきウソつきの
302ヤクザばかりが寄(よ)り合(あ)うて
303バラモン教(けう)を開(ひら)くとは
304呆(あき)れて物(もの)が言(い)はれない
305ウントコドツコイ ドツコイシヨー
306照国別(てるくにわけ)や菖蒲子(あやめこ)を
307甘(うま)くおとして喜(よろこ)んで
308酒(さけ)にくらひ酔(よ)て居(ゐ)る内(うち)に
309剛力(がうりき)無双(むさう)の宣伝使(せんでんし)
310又(また)もや現(あら)はれ来(き)たならば
311何奴(どいつ)も此奴(こいつ)もうろたへて
312一泡(ひとあわ)吹(ふ)くに違(ちがひ)ない
313あゝ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い
314俺(おれ)は高見(たかみ)で見物(けんぶつ)だ
315大足別(おほだるわけ)の腰抜(こしぬけ)が
316さぞ今頃(いまごろ)は馬(うま)に乗(の)り
317デカタン高原(かうげん)トボトボと
318数多(あまた)の軍勢(ぐんぜい)を引(ひき)つれて
319冥途(めいど)の旅(たび)とは知(し)らずして
320歩(ある)いて居(ゐ)るか情(なさけ)ない
321とは云(い)ふものの俺(おれ)達(たち)は
322チツとも苦(くる)しうない程(ほど)に
323其(そ)れの乾児(こぶん)と選(えら)まれた
324レール ポーロやシヤム ハール
325其(その)外(ほか)百(もも)のガラクタが
326やりをる事(こと)が面(つら)にくい
327ホンに呆(あき)れた奴(やつ)ばかり
328神(かみ)の布教(ふけう)を楯(たて)となし
329其(その)内実(ないじつ)は泥坊(どろばう)を
330本職(ほんしよく)とする奴(やつ)ばかり
331此(この)岩窟(がんくつ)は神(かみ)様(さま)の
332聖場(せいぢやう)どころか狼(おほかみ)や
333獅子(しし)熊(くま)大蛇(をろち)の跳梁場(てうりやうば)
334早(はや)く尊(たふと)い神(かみ)が来(き)て
335此奴(こいつ)ら一同(いちどう)悉(ことごと)く
336平(たひら)げくれればよいものに
337あゝ叶(かな)はむからたまらない
338かんかんチキチン カンチキチン
339ドツコイドツコイドツコイシヨー
340ホンに困(こま)つた奴(やつ)ばかり
341顔(かほ)見(み)てさへも腹(はら)が立(た)つ』
342レール『コラコラ怪(け)しからぬ事(こと)を吐(ほざ)く奴(やつ)だ。343貴様(きさま)は三五教(あななひけう)の間者(まはしもの)だらう、344コーカス山(ざん)のヤツコスの子孫(しそん)だなんて吐(ぬか)してけつかつたが、345貴様(きさま)はウラル教(けう)をすてて、346とうとう三五教(あななひけう)に沈没(ちんぼつ)してケツカルのに違(ちがひ)ない。347サア有体(ありてい)に白状(はくじやう)せい、348蛙(かはづ)は口(くち)からだ、349大黒主(おほくろぬし)様(さま)や大足別(おほだるわけ)の大将(たいしやう)の悪口(わるくち)ばかり吐(ほざ)きやがつたぢやないか』
350ヤツコス『馬鹿(ばか)だなア、351俺(おれ)の素性(すじやう)を今迄(いままで)知(し)らなかつたのか。352俺(おれ)は三五教(あななひけう)の岩彦(いはひこ)といふ宣伝使(せんでんし)だ。353神(かみ)様(さま)の内命(ないめい)に依(よ)つて貴様(きさま)等(ら)の行動(かうどう)を調査(てうさ)してゐるのを知(し)らぬのかい。354サア何(なん)ぼなつともがけ、355アタいやらしい、356ドツサリ盗(ぬす)み酒(ざけ)に喰(くら)ひ酔(よ)うて、357脛腰(すねこし)も立(た)たぬ態(ざま)して、358如何(どう)して俺(おれ)に手向(たむか)ふ事(こと)が出来(でき)ようか。359丸(まる)で躄(ゐざり)の病院(びやうゐん)へ来(き)たやうなものだ。360サアこれから此(この)岩彦(いはひこ)さまが、361此(この)出刃(でば)庖丁(ぼうちやう)で、362親(おや)ゆづりの裘(かはごろも)を一人(ひとり)も残(のこ)らず剥(は)いでやらう、363覚悟(かくご)を致(いた)せ。364アハヽヽヽ』
365と出刃(でば)庖丁(ぼうちやう)をグツと握(にぎ)つてレールの前(まへ)に突(つ)き出(だ)した。366レールは逃(に)げようとすれ共(ども)、367余(あま)りの泥酔(でいすゐ)に口(くち)ばかり達者(たつしや)で、368手足(てあし)の自由(じいう)を失(うしな)つてゐた。
369レール『オイ、370ポーロ、371シヤム、372ハール、373何(なに)してゐるのだ。374此(この)ヤツコスを貴様(きさま)等(ら)寄(よ)つて叩(たた)き殺(ころ)して了(しま)へ』
375 ポーロ、376ヘベレケになつて、
377ポーロ『オイ、378レール、379貴様(きさま)のいふこた、380一体(いつたい)、381一寸(ちよつと)も分(わか)らぬぢやないか。382殺(ころ)すとか殺(ころ)さぬとかぬかして居(ゐ)るが、383あゝしておけば四(よ)人(にん)の奴(やつ)ア、384そんなに骨(ほね)を折(を)らなくても、385ひとり木乃伊(みいら)になつて了(しま)ふワ。386マア酒(さけ)でもゆつくり呑(の)め、387俺(おれ)やモウ一足(ひとあし)も立(た)つ事(こと)も出来(でき)やしないワ、388アーア苦(くる)しい、389酒(さけ)と云(い)ふ奴(やつ)ア、390呑(の)まれる時(とき)にや甘(うま)い味(あぢ)をしてゐやがるが、391腹中(はらんなか)に這入(はい)つてから盛(さかん)に活動(くわつどう)しやがるとみえて、392何(ど)うにも斯(か)うにも苦(くるし)くて仕方(しかた)がない。393ゲー、394ガラガラ ガラガラ、395ウツプー』
396レール『エヽ何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も、397酔(よひ)どればかりぢやなア。398さうぢやから酒(さけ)を身知(みし)らずに食(くら)ふなというて聞(き)かしてあるのだ』
399シヤム『オイ、400レール、401偉相(えらさう)に言(い)ふない、402お前(まへ)だつて、403脛腰(すねこし)が立(た)たぬとこまで酔(よ)うてゐるぢやないか』
404レール『俺(おれ)は俺(おれ)で特別(とくべつ)だ。405俺(おれ)の真似(まね)をすると云(い)ふ事(こと)があるものかい。406アーン、407コレコレお化(ば)けのヤツコスさま、408そんな出刃(でば)のやうな危(あぶな)いものをふりまはさずに早(はや)く陥穽(おとしあな)の戸(と)をあけ、409早(はや)く四(よ)人(にん)の宣伝使(せんでんし)を助(たす)けぬかい。410そして俺(おれ)達(たち)の代表者(だいへうしや)となつて、411御(ご)無礼(ぶれい)をお詫(わ)びしてくれないか。412ナア、413イワイワ岩彦(いはひこ)の宣伝使(せんでんし)、414お前(まへ)も中々(なかなか)ぬかりのない男(をとこ)だ。415俺(おれ)もカンチンした、416流石(さすが)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)だワイ。417アーン』
418ヤツコス『オヽ貴様(きさま)のいふ通(とほ)り、419早(はや)く宣伝使(せんでんし)様(さま)をお助(たす)け致(いた)さねばならぬ。420シツカリ顔(かほ)を見(み)なかつたが、421何(なん)でも梅彦(うめひこ)によく似(に)て居(を)つたやうだ。422ドレこれから四(よ)人(にん)を救(すく)ひあげて、423貴様(きさま)等(ら)一同(いちどう)を其(その)後(あと)へほり込(こ)んでやらうか。424此奴(こいつ)ア面白(おもしろ)い』
425と立上(たちあが)らうとするのを、426レールは矢庭(やには)にヤツコスの足(あし)にくらひつき、
427レール『俺(おれ)はレール酔(よ)うたのだから、428寝鳥(ねとり)の首(くび)を締(し)めるやうな事(こと)をやられちや浮(うか)む瀬(せ)がないワ。429マアマア一(ひと)つ鍋(なべ)を食(く)た仲(なか)だから、430其(その)誼(よし)みで俺(おれ)丈(だけ)は免除(めんぢよ)してくれ。431其(その)代(かは)りにポーロ、432シヤム、433ハール、434エルマ、435エム等(など)は一寸(ちよつと)も遠慮(ゑんりよ)いらぬから、436ドシドシと放(ほ)り込(こ)んでくれ。437モウ斯(か)うなると吾(わが)身(み)が大事(だいじ)ぢや、438人(ひと)が死(し)なうが倒(たふ)れやうが、439吾(われ)さへ良(よ)けらよい時節(じせつ)だ。440コレ丈(だけ)道理(だうり)を解(わ)けて頼(たの)むのにお前(まへ)は聞(き)いてくれぬのか。441アーン』
442 斯(か)かる所(ところ)へキルクは慌(あわただ)しくやつて来(き)た。
443キルク『オイオイポーロ、444三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)がタール、445ハム、446イール、447ヨセフを供(とも)としてやつて来(き)ました。448如何(どう)致(いた)しませうかな』
449ポーロ『ナニ、450又(また)宣伝使(せんでんし)がやつて来(き)た? そしてハムの兄哥(あにき)が居(を)るといふのか、451ソラ洒落(しやれ)てる、452流石(さすが)はハムだ。453甘(うま)く引張(ひつぱ)り込(こ)んで来(き)やがつたな』
454キルク『イエイエ滅相(めつさう)もない。455ハム、456タール、457イール、458ヨセフはスツカリ三五教(あななひけう)の味方(みかた)をして、459ここへやつて来(き)よつたのだ』
460ポーロ『ハハー彼奴(あいつ)ア鬼熊別(おにくまわけ)さまの子分(こぶん)だけれど、461同(おな)じ教(をしへ)だと思(おも)つて、462俺(おれ)達(たち)に手柄(てがら)をさそうと連(つ)れて来(き)たのだらう。463本当(ほんたう)に気(き)の利(き)いた奴(やつ)だ』
464ヤツコス『ナニ、465三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が来(き)たか、466其奴(そいつ)ア面白(おもしろ)い、467何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も一人(ひとり)も残(のこ)らず酔(よ)ひつぶれて居(ゐ)やがる、468決(けつ)して老人(らうじん)夫婦(ふうふ)に対(たい)し後顧(こうこ)の憂(うれ)ひがないから、469俺(おれ)が一(ひと)つ出迎(でむか)へに行(い)て来(こ)う』
470と、471岩戸(いはと)の入口(いりぐち)に走(はし)り出(い)で、
472ヤッコス『これはこれは三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)様(さま)、473お名(な)は存(ぞん)じませぬが、474マア奥(おく)へお入(はい)り下(くだ)さい。475照国別(てるくにわけ)一行(いつかう)が今(いま)陥穽(おとしあな)へおとされて困(こま)つてゐる所(ところ)です。476サア早(はや)く飛込(とびこ)んで岩窟(いはや)征伐(せいばつ)をして下(くだ)さい。477吾々(われわれ)もお手伝(てつだ)ひを致(いた)しませう』
478国公(くにこう)『ハテ、479合点(がつてん)のいかぬ事(こと)を云(い)ふぢやないか、480お前(まへ)はバラモン教(けう)の眷族(けんぞく)だらう』
481ヤツコス『実(じつ)の所(ところ)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)岩彦(いはひこの)命(みこと)だ。482大神(おほかみ)様(さま)の内命(ないめい)に依(よ)つて、483此(この)岩窟(がんくつ)へ信者(しんじや)と化(ば)けこみ、484今迄(いままで)時(とき)を待(ま)つてゐたのだ。485お前(まへ)もまだ新米(しんまい)と見(み)えるが、486ナーニ案(あん)じる事(こと)はない。487トツトと這入(はい)つてくれ、488随分(ずゐぶん)面白(おもしろ)い事(こと)が始(はじ)まつてゐるから』
489と鷹揚(おうやう)に言(い)ひ放(はな)ち、490ニコニコとして奥(おく)に入(い)る。491国公(くにこう)は合点(がつてん)行(ゆ)かず、492四(よ)人(にん)を従(したが)へ奥深(おくふか)く進(すす)み入(い)り、493酔(よ)ひどれの姿(すがた)を見(み)て、494顔(かほ)をしかめ、
495国公『アヽいやな匂(にほひ)がするぢやないか、496何(なん)だムサ苦(くる)しい、497そこら中(ぢう)に店出(みせだ)しをしよつて、498オイ何(なに)か芳香水(はうかうすゐ)がないか、499イヤ防臭液(ばうしうえき)でもいい、500チトふりかけてくれ』
501岩彦(いはひこ)『それは兎(と)も角(かく)、502照国別(てるくにわけ)外(ほか)三(さん)人(にん)を救(すく)ひ上(あ)げねばならぬ。503そんな末梢(まつせう)的(てき)問題(もんだい)はどうでもいい、504中々(なかなか)戸(と)が重(おも)たくて俺(おれ)一人(ひとり)では如何(いかん)ともする事(こと)が出来(でき)ない。505ヤイ、506一同(いちどう)の連中(れんちう)さま、507俺(おれ)に力(ちから)を貸(か)してくれ、508ここだ此(この)丸(まる)い穴(あな)へ一人(ひとり)づつ指(ゆび)を突込(つつこ)んでグイと引上(ひきあ)げてくれ』
509 国公(くにこう)は『ヨシ来(き)た』と言(い)ひながら六(ろく)人(にん)力(ちから)を併(あは)せて、510非常(ひじやう)に重(おも)たい板(いた)の戸(と)を引(ひ)きあけた。511中(なか)には四(よ)人(にん)の男女(だんぢよ)が一生(いつしやう)懸命(けんめい)に天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)してゐた。512国公(くにこう)は穴(あな)を覗(のぞ)いて、
513国公『ヤア照国別(てるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)様(さま)、514危(あぶな)い所(ところ)でありました。515黄金姫(わうごんひめ)様(さま)、516清照姫(きよてるひめ)様(さま)の命令(めいれい)に依(よ)つて、517あなた方(がた)をお助(たす)けに参(まゐ)りました』
518照国別(てるくにわけ)『ヤアそれは御(ご)苦労(くらう)だつた、519曲津(まがつ)神(かみ)奴(め)、520とうとうこんな所(ところ)へおとしよつて流石(さすが)の俺(おれ)も如何(どう)なる事(こと)かと、521聊(いささ)か心配(しんぱい)してゐた。522持(も)つべき者(もの)は家来(けらい)なりけりだ。523早(はや)く縄梯子(なはばしご)でもおろしてくれないか』
524 岩彦(いはひこ)は何処(いづこ)よりか縄梯子(なはばしご)を持来(もちきた)り、525バラリとかけ下(お)ろした。526照国別(てるくにわけ)を初(はじ)め、527菖蒲(あやめ)、528照公(てるこう)、529梅公(うめこう)は猿(ましら)の如(ごと)く縄梯子(なはばしご)を伝(つた)うてかけ上(のぼ)り、530国公(くにこう)の前(まへ)に首(くび)を一寸(ちよつと)下(さ)げ、
531『ヤア有難(ありがた)う』
532と挨拶(あいさつ)する。533岩彦(いはひこ)は照国別(てるくにわけ)の背(せな)を二(ふた)つ三(み)つポンポンと叩(たた)き、
534岩彦『ヤア梅彦(うめひこ)、535久(ひさ)し振(ぶり)だつたねい、536こんな所(ところ)で会(あ)はうとは夢(ゆめ)にも思(おも)はなかつたよ』
537照国別(てるくにわけ)『ヨーお前(まへ)は岩彦(いはひこ)だつたか、538何(なん)と不思議(ふしぎ)な所(ところ)で会(あ)うたものだ。539併(しか)し老人(らうじん)夫婦(ふうふ)はどうしてゐるか、540聞(き)かしてくれ』
541岩彦(いはひこ)『心配(しんぱい)すな、542俺(おれ)がいつもかくれ忍(しの)んで十分(じふぶん)の御(ご)馳走(ちそう)を与(あた)へ、543大切(たいせつ)に守(まも)つてゐたから、544お二人(ふたり)共(とも)至極(しごく)健全(けんぜん)だ。545聞(き)けばお前(まへ)の両親(りやうしん)だつたさうだねい』
546照国別(てるくにわけ)『両親(りやうしん)はどこにゐられるか、547案内(あんない)してくれないか』
548岩彦(いはひこ)『ヨシ俺(おれ)に従(つ)いて来(こ)い、549陥穽(おとしあな)はモウこれ丈(だけ)だ』
550と言(い)ひつつ、551牢屋(らうや)の前(まへ)に導(みちび)いた。552見(み)れば牢獄(らうごく)の戸(と)はパツと開(ひら)いてある。553照国別(てるくにわけ)がここへ来(き)た時(とき)にシヤムの奴(やつ)、554驚(おどろ)いて戸(と)を開(あ)けておいたからである。555されど老人(らうじん)夫婦(ふうふ)は仮令(たとへ)此(この)牢獄(ひとや)を出(で)た所(ところ)で、556ヤツパリ岩窟(がんくつ)の中(なか)だ、557どんな目(め)に会(あ)はされるか知(し)れないと、558小隅(こすみ)に夫婦(ふうふ)は抱合(だきあ)つて、559震(ふる)うてゐた。
560 照国別(てるくにわけ)は声(こゑ)をくもらせ、
561照国別『モシお父(とう)さま、562お母(か)アさま、563私(わたし)は梅彦(うめひこ)で御座(ござ)います、564妹(いもうと)の菖蒲(あやめ)もここに参(まゐ)つて居(を)ります。565どうぞ御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
566 此(この)声(こゑ)を聞(き)くより老人(らうじん)夫婦(ふうふ)は牢獄(ひとや)を飛(と)び出(い)で、567樫谷彦(かしやひこ)は菖蒲(あやめ)に樫谷姫(かしやひめ)は照国別(てるくにわけ)に抱(だき)つき、568嬉(うれ)し涙(なみだ)にかきくれ、569暫(しば)しは無言(むごん)の幕(まく)をつづけて、570熱(あつ)き涙(なみだ)を滝(たき)の如(ごと)くに流(なが)すのみなり。
571 これよりポーロ、572レールを初(はじ)め一同(いちどう)の罪(つみ)を赦(ゆる)し、573照国別(てるくにわけ)は両親(りやうしん)を初(はじ)め、574妹(いもうと)菖蒲(あやめ)を国公(くにこう)に守(まも)らせ、575タール、576イール、577ハム、578ヨセフも前後(あとさき)を守(まも)つて、579アーメニヤの故郷(こきやう)へ帰(かへ)らしめ、580自分(じぶん)は大神(おほかみ)の使命(しめい)を果(はた)すべく、581照公(てるこう)、582梅公(うめこう)及(および)岩彦(いはひこ)を伴(ともな)ひ、583岩窟(いはや)を後(あと)にフサの国(くに)をさして、584宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひつつ、585勇(いさ)み進(すす)んで出(い)でて行(ゆ)く。586惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
587(大正一一・一〇・二八 旧九・九 松村真澄録)
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