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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第57巻(申の巻)
序文
総説歌
第1篇 照門山颪
第1章 大山
第2章 煽動
第3章 野探
第4章 妖子
第5章 糞闘
第6章 強印
第7章 暗闇
第8章 愚摺
第2篇 顕幽両通
第9章 婆娑
第10章 転香
第11章 鳥逃し
第12章 三狂
第13章 悪酔怪
第14章 人畜
第15章 糸瓜
第16章 犬労
第3篇 天上天下
第17章 涼窓
第18章 翼琴
第19章 抱月
第20章 犬闘
第21章 言触
第22章 天葬
第23章 薬鑵
第24章 空縛
第25章 天声
余白歌
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(B)
(N)
野探 >>>
第二章
煽動
(
せんどう
)
〔一四五二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
篇:
第1篇 照門山颪
よみ(新仮名遣い):
てるもんざんおろし
章:
第2章 煽動
よみ(新仮名遣い):
せんどう
通し章番号:
1452
口述日:
1923(大正12)年03月24日(旧02月8日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年5月24日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
テルモン山の神館の奥の間には、小国別の病はすます重く、命は旦夕に迫ってきた。小国別は顕幽の弁別がつかない精神状態となってきた。三千彦は小国別の帰幽を遅らせてもらうよう神に願った。
小国別の意識が戻り眠りについたとき、館の周囲に老若男女の叫び声が聞こえてきた。オールスチンと三千彦は共に玄関口に出てみると、荒くれ男たちが酒に酔って押し掛け、オールスチンを突き飛ばし、三千彦を捕えてテルモン山の山奥に運んでしまった。
ワックスは驢馬にまたがって群衆を指揮しながら采配を振るっている。さすがの悪人ワックスも、父オールスチンが倒れているのを見逃せず、自分の悪行を見せないように目隠しをして応急手当てをして去って行った。
ワックスは、悪友のエキスとヘルマンに命じて三千彦を山奥の岩窟に閉じ込めておいた。ワックスは、デビス姫も三五教に通じているので町に戻ってきたら自分のところに連れてくるよう、群衆をたきつけた。
求道居士、ヘル、デビス姫、ケリナ姫の四人は、そんな騒動が起こっているとも知らず、宣伝歌を歌いながらテルモンの町に向かってやってきた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-09-01 18:28:30
OBC :
rm5702
愛善世界社版:
21頁
八幡書店版:
第10輯 265頁
修補版:
校定版:
22頁
普及版:
9頁
初版:
ページ備考:
001
テルモン
山
(
ざん
)
の
神館
(
かむやかた
)
の
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
には、
002
小国別
(
をくにわけ
)
の
病
(
やまひ
)
益々
(
ますます
)
重
(
おも
)
く、
003
命
(
めい
)
旦夕
(
たんせき
)
に
迫
(
せま
)
つて
来
(
き
)
た。
004
館
(
やかた
)
の
内
(
うち
)
は
上
(
うへ
)
を
下
(
した
)
へと
騒
(
さわ
)
ぎ
廻
(
まは
)
り、
005
小国姫
(
をくにひめ
)
、
006
三千彦
(
みちひこ
)
及
(
およ
)
び
家令
(
かれい
)
のオールスチンは、
007
二人
(
ふたり
)
の
看護婦
(
かんごふ
)
と
共
(
とも
)
に
病床
(
びやうしやう
)
につききり、
008
死
(
し
)
に
行
(
ゆ
)
く
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
を
案
(
あん
)
じ、
009
胸
(
むね
)
を
躍
(
をど
)
らせつつあつた。
010
三千彦
(
みちひこ
)
は
最早
(
もはや
)
是非
(
ぜひ
)
なしと
神
(
かみ
)
に
向
(
むか
)
つて
天国
(
てんごく
)
へ
救
(
すく
)
ひ
玉
(
たま
)
はむ
事
(
こと
)
を
祈願
(
きぐわん
)
した。
011
小国別
(
をくにわけ
)
は
顕幽
(
けんいう
)
弁別
(
べんべつ
)
のつかざる
精神
(
せいしん
)
状態
(
じやうたい
)
となつた。
012
小国別
(
をくにわけ
)
は
嬉
(
うれ
)
しさうな
顔
(
かほ
)
して
空
(
そら
)
を
眺
(
なが
)
め、
013
『アア
貴方
(
あなた
)
はチヤンドラ・デーワブトラ
様
(
さま
)
(
月天子
(
ぐわつてんし
)
)、
014
貴方
(
あなた
)
はスーラヤ
様
(
さま
)
(
日天子
(
につてんし
)
)ようマア……
只今
(
ただいま
)
参
(
まゐ
)
ります。
015
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らモウ
一目
(
ひとめ
)
吾
(
わが
)
二人
(
ふたり
)
の
娘
(
むすめ
)
に
会
(
あ
)
ふまで
御
(
ご
)
猶予
(
いうよ
)
を
下
(
くだ
)
さいませ。
016
アア
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふマノーヂニヤスヷラ(
楽音
(
がくおん
)
)だらう。
017
女房
(
にようばう
)
にもあの
声
(
こゑ
)
が
聞
(
き
)
かしてやり
度
(
た
)
い。
018
これ
小国姫
(
をくにひめ
)
、
019
お
前
(
まへ
)
はあのマノーヂニヤスヷラ(
楽音
(
がくおん
)
)が
聞
(
きこ
)
えて
居
(
ゐ
)
るか。
020
あの
綺麗
(
きれい
)
なエンゼルが
目
(
め
)
につくか。
021
もしもしエンゼル
様
(
さま
)
、
022
暫
(
しば
)
らく
御
(
ご
)
猶予
(
いうよ
)
を
願
(
ねが
)
ひます。
023
これが
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
別
(
わか
)
れで
厶
(
ござ
)
いますから』
024
と
頻
(
しき
)
りに
掌
(
て
)
を
合
(
あは
)
して
居
(
ゐ
)
る。
025
小国姫
(
をくにひめ
)
『モシ
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
026
確
(
しつか
)
りして
下
(
くだ
)
さいませ。
027
貴方
(
あなた
)
は
病気
(
びやうき
)
のために
左様
(
さやう
)
な
幻覚
(
げんかく
)
を
感
(
かん
)
じて
居
(
ゐ
)
られるのでせう。
028
マノーヂニヤガンダルヷ(
楽
(
がく
)
)の
声
(
こゑ
)
も
聞
(
きこ
)
えては
居
(
ゐ
)
ないぢやありませぬか。
029
そしてエンゼルのお
姿
(
すがた
)
も
決
(
けつ
)
して
見
(
み
)
えませぬよ。
030
確
(
しつか
)
りなさいませ。
031
軈
(
やが
)
て
姉妹
(
きやうだい
)
二人
(
ふたり
)
が
帰
(
かへ
)
つて
参
(
まゐ
)
りますから』
032
小国別
(
をくにわけ
)
は
女房
(
にようばう
)
の
声
(
こゑ
)
が
耳
(
みみ
)
に
這入
(
はい
)
らぬと
見
(
み
)
えて、
033
尚
(
なほ
)
も
言葉
(
ことば
)
をつづけ、
034
『
何
(
なん
)
とマア
美
(
うつく
)
しい
花
(
はな
)
だこと、
035
もしエンゼル
様
(
さま
)
、
036
之
(
これ
)
はダリヤの
花
(
はな
)
で
厶
(
ござ
)
いますか。
037
エ、
038
桃
(
もも
)
の
花
(
はな
)
、
039
こんな
大
(
おほ
)
きな
桃
(
もも
)
の
花
(
はな
)
が、
040
どうして
又
(
また
)
咲
(
さ
)
いたのでせう。
041
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
います、
042
第一
(
だいいち
)
天国
(
てんごく
)
の
桃林
(
たうりん
)
の
桃
(
もも
)
の
花
(
はな
)
、
043
ヘー、
044
美
(
うつく
)
しいもので
厶
(
ござ
)
いますなア。
045
私
(
わたし
)
、
046
それへ
参
(
まゐ
)
るのですか。
047
いや
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います』
048
小国姫
(
をくにひめ
)
『モシ
三千彦
(
みちひこ
)
の
先生
(
せんせい
)
様
(
さま
)
、
049
どうで
厶
(
ござ
)
いませうか。
050
到底
(
たうてい
)
主人
(
しゆじん
)
の
生命
(
いのち
)
は
駄目
(
だめ
)
で
厶
(
ござ
)
いませうな。
051
せめてデビスやケリナの
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
る
迄
(
まで
)
、
052
何
(
なん
)
とかして
命
(
いのち
)
をとり
止
(
と
)
めて
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
いものです』
053
三千彦
(
みちひこ
)
『お
喜
(
よろこ
)
びなさいませ。
054
決
(
けつ
)
して
幻覚
(
げんかく
)
でも
何
(
なん
)
でもありませぬ。
055
貴方
(
あなた
)
の
目
(
め
)
には
分
(
わか
)
らぬか
知
(
し
)
りませぬが、
056
あの
通
(
とほ
)
りチヤンドラデーワブトラ
様
(
さま
)
やスーラヤ
様
(
さま
)
がエンゼルとなつて
天国
(
てんごく
)
に
救
(
すく
)
ふべくお
見
(
み
)
えになつて
居
(
ゐ
)
ます。
057
今
(
いま
)
お
願
(
ねがひ
)
を
致
(
いた
)
しますから、
058
親娘
(
おやこ
)
対面
(
たいめん
)
が
済
(
す
)
む
迄
(
まで
)
、
059
天国行
(
てんごくゆき
)
の
猶予
(
いうよ
)
を
願
(
ねが
)
ひませう』
060
と
三千彦
(
みちひこ
)
は
拍手
(
かしはで
)
をうち、
061
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
祈願
(
きぐわん
)
を
籠
(
こ
)
めた。
062
月天子
(
ぐわつてんし
)
、
063
日天子
(
につてんし
)
の
両
(
りやう
)
エンゼルは
三千彦
(
みちひこ
)
の
乞
(
こひ
)
を
容
(
い
)
れ、
064
四辺
(
あたり
)
に
芳香
(
はうかう
)
を
投
(
な
)
げ、
065
微妙
(
びめう
)
の
音楽
(
おんがく
)
につれて
一先
(
ひとま
)
づ
天上
(
てんじやう
)
に
帰
(
かへ
)
り
玉
(
たま
)
うた。
066
殆
(
ほとん
)
ど
帰幽
(
きいう
)
して
居
(
ゐ
)
た
小国別
(
をくにわけ
)
は
再
(
ふたた
)
び
正気
(
しやうき
)
になり、
067
目
(
め
)
を
静
(
しづ
)
かに
開
(
ひら
)
ひて
四辺
(
あたり
)
を
打眺
(
うちなが
)
め、
068
『ア、
069
女房
(
にようばう
)
、
070
そこに
居
(
ゐ
)
たか。
071
貴方
(
あなた
)
は
三千彦
(
みちひこ
)
様
(
さま
)
、
072
ア、
073
大変
(
たいへん
)
な
美
(
うつく
)
しいエンゼル
様
(
さま
)
に
結構
(
けつこう
)
な
処
(
ところ
)
へ
導
(
みちび
)
かれて
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
だつた。
074
娘
(
むすめ
)
は
未
(
ま
)
だ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
ぬかな』
075
小国姫
(
をくにひめ
)
『ハイ、
076
未
(
ま
)
だ
帰
(
かへ
)
りませぬが、
077
軈
(
やが
)
て
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
で
無事
(
ぶじ
)
な
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
せるで
厶
(
ござ
)
いませう。
078
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
079
と
自分
(
じぶん
)
も
二人
(
ふたり
)
の
姉妹
(
きやうだい
)
の
事
(
こと
)
を
案
(
あん
)
じ
乍
(
なが
)
ら
故意
(
わざ
)
とに
気楽
(
きらく
)
さうに
云
(
い
)
つてゐる。
080
小国別
(
をくにわけ
)
は『
会
(
あ
)
ひたいものだな』と
頻
(
しき
)
りに
憧
(
あこが
)
れ
乍
(
なが
)
らスヤスヤと
眠
(
ねむ
)
りに
就
(
つ
)
いた。
081
此
(
この
)
時
(
とき
)
館
(
やかた
)
の
周囲
(
しうゐ
)
に
当
(
あた
)
つて
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
の
叫
(
さけ
)
び
声
(
ごゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
082
小国姫
(
をくにひめ
)
は
夫
(
をつと
)
の
看護
(
かんご
)
に
手
(
て
)
が
放
(
はな
)
されないので、
083
ソファーの
側
(
かたは
)
らに
看護婦
(
かんごふ
)
と
共
(
とも
)
に
附
(
つき
)
きつて
居
(
ゐ
)
る。
084
オールスチンは
三千彦
(
みちひこ
)
と
共
(
とも
)
に
玄関口
(
げんくわんぐち
)
に
現
(
あら
)
はれ
見
(
み
)
れば
赤鉢巻
(
あかはちまき
)
に
赤襷
(
あかたすき
)
の
荒
(
あら
)
くれ
男
(
をとこ
)
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ひ
潰
(
つぶ
)
れてヒヨロヒヨロし
乍
(
なが
)
ら
雪崩
(
なだれ
)
の
如
(
ごと
)
く
押
(
おし
)
かけ
来
(
きた
)
り、
085
矢場
(
やには
)
にオールスチンを
突飛
(
つきと
)
ばし、
086
其
(
その
)
上
(
うへ
)
をドカドカと
踏
(
ふ
)
みにじり、
087
三千彦
(
みちひこ
)
を
寄
(
よ
)
つて
集
(
たか
)
つて
手
(
て
)
をとり、
088
足
(
あし
)
をとり、
089
凱歌
(
がいか
)
を
挙
(
あ
)
げてドンドンドンとテルモン
山
(
ざん
)
の
山奥
(
やまおく
)
指
(
さ
)
して、
090
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
がワツショワツショと
掛
(
か
)
け
声
(
ごゑ
)
諸共
(
もろとも
)
運
(
はこ
)
び
行
(
ゆ
)
く。
091
オールスチンの
悴
(
せがれ
)
ワックスは、
092
驢馬
(
ろば
)
に
跨
(
またが
)
り
群衆
(
ぐんしう
)
を
指揮
(
しき
)
し
乍
(
なが
)
ら
采配
(
さいはい
)
を
振
(
ふ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
093
目的物
(
もくてきぶつ
)
の
三千彦
(
みちひこ
)
は
漸
(
やうや
)
く
攫
(
さら
)
はれた。
094
ワックスは
先
(
ま
)
づ
一安心
(
ひとあんしん
)
と
玄関口
(
げんくわんぐち
)
に
進入
(
しんにふ
)
し
見
(
み
)
れば、
095
父
(
ちち
)
のオールスチンが
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
になつて
倒
(
たふ
)
れてゐる。
096
矢場
(
やには
)
に
両眼
(
りやうがん
)
に
目隠
(
めかく
)
しを
施
(
ほどこ
)
し、
097
水
(
みづ
)
を
吹
(
ふき
)
かけ
気
(
き
)
つけを
飲
(
の
)
ませ、
098
漸
(
やうや
)
くにして
蘇生
(
そせい
)
せしめた。
099
両眼
(
りやうがん
)
を
布
(
ぬの
)
で
括
(
くく
)
つて
置
(
お
)
いたのは
父
(
ちち
)
にワックスの
姿
(
すがた
)
を
覚
(
さと
)
られぬための
用意
(
ようい
)
であつた。
100
流石
(
さすが
)
悪人
(
あくにん
)
のワックスも
父
(
ちち
)
の
危難
(
きなん
)
を
見
(
み
)
ては
救
(
すく
)
はずには
居
(
を
)
られなかつたからである。
101
ワックスは
三千彦
(
みちひこ
)
を
悪友
(
あくいう
)
のエキス、
102
ヘルマンに
命
(
めい
)
じ
山奥
(
やまおく
)
に
拉
(
らつ
)
し
去
(
さ
)
らしめ、
103
冷
(
つめ
)
たい
岩窟
(
がんくつ
)
の
中
(
なか
)
に
押込
(
おしこ
)
めて
置
(
お
)
いた。
104
ワックス『サア、
105
之
(
これ
)
からデビス
姫
(
ひめ
)
を
生捕
(
いけどり
)
せねばならぬ。
106
さりとて
何
(
なん
)
とか
群衆
(
ぐんしう
)
を
誑
(
たぶらか
)
さねば
此
(
この
)
目的
(
もくてき
)
は
達
(
たつ
)
し
得
(
え
)
ない』
107
と
再
(
ふたた
)
び
驢馬
(
ろば
)
を
引返
(
ひつかへ
)
し
十字
(
じふじ
)
街頭
(
がいとう
)
に
立
(
た
)
ち、
108
豆太鼓
(
まめだいこ
)
を
叩
(
たた
)
き
乍
(
なが
)
ら、
109
又
(
また
)
もや
辻説法
(
つじせつぽふ
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
110
ワックス『
宮町
(
みやまち
)
の
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
諸君
(
しよくん
)
よ、
111
諸君
(
しよくん
)
の
尽力
(
じんりよく
)
によつてテルモン
山
(
ざん
)
の
神館
(
かむやかた
)
に
禍
(
わざはひ
)
する
三五教
(
あななひけう
)
の
悪
(
あく
)
宣伝使
(
せんでんし
)
三千彦
(
みちひこ
)
を
漸
(
やうや
)
くの
事
(
こと
)
に
生捕
(
いけど
)
りました。
112
彼奴
(
あいつ
)
は
館
(
やかた
)
の
嬢様
(
ぢやうさま
)
デビス
姫
(
ひめ
)
と
密
(
ひそ
)
かに
牒
(
しめ
)
し
合
(
あは
)
せ
此
(
この
)
神館
(
かむやかた
)
を
横領
(
わうりやう
)
し、
113
あらゆる
魔法
(
まはふ
)
を
使
(
つか
)
つて
町民
(
ちやうみん
)
諸氏
(
しよし
)
を
苦
(
くる
)
しめる
準備
(
じゆんび
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りましたぞ。
114
此
(
この
)
度
(
たび
)
の
小国別
(
をくにわけ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
も
全
(
まつた
)
く
三千彦
(
みちひこ
)
がなす
業
(
わざ
)
、
115
大恩
(
だいおん
)
ある
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
の
御恩
(
ごおん
)
を
報
(
はう
)
ずるは
今
(
いま
)
この
時
(
とき
)
で
厶
(
ござ
)
る。
116
何程
(
なにほど
)
デビス
姫
(
ひめ
)
が
大切
(
たいせつ
)
なお
嬢
(
ぢやう
)
さまとは
云
(
い
)
へ、
117
バラモン
教
(
けう
)
の
教敵
(
けうてき
)
なる
三五教
(
あななひけう
)
の
悪
(
あく
)
宣伝使
(
せんでんし
)
と
情
(
じやう
)
を
通
(
つう
)
じ、
118
父
(
ちち
)
のお
館
(
やかた
)
を
占領
(
せんりやう
)
し、
119
町民
(
ちやうみん
)
を
苦
(
くるし
)
めむと
致
(
いた
)
さるる
以上
(
いじやう
)
は、
120
一
(
いち
)
時
(
じ
)
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
るまでは
吾々
(
われわれ
)
の
手
(
て
)
に
預
(
あづか
)
つて、
121
お
館
(
やかた
)
に
帰
(
かへ
)
さないやうにせなくてはなりませぬ。
122
今
(
いま
)
の
心
(
こころ
)
で
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
られては
大変
(
たいへん
)
で
厶
(
ござ
)
るぞ。
123
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
のお
館
(
やかた
)
の
宝
(
たから
)
も
三千彦
(
みちひこ
)
と
両人
(
りやうにん
)
牒
(
しめ
)
し
合
(
あは
)
せ
奪
(
うば
)
ひ
取
(
と
)
つたに
相違
(
さうゐ
)
厶
(
ござ
)
いませぬ。
124
それで
皆
(
みな
)
さまの
力
(
ちから
)
をかつて、
125
デビス
姫
(
ひめ
)
が
今
(
いま
)
ここに
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
らば、
126
有無
(
うむ
)
を
云
(
い
)
はせず、
127
テルモン
山
(
ざん
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
連
(
つ
)
れ
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませう。
128
之
(
これ
)
は
決
(
けつ
)
してワックスの
私言
(
しげん
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬ。
129
館
(
やかた
)
の
小国姫
(
をくにひめ
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
で
厶
(
ござ
)
いますぞ。
130
皆
(
みな
)
さま、
131
宜
(
よろ
)
しく
頼
(
たの
)
みます』
132
と
呶鳴
(
どな
)
りつけた。
133
熱
(
ねつ
)
しきつたる
群衆
(
ぐんしう
)
は
馬鹿
(
ばか
)
息子
(
むすこ
)
のワックスが
言葉
(
ことば
)
を、
134
さまで
信用
(
しんよう
)
するものはないが、
135
群衆
(
ぐんしう
)
心理
(
しんり
)
と
云
(
い
)
ふものは
不思議
(
ふしぎ
)
なもので、
136
三千彦
(
みちひこ
)
を
捕虜
(
ほりよ
)
とした
勢
(
いきほひ
)
に
乗
(
じやう
)
じ、
137
一
(
いち
)
も
二
(
に
)
も
無
(
な
)
くワックスの
言葉
(
ことば
)
を
鵜呑
(
うの
)
みにし、
138
第二
(
だいに
)
の
計画
(
けいくわく
)
としてデビス
姫
(
ひめ
)
を
捕縛
(
ほばく
)
せむと
宮町
(
みやまち
)
を
後
(
あと
)
に
郊外
(
かうぐわい
)
まで
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
した。
139
折
(
をり
)
から
大原野
(
だいげんや
)
の
中央
(
まんなか
)
を
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
140
男女
(
なんによ
)
四人
(
よにん
)
連
(
づ
)
れ
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
るものがあつた。
141
エミシ
[
※
求道居士の旧名
]
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
142
善神
(
ぜんしん
)
邪神
(
じやしん
)
を
立分
(
たてわ
)
ける
143
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
144
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
145
只
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
146
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
せ
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
せ
147
身
(
み
)
の
過
(
あやま
)
ちは
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ
148
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
149
治国別
(
はるくにわけ
)
に
助
(
たす
)
けられ
150
バラモン
教
(
けう
)
のカーネルと
151
仕
(
つか
)
へ
侍
(
はべ
)
りし
此
(
この
)
エミシ
152
現実界
(
げんじつかい
)
の
欲
(
よく
)
を
棄
(
す
)
て
153
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
神界
(
しんかい
)
に
154
身
(
み
)
も
魂
(
たましひ
)
も
任
(
まか
)
せつつ
155
比丘
(
びく
)
の
姿
(
すがた
)
と
相成
(
あひな
)
りて
156
山川
(
やまかは
)
渡
(
わた
)
り
野路
(
のぢ
)
を
越
(
こ
)
え
157
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
遠近
(
をちこち
)
に
158
宣
(
の
)
り
伝
(
つた
)
へ
行
(
ゆ
)
く
折
(
をり
)
もあれ
159
エルシナ
川
(
がは
)
の
激流
(
げきりう
)
に
160
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
み
漂
(
ただよ
)
ふ
人々
(
ひとびと
)
を
161
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げ
162
検
(
あらた
)
め
見
(
み
)
ればこは
如何
(
いか
)
に
163
バラモン
教
(
けう
)
に
仕
(
つか
)
へたる
164
ベル、ヘル、シャルの
軍人
(
いくさびと
)
165
ケリナの
姫
(
ひめ
)
の
四人
(
よにん
)
連
(
づ
)
れ
166
やうやう
三人
(
みたり
)
の
命
(
いのち
)
をば
167
取
(
と
)
り
返
(
かへ
)
しつつ
川岸
(
かはぎし
)
を
168
伝
(
つた
)
うて
来
(
き
)
たる
草野原
(
くさのはら
)
169
ベルとヘルとの
両人
(
りやうにん
)
は
170
俄
(
にはか
)
に
悪心
(
あくしん
)
萌芽
(
はうが
)
して
171
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
の
命
(
いのち
)
をば
172
奪
(
と
)
らむとしたる
浅間
(
あさま
)
しさ
173
月照彦
(
つきてるひこ
)
の
神力
(
しんりき
)
に
174
照
(
て
)
らされ
悪魔
(
あくま
)
は
忽
(
たちま
)
ちに
175
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く
176
後
(
あと
)
に
二人
(
ふたり
)
は
勇
(
いさ
)
み
立
(
た
)
ち
177
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
身
(
み
)
に
浴
(
あ
)
びて
178
露野
(
つゆの
)
を
渉
(
わた
)
り
進
(
すす
)
む
折
(
をり
)
179
道
(
みち
)
の
傍
(
かたへ
)
の
方岩
(
はこいは
)
に
180
俄
(
にはか
)
に
唸
(
うめ
)
く
人
(
ひと
)
の
声
(
こゑ
)
181
はて
訝
(
いぶ
)
かしと
窺
(
うかが
)
へば
182
デビスの
姫
(
ひめ
)
やベル、ヘルの
183
三人
(
みたり
)
の
男女
(
なんによ
)
と
知
(
し
)
るよりも
184
二度
(
にど
)
ビツクリの
二人
(
ふたり
)
連
(
づ
)
れ
185
種々
(
いろいろ
)
雑多
(
ざつた
)
と
介抱
(
かいはう
)
して
186
三人
(
みたり
)
の
命
(
いのち
)
を
相救
(
あひすく
)
ひ
187
喜
(
よろこ
)
ぶ
間
(
ま
)
もなくベルの
奴
(
やつ
)
188
デビスの
姫
(
ひめ
)
の
身
(
み
)
につけし
189
七宝
(
しつほう
)
悉
(
ことごと
)
く
掠奪
(
りやくだつ
)
し
190
草野
(
くさの
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しける
191
アア
如何
(
いか
)
にせむ
曲神
(
まがかみ
)
に
192
呪
(
のろ
)
はれきつた
盗人
(
ぬすびと
)
の
193
如何
(
いか
)
に
誠
(
まこと
)
を
説
(
と
)
くとても
194
悟
(
さと
)
る
術
(
すべ
)
なき
憐
(
あは
)
れさよ
195
手負
(
てお
)
ひ
玉
(
たま
)
ひしデビス
姫
(
ひめ
)
196
ヘルの
背中
(
せなか
)
に
負
(
お
)
はせつつ
197
テルモン
山
(
ざん
)
の
神館
(
かむやかた
)
198
目当
(
めあて
)
に
進
(
すす
)
む
野路
(
のぢ
)
の
上
(
うへ
)
199
守
(
まも
)
らせ
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
200
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る
201
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
202
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
203
只
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
204
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
せ
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
せ
205
身
(
み
)
の
過
(
あやまち
)
は
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ
206
神
(
かみ
)
は
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
と
倶
(
とも
)
にあり
207
如何
(
いか
)
なる
曲
(
まが
)
の
攻
(
せ
)
め
来
(
く
)
とも
208
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
大道
(
おほみち
)
に
209
さやる
術
(
すべ
)
なき
曲津
(
まがつ
)
神
(
かみ
)
210
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
魂
(
たましひ
)
を
211
洗
(
あら
)
ひ
清
(
きよ
)
めて
大神
(
おほかみ
)
の
212
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
帰
(
かへ
)
れかし
213
アア
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
214
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
215
ヘルはデビス
姫
(
ひめ
)
を
背
(
せ
)
に
負
(
お
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
息
(
いき
)
も
苦
(
くる
)
しげに
一歩
(
ひとあし
)
々々
(
ひとあし
)
拍子
(
ひやうし
)
をとつて
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
216
『ウントコドツコイ ドツコイシヨ
217
悪
(
あく
)
の
酬
(
むく
)
いは
目
(
ま
)
のあたり
218
バラモン
軍
(
ぐん
)
の
解散
(
かいさん
)
と
219
同時
(
どうじ
)
に
心
(
こころ
)
侫
(
ねぢ
)
け
出
(
だ
)
し
220
忽
(
たちま
)
ち
魔道
(
まだう
)
に
逆転
(
ぎやくてん
)
し
221
覆面
(
ふくめん
)
頭巾
(
づきん
)
の
怪装
(
くわいさう
)
で
222
旅人
(
りよじん
)
を
掠
(
かす
)
め
懐
(
ふところ
)
の
223
宝
(
たから
)
を
奪
(
うば
)
ふ
追剥
(
おひはぎ
)
と
224
一度
(
いちど
)
はなりし
果敢
(
はか
)
なさよ
225
ベルとシャルとの
悪友
(
あくいう
)
に
226
唆
(
そその
)
かされて
忽
(
たちま
)
ちに
227
思
(
おも
)
ひもよらぬ
泥坊
(
どろばう
)
の
228
仲間
(
なかま
)
となりて
行
(
ゆ
)
く
人
(
ひと
)
の
229
衣
(
ころも
)
を
脱
(
ぬ
)
がせ
金
(
かね
)
を
奪
(
と
)
り
230
挙句
(
あげく
)
の
果
(
はて
)
は
命
(
いのち
)
まで
231
奪
(
と
)
りて
露命
(
ろめい
)
を
繋
(
つな
)
ぎつつ
232
エルシナ
川
(
がは
)
の
袂
(
たもと
)
まで
233
忍
(
しの
)
び
忍
(
しの
)
びに
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
234
ザンブと
立
(
た
)
ちし
水煙
(
みづけむり
)
235
如何
(
いか
)
なる
人
(
ひと
)
の
投身
(
みなげ
)
ぞや
236
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けにやなるまいと
237
身
(
み
)
を
躍
(
をど
)
らして
深淵
(
ふかぶち
)
に
238
跳
(
と
)
び
込
(
こ
)
み
二人
(
ふたり
)
を
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
し
239
又
(
また
)
もやベルの
悪人
(
あくにん
)
と
240
つまらぬ
事
(
こと
)
を
争
(
あらそ
)
ひつ
241
再
(
ふたた
)
び
淵
(
ふち
)
に
転落
(
てんらく
)
し
242
魂
(
たま
)
は
中空
(
ちうくう
)
に
跳
(
と
)
び
出
(
だ
)
して
243
八衢
(
やちまた
)
街道
(
かいだう
)
の
旅
(
たび
)
をなし
244
闇
(
やみ
)
に
迷
(
まよ
)
へる
時
(
とき
)
もあれ
245
忽
(
たちま
)
ち
聞
(
きこ
)
ゆる
法螺
(
ほら
)
の
声
(
こゑ
)
246
高姫館
(
たかひめやかた
)
の
危難
(
きなん
)
をば
247
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
に
救
(
すく
)
はれて
248
再
(
ふたた
)
び
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
人
(
ひと
)
となり
249
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐ
)
みを
喜
(
よろこ
)
びつ
250
居士
(
こじ
)
の
御後
(
みあと
)
に
従
(
したが
)
ひて
251
エルシナ
谷
(
だに
)
の
山口
(
やまぐち
)
に
252
来
(
き
)
かかる
折
(
をり
)
しも
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
253
所持
(
しよぢ
)
し
玉
(
たま
)
ふと
聞
(
き
)
くよりも
254
心
(
こころ
)
の
鬼
(
おに
)
は
忽
(
たちま
)
ちに
255
角
(
つの
)
振
(
ふ
)
り
立
(
た
)
てて
狂
(
くる
)
ひ
出
(
だ
)
し
256
ベルと
二人
(
ふたり
)
が
牒
(
しめ
)
し
合
(
あ
)
ひ
257
如何
(
いか
)
にもなしてこの
金
(
かね
)
を
258
奪
(
うば
)
はむものと
四苦
(
しく
)
八苦
(
はつく
)
259
遂
(
つひ
)
には
神
(
かみ
)
に
嚇
(
おどか
)
され
260
命
(
いのち
)
からがら
山
(
やま
)
を
越
(
こ
)
え
261
不動
(
ふどう
)
の
滝
(
たき
)
に
逃
(
に
)
げ
行
(
ゆ
)
きて
262
怪
(
あや
)
しき
姿
(
すがた
)
に
驚
(
おどろ
)
きつ
263
慄
(
ふる
)
ひ
戦
(
をのの
)
く
折
(
をり
)
もあれ
264
怪
(
あや
)
しの
姿
(
すがた
)
は
滝壺
(
たきつぼ
)
を
265
上
(
のぼ
)
りてトボトボ
山坂
(
やまさか
)
を
266
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
を
潜
(
くぐ
)
り
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く
267
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
を
洩
(
も
)
るる
月影
(
つきかげ
)
に
268
光
(
ひかり
)
眩
(
まばゆ
)
き
宝石
(
ほうせき
)
は
269
星
(
ほし
)
の
如
(
ごと
)
くにピカピカと
270
輝
(
かがや
)
きわたる
人
(
ひと
)
の
顔
(
かほ
)
271
これ
見逃
(
みのが
)
してなるものか
272
俺
(
おれ
)
につづけと
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
273
ベルは
一歩前
(
ひとあしさき
)
に
立
(
た
)
ち
274
暗
(
くら
)
き
谷間
(
たにま
)
を
潜
(
くぐ
)
り
抜
(
ぬ
)
け
275
月
(
つき
)
の
白
(
しら
)
みし
山口
(
やまぐち
)
の
276
草
(
くさ
)
茫々
(
ばうばう
)
と
生
(
は
)
え
茂
(
しげ
)
る
277
中
(
なか
)
に
目立
(
めだ
)
ちていと
広
(
ひろ
)
き
278
巌
(
いはほ
)
の
側
(
そば
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
279
以前
(
いぜん
)
の
女
(
をんな
)
は
方岩
(
はこいは
)
の
280
上
(
うへ
)
に
安坐
(
あんざ
)
し
月光
(
げつくわう
)
に
281
向
(
むか
)
つて
何
(
なに
)
か
祈
(
いの
)
り
居
(
ゐ
)
る
282
隙
(
すき
)
を
覗
(
うかが
)
ひベルの
奴
(
やつ
)
283
猿臂
(
ゑんぴ
)
を
伸
(
の
)
ばして
宝玉
(
ほうぎよく
)
の
284
光
(
ひかり
)
を
狙
(
ねら
)
つて
ムシ
らむと
285
飛
(
と
)
びかかりたる
一刹那
(
いつせつな
)
286
ズドンと
許
(
ばか
)
り
二三間
(
にさんげん
)
287
投
(
な
)
げ
出
(
だ
)
されたる
浅間
(
あさま
)
しさ
288
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
るよりウントコシヨ
289
四辺
(
あたり
)
に
白
(
しろ
)
く
光
(
ひか
)
りたる
290
枯木杭
(
かれぼくくひ
)
を
拾
(
ひろ
)
ひ
上
(
あ
)
げ
291
無性
(
むしやう
)
矢鱈
(
やたら
)
にウントコシヨ
292
骨
(
ほね
)
も
挫
(
くだ
)
けと
女
(
をんな
)
をば
293
目
(
め
)
あてにウンと
打下
(
うちおろ
)
す
294
キヤツと
一声
(
ひとこゑ
)
断末魔
(
だんまつま
)
295
やれ
安心
(
あんしん
)
と
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
296
ベルに
水
(
みづ
)
をば
与
(
あた
)
へつつ
297
種々
(
いろいろ
)
雑多
(
ざつた
)
と
介抱
(
かいはう
)
して
298
漸
(
やうや
)
く
息
(
いき
)
を
吹
(
ふ
)
き
返
(
かへ
)
し
299
又
(
また
)
もや
宝
(
たから
)
の
奪合
(
とりあ
)
ひに
300
一悶錯
(
ひともんさく
)
をおツ
初
(
ぱじ
)
め
301
二人
(
ふたり
)
は
息
(
いき
)
も
絶々
(
たえだえ
)
に
302
露
(
つゆ
)
おく
草
(
くさ
)
に
倒
(
たふ
)
れけり
303
かかる
処
(
ところ
)
へ
三五
(
あななひ
)
の
304
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
の
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
305
ケリナの
姫
(
ひめ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
306
現
(
あら
)
はれまして
吾々
(
われわれ
)
の
307
命
(
いのち
)
を
救
(
すく
)
ひ
玉
(
たま
)
ひてゆ
308
ここに
心
(
こころ
)
をとり
直
(
なほ
)
し
309
罪亡
(
つみほろ
)
ぼしの
其
(
その
)
為
(
た
)
めに
310
デビスの
姫
(
ひめ
)
を
背
(
せな
)
に
負
(
お
)
ひ
311
重
(
おも
)
たき
足
(
あし
)
を
引摺
(
ひきず
)
りつ
312
テルモン
山
(
ざん
)
の
神館
(
かむやかた
)
313
小国別
(
をくにのわけ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
314
お
詫
(
わび
)
旁
(
かたがた
)
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
315
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
ぞ
果敢
(
はか
)
なけれ
316
アア
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
317
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましまして
318
ヘルが
犯
(
おか
)
せし
罪科
(
つみとが
)
を
319
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
赦
(
ゆる
)
しまし
320
生
(
い
)
きては
神
(
かみ
)
の
御用
(
ごよう
)
に
立
(
た
)
ち
321
死
(
し
)
しては
尊
(
たふと
)
き
天国
(
てんごく
)
の
322
清
(
きよ
)
き
生涯
(
しやうがい
)
送
(
おく
)
るべく
323
守
(
まも
)
らせ
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
324
天地
(
てんち
)
を
統
(
す
)
ぶる
大神
(
おほかみ
)
の
325
御前
(
みまへ
)
に
畏
(
かしこ
)
み
祈
(
ね
)
ぎまつる』
326
と
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
らテルモン
山
(
ざん
)
の
中腹
(
ちうふく
)
、
327
宮町
(
みやまち
)
を
指
(
さ
)
して
爪先上
(
つまさきあが
)
りの
原野
(
げんや
)
を
帰
(
かへ
)
り
来
(
く
)
る。
328
種々
(
いろいろ
)
雑多
(
ざつた
)
の
旗
(
はた
)
を
立
(
た
)
てた
宮町
(
みやまち
)
の
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
はワックスを
隊長
(
たいちやう
)
とし、
329
デビス
姫
(
ひめ
)
を
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
生捕
(
いけど
)
らむものと、
330
町内
(
ちやうない
)
隈
(
くま
)
なく
探
(
さが
)
し、
331
遂
(
つひ
)
に
郊外
(
かうぐわい
)
にまで
現
(
あら
)
はれて
来
(
き
)
た。
332
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
一行
(
いつかう
)
は、
333
そんな
変事
(
へんじ
)
が
起
(
おこ
)
つてゐるとは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らず、
334
悠々
(
いういう
)
として
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひながら、
335
道
(
みち
)
の
傍
(
かたへ
)
のパインの
森
(
もり
)
に
少時
(
しばし
)
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
めて
居
(
ゐ
)
た。
336
群衆
(
ぐんしう
)
の
喊声
(
かんせい
)
は
時々
(
じじ
)
刻々
(
こくこく
)
に
高
(
たか
)
まり
来
(
きた
)
る。
337
(
大正一二・三・二四
旧二・八
於皆生温泉浜屋
北村隆光
録)
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