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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第57巻(申の巻)
序文
総説歌
第1篇 照門山颪
第1章 大山
第2章 煽動
第3章 野探
第4章 妖子
第5章 糞闘
第6章 強印
第7章 暗闇
第8章 愚摺
第2篇 顕幽両通
第9章 婆娑
第10章 転香
第11章 鳥逃し
第12章 三狂
第13章 悪酔怪
第14章 人畜
第15章 糸瓜
第16章 犬労
第3篇 天上天下
第17章 涼窓
第18章 翼琴
第19章 抱月
第20章 犬闘
第21章 言触
第22章 天葬
第23章 薬鑵
第24章 空縛
第25章 天声
余白歌
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<<< 天葬
(B)
(N)
空縛 >>>
第二三章
薬鑵
(
やくくわん
)
〔一四七三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
篇:
第3篇 天上天下
よみ(新仮名遣い):
てんじょうてんか
章:
第23章 薬鑵
よみ(新仮名遣い):
やかん
通し章番号:
1473
口述日:
1923(大正12)年03月26日(旧02月10日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年5月24日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
町人が数百人集まり、ワックスの館で飲食してメートルを上げていると、そこへいずこともなく飛んできたスマートが座敷に駆け上がり、前後左右に荒れ回った。今回は誰も傷つけられた者はなかった。
ワックスは怒って槍を取るとスマートめがけて突いてかかった。エルはワックスの腕を握り、父の命日であるから殺生してはならないと戒めた。
するとスマートはいつのまにか鉄瓶に化けてしまった。不思議に思って見ていると、鉄瓶が薬鑵に代わり、たちまち目・鼻・耳・手足が生えて踊り出した。薬鑵はやがてオールスチンの姿となり、薬鑵頭に湯気を立てて演説を始め出した。
薬鑵の化け物は、自分はオールスチンの精霊で、犬となって我が家に帰り、鉄瓶から薬鑵に変化してようやく完成したという。
薬鑵のオールスチンは、自分の罪業を告白し、ワックスは身魂が汚れているから財産はひとつも残さずに苦労させる必要があると説いた。そして自分は三五教の宣伝使の教訓によって罪から救われて霊界に行くからと町人たちに後事を託した。薬鑵のオールスチンはにわかに麗しい天人の姿となって空中を歩み、テルモン山の山奥に姿を隠した。
一同は薬鑵のオールスチンの言を嘘か真実かはかりかねていた。ワックスは、自分に財産を一物も残すな、というのが親父の言であるはずがないと、三五教の魔法使いのせいにした。そして悪酔怪員をたきつけて、弔い合戦をやろうと言いだした。タンクという男が賛同して先導し、酒に酔った群衆を連れて口々に歌を歌いながら攻めて行く。
オークスとビルマの両人はトランクに金銀を詰めて坂道を下って行く途中、二人一度に足をすべらせて谷川に転落してしまった。トランクは口を開けて、金銀の小玉をばらまいた。タンクは目ざとくこれをみつけると谷底に飛び下りた。
タンクはトランクをひっかかえると、金銀の小玉を掴んで放り込んだ。その他の町人たちも飛び下りてきて折り重なり、宝の取り合いでひと悶着が起こった。タンクは二三千両の金を拾ってトランクにねじ込むと、谷川に沿っていずこともなく逃げて行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5723
愛善世界社版:
273頁
八幡書店版:
第10輯 358頁
修補版:
校定版:
284頁
普及版:
128頁
初版:
ページ備考:
001
オールスチンの
天葬式
(
てんさうしき
)
も
無事
(
ぶじ
)
終了
(
しうれう
)
し、
002
新主人
(
しんしゆじん
)
ワックスの
館
(
やかた
)
には
町人
(
まちびと
)
が
数百
(
すうひやく
)
人
(
にん
)
集
(
あつ
)
まり
来
(
きた
)
り、
003
家
(
いへ
)
の
外
(
そと
)
に
蓆
(
むしろ
)
を
敷
(
し
)
いて
坐
(
すわ
)
つたり、
004
草
(
くさ
)
の
上
(
うへ
)
に
腰
(
こし
)
をおろして
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
を
噛
(
か
)
じつたり、
005
醍醐味
(
だいごみ
)
をあふつて
盛
(
さか
)
んにメートルを
上
(
あ
)
げてゐる。
006
其処
(
そこ
)
へ
何処
(
いづく
)
とも
無
(
な
)
く
飛
(
と
)
んで
来
(
き
)
た
一頭
(
いつとう
)
の
猛犬
(
まうけん
)
、
007
矢場
(
やには
)
に
座敷
(
ざしき
)
に
駆
(
か
)
け
上
(
あが
)
り、
008
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
荒
(
あ
)
れ
廻
(
まは
)
る。
009
されど
不思議
(
ふしぎ
)
にも
誰一人
(
たれひとり
)
創
(
きず
)
つけられたものは
無
(
な
)
かつた。
010
ワックスは、
011
ワックス『それスマートの
狂犬
(
きやうけん
)
が
来
(
き
)
た。
012
此奴
(
こいつ
)
が
俺
(
おれ
)
の
肱
(
ひじ
)
を
噛
(
かじ
)
り、
013
恋
(
こひ
)
の
邪魔
(
じやま
)
をした
畜生
(
ちくしやう
)
だ。
014
思
(
おも
)
ひ
知
(
し
)
れ』
015
と
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
016
長押
(
なげし
)
の
槍
(
やり
)
を
取
(
と
)
るより
早
(
はや
)
くスマート
目蒐
(
めが
)
けて
突
(
つ
)
いてかかる。
017
スマートは
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
身
(
み
)
をかはし
巧
(
たくみ
)
に
逃
(
に
)
げて
居
(
ゐ
)
る。
018
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
は
右往
(
うわう
)
左往
(
さわう
)
に
逃
(
に
)
げ
廻
(
まは
)
り、
019
石
(
いし
)
を
拾
(
ひろ
)
うて
投
(
な
)
げつけるものあり、
020
ウウウー、
021
ワンワンワンの
犬
(
いぬ
)
の
声
(
こゑ
)
と
共
(
とも
)
に、
022
阿鼻
(
あび
)
叫喚
(
けうくわん
)
の
地獄
(
ぢごく
)
と
忽
(
たちま
)
ち
化
(
くわ
)
して
仕舞
(
しま
)
つた。
023
エルは
矢場
(
やには
)
にワックスの
腕
(
うで
)
を
握
(
にぎ
)
り、
024
エル『これこれワックスさま、
025
今日
(
けふ
)
はお
父
(
とう
)
さまの
御
(
ご
)
命日
(
めいにち
)
なり、
026
仮令
(
たとへ
)
畜生
(
ちくしやう
)
なりとて
殺生
(
せつしやう
)
をしてはなりませぬ。
027
マアお
鎮
(
しづ
)
まりなされ。
028
お
父
(
とう
)
さまの
天国行
(
てんごくゆき
)
の
邪魔
(
じやま
)
なさつては
不孝
(
ふかう
)
の
上
(
うへ
)
の
不孝
(
ふかう
)
です』
029
ワックス『
何
(
なに
)
、
030
あの
爺
(
おやぢ
)
、
031
俺
(
おれ
)
を
恨
(
うら
)
んで
居
(
ゐ
)
たのだ。
032
臨終
(
いまは
)
の
隙
(
きは
)
まで
金銀
(
きんぎん
)
を
床
(
ゆか
)
の
下
(
した
)
に
隠
(
かく
)
し、
033
遺言
(
ゆいごん
)
もせずに
死
(
し
)
んで
仕舞
(
しま
)
つた。
034
夫
(
それ
)
故
(
ゆゑ
)
オークス、
035
ビルマの
奴
(
やつ
)
に
旨
(
うま
)
くしてやられ、
036
こんな
残念
(
ざんねん
)
な
事
(
こと
)
があらうかい。
037
この
犬
(
いぬ
)
に
腕
(
うで
)
を
咬
(
か
)
まれてさへ
居
(
ゐ
)
なかつたら、
038
滅多
(
めつた
)
に
彼奴
(
あいつ
)
に
取
(
と
)
られるのぢやなかつたに、
039
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
此
(
この
)
犬
(
いぬ
)
が
恨
(
うら
)
めしい、
040
放
(
ほ
)
つて
置
(
お
)
いて
呉
(
く
)
れ』
041
と
無理
(
むり
)
に
振
(
ふ
)
り
放
(
はな
)
さうとする。
042
スマートはいつの
間
(
ま
)
にか
鉄瓶
(
てつびん
)
に
化
(
ば
)
けて
仕舞
(
しま
)
ひ、
043
チンチンと
湯気
(
ゆげ
)
を
立
(
た
)
て、
044
厚
(
あつ
)
い
鉄蓋
(
てつぶた
)
を
動
(
うご
)
かして
唸
(
うな
)
つてゐる。
045
エル『ア、
046
何
(
なん
)
だ、
047
犬
(
いぬ
)
だと
思
(
おも
)
へば
忽
(
たちま
)
ち
鉄瓶
(
てつびん
)
に
化
(
ば
)
けやがつた。
048
これや
犬鉄
(
けんてつ
)
、
049
貴様
(
きさま
)
は
何
(
なに
)
恨
(
うら
)
みがあつて
当館
(
たうやかた
)
へ
乱入
(
らんにふ
)
致
(
いた
)
したのだ。
050
返答
(
へんたふ
)
次第
(
しだい
)
によつて
容赦
(
ようしや
)
はせぬぞ』
051
と
詰
(
つ
)
めかける。
052
鉄瓶
(
てつびん
)
の
口
(
くち
)
からは
熱
(
あつ
)
い
湯
(
ゆ
)
を
何斗
(
なんど
)
となく
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
す
怪
(
あや
)
しさ。
053
一同
(
いちどう
)
は、
054
『アッツツー』
055
と
叫
(
さけ
)
びつつ
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
し、
056
遠目
(
とほめ
)
から
不思議
(
ふしぎ
)
さうに
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
る。
057
暫
(
しばら
)
くすると
鉄瓶
(
てつびん
)
は
俄薬鑵
(
にはかやくわん
)
に
変
(
かは
)
つて
仕舞
(
しま
)
つた。
058
忽
(
たちま
)
ち
目
(
め
)
が
出来
(
でき
)
、
059
鼻
(
はな
)
が
出来
(
でき
)
、
060
耳
(
みみ
)
がつき、
061
手足
(
てあし
)
が
生
(
は
)
へて
踊
(
をど
)
り
出
(
だ
)
した。
062
一同
(
いちどう
)
は
夢
(
ゆめ
)
か
現
(
うつつ
)
か
化物
(
ばけもの
)
かと
真青
(
まつさを
)
な
顔
(
かほ
)
をして
見詰
(
みつ
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
063
薬鑵
(
やくわん
)
は
忽
(
たちま
)
ちオールスチンの
姿
(
すがた
)
となり、
064
薬鑵頭
(
やくわんあたま
)
に
湯気
(
ゆげ
)
を
立
(
た
)
てて、
065
ソロソロ
演説
(
えんぜつ
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
066
薬鑵
(
やくわん
)
の
化物
(
ばけもの
)
『
皆
(
みな
)
さま、
067
当家
(
たうけ
)
の
主人
(
しゆじん
)
オールスチンの
帰幽
(
きいう
)
につきまして、
068
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
をかけました。
069
私
(
わたくし
)
はオールスチンの
精霊
(
せいれい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
070
初
(
はじ
)
めに
犬
(
いぬ
)
となつて
吾
(
わが
)
家
(
や
)
へ
帰
(
かへ
)
り
漸
(
やうや
)
く
鉄瓶
(
てつびん
)
から
薬鑵
(
やくわん
)
に
変化
(
へんげ
)
し、
071
茲
(
ここ
)
に
精霊
(
せいれい
)
完成
(
くわんせい
)
してお
暇
(
いとま
)
乞
(
ご
)
ひの
演説
(
えんぜつ
)
を
致
(
いた
)
す
事
(
こと
)
になりました。
072
決
(
けつ
)
して
妖怪
(
えうくわい
)
でも
何
(
なん
)
でも
厶
(
ござ
)
いませぬから
近
(
ちか
)
よつて
下
(
くだ
)
さいませ』
073
エル『モシ
薬鑵
(
やくわん
)
さま
近
(
ちか
)
よらぬ
事
(
こと
)
はありませぬが
熱湯
(
ねつたう
)
を
口
(
くち
)
から
噴
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
して、
074
吾々
(
われわれ
)
一同
(
いちどう
)
を
悩
(
なや
)
ます
積
(
つも
)
りぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか』
075
薬鑵
(
やくわん
)
の
化物
(
ばけもの
)
『
決
(
けつ
)
して
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
は
致
(
いた
)
しませぬ。
076
私
(
わたくし
)
は
現世
(
げんせ
)
に
生
(
うま
)
れてから
八十
(
はちじふ
)
有余
(
いうよ
)
年
(
ねん
)
。
077
その
間
(
あひだ
)
に
人
(
ひと
)
の
秘密
(
ひみつ
)
を
探
(
さぐ
)
り、
078
犬
(
いぬ
)
の
役
(
やく
)
を
勤
(
つと
)
め、
079
たうとう
此
(
こ
)
の
神館
(
かむやかた
)
の
御
(
おん
)
主
(
あるじ
)
小国別
(
をくにわけ
)
様
(
さま
)
に
見出
(
みいだ
)
され、
080
家令
(
かれい
)
の
職
(
しよく
)
にまで
抜擢
(
ばつてき
)
されました。
081
夫
(
それ
)
より
日々
(
にちにち
)
館
(
やかた
)
の
番犬
(
ばんけん
)
を
勤
(
つと
)
め、
082
臭
(
くさ
)
い
物
(
もの
)
を
嗅出
(
かぎだ
)
して
手柄
(
てがら
)
と
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りました。
083
その
罪障
(
ざいしやう
)
が
現
(
あら
)
はれて
吾
(
わが
)
精霊
(
せいれい
)
は
犬
(
いぬ
)
と
変化
(
へんげ
)
し、
084
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
りの
暴虐
(
ばうぎやく
)
をやつて
来
(
き
)
た
罪
(
つみ
)
の
映象
(
えいしやう
)
が
現
(
あら
)
はれたので
厶
(
ござ
)
います。
085
それから
皆
(
みな
)
さまに
面
(
つら
)
の
皮
(
かは
)
の
厚
(
あつ
)
い
奴
(
やつ
)
だ
鉄面皮
(
てつめんぴ
)
だと
罵
(
ののし
)
られ、
086
其
(
その
)
名
(
な
)
の
如
(
ごと
)
く
一
(
いち
)
時
(
じ
)
は
厚顔
(
こうがん
)
無恥
(
むち
)
の
鉄瓶
(
てつびん
)
となり、
087
皆
(
みな
)
さまに
熱茶
(
にえちや
)
を
浴
(
あ
)
びせた
悪党
(
あくたう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
088
然
(
しか
)
し
私
(
わたくし
)
の
尻
(
しり
)
には
彼
(
か
)
の
鉄瓶
(
てつびん
)
の
如
(
ごと
)
くあのやうに
烈火
(
れつくわ
)
が
燃
(
も
)
え
立
(
た
)
ち、
089
実
(
まこと
)
に
苦
(
くる
)
しうて
耐
(
た
)
へられなかつたので
厶
(
ござ
)
います。
090
漸
(
やうや
)
く
罪
(
つみ
)
が
取
(
と
)
れると
共
(
とも
)
に
面
(
つら
)
の
皮
(
かは
)
が
少
(
すこ
)
しく
薄
(
うす
)
くなり、
091
欲
(
よく
)
の
皮
(
かは
)
は
少
(
すこ
)
し
削
(
けづ
)
られた
為
(
ため
)
にあの
通
(
とほ
)
り
薄
(
うす
)
い
薬鑵
(
やくわん
)
となり、
092
頭
(
あたま
)
の
毛
(
け
)
迄
(
まで
)
が
脱
(
ぬ
)
けて
倅
(
せがれ
)
のワックスの
奴
(
やつ
)
に
薬鑵爺
(
やくわんおやぢ
)
と
云
(
い
)
はれて
居
(
ゐ
)
ました。
093
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
からも
矢張
(
やは
)
り
薬鑵
(
やくわん
)
々々
(
やくわん
)
と
罵
(
ののし
)
られて
居
(
を
)
りました。
094
其
(
その
)
言霊
(
ことたま
)
が
凝
(
こ
)
り
固
(
かた
)
まつてこんな
薬鑵
(
やくわん
)
となり、
095
無念
(
むねん
)
の
熱湯
(
ねつたう
)
を
噴
(
ふ
)
いたので
厶
(
ござ
)
います。
096
最早
(
もはや
)
私
(
わたくし
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
教訓
(
けうくん
)
によりて
罪
(
つみ
)
から
救
(
すく
)
はれ、
097
霊界
(
れいかい
)
に
参
(
まゐ
)
りますから、
098
どうか
私
(
わたくし
)
の
財産
(
ざいさん
)
は
此
(
この
)
国
(
くに
)
の
規則通
(
きそくどほ
)
り
皆
(
みな
)
さまで
分配
(
ぶんぱい
)
して
下
(
くだ
)
さい。
099
倅
(
せがれ
)
のワックスは
私
(
わたくし
)
の
悪
(
あく
)
を
企
(
たく
)
んで
居
(
ゐ
)
た
時
(
とき
)
に
出来
(
でき
)
た
者
(
もの
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
100
身魂
(
みたま
)
が
汚
(
けが
)
れて
居
(
ゐ
)
ますから、
101
一苦労
(
ひとくらう
)
させねばなりませぬから、
102
私
(
わたくし
)
の
財産
(
ざいさん
)
は
一物
(
いちもつ
)
も
与
(
あた
)
へないやう
願
(
ねが
)
ひます。
103
何卒
(
どうぞ
)
皆
(
みな
)
さま
御
(
ご
)
勝手
(
かつて
)
に
御
(
ご
)
処分
(
しよぶん
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
104
と
云
(
い
)
ひ
終
(
をは
)
り、
105
俄
(
にはか
)
に
麗
(
うるは
)
しき
若
(
わか
)
き
天人
(
てんにん
)
の
姿
(
すがた
)
となつて、
106
地上
(
ちじやう
)
七八
(
しちはつ
)
尺
(
しやく
)
の
空中
(
くうちう
)
を
歩
(
あゆ
)
んでテルモン
山
(
ざん
)
の
山奥
(
やまおく
)
さして
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
107
エル『
此奴
(
こいつ
)
は
怪
(
け
)
しからぬ。
108
どてらい
化物
(
ばけもの
)
が
現
(
あら
)
はれたものだな。
109
オイ
皆
(
みな
)
さまあれを
本当
(
ほんたう
)
のオールスチンの
精霊
(
せいれい
)
だと
思
(
おも
)
ひますか。
110
全
(
まつた
)
く
三五教
(
あななひけう
)
の
魔法使
(
まはふづかひ
)
が、
111
吾々
(
われわれ
)
一同
(
いちどう
)
を
三五教
(
あななひけう
)
に
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱ
)
り
込
(
こ
)
まうと
思
(
おも
)
つてあんな
事
(
こと
)
をやつたのに
違
(
ちが
)
ひありませぬ。
112
屹度
(
きつと
)
信
(
しん
)
じてはいけませぬ』
113
群衆
(
ぐんしう
)
の
中
(
なか
)
から
毛
(
け
)
だらけの
顔
(
かほ
)
した
男
(
をとこ
)
がヌツと
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
114
男
(
をとこ
)
『おい、
115
エルの
大将
(
たいしやう
)
、
116
それや
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
117
化物
(
ばけもの
)
があんな
事理
(
じり
)
整然
(
せいぜん
)
たる
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふかい。
118
あれやきつとオールスチンの
精霊
(
せいれい
)
に
間違
(
まちが
)
ひ
無
(
な
)
いわ。
119
貴様
(
きさま
)
も
些
(
ちつ
)
と
改心
(
かいしん
)
したがよいわ。
120
このタンクさまの
眼力
(
がんりき
)
で
睨
(
にら
)
んだらちつとも
間違
(
まちが
)
ひはないわ。
121
本物
(
ほんもの
)
か
間違
(
まちが
)
ひか
鑑定
(
かんてい
)
がつかないやうでお
館
(
やかた
)
の
受付
(
うけつけ
)
が
出来
(
でき
)
るか、
122
馬鹿
(
ばか
)
だなア』
123
エル『おい、
124
ワックスさま、
125
お
前
(
まへ
)
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
ふか、
126
タンクの
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
本当
(
ほんたう
)
か、
127
エルの
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
本当
(
ほんたう
)
か、
128
一
(
ひと
)
つ
考
(
かんが
)
へて
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いものだなア』
129
ワックス『
子
(
こ
)
の
可愛
(
かあい
)
うない
親
(
おや
)
は
世間
(
せけん
)
にない
筈
(
はず
)
だ。
130
極道
(
ごくだう
)
の
子
(
こ
)
程
(
ほど
)
可愛
(
かあい
)
のが
親
(
おや
)
の
情
(
なさけ
)
だ。
131
それに
親
(
おや
)
一人
(
ひとり
)
子
(
こ
)
一人
(
ひとり
)
の
俺
(
おれ
)
を
残
(
のこ
)
して
置
(
お
)
いて、
132
財産
(
ざいさん
)
を
一
(
ひと
)
つも
遣
(
や
)
つて
呉
(
く
)
れるなと
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は、
133
テツキリ
化物
(
ばけもの
)
に
定
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
るわ。
134
是
(
これ
)
はきつと
三五教
(
あななひけう
)
の
悪魔
(
あくま
)
が
化
(
ば
)
けて
来
(
き
)
よつたに
違
(
ちが
)
ひない。
135
オイ
悪酔怪
(
あくすゐくわい
)
の
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
、
136
親父
(
おやぢ
)
の
弔合戦
(
とむらひがつせん
)
だと
思
(
おも
)
つて、
137
小国別
(
をくにわけ
)
の
館
(
やかた
)
へ
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せ、
138
魔法使
(
まはふづかひ
)
をふん
縛
(
じば
)
らうではないか。
139
さうしなければ
吾々
(
われわれ
)
町民
(
ちやうみん
)
が
枕
(
まくら
)
を
高
(
たか
)
うして
眠
(
やす
)
む
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ない。
140
況
(
まし
)
て
悪酔怪
(
あくすゐくわい
)
の
務
(
つと
)
めが
勤
(
つと
)
まらぬぢやないか』
141
エル『それでもスマートと
云
(
い
)
ふ
畜生
(
ちくしやう
)
が
門
(
もん
)
に
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いて
居
(
ゐ
)
やがるから
駄目
(
だめ
)
ぢやないか。
142
なあタンク、
143
お
前
(
まへ
)
どう
思
(
おも
)
ふ』
144
タンク『
何
(
なに
)
構
(
かま
)
うものか、
145
酒
(
さけ
)
のタンクと
呼
(
よ
)
ばれたタンクさまが、
146
酒
(
さけ
)
の
勢
(
いきほひ
)
で
表門
(
おもてもん
)
に
立
(
た
)
ち
向
(
むか
)
ひ、
147
スマートの
腮
(
あご
)
に
両手
(
りやうて
)
をかけ、
148
メリメリメリと
二
(
ふた
)
つに
引
(
ひ
)
き
裂
(
さ
)
いてお
目
(
め
)
にかけよう。
149
日頃
(
ひごろ
)
の
手練
(
てなみ
)
を
表
(
あら
)
はすのは
今
(
いま
)
此
(
この
)
時
(
とき
)
だ。
150
高
(
たか
)
が
畜生
(
ちくしやう
)
の
一匹
(
いつぴき
)
位
(
ぐらゐ
)
何
(
なん
)
でもない。
151
貴様
(
きさま
)
は
腰抜
(
こしぬけ
)
だから、
152
一匹
(
いつぴき
)
の
犬
(
いぬ
)
に
数百
(
すうひやく
)
人
(
にん
)
が
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せてウスイ
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
つたぢやないか。
153
こんな
引合
(
ひきあ
)
はぬ
事
(
こと
)
があるか。
154
犬
(
いぬ
)
に
咬
(
かま
)
れた
位
(
くらゐ
)
のものだと
云
(
い
)
ふが、
155
世間
(
せけん
)
に
此
(
この
)
位
(
くらゐ
)
引合
(
ひきあは
)
ぬものは
無
(
な
)
からう。
156
サアこれからタンクが
先頭
(
せんとう
)
に
立
(
た
)
つて
征伐
(
せいばつ
)
に
出
(
で
)
かけるから、
157
誰奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
酒
(
さけ
)
の
酔
(
よ
)
ひの
醒
(
さ
)
めない
中
(
うち
)
に
跟
(
つ
)
いて
来
(
こ
)
い』
158
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
大手
(
おほて
)
を
振
(
ふ
)
つて
歩
(
あゆ
)
み
出
(
だ
)
した。
159
ワックス、
160
エルの
両人
(
りやうにん
)
は
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ
千鳥
(
ちどり
)
の
行列
(
ぎやうれつ
)
宜敷
(
よろし
)
く、
161
酒
(
さけ
)
で
作
(
つく
)
つた
空元気
(
からげんき
)
を
発揮
(
はつき
)
しながら、
162
口々
(
くちぐち
)
に
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
つて
攻
(
せ
)
めて
行
(
ゆ
)
く。
163
オークス、
164
ビルマの
両人
(
りやうにん
)
は
大
(
おほ
)
トランクに
金銀
(
きんぎん
)
の
小玉
(
こだま
)
を
詰
(
つ
)
め
込
(
こ
)
み、
165
坂道
(
さかみち
)
を
下
(
くだ
)
つて
行
(
ゆ
)
く
途端
(
とたん
)
、
166
二人
(
ふたり
)
一度
(
いちど
)
に
足
(
あし
)
を
辷
(
すべ
)
らせ
谷川
(
たにがは
)
に
真逆
(
まつさか
)
様
(
さま
)
に
転落
(
てんらく
)
し、
167
トランクの
口
(
くち
)
は
欠伸
(
あくび
)
をして、
168
金銀
(
きんぎん
)
の
小玉
(
こだま
)
は
谷川
(
たにがは
)
にキラキラと
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いて
落
(
お
)
ちて
居
(
ゐ
)
る。
169
タンクは
早
(
はや
)
くも
此
(
この
)
様
(
さま
)
を
見
(
み
)
て
小躍
(
こをど
)
りし、
170
タンク『ヤア、
171
此
(
この
)
谷底
(
たにぞこ
)
に
沢山
(
たくさん
)
の
小玉
(
こだま
)
が
落
(
お
)
ちて
居
(
ゐ
)
る』
172
と
云
(
い
)
ひながら、
173
身
(
み
)
を
躍
(
をど
)
らして
谷底
(
たにぞこ
)
に
飛
(
と
)
び
下
(
を
)
りた。
174
続
(
つづ
)
いてエル、
175
ワックス
其
(
その
)
他
(
た
)
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
折重
(
をりかさ
)
なつて
忽
(
たちま
)
ち
谷底
(
たにぞこ
)
に
人
(
ひと
)
の
山
(
やま
)
を
築
(
きづ
)
いた。
176
オークス、
177
ビルマの
両人
(
りやうにん
)
は
頭
(
あたま
)
に
ひび
を
入
(
い
)
れて
苦
(
くる
)
し
気
(
げ
)
に
唸
(
うな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
178
二
(
ふた
)
つのトランクをタンクは
引抱
(
ひつかか
)
へ、
179
水
(
みづ
)
の
底
(
そこ
)
に
光
(
ひか
)
つて
居
(
ゐ
)
る
金銀
(
きんぎん
)
の
小玉
(
こだま
)
を
砂
(
すな
)
ぐち
掴
(
つか
)
んで
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
む
欲深
(
よくふか
)
さ。
180
次
(
つぎ
)
から
次
(
つぎ
)
へやつて
来
(
き
)
て、
181
茲
(
ここ
)
に
忽
(
たちま
)
ち
宝
(
たから
)
の
取合
(
とりあひ
)
が
初
(
はじ
)
まり
一悶錯
(
ひともんさく
)
が
起
(
おこ
)
つた。
182
タンクは
手早
(
てばや
)
く
二三千
(
にさんぜん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
を
拾
(
ひろ
)
ひ、
183
一
(
ひと
)
つのトランクの
底
(
そこ
)
に
捻込
(
ねぢこ
)
み、
184
肩
(
かた
)
に
引
(
ひ
)
つかけ
谷川
(
たにがは
)
に
沿
(
そ
)
うて
何処
(
いづく
)
ともなく
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
185
(
大正一二・三・二六
旧二・一〇
於皆生温泉浜屋
加藤明子
録)
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