霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 野探(やさがし)〔一四五三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻 篇:第1篇 照門山颪 よみ(新仮名遣い):てるもんざんおろし
章:第3章 野探 よみ(新仮名遣い):やさがし 通し章番号:1453
口述日:1923(大正12)年03月24日(旧02月8日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月24日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
求道居士一行がパインの森で息を休めていると、老若男女の鬨の声が聞こえてきた。群衆は、ワックスが煽動したとおり、悪神の手先・三千彦を捕えたこと、三五教にたぶらかされたデビス姫を捕えようと捜索していることを歌いながら進んでくる。
町民一同が脱線的な動きを始めたのは、ワックスがいつも使役している悪孤の所為である。この悪孤は妖幻坊の手下で三九坊と名乗る刧を経た古狐である。
この狐はワックスの体内に出入りしていつもよからぬことを計画していた。そこへ三千彦がやってきたので、三千彦を排斥するのはこのときと、有らん限りの力を尽くして、ワックスの口を借りて町民を扇動し、精神をかく乱したのである。
町民たちはデビス姫の捜索に出かけてしまい、どの家も留守になってしまった。その間にオークスとビルマは、ワックスの内命によって留守の家からめぼしい物品を盗み出し、テルモン山の岩窟に運んでしまった。
ワックスはパインの森に大勢を連れて押し寄せ、求道居士らを誰何した。求道居士は言葉優しくこれまでの経緯を説明し、デビス姫はワックスを叱りつけたが、ワックスの下知によって四人は縛り上げられてしまった。
四人はむしろ、縛られて館に行き、誤解を解こうと思っていたのだが、ワックスは三九坊のささやきにより、四人をテルモン山の岩窟に放り込んでしまった。
町人たちは勝鬨を上げて帰ってきたが、見れば家の宝が残らず盗まれている。オークスは馬上より大音声を発して、これはすべて三五教の悪宣伝使たちの仕業だと触れて回り、ワックスを先見の明ある救世主だと持ち上げた。
町民たちはすっかり信じてしまい、三五教をますます憎み、反対にワックスを神のごとく尊敬するに至った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-11-03 17:32:01 文字数:3670 OBC :rm5703
愛善世界社版:35頁 八幡書店版:第10輯 270頁 修補版: 校定版:37頁 普及版:16頁 初版: ページ備考:
001 求道(きうだう)居士(こじ)はデビス、002ケリナをパインの森(もり)迄(まで)送(おく)り来(きた)り、003ヘルと共(とも)に少時(しばし)息(いき)を休(やす)めて居(ゐ)た。004忽(たちま)ち老若(らうにやく)男女(なんによ)の鬨(とき)の声(こゑ)、005鉦(かね)や太鼓(たいこ)を鳴(な)らしながら、
006群衆(ぐんしう)『返(かへ)せ戻(もど)せ、三五教(あななひけう)の悪神(あくがみ)よ
007ドンドコドンドコ ドコドコドン
008チヤンチキチヤンチキ チヤンチキチン
009大事(だいじ)の大事(だいじ)のお姫(ひめ)さま
010テルモン館(やかた)のお姫(ひめ)さま
011ドンドコドンドコ ドコドコドン
012チヤンチキチヤンチキ チヤンチキチン
013不動(ふどう)の滝(たき)へ引(ひ)き込(こ)んで
014悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の三千彦(みちひこ)を
015お先(さき)へ館(やかた)へ忍(しの)ばせつ
016金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)
017大事(だいじ)の大事(だいじ)のお宝(たから)を
018隠(かく)した奴(やつ)は三千彦(みちひこ)だ
019返(かへ)せ 戻(もど)せ 如意(によい)宝珠(ほつしゆ)
020ドンドコドンドコ ドコドコドン
021チヤンチキチヤンチキ チヤンチキチン
022如意(によい)の宝珠(ほつしゆ)はバラモンの
023神(かみ)のお蔭(かげ)で返(かへ)つたが
024肝腎要(かんじんかなめ)のお姫(ひめ)さま
025返(かへ)せ戻(もど)せやサア早(はや)う
026三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
027如何(いか)なる魔法(まはふ)を使(つか)ふとも
028此方(こちら)にや此方(こちら)の魔法(まはふ)がある
029返(かへ)せ戻(もど)せサア早(はや)く
030大事(だいじ)の大事(だいじ)のお姫(ひめ)さま
031も一(ひと)つ大事(だいじ)なケリナ姫(ひめ)
032三年前(さんねんまへ)に館(やかた)をば
033お出(で)ましなさつたそれ限(かぎ)り
034根(ね)つから帰(かへ)つて厶(ござ)らない
035ドンドコドンドコ ドコドコドン
036チヤンチキチヤンチキ チヤンチキチン
037これも矢張(やつぱり)三五(あななひ)の
038悪神(わるがみ)共(ども)のなす業(わざ)と
039ワックス司(つかさ)の御(ご)託宣(たくせん)
040よもや間違(まちが)ひ厶(ござ)るまい
041ドンドコドンドコ ドコドコドン
042チヤンチキチヤンチキ チヤンチキチン
043エーエーエ
044さても此(この)度(たび)テルモン館(やかた)
045俄(にはか)に悪魔(あくま)が到来(たうらい)し
046肝腎要(かんじんかなめ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)
047盗(ぬす)んで次(つぎ)にお姫(ひめ)さま
048銜(くわ)へて帰(い)なうと企(たく)みつつ
049まづ手初(てはじ)めに教主(けうしゆ)さま
050小国別(をくにのわけ)の命(いのち)をば
051所在(あらゆる)魔法(まはふ)を使(つか)ひつつ
052命(いのち)を取(と)らうと企(たく)み居(ゐ)る
053斯(か)うなりや館(やかた)の損(そん)でない
054宮町中(みやまちぢう)の大損(おほぞん)だ
055テルモン山(ざん)の中腹(ちうふく)に
056泰平(たいへい)の夢(ゆめ)を貪(むさぼ)りし
057天下(てんか)唯一(ゆゐいつ)のパラダイス
058三五教(あななひけう)の鬼(おに)が来(き)て
059水(みづ)も漏(も)らさぬ悪企(わるだく)み
060根本(こんぽん)的(てき)に看破(かんぱ)した
061ワックスさまは偉(えら)いもの
062テルモン館(やかた)の救世主(きうせいしゆ)
063宮町中(みやまちぢう)の救(たす)け神(がみ)
064悪(わる)いお方(かた)と聞(き)いてたに
065古今(ここん)無双(むさう)の神力(しんりき)を
066現(あら)はしなさつた偉(えら)い人(ひと)
067讃(ほ)めよ称(たた)へよ崇(あが)めよ拝(をが)め
068讃(ほ)めよ称(たた)へよ崇(あが)めよ拝(をが)め
069ドンドコドンドコ ドコドコドン
070チヤンチキチヤンチキ チヤンチキチン
071パインの森(もり)には何(なん)となく
072怪(あや)しい人(ひと)の影(かげ)がある
073これも矢張(やつぱり)三五(あななひ)の
074悪神(わるがみ)共(ども)の襲来(しふらい)か
075デビス、ケリナの姫(ひめ)さまの
076吾々(われわれ)町人(ちやうにん)一同(いちどう)は
077一度(いちど)もお顔(かほ)は拝(をが)まねど
078御(ご)容色(きりよう)の勝(すぐ)れた人(ひと)ぢやげな
079皆(みな)さま確(しつか)りなされませ
080三五教(あななひけう)を守護(しゆごう)する
081高倉(たかくら)、旭(あさひ)の明神(みやうじん)が
082女(をんな)に化(ば)けてテルモンの
083館(やかた)へ侵入(しんにふ)すると云(い)ふ
084大国彦(おほくにひこ)の神(かみ)様(さま)の
085さしも厳(きび)しき御(ご)託宣(たくせん)
086ワックスさまに降(くだ)りしと
087聞(き)いて吾(われ)等(ら)はうかうかと
088無事(ぶじ)泰平(たいへい)の夢(ゆめ)を見(み)て
089これが暮(くら)して居(を)られうか
090何程(なにほど)姫(ひめ)に見(み)えたとて
091決(けつ)して信(しん)じちやなりませぬ
092ワックスさまの云(い)ふ通(とほ)り
093一旦(いつたん)女(をんな)を見(み)つけたら
094とつ捉(つか)まへてワックスの
095お目(め)にかけた上(うへ)でなくば
096決(けつ)して館(やかた)に送(おく)るなよ
097ドンドコドンドコ ドコドコドン
098チヤンチキチヤンチキ チヤンチキチン』
099と、100赤襷(あかだすき)赤鉢巻(あかはちまき)に白(しろ)い旗(はた)に文字(もじ)をムシヤムシヤと書(か)いたのを立(た)て乍(なが)ら、101黒(くろ)い顔(かほ)した老若(らうにやく)男女(なんによ)が坂道(さかみち)を下(くだ)つて来(く)る。102斯(かく)の如(ごと)く町民(ちやうみん)一同(いちどう)が脱線(だつせん)的(てき)蠢動(しゆんどう)を初(はじ)めたのは、103ワックスがいつも使役(しえき)して居(ゐ)る悪狐(あくこ)の所為(しよゐ)である。104この悪狐(あくこ)は妖幻坊(えうげんばう)の部下(てした)であつて三九坊(さんきうばう)と称(とな)ふる数千(すうせん)年(ねん)の劫(ごふ)を経(へ)た古狐(ふるぎつね)で、105時々(ときどき)テルモン山(ざん)に夜中(やちう)数千(すうせん)の火(ひ)を点(とぼ)し、106或(あるひ)は文字(もじ)をもつて大(だい)の字(じ)を現(あら)はしなどして、107町民(ちやうみん)を誤魔化(ごまくわ)して居(ゐ)たのである。108此(この)三九坊(さんきうばう)はワックスの体内(たいない)に出入(でいり)して何時(いつ)も好(よ)からぬ事(こと)を計劃(けいくわく)して居(ゐ)た。109其処(そこ)へ三五教(あななひけう)の三千彦(みちひこ)が突然(とつぜん)やつて来(き)たので、110自分(じぶん)の正体(しやうたい)の現(あら)はれむ事(こと)を恐(おそ)れ、111三千彦(みちひこ)を排斥(はいせき)し、112三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)を一人(ひとり)も窺(うかが)はしめざるやう為(な)すは今(いま)此(この)時(とき)と、113有(あ)らむ限(かぎ)りの力(ちから)を尽(つく)し、114先(ま)づ第一(だいいち)に町民(ちやうみん)の精心(せいしん)を攪乱(かくらん)すべく、115ワックスの口(くち)を藉(か)つて辻演説(つじえんぜつ)を初(はじ)めたものである。116百戸(ひやくこ)許(ばか)りの町民(ちやうみん)は、117ワックスの妖言(えうげん)を一(いち)も二(に)もなく信(しん)じて仕舞(しま)ひ、118家(いへ)を空(から)にして姫(ひめ)の捜索(そうさく)に出掛(でか)けたのである。119どの家(いへ)もどの家(いへ)も家(いへ)を空(から)にして外(そと)に飛(と)び出(だ)し、120猫(ねこ)の子(こ)一匹(いつぴき)留守(るす)をして居(ゐ)なかつた。121其(その)間(あひだ)にオークス、122ビルマの両人(りやうにん)はワックスの内命(ないめい)により、123留守(るす)の家々(いへいへ)を探(さぐ)つて目(め)ぼしい物品(ぶつぴん)を残(のこ)らず盗(ぬす)み出(だ)し、124テルモン山(ざん)の或(あ)る岩窟(がんくつ)へ運(はこ)ばせて置(お)いた。125百戸(ひやくこ)が百戸(ひやくこ)とも最(もつと)も大切(たいせつ)なる物品(ぶつぴん)を一(ひと)つも盗(ぬす)まれない家(いへ)は無(な)かつた。126ワックスは数多(あまた)の人々(ひとびと)を引(ひ)き連(つ)れ乍(なが)ら、127四(よ)人(にん)の休息(きうそく)せるパインの森(もり)に押(お)し寄(よ)せ来(きた)り大音声(だいおんじやう)、
128ワックス『ヤアヤアそれなる、129円頂(ゑんちやう)緇衣(しえ)の比丘(びく)共(ども)、130汝(なんぢ)は三五教(あななひけう)の魔法(まはふ)を使(つか)ひ、131二人(ふたり)の姫(ひめ)様(さま)をいづくにか、132奪(うば)い取(と)り隠(かく)し置(お)き、133旭(あさひ)、134高倉(たかくら)の白狐(びやくこ)を使(つか)ひ、135デビス姫(ひめ)、136ケリナ姫(ひめ)に化(ば)けさせ、137再(ふたた)び如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の宝(たから)を手(て)に入(い)れむとして進(すす)み来(きた)りし大悪人(だいあくにん)奴(め)、138又(また)一人(ひとり)は一(いつ)ケ月(げつ)以前(いぜん)三(さん)人(にん)抜刀(ばつたう)をもつて宮町(みやまち)を荒(あら)した大泥坊(おほどうばう)の中(なか)の片割(かたわれ)、139隠(かく)しても隠(かく)されまい。140サアどうぢや、141尋常(じんじやう)に縛(ばく)につけ』
142と呶鳴(どな)り立(た)てた。143求道(きうだう)居士(こじ)は言葉(ことば)柔(やさ)しく、
144求道居士『拙者(せつしや)は決(けつ)して悪神(わるがみ)では厶(ござ)らぬ、145元(もと)はバラモン教(けう)のカーネル、146エミシと申(まを)すもの、147大黒主(おほくろぬし)様(さま)の命(めい)を奉(ほう)じ、148鬼春別(おにはるわけ)、149久米彦(くめひこ)両将軍(りやうしやうぐん)に従(したが)ひ、150斎苑(いそ)の館(やかた)へ進軍(しんぐん)の途中(とちう)、151三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)迦葉(かせう)尊者(そんじや)、152治国別(はるくにわけ)に出遇(であ)ひ誠(まこと)の道(みち)を説(と)き示(しめ)され、153比丘(びく)となつたもので厶(ござ)る。154さうして此(この)御(ご)両人(りやうにん)はテルモン館(やかた)のデビス姫(ひめ)様(さま)、155ケリナ姫(ひめ)様(さま)で厶(ござ)るぞ。156危急(ききふ)の場合(ばあひ)をお助(たす)け申(まを)し、157此処(ここ)迄(まで)お送(おく)り申(まをし)たもので厶(ござ)る。158サア疑(うたがひ)を晴(は)らして吾々(われわれ)一同(いちどう)を御(ご)案内(あんない)召(め)され』
159ワックス『アハハハハハ、160吐(ぬか)したりな糞坊主(くそばうず)奴(め)、161怪弁(くわいべん)をもつて神力(しんりき)無双(むさう)の某(それがし)を誤魔化(ごまくわ)さむと致(いた)すとも、162左様(さやう)な事(こと)に誑(たばか)らるる如(ごと)き某(それがし)では厶(ござ)らぬぞ。163デビス姫(ひめ)様(さま)は決(けつ)してそのやうなお耳(みみ)はして厶(ござ)らぬ。164全(まつた)く高倉(たかくら)と申(まを)す悪狐(あくこ)で厶(ござ)らう、165化損(ばけそこ)ねて犬(いぬ)に耳(みみ)を噛(か)まれた証拠(しようこ)にはまだ血(ち)が滴(したた)つて居(ゐ)るぢやないか。166もう一人(ひとり)のケリナ姫(ひめ)に化(ば)けた奴狐(どぎつね)も首筋(くびすぢ)に創(きず)を致(いた)して居(を)るぢやないか、167其(その)方(はう)も亦(また)耳(みみ)の辺(あた)りに創(きず)の跡(あと)がある。168きつと犬(いぬ)に噛(か)まれて、169化(ば)けて此処(ここ)まで来(き)よつたに違(ちが)ひない。170サア皆(みな)の者(もの)猶予(いうよ)はいらぬ、171ワックスの命(めい)だ、172縛(しば)りあげて姫(ひめ)の住所(ありか)を白状(はくじやう)させる為(た)め、173テルモン山(ざん)の岩窟(がんくつ)に送(おく)つたがよからう』
174デビス『これお前(まへ)は家令(かれい)の悴(せがれ)、175野呂作(のろさく)のワックスぢやないか、176何(なん)と云(い)ふ失礼(しつれい)な事(こと)を云(い)ふのだ。177妾(わらは)の命(いのち)を助(たす)けて下(くだ)さつた御(ご)恩人(おんじん)、178無礼(ぶれい)の事(こと)を致(いた)すと量見(れうけん)は致(いた)しませぬぞ』
179ケリナ『ヤア珍(めづら)しやワックス殿(どの)、180其方(そなた)は相変(あひかは)らず脱線(だつせん)を続(つづ)ける男(をとこ)だな。181吾(われ)等(ら)妹姉(きやうだい)は小国別(をくにのわけ)の娘(むすめ)に間違(まちが)ひない程(ほど)に、182サア早(はや)く其処(そこ)を退(の)いてお呉(く)れ、183お父上(ちちうへ)の御(お)身(み)の上(うへ)が気(き)にかかるから一(いち)時(じ)も早(はや)く帰(かへ)らねばなりませぬ』
184ワックス『ツベコベと吾々(われわれ)を誤魔化(ごまくわ)さむと致(いた)しても其(その)手(て)に乗(の)るものではない。185サア皆(みな)さま、186あの耳(みみ)を噛(か)まれて居(ゐ)るのが四足(よつあし)の証拠(しようこ)だ。187早(はや)く縛(しば)りなさい』
188と下知(げち)すれば、189数十(すうじふ)人(にん)の荒男(あらをとこ)は有無(うむ)を言(い)はせず四(よ)人(にん)を雁字搦(がんじがらみ)に縛(しば)り上(あ)げた。190求道(きうだう)居士(こじ)初(はじ)め其(その)外(ほか)三(さん)人(にん)は名(な)もなき小童(こわつぱ)共(ども)にムザムザ縛(しば)られるやうな者(もの)ではなかつたが、191一層(いつそ)の事(こと)縛(しば)られて館(やかた)へ帰(かへ)り、192ワックス其(その)外(ほか)を驚(おどろ)かしてやらうと、193態(わざ)とに縛(ばく)に就(つ)いたのである。194然(しか)るにワックスは胸(むね)に一物(いちもつ)ある事(こと)とて、195三九坊(さんきうばう)の副守(ふくしゆ)の命(めい)ずる儘(まま)に三千彦(みちひこ)を放(ほ)り込(こ)んだ向(む)かひ側(がは)の谷間(たにま)の岩窟(がんくつ)に一人(ひとり)宛(づつ)分(わ)けて、196大勢(おほぜい)と共(とも)に送(おく)り込(こ)み錠(ぢやう)を固(かた)く鎖(とざ)して仕舞(しま)つたのである。
197 町民(ちやうみん)は勝鬨(かちどき)をあげて各(おのおの)家路(いへぢ)に帰(かへ)り見(み)れば、198バラモン神(がみ)を祭(まつ)る最(もつと)も必要(ひつえう)な金銀製(きんぎんせい)の香炉(かうろ)や水壺(みづつぼ)が、199一個(いつこ)も残(のこ)らず紛失(ふんしつ)して居(ゐ)た。200何(いづ)れも周章(あわて)狼狽(ふためき)街路(がいろ)に出(で)て、201互(たがひ)に盗難(たうなん)の次第(しだい)を物語(ものがた)つて居(ゐ)る。202其処(そこ)へ意気(いき)揚々(やうやう)として驢馬(ろば)に跨(またが)りやつて来(き)たのは、203ワックス、204オークス、205ビルマの三(さん)人(にん)であつた。206一同(いちどう)は三(さん)人(にん)の周囲(しうゐ)に群(むら)がり来(きた)り、207盗難(たうなん)の次第(しだい)を訴(うつた)へた。208オークスは馬上(ばじやう)より大音声(だいおんじやう)を発(はつ)して云(い)ふ。
209オークス『三五教(あななひけう)の悪(あく)宣伝使(せんでんし)、210テルモン山(ざん)の館(やかた)へ忍(しの)び込(こ)み、211デビス姫(ひめ)をチヨロまかし、212如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を隠(かく)し、213小国別(をくにのわけ)を呪咀(じゆそ)して命(いのち)を取(と)り尚(なほ)是(これ)にては飽(あ)き足(た)らず、214宮町(みやまち)の家々(いへいへ)の重宝(ぢゆうほう)、215バラモン神(がみ)を祭(まつ)る重要(ぢゆうえう)の器具(きぐ)を一(ひと)つも残(のこ)さず奪(うば)ひ取(と)りしは、216全(まつた)く彼(かれ)等(ら)の魔法(まはふ)の致(いた)す所(ところ)、217決(けつ)して油断(ゆだん)をするな。218グヅグヅして居(ゐ)ると大切(たいせつ)な娘(むすめ)を取(と)られ、219財産(ざいさん)を奪(うば)はれ、220遂(つひ)には皆(みな)さまの命(いのち)迄(まで)取(と)られますよ。221最早(もはや)テルモンの神館(かむやかた)は小国別(をくにのわけ)様(さま)は九死(きうし)一生(いつしやう)の場合(ばあひ)、222とてもお命(いのち)は難(むつか)しい。223加(くわ)ふるに二人(ふたり)のお娘子(むすめご)は魔法使(まはふつかひ)の為(ため)に行方(ゆくへ)は分(わか)らず、224到底(たうてい)安心(あんしん)して暮(くら)す事(こと)は出来(でき)ますまい。225又(また)肝腎要(かんじんかなめ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を失(うしな)うた上(うへ)はハルナの都(みやこ)に坐(まし)ます大黒主(おほくろぬし)様(さま)の怒(いかり)に触(ふ)れ村中(むらぢう)追放(つゐはう)に遇(あ)ふか、226或(あるひ)は鏖殺(みなごろし)に遇(あ)はねばならぬ所(ところ)を此(この)ワックス様(さま)が、227御(ご)神力(しんりき)によつて如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を手(て)に入(い)れて下(くだ)さつた為(た)め、228宮町(みやまち)百戸(ひやくこ)の罪(つみ)は逃(のが)れたと申(まを)すもの、229されば今後(こんご)はワックス様(さま)を館(やかた)の主(あるじ)と崇(あが)め奉(まつ)り、230本当(ほんたう)のデビス姫(ひめ)が見(み)つかつた上(うへ)で御(ご)夫婦(ふうふ)にお成(な)り下(くだ)さるやう、231御(ご)両人(りやうにん)に村中(むらぢう)がお勧(すす)め申(まを)し、232そして祖先(そせん)より伝(つた)はつた家(いへ)を守(まも)らうでは厶(ござ)いませぬか。233ワックス様(さま)は今日(こんにち)迄(まで)は故意(わざ)とに馬鹿(ばか)になり、234放蕩(はうたう)息子(むすこ)と見(み)せかけて、235此(この)国難(こくなん)をお救(すく)ひ下(くだ)さつた誠(まこと)の救世主(きうせいしゆ)で厶(ござ)いますぞや』
236と嘘(うそ)を甘(うま)く並(なら)べ立(た)て、237説(と)きつけた。238集(あつ)まり来(きた)りし老若(らうにやく)男女(なんによ)は、239何(いづ)れも三五教(あななひけう)の悪神(わるがみ)の魔法(まはふ)にかかつて苦(くる)しむ事(こと)を恨(うら)み、240且(か)つワックスの神力(しんりき)を賞揚(しやうやう)し、241『ワックス万歳(ばんざい)』を三唱(さんしやう)し乍(なが)ら各(おのおの)家路(いへぢ)に急(いそ)ぎ帰(かへ)る。242帰(かへ)つて見(み)れば先祖(せんぞ)代々(だいだい)から伝(つた)はつた財物(ざいぶつ)の祭具(さいぐ)が無(な)いので又(また)もや憂(うれひ)に沈(しづ)み、243益々(ますます)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)を憎(にく)み、244その反対(はんたい)にワックスを神(かみ)の如(ごと)くに尊敬(そんけい)するに至(いた)りぬ。
245(大正一二・三・二四 旧二・八 於伯耆国皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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