霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第八章 愚摺(ぐすり)〔一四五八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻 篇:第1篇 照門山颪 よみ(新仮名遣い):てるもんざんおろし
章:第8章 愚摺 よみ(新仮名遣い):ぐすり 通し章番号:1458
口述日:1923(大正12)年03月24日(旧02月8日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月24日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
ワックスは、三千彦を袋叩きにして川に投げ込み、意気揚々として自分の館に戻ってきた。父のオールスチンは怪我のためにふせっている。ワックスは容態を看護婦に尋ねたが、治る見込みはないという答えが返ってきた。
それを聞いたビルマは、ワックスが父親の財産を狙っていることをふと漏らした。オールスチンはそれを聞いて、ワックスがいつもそのようなことを言っているからビルマがそのようなことを口にするのだ、と注意した。
看護婦に注意されてワックスとビルマは別館に退散し、酒をあおりはじめた。ビルマはへべれけに酔いつぶれ、オールスチンが死ねばワックスは財産が手に入り、自分も出世できると大声で歌い始めた。ワックスは父親が死ぬのは悲しいが財産が手に入るのは嬉しくもあり、と複雑な心中を吐露する。
そこへエキスとヘルマンが酔って現れた。門をやたらに叩き、押し開けてオールスチンの病室にどかどかと入ってくると、金をせびりはじめた。看護婦に注意され、二人は別館のワックスのところにやってきた。そして金をゆすりはじめた。
ワックスは酒をすすめてこの場を乗り切ろうとする。エキスとヘルマンはすすめられた酒を飲んでさらに酔っ払うと、ワックスの悪事を大声で歌いだした。ワックスはたまりかねて、父親の病室に隠してあった六百両の黄金を取り出し、仕方なく二人に与えた。
エキスとヘルマンは、三十日したらまた金をもらいにくると言い置いて、酒臭い息を吐きながら帰って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-11-05 15:21:55 文字数:5530 OBC :rm5708
愛善世界社版:102頁 八幡書店版:第10輯 295頁 修補版: 校定版:106頁 普及版:47頁 初版: ページ備考:
001 ワックスはビルマと共(とも)に巧(うま)く町民(ちやうみん)を煽動(せんどう)し、002三千彦(みちひこ)を袋叩(ふくろだた)きにして、003アンブラック川(がは)に投(な)げ込(こ)み、004意気(いき)揚々(やうやう)として己(おの)が館(やかた)に帰(かへ)つて来(き)た。005父(ちち)のオールスチンは二人(ふたり)の看護婦(かんごふ)に看護(かんご)され乍(なが)ら現(うつつ)になつて、006ワックス ワックスと連呼(れんこ)してゐる。007そこへソツと帰(かへ)つて来(き)たワックスは、008盗猫(ぬすとねこ)が留守(るす)の家(いへ)を覗(のぞ)く様(やう)な態度(たいど)で、009ノソリノソリと這入(はい)り来(きた)り父(ちち)の病床(びやうしやう)に近寄(ちかよ)り、010二人(ふたり)の看護婦(かんごふ)に向(むか)ひ、011小(ちひ)さい声(こゑ)で、
012ワックス『モシ、013看護婦(かんごふ)さま、014日夜(にちや)御(ご)苦労(くらう)ですが老爺(おやぢ)の病気(びやうき)は助(たす)かりませうかな』
015看護婦(かんごふ)の一人(ひとり)『ハイ、016お気(き)の毒(どく)乍(なが)ら到底(たうてい)諦(あきら)めて貰(もら)はねばなりますまい』
017ワックス『成程(なるほど)、018それも仕方(しかた)がありませぬ。019何程(なにほど)悔(くや)んだつて寿命(じゆみやう)はどうする事(こと)も出来(でき)ませぬからな』
020 ビルマ、021小(ちひ)さい声(こゑ)で、
022ビルマ『親(おや)の財産(ざいさん)あてにすりや
023 薬罐頭(やくわんあたま)が邪魔(じやま)になる』
024とウツカリ喋(しやべ)つた。025病人(びやうにん)のオールスチンは耳敏(みみざと)くも此(この)声(こゑ)を聞(き)きつけて苦(くる)しい体(からだ)を起(お)き上(あが)り、026……悴(せがれ)のワックス奴(め)、027大切(たいせつ)な親(おや)の死(し)ぬのを待(ま)つて居(ゐ)やがるのだな……と苦痛(くつう)を忘(わす)れ、028声(こゑ)を尖(とが)らして、
029オールスチン『こりや悴(せがれ)、030何(なん)と云(い)ふ不孝(ふかう)な事(こと)を申(まを)すのか。031ま一度(いちど)今(いま)云(い)つた事(こと)を云(い)つて見(み)よ』
032ワックス『へ、033あまり御(ご)病気(びやうき)が重(おも)いので心配(しんぱい)して看護婦(かんごふ)に尋(たづ)ねて居(を)つた処(ところ)です。034ここに来(き)てゐる門番(もんばん)のビルマと云(い)ふ奴(やつ)、035お父(とう)さまが大病(たいびやう)で、036私(わし)がこれ丈(だ)け心配(しんぱい)してるのに其(その)心(こころ)も知(し)らず、037あんな事(こと)を云(い)ひやがつたのです』
038オールスチン『さうぢやあるまい。039貴様(きさま)常平生(つねへいぜい)から左様(さやう)の事(こと)を云(い)つて居(ゐ)るものだからビルマが真似(まね)をしたのだらう。040貴様(きさま)はチツと心得(こころえ)ねばならぬぞ。041俺(おれ)が目(め)を冥(つぶ)つて了(しま)へばお前(まへ)の身辺(しんぺん)は忽(たちま)ち危(あや)ふくなつて来(く)るぞ。042如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)を隠(かく)したり、043種々(しゆじゆ)雑多(ざつた)と陰謀(いんぼう)を企(くはだ)てて居(を)つた事(こと)は三五教(あななひけう)の三千彦(みちひこ)様(さま)がスツパリ御存(ごぞん)じだ。044こんな事(こと)が表沙汰(おもてざた)になつたならば家令(かれい)の家(いへ)は断絶(だんぜつ)、045お前(まへ)の命(いのち)はなきものと覚悟(かくご)せねばなるまい。046これが一生(いつしやう)の別(わか)れだから憎(にく)い悴(せがれ)でも矢張(やつぱ)り親(おや)の因果(いんぐわ)として庇(かば)い度(た)うなつて来(く)る。047今(いま)の間(うち)何処(どこ)かへ身(み)を隠(かく)し、048遠(とほ)い国(くに)へ行(い)つて苦労(くらう)を致(いた)したが宜(よ)からう』
049ワックス『お父(とう)さま、050そりや違(ちが)ひます。051三千彦(みちひこ)と云(い)ふ魔法使(まはふつかひ)が盗(と)つて居(ゐ)たのですよ。052その証拠(しようこ)には町中(まちぢう)の者(もの)が袋叩(ふくろだた)きにして……ムニヤムニヤムニヤ』
053オールスチン『何(なに)、054町中(まちぢう)の者(もの)が、055三千彦(みちひこ)を袋叩(ふくろだた)きにしたと云(い)ふのか。056そりや大変(たいへん)な事(こと)をして呉(く)れた。057早(はや)くお詫(わび)をせなくちやお館(やかた)の一大事(いちだいじ)が起(おこ)るかも知(し)れぬぞ』
058ビルマ『何(なん)と云(い)つても町内(ちやうない)が寄(よ)つて集(たか)つて雁字搦(がんじがら)みにし、059アンブラック川(がは)に投(な)げ込(こ)んだものですから、060疾(と)うの昔(むかし)に死(し)んでゐますよ。061滅多(めつた)にワックスさまの難儀(なんぎ)になる気遣(きづか)ひはありませぬ。062寧(むし)ろ神館(かむやかた)の悪魔(あくま)を退治(たいぢ)なさつた結構(けつこう)な救世主(きうせいしゆ)です。063そして小国別(をくにわけ)様(さま)の御(ご)養子(やうし)になられる約束(やくそく)がチヤンと奥(おく)さまとの間(あひだ)に定(きま)つたのですから、064オールスチン様(さま)、065御(ご)安心(あんしん)なさいませ』
066オールスチン『一人(ひとり)の悴(せがれ)を養子(やうし)にやると云(い)ふ事(こと)はどうしても出来(でき)ない。067さうすればオールスチンの家(いへ)は血統(けつとう)が絶(た)えるぢやないか』
068ワックス『お父(とう)さま、069そんな心配(しんぱい)は為(な)さらず早(はや)く成仏(じやうぶつ)して下(くだ)さい。070貴方(あなた)の苦(くるし)みを見(み)て居(ゐ)るのが子(こ)として見(み)て居(を)られませぬからな。071私(わたし)とデビス姫(ひめ)と結婚(けつこん)した上(うへ)は三(さん)人(にん)や五(ご)人(にん)の子(こ)は出来(でき)るでせう。072総領(そうりやう)は養家(やうか)の後継(あとつぎ)とし、073次男(じなん)をオールスチン家(け)の後目(あとめ)相続(さうぞく)にすれば宜(よ)いぢやありませぬか。074貴方(あなた)の血統(けつとう)たる私(わたし)が残(のこ)つてる以上(いじやう)は大丈夫(だいぢやうぶ)です。075ゴテゴテ云(い)つたら養家(やうか)をオールスチン家(け)にして了(しま)へば宜(よ)いのです。076(小声(こごゑ))エー年寄(としより)だてら死際(しにぎは)になつて要(い)らぬお節介(せつかい)だ。077いい加減(かげん)に斃(くたば)つたら宜(よ)いのにな』
078と後(あと)振(ふ)り返(かへ)つて小声(こごゑ)に呟(つぶや)いて居(ゐ)る。079幸(さいはひ)に病躯(びやうく)に悩(なや)む父(ちち)の耳(みみ)には這入(はい)らなかつた。080オールスチンはグタリとなつて苦(くる)しげに又(また)もや寝台(しんだい)の上(うへ)に倒(たふ)れて了(しま)つた。
081看護婦(かんごふ)『モシ若旦那(わかだんな)様(さま)、082余(あんま)り八釜(やかま)しう仰有(おつしや)いますと御(ご)病気(びやうき)に障(さは)りますから、083何卒(どうぞ)別館(はなれ)の方(はう)へ行(い)つてお休(やす)み下(くだ)さいませ』
084ワックス『オツト、085ヨシヨシ、086それを待(ま)つて居(ゐ)たのだ。087然(しか)し看護婦(かんごふ)さま、088此方(こちら)にも都合(つがふ)があるのだが、089お前(まへ)の考(かんが)へでは今日(けふ)一(いち)日(にち)は大丈夫(だいぢやうぶ)だと思(おも)ふか。090葬礼(さうれい)の用意(ようい)もせなならぬからな』
091看護婦(かんごふ)『御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。092屹度(きつと)本復(ほんぷく)さして上(あ)げます。093仮令(たとへ)お亡(な)くなり遊(あそ)ばすとしても、094三十(さんじふ)日(にち)や五十(ごじふ)日(にち)は大丈夫(だいぢやうぶ)ですからな』
095ワックス『へー、096何分(なにぶん)御(ご)介抱(かいはう)を宜(よろ)しう頼(たの)みます』
097と云(い)ひながら別館(はなれ)の間(ま)に至(いた)り、098冷酒(ひやざけ)を両人(りやうにん)差向(さしむか)ひになつてグイグイとやり初(はじ)めた。099ビルマはへべれけに酔(よ)ひ潰(つぶ)れ、100ソロソロ銅羅声(どらごゑ)を張(は)り上(あ)げて唄(うた)ひ出(だ)した。
101ビルマ『オールスチンの老爺(おやぢ)さま
102肋骨(あばら)を折(を)られてウンウンと
103呻(うな)つて厶(ござ)る憐(いぢ)らしさ
104癒(なほ)りもせねば死(し)にもせず
105厄介(やくかい)至極(しごく)の老爺(おやぢ)さま
106ワックスさまも嘸(さぞ)や嘸(さぞ)
107困(こま)つて厶(ござ)るに違(ちが)ひない
108早(はや)く何(なん)とか埒(らち)つけて
109ワックスさまの目的(もくてき)を
110立(た)てさしてやらねばなるまいぞ
111もしも都合(つがふ)好(よ)う行(い)つたなら
112私(わたし)は一躍(いちやく)家令職(かれいしよく)
113之(これ)を思(おも)へば一時(いつとき)も
114早(はや)く老爺(おやぢ)さまに死(し)んで欲(ほ)しい
115欲(ほ)しいわいな欲(ほ)しいわいな欲(ほ)しいわいな
116薬鑵(やくわん)老爺(おやぢ)が死(し)んだなら
117皆(みな)さま喜(よろこ)ぶ事(こと)だらう
118ヨーイセー ヨーイセー
119思(おも)ふやうにはいかぬもの
120ホンニ浮世(うきよ)はじれつたい
121ヨーイトセー ヨーイトセー』
122ワックス『こりや何(なん)ぼ何(なん)でも俺(おれ)の前(まへ)で、123そんな事(こと)を唄(うた)ふ奴(やつ)があるか。124俺(おれ)だつて肉身(にくしん)の親(おや)だもの、125死(し)ぬのがチツトは……嬉(うれ)しいとも悲(かな)しいとも思(おも)はないよ。126併(しか)し乍(なが)ら老爺(おやぢ)が死(し)ねば此(この)財産(ざいさん)がスツカリ俺(おれ)の所有物(もの)になるのだから嬉(うれ)しい様(やう)でもあり、127只(ただ)一人(ひとり)の親(おや)が死(し)ぬのだから悲(かな)しい様(やう)でもあり、128嫁入(よめい)りと葬式(さうしき)と一緒(いつしよ)に来(き)たやうで一掬(いつきく)同情(どうじやう)の涙(なみだ)を流(なが)して居(ゐ)るのだ。129貴様(きさま)も余程(よつぽど)没分暁漢(わからずや)だなア』
130ビルマ『没分暁漢(わからずや)か、131何(なに)か知(し)らぬが此(この)ビルマは心(こころ)にもない追従(つゐしやう)を云(い)ふのは嫌(きら)ひだ。132ワックスさま、133お前(まへ)の心(こころ)は此(この)ビルマが云(い)つた通(とほ)りだらう。134そんな目(め)に唾(つば)を着(つ)けるやうな同情(どうじやう)は止(や)めなさい。135それよりも態(てい)よう老爺(おやぢ)に早(はや)く死(し)んだらよいと云(い)うたが宜(よろ)しからうぜ。136悪党(あくたう)なら悪党(あくたう)らしく、137男(をとこ)らしくせぬのかい。138そんな事(こと)で大陰謀(だいいんぼう)が成就(じやうじゆ)するものか、139お前(まへ)さまも徹底(てつてい)的(てき)の悪人(あくにん)だと思(おも)つたが大徹底(だいてつてい)的(てき)の悪人(あくにん)だつたな。140悲(かな)しくもないのに悲(かな)しい様(やう)に云(い)ふ丈(だ)け人間(にんげん)が悪(わる)いわ』
141と訳(わけ)の分(わか)らぬ事(こと)を管巻(くだま)く。
142 斯(か)かる処(ところ)へエキス、143ヘルマンの両人(りやうにん)、144ズブ六(ろく)に酔(よ)ひ乍(なが)ら門(もん)の戸(と)を矢鱈(やたら)に叩(たた)き、
145両人(りやうにん)『ヘー、146御免(ごめん)なせえ。147鬼門(きもん)の神(かみ)がやつて来(き)やした。148ワックスさまの陰謀(いんぼう)先生(せんせい)は在宅(ざいたく)ですかな。149何(なん)だ、150何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も返事(へんじ)しやがらぬな。151ハハア、152俺(おれ)を排斥(はいせき)してけつかるのか。153ヨーシ、154何(なに)もかも、155之(これ)から館(やかた)へ行(い)つて陰謀(いんぼう)を素破抜(すつぱぬ)いてやらう……と云(い)つても俺(おれ)も其(その)仲間(なかま)だ。156何時(なんどき)暴露(ばれ)て笠(かさ)の台(だい)が飛(と)ぶかも知(し)れないのだ。157それを思(おも)へば甘(うめ)え酒(さけ)も不味(まづ)うなつて来(く)る。158斯(か)う毎日(まいにち)毎日(まいにち)心(こころ)の鬼(おに)に責(せ)められては、159やりきれない。160一(ひと)つワックスの若造(わかざう)に無心(むしん)を云(い)つて三百(さんびやく)両(りやう)ばかりおつ放(ぽ)り出(だ)させ、161自棄酒(やけざけ)でも飲(の)んで過(す)ごさにややりきれないわ』
162と戸(と)を無理(むり)に引(ひ)き開(あ)け、163ドカドカと病室(びやうしつ)に駆(か)け込(こ)み、
164エキス『ヤ、165御(おん)大将(たいしやう)、166矢張(やつぱり)御(ご)病気(びやうき)ですかな。167そりや誠(まこと)にお気(き)の毒(どく)だ。168然(しか)し乍(なが)ら一(ひと)つ願(ねが)ひ度(て)え事(こと)があつて吾々(われわれ)両人(りやうにん)がやつて来(き)やした。169此(この)様子(やうす)では御(ご)家令(かれい)さまも、170とても助(たす)かりますまい。171沢山(たくさん)の財産(ざいさん)を持(も)つて冥土(めいど)に行(ゆ)く訳(わけ)にもゆくまいし、172チツトは善根(ぜんこん)の為(ため)にわれわれ両人(りやうにん)に三百(さんびやく)両(りやう)ばかり死土産(しにみやげ)を下(くだ)つせえ。173お前(まへ)の大切(たいせつ)の倅(せがれ)の首(くび)がつなげるのも、174つなげぬのも、175吾々(われわれ)両人(りやうにん)の舌(した)三寸(さんずん)の使(つか)ひやうだ。176死(し)んでも心残(こころのこ)りのない様(やう)に、177サア、178スツパリと三百(さんびやく)両(りやう)〆(しめ)て六百(ろくぴやく)両(りやう)出(だ)して頂(いただ)きやせう。179御(ご)家令(かれい)さま、180小倅(こせがれ)の命(いのち)が繋(つな)げると思(おも)へば安価(やす)いものでせう』
181看護婦(かんごふ)『コレお二方(ふたかた)、182旦那(だんな)様(さま)が御(ご)病気(びやうき)の処(とこ)へ、183そんな事(こと)を云(い)つて来(く)るものぢやありませぬよ。184若旦那(わかだんな)が別館(はなれ)に居(を)られますから、185彼処(あそこ)に行(い)つて下(くだ)さい。186此(この)病室(びやうしつ)へは這入(はい)つてはなりませぬ。187ここは看護婦(かんごふ)の許可(ゆるし)がなけりや一歩(ひとあし)も這入(はい)つてはいけませぬ』
188エキス『成程(なるほど)、189これは恐(おそ)れ入(い)つた。190ワックスの若(わか)が別館(はなれ)に居(ゐ)るさうだ。191一(ひと)つ彼奴(あいつ)に談判(だんぱん)してドツサリとむしつて来(こ)ようぢやないか。192グツツツツゲゲゲゲガラガラガラドツツツツ』
193と八百屋(やほや)店(みせ)を出(だ)す。
194看護婦(かんごふ)『エー、195好(す)かんたらしい、196掃除(さうぢ)をなさい。197妾(わたし)はお前(まへ)等(たち)の掃除役(さうぢやく)ではありませぬぞえ』
198エキス『エー、199八釜(やかま)しう云(い)ふない。200出(で)たものは仕方(しかた)がないわ。201グヅグヅ吐(ぬか)して六百(ろくぴやく)両(りやう)の金(かね)を出(だ)し惜(をし)みしやがるものだから嘔吐(へど)の奴(やつ)、202気(き)を利(き)かして八百(はつぴやく)両(りやう)、203いや八百屋(はつぴやくや)店(みせ)を出(だ)したのだ。204エー、205臭(くさ)い臭(くさ)い、206おいヘルマン、207行(い)かうぢやないか。208こんな斃(くたば)つた老爺(おやぢ)に向(むか)つて文句(もんく)を並(なら)べたつて仕方(しかた)がないや』
209と云(い)ひ乍(なが)ら、210ヒヨロリヒヨロリ廊下(らうか)を伝(つた)つて足(あし)をヨボヨボさせ乍(なが)ら進(すす)み入(い)る。
211エキス『おい、212ワックスの大将(たいしやう)、213金(かね)だ金(かね)だ。214今日(けふ)は何(なん)と云(い)つても貰(もら)はなくちや動(うご)かねえのだ。215エー、216よう考(かんが)へてみよ。217宮町(みやまち)一般(いつぱん)の人間(にんげん)を騙(だま)くらかし、218大切(たいせつ)なお姫(ひめ)様(さま)を狐(きつね)のお化(ばけ)だと云(い)つて、219あんな岩窟(いはや)に押込(おしこ)めよつて往生(わうじやう)づくめでウンと云(い)はさうと思(おも)つても、220さうはいかぬぞ。221サア六百(ろくぴやく)両(りやう)、222耳(みみ)を揃(そろ)へて出(だ)したり出(だ)したり、223グヅグヅ吐(ぬか)すと二人(ふたり)が之(これ)からお館(やかた)へ行(い)つて素破抜(すつぱぬ)くが如何(どう)だ。224三千彦(みちひこ)の宣伝使(せんでんし)にだつて、225あんな事(こと)をしやがつて、226本当(ほんたう)に太(ふて)え野郎(やらう)だ。227サア、228キリキリチヤツと、229四(し)の五(ご)の吐(ぬか)さず六百(ろくぴやく)両(りやう)出(だ)さぬかい。230エー篦棒(べらぼう)奴(め)、231無(な)いと云(い)ふのか。232こんなデツカイ屋台骨(やたいぼね)をしやがつて金(かね)の千(せん)両(りやう)や一万(いちまん)両(りやう)、233無(な)いとは云(い)はさぬぞ。234お前(まへ)の老爺(おやぢ)は家令(かれい)をしやがつて、235うまい事(こと)して沢山(たくさん)の金(かね)を穴倉(あなぐら)へ仕舞(しま)ひ込(こ)んだと云(い)ふ事(こと)だ。236渋老爺(しぶおやぢ)の鬼老爺(おにおやぢ)の倅(せがれ)だけあつて貴様(きさま)も中々(なかなか)出(だ)し嫌(ぎら)ひと見(み)えるが、237何(なん)と云(い)つても俺(おれ)には出(だ)さにやならぬ理由(わけ)がある。238サア、239キリキリ チヤツとおつ放(ぽ)り出(だ)さぬかい。240マゴマゴして居(ゐ)やがると貴様(きさま)の首(くび)が飛(と)んで了(しま)ふぞ』
241ワックス『オイ、242又(また)しても又(また)してもさう脅喝(けふかつ)に来(き)ては困(こま)るぢやないか。243今(いま)老爺(おやぢ)が千騎(せんき)一騎(いつき)の場合(ばあひ)だから……只(ただ)一人(ひとり)の親(おや)に離(はな)れようとする最中(さいちう)だから、244チツと俺(おれ)の身(み)にもなつて呉(く)れ。245老爺(おやぢ)が亡(な)くなつてから如何(どう)でもしてやるから』
246エキス『暫(しば)らく待(ま)たれる位(くらゐ)なら病人(びやうにん)で取込(とりこ)んで居(ゐ)る家(うち)へやつて来(く)るものかい。247お前(まへ)はさう陽気(やうき)な事(こと)を云(い)つてるが俺(おれ)は尻(しり)に火(ひ)がついて居(ゐ)るのだ。248サア早(はや)くキリキリチヤツと出(だ)したり出(だ)したり』
249ビルマ『オイ両人(りやうにん)、250さう八釜(やかま)しう云(い)はずに、251俺(おれ)と一緒(いつしよ)に酒(さけ)でも飲(の)んだら如何(どう)だ。252話(はなし)は後(あと)で緩(ゆつく)りしたら宜(い)いぢやないか』
253エキス『ウン、254酒(さけ)なら飲(の)んでやらぬ事(こと)はない。255四斗樽(しとだる)と仇名(あだな)をとつたエキス、256ヘルマンの両人(りやうにん)だ。257お酒(さけ)の御用(ごよう)なら後(あと)へは退(ひ)かぬぞ』
258とドツカリと坐(ざ)し、259柄杓(ひしやく)に掬(すく)うてグーグーと飲(の)み始(はじ)めた、260四(よ)人(にん)はへべれけに酔(よ)ひ、261四辺(あたり)構(かま)はず堤(どて)を切(き)らして唄(うた)ひ初(はじ)めた。
262エキス『欲(よく)と色(いろ)との二道(ふたみち)かけて
263極道(ごくだう)息子(むすこ)のワックスが
264二人(ふたり)の男(をとこ)をちよろまかし
265テルモン館(やかた)の御(おん)宝(たから)
266マンマと盗(ぬす)み出(いだ)さして
267自分(じぶん)がデビスの婿(むこ)となり
268終(しま)ひの果(は)てにや小国別(をくにわけ)の
269権利(けんり)財産(ざいさん)横奪(わうだつ)し
270栄耀(えいえう)栄華(えいぐわ)に暮(くら)さうと
271テツキリ梟(ふくろふ)の宵企(よひだく)み
272夜食(やしよく)に外(はづ)れて青(あを)い顔(かほ)
273致(いた)さにやならぬ時(とき)が来(き)た
274ドツコイシヨ ドツコイシヨ
275それさへあるにデビス姫(ひめ)
276類(たぐ)ひ稀(まれ)なるナイスさま
277ケリナの姫(ひめ)と諸共(もろとも)に
278テルモン山(ざん)の岩窟(がんくつ)へ
279狐(きつね)のお化(ばけ)とちよろまかし
280押(お)し込(こ)んで置(お)いて夜(よ)な夜(よ)なに
281口説(くど)きに行(ゆ)きよる馬鹿(ばか)男(をとこ)
282之(これ)程(ほど)悪(あく)を企(たく)む奴(やつ)
283六百(ろくぴやく)両(りやう)の黄金(わうごん)が
284惜(をし)うて出(だ)せぬ位(くらゐ)なら
285首(くび)でも吊(つ)つて死(し)ぬがよい
286何(いづ)れ死(し)なねばならぬ奴(やつ)
287今(いま)に天罰(てんばつ)報(むく)い来(き)て
288家(いへ)は断絶(だんぜつ)その身(み)は所刑(しおき)
289これの館(やかた)は風前(ふうぜん)の
290燈火(とうくわ)の如(ごと)く刻々(こくこく)に
291危険(きけん)の迫(せま)るを知(し)らないか
292生命(いのち)が大切(だいじ)か黄金(わうごん)が
293大切(だいじ)かよつく考(かんが)へよ
294金(かね)と命(いのち)の引替(ひきか)へに
295早(はや)く渡(わた)せよワックスよ
296俺(おい)等(ら)二人(ふたり)は自棄糞(やけくそ)だ
297之(これ)から館(やかた)へ飛(と)び込(こ)んで
298恐(おそ)れ乍(なが)らと白状(はくじやう)する
299そしたら貴様(きさま)は第一(だいいち)に
300悪(あく)の兇頭(きやうとう)と定(さだ)められ
301命(いのち)のないのは知(し)れた事(こと)
302俺(おれ)等(たち)二人(ふたり)は従犯(じゆうはん)だ
303重(おも)い所(ところ)で遠島(ゑんたう)か
304所払(ところばら)ひになる位(くらゐ)
305早(はや)く出(だ)せ出(だ)せ六百(ろくぴやく)両(りやう)
306ヨイトシヨー ヨイトシヨー
307こんな酸(す)つぱい酒(さけ)位(ぐらゐ)
308飲(の)ましておいて箝口令(かんこうれい)
309布(し)いた所(ところ)で駄目(だめ)ぢやぞよ
310暴露(ばら)してやらうかワックスよ
311命(いのち)が惜(をし)けりや金(かね)を出(だ)せ
312デビスが欲(ほ)しけりや金(かね)を出(だ)せ
313ケリナが欲(ほ)しくば金(かね)を出(だ)せ
314館(やかた)の養子(やうし)になり度(た)くば
315ヤツパリ六百(ろくぴやく)両(りやう)の金(かね)を出(だ)せ
316金(かね)を出(だ)すのが嫌(いや)なれば
317俺(おれ)等(たち)の前(まへ)に首(くび)を出(だ)せ
318此(この)出刃(でば)庖丁(ばうちよう)でチヨンぎつて
319アンブラック川(がは)へドンブリと
320流(なが)してやらうか御(ご)承知(しようち)か
321アア金(かね)が欲(ほ)しい、金(かね)が欲(ほ)しい
322金(かね)が敵(かたき)の世(よ)の中(なか)ぢや
323何程(なにほど)敵(かたき)と云(い)つたとて
324金(かね)ほど笑顔(ゑがほ)のよい奴(やつ)が
325又(また)と世界(せかい)にあるものか
326ドツコイシヨ ドツコイシヨ
327金(かね)ぢや金(かね)ぢや早(は)や金(かね)ぢや
328警鐘(けいしよう)乱打(らんだ)の声(こゑ)よりも
329俺(おれ)の催促(さいそく)烈(はげ)しいぞ
330コラコラ悪党(あくたう)ワックスよ
331色(いろ)と欲(よく)との二道(ふたみち)かけた
332此(この)大芝居(おほしばゐ)をやり遂(と)げて
333安全(あんぜん)無事(ぶじ)に此(こ)の世(よ)をば
334送(おく)らうと思(おも)へば金(かね)を出(だ)せ
335資本(もとで)がなくては何事(なにごと)も
336成就(じやうじゆ)せないは世(よ)の習(なら)ひ
337アア惟神(かむながら)々々(かむながら)
338金(かね)をドツサリ下(くだ)さんせ
339バラモン帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
340大国彦(おほくにひこ)の御(おん)前(まへ)に
341エキス ヘルマン両人(りやうにん)が
342畏(かしこ)み畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる
343ウントコシヨ ドツコイシヨ
344八釜(やかま)しい声(こゑ)が人耳(ひとみみ)に
345入(い)るのが嫌(いや)なら金(かね)を出(だ)せ
346どんな難(むつかし)い問題(もんだい)も
347金(かね)で治(をさ)まる世(よ)の中(なか)だ
348兎角(とかく)浮世(うきよ)は色(いろ)と酒(さけ)
349此(この)欲望(よくばう)を充(みた)すのは
350ヤツパリ金(かね)の神(かみ)様(さま)だ
351お前(まへ)の首(くび)をつなぐのも
352ヤツパリ金(かね)の御(ご)利益(りやく)だ
353蒔(ま)かない種子(たね)は生(は)えぬぞや
354早(はや)く命(いのち)の種子(たね)を蒔(ま)け
355ドツコイシヨー ドツコイシヨー
356扨(さ)ても強情(しぶと)い吝嗇(しみたれ)だ
357それ程(ほど)金(かね)が惜(をし)いかい
358雪隠(せつちん)の側(そば)の猿(さる)不食柿(くはず)
359渋(しぶ)うて汚(きたな)うて小(こま)かうて
360喰(く)へない奴(やつ)は貴様(きさま)ぞや
361アア金(かね)が欲(ほ)しい金(かね)が欲(ほ)しい
362目玉(めだま)飛(と)び出(だ)しましませよ』
363と自棄糞(やけくそ)になつてワックスを困(こま)らせるために四辺(あたり)構(かま)はず喚(わめ)き立(た)てる。364ワックスは堪(たま)りかねて矢場(やには)に父(ちち)の病室(びやうしつ)に駆(か)け入(い)り、365ソファーの下(した)に匿(かく)してある黄金(わうごん)を無理(むり)に引(ひつ)たくり、366二人(ふたり)の前(まへ)に投(な)げつけた。
367エキス『エヘヘヘヘ流石(さすが)は哥兄(あにき)だ。368偉(えら)い偉(えら)い、369吾(わが)意(い)を得(え)たりと云(い)ふべしだ。370成程(なるほど)山吹色(やまぶきいろ)の黄金(わうごん)で耳(みみ)を揃(そろ)へて六百(ろくぴやく)両(りやう)、371マアこれで三十(さんじふ)日(にち)ばかりは沈黙(ちんもく)を守(まも)つて居(ゐ)るから、372次(つぎ)に来(く)る迄(まで)用意(ようい)をして置(お)くが宜(よ)からうぞ。373今度目(こんどめ)にゴテゴテ云(い)うと駄目(だめ)だからな』
374と下駄(げた)を預(あづ)け乍(なが)ら、375六百(ろくぴやく)両(りやう)を二人(ふたり)が懐(ふところ)に捻(ね)ぢ込(こ)み、376ブラリブラリと臭(くさ)い息(いき)を吐(は)きながら帰(かへ)り行(ゆ)く。
377(大正一二・三・二四 旧二・八 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→