霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 糞闘(ふんとう)〔一四五五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻 篇:第1篇 照門山颪 よみ(新仮名遣い):てるもんざんおろし
章:第5章 糞闘 よみ(新仮名遣い):ふんとう 通し章番号:1455
口述日:1923(大正12)年03月24日(旧02月8日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月24日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
館の受付にはエル、オークス、ビルマの三人がたがいに泡沫のような出世話にふけっている。エルは、オークスとビルマが町人たちの財産を盗んで三五教の宣伝使のせいにしていることを知りながら、二人とともにワックスを追い出して、自分たち三人で館の重職を占領しようという話に乗ってきた。
ワックスは三人の話を陰で聞いていて業腹が立ち、大便所に入って長柄杓に汚いものを持ってきて、三人の顔に振りかけた。ワックスは逃げ出すとたんに畳の破れに足を引っかけ、倒れてしまった。倒れた拍子に敷居に鼻を打ち、息をつめて苦しんでいる。
三人は不意に臭いものを顔にかけられて、洗いに行こうと走ったとたんにワックスの体につまづいて倒れてしまった。四人は糞まみれになてひっくり返り、ウンウンとうめいている。
小国姫は物音にこの場に走ってきた。小国姫は悪人たちが糞まみれになって倒れているのを見て、彼らの腹黒さをなじる歌を歌った。ワックスとオークスは小国姫を非難し、互いにいがみあっている。
エキスとヘルマンはこの場にやってきて、小国姫が四人を害しようとしたと非難し、ハルナの都の大黒主に報告すると捨て台詞を吐いて駆け出して行った。
四人はやっとおきあがり体を洗濯すると、今までの喧嘩は横に置き、ふたたび野心を充たすべく秘密相談会を開くことになった。
小国姫は病気の夫を気遣って早々にこの場を立って奥の間に身を隠した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-04-12 12:52:52 文字数:4920 OBC :rm5705
愛善世界社版:60頁 八幡書店版:第10輯 280頁 修補版: 校定版:62頁 普及版:28頁 初版: ページ備考:
001 館(やかた)の受付(うけつけ)の溜(たま)りにはエル、002オークス、003ビルマの三(さん)人(にん)、004机(つくゑ)を真中(まんなか)に置(お)いて胡床(あぐら)をかき虫(むし)のよい夢(ゆめ)を見(み)て、005互(たがひ)に泡沫(はうまつ)の如(ごと)き出世譚(しゆつせばなし)を争(あらそ)うて居(ゐ)る。
006エル『おい、007オークス、008貴様(きさま)は門番(もんばん)の癖(くせ)にドカドカと受付(うけつけ)の関所(せきしよ)を突破(とつぱ)して奥(おく)の間(ま)へ進入(しんにふ)して行(い)つたと見(み)えるが、009余程(よほど)奥様(おくさま)からお目玉(めだま)を喰(く)つたと見(み)え、010随分(ずいぶん)面(つら)を膨(ふく)らしてゐるぢやないか。011俺(おれ)は梟(ふくろふ)の化物(ばけもの)と思(おも)つたよ』
012オークス『ヘン、013門番(もんばん)門番(もんばん)て、014偉相(えらさう)に云(い)ふない。015睾丸潰(きんたまつぶ)しの大将(たいしやう)奴(め)、016俺(おれ)は今(いま)迄(まで)の門番(もんばん)オークスとはチト違(ちが)ふのだ。017これから此館(ここ)の家令職(かれいしよく)となり、018奥住(おくずま)ひとなつてオークス勤(づと)めをするのだから、019何事(なにごと)も此(この)方(はう)の吩咐(いひつけ)に服従(ふくじゆう)するのだぞ。020なあビルマ、021お前(まへ)がよく知(し)つてるだらう』
022ビルマ『さうだな。023マアマア夢(ゆめ)の中(なか)の家令(かれい)位(ぐらゐ)なものだらうかい。024こんな処(ところ)で、025かれい、026これ云(い)うて居(ゐ)ると人(ひと)に聞(き)かれて、027サア今(いま)と云(い)ふ時(とき)に総(すべ)ての計劃(けいくわく)が画餅(ぐわへい)に帰(き)するかも知(し)れないぞ。028成功(せいこう)する人(ひと)は黙(だま)つて居(ゐ)るよ。029黙(だま)つてる人(ひと)が夜光(やくわう)の玉(たま)をとると云(い)つてな、030何(なん)でもガラガラ云(い)ふものぢやない。031沈黙(ちんもく)が一等(いつとう)だ』
032オークス『馬鹿(ばか)云(い)ふな。033已(すで)に已(すで)に奥様(おくさま)から証言(しようげん)を得(え)て居(ゐ)るのだ。034誰(たれ)が何(なん)と云(い)つてもワックスさまを此館(ここ)の主人(あるじ)となし、035デビス姫(ひめ)様(さま)と芽出(めで)たく合衾(がふきん)の式(しき)を挙(あ)げさせ、036此(この)オークスが家令職(かれいしよく)となり、037妹(いもうと)のケリナ姫(ひめ)が軈(やが)て帰(かへ)らるると云(い)ふ事(こと)だから、038ケリナ姫(ひめ)の夫(をつと)となり、039教務(けうむ)、040政務(せいむ)を刷新(さつしん)し、041綱紀(かうき)を振粛(しんしゆく)し尭舜(げうしゆん)の世(よ)を来(き)たすのだ。042今(いま)迄(まで)のやうな老耄(おいぼれ)や、043狼狽者(あわてもの)の睾丸潰(きんたまつぶ)しの受付(うけつけ)では駄目(だめ)だからな。044エツヘヘヘヘヘ』
045エル『イツヒヒヒヒヒアイタタタタ余(あんま)りしようもない事(こと)を吐(ぬか)すので、046可笑(をか)しうて睾丸(きんたま)に響(ひび)いて睾丸(きんたま)が痛(いた)くて碌(ろく)に笑(わら)ふことも出来(でき)やせないわ。047貴様(きさま)日(ひ)が永(なが)いので、048そんな夢(ゆめ)でも見(み)たのだらう。049それよりも早(はや)く門番(もんばん)を神妙(しんめう)に勤(つと)めぬかい。050旦那(だんな)様(さま)が何時(いつ)知(し)れぬ様(やう)な御(ご)病気(びやうき)が起(おこ)つてるのに、051ウカウカして居(ゐ)る時(とき)ぢやないぞ』
052オークス『おい、053エル、054旦那(だんな)様(さま)は已(すで)に御(ご)帰幽(きいう)になつたと云(い)つて触(ふ)れて歩(ある)いたぢやないか。055随分(ずいぶん)いい狼狽者(あわてもの)だな』
056エル『定(きま)つた事(こと)だ。057何(なん)でも手廻(てまは)しよくして置(お)かねば間尺(ましやく)に合(あは)ぬぢやないか。058病人(びやうにん)ぢやなくても年寄(としより)が先(さき)に死(し)ぬのは当然(あたりまへ)だ。059何時(いつ)迄(まで)も旦那(だんな)様(さま)が生(い)きて居(ゐ)ると思(おも)へば何時(なんどき)アフンとせなくちやならぬか分(わか)らぬから、060一寸(ちよつと)町民(ちやうみん)の目(め)を覚(さ)ますために布令(ふれ)を出(だ)し、061予行(よかう)演習(えんしふ)をやつたのだ。062英雄(えいゆう)の心事(しんじ)が門番(もんばん)に分(わか)つて堪(たま)るかい。063エヘン、064イヒン、065アイタタタタどうも睾丸(きんたま)の奴(やつ)、066もの云(い)ひやがつて仕方(しかた)がないわ』
067オークス『おい、068エル、069ここは一(ひと)つ真面目(まじめ)になつて聞(き)いて呉(く)れ。070本当(ほんたう)に俺(おれ)は今日(けふ)から家令職(かれいしよく)だぞ。071そしてワックス様(さま)が当館(たうやかた)の御(お)世継(よつぎ)だ。072それから此(こ)のビルマが受付(うけつけ)に坐(すわ)り、073お前(まへ)は暫(しばら)く睾丸(きんたま)が癒(なほ)る迄(まで)お暇(ひま)を賜(たまは)つて休養(きうやう)するのだな。074俺(おれ)が家令(かれい)になつた上(うへ)は、075滅多(めつた)に受付(うけつけ)より下(した)の役(やく)はささぬから、076柔順(おとな)しく控(ひか)へたが宜(よ)からう』
077エル『俺(おれ)は死(し)んでも受付(うけつけ)は止(や)めぬのだ。078何程(なにほど)貴様(きさま)が家令(かれい)になつた処(ところ)で、079俺(おれ)の受付(うけつけ)はハルナの都(みやこ)の大黒主(おほくろぬし)様(さま)から、080命令(めいれい)を受(う)けてゐるのだから、081俺(おれ)の地位(ちゐ)を到底(たうてい)動(うご)かすことは出来(でき)まい。082そんな事(こと)云(い)はずに門番(もんばん)でも神妙(しんめう)に勤(つと)めたが宜(よ)からうぞ』
083オークス『よし、084そんなら俺(おれ)が受付(うけつけ)を免職(めんしよく)させて見(み)せよう。085貴様(きさま)は受付(うけつけ)であり乍(なが)ら門外(もんぐわい)へ飛(と)び出(だ)し、086死(し)んでも厶(ござ)らぬ旦那(だんな)様(さま)をお逝(かく)れになつたと触(ふ)れ歩(ある)き、087町内(ちやうない)を騒(さわ)がした大罪人(だいざいにん)だ。088これを大黒主(おほくろぬし)様(さま)に上申(じやうしん)しようものなら、089それこそ免職(めんしよく)は宵(よひ)の口(くち)、090貴様(きさま)の笠(かさ)の台(だい)が飛(と)んで了(しま)ふのだ。091どうだ、092それでも苦(くる)しうないのか』
093エル『マママママ待(ま)つて呉(く)れ。094それやさうぢやけれど、095実(じつ)の所(ところ)は夢(ゆめ)を見(み)て居(を)つたのだ。096夢(ゆめ)でした事(こと)は仕方(しかた)がないぢやないか』
097オークス『何(なに)、098夢(ゆめ)を見(み)たと、099貴様(きさま)はさうすると怠慢(たいまん)の罪(つみ)を免(まぬが)るる事(こと)は出来(でき)ない。100朝(あさ)から晩(ばん)まで平家蟹(へいけがに)のやうに目(め)の玉(たま)をツン出(だ)して、101お役目(やくめ)大切(たいせつ)に受付(うけつけ)を守(まも)つて居(を)らねばならぬ役目(やくめ)でありながら、102昼(ひる)の中(うち)からサボタージュをやつて昼寝(ひるね)をやつて居(を)つたのだな。103益々(ますます)怪(け)しからぬ。104おいビルマ、105貴様(きさま)が証拠人(しようこにん)だ。106ここで一(ひと)つ上申書(じやうしんしよ)を書(か)くから、107お前(まへ)証拠人(しようこにん)になつて呉(く)れ』
108ビルマ『そら、109俺(おれ)も証拠人(しようこにん)にならぬ事(こと)はないが、110町(ちやう)に事勿(ことなか)れと云(い)つてエルの事(こと)を上申(じやうしん)すると、111それが一(ひと)つの引(ひつ)かかりとなり、112終(しまひ)には貴様(きさま)と俺(おれ)との……それ……窃盗(せつたう)事件(じけん)が発覚(はつかく)するぢやないか。113ここはお互(たがひ)に辛抱(しんばう)したが宜(よ)からうぞ』
114オークス『何(なに)、115何時(いつ)俺(おれ)が窃盗(せつたう)した。116馬鹿(ばか)な事(こと)を云(い)ふな』
117ビルマ『セツトウと云(い)ふのは盗人(ぬすびと)の事(こと)ぢやない。118去年(きよねん)の冬(ふゆ)、119テルモン山(ざん)の谷間(たにあひ)で雪(ゆき)を固(かた)めて洞(ほら)を穿(うが)ち、120そこで遊(あそ)んだ事(こと)があるだらう。121それを雪洞(せつとう)と云(い)ふのだ。122それでも矢張(やつぱり)サボになるからのう』
123オークス『何(なに)、124俺(おれ)等(たち)は門番(もんばん)だから、125立派(りつぱ)な門(もん)を造(つく)らうと思(おも)つて、126雪(ゆき)で雛型(ひながた)を作(つく)つて其(その)下(した)を通(とほ)つたのだから、127云(い)はば職務(しよくむ)に忠実(ちうじつ)になるのだ。128そんな事(こと)が何(なに)、129罪(つみ)にならう』
130と巧(うま)く二人(ふたり)寄(よ)つて窃盗(せつたう)事件(じけん)を誤魔化(ごまくわ)して了(しま)つた。
131エル『ヒヒヒヒ、132アイタタタタ何(なん)だか知(し)らぬが、133二人(ふたり)とも云(い)ひ滑(すべ)つた事(こと)を巧(うま)く塗(ぬ)りつけたやうな気分(きぶん)がしてならぬわ。134此奴(こいつ)ア探(さぐ)つて見(み)れば何(なに)かあるに相違(さうゐ)ない。135香爐(かうろ)や金銀(きんぎん)の水壺(みづつぼ)を、136あの騒(さわ)ぎに皆(みな)盗(ぬす)んで了(しま)つたと云(い)うてるからにやお前(まへ)等(たち)が、137よもや……ではあるまいかの』
138オークス『馬鹿(ばか)云(い)ふな。139俺(おれ)は旦那(だんな)様(さま)の御(ご)病気(びやうき)について、140門番(もんばん)を休(やす)んで今(いま)の今(いま)まで奥(おく)で御用(ごよう)をして居(を)つたのだから、141そんな事(こと)は些(ちつ)とも知(し)らないわ。142大方(おほかた)三五教(あななひけう)の魔法使(まはふつかひ)が持(も)つて去(い)んだのだらう』
143ビルマ『オイ両人(りやうにん)、144こんな話(はなし)は止(や)めにして、145兎(と)も角(かく)旦那(だんな)様(さま)が何時(いつ)お国替(くにが)へになるやら分(わか)らぬなり、146家令(かれい)も亦(また)何時(いつ)死(し)ぬか知(し)れぬ場合(ばあひ)だ。147ここで俺(おれ)等(たち)三(さん)人(にん)同盟(どうめい)して一(ひと)つ出世(しゆつせ)の門(もん)を開(ひら)かうぢやないか。148何時(いつ)迄(まで)も門番(もんばん)や受付(うけつけ)では面白(おもしろ)うないからのう。149幸(さいは)ひ年(とし)も若(わか)し独身者(ひとりもの)だから、150家令(かれい)の息子(むすこ)のワックスの馬鹿(ばか)を此館(ここ)の養子(やうし)にするのは勿体(もつたい)ない。151一層(いつそ)の事(こと)、152俺(おれ)等(たち)三(さん)人(にん)で、153此館(ここ)のお世継(よつぎ)と、154家令(かれい)と、155受付(うけつけ)兼(けん)内事頭(ないじがしら)の三(み)つの役(やく)を占領(せんりやう)する事(こと)にしようぢやないか』
156エル『ウン、157そりや面白(おもしろ)からう。158然(しか)し乍(なが)ら奥(おく)さまが諾(うん)と云(い)つて呉(く)れるだらうかな』
159オークス『そこはそれ、160弱味(よわみ)につけ込(こ)む風(かぜ)の神(かみ)さまだ。161此(この)尊(たふと)い霊地(れいち)に三五教(あななひけう)の魔法使(まはふつかひ)をソツと引張(ひつぱ)り込(こ)んだと云(い)ふ、162奥(おく)さまに弱点(じやくてん)があるのだから、163屹度(きつと)俺(おれ)等(たち)の意見(いけん)を採用(さいよう)するにきまつてる。164若(も)し採用(さいよう)せなけりや身(み)の破滅(はめつ)だからな』
165エル『成程(なるほど)、166そりや妙案(めうあん)だ。167そんなら俺(おれ)が此館(ここ)の養子(やうし)になるから、168貴様(きさま)等(たち)両人(りやうにん)は家令(かれい)並(なら)びに内事係(ないじがかり)兼(けん)受付(うけつけ)としてやらう。169門番(もんばん)の分際(ぶんざい)として異数(いすう)の抜擢(ばつてき)だらう』
170オークス『馬鹿(ばか)云(い)ふな。171俺(おれ)はデビス姫(ひめ)さまの夫(をつと)となり当家(たうけ)のお世継(よつぎ)だ。172お前(まへ)等(たち)二人(ふたり)は籤(くじ)でもして家令(かれい)と受付(うけつけ)とをやつたが宜(よ)からう。173家令職(かれいしよく)と受付(うけつけ)とは大変(たいへん)な段階(だんかい)がある。174若(もし)受付(うけつけ)となつたものは、175妹(いもうと)さまが帰(かへ)られたら受付(うけつけ)の女房(にようばう)にする。176お世継(よつぎ)はどうしても姉(あね)さまの婿(むこ)に限(かぎ)つてる。177家令(かれい)は役柄(やくがら)が上(うへ)だから姫(ひめ)様(さま)を貰(もら)はずに辛抱(しんばう)するのだ。178さうすりや不公平(ふこうへい)が無(な)いだらう』
179エル『時(とき)に綿屋(わたや)の老爺(おやぢ)の話(はなし)に聞(き)けば、180高倉(たかくら)とか、181旭(あさひ)とか云(い)ふ三五教(あななひけう)の化狐(ばけきつね)が、182二人(ふたり)の姫(ひめ)様(さま)に化(ば)けて狸坊主(たぬきばうず)と一緒(いつしよ)にパインの森(もり)で捉(つか)まへられたと云(い)ふ事(こと)だが、183実際(じつさい)そんな事(こと)があるだらうか。184俺(おれ)や不思議(ふしぎ)で堪(たま)らぬのだ。185中(なか)にはコソコソ話(はなし)をしてる奴(やつ)があつて、186あれは狐(きつね)ぢやない本真物(ほんまもの)の姫(ひめ)様(さま)と云(い)つてるものもあるが、187あれが本真物(ほんまもの)ならばワックスが匿(かく)しよつた岩窟(いはや)に助(たす)けに行(い)つて、188姫(ひめ)さまの恋(こひ)を独占(どくせん)するのも一興(いつきよう)だがな』
189オークス『馬鹿(ばか)云(い)ふな。190彼奴(あいつ)は狐(きつね)にきまつてる。191犬(いぬ)に噛(か)まれよつて首筋(くびすぢ)や耳(みみ)を噛(か)まれたり、192狸坊主(たぬきばうず)迄(まで)が首筋(くびすぢ)を噛(か)まれたと云(い)つて、193紫(むらさき)になつてはれ上(あが)つて居(を)つた、194何(なん)ぼ本真物(ほんまもの)でも、195あの御(ご)面相(めんさう)では御免(ごめん)だ』
196ビルマ『おい、197エル、198貴様(きさま)は睾丸(きんたま)を潰(つぶ)されて綿屋(わたや)の離室(はなれ)にスツ込(こ)んで居(を)り乍(なが)ら、199どうしてそんな事(こと)が目(め)に着(つ)いたのだ。200チツト可笑(をか)しいぢやないか』
201エル『何(なに)、202俺(おれ)だつて女(をんな)と聞(き)いちやジツとして聞(き)いて居(を)れないので、203「ワツシヨワツシヨ」と門前(かどさき)を担(かつ)いで行(ゆ)くのを、204門口(かどぐち)に飛(と)び出(だ)し、205トツクリ見(み)た所(ところ)が姫(ひめ)様(さま)に似(に)て居(ゐ)るが、206何(なん)となしに険相(けんさう)な顔(かほ)して居(ゐ)るので、207狐(きつね)のお化(ば)けかと思(おも)つて居(ゐ)たのだ。208どうも人間(にんげん)の目(め)で真偽(しんぎ)は分(わか)らぬが、209マア百(ひやく)人(にん)の者(もの)が七十(しちじふ)人(にん)迄(まで)がお化(ば)けと云(い)ふのだから、210大勢(おほぜい)の目(め)の方(はう)が本当(ほんたう)だらうかい』
211オークス『サア、212無駄話(むだばなし)はどうでも宜(よ)いが、213手(て)つ取(と)り早(ばや)く約束(やくそく)を定(き)めて置(お)かうぢやないか。214俺(おれ)は此館(ここ)の御(ご)養子(やうし)にきめて置(お)いて、215家令職(かれいしよく)と受付(うけつけ)との、216これから約束(やくそく)だ。217どうぢや家令職(かれいしよく)になれば姫(ひめ)様(さま)はもらへぬなり、218低(ひく)い役(やく)の受付(うけつけ)になればケリナ姫(ひめ)を女房(にようばう)に貰(もら)へるのだ。219位(くらゐ)をとるか、220色(いろ)をとるか、221と云(い)ふ処(ところ)だ』
222ビルマ『そんなら俺(おれ)は受付(うけつけ)になるわ』
223エル『馬鹿(ばか)云(い)ふな。224受付(うけつけ)は俺(おれ)の持前(もちまへ)だ。225天下(てんか)御免(ごめん)の受付(うけつけ)だ。226受付(うけつけ)は俺(おれ)にきまつてる。227ヘン済(す)みませぬな』
228オークス『オイ、229両人(りやうにん)、230姫(ひめ)様(さま)は実際(じつさい)生(い)きて厶(ござ)るか厶(ござ)らぬか分(わか)らぬのだ。231万一(まんいち)此(この)世(よ)に生(い)きて厶(ござ)らぬとすれば矢張(やつぱり)家令(かれい)になつた方(はう)が得(とく)だぞ』
232エル『そんなら、233思(おも)ひきつて俺(おれ)は家令(かれい)になるわ。234ビルマ、235お前(まへ)、236受付(うけつけ)になつて呉(く)れ』
237ビルマ『馬鹿(ばか)云(い)ふな、238誰(たれ)が受付(うけつけ)なんかするものかい。239適材(てきざい)適所(てきしよ)と云(い)つて、240此館(ここ)の家令(かれい)は貴様(きさま)のやうな狼狽者(あわてもの)では到底(たうてい)勤(つと)まりつこはない。241ビルマに限(かぎ)つてるワイ』
242エル『然(しか)し、243さうするとワックスさまのやり場(ば)が無(な)いぢやないか』
244オークス『何(なに)、245ワックスなんか、246彼奴(あいつ)の悪事(あくじ)を素破抜(すつぱぬ)いてやれば、247文句(もんく)なしに命(いのち)惜(を)しさに逃(に)ぐるにきまつてる。248三(さん)人(にん)でさへも配置(はいち)に困(こま)つてるのに、249彼奴(あいつ)が出(で)て来(き)て堪(たま)らうかい。250彼奴(あいつ)は勘定外(かんぢやうぐわい)だ。251彼奴(あいつ)の老爺(おやぢ)も近々(ちかぢか)に死(し)んで了(しま)ふから、252さうすりや門番(もんばん)の端(はし)にでも使(つか)つてやるのだな。253エツヘヘヘヘヘヘ』
254 斯(か)く何時(いつ)の間(ま)にか話(はなし)に身(み)が入(い)つて大声(おほごゑ)で囀(さへづ)つて居(ゐ)る。255最前(さいぜん)からワックスは壁(かべ)に耳(みみ)をあてて体(からだ)を隠(かく)し、256三(さん)人(にん)の話(はなし)を聞(き)いて居(ゐ)たが業(ごふ)が湧(わ)いて堪(たま)らぬので、257ソツと大便所(だいべんじよ)に入(い)り長柄杓(ながびしやく)に汚(きたな)いものを持(も)つて来(き)て、258自分(じぶん)の顔(かほ)を隠(かく)し乍(なが)ら三(さん)人(にん)の前(まへ)に現(あら)はれ、259バツと顔(かほ)にふりかけ、260逃(に)げ出(だ)す途端(とたん)に畳(たたみ)の破(やぶ)れに足(あし)を引(ひ)つかけ、261スツテンドウと倒(たふ)れて了(しま)つた。262倒(たふ)れた拍子(ひやうし)に間(ま)と間(ま)を隔(へだ)てた閾(しきゐ)に高(たか)い鼻(はな)を打(う)ち、263ウンと息(いき)をつめ、264ビクともせず苦(くる)しんで居(ゐ)る。
265 三(さん)人(にん)は不意(ふい)に臭(くさ)い物(もの)を顔(かほ)一面(いちめん)にかけられ、266顔(かほ)をハンカチーフにて抑(おさ)へ乍(なが)ら、267炊事場(すゐじば)の方(はう)へ洗(あら)ひに行(ゆ)かうと走(はし)つた途端(とたん)に、268ワックスの体(からだ)に躓(つまづ)きバタリと倒(たふ)れた。269次(つぎ)から次(つぎ)から四(よ)人(にん)が糞(くそ)まぶれになつて引(ひ)つくり覆(かへ)り、270ウンウン唸(うめ)いて居(ゐ)る。271此(この)物音(ものおと)に小国姫(をくにひめ)は此(この)場(ば)に走(はし)り来(きた)り見(み)れば、272何(なん)とも云(い)へぬ臭(くさ)い香(にほひ)がプンプンと鼻(はな)をつく。273姫(ひめ)は鼻(はな)を抓(つま)み乍(なが)ら近寄(ちかよ)り見(み)れば、274糞(くそ)まぶれの長柄杓(ながびしやく)が一本(いつぽん)と、275四(よ)人(にん)の男(をとこ)が糞(くそ)まぶれになつて、276其処(そこ)へ倒(たふ)れ居(ゐ)たり。
277小国姫(をくにひめ)『糞度胸(くそどきよう)据(す)ゑた男(をとこ)が糞(くそ)まぶれ
278足(あし)躓(つまづ)いて苦楚(くそ)を嘗(な)めけり。
279婆(ばば)の身(み)も糞(くそ)にまぶれた糞奴(くそやつこ)
280臭(くさ)い奴(やつ)には呆(あき)れ果(は)てたり。
281物臭(ものくさ)い企(たく)み致(いた)した天罰(てんばつ)で
282男(をとこ)が癪(しやく)で倒(たふ)れしならむ。
283オークスの心(こころ)汚(きたな)き門番(もんばん)が
284今日(けふ)は大糞(おほくそ)被(かぶ)りけるかな。
285睾丸(きんたま)を牛(うし)に踏(ふ)まれて又(また)ここで
286糞(くそ)被(かぶ)せられ吠(ほ)エル馬鹿者(ばかもの)。
287ワックスか又(また)は糞(くそ)かは知(し)らねども
288どちらにしても臭(くさ)い奴(やつ)かな』
289ワックス『糞奴(くそやつこ)三(さん)人(にん)揃(そろ)ふ其(その)中(なか)へ
290糞(くそ)まぶしたり糞婆(くそばば)の家(いへ)で』
291小国姫(をくにひめ)『ワックスよ、吾(われ)に向(むか)つて糞婆(くそばば)と
292云(い)つた言葉(ことば)を忘(わす)れずに居(ゐ)よ。
293いろいろと臭(くさ)い思案(しあん)を廻(めぐ)らして
294糞(くそ)を嘗(な)めたる今(いま)の天罰(てんばつ)』
295オークス『テルモンの館(やかた)の家令(かれい)となる身(み)には
296糞(くそ)の苦労(くらう)も何(なん)のものかは』
297小国姫(をくにひめ)『いろいろと臭(くさ)い奴(やつ)めが寄(よ)り合(あ)うて
298これの館(やかた)に糞(くそ)まき散(ち)らす。
299これよりはハルナの都(みやこ)の神柱(かむばしら)
300大黒主(おほくろぬし)に申上(まをしあ)げなむ。
301何事(なにごと)も皆(みな)三千彦(みちひこ)の神司(かむづかさ)
302諭(さと)し玉(たま)ひぬ汝(なれ)等(ら)が企(たく)みを。
303人(ひと)の家(いへ)の悩(なや)みにつけ込(こ)み糞思案(くそじあん)
304廻(めぐ)らし吾(わが)身(み)を捨(す)つる馬鹿者(ばかもの)』
305オークス『三千彦(みちひこ)は三五教(あななひけう)の魔法使(まはふつかひ)
306詳(つぶ)さに告(つ)げむ大黒主(おほくろぬし)へ。
307大黒主(おほくろぬし)此(この)有様(ありさま)を聞(き)きまさば
308小国姫(をくにのひめ)の身(み)の終(をは)りぞや』
309 かかる処(ところ)へエキス、310ヘルマンの両人(りやうにん)は慌(あわただ)しく走(はし)り来(きた)り、311プンプン嗅(にほ)ふ臭気(しうき)に鼻(はな)を抓(つま)み乍(なが)ら、
312エキス『モシ奥様(おくさま)、313ワックス其(その)他(た)の連中(れんぢう)ぢや厶(ござ)いませぬか。314貴女(あなた)は四(よ)人(にん)の者(もの)に陰謀(いんぼう)露顕(ろけん)を恐(おそ)れて糞(くそ)を浴(あ)びせ打(う)ち倒(たふ)し、315命(いのち)をとらうとなさつたのですか、316こりや怪(け)しからぬ。317モウ斯(か)うなつては御(ご)主人(しゆじん)様(さま)だとて容赦(ようしや)は致(いた)しませぬぞ。318さあワックスさま確(しつか)りなさいませ。319之(これ)からハルナの都(みやこ)へ早馬使(はやうまづかひ)を立(た)て貴方(あなた)等(がた)の敵(かたき)を討(う)つて上(あ)げませう』
320と云(い)ひ乍(なが)ら尻(しり)ひつからげ、321エキス、322ヘルマン両人(りやうにん)は表門(おもてもん)さして雲(くも)を霞(かすみ)と駆(か)け出(だ)したり。323四(よ)人(にん)はヤツと起(お)き上(あが)り、324互(たがひ)に体(からだ)の洗濯(せんたく)を終(をは)り、325一間(ひとま)に入(い)つて今(いま)迄(まで)の喧嘩(けんくわ)は暫(しばら)く横(よこ)に置(お)き、326再(ふたた)び野心(やしん)を充(みた)すべく秘密(ひみつ)相談会(さうだんくわい)を開(ひら)く事(こと)となつた。327小国姫(をくにひめ)は夫(をつと)の病気(びやうき)を気遣(きづか)ひ匆々(さうさう)に此(この)場(ば)を立(た)つて奥(おく)の間(ま)に身(み)を隠(かく)しけり。
328(大正一二・三・二四 旧二・八 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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