霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 鳥逃(とりにが)し〔一四六一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻 篇:第2篇 顕幽両通 よみ(新仮名遣い):けんゆうりょうつう
章:第11章 鳥逃し よみ(新仮名遣い):とりにがし 通し章番号:1461
口述日:1923(大正12)年03月25日(旧02月9日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月24日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高姫は夜叉のように曲冬をおっかけて四つ辻までやってきたが、曲冬は大股に駆けて行ってしまい、高姫も追いつくことはできなかった。高姫はそろそろ、信者候補を逃がしたことをシャルに八つ当たり始めた。高姫とシャルは言い争いになるが、また一人四つ辻にやってくる者がある。高姫は、今度は自分が引っ張り込んでみせると言ってシャルを下がらせた。
向こうからとぼとぼやってくるのは三千彦であった。三千彦は、高姫が東助との昔の縁への執着から道を踏み外し、妖幻坊に魅せられて脱線活動を始めた有様を歌っていたが、遠くであったので、高姫は気が付かなかった。
高姫は三千彦に声をかけた。三千彦は、フサの国のテルモン山館を助けに行く用事があると答えた。三千彦の方が高姫に気が付いて、声をかけた。すると草の中からシャルが顔をだし、三千彦に連れて行ってほしいと頼み込んだ。
シャルは高姫の悪口を言ったので、高姫は胸ぐらをつかんで締め上げようとした。三千彦はみかねて、高姫の頭髪をつかんでその場に引き倒した。シャルは道案内を申し出て、二人はスタスタと行ってしまう。高姫は歯ぎしりしながら恨めし気に見送っていた。
シャルの目には今まで、寒風ふきすさぶ枯れ野が原と見えていたのに、三千彦に遇ってからはそこら一面が春野のようになり、鳥歌い花匂う光景が目に入るようになった。シャルは嬉々として三千彦の後になり先になり、北へ北へと進んで行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-11-05 15:29:15 文字数:4503 OBC :rm5711
愛善世界社版:144頁 八幡書店版:第10輯 312頁 修補版: 校定版:151頁 普及版:69頁 初版: ページ備考:
001 白髪(しらが)交(まじ)りの藁箒(わらばうき)のやうな髪(かみ)をサンバラに凩(こがらし)に靡(なび)かせ乍(なが)ら夜叉(やしや)のやうにペタペタと大地(だいち)を鳴(な)らせつつ四辻(よつつじ)までやつて来(き)た。002見(み)れば、003最前(さいぜん)きた天香教(てんかうけう)の曲冬(まがふゆ)は尻引(しりひつ)からげトントンと大股(おほまた)に夜這星(よばひぼし)のやうに黒(くろ)い褌(ふんどし)を引(ひ)きずり乍(なが)ら走(はし)つて居(ゐ)る。004何程(なにほど)高姫(たかひめ)が呼(よ)んでも叫(さけ)んでも振(ふ)り向(む)かばこそ、005駆(か)け出(だ)す其(その)勢(いきほひ)に高姫(たかひめ)も追(おひ)つく事(こと)を得(え)ず四辻(よつつじ)に歯噛(はが)みをなし地団駄(ぢだんだ)を踏(ふ)んで、
006高姫(たかひめ)『エイ残念(ざんねん)やなア、007これシャルお前(まへ)が鈍馬(とんま)だから折角(せつかく)出(で)てきた鳥(とり)を逃(に)がして仕舞(しま)つたのだ。008なぜ知(し)らぬ間(ま)に綱(つな)でも掛(か)けて置(お)かなんだのかい。009「神(かみ)が綱(つな)さへかけて置(お)けば何(なに)程(ほど)ヂリヂリ悶(もだ)へをしても離(はな)さんぞよ」とお筆(ふで)に出(で)て居(ゐ)るぢやないか』
010シャル『私(わたし)は人間(にんげん)、011貴女(あなた)は神(かみ)様(さま)でせう。012人間(にんげん)が綱(つな)かけたつて何(なん)になりませう。013私(わたし)に不足(ふそく)を云(い)ふより、014なぜ日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)が綱(つな)かけなかつたのですか。015その不足(ふそく)は聞(き)きませぬ』
016高姫(たかひめ)『エ、017よう小理窟(こりくつ)を云(い)ふ男(をとこ)だなア。018なぜ絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)をせないのだ。019一体(いつたい)妾(わし)を誰人(どなた)と心得(こころえ)て居(ゐ)るのだい』
020シャル『ハイ、021誰人(どなた)さまかと思(おも)へば矢張(やつぱり)此方(こなた)さまで厶(ござ)いました。022此方(こなた)さまかと思(おも)へば矢張(やつぱり)高姫(たかひめ)さま、023高姫(たかひめ)さまかと思(おも)へば義理(ぎり)天上(てんじやう)日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)、024さうかと思(おも)へば底津(そこつ)岩根(いはね)の大弥勒(おほみろく)さま、025大弥勒(おほみろく)様(さま)かと思(おも)へば第一(だいいち)霊国(れいごく)の天人(てんにん)様(さま)、026天人(てんにん)様(さま)かと思(おも)へば現界(げんかい)、027幽界(いうかい)、028神界(しんかい)の救主(すくひぬし)さま、029救主(すくひぬし)さまかと思(おも)へば杢助(もくすけ)さまの奥様(おくさま)、030杢助(もくすけ)さまの奥様(おくさま)かと思(おも)へば常世姫(とこよひめ)の御(お)霊(みたま)様(さま)、031常世姫(とこよひめ)のお霊(みたま)様(さま)かと思(おも)へば高宮姫(たかみやひめ)様(さま)、032高宮姫(たかみやひめ)様(さま)かと思(おも)へば定子姫(さだこひめ)様(さま)、033誰人(どなた)が誰人(どなた)やら、034薩張(さつぱり)見当(けんたう)がつきませぬワイ。035矢張(やつぱり)此方(こなた)さまにして置(お)きませうかい』
036高姫(たかひめ)『エ、037仕様(しやう)もない、038何(なん)と云(い)ふ事(こと)を云(い)ふのだい。039沢山(たくさん)の名(な)を並(なら)べて、040一(ひと)つ云(い)つたらよいぢやないか。041繁文(はんぶん)褥礼(じよくれい)は流行(はや)りませぬぞや。042そんな複雑(ふくざつ)な名(な)を云(い)はいでも、043もちつと単純(たんじゆん)に生宮(いきみや)さまとなぜ云(い)はんのかい。044法性寺(ほつしやうじ)の入道(にふだう)が運上取(うんじやうと)りに来(く)るぢやないか』
045シャル『それでもシンプルな名称(めいしよう)では、046お前様(まへさま)のお気(き)に入(い)りますまい。047些(ちつ)とでも長(なが)く云(い)ふ程(ほど)、048貴女(あなた)の御(ご)機嫌(きげん)がよいのですからなア。049足曳(あしびき)の山鳥(やまどり)の尾(を)のしだり尾(を)の長々(ながなが)しう云(い)ふのが、050どこともなしに価値(ねうち)があるやうですよ。051第一(だいいち)雅味(がみ)がありますからなア』
052高姫(たかひめ)『エエ、053シンプルだの、054複雑(ふくざつ)だの雅味(がみ)だのと何(なに)をガミガミ云(い)ふのだい。055そんな毛唐(けたう)のやうな言葉(ことば)は地(ち)の高天原(たかあまはら)では用(もち)ひませぬぞや』
056シャル『それでも貴女(あなた)時々(ときどき)英語(えいご)を使(つか)ふぢやありませぬか』
057高姫(たかひめ)『あれや英語(えいご)ぢやない神世(かみよ)の生粋(きつすゐ)のお言葉(ことば)ぢや、058此(この)忙(いそが)しいのにさう長(なが)く名(な)を云(い)はれると余(あま)り気分(きぶん)のよいものぢやない。059お前(まへ)も一(ひと)つ云(い)うて上(あ)げようか、060さうしたら味(あぢ)が分(わか)るだらう。061何処(どこ)の奴(やつ)かと思(おも)へば此処(ここ)の奴(やつ)だ。062バラモン教(けう)の旗持(はたもち)人足(にんそく)かと思(おも)へば小盗人(こぬすと)だ。063小盗人(こぬすと)かと思(おも)へば川陥(かははまり)だ。064川陥(かははまり)かと思(おも)へば、065死損(しにぞこな)ひの八衢(やちまた)人足(にんそく)だ。066八衢(やちまた)人足(にんそく)かと思(おも)へば、067地獄(ぢごく)に籍(せき)をおいた亡者(まうじや)の魂(みたま)だ。068亡者(まうじや)の魂(みたま)かと思(おも)へば極道(ごくだう)息子(むすこ)だ。069極道(ごくだう)息子(むすこ)かと思(おも)へば腰抜(こしぬ)けだ。070間抜(まぬ)けに歯抜(はぬ)け、071魂抜(たまぬ)け野郎(やらう)だ。072魂抜(たまぬ)け野郎(やらう)かと思(おも)へば高姫(たかひめ)の尻拭(しりふ)きだ。073尻拭(しりふ)きかと思(おも)へば矢張(やつぱり)シャルだ。074オツホホホホ』
075シャル『どうも甚(ひど)いですな、076それ丈(だけ)よう悪口(あくこう)が陳列(ちんれつ)出来(でき)たものですワイ。077矢張(やつぱり)お前(まへ)さまは義理(ぎり)天上(てんじやう)は嘘(うそ)だ、078金毛(きんまう)九尾(きうび)の容器(いれもの)でせう』
079高姫(たかひめ)『定(きま)つた事(こと)だよ。080金毛(きんまう)九尾(きうび)と云(い)ふ守護神(しゆごじん)は初(はじ)めは悪(あく)だつたけれど、081今度(こんど)、082高姫(たかひめ)の悪(あく)が善(ぜん)に改心(かいしん)して、083善(ぜん)に立(た)ち帰(かへ)つたのだから、084三千(さんぜん)世界(せかい)の事(こと)は何(なん)でも彼(か)でも皆(みな)知(し)つて居(を)るのだ』
085シャル『成程(なるほど)、086どこともなしに九尾(きゆび)九尾(きゆび)して居(ゐ)ますワイ。087併(しか)し貴女(あなた)は女(をんな)だからよもやキン毛(まう)は厶(ござ)いますまい』
088高姫(たかひめ)『コレお前(まへ)は此処(ここ)にすつこんで居(ゐ)なさい、089彼方(あつち)から何(なん)だか出(で)て来(く)るやうだ。090妾(わし)が一(ひと)つ説教(せつけう)を、091捉(つか)まへてするから、092お前(まへ)は決(けつ)して口出(くちだ)しをしてはならぬぞや。093此(この)枯草(かれくさ)の中(なか)に身(み)を隠(かく)して聞(き)いて居(ゐ)なさい。094少(すこ)し勉強(べんきやう)せねば今日(けふ)のやうに折角(せつかく)出(で)て来(き)た鳥(とり)を逃(に)がしては何(なん)にもならぬからなア。095サア早(はや)く引込(ひつこ)んだり引込(ひつこ)んだり』
096シャル『それでは暫(しばら)く螽斯(きりぎりす)ぢやないが草(くさ)の中(なか)に引込(ひつこ)みます。097長話(ながばなし)はおいて下(くだ)さい、098足(あし)が痺(しび)れますからなア』
099と云(い)ひ乍(なが)ら、100ガサガサと萱草(かやくさ)の中(なか)に潜(もぐ)り込(こ)んだ。101幽(かす)かな声(こゑ)で宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ乍(なが)ら一人(ひとり)の男(をとこ)がやつて来(く)る。
102三千彦(みちひこ)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
103善神(ぜんしん)邪神(じやしん)を立(た)て別(わ)ける
104此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
105心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
106唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
107直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞(き)き直(なほ)す
108三五教(あななひけう)の神館(かむやかた)
109総務(そうむ)の司(つかさ)と仕(つか)へたる
110東野別(あづまのわけ)を慕(した)ひつつ
111自転倒(おのころ)島(じま)を立(た)ち出(い)でて
112恋(こひ)に狂(くる)うた高姫(たかひめ)が
113恥(はぢ)も人情(にんじやう)も知(し)らばこそ
114眼(まなこ)は暗(くら)み耳(みみ)は聾(し)え
115恋(こひ)の悪魔(あくま)に囚(とら)はれて
116所(ところ)もあらうに聖場(せいぢやう)で
117あらむ限(かぎ)りの醜態(しうたい)を
118暴露(ばくろ)せしこそ果敢(はか)なけれ
119心(こころ)乱(みだ)れし高姫(たかひめ)は
120金毛(きんまう)九尾(きうび)に誑(たばか)られ
121泣(な)く泣(な)く館(やかた)を立(た)ち出(い)でて
122河鹿(かじか)峠(たうげ)の急坂(きふはん)を
123風(かぜ)に裾(すそ)をば煽(あふ)られつ
124太股(ふともも)迄(まで)も放(ほ)り出(だ)して
125スタスタ下(くだ)るスタイルは
126地獄(ぢごく)の町(まち)を通(かよ)ひ居(ゐ)る
127夜叉(やしや)の如(ごと)くに見(み)えにける
128祠(ほこら)の森(もり)に立(た)ち寄(よ)りて
129妖幻坊(えうげんばう)の曲者(まがもの)に
130霊(たま)をぬかれて愚(ぐ)にかへり
131所在(あらゆる)醜態(しうたい)演出(えんしゆつ)し
132妖幻坊(えうげんばう)の杢助(もくすけ)と
133手(て)に手(て)をとつて小北山(こぎたやま)
134聖場(せいぢやう)に横柄面(わうへいづら)さげて
135詣(まう)でたところ月(つき)の宮(みや)
136扉(とびら)の中(なか)より迸(ほとばし)る
137その霊光(れいくわう)に肝(きも)つぶし
138命(いのち)辛々(からがら)逃(に)げて行(ゆ)く
139浮木(うきき)の森(もり)に立(た)ち寄(よ)りて
140狐(きつね)狸(たぬき)に誑(たばか)られ
141初稚姫(はつわかひめ)やスマートの
142生言霊(いくことたま)に怖(お)ぢ恐(おそ)れ
143妖幻坊(えうげんばう)と諸共(もろとも)に
144心(こころ)も暗(くら)き黒雲(くろくも)に
145乗(の)りて逃(に)げ出(だ)すその途端(とたん)
146如何(いかが)はしけむ中空(ちうくう)より
147真逆(まつさか)様(さま)に顛落(てんらく)し
148行方(ゆくへ)不明(ふめい)となりにけり
149嘸(さぞ)今頃(いまごろ)は高姫(たかひめ)は
150此(この)世(よ)にありて尽(つく)したる
151驕傲(けうがう)尊大(そんだい)脱線(だつせん)の
152道(みち)を辿(たど)りて中有界(ちううかい)
153どこかの野辺(のべ)に潜伏(せんぷく)し
154道(みち)行(ゆ)く精霊(せいれい)に相対(あひたい)し
155支離(しり)滅裂(めつれつ)の教理(けうり)をば
156吹(ふ)き立(た)て居(ゐ)るに違(ちが)ひない
157吾(われ)は三千彦(みちひこ)宣伝使(せんでんし)
158玉国別(たまくにわけ)の師(し)の君(きみ)と
159別(わか)れて一人(ひとり)テルモンの
160神(かみ)の館(やかた)に立(た)ち向(むか)ひ
161悪人輩(あくにんばら)の企(たく)みをば
162暴露(ばくろ)し館(やかた)の難儀(なんぎ)をば
163助(たす)けむために来(きた)りけり
164此処(ここ)はいづくぞフサの国(くに)
165アンブラック川(がは)の片傍(かたほとり)
166草(くさ)茫々(ばうばう)と生(は)え茂(しげ)る
167青野(あをの)ケ原(はら)と覚(おぼ)えたり
168小鳥(ことり)は唄(うた)ひ花(はな)匂(にほ)ひ
169天国(てんごく)浄土(じやうど)も目(ま)の当(あた)り
170実(げ)にも愉快(ゆくわい)の心地(ここち)する
171ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
172神(かみ)の御霊(みたま)の幸(さち)はひて
173テルモン山(ざん)の神館(かむやかた)
174一(いち)時(じ)も早(はや)く帰(かへ)しませ
175神(かみ)のみ前(まへ)に願(ね)ぎまつる』
176と歌(うた)ひ乍(なが)らやつて来(く)る。177高姫(たかひめ)は余(あま)り遠(とほ)くて自分(じぶん)の事(こと)を歌(うた)つて居(を)るのは気(き)がつかなかつたが、178小鳥(ことり)は唄(うた)ひ花(はな)匂(にほ)ひ、179青野(あをの)ケ原(はら)で云々(うんぬん)と云(い)ふ一句(いつく)を聞(き)いて、
180高姫(たかひめ)『これだけ霜(しも)に痛(いた)んだ枯野(かれの)ケ原(はら)を、181鳥(とり)が唄(うた)ふの花(はな)が咲(さ)くのと云(い)ふのは狂人(きちがひ)ではあるまいかな、182うつかり相手(あひて)になつて先方(せんぱう)が狂人(きちがひ)だつたら仕末(しまつ)がつかない。183茲(ここ)は一(ひと)つ柔(やんわ)り出(で)て様子(やうす)を考(かんが)へて見(み)よう』
184と四辻(よつつじ)に立(た)つて居(ゐ)る。185三千彦(みちひこ)は漸(やうや)く此処(ここ)に進(すす)み来(きた)り高姫(たかひめ)を見(み)て、186よう似(に)た顔(かほ)だとは思(おも)ひ乍(なが)ら、187自分(じぶん)も八衢(やちまた)に来(き)て居(ゐ)るとは気(き)がつかず、
188三千彦(みちひこ)『モシ一寸(ちよつと)お尋(たづ)ね致(いた)しますが、189波斯(フサ)の国(くに)のテルモン山(ざん)は、190何方(どちら)の方面(はうめん)に当(あた)りますかな』
191高姫(たかひめ)『ヘイ、192あのテルモン山(ざん)で厶(ござ)いますか、193此処(ここ)は浮木(うきき)の森(もり)で厶(ござ)いますが、194まだ随分(ずいぶん)遠(とほ)いと云(い)ふ事(こと)で厶(ござ)います。195そして貴方(あなた)、196テルモン山(ざん)へ何(なに)御用(ごよう)があつてお出(いで)になりますか』
197三千彦(みちひこ)『ハイ、198私(わたし)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)で厶(ござ)いますが、199テルモン山(ざん)の館(やかた)には大騒動(おほさうどう)が起(おこ)つて居(を)りますので、200お助(たす)け申(まをし)度(た)いと思(おも)つて心(こころ)を配(くば)つて居(ゐ)ます。201併(しか)し乍(なが)ら、202どう道(みち)を踏(ふ)み迷(まよ)うたか知(し)らないが、203こんな所(ところ)へ来(き)たのですよ』
204高姫(たかひめ)『貴方(あなた)は三五教(あななひけう)で厶(ござ)いますか、205それはそれは結構(けつこう)で厶(ござ)いますな。206併(しか)しテルモン山(ざん)にはバラモン教(けう)の神(かみ)様(さま)が祭(まつ)つてあるでは厶(ござ)いませぬか』
207三千彦(みちひこ)『ハイ、208さうです』
209高姫(たかひめ)『テルモン山(ざん)、210……テルモン山(ざん)はバラモン教(けう)の、211それバラモン教(けう)の神館(かむやかた)でせう。212そして小国別(をくにわけ)と云(い)ふ、213酢(す)でも蒟蒻(こんにやく)でもいかぬ、214梃(てこ)でも棒(ぼう)でも槍(やり)でも鉄砲(てつぽう)でもいかぬと云(い)ふ、215誠(まこと)に早(はや)狂暴(きやうばう)無頼(ぶらい)な、216狂暴(きやうばう)無頼(ぶらい)な、217神司(かむつかさ)が控(ひか)へて居(ゐ)るぢやありませぬか。218そんな者(もの)をお前(まへ)、219そんな者(もの)をお前(まへ)はどうしてお前(まへ)は助(たす)けに又(また)、220どうして助(たす)けに行(ゆ)くのですかい』[※この高姫のセリフの中に「バラモン教の、それバラモン教の」とか「誠に早狂暴無頼な、狂暴無頼な」「そんな者をお前、そんな者をお前は」など、文言がダブっている箇所があるが、戦前の版や、戦後の校定版や愛世版でもみなそのようになっている。王仁三郎の意図的なものか、校正ミスなのかは不明。]
221三千彦(みちひこ)『ハイ、222つひ行(ゆき)がかりで後(あと)へ引(ひ)くにも引(ひ)かれぬ事(こと)が出来(でき)たのです。223貴女(あなた)は失礼(しつれい)ですが、224高姫(たかひめ)さまぢや厶(ござ)いませぬか。225お帰幽(くにがへ)になつたと云(い)ふ事(こと)を聞(き)いて居(ゐ)ましたが、226矢張(やつぱり)御(ご)壮健(さうけん)でウラナイ教(けう)をお開(ひら)きで厶(ござ)いますか』
227高姫(たかひめ)『ハイ、228そんな噂(うはさ)が厶(ござ)いますかな、229高姫(たかひめ)はこんなに丈夫(ぢやうぶ)でビチビチして居(ゐ)ますから御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さい。230これから義理(ぎり)天上(てんじやう)日(ひ)の出神(でのかみ)が説教(せつけう)を致(いた)しますから、231一寸(ちよつと)立寄(たちよ)つて下(くだ)さいますまいか』
232 草(くさ)の中(なか)からシャルは顔(かほ)を出(だ)し、
233シャル『駄目(だめ)だ駄目(だめ)だ』
234と云(い)つては顔(かほ)を隠(かく)す。
235三千彦(みちひこ)『モシ高姫(たかひめ)さま、236貴方(あなた)の後(うしろ)からデクの坊(ばう)のやうな者(もの)が変現(へんげん)出没(しゆつぼつ)して居(ゐ)ますが、237あれは何(なん)ですか』
238 草(くさ)の中(なか)から、
239シャル『三千彦(みちひこ)さま私(わたし)も連(つ)れて行(い)つて下(くだ)さい』
240と云(い)ふ。
241三千彦(みちひこ)『ハテナ、242何(なん)だか妙(めう)なものが草(くさ)の中(なか)から私(わたし)の名(な)を呼(よ)んで居(ゐ)るやうです』
243高姫(たかひめ)『イエ、244あれは九官鳥(きうくわんてう)ですよ。245此(こ)の原野(げんや)には鸚鵡(あうむ)や九官鳥(きうくわんてう)が棲(す)んで居(ゐ)ますからチヨコチヨコああ云(い)ふ事(こと)を云(い)ふのです』
246三千彦(みちひこ)『ヘエ妙(めう)ですなア。247此(この)九官鳥(きうくわんてう)は人間(にんげん)の姿(すがた)をして居(を)るぢやありませぬか』
248高姫(たかひめ)『そりやさうでせうとも、249化物(ばけもの)の世(よ)の中(なか)ですもの。250岩根(いはね)木根(きね)立草(たちくさ)の片葉(かきは)迄(まで)も言問(ことと)ふ世(よ)の中(なか)ですから、251些(ちつ)とは変化(へぐれ)て出(で)るのでせう。252それだから日(ひ)の出神(でのかみ)が水晶(すいしやう)の世(よ)に立直(たてなほ)さうと思(おも)うて、253高姫(たかひめ)の肉宮(にくみや)を借(か)り、254御(ご)苦労(くらう)遊(あそ)ばすのです』
255三千彦(みちひこ)『成程(なるほど)妙(めう)な事(こと)もあるものです』
256 草(くさ)の中(なか)から、
257シャル『変化(へぐれ)の変化(へぐれ)の変化(へぐれ)武者(むしや)、258変化(へぐれ)神社(じんしや)の高姫(たかひめ)さま、259変化(へぐれ)の変化(へぐれ)の変化(へぐれ)武者(むしや)、260変化(へぐれ)神社(じんしや)のシャルさま、261ウツポツポー、262ホーツク、263ホーツクホーホー、264ホホホホー、265ホーホケキヨ ホーホケキヨ、266ケキヨ ケキヨ、267ニヤーン、268モウー、269ヒンヒンヒン、270ワンワンワン、271ウーウーウー、272キヤツ キヤツ キヤツ、273チウチウチウ、274キユツ キユツ キユツ、275ウツポツポ、276アハハハハハ』
277三千彦(みちひこ)『何(なん)とマア変化(へぐ)れるものですなア、278こんな所(ところ)に居(を)ると何(なに)が出(で)て来(く)るか知(し)れませぬ。279左様(さやう)なら御免(ごめん)を蒙(かうむ)ります』
280とスタスタ立(た)つて行(ゆ)かうとする。281高姫(たかひめ)は大手(おほで)を拡(ひろ)げて、
282高姫(たかひめ)『待(ま)つた待(ま)つた、283此(この)関所(せきしよ)は容易(ようい)に潜(くぐ)る事(こと)は出来(でき)ませぬぞや、284潜(くぐ)り度(た)くば高姫(たかひめ)の云(い)ふ事(こと)を一応(いちおう)腹(はら)へ確(しつか)りと締(し)めこんで行(ゆ)きなさい、285後(あと)で後悔(こうくわい)する事(こと)が出来(でき)ますぞや』
286三千彦(みちひこ)『ヤ有難(ありがた)う。287併(しか)し私(わたし)は少(すこ)し急(いそ)ぎますから今度(こんど)又(また)悠(ゆつ)くり聞(き)かして頂(いただ)きませう』
288シャル『モシモシ宣伝使(せんでんし)様(さま)、289こんな婆(ばば)に相手(あひて)にならず、290トツトと行(ゆ)きなさいませ。291さうして私(わたし)も何卒(どうぞ)連(つ)れて行(い)つて下(くだ)さい。292我(が)の強(つよ)い仕方(しかた)のない婆(ば)さまですよ』
293三千彦(みちひこ)『アアお前(まへ)が九官鳥(きうくわんてう)だつたか、294そんな所(ところ)に何(なに)をして居(ゐ)るのだ』
295シャル『ハイ、296鷹(たか)の命令(めいれい)によつて九官鳥(きうくわんてう)此処(ここ)に新聞(しんぶん)のきうかん(休刊)して居(ゐ)ました』
297高姫(たかひめ)『こりやシャル、298何(なん)と云(い)ふ事(こと)を申(まを)すか。299もう了見(れうけん)せぬぞや』
300とグツと胸倉(むなぐら)を取(と)り、301喉元(のどもと)をグウグウ押(おさ)へつける。302シャルは目(め)を白黒(しろくろ)させながら苦(くる)しさに手足(てあし)をバタバタと藻掻(もが)いて居(を)る。303三千彦(みちひこ)は見(み)るに見兼(みか)ね、304高姫(たかひめ)の頭髪(とうはつ)をグツと握(にぎ)つて引(ひ)き倒(たふ)した。305同時(どうじ)にシャルは起(お)き上(あが)り、
306シャル『モシ宣伝使(せんでんし)様(さま)、307サ早(はや)く参(まゐ)りませう。308私(わたし)が何処(どこ)へでも案内(あんない)致(いた)します。309こんな婆(ばば)に相手(あひて)になつて居(ゐ)ては耐(たま)りませぬからなア』
310と云(い)ひ乍(なが)ら、311スタスタと駆(か)け出(だ)す。312三千彦(みちひこ)は、
313三千彦『高姫(たかひめ)様(さま)左様(さやう)なら、314悠(ゆつ)くり草(くさ)の褥(しとね)で一休(ひとやす)みなさいませ』
315と青草(あをくさ)茂(しげ)る田圃道(たんぼみち)をスタスタと進(すす)み行(ゆ)く。316高姫(たかひめ)は歯(は)ぎしりし乍(なが)ら恨(うら)めし気(げ)に二人(ふたり)の姿(すがた)を見送(みおく)つて居(ゐ)た。
317 シャルの目(め)には今(いま)迄(まで)寒風(かんぷう)吹(ふ)き荒(すさ)む枯野(かれの)ケ原(はら)と見(み)えて居(ゐ)たのに、318三千彦(みちひこ)に遇(あ)うてから其処(そこ)等(ら)一面(いちめん)が春野(はるの)のやうになり、319鳥(とり)唄(うた)ひ、320花(はな)匂(にほ)ふ光景(くわうけい)が目(め)に入(い)るやうになつた。321シャルは嬉々(きき)として三千彦(みちひこ)の後(あと)になり先(さき)になり、322北(きた)へ北(きた)へと進(すす)み行(ゆ)く。
323(大正一二・三・二五 旧二・九 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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