霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 犬労(けんらう)〔一四六六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻 篇:第2篇 顕幽両通 よみ(新仮名遣い):けんゆうりょうつう
章:第16章 犬労 よみ(新仮名遣い):けんろう 通し章番号:1466
口述日:1923(大正12)年03月25日(旧02月9日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月24日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
デビス姫はワックスの話から、父がまだ存命で如意宝珠もひとまず戻ったこと、妹も生きていることを知ってやや安心していた。
三千彦とケリナ姫がやってきて問いかけた時には眠りについていた。デビス姫はスマートの吠え声で目を覚ました。
三千彦は強力にまかせて錠前をねじ切り、デビス姫を救い出した。二人とも足が立たなかったので、三千彦はまず二人を館に背負って送り届け、その後また戻って求道居士を助け出すことにした。
小国彦は昏睡状態であったが、三千彦が天の数歌を歌って祈願をこらした結果目を覚ました。小国別は娘たちとの再会をひとしきり喜んだあと、再び昏睡状態に陥った。
三千彦は求道居士を救い出すべくスマートとともに館を飛び出した。受付のエルはふと目をさまし、姉妹が帰ってきたこと、三千彦がテルモン山の岩窟に向かったことを知り、三千彦の後を追って飛び出した。
エルは先回りして、数十人の荒くれ男たちを指揮して三千彦を捕えようとしたが、スマートが飛び出して駆けまわり、足をくわえて将棋倒しに倒してしまった。男たちはいずれも草の中に四つ這いになってふるえている。
三千彦は求道居士とヘルが囚われている岩窟に近づいた。二人は数十人に棒きれで叩きつけられて血を流して倒れていた。三千彦は大声で呼ばわって群衆を止めた。群衆は棍棒、竹槍をもって三千彦に迫ってくる。三千彦は求道居士をかばいながら敵の刀を奪って守っている。
スマートがまたもや駆け回り、悪酔怪会員の男たちの足をくわえ、手にかみつき、一人残らず草の中に投げ倒した。
三千彦は求道居士とヘルに呼びかけると、二人とも返事があった。三千彦は二人を安堵させた。求道居士を背負い、ヘルはどうにか歩けたのでスマートに補助させて神館に帰って行った。
三五教の魔法使いがまた現れたというので、悪酔怪会員や宮町の老若男女は戦々恐々として、魔法使いと狂犬を撲殺すべく相談会をあちこちで開いていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-11-05 15:32:58 文字数:3998 OBC :rm5716
愛善世界社版:208頁 八幡書店版:第10輯 335頁 修補版: 校定版:217頁 普及版:100頁 初版: ページ備考:
001 三千彦(みちひこ)はテルモン山(ざん)の中腹(ちうふく)をケリナ姫(ひめ)を背(せ)に負(お)ひ、002スマートに道案内(みちあんない)をさせ乍(なが)ら草(くさ)茫々(ばうばう)たる歩(ある)き難(にく)き道(みち)を辿(たど)り辿(たど)つて、003デビス姫(ひめ)を押込(おしこ)めた岩窟(いはや)の前(まへ)に漸(やうや)く着(つ)いた。
004 デビス姫(ひめ)はワックスの話(はなし)によつて、005如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の帰(かへ)り来(きた)れる事(こと)及(およ)び父(ちち)の存命(ぞんめい)なる事(こと)、006並(なら)びに妹(いもうと)の安全(あんぜん)なる事(こと)を略(ほぼ)覚(さと)り、007胸(むね)を撫(な)で下(おろ)し、008稍(やや)心(こころ)も弛(ゆる)みグツタリと岩(いは)に凭(もた)れて眠(ねむり)に就(つ)いた。009漸(やうや)くにして三千彦(みちひこ)は岩窟(いはや)の入口(いりぐち)に着(つ)いた。
010三千彦(みちひこ)『もし、011デビス姫(ひめ)様(さま)、012私(わたし)は三五教(あななひけう)の神司(かむづかさ)三千彦(みちひこ)で厶(ござ)います』
013ケリナ姫(ひめ)『お姉様(あねさま)、014ケリナで厶(ござ)います』
015と二人(ふたり)が代(かは)る代(がは)る名(な)を呼(よ)べども少(すこ)しも答(こたへ)がない。016ケリナ姫(ひめ)は、017……姉(あね)は最早(もはや)何者(なにもの)にか攫(さら)はれ玉(たま)ひしか……と心(こころ)も心(こころ)ならず、
018ケリナ姫(ひめ)『三千彦(みちひこ)様(さま)、019どう致(いた)しませう。020姉上(あねうへ)様(さま)は何者(なにもの)にか攫(さら)はれ遊(あそ)ばしたと見(み)えまする。021これ程(ほど)呼(よ)んでもお答(こたへ)がないのは不思議(ふしぎ)では厶(ござ)いませぬか』
022三千彦(みちひこ)『決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。023鼾(いびき)の声(こゑ)が聞(きこ)えて居(ゐ)ます。024屹度(きつと)お眠(やす)みになつて居(ゐ)るのでせう』
025 スマートは四辺(あたり)の空気(くうき)を震動(しんどう)させ、026『ウワツ ウワツ』と叫(さけ)んだ。027此(この)声(こゑ)に驚(おどろ)いてデビス姫(ひめ)は夢(ゆめ)を破(やぶ)られ窓口(まどぐち)を見(み)て、028……何(なに)か人声(ひとごゑ)がする様(やう)だ……と戸口(とぐち)に躙寄(にじりよ)り、029隙間(すきま)より透(す)かし見(み)れば星月夜(ほしづくよ)の事(こと)とて明瞭(はつきり)姿(すがた)は分(わか)らねど、030どうやら妹(いもうと)のスタイルによく似(に)て居(を)るので、
031デビス姫(ひめ)『花(はな)の色(いろ)はうつりにけりな姫(ひめ)の姿(すがた)
032窶(やつ)れ玉(たま)ひしことの苦(くる)しさ。
033吾(わが)命(いのち)助(たす)け玉(たま)ひし犬彦(いぬひこ)の
034黒(くろ)き姿(すがた)の慕(した)はしきかな』
035 ケリナは此(この)声(こゑ)に打悦(うちよろこ)び、
036ケリナ姫(ひめ)『三千彦(みちひこ)の情(なさけ)の御手(みて)に助(たす)けられ
037汝(な)を救(すく)はむと尋(たづ)ね来(きた)りぬ』
038三千彦(みちひこ)『神館(かむやかた)珍(うづ)の御(おん)子(こ)とあれませる
039デビスの姫(ひめ)よ安(やす)く出(い)でませ。
040いざさらば此(こ)れの鉄門(かなど)を打破(うちやぶ)り
041救(すく)ひまつらむ神(かみ)のまにまに』
042デビス姫(ひめ)『嬉(うれ)しさは乙女(をとめ)の胸(むね)に三千彦(みちひこ)の
043神(かみ)の司(つかさ)を伏(ふ)し仰(あふ)ぐかな』
044 三千彦(みちひこ)は強力(がうりき)に任(まか)せて錠前(ぢやうまへ)を捻切(ねぢき)り、045窟内(くつない)に入(はい)つてデビス姫(ひめ)の手(て)を執(と)り、046引抱(ひつかか)へ救(すく)ひ出(だ)した。047ケリナは見(み)るよりデビスに抱(だ)きつき、
048ケリナ姫(ひめ)『姉上(あねうへ)様(さま)』
049と云(い)つたきり後(あと)は一言(ひとこと)も発(はつ)し得(え)ず、050悲(かな)しさと嬉(うれ)しさに咽返(むせかへ)つて居(ゐ)る。051デビス姫(ひめ)も同(おな)じ思(おも)ひの懐(なつか)しさに、052妹(いもうと)の体(からだ)を抱(だ)きしめ熱涙(ねつるゐ)を流(なが)し、053言葉(ことば)さへ得出(えだ)さず、054嬉(うれ)し泣(な)きに泣(な)きしやくつて居(ゐ)る。
055三千彦(みちひこ)『お二人(ふたり)様(さま)、056斯様(かやう)な処(ところ)に長居(ながゐ)は恐(おそ)れで厶(ござ)います。057一(いち)時(じ)も早(はや)く求道(きうだう)居士(こじ)やヘルを救(すく)ひ出(だ)さねばなりますまい。058サア参(まゐ)りませう』
059デビス姫(ひめ)『ハイ、060御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う厶(ござ)います。061どうも妾(わたし)は斯様(かやう)な処(ところ)に押込(おしこ)められて立(た)ちもならず、062坐(すわ)りもならず居(を)りましたので歩(ある)く事(こと)が出来(でき)ませぬ。063如何(どう)したら宜(よろ)しう厶(ござ)いませうかな』
064三千彦(みちひこ)『ア、065さうでせうとも、066お察(さつ)し申(まを)します。067失礼(しつれい)ながらお二人(ふたり)さま、068私(わたし)の背(せな)に負(おぶ)さつて下(くだ)さい。069どうなり、070かうなりお館(やかた)迄(まで)お届(とど)けしませう。071再(ふたた)び出直(でなほ)してスマートに案内(あんない)させて居士(こじ)を救(すく)ひ出(だ)しに参(まゐ)りませう』
072デビス姫(ひめ)『危急(ききふ)の場合(ばあひ)で厶(ござ)いますからお言葉(ことば)に甘(あま)へて、073さう願(ねが)ひませうかな。074本当(ほんたう)に済(す)まない事(こと)で厶(ござ)います』
075三千彦(みちひこ)『決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)は要(い)りませぬ。076サア』
077と云(い)ひ乍(なが)ら少(すこ)し蹲(しやが)んで背(せな)を突(つ)き出(だ)す。078二人(ふたり)は三千彦(みちひこ)の背(せな)に負(お)ぶさつた儘(まま)、079星月夜(ほしづくよ)の山坂(やまさか)をトボトボと下(くだ)つて神館(かむやかた)へ密(ひそ)かに帰(かへ)り行(ゆ)く。080スマートは後前(あとさき)を警護(けいご)し乍(なが)ら人影(ひとかげ)なき所(ところ)を案内(あんない)し、081夜明(よあ)け前(まへ)、082ヤツトの事(こと)で館(やかた)に着(つ)いた。
083 館(やかた)の玄関口(げんくわんぐち)にはエルが依然(いぜん)として高鼾(たかいびき)をかいて当直(たうちよく)を勤(つと)めて居(を)る。084受付(うけつけ)の寝(ね)て居(を)るのを幸(さいは)ひ勝手(かつて)覚(おぼ)えし家(いへ)の中(うち)、085小国別(をくにわけ)の病室(びやうしつ)をさして二人(ふたり)の娘(むすめ)を背負(せお)つた儘(まま)進(すす)み入(い)つた。086小国別(をくにわけ)は今(いま)や断末魔(だんまつま)の息(いき)を引(ひ)き取(と)らむとする所(ところ)であつた。087小国姫(をくにひめ)は最早(もは)や、088これ迄(まで)と夫(をつと)の側(そば)に附添(つきそ)ひ、089首(くび)頸垂(うなだ)れて憂(うれ)ひに沈(しづ)んでゐる。090それ故(ゆゑ)三千彦(みちひこ)の帰(かへ)つて来(き)たのに気(き)がつかなかつた。091三千彦(みちひこ)は言葉(ことば)静(しづ)かに、
092三千彦(みちひこ)『奥様(おくさま)、093お嬢(ぢやう)さまをお伴(とも)して帰(かへ)りました。094御(ご)安心(あんしん)なさいませ』
095と云(い)ふ声(こゑ)に小国姫(をくにひめ)はフと此方(こちら)を向(む)いた。096見(み)れば三千彦(みちひこ)が二人(ふたり)の娘(むすめ)を背(せな)に負(お)うて立(た)つて居(ゐ)る。097小国姫(をくにひめ)は夢(ゆめ)か、098現(うつつ)か、099幻(まぼろし)かと嬉(うれ)しさ余(あま)つてものをも得(え)云(い)はず、100口(くち)を開(あ)け、101目(め)を瞠(みは)つた儘(まま)、102石像(せきざう)の如(ごと)く突(つ)つ立(た)つて居(ゐ)る。103三千彦(みちひこ)は二人(ふたり)の娘(むすめ)を労(いたは)り、104ソツと居間(ゐま)に下(お)ろした。105二人(ふたり)の乙女(をとめ)は身体(しんたい)綿(わた)の如(ごと)く疲(つか)れ果(は)て一人(ひとり)で歩(あゆ)む事(こと)が出来(でき)なくなつてゐた。
106デビス姫(ひめ)『お父(とう)様(さま)、107お母(かあ)様(さま)、108漸(やうや)く此(この)方(かた)に助(たす)けられ帰(かへ)つて参(まゐ)りました。109誠(まこと)に御(ご)心配(しんぱい)かけて済(す)まぬ事(こと)で厶(ござ)いました』
110ケリナ姫(ひめ)『御(ご)両親(りやうしん)様(さま)、111つひ悪魔(あくま)に誘(さそ)はれて家出(いへで)を致(いた)し、112種々(いろいろ)と御(ご)心配(しんぱい)を掛(か)けましてお詫(わび)の申(まを)し様(やう)も厶(ござ)いませぬ。113何卒(どうぞ)御(お)許(ゆる)し下(くだ)さいませ』
114と涙(なみだ)と共(とも)に詫入(わびい)る。
115小国姫(をくにひめ)『ア、116夢(ゆめ)かと思(おも)つたら夢(ゆめ)ではなかつたかな。117三千彦(みちひこ)様(さま)、118有難(ありがた)う厶(ござ)います。119旦那(だんな)様(さま)が貴方(あなた)の事(こと)を云(い)うて今(いま)の今(いま)迄(まで)待(ま)ち兼(か)ねて居(を)られた様子(やうす)でしたが最早(もはや)絶命(ことぎ)れた様(やう)です。120アーア何(なん)とかして貴方(あなた)のお顔(かほ)や娘(むすめ)の顔(かほ)を、121も一度(いちど)見(み)せ度(た)いものですが、122とても此(この)世(よ)では叶(かな)ひますまいな』
123とワツと泣(な)き倒(たふ)れる。124二人(ふたり)の娘(むすめ)は父(ちち)の枕辺(まくらべ)にすり寄(よ)つて、
125デビス姫、ケリナ姫『お父(とう)様(さま)お父(とう)様(さま)』
126と泣(な)き叫(さけ)ぶ。127三千彦(みちひこ)は此(この)惨状(さんじやう)を見(み)るに忍(しの)びず、
128三千彦『国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)様(さま)、129豊国主(とよくにぬしの)大神(おほかみ)様(さま)、130神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)、131何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)、132も一度(いちど)病人(びやうにん)の魂返(たまがへ)しをお許(ゆる)し下(くだ)さいまして親娘(おやこ)の対面(たいめん)さして下(くだ)さい』
133と汗(あせ)をタラタラ流(なが)し乍(なが)ら祈願(きぐわん)を凝(こ)らし、134天(あま)の数歌(かずうた)を唱(とな)へ出(だ)した。135昏睡(こんすゐ)状態(じやうたい)に陥(おちい)つた小国別(をくにわけ)はパツと目(め)を開(ひら)き、136二人(ふたり)の娘(むすめ)が枕許(まくらもと)に居(を)るのを見(み)て打驚(うちおどろ)き、
137小国別(をくにわけ)『ア、138其方(そなた)はデビス姫(ひめ)、139ケリナ姫(ひめ)であつたか。140臨終(いまは)の際(きは)に一目(ひとめ)会(あ)ひたかつた。141ようマア宜(よ)い処(ところ)へ帰(かへ)つて下(くだ)さつた。142嘸(さぞ)苦労(くらう)をしたであらうな』
143と男泣(をとこな)きに泣(な)く。144二人(ふたり)の姉妹(おとどい)は声(こゑ)を揃(そろ)へて、
145デビス姫、ケリナ姫『お父(とう)様(さま)、146お懐(なつか)しう厶(ござ)います。147何卒(どうぞ)確(しつか)りして下(くだ)さいませ。148三千彦(みちひこ)様(さま)が居(ゐ)らつしやいますから大丈夫(だいぢやうぶ)で厶(ござ)います。149さうお気(き)の弱(よわ)い事(こと)を云(い)はずに長生(ながいき)して下(くだ)さいませ』
150小国別(をくにわけ)『ア、151娘(むすめ)、152よう云(い)うて呉(く)れた。153その言葉(ことば)を聞(き)くからは、154父(ちち)はもう、155何時(いつ)死(し)んでも心残(こころのこ)りはない』
156 小国姫(をくにひめ)は漸(やうや)うに顔(かほ)をあげ、
157小国姫『旦那(だんな)様(さま)、158嘸(さぞ)御(ご)満足(まんぞく)で厶(ござ)いませうな。159妾(わたし)も斯(こ)んな有難(ありがた)い事(こと)は厶(ござ)いませぬ』
160 小国別(をくにわけ)は「ウン」と云(い)つたきり、161又(また)もやスヤスヤ昏睡(こんすゐ)状態(じやうたい)に入(い)つた。162三千彦(みちひこ)は小国姫(をくにひめ)に向(むか)ひ、
163三千彦『ケリナ姫(ひめ)様(さま)、164デビス姫(ひめ)様(さま)をお助(たす)け下(くだ)さつた求道(きうだう)居士(こじ)が、165悪漢(わるもの)の為(ため)に岩窟内(がんくつない)に押込(おしこ)められて居(を)りますから、166私(わたし)は之(これ)から救(すく)うて参(まゐ)ります。167さうして姫(ひめ)様(さま)がお帰(かへ)りになつた事(こと)は私(わたし)が帰(かへ)る迄(まで)内密(ないみつ)に願(ねが)ひます。168何卒(どうぞ)、169別(べつ)の座敷(ざしき)に移(うつ)してお忍(しの)ばせを願(ねが)ひます』
170と裏口(うらぐち)よりスマートと共(とも)に飛(と)び出(だ)した。
171 受付(うけつけ)のエルは奥(おく)の様子(やうす)が何(なん)となく騒(さわ)がしいのでフと目(め)を覚(さ)まし、172四這(よつばひ)になつて足音(あしおと)を忍(しの)ばせ乍(なが)ら親娘(おやこ)対面(たいめん)の様子(やうす)を聞(き)いて居(ゐ)た。173今(いま)三千彦(みちひこ)が飛(と)び出(だ)したので自分(じぶん)も裏口(うらぐち)から真跣足(まつぱだし)の儘(まま)、174飛(と)び出(だ)し、175見(み)え隠(かく)れにトントントンと後(あと)を追(お)うて行(ゆ)く。176三千彦(みちひこ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)にスマートの後(あと)に従(したが)ひ、177求道(きうだう)居士(こじ)を救(すく)ふべく道(みち)を急(いそ)いだ。178岩窟(がんくつ)の一町(いつちやう)ばかり手前(てまへ)迄(まで)来(き)て見(み)ると数多(あまた)の荒男(あらをとこ)がワイワイと何事(なにごと)か喚(わめ)いて居(を)る。
179 三千彦(みちひこ)は暫(しば)らく様子(やうす)を窺(うかが)はむと草(くさ)の中(なか)に身(み)を隠(かく)し、180考(かんが)へて居(ゐ)た。181エルは道(みち)を転(てん)じて草(くさ)を分(わ)け大勢(おほぜい)の前(まへ)へ走(はし)り寄(よ)つて、
182エル『今(いま)三五教(あななひけう)の魔法使(まはふつかひ)三千彦(みちひこ)と云(い)ふ奴(やつ)、183二人(ふたり)の姫(ひめ)様(さま)を連(つ)れ帰(かへ)り、184今(いま)又(また)求道(きうだう)居士(こじ)を救(すく)ひ出(だ)すべくやつて来(き)て、185其処(そこ)の草原(くさはら)に隠(かく)れて居(ゐ)る』
186と報告(はうこく)したので数十(すうじふ)人(にん)の荒(あら)くれ男(をとこ)は二(ふた)つに分(わか)れ、187三十(さんじふ)人(にん)許(ばか)りは三千彦(みちひこ)を召捕(めしと)らむとエルが案内(あんない)の下(もと)に詰(つ)めかけて来(き)た。188スマートは忽(たちま)ち毛(け)を逆立(さかだ)て縦横(じうわう)無尽(むじん)に駆(か)け廻(めぐ)り、189足(あし)を啣(くわ)へて将棊倒(しやうぎだふ)しにバタバタと倒(たふ)して了(しま)つた。190此(この)勢(いきほ)ひに辟易(へきえき)し、191何(いづ)れも四這(よつばひ)となつて雑草(ざつさう)の中(なか)に身(み)を隠(かく)し慄(ふる)うて居(ゐ)る。192三千彦(みちひこ)は、
193三千彦(みちひこ)『アハハハハハ』
194と高笑(たかわら)ひし乍(なが)ら岩窟(がんくつ)に近付(ちかづ)けば、195求道(きうだう)居士(こじ)、196ヘルの両人(りやうにん)を雁字搦(がんじがら)みにして数十(すうじふ)人(にん)の男(をとこ)が棒片(ぼうちぎれ)を以(もつ)て叩(たた)きつけて居(ゐ)る。
197 求道(きうだう)居士(こじ)、198ヘルの両人(りやうにん)は半死(はんし)半生(はんしやう)の態(てい)にて顔面(がんめん)血潮(ちしほ)を漲(みなぎ)らし倒(たふ)れて居(ゐ)た。199三千彦(みちひこ)は其(その)場(ば)に現(あら)はれ、
200三千彦(みちひこ)『罪(つみ)なき修験者(しゆげんじや)を打擲(ちやうちやく)するとは何事(なにごと)ぞ。201理由(りいう)を承(うけたま)はり度(た)い』
202と云(い)はせも果(は)てず、
203群衆(ぐんしう)『其(その)方(はう)は三五教(あななひけう)の魔法使(まはふづかひ)、204サアよい所(ところ)に来(き)た。205貴様(きさま)も血祭(ちまつり)にして呉(く)れむ』
206と棍棒(こんぼう)、207竹槍(たけやり)を持(も)つて勢(いきほひ)よく迫(せま)り来(く)る。208三千彦(みちひこ)は右(みぎ)に左(ひだり)に体(たい)をすかし、209一方(いつぱう)求道(きうだう)居士(こじ)を庇(かば)ひながら、210敵(てき)の刀(かたな)をひつたくり、211仁王立(にわうだ)ちとなつて、212寄(よ)らば斬(き)らむと身構(みがま)へして居(ゐ)る。213空(くう)を切(き)つて駆(か)け来(きた)るスマートは、214又(また)もや縦横(じうわう)無尽(むじん)に駆(か)け廻(めぐ)り足(あし)を啣(くわ)へ手(て)を噛(か)み一人(ひとり)も残(のこ)さず草原(くさはら)の中(なか)へ投倒(なげたふ)した。215悪酔怪(あくすゐくわい)員(ゐん)の面々(めんめん)は何(いづ)れも不意(ふい)を喰(くら)ひ、216肝(きも)を潰(つぶ)し四這(よつばひ)となつて草野(くさの)を潜(くぐ)り乍(なが)ら各(おのおの)思(おも)ひ思(おも)ひに逃(に)げて行(ゆ)く。
217 求道(きうだう)居士(こじ)及(および)ヘルは余(あま)りの負傷(いたで)に気(き)も遠(とほ)くなり、218呆(ほう)けた様(やう)になつて首(くび)ばかり振(ふ)つて居(ゐ)る。219三千彦(みちひこ)は声(こゑ)を励(はげ)まし、
220三千彦(みちひこ)『求道(きうだう)居士(こじ)殿(どの)、221ヘル殿(どの)、222確(しつか)りなさいませ。223私(わたし)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)三千彦(みちひこ)で厶(ござ)いますぞ』
224と耳許(みみもと)にて呼(よば)はつた。225求道(きうだう)居士(こじ)はハツと気(き)を取(と)り直(なほ)し、226四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)し乍(なが)らヤツと安心(あんしん)の態(てい)にて、
227求道(きうだう)居士(こじ)『ア、228危(あやふ)い所(ところ)へよく助(たす)けに来(き)て下(くだ)さいました。229二三(にさん)日(にち)以前(いぜん)から此(この)岩窟(がんくつ)に投(な)げ込(こ)まれ、230夜中(よなか)頃(ごろ)引張(ひつぱ)り出(だ)されて種々(いろいろ)と打擲(ちやうちやく)に合(あ)ひ、231到底(たうてい)助(たす)かるまいと思(おも)ひましたが貴方(あなた)がおいでなさつて私(わたし)の命(いのち)をお助(たす)け下(くだ)さつて、232有難(ありがた)う厶(ござ)います。233そしてデビス様(さま)、234ケリナ様(さま)は無事(ぶじ)で厶(ござ)いませうか。235どうも、236それが気(き)にかかりましてなりませぬ』
237三千彦(みちひこ)『御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。238姫(ひめ)様(さま)はお二人(ふたり)とも私(わたし)が救(すく)ひ出(だ)し今(いま)お館(やかた)へ送(おく)り届(とど)けました。239そして親娘(おやこ)の対面(たいめん)をなさいました。240兎(と)も角(かく)貴方(あなた)の事(こと)が気(き)にかかりお救(すく)ひに参(まゐ)りまして厶(ござ)います』
241求道(きうだう)居士(こじ)『ハイ、242有難(ありがた)う厶(ござ)います。243併(しか)し乍(なが)ら如何(どう)したものか私(わたし)は足(あし)が立(た)たない様(やう)で厶(ござ)います』
244三千彦(みちひこ)『私(わたし)は御存(ごぞん)じの通(とほ)り独活(うど)の大木(たいぼく)と云(い)はれた位(くらゐ)ですから、245お二人(ふたり)さまとも私(わたし)の背(せ)に負(おぶ)さつて下(くだ)さい。246兎(と)も角(かく)お館(やかた)までお届(とど)け致(いた)します』
247求道(きうだう)居士(こじ)『実(まこと)に腑甲斐(ふがひ)ない事(こと)で厶(ござ)いますが、248そんなら助(たす)けて頂(いただ)きませう。249ヘルさま、250貴方(あなた)は如何(どう)ですか』
251ヘル『ハイ、252私(わたし)はどうなりと歩(ある)けるだらうと思(おも)ひます』
253三千彦(みちひこ)『もし歩(ある)けなかつたら、254スマートさまの首(くび)にでも喰(くら)いついてお帰(かへ)りなさい』
255ヘル『ハイ、256有難(ありがた)う厶(ござ)います、257命(いのち)の親様(おやさま)』
258と感謝(かんしや)の涙(なみだ)を流(なが)し乍(なが)らエチエチと神館(かむやかた)を指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
259 三五教(あななひけう)の魔法使(まはふつかひ)、260並(ならび)に狂犬(きやうけん)が現(あら)はれたと云(い)ふので、261悪酔怪(あくすゐくわい)員(ゐん)や宮町(みやまち)の老若(らうにやく)男女(なんによ)は戦々(せんせん)恟々(きようきよう)として魔法使(まはふつかひ)及(およ)び狂犬(きやうけん)撲殺(ぼくさつ)の相談会(さうだんくわい)を彼方(あちら)此方(こちら)に開(ひら)いて居(ゐ)た。
262惟神(かむながら)神(かみ)のまにまに述(の)べて行(ゆ)く
263テルモン館(やかた)にありし次第(しだい)を。
264(大正一二・三・二五 旧二・九 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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