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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第66巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 月の高原
第1章 暁の空
第2章 祖先の恵
第3章 酒浮気
第4章 里庄の悩
第5章 愁雲退散
第6章 神軍義兵
第2篇 容怪変化
第7章 女白浪
第8章 神乎魔乎
第9章 谷底の宴
第10章 八百長劇
第11章 亞魔の河
第3篇 異燭獣虚
第12章 恋の暗路
第13章 恋の懸嘴
第14章 相生松風
第15章 喰ひ違ひ
第4篇 恋連愛曖
第16章 恋の夢路
第17章 縁馬の別
第18章 魔神の囁
第19章 女の度胸
第20章 真鬼姉妹
余白歌
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第66巻(巳の巻)
> 第1篇 月の高原 > 第5章 愁雲退散
<<< 里庄の悩
(B)
(N)
神軍義兵 >>>
第五章
愁雲
(
しううん
)
退散
(
たいさん
)
〔一六八七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻
篇:
第1篇 月の高原
よみ(新仮名遣い):
つきのこうげん
章:
第5章 愁雲退散
よみ(新仮名遣い):
しゅううんたいさん
通し章番号:
1687
口述日:
1924(大正13)年12月15日(旧11月19日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年6月29日
概要:
舞台:
タライの村の里庄ジャンクの家
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6605
愛善世界社版:
65頁
八幡書店版:
第11輯 753頁
修補版:
校定版:
65頁
普及版:
67頁
初版:
ページ備考:
001
トルマン
国
(
ごく
)
バルガン
城
(
じやう
)
の
国王
(
こくわう
)
トルカ
王
(
わう
)
より
勅使
(
ちよくし
)
として、
002
ジャンクの
家
(
いへ
)
に
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
りし
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
はオール、
003
コースと
云
(
い
)
ふ。
004
オールは
厳然
(
げんぜん
)
として
正座
(
しやうざ
)
に
直
(
なほ
)
り、
005
里庄
(
りしやう
)
のジャンクに
国王
(
こくわう
)
の
令
(
れい
)
を
伝
(
つた
)
へた。
006
『
我
(
わが
)
トルマン
国
(
ごく
)
は
建国
(
けんこく
)
以来
(
いらい
)
、
007
上下
(
じやうげ
)
一致
(
いつち
)
、
008
王
(
わう
)
と
民
(
たみ
)
との
間
(
あひだ
)
は
親子
(
しんし
)
の
如
(
ごと
)
く
兄弟
(
きやうだい
)
の
如
(
ごと
)
く
夫婦
(
ふうふ
)
の
如
(
ごと
)
し。
009
天恵
(
てんけい
)
豊
(
ゆたか
)
にして
地味
(
ちみ
)
は
肥
(
こ
)
え、
010
印度
(
いんど
)
全国
(
ぜんこく
)
の
宝庫
(
はうこ
)
楽園
(
らくゑん
)
と
称
(
しよう
)
せられ、
011
国民
(
こくみん
)
和楽
(
わらく
)
し、
012
太平
(
たいへい
)
の
夢
(
ゆめ
)
を
結
(
むす
)
びたること
茲
(
ここ
)
に
三千
(
さんぜん
)
年
(
ねん
)
なり。
013
然
(
しか
)
るに
図
(
はか
)
らざりき、
014
今回
(
こんくわい
)
ハルナの
都
(
みやこ
)
に
君臨
(
くんりん
)
し
玉
(
たま
)
ふ
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
命
(
みこと
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
、
015
ウラル
教
(
けう
)
征伐
(
せいばつ
)
の
為
(
ため
)
、
016
遙々
(
はるばる
)
軍卒
(
ぐんそつ
)
を
派遣
(
はけん
)
し
玉
(
たま
)
ふ。
017
然
(
しか
)
るに
全軍
(
ぜんぐん
)
の
将
(
しやう
)
たる
大足別
(
おほだるわけ
)
は
性質
(
せいしつ
)
暴戻
(
ばうれい
)
にして
虎狼
(
こらう
)
の
如
(
ごと
)
く、
018
我
(
わが
)
国内
(
こくない
)
の
民
(
たみ
)
を
苦
(
くる
)
しめ、
019
婦女
(
ふぢよ
)
を
姦
(
かん
)
し
財物
(
ざいぶつ
)
を
掠奪
(
りやくだつ
)
し、
020
甚
(
はなはだ
)
しきは
民家
(
みんか
)
を
焼
(
や
)
き、
021
暴状
(
ばうじやう
)
至
(
いた
)
らざるなく、
022
勢
(
いきほひ
)
に
乗
(
じやう
)
じてトルマン
国
(
ごく
)
の
首府
(
しゆふ
)
バルガン
城
(
じやう
)
を
攻略
(
こうりやく
)
せむとす。
023
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
忠良
(
ちうりやう
)
の
民
(
たみ
)
、
024
忠勇
(
ちうゆう
)
義烈
(
ぎれつ
)
の
赤心
(
せきしん
)
を
発揮
(
はつき
)
し、
025
前古
(
ぜんこ
)
未曽有
(
みぞう
)
の
大国難
(
だいこくなん
)
を
救
(
すく
)
ふべく、
026
凡
(
すべ
)
ての
男子
(
だんし
)
は
十八
(
じふはつ
)
才
(
さい
)
以上
(
いじやう
)
六十
(
ろくじつ
)
才
(
さい
)
以下
(
いか
)
は
各
(
おのおの
)
武器
(
ぶき
)
を
携帯
(
けいたい
)
し
王城
(
わうじやう
)
の
救援
(
きうゑん
)
に
向
(
むか
)
ふべし。
027
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
が
祖先
(
そせん
)
の
開
(
ひら
)
きし
国土
(
こくど
)
を
守
(
まも
)
るは
此
(
この
)
時
(
とき
)
なるべし。
028
汝
(
なんぢ
)
里庄
(
りしやう
)
、
029
村民
(
そんみん
)
に
吾
(
わが
)
意
(
い
)
のある
所
(
ところ
)
を
伝達
(
でんたつ
)
し、
030
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さず
軍
(
いくさ
)
に
従
(
したが
)
ふべし。
031
トルマン
国
(
ごく
)
、
032
バルガン
城
(
じやう
)
トルカ
王
(
わう
)
の
使者
(
ししや
)
オール、
033
コース、
034
国王
(
こくわう
)
殿下
(
でんか
)
の
聖旨
(
せいし
)
を
伝達
(
でんたつ
)
するもの
也
(
なり
)
』
035
と
読
(
よ
)
み
聞
(
き
)
かすや、
036
里庄
(
りしやう
)
ジャンクは
謹
(
つつし
)
んで
席
(
せき
)
を
下
(
くだ
)
り、
037
ジャンク『
力
(
ちから
)
なき
吾々
(
われわれ
)
には
候
(
さふら
)
へど、
038
御
(
ご
)
勅命
(
ちよくめい
)
に
従
(
したが
)
ひ
速
(
すみやか
)
に
義勇軍
(
ぎゆうぐん
)
を
召集
(
せうしふ
)
し、
039
王城
(
わうじやう
)
並
(
ならび
)
に
国家
(
こくか
)
の
危難
(
きなん
)
に
殉
(
じゆん
)
じ
奉
(
たてまつ
)
りませう』
040
勅使
(
ちよくし
)
オール、
041
コースの
両人
(
りやうにん
)
は「
満足
(
まんぞく
)
々々
(
まんぞく
)
」と
笑
(
ゑみ
)
を
洩
(
も
)
らし
挨拶
(
あいさつ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
042
ジャンクが
勧
(
すす
)
むる
茶
(
ちや
)
も
呑
(
の
)
まず、
043
急
(
いそ
)
いで
玄関口
(
げんくわんぐち
)
に
立
(
た
)
ち
出
(
いで
)
て、
044
待
(
ま
)
たせおいたる
十数
(
じふすう
)
名
(
めい
)
の
士卒
(
しそつ
)
と
共
(
とも
)
にヒラリと
駒
(
こま
)
に
跨
(
またが
)
り、
045
紅
(
くれなゐ
)
の
手綱
(
たづな
)
ゆたかに、
046
蹄
(
ひづめ
)
の
音
(
おと
)
もカツカツカツと
隣村
(
りんそん
)
さして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
047
ジャンクは
照国別
(
てるくにわけ
)
一行
(
いつかう
)
の
居間
(
ゐま
)
に
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
048
稍
(
やや
)
緊張
(
きんちやう
)
したる
面色
(
おももち
)
にて、
049
ジャンク『
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
様
(
さま
)
、
050
えらい
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
しました』
051
照国
(
てるくに
)
『いや、
052
どう
致
(
いた
)
しまして、
053
勅使
(
ちよくし
)
の
趣
(
おもむき
)
、
054
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
いましたか。
055
実
(
じつ
)
は
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げて
居
(
を
)
りました』
056
ジャンク『ハイ、
057
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
058
私
(
わたし
)
も、
059
もはや
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
一家
(
いつか
)
一命
(
いちめい
)
を
棄
(
す
)
てねばならぬ
時
(
とき
)
が
参
(
まゐ
)
りました』
060
と
憂愁
(
いうしう
)
に
沈
(
しづ
)
み、
061
意気
(
いき
)
銷沈
(
せうちん
)
しきつたる
老人
(
らうじん
)
にも
似合
(
にあ
)
はず、
062
どこともなく
決心
(
けつしん
)
の
色
(
いろ
)
が
現
(
あら
)
はれて
居
(
ゐ
)
る。
063
照国
(
てるくに
)
『
一身
(
いつしん
)
一家
(
いつか
)
を
棄
(
す
)
てねばならぬとは
何事
(
なにごと
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
064
ジャンク『
只今
(
ただいま
)
バルガン
城
(
じやう
)
のトルカ
王
(
わう
)
様
(
さま
)
よりの
御
(
ご
)
勅使
(
ちよくし
)
によれば、
065
「
印度
(
いんど
)
の
国
(
くに
)
を
守
(
まも
)
るべき
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
軍隊
(
ぐんたい
)
大足別
(
おほだるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
なるもの、
066
トルマン
国
(
ごく
)
の
城下
(
じやうか
)
の
民
(
たみ
)
を
脅
(
おびや
)
かし、
067
民家
(
みんか
)
を
焼
(
や
)
き
婦女子
(
ふぢよし
)
を
奪
(
うば
)
ひ
人種
(
ひとだね
)
を
絶
(
た
)
やし、
068
尚
(
なほ
)
飽
(
あ
)
き
足
(
た
)
らず
王城
(
わうじやう
)
を
攻
(
せ
)
め
落
(
おと
)
し、
069
国王
(
こくわう
)
を
放逐
(
はうちく
)
せむとする
勢
(
いきほひ
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば、
070
此
(
この
)
際
(
さい
)
国民
(
こくみん
)
は
男子
(
だんし
)
は
十八
(
じふはつ
)
才
(
さい
)
より
六十
(
ろくじつ
)
才
(
さい
)
以下
(
いか
)
のもの、
071
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
国難
(
こくなん
)
に
殉
(
じゆん
)
ずべし」との
御
(
ご
)
厳命
(
げんめい
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば、
072
私
(
わたし
)
も
本年
(
ほんねん
)
は
五十八
(
ごじふはち
)
才
(
さい
)
、
073
老耄
(
おいぼれ
)
たりとは
云
(
い
)
へ、
074
まだ
適齢
(
てきれい
)
がかかつてゐます。
075
もはや
娘
(
むすめ
)
の
事
(
こと
)
は
断念
(
だんねん
)
致
(
いた
)
しました。
076
華々
(
はなばな
)
しく
軍
(
いくさ
)
に
従
(
したが
)
ひ、
077
国家
(
こくか
)
のために
屍
(
かばね
)
を
山野
(
さんや
)
に
曝
(
さら
)
す
覚悟
(
かくご
)
で
厶
(
ござ
)
います』
078
照国
(
てるくに
)
『
成程
(
なるほど
)
、
079
承
(
うけたまは
)
れば
承
(
うけたまは
)
る
程
(
ほど
)
、
080
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で
厶
(
ござ
)
います。
081
国王
(
こくわう
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
とあらば
国民
(
こくみん
)
として、
082
此
(
この
)
際
(
さい
)
お
起
(
た
)
ちなさるのが
義務
(
ぎむ
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
083
私
(
わたし
)
も
宣伝使
(
せんでんし
)
として
天下
(
てんか
)
の
害
(
がい
)
を
除
(
のぞ
)
くべく
084
遙々
(
はるばる
)
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
へ
神命
(
しんめい
)
を
受
(
う
)
けて
参
(
まゐ
)
つたので
厶
(
ござ
)
いますから、
085
どうか
参加
(
さんか
)
させて
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
いもので
厶
(
ござ
)
いますな』
086
ジャンク『ハイ、
087
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
088
何分
(
なにぶん
)
よろしく』
089
梅公
(
うめこう
)
『ア、
090
先生
(
せんせい
)
、
091
よくお
考
(
かんが
)
へなさいませ。
092
善言
(
ぜんげん
)
美詞
(
びし
)
の
言霊
(
ことたま
)
を
以
(
もつ
)
て、
093
あらゆる
万民
(
ばんみん
)
を
言向
(
ことむけ
)
和
(
やは
)
す
無抵抗
(
むていかう
)
主義
(
しゆぎ
)
の
三五教
(
あななひけう
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬか。
094
殺伐
(
さつばつ
)
なる
軍隊
(
ぐんたい
)
に
参加
(
さんか
)
し、
095
砲煙
(
はうえん
)
弾雨
(
だんう
)
の
中
(
うち
)
に
馳駆
(
ちく
)
するのは
決
(
けつ
)
して
宣伝使
(
せんでんし
)
の
本分
(
ほんぶん
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いますまい。
096
三五教
(
あななひけう
)
は
決
(
けつ
)
して
軍国
(
ぐんこく
)
主義
(
しゆぎ
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬよ』
097
照国
(
てるくに
)
『ハヽヽヽヽ、
098
吾々
(
われわれ
)
はお
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
099
決
(
けつ
)
して
敵
(
てき
)
を
憎
(
にく
)
まない。
100
又
(
また
)
殺伐
(
さつばつ
)
な
人為
(
じんゐ
)
的
(
てき
)
戦争
(
せんそう
)
はやり
度
(
た
)
くない。
101
義勇軍
(
ぎゆうぐん
)
に
参加
(
さんか
)
しようと
云
(
い
)
ふのは
傷病者
(
しやうびやうしや
)
を
救
(
すく
)
ひ、
102
敵味方
(
てきみかた
)
の
区別
(
くべつ
)
なく
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
を
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
し、
103
平和
(
へいわ
)
に
解決
(
かいけつ
)
し、
104
このトルマン
国
(
ごく
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
105
印度
(
いんど
)
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
の
国民
(
こくみん
)
を
神
(
かみ
)
の
慈恩
(
じおん
)
に
浴
(
よく
)
せしむる
為
(
ため
)
だ。
106
其
(
その
)
第一歩
(
だいいつぽ
)
として
従軍
(
じゆうぐん
)
を
願
(
ねが
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ』
107
梅公
(
うめこう
)
『ヤア、
108
それなら
分
(
わか
)
りました。
109
別
(
べつ
)
に
文句
(
もんく
)
もありませぬが、
110
然
(
しか
)
しながら
当家
(
たうけ
)
の
娘
(
むすめ
)
スガコ
嬢
(
ぢやう
)
やサンダーさまはどうなさる
考
(
かんが
)
へですか。
111
此
(
この
)
方々
(
かたがた
)
も
見捨
(
みす
)
てる
訳
(
わけ
)
には
参
(
まゐ
)
りますまい』
112
照国
(
てるくに
)
『ア、
113
それも
気
(
き
)
にかかるが、
114
それはインカ
親分
(
おやぶん
)
にお
願
(
ねが
)
ひしたらどうだ』
115
梅公
(
うめこう
)
『それもさうですな。
116
もしジャンク
様
(
さま
)
、
117
先生
(
せんせい
)
は、
118
あゝ
仰有
(
おつしや
)
いますから
貴方
(
あなた
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
従軍
(
じゆうぐん
)
を
遊
(
あそ
)
ばすなり、
119
私
(
わたし
)
共
(
ども
)
はサンヨの
妹娘
(
いもうとむすめ
)
花香
(
はなか
)
さまも
救
(
すく
)
はねばならず、
120
当家
(
たうけ
)
のスガコさまもサンダーさまも
見殺
(
みごろし
)
にする
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かないから、
121
此
(
この
)
捜策
(
さうさく
)
は
拙者
(
せつしや
)
にお
任
(
まか
)
せ
下
(
くだ
)
さいませぬか』
122
ジャンク『
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
は
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
いますが、
123
もはや
今日
(
こんにち
)
となつては、
124
娘
(
むすめ
)
の
事
(
こと
)
等
(
など
)
云
(
い
)
つてる
場合
(
ばあひ
)
ぢやありませぬ。
125
国王
(
こくわう
)
様
(
さま
)
のため
国家
(
こくか
)
のために
全身
(
ぜんしん
)
の
力
(
ちから
)
を
尽
(
つく
)
さねばなりませぬ。
126
どうか
貴方
(
あなた
)
も
照国別
(
てるくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
と
行動
(
かうどう
)
を一にして
下
(
くだ
)
さいませ。
127
自分
(
じぶん
)
の
娘
(
むすめ
)
のために
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
を
頼
(
たの
)
んだ
128
と
云
(
い
)
はれては
末代
(
まつだい
)
の
恥
(
はぢ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
129
ついてはインカの
親分
(
おやぶん
)
さま、
130
貴方
(
あなた
)
も
国民
(
こくみん
)
の
一部
(
いちぶ
)
、
131
義勇軍
(
ぎゆうぐん
)
の
将
(
しやう
)
となり、
132
私
(
わたし
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
出陣
(
しゆつぢん
)
下
(
くだ
)
さいませ。
133
娘
(
むすめ
)
の
事
(
こと
)
やサンダーの
事
(
こと
)
は
次
(
つぎ
)
の
次
(
つぎ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから』
134
インカ『
成程
(
なるほど
)
、
135
天晴
(
あつぱれ
)
見上
(
みあ
)
げたお
志
(
こころざし
)
、
136
それでなくては
里庄
(
りしやう
)
様
(
さま
)
とは
申
(
まを
)
されますまい。
137
私
(
わたし
)
だつて
弱
(
よわ
)
きを
扶
(
たす
)
け、
138
強
(
つよ
)
きを
挫
(
くじ
)
く
侠客
(
けふかく
)
渡世
(
とせい
)
、
139
国王
(
こくわう
)
様
(
さま
)
のお
達示
(
たつし
)
を
聞
(
き
)
いて、
140
之
(
これ
)
が
安閑
(
あんかん
)
として
居
(
を
)
られませうか。
141
お
言葉
(
ことば
)
に
従
(
したが
)
ひ
従軍
(
じゆうぐん
)
致
(
いた
)
しませう』
142
タクソン『もし、
143
ジャンク
様
(
さま
)
、
144
イヤ
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
、
145
私
(
わたし
)
もお
伴
(
とも
)
致
(
いた
)
しませうか』
146
ジャンク『イヤ、
147
其方
(
そなた
)
は、
148
もはや
承
(
うけたまは
)
れば
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
伴
(
とも
)
になると
云
(
い
)
ふ
約束
(
やくそく
)
をしたさうだ。
149
トルマン
国
(
ごく
)
の
男子
(
だんし
)
の
一言
(
いちごん
)
は
金鉄
(
きんてつ
)
も
同様
(
どうやう
)
だ。
150
照国別
(
てるくにわけ
)
様
(
さま
)
のお
弟子
(
でし
)
として
参加
(
さんか
)
して
下
(
くだ
)
さい』
151
エルソン『もし
里庄
(
りしやう
)
様
(
さま
)
、
152
私
(
わたし
)
も
照国別
(
てるくにわけ
)
のお
弟子
(
でし
)
となりましたが、
153
国民
(
こくみん
)
の
一部
(
いちぶ
)
として
里庄
(
りしやう
)
様
(
さま
)
と
共
(
とも
)
に
軍
(
いくさ
)
に
従
(
したが
)
ひませうか』
154
ジャンク『イヤイヤ
貴方
(
そなた
)
も、
155
もはや
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
部下
(
ぶか
)
だ。
156
タクソンと
行動
(
かうどう
)
を一にするが
宜
(
よ
)
からう』
157
エルソン『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
158
然
(
しか
)
らば
尊
(
たふと
)
き
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
伴
(
とも
)
を
致
(
いた
)
し、
159
剣
(
つるぎ
)
を
持
(
も
)
たず
只
(
ただ
)
コーランを
手
(
て
)
にして、
160
天下
(
てんか
)
万民
(
ばんみん
)
の
為
(
ため
)
に
最善
(
さいぜん
)
の
努力
(
どりよく
)
を
尽
(
つく
)
さして
頂
(
いただ
)
きませう』
161
ジャンク『ア、
162
よしよし、
163
それで
私
(
わたし
)
も
安心
(
あんしん
)
した。
164
もし
照国別
(
てるくにわけ
)
様
(
さま
)
、
165
どうか
両人
(
りやうにん
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
を
宜
(
よろ
)
しくお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
166
照国
(
てるくに
)
『ヤ、
167
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
つたる
皆様
(
みなさま
)
のお
志
(
こころざし
)
、
168
委細
(
ゐさい
)
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
169
門番
(
もんばん
)
のバンコや
受付
(
うけつけ
)
のセールに
命
(
めい
)
じ、
170
村内
(
そんない
)
一同
(
いちどう
)
に
国王
(
こくわう
)
の
令
(
れい
)
を
伝
(
つた
)
へ、
171
明朝
(
みやうてう
)
を
期
(
き
)
して
出陣
(
しゆつぢん
)
すべく
伝達
(
でんたつ
)
せしめた。
172
村内
(
そんない
)
は
俄
(
にはか
)
に
騒然
(
さうぜん
)
として
火事場
(
くわじば
)
の
如
(
ごと
)
く
殺気
(
さつき
)
漲
(
みなぎ
)
つて
来
(
き
)
た。
173
ジャンクは
村
(
むら
)
の
男子
(
だんし
)
を
軍隊
(
ぐんたい
)
に
仕立
(
した
)
て、
174
自
(
みづか
)
ら
将
(
しやう
)
として
出陣
(
しゆつぢん
)
する
事
(
こと
)
となつた。
175
インカ『
吾
(
わが
)
村
(
むら
)
にも
必
(
かなら
)
ずや
同様
(
どうやう
)
の
命令
(
めいれい
)
下
(
くだ
)
りしならむ。
176
お
先
(
さき
)
へ
御免
(
ごめん
)
』
177
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
一同
(
いちどう
)
へ
挨拶
(
あいさつ
)
をなし、
178
尻
(
しり
)
引
(
ひき
)
まくり
大地
(
だいち
)
をドンドン
響
(
ひび
)
かせ
乍
(
なが
)
ら、
179
飛
(
と
)
ぶが
如
(
ごと
)
くに
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
180
ここに
一同
(
いちどう
)
は
三五
(
あななひ
)
の
大神
(
おほかみ
)
、
181
バラモンの
大神
(
おほかみ
)
に
前途
(
ぜんと
)
の
勝利
(
しようり
)
を
得
(
え
)
む
為
(
ため
)
とて
一大
(
いちだい
)
祈願
(
きぐわん
)
を
凝
(
こ
)
らし、
182
首途
(
かどで
)
の
祝
(
いはひ
)
として
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
くる
迄
(
まで
)
、
183
直会
(
なほらひ
)
の
宴
(
えん
)
を
催
(
もよほ
)
した。
184
何
(
いづ
)
れも
勇気
(
ゆうき
)
頓
(
とみ
)
に
加
(
くは
)
はり
185
山河
(
さんか
)
を
呑
(
の
)
むの
勢
(
いきほひ
)
である。
186
祭典
(
さいてん
)
も
終
(
をは
)
り、
187
愈
(
いよいよ
)
直会
(
なほらひ
)
の
宴
(
えん
)
に
移
(
うつ
)
り、
188
酒
(
さけ
)
汲
(
く
)
み
交
(
かは
)
して
室内
(
しつない
)
は
和気
(
わき
)
靄々
(
あいあい
)
恰
(
あたか
)
も
春
(
はる
)
の
如
(
ごと
)
き
空気
(
くうき
)
が
漂
(
ただよ
)
うた。
189
ジャンクは、
1891
ホロ
酔
(
よ
)
ひ
機嫌
(
きげん
)
になつて
声
(
こゑ
)
も
涼
(
すず
)
しく
二絃琴
(
にげんきん
)
を
弾
(
だん
)
じつつ
謡
(
うた
)
ひ
初
(
はじ
)
めた。
190
ジャンク『
千早
(
ちはや
)
振
(
ふ
)
る
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
造
(
つく
)
らしし
191
トルマン
国
(
ごく
)
の
目出度
(
めでた
)
さは
192
時
(
とき
)
じく
花
(
はな
)
の
香
(
か
)
に
匂
(
にほ
)
ひ
193
果物
(
くだもの
)
豊
(
ゆたか
)
に
実
(
みの
)
りつつ
194
五穀
(
ごこく
)
は
栄
(
さか
)
え
民
(
たみ
)
は
肥
(
こ
)
え
195
牛
(
うし
)
馬
(
うま
)
駱駝
(
らくだ
)
羊
(
ひつじ
)
豚
(
ぶた
)
196
鷄
(
にはとり
)
までもよく
肥
(
ふと
)
り
197
天
(
あめ
)
の
下
(
した
)
四方
(
よも
)
の
国々
(
くにぐに
)
安
(
やす
)
らけく
198
いと
平
(
たひら
)
けく
治
(
をさ
)
まりて
199
神代
(
かみよ
)
の
儘
(
まま
)
の
人心
(
ひとごころ
)
200
何
(
いづ
)
れの
家
(
いへ
)
も
押
(
おし
)
並
(
な
)
べて
201
怒
(
いか
)
り
妬
(
ねた
)
み
悲
(
かな
)
しみの
202
声
(
こゑ
)
さへもなく
日
(
ひ
)
に
夜
(
よる
)
に
203
歓
(
えら
)
ぎ
楽
(
たの
)
しむ
天津国
(
あまつくに
)
204
常世
(
とこよ
)
の
春
(
はる
)
を
喜
(
よろこ
)
びしが
205
天津
(
あまつ
)
御空
(
みそら
)
の
日
(
ひ
)
の
影
(
かげ
)
は
206
漸
(
やうや
)
く
光
(
ひかり
)
褪
(
あ
)
せ
給
(
たま
)
ひ
207
月
(
つき
)
の
面
(
おもて
)
も
薄曇
(
うすぐも
)
り
208
星
(
ほし
)
のみ
独
(
ひと
)
りキラキラと
209
瞬
(
またた
)
き
初
(
そ
)
めて
何
(
なん
)
となく
210
此
(
この
)
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
は
騒
(
さわ
)
がしく
211
鳥
(
とり
)
の
声
(
こゑ
)
さへ
悲
(
かな
)
しげに
212
謡
(
うた
)
ふ
御代
(
みよ
)
とはなりにける
213
月日
(
つきひ
)
は
進
(
すす
)
み
星
(
ほし
)
移
(
うつ
)
り
214
天
(
あめ
)
の
下
(
した
)
なる
民草
(
たみぐさ
)
の
215
心
(
こころ
)
は
漸
(
やうや
)
く
曇
(
くも
)
り
果
(
は
)
て
216
強
(
つよ
)
きは
強
(
つよ
)
く
弱
(
よわ
)
きもの
217
虐
(
しひた
)
げられて
秋
(
あき
)
の
夜
(
よ
)
の
218
霜
(
しも
)
に
悩
(
なや
)
める
虫
(
むし
)
の
如
(
ごと
)
219
怨嗟
(
ゑんさ
)
の
声
(
こゑ
)
は
満
(
み
)
ち
満
(
み
)
ちぬ
220
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
は
日
(
ひ
)
に
月
(
つき
)
に
221
益々
(
ますます
)
悪
(
あし
)
く
曇
(
くも
)
り
果
(
は
)
て
222
山
(
やま
)
の
尾
(
を
)
の
上
(
へ
)
や
河
(
かは
)
の
瀬
(
せ
)
に
223
荒
(
あら
)
ぶる
神
(
かみ
)
の
屯
(
たむろ
)
して
224
又
(
また
)
もや
民家
(
みんか
)
を
苦
(
くる
)
しめつ
225
人
(
ひと
)
の
妻女
(
さいぢよ
)
を
奪
(
うば
)
ひ
取
(
と
)
り
226
悪
(
あし
)
き
災
(
わざはひ
)
日
(
ひ
)
に
月
(
つき
)
に
227
相重
(
あひかさ
)
なりて
国人
(
くにびと
)
は
228
薄
(
うす
)
き
氷
(
こほり
)
を
踏
(
ふ
)
む
如
(
ごと
)
く
229
涙
(
なみだ
)
に
咽
(
むせ
)
ぶ
折
(
をり
)
もあれ
230
大足別
(
おほだるわけ
)
の
率
(
ひき
)
ゐたる
231
醜
(
しこ
)
の
曲霊
(
まがひ
)
の
軍人
(
いくさびと
)
232
弥
(
いや
)
益々
(
ますます
)
に
醜業
(
しこわざ
)
の
233
募
(
つの
)
り
来
(
きた
)
りてトルマンの
234
国
(
くに
)
をば
荒
(
あ
)
らし
国主
(
こきし
)
まで
235
打
(
うち
)
滅
(
ほろぼ
)
して
欲望
(
よくばう
)
を
236
遂
(
と
)
げむとするぞ
忌々
(
ゆゆ
)
しけれ
237
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
238
神
(
かみ
)
の
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
在
(
ま
)
すならば
239
我
(
わが
)
国民
(
くにたみ
)
の
災
(
わざはひ
)
を
240
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
除
(
のぞ
)
きませよ
241
バルガン
城
(
じやう
)
は
永久
(
とこしへ
)
に
242
トルカの
国主
(
こきし
)
は
幾千代
(
いくちよ
)
も
243
寿
(
ことぶき
)
長
(
なが
)
く
栄
(
さか
)
えまし
244
トルマン
国
(
ごく
)
を
包
(
つつ
)
みたる
245
醜
(
しこ
)
の
雲霧
(
くもきり
)
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
ひ
246
再
(
ふたた
)
び
天土
(
あめつち
)
晴明
(
せいめい
)
の
247
珍
(
うづ
)
の
世界
(
せかい
)
に
還
(
かへ
)
しませ
248
吾
(
われ
)
は
老木
(
おいき
)
の
行末
(
ゆくすゑ
)
の
249
いとも
短
(
みじか
)
き
身
(
み
)
なれども
250
一
(
ひと
)
つの
生命
(
いのち
)
を
国
(
くに
)
の
為
(
た
)
め
251
君
(
きみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
献
(
たてまつ
)
り
252
万民
(
ばんみん
)
安堵
(
あんど
)
の
道
(
みち
)
のため
253
捧
(
ささ
)
げ
奉
(
まつ
)
らむ
吾
(
わ
)
が
生命
(
いのち
)
254
諾
(
うべ
)
なひ
給
(
たま
)
へ
三五
(
あななひ
)
の
255
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
256
梵天
(
ぼんてん
)
帝釈
(
たいしやく
)
自在天
(
じざいてん
)
257
大国彦
(
おほくにひこ
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
258
偏
(
ひとへ
)
に
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
る
259
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
260
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ
261
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
262
照国別
(
てるくにわけ
)
は
又
(
また
)
謡
(
うた
)
ふ。
263
照国別
(
てるくにわけ
)
『
蒼空
(
さうくう
)
一点
(
いつてん
)
雲
(
くも
)
もなく
264
日月
(
じつげつ
)
星辰
(
せいしん
)
明
(
あきら
)
かに
265
輝
(
かがや
)
き
亘
(
わた
)
る
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
も
266
天
(
てん
)
に
風雨
(
ふうう
)
のなやみあり
267
地
(
ち
)
には
地震
(
ないふる
)
洪水
(
こうずい
)
の
268
百
(
もも
)
の
災
(
わざはひ
)
湧
(
わ
)
き
来
(
きた
)
る
269
浪
(
なみ
)
静
(
しづ
)
かなる
大海
(
おほうみ
)
も
270
只
(
ただ
)
一塊
(
いつくわい
)
の
雨雲
(
あまぐも
)
の
271
中
(
なか
)
より
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
荒風
(
あらかぜ
)
に
272
波
(
なみ
)
立
(
た
)
ち
騒
(
さわ
)
ぎ
島々
(
しまじま
)
を
273
呑
(
の
)
まむ
例
(
ためし
)
もあるものを
274
此
(
この
)
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
に
住
(
す
)
む
人
(
ひと
)
は
275
如何
(
いか
)
で
悩
(
なや
)
みのなかるべき
276
天変
(
てんぺん
)
地妖
(
ちえう
)
ある
毎
(
ごと
)
に
277
世
(
よ
)
は
晦冥
(
くわいめい
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
278
かかる
汚
(
けが
)
れし
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
279
一度
(
ひとたび
)
天地
(
てんち
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
280
大活動
(
だいくわつどう
)
を
要
(
えう
)
すべし
281
バラモン
軍
(
ぐん
)
や
醜神
(
しこがみ
)
の
282
醜
(
しこ
)
の
猛
(
たけ
)
びは
強
(
つよ
)
くとも
283
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
三五
(
あななひ
)
の
284
神
(
かみ
)
の
光
(
ひかり
)
に
敵
(
てき
)
すべき
285
心
(
こころ
)
安
(
やす
)
けくましませよ
286
大日
(
おほひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
287
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
288
天
(
てん
)
は
地
(
ち
)
となり
地
(
ち
)
は
天
(
てん
)
に
289
上
(
のぼ
)
る
激変
(
げきへん
)
あるとても
290
只
(
ただ
)
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
291
神
(
かみ
)
に
任
(
まか
)
せし
身
(
み
)
にしあれば
292
いかなる
事
(
こと
)
も
恐
(
おそ
)
れむや
293
仰
(
あふ
)
ぎ
敬
(
うやま
)
へ
神
(
かみ
)
の
徳
(
とく
)
294
祝
(
いは
)
へよ
祝
(
いは
)
へ
神
(
かみ
)
の
恩
(
おん
)
295
神
(
かみ
)
は
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
と
倶
(
とも
)
にあり
296
神
(
かみ
)
は
汝
(
なれ
)
等
(
ら
)
と
倶
(
とも
)
に
在
(
ま
)
す
297
人
(
ひと
)
は
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
神
(
かみ
)
の
宮
(
みや
)
298
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
に
敵
(
てき
)
すべき
299
曲霊
(
まがひ
)
の
如何
(
いか
)
で
来
(
きた
)
るべき
300
あゝ
勇
(
いさ
)
ましし
勇
(
いさ
)
ましし
301
今
(
いま
)
神軍
(
しんぐん
)
の
首途
(
かどいで
)
に
302
ジャンクの
君
(
きみ
)
を
初
(
はじ
)
めとし
303
梅公
(
うめこう
)
、
照公
(
てるこう
)
、タクソンや
304
エルソン
司
(
つかさ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
305
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
慴伏
(
ひれふ
)
して
306
前途
(
ぜんと
)
の
幸
(
さち
)
を
祈
(
いの
)
るこそ
307
実
(
げ
)
に
壮快
(
さうくわい
)
の
至
(
いた
)
りなり
308
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
309
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ
310
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
311
梅公
(
うめこう
)
『
思
(
おも
)
ひきや
軍
(
いくさ
)
の
庭
(
には
)
に
立
(
た
)
たむとは
312
今
(
いま
)
の
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
さとらざりけり。
313
さり
乍
(
なが
)
ら
吾
(
われ
)
は
神軍
(
しんぐん
)
言霊
(
ことたま
)
の
314
武器
(
ぶき
)
より
外
(
ほか
)
に
持
(
も
)
つものはなし』
315
照公
(
てるこう
)
『
大空
(
おほぞら
)
に
日
(
ひ
)
は
照公
(
てるこう
)
の
吾
(
われ
)
なれば
316
あわ
てる
事
(
こと
)
は
一
(
ひと
)
つも
要
(
い
)
らず。
317
照国
(
てるくに
)
の
別
(
わけ
)
の
命
(
みこと
)
に
従
(
したが
)
ひて
318
道照公
(
みちてるこう
)
の
吾
(
われ
)
は
進
(
すす
)
まむ』
319
タクソン『
照国別
(
てるくにわけ
)
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
に
320
吾
(
われ
)
は
全
(
まつ
)
たくそん
敬
(
けい
)
をぞする。
321
おめで
たくそん
厳
(
げん
)
無比
(
むひ
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
322
御前
(
みまへ
)
に
幸
(
さち
)
を
祈
(
いの
)
る
嬉
(
うれ
)
しさ』
323
エルソン『
常暗
(
とこやみ
)
の
世
(
よ
)
を
立替
(
たてか
)
へて
神
(
かみ
)
の
代
(
よ
)
に
324
開
(
ひら
)
かむ
人
(
ひと
)
ぞ
人
(
ひと
)
の
人
(
ひと
)
なる。
325
沸
(
わ
)
きか
えるそん
内
(
ない
)
一同
(
いちどう
)
の
騒
(
さわ
)
ぎをば
326
いかに
静
(
しづ
)
めむ
由
(
よし
)
もなきかな』
327
ジャンク『
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
を
隠
(
かく
)
さむとする
村雲
(
むらくも
)
を
328
払
(
はら
)
はむ
為
(
ため
)
の
今日
(
けふ
)
の
神軍
(
みいくさ
)
。
329
老
(
お
)
いぬれど
吾
(
わが
)
魂
(
たましひ
)
は
若々
(
わかわか
)
と
330
甦
(
よみがへ
)
りつつ
出陣
(
しゆつぢん
)
やせむ。
331
白髪
(
しらがみ
)
を
染
(
そ
)
めて
軍
(
いくさ
)
に
向
(
むか
)
ひたる
332
武士
(
もののふ
)
もあり
吾
(
われ
)
も
習
(
なら
)
はむ。
333
国難
(
こくなん
)
に
殉
(
じゆん
)
ずる
吾
(
われ
)
と
白髪
(
しらがみ
)
の
334
輝
(
かがや
)
きを
見
(
み
)
て
驚
(
おどろ
)
くならむ』
335
照国別
(
てるくにわけ
)
『
面白
(
おもしろ
)
し
神
(
かみ
)
の
任
(
よ
)
さしの
神業
(
かむわざ
)
の
336
一歩
(
いつぽ
)
を
進
(
すす
)
むる
時
(
とき
)
は
来
(
き
)
にけり。
337
オーラ
山
(
さん
)
嵐
(
あらし
)
はいかに
強
(
つよ
)
くとも
338
神
(
かみ
)
の
御息
(
みいき
)
に
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
ふべし。
339
小夜
(
さよ
)
更
(
ふけ
)
て
武士
(
つはもの
)
共
(
ども
)
が
語
(
かた
)
り
合
(
あ
)
ふ
340
軍
(
いくさ
)
の
庭
(
には
)
の
心地
(
ここち
)
するかな。
341
明
(
あ
)
けぬれば
百
(
もも
)
の
軍人
(
いくさ
)
を
率連
(
ひきつ
)
れて
342
バルガン
城
(
じやう
)
に
駒
(
こま
)
を
進
(
すす
)
めむ』
343
梅公
(
うめこう
)
『
駒
(
こま
)
並
(
な
)
めて
大野
(
おほの
)
ケ
原
(
はら
)
を
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
344
勇士
(
ゆうし
)
の
姿
(
すがた
)
吾
(
わが
)
目
(
め
)
に
躍
(
をど
)
るも』
345
照公
(
てるこう
)
『
早
(
はや
)
已
(
すで
)
にバルガン
城
(
じやう
)
の
敵軍
(
てきぐん
)
を
346
討
(
う
)
ち
払
(
はら
)
ひたる
心地
(
ここち
)
しにけり』
347
タクソン『
面白
(
おもしろ
)
し
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
に
従
(
したが
)
ひて
348
神
(
かみ
)
の
軍
(
いくさ
)
の
功績
(
いさをし
)
立
(
た
)
てむ』
349
エルソン『
恋雲
(
こひぐも
)
もいつしか
晴
(
は
)
れて
国
(
くに
)
の
為
(
ため
)
350
世人
(
よびと
)
のために
尽
(
つく
)
さむとぞ
思
(
おも
)
ふ』
351
漸
(
やうや
)
くにしてコケコツコーとテイハ(
鷄
(
にはとり
)
)の
声
(
こゑ
)
、
352
四隣
(
あたり
)
より
聞
(
きこ
)
え
来
(
く
)
る。
353
ジャンクは
先
(
ま
)
づ
立
(
たち
)
上
(
あが
)
り、
354
『もはや
鷄鳴
(
けいめい
)
、
355
皆様
(
みなさま
)
、
356
御
(
ご
)
用意
(
ようい
)
なされませ。
357
いよいよ
出陣
(
しゆつぢん
)
の
時
(
とき
)
近
(
ちか
)
づきました』
358
と
勇気
(
ゆうき
)
凛々
(
りんりん
)
雄健
(
をたけ
)
びし
乍
(
なが
)
ら、
359
マサカの
時
(
とき
)
の
用意
(
ようい
)
と
蓄
(
たくは
)
へおきたる
具足
(
ぐそく
)
をとり
出
(
だ
)
し
武装
(
ぶさう
)
に
着手
(
ちやくしゆ
)
した。
360
かかる
所
(
ところ
)
へ
白髪
(
はくはつ
)
異様
(
いやう
)
の
老翁
(
らうをう
)
現
(
あら
)
はれ
来
(
き
)
たり
361
『
頼
(
たの
)
まう
頼
(
たの
)
まう』と
玄関口
(
げんくわんぐち
)
より
呶鳴
(
どな
)
つてゐる。
362
果
(
はた
)
して
此
(
この
)
老翁
(
らうをう
)
は
何者
(
なにもの
)
だらうか。
363
(
大正一三・一二・一五
旧一一・一九
於祥雲閣
北村隆光
録)
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