霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 愁雲(しううん)退散(たいさん)〔一六八七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻 篇:第1篇 月の高原 よみ(新仮名遣い):つきのこうげん
章:第5章 愁雲退散 よみ(新仮名遣い):しゅううんたいさん 通し章番号:1687
口述日:1924(大正13)年12月15日(旧11月19日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年6月29日
概要: 舞台:タライの村の里庄ジャンクの家 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-07-10 18:37:45 文字数:4781 OBC :rm6605
愛善世界社版:65頁 八幡書店版:第11輯 753頁 修補版: 校定版:65頁 普及版:67頁 初版: ページ備考:
001 トルマン国(ごく)バルガン城(じやう)の国王(こくわう)トルカ王(わう)より勅使(ちよくし)として、002ジャンクの家(いへ)に入(い)り来(きた)りし二人(ふたり)の男(をとこ)はオール、003コースと云(い)ふ。004オールは厳然(げんぜん)として正座(しやうざ)に直(なほ)り、005里庄(りしやう)のジャンクに国王(こくわう)の令(れい)を伝(つた)へた。
006オール『我(わが)トルマン国(ごく)は建国(けんこく)以来(いらい)、007上下(じやうげ)一致(いつち)、008王(わう)と民(たみ)との間(あひだ)は親子(しんし)の如(ごと)く兄弟(きやうだい)の如(ごと)く夫婦(ふうふ)の如(ごと)し。009天恵(てんけい)豊(ゆたか)にして地味(ちみ)は肥(こ)え、010印度(いんど)全国(ぜんこく)の宝庫(はうこ)楽園(らくゑん)と称(しよう)せられ、011国民(こくみん)和楽(わらく)し、012太平(たいへい)の夢(ゆめ)を結(むす)びたること茲(ここ)に三千(さんぜん)年(ねん)なり。013然(しか)るに図(はか)らざりき、014今回(こんくわい)ハルナの都(みやこ)に君臨(くんりん)し玉(たま)ふ大黒主(おほくろぬし)の命(みこと)の軍勢(ぐんぜい)、015ウラル教(けう)征伐(せいばつ)の為(ため)、016遙々(はるばる)軍卒(ぐんそつ)を派遣(はけん)し玉(たま)ふ。017然(しか)るに全軍(ぜんぐん)の将(しやう)たる大足別(おほだるわけ)は性質(せいしつ)暴戻(ばうれい)にして虎狼(こらう)の如(ごと)く、018我(わが)国内(こくない)の民(たみ)を苦(くる)しめ、019婦女(ふぢよ)を姦(かん)し財物(ざいぶつ)を掠奪(りやくだつ)し、020甚(はなはだ)しきは民家(みんか)を焼(や)き、021暴状(ばうじやう)至(いた)らざるなく、022勢(いきほひ)に乗(じやう)じてトルマン国(ごく)の首府(しゆふ)バルガン城(じやう)を攻略(こうりやく)せむとす。023汝(なんぢ)等(ら)忠良(ちうりやう)の民(たみ)、024忠勇(ちうゆう)義烈(ぎれつ)の赤心(せきしん)を発揮(はつき)し、025前古(ぜんこ)未曽有(みぞう)の大国難(だいこくなん)を救(すく)ふべく、026凡(すべ)ての男子(だんし)は十八(じふはつ)才(さい)以上(いじやう)六十(ろくじつ)才(さい)以下(いか)は各(おのおの)武器(ぶき)を携帯(けいたい)し王城(わうじやう)の救援(きうゑん)に向(むか)ふべし。027汝(なんぢ)等(ら)が祖先(そせん)の開(ひら)きし国土(こくど)を守(まも)るは此(この)時(とき)なるべし。028汝(なんぢ)里庄(りしやう)、029村民(そんみん)に吾(わが)意(い)のある所(ところ)を伝達(でんたつ)し、030時(とき)を移(うつ)さず軍(いくさ)に従(したが)ふべし。031トルマン国(ごく)、032バルガン城(じやう)トルカ王(わう)の使者(ししや)オール、033コース、034国王(こくわう)殿下(でんか)の聖旨(せいし)を伝達(でんたつ)するもの也(なり)』
035と読(よ)み聞(き)かすや、036里庄(りしやう)ジャンクは謹(つつし)んで席(せき)を下(くだ)り、
037ジャンク『力(ちから)なき吾々(われわれ)には候(さふら)へど、038御(ご)勅命(ちよくめい)に従(したが)ひ速(すみやか)に義勇軍(ぎゆうぐん)を召集(せうしふ)し、039王城(わうじやう)並(ならび)に国家(こくか)の危難(きなん)に殉(じゆん)じ奉(たてまつ)りませう』
040 勅使(ちよくし)オール、041コースの両人(りやうにん)は「満足(まんぞく)々々(まんぞく)」と笑(ゑみ)を洩(も)らし挨拶(あいさつ)し乍(なが)ら、042ジャンクが勧(すす)むる茶(ちや)も呑(の)まず、043急(いそ)いで玄関口(げんくわんぐち)に立(た)ち出(いで)て、044待(ま)たせおいたる十数(じふすう)名(めい)の士卒(しそつ)と共(とも)にヒラリと駒(こま)に跨(またが)り、045紅(くれなゐ)の手綱(たづな)ゆたかに、046蹄(ひづめ)の音(おと)もカツカツカツと隣村(りんそん)さして進(すす)み行(ゆ)く。
047 ジャンクは照国別(てるくにわけ)一行(いつかう)の居間(ゐま)に帰(かへ)り来(きた)り、048稍(やや)緊張(きんちやう)したる面色(おももち)にて、
049ジャンク『御(ご)一同(いちどう)様(さま)、050えらい失礼(しつれい)を致(いた)しました』
051照国(てるくに)『いや、052どう致(いた)しまして、053勅使(ちよくし)の趣(おもむき)、054如何(いかが)で厶(ござ)いましたか。055実(じつ)は御(ご)心配(しんぱい)申(まをし)上(あ)げて居(を)りました』
056ジャンク『ハイ、057有難(ありがた)う厶(ござ)います。058私(わたし)も、059もはや国家(こくか)の為(ため)一家(いつか)一命(いちめい)を棄(す)てねばならぬ時(とき)が参(まゐ)りました』
060と憂愁(いうしう)に沈(しづ)み、061意気(いき)銷沈(せうちん)しきつたる老人(らうじん)にも似合(にあ)はず、062どこともなく決心(けつしん)の色(いろ)が現(あら)はれて居(ゐ)る。
063照国(てるくに)『一身(いつしん)一家(いつか)を棄(す)てねばならぬとは何事(なにごと)で厶(ござ)いますか』
064ジャンク『只今(ただいま)バルガン城(じやう)のトルカ王(わう)様(さま)よりの御(ご)勅使(ちよくし)によれば、065「印度(いんど)の国(くに)を守(まも)るべき大黒主(おほくろぬし)様(さま)の軍隊(ぐんたい)大足別(おほだるわけ)将軍(しやうぐん)なるもの、066トルマン国(ごく)の城下(じやうか)の民(たみ)を脅(おびや)かし、067民家(みんか)を焼(や)き婦女子(ふぢよし)を奪(うば)ひ人種(ひとだね)を絶(た)やし、068尚(なほ)飽(あ)き足(た)らず王城(わうじやう)を攻(せ)め落(おと)し、069国王(こくわう)を放逐(はうちく)せむとする勢(いきほひ)で厶(ござ)いますれば、070此(この)際(さい)国民(こくみん)は男子(だんし)は十八(じふはつ)才(さい)より六十(ろくじつ)才(さい)以下(いか)のもの、071一人(ひとり)も残(のこ)らず国難(こくなん)に殉(じゆん)ずべし」との御(ご)厳命(げんめい)で厶(ござ)いますれば、072私(わたし)も本年(ほんねん)は五十八(ごじふはち)才(さい)、073老耄(おいぼれ)たりとは云(い)へ、074まだ適齢(てきれい)がかかつてゐます。075もはや娘(むすめ)の事(こと)は断念(だんねん)致(いた)しました。076華々(はなばな)しく軍(いくさ)に従(したが)ひ、077国家(こくか)のために屍(かばね)を山野(さんや)に曝(さら)す覚悟(かくご)で厶(ござ)います』
078照国(てるくに)『成程(なるほど)、079承(うけたまは)れば承(うけたまは)る程(ほど)、080お気(き)の毒(どく)で厶(ござ)います。081国王(こくわう)の御(ご)命令(めいれい)とあらば国民(こくみん)として、082此(この)際(さい)お起(た)ちなさるのが義務(ぎむ)で厶(ござ)いませう。083私(わたし)も宣伝使(せんでんし)として天下(てんか)の害(がい)を除(のぞ)くべく084遙々(はるばる)月(つき)の国(くに)へ神命(しんめい)を受(う)けて参(まゐ)つたので厶(ござ)いますから、085どうか参加(さんか)させて頂(いただ)き度(た)いもので厶(ござ)いますな』
086ジャンク『ハイ、087有難(ありがた)う厶(ござ)います。088何分(なにぶん)よろしく』
089梅公(うめこう)『ア、090先生(せんせい)、091よくお考(かんが)へなさいませ。092善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)を以(もつ)て、093あらゆる万民(ばんみん)を言向(ことむけ)和(やは)す無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)の三五教(あななひけう)では厶(ござ)いませぬか。094殺伐(さつばつ)なる軍隊(ぐんたい)に参加(さんか)し、095砲煙(はうえん)弾雨(だんう)の中(うち)に馳駆(ちく)するのは決(けつ)して宣伝使(せんでんし)の本分(ほんぶん)ぢや厶(ござ)いますまい。096三五教(あななひけう)は決(けつ)して軍国(ぐんこく)主義(しゆぎ)では厶(ござ)いませぬよ』
097照国(てるくに)『ハヽヽヽヽ、098吾々(われわれ)はお前(まへ)の云(い)ふ通(とほ)り、099決(けつ)して敵(てき)を憎(にく)まない。100又(また)殺伐(さつばつ)な人為(じんゐ)的(てき)戦争(せんそう)はやり度(た)くない。101義勇軍(ぎゆうぐん)に参加(さんか)しようと云(い)ふのは傷病者(しやうびやうしや)を救(すく)ひ、102敵味方(てきみかた)の区別(くべつ)なく誠(まこと)の道(みち)を説(と)き諭(さと)し、103平和(へいわ)に解決(かいけつ)し、104このトルマン国(ごく)は申(まを)すに及(およ)ばず、105印度(いんど)七千(しちせん)余国(よこく)の国民(こくみん)を神(かみ)の慈恩(じおん)に浴(よく)せしむる為(ため)だ。106其(その)第一歩(だいいつぽ)として従軍(じゆうぐん)を願(ねが)つて居(ゐ)るのだ』
107梅公(うめこう)『ヤア、108それなら分(わか)りました。109別(べつ)に文句(もんく)もありませぬが、110然(しか)しながら当家(たうけ)の娘(むすめ)スガコ嬢(ぢやう)やサンダーさまはどうなさる考(かんが)へですか。111此(この)方々(かたがた)も見捨(みす)てる訳(わけ)には参(まゐ)りますまい』
112照国(てるくに)『ア、113それも気(き)にかかるが、114それはインカ親分(おやぶん)にお願(ねが)ひしたらどうだ』
115梅公(うめこう)『それもさうですな。116もしジャンク様(さま)、117先生(せんせい)は、118あゝ仰有(おつしや)いますから貴方(あなた)と一緒(いつしよ)に従軍(じゆうぐん)を遊(あそ)ばすなり、119私(わたし)共(ども)はサンヨの妹娘(いもうとむすめ)花香(はなか)さまも救(すく)はねばならず、120当家(たうけ)のスガコさまもサンダーさまも見殺(みごろし)にする訳(わけ)にも行(ゆ)かないから、121此(この)捜策(さうさく)は拙者(せつしや)にお任(まか)せ下(くだ)さいませぬか』
122ジャンク『御(ご)親切(しんせつ)は有難(ありがた)う厶(ござ)いますが、123もはや今日(こんにち)となつては、124娘(むすめ)の事(こと)等(など)云(い)つてる場合(ばあひ)ぢやありませぬ。125国王(こくわう)様(さま)のため国家(こくか)のために全身(ぜんしん)の力(ちから)を尽(つく)さねばなりませぬ。126どうか貴方(あなた)も照国別(てるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)と行動(かうどう)を一にして下(くだ)さいませ。127自分(じぶん)の娘(むすめ)のために宣伝使(せんでんし)様(さま)を頼(たの)んだ128と云(い)はれては末代(まつだい)の恥(はぢ)で厶(ござ)います。129ついてはインカの親分(おやぶん)さま、130貴方(あなた)も国民(こくみん)の一部(いちぶ)、131義勇軍(ぎゆうぐん)の将(しやう)となり、132私(わたし)と一緒(いつしよ)に出陣(しゆつぢん)下(くだ)さいませ。133娘(むすめ)の事(こと)やサンダーの事(こと)は次(つぎ)の次(つぎ)で厶(ござ)いますから』
134インカ『成程(なるほど)、135天晴(あつぱれ)見上(みあ)げたお志(こころざし)、136それでなくては里庄(りしやう)様(さま)とは申(まを)されますまい。137私(わたし)だつて弱(よわ)きを扶(たす)け、138強(つよ)きを挫(くじ)く侠客(けふかく)渡世(とせい)、139国王(こくわう)様(さま)のお達示(たつし)を聞(き)いて、140之(これ)が安閑(あんかん)として居(を)られませうか。141お言葉(ことば)に従(したが)ひ従軍(じゆうぐん)致(いた)しませう』
142タクソン『もし、143ジャンク様(さま)、144イヤ御(ご)主人(しゆじん)様(さま)、145私(わたし)もお伴(とも)致(いた)しませうか』
146ジャンク『イヤ、147其方(そなた)は、148もはや承(うけたまは)れば三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)のお伴(とも)になると云(い)ふ約束(やくそく)をしたさうだ。149トルマン国(ごく)の男子(だんし)の一言(いちごん)は金鉄(きんてつ)も同様(どうやう)だ。150照国別(てるくにわけ)様(さま)のお弟子(でし)として参加(さんか)して下(くだ)さい』
151エルソン『もし里庄(りしやう)様(さま)、152私(わたし)も照国別(てるくにわけ)のお弟子(でし)となりましたが、153国民(こくみん)の一部(いちぶ)として里庄(りしやう)様(さま)と共(とも)に軍(いくさ)に従(したが)ひませうか』
154ジャンク『イヤイヤ貴方(そなた)も、155もはや三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の部下(ぶか)だ。156タクソンと行動(かうどう)を一にするが宜(よ)からう』
157エルソン『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います。158然(しか)らば尊(たふと)き宣伝使(せんでんし)のお伴(とも)を致(いた)し、159剣(つるぎ)を持(も)たず只(ただ)コーランを手(て)にして、160天下(てんか)万民(ばんみん)の為(ため)に最善(さいぜん)の努力(どりよく)を尽(つく)さして頂(いただ)きませう』
161ジャンク『ア、162よしよし、163それで私(わたし)も安心(あんしん)した。164もし照国別(てるくにわけ)様(さま)、165どうか両人(りやうにん)の身(み)の上(うへ)を宜(よろ)しくお願(ねが)ひ申(まを)します』
166照国(てるくに)『ヤ、167感(かん)じ入(い)つたる皆様(みなさま)のお志(こころざし)、168委細(ゐさい)承知(しようち)致(いた)しました』
169 門番(もんばん)のバンコや受付(うけつけ)のセールに命(めい)じ、170村内(そんない)一同(いちどう)に国王(こくわう)の令(れい)を伝(つた)へ、171明朝(みやうてう)を期(き)して出陣(しゆつぢん)すべく伝達(でんたつ)せしめた。172村内(そんない)は俄(にはか)に騒然(さうぜん)として火事場(くわじば)の如(ごと)く殺気(さつき)漲(みなぎ)つて来(き)た。173ジャンクは村(むら)の男子(だんし)を軍隊(ぐんたい)に仕立(した)て、174自(みづか)ら将(しやう)として出陣(しゆつぢん)する事(こと)となつた。
175インカ『吾(わが)村(むら)にも必(かなら)ずや同様(どうやう)の命令(めいれい)下(くだ)りしならむ。176お先(さき)へ御免(ごめん)』
177と云(い)ひ乍(なが)ら一同(いちどう)へ挨拶(あいさつ)をなし、178尻(しり)引(ひき)まくり大地(だいち)をドンドン響(ひび)かせ乍(なが)ら、179飛(と)ぶが如(ごと)くに帰(かへ)り行(ゆ)く。
180 ここに一同(いちどう)は三五(あななひ)の大神(おほかみ)、181バラモンの大神(おほかみ)に前途(ぜんと)の勝利(しようり)を得(え)む為(ため)とて一大(いちだい)祈願(きぐわん)を凝(こ)らし、182首途(かどで)の祝(いはひ)として夜(よ)の明(あ)くる迄(まで)、183直会(なほらひ)の宴(えん)を催(もよほ)した。184何(いづ)れも勇気(ゆうき)頓(とみ)に加(くは)はり185山河(さんか)を呑(の)むの勢(いきほひ)である。186祭典(さいてん)も終(をは)り、187愈(いよいよ)直会(なほらひ)の宴(えん)に移(うつ)り、188酒(さけ)汲(く)み交(かは)して室内(しつない)は和気(わき)靄々(あいあい)恰(あたか)も春(はる)の如(ごと)き空気(くうき)が漂(ただよ)うた。
189 ジャンクは、1891ホロ酔(よ)ひ機嫌(きげん)になつて声(こゑ)も涼(すず)しく二絃琴(にげんきん)を弾(だん)じつつ謡(うた)ひ初(はじ)めた。
190ジャンク『千早(ちはや)振(ふ)る皇(すめ)大神(おほかみ)の造(つく)らしし
191トルマン国(ごく)の目出度(めでた)さは
192時(とき)じく花(はな)の香(か)に匂(にほ)ひ
193果物(くだもの)豊(ゆたか)に実(みの)りつつ
194五穀(ごこく)は栄(さか)え民(たみ)は肥(こ)え
195牛(うし)馬(うま)駱駝(らくだ)羊(ひつじ)豚(ぶた)
196鷄(にはとり)までもよく肥(ふと)り
197天(あめ)の下(した)四方(よも)の国々(くにぐに)安(やす)らけく
198いと平(たひら)けく治(をさ)まりて
199神代(かみよ)の儘(まま)の人心(ひとごころ)
200何(いづ)れの家(いへ)も押(おし)並(な)べて
201怒(いか)り妬(ねた)み悲(かな)しみの
202声(こゑ)さへもなく日(ひ)に夜(よる)に
203歓(えら)ぎ楽(たの)しむ天津国(あまつくに)
204常世(とこよ)の春(はる)を喜(よろこ)びしが
205天津(あまつ)御空(みそら)の日(ひ)の影(かげ)は
206漸(やうや)く光(ひかり)褪(あ)せ給(たま)ひ
207月(つき)の面(おもて)も薄曇(うすぐも)り
208星(ほし)のみ独(ひと)りキラキラと
209瞬(またた)き初(そ)めて何(なん)となく
210此(この)地(ち)の上(うへ)は騒(さわ)がしく
211鳥(とり)の声(こゑ)さへ悲(かな)しげに
212謡(うた)ふ御代(みよ)とはなりにける
213月日(つきひ)は進(すす)み星(ほし)移(うつ)り
214天(あめ)の下(した)なる民草(たみぐさ)の
215心(こころ)は漸(やうや)く曇(くも)り果(は)て
216強(つよ)きは強(つよ)く弱(よわ)きもの
217虐(しひた)げられて秋(あき)の夜(よ)の
218霜(しも)に悩(なや)める虫(むし)の如(ごと)
219怨嗟(ゑんさ)の声(こゑ)は満(み)ち満(み)ちぬ
220人(ひと)の心(こころ)は日(ひ)に月(つき)に
221益々(ますます)悪(あし)く曇(くも)り果(は)て
222山(やま)の尾(を)の上(へ)や河(かは)の瀬(せ)に
223荒(あら)ぶる神(かみ)の屯(たむろ)して
224又(また)もや民家(みんか)を苦(くる)しめつ
225人(ひと)の妻女(さいぢよ)を奪(うば)ひ取(と)り
226悪(あし)き災(わざはひ)日(ひ)に月(つき)に
227相重(あひかさ)なりて国人(くにびと)は
228薄(うす)き氷(こほり)を踏(ふ)む如(ごと)く
229涙(なみだ)に咽(むせ)ぶ折(をり)もあれ
230大足別(おほだるわけ)の率(ひき)ゐたる
231醜(しこ)の曲霊(まがひ)の軍人(いくさびと)
232弥(いや)益々(ますます)に醜業(しこわざ)の
233募(つの)り来(きた)りてトルマンの
234国(くに)をば荒(あ)らし国主(こきし)まで
235打(うち)滅(ほろぼ)して欲望(よくばう)を
236遂(と)げむとするぞ忌々(ゆゆ)しけれ
237あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
238神(かみ)の此(この)世(よ)に在(ま)すならば
239我(わが)国民(くにたみ)の災(わざはひ)を
240一日(ひとひ)も早(はや)く除(のぞ)きませよ
241バルガン城(じやう)は永久(とこしへ)に
242トルカの国主(こきし)は幾千代(いくちよ)も
243寿(ことぶき)長(なが)く栄(さか)えまし
244トルマン国(ごく)を包(つつ)みたる
245醜(しこ)の雲霧(くもきり)吹(ふ)き払(はら)ひ
246再(ふたた)び天土(あめつち)晴明(せいめい)の
247珍(うづ)の世界(せかい)に還(かへ)しませ
248吾(われ)は老木(おいき)の行末(ゆくすゑ)の
249いとも短(みじか)き身(み)なれども
250一(ひと)つの生命(いのち)を国(くに)の為(た)め
251君(きみ)の御(おん)為(ため)献(たてまつ)り
252万民(ばんみん)安堵(あんど)の道(みち)のため
253捧(ささ)げ奉(まつ)らむ吾(わ)が生命(いのち)
254諾(うべ)なひ給(たま)へ三五(あななひ)の
255神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大御神(おほみかみ)
256梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
257大国彦(おほくにひこ)の大御神(おほみかみ)
258偏(ひとへ)に願(ねが)ひ奉(たてまつ)る
259あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
260御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ
261御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
262 照国別(てるくにわけ)は又(また)謡(うた)ふ。
263照国別(てるくにわけ)『蒼空(さうくう)一点(いつてん)雲(くも)もなく
264日月(じつげつ)星辰(せいしん)明(あきら)かに
265輝(かがや)き亘(わた)る世(よ)の中(なか)も
266天(てん)に風雨(ふうう)のなやみあり
267地(ち)には地震(ないふる)洪水(こうずい)の
268百(もも)の災(わざはひ)湧(わ)き来(きた)る
269浪(なみ)静(しづ)かなる大海(おほうみ)も
270只(ただ)一塊(いつくわい)の雨雲(あまぐも)の
271中(なか)より吹(ふ)き来(く)る荒風(あらかぜ)に
272波(なみ)立(た)ち騒(さわ)ぎ島々(しまじま)を
273呑(の)まむ例(ためし)もあるものを
274此(この)地(ち)の上(うへ)に住(す)む人(ひと)は
275如何(いか)で悩(なや)みのなかるべき
276天変(てんぺん)地妖(ちえう)ある毎(ごと)に
277世(よ)は晦冥(くわいめい)に進(すす)み行(ゆ)く
278かかる汚(けが)れし世(よ)の中(なか)は
279一度(ひとたび)天地(てんち)の大神(おほかみ)の
280大活動(だいくわつどう)を要(えう)すべし
281バラモン軍(ぐん)や醜神(しこがみ)の
282醜(しこ)の猛(たけ)びは強(つよ)くとも
283誠(まこと)一(ひと)つの三五(あななひ)の
284神(かみ)の光(ひかり)に敵(てき)すべき
285心(こころ)安(やす)けくましませよ
286大日(おほひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
287月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
288天(てん)は地(ち)となり地(ち)は天(てん)に
289上(のぼ)る激変(げきへん)あるとても
290只(ただ)惟神(かむながら)々々(かむながら)
291神(かみ)に任(まか)せし身(み)にしあれば
292いかなる事(こと)も恐(おそ)れむや
293仰(あふ)ぎ敬(うやま)へ神(かみ)の徳(とく)
294祝(いは)へよ祝(いは)へ神(かみ)の恩(おん)
295神(かみ)は吾(われ)等(ら)と倶(とも)にあり
296神(かみ)は汝(なれ)等(ら)と倶(とも)に在(ま)す
297人(ひと)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
298誠(まこと)の神(かみ)に敵(てき)すべき
299曲霊(まがひ)の如何(いか)で来(きた)るべき
300あゝ勇(いさ)ましし勇(いさ)ましし
301今(いま)神軍(しんぐん)の首途(かどいで)に
302ジャンクの君(きみ)を初(はじ)めとし
303梅公(うめこう)、照公(てるこう)、タクソンや
304エルソン司(つかさ)と諸共(もろとも)に
305神(かみ)の御前(みまへ)に慴伏(ひれふ)して
306前途(ぜんと)の幸(さち)を祈(いの)るこそ
307実(げ)に壮快(さうくわい)の至(いた)りなり
308あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
309御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ
310御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
311梅公(うめこう)『思(おも)ひきや軍(いくさ)の庭(には)に立(た)たむとは
312今(いま)の今(いま)迄(まで)さとらざりけり。
313さり乍(なが)ら吾(われ)は神軍(しんぐん)言霊(ことたま)の
314武器(ぶき)より外(ほか)に持(も)つものはなし』
315照公(てるこう)『大空(おほぞら)に日(ひ)は照公(てるこう)の吾(われ)なれば
316あわてる事(こと)は一(ひと)つも要(い)らず。
317照国(てるくに)の別(わけ)の命(みこと)に従(したが)ひて
318道照公(みちてるこう)の吾(われ)は進(すす)まむ』
319タクソン『照国別(てるくにわけ)神(かみ)の命(みこと)の御(ご)威勢(ゐせい)に
320吾(われ)は全(まつ)たくそん敬(けい)をぞする。
321おめでたくそん厳(げん)無比(むひ)の大神(おほかみ)の
322御前(みまへ)に幸(さち)を祈(いの)る嬉(うれ)しさ』
323エルソン『常暗(とこやみ)の世(よ)を立替(たてか)へて神(かみ)の代(よ)に
324開(ひら)かむ人(ひと)ぞ人(ひと)の人(ひと)なる。
325沸(わ)きかえるそん内(ない)一同(いちどう)の騒(さわ)ぎをば
326いかに静(しづ)めむ由(よし)もなきかな』
327ジャンク『天津(あまつ)日(ひ)を隠(かく)さむとする村雲(むらくも)を
328払(はら)はむ為(ため)の今日(けふ)の神軍(みいくさ)。
329老(お)いぬれど吾(わが)魂(たましひ)は若々(わかわか)と
330甦(よみがへ)りつつ出陣(しゆつぢん)やせむ。
331白髪(しらがみ)を染(そ)めて軍(いくさ)に向(むか)ひたる
332武士(もののふ)もあり吾(われ)も習(なら)はむ。
333国難(こくなん)に殉(じゆん)ずる吾(われ)と白髪(しらがみ)の
334輝(かがや)きを見(み)て驚(おどろ)くならむ』
335照国別(てるくにわけ)『面白(おもしろ)し神(かみ)の任(よ)さしの神業(かむわざ)の
336一歩(いつぽ)を進(すす)むる時(とき)は来(き)にけり。
337オーラ山(さん)嵐(あらし)はいかに強(つよ)くとも
338神(かみ)の御息(みいき)に吹(ふ)き払(はら)ふべし。
339小夜(さよ)更(ふけ)て武士(つはもの)共(ども)が語(かた)り合(あ)ふ
340軍(いくさ)の庭(には)の心地(ここち)するかな。
341明(あ)けぬれば百(もも)の軍人(いくさ)を率連(ひきつ)れて
342バルガン城(じやう)に駒(こま)を進(すす)めむ』
343梅公(うめこう)『駒(こま)並(な)めて大野(おほの)ケ原(はら)を進(すす)み行(ゆ)く
344勇士(ゆうし)の姿(すがた)吾(わが)目(め)に躍(をど)るも』
345照公(てるこう)『早(はや)已(すで)にバルガン城(じやう)の敵軍(てきぐん)を
346討(う)ち払(はら)ひたる心地(ここち)しにけり』
347タクソン『面白(おもしろ)し吾(わが)師(し)の君(きみ)に従(したが)ひて
348神(かみ)の軍(いくさ)の功績(いさをし)立(た)てむ』
349エルソン『恋雲(こひぐも)もいつしか晴(は)れて国(くに)の為(ため)
350世人(よびと)のために尽(つく)さむとぞ思(おも)ふ』
351 漸(やうや)くにしてコケコツコーとテイハ(鷄(にはとり))[※「テイハ」はモンゴル語で「鶏」を意味する「tahia(タヒア)」のこと。本巻は王仁三郎がモンゴルから帰国後、入蒙記を書き、その次に書いた巻(序文参照)のため、モンゴル語がたびたび登場する。]の声(こゑ)、352四隣(あたり)より聞(きこ)え来(く)る。353ジャンクは先(ま)づ立(たち)上(あが)り、
354ジャンク『もはや鷄鳴(けいめい)、355皆様(みなさま)、356御(ご)用意(ようい)なされませ。357いよいよ出陣(しゆつぢん)の時(とき)近(ちか)づきました』
358と勇気(ゆうき)凛々(りんりん)雄健(をたけ)びし乍(なが)ら、359マサカの時(とき)の用意(ようい)と蓄(たくは)へおきたる具足(ぐそく)をとり出(だ)し武装(ぶさう)に着手(ちやくしゆ)した。
360 かかる所(ところ)へ白髪(はくはつ)異様(いやう)の老翁(らうをう)現(あら)はれ来(き)たり361『頼(たの)まう頼(たの)まう』と玄関口(げんくわんぐち)より呶鳴(どな)つてゐる。362果(はた)して此(この)老翁(らうをう)は何者(なにもの)だらうか。
363(大正一三・一二・一五 旧一一・一九 於祥雲閣 北村隆光録)
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