霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 八百長(やほちやう)劇(げき)〔一六九二〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm6610
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 ヨリコ姫(ひめ)の大頭目(だいとうもく)を始(はじ)め、002シーゴー、003玄真坊(げんしんばう)の三(さん)人(にん)は酒(さけ)汲(く)み交(か)はし、004いろいろと面白(おもしろ)からぬ協議(けふぎ)に耽(ふけ)つてゐた。005そこへ慌(あわ)ただしく手下(てした)の一人(ひとり)現(あら)はれ来(きた)り、
006『親分(おやぶん)に申(まをし)上(あ)げます』
007ヨリコ『慌(あわ)ただしき其(その)様子(やうす)、008何事(なにごと)が起(おこ)つたのかなア、009お前(まへ)はコリぢやないか』
010コリ『ハイ、011左様(さやう)で厶(ござ)います。012シーゴー親分(おやぶん)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)に依(よ)り、013タライの村(むら)の里庄(りしやう)が家(いへ)に十数(じふすう)人(にん)を率(ひき)つれ、014夜陰(やいん)に乗込(のりこ)み、015たうとう絶世(ぜつせい)の美人(びじん)スガコ姫(ひめ)を引(ひつ)捉(とら)へて帰(かへ)り、016狼谷(シノワだに)の入口(いりぐち)に於(おい)て、017吾々(われわれ)同僚(どうれう)が芝居(しばゐ)をやつてゐる所(ところ)で厶(ござ)いますから、018どうか救世主(きうせいしゆ)として、019御(お)一人(ひとり)現(あら)はれ下(くだ)さいませ』
020ヨリコ『ソリヤ可(い)い事(こと)をした。021あしこの娘(むすめ)ならば随分(ずいぶん)美人(びじん)だらう。022そして沢山(たくさん)の金(かね)も要求(えうきう)出来(でき)るだらう。023ヤ、024面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い。025オイ、026コリ、027あの娘(むすめ)をかつさらへるに付(つ)いての殊勲者(しゆくんじや)は誰(たれ)だ』
028コリ『ハイ、029兎(と)も角(かく)私(わたし)が引率(いんそつ)して参(まゐ)つたのですから、030誰(たれ)がかつさらへても、031ヤツパリ私(わたし)の凡(すべ)ての画策(くわくさく)宜(よろ)しきを得(え)た結果(けつくわ)で厶(ござ)いますから、032先(ま)づ月桂冠(げつけいくわん)は此(この)コリに帰(き)すべきものと存(ぞん)じます』
033ヨリコ『自分(じぶん)が生(うま)れた村(むら)の娘(むすめ)と聞(き)けば、034何(なん)だか恥(はづか)しいやうだ。035そして面(かほ)を見(み)られちや大変(たいへん)だから、036妾(わたし)は天王(てんわう)の社(やしろ)の床下(ゆかした)なる地下室(ちかしつ)に住居(ぢうきよ)を移(うつ)さう。037玄真坊(げんしんばう)、038コリ、039お前(まへ)両人(りやうにん)寄(よ)つて、040よきに取計(とりはか)らうたが宜(よ)からう』
041 両人(りやうにん)は『ハイ』と頭(かしら)を下(さ)げ、042能(よ)い椋鳥(むくどり)が捉(つか)まつた……と俯向(うつむ)いたまま、043ホクソ笑(ゑ)んでゐる。
044ヨリコ『コレ、045シーゴー殿(どの)、046吾(わが)居間(ゐま)に跟(つ)いて来(き)て下(くだ)さい。047お前(まへ)さまには又(また)別(べつ)の用(よう)があるから』
048と云(い)ひ乍(なが)ら、049シーゴーを伴(ともな)ひ、050地下室(ちかしつ)に帰(かへ)り行(ゆ)く。051玄真坊(げんしんばう)は厳(いかめ)しき法服(ほふふく)をつけ、052錫杖(しやくぢやう)をガチヤガチヤと響(ひび)かせ乍(なが)ら、053七(なな)つ下(さが)りの山路(やまみち)を法螺貝(ほらがひ)を吹(ふき)立(た)て吹(ふき)立(た)て降(くだ)り行(ゆ)く。
054 狼谷(シノワだに)の入口(いりぐち)に十五六(じふごろく)人(にん)の手下(てした)共(ども)が、055一人(ひとり)の美人(びじん)を中(なか)におき、
056甲(かふ)(ショール)『オイ、057女(をんな)、058汝(きさま)は今(いま)迄(まで)栄燿(えいえう)栄華(えいぐわ)に、059何(なに)不自由(ふじゆう)なく、060里庄(りしやう)の娘(むすめ)として暮(くら)して来(き)た奴(やつ)だが、061最早(もはや)汝(きさま)の運命(うんめい)もツキの国(くに)だ。062サア之(これ)から因果腰(いんぐわごし)を定(き)めて、063此(この)方(はう)の女房(にようばう)になるか、064厭(いや)と吐(ぬか)さば、0641此(この)方(はう)が刀(かたな)の錆(さび)、065性念(しやうねん)をすゑてシツカリ返答(へんたふ)を致(いた)すが可(よ)からうぞ』
066女(をんな)(スガコ)『お前(まへ)さまは、067此(この)山(やま)に割拠(かつきよ)してゐる小盗児(こぬすと)サンだな。068同(おな)じ人間(にんげん)に生(うま)れ乍(なが)ら、069なぜ又(また)こんな卑怯(ひけふ)な商売(しやうばい)をしてゐるのだい。070自在天(じざいてん)様(さま)の御(ご)冥罰(めいばつ)が怖(おそ)ろしくはありませぬか』
071甲(かふ)(ショール)『アツハヽヽヽ、072大自在天(だいじざいてん)がこはくつて、073こんな商売(しやうばい)が出来(でき)るか、074馬鹿(ばか)な事(こと)をいふな。075どうだ一(ひと)つ、076改心(かいしん)して泥棒(どろばう)様(さま)の奥様(おくさま)になり、077女盗賊(をんなたうぞく)の頭目(とうもく)として羽振(はぶり)を利(き)かす気(き)はないか』
078女(をんな)(スガコ)『エー、079汚(けが)らはしい、080小泥棒(こどろばう)の分際(ぶんざい)として貴婦人(きふじん)に向(むか)つて何(なに)をいふのだ。081さがりおらう!』
082甲(かふ)(ショール)『アツハヽヽヽ、083チヨツクとやりよるワイ。084流石(さすが)は里庄(りしやう)の娘(むすめ)丈(だけ)あつて、085どこともなく魂(たましひ)が出来(でき)てゐる、086ヤ、087感心(かんしん)々々(かんしん)。088其(その)魂(たましひ)を見込(みこ)んで、089此(この)方(はう)が惚(ほれ)たのだ。090お前(まへ)は俺(おれ)を小盗児(こぬすと)といふが、091決(けつ)して其(その)様(やう)な者(もの)ではない。092トルマン国(ごく)のバルガン城下(じやうか)に生(うま)れたショールさまといふ立派(りつぱ)な男(をとこ)だよ。093男(をとこ)の中(なか)の男(をとこ)といはれた哥兄(あにき)だ。094俺(おれ)が腮(あご)の振(ふ)り方(かた)で、095お前(まへ)の命(いのち)が助(たす)からうと助(たす)かるまいと、096自由(じいう)自在(じざい)の権力(けんりよく)をもつ男(をとこ)だ。097どうだ、098一(ひと)つ考(かんが)へ直(なほ)して、099俺(おれ)の奥(おく)になる気(き)はないか』
100乙(おつ)『ショールさま、101エ、102邪魔(じやま)臭(くさ)い、103こんな尼(あま)ツチヨに相手(あひて)になつてたら、104日(ひ)が暮(く)れますよ。105サ、106たたんだり たたんだり。107コリの親分(おやぶん)が帰(かへ)つて来(き)たら、108何(なん)と云(い)つて小言(こごと)をつかれるか分(わか)らぬ。109こんな婦女(あま)の一疋(いつぴき)や半疋(はんぴき)に手古(てこ)ずつたとあつちや男(をとこ)が立(た)たねえ。110オイ皆(みな)の奴(やつ)111やつつけろ』
112 『ヨーシ合点(がつてん)だ』と一同(いちどう)は柄物(えもの)を取(と)つて、113一人(ひとり)の女(をんな)に向(むか)ひ打(う)つてかかる。114女(をんな)も強者(しれもの)、115身構(みがまえ)なし、116柳眉(りうび)を逆立(さかだ)て、
117女(をんな)(スガコ)『タカが小泥棒(こどろばう)の十(じふ)人(にん)や二十(にじふ)人(にん)、118何(なん)の怖(おそ)るる事(こと)あらむや。119日頃(ひごろ)覚(おぼ)えし柔術(じうじゆつ)の妙技(めうぎ)を現(あら)はすは此(この)時(とき)だ。120サア来(こ)い、121来(きた)れ』
122と大手(おほで)を拡(ひろ)げて待(ま)つてゐる。
123『何(なに)猪口才(ちよこさい)な』
124と一同(いちどう)は、125武者振(むしやぶり)ついて、1251手(て)を取(と)り足(あし)を取(と)り126忽(たちま)ち地上(ちじやう)に捻伏(ねぢふ)せて了(しま)つた。
127ショール『コリヤ女(をんな)、128ジタバタしてもモウ駄目(だめ)だ。129サア俺(おれ)の心(こころ)に従(したが)ふか、130何(ど)うだ、131其(その)方(はう)の一言(いちごん)に依(よ)つて、132汝(きさま)の生死(せいし)が分(わか)るるのだ』
133女(をんな)(スガコ)『エー、134汚(けが)らはしい、135妾(わらは)はタライの村(むら)の里庄(りしやう)が娘(むすめ)スガコ姫(ひめ)だ。136汝(なんぢ)が如(ごと)き心(こころ)汚(けが)れし小泥棒(こどろぼう)に靡(なび)く様(やう)な女(をんな)ではないぞ。137殺(ころ)したくば殺(ころ)したがよい。138惜(をし)まれて散(ち)るのが花(はな)の値打(ねうち)だ。139サア殺(ころ)せ殺(ころ)せ』
140と呼(よ)ばはつてゐる。141ショールも……早(はや)く玄真坊(げんしんばう)が来(き)て呉(く)れないかなア……と稍(やや)手持(てもち)無沙汰(ぶさた)の気味(きみ)でまつてゐると、142ブーブーと法螺(ほら)を吹(ふき)立(た)て乍(なが)ら、143ガチヤリ ガチヤリと急坂(きふはん)を下(くだ)つて来(く)る男(をとこ)がある。144彼(かれ)はコリの注進(ちうしん)によりて、145此(この)芝居(しばゐ)の処置(しよち)をつけむ為(ため)、146修験者(しゆげんじや)の法服(ほふふく)を纒(まと)うてやつて来(き)た玄真坊(げんしんばう)である。147玄真坊(げんしんばう)はあたりに響(ひび)く大音声(だいおんじやう)にて、
148玄真(げんしん)『吾(わ)れこそは、149天(てん)の命(めい)を受(う)け、150オーラ山(さん)に天降(あまくだ)りたる玄真坊(げんしんばう)の大(だい)救世主(きうせいしゆ)だ。151見(み)ればかよわき女(をんな)を拐(かどは)かし、152乱暴(らんばう)狼藉(らうぜき)を働(はたら)き居(を)る、153こわつぱの企(たく)みと見(み)えたり。154待(ま)てツ、155今(いま)に神譴(しんけん)を加(くは)へくれむ、156そこ動(うご)くなツ』
157と呼(よ)ばはる声(こゑ)に、158ショール初(はじ)め部下(ぶか)の者共(ものども)は、159ヤレ幸(さいはひ)と、160蜘蛛(くも)の子(こ)を散(ち)らすが如(ごと)く、161バラバラバツと逃(に)げ出(だ)し遠(とほ)く姿(すがた)をかくした。162スガコ姫(ひめ)は余(あま)りの無念(むねん)さ、163残念(ざんねん)さに白歯(しらは)をくひしばり、164嗚咽(をえつ)涕泣(ていきふ)してゐる。165玄真坊(げんしんばう)は側(そば)近(ちか)くより来(きた)り、166静(しづか)に姫(ひめ)の頭(あたま)や背中(せなか)を撫(な)で167一入(ひとしほ)静(しづか)なやさしみのある声(こゑ)で、
168玄真(げんしん)『どこのお女中(ぢよちう)か知(し)らぬが、169えらい御(ご)災難(さいなん)で厶(ござ)つたのう。170最早(もはや)拙僧(せつそう)の現(あら)はれた上(うへ)は御(ご)安心(あんしん)なさい。171テも偖(さて)も危(あぶな)い所(ところ)で厶(ござ)つたワイ』
172スガコ『何(いづ)れの方(かた)かは存(ぞん)じませぬが、173妾(わらは)の命(いのち)の瀬戸際(せとぎは)をお助(たす)け下(くだ)さいまして有難(ありがた)う存(ぞん)じます。174貴方(あなた)は何(いづ)れの神(かみ)様(さま)で厶(ござ)いますか、175恐(おそ)れながら御(お)名(な)を承(うけたまは)りたう厶(ござ)います』
176玄真(げんしん)『拙僧(せつそう)は天(てん)を父(ちち)となし、177地(ち)を母(はは)となし、178宇宙(うちう)の主宰(しゆさい)となり、179トルマン国(ごく)を救済(きうさい)の為(ため)、1791此(この)オーラ山(さん)に聖蹟(せいせき)を止(とど)め、180斯(かく)の如(ごと)く修験者(しゆげんじや)と変化(へんげ)して衆生(しゆじやう)済度(さいど)を致(いた)す者(もの)、181最早(もはや)吾(わが)目(め)にかかりし上(うへ)は、182如何(いか)なる曲神(まががみ)と雖(いへど)、183貴女(あなた)が体(からだ)に一指(いつし)だもそへる事(こと)は出来(でき)ない。184御(ご)安心(あんしん)なさい』
185スガコ『どうも有難(ありがた)う厶(ござ)います。186貴方(あなた)が噂(うはさ)に高(たか)きオーラ山(さん)の玄真坊(げんしんばう)様(さま)で厶(ござ)いますか、187これも全(まつた)く神(かみ)様(さま)の御(お)引合(ひきあは)せ、188何(なに)かの御縁(ごえん)で厶(ござ)いませう。189妾(わらは)はタライの村(むら)の里庄(りしやう)が娘(むすめ)、190親(おや)一人(ひとり)子(こ)一人(ひとり)の憐(あはれ)な者(もの)で厶(ござ)いますが、191昨夜(さくや)泥棒(どろばう)の団体(だんたい)に踏(ふ)み込(こ)まれ、192猿轡(さるぐつわ)を篏(は)められて広(ひろ)い原野(げんや)を引(ひき)廻(まは)され、193今(いま)又(また)この処(ところ)に於(おい)て泥棒頭(どろぼうがしら)が無体(むたい)の恋慕(れんぼ)、194彼(かれ)が意(い)に従(したが)はざる為(ため)、195妾(わらは)が命(いのち)を取(と)らむと致(いた)し、196大勢(おほぜい)寄(よ)つてかかつて捻(ねぢ)伏(ふ)せてをりました一刹那(いつせつな)、197尊(たふと)き法螺貝(ほらがひ)の声(こゑ)が聞(きこ)えたかと思(おも)へば、198救世主(きうせいしゆ)様(さま)の御(ご)来臨(らいりん)、199おかげで危(あやふ)い所(ところ)を助(たす)けて頂(いただ)きました、200幾重(いくへ)にも御(おん)礼(れい)申(まをし)上(あ)げます』
201玄真(げんしん)『イヤ、202御(お)礼(れい)を言(い)はれては困(こま)る。203天(あめ)が下(した)の万民(ばんみん)は皆(みな)吾(わが)子(こ)だ、204吾(わが)弟子(でし)だ。205親(おや)が子(こ)の危急(ききふ)を救(すく)ふのは当然(たうぜん)だ、206決(けつ)して礼(れい)をいふにや及(およ)ばぬ。207サア之(これ)から此(この)方(はう)と共(とも)に、208オーラ山(さん)の聖場(せいぢやう)へ行(い)つて休(やす)まうぢやないか』
209スガコ『ハイ御(ご)親切(しんせつ)有難(ありがた)う厶(ござ)いますが、210吾(わが)家(や)におきましては、211父(ちち)は申(まを)すに及(およ)ばず、212家(いへ)の子(こ)共(ども)が上(うへ)を下(した)へと、213妾(わらは)を探(たづ)ねて心配(しんぱい)をして居(を)りませうから、214何卒(なにとぞ)父(ちち)の家(いへ)迄(まで)送(おく)つて頂(いただ)く訳(わけ)には参(まゐ)りますまいか。215そして十日(とをか)も二十日(はつか)も百(ひやく)日(にち)も御(ご)逗留(とうりう)下(くだ)さいまして、216里人(さとびと)に結構(けつこう)な恵(めぐ)みを御(お)与(あた)へ下(くだ)さいますまいか』
217玄真(げんしん)『そなたの望(のぞ)み、218聞(き)いてやりたいは山々(やまやま)なれど、219此(この)玄真坊(げんしんばう)は七(なな)つ下(さが)ると、220天地(てんち)の神々(かみがみ)と相談(さうだん)を致(いた)さねばならず、221星(ほし)は天(てん)より下(くだ)り大杉(おほすぎ)の梢(こずゑ)に止(とど)まつて、222吾(わが)教説(けうせつ)を聞(き)きに来(く)る……といふやうな次第(しだい)であるから、223今(いま)少時(しばし)里方(さとがた)へ出(で)る訳(わけ)に行(ゆ)かぬ。224さうだと云(い)つて、225お前(まへ)を一人(ひとり)、226此(この)儘(まま)帰(かへ)せば、227又(また)もや泥棒(どろばう)の難(なん)に会(あ)はぬとも保証(ほしよう)し難(がた)い。228それ故(ゆゑ)今(いま)少時(しばし)、229此(この)方(はう)と共(とも)にオーラ山(さん)の聖場(せいぢやう)に詣(まう)でて、230天王(てんわう)の社(やしろ)に感謝(かんしや)祈願(きぐわん)の誠(まこと)を捧(ささ)げ、231少時(しばし)逗留(とうりう)致(いた)したが可(よ)からう。232貴方(そなた)の父上(ちちうへ)には、233此(この)方(はう)より人(ひと)をつかはし、234報告(はうこく)をしておくから軈(やが)て迎(むか)へにみえるだらう。235救世主(きうせいしゆ)の言葉(ことば)に二言(にごん)はない。236サアサア此(この)方(はう)に従(つ)いてお出(いで)なされ』
237スガコ『さう御(ご)親切(しんせつ)に仰有(おつしや)つて下(くだ)されば、238否(いな)む訳(わけ)には参(まゐ)りませぬ。239左様(さやう)なれば不束(ふつつか)な妾(わらは)、240少時(しばし)御(ご)厄介(やくかい)に預(あづ)かりませう』
241玄真(げんしん)『ウン、242ヨシヨシ、243流石(さすが)は明察(めいさつ)の淑女(しゆくぢよ)、244否(いな)賢女(けんぢよ)だ』
245とほめそやし乍(なが)ら、246スガコの手(て)を引(ひ)いて、247コツリコツリと急阪(きふはん)を登(のぼ)り、248おのが住家(すみか)へと帰(かへ)り行(ゆ)く。249早(はや)くも日(ひ)は山(やま)の頂(いただき)に没(ぼつ)し、250四辺(あたり)は薄暗(うすぐら)く、251大杉(おほすぎ)の梢(こずゑ)には燦爛(さんらん)なる妖星(えうせい)の光(ひかり)が輝(かがや)いてゐた。252玄真坊(げんしんばう)は頭上(づじやう)の光(ひかり)を指(ゆび)ざし[*「ざ」はママ]、253笑(ゑみ)を満面(まんめん)に湛(たた)へ乍(なが)ら、
254玄真(げんしん)『コレコレお女中(ぢよちう)、255あの梢(こずゑ)を御覧(ごらん)なさい、256あの通(とほ)り、257日(ひ)の暮(く)れるが最後(さいご)、258天(てん)からお星(ほし)様(さま)がお降(くだ)りになり、259救世主(きうせいしゆ)の教説(けうせつ)を聞(き)かんとお待(ま)ち兼(かね)だ』
260 スガコは頭上(づじやう)を打仰(うちあふ)ぎ乍(なが)ら、261目(め)も眩(まばゆ)き光(ひかり)の梢(こずゑ)に散在(さんざい)せるを見(み)て、262且(か)つ驚(おどろ)き且(か)つ怪(あや)しみ乍(なが)ら、263青(あを)い面(かほ)して慄(ふる)うてゐる。264玄真坊(げんしんばう)は此(この)態(さま)を見(み)て高笑(たかわら)ひ、
265玄真(げんしん)『アハヽヽヽ、266流石(さすが)は深窓(しんさう)に育(そだ)つたお嬢(ぢやう)さまだなア。267天(てん)からお降(くだ)りになつたお星(ほし)様(さま)がこわいと見(み)える。268其(その)青(あを)い顔(かほ)……』
269スガコ『玄真坊(げんしんばう)様(さま)、270余(あま)りの御(ご)神徳(しんとく)の高(たか)さに、271妾(わらは)は肝(きも)をとられました。272何(なん)と不思議(ふしぎ)な事(こと)があるもので厶(ござ)いますなア。273天地(てんち)開闢(かいびやく)以来(いらい)274お星(ほし)様(さま)が降(くだ)つて教(をしへ)を聞(き)かれるといふ事(こと)は、275言置(いひおき)にも書置(かきおき)にも厶(ござ)いませぬ。276思(おも)へば思(おも)へば貴方(あなた)様(さま)は絶対(ぜつたい)無限(むげん)の神権(しんけん)を備(そな)へて入(い)らつしやる活神(いきがみ)様(さま)の御(ご)化身(けしん)で厶(ござ)いませう、277余(あま)り有難(ありがた)くつて御(お)礼(れい)の申(まをし)様(やう)も厶(ござ)いませぬ』
278玄真(げんしん)『お前(まへ)は実(じつ)に見上(みあ)げた才媛(さいえん)だ、279此(この)方(はう)の魂(みたま)の素性(すじやう)をよくもそこ迄(まで)看破(かんぱ)したなア。280お前(まへ)は尋常(ただ)の人間(にんげん)ではない。281尊(たふと)き或(ある)女神(めがみ)様(さま)の化身(けしん)だよ』
282スガコ『ホヽヽヽ、283勿体(もつたい)ない、284妾(わらは)の如(ごと)き賤(いや)しき女(をんな)に向(むか)ひ女神(めがみ)の化身(けしん)だなどとは、285玄真坊(げんしんばう)さま、286御(ご)冗談(じやうだん)も程(ほど)が厶(ござ)いますよ、287貴方(あなた)も人(ひと)が悪(わる)う厶(ござ)いますな。288さう揶揄(からかつ)て頂(いただ)きますと、289知(し)らず知(し)らずに慢心(まんしん)致(いた)しますからなア』
290玄真(げんしん)『イヤ決(けつ)して揶揄(からかふ)のではない、291救世主(きうせいしゆ)の言葉(ことば)には嘘(うそ)詐(いつは)りはない筈(はず)だ。292拙僧(せつそう)の言葉(ことば)は神(かみ)の言葉(ことば)だ。293スガコ殿(どの)、294安心(あんしん)をなされよ』
295スガコ『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います、296そんなら少時(しばらく)、297魂(みたま)の素性(すじやう)が分(わか)る迄(まで)、298貴方(あなた)のお側(そば)において頂(いただ)きたいもので厶(ござ)いますなア』
299玄真(げんしん)『ヨシヨシ、300それが可(よ)からう、301お前(まへ)は第一(だいいち)霊国(れいごく)の天人(てんにん)の天降(あまくだ)りだ。302八百万(やほよろづ)の神(かみ)に云(い)ひつけて、303天国(てんごく)の身許(みもと)調(しら)べをしてやらう。304ここ一(いつ)週間(しうかん)の中(うち)には、305お前(まへ)の素性(すじやう)が判然(はつきり)と分(わか)るだらう』
306スガコ『ハイ、307有難(ありがた)う御座(ござ)います、308何分(なにぶん)宜(よろ)しく御(お)願(ねが)ひ致(いた)します』
309 スガコは相当(さうたう)の教育(けういく)もあり、310凡人(ぼんじん)にすぐれた智慧(ちゑ)も有(も)つてゐた、311そして天性(てんせい)の美人(びじん)であつた。312併(しか)し乍(なが)ら何(なに)程(ほど)賢明(けんめい)な婦人(ふじん)でも思(おも)はぬ厄難(やくなん)に会(あ)ひ、313九死(きうし)一生(いつしやう)の場合(ばあひ)、314思(おも)はぬ人(ひと)に助(たす)けられ、315其(その)人(ひと)から……お前(まへ)は立派(りつぱ)な女神(めがみ)さまだの、316化身(けしん)だの……と言(い)はれては、317如何(いか)なる明智(めいち)の女(をんな)でも迷(まよ)はざるを得(え)ないのである。318スガコは到頭(たうとう)彼(かれ)等(ら)悪人輩(あくにんばら)の待(ま)ち受(う)けた穽(わな)に陥(おちい)り、319玄真坊(げんしんばう)を真(しん)の救世主(きうせいしゆ)と信(しん)じ、320虎(とら)狼(おほかみ)の窟(あな)に入(い)るとは知(し)らず、321欣然(きんぜん)として妖僧(えうそう)の後(あと)に従(したが)ひ、322漸(やうや)く大杉(おほすぎ)の下(もと)、323玄真坊(げんしんばう)が居間(ゐま)に導(みちび)かるる事(こと)となつた。324あゝスガコの今後(こんご)の身(み)の上(うへ)は何(ど)うなるであらうか。
325(大正一三・一二・一六 旧一一・二〇 於祥雲閣 松村真澄録)
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