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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第66巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 月の高原
第1章 暁の空
第2章 祖先の恵
第3章 酒浮気
第4章 里庄の悩
第5章 愁雲退散
第6章 神軍義兵
第2篇 容怪変化
第7章 女白浪
第8章 神乎魔乎
第9章 谷底の宴
第10章 八百長劇
第11章 亞魔の河
第3篇 異燭獣虚
第12章 恋の暗路
第13章 恋の懸嘴
第14章 相生松風
第15章 喰ひ違ひ
第4篇 恋連愛曖
第16章 恋の夢路
第17章 縁馬の別
第18章 魔神の囁
第19章 女の度胸
第20章 真鬼姉妹
余白歌
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霊界物語
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山河草木(第61~72巻、入蒙記)
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第66巻(巳の巻)
> 第2篇 容怪変化 > 第11章 亞魔の河
<<< 八百長劇
(B)
(N)
恋の暗路 >>>
第一一章
亞魔
(
あま
)
の
河
(
かは
)
〔一六九三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻
篇:
第2篇 容怪変化
よみ(新仮名遣い):
ようかいへんげ
章:
第11章 亞魔の河
よみ(新仮名遣い):
あまのかわ
通し章番号:
1693
口述日:
1924(大正13)年12月16日(旧11月20日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年6月29日
概要:
舞台:
オーラ山の岩窟
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-06-25 01:54:00
OBC :
rm6611
愛善世界社版:
151頁
八幡書店版:
第11輯 785頁
修補版:
校定版:
151頁
普及版:
67頁
初版:
ページ備考:
戦前の版も、戦後の校定版、愛世版もみな「亞魔」または「亜魔」だが、普及版では何故か「悪魔」と書いて「あま」とルビが振ってある。
001
スガコはオーラ
山
(
さん
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
玄真坊
(
げんしんばう
)
につれ
込
(
こ
)
まれ、
002
天国
(
てんごく
)
に
於
(
お
)
ける
神
(
かみ
)
の
族籍
(
ぞくせき
)
を
査
(
しら
)
ぶる
為
(
ため
)
と
称
(
しよう
)
し、
003
一
(
いつ
)
週間
(
しうかん
)
も
待
(
ま
)
たされてゐた。
004
彼
(
かれ
)
は
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
に
無聊
(
ぶれう
)
を
慰
(
なぐさ
)
むる
為
(
ため
)
、
005
望郷
(
ばうきやう
)
の
歌
(
うた
)
を
唄
(
うた
)
つてゐた。
006
スガコ『オーラの
峰
(
みね
)
は
高
(
たか
)
く
共
(
とも
)
007
此
(
この
)
谷川
(
たにがは
)
は
深
(
ふか
)
く
共
(
とも
)
008
吾
(
わが
)
身
(
み
)
を
育
(
そだ
)
てはぐくみし
009
誠
(
まこと
)
の
親
(
おや
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
に
010
比
(
くら
)
べまつれば
九牛
(
きうぎう
)
の
011
一毛
(
いちまう
)
だにも
如
(
し
)
かざらむ
012
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
な
通
(
かよ
)
ふ
風
(
かぜ
)
の
足
(
あし
)
013
吾
(
わが
)
垂乳根
(
たらちね
)
の
父上
(
ちちうへ
)
の
014
居間
(
ゐま
)
の
雨戸
(
あまど
)
を
訪
(
おとづ
)
れて
015
さやぎまつれど
如何
(
いか
)
にせむ
016
風
(
かぜ
)
に
霊
(
れい
)
なく
言葉
(
ことば
)
なく
017
吾
(
わが
)
言霊
(
ことたま
)
をまつぶさに
018
伝
(
つた
)
へむ
由
(
よし
)
もなく
斗
(
ばか
)
り
019
父
(
ちち
)
は
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
行
(
ゆ
)
く
末
(
すゑ
)
を
020
案
(
あん
)
じわづらひ
玉
(
たま
)
ひつつ
021
歎
(
なげ
)
きに
沈
(
しづ
)
み
朝夕
(
あさゆふ
)
の
022
食物
(
たべもの
)
さへも
進
(
すす
)
まずに
023
吐息
(
といき
)
をつかせ
玉
(
たま
)
ふらむ
024
あゝ
恋
(
こひ
)
しや
父
(
ちち
)
の
御
(
おん
)
顔容
(
かんばせ
)
025
妻
(
つま
)
に
別
(
わか
)
れて
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
026
浮世
(
うきよ
)
の
風
(
かぜ
)
にもまれつつ
027
妾
(
わらは
)
を
杖
(
つゑ
)
とし
力
(
ちから
)
とし
028
後添
(
のちぞえ
)
さへも
持
(
も
)
たせられず
029
恵
(
めぐ
)
みはぐくみ
玉
(
たま
)
ひしを
030
夜
(
よる
)
の
嵐
(
あらし
)
に
誘
(
さそ
)
はれて
031
一人
(
ひとり
)
の
娘
(
むすめ
)
は
雲
(
くも
)
がくれ
032
探
(
たづ
)
ねむ
由
(
よし
)
も
荒風
(
あらかぜ
)
の
033
野原
(
のはら
)
を
亘
(
わた
)
る
声
(
こゑ
)
斗
(
ばか
)
り
034
悲
(
かな
)
しみ
玉
(
たま
)
ふ
有様
(
ありさま
)
を
035
今
(
いま
)
目
(
ま
)
のあたり
見
(
み
)
る
心地
(
ここち
)
036
吾
(
わが
)
身
(
み
)
に
翼
(
つばさ
)
あるならば
037
此
(
この
)
岩窟
(
いはやど
)
を
脱
(
ぬ
)
け
出
(
い
)
でて
038
帰
(
かへ
)
らむものとは
思
(
おも
)
へ
共
(
ども
)
039
玄真坊
(
げんしんばう
)
のいぶかしき
040
其
(
その
)
まなざしにいとめられ
041
進
(
すす
)
みもならず
退
(
しりぞ
)
きも
042
ならぬ
苦
(
くる
)
しき
果敢
(
はか
)
なさよ
043
玄真坊
(
げんしんばう
)
といへる
人
(
ひと
)
044
自
(
みづか
)
ら
天
(
てん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
045
化身
(
けしん
)
といへど
訝
(
いぶ
)
かしや
046
別
(
べつ
)
に
変
(
かは
)
りしこともなく
047
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
吾
(
わが
)
側
(
そば
)
に
048
い
寄
(
よ
)
り
添
(
そ
)
ひ
来
(
き
)
て
厭
(
いや
)
らしき
049
目色
(
めいろ
)
を
注
(
そそ
)
ぎ
忌
(
い
)
まはしき
050
言葉
(
ことば
)
の
端
(
はし
)
の
何
(
なん
)
となく
051
いとも
卑
(
いや
)
しく
思
(
おも
)
ほゆる
052
醜
(
しこ
)
の
曲霊
(
まがひ
)
の
取憑
(
とりかか
)
り
053
世
(
よ
)
を
紊
(
みだ
)
さむと
企
(
たく
)
らみて
054
かかる
悪戯
(
いたづら
)
なすならむ
055
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
056
梵天
(
ぼんてん
)
帝釈
(
たいしやく
)
自在天
(
じざいてん
)
057
大国彦
(
おほくにひこ
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
058
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
吾
(
わが
)
胸
(
むね
)
の
059
雲
(
くも
)
を
晴
(
は
)
らさせ
玉
(
たま
)
へかし
060
大日
(
おほひ
)
は
照
(
て
)
る
共
(
とも
)
曇
(
くも
)
る
共
(
とも
)
061
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つ
共
(
とも
)
虧
(
か
)
くる
共
(
とも
)
062
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
む
共
(
とも
)
063
神
(
かみ
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
父
(
ちち
)
の
恩
(
おん
)
064
一日
(
ひとひ
)
片時
(
かたとき
)
忘
(
わす
)
れむや
065
神
(
かみ
)
の
形
(
かたち
)
に
造
(
つく
)
られし
066
妾
(
わらは
)
は
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
神
(
かみ
)
の
宮
(
みや
)
067
神
(
かみ
)
に
等
(
ひと
)
しき
此
(
この
)
身
(
み
)
にも
068
曲
(
まが
)
の
雲霧
(
くもきり
)
かかるとは
069
実
(
げ
)
に
訝
(
いぶ
)
かしき
世
(
よ
)
の
様
(
さま
)
よ
070
あはれみ
玉
(
たま
)
へ
天地
(
あめつち
)
の
071
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
072
慎
(
つつし
)
み
敬
(
ゐやま
)
ひ
願
(
ね
)
ぎまつる。
073
思
(
おも
)
ひきや
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
と
思
(
おも
)
ひしに
074
吾
(
わが
)
身
(
み
)
を
恋
(
こ
)
ふる
神司
(
かむづかさ
)
とは。
075
いと
聖
(
きよ
)
き
神
(
かみ
)
の
柱
(
はしら
)
と
思
(
おも
)
ひしに
076
怪
(
あや
)
しきことの
多
(
おほ
)
き
人
(
ひと
)
かな。
077
此
(
この
)
儘
(
まま
)
に
仇
(
あだ
)
に
月日
(
つきひ
)
を
過
(
すご
)
しなば
078
妾
(
わらは
)
も
曲
(
まが
)
の
餌食
(
ゑじき
)
とならむ』
079
斯
(
か
)
く
歌
(
うた
)
つてゐる
所
(
ところ
)
へ、
080
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
鍵
(
かぎ
)
を
以
(
もつ
)
て
錠
(
ぢやう
)
をねぢあけ、
081
ソツと
入
(
いり
)
来
(
きた
)
り、
082
玄真
(
げんしん
)
『スガコ
殿
(
どの
)
、
083
どうも
忙
(
いそが
)
しいことで
厶
(
ござ
)
つた。
084
今日
(
けふ
)
は
殊更
(
ことさら
)
沢山
(
たくさん
)
な
参詣者
(
さんけいじや
)
で、
085
此
(
この
)
方
(
はう
)
も
実
(
じつ
)
に
多忙
(
たばう
)
を
極
(
きは
)
めたよ。
086
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
最早
(
もはや
)
七
(
なな
)
つ
下
(
さが
)
り、
087
漸
(
やうや
)
く
人
(
ひと
)
は
家路
(
いへぢ
)
に
帰
(
かへ
)
つたから、
088
先
(
ま
)
づお
前
(
まへ
)
の
美
(
うつく
)
しい
顔容
(
かんばせ
)
を
見
(
み
)
て、
089
一
(
いち
)
日
(
にち
)
の
疲
(
つか
)
れを
休
(
やす
)
めようと
思
(
おも
)
ふのだ。
090
何
(
なん
)
とマア
美
(
うつく
)
しい
顔
(
かほ
)
だなア』
091
と
厭
(
いや
)
らしげな
笑
(
ゑみ
)
を
湛
(
たた
)
へ、
092
川瀬
(
かはせ
)
の
乱杭
(
らんぐひ
)
のやうな
歯
(
は
)
をニユツと
出
(
だ
)
して、
093
スガコの
頬
(
ほほ
)
にキッスをしようとする。
094
スガコは
驚
(
おどろ
)
いて『アレまあ』と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
095
象牙
(
ざうげ
)
細工
(
ざいく
)
のやうな
白
(
しろ
)
い
美
(
うつく
)
しい
手
(
て
)
で、
096
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
額
(
ひたひ
)
をグツと
押
(
お
)
した。
097
玄真
(
げんしん
)
『アツハヽヽヽ、
098
怖
(
こは
)
いか、
099
可笑
(
をか
)
しいか、
100
恥
(
はづ
)
かしいか。
101
テも
扨
(
さて
)
も
初心
(
うぶ
)
な
者
(
もの
)
だなア。
102
オイ、
103
スガコ、
104
今日
(
けふ
)
初
(
はじ
)
めて
天
(
てん
)
から
使
(
つかひ
)
が
来
(
き
)
て、
105
お
前
(
まへ
)
の
神籍
(
しんせき
)
を
査
(
しら
)
べて
見
(
み
)
た
所
(
ところ
)
、
106
マア
喜
(
よろこ
)
べよ、
107
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
で、
108
而
(
しか
)
も
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
女房
(
にようばう
)
の
霊
(
みたま
)
だつたよ。
109
それだから、
110
相応
(
さうおう
)
の
理
(
り
)
に
仍
(
よ
)
つて
天
(
てん
)
に
在
(
あ
)
つては
比翼
(
ひよく
)
の
鳥
(
とり
)
、
111
地
(
ち
)
に
在
(
あ
)
つては
連理
(
れんり
)
の
枝
(
えだ
)
、
112
どうあつても
天地
(
てんち
)
相応
(
さうおう
)
の
真理
(
しんり
)
により、
113
其方
(
そなた
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
にならなくちや、
114
やり
切
(
き
)
れない
因縁
(
いんねん
)
が
結
(
むす
)
ばれてあるのだ。
115
何
(
なん
)
だか
其方
(
そなた
)
の
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
つた
時
(
とき
)
から、
116
床
(
ゆか
)
しい
女
(
をんな
)
だと
思
(
おも
)
つてゐたが、
117
よくよく
査
(
しら
)
べて
見
(
み
)
れば、
118
右
(
みぎ
)
の
通
(
とほ
)
り、
119
どうぢや、
120
姫
(
ひめ
)
、
121
嬉
(
うれ
)
しいか』
122
スガコは
真青
(
まつさを
)
な
顔
(
かほ
)
をして、
123
唇
(
くちびる
)
を
紫色
(
むらさきいろ
)
に
染
(
そ
)
め、
124
声
(
こゑ
)
を
慄
(
ふる
)
はせ
乍
(
なが
)
ら、
125
スガコ『エー、
126
残念
(
ざんねん
)
やな、
127
妾
(
わらは
)
は
貴方
(
あなた
)
に
謀
(
はか
)
られました。
128
如何
(
どう
)
したら
可
(
よ
)
からうかな。
129
梵天
(
ぼんてん
)
帝釈
(
たいしやく
)
自在天
(
じざいてん
)
様
(
さま
)
、
130
何卒
(
どうぞ
)
此
(
この
)
急場
(
きふば
)
をお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいませ、
131
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
132
玄真
(
げんしん
)
『アハヽヽヽ、
133
流石
(
さすが
)
は
少女
(
をとめ
)
だ、
134
ヤツパリ
恥
(
はづか
)
しいのだな。
135
初
(
はじめ
)
の
間
(
うち
)
は
三番叟
(
さんばそう
)
でも
後
(
のち
)
には
深
(
ふか
)
くなるものだ。
136
あゝイヤイヤイヤ、
137
オーハ、
138
カツタカタ、
139
遂
(
つひ
)
には、
140
カツタカタと
埒
(
らち
)
のあくもんだて、
141
結局
(
けつきよく
)
男子
(
だんし
)
の
方
(
はう
)
が
恋
(
こひ
)
にカツタカツタだ、
142
アハヽヽヽ』
143
スガコは
忌々
(
いまいま
)
し
相
(
さう
)
な
顔
(
かほ
)
をし、
144
眉
(
まゆ
)
の
辺
(
あたり
)
に
皺
(
しわ
)
をよせ
乍
(
なが
)
ら、
145
スガコ『モシ
玄真
(
げんしん
)
様
(
さま
)
、
146
何卒
(
どうぞ
)
妾
(
わらは
)
をお
赦
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
147
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
外
(
ほか
)
の
事
(
こと
)
なら、
1471
どんな
御用
(
ごよう
)
でも
致
(
いた
)
します』
148
玄真
(
げんしん
)
『ヤア、
149
お
前
(
まへ
)
は
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
の
霊
(
みたま
)
だから、
150
卑
(
いや
)
しい
炊事
(
すゐじ
)
や
掃除
(
さうぢ
)
などは、
151
霊
(
みたま
)
に
不相応
(
ふさうおう
)
だ。
152
只
(
ただ
)
拙僧
(
せつそう
)
の
神業
(
しんげふ
)
即
(
すなは
)
ち
神生
(
かみう
)
み、
153
人生
(
ひとう
)
みの
御用
(
ごよう
)
さへすれば、
154
こけた
箒
(
はうき
)
を
起
(
おこ
)
すこともいらない。
155
さてもさても
幸運
(
かううん
)
な
生
(
うま
)
れつきだのう』
156
と
玄真坊
(
げんしんばう
)
はスガコに
内兜
(
うちかぶと
)
を
見透
(
みすか
)
され、
157
蚰蜒
(
げぢげぢ
)
の
如
(
ごと
)
く
嫌
(
きら
)
はれてゐるのを、
158
恋
(
こひ
)
に
晦
(
くら
)
んだ
眼
(
まなこ
)
には
盲
(
めくら
)
滅法界
(
めつぱふかい
)
、
159
あやめも
分
(
わか
)
ず、
160
恋
(
こひ
)
の
黒雲
(
くろくも
)
に
包
(
つつ
)
まれ、
161
得意
(
とくい
)
になつて、
162
うるさく
口説
(
くど
)
きたててゐるのである。
163
スガコは
一
(
ひと
)
つ
困
(
こま
)
らしてやらうと
思
(
おも
)
ひ、
164
平気
(
へいき
)
の
面
(
かほ
)
を
装
(
よそほ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
165
微笑
(
びせう
)
を
浮
(
う
)
かべて、
166
スガコ『
妾
(
わらは
)
が
最
(
もつと
)
も
敬愛
(
けいあい
)
する
師
(
し
)
の
君様
(
きみさま
)
、
167
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
は
妾
(
わらは
)
の
危
(
あやふ
)
き
生命
(
いのち
)
をお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいまして、
168
天
(
てん
)
にも
地
(
ち
)
にも
代
(
か
)
へ
難
(
がた
)
き
御
(
ご
)
高恩
(
かうおん
)
、
169
万劫
(
まんご
)
末代
(
まつだい
)
、
170
ミロクの
代
(
よ
)
までも
忘
(
わす
)
れは
致
(
いた
)
しませぬ。
171
其
(
その
)
上
(
うへ
)
妾
(
わらは
)
の
神籍
(
しんせき
)
までお
調
(
しら
)
べ
下
(
くだ
)
さるとは、
172
何
(
なん
)
たる
勿体
(
もつたい
)
ない
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いませうか。
173
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
の
霊
(
みたま
)
と
仰
(
おほ
)
せられましたが、
174
もしや
妾
(
わらは
)
は
棚機姫
(
たなばたひめ
)
の
命
(
みこと
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬかい』
175
玄真
(
げんしん
)
『ヤア
流石
(
さすが
)
は
偉
(
えら
)
い
者
(
もの
)
だ。
176
其方
(
そなた
)
のいふ
如
(
ごと
)
く
全
(
まつた
)
く
棚機姫
(
たなばたひめの
)
命
(
みこと
)
のお
前
(
まへ
)
は
霊
(
みたま
)
だよ。
177
星
(
ほし
)
さまでいへば
天
(
あま
)
の
川
(
かは
)
を
隔
(
へだ
)
てた、
178
右側
(
うそく
)
の
姫星
(
ひめほし
)
様
(
さま
)
だ。
179
そして
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
彦星
(
ひこぼし
)
だ』
180
スガコ『ヤ、
181
それで
分
(
わか
)
りました。
182
棚機
(
たなばた
)
様
(
さま
)
は
年
(
ねん
)
に
一度
(
いちど
)
の
逢瀬
(
あふせ
)
とやら
申
(
まを
)
しますが、
183
それは
事実
(
じじつ
)
で
厶
(
ござ
)
いませうか』
184
玄真
(
げんしん
)
『そらさうだ、
185
開闢
(
かいびやく
)
以来
(
いらい
)
動
(
うご
)
かす
可
(
べか
)
らざる
天律
(
てんりつ
)
に
仍
(
よ
)
つて、
186
万劫
(
まんご
)
末代
(
まつだい
)
きまつてゐる、
187
本当
(
ほんたう
)
に
仲
(
なか
)
のよい
夫婦
(
ふうふ
)
だよ。
188
天
(
あま
)
の
川
(
かは
)
を
隔
(
へだ
)
てて、
189
年
(
ねん
)
が
年中
(
ねんぢう
)
、
190
互
(
たがひ
)
に
面
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せて
居
(
ゐ
)
らつしやる
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の、
191
吾々
(
われわれ
)
は
霊
(
みたま
)
だからなア。
192
だから
私
(
わし
)
とお
前
(
まへ
)
は、
193
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
迄
(
まで
)
面
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せ、
194
仲
(
なか
)
能
(
よ
)
う
暮
(
くら
)
さねばならぬ
因縁
(
いんねん
)
があるのだ』
195
スガコ『
成程
(
なるほど
)
、
196
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
いますな。
197
然
(
しか
)
らば、
198
妾
(
わらは
)
と
師
(
し
)
の
君様
(
きみさま
)
とは、
199
天
(
てん
)
に
於
(
おい
)
て
夫婦
(
ふうふ
)
の
霊
(
みたま
)
、
200
年
(
ねん
)
に
一度
(
いちど
)
の
逢瀬
(
あふせ
)
とやら、
201
仰
(
おほ
)
せ
御尤
(
ごもつと
)
も。
202
妾
(
わらは
)
も
天地
(
てんち
)
相応
(
さうおう
)
の
理
(
り
)
によりまして、
203
七
(
しち
)
月
(
ぐわつ
)
七日
(
なぬか
)
の
夜
(
よ
)
まで
師
(
し
)
の
君様
(
きみさま
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
になることは
出来
(
でき
)
ませぬなア。
204
まして
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
は
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
とやら、
205
天帝
(
てんてい
)
からして
神律
(
しんりつ
)
をお
紊
(
みだ
)
しなさるやうなことは
厶
(
ござ
)
いますまい。
206
どうか、
207
此
(
この
)
谷川
(
たにがは
)
を
天
(
あま
)
の
川
(
かは
)
と
見
(
み
)
なし、
208
川
(
かは
)
向
(
むか
)
ふへ
妾
(
わらは
)
をおいて
下
(
くだ
)
さらば、
209
それこそ
天地
(
てんち
)
合体
(
がつたい
)
合
(
あは
)
せ
鏡
(
かがみ
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか』
210
と
巧
(
うま
)
く
言
(
い
)
ひぬけて
了
(
しま
)
つた。
211
玄真坊
(
げんしんばう
)
は……うつかり、
212
口糸
(
くちいと
)
をたぐられ、
213
取返
(
とりかへ
)
しのつかぬことになつて
了
(
しま
)
つた……と
一
(
いち
)
時
(
じ
)
はギヨツとしたが、
214
中々
(
なかなか
)
の
曲者
(
くせもの
)
、
215
『アハヽヽヽ』と
大口
(
おほぐち
)
をあけ、
216
無雑作
(
むざふさ
)
に
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
217
玄真
(
げんしん
)
『オイ、
218
スガコ
姫
(
ひめ
)
、
219
本当
(
ほんたう
)
は
棚機姫
(
たなばたひめ
)
様
(
さま
)
ぢやない、
220
モツトモツトモツト
奥
(
おく
)
の
奥
(
おく
)
の
立派
(
りつぱ
)
な
立派
(
りつぱ
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だ』
221
スガコ『ヘーエ、
222
そりや
又
(
また
)
何
(
ど
)
ういふ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
223
玄真
(
げんしん
)
『マアさうだなア、
224
お
前
(
まへ
)
の
霊
(
みたま
)
は
木花姫
(
このはなひめ
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
、
225
そして
俺
(
おれ
)
の
霊
(
みたま
)
は
岩長姫
(
いはながひめの
)
命
(
みこと
)
だ。
226
それだから、
227
何
(
ど
)
うしてもかうしても
夫婦
(
ふうふ
)
にならなくちやなるまい。
228
此
(
この
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
岩
(
いは
)
の
如
(
ごと
)
く
頑
(
ぐわん
)
として
威厳
(
ゐげん
)
の
備
(
そな
)
はつた
修験者
(
しゆげんじや
)
。
229
常磐
(
ときは
)
堅磐
(
かきは
)
に、
230
さざれ
石
(
いし
)
の
巌
(
いはほ
)
となりて
苔
(
こけ
)
のむす
迄
(
まで
)
、
231
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
守
(
まも
)
る
下津
(
したつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
ミロク
様
(
さま
)
も
同様
(
どうやう
)
だ。
232
そしてお
前
(
まへ
)
の
霊
(
みたま
)
は
木花
(
このはな
)
咲耶姫
(
さくやひめの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
だから
嬋娟
(
せんけん
)
窈窕
(
えうてう
)
たる
花
(
はな
)
の
如
(
ごと
)
き
美人
(
びじん
)
、
233
否
(
いな
)
花
(
はな
)
にも
優
(
まさ
)
る
美人
(
びじん
)
、
234
柔
(
じう
)
よく
剛
(
がう
)
を
制
(
せい
)
すといつてな、
235
お
前
(
まへ
)
は
柔
(
じう
)
、
236
俺
(
わし
)
は
剛
(
がう
)
だ。
237
併
(
しか
)
し
剛
(
がう
)
又
(
また
)
柔
(
じう
)
を
制
(
せい
)
すといふことあり。
238
剛
(
がう
)
中
(
ちう
)
柔
(
じう
)
あり、
239
柔
(
じう
)
中
(
ちう
)
剛
(
がう
)
あり、
240
不離
(
ふり
)
不即
(
ふそく
)
、
241
密接
(
みつせつ
)
固漆
(
こしつ
)
の
関係
(
くわんけい
)
があるのだから、
242
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
天地
(
てんち
)
から
結
(
むす
)
ばれたる
夫婦
(
ふうふ
)
の
間柄
(
あひだがら
)
だよ』
243
スガコ『ホヽヽヽあのマア
師
(
し
)
の
君様
(
きみさま
)
のヨタを
仰有
(
おつしや
)
いますこと。
244
岩長姫
(
いはながひめ
)
は
御
(
ご
)
女体
(
によたい
)
、
245
木花姫
(
このはなひめ
)
様
(
さま
)
も
御
(
ご
)
女体
(
によたい
)
、
246
そして
天
(
てん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
ではなくて、
247
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
娘子
(
むすめご
)
、
248
御
(
お
)
二人
(
ふたり
)
様
(
さま
)
は
姉妹
(
きようだい
)
の
間柄
(
あひだがら
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
249
愚昧
(
ぐまい
)
な
妾
(
わらは
)
だと
思召
(
おぼしめし
)
、
250
いいかげんに
嘲弄
(
てうろう
)
しておいて
下
(
くだ
)
さいませ。
251
天
(
てん
)
を
以
(
もつ
)
て
父
(
ちち
)
となし、
252
地
(
ち
)
を
以
(
もつ
)
て
母
(
はは
)
となし、
253
八百万
(
やほよろづ
)
の
神
(
かみ
)
に
御
(
ご
)
説法
(
せつぽふ
)
をなさる
貴
(
たつと
)
き
御
(
おん
)
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て、
254
月
(
つき
)
に
七日
(
なぬか
)
の
汚
(
けが
)
れある
女
(
をんな
)
の
妾
(
わらは
)
に
御
(
お
)
からかひ
遊
(
あそ
)
ばすとは
御
(
ご
)
冗談
(
じやうだん
)
にも
程
(
ほど
)
が
厶
(
ござ
)
いますよ、
255
ホツホヽヽヽヽ』
256
玄真
(
げんしん
)
『イヤもう
何
(
なに
)
から
何
(
なに
)
迄
(
まで
)
、
257
目
(
め
)
から
鼻
(
はな
)
、
258
耳
(
みみ
)
から
口
(
くち
)
へつきぬける
計
(
ばか
)
りの
大学出
(
だいがくで
)
の
才媛
(
さいゑん
)
だ。
259
天地
(
てんち
)
を
父母
(
ふぼ
)
とする
此
(
この
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
も、
260
其方
(
そなた
)
には
一本
(
いつぽん
)
参
(
まゐ
)
つたワイ、
261
アツハヽヽヽ』
262
スガコ『ソレ
御覧
(
ごらん
)
なさい。
263
師
(
し
)
の
君様
(
きみさま
)
は
妾
(
わらは
)
に
対
(
たい
)
し
冗談
(
じようだん
)
を
云
(
い
)
つてゐらつしやつたのでせう、
264
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
似合
(
にあ
)
はず、
265
お
人
(
ひと
)
が
悪
(
わる
)
いぢやありませぬか』
266
玄真
(
げんしん
)
『イヤ、
267
ナニナニ
嘲弄
(
からかひ
)
所
(
どころ
)
か、
268
冗談
(
じようだん
)
所
(
どころ
)
か、
269
真実真
(
しんじつしん
)
の
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
だ。
270
お
前
(
まへ
)
の
為
(
ため
)
なら、
271
一
(
ひと
)
つよりない
命
(
いのち
)
をすてても
構
(
かま
)
はないといふ
覚悟
(
かくご
)
だ。
272
決
(
けつ
)
して
嘘言
(
うそ
)
はつかない、
273
冗談
(
じようだん
)
は
言
(
い
)
はない。
274
万一
(
まんいち
)
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
言葉
(
ことば
)
に
詐
(
いつは
)
りがあつたら、
275
一
(
ひと
)
つよりない
首
(
くび
)
でもお
前
(
まへ
)
に
与
(
や
)
るワ』
276
スガコ『ホヽヽヽヽヽそんな
首
(
くび
)
、
277
貰
(
もら
)
つたつても、
278
煙草入
(
たばこいれ
)
の
根付
(
ねつ
)
けにもなるぢやなし、
279
仕方
(
しかた
)
がありませぬワ。
280
髑髏
(
しやれかうべ
)
にして
枕
(
まくら
)
にした
所
(
ところ
)
で
格好
(
かくかう
)
が
悪
(
わる
)
くつて、
281
不釣合
(
ふつりあひ
)
なり、
282
廃物
(
はいぶつ
)
利用
(
りよう
)
の
利
(
き
)
かぬ
首
(
くび
)
つ
玉
(
たま
)
ですからね』
283
玄真
(
げんしん
)
『コリヤ
姫
(
ひめ
)
、
284
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ、
285
姫御前
(
ひめごぜん
)
の
優
(
やさ
)
しい
面
(
かほ
)
にも
似
(
に
)
ず、
286
無茶
(
むちや
)
なことをいふのだ。
287
お
前
(
まへ
)
は
私
(
わし
)
のいふことを
誤解
(
ごかい
)
してゐるな。
288
よく
考
(
かんが
)
へてみよ。
289
此
(
この
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
仕
(
つか
)
へる
時
(
とき
)
は
即
(
すなは
)
ち
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
であり、
290
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
を
休
(
やす
)
んだ
時
(
とき
)
は
一介
(
いつかい
)
の
修験者
(
しゆげんじや
)
だ。
291
神
(
かみ
)
の
籍
(
せき
)
に
於
(
おい
)
ては
神
(
かみ
)
の
活動
(
はたらき
)
をなし、
292
人
(
ひと
)
の
籍
(
せき
)
に
於
(
おい
)
ては
人
(
ひと
)
の
活動
(
はたらき
)
をなし、
293
変現
(
へんげん
)
出没
(
しゆつぼつ
)
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
、
294
或
(
ある
)
時
(
とき
)
は
天
(
てん
)
に
蟠
(
わだか
)
まる
竜
(
りゆう
)
となり、
295
或
(
ある
)
時
(
とき
)
は
古池
(
ふるいけ
)
になく
蛙
(
かはず
)
となり、
296
時
(
とき
)
ありては
蠑螈
(
いもり
)
蚯蚓
(
みみづ
)
になる。
297
之
(
これ
)
が
即
(
すなは
)
ち
神
(
かみ
)
の
神
(
かみ
)
たる
所以
(
ゆゑん
)
だ。
298
ここの
道理
(
だうり
)
をトツクリと
考
(
かんが
)
へて、
299
いさぎよい
返事
(
へんじ
)
をしてくれ、
300
なあスガコ』
301
スガコ『あゝ
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
いますか、
302
貴方
(
あなた
)
は
神
(
かみ
)
となつたり、
303
人
(
ひと
)
となつたり、
304
甚
(
はなは
)
だしきは
蛙
(
かはず
)
となつたり、
305
蠑螈
(
いもり
)
306
蚯蚓
(
みみづ
)
となつたり、
307
何
(
なん
)
とマア
器用
(
きよう
)
な
御
(
お
)
方
(
かた
)
ですこと、
308
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
、
309
私
(
わたし
)
は
益々
(
ますます
)
貴方
(
あなた
)
が
怖
(
こは
)
いらしくなつて
参
(
まゐ
)
りましたよ。
310
そして
夫婦
(
ふうふ
)
になれと
仰有
(
おつしや
)
る
様
(
やう
)
ですが、
311
私
(
わたくし
)
も
月
(
つき
)
に
七日
(
なぬか
)
の
障
(
さはり
)
ある
人間
(
にんげん
)
の
肉体
(
にくたい
)
、
312
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
と
添
(
そ
)
ふ
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かず、
313
又
(
また
)
修験者
(
しゆげんじや
)
は
女
(
をんな
)
に
接
(
せつ
)
する
時
(
とき
)
は
死後
(
しご
)
仏罰
(
ぶつばつ
)
に
仍
(
よ
)
つて
七万
(
しちまん
)
有尋
(
いうじん
)
の
大蛇
(
だいじや
)
となり、
314
且
(
か
)
つ
修験者
(
しゆげんじや
)
に
犯
(
をか
)
された
女
(
をんな
)
は
八万
(
はちまん
)
地獄
(
ぢごく
)
に
墜
(
お
)
ちるといふバラモンの
教
(
をしへ
)
、
315
かう
考
(
かんが
)
へてみますれば、
316
修験者
(
しゆげんじや
)
としての
貴方
(
あなた
)
の
妻
(
つま
)
になる
事
(
こと
)
は
絶対
(
ぜつたい
)
に
厭
(
いや
)
で
厶
(
ござ
)
います。
317
況
(
いは
)
んや
人間
(
にんげん
)
と
生
(
うま
)
れ
乍
(
なが
)
ら、
318
蛙
(
かはず
)
、
319
蠑螈
(
いもり
)
、
320
蚯蚓
(
みみづ
)
などと
夫婦
(
ふうふ
)
約束
(
やくそく
)
は
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ませぬ。
321
どうか
悪
(
あし
)
からず
此
(
この
)
理由
(
りいう
)
を
御
(
ご
)
賢察
(
けんさつ
)
下
(
くだ
)
されまして、
322
忌
(
い
)
まはしい
夫婦
(
ふうふ
)
関係
(
くわんけい
)
などには
言及
(
げんきふ
)
なさらないよう、
323
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
申
(
まを
)
します。
324
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
妾
(
わらは
)
はどこ
迄
(
まで
)
も、
325
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
を
師
(
し
)
の
君様
(
きみさま
)
と
尊崇
(
そんすう
)
し、
326
敬愛
(
けいあい
)
し、
327
誠
(
まこと
)
を
尽
(
つく
)
しますから、
328
貴方
(
あなた
)
も
妾
(
わらは
)
を
愛
(
あい
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
329
そして
結構
(
けつこう
)
な
経文
(
きやうもん
)
を
教
(
をしへ
)
て
下
(
くだ
)
さい。
330
お
願
(
ねがひ
)
申
(
まを
)
します』
331
玄真
(
げんしん
)
『マアマア
今日
(
けふ
)
はこれ
位
(
くらゐ
)
にしておかう、
332
お
前
(
まへ
)
も
神経
(
しんけい
)
昂奮
(
かうふん
)
してゐるから、
333
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
るまい。
334
女
(
をんな
)
といふ
者
(
もの
)
は
一
(
いち
)
日
(
にち
)
に
七度
(
ななたび
)
も
心
(
こころ
)
が
変
(
かは
)
るといふから、
335
水
(
みづ
)
の
出
(
で
)
ばなに
何
(
なに
)
をいつても
駄目
(
だめ
)
だ。
336
又
(
また
)
風向
(
かぜむき
)
のよい
時
(
とき
)
にゆつくり
話
(
はな
)
さう
程
(
ほど
)
に。
337
左様
(
さやう
)
ならスガコ
殿
(
どの
)
、
338
ゆつくりお
休
(
やす
)
みなさい』
339
といひ
乍
(
なが
)
ら、
340
やや
悄気
(
しよげ
)
気味
(
ぎみ
)
になつて、
341
岩
(
いは
)
の
戸
(
と
)
をあけ、
342
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
なる
次
(
つぎ
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
くのであつた。
343
後
(
あと
)
にスガコ
姫
(
ひめ
)
はハツと
吐息
(
といき
)
をつき
乍
(
なが
)
ら、
344
独言
(
ひとりごと
)
。
345
スガコ『あゝ
情
(
なさけ
)
ないことになつたものだなア。
346
かやうな
所
(
ところ
)
へ
拐
(
かどは
)
かされ、
347
悪人輩
(
あくにんばら
)
の
恋
(
こひ
)
の
犠牲
(
ぎせい
)
に
供
(
きよう
)
せられむとするのか。
348
一度
(
いちど
)
は
拒
(
こば
)
んでみても、
349
かれ
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
燃
(
も
)
ゆるが
如
(
ごと
)
き
恋
(
こひ
)
の
炎
(
ほのほ
)
は
容易
(
ようい
)
に
消
(
け
)
すことは
出来
(
でき
)
まい。
350
何
(
なん
)
とか
彼
(
かん
)
とか
言
(
い
)
つて
一
(
いち
)
日
(
にち
)
送
(
おく
)
りに
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
り、
351
助
(
たす
)
け
人
(
びと
)
の
来
(
く
)
る
迄
(
まで
)
時節
(
じせつ
)
を
待
(
ま
)
つより
仕方
(
しかた
)
がない。
352
あゝ
父上
(
ちちうへ
)
は
嘸
(
さぞ
)
、
353
妾
(
わらは
)
の
行方
(
ゆくへ
)
について
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
して
厶
(
ござ
)
るだらう。
354
何
(
なん
)
とマア
不運
(
ふうん
)
な
父娘
(
おやこ
)
だらう。
355
悩
(
なや
)
み
禍
(
わざはひ
)
の
浮世
(
うきよ
)
とは
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
356
ジャンクの
家
(
いへ
)
には、
3561
これ
程
(
ほど
)
迄
(
まで
)
に
禍
(
わざはひ
)
の
見舞
(
みま
)
ふものか。
357
テもさても
358
残酷
(
ざんこく
)
な
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だなア。
359
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
360
天地
(
てんち
)
の
大神
(
おほかみ
)
あはれみ
玉
(
たま
)
へ
救
(
すく
)
ひ
玉
(
たま
)
へ』
361
(
大正一三・一二・一六
旧一一・二〇
於祥雲閣
松村真澄
録)
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