霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 神軍(しんぐん)義兵(ぎへい)〔一六八八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻 篇:第1篇 月の高原 よみ(新仮名遣い):つきのこうげん
章:第6章 神軍義兵 よみ(新仮名遣い):しんぐんぎへい 通し章番号:1688
口述日:1924(大正13)年12月15日(旧11月19日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年6月29日
概要: 舞台:タライの村の里庄ジャンクの家 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-07-11 18:11:24 文字数:4876 OBC :rm6606
愛善世界社版:81頁 八幡書店版:第11輯 758頁 修補版: 校定版:81頁 普及版:67頁 初版: ページ備考:
001 玄関口(げんくわんぐち)に立(た)ちはだかり『頼(たの)まう、002頼(たの)まう』と呼(よ)ばはつて居(ゐ)る白髪(はくはつ)異様(いやう)の老人(らうじん)は、003さも横柄(わうへい)に、0031此(この)家(や)の下女(げぢよ)に向(むか)ひ、
004老人(らうじん)(シーゴー)『オイ、005お下女(さん)どの、006当家(たうけ)の主人(しゆじん)はどう致(いた)して居(を)るか。007吾(われ)はオーラ山(さん)の修験者(しゆげんじや)、008シーゴーと申(まを)す者(もの)だ。009当家(たうけ)の主人(しゆじん)に申(まをし)上(あ)げたい事(こと)あれば、010面倒(めんだう)乍(なが)ら案内(あんない)をして呉(く)れやれ』
011下女(げぢよ)『ハイ、012何方(どなた)か知(し)りませぬが、013旦那(だんな)様(さま)は俄(にはか)の御(ご)出陣(しゆつぢん)で上(うへ)を下(した)への大騒動(おほさうどう)、014どうか又(また)出直(でなほ)して来(き)て下(くだ)さい。015何分(なにぶん)御(ご)多忙(たばう)でいらつしやいますから』
016老人(らうじん)(シーゴー)『アハヽヽヽヽ当家(たうけ)に係(かか)はる大難(だいなん)を救(すく)はむが為(ため)、017遙々(はるばる)オーラ山(さん)より救世主(きうせいしゆ)の使(つかひ)として現(あら)はれ来(きた)りし修験者(しゆげんじや)だ。018何(なに)は兎(と)もあれ、019主人(しゆじん)に面会(めんくわい)致(いた)したい』
020 斯(か)くいふ所(ところ)へ、021武装(ぶさう)をつけた主人(しゆじん)のジャンクは現(あら)はれ来(きた)り、022老翁(らうをう)に向(むか)ひ、
023ジャンク『いづれの方(かた)かは知(し)りませぬが、024今(いま)は国家(こくか)の一大事(いちだいじ)、025館(やかた)は番頭(ばんとう)共(ども)に任(まか)せおき、026今早朝(こんそうてう)より出陣(しゆつぢん)せなくてはなりませぬ。027何(なに)御用(ごよう)か存(ぞん)じませぬが、028もはや一身(いつしん)一家(いつか)の事(こと)にかかはる場合(ばあひ)ではありませぬ。029どうかお帰(かへ)り下(くだ)さいませ』
030シーゴー『アハヽヽヽヽ。031拙僧(せつそう)がオーラ山(さん)を立(た)ち出(い)で、032草(くさ)茫々(ばうばう)たる夜途(よみち)を露(つゆ)に濡(ぬ)れ乍(なが)ら夜(よ)も明(あ)けぬ中(うち)尋(たづ)ねて来(き)たのは、033大神(おほかみ)の御(ご)命令(めいれい)、034国家(こくか)を救(すく)ふも一家(いつか)を救(すく)ふも、035神(かみ)ならでは叶(かな)はぬ事(こと)、036其(その)方(はう)も国家(こくか)を救(すく)はむとして、037義勇(ぎゆう)の軍(ぐん)に出陣(しゆつぢん)なさるならば、038拙者(せつしや)の一言(いちごん)をお聞(き)きなされ。039唯(ただ)一回(いつくわい)位(ぐらゐ)耳(みみ)を借(か)した所(ところ)で、040余(あま)り損(そん)にはなりますまい』
041ジャンク『国家(こくか)を救(すく)ふ方法(はうはふ)がありとすれば何(なに)より結構(けつこう)、042既(すで)に出陣(しゆつぢん)の間際(まぎは)なれども、043聞(き)き逃(のが)す訳(わけ)にはゆきますまい。044此処(ここ)は玄関口(げんくわんぐち)、045サアサア奥(おく)へお進(すす)み下(くだ)さい。046篤(とく)とお話(はなし)を承(うけたま)はりませう』
047シーゴー『然(しか)らば御免(ごめん)、048まかり通(とほ)るであらう』
049と錫杖(しやくぢやう)をつき乍(なが)ら、050横柄(わうへい)な面(つら)をして離(はな)れの別殿(べつでん)に伴(ともな)はれ往(ゆ)き、051丸(まる)き机(つくゑ)を中(なか)に置(お)き、052主客(しゆきやく)向(むか)ひ合(あは)せとなつて談話(だんわ)が初(はじ)まつた。
053ジャンク『貴方(あなた)は神(かみ)のお使(つかひ)、054修験者(しゆげんじや)と承(うけたま)はりましたが、055国家(こくか)を救(すく)ふ要道(えうだう)をお示(しめ)し下(くだ)さるとの事(こと)、056実(じつ)に感謝(かんしや)に堪(た)へませぬ。057何卒(なにとぞ)御(ご)指導(しだう)を願(ねが)ひます』
058シーゴー『拙僧(せつそう)はオーラ山(ざん)の生神(いきがみ)、059玄真坊(げんしんばう)の高弟(かうてい)シーゴー坊(ばう)と申(まを)すもの、060此(この)度(たび)吾(わが)師(し)の君(きみ)玄真坊(げんしんばう)におかせられては、061トルマン国(ごく)の危急(ききふ)を救(すく)ひ、062民(たみ)の苦(く)を免(まぬが)れしめ、063且(かつ)小(せう)にしては一家(いつか)一(いち)人(にん)の危難(きなん)を免(まぬが)れしめむと、064連日(れんじつ)連夜(れんや)の修業(しうげふ)を遊(あそ)ばし、065一切(いつさい)の苦難(くなん)を救(すく)ひたまふ、066其(その)霊験(れいけん)の著(いちじる)しき事(こと)、067古今(ここん)絶無(ぜつむ)で厶(ござ)る。068天地(てんち)の神明(しんめい)も吾(わが)師(し)の高徳(かうとく)を慕(した)ひ、069教(をしへ)を受(う)けむとし、070毎夜(まいよ)オーラ山(ざん)の大杉(おほすぎ)の樹(き)に、071天(てん)より棚機姫(たなばたひめ)の星体(せいたい)下(くだ)らせたまひ、072深遠(しんゑん)微妙(びめう)なる教理(けうり)を聞(き)かせたまふと云(い)ふ御(ご)威勢(ゐせい)、073如何(いか)にバラモン軍(ぐん)が跋扈(ばつこ)跳梁(てうりやう)するとも、074吾(わが)師(し)の君(きみ)の祈祷(きたう)によりて、075煙散(えんさん)霧消(むせう)するは火(ひ)を睹(み)るよりも明(あきら)かである。076就(つ)いては当家(たうけ)の娘御(むすめご)は行衛(ゆくゑ)不明(ふめい)との事(こと)、077必(かなら)ずやバラモン軍(ぐん)の間諜者(まわしもの)に捉(とら)へられ給(たま)ひしに相違(さうゐ)なし、078貴方(あなた)は吾(わが)師(し)の君(きみ)に依頼(いらい)して、079最愛(さいあい)の娘御(むすめご)を、080救(すく)つて貰(もら)ふ御(ご)精神(せいしん)は厶(ござ)らぬか』
081 ジャンクは怪(あや)しみ乍(なが)ら、082頭(かうべ)を垂(た)れ、083稍(やや)思案(しあん)に暮(く)れて居(ゐ)た。
084ジャンク『シーゴー様(さま)とやら、085遠路(ゑんろ)の所(ところ)御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う厶(ござ)います。086然(しか)し乍(なが)ら今日(こんにち)の場合(ばあひ)、087娘(むすめ)の事(こと)などに心(こころ)を悩(なや)ます場合(ばあひ)では厶(ござ)いませぬ。088国家(こくか)の一大事(いちだいじ)を救(すく)ふ御(おん)道(みち)あらばお示(しめ)しに預(あづ)かりたい』
089シーゴー『アハヽヽヽ、090貴方(あなた)も偽善者(ぎぜんしや)の一(いち)人(にん)で厶(ござ)るな。091何(なに)程(ほど)国家(こくか)の為(ため)だと云(い)つても、092天(てん)にも地(ち)にも掛(か)け替(がへ)のない娘(むすめ)が危難(きなん)を救(すく)はれたいと云(い)ふ精神(せいしん)は、093十分(じふぶん)にお持(も)ちでせう。094吾(わが)子(こ)を愛(あい)せない親(おや)は、095人君(じんくん)として、096或(あるひ)は里庄(りしやう)としての資格(しかく)は厶(ござ)いますまい』
097ジャンク『いや、098貴方(あなた)の御(ご)明察(めいさつ)、099恐(おそ)れ入(い)りました。100天(あめ)が下(した)に子(こ)を思(おも)はぬ親(おや)が何処(どこ)に厶(ござ)いませう。101併(しか)し乍(なが)ら今日(こんにち)の場合(ばあひ)は、102小(せう)なる愛(あい)を捨(す)て、103国家(こくか)国王(こくわう)と云(い)ふものに向(むか)つて、104大(だい)なる愛(あい)を注(そそ)ぐべきで厶(ござ)います。105国家(こくか)も国王(こくわう)様(さま)のお身(み)の上(うへ)も、106既(すで)に焦頭(せうとう)爛額(らんがく)の危機(きき)に瀕(ひん)して居(を)りますれば、107仮令(たとへ)最愛(さいあい)の娘(むすめ)を犠牲(ぎせい)と致(いた)しても、108大(だい)なる愛(あい)の為(ため)に心力(しんりよく)を傾注(けいちう)したい考(かんが)へで厶(ござ)います』
109シーゴー『貴方(あなた)は大切(たいせつ)な娘御(むすめご)を犠牲(ぎせい)としてでも、110国家(こくか)を助(たす)けたいと云(い)ふ思召(おぼしめし)、111実(じつ)に感心(かんしん)致(いた)しました。112もし国家(こくか)、113国王(こくわう)、114並(ならび)に貴方(あなた)の愛児(あいじ)がお助(たす)かりになるのなら、115当家(たうけ)の財産(ざいさん)に執着(しふちやく)は厶(ござ)いますまいなア』
116ジャンク『勿論(もちろん)の事(こと)です。117吾(わが)娘(むすめ)は行方(ゆくへ)知(し)れず、118生死(せいし)もさだかならず、119加(くは)ふるに老躯(らうく)を引提(ひつさ)げて、120剣光(けんくわう)閃(ひらめ)く戦場(せんぢやう)に進(すす)む此(この)身(み)、121元(もと)より死(し)は覚悟(かくご)して居(ゐ)ます。122吾(わが)死(し)したる後(のち)は、123巨万(きよまん)の財産(ざいさん)も何(なん)の必要(ひつえう)が厶(ござ)いませう』
124シーゴー『成(な)る程(ほど)立派(りつぱ)なお志(こころざし)感(かん)じ入(い)りました。125然(しか)らば一(ひと)つ御(ご)相談(さうだん)を申(まをし)上(あげ)たいが、126国王(こくわう)、127国家(こくか)、128及(およ)びお娘御(むすめご)を救(すく)ふ為(た)め、129此(この)財産(ざいさん)をオーラ山(ざん)の師(し)の君(きみ)玄真坊(げんしんばう)に奉(たてまつ)るお気(き)は厶(ござ)いませぬか。130山(やま)も川(かは)も、131草木(くさき)も天(てん)の星(ほし)迄(まで)其(その)徳(とく)を慕(した)ひ寄(よ)り来(きた)ると言(い)ふ古今(ここん)無双(むそう)の生神(いきがみ)様(さま)に、132お上(あ)げなさつたならば、133第一(だいいち)は祖先(そせん)の為(た)め、134国家(こくか)の為(ため)最善(さいぜん)の功徳(くどく)と考(かんが)へますがな』
135 斯(か)かる所(ところ)へ受付(うけつけ)のセールは慌(あわ)ただしく入(い)り来(きた)り、
136セール『旦那(だんな)様(さま)、137村中(むらぢう)の用意(ようい)が調(ととの)ひました。138早(はや)く御(ご)出陣(しゆつぢん)をと、139村人(むらびと)が武装(ぶさう)の儘(まま)お願(ねがひ)に参(まゐ)りました。140お馬(うま)の用意(ようい)も出来(でき)ましたから……』
141ジャンク『アヽさうか、142直(すぐ)に往(ゆ)くからと申(まをし)て呉(く)れ』
143セール『ハイ144畏(かしこ)まりました』
145と、146慌(あわ)ただしく立(た)ち去(さ)つた。
147シーゴー『如何(いかが)で厶(ござ)いますか、148御(ご)決心(けつしん)は……』
149ジャンク『国家(こくか)の為(た)め、150国王(こくわう)様(さま)の為(た)めならば、151吾(わが)財産(ざいさん)を全部(ぜんぶ)玄真坊(げんしんばう)様(さま)に差(さし)上(あ)げませう』
152シーゴー『いや流石(さすが)は明察(めいさつ)の里庄殿(りしやうどの)、153天晴(あつぱれ)天晴(あつぱれ)、154然(しか)らば後日(ごじつ)の為(た)め、155貴方(あなた)のお手(て)より、156一切(いつさい)の財産(ざいさん)を差上(さしあげ)るとの証文(しようもん)を認(したた)めて下(くだ)さい』
157ジャンク『男子(だんし)の一言(いちごん)は鉄石(てつせき)の如(ごと)し、158面倒(めんだう)臭(くさ)い証文(しようもん)などは要(い)りますまい。159これが人(ひと)と人(ひと)との交渉(かうせふ)なら兎(と)も角(かく)も、160善知識(ぜんちしき)の活神(いきがみ)様(さま)に差上(さしあげ)るのだから、161却(かへ)つて証文(しようもん)など差上(さしあげ)るのは失礼(しつれい)で厶(ござ)いませう』
162シーゴー『成(な)る程(ほど)、163御尤(ごもつと)もの話(はなし)だ。164現(げん)に拙者(せつしや)が生証文(いきじようもん)で厶(ござ)る。165梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)様(さま)も御(ご)照覧(せうらん)あれ、166決(けつ)して二言(にごん)は厶(ござ)いますまいなア』
167ジャンク『エ、168執拗(しつこう)厶(ござ)る。169苟(いやし)くも義勇軍(ぎゆうぐん)の総司令(そうしれい)、170武士(ぶし)の言葉(ことば)に二言(にごん)は厶(ござ)らぬ』
171シーゴー『然(しか)らば今日(こんにち)只今(ただいま)より、172此(この)財産(ざいさん)は吾(わが)師(し)玄真坊(げんしんばう)の所有(しよいう)に帰(き)しました。173御(ご)承知(しようち)であらうなア』
174ジャンク『吾(わが)財産(ざいさん)を善用(ぜんよう)し、175国家(こくか)の為(た)め、176国王(こくわう)様(さま)の為(た)め、177娘(むすめ)の為(た)め、178神(かみ)様(さま)を鄭重(ていちよう)に祭(まつ)り、1781祈願(きぐわん)を籠(こ)めて下(くだ)さい。179時刻(じこく)も切迫(せつぱく)致(いた)しますれば180拙者(せつしや)はこれよりお別(わか)れ申(まを)す』
181シーゴー『ヤ拙僧(せつそう)も此(この)吉報(きつぱう)を吾(わが)師(し)の君(きみ)に申(まをし)上(あ)げ、182早速(さつそく)祈願(きぐわん)に取(と)りかかりませう』
183と云(い)ひ乍(なが)ら、184揚々(やうやう)として帰(かへ)り往(ゆ)く。185梅公(うめこう)は二人(ふたり)の問答(もんだふ)を訝(いぶ)かり乍(なが)ら、186密(ひそか)に立聞(たちぎき)して居(ゐ)た。
187 ジャンクは照国別(てるくにわけ)の居間(ゐま)に入(い)り来(きた)り、
188ジャンク『いやどうもお待(ま)たせ致(いた)しました、189サア是(これ)から出陣(しゆつぢん)を致(いた)しませう』
190 梅公(うめこう)は次(つぎ)の間(ま)より慌(あわ)ただしく入(い)り来(きた)り、
191梅公(うめこう)『もしもしジャンク様(さま)、192御(ご)用心(ようじん)なさいませ、193彼(あ)の修験者(しゆげんじや)と云(い)ふ老人(らうじん)は曲者(くせもの)で厶(ござ)います。194彼(あ)の人相(にんさう)には剣難(けんなん)の相(さう)が漂(ただよ)ひ、195悪相(あくさう)が顔面(がんめん)に満(み)ちて居(ゐ)ます。196貴方(あなた)は此(この)財産(ざいさん)を玄真坊(げんしんばう)とやらに全部(ぜんぶ)提供(ていきよう)なさつたやうですが、197今(いま)の中(うち)にお取消(とりけ)しなさつたがよからう、198一寸(ちよつと)御(ご)忠告(ちうこく)申上(まをしあげ)ます』
199ジャンク『イヤ、200有難(ありがた)う。201私(わたし)も怪(あや)しい事(こと)だとは思(おも)つたが、202何(なん)と云(い)うても国王(こくわう)様(さま)や国家(こくか)を助(たす)けると云(い)ふのだから、203此(この)言葉(ことば)に免(めん)じ怪(あや)しいとは思(おも)ひ乍(なが)ら財産(ざいさん)全部(ぜんぶ)を提供(ていきよう)しました。204最早(もはや)男子(だんし)の口(くち)に出(だ)した以上(いじやう)は撤回(てつくわい)は出来(でき)ませぬ。205是(これ)が撤回(てつくわい)出来(でき)るやうなら地上(ちじやう)に吐(は)いた痰唾(たんつば)を再(ふたた)び呑(の)むやうなものです。206もう私(わたし)も覚悟(かくご)を定(き)めました。207サアサア御(ご)苦労(くらう)乍(なが)ら出陣(しゆつぢん)致(いた)しませう』
208梅公(うめこう)『チヨツ、209曲津(まがつ)神(かみ)の奴(やつ)、210偉(えら)い事(こと)をしやがつたな。211こいつは屹度(きつと)何(なに)かの秘密(ひみつ)があるに相違(さうゐ)ない。212あんな事(こと)を吐(ぬか)して、213自分(じぶん)が当家(たうけ)の娘(むすめ)を何処(どこ)かに隠(かく)して居(を)るのだらう。214こんな事(こと)を聞(き)いては見逃(みのが)す事(こと)は出来(でき)ない。215吾(わが)師(し)の君(きみ)が何(なん)と云(い)はれても、216オーラ山(ざん)とやらに踏(ふ)み込(こ)んで正体(しやうたい)を調(しら)べてやらう、217オウ、218さうぢや さうぢや』
219と独語(どくご)し乍(なが)ら、220照国別(てるくにわけ)に従(したが)ひジャンクと共(とも)に三角旗(さんかくき)を風(かぜ)に翻(ひるがへ)し、221数百(すうひやく)の義勇軍(ぎゆうぐん)と共(とも)に旗鼓(きこ)堂々(だうだう)とバルガン城(じやう)を指(さ)して、222法螺(ほら)の声(こゑ)も勇(いさ)ましく『ブウブウ』と四辺(あたり)の邪気(じやき)を清(きよ)めながら隊伍(たいご)を調(ととの)へ進(すす)み行(ゆ)く。
223 数百(すうひやく)人(にん)の騎兵隊(きへいたい)は、224手(て)に手(て)に槍(やり)長刀(なぎなた)などを携(たづさ)へ、225果(はて)しもなき広原(くわうげん)を進(すす)み行(ゆ)く。226風(かぜ)は幸(さいは)ひ追風(おひて)にて進軍(しんぐん)に最(もつと)も便利(べんり)であつた。227ジャンクは馬上(ばじやう)乍(なが)ら進軍歌(しんぐんか)を謡(うた)ふ。
228ジャンク『神代(かみよ)の昔(むかし)皇神(すめかみ)の
229開(ひら)きたまひし神(かみ)の国(くに)
230トルマン国(ごく)の若者(わかもの)よ
231国(くに)と君(きみ)とに尽(つく)すべき
232よき日(ひ)は今(いま)や来(きた)りけり
233勇(いさ)めよ勇(いさ)めよ神軍(みいくさ)よ
234進(すす)めよ進(すす)め百軍(ももいくさ)
235敵(てき)は幾万(いくまん)ありとても
236如何(いか)でか恐(おそ)れむ敷島(しきしま)の
237トルマン男子(だんし)の魂(たましひ)は
238金鉄(きんてつ)よりも猶(なほ)堅(かた)し
239国(くに)に仇(あだ)なす曲津(まがつ)神(かみ)
240払(はら)へよ払(はら)へよおつ払(ぱら)へ
241骨身(ほねみ)は積(つ)みて山(やま)をなし
242血潮(ちしほ)は流(なが)れて河(かは)となり
243屍(かばね)を野辺(のべ)に曝(さら)すとも
244神(かみ)の御(おん)為(た)め君(きみ)の為(た)め
245御国(みくに)の為(ため)に進(すす)むなる
246吾(われ)等(ら)は貴(うづ)の神軍(みいくさ)ぞ
247撓(たゆ)まず屈(くつ)せず進(すす)み行(ゆ)け
248ジャンクの率(ひき)ゆる義勇軍(ぎゆうぐん)
249後(おく)れを取(と)るなひるむなよ
250神(かみ)の守(まも)りのある上(うへ)は
251汝(なんぢ)の前途(ぜんと)は坦々(たんたん)と
252蓮華(はちす)の華(はな)の開(ひら)くごと
253真楽園(しんらくゑん)が開(ひら)かれむ
254進(すす)めよ進(すす)めよ快男子(くわいだんじ)
255進(すす)めよ進(すす)めよ神軍(みいくさ)よ
256神(かみ)は汝(なんぢ)と倶(とも)にあり
257吾(われ)等(ら)は神(かみ)の選(えら)みたる
258御国(みくに)を守(まも)る神軍(しんぐん)ぞ
259吾(わが)神軍(しんぐん)の往(ゆ)く道(みち)に
260塞(さや)らむ曲(まが)のあるべきぞ
261あゝ勇(いさ)ましし勇(いさ)ましし
262国(くに)を救(すく)ひの此(この)軍(いくさ)
263民(たみ)の守(まも)りの神軍(みいくさ)ぞ
264あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
265梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
266大国彦(おほくにひこ)の大稜威(おほみいづ)
267吾(わが)身(み)の上(うへ)に輝(かがや)きて
268忠義(ちうぎ)一途(いちづ)に固(かた)まりし
269軍(いくさ)を守(まも)りたまへかし
270勝利(しようり)の都(みやこ)は近(ちか)づきぬ
271勇(いさ)めよ勇(いさ)めよ快男子(くわいだんじ)
272進(すす)めよ進(すす)めよ神軍(みいくさ)よ』
273 照国別(てるくにわけ)は又(また)謡(うた)ふ。
274照国別(てるくにわけ)『吾(われ)は神軍(しんぐん)照国(てるくに)の
275別(わけ)の命(みこと)の宣伝使(せんでんし)
276三五教(あななひけう)の御教(みをしへ)を
277四方(よも)の国々(くにぐに)伝(つた)へむと
278進(すす)み来(きた)れる折(をり)もあれ
279タライの村(むら)のジャンクさまが
280館(やかた)に立(た)ち入(い)り此(この)度(たび)の
281軍(いくさ)の話(はなし)を聞(き)きしより
282吾(われ)も義軍(ぎぐん)に加(くは)はりて
283厳(いづ)の言霊(ことたま)尽(つ)くる迄(まで)
284或(あるひ)は防(ふせ)ぎ戦(たたか)ひつ
285神(かみ)の建(た)てたる神(かみ)の国(くに)
286御空(みそら)に塞(さや)る黒雲(くろくも)を
287伊吹(いぶき)払(はら)ひに払(はら)ふべし
288勇(いさ)めよ勇(いさ)めよ神軍(みいくさ)よ
289神(かみ)は汝(なんぢ)と倶(とも)にあり
290人(ひと)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
291神(かみ)に敵(てき)する曲(まが)はなし
292梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
293大国彦(おほくにひこ)の神(かみ)様(さま)を
294敬(うやま)ひまつり三五(あななひ)の
295教(をしへ)を守(まも)りたまふなる
296神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の
297御稜威(みいづ)を力(ちから)と頼(たの)みつつ
298生死(せいし)の境(さかひ)に超越(てうゑつ)し
299神(かみ)の御(おん)為(ため)国(くに)の為(ため)
300国王(こきし)と民(たみ)を救(すく)ふため
301身(み)もたなしらに進(すす)むべし
302あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
303神(かみ)の御稜威(みいづ)の尊(たふと)さよ
304進(すす)めよ進(すす)めよ神軍士(しんぐんし)
305勇(いさ)めよ勇(いさ)めよ軍人(いくさびと)
306あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
307御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ
308御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
309 梅公(うめこう)は又(また)謡(うた)ふ。
310梅公(うめこう)『吾(わが)師(し)の君(きみ)に従(したが)ひて
311風(かぜ)吹(ふ)き荒(すさ)ぶ河鹿山(かじかやま)
312やうやく越(こ)えて千万(ちよろづ)の
313曲(まが)の難(なやみ)を払(はら)ひつつ
314葵(あふひ)の沼(ぬま)に来(き)て見(み)れば
315月(つき)照(て)り渡(わた)る水(みづ)の面(おも)
316空(そら)に輝(かがや)く清照(きよてる)の
317姫(ひめ)の命(みこと)や黄金(わうごん)の
318姫(ひめ)の命(みこと)の宣伝使(せんでんし)
319右(みぎ)と左(ひだり)に袂(たもと)をば
320別(わか)ちてタライの村(むら)の口(くち)
321進(すす)み来(きた)れる折(をり)もあれ
322バラモン軍(ぐん)の暴状(ばうじやう)を
323耳(みみ)にせしより腕(うで)は鳴(な)り
324血(ち)は躍(をど)りつつどこ迄(まで)も
325世人(よびと)の難(なやみ)を救(すく)はむと
326思(おも)ひきはめし雄心(をごころ)の
327大和心(やまとごころ)のやりばなく
328如何(いかが)はせむと思(おも)ふ折(をり)
329ジャンクの率(ひき)ゆる義勇軍(ぎゆうぐん)
330従軍(じゆうぐん)せよとの師(し)の君(きみ)の
331言葉(ことば)に否(いな)み兼(か)ねつつも
332皇(すめ)大神(おほかみ)の御心(みこころ)と
333仰(あふ)ぎまつりて進(すす)み往(ゆ)く
334さはさりながらスガコ姫(ひめ)
335難(なやみ)に遇(あ)ひしと聞(き)くよりも
336是(これ)が見捨(みす)てて置(お)かれようか
337戦(いくさ)の場(には)に立(た)ちながら
338心(こころ)にかかるは姫(ひめ)の事(こと)
339一旦(いつたん)救(すく)ひ助(たす)けむと
340思(おも)ひ定(さだ)めし吾(わが)胸(むね)は
341いつか晴(は)れなむ大空(おほぞら)を
342包(つつ)みし雲(くも)の如(ごと)くなり
343あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
344御霊(みたま)幸(さち)倍(はへ)ましませよ
345吹(ふ)き来(く)る風(かぜ)は強(つよ)くとも
346敵(てき)の勢(いきほひ)猛(たけ)くとも
347神(かみ)にある身(み)はどこ迄(まで)も
348如何(いか)でか恐(おそ)れためらはむ
349あゝ面白(おもしろ)し面白(おもしろ)し
350敵(てき)を千(せん)里(り)に退(しりぞ)けて
351トルマン国(ごく)を永久(とこしへ)に
352神(かみ)の教(をしへ)に守(まも)るべく
353進(すす)まむ身(み)こそ楽(たの)しけれ
354進(すす)めよ進(すす)めよ神軍(みいくさ)よ
355勇(いさ)めよ勇(いさ)めよ諸人(もろびと)よ
356あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
357御霊(みたま)の恩頼(ふゆ)を願(ね)ぎまつる
358御霊(みたま)の恩頼(ふゆ)を願(ね)ぎまつる』
359 照公(てるこう)は又(また)謡(うた)ふ。
360照公(てるこう)『風(かぜ)よ吹(ふ)け吹(ふ)け科戸(しなど)の風(かぜ)よ
361砂(すな)よ立(た)て立(た)て天(てん)迄(まで)立(た)てよ
362吾(われ)は神軍(しんぐん)照公(てるこう)の
363神(かみ)の司(つかさ)よ乗(の)る駒(こま)の
364蹄(ひづめ)の音(おと)も戛々(かつかつ)と
365如何(いか)なる山路(やまぢ)も恐(おそ)れなく
366神(かみ)のまにまに進(すす)むべし
367デカタン国(ごく)の高原(かうげん)に
368駒(こま)に鞭(むちう)つ吾々(われわれ)は
369三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)
370鳥(とり)獣(けだもの)や草木(くさき)迄(まで)
371救(すく)ひ助(たす)けむ職掌(しよくしやう)ぞ
372大足別(おほだるわけ)の曲軍(まがいくさ)
373バルガン城(じやう)を十重(とへ)廿重(はたへ)
374取(と)り囲(かこ)むとも何(なに)かあらむ
375神(かみ)のよさしの言霊(ことたま)を
376力(ちから)限(かぎ)りに射放(いはな)ちて
377敵(てき)と味方(みかた)の隔(へだ)てなく
378言向(ことむ)け和(やは)すは案(あん)の中(うち)
379刃(やいば)に血(ち)をば塗(ぬ)らずして
380軍(いくさ)をおさむる神(かみ)の徳(とく)
381あゝ勇(いさ)ましし勇(いさ)ましし
382前途(ぜんと)に光明(くわうみやう)輝(かがや)きぬ
383恐(おそ)るる勿(なか)れ神軍士(しんぐんし)
384進(すす)めよ進(すす)めよ皆(みな)共(とも)に
385天国(てんごく)浄土(じやうど)を地(ち)の上(うへ)に
386完全(くわんぜん)無欠(むけつ)に開(ひら)く迄(まで)
387あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
388御霊(みたま)幸(さち)倍(はへ)ましませよ』
389と声(こゑ)勇(いさ)ましく謡(うた)ひながら、390千(せん)里(り)の広野(くわうや)を駒(こま)の蹄(ひづめ)に砂塵(しやぢん)を捲(ま)き上(あ)げながら、391途々(みちみち)参加(さんか)する兵士(へいし)を合(がつ)し、392数千(すうせん)人(にん)の団隊(だんたい)となつてバルガン城(じやう)を目(め)がけ、393勢(いきほひ)猛(たけ)く進(すす)み行(ゆ)く。
394(大正一三・一二・一五 旧一一・一九 於祥雲閣 加藤明子録)
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