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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第66巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 月の高原
第1章 暁の空
第2章 祖先の恵
第3章 酒浮気
第4章 里庄の悩
第5章 愁雲退散
第6章 神軍義兵
第2篇 容怪変化
第7章 女白浪
第8章 神乎魔乎
第9章 谷底の宴
第10章 八百長劇
第11章 亞魔の河
第3篇 異燭獣虚
第12章 恋の暗路
第13章 恋の懸嘴
第14章 相生松風
第15章 喰ひ違ひ
第4篇 恋連愛曖
第16章 恋の夢路
第17章 縁馬の別
第18章 魔神の囁
第19章 女の度胸
第20章 真鬼姉妹
余白歌
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霊界物語
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山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第66巻(巳の巻)
> 第3篇 異燭獣虚 > 第12章 恋の暗路
<<< 亞魔の河
(B)
(N)
恋の懸嘴 >>>
第一二章
恋
(
こひ
)
の
暗路
(
やみぢ
)
〔一六九四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻
篇:
第3篇 異燭獣虚
よみ(新仮名遣い):
いしょくじゅうきょ
章:
第12章 恋の暗路
よみ(新仮名遣い):
こいのやみじ
通し章番号:
1694
口述日:
1924(大正13)年12月16日(旧11月20日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年6月29日
概要:
舞台:
コマの村の里庄の家のサンダーの部屋、門口、オーラ山
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-04-18 15:53:58
OBC :
rm6612
愛善世界社版:
165頁
八幡書店版:
第11輯 791頁
修補版:
校定版:
165頁
普及版:
67頁
初版:
ページ備考:
001
コマの
村
(
むら
)
の
里庄
(
りしやう
)
が
二男
(
じなん
)
サンダーは
002
許嫁
(
いひなづけ
)
のジャンクの
娘
(
むすめ
)
スガコの
行衛
(
ゆくゑ
)
不明
(
ふめい
)
となりしより
怏々
(
おうおう
)
として
楽
(
たの
)
しまず、
003
日夜
(
にちや
)
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
004
神経病
(
しんけいびやう
)
を
起
(
おこ
)
して
一室
(
ひとま
)
に
閉
(
と
)
ぢ
籠
(
こも
)
り、
005
人
(
ひと
)
に
会
(
あ
)
ふのを
嫌
(
きら
)
ふやうになつた。
006
両親
(
りやうしん
)
はサンダーの
憂欝
(
いううつ
)
に
沈
(
しづ
)
める
状態
(
じやうたい
)
を
見
(
み
)
ていろいろに
心
(
こころ
)
を
苦
(
くるし
)
め、
007
医者
(
いしや
)
よ、
008
薬
(
くすり
)
よ、
009
修験者
(
しゆげんじや
)
よと
騒
(
さわ
)
ぎまはれども、
010
サンダーは
一切
(
いつさい
)
の
医薬
(
いやく
)
を
排
(
はい
)
し
且
(
かつ
)
修験者
(
しゆげんじや
)
の
祈祷
(
きたう
)
を
嫌
(
きら
)
ひ、
011
一室
(
ひとま
)
に
潜
(
ひそ
)
んで
時々
(
ときどき
)
自分
(
じぶん
)
の
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
を
毟
(
むし
)
つたり
耳
(
みみ
)
を
掻
(
か
)
いたり、
012
体中
(
からだぢう
)
を
自分
(
じぶん
)
の
爪
(
つめ
)
で
掻
(
か
)
き
拗
(
むし
)
り、
013
半狂乱
(
はんきやうらん
)
の
如
(
ごと
)
くになつて
居
(
ゐ
)
た。
014
さうして
時々
(
ときどき
)
怪
(
あや
)
しげな
声
(
こゑ
)
で
述懐
(
じゆつくわい
)
をのべて
居
(
ゐ
)
る。
015
サンダー『ジャンクの
家
(
いへ
)
に
生
(
うま
)
れたる
016
トルマン
国
(
ごく
)
に
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
017
美人
(
びじん
)
と
聞
(
きこ
)
えしスガコさま
018
結
(
むす
)
ぶの
神
(
かみ
)
の
引
(
ひき
)
合
(
あは
)
せ
019
いつかは
合
(
あ
)
うて
妹
(
いも
)
と
背
(
せ
)
の
020
赤
(
あか
)
き
縁
(
えにし
)
を
結
(
むす
)
び
昆布
(
こぶ
)
021
苦労
(
くらう
)
するめの
夫婦
(
ふうふ
)
ぞと
022
楽
(
たの
)
しみ
待
(
ま
)
つた
甲斐
(
かひ
)
もなく
023
世
(
よ
)
は
味気
(
あぢき
)
なき
諸行
(
しよぎやう
)
無常
(
むじやう
)
024
今
(
いま
)
に
行衛
(
ゆくゑ
)
も
白雲
(
しらくも
)
の
025
何処
(
いづこ
)
の
果
(
はて
)
にましますか
026
柳
(
やなぎ
)
の
眉毛
(
まゆげ
)
涼
(
すず
)
しき
目許
(
めもと
)
027
つんもりしたる
鼻貌
(
はなかたち
)
028
紅
(
べに
)
の
唇
(
くちびる
)
、
花
(
はな
)
の
口
(
くち
)
029
耳
(
みみ
)
にかけたる
七宝
(
しつぽう
)
や
030
時々
(
ときどき
)
光
(
ひか
)
る
夜光石
(
やくわうせき
)
031
髪
(
かみ
)
は
烏
(
からす
)
の
濡羽色
(
ぬればいろ
)
032
起居
(
たちゐ
)
物腰
(
ものごし
)
しとやかに
033
棚機姫
(
たなばたひめ
)
の
大空
(
おほぞら
)
ゆ
034
天降
(
あも
)
りましたる
風情
(
ふぜい
)
にて
035
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
人
(
ひと
)
と
生
(
うま
)
れまし
036
吾
(
わが
)
恋妻
(
こひづま
)
となり
玉
(
たま
)
ふ
037
間近
(
まぢか
)
き
空
(
そら
)
に
果敢
(
はか
)
なくも
038
秋
(
あき
)
の
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
と
散
(
ち
)
り
果
(
は
)
てて
039
何処
(
どこ
)
のいづこに
在
(
ま
)
しますか
040
但
(
ただ
)
しは
猛
(
たけ
)
き
獣
(
けだもの
)
の
041
餌食
(
ゑじき
)
とならせ
玉
(
たま
)
ひしか
042
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
味気
(
あぢき
)
なき
043
憂世
(
うきよ
)
に
残
(
のこ
)
されいつ
迄
(
まで
)
も
044
長
(
なが
)
らふ
事
(
こと
)
の
恥
(
はづか
)
しさ
045
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
も
男
(
を
)
の
子
(
こ
)
の
端
(
はし
)
なれば
046
恋
(
こひ
)
しき
妻
(
つま
)
を
奪
(
うば
)
はれて
047
いかで
此
(
この
)
儘
(
まま
)
泣
(
な
)
き
止
(
や
)
まむ
048
吾
(
わが
)
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
のある
限
(
かぎ
)
り
049
雲
(
くも
)
を
分
(
わ
)
けても
探
(
さが
)
し
出
(
だ
)
し
050
容貌
(
みめ
)
美
(
うる
)
はしき
姫
(
ひめ
)
の
顔
(
かほ
)
051
再
(
ふたた
)
びまみえ
村肝
(
むらきも
)
の
052
心
(
こころ
)
の
奥
(
おく
)
を
語
(
かた
)
り
合
(
あ
)
ひ
053
互
(
たがひ
)
に
手
(
て
)
に
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り
交
(
かは
)
し
054
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
広
(
ひろ
)
く
楽
(
たの
)
もしく
055
暮
(
くら
)
さむものと
思
(
おも
)
ふより
056
頭
(
あたま
)
は
痛
(
いた
)
み
胸
(
むね
)
つかへ
057
日月
(
じつげつ
)
空
(
そら
)
に
輝
(
かがや
)
けど
058
いとも
暗
(
くら
)
けき
心地
(
ここち
)
して
059
闇夜
(
やみよ
)
を
渡
(
わた
)
る
如
(
ごと
)
くなり
060
あゝ
如何
(
いか
)
にせむ
千秋
(
せんしう
)
の
061
怨
(
うらみ
)
はつきじトルマンの
062
国
(
くに
)
に
塞
(
ふさ
)
がる
雲
(
くも
)
の
空
(
そら
)
063
空
(
そら
)
行
(
ゆ
)
く
雁
(
かり
)
の
心
(
こころ
)
しあらば
064
恋
(
こひ
)
しき
姫
(
ひめ
)
の
在所
(
ありか
)
をば
065
尋
(
たづ
)
ね
求
(
もと
)
めて
吾
(
わが
)
恋
(
こ
)
ふる
066
心
(
こころ
)
を
伝
(
つた
)
へ
呉
(
く
)
れよかし
067
儘
(
まま
)
ならぬ
世
(
よ
)
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
068
神
(
かみ
)
や
仏
(
ほとけ
)
に
見放
(
みはな
)
され
069
かかる
憂目
(
うきめ
)
を
味
(
あぢ
)
あふか
070
親
(
おや
)
の
罪
(
つみ
)
とは
誰
(
たれ
)
が
云
(
い
)
ふ
071
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
は
親々
(
おやおや
)
の
072
重
(
おも
)
き
罪
(
つみ
)
をば
生
(
う
)
みの
子
(
こ
)
の
073
身魂
(
みたま
)
に
迄
(
まで
)
も
厳
(
おごそ
)
かに
074
加
(
くは
)
へますべき
道理
(
だうり
)
なし
075
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
076
天地
(
てんち
)
の
間
(
あひ
)
に
神
(
かみ
)
まさば
077
吾
(
わが
)
胸先
(
むなさき
)
の
苦
(
くる
)
しさを
078
いと
速
(
すみや
)
かに
科戸辺
(
しなどべ
)
の
079
風
(
かぜ
)
に
払
(
はら
)
はせ
玉
(
たま
)
へかし
080
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
姫
(
ひめ
)
の
身
(
み
)
の
081
いと
安
(
やす
)
かれと
真心
(
まごころ
)
を
082
捧
(
ささ
)
げて
祈
(
いの
)
り
奉
(
たてまつ
)
る
083
捧
(
ささ
)
げて
祈
(
いの
)
り
奉
(
たてまつ
)
る』
084
かく
歌
(
うた
)
ひ
了
(
をは
)
り、
085
サンダーは
力
(
ちから
)
なげに
気晴
(
きば
)
らしの
為
(
ため
)
とて
郊外
(
かうぐわい
)
に
出
(
い
)
で
往来
(
ゆきき
)
の
人
(
ひと
)
を
眺
(
なが
)
めてゐた。
086
サンダーは
国内
(
こくない
)
きつての
美男子
(
びだんし
)
で
白面
(
はくめん
)
の
青年
(
せいねん
)
、
087
常
(
つね
)
に
女装
(
ぢよさう
)
を
好
(
この
)
み、
088
何人
(
なにびと
)
も
相
(
あひ
)
会
(
あ
)
ふ
人
(
ひと
)
は
之
(
これ
)
を
男子
(
だんし
)
と
認
(
みと
)
むるものはなき
程
(
ほど
)
の
美貌
(
びばう
)
を
備
(
そな
)
へてゐた。
089
彼
(
かれ
)
は
門口
(
もんぐち
)
に
立
(
た
)
つて
空
(
そら
)
行
(
ゆ
)
く
雲
(
くも
)
をポカンとして
眺
(
なが
)
めて
居
(
ゐ
)
ると、
090
そこへ
錫杖
(
しやくぢやう
)
をガチヤンガチヤンと
音
(
おと
)
させ
乍
(
なが
)
ら
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
る
白髪
(
はくはつ
)
異様
(
いやう
)
の
修験者
(
しゆげんじや
)
、
091
彼
(
かれ
)
が
美貌
(
びばう
)
を
見
(
み
)
て、
092
その
前
(
まへ
)
に
錫杖
(
しやくぢやう
)
を
止
(
とど
)
め、
093
顔色
(
かほいろ
)
を
和
(
やはら
)
げ
乍
(
なが
)
ら、
094
修験者
(
しゆげんじや
)
『これこれお
嬢
(
ぢやう
)
さま、
095
貴女
(
あなた
)
は
顔色
(
かほいろ
)
が
悪
(
わる
)
いやうだが、
096
何
(
なに
)
か
心配事
(
しんぱいごと
)
が
厶
(
ござ
)
るかな。
097
若
(
わか
)
い
娘
(
むすめ
)
に、
098
よくあるラブと
云
(
い
)
ふ
病
(
やまひ
)
ではなからうか。
099
それならばオーラ
山
(
ざん
)
に
現
(
あら
)
はれ
玉
(
たま
)
ふ
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
許
(
もと
)
に
参拝
(
さんぱい
)
し
御
(
ご
)
祈願
(
きぐわん
)
を
籠
(
こ
)
めなされ。
100
必
(
かなら
)
ず
霊験
(
れいけん
)
がありますよ。
101
拙僧
(
せつそう
)
はオーラ
山
(
さん
)
の
活神
(
いきがみ
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
の
高弟
(
かうてい
)
でシーゴー
坊
(
ばう
)
と
申
(
まを
)
すもの、
102
人助
(
ひとだす
)
けのために
各地
(
かくち
)
を
遍歴
(
へんれき
)
致
(
いた
)
す
修験者
(
しゆげんじや
)
で
厶
(
ござ
)
る。
103
いかなる
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
も、
104
オーラ
山
(
ざん
)
の
玄真坊
(
げんしんばう
)
さまに
伺
(
うかが
)
へば
忽
(
たちま
)
ち
煙散
(
えんさん
)
霧消
(
むせう
)
し、
105
平和
(
へいわ
)
と
幸福
(
かうふく
)
の
太陽
(
たいやう
)
が、
106
貴方
(
あなた
)
の
心天
(
しんてん
)
に
輝
(
かがや
)
くであらう。
107
帰妙
(
きめう
)
頂礼
(
ちやうらい
)
神道
(
しんだう
)
加持
(
かぢ
)
謹上
(
きんじやう
)
再拝
(
さいはい
)
』
108
と
厳
(
おごそ
)
かに
呪文
(
じゆもん
)
を
唱
(
とな
)
へる。
109
サンダーは
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
修験者
(
しゆげんじや
)
の
祈祷
(
きたう
)
を
両親
(
りやうしん
)
から
勧
(
すす
)
められ、
110
又
(
また
)
出入
(
でいり
)
の
者
(
もの
)
からも
勧
(
すす
)
められてゐたが、
111
チツトも
気
(
き
)
が
向
(
む
)
かなかつた。
112
然
(
しか
)
るに
今
(
いま
)
目
(
ま
)
のあたり
113
威儀
(
ゐぎ
)
厳然
(
げんぜん
)
たる
修験者
(
しゆげんじや
)
に
会
(
あ
)
ひ、
114
どこともなく
頼
(
たの
)
もしき
言葉
(
ことば
)
に
釣
(
つ
)
り
込
(
こ
)
まれ、
115
少
(
すこ
)
しく
心
(
こころ
)
が
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
した。
116
サンダー『もし、
117
修験者
(
しゆげんじや
)
様
(
さま
)
、
118
私
(
わたし
)
はあるにあられぬ
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
の
淵
(
ふち
)
に
沈
(
しづ
)
んで
居
(
を
)
ります。
119
もはや
此
(
この
)
世
(
よ
)
が
嫌
(
いや
)
になり、
120
一層
(
いつそう
)
天国
(
てんごく
)
の
旅
(
たび
)
をなさむかと
只今
(
ただいま
)
思案
(
しあん
)
にくれてゐた
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
りますが、
121
いかなる
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
も
玄真坊
(
げんしんばう
)
と
云
(
い
)
ふ
活神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
に
願
(
ねが
)
へばお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さるでせうか』
122
シーゴー『
貴方
(
あなた
)
は、
123
まだお
聞
(
き
)
きなさらぬか。
124
御
(
ご
)
霊験
(
れいけん
)
の
顕著
(
けんちよ
)
なること
日月
(
じつげつ
)
の
如
(
ごと
)
く、
125
オーラ
山
(
ざん
)
に
向
(
むか
)
つて
参拝
(
さんぱい
)
する
善男
(
ぜんなん
)
善女
(
ぜんによ
)
は
蟻
(
あり
)
の
甘
(
あま
)
きに
集
(
つど
)
ふ
如
(
ごと
)
く、
126
明
(
あけ
)
六
(
む
)
つより
午後
(
ごご
)
の
七
(
なな
)
つ
時
(
どき
)
までは
引
(
ひき
)
もきらぬ
群集
(
ぐんしふ
)
、
127
各自
(
めいめい
)
神徳
(
しんとく
)
を
頂
(
いただ
)
いて
帰
(
かへ
)
りますよ。
128
中
(
なか
)
には
妻
(
つま
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
129
娘
(
むすめ
)
を
失
(
うしな
)
ひいろいろ
心配
(
しんぱい
)
して
居
(
を
)
られた
方
(
かた
)
が、
130
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
天眼力
(
てんがんりき
)
によつて、
131
所在
(
ありか
)
分
(
わか
)
り
歓喜
(
くわんき
)
の
涙
(
なみだ
)
に
浴
(
よく
)
して
居
(
ゐ
)
られる
方
(
かた
)
も
沢山
(
たくさん
)
厶
(
ござ
)
ります。
132
まづ
一度
(
いちど
)
お
詣
(
まゐ
)
りなさいませ』
133
サンダー『あらたかな
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
がオーラ
山
(
ざん
)
に
現
(
あらは
)
れたといふ
事
(
こと
)
はチヨコチヨコ
承
(
うけたまは
)
つて
居
(
ゐ
)
ますが、
134
偽救主
(
にせきうしゆ
)
、
135
偽
(
にせ
)
キリストが
雨後
(
うご
)
の
筍
(
たけのこ
)
の
如
(
ごと
)
く
現
(
あらは
)
れる
時節
(
じせつ
)
ですから、
136
又
(
また
)
その
種類
(
しゆるゐ
)
と
存
(
ぞん
)
じ、
137
僕
(
しもべ
)
共
(
ども
)
の
忠告
(
ちうこく
)
をも
聞
(
き
)
かず
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
疎
(
うと
)
んじて
居
(
を
)
りましたが、
138
貴方
(
あなた
)
のお
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いてどうやら
心
(
こころ
)
が
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
して
来
(
き
)
ました。
139
然
(
しか
)
らば
近
(
ちか
)
い
中
(
うち
)
、
140
気分
(
きぶん
)
のよい
日
(
ひ
)
を
考
(
かんが
)
へて
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
すで
厶
(
ござ
)
りませう』
141
シーゴー『や、
142
それは
結構
(
けつこう
)
です、
143
屹度
(
きつと
)
後利益
(
ごりやく
)
がありますよ。
144
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
くお
詣
(
まゐ
)
りなさいませ』
145
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
146
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
して
又
(
また
)
もや
錫杖
(
しやくぢやう
)
をガチヤつかせ
乍
(
なが
)
ら
遠
(
とほ
)
く
彼方
(
かなた
)
へ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
147
サンダーは
暗夜
(
あんや
)
に
一縷
(
いちる
)
の
光明
(
くわうみやう
)
を
得
(
え
)
たる
如
(
ごと
)
き
心地
(
ここち
)
して、
148
その
日
(
ひ
)
の
夕暮
(
ゆふぐれ
)
よりソツと
吾
(
わが
)
家
(
や
)
を
抜
(
ぬ
)
け
出
(
い
)
でオーラ
山
(
さん
)
の
大杉
(
おほすぎ
)
の
星
(
ほし
)
の
光
(
ひかり
)
を
目
(
め
)
あてとし、
149
道々
(
みちみち
)
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
夜風
(
よかぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれつつトボトボと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
くのであつた。
150
サンダー『
天津
(
あまつ
)
御空
(
みそら
)
は
澄
(
す
)
み
渡
(
わた
)
り
151
草
(
くさ
)
より
出
(
い
)
でし
日
(
ひ
)
の
神
(
かみ
)
は
152
又
(
また
)
もや
草
(
くさ
)
に
入
(
い
)
りまして
153
あとに
輝
(
かがや
)
く
望
(
もち
)
の
月
(
つき
)
154
星
(
ほし
)
の
光
(
ひかり
)
は
疎
(
まばら
)
にて
155
気
(
き
)
は
澄
(
す
)
み
渡
(
わた
)
る
大野原
(
おほのはら
)
156
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
風
(
かぜ
)
に
百草
(
ももくさ
)
の
157
そよぎの
音
(
おと
)
も
騒
(
さわ
)
がしく
158
犬
(
いぬ
)
の
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
かしましく
159
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
の
村々
(
むらむら
)
ゆ
160
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
るぞ
恐
(
おそ
)
ろしき
161
スガコの
姫
(
ひめ
)
の
所在
(
ありか
)
をば
162
探
(
たづ
)
ねむものと
足乳根
(
たらちね
)
の
163
父
(
ちち
)
と
母
(
はは
)
との
目
(
め
)
を
忍
(
しの
)
び
164
夜
(
よる
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
一人旅
(
ひとりたび
)
165
淋
(
さび
)
しき
野路
(
のぢ
)
も
誰故
(
たれゆゑ
)
ぞ
166
生命
(
いのち
)
に
代
(
か
)
へて
愛
(
あい
)
したる
167
スガコの
君
(
きみ
)
があればこそ
168
スガコの
姫
(
ひめ
)
よスガコさま
169
お
前
(
まへ
)
は
何処
(
いづこ
)
の
空
(
そら
)
にゐる
170
無言
(
むげん
)
霊話
(
れいわ
)
があるならば
171
ここに
居
(
ゐ
)
ますと
一言
(
ひとこと
)
の
172
音信
(
おとづれ
)
吾
(
われ
)
に
送
(
おく
)
りませ
173
吾
(
わが
)
魂
(
たましひ
)
は
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
なに
174
汝
(
なれ
)
が
所在
(
ありか
)
を
探
(
たづ
)
ねむと
175
中有
(
ちうう
)
に
迷
(
まよ
)
へど
限
(
かぎ
)
りなき
176
此
(
この
)
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
の
弥広
(
いやひろ
)
さ
177
何
(
なん
)
の
手掛
(
てがか
)
りなく
計
(
ばか
)
り
178
涙
(
なみだ
)
に
袖
(
そで
)
を
搾
(
しぼ
)
りつつ
179
夜
(
よる
)
は
淋
(
さび
)
しき
一人寝
(
ひとりね
)
の
180
枕
(
まくら
)
に
通
(
かよ
)
ふ
虫
(
むし
)
の
音
(
ね
)
も
181
汝
(
なれ
)
が
命
(
みこと
)
の
囁
(
ささや
)
きと
182
思
(
おも
)
ひ
迷
(
まよ
)
ふぞ
果敢
(
はか
)
なけれ
183
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
神
(
かみ
)
の
在
(
ゐ
)
ますなら
184
恋
(
こひ
)
し
焦
(
こが
)
れし
二人仲
(
ふたりなか
)
185
結
(
むす
)
ぶの
神
(
かみ
)
の
引合
(
ひきあは
)
せ
186
必
(
かなら
)
ず
会
(
あ
)
はせ
給
(
たま
)
ふとは
187
思
(
おも
)
ひ
慰
(
なぐさ
)
めゐるなれど
188
心
(
こころ
)
も
暗
(
くら
)
き
吾
(
わが
)
思
(
おも
)
ひ
189
汲
(
く
)
ませ
給
(
たま
)
へよスガコ
姫
(
ひめ
)
190
呼
(
よ
)
べど
叫
(
さけ
)
べど
荒風
(
あらかぜ
)
の
191
中
(
なか
)
を
遮
(
さへぎ
)
る
悲
(
かな
)
しさに
192
吾
(
わが
)
真心
(
まごころ
)
も
汝
(
な
)
が
耳
(
みみ
)
に
193
直
(
ただ
)
に
入
(
い
)
らぬが
口惜
(
くちを
)
しや
194
夢
(
ゆめ
)
になりとも
会
(
あ
)
はま
欲
(
ほ
)
しと
195
思
(
おも
)
ひ
寝
(
いぬ
)
れば
夢
(
ゆめ
)
に
入
(
い
)
り
196
恋
(
こひ
)
しき
汝
(
なれ
)
が
訪
(
おとな
)
ひの
197
声
(
こゑ
)
かと
見
(
み
)
れば
雨
(
あめ
)
の
音
(
おと
)
198
風
(
かぜ
)
の
野原
(
のはら
)
を
渡
(
わた
)
る
声
(
こゑ
)
199
汝
(
なれ
)
を
松虫
(
まつむし
)
、
鈴虫
(
すずむし
)
や
200
実
(
げ
)
にもはかなき
蓑虫
(
みのむし
)
の
201
日
(
ひ
)
に
日
(
ひ
)
に
細
(
ほそ
)
る
霜
(
しも
)
の
下
(
した
)
202
実
(
げ
)
にも
淋
(
さび
)
しき
吾
(
わが
)
心根
(
むね
)
を
203
汲
(
く
)
みとりませよスガコ
姫
(
ひめ
)
204
汝
(
なれ
)
に
会
(
あ
)
はむと
朝夕
(
あさゆふ
)
に
205
思
(
おも
)
ふ
恋路
(
こひぢ
)
の
募
(
つの
)
り
来
(
き
)
て
206
今
(
いま
)
は
全
(
まつた
)
く
病気
(
いたづき
)
の
207
ままならぬ
身
(
み
)
となりにけり
208
さはさり
乍
(
なが
)
ら
汝
(
なれ
)
思
(
おも
)
ふ
209
恋
(
こひ
)
の
力
(
ちから
)
の
不思議
(
ふしぎ
)
なる
210
病躯
(
びやうく
)
を
起
(
おこ
)
して
野路
(
のぢ
)
山路
(
やまぢ
)
211
区別
(
けじめ
)
白露
(
しらつゆ
)
分
(
わ
)
けて
行
(
ゆ
)
く
212
オーラの
山
(
やま
)
の
生神
(
いきがみ
)
の
213
稜威
(
みいづ
)
を
受
(
う
)
けて
妹
(
いも
)
と
背
(
せ
)
の
214
汝
(
なれ
)
に
会
(
あ
)
はむが
楽
(
たのし
)
みに
215
冷
(
つめ
)
たき
夜風
(
よかぜ
)
を
浴
(
あ
)
び
乍
(
なが
)
ら
216
露
(
つゆ
)
の
芝草
(
しばぐさ
)
踏
(
ふ
)
みしめて
217
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
の
明
(
あか
)
りをば
218
杖
(
つゑ
)
や
力
(
ちから
)
と
頼
(
たの
)
みつつ
219
吾
(
われ
)
はイソイソ
上
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
220
吾
(
われ
)
はイソイソ
上
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く』
221
サンダーはトボトボと
夜露
(
よつゆ
)
滴
(
したた
)
る
高原
(
かうげん
)
を、
222
オーラ
山
(
さん
)
目
(
め
)
あてに
進
(
すす
)
みしが、
223
途中
(
とちう
)
に
於
(
おい
)
てガラリと
夜
(
よ
)
を
明
(
あか
)
して
了
(
しま
)
つた。
224
身体
(
しんたい
)
綿
(
わた
)
の
如
(
ごと
)
く
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
て
路傍
(
みちばた
)
の
方形
(
はうけい
)
の
岩
(
いは
)
に
腰
(
こし
)
をかけ、
225
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
め
遂
(
つひ
)
には
眠
(
ねむり
)
についた。
226
音
(
おと
)
に
名高
(
なだか
)
き
美青年
(
びせいねん
)
、
227
色
(
いろ
)
は
飽
(
あく
)
迄
(
まで
)
白
(
しろ
)
く、
228
玉
(
たま
)
の
肌
(
はだへ
)
、
229
衣
(
きぬ
)
を
通
(
とほ
)
して
光
(
ひか
)
るが
如
(
ごと
)
く
230
眉
(
まゆ
)
涼
(
すず
)
しうして
鼻筋
(
はなすぢ
)
通
(
とほ
)
り、
231
歯
(
は
)
は
象牙
(
ざうげ
)
細工
(
ざいく
)
の
如
(
ごと
)
く
白
(
しろ
)
くして
光沢
(
くわうたく
)
あり、
232
黒目勝
(
くろめがち
)
の
露
(
つゆ
)
を
帯
(
お
)
びたる
目
(
め
)
、
233
誰
(
たれ
)
が
目
(
め
)
にも
女
(
をんな
)
とより
見
(
み
)
えなかつた。
234
大画伯
(
だいぐわはく
)
の
精根
(
せいこん
)
を
凝
(
こ
)
らして
成
(
な
)
れる
絵
(
ゑ
)
の
中
(
なか
)
より
抜
(
ぬ
)
け
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た
如
(
ごと
)
き
美人
(
びじん
)
、
235
四辺
(
あたり
)
に
芳香
(
はうかう
)
薫
(
くん
)
じ、
236
音楽
(
おんがく
)
聞
(
きこ
)
ゆるが
如
(
ごと
)
き
思
(
おも
)
ひに
満
(
み
)
たされる。
237
かかる
美男子
(
びだんし
)
が
女装
(
ぢよさう
)
したまま、
238
頬杖
(
ほほづゑ
)
をついて
路傍
(
ろばう
)
の
岩
(
いは
)
に
腰
(
こし
)
打
(
うち
)
かけ
眠
(
ねむ
)
つて
居
(
ゐ
)
る
其
(
そ
)
の
風情
(
ふうぜい
)
は
海棠
(
かいだう
)
の
雨
(
あめ
)
に
萎
(
しほ
)
るる
如
(
ごと
)
く、
239
梅花
(
ばいくわ
)
の
旭
(
あさひ
)
に
匂
(
にほ
)
へるが
如
(
ごと
)
く、
240
一見
(
いつけん
)
人
(
ひと
)
をして
恍惚
(
くわうこつ
)
たらしめ、
241
心魂
(
しんこん
)
をして
宙
(
ちう
)
に
飛
(
と
)
ばしむる
如
(
ごと
)
き
光景
(
くわうけい
)
である。
242
そこへシーゴーの
部下
(
ぶか
)
なる、
243
ショール、
244
コリ
等
(
ら
)
は
十七八
(
じふしちはち
)
名
(
めい
)
の
手下
(
てした
)
を
従
(
したが
)
へ、
245
髯
(
ひげ
)
に
露
(
つゆ
)
を
浮
(
う
)
かせ、
246
尻切
(
しりきれ
)
草鞋
(
わらぢ
)
をパサつかせ
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
247
サンダーの
眠
(
ねむ
)
れる
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
夢
(
ゆめ
)
か
現
(
うつつ
)
か
将
(
はた
)
又
(
また
)
天女
(
てんによ
)
の
降臨
(
かうりん
)
か。
248
魔
(
ま
)
か
女
(
をんな
)
かとアツケにとられ、
249
少時
(
しばし
)
佇
(
たたず
)
んでゐた。
250
ショールは
頻
(
しき
)
りに
首
(
くび
)
を
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
251
左右
(
さいう
)
の
部下
(
ぶか
)
を
顧
(
かへり
)
み、
252
ショール『
何
(
なん
)
と、
253
綺麗
(
きれい
)
なものだなア。
254
オイ、
255
まともから
拝
(
をが
)
むと、
256
目
(
め
)
がマクマクするぢやないか。
257
あれは
果
(
はた
)
して
人間
(
にんげん
)
だらうか、
258
もし
人間
(
にんげん
)
とすれば
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
のやうに、
259
何
(
なん
)
とか
一芝居
(
ひとしばゐ
)
をして
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
の
岩窟
(
いはや
)
に
引張
(
ひつぱり
)
込
(
こ
)
まうぢやないか。
260
さうすりやキツト
御
(
ご
)
褒美
(
ほうび
)
に、
261
又
(
また
)
甘
(
うま
)
い
酒
(
さけ
)
でもふれまつて
貰
(
もら
)
うと、
262
ままだよ。
263
なあコリ、
264
貴様
(
きさま
)
どう
考
(
かんが
)
へるか』
265
コリ『ウン
全
(
まつた
)
くだ』
266
ショール『
何
(
なに
)
が
全
(
まつた
)
くだい。
267
全
(
まつた
)
くでは
意味
(
いみ
)
が
分
(
わか
)
らぬぢやないか』
268
コリ『ウンウン
何
(
なに
)
しろ
全
(
まつた
)
くだ。
269
全
(
まつた
)
く
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
り
度
(
た
)
いわい。
270
彼奴
(
あいつ
)
ア、
271
キツト
化衆
(
ばけしう
)
だ。
272
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
にあんな
美人
(
びじん
)
があらう
筈
(
はず
)
がない、
273
相手
(
あひて
)
になるな。
274
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
の
美人
(
びじん
)
だつて
神徳
(
しんとく
)
高
(
たか
)
き
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
が
何程
(
なんぼ
)
口説
(
くど
)
いてもたらしても、
275
お
挺
(
てこ
)
にあはないのだもの。
276
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
のやうな
小盗児
(
せうとる
)
連
(
れん
)
は、
277
まづ
相手
(
あひて
)
にならぬ
方
(
はう
)
がましだよ。
278
いらはぬ
神
(
かみ
)
に
祟
(
たたり
)
なしだ。
279
何時
(
いつ
)
、
280
尻尾
(
しりを
)
を
出
(
だ
)
すか
知
(
し
)
れない、
281
サア
逃
(
に
)
げろ
逃
(
に
)
げろ』
282
とがやがや
立
(
た
)
ち
騒
(
さわ
)
ぐ。
283
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
にサンダーはフツト
目
(
め
)
を
覚
(
さ
)
まし、
284
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば
森
(
もり
)
の
烏
(
からす
)
はカアカアと
清
(
きよ
)
く
鳴
(
な
)
き
亘
(
わた
)
り、
285
小鳥
(
ことり
)
はチユンチユン ジヤンジヤンと
鼓膜
(
こまく
)
を
揺
(
ゆる
)
がせる。
286
サンダーはショール、
287
コリの
一隊
(
いつたい
)
に
向
(
むか
)
ひ
徐
(
おもむろ
)
に
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
いて、
288
サンダー『もし、
289
そこに
居
(
を
)
らるる
方々
(
かたがた
)
、
290
物
(
もの
)
をお
尋
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
しますがオーラ
山
(
ざん
)
の
修験者
(
しゆげんじや
)
、
291
玄真坊
(
げんしんばう
)
のお
住居
(
すまゐ
)
は
何処
(
いづこ
)
で
厶
(
ござ
)
いますか。
292
遠方
(
ゑんぱう
)
から
大杉
(
おほすぎ
)
を
見当
(
みあて
)
[
*
ルビ「みあて」はママ
]
に
参
(
まゐ
)
りましたが、
293
麓
(
ふもと
)
にかかつてより
目標
(
めじるし
)
を
見失
(
みうし
)
なひ、
294
行手
(
ゆくて
)
に
悩
(
なや
)
んで
居
(
を
)
ります。
295
どうか
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
下
(
くだ
)
さいますまいか』
296
ショールは
此
(
こ
)
の
声
(
こゑ
)
にやつと
安心
(
あんしん
)
し、
297
ショール『ヤツパリ
人間
(
にんげん
)
だ』
298
と
小声
(
こごゑ
)
に
囁
(
ささや
)
き
乍
(
なが
)
ら、
299
ショール『ハイ、
300
私
(
わたし
)
は
此
(
この
)
辺
(
へん
)
をうろついてゐる
泥棒
(
どろばう
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
301
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
の
処
(
ところ
)
へ
案内
(
あんない
)
せよと
仰有
(
おつしや
)
いますけど、
302
私
(
わたし
)
のやうな
悪人
(
あくにん
)
は
到底
(
たうてい
)
お
側
(
そば
)
へも
寄
(
よ
)
れませぬ。
303
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
も
玄真坊
(
げんしんばう
)
に
鉄拳
(
てつけん
)
の
雨
(
あめ
)
にあひ、
304
吾々
(
われわれ
)
一同
(
いちどう
)
はコリコリ
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります。
305
のうコリ、
306
痛
(
いた
)
かつたな。
307
又
(
また
)
もや、
308
こんな
処
(
ところ
)
にうろついて
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
を
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
に
見付
(
みつ
)
けられたならば、
309
「これ
貴様
(
きさま
)
はあれほど
戒
(
いまし
)
めて
居
(
ゐ
)
るのに、
310
ショールコリもせず
小盗児
(
せうとる
)
をやつてるか」と、
311
いかいお
目玉
(
めだま
)
を
頂
(
いただ
)
いては
睾丸
(
きんたま
)
が
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
ります。
312
此
(
この
)
道
(
みち
)
をスツト
一直線
(
いつちよくせん
)
に
三十町
(
さんじつちやう
)
許
(
ばか
)
りお
上
(
あが
)
りになれば、
313
そこが
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
のお
館
(
やかた
)
です。
314
分
(
わか
)
らな、
315
暫
(
しばら
)
く
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
316
もう
半時
(
はんとき
)
もすれば
沢山
(
たくさん
)
な
参詣者
(
さんけいしや
)
がここを
通
(
とほ
)
りますよ。
317
さうすれば
一緒
(
いつしよ
)
にお
上
(
あが
)
りになれば
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
もいりますまい』
318
サンダー『
泥棒
(
どろばう
)
が
泥棒
(
どろばう
)
と
名乗
(
なの
)
るのは
今
(
いま
)
が
聞
(
きき
)
初
(
はじ
)
めだ。
319
そんな
正直
(
しやうぢき
)
な
事
(
こと
)
で
泥棒
(
どろばう
)
渡世
(
とせい
)
が
出来
(
でき
)
るのか』
320
ショール『ハイ、
321
貴方
(
あなた
)
に
対
(
たい
)
してのみ、
322
こんな
正直
(
しやうぢき
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
したのです。
323
隠
(
かく
)
したつて
貴下
(
あなた
)
のその
眼孔
(
がんこう
)
には、
324
直
(
す
)
ぐ
看破
(
かんぱ
)
されますからな。
325
大方
(
おほかた
)
お
嬢
(
ぢやう
)
さまはシーゴー
様
(
さま
)
の
修験者
(
しゆげんじや
)
に
聞
(
き
)
いてお
詣
(
まゐ
)
りになつたのでせう』
326
サンダー『あゝさうです。
327
修験者
(
しゆげんじや
)
が
私
(
わたし
)
の
門前
(
もんぜん
)
を
通
(
とほ
)
り、
328
あらたかな
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
があるから
詣
(
まゐ
)
れと
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さつたので、
329
とるものも
取
(
と
)
り
敢
(
あ
)
へず
夜
(
よる
)
の
道
(
みち
)
を
急
(
いそ
)
いで、
330
やつて
来
(
き
)
たのですよ』
331
ショール『
男
(
をとこ
)
のやうな
言葉
(
ことば
)
扱
(
づかひ
)
もあり、
332
女
(
をんな
)
のやうな
言葉
(
ことば
)
扱
(
づかひ
)
もあり、
333
私
(
わたし
)
としては、
334
お
前
(
まへ
)
さまの
正体
(
しやうたい
)
は
分
(
わか
)
りませぬが、
335
貴下
(
あなた
)
はそんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて
吾々
(
われわれ
)
の
行動
(
かうどう
)
を
調
(
しら
)
べて
居
(
ゐ
)
らつしやるのでせう。
336
大親分
(
おほおやぶん
)
のヨリコ
姫
(
ひめ
)
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
でせうがな』
337
サンダーは……
女装
(
ぢよさう
)
をしてゐる
事
(
こと
)
なり、
338
ヤツパリ
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
は
女
(
をんな
)
と
見
(
み
)
て
居
(
を
)
る、
339
今
(
いま
)
ヨリコ
姫
(
ひめ
)
女帝
(
によてい
)
と
云
(
い
)
ふたのは
何
(
なに
)
か
山賊
(
さんぞく
)
の
親分
(
おやぶん
)
の
名
(
な
)
かも
知
(
し
)
れない。
340
あゝ
云
(
い
)
ふ
木端
(
こつぱ
)
盗人
(
ぬすと
)
は
親分
(
おやぶん
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
る
事
(
こと
)
の
出来
(
でき
)
ないものだ。
341
キツト
数千
(
すうせん
)
の
団体
(
だんたい
)
を
抱
(
かか
)
へてゐる
大親分
(
おほおやぶん
)
だらう。
342
此奴
(
こいつ
)
を
一
(
ひと
)
つ
計略
(
けいりやく
)
にかけ、
343
疲
(
つか
)
れた
足
(
あし
)
を
歩
(
あゆ
)
むのを
助
(
たす
)
かるため
舁
(
かつ
)
がして
上
(
あが
)
つて
見
(
み
)
ようかな……と
俄
(
にはか
)
に
大胆
(
だいたん
)
な
心
(
こころ
)
を
起
(
おこ
)
しワザとおチヨボ
口
(
ぐち
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
344
サンダー『オホヽヽヽ、
345
お
前
(
まへ
)
は
妾
(
わらは
)
の
乾児
(
こぶん
)
と
見
(
み
)
えるな、
346
お
前
(
まへ
)
の
察
(
さつ
)
し
通
(
どほ
)
りヨリコ
姫
(
ひめ
)
女帝
(
によてい
)
だよ。
347
玄真坊
(
げんしんばう
)
さまのお
側
(
そば
)
へ
案内
(
あんない
)
して
呉
(
く
)
れや。
348
妾
(
わらは
)
の
体
(
からだ
)
を
大切
(
たいせつ
)
に、
349
荒男
(
あらをとこ
)
がよつて
此
(
この
)
阪道
(
さかみち
)
を
舁
(
か
)
き
上
(
あ
)
げるのだよ。
350
サア
御
(
ご
)
褒美
(
ほうび
)
に
之
(
これ
)
を
与
(
あ
)
げよう』
351
と
懐
(
ふところ
)
より
小判
(
こばん
)
をとり
出
(
だ
)
し、
352
ばらばらと
大地
(
だいち
)
に
投
(
な
)
げつけた、
353
小盗児
(
せうとる
)
連
(
れん
)
は
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
うて
拾
(
ひろ
)
ひ
懐
(
ふところ
)
に
捻
(
ね
)
ぢ
込
(
こ
)
み、
354
サンダーを
大親分
(
おほおやぶん
)
と
思
(
おも
)
ひ、
355
お
手車
(
てぐるま
)
に
乗
(
の
)
せて、
356
きついきつい
赤土
(
あかつち
)
の
滑
(
すべ
)
る
坂道
(
さかみち
)
を
汗
(
あせ
)
をタラタラ
流
(
なが
)
し
乍
(
なが
)
ら
大杉
(
おほすぎ
)
の
下
(
した
)
、
357
玄真坊
(
げんしんばう
)
が
所在
(
ありか
)
へと
送
(
おく
)
り
行
(
ゆ
)
く。
358
(
大正一三・一二・一六
旧一一・二〇
於祥雲閣
北村隆光
録)
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