霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 (こひ)懸嘴(かけはし)〔一六九五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻 篇:第3篇 異燭獣虚 よみ(新仮名遣い):いしょくじゅうきょ
章:第13章 恋の懸嘴 よみ(新仮名遣い):こいのかけはし 通し章番号:1695
口述日:1924(大正13)年12月16日(旧11月20日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年6月29日
概要: 舞台:オーラ山の大杉の下の玄真坊の館 あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm6613
愛善世界社版:179頁 八幡書店版:第11輯 796頁 修補版: 校定版:180頁 普及版:67頁 初版: ページ備考:
001 サンダーは、002泥棒(どろばう)小頭(こがしら)ショール、003コリ(など)連中(れんちう)手車(てぐるま)()せられ、004(やく)(いち)()(ばか)りの阪道(さかみち)(おく)られて大杉(おほすぎ)(ふもと)玄真坊(げんしんばう)(やかた)(まへ)についた。005玄真坊(げんしんばう)はコリ、006ショールに目配(めくば)せすれば、007(わざ)とに(おどろ)いたやうな(かほ)をして、008屋根(やね)からバラスをぶちあけたやうにバラバラと阪道(さかみち)()けつ(まろ)びつ()げて()く。009玄真坊(げんしんばう)其所(そこ)()つて()るサンダーの美貌(びばう)見惚(みと)れながら(わざ)素知(そし)らぬ(かほ)をして、
010玄真(げんしん)『アハヽヽヽ、011小泥棒(こどろぼう)()012(この)玄真坊(げんしんばう)法力(ほふりき)(おそ)れ、013(にら)みに()うて驚愕(きやうがく)蜘蛛(くも)()()らすが(ごと)くに()げよつた、014アハヽヽヽ。015てもさても(こま)つた(やつ)どもだなア。016や、017そこに(ござ)るお女中(ぢよちう)018其方(そなた)(かれ)()()めに(かどは)かされ此所(ここ)(まで)(かつ)がれて()たやうだが、019()()結構(けつこう)020玄真坊(げんしんばう)威力(ゐりよく)法力(ほふりき)()小盗人(こどろぼう)(ども)其方(そなた)暴力(ばうりよく)(くは)ふることもせず()()つたのは、021(まつた)()法力(ほふりき)のいたす(ところ)022サアサア(おく)へお()りなさい』
023サンダー『(はじ)めてお()にかかります。024(わたし)はサンダーと(まを)すこの(むら)里庄(りしやう)(むすめ)(ござ)いますが、025玄真坊(げんしんばう)(さま)とやら()活神(いきがみ)(さま)当山(たうざん)天降(あまくだ)りたまひ、026所在(あらゆる)万民(ばんみん)困難(こんなん)をお(すく)(くだ)さると()き、027父母(ふぼ)()(しの)信仰(しんかう)()()(みち)をトボトボ(まゐ)りました(ところ)028(なん)(まを)しても病気(びやうき)(なや)()(うへ)029(あし)(はこ)びも(おも)ひにまかせず、030当山(たうざん)(ふもと)(おい)()()けました。031(ふみ)(なら)はぬ孱弱(かよわ)(をんな)足並(あしなみ)032グツタリと(つか)()て、033進退(しんたい)(きは)まつて路傍(ろばう)(いし)(うへ)(いき)(やす)め、034うつらうつらと居眠(ゐねむ)(をり)しも、035盗人(ぬすびと)(むれ)だと()つて(あら)はれた十五六(じふごろく)(にん)(をとこ)036(わたし)(むか)つて()ふやう、037其女(そなた)吾々(われわれ)親分(おやぶん)ヨリコ(ひめ)女帝(によてい)(さま)ぢやないか」とかう(まをし)ましたので、038何事(なにごと)(わか)りませぬがつい(うなづ)いた(ところ)039(わたし)大勢(おほぜい)(もの)()ついで此処(ここ)(まで)()れて()(くだ)さつたのですよ、040どうか玄真坊(げんしんばう)(さま)一目(ひとめ)()はして(くだ)さいませぬか』
041玄真(げんしん)貴女(あなた)のお(たづ)ねなさる玄真坊(げんしんばう)(まを)すは拙僧(せつそう)(ござ)る。042(をんな)孱弱(かよわ)()をもつて、043ようまあ一人(ひとり)()参詣(さんけい)出来(でき)ました、044(さぞ)(つか)れでせう。045どうか(わたし)居間(ゐま)にゆつくりと、046おくつろぎなさいませ』
047サンダー『ハア、048貴方(あなた)(さま)(うはさ)(たか)活神(いきがみ)(さま)049あの、050玄真坊(げんしんばう)(さま)(ござ)いましたか。051(えら)失礼(しつれい)(いた)しました』
052玄真(げんしん)『アハヽヽヽ。053やがて沢山(たくさん)老若(ろうにやく)男女(なんによ)参拝(さんぱい)する時刻(じこく)だから、054(わたくし)もこれから(いそが)しいが、055それ(まで)御用(ごよう)(おもむき)()かう。056()(わたくし)居間(ゐま)にお(いで)なさい』
057サンダー『ハイ有難(ありがた)(ござ)います』
058と、059サンダーは立派(りつぱ)岩窟(いはや)(なか)姿(すがた)(ぼつ)した。060室内(しつない)には経机(きやうづくゑ)一脚(いつきやく)きちんと()ゑられ二三冊(にさんさつ)(きん)(へり)()つた経書(きやうしよ)行儀(ぎやうぎ)よく(かざ)られてある。061一方(いつぱう)(すみ)には払子(ほつす)独鈷(どくこ)062金椀(かなわん)などの仏具(ぶつぐ)(かざ)つてあつた。063玄真坊(げんしんばう)一種(いつしゆ)色情狂(しきじやうきやう)である。064(さん)年間(ねんかん)()うて()たヨリコ(ひめ)には見放(みはな)され、065その(なさけ)によつて(わづ)かに()弟子(でし)となり、066(いささ)不平(ふへい)月日(つきひ)(おく)つて()た。067そこで絶世(ぜつせい)美人(びじん)スガコを(うま)誤魔化(ごまくわ)し、068一室(いつしつ)()()めて、069(わが)欲望(よくばう)(たつ)せむと、070(いとま)ある(ごと)口説(くどき)()つれど、071(てこ)でも(ぼう)でも(うご)かばこそ、072いつも肱鉄(ひじてつ)後足砲(あとあしはう)乱射(らんしや)()け、073意気(いき)消沈(せうちん)して()た。074(その)矢先(やさき)ヨリコ(ひめ)よりもスガコよりも幾層倍(いくそうばい)(まし)た、075天稟(てんぴん)美貌(びばう)(いう)するサンダーが(たづ)ねて()たので、076これ(さいは)(てん)(あた)へと雀躍(こをどり)し、077(この)(たび)こそはあらゆる秘術(ひじゆつ)(つく)して(たたか)ひ、078天晴(あつぱれ)勝利(しようり)月桂冠(げつけいくわん)()むものと固唾(かたづ)()んで(りき)みかへり、079(わざ)とやさしき(こゑ)にて、
080玄真(げんしん)其方(そなた)はサンダーとか()つたね。081当山(たうざん)(をんな)()として(ただ)一人(ひとり)物騒(ぶつそう)(よる)(みち)参詣(さんけい)して()るについては(なに)(ふか)仔細(しさい)があるであらう。082三千(さんぜん)世界(せかい)一切(いつさい)(すく)(わたし)救世主(きうせいしゆ)だから、083遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)なく(ねが)(ごと)はお(はな)しなさい。084如何(いか)なる(こと)貴女(あなた)(ねが)ひは()(とど)けてあげるから』
085サンダー『ハイ、086仁慈(じんじ)(こも)つた(その)言葉(ことば)有難(ありがた)(ぞん)じます。087(わたくし)には一人(ひとり)(いもうと)(ござ)いまして、088(その)(いもうと)行方(ゆくへ)不明(ふめい)となりましたので、089いろいろと()(まは)下僕(しもべ)(ども)村人(むらびと)捜索(そうさく)して(もら)ひましたが090()うしても所在(ありか)(わか)りませぬ。091(うけたま)はりますれば、092貴方(あなた)(さま)(てん)からお(くだ)(あそ)ばし、093万民(ばんみん)をお(たす)(くだ)さるとの(こと)094(それ)(ゆゑ)(いもうと)所在(ありか)もお(たづ)(まを)せば(をしへ)(くだ)さると(おも)ひ、095失礼(しつれい)ですけれど096(たづ)ねに(まゐ)つた次第(しだい)(ござ)います』
097と、098どこ(まで)(をんな)になり()まして()る。099さうして……この生神(いきがみ)自分(じぶん)(をとこ)だと()(こと)看破(かんぱ)せないやうなら山子(やまこ)坊子(ばうず)だ、100売僧(まいす)だ。101これやどこ(まで)(ひと)つ、102(をんな)()けすまして()らねばならぬ……と、103思案(しあん)をして()たのである。104玄真坊(げんしんばう)(ほそ)まぶいやうな()をしてサンダーの(かほ)をヂロリヂロリと()(その)気分(きぶん)(わる)さ。105されどサンダーは……もしや(わが)(こひ)するスガコ(ひめ)がこの坊主(ばうず)()()めに(はか)られて、106どこかに(かく)されて()るのではあるまいか……と()()が、107咄嗟(とつさ)(うち)(おこ)つたので、108飽迄(あくまで)(をんな)でやり(とほ)さうと(かんが)へた。109玄真坊(げんしんばう)(また)110サンダーを天成(てんせい)(をんな)(おも)()み、111(ゆめ)にも(をとこ)などとは気付(きづ)かなかつたのである。
112サンダー『あの修験者(しゆげんじや)(さま)113(わたし)(いもうと)()ひたさにお(ねが)ひに(まゐ)つたので(ござ)いますが114どうでせう、115()はして(いただ)(こと)出来(でき)ますまいか。116(わたし)(いもうと)()はスガコと(まをし)まして(とし)十八(じふはち)117この(いもうと)()はしてさへ(いただ)けば、118(わたし)はどんな御用(ごよう)でも(いな)みませぬ』
119 玄真坊(げんしんばう)は、120スガコがこの(をんな)(いもうと)だと()いて、121(むね)動悸(どうき)()たせ(すこ)しは(おどろ)いたが、122元来(ぐわんらい)曲者(くせもの)123(とどろ)(むね)をグツと(おさ)素知(そし)らぬ(かほ)して、
124玄真(げんしん)『アヽお(まへ)(いもうと)はスガコと()ふのかな。125ウン()はしてやらう。126(しか)(なが)()(いもうと)()はすについて、127(わし)にも交換(かうくわん)(てき)にお(まへ)相談(さうだん)がある。128それを()いてさへ()れれば法力(ほふりき)をもつてスガコ(ひめ)此処(ここ)()()せ、129姉妹(きやうだい)対面(たいめん)をさして()げませう』
130 サンダーは、131弥々(いよいよ)此奴(こいつ)売僧(まいす)()()つたので132益々(ますます)空呆(そらとぼ)け、
133サンダー『()君様(きみさま)134どんな御用(ごよう)(ござ)いますか。135(わたし)()(かな)(こと)ならば、136(なに)なりと(あふ)せつけ(くだ)さいませ』
137玄真(げんしん)『ヨシヨシ、138そんなら(わし)(はう)から提案(ていあん)()()さう。139(ほか)でもない、140拙僧(せつそう)(てん)(めい)()け、141天下(てんか)救済(きうさい)()めに(この)聖地(せいち)(くだ)つた(もの)だ。142(それ)については、143最奥(さいあう)第一(だいいち)霊国(れいごく)(つき)大神(おほかみ)(さま)より、144今朝(こんてう)神勅(しんちよく)(くだ)り、145(いま)より半時(はんとき)(のち)(なんぢ)天成(てんせい)美人(びじん)(あた)ふる。146(その)美人(びじん)こそ最奥(さいあう)第一(だいいち)天国(てんごく)姫神(ひめがみ)147玉野姫(たまのひめ)(さま)()化身(けしん)だ。148(その)(かた)(とき)(うつ)さず夫婦(ふうふ)となり、149神業(しんげふ)参加(さんか)せよとの思召(おぼしめ)しで(ござ)つた。150其方(そなた)()らるる(とほ)り、151拙僧(せつそう)修験者(しゆげんじや)()(うへ)152女房(にようばう)()つとは、153(じつ)古来(こらい)旧慣(きうくわん)(やぶ)るに()たれども、154日進(につしん)月歩(げつぽ)155百度(ひやくど)維新(ゐしん)(いま)()(なか)156神界(しんかい)規則(きそく)(かは)つたと()え、157()拙僧(せつそう)より天下(てんか)模範(もはん)(しめ)すべく、158霊魂(みたま)()うた夫婦(ふうふ)(めい)ぜられたのです。159(まへ)さまが(にはか)此処(ここ)(まゐ)つて()たくなつたのも、160(まへ)さまに守護(しゆご)して(ござ)る、161玉野姫(たまのひめ)さまの精霊(せいれい)(みちび)いて(ござ)つたのですよ。162(まへ)さまも(わか)()をもつて、163(とし)(ちが)拙僧(せつそう)夫婦(ふうふ)となる(こと)は、164(さぞ)(おどろ)くでせう。165(しか)(なが)(てん)(めい)(こば)むべからず。166サンダーさま、167(わか)りましたかな』
168 サンダーは(あま)りの可笑(をか)しさに、169()()(ばか)(おも)はれるのをグツと(こら)へ、170素知(そし)らぬ(かほ)をして(ゑみ)(ふく)(なが)ら、
171サンダー『何事(なにごと)御用(ごよう)かと(おも)ひましたら(おも)ひもかけぬ神縁(しんえん)()説明(せつめい)172(わらは)(ごと)(けが)れた肉体(にくたい)がどうして、173(たふと)(おん)()(つま)となる(こと)出来(でき)ませう。174そんな()冗談(じやうだん)はやめて(くだ)さい、175()うしても(わらは)(しん)ずる(こと)出来(でき)ませぬ』
176 玄真坊(げんしんばう)はここぞ一生(いつしやう)懸命(けんめい)と、177全身(ぜんしん)智勇(ちゆう)推倒(すゐたう)熱血(ねつけつ)(そそ)いで、178身体(しんたい)(まへ)()りだし179サンダーの()をグツと(にぎ)つて(ふた)()()すり、
180玄真(げんしん)『これこれお(ぢやう)さま、181()不思議(ふしぎ)(もつと)(なが)ら、182(けつ)して(かみ)(いつは)りはありませぬよ。183貴女(あなた)(いもうと)にも()ひ、184(また)神界(しんかい)()ける(まこと)(をつと)()(こと)出来(でき)るのですから、185こんな幸福(かうふく)(あり)ますまい。186貴女(あなた)(てん)(めい)(したが)つて、187(わたくし)(つま)にお()りなさるのなら屹度(きつと)(かみ)(さま)はお(いもうと)()はして(くだ)さらうし、188(また)貴女(あなた)(かみ)(さま)思召(おぼしめ)しに(そむ)き、189拙僧(せつそう)(つま)となるのを(いな)まるるに(おい)ては、190(かみ)(さま)もお妹御(いもうとご)()はしては(くだ)さいますまい。191サア、192(ここ)思案(しあん)仕処(しどころ)だ、193()返事(へんじ)をするがよいぞや』
194サンダー『不束(ふつつか)なる、195繊弱(かよわ)経験(けいけん)なき(わらは)(たい)し、196(かみ)(さま)(なに)()りませぬが、197有難(ありがた)思召(おぼしめ)しをおかけ(くだ)さいますのは冥加(みやうが)(あま)つて有難(ありがた)(ぞん)じます。198(しか)(なが)(わらは)(いもうと)(さき)()はして(もら)はねば、199(なん)仰有(おつしや)つても()命令(めいれい)(したが)(こと)出来(でき)ませぬ。200信仰(しんかう)(あさ)吾々(われわれ)201まだ貴方(あなた)(さま)(たい)して(かみ)(さま)()化身(けしん)とも(しん)ずる(こと)出来(でき)ませぬ。202(それ)(ゆゑ)絶対(ぜつたい)(てき)服従(ふくじゆう)出来(でき)ないので(ござ)います。203(しか)(なが)(いま)()つてお()にかかつた(ばか)りの(わたくし)204不思議(ふしぎ)()神徳(しんとく)()せて(もら)はないのですから、205(うたが)つて()みませぬが、206どうか其所(そこ)大目(おほめ)()(くだ)さいませ』
207玄真(げんしん)(いま)(まで)(かみ)のかの()()らなかつたお(まへ)さまだもの、208早速(さつそく)信用(しんよう)出来(でき)ないのも無理(むり)とは()はぬ。209(しか)(なが)ら、210ここ(まで)大勢(おほぜい)(ひと)()神徳(しんとく)(いただ)き、211随喜(ずゐき)渇仰(かつかう)して()るのだから、212そこはそれ、213(かみ)(かみ)でないか賢明(けんめい)なる其女(そなた)214推察(すゐさつ)したがよからうぞ』
215サンダー『()うしてもスガコ(ひめ)()はしては(くだ)さいませぬか』
216玄真(げんしん)(てん)(めい)()かない其女(そなた)には()はす(こと)絶対(ぜつたい)出来(でき)ない。217(いもうと)()(たく)(かみ)(めい)(ほう)じ、218拙僧(せつそう)夫婦(ふうふ)になりますか。219拙僧(せつそう)だとて、220(とし)()つてから女房(にようばう)なんか()つのは迷惑(めいわく)だが、221(てん)(めい)には(そむ)(がた)く、222国家(こくか)万民(ばんみん)()め、223(いま)(まで)(けが)した(こと)のない清浄(しやうじやう)無垢(むく)(この)(からだ)犠牲(ぎせい)(きよう)するのだ。224未来(みらい)のキリストとやらも十字架(じふじか)(せお)つて万民(ばんみん)(すく)つたぢやないか、225其女(そなた)()()めに犠牲(ぎせい)になる誠心(まごころ)はないか。226(それ)では最奥(さいあう)第一(だいいち)天国(てんごく)玉野姫(たまのひめ)御霊(みたま)とは(まを)されませぬぞ』
227サンダー『(わらは)玉野姫(たまのひめ)御霊(みたま)であらうが、228狸姫(たぬきひめ)御霊(みたま)()らうが、229霊界(れいかい)(こと)(すこ)しも()(かい)しませぬ。230唯々(ただただ)貴方(あなた)(さま)()神徳(しんとく)によつて、231(いもうと)()はして(くだ)さいますれば、232それで満足(まんぞく)(ござ)います。233()うしても()はして(くだ)さらぬなら、234是非(ぜひ)がありませぬ、235(おほせ)(したが)つて貴方(あなた)(つま)になりませう。236(しか)(なが)(わたし)大切(たいせつ)(うみ)(はは)(わか)れてから(わづ)かに(ろく)(げつ)237忌中(きちう)()(ござ)いますから、238(いち)(ねん)結婚式(けつこんしき)をお()ばし(くだ)さい。239それをお(ゆる)(くだ)されば(この)身体(からだ)(かみ)(さま)(さし)()げます。240(いな)貴方(あなた)()自由(じいう)(まか)します』
241玄真(げんしん)『ア早速(さつそく)()承知(しようち)242満足(まんぞく)々々(まんぞく)243(しか)しサンダー(ひめ)(さま)244いや女房(にようばう)殿(どの)245さう固苦(かたくる)しく(いち)(ねん)()たないでも()いぢやないか。246(てん)(かみ)(さま)のお(ゆる)しだもの、247()禁厭(まじなひ)といつて(かた)さへすればよいのだ。248もう(ろく)(げつ)()れたのだから、249そんなにせなくても()からう。250(この)(をつと)(まか)して()いたら(よろ)しからう。251なア、252サンダー(ひめ)
253254(こゑ)(いろ)(まで)かへて()()でる(その)(いや)らしさ。
255サンダー『もし、256玄真坊(げんしんばう)(さま)257貴方(あなた)(つま)になる(こと)(やく)しました以上(いじやう)は、258早晩(さうばん)結婚(けつこん)(いた)さねばなりますまい。259どうか(いち)()(はや)(いもうと)一目(ひとめ)()はして(くだ)さいませぬか、260屹度(きつと)最愛(さいあい)(つま)(ねが)(ごと)261()いて(くだ)さらないやうな(をつと)では(ござ)いますまいなア』
262玄真(げんしん)『ウム、263()はしてやり()いは山々(やまやま)なれど、264(じつ)(ところ)はスガコ(ひめ)は、265一寸(ちよつと)(おれ)関係(くわんけい)があるのだ。266それだから第一(だいいち)夫人(ふじん)と、267第二(だいに)夫人(ふじん)()をむき()胸倉(むなぐら)(つか)()ひをせられては、268(おれ)一寸(ちよつと)(こま)るから()はさないと()ふのだ。269()はしても、270よもや嫉妬(しつと)(いた)すまいな。271嫉妬(しつと)さへ()くば何時(いつ)でも()はしてやらう』
272サンダー『ハイ、273有難(ありがた)(ござ)います。274(なん)()つても(もと)姉妹(きやうだい)ですもの、275(なに)276嫉妬(しつと)なんかしますものか。277仮令(たとへ)(いもうと)気儘(きまま)(こと)(まを)しましても、278(わたし)仲裁(ちうさい)(いた)貴方(あなた)(さま)()(こころ)()ふやう、279取計(とりはか)らつて()げますわ』
280玄真(げんしん)『エヘヽヽヽ、281(なん)でもお(まへ)(あね)権力(けんりよく)をもつて、282(いもうと)()()けて()れると()ふのか、283それは結構(けつこう)だ。284(じつ)(ところ)(わが)女房(にようばう)とは()ふものの、285スガコは、286(すべ)つたの、287(ころ)んだのと()うて、288まだ(わが)要求(えうきう)(おう)ぜないのだ。289しかし其方(そなた)はスガコに(くら)ぶれば幾層倍(いくそうばい)美人(びじん)だ、290其方(そなた)(かほ)()てから、291スガコに(たい)する恋着心(れんちやくしん)もどこかへ()つて仕舞(しま)つたやうだ』
292サンダー『可愛(かあい)さうに、293そんな水臭(みづくさ)(こと)(おほ)せられますと(いもうと)()きますよ。294ほんに水臭(みづくさ)旦那(だんな)(さま)だこと。295(わらは)だつて(また)(わらは)(まさ)美人(びじん)()つかつた(とき)は、296キツト(また)さう仰有(おつしや)るでせう。297そんなことを(おも)うと(にく)らしくなつて()ましたわ』
298と、299玄真坊(げんしんばう)(はな)(おも)ふざま()()げた。300玄真坊(げんしんばう)(うつつ)になつて()るのだから、301()から(なみだ)()(ところ)(まで)(はな)(ねぢ)()げられながら、302サンダーが()れて()るのだと(おも)垂涎(よだれ)(なみだ)一緒(いつしよ)()らし、
303玄真(げんしん)『オイ、304サンダー(ひめ)305(なに)をするのだ。306ほんに(いた)()()はすぢやないか』
307サンダー『それやさうですとも、308可愛(かあい)(あま)つて(にく)さが百倍(ひやくばい)ですよ。309(はや)(いもうと)()()いものだなア。310(いもうと)()つて(おも)存分(ぞんぶん)(はな)(つめ)つて()たいわ』
311玄真(げんしん)『スガコだつて、312さう(はな)(つま)んでは可愛(かあい)さうだよ。313どうか可愛(かあい)がつてやつて()れ。314さうして悋気(りんき)をしないやうにのう』
315サンダー『(なに)316貴方(あなた)悋気(りんき)をしてなりますものか。317一方(いつぱう)可愛(かあい)可愛(かあい)(をつと)318一方(いつぱう)可愛(かあい)可愛(かあい)(いもうと)ですもの、319その可愛(かあい)(いもうと)(なぐさ)めて(くだ)さる(をつと)猶更(なほさら)可愛(かあい)いなり、320(また)可愛(かあい)(をつと)(なぐさ)めて()れる(いもうと)猶々(なほなほ)可愛(かあい)いぢやありませぬか』
321玄真(げんしん)成程(なるほど)貴女(そなた)(ひら)けたものだ。322天晴(あつぱれ)女丈夫(ぢよぢやうぶ)だ。323(あい)三角(さんかく)関係(くわんけい)()へば三方(さんぽう)(かど)()つて()るものだが、324(まへ)のやうに()()れれば三角(さんかく)関係(くわんけい)円満(ゑんまん)具足(ぐそく)325望月(もちづき)のやうな立派(りつぱ)家庭(かてい)(いとな)まれるであらう。326ヤ、327目出度(めでた)目出度(めでた)い』
328サンダー『(きね)一本(いつぽん)(うす)二挺(にちやう)329これさへあれや立派(りつぱ)(もち)()けませう。
330(この)よをば(わが)()ぞと(おも)望月(もちづき)
331()げたる(こと)のなしと(おも)へば
332とか()(うた)(とほ)り、333円満(ゑんまん)なホームを(つく)つて(たの)しみませうよ。334あゝ(はや)(いもうと)()ひたいものだなア』
335大正一三・一二・一六 旧一一・二〇 於祥雲閣 加藤明子録)
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