霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 恋(こひ)の懸嘴(かけはし)〔一六九五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻 篇:第3篇 異燭獣虚 よみ(新仮名遣い):いしょくじゅうきょ
章:第13章 恋の懸嘴 よみ(新仮名遣い):こいのかけはし 通し章番号:1695
口述日:1924(大正13)年12月16日(旧11月20日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年6月29日
概要: 舞台:オーラ山の大杉の下の玄真坊の館 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:5042 OBC :rm6613
愛善世界社版:179頁 八幡書店版:第11輯 796頁 修補版: 校定版:180頁 普及版:67頁 初版: ページ備考:
001 サンダーは、002泥棒(どろばう)の小頭(こがしら)ショール、003コリ等(など)の連中(れんちう)に手車(てぐるま)に乗(の)せられ、004約(やく)一(いち)里(り)計(ばか)りの阪道(さかみち)を送(おく)られて大杉(おほすぎ)の麓(ふもと)の玄真坊(げんしんばう)の館(やかた)の前(まへ)についた。005玄真坊(げんしんばう)はコリ、006ショールに目配(めくば)せすれば、007態(わざ)とに驚(おどろ)いたやうな顔(かほ)をして、008屋根(やね)からバラスをぶちあけたやうにバラバラと阪道(さかみち)を倒(こ)けつ転(まろ)びつ逃(に)げて往(ゆ)く。009玄真坊(げんしんばう)は其所(そこ)に立(た)つて居(ゐ)るサンダーの美貌(びばう)に見惚(みと)れながら態(わざ)と素知(そし)らぬ顔(かほ)をして、
010玄真(げんしん)『アハヽヽヽ、011小泥棒(こどろぼう)奴(め)、012此(この)玄真坊(げんしんばう)が法力(ほふりき)に恐(おそ)れ、013睨(にら)みに会(あ)うて驚愕(きやうがく)し蜘蛛(くも)の子(こ)を散(ち)らすが如(ごと)くに逃(に)げよつた、014アハヽヽヽ。015てもさても困(こま)つた奴(やつ)どもだなア。016や、017そこに厶(ござ)るお女中(ぢよちう)、018其方(そなた)は彼(かれ)等(ら)の為(た)めに拐(かどは)かされ此所(ここ)迄(まで)担(かつ)がれて来(き)たやうだが、019先(ま)づ先(ま)づ結構(けつこう)、020玄真坊(げんしんばう)の威力(ゐりよく)と法力(ほふりき)に依(よ)り小盗人(こどろぼう)共(ども)は其方(そなた)に暴力(ばうりよく)を加(くは)ふることもせず逃(に)げ去(さ)つたのは、021全(まつた)く吾(わ)が法力(ほふりき)のいたす処(ところ)、022サアサア奥(おく)へお入(い)りなさい』
023サンダー『初(はじ)めてお目(め)にかかります。024私(わたし)はサンダーと申(まを)すこの村(むら)の里庄(りしやう)の娘(むすめ)で厶(ござ)いますが、025玄真坊(げんしんばう)様(さま)とやら云(い)ふ活神(いきがみ)様(さま)が当山(たうざん)に天降(あまくだ)りたまひ、026所在(あらゆる)万民(ばんみん)の困難(こんなん)をお救(すく)ひ下(くだ)さると聞(き)き、027父母(ふぼ)の目(め)を忍(しの)び信仰(しんかう)の為(た)め夜(よ)の道(みち)をトボトボ参(まゐ)りました所(ところ)、028何(なん)と申(まを)しても病気(びやうき)に難(なや)む身(み)の上(うへ)、029足(あし)の運(はこ)びも思(おも)ひにまかせず、030当山(たうざん)の麓(ふもと)に於(おい)て夜(よ)が明(あ)けました。031踏(ふみ)も習(なら)はぬ孱弱(かよわ)き女(をんな)の足並(あしなみ)、032グツタリと疲(つか)れ果(は)て、033進退(しんたい)谷(きは)まつて路傍(ろばう)の石(いし)の上(うへ)に息(いき)を休(やす)め、034うつらうつらと居眠(ゐねむ)る折(をり)しも、035盗人(ぬすびと)の群(むれ)だと云(い)つて現(あら)はれた十五六(じふごろく)人(にん)の男(をとこ)、036私(わたし)に向(むか)つて云(い)ふやう、037「其女(そなた)は吾々(われわれ)の親分(おやぶん)ヨリコ姫(ひめ)の女帝(によてい)様(さま)ぢやないか」とかう申(まをし)ましたので、038何事(なにごと)か分(わか)りませぬがつい諾(うなづ)いた処(ところ)、039私(わたし)を大勢(おほぜい)の者(もの)が舁(か)ついで此処(ここ)迄(まで)連(つ)れて来(き)て下(くだ)さつたのですよ、040どうか玄真坊(げんしんばう)様(さま)に一目(ひとめ)会(あ)はして下(くだ)さいませぬか』
041玄真(げんしん)『貴女(あなた)のお尋(たづ)ねなさる玄真坊(げんしんばう)と申(まを)すは拙僧(せつそう)で厶(ござ)る。042女(をんな)の孱弱(かよわ)き身(み)をもつて、043ようまあ一人(ひとり)御(ご)参詣(さんけい)が出来(でき)ました、044嘸(さぞ)お疲(つか)れでせう。045どうか私(わたし)の居間(ゐま)にゆつくりと、046おくつろぎなさいませ』
047サンダー『ハア、048貴方(あなた)様(さま)が噂(うはさ)に高(たか)き活神(いきがみ)様(さま)、049あの、050玄真坊(げんしんばう)様(さま)で厶(ござ)いましたか。051偉(えら)い失礼(しつれい)を致(いた)しました』
052玄真(げんしん)『アハヽヽヽ。053やがて沢山(たくさん)の老若(ろうにやく)男女(なんによ)が参拝(さんぱい)する時刻(じこく)だから、054私(わたくし)もこれから忙(いそが)しいが、055それ迄(まで)に御用(ごよう)の趣(おもむき)を聞(き)かう。056先(ま)づ私(わたくし)の居間(ゐま)にお出(いで)なさい』
057サンダー『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います』
058と、059サンダーは立派(りつぱ)な岩窟(いはや)の中(なか)に姿(すがた)を没(ぼつ)した。060室内(しつない)には経机(きやうづくゑ)が一脚(いつきやく)きちんと据(す)ゑられ二三冊(にさんさつ)の金(きん)で縁(へり)を取(と)つた経書(きやうしよ)が行儀(ぎやうぎ)よく飾(かざ)られてある。061一方(いつぱう)の隅(すみ)には払子(ほつす)や独鈷(どくこ)、062金椀(かなわん)などの仏具(ぶつぐ)が飾(かざ)つてあつた。063玄真坊(げんしんばう)は一種(いつしゆ)の色情狂(しきじやうきやう)である。064三(さん)年間(ねんかん)添(そ)うて来(き)たヨリコ姫(ひめ)には見放(みはな)され、065その情(なさけ)によつて僅(わづ)かに二(に)の弟子(でし)となり、066聊(いささ)か不平(ふへい)な月日(つきひ)を送(おく)つて居(ゐ)た。067そこで絶世(ぜつせい)の美人(びじん)スガコを甘(うま)く誤魔化(ごまくわ)し、068一室(いつしつ)に閉(と)ぢ込(こ)めて、069吾(わが)欲望(よくばう)を達(たつ)せむと、070暇(いとま)ある毎(ごと)に口説(くどき)立(た)つれど、071挺(てこ)でも棒(ぼう)でも動(うご)かばこそ、072いつも肱鉄(ひじてつ)や後足砲(あとあしはう)の乱射(らんしや)を受(う)け、073意気(いき)消沈(せうちん)して居(ゐ)た。074其(その)矢先(やさき)ヨリコ姫(ひめ)よりもスガコよりも幾層倍(いくそうばい)増(まし)た、075天稟(てんぴん)の美貌(びばう)を有(いう)するサンダーが訪(たづ)ねて来(き)たので、076これ幸(さいは)ひ天(てん)の与(あた)へと雀躍(こをどり)し、077此(この)度(たび)こそはあらゆる秘術(ひじゆつ)を尽(つく)して戦(たたか)ひ、078天晴(あつぱれ)勝利(しようり)の月桂冠(げつけいくわん)を得(え)むものと固唾(かたづ)を呑(の)んで力(りき)みかへり、079態(わざ)とやさしき声(こゑ)にて、
080玄真(げんしん)『其方(そなた)はサンダーとか云(い)つたね。081当山(たうざん)へ女(をんな)の身(み)として唯(ただ)一人(ひとり)物騒(ぶつそう)な夜(よる)の路(みち)を参詣(さんけい)して来(く)るについては何(なに)か深(ふか)い仔細(しさい)があるであらう。082三千(さんぜん)世界(せかい)の一切(いつさい)を救(すく)ふ私(わたし)は救世主(きうせいしゆ)だから、083遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)なく願(ねが)ひ事(ごと)はお話(はな)しなさい。084如何(いか)なる事(こと)も貴女(あなた)の願(ねが)ひは聞(き)き届(とど)けてあげるから』
085サンダー『ハイ、086仁慈(じんじ)の籠(こも)つた其(その)お言葉(ことば)有難(ありがた)う存(ぞん)じます。087私(わたくし)には一人(ひとり)の妹(いもうと)が厶(ござ)いまして、088其(その)妹(いもうと)が行方(ゆくへ)不明(ふめい)となりましたので、089いろいろと手(て)を廻(まは)し下僕(しもべ)共(ども)や村人(むらびと)に捜索(そうさく)して貰(もら)ひましたが090何(ど)うしても所在(ありか)が分(わか)りませぬ。091承(うけたま)はりますれば、092貴方(あなた)様(さま)は天(てん)からお下(くだ)り遊(あそ)ばし、093万民(ばんみん)をお助(たす)け下(くだ)さるとの事(こと)、094夫(それ)故(ゆゑ)妹(いもうと)の所在(ありか)もお尋(たづ)ね申(まを)せば教(をしへ)て下(くだ)さると思(おも)ひ、095失礼(しつれい)ですけれど096お尋(たづ)ねに参(まゐ)つた次第(しだい)で厶(ござ)います』
097と、098どこ迄(まで)も女(をんな)になり済(す)まして居(ゐ)る。099さうして……この生神(いきがみ)が自分(じぶん)の男(をとこ)だと云(い)ふ事(こと)を看破(かんぱ)せないやうなら山子(やまこ)坊子(ばうず)だ、100売僧(まいす)だ。101これやどこ迄(まで)も一(ひと)つ、102女(をんな)に化(ば)けすまして居(を)らねばならぬ……と、103思案(しあん)をして居(ゐ)たのである。104玄真坊(げんしんばう)は細(ほそ)いまぶいやうな目(め)をしてサンダーの顔(かほ)をヂロリヂロリと見(み)る其(その)気分(きぶん)の悪(わる)さ。105されどサンダーは……もしや吾(わが)恋(こひ)するスガコ姫(ひめ)がこの坊主(ばうず)等(ら)の為(た)めに計(はか)られて、106どこかに隠(かく)されて居(ゐ)るのではあるまいか……と云(い)ふ気(き)が、107咄嗟(とつさ)の中(うち)に起(おこ)つたので、108飽迄(あくまで)女(をんな)でやり通(とほ)さうと考(かんが)へた。109玄真坊(げんしんばう)は又(また)、110サンダーを天成(てんせい)の女(をんな)と思(おも)ひ込(こ)み、111夢(ゆめ)にも男(をとこ)などとは気付(きづ)かなかつたのである。
112サンダー『あの修験者(しゆげんじや)様(さま)、113私(わたし)は妹(いもうと)に会(あ)ひたさにお願(ねが)ひに参(まゐ)つたので厶(ござ)いますが114どうでせう、115遇(あ)はして頂(いただ)く事(こと)は出来(でき)ますまいか。116私(わたし)の妹(いもうと)の名(な)はスガコと申(まをし)まして年(とし)は十八(じふはち)、117この妹(いもうと)に遇(あ)はしてさへ頂(いただ)けば、118私(わたし)はどんな御用(ごよう)でも否(いな)みませぬ』
119 玄真坊(げんしんばう)は、120スガコがこの女(をんな)の妹(いもうと)だと聞(き)いて、121胸(むね)に動悸(どうき)を打(う)たせ些(すこ)しは驚(おどろ)いたが、122元来(ぐわんらい)の曲者(くせもの)、123轟(とどろ)く胸(むね)をグツと押(おさ)へ素知(そし)らぬ顔(かほ)して、
124玄真(げんしん)『アヽお前(まへ)の妹(いもうと)はスガコと云(い)ふのかな。125ウン会(あ)はしてやらう。126併(しか)し乍(なが)ら先(ま)づ妹(いもうと)に会(あ)はすについて、127私(わし)にも交換(かうくわん)的(てき)にお前(まへ)に相談(さうだん)がある。128それを聞(き)いてさへ呉(く)れれば法力(ほふりき)をもつてスガコ姫(ひめ)を此処(ここ)に引(ひ)き寄(よ)せ、129姉妹(きやうだい)の対面(たいめん)をさして上(あ)げませう』
130 サンダーは、131弥々(いよいよ)此奴(こいつ)売僧(まいす)と見(み)て取(と)つたので132益々(ますます)空呆(そらとぼ)け、
133サンダー『師(し)の君様(きみさま)、134どんな御用(ごよう)で厶(ござ)いますか。135私(わたし)の身(み)に叶(かな)ふ事(こと)ならば、136何(なに)なりと仰(あふ)せつけ下(くだ)さいませ』
137玄真(げんしん)『ヨシヨシ、138そんなら私(わし)の方(はう)から提案(ていあん)を持(も)ち出(だ)さう。139外(ほか)でもない、140拙僧(せつそう)は天(てん)の命(めい)を受(う)け、141天下(てんか)救済(きうさい)の為(た)めに此(この)聖地(せいち)に降(くだ)つた者(もの)だ。142夫(それ)については、143最奥(さいあう)第一(だいいち)霊国(れいごく)の月(つき)の大神(おほかみ)様(さま)より、144今朝(こんてう)神勅(しんちよく)が下(くだ)り、145今(いま)より半時(はんとき)の後(のち)汝(なんぢ)に天成(てんせい)の美人(びじん)を与(あた)ふる。146其(その)美人(びじん)こそ最奥(さいあう)第一(だいいち)天国(てんごく)の姫神(ひめがみ)、147玉野姫(たまのひめ)様(さま)の御(ご)化身(けしん)だ。148其(その)方(かた)と時(とき)を移(うつ)さず夫婦(ふうふ)となり、149神業(しんげふ)に参加(さんか)せよとの思召(おぼしめ)しで厶(ござ)つた。150其方(そなた)も知(し)らるる通(とほ)り、151拙僧(せつそう)は修験者(しゆげんじや)の身(み)の上(うへ)、152女房(にようばう)を持(も)つとは、153実(じつ)に古来(こらい)の旧慣(きうくわん)を破(やぶ)るに似(に)たれども、154日進(につしん)月歩(げつぽ)、155百度(ひやくど)維新(ゐしん)の今(いま)の世(よ)の中(なか)、156神界(しんかい)の規則(きそく)も変(かは)つたと見(み)え、157先(ま)づ拙僧(せつそう)より天下(てんか)に模範(もはん)を示(しめ)すべく、158霊魂(みたま)の合(あ)うた夫婦(ふうふ)を命(めい)ぜられたのです。159お前(まへ)さまが俄(にはか)に此処(ここ)へ参(まゐ)つて来(き)たくなつたのも、160お前(まへ)さまに守護(しゆご)して厶(ござ)る、161玉野姫(たまのひめ)さまの精霊(せいれい)が導(みちび)いて厶(ござ)つたのですよ。162お前(まへ)さまも若(わか)い身(み)をもつて、163年(とし)の違(ちが)ふ拙僧(せつそう)と夫婦(ふうふ)となる事(こと)は、164嘸(さぞ)驚(おどろ)くでせう。165併(しか)し乍(なが)ら天(てん)の命(めい)は拒(こば)むべからず。166サンダーさま、167分(わか)りましたかな』
168 サンダーは余(あま)りの可笑(をか)しさに、169吹(ふ)き出(だ)す許(ばか)り思(おも)はれるのをグツと耐(こら)へ、170素知(そし)らぬ顔(かほ)をして笑(ゑみ)を含(ふく)み乍(なが)ら、
171サンダー『何事(なにごと)の御用(ごよう)かと思(おも)ひましたら思(おも)ひもかけぬ神縁(しんえん)の御(ご)説明(せつめい)、172妾(わらは)の如(ごと)き汚(けが)れた肉体(にくたい)がどうして、173尊(たふと)き御(おん)身(み)の妻(つま)となる事(こと)が出来(でき)ませう。174そんな御(ご)冗談(じやうだん)はやめて下(くだ)さい、175何(ど)うしても妾(わらは)は信(しん)ずる事(こと)は出来(でき)ませぬ』
176 玄真坊(げんしんばう)はここぞ一生(いつしやう)懸命(けんめい)と、177全身(ぜんしん)の智勇(ちゆう)を推倒(すゐたう)し熱血(ねつけつ)を濺(そそ)いで、178身体(しんたい)を前(まへ)に乗(の)りだし179サンダーの手(て)をグツと握(にぎ)つて二(ふた)つ三(み)つ揺(ゆ)すり、
180玄真(げんしん)『これこれお嬢(ぢやう)さま、181御(ご)不思議(ふしぎ)は尤(もつと)も乍(なが)ら、182決(けつ)して神(かみ)に偽(いつは)りはありませぬよ。183貴女(あなた)は妹(いもうと)にも会(あ)ひ、184又(また)神界(しんかい)に於(お)ける誠(まこと)の夫(をつと)に遇(あ)ふ事(こと)が出来(でき)るのですから、185こんな幸福(かうふく)は有(あり)ますまい。186貴女(あなた)が天(てん)の命(めい)に従(したが)つて、187私(わたくし)の妻(つま)にお成(な)りなさるのなら屹度(きつと)神(かみ)様(さま)はお妹(いもうと)に遇(あ)はして下(くだ)さらうし、188又(また)貴女(あなた)が神(かみ)様(さま)の思召(おぼしめ)しに背(そむ)き、189拙僧(せつそう)が妻(つま)となるのを否(いな)まるるに於(おい)ては、190神(かみ)様(さま)もお妹御(いもうとご)に会(あ)はしては下(くだ)さいますまい。191サア、192茲(ここ)が思案(しあん)の仕処(しどころ)だ、193好(よ)い返事(へんじ)をするがよいぞや』
194サンダー『不束(ふつつか)なる、195繊弱(かよわ)き経験(けいけん)なき妾(わらは)に対(たい)し、196神(かみ)様(さま)か何(なに)か知(し)りませぬが、197有難(ありがた)い思召(おぼしめ)しをおかけ下(くだ)さいますのは冥加(みやうが)に剰(あま)つて有難(ありがた)う存(ぞん)じます。198併(しか)し乍(なが)ら妾(わらは)は妹(いもうと)に先(さき)に会(あ)はして貰(もら)はねば、199何(なん)と仰有(おつしや)つても御(ご)命令(めいれい)に従(したが)ふ事(こと)は出来(でき)ませぬ。200信仰(しんかう)の浅(あさ)き吾々(われわれ)、201まだ貴方(あなた)様(さま)に対(たい)して神(かみ)様(さま)の御(ご)化身(けしん)とも信(しん)ずる事(こと)が出来(でき)ませぬ。202夫(それ)故(ゆゑ)絶対(ぜつたい)的(てき)服従(ふくじゆう)も出来(でき)ないので厶(ござ)います。203併(しか)し乍(なが)ら今(いま)逢(あ)つてお目(め)にかかつた許(ばか)りの私(わたくし)、204不思議(ふしぎ)の御(ご)神徳(しんとく)も見(み)せて貰(もら)はないのですから、205疑(うたが)つて済(す)みませぬが、206どうか其所(そこ)は大目(おほめ)に見(み)て下(くだ)さいませ』
207玄真(げんしん)『今(いま)迄(まで)神(かみ)のかの字(じ)も知(し)らなかつたお前(まへ)さまだもの、208早速(さつそく)に信用(しんよう)出来(でき)ないのも無理(むり)とは云(い)はぬ。209併(しか)し乍(なが)ら、210ここ迄(まで)大勢(おほぜい)の人(ひと)が御(ご)神徳(しんとく)を頂(いただ)き、211随喜(ずゐき)渇仰(かつかう)して居(ゐ)るのだから、212そこはそれ、213神(かみ)か神(かみ)でないか賢明(けんめい)なる其女(そなた)、214推察(すゐさつ)したがよからうぞ』
215サンダー『何(ど)うしてもスガコ姫(ひめ)に会(あ)はしては下(くだ)さいませぬか』
216玄真(げんしん)『天(てん)の命(めい)を聞(き)かない其女(そなた)には会(あ)はす事(こと)は絶対(ぜつたい)に出来(でき)ない。217妹(いもうと)に会(あ)ひ度(たく)ば神(かみ)の命(めい)を奉(ほう)じ、218拙僧(せつそう)と夫婦(ふうふ)になりますか。219拙僧(せつそう)だとて、220年(とし)が寄(よ)つてから女房(にようばう)なんか持(も)つのは迷惑(めいわく)だが、221天(てん)の命(めい)には背(そむ)き難(がた)く、222国家(こくか)万民(ばんみん)の為(た)め、223今(いま)迄(まで)汚(けが)した事(こと)のない清浄(しやうじやう)無垢(むく)の此(この)体(からだ)を犠牲(ぎせい)に供(きよう)するのだ。224未来(みらい)のキリストとやらも十字架(じふじか)を背(せお)つて万民(ばんみん)を救(すく)つたぢやないか、225其女(そなた)も世(よ)の為(た)めに犠牲(ぎせい)になる誠心(まごころ)はないか。226夫(それ)では最奥(さいあう)第一(だいいち)の天国(てんごく)玉野姫(たまのひめ)の御霊(みたま)とは申(まを)されませぬぞ』
227サンダー『妾(わらは)は玉野姫(たまのひめ)の御霊(みたま)であらうが、228狸姫(たぬきひめ)の御霊(みたま)で有(あ)らうが、229霊界(れいかい)の事(こと)は些(すこ)しも意(い)に介(かい)しませぬ。230唯々(ただただ)貴方(あなた)様(さま)の御(ご)神徳(しんとく)によつて、231妹(いもうと)に遇(あ)はして下(くだ)さいますれば、232それで満足(まんぞく)で厶(ござ)います。233何(ど)うしても会(あ)はして下(くだ)さらぬなら、234是非(ぜひ)がありませぬ、235仰(おほせ)に従(したが)つて貴方(あなた)の妻(つま)になりませう。236併(しか)し乍(なが)ら妾(わたし)は大切(たいせつ)な生(うみ)の母(はは)に別(わか)れてから僅(わづ)かに六(ろく)ケ月(げつ)、237忌中(きちう)の身(み)で厶(ござ)いますから、238一(いち)年(ねん)結婚式(けつこんしき)をお延(の)ばし下(くだ)さい。239それをお許(ゆる)し下(くだ)されば此(この)身体(からだ)を神(かみ)様(さま)に差(さし)上(あ)げます。240否(いな)貴方(あなた)の御(ご)自由(じいう)に任(まか)します』
241玄真(げんしん)『ア早速(さつそく)の御(ご)承知(しようち)、242満足(まんぞく)々々(まんぞく)。243併(しか)しサンダー姫(ひめ)様(さま)、244いや女房(にようばう)殿(どの)、245さう固苦(かたくる)しく一(いち)年(ねん)も待(ま)たないでも好(よ)いぢやないか。246天(てん)の神(かみ)様(さま)のお許(ゆる)しだもの、247世(よ)は禁厭(まじなひ)といつて形(かた)さへすればよいのだ。248もう六(ろく)ケ月(げつ)も暮(く)れたのだから、249そんなにせなくても好(よ)からう。250此(この)夫(をつと)に任(まか)して置(お)いたら宜(よろ)しからう。251なア、252サンダー姫(ひめ)』
253と254声(こゑ)の色(いろ)迄(まで)かへて背(せ)を撫(な)でる其(その)嫌(いや)らしさ。
255サンダー『もし、256玄真坊(げんしんばう)様(さま)、257貴方(あなた)の妻(つま)になる事(こと)を約(やく)しました以上(いじやう)は、258早晩(さうばん)結婚(けつこん)を致(いた)さねばなりますまい。259どうか一(いち)時(じ)も早(はや)く妹(いもうと)に一目(ひとめ)会(あ)はして下(くだ)さいませぬか、260屹度(きつと)最愛(さいあい)の妻(つま)の願(ねが)ひ事(ごと)、261聞(き)いて下(くだ)さらないやうな夫(をつと)では厶(ござ)いますまいなア』
262玄真(げんしん)『ウム、263会(あ)はしてやり度(た)いは山々(やまやま)なれど、264実(じつ)の所(ところ)はスガコ姫(ひめ)は、265一寸(ちよつと)俺(おれ)に関係(くわんけい)があるのだ。266それだから第一(だいいち)夫人(ふじん)と、267第二(だいに)夫人(ふじん)が目(め)をむき合(あ)ひ胸倉(むなぐら)の掴(つか)み合(あ)ひをせられては、268俺(おれ)も一寸(ちよつと)困(こま)るから会(あ)はさないと云(い)ふのだ。269会(あ)はしても、270よもや嫉妬(しつと)は致(いた)すまいな。271嫉妬(しつと)さへ無(な)くば何時(いつ)でも会(あ)はしてやらう』
272サンダー『ハイ、273有難(ありがた)う厶(ござ)います。274何(なん)と云(い)つても元(もと)が姉妹(きやうだい)ですもの、275何(なに)、276嫉妬(しつと)なんかしますものか。277仮令(たとへ)妹(いもうと)が気儘(きまま)な事(こと)を申(まを)しましても、278私(わたし)が仲裁(ちうさい)を致(いた)し貴方(あなた)様(さま)の御(お)意(こころ)に添(そ)ふやう、279取計(とりはか)らつて上(あ)げますわ』
280玄真(げんしん)『エヘヽヽヽ、281何(なん)でもお前(まへ)は姉(あね)の権力(けんりよく)をもつて、282妹(いもうと)を説(と)き付(つ)けて呉(く)れると云(い)ふのか、283それは結構(けつこう)だ。284実(じつ)の所(ところ)は吾(わが)女房(にようばう)とは云(い)ふものの、285スガコは、286辷(すべ)つたの、287転(ころ)んだのと云(い)うて、288まだ吾(わが)要求(えうきう)に応(おう)ぜないのだ。289しかし其方(そなた)はスガコに比(くら)ぶれば幾層倍(いくそうばい)の美人(びじん)だ、290其方(そなた)の顔(かほ)を見(み)てから、291スガコに対(たい)する恋着心(れんちやくしん)もどこかへ往(い)つて仕舞(しま)つたやうだ』
292サンダー『可愛(かあい)さうに、293そんな水臭(みづくさ)い事(こと)を仰(おほ)せられますと妹(いもうと)が泣(な)きますよ。294ほんに水臭(みづくさ)い旦那(だんな)様(さま)だこと。295妾(わらは)だつて又(また)妾(わらは)に勝(まさ)る美人(びじん)が見(み)つかつた時(とき)は、296キツト又(また)さう仰有(おつしや)るでせう。297そんなことを思(おも)うと憎(にく)らしくなつて来(き)ましたわ』
298と、299玄真坊(げんしんばう)の鼻(はな)を思(おも)ふざま捻(ね)ぢ上(あ)げた。300玄真坊(げんしんばう)は現(うつつ)になつて居(ゐ)るのだから、301眼(め)から涙(なみだ)が出(で)る所(ところ)迄(まで)鼻(はな)を捻(ねぢ)上(あ)げられながら、302サンダーが惚(ほ)れて居(ゐ)るのだと思(おも)ひ垂涎(よだれ)と涙(なみだ)を一緒(いつしよ)に垂(た)らし、
303玄真(げんしん)『オイ、304サンダー姫(ひめ)、305何(なに)をするのだ。306ほんに痛(いた)い目(め)に会(あ)はすぢやないか』
307サンダー『それやさうですとも、308可愛(かあい)さ剰(あま)つて憎(にく)さが百倍(ひやくばい)ですよ。309早(はや)く妹(いもうと)に会(あ)ひ度(た)いものだなア。310妹(いもうと)に会(あ)つて思(おも)ふ存分(ぞんぶん)鼻(はな)が抓(つめ)つて見(み)たいわ』
311玄真(げんしん)『スガコだつて、312さう鼻(はな)を抓(つま)んでは可愛(かあい)さうだよ。313どうか可愛(かあい)がつてやつて呉(く)れ。314さうして悋気(りんき)をしないやうにのう』
315サンダー『何(なに)、316貴方(あなた)悋気(りんき)をしてなりますものか。317一方(いつぱう)は可愛(かあい)い可愛(かあい)い夫(をつと)、318一方(いつぱう)は可愛(かあい)い可愛(かあい)い妹(いもうと)ですもの、319その可愛(かあい)い妹(いもうと)を慰(なぐさ)めて下(くだ)さる夫(をつと)は猶更(なほさら)可愛(かあい)いなり、320又(また)可愛(かあい)い夫(をつと)を慰(なぐさ)めて呉(く)れる妹(いもうと)は猶々(なほなほ)可愛(かあい)いぢやありませぬか』
321玄真(げんしん)『成程(なるほど)貴女(そなた)は開(ひら)けたものだ。322天晴(あつぱれ)の女丈夫(ぢよぢやうぶ)だ。323愛(あい)の三角(さんかく)関係(くわんけい)と云(い)へば三方(さんぽう)に角(かど)の立(た)つて居(ゐ)るものだが、324お前(まへ)のやうに出(で)て呉(く)れれば三角(さんかく)関係(くわんけい)も円満(ゑんまん)具足(ぐそく)、325望月(もちづき)のやうな立派(りつぱ)な家庭(かてい)が営(いとな)まれるであらう。326ヤ、327目出度(めでた)い目出度(めでた)い』
328サンダー『杵(きね)一本(いつぽん)に臼(うす)二挺(にちやう)、329これさへあれや立派(りつぱ)な餅(もち)が搗(つ)けませう。
330此(この)よをば吾(わが)世(よ)ぞと思(おも)ふ望月(もちづき)の
331虧(か)げたる事(こと)のなしと思(おも)へば
332とか云(い)ふ歌(うた)の通(とほ)り、333円満(ゑんまん)なホームを作(つく)つて楽(たの)しみませうよ。334あゝ早(はや)く妹(いもうと)に会(あ)ひたいものだなア』
335(大正一三・一二・一六 旧一一・二〇 於祥雲閣 加藤明子録)
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