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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第66巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 月の高原
第1章 暁の空
第2章 祖先の恵
第3章 酒浮気
第4章 里庄の悩
第5章 愁雲退散
第6章 神軍義兵
第2篇 容怪変化
第7章 女白浪
第8章 神乎魔乎
第9章 谷底の宴
第10章 八百長劇
第11章 亞魔の河
第3篇 異燭獣虚
第12章 恋の暗路
第13章 恋の懸嘴
第14章 相生松風
第15章 喰ひ違ひ
第4篇 恋連愛曖
第16章 恋の夢路
第17章 縁馬の別
第18章 魔神の囁
第19章 女の度胸
第20章 真鬼姉妹
余白歌
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霊界物語
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山河草木(第61~72巻、入蒙記)
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第66巻(巳の巻)
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<<< 恋の暗路
(B)
(N)
相生松風 >>>
第一三章
恋
(
こひ
)
の
懸嘴
(
かけはし
)
〔一六九五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻
篇:
第3篇 異燭獣虚
よみ(新仮名遣い):
いしょくじゅうきょ
章:
第13章 恋の懸嘴
よみ(新仮名遣い):
こいのかけはし
通し章番号:
1695
口述日:
1924(大正13)年12月16日(旧11月20日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年6月29日
概要:
舞台:
オーラ山の大杉の下の玄真坊の館
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6613
愛善世界社版:
179頁
八幡書店版:
第11輯 796頁
修補版:
校定版:
180頁
普及版:
67頁
初版:
ページ備考:
001
サンダーは、
002
泥棒
(
どろばう
)
の
小頭
(
こがしら
)
ショール、
003
コリ
等
(
など
)
の
連中
(
れんちう
)
に
手車
(
てぐるま
)
に
乗
(
の
)
せられ、
004
約
(
やく
)
一
(
いち
)
里
(
り
)
計
(
ばか
)
りの
阪道
(
さかみち
)
を
送
(
おく
)
られて
大杉
(
おほすぎ
)
の
麓
(
ふもと
)
の
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
館
(
やかた
)
の
前
(
まへ
)
についた。
005
玄真坊
(
げんしんばう
)
はコリ、
006
ショールに
目配
(
めくば
)
せすれば、
007
態
(
わざ
)
とに
驚
(
おどろ
)
いたやうな
顔
(
かほ
)
をして、
008
屋根
(
やね
)
から
バラス
をぶちあけたやうにバラバラと
阪道
(
さかみち
)
を
倒
(
こ
)
けつ
転
(
まろ
)
びつ
逃
(
に
)
げて
往
(
ゆ
)
く。
009
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
其所
(
そこ
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
るサンダーの
美貌
(
びばう
)
に
見惚
(
みと
)
れながら
態
(
わざ
)
と
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
をして、
010
玄真
(
げんしん
)
『アハヽヽヽ、
011
小泥棒
(
こどろぼう
)
奴
(
め
)
、
012
此
(
この
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
が
法力
(
ほふりき
)
に
恐
(
おそ
)
れ、
013
睨
(
にら
)
みに
会
(
あ
)
うて
驚愕
(
きやうがく
)
し
蜘蛛
(
くも
)
の
子
(
こ
)
を
散
(
ち
)
らすが
如
(
ごと
)
くに
逃
(
に
)
げよつた、
014
アハヽヽヽ。
015
てもさても
困
(
こま
)
つた
奴
(
やつ
)
どもだなア。
016
や、
017
そこに
厶
(
ござ
)
るお
女中
(
ぢよちう
)
、
018
其方
(
そなた
)
は
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
の
為
(
た
)
めに
拐
(
かどは
)
かされ
此所
(
ここ
)
迄
(
まで
)
担
(
かつ
)
がれて
来
(
き
)
たやうだが、
019
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づ
結構
(
けつこう
)
、
020
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
威力
(
ゐりよく
)
と
法力
(
ほふりき
)
に
依
(
よ
)
り
小盗人
(
こどろぼう
)
共
(
ども
)
は
其方
(
そなた
)
に
暴力
(
ばうりよく
)
を
加
(
くは
)
ふることもせず
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
つたのは、
021
全
(
まつた
)
く
吾
(
わ
)
が
法力
(
ほふりき
)
のいたす
処
(
ところ
)
、
022
サアサア
奥
(
おく
)
へお
入
(
い
)
りなさい』
023
サンダー『
初
(
はじ
)
めてお
目
(
め
)
にかかります。
024
私
(
わたし
)
はサンダーと
申
(
まを
)
すこの
村
(
むら
)
の
里庄
(
りしやう
)
の
娘
(
むすめ
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
025
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
とやら
云
(
い
)
ふ
活神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
が
当山
(
たうざん
)
に
天降
(
あまくだ
)
りたまひ、
026
所在
(
あらゆる
)
万民
(
ばんみん
)
の
困難
(
こんなん
)
をお
救
(
すく
)
ひ
下
(
くだ
)
さると
聞
(
き
)
き、
027
父母
(
ふぼ
)
の
目
(
め
)
を
忍
(
しの
)
び
信仰
(
しんかう
)
の
為
(
た
)
め
夜
(
よ
)
の
道
(
みち
)
をトボトボ
参
(
まゐ
)
りました
所
(
ところ
)
、
028
何
(
なん
)
と
申
(
まを
)
しても
病気
(
びやうき
)
に
難
(
なや
)
む
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
029
足
(
あし
)
の
運
(
はこ
)
びも
思
(
おも
)
ひにまかせず、
030
当山
(
たうざん
)
の
麓
(
ふもと
)
に
於
(
おい
)
て
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けました。
031
踏
(
ふみ
)
も
習
(
なら
)
はぬ
孱弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
の
足並
(
あしなみ
)
、
032
グツタリと
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
て、
033
進退
(
しんたい
)
谷
(
きは
)
まつて
路傍
(
ろばう
)
の
石
(
いし
)
の
上
(
うへ
)
に
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
め、
034
うつらうつらと
居眠
(
ゐねむ
)
る
折
(
をり
)
しも、
035
盗人
(
ぬすびと
)
の
群
(
むれ
)
だと
云
(
い
)
つて
現
(
あら
)
はれた
十五六
(
じふごろく
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
036
私
(
わたし
)
に
向
(
むか
)
つて
云
(
い
)
ふやう、
037
「
其女
(
そなた
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
親分
(
おやぶん
)
ヨリコ
姫
(
ひめ
)
の
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
ぢやないか」とかう
申
(
まをし
)
ましたので、
038
何事
(
なにごと
)
か
分
(
わか
)
りませぬがつい
諾
(
うなづ
)
いた
処
(
ところ
)
、
039
私
(
わたし
)
を
大勢
(
おほぜい
)
の
者
(
もの
)
が
舁
(
か
)
ついで
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつたのですよ、
040
どうか
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
に
一目
(
ひとめ
)
会
(
あ
)
はして
下
(
くだ
)
さいませぬか』
041
玄真
(
げんしん
)
『
貴女
(
あなた
)
のお
尋
(
たづ
)
ねなさる
玄真坊
(
げんしんばう
)
と
申
(
まを
)
すは
拙僧
(
せつそう
)
で
厶
(
ござ
)
る。
042
女
(
をんな
)
の
孱弱
(
かよわ
)
き
身
(
み
)
をもつて、
043
ようまあ
一人
(
ひとり
)
御
(
ご
)
参詣
(
さんけい
)
が
出来
(
でき
)
ました、
044
嘸
(
さぞ
)
お
疲
(
つか
)
れでせう。
045
どうか
私
(
わたし
)
の
居間
(
ゐま
)
にゆつくりと、
046
おくつろぎなさいませ』
047
サンダー『ハア、
048
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
が
噂
(
うはさ
)
に
高
(
たか
)
き
活神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
、
049
あの、
050
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いましたか。
051
偉
(
えら
)
い
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
しました』
052
玄真
(
げんしん
)
『アハヽヽヽ。
053
やがて
沢山
(
たくさん
)
の
老若
(
ろうにやく
)
男女
(
なんによ
)
が
参拝
(
さんぱい
)
する
時刻
(
じこく
)
だから、
054
私
(
わたくし
)
もこれから
忙
(
いそが
)
しいが、
055
それ
迄
(
まで
)
に
御用
(
ごよう
)
の
趣
(
おもむき
)
を
聞
(
き
)
かう。
056
先
(
ま
)
づ
私
(
わたくし
)
の
居間
(
ゐま
)
にお
出
(
いで
)
なさい』
057
サンダー『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います』
058
と、
059
サンダーは
立派
(
りつぱ
)
な
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
に
姿
(
すがた
)
を
没
(
ぼつ
)
した。
060
室内
(
しつない
)
には
経机
(
きやうづくゑ
)
が
一脚
(
いつきやく
)
きちんと
据
(
す
)
ゑられ
二三冊
(
にさんさつ
)
の
金
(
きん
)
で
縁
(
へり
)
を
取
(
と
)
つた
経書
(
きやうしよ
)
が
行儀
(
ぎやうぎ
)
よく
飾
(
かざ
)
られてある。
061
一方
(
いつぱう
)
の
隅
(
すみ
)
には
払子
(
ほつす
)
や
独鈷
(
どくこ
)
、
062
金椀
(
かなわん
)
などの
仏具
(
ぶつぐ
)
が
飾
(
かざ
)
つてあつた。
063
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
一種
(
いつしゆ
)
の
色情狂
(
しきじやうきやう
)
である。
064
三
(
さん
)
年間
(
ねんかん
)
添
(
そ
)
うて
来
(
き
)
たヨリコ
姫
(
ひめ
)
には
見放
(
みはな
)
され、
065
その
情
(
なさけ
)
によつて
僅
(
わづ
)
かに
二
(
に
)
の
弟子
(
でし
)
となり、
066
聊
(
いささ
)
か
不平
(
ふへい
)
な
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
067
そこで
絶世
(
ぜつせい
)
の
美人
(
びじん
)
スガコを
甘
(
うま
)
く
誤魔化
(
ごまくわ
)
し、
068
一室
(
いつしつ
)
に
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
めて、
069
吾
(
わが
)
欲望
(
よくばう
)
を
達
(
たつ
)
せむと、
070
暇
(
いとま
)
ある
毎
(
ごと
)
に
口説
(
くどき
)
立
(
た
)
つれど、
071
挺
(
てこ
)
でも
棒
(
ぼう
)
でも
動
(
うご
)
かばこそ、
072
いつも
肱鉄
(
ひじてつ
)
や
後足砲
(
あとあしはう
)
の
乱射
(
らんしや
)
を
受
(
う
)
け、
073
意気
(
いき
)
消沈
(
せうちん
)
して
居
(
ゐ
)
た。
074
其
(
その
)
矢先
(
やさき
)
ヨリコ
姫
(
ひめ
)
よりもスガコよりも
幾層倍
(
いくそうばい
)
増
(
まし
)
た、
075
天稟
(
てんぴん
)
の
美貌
(
びばう
)
を
有
(
いう
)
するサンダーが
訪
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
たので、
076
これ
幸
(
さいは
)
ひ
天
(
てん
)
の
与
(
あた
)
へと
雀躍
(
こをどり
)
し、
077
此
(
この
)
度
(
たび
)
こそはあらゆる
秘術
(
ひじゆつ
)
を
尽
(
つく
)
して
戦
(
たたか
)
ひ、
078
天晴
(
あつぱれ
)
勝利
(
しようり
)
の
月桂冠
(
げつけいくわん
)
を
得
(
え
)
むものと
固唾
(
かたづ
)
を
呑
(
の
)
んで
力
(
りき
)
みかへり、
079
態
(
わざ
)
とやさしき
声
(
こゑ
)
にて、
080
玄真
(
げんしん
)
『
其方
(
そなた
)
はサンダーとか
云
(
い
)
つたね。
081
当山
(
たうざん
)
へ
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
として
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
物騒
(
ぶつそう
)
な
夜
(
よる
)
の
路
(
みち
)
を
参詣
(
さんけい
)
して
来
(
く
)
るについては
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
い
仔細
(
しさい
)
があるであらう。
082
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
一切
(
いつさい
)
を
救
(
すく
)
ふ
私
(
わたし
)
は
救世主
(
きうせいしゆ
)
だから、
083
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
なく
願
(
ねが
)
ひ
事
(
ごと
)
はお
話
(
はな
)
しなさい。
084
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
も
貴女
(
あなた
)
の
願
(
ねが
)
ひは
聞
(
き
)
き
届
(
とど
)
けてあげるから』
085
サンダー『ハイ、
086
仁慈
(
じんじ
)
の
籠
(
こも
)
つた
其
(
その
)
お
言葉
(
ことば
)
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます。
087
私
(
わたくし
)
には
一人
(
ひとり
)
の
妹
(
いもうと
)
が
厶
(
ござ
)
いまして、
088
其
(
その
)
妹
(
いもうと
)
が
行方
(
ゆくへ
)
不明
(
ふめい
)
となりましたので、
089
いろいろと
手
(
て
)
を
廻
(
まは
)
し
下僕
(
しもべ
)
共
(
ども
)
や
村人
(
むらびと
)
に
捜索
(
そうさく
)
して
貰
(
もら
)
ひましたが
090
何
(
ど
)
うしても
所在
(
ありか
)
が
分
(
わか
)
りませぬ。
091
承
(
うけたま
)
はりますれば、
092
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
は
天
(
てん
)
からお
下
(
くだ
)
り
遊
(
あそ
)
ばし、
093
万民
(
ばんみん
)
をお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さるとの
事
(
こと
)
、
094
夫
(
それ
)
故
(
ゆゑ
)
妹
(
いもうと
)
の
所在
(
ありか
)
もお
尋
(
たづ
)
ね
申
(
まを
)
せば
教
(
をしへ
)
て
下
(
くだ
)
さると
思
(
おも
)
ひ、
095
失礼
(
しつれい
)
ですけれど
096
お
尋
(
たづ
)
ねに
参
(
まゐ
)
つた
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
います』
097
と、
098
どこ
迄
(
まで
)
も
女
(
をんな
)
になり
済
(
す
)
まして
居
(
ゐ
)
る。
099
さうして……この
生神
(
いきがみ
)
が
自分
(
じぶん
)
の
男
(
をとこ
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
看破
(
かんぱ
)
せないやうなら
山子
(
やまこ
)
坊子
(
ばうず
)
だ、
100
売僧
(
まいす
)
だ。
101
これやどこ
迄
(
まで
)
も
一
(
ひと
)
つ、
102
女
(
をんな
)
に
化
(
ば
)
けすまして
居
(
を
)
らねばならぬ……と、
103
思案
(
しあん
)
をして
居
(
ゐ
)
たのである。
104
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
細
(
ほそ
)
い
まぶい
やうな
目
(
め
)
をしてサンダーの
顔
(
かほ
)
をヂロリヂロリと
見
(
み
)
る
其
(
その
)
気分
(
きぶん
)
の
悪
(
わる
)
さ。
105
されどサンダーは……もしや
吾
(
わが
)
恋
(
こひ
)
するスガコ
姫
(
ひめ
)
がこの
坊主
(
ばうず
)
等
(
ら
)
の
為
(
た
)
めに
計
(
はか
)
られて、
106
どこかに
隠
(
かく
)
されて
居
(
ゐ
)
るのではあるまいか……と
云
(
い
)
ふ
気
(
き
)
が、
107
咄嗟
(
とつさ
)
の
中
(
うち
)
に
起
(
おこ
)
つたので、
108
飽迄
(
あくまで
)
女
(
をんな
)
でやり
通
(
とほ
)
さうと
考
(
かんが
)
へた。
109
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
又
(
また
)
、
110
サンダーを
天成
(
てんせい
)
の
女
(
をんな
)
と
思
(
おも
)
ひ
込
(
こ
)
み、
111
夢
(
ゆめ
)
にも
男
(
をとこ
)
などとは
気付
(
きづ
)
かなかつたのである。
112
サンダー『あの
修験者
(
しゆげんじや
)
様
(
さま
)
、
113
私
(
わたし
)
は
妹
(
いもうと
)
に
会
(
あ
)
ひたさにお
願
(
ねが
)
ひに
参
(
まゐ
)
つたので
厶
(
ござ
)
いますが
114
どうでせう、
115
遇
(
あ
)
はして
頂
(
いただ
)
く
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまいか。
116
私
(
わたし
)
の
妹
(
いもうと
)
の
名
(
な
)
はスガコと
申
(
まをし
)
まして
年
(
とし
)
は
十八
(
じふはち
)
、
117
この
妹
(
いもうと
)
に
遇
(
あ
)
はしてさへ
頂
(
いただ
)
けば、
118
私
(
わたし
)
はどんな
御用
(
ごよう
)
でも
否
(
いな
)
みませぬ』
119
玄真坊
(
げんしんばう
)
は、
120
スガコがこの
女
(
をんな
)
の
妹
(
いもうと
)
だと
聞
(
き
)
いて、
121
胸
(
むね
)
に
動悸
(
どうき
)
を
打
(
う
)
たせ
些
(
すこ
)
しは
驚
(
おどろ
)
いたが、
122
元来
(
ぐわんらい
)
の
曲者
(
くせもの
)
、
123
轟
(
とどろ
)
く
胸
(
むね
)
をグツと
押
(
おさ
)
へ
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
して、
124
玄真
(
げんしん
)
『アヽお
前
(
まへ
)
の
妹
(
いもうと
)
はスガコと
云
(
い
)
ふのかな。
125
ウン
会
(
あ
)
はしてやらう。
126
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
先
(
ま
)
づ
妹
(
いもうと
)
に
会
(
あ
)
はすについて、
127
私
(
わし
)
にも
交換
(
かうくわん
)
的
(
てき
)
にお
前
(
まへ
)
に
相談
(
さうだん
)
がある。
128
それを
聞
(
き
)
いてさへ
呉
(
く
)
れれば
法力
(
ほふりき
)
をもつてスガコ
姫
(
ひめ
)
を
此処
(
ここ
)
に
引
(
ひ
)
き
寄
(
よ
)
せ、
129
姉妹
(
きやうだい
)
の
対面
(
たいめん
)
をさして
上
(
あ
)
げませう』
130
サンダーは、
131
弥々
(
いよいよ
)
此奴
(
こいつ
)
売僧
(
まいす
)
と
見
(
み
)
て
取
(
と
)
つたので
132
益々
(
ますます
)
空呆
(
そらとぼ
)
け、
133
サンダー『
師
(
し
)
の
君様
(
きみさま
)
、
134
どんな
御用
(
ごよう
)
で
厶
(
ござ
)
いますか。
135
私
(
わたし
)
の
身
(
み
)
に
叶
(
かな
)
ふ
事
(
こと
)
ならば、
136
何
(
なに
)
なりと
仰
(
あふ
)
せつけ
下
(
くだ
)
さいませ』
137
玄真
(
げんしん
)
『ヨシヨシ、
138
そんなら
私
(
わし
)
の
方
(
はう
)
から
提案
(
ていあん
)
を
持
(
も
)
ち
出
(
だ
)
さう。
139
外
(
ほか
)
でもない、
140
拙僧
(
せつそう
)
は
天
(
てん
)
の
命
(
めい
)
を
受
(
う
)
け、
141
天下
(
てんか
)
救済
(
きうさい
)
の
為
(
た
)
めに
此
(
この
)
聖地
(
せいち
)
に
降
(
くだ
)
つた
者
(
もの
)
だ。
142
夫
(
それ
)
については、
143
最奥
(
さいあう
)
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
月
(
つき
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
より、
144
今朝
(
こんてう
)
神勅
(
しんちよく
)
が
下
(
くだ
)
り、
145
今
(
いま
)
より
半時
(
はんとき
)
の
後
(
のち
)
汝
(
なんぢ
)
に
天成
(
てんせい
)
の
美人
(
びじん
)
を
与
(
あた
)
ふる。
146
其
(
その
)
美人
(
びじん
)
こそ
最奥
(
さいあう
)
第一
(
だいいち
)
天国
(
てんごく
)
の
姫神
(
ひめがみ
)
、
147
玉野姫
(
たまのひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
だ。
148
其
(
その
)
方
(
かた
)
と
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さず
夫婦
(
ふうふ
)
となり、
149
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
せよとの
思召
(
おぼしめ
)
しで
厶
(
ござ
)
つた。
150
其方
(
そなた
)
も
知
(
し
)
らるる
通
(
とほ
)
り、
151
拙僧
(
せつそう
)
は
修験者
(
しゆげんじや
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
152
女房
(
にようばう
)
を
持
(
も
)
つとは、
153
実
(
じつ
)
に
古来
(
こらい
)
の
旧慣
(
きうくわん
)
を
破
(
やぶ
)
るに
似
(
に
)
たれども、
154
日進
(
につしん
)
月歩
(
げつぽ
)
、
155
百度
(
ひやくど
)
維新
(
ゐしん
)
の
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
、
156
神界
(
しんかい
)
の
規則
(
きそく
)
も
変
(
かは
)
つたと
見
(
み
)
え、
157
先
(
ま
)
づ
拙僧
(
せつそう
)
より
天下
(
てんか
)
に
模範
(
もはん
)
を
示
(
しめ
)
すべく、
158
霊魂
(
みたま
)
の
合
(
あ
)
うた
夫婦
(
ふうふ
)
を
命
(
めい
)
ぜられたのです。
159
お
前
(
まへ
)
さまが
俄
(
にはか
)
に
此処
(
ここ
)
へ
参
(
まゐ
)
つて
来
(
き
)
たくなつたのも、
160
お
前
(
まへ
)
さまに
守護
(
しゆご
)
して
厶
(
ござ
)
る、
161
玉野姫
(
たまのひめ
)
さまの
精霊
(
せいれい
)
が
導
(
みちび
)
いて
厶
(
ござ
)
つたのですよ。
162
お
前
(
まへ
)
さまも
若
(
わか
)
い
身
(
み
)
をもつて、
163
年
(
とし
)
の
違
(
ちが
)
ふ
拙僧
(
せつそう
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
となる
事
(
こと
)
は、
164
嘸
(
さぞ
)
驚
(
おどろ
)
くでせう。
165
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
天
(
てん
)
の
命
(
めい
)
は
拒
(
こば
)
むべからず。
166
サンダーさま、
167
分
(
わか
)
りましたかな』
168
サンダーは
余
(
あま
)
りの
可笑
(
をか
)
しさに、
169
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
す
許
(
ばか
)
り
思
(
おも
)
はれるのをグツと
耐
(
こら
)
へ、
170
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
をして
笑
(
ゑみ
)
を
含
(
ふく
)
み
乍
(
なが
)
ら、
171
サンダー『
何事
(
なにごと
)
の
御用
(
ごよう
)
かと
思
(
おも
)
ひましたら
思
(
おも
)
ひもかけぬ
神縁
(
しんえん
)
の
御
(
ご
)
説明
(
せつめい
)
、
172
妾
(
わらは
)
の
如
(
ごと
)
き
汚
(
けが
)
れた
肉体
(
にくたい
)
がどうして、
173
尊
(
たふと
)
き
御
(
おん
)
身
(
み
)
の
妻
(
つま
)
となる
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませう。
174
そんな
御
(
ご
)
冗談
(
じやうだん
)
はやめて
下
(
くだ
)
さい、
175
何
(
ど
)
うしても
妾
(
わらは
)
は
信
(
しん
)
ずる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ』
176
玄真坊
(
げんしんばう
)
はここぞ
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
と、
177
全身
(
ぜんしん
)
の
智勇
(
ちゆう
)
を
推倒
(
すゐたう
)
し
熱血
(
ねつけつ
)
を
濺
(
そそ
)
いで、
178
身体
(
しんたい
)
を
前
(
まへ
)
に
乗
(
の
)
りだし
179
サンダーの
手
(
て
)
をグツと
握
(
にぎ
)
つて
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
揺
(
ゆ
)
すり、
180
玄真
(
げんしん
)
『これこれお
嬢
(
ぢやう
)
さま、
181
御
(
ご
)
不思議
(
ふしぎ
)
は
尤
(
もつと
)
も
乍
(
なが
)
ら、
182
決
(
けつ
)
して
神
(
かみ
)
に
偽
(
いつは
)
りはありませぬよ。
183
貴女
(
あなた
)
は
妹
(
いもうと
)
にも
会
(
あ
)
ひ、
184
又
(
また
)
神界
(
しんかい
)
に
於
(
お
)
ける
誠
(
まこと
)
の
夫
(
をつと
)
に
遇
(
あ
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るのですから、
185
こんな
幸福
(
かうふく
)
は
有
(
あり
)
ますまい。
186
貴女
(
あなた
)
が
天
(
てん
)
の
命
(
めい
)
に
従
(
したが
)
つて、
187
私
(
わたくし
)
の
妻
(
つま
)
にお
成
(
な
)
りなさるのなら
屹度
(
きつと
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
はお
妹
(
いもうと
)
に
遇
(
あ
)
はして
下
(
くだ
)
さらうし、
188
又
(
また
)
貴女
(
あなた
)
が
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめ
)
しに
背
(
そむ
)
き、
189
拙僧
(
せつそう
)
が
妻
(
つま
)
となるのを
否
(
いな
)
まるるに
於
(
おい
)
ては、
190
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
もお
妹御
(
いもうとご
)
に
会
(
あ
)
はしては
下
(
くだ
)
さいますまい。
191
サア、
192
茲
(
ここ
)
が
思案
(
しあん
)
の
仕処
(
しどころ
)
だ、
193
好
(
よ
)
い
返事
(
へんじ
)
をするがよいぞや』
194
サンダー『
不束
(
ふつつか
)
なる、
195
繊弱
(
かよわ
)
き
経験
(
けいけん
)
なき
妾
(
わらは
)
に
対
(
たい
)
し、
196
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
か
何
(
なに
)
か
知
(
し
)
りませぬが、
197
有難
(
ありがた
)
い
思召
(
おぼしめ
)
しをおかけ
下
(
くだ
)
さいますのは
冥加
(
みやうが
)
に
剰
(
あま
)
つて
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます。
198
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
妾
(
わらは
)
は
妹
(
いもうと
)
に
先
(
さき
)
に
会
(
あ
)
はして
貰
(
もら
)
はねば、
199
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
に
従
(
したが
)
ふ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
200
信仰
(
しんかう
)
の
浅
(
あさ
)
き
吾々
(
われわれ
)
、
201
まだ
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
して
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
とも
信
(
しん
)
ずる
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませぬ。
202
夫
(
それ
)
故
(
ゆゑ
)
絶対
(
ぜつたい
)
的
(
てき
)
服従
(
ふくじゆう
)
も
出来
(
でき
)
ないので
厶
(
ござ
)
います。
203
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今
(
いま
)
逢
(
あ
)
つてお
目
(
め
)
にかかつた
許
(
ばか
)
りの
私
(
わたくし
)
、
204
不思議
(
ふしぎ
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
も
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
はないのですから、
205
疑
(
うたが
)
つて
済
(
す
)
みませぬが、
206
どうか
其所
(
そこ
)
は
大目
(
おほめ
)
に
見
(
み
)
て
下
(
くだ
)
さいませ』
207
玄真
(
げんしん
)
『
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
神
(
かみ
)
のかの
字
(
じ
)
も
知
(
し
)
らなかつたお
前
(
まへ
)
さまだもの、
208
早速
(
さつそく
)
に
信用
(
しんよう
)
出来
(
でき
)
ないのも
無理
(
むり
)
とは
云
(
い
)
はぬ。
209
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
210
ここ
迄
(
まで
)
大勢
(
おほぜい
)
の
人
(
ひと
)
が
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
頂
(
いただ
)
き、
211
随喜
(
ずゐき
)
渇仰
(
かつかう
)
して
居
(
ゐ
)
るのだから、
212
そこはそれ、
213
神
(
かみ
)
か
神
(
かみ
)
でないか
賢明
(
けんめい
)
なる
其女
(
そなた
)
、
214
推察
(
すゐさつ
)
したがよからうぞ』
215
サンダー『
何
(
ど
)
うしてもスガコ
姫
(
ひめ
)
に
会
(
あ
)
はしては
下
(
くだ
)
さいませぬか』
216
玄真
(
げんしん
)
『
天
(
てん
)
の
命
(
めい
)
を
聞
(
き
)
かない
其女
(
そなた
)
には
会
(
あ
)
はす
事
(
こと
)
は
絶対
(
ぜつたい
)
に
出来
(
でき
)
ない。
217
妹
(
いもうと
)
に
会
(
あ
)
ひ
度
(
たく
)
ば
神
(
かみ
)
の
命
(
めい
)
を
奉
(
ほう
)
じ、
218
拙僧
(
せつそう
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
になりますか。
219
拙僧
(
せつそう
)
だとて、
220
年
(
とし
)
が
寄
(
よ
)
つてから
女房
(
にようばう
)
なんか
持
(
も
)
つのは
迷惑
(
めいわく
)
だが、
221
天
(
てん
)
の
命
(
めい
)
には
背
(
そむ
)
き
難
(
がた
)
く、
222
国家
(
こくか
)
万民
(
ばんみん
)
の
為
(
た
)
め、
223
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
汚
(
けが
)
した
事
(
こと
)
のない
清浄
(
しやうじやう
)
無垢
(
むく
)
の
此
(
この
)
体
(
からだ
)
を
犠牲
(
ぎせい
)
に
供
(
きよう
)
するのだ。
224
未来
(
みらい
)
のキリストとやらも
十字架
(
じふじか
)
を
背
(
せお
)
つて
万民
(
ばんみん
)
を
救
(
すく
)
つたぢやないか、
225
其女
(
そなた
)
も
世
(
よ
)
の
為
(
た
)
めに
犠牲
(
ぎせい
)
になる
誠心
(
まごころ
)
はないか。
226
夫
(
それ
)
では
最奥
(
さいあう
)
第一
(
だいいち
)
の
天国
(
てんごく
)
玉野姫
(
たまのひめ
)
の
御霊
(
みたま
)
とは
申
(
まを
)
されませぬぞ』
227
サンダー『
妾
(
わらは
)
は
玉野姫
(
たまのひめ
)
の
御霊
(
みたま
)
であらうが、
228
狸姫
(
たぬきひめ
)
の
御霊
(
みたま
)
で
有
(
あ
)
らうが、
229
霊界
(
れいかい
)
の
事
(
こと
)
は
些
(
すこ
)
しも
意
(
い
)
に
介
(
かい
)
しませぬ。
230
唯々
(
ただただ
)
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
によつて、
231
妹
(
いもうと
)
に
遇
(
あ
)
はして
下
(
くだ
)
さいますれば、
232
それで
満足
(
まんぞく
)
で
厶
(
ござ
)
います。
233
何
(
ど
)
うしても
会
(
あ
)
はして
下
(
くだ
)
さらぬなら、
234
是非
(
ぜひ
)
がありませぬ、
235
仰
(
おほせ
)
に
従
(
したが
)
つて
貴方
(
あなた
)
の
妻
(
つま
)
になりませう。
236
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
妾
(
わたし
)
は
大切
(
たいせつ
)
な
生
(
うみ
)
の
母
(
はは
)
に
別
(
わか
)
れてから
僅
(
わづ
)
かに
六
(
ろく
)
ケ
月
(
げつ
)
、
237
忌中
(
きちう
)
の
身
(
み
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
238
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
結婚式
(
けつこんしき
)
をお
延
(
の
)
ばし
下
(
くだ
)
さい。
239
それをお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
されば
此
(
この
)
身体
(
からだ
)
を
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
差
(
さし
)
上
(
あ
)
げます。
240
否
(
いな
)
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
自由
(
じいう
)
に
任
(
まか
)
します』
241
玄真
(
げんしん
)
『ア
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
、
242
満足
(
まんぞく
)
々々
(
まんぞく
)
。
243
併
(
しか
)
しサンダー
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
244
いや
女房
(
にようばう
)
殿
(
どの
)
、
245
さう
固苦
(
かたくる
)
しく
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
も
待
(
ま
)
たないでも
好
(
よ
)
いぢやないか。
246
天
(
てん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
許
(
ゆる
)
しだもの、
247
世
(
よ
)
は
禁厭
(
まじなひ
)
といつて
形
(
かた
)
さへすればよいのだ。
248
もう
六
(
ろく
)
ケ
月
(
げつ
)
も
暮
(
く
)
れたのだから、
249
そんなにせなくても
好
(
よ
)
からう。
250
此
(
この
)
夫
(
をつと
)
に
任
(
まか
)
して
置
(
お
)
いたら
宜
(
よろ
)
しからう。
251
なア、
252
サンダー
姫
(
ひめ
)
』
253
と
254
声
(
こゑ
)
の
色
(
いろ
)
迄
(
まで
)
かへて
背
(
せ
)
を
撫
(
な
)
でる
其
(
その
)
嫌
(
いや
)
らしさ。
255
サンダー『もし、
256
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
、
257
貴方
(
あなた
)
の
妻
(
つま
)
になる
事
(
こと
)
を
約
(
やく
)
しました
以上
(
いじやう
)
は、
258
早晩
(
さうばん
)
結婚
(
けつこん
)
を
致
(
いた
)
さねばなりますまい。
259
どうか
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
妹
(
いもうと
)
に
一目
(
ひとめ
)
会
(
あ
)
はして
下
(
くだ
)
さいませぬか、
260
屹度
(
きつと
)
最愛
(
さいあい
)
の
妻
(
つま
)
の
願
(
ねが
)
ひ
事
(
ごと
)
、
261
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さらないやうな
夫
(
をつと
)
では
厶
(
ござ
)
いますまいなア』
262
玄真
(
げんしん
)
『ウム、
263
会
(
あ
)
はしてやり
度
(
た
)
いは
山々
(
やまやま
)
なれど、
264
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
はスガコ
姫
(
ひめ
)
は、
265
一寸
(
ちよつと
)
俺
(
おれ
)
に
関係
(
くわんけい
)
があるのだ。
266
それだから
第一
(
だいいち
)
夫人
(
ふじん
)
と、
267
第二
(
だいに
)
夫人
(
ふじん
)
が
目
(
め
)
をむき
合
(
あ
)
ひ
胸倉
(
むなぐら
)
の
掴
(
つか
)
み
合
(
あ
)
ひをせられては、
268
俺
(
おれ
)
も
一寸
(
ちよつと
)
困
(
こま
)
るから
会
(
あ
)
はさないと
云
(
い
)
ふのだ。
269
会
(
あ
)
はしても、
270
よもや
嫉妬
(
しつと
)
は
致
(
いた
)
すまいな。
271
嫉妬
(
しつと
)
さへ
無
(
な
)
くば
何時
(
いつ
)
でも
会
(
あ
)
はしてやらう』
272
サンダー『ハイ、
273
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
274
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
元
(
もと
)
が
姉妹
(
きやうだい
)
ですもの、
275
何
(
なに
)
、
276
嫉妬
(
しつと
)
なんかしますものか。
277
仮令
(
たとへ
)
妹
(
いもうと
)
が
気儘
(
きまま
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
しましても、
278
私
(
わたし
)
が
仲裁
(
ちうさい
)
を
致
(
いた
)
し
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
意
(
こころ
)
に
添
(
そ
)
ふやう、
279
取計
(
とりはか
)
らつて
上
(
あ
)
げますわ』
280
玄真
(
げんしん
)
『エヘヽヽヽ、
281
何
(
なん
)
でもお
前
(
まへ
)
は
姉
(
あね
)
の
権力
(
けんりよく
)
をもつて、
282
妹
(
いもうと
)
を
説
(
と
)
き
付
(
つ
)
けて
呉
(
く
)
れると
云
(
い
)
ふのか、
283
それは
結構
(
けつこう
)
だ。
284
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
吾
(
わが
)
女房
(
にようばう
)
とは
云
(
い
)
ふものの、
285
スガコは、
286
辷
(
すべ
)
つたの、
287
転
(
ころ
)
んだのと
云
(
い
)
うて、
288
まだ
吾
(
わが
)
要求
(
えうきう
)
に
応
(
おう
)
ぜないのだ。
289
しかし
其方
(
そなた
)
はスガコに
比
(
くら
)
ぶれば
幾層倍
(
いくそうばい
)
の
美人
(
びじん
)
だ、
290
其方
(
そなた
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
てから、
291
スガコに
対
(
たい
)
する
恋着心
(
れんちやくしん
)
もどこかへ
往
(
い
)
つて
仕舞
(
しま
)
つたやうだ』
292
サンダー『
可愛
(
かあい
)
さうに、
293
そんな
水臭
(
みづくさ
)
い
事
(
こと
)
を
仰
(
おほ
)
せられますと
妹
(
いもうと
)
が
泣
(
な
)
きますよ。
294
ほんに
水臭
(
みづくさ
)
い
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
だこと。
295
妾
(
わらは
)
だつて
又
(
また
)
妾
(
わらは
)
に
勝
(
まさ
)
る
美人
(
びじん
)
が
見
(
み
)
つかつた
時
(
とき
)
は、
296
キツト
又
(
また
)
さう
仰有
(
おつしや
)
るでせう。
297
そんなことを
思
(
おも
)
うと
憎
(
にく
)
らしくなつて
来
(
き
)
ましたわ』
298
と、
299
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
鼻
(
はな
)
を
思
(
おも
)
ふざま
捻
(
ね
)
ぢ
上
(
あ
)
げた。
300
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
現
(
うつつ
)
になつて
居
(
ゐ
)
るのだから、
301
眼
(
め
)
から
涙
(
なみだ
)
が
出
(
で
)
る
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
鼻
(
はな
)
を
捻
(
ねぢ
)
上
(
あ
)
げられながら、
302
サンダーが
惚
(
ほ
)
れて
居
(
ゐ
)
るのだと
思
(
おも
)
ひ
垂涎
(
よだれ
)
と
涙
(
なみだ
)
を
一緒
(
いつしよ
)
に
垂
(
た
)
らし、
303
玄真
(
げんしん
)
『オイ、
304
サンダー
姫
(
ひめ
)
、
305
何
(
なに
)
をするのだ。
306
ほんに
痛
(
いた
)
い
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はすぢやないか』
307
サンダー『それやさうですとも、
308
可愛
(
かあい
)
さ
剰
(
あま
)
つて
憎
(
にく
)
さが
百倍
(
ひやくばい
)
ですよ。
309
早
(
はや
)
く
妹
(
いもうと
)
に
会
(
あ
)
ひ
度
(
た
)
いものだなア。
310
妹
(
いもうと
)
に
会
(
あ
)
つて
思
(
おも
)
ふ
存分
(
ぞんぶん
)
鼻
(
はな
)
が
抓
(
つめ
)
つて
見
(
み
)
たいわ』
311
玄真
(
げんしん
)
『スガコだつて、
312
さう
鼻
(
はな
)
を
抓
(
つま
)
んでは
可愛
(
かあい
)
さうだよ。
313
どうか
可愛
(
かあい
)
がつてやつて
呉
(
く
)
れ。
314
さうして
悋気
(
りんき
)
をしないやうにのう』
315
サンダー『
何
(
なに
)
、
316
貴方
(
あなた
)
悋気
(
りんき
)
をしてなりますものか。
317
一方
(
いつぱう
)
は
可愛
(
かあい
)
い
可愛
(
かあい
)
い
夫
(
をつと
)
、
318
一方
(
いつぱう
)
は
可愛
(
かあい
)
い
可愛
(
かあい
)
い
妹
(
いもうと
)
ですもの、
319
その
可愛
(
かあい
)
い
妹
(
いもうと
)
を
慰
(
なぐさ
)
めて
下
(
くだ
)
さる
夫
(
をつと
)
は
猶更
(
なほさら
)
可愛
(
かあい
)
いなり、
320
又
(
また
)
可愛
(
かあい
)
い
夫
(
をつと
)
を
慰
(
なぐさ
)
めて
呉
(
く
)
れる
妹
(
いもうと
)
は
猶々
(
なほなほ
)
可愛
(
かあい
)
いぢやありませぬか』
321
玄真
(
げんしん
)
『
成程
(
なるほど
)
貴女
(
そなた
)
は
開
(
ひら
)
けたものだ。
322
天晴
(
あつぱれ
)
の
女丈夫
(
ぢよぢやうぶ
)
だ。
323
愛
(
あい
)
の
三角
(
さんかく
)
関係
(
くわんけい
)
と
云
(
い
)
へば
三方
(
さんぽう
)
に
角
(
かど
)
の
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
るものだが、
324
お
前
(
まへ
)
のやうに
出
(
で
)
て
呉
(
く
)
れれば
三角
(
さんかく
)
関係
(
くわんけい
)
も
円満
(
ゑんまん
)
具足
(
ぐそく
)
、
325
望月
(
もちづき
)
のやうな
立派
(
りつぱ
)
な
家庭
(
かてい
)
が
営
(
いとな
)
まれるであらう。
326
ヤ、
327
目出度
(
めでた
)
い
目出度
(
めでた
)
い』
328
サンダー『
杵
(
きね
)
一本
(
いつぽん
)
に
臼
(
うす
)
二挺
(
にちやう
)
、
329
これさへあれや
立派
(
りつぱ
)
な
餅
(
もち
)
が
搗
(
つ
)
けませう。
330
此
(
この
)
よをば
吾
(
わが
)
世
(
よ
)
ぞと
思
(
おも
)
ふ
望月
(
もちづき
)
の
331
虧
(
か
)
げたる
事
(
こと
)
のなしと
思
(
おも
)
へば
332
とか
云
(
い
)
ふ
歌
(
うた
)
の
通
(
とほ
)
り、
333
円満
(
ゑんまん
)
なホームを
作
(
つく
)
つて
楽
(
たの
)
しみませうよ。
334
あゝ
早
(
はや
)
く
妹
(
いもうと
)
に
会
(
あ
)
ひたいものだなア』
335
(
大正一三・一二・一六
旧一一・二〇
於祥雲閣
加藤明子
録)
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