霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一八章 魔神(まがみ)の囁(ささやき)〔一七〇〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻 篇:第4篇 恋連愛曖 よみ(新仮名遣い):れんれんあいあい
章:第18章 魔神の囁 よみ(新仮名遣い):まがみのささやき 通し章番号:1700
口述日:1924(大正13)年12月17日(旧11月21日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年6月29日
概要: 舞台:オーラ山の岩窟 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4797 OBC :rm6618
愛善世界社版:254頁 八幡書店版:第11輯 824頁 修補版: 校定版:259頁 普及版:67頁 初版: ページ備考:
001 玄真坊(げんしんばう)はサンダー、002スガコの幽閉(いうへい)してある岩窟(いはや)の中(なか)にニコニコし乍(なが)ら入(い)り来(きた)り、
003玄真(げんしん)『オイ、004サンダー、005スガコ両人(りやうにん)、006大変(たいへん)待(ま)たして済(す)まなかつた。007腹(はら)が空(へ)つただらうのう。008直様(すぐさま)捻鉢巻(ねぢはちまき)で御(ご)馳走(ちそう)を拵(こしら)へ、009お前(まへ)等(たち)を喜(よろこ)ばさうと思(おも)つた所(ところ)、010此(この)山(やま)に働(はたら)く大泥棒(おほどろばう)シーゴーの奴(やつ)、011突然(とつぜん)ここへ帰(かへ)りやがつて其(その)御(ご)馳走(ちそう)に目(め)をかけ、012喉(のど)をゴロゴロさせ乍(なが)ら、013「永(なが)い間(あひだ)宣伝(せんでん)に働(はたら)いたから俺(おれ)も大分(だいぶ)疲(つか)れた。014お頭分(かしらぶん)のヨリコ女帝(によてい)の前(まへ)でお前(まへ)と三(さん)人(にん)御(ご)馳走(ちそう)を喰(た)べやうぢやないか」と、0141誅求(ちうきう)するものだから、015折角(せつかく)お前(まへ)と三(さん)人(にん)食(く)ひ度(た)いと思(おも)つた御(ご)馳走(ちそう)を、016たうとう女帝(によてい)の前(まへ)に提出(ていしゆつ)せざるを得(え)なくなつたのだ。017お前(まへ)も永(なが)い間(あひだ)断食(だんじき)をし、018嘸(さぞ)お腹(なか)も空(す)いたらうと思(おも)ひ、019俺(わし)は同情心(どうじやうしん)が起(おこ)り、020気(き)が気(き)でないのだが、021さう云(い)ふ訳(わけ)だから打割(うちわ)つて云(い)ふ訳(わけ)にもゆかず、022第一線(だいいつせん)をシーゴーの親分(おやぶん)に占領(せんりやう)されて了(しま)つたのだ。023それで再(ふたた)びお前(まへ)達(たち)が可愛相(かあいさう)になり御(ご)馳走(ちそう)を拵(こしら)へて来(き)たのだ。024決(けつ)して気(き)を悪(わる)くして呉(く)れな。025仲々(なかなか)以(もつ)て等閑(とうかん)に附(ふ)した訳(わけ)ぢやないからのう』
026サンダー『どうも御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う厶(ござ)います。027然(しか)しながら今(いま)承(うけたま)はれば此(この)山(やま)に働(はたら)く親分(おやぶん)のシーゴー様(さま)だとか、028も一(ひと)つ親分(おやぶん)のヨリコだとか仰有(おつしや)つたが、029妾(わたし)は此処(ここ)は天地(てんち)の大神(おほかみ)のお降(くだ)り遊(あそ)ばす聖場(せいぢやう)と思(おも)ひました所(ところ)、030泥棒(どろばう)の親分(おやぶん)と御(ご)交際(かうさい)があるとは一向(いつかう)に合点(がつてん)が参(まゐ)りませぬ。031何(なに)ほど恋(こ)ひ慕(した)うた貴方(あなた)でも泥棒(どろばう)に関係(くわんけい)があると思(おも)へば032三(さん)年(ねん)の恋(こひ)も一(いち)時(じ)に醒(さ)めるやうで厶(ござ)ります。033折角(せつかく)の御(ご)馳走(ちそう)だけど妾(わたし)は頂(いただ)きませぬ。034なあスガコさま、035貴女(あなた)どう思(おも)ひますか』
036スガコ『本当(ほんたう)に恐(おそ)ろしい方々(かたがた)ですね。037此処(ここ)は天地(てんち)の生神(いきがみ)様(さま)の御(ご)降臨(かうりん)遊(あそ)ばす霊場(れいぢやう)だとか、038玄真坊(げんしんばう)さまは天帝(てんてい)の化身(けしん)だとか世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)だとか、0381仰有(おつしや)いますが、039つらつらその御(ご)行動(かうどう)を考(かんが)へますと、040妾(わたし)は全(まつた)く此(この)世(よ)を詐(いつは)る山賊(さんぞく)の巣窟(さうくつ)とより外(ほか)思(おも)ひませぬ。041ねー玄真坊(げんしんばう)様(さま)、042それに間違(まちがひ)は厶(ござ)いますまいね』
043 玄真坊(げんしんばう)は驚(おどろ)いて、044「ウツカリと秘密(ひみつ)を喋(しやべ)つて了(しま)つた。045こりや大変(たいへん)だ。046到頭(たうとう)、047内兜(うちかぶと)を見(み)すかされたやうだ。048何(なん)とか考(かんが)へて捻(ねぢ)を戻(もど)さねばなるまい」と冷汗(ひやあせ)を流(なが)し乍(なが)ら、049ワザと高笑(たかわら)ひ、
050玄真(げんしん)『アツハヽヽヽ、051嘘(うそ)だ嘘(うそ)だ、052一寸(ちよつと)お前(まへ)の肝玉(きもだま)を調(しら)べて見(み)たのだ。053こんな所(ところ)に泥棒(どろばう)が居(を)つてたまらうかい。054泥棒(どろばう)の居(ゐ)るやうな山(やま)へ、055どうして神(かみ)様(さま)がお降(くだ)り遊(あそ)ばすものか。056そんな恐(おそ)ろしい処(ところ)へ、057あんな沢山(たくさん)の老若(らうにやく)男女(なんによ)が詣(まゐ)つて来(く)るものか、058皆(みな)嘘(うそ)だから安心(あんしん)したが宜(よ)からう。059まアそんな小(ちひ)さい事(こと)に気(き)をかけず、060此(この)御(ご)馳走(ちそう)を早(はや)く早(はや)くお食(あが)りなさい。061私(わたし)もお相伴(せうばん)するから、062滅多(めつた)に毒(どく)は入(はいつ)て居(ゐ)ないよ』
063サンダー『何(なん)だか恐(おそ)ろしくなつて来(き)ました。064師(し)の君様(きみさま)の御(おん)顔(かほ)迄(まで)も、065どこともなしに泥棒(どろばう)めいたやうになつて来(き)ましたのですもの。066お腹(なか)は空(す)いてゐるし、067食(た)べ度(た)いのは山々(やまやま)だけど……渇(かつ)しても盗泉(たうせん)の水(みづ)は飲(の)まず……と云(い)ふ諺(ことわざ)もあるし、068泥棒(どろばう)の拵(こしら)へた飲食(おんじき)は妾(わたし)、069どうしても食(く)ふ気持(きもち)は致(いた)しませぬの』
070スガコ『あたいだつて、071さうだわ。072玄真坊(げんしんばう)様(さま)のお姿(すがた)が何(なん)とはなしに、073泥棒(どろばう)のやうに見(み)えて仕方(しかた)がないのだもの。074もし玄真坊(げんしんばう)様(さま)、075此(この)山(やま)に泥棒(どろばう)がゐるのでせう。076妾(あて)イよく聞(き)いてゐますよ。077シーゴー坊(ばう)と云(い)ふ白髪(はくはつ)童顔(どうがん)の大泥棒(おほどろばう)が居(ゐ)るでせう。078さうして天王(てんわう)の社(やしろ)の中(なか)に棚機姫(たなばたひめ)と云(い)ふ女神(めがみ)さまが居(を)られるのでせう。079あの方(かた)が貴方(あなた)等(がた)の崇(あが)めなさる大親分(おほおやぶん)でせう。080妾(わたし)、081夢(ゆめ)に聞(き)きましたよ』
082玄真(げんしん)『アハヽヽヽヽ、083お前(まへ)は神経(しんけい)興奮(こうふん)してゐるから、084そんな、085しやうもない夢(ゆめ)を見(み)るのだ。086然(しか)しながら今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)は皆(みな)泥棒(どろばう)だよ。087よく考(かんが)へて御覧(ごらん)。088どこやらの国(くに)の王(わう)様(さま)だつて、089もとは海賊(かいぞく)上(あが)りだよ。090満州王(まんしうわう)の張作霖(ちやうさくりん)だつて支那(しな)各地(かくち)の督軍(とくぐん)だつて、091大抵(たいてい)皆(みな)馬賊(ばぞく)上(あが)りだよ。092××大臣(だいじん)や伴食(ばんしよく)××が何百万(なんびやくまん)円(ゑん)、093何千万(なんぜんまん)円(ゑん)と云(い)ふ財産(ざいさん)を持(も)つて居(ゐ)るでせう。094終身(しうしん)総理(そうり)××になつてゐた所(ところ)で、095さう何千万(なんぜんまん)円(ゑん)の月給(げつきふ)を貰(もら)へる筈(はず)もなし、096皆(みな)泥棒(どろばう)して貯(た)めたのだよ。097自転倒(おのころ)島(じま)の富豪(ふうがう)だつて難爵(なんしやく)を貰(もら)つて威張(ゐば)つて居(ゐ)るが、098あれでも、099ヤツパリ贋札(にせさつ)を拵(こしら)へたり、100今(いま)でも外国(ぐわいこく)紙幣(しへい)を盛(さかん)に贋造(がんざう)してゐるぢやないか。101さうだから泥棒(どろばう)を、102ようせないやうな男子(だんし)は、103世(よ)の中(なか)に立(た)つことの出来(でき)ないものだ。104然(しか)しながら105さう云(い)ふ悪人(あくにん)に天地(てんち)の大道(だいだう)を説(と)いて聞(き)かせ心(こころ)改(あらた)めしめるのが、106救世主(きうせいしゆ)の天(てん)よりの使命(しめい)だ。107それで此(この)玄真坊(げんしんばう)は泥棒(どろばう)の張本(ちやうほん)なる××大臣(だいじん)や伴食(ばんしよく)××を初(はじ)め紳士(しんし)紳商(しんしやう)等(など)云(い)ふ獣(けだもの)を此処(ここ)へ集(あつ)めて、108天地(てんち)の大道(だいだう)を説(と)き聞(き)かせ地獄(ぢごく)的(てき)精神(せいしん)を改善(かいぜん)せしめ、109永遠(えいゑん)無窮(むきう)の生命(せいめい)を保(たも)つて栄(さか)えと喜(よろこ)びに満(み)ちた天国(てんごく)へ救(すく)つてやる為(ため)に救世主(きうせいしゆ)として現(あらは)れてゐるのだから、110馬賊(ばぞく)の頭目(とうもく)だつて山賊(さんぞく)だつて、111自分(じぶん)の教(をしへ)を聞(き)きに来(く)るのは当然(たうぜん)だ。112あのシーゴーだつて、113元(もと)は大変(たいへん)な大泥棒(おほどろばう)の頭目(とうもく)だつたが俺(わし)の説教(せつけう)を聞(き)いて悔(く)い改(あらた)め、114今(いま)では猫(ねこ)のやうに、1141おとなしくなつてゐるのだよ。115さうして此(この)玄真坊(げんしんばう)の唯一(ゆゐいつ)の弟子(でし)として神(かみ)様(さま)にお仕(つか)へしてゐるのだ。116又(また)女帝(によてい)様(さま)は女帝(によてい)で、117あれは女盗賊(をんなたうぞく)の大頭目(だいとうもく)だつたが俺(わし)の感化(かんくわ)によつて、118今(いま)はスツクリ悔(く)い改(あらた)め、119天王(てんわう)の社(やしろ)の神司(かむづかさ)となつて仕(つか)へて居(ゐ)るのだよ。120何(なに)程(ほど)元(もと)は泥棒(どろばう)だつて改心(かいしん)すれば真人間(まにんげん)だ。121何(なに)も恐(おそ)ろしい事(こと)はない。122安心(あんしん)してここに居(ゐ)るがよい。123お前(まへ)も救世主(きうせいしゆ)の見出(みいだ)しに預(あづか)り、124妻(つま)となり妾(てかけ)となるのは無上(むじやう)の幸福(かうふく)だよ。125どうだ分(わか)つたかな』
126スガコ『女帝(によてい)様(さま)もシーゴー様(さま)も貴方(あなた)の御(お)弟子(でし)ならば127折角(せつかく)お拵(こしら)へ遊(あそ)ばした御(ご)馳走(ちそう)を強圧(きやうあつ)的(てき)に奪(と)られる筈(はず)はないぢやありませぬか。128それを考(かんが)へますと、129どうやら女帝(によてい)やシーゴーの幕下(ばくか)になつてゐられるやうな心持(こころもち)が致(いた)しますがな』
130玄真(げんしん)『アハヽヽヽヽ、131そこが救世主(きうせいしゆ)の救世主(きうせいしゆ)たる処(ところ)だ。132光(ひかり)を和(やは)らげ塵(ちり)に交(まじ)はり衆生(しゆじやう)を済度(さいど)するのだから、133威張(ゐば)る奴(やつ)は威張(ゐば)らしておくなり、134観(くわん)自在天(じざいてん)様(さま)の働(はたら)きをしてゐるのだ。135観(くわん)自在天(じざいてん)様(さま)は泥棒(どろばう)を改心(かいしん)させようと思(おも)へば泥棒(どろばう)となり、136賭博(ばくち)打(う)ちを改心(かいしん)させようと思(おも)へば、137自(みづか)から賭博(ばくち)打(う)ちとおなり遊(あそ)ばし、138或時(あるとき)は非人(ひにん)となり、139或(あるひ)は病人(びやうにん)となり、140又(また)或時(あるとき)は蠑螈(いもり)となり蚯蚓(みみづ)ともなり、141竜(りゆう)となり馬(うま)となり、142獅子(しし)、143虎(とら)、144狼(おほかみ)となり、145宇宙(うちう)一切(いつさい)をお救(すく)ひ遊(あそ)ばすのだから、146況(ま)して天帝(てんてい)の化身(けしん)たる玄真坊(げんしんばう)に於(おい)てをやだ。147そこが神(かみ)の神(かみ)たる処(ところ)、148救世主(きうせいしゆ)の救世主(きうせいしゆ)たる処(ところ)だ。149何(なん)と、150神(かみ)様(さま)のお慈悲(じひ)と云(い)ふものは勿体(もつたい)ないものだらうがなア。151到底(たうてい)人心(じんしん)小智(せうち)の窺知(きち)し得(う)る処(ところ)ではない。152それで人間(にんげん)は救世主(きうせいしゆ)を信(しん)じて少(すこ)しも疑(うたが)はず怪(あや)しまず、153維命(これめい)維従(これしたが)ふ154と云(い)ふ絶対(ぜつたい)服従心(ふくじゆうしん)がなくてはならないよ』
155サンダー『ハイ、156重(かさ)ね重(がさ)ねの御(ご)教訓(けうくん)、157有難(ありがた)う厶(ござ)います。158お蔭様(かげさま)で、159根(ね)ツから、160葉(は)ツから、161よく分(わか)りました。162ホヽヽヽヽ』
163玄真(げんしん)『これこれサンダー、164根(ね)ツから、165葉(は)ツからよく分(わか)つた……とは、166怪体(けたい)な言(い)ひ分(ぶん)ぢやないか、167一体(いつたい)分(わか)つたのか、168分(わか)らないのか』
169サンダー『ハイ、170分(わか)つたやうでもあり、171分(わか)らぬやうでも厶(ござ)います』
172玄真(げんしん)『さうだろさうだろ、173神(かみ)の道(みち)は分(わか)らぬものだと云(い)ふ事(こと)が分(わか)つたら、174それが所謂(いはゆる)分(わか)つたのだ。175神(かみ)様(さま)のお心(こころ)が分(わか)つたと云(い)ふものは、176何(なに)も分(わか)つてゐないのだ。177マアマアそれ位(くらゐ)ならば上等(じやうとう)の部(ぶ)だ。178サアサア遠慮(ゑんりよ)は要(い)らぬ、179二人(ふたり)とも、180この飲食(おんじき)を頂戴(ちやうだい)するがよい。181俺(わし)もこれからお交際(つきあひ)に毒味(どくみ)旁(かたがた)お前(まへ)の美(うつく)しい顔(かほ)を見(み)乍(なが)らお招伴(せうばん)するからのう』
182 二人(ふたり)の美人(びじん)は何分(なにぶん)空腹(くうふく)に悩(なや)んでゐる事(こと)とて已(や)むを得(え)ず箸(はし)をとつた。183玄真坊(げんしんばう)は之(これ)を見(み)てニヤリと笑(わら)ひ乍(なが)ら、184さも愉快気(ゆくわいげ)に、
185玄真(げんしん)『ハヽヽヽどうだ、186両人(りやうにん)、187美味(うま)いだらう』
188サンダー『ハイ、189誠(まこと)にお加減(かげん)が宜(よろ)しう厶(ござ)います』
190玄真(げんしん)『スガコ、191お前(まへ)はどうだ』
192スガコ『ハイ、193何(なん)とも知(し)れぬお加減(かげん)のよいお料理(れうり)で厶(ござ)います』
194玄真(げんしん)『ハヽヽヽヽ、195そら、196さうだろて、197此(この)玄真(げんしん)が魂(たましひ)をこめて拵(こしら)へた馳走(ちそう)だもの。198此(この)料理(れうり)の中(なか)には玄真(げんしん)の魂(たましひ)が這入(はい)つてゐるのだよ。199』
200サンダー『左様(さやう)で厶(ござ)いますか、201何(なん)だか存(ぞん)じませぬが云(い)ふに云(い)はれぬ風味(ふうみ)が厶(ござ)いますわ』
202玄真(げんしん)『飯(めし)一(ひと)つ焚(た)くにしても、203釜(かま)の下(した)に薪(たきぎ)をくべたなり、204外(ほか)の仕事(しごと)をしてゐるやうな事(こと)ぢや魂(たましひ)が入(はい)らない。205甘(あま)い汁(しる)を外(そと)へ零(こぼ)さぬやう、206釜(かま)の下(した)を燻(くす)べないやうに、207或時(あるとき)は火力(くわりよく)を強(つよ)め、208或時(あるとき)は火(ひ)の力(ちから)を弱(よわ)めたり209一秒(いちべう)時間(じかん)も御(お)飯(まんま)の出来(でき)る迄(まで)心(こころ)を外(はづ)してはいけない。210そして途中(とちう)に鍋蓋(なべぶた)をとつては、211味(あぢ)がぬけて いけない。212蓋(ふた)をとつて見(み)て、213ボツボツと豆粒(まめつぶ)のやうな穴(あな)があいて居(を)つたら、214もはやお飯(まんま)が加減(かげん)よく出来(でき)た所(ところ)だ。215然(しか)しその蓋(ふた)をとつちやいけない。216蓋(ふた)の上(うへ)から、217そのボツボツが見(み)えるやうに魂(たましひ)が入(はい)らぬと、218折角(せつかく)焚(た)いた御飯(ごはん)がおいしくないのだ。219其(その)外(ほか)の煮〆(にしめ)だつて魚(さかな)だつてさうだ。220一(いち)秒間(べうかん)だつて外(ほか)に心(こころ)を移(うつ)すやうでは何(なん)だつて、221おいしい料理(れうり)は出来(でき)ないんだからなア。222ここ迄(まで)気(き)をつけてお前(まへ)等(たち)両人(りやうにん)に、223おいしいものを食(く)はしてやらうと云(い)ふ親切(しんせつ)、224よもや、225無(む)には致(いた)すまいのう。226どうだ、227も一杯(いつぱい)食(く)はないか』
228サンダー『ハイ、229有難(ありがた)う厶(ござ)います、230もう之(これ)で充分(じゆうぶん)頂(いただ)きました』
231スガコ『妾(わたし)も沢山(たくさん)に頂(いただ)きました、232大(おほ)きに御(ご)馳走(ちそう)様(さま)』
233玄真(げんしん)『ウン、234さうかさうか。235皆(みな)甘(うま)さうに食(く)つて呉(く)れたので俺(わし)も骨折(ほねをり)甲斐(がひ)があつた。236折角(せつかく)骨(ほね)を折(を)つて味(あぢ)ない顔(かほ)して食(く)はれると、237根(ね)ツから骨折(ほねをり)甲斐(がひ)がないけど猫(ねこ)が鰹節(かつをぶし)を見(み)たやうに飛(と)びついて食(く)つたのを見(み)た時(とき)は、238此(この)玄真坊(げんしんばう)も本当(ほんたう)に愉快(ゆくわい)だつたよ。239サア、240御膳(ごぜん)が済(す)んだら、241之(これ)から俺(わし)の要求(えうきう)を聞(き)いて貰(もら)ふのだ。242否(いな)此(この)玄真坊(げんしんばう)にお前(まへ)等(たち)両人(りやうにん)から御(ご)馳走(ちそう)を頂(いただ)くのだ。243人(ひと)に招(よ)ばれたらキツト招(よ)び返(かへ)すのは世間(せけん)普通(ふつう)の礼儀(れいぎ)だからのう』
244サンダー『ハイ、245何(なに)か御(ご)馳走(ちそう)を差上(さしあげ)度(た)う厶(ござ)いますが、246妾(わたし)としては何(なに)も材料(ざいれう)がありませぬから、247御(お)礼(れい)の返(かへ)しやうが厶(ござ)りませぬわ』
248スガコ『妾(わたし)だつて御(お)礼(れい)を致(いた)さねば済(す)まないのだけど、249かやうの処(ところ)へ閉(と)ぢ込(こ)められてゐるのだから、250何一(なにひと)つ所持品(しよぢひん)もなし、251玄真(げんしん)様(さま)にお愛想(あいさう)の仕方(しかた)がありませぬわ。252どうか時節(じせつ)をお待(ま)ち下(くだ)さいませ。253キツトお礼(れい)を申(まを)しますから』
254玄真(げんしん)『俺(わし)の馳走(ちそう)と云(い)ふのは、255そんな者(もの)ぢやない。256稀代(きたい)の珍味(ちんみ)、257しかも、258其方(そなた)が所持(しよぢ)する畑(はたけ)で掘(ほ)つた×だ。259それを、260この玄真坊(げんしんばう)に一口(ひとくち)賞玩(しやうぐわん)させて貰(もら)ひ度(た)い。261その代(かは)りに又(また)秋山(あきやま)の名物(めいぶつ)、262常磐(ときは)の松(まつ)の精(せい)から生(うま)れた××の御(ご)馳走(ちそう)を進(しん)ぜよう。263あんまり悪(わる)くはあるまい、264エヘヽヽヽ』
265サンダー『オホヽヽヽ、266御(ご)冗談(じやうだん)許(ばか)り仰有(おつしや)いまして、267貴方(あなた)は要(えう)するに妾(わらは)に対(たい)し、268オチコ、269ウツトコ、270ハテナを御(ご)要求(えうきう)なさるのでせう。271貴方(あなた)も余程(よほど)オホノ、272トルッテですね』
273玄真(げんしん)『オイ、274そんな蒙古語(もうこご)を使(つか)つても、275ネツから分(わか)らぬぢやないか。276サンスクリットで云(い)はないか』
277サンダー『妾(あて)エ、278サンスクリット忘(わす)れたのよ。279貴方(あなた)のやうな事(こと)仰有(おつしや)いますと、280ポホラのヌホが呆(あき)れますよ。281ポホラからパサヌーですわ。282鼬(いたち)の最後屁(さいごべ)、283オンクス、284アルテチウンヌルテですわ。285ホヽヽヽヽ』
286玄真(げんしん)『エー分(わか)らぬ事(こと)を云(い)ふ女(をんな)だな。287言論(げんろん)よりも実行(じつかう)だ。288オイ、289スガコ、290そこに待(ま)つて居(を)らう。291サンダーの方(はう)から御(ご)馳走(ちそう)をしてやらう』
292と云(い)ひ乍(なが)ら、293アワヤ猥褻(わいせつ)なる行為(かうゐ)に出(い)でむとした。294二人(ふたり)は……こりや堪(たま)らぬと……一生(いつしやう)懸命(けんめい)に、
295『助(たす)けてくれ 助(たす)けてくれ』
2951と叫(さけ)んだ。296折(をり)から戸(と)の外(そと)を通(とほ)り合(あは)したシーゴーが、297妙(めう)な声(こゑ)がすると思(おも)ひ、298パツト戸(と)を開(ひら)いて入(い)り来(きた)り此(この)態(てい)を見(み)て、
299シーゴー『玄真坊(げんしんばう)殿(どの)、300この不仕鱈(ふしだら)は何(なん)の事(こと)で厶(ござ)る。301万民(ばんみん)の模範(もはん)となり、302神(かみ)の福音(ふくいん)を宣(の)べ伝(つた)ふる身(み)でゐ乍(なが)ら、303可憐(かれん)な女(をんな)を一室(いつしつ)に監禁(かんきん)し、304強圧(きやうあつ)的(てき)に醜行(しうかう)を遂(と)げむとなさるは、305貴下(きか)にも不似合(ふにあひ)な事(こと)、306おたしなみなさい』
307 玄真坊(げんしんばう)は頭(あたま)をかき乍(なが)ら、
308玄真(げんしん)『アイヤ、309シーゴー殿(どの)、310決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さるな。311ツイ貴方(あなた)と最前(さいぜん)お酒(さけ)を呑(の)んで酔(よひ)がまはり、312酒(さけ)の奴(やつ)め、313遂(つひ)斯様(かやう)なホテテンゴを致(いた)して厶(ござ)る。314酒(さけ)と云(い)ふ奴(やつ)は本当(ほんたう)に仕方(しかた)のない悪魔(あくま)で厶(ござ)るわい』
315シーゴー『これこれ二人(ふたり)のお女中(ぢよちう)、316危(あぶ)ない事(こと)で厶(ござ)つたな。317ヤア其方(そなた)はコマの村(むら)のサンダー姫(ひめ)ぢやないか』
318サンダー『ハイ、319貴方(あなた)は妾(わらは)の門前(もんぜん)に於(おい)て、320お目(め)にかかつた修験者(しゆげんじや)様(さま)で厶(ござ)いましたか』
321シーゴー『いかにも左様(さやう)、322よくお詣(まゐ)りなさつた。323然(しか)し目的(もくてき)の捜索物(さうさくぶつ)は分(わか)りましたかな』
324サンダー『ハイ、325お蔭様(かげさま)で分(わか)つたでもなし、326分(わか)らぬでもなし、327此(この)岩窟(いはや)で玄真坊(げんしんばう)様(さま)の御(お)慈悲(じひ)により、328永(なが)らく断食(だんじき)の行(ぎやう)をさせて頂(いただ)きました。329玄真坊(げんしんばう)様(さま)は見(み)かけによらぬ、330シトラ(鬼(おに))で厶(ござ)いますな』
331玄真(げんしん)『アハヽヽヽヽ、332何(なん)でもかんでも、333シツトルワイ。334天地(てんち)の間(あひだ)の事(こと)をシツトラいで、335万民(ばんみん)を導(みちび)く事(こと)は出来(でき)ないからのう』
336とサンダーに鬼(おに)と云(い)はれし事(こと)を少(すこ)しも知(し)らず鼻(はな)高々(たかだか)と嘯(うそぶ)いて居(ゐ)る。
337 斯(か)くして夜(よ)はダンダンと更(ふけ)渡(わた)り、338オーラ山(ざん)の尾(を)の上(へ)を渡(わた)る松風(まつかぜ)の音(おと)は颯々(さつさつ)と聞(きこ)え来(きた)る。
339(大正一三・一二・一七 旧一一・二一 於祥雲閣 北村隆光録)
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