霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 女(をんな)の度胸(どきよう)〔一七〇一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻 篇:第4篇 恋連愛曖 よみ(新仮名遣い):れんれんあいあい
章:第19章 女の度胸 よみ(新仮名遣い):おんなのどきょう 通し章番号:1701
口述日:1924(大正13)年12月17日(旧11月21日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年6月29日
概要: 舞台:オーラ山の大杉の下、ヨリコ姫の居間 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4429 OBC :rm6619
愛善世界社版:266頁 八幡書店版:第11輯 828頁 修補版: 校定版:271頁 普及版:67頁 初版: ページ備考:
001 梅公(うめこう)、002花香(はなか)の両人(りやうにん)は密(ひそか)に大杉(おほすぎ)の麓(ふもと)に忍(しの)び寄(よ)り、003よくよく調(しら)べて見(み)れば、004鉄線(てつせん)の梯子(はしご)がタワタワと木(き)の上(うへ)から下(さが)つて居(ゐ)る。
005梅公(うめこう)『ハハア曲神(まがかみ)の奴(やつ)ども此(この)梯子(はしご)を上(あが)つて木(き)の上(うへ)に火(ひ)を点(とも)し、006天(てん)から星(ほし)が降(くだ)るなどと世(よ)の中(なか)を誑(たば)かつて居(ゐ)るのだらう。007ヤ、008面白(おもしろ)い、009曲神(まがかみ)の唯一(ゆゐいつ)の力(ちから)と頼(たの)むこの光(ひかり)を先(ま)づ消(け)してやらう』
010と云(い)ひ乍(なが)ら花香(はなか)と共(とも)に梯子(はしご)を伝(つた)うて大杉(おほすぎ)の梢(こずゑ)に攀(よぢ)登(のぼ)り、011十六(じふろく)の燈(あかり)を一個(いつこ)も残(のこ)らず吹(ふ)き消(け)して仕舞(しま)つた。012昼(ひる)を欺(あざむ)く杉(すぎ)の根本(ねもと)は俄(にはか)に闇(やみ)の幕(まく)が下(お)りた。013玄真坊(げんしんばう)、014シーゴーは俄(にはか)に火(ひ)の消(き)えたのに不審(ふしん)を起(おこ)し樹下(じゆか)に佇(たたず)んで、
015シーゴー『オイ玄真坊(げんしんばう)、016不思議(ふしぎ)な事(こと)があるものぢやないか。017まだ油(あぶら)が断(き)れる時(とき)でもなし、018又(また)十六個(じふろくこ)が十六個(じふろくこ)共(とも)消(き)えるのは不思議(ふしぎ)ぢやなア。019附近(ふきん)の人民(じんみん)は此(この)大杉(おほすぎ)の巨燈(きよとう)を見(み)て天(てん)の星(ほし)と信(しん)じ、020渇仰(かつかう)憧憬(どうけい)して居(ゐ)るのに、021唯(ただ)一(いち)時(じ)でも光(ひかり)が消(き)えたとすれば、022信仰(しんかう)の土台(どだい)がぐらつく筈(はず)だ。023さうすれば吾々(われわれ)の目的(もくてき)は到底(たうてい)達(たつ)せられない。024別(べつ)に強(つよ)い風(かぜ)が吹(ふ)いたのでもなし、025どうしたのだらうかなア』
026玄真(げんしん)『どうも不思議(ふしぎ)で厶(ござ)います。027こんな事(こと)が有(あ)らう筈(はず)がありませぬ。028十分(じふぶん)調(しら)べて油(あぶら)もついでおきましたなり、029何(なに)かこの山(やま)に住(す)む天狗(てんぐ)の業(わざ)では厶(ござ)いますまいか。030何(いづ)れにしても不思議(ふしぎ)な事(こと)で厶(ござ)る』
031と二人(ふたり)頻(しきり)に心配(しんぱい)をして居(ゐ)ると、032木(き)の上(うへ)から割(わ)るるが如(ごと)き大声(おほごゑ)で、
033『ウゥー、034ウゥー、035ウゥー、036ウゥー、037ウゥー』
038と連続(れんぞく)的(てき)に唸(うな)り声(ごゑ)が聞(きこ)えて来(く)る。039其(その)怖(おそ)ろしさといつたら五臓(ござう)六腑(ろくぷ)に浸(しみ)わたり、040両人(りやうにん)の身体(からだ)には体内(たいない)地震(ぢしん)が突発(とつぱつ)した。041又(また)もや樹上(じゆじやう)より、
042『オーラ山(さん)に立(た)て籠(こ)もり、043悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の企(くはだ)てを致(いた)す汝(なんぢ)シーゴー、044玄真坊(げんしんばう)、045よツく聞(き)け。046此(この)方(はう)は、047オーラ山脈(さんみやく)一体(いつたい)を昔(むかし)より住家(すみか)と致(いた)す、048真(しん)の玄真坊(げんしんばう)大天狗(だいてんぐ)だ。049汝(なんぢ)不都合(ふつがふ)千万(せんばん)にも吾(わが)名(な)を騙(かた)り玄真坊(げんしんばう)と称(しよう)し、050大杉(おほすぎ)の枝(えだ)に燈火(とうくわ)を点(てん)じ、051天(てん)より星(ほし)下(くだ)つて汝(なんぢ)が説法(せつぱふ)を聴聞(ちやうもん)すると佯(いつは)り、052天下(てんか)万民(ばんみん)を誑惑(たぶら)かし、053金銭(きんせん)物品(ぶつぴん)は云(い)ふも更(さら)なり、054人(ひと)の妻(つま)や娘(むすめ)を誘拐(かどわか)し、055金穀(きんこく)を強奪(がうだつ)する不届者(ふとどきもの)。056もはや汝(なんぢ)の天命(てんめい)つきたれば、057一(いち)時(じ)も早(はや)く悔(く)い改(あらた)め、058解散(かいさん)を致(いた)さばよし、059何時(いつ)迄(まで)も悪事(あくじ)を続行(ぞくかう)するに於(おい)ては、060玄真坊(げんしんばう)大天狗(だいてんぐ)、061汝(なんぢ)等(ら)の素首(そつくび)を引(ひ)き抜(ぬ)き呉(く)れむ。062返答(へんたふ)は如何(いか)に、063ウゥーウゥーウゥー』
064 これを聞(き)くより両人(りやうにん)は顔色(かほいろ)をかへ、065ビリビリ慄(ふる)へながら、
066シーゴー『オイオイ玄真(げんしん)、067偉(えら)い事(こと)になつたぢやないか。068あんな事(こと)を天狗(てんぐ)が云(い)ふわい。069折角(せつかく)茲(ここ)迄(まで)仕組(しぐ)んだ狂言(きやうげん)を中途(ちうと)に止(や)めるのは惜(をし)いけれど、070命(いのち)にや代(か)へられぬぢやないか』
071 玄真坊(げんしんばう)は慄(ふる)ひ乍(なが)ら、
072玄真(げんしん)『ソヽヽそれぢやと云(い)つて、073今(いま)俄(にはか)に止(や)める訳(わけ)にはゆかず、074沢山(たくさん)の乾児(こぶん)もある事(こと)なり、075何(なん)とか天狗(てんぐ)さまにお願(ねが)ひ申(まを)し、076暫(しばら)くの御(ご)猶予(いうよ)を願(ねが)はうぢやないか』
077シーゴー『ウン、078それもさうだ。079俺(おれ)達(たち)はどうなつてもよいが、080今(いま)俄(にはか)に解散(かいさん)するとなると沢山(たくさん)の部下(ぶか)が忽(たちま)ち路頭(ろとう)に迷(まよ)ふからなア。081まア一(ひと)つお願(ねが)ひして見(み)ようかい』
082玄真(げんしん)『もしもし、083樹上(じゆじやう)の玄真坊(げんしんばう)大天狗(だいてんぐ)様(さま)、084誠(まこと)に申訳(まうしわけ)のない事(こと)では厶(ござ)いますが、085今(いま)俄(にはか)に解散(かいさん)致(いた)しましては、086三千(さんぜん)の部下(ぶか)が忽(たちま)ち路頭(ろとう)に迷(まよ)ひ、087四方(しはう)八方(はつぱう)に散(ち)り乱(みだ)れて、088益々(ますます)悪(あく)を逞(たくま)しうするかも知(し)れませぬ。089さうなれば国民(こくみん)の難儀(なんぎ)は層一層(そういつそう)甚(はなはだ)しくなるかも知(し)れませぬ。090何(ど)うか改心(かいしん)致(いた)しますから、091部下(ぶか)を取纒(とりまと)め、092貴方(あなた)様(さま)の御(ご)教訓(けうくん)を篤(とつく)と云(い)ひ聞(き)かせ郷里(きやうり)に帰(かへ)しますから、093夫(それ)迄(まで)御(ご)猶予(いうよ)を願(ねが)ひます。094私(わたくし)のみの難儀(なんぎ)では厶(ござ)いませぬ、095部下(ぶか)三千(さんぜん)の難儀(なんぎ)で厶(ござ)いますから』
096 声(こゑ)に応(おう)じて樹上(じゆじやう)より、
097『ウゥーウゥー、098ならぬならぬ。099一(いち)時(じ)も早(はや)く退散(たいさん)致(いた)せ。100三千(さんぜん)人(にん)の小泥棒(こどろぼう)が苦(くる)しむのは自業(じごふ)自得(じとく)だ。101積悪(せきあく)の酬(むく)いだ。102汝(なんぢ)等(ら)は無辜(むこ)の良民(りやうみん)を苦(くる)しめ苛責(さいな)み、103良家(りやうか)の婦女(ふぢよ)を誘拐(かどわか)し岩窟(がんくつ)に閉(と)ぢ籠(こ)めおき、104肉欲(にくよく)を逞(たくま)しふせむとする不届(ふとど)き者(もの)。105この霊山(れいざん)を汚(けが)せしにより、106これよりレコード破(やぶ)りの山風(やまかぜ)を起(おこ)し三千(さんぜん)の部下(ぶか)を天空(てんくう)高(たか)く捲(ま)き上(あ)げ、107其(その)身体(しんたい)を木(こ)ツ端(ぱ)微塵(みぢん)に打(う)ち砕(くだ)き、108懲(こら)して呉(く)れむ』
109 次(つぎ)に女(をんな)の優(やさ)しき声(こゑ)にて、
110『妾(わらは)は天(てん)より下(くだ)りし、111誠(まこと)の棚機姫(たなばたひめの)命(みこと)であるぞ。112汝(なんぢ)玄真坊(げんしんばう)、113シーゴー坊(ばう)とやら、114よく承(うけたま)はれ。115今(いま)やトルマン国(ごく)はバラモン軍(ぐん)に攻(せ)め悩(なや)まされ、116バルガン城(じやう)は十重(とへ)廿重(はたへ)に囲(かこ)まれ、117国王(こくわう)のトルカは将(まさ)に捕虜(ほりよ)にせられむとする大国難(だいこくなん)の際(さい)なるぞ。118其(その)虚(きよ)に乗(じやう)じて汝(なんぢ)等(ら)は所在(あらゆる)良民(りやうみん)を誑(たぶ)らかし、119金銭(きんせん)を奪(うば)ひ取(と)り、120武備(ぶび)を整(ととの)へてバルガン城(じやう)を囲(かこ)みトルマン国(ごく)を占領(せんりやう)し、121引(ひ)いて印度(いんど)七千(しちせん)余国(よこく)を蹂躙(じうりん)せむとする、122極悪(ごくあく)無道(ぶだう)の外道(げだう)畜生(ちくしやう)奴(め)。123一(いち)時(じ)も早(はや)く悔(く)い改(あらた)めて神(かみ)に謝(しや)せよ』
124シーゴー『ハイ、125どうも恐(おそ)れ入(い)りまして厶(ござ)います。126キツト心得(こころえ)ますから、127私(わたし)を初(はじ)め部下(ぶか)の命(いのち)だけはお助(たす)け下(くだ)さいますやうに』
128 樹上(じゆじやう)より、
129『ウハヽヽヽ、130恐(おそ)れ入(い)つたか、131往生(わうじやう)致(いた)したか。132サア一(いち)時(じ)も早(はや)く解散(かいさん)の実(じつ)を示(しめ)せよ』
133シーゴー『ハイ唯今(ただいま)、134大親分(おほおやぶん)のヨリコ姫(ひめ)女帝(によてい)に申(まをし)上(あ)げ直(す)ぐに解散(かいさん)致(いた)します。135暫(しばら)くお待(ま)ちを願(ねが)ひます』
136と云(い)ひ乍(なが)ら137ヨリコ姫(ひめ)の居間(ゐま)に駆(か)け付(つ)け右(みぎ)の次第(しだい)を詳細(つぶさ)に物語(ものがた)つた。138ヨリコ姫(ひめ)は一伍(いちぶ)一什(しじふ)を聞(き)き取(と)り、139ニツコと笑(わら)ひ乍(なが)ら、
140ヨリコ『あれ程(ほど)沢山(たくさん)油(あぶら)がさしてあり、141風(かぜ)も吹(ふ)かぬに火(ひ)の消(き)える道理(だうり)もなし、142又(また)樹(き)の上(うへ)に天狗(てんぐ)がとまつて託宣(たくせん)するのもをかしい。143又(また)棚機姫(たなばたひめ)が下(くだ)つて宣示(せんじ)するとは益々(ますます)怪(あや)しいでは無(な)いか。144さう云(い)ふ事(こと)に騙(だま)されるやうで此(この)大望(たいまう)が成就(じやうじゆ)するものか。145些(ち)と確(しつ)かりなさい。146玄真坊(げんしんばう)はどうして居(を)るのか』
147シーゴー『ハイ、148玄真(げんしん)は慄(ふる)ひ戦(をのの)き樹下(じゆか)に倒(たふ)れて仕舞(しま)ひました』
149ヨリコ『ホヽヽヽ、150何(なん)とした腰抜(こしぬ)けだらう。151天狗(てんぐ)なんか何(なに)が怖(おそ)ろしい。152屹度(きつと)何者(なにもの)かの悪戯(いたづら)だらう。153よく調(しら)べて来(き)なさい』
154シーゴー『ハイ、155もう此(この)上(うへ)調(しら)べやうは厶(ござ)いませぬ。156一(ひと)つ唸(うな)られやうものなら、157五臓(ござう)六腑(ろくぷ)が慄(ふる)ひ戦(をのの)き、158立(た)つても居(ゐ)ても居(を)られなくなります。159人間(にんげん)がどうして、160あんな大(おほ)きな声(こゑ)が出(で)ませう。161屹度(きつと)天狗(てんぐ)に間違(まちが)ひはありませぬ』
162ヨリコ『これシーゴーさま、163お前(まへ)も随分(ずいぶん)経験(けいけん)を積(つ)んだ悪党(あくたう)ぢやないか。164天狗(てんぐ)が夫(それ)程(ほど)怖(こは)いのか。165そして天狗(てんぐ)の声(こゑ)は陰性(いんせい)だから、166決(けつ)して人(ひと)の体(たい)に響(ひび)くものでない。167大方(おほかた)酒(さけ)にでも酔(よ)うて乾児(こぶん)の奴(やつ)共(ども)が口(くち)に竹筒(たけづつ)でも当(あ)てて、168お前(まへ)達(たち)の胆試(きもだめ)しをやつて居(ゐ)るのかも知(し)れませぬよ』
169シーゴー『イエイエ、170決(けつ)して決(けつ)して竹筒(たけづつ)の声(こゑ)ぢやありませぬ。171人間(にんげん)の声(こゑ)でも無(な)し、172大変(たいへん)な強力(がうりき)な声(こゑ)で厶(ござ)います』
173ヨリコ『ハテ、174妙(めう)な事(こと)を云(い)ふぢやないか。175どれ自分(じぶん)が行(い)つて調(しら)べて見(み)ませう』
176と落付(おちつ)き払(はら)つた風(ふう)でボツボツと着衣(ちやくい)を整理(せいり)し、177悠然(いうぜん)としてシーゴーの後(うしろ)から、178大杉(おほすぎ)の下(もと)へとやつて来(き)た。
179ヨリコ『そこに居(ゐ)るのは玄真坊(げんしんばう)ぢやないか。180何(なん)だい、181天狗(てんぐ)位(ぐらゐ)に慄(ふる)つて居(ゐ)るのかい』
182玄真(げんしん)『ハイ、183女帝(によてい)様(さま)、184どうかお助(たす)け下(くだ)さいませ。185大変(たいへん)な事(こと)が出来(でき)て来(き)ました。186もう私(わたし)も年貢(ねんぐ)の納(をさ)め時(どき)です。187身体(しんたい)強直(きやうちよく)して身動(みうご)きが出来(でき)なくなりました』
188ヨリコ『ホヽヽヽ、189まアよい腰抜(こしぬけ)だこと。190どれ、191これから妾(わらは)が樹上(じゆじやう)の天狗(てんぐ)とやらを取(と)つちめてやりませう』
192 この時(とき)樹上(じゆじやう)より又(また)もや、
193『ウゥーウゥーウゥー』
194と千匹(せんびき)狼(おほかみ)が一度(いちど)に唸(うな)り出(だ)したやうな怖(おそ)ろしい声(こゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。195シーゴー、196玄真(げんしん)は耳(みみ)をかかへて打(う)ち慄(ふる)ひ其(その)場(ば)にパタリと打(う)ち伏(ふ)して仕舞(しま)つた。197ヨリコ姫(ひめ)は平然(へいぜん)として樹上(じゆじやう)を打(う)ち仰(あふ)ぎ乍(なが)ら、
198ヨリコ『オイ、199樹上(じゆじやう)に居(ゐ)る怪物(くわいぶつ)は何物(なにもの)だ。200いい加減(かげん)に悪戯(いたづら)を致(いた)しておけ。201ヨリコ姫(ひめ)が現(あら)はれた以上(いじやう)は、202如何(いか)なる汝(なんぢ)が奸策(かんさく)も根底(こんてい)より看破(かんぱ)してやらうぞや。203その方(はう)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の供(とも)をいたす木(こ)ツ端(ぱ)武者(むしや)だらう』
204 此(この)落付(おちつ)き払(はら)つたヨリコの声(こゑ)を聞(き)いて、205遉(さすが)の梅公(うめこう)も舌(した)を捲(ま)いた。206樹上(じゆじやう)の花香(はなか)はヨリコ姫(ひめ)と云(い)ふ声(こゑ)を聞(き)き……何(なん)となく聞(き)き覚(おぼ)えもあり、207もしか三年前(さんねんまへ)に吾(わが)家(や)を飛(と)び出(だ)した姉上(あねうへ)ではあるまいか、208ても扨(さ)ても不思議(ふしぎ)な事(こと)だなア……と首(くび)を傾(かたむ)けて居(ゐ)た。209樹上(じゆじやう)より、
210『某(それがし)は実(じつ)の所(ところ)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)梅公別(うめこうわけの)命(みこと)である。211汝(なんぢ)等(ら)悪党(あくたう)共(ども)オーラ山(さん)に立(た)て籠(こも)り、212よからぬ事(こと)を致(いた)すと聞(き)き、213神命(しんめい)を奉(ほう)じ、214汝(なんぢ)等(ら)一同(いちどう)に改心(かいしん)を迫(せま)るべく、215其(その)第一(だいいち)着手(ちやくしゆ)として汝(なんぢ)等(ら)が詐術(さじゆつ)の根元(こんげん)たる樹上(じゆじやう)の諸燈(しよとう)を吹(ふ)き消(け)し、216大天狗(だいてんぐ)として訓戒(くんかい)を与(あた)へてやつたのだ。217何(ど)うだ、218斯(か)く事(こと)のばれたる上(うへ)はスツカリ改心(かいしん)を致(いた)すか、219是(これ)でもまだ継続(けいぞく)して悪事(あくじ)を致(いた)す覚悟(かくご)か、220返答(へんたふ)聞(き)かう』
221 玄真坊(げんしんばう)は初(はじ)めて人間(にんげん)と知(し)り俄(にはか)に強(つよ)くなり、222樹上(じゆじやう)を打(う)ち仰(あふ)ぎ乍(なが)ら、
223玄真(げんしん)『アハヽヽヽ、224猪口才(ちよこざい)千万(せんばん)な三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の玉子(たまご)奴(め)、225いらざるほててんごうを致(いた)して後悔(こうくわい)するな。226吾々(われわれ)には三千(さんぜん)の部下(ぶか)がある。227汝(なんぢ)の如(ごと)き木(こ)ツ端(ぱ)武者(むしや)、228仮令(たとへ)鬼神(きじん)を挫(ひし)ぐ勇(ゆう)あるも寡(くわ)をもつて衆(しう)に敵(てき)することは出来(でき)まい。229要(い)らざるせつかいを止(や)めて樹上(じゆじやう)を下(くだ)り、230一(いち)時(じ)も早(はや)く吾(わが)前(まへ)に謝罪(しやざい)を致(いた)せ』
231 此(この)間(あひだ)にシーゴーは縄梯子(なはばしご)の縛(くくり)を解(と)いたから耐(たま)らない。232梅公(うめこう)、233花香(はなか)の両人(りやうにん)は急転(きふてん)直下(ちよくか)の勢(いきほひ)で、234ズルズルズルドスンと樹下(じゆか)に落(お)ちて来(き)た。235ヨリコ姫(ひめ)は手早(てばや)く女(をんな)を引(ひ)つ捉(とら)へ後手(うしろで)に縛(しば)り上(あ)げた。236梅公(うめこう)は聊(いささ)か腰(こし)を打(う)つて気(き)が遠(とほ)くなつて居(ゐ)た間(ま)にシーゴーの部下(ぶか)のパンクに高手(たかて)小手(こて)に縛(しば)られ、237サンダー、238スガコの幽閉(いうへい)してある石室(いしむろ)の中(なか)に男女(だんぢよ)共(とも)投(な)げ込(こ)まれて了(しま)つた。
239ヨリコ『ホヽヽヽ、240いらざる構(かま)へ立(だ)てをして縛(いましめ)につくとは情(なさけ)ない奴(やつ)だなア。241飛(と)んで火(ひ)に入(い)る夏(なつ)の虫(むし)。242ヨリコ女帝(によてい)の威勢(ゐせい)には如何(いか)なる者(もの)も敵(かな)うまいがな。243これ、244玄真(げんしん)、245シーゴー確(しつか)りなさらないのか。246こんな事(こと)で肝(きも)を潰(つぶ)すやうでは、247バルガン城(じやう)を占領(せんりやう)し、248次(つ)いで印度(いんど)七千(しちせん)余国(よこく)を掌握(しやうあく)するやうな事(こと)は到底(たうてい)出来(でき)ますまいぞや』
249玄真(げんしん)『私(わたし)も人間(にんげん)と知(し)れば別(べつ)に驚(おどろ)かないのです。250人間(にんげん)なれば仮令(たとへ)何万(なんまん)押(お)し寄(よ)せて来(く)るともビクとも致(いた)さぬ某(それがし)ですが、251中有界(ちううかい)の魔神(まがみ)と聞(き)いては一寸(ちよつと)面(めん)喰(く)らはないでは居(ゐ)られませぬ。252併(しか)し人間(にんげん)だと云(い)うたつて此(この)山(やま)は天狗(てんぐ)の巣窟(さうくつ)と聞(き)いて居(ゐ)ますから、253本当(ほんたう)の天狗(てんぐ)が来(きた)ら困(こま)るでせう。254其(その)時(とき)の用意(ようい)を今(いま)から講究(かうきう)しておかねばなりますまい』
255ヨリコ『これ玄真坊(げんしんばう)、256何(なに)を呆(ほう)けて居(ゐ)るのだ。257仮令(たとへ)中有界(ちううかい)の魔(ま)であらうが、258天界(てんかい)の鬼神(きじん)であらうと、259地獄(ぢごく)の鬼(おに)であらうと、260獅子(しし)、261虎(とら)、262熊(くま)、263大蛇(をろち)であらうが、264万物(ばんぶつ)の霊長(れいちやう)たる人間(にんげん)と生(うま)れて何(なに)怖(おそ)るべき事(こと)があらうぞ。265人間(にんげん)は万有(ばんいう)を支配(しはい)するの権能(けんのう)を神(かみ)から与(あた)へられて居(を)るのだ。266些(ちつ)と確(しつか)りしなさい』
267玄真(げんしん)『ハイハイ確(しつか)り致(いた)します。268何分(なにぶん)宜敷(よろし)うお願(ねが)ひ申(まをし)ます。269到底(たうてい)かふ云(い)ふ時(とき)には貴女(あなた)でなければ解決(かいけつ)がつきませぬ』
270ヨリコ『ホヽヽヽ、271天帝(てんてい)の化身(けしん)様(さま)でも真実(ほんま)ものの天狗(てんぐ)には敵(かな)ひませぬかな。272これシーゴー殿(どの)、273年(とし)にも似合(にあは)ぬ、274お前(まへ)も随分(ずいぶん)狼狽(うろた)へましたね。275些(ち)と恥(はぢ)をお知(し)りなさい。276何(なん)ですか、277高(たか)が男(をとこ)の一匹(いつぴき)や二匹(にひき)に肝(きも)を潰(つぶ)して、278こんな事(こと)でどうして今後(こんご)の大望(たいまう)が成就(じやうじゆ)致(いた)しますか』
279シーゴー『ハイ、280面目(めんぼく)次第(しだい)も厶(ござ)いませぬ。281何分(なにぶん)突然(とつぜん)の事(こと)と云(い)ひ、282消(き)ゆべき筈(はず)の無(な)い火(ひ)が消(き)え、283大木(たいぼく)の上(うへ)から不思議(ふしぎ)な声(こゑ)がいたすものだから一寸(ちよつと)面喰(めんくら)ひましたので、284日頃(ひごろ)沈着(おちつき)のある私(わたくし)も、285玄真坊(げんしんばう)の狼狽病(らうばいびやう)が伝染(でんせん)致(いた)しまして、286つい気後(きおく)れ病(びやう)が突発(とつぱつ)致(いた)しました。287女帝(によてい)様(さま)の懇切(こんせつ)周到(しうたう)なる外科(げくわ)手術(しゆじゆつ)によつて、288やつと全快(ぜんくわい)したやうで厶(ござ)います』
289ヨリコ『ホヽヽヽ、290まア全快(ぜんくわい)が出来(でき)て結構(けつこう)々々(けつこう)、291薬礼(やくれい)は幾何(いくら)出(だ)しますかな』
292シーゴー『ハイ、293先(ま)づさうですな、294薬(やく)、295窮戦(きうせん)窮百(きうひやく)九重(きうぢう)九怨(きうゑん)許(ばか)り差上(さしあ)げませう。296アハヽヽ』
297ヨリコ『九死(きうし)一生(いつしやう)の場合(ばあひ)を女帝(によてい)さまに救(すく)はれたのだからな、298其(その)位(くらゐ)はお出(だ)しになつてもよろしからう、299ホヽヽヽ。300併(しか)し乍(なが)らあの怪(あや)しき男(をとこ)と女(をんな)をよく取調(とりしら)べて後(のち)程(ほど)報告(はうこく)して貰(もら)ひたい。301私(わたし)はこれから居間(ゐま)に帰(かへ)つて暫(しばら)く休息(きうそく)するから』
302シーゴー『ハイ、303承知(しようち)致(いた)しました。304玄真坊(げんしんばう)と相談(さうだん)致(いた)し、305篤(とつ)くと実否(じつぴ)を調(しら)べ、306改(あらた)めて御(ご)報告(ほうこく)申上(まをしあ)げます。307どうか明朝(みやうてう)迄(まで)御(ご)猶予(いうよ)を願(ねが)ひます』
308 ヨリコはニコニコし乍(なが)ら打(う)ち諾(うなづ)き、309足早(あしばや)に帰(かへ)り行(ゆ)く。
310(大正一三・一二・一七 旧一一・二一 於祥雲閣 加藤明子録)
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